(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118013
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】二次電池の分析方法、充電装置、二次電池分析装置および二次電池パック
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20240823BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240823BHJP
H02J 7/02 20160101ALI20240823BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20240823BHJP
【FI】
H02J7/00 Y
H01M10/48 P
H02J7/02 J
G01R31/392
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024159
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志村 重輔
(72)【発明者】
【氏名】板垣 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 元気
(72)【発明者】
【氏名】増田 泰之
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA26
2G216CA02
2G216CB24
5G503AA01
5G503BA04
5G503BB02
5G503CA03
5G503CA17
5G503DA07
5G503EA05
5G503EA08
5G503EA09
5G503GD03
5G503GD04
5G503GD06
5H030AA10
5H030AS01
5H030AS08
5H030BB02
5H030BB03
5H030FF22
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】劣化のメカニズムに即した分析を行うことの可能な二次電池の分析方法、充電装置、二次電池分析装置および二次電池パックを提供する。
【解決手段】本技術の一側面に係る二次電池の分析方法は、以下の2つを含む。
(1)複数の二次電池が並列接続された二次電池モジュールに対するCCCV充電におけるCC充電末期の、二次電池モジュールの電圧値の時系列データを取得すること
(2)時系列データにおける単位時間当たりの勾配に基づいて、二次電池モジュールの内部の劣化状態を判定すること
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の二次電池が並列接続された二次電池モジュールに対するCCCV(Constant Current, Constant Voltage)充電におけるCC(Constant Current)充電末期の、前記二次電池モジュールの電圧計測値を取得することと、
前記電圧計測値の勾配に基づいて、前記二次電池モジュールの内部の劣化状態を判定することと
を含む
二次電池の分析方法。
【請求項2】
前記勾配と勾配参照値との対比により、前記二次電池モジュールの内部の劣化状態を判定することと
を含む
請求項1に記載の二次電池の分析方法。
【請求項3】
複数の二次電池が並列接続された二次電池モジュールに対するCCCV(Constant Current, Constant Voltage)充電を行うことの可能な充電回路と、
前記CCCV充電におけるCC(Constant Current)充電末期の、前記二次電池モジュールの電圧値を計測することの可能な計測回路と、
前記計測回路によって得られた電圧計測値の勾配に基づいて、前記二次電池モジュールの内部の劣化状態を判定することの可能な信号処理部と
を備えた
充電装置。
【請求項4】
前記信号処理部は、前記勾配と勾配参照値との対比により、前記二次電池モジュールの内部の劣化状態を判定することが可能となっている
請求項3に記載の充電装置。
【請求項5】
前記充電回路は、前記信号処理部が、前記二次電池モジュールの内部に部分的な劣化状態が存在すると判定した場合、CC充電における印加電流を小さくすることが可能となっている
請求項3に記載の充電装置。
【請求項6】
複数の二次電池が並列接続された二次電池モジュールに対するCCCV(Constant Current, Constant Voltage)充電におけるCC(Constant Current)充電末期の、前記二次電池モジュールの電圧計測値を取得することの可能な通信部と、
前記電圧計測値の勾配に基づいて、前記二次電池モジュールの内部の劣化状態を判定することの可能な信号処理部と
を備えた
二次電池分析装置。
【請求項7】
前記信号処理部は、前記勾配と勾配参照値との対比により、前記二次電池モジュールの内部の劣化状態を判定することが可能となっている
請求項6に記載の二次電池分析装置。
【請求項8】
前記通信部は、前記信号処理部における判定結果を出力することが可能となっている
請求項6に記載の二次電池分析装置。
【請求項9】
複数の二次電池が並列接続された二次電池モジュールと、
前記二次電池モジュールに対するCCCV(Constant Current, Constant Voltage)充電におけるCC(Constant Current)充電末期の、前記二次電池モジュールの電圧計測値を取得することの可能な通信部と、
前記電圧計測値の勾配に基づいて、前記二次電池モジュールの内部の劣化状態を判定することの可能な信号処理部と
を備えた
二次電池パック。
【請求項10】
前記信号処理部は、前記勾配と勾配参照値との対比により、前記二次電池モジュールの内部の劣化状態を判定することが可能となっている
請求項9に記載の二次電池パック。
【請求項11】
前記通信部は、前記信号処理部における判定結果を出力することが可能となっている
請求項9に記載の二次電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、二次電池の分析方法、充電装置、二次電池分析装置および二次電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車やハイブリッド自動車の普及に伴い、また、太陽光発電や風力発電のような発電電力が安定せず、平準化が必要とされる発電デバイスの普及に伴い、リチウムイオン二次電池を始めとする各種二次電池に対する需要が急速に増えてきている。
【0003】
二次電池の長寿命化や二次利用のため、二次電池の劣化状態を適切に把握することが重要となる。二次電池の劣化状態を推定するための手法は、例えば、特許文献1,2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-24541号公報
【特許文献2】特開2013-59237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1,2に記載の発明では、劣化の推定方法と実際の劣化状態との関係が不明瞭であった。劣化のメカニズムに即した分析を行うことの可能な二次電池の分析方法、充電装置、二次電池分析装置および二次電池パックを提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本技術の第1の側面に係る二次電池の分析方法は、以下の2つを含む。
(A)複数の二次電池が並列接続された二次電池モジュールに対するCCCV(Constant Current, Constant Voltage)充電におけるCC(Constant Current)充電末期の、二次電池モジュールの電圧計測値を取得すること
(B)電圧計測値の勾配に基づいて、前記二次電池モジュールの内部の劣化状態を判定すること
【0007】
本技術の第2の側面に係る充電装置は、充電回路と、計測回路と、信号処理部とを備えている。充電回路は、複数の二次電池が並列接続された二次電池モジュールに対するCCCV充電を行うことが可能となっている。計測回路は、CCCV充電におけるCC充電末期の、二次電池モジュールの電圧値を計測することが可能となっている。信号処理部は、計測回路によって得られた電圧計測値の勾配に基づいて、二次電池モジュールの内部の劣化状態を判定することが可能となっている。
【0008】
本技術の第3の側面に係る二次電池分析装置は、通信部と、信号処理部とを備えている。通信部は、複数の二次電池が並列接続された二次電池モジュールに対するCCCV充電におけるCC充電末期の、二次電池モジュールの電圧計測値を取得することが可能となっている。信号処理部は、電圧計測値の勾配に基づいて、二次電池モジュールの内部の劣化状態を判定することが可能となっている。
【0009】
本技術の第4の側面に係る二次電池パックは、複数の二次電池が並列接続された二次電池モジュールを備えている。この二次電池パックは、さらに、通信部と、信号処理部とを備えている。通信部は、二次電池モジュールに対するCCCV充電におけるCC充電末期の、二次電池モジュールの電圧計測値を取得することが可能となっている。信号処理部は、電圧計測値の勾配に基づいて、二次電池モジュールの内部の劣化状態を判定することが可能となっている。
【発明の効果】
【0010】
本技術の第1の側面に係る二次電池の分析方法、本技術の第2の側面に係る充電装置、本技術の第3の側面に係る二次電池分析装置および本技術の第4の側面に係る二次電池パックでは、CCCV充電におけるCC充電末期の、二次電池モジュールの電圧計測値の勾配に基づいて、二次電池モジュールの内部の劣化状態が判定される。ここで、上記勾配は、二次電池モジュール内に劣化電池が存在するときと、二次電池モジュール内に劣化電池が存在しないときとで、異なることが実験によって明らかになっている。これにより、例えば、上記勾配が所定の条件を満たしたときには、二次電池モジュール内に劣化電池が存在すると言うことができる。従って、劣化のメカニズムに即した分析を行うことが可能である。
【0011】
なお、本技術の効果は、必ずしもここで説明された効果に限定されるわけではなく、後述する本技術に関連する一連の効果のうちのいずれの効果でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本技術の第1の実施形態に係る充放電装置および二次電池パックの概略構成例を表す図である。
【
図2】
図2は、
図1の二次電池モジュールの回路構成例を表す図である。
【
図3】
図3は、
図1の二次電池パックに対してCCCV充電を行ったときの、二次電池パック内の各二次電池の電流の時系列データの一例を表す図である。
【
図4】
図4は、
図1の二次電池パックに対してCCCV充電を行ったときの、二次電池パックの電流および電圧の時系列データの一例を表す図である。
【
図5】
図5は、劣化状態の互いに異なる3つの二次電池のCCCV充電におけるCC充電のときの電圧値の一例を表す図である。
【
図6】
図6は、劣化状態の互いに異なる3つの二次電池のCCCV充電におけるCC充電のときのdQ/dVの一例を表す図である。
【
図7】
図7は、
図1の充放電装置の動作の一例を表す図である。
【
図8】
図8は、
図1の充放電装置および二次電池パックの概略構成の一変形例を表す図である。
【
図10】
図10は、新品の二次電池のCCCV充電におけるCC充電末期のときのdQ/dVの温度依存性の一例を表す図である。
【
図11】
図11は、本技術の第2の実施形態に係る充放電装置、サーバ装置および二次電池パックの概略構成例を表す図である。
【
図12】
図12は、本技術の第3の実施形態に係る充放電装置および二次電池パックの概略構成例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本技術を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.第1の実施形態
充放電装置において二次電池モジュールの劣化状態を
分析する例(
図1~
図7)
2.第1の実施形態の変形例
二次電池モジュールの温度依存性を考慮した例(
図8~
図10)
3.第2の実施形態
サーバ装置において二次電池モジュールの劣化状態を
分析する例(
図11)
4.第3の実施形態
二次電池パック内において二次電池モジュールの劣化状態を
分析する例(
図12)
5.各実施形態に共通の変形例
勾配計算部および劣化分布判定部の機能を
制御部で実行する例(
図13)
【0014】
<1.第1の実施形態>
[構成]
本技術の第1の実施形態に係る充放電装置200の構成について説明する。充放電装置200は、二次電池パック100を充放電する装置であり、外部の装置と通信する機能を有しないスタンドアロン型の装置である。充放電装置200は、本技術の一実施の形態に係る「充電装置」の一具体例に対応する。
【0015】
充放電装置200は、二次電池パック100を充放電する機能だけでなく、二次電池パック100内の劣化電池の存否を分析する機能も備えている。二次電池パック100は、例えば、
図1に示したように、二次電池モジュール110を備えている。
【0016】
二次電池モジュール110は、リチウムイオン二次電池である。二次電池モジュール110に含まれるリチウムイオン二次電池は、単位セルであってもよく、単位セルが複数個接続された電池ブロック、もしくは、電池ブロックおよび付属品が一体的にパッキングされた組電池であってもよい。組電池では、複数のリチウムイオン二次電池が直列に接続されている。組電池内において、電気的に並列に接続された複数のリチウムイオン二次電池が含まれていてもよい。
【0017】
二次電池モジュール110は、例えば、
図2に示したように、電気的に並列に接続された複数の二次電池BA(=BA1,BA2,BA3)を含んで構成されている。二次電池BAは、単位セルのリチウムイオン二次電池である。二次電池モジュール110を充電したとき、他の二次電池BAの劣化状態とは異なる劣化状態の二次電池BAが含まれているとする。二次電池モジュール110には、例えば、
図2に示したように、劣化していない(正常な)二次電池BA1,BA2と、二次電池BA1,BA2と比べて劣化した状態の二次電池BA3が含まれているとする。このとき、CC充電末期における劣化した二次電池BA3のdQ/dVは、正常な二次電池BA1,BA2のdQ/dVよりも大きくなっているので、dQ/dVの大きい、劣化した二次電池BA3に電流が集中する。例えば、
図2に示したように、正常な二次電池BA1,BA2に電流I1が流れ、劣化した二次電池BA3に、電流I1よりも大きな電流I2が流れる。その結果、劣化した二次電池BA3に対して急速充電をすることになり、劣化した二次電池BA3の劣化を早めてしまう。
【0018】
放電においても、同様のことが言える。二次電池モジュール110を放電したとき、他の二次電池BAの劣化状態とは異なる劣化状態の二次電池BAが含まれているとする。このとき、放電初期における劣化した二次電池BA3のdQ/dVは、正常な二次電池BA1,BA2のdQ/dVよりも大きくなっているので、内部抵抗の低い、dQ/dVの大きい、劣化した二次電池BA3に電流が集中する。その結果、劣化した二次電池BA3に対して急速放電をすることになり、劣化した二次電池BA3の劣化を早めてしまう。
【0019】
充放電装置200は、このように二次電池パック100内に劣化電池が存在する場合に、それを検出する機能を備えている。充放電装置200は、例えば、
図1に示したように、充放電回路210、充放電制御部220、IV計測回路230、一次記憶部240、勾配計算部250、記憶部260、劣化判定部270および表示部280を備えている。
【0020】
充放電回路210は、二次電池モジュール110を充電する充電回路や、二次電池モジュール110を放電させる放電回路を有している。充電回路は、充電として、例えば、CCCV充電を行うことが可能となっている。充電回路は、例えば発電機およびコンバータ等を含む。充放電制御部220は、二次電池110モジュールを充電するための電流および電圧を制御したり、二次電池モジュール110を放電させるための電流および電圧を制御したりすることが可能となっている。充放電制御部220は、例えば、充放電制御を行うMPU(Micro-Processing Unit)、または、充放電制御プログラムがロードされたCPU(Central Processing Unit)によって構成されている。
【0021】
IV計測回路230は、二次電池モジュール110の電流および電圧を計測することの可能な計測回路を含む。IV計測回路230は、例えば、CCCV充電における、少なくともCC充電末期の電流値および電圧値を計測することが可能となっている。IV計測回路230は、CCCV充電における、少なくともCC充電末期の電流計測値および電圧計測値を一時記憶部240に格納することが可能となっている。これにより、一時記憶部240には、CCCV充電における、少なくともCC充電末期の電流計測値および電圧計測値が格納される。一時記憶部240は、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリ、または、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)やフラッシュメモリなどの不揮発性メモリで構成されている。
【0022】
IV計測回路230は、CCCV充電における、少なくともCC充電末期の電圧計測値の時系列データ、または、CCCV充電における、少なくともCC充電末期の電圧計測値の、Q値に応じたデータを一時記憶部240に格納することが可能となっていてもよい。なお、Q値は、例えば、計測により得られた電流値Iに経過時間tを掛けることにより求められる(I×t=Q)。
【0023】
勾配計算部250は、一時記憶部240に格納されたデータのうちCC充電末期における勾配を算出することが可能となっている。一時記憶部240に格納されたデータが電圧値の時系列データである場合、勾配計算部250は、電圧値の時系列データのうちCC充電末期における勾配(dV/dt)を算出することが可能となっている。以下では、このようにして算出した勾配を勾配A1と称する。一時記憶部240に格納されたデータが電圧値の、Q値に応じたデータである場合、勾配計算部250は、電圧値の、Q値に応じたデータのうちCC充電末期における勾配の逆数(dQ/dV)を算出することが可能となっている。以下では、このようにして算出した勾配の逆数を勾配B1と称する。
【0024】
記憶部260は、例えば、DRAMなどの揮発性メモリ、または、EEPROMやフラッシュメモリなどの不揮発性メモリで構成されている。記憶部260には、例えば、勾配参照値261が格納される。
【0025】
勾配参照値261は、参照二次電池の勾配についてのデータである。参照二次電池の勾配についてのデータは、例えば、参照二次電池に対するCCCV充電におけるCC充電末期の電圧計測値の勾配(dV/dt)となっていてもよい。以下では、このときの勾配を勾配A2と称する。参照二次電池の勾配についてのデータは、例えば、参照二次電池に対するCCCV充電におけるCC充電末期の電圧計測値の、Q値に応じたデータの勾配の逆数(dQ/dV)となっていてもよい。以下では、このときの勾配の逆数を勾配B2と称する。
【0026】
劣化判定部270は、勾配計算部250で得られた勾配に基づいて、二次電池モジュール110の内部の劣化状態を判定することが可能となっている。劣化判定部270は、勾配計算部250で得られた勾配と、記憶部260から読み出した勾配参照値261(勾配)との対比により、二次電池モジュール110の内部の劣化状態を判定することが可能となっている。劣化判定部270は、判定結果を含む映像信号を表示部280に出力することが可能となっている。
【0027】
劣化判定部270は、例えば、勾配計算部250で得られた勾配A1と、記憶部260から読み出した勾配参照値261(勾配A2)との差分が所定の閾値を超えたとき、二次電池モジュール110の内部に劣化電池が存在すると判断することが可能となっている。劣化判定部270は、例えば、勾配計算部250で得られた勾配B1と、記憶部260から読み出した勾配参照値261(勾配B2)との差分が所定の閾値を超えたとき、二次電池モジュール110の内部に劣化電池が存在すると判断することが可能となっている。
【0028】
劣化判定部270は、例えば、勾配計算部250で得られた勾配A1と、記憶部260から読み出した勾配参照値261(勾配A2)との差分が所定の閾値以下のとき、二次電池モジュール110の内部に劣化電池が存在しないと判断することが可能となっている。劣化判定部270は、例えば、勾配計算部250で得られた勾配B1と、記憶部260から読み出した勾配参照値261(勾配B2)との差分が所定の閾値以下のとき、二次電池モジュール110の内部に劣化電池が存在しないと判断することが可能となっている。
【0029】
表示部280は、劣化判定部270から得られた映像信号に基づく映像を表示することが可能となっている。表示部280は、例えば、二次電池モジュール110の内部に劣化電池が存在するか否かについての情報と、勾配計算部250で得られた勾配と、勾配計算部250で得られた勾配と記憶部260から読み出した勾配参照値261(勾配)との差分とを表示することが可能となっている。
【0030】
図5は、劣化状態の互いに異なる3つの二次電池のCCCV充電におけるCC充電のときの電圧値の一例を表したものである。なお、劣化状態の互いに異なる3つの二次電池とは、新品の二次電池、満充電状態でT1時間高温保存をした二次電池、満充電状態でT2時間(T2>T1)高温保存をした二次電池、の3つである。
図6は、劣化状態の互いに異なる3つの二次電池のCCCV充電におけるCC充電のときのdQ/dVの一例を表したものである。
図5から、dQ/dVは、劣化状態に依存していることがわかる。また、
図6から、CC充電末期において、劣化電池のdQ/dVが大きくなり、その一方で、劣化していない正常電池のdQ/dVが小さくなることがわかる。これは、電池内部の劣化反応は必ずしも均一には起こらないことと関係している。正常電池の場合はすべての活物質がほぼ同じタイミングで充電端に到達するため電圧が一気に上昇する(すなわちdQ/dVが小さくなる)。一方、劣化電池の場合は充電端にいち早く到達する活物質と遅れて到達する活物質とが混在する形になり、電圧の上昇が緩やかになる(すなわちdQ/dVが大きくなる)。従って、CC充電末期におけるdQ/dV(またはこれに関連する電圧勾配)を対比することにより、二次電池モジュール110の内部に劣化電池が存在するか否かを判断することができる。
【0031】
次に、充放電装置200における二次電池モジュール110の内部状態の分析について説明する。
【0032】
図7は、充放電装置200における二次電池モジュール110の内部状態の分析手順の一例を表したものである。まず、信号発生回路210は、二次電池モジュール110に対してCCCV充電を開始する(ステップS101)。IV計測回路230は、CCCV充電における、少なくともCC充電末期の電流値および電圧値を計測する(ステップS102)。IV計測回路230は、CCCV充電における、少なくともCC充電末期の電流計測値および電圧計測値を一時記憶部240に格納する(ステップS103)。
【0033】
勾配計算部250は、一時記憶部240に格納されたデータのうちCC充電末期における勾配を算出する(ステップS104)。劣化判定部270は、勾配計算部250で得られた勾配と、記憶部260から読み出した勾配参照値261(勾配参照値)とを対比する。その結果、勾配計算部250で得られた勾配が、記憶部260から読み出した勾配参照値261(勾配参照値)よりも大きい場合(ステップS105;Y)、二次電池モジュール110の内部に劣化電池が存在すると判定する(ステップS106)。一方、勾配計算部250で得られた勾配が、記憶部260から読み出した勾配参照値261(勾配参照値)以下となっている場合(ステップS105;N)、二次電池モジュール110の内部に劣化電池が存在しないと判定する(ステップS107)。
【0034】
劣化判定部270は、二次電池モジュール110の内部に劣化電池が存在するとの判定した場合、CC充電における電流値を下げるフラグを生成し、充放電制御部220に出力する。充放電制御部220は、劣化判定部270から上記フラグを取得すると、CC充電における電流値を下げる制御信号を充放電回路210に出力する。充放電回路210は、充放電制御部220からCC充電における電流値を下げる制御信号を取得すると、CC充電における電流値を下げる(ステップS108)。このようにして、充放電装置200における二次電池モジュール110の内部状態の分析が行われる。
【0035】
[効果]
次に、充放電装置200の効果について説明する。
【0036】
本実施の形態では、CCCV充電におけるCC充電末期の、二次電池モジュール110の電圧計測値の勾配に基づいて、二次電池モジュール110の内部の劣化状態が判定される。ここで、上記勾配は、二次電池モジュール110内に劣化電池が存在するときと、二次電池モジュール110内に劣化電池が存在しないときとで、異なることが実験によって明らかになっている。これにより、例えば、上記勾配が所定の条件を満たしたときには、二次電池モジュール110内に劣化電池が存在すると言うことができる。従って、劣化のメカニズムに即した分析を行うことが可能である。
【0037】
本実施の形態では、上記勾配と勾配参照値261との対比により、二次電池モジュール110の内部の劣化状態が判定される。これにより、劣化のメカニズムに即した分析を行うことが可能である。
【0038】
本実施の形態では、二次電池モジュール110の内部に劣化電池が存在するとの判定がなされた場合、CC充電における印加電流が小さくなる。これにより、二次電池モジュール110内の劣化電池に大きな電流が流れるのを防止することができる。その結果、二次電池モジュール110内の劣化電池の更なる劣化を防止することができる。
【0039】
<2.第1の実施の形態の変形例>
次に、上記実施の形態に係る充放電装置200の変形例について説明する。
【0040】
上記実施の形態において、二次電池パック100は、二次電池モジュール110の温度を計測する温度計120を備えていてもよい。このとき、記憶部260には、例えば、
図9に示したように、二次電池モジュール110の温度ごとに勾配参照値が設定された勾配参照値261が記憶されていてもよい。
【0041】
図10は、新品の二次電池のCCCV充電におけるCC充電末期のときのdQ/dVの温度依存性の一例を表したものである。
図10には、実験結果が示されている。
図10から、新品の二次電池では、二次電池の温度によってdQ/dVが変化することがわかる。例えば、二次電池の温度がt1のとき、dQ/dVがa1となっており、二次電池の温度がt2のとき、dQ/dVがa2となっており、二次電池の温度がt3のとき、dQ/dVがa3となっている。この実験結果に基づいて、
図9に示したような勾配参照値261が導出される。
【0042】
本変形例では、劣化判定部270は、勾配参照値261に含まれる、温度ごとに設定された複数の勾配参照値の中から、温度計120により得られた温度データに対応する勾配参照値を記憶部260から読み出すことが可能となっている。劣化判定部270は、勾配計算部250で得られた勾配と、記憶部260から読み出した勾配参照値261(勾配)との対比により、二次電池モジュール110の内部の劣化状態を判定することが可能となっている。これにより、二次電池モジュール110の温度によらず、劣化のメカニズムに即した分析を精度よく行うことが可能である。
【0043】
<3.第2の実施形態>
次に、本技術の第2の実施形態に係る二次電池診断装置としてのサーバ装置400を備えた電源システムについて説明する。
図11は、本実施の形態に係る電源システムの概略構成例を表したものである。
【0044】
電源システムは、二次電池パック100、充放電装置300およびサーバ装置400を備えている。二次電池パック100は、二次電池モジュール110を備えている。充放電装置300およびサーバ装置400は、通信ネットワーク500を介して接続されている。充放電装置300およびサーバ装置400は、通信ネットワーク500を介して互いに通信可能となっている。通信ネットワーク500は、例えば、インターネット、クラウドネットワーク、または、事業者固有のネットワークなどを含んで構成されている。
【0045】
充放電装置300は、二次電池パック100を充放電する装置であり、外部の装置と通信する機能を有するネットワーク通信型の装置である。充放電装置300は、例えば、
図11に示したように、充放電回路310、充放電制御部320、IV計測回路330、通信部340および表示部350を備えている。充放電回路310は、上記実施の形態に係る充放電回路210に対応する。充放電制御部320は、上記実施の形態に係る充放電制御部220に対応する。IV計測回路330は、上記実施の形態に係るIV計測回路230に対応する。通信部340は、通信ネットワーク500を介してサーバ装置400と通信を行うことの可能な通信インターフェースである。通信部340は、サーバ装置400から送信されてきた判定結果を含む映像信号を表示部350に出力することが可能となっている。表示部350は、上記実施の形態に係る表示部280に対応する。
【0046】
サーバ装置400は、例えば、
図11に示したように、一時記憶部240、勾配計算部250、記憶部260、劣化判定部270および通信部410を備えている。一時記憶部240は、上記実施の形態に係る一時記憶部240に対応する。勾配計算部250は、上記実施の形態に係る勾配計算部250に対応する。記憶部260は、上記実施の形態に係る記憶部260に対応する。劣化判定部270は、上記実施の形態に係る劣化判定部270に対応する。通信部410は、通信ネットワーク500を介して充放電装置300と通信を行うことの可能な通信インターフェースである。通信部410は、劣化判定部270で得られた判定結果を充放電装置300に送信することが可能となっている。
【0047】
本実施の形態では、一時記憶部240、勾配計算部250、記憶部260および劣化判定部270の機能がサーバ装置400に設けられている。このようにした場合であっても、上記実施の形態およびその変形例と同様、劣化のメカニズムに即した分析を行うことが可能である。
【0048】
本実施の形態では、劣化判定部270で得られた判定結果が放電装置300に送信される。これにより、充放電装置300は、判定結果に応じた動作を行うことが可能である。
【0049】
<4.第3の実施形態>
本技術の第3の実施形態に係る、分析機能付きの二次電池パック100aを備えた電源システムについて説明する。
図12は、本実施の形態に係る電源システムの概略構成例を表したものである。電源システムは、二次電池パック100aおよび充放電装置300aを備えている。
【0050】
二次電池パック100aは、例えば、
図12に示したように、二次電池モジュール110、一時記憶部240、勾配計算部250、記憶部260、劣化判定部270、充放電制御部220および通信部130を備えている。二次電池モジュール110は、上記実施の形態に係る二次電池モジュール110に対応する。一時記憶部240は、上記実施の形態に係る一時記憶部240に対応する。勾配計算部250は、上記実施の形態に係る勾配計算部250に対応する。記憶部260は、上記実施の形態に係る記憶部260に対応する。劣化判定部270は、上記実施の形態に係る劣化判定部270に対応する。充放電制御部220は、上記実施の形態に係る充放電制御部220に対応しており、通信部130,340を介して、充放電装置300a内の充放電制御部320aを制御することが可能となっている。通信部130は、充放電装置300aとデータのやりとりを行うことの可能なインターフェースである。
【0051】
充放電装置300aは、例えば、
図12に示したように、充放電回路310、充放電制御部320a、IV計測回路330、通信部340および表示部350を備えている。充放電回路310は、上記実施の形態に係る充放電回路310に対応している。充放電制御部320aは、二次電池パック100a内の充放電制御部220の制御に従って、上記実施の形態に係る充放電制御部320の機能を実行することが可能となっている。IV計測回路330は、上記実施の形態に係るIV計測回路330に対応している。通信部340は、二次電池パック100aとデータのやりとりを行うことの可能なインターフェースである。表示部350は、上記実施の形態に係る表示部350に対応している。
【0052】
本実施の形態では、一時記憶部240、勾配計算部250、記憶部260、劣化判定部270および充放電制御部220の機能が二次電池パック100aに設けられている。このようにした場合であっても、上記実施の形態およびその変形例と同様、劣化のメカニズムに即した分析を行うことが可能である。
【0053】
<5.各実施形態に共通の変形例>
上記各実施の形態およびその変形例において、例えば、
図13に示したように、勾配計算部250および劣化判定部270の機能が、制御部290によって実現されていてもよい。このとき、制御部290は、例えば、勾配計算部250および劣化判定部270の機能を実行することの可能なMPU、または、勾配計算部250および劣化判定部270の一連の動作を記述したプログラム262がロードされたCPUによって構成されている。プログラム262は、例えば、記憶部260に記憶される。
【0054】
なお、本技術は、以下のような構成を取ることもできる。
<1>
複数の二次電池が並列接続された二次電池モジュールに対するCCCV(Constant Current, Constant Voltage)充電におけるCC(Constant Current)充電末期の、前記二次電池モジュールの電圧計測値を取得することと、
前記電圧計測値の勾配に基づいて、前記二次電池モジュールの内部の劣化状態を判定することと
を含む
二次電池の分析方法。
<2>
前記勾配と勾配参照値との対比により、前記二次電池モジュールの内部の劣化状態を判定することと
を含む
<1>に記載の二次電池の分析方法。
<3>
複数の二次電池が並列接続された二次電池モジュールに対するCCCV(Constant Current, Constant Voltage)充電を行うことの可能な充電回路と、
前記CCCV充電におけるCC(Constant Current)充電末期の、前記二次電池モジュールの電圧値を計測することの可能な計測回路と、
前記計測回路によって得られた電圧計測値の勾配に基づいて、前記二次電池モジュールの内部の劣化状態を判定することの可能な信号処理部と
を備えた
充電装置。
<4>
前記信号処理部は、前記勾配と勾配参照値との対比により、前記二次電池モジュールの内部の劣化状態を判定することが可能となっている
<3>に記載の充電装置。
<5>
前記充電回路は、前記信号処理部が、前記二次電池モジュールの内部に部分的な劣化状態が存在すると判定した場合、CC充電における印加電流を小さくすることが可能となっている
<3>または<4>に記載の充電装置。
<6>
複数の二次電池が並列接続された二次電池モジュールに対するCCCV(Constant Current, Constant Voltage)充電におけるCC(Constant Current)充電末期の、前記二次電池モジュールの電圧計測値を取得することの可能な通信部と、
前記電圧計測値の勾配に基づいて、前記二次電池モジュールの内部の劣化状態を判定することの可能な信号処理部と
を備えた
二次電池分析装置。
<7>
前記信号処理部は、前記勾配と勾配参照値との対比により、前記二次電池モジュールの内部の劣化状態を判定することが可能となっている
<6>に記載の二次電池分析装置。
<8>
前記通信部は、前記信号処理部における判定結果を出力することが可能となっている
<6>または<7>に記載の二次電池分析装置。
<9>
複数の二次電池が並列接続された二次電池モジュールと、
前記二次電池モジュールに対するCCCV(Constant Current, Constant Voltage)充電におけるCC(Constant Current)充電末期の、前記二次電池モジュールの電圧計測値を取得することの可能な通信部と、
前記電圧計測値の勾配に基づいて、前記二次電池モジュールの内部の劣化状態を判定することの可能な信号処理部と
を備えた
二次電池パック。
<10>
前記信号処理部は、前記勾配と勾配参照値との対比により、前記二次電池モジュールの内部の劣化状態を判定することが可能となっている
<9>に記載の二次電池パック。
<11>
前記通信部は、前記信号処理部における判定結果を出力することが可能となっている
<9>または<10>に記載の二次電池パック。
【符号の説明】
【0055】
100,100a…二次電池パック、110…二次電池モジュール、120…温度計、130…通信部、200,200a…充放電装置、210…充放電回路、220…充放電制御部、230…IV計測回路、240…一時記憶部、250…勾配計算部、260…記憶部、261…dQ/dV参照値、262…プログラム、270…劣化判定部、280…表示部、290…制御部、300,300a…充放電装置、310…充放電回路、320,320a…充放電制御部、330…IV計測回路、340…通信部、350…表示部、400…サーバ装置、410…通信部、500…通信ネットワーク、BA,BA1,BA2,BA3…二次電池。