(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118022
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】両面研磨方法、両面研磨装置用キャリア、及び両面研磨装置
(51)【国際特許分類】
B24B 37/08 20120101AFI20240823BHJP
B24B 37/28 20120101ALI20240823BHJP
B24B 37/005 20120101ALI20240823BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
B24B37/08
B24B37/28
B24B37/005 A
H01L21/304 621A
H01L21/304 622G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024181
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 容輝
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158AA18
3C158AB04
3C158AC04
3C158BA02
3C158BA05
3C158CB01
3C158DA09
3C158DA18
3C158EA02
3C158EA05
3C158EA08
3C158EB01
5F057AA16
5F057CA19
5F057FA17
(57)【要約】
【課題】
ウェーハ外周の平坦性を修正可能な両面研磨方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
研磨布が貼付された上下定盤の間に配設され、研磨の際に上下定盤の間に挟まれるウェーハを保持するための保持孔が形成されたキャリア本体と、キャリア本体の保持孔の内周に沿って配置され、ウェーハの周縁部に接する内周面を有するリング状で樹脂製のインサートを備える両面研磨装置用キャリアを用いた両面研磨方法であって、ウェーハのノッチを固定するフックを有するインサートを用い、異方性のあるウェーハをフックで固定しながら研磨して予めインサートに異方性のパターンを転写してウェーハ厚みパターンを作り込み、異方性のあるウェーハのノッチとは異なる角度にノッチを有する製品ウェーハを保持孔に配置した状態で、フックで固定し本研磨を行うことを特徴とする両面研磨方法。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨布が貼付された上下定盤の間に配設され、研磨の際に前記上下定盤の間に挟まれるウェーハを保持するための保持孔が形成されたキャリア本体と、該キャリア本体の前記保持孔の内周に沿って配置され、前記ウェーハの周縁部に接する内周面を有するリング状で樹脂製のインサートを備える両面研磨装置用キャリアを用いた両面研磨方法であって、
前記ウェーハのノッチを固定するフックを有する前記インサートを用い、異方性のあるウェーハを前記フックで固定しながら研磨して予め前記インサートに異方性のパターンを転写してウェーハ厚みパターンを作り込み、
前記異方性のあるウェーハの前記ノッチとは異なる角度にノッチを有する製品ウェーハを前記保持孔に配置した状態で、前記フックで固定し本研磨を行うことを特徴とする両面研磨方法。
【請求項2】
前記作り込みの際に研磨する前記異方性のあるウェーハのノッチ角度と、前記本研磨を行う前記製品ウェーハのノッチ角度の差を45°にすることを特徴とする請求項1に記載の両面研磨方法。
【請求項3】
前記作り込みにおける研磨条件と前記本研磨における研磨条件として、研磨開始時の荷重を最終目標荷重の半分に設定し、その後0.1N以下の荷重/minずつ加圧し、最終目標荷重まで研磨を進行することを特徴とする請求項1又は2に記載の両面研磨方法。
【請求項4】
研磨布が貼付された上下定盤の間に配設され、研磨の際に前記上下定盤の間に挟まれるウェーハを保持するための保持孔が形成されたキャリア本体と、該キャリア本体の前記保持孔の内周に沿って配置され、前記ウェーハの周縁部に接する内周面を有するリング状で樹脂製のインサートを備える両面研磨装置用キャリアであって、
前記インサートは、
前記ウェーハのノッチを固定するフックを有するものであることを特徴とする両面研磨装置用キャリア。
【請求項5】
請求項4に記載の両面研磨装置用キャリアを備えることを特徴とする両面研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両面研磨方法、両面研磨装置用キャリア、及び両面研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェーハの両面をポリッシング等で同時に研磨する両面研磨の際は、特許文献1に示すような両面研磨装置用キャリアによってウェーハを保持している。
図9は、従来から用いられている一般的な両面研磨装置によるウェーハの研磨を説明する概略説明図である。
図9に示すように、両面研磨装置用キャリア101は、ウェーハWより薄い厚みに形成され、両面研磨装置120の図示しない上定盤と下定盤の間の所定位置にウェーハWを保持するための保持孔104を備えている。
【0003】
この保持孔104にウェーハWが挿入されて保持され、上定盤と下定盤の対向面に設けられた研磨布でウェーハWの上下面が挟み込まれる。この両面研磨装置用キャリア101は、サンギヤ111とインターナルギヤ112とに噛合され、サンギヤ111の駆動回転によって自転公転される。そして、研磨面に砥粒を含むスラリを研磨剤として供給しながら上定盤と下定盤とを互いに逆回転させることにより、上下定盤に貼付された研磨布でウェーハWの両面を同時に研磨する。
【0004】
このようなウェーハWの両面研磨工程で使用している両面研磨装置用キャリア101のキャリア本体102は金属製のものが主流である。このため、ウェーハWの周縁部を金属製のキャリア本体102によるダメージから保護するために樹脂製のインサート103がキャリア本体102に形成された保持孔104の内周部に沿って取り付けられている。なお、ウェーハWはこの保持孔104内で回転可能な状態となっている。
【0005】
両面研磨工程では、主にウェーハを平坦化させることを目的としている。近年、微細化が進むにつれてこの平坦化への要求は高くなり、ウェーハ外周の平坦性が重要視されている。
【0006】
ウェーハ外周の平坦性を表す指標として、ESFQRやESFQDがある。
ESFQR(EdgeSiteFrontleastsQuaresRange)やESFQD(EdgeSiteFrontleastsQuaresDeviation)は、エッジ近傍を評価するフラットネス指標で、外周部のサイトフラットネスを評価する指標である。
【0007】
ESFQRは、扇型のセル形状、例えば、エッジから1mmの点と35mmの範囲で、角度5度の72セルの平均や最大値で評価を行っている。ESFQDは、ESFQRの仮想平面からの変位量の最大値を表し、プラスの場合は仮想平面よりも上側、マイナス場合は仮想平面よりも下側の変位量が大きいことを示す。ウェーハの品質評価にはESFQR、形状解析にはESFQDが用いられることが多い。
【0008】
近年では、微細化と共に、外周部の平坦性を良くするため、両面研磨では、硬質の研磨布を用いたり、研磨中の荷重バランスを均一化したりする等の改善が行われている。
【0009】
しかしこれらの指標で評価した時に、角度別でウェーハの周方向を見ると4回対称のパターンが発生していることがある。
4回対称のパターンとは、ESFQRやESFQDを周方向に角度別でみると一定間隔で悪化する現象であり、90°間隔で発生するので4回対称と表現している。
【0010】
4回対称のパターンの発生については、特許文献2などでも開示されている。
4回対称のパターン発生は、両面研磨装置の機種や、研磨条件によって発生率に差がある。例えば、キャリア内の荷重分布が均一で、偏荷重がかかり難い条件の場合、フラットネスレベルは良くなるが、4回対称のパターンの発生率が高くなることが分かっている。
【0011】
これは、キャリア内でウェーハの回転が停止した場合、再度回転を開始するための回転力が少ないためと考えられる。逆に、荷重バランスが悪い条件では、フラットネスレベルは若干悪化するが、4回対称のパターンの発生は少ない。これは、ウェーハの回転が停止しても、再度回転を開始するのに十分な回転力が、偏荷重により得られるためと考えられる。
【0012】
特許文献2では、研磨に用いられるスラリに着目し、スラリ中に含まれる無機アルカリのエッチングレートの結晶方位依存性が、4回対称のパターンが発生する要因のひとつであることに着目し、コロイダルシリカを含有し、ベースアルカリとして水酸化リチウムのみを含有し、水酸化リチウムの濃度が、研磨剤の全質量に対して0.02wt%以上0.05wt%未満の研磨剤を用いることでシリコンウェーハの結晶方位に依存する外周平坦性バラツキの発生を防止することが開示されている。
【0013】
一方、両面研磨では、一般的に特許文献1にその製造方法が開示されているように、ウェーハWを保持するための保持孔104が形成されたキャリア本体102と、キャリア本体102の保持孔104の内周に沿って配置され、保持されるウェーハWの周縁部に接する内周面を有するリング状の樹脂製のインサート103とから成る両面研磨装置用キャリア101が用いられている。
【0014】
特許文献1では、ウェーハを研磨する前に、予め樹脂製のインサート103の内周面と両面研磨装置用キャリア101の主面との角度θを検査し、該検査した角度θが、88°≦θ≦92°を満たすものだけを用いウェーハWを研磨することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2011-25322号公報
【特許文献2】特開2017-92316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記したように両面研磨工程でも平坦化への要求は高くなり、ウェーハ外周の平坦性が重要視されており、4回対称のパターンの発生も問題になりつつある。この発生を抑制しながら高い平坦度を保てるような研磨が求められている。
【0017】
一方で、特許文献1では樹脂インサートの歪に起因するウェーハの外周ダレ及びナノトポロジーを抑制できることが記載されており、樹脂インサートの形状が研磨後のウェーハの形状に影響することは記載されているが、4回対称のパターンの発生を抑制することやウェーハ外周の平坦性を改善できることは記載されていない。
【0018】
一方で、特許文献2に開示されているように、研磨に用いられるスラリに着目し、スラリ中に含まれる無機アルカリのエッチングレートの結晶方位依存性を改善することでも平坦度は改善されるものの、その他の要因により平坦度が悪化する場合は十分に平坦性を安定化させる(4回対称のパターンの発生率を小さくする)ことができなかった。
【0019】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、ウェーハ外周の平坦性を改善可能な両面研磨方法及びウェーハ外周の平坦性を改善可能なものとなる両面研磨装置用キャリア、及び両面研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、研磨布が貼付された上下定盤の間に配設され、研磨の際に前記上下定盤の間に挟まれるウェーハを保持するための保持孔が形成されたキャリア本体と、該キャリア本体の前記保持孔の内周に沿って配置され、前記ウェーハの周縁部に接する内周面を有するリング状で樹脂製のインサートを備える両面研磨装置用キャリアを用いた両面研磨方法であって、前記ウェーハのノッチを固定するフックを有する前記インサートを用い、異方性のあるウェーハを前記フックで固定しながら研磨して予め前記インサートに異方性のパターンを転写してウェーハ厚みパターンを作り込み、前記異方性のあるウェーハの前記ノッチとは異なる角度にノッチを有する製品ウェーハを前記保持孔に配置した状態で、前記フックで固定し本研磨を行うことを特徴とする両面研磨方法を提供する。
【0021】
このような両面研磨方法によれば、異方性のあるウェーハをフックで固定してキャリア本体およびインサートに対してウェーハが自転しないようにして研磨を行うことで予め前記インサートに異方性のパターンを転写してウェーハ厚みパターンを作り込み、その後、作り込みの時とはノッチ角の異なる製品ウェーハをフックで固定して本研磨を行う。
【0022】
これにより本研磨の際には、インサートに作り込まれた厚みパターンのうち、インサートの板厚が薄い部分にウェーハの板厚の厚い部分が当たり、インサートの板厚が厚い部分にウェーハの板厚が薄い部分が当たることで、本研磨時にウェーハの外周の板厚の薄い部分の削りすぎや厚い部分の削り残し等を防ぎ、4回対称のパターンの発生を抑制する。
そのため、ウェーハ外周の平坦性を改善できる。
【0023】
このとき、前記作り込みの際に研磨する前記異方性のあるウェーハのノッチ角度と、前記本研磨を行う前記製品ウェーハのノッチ角度の差を45°にすることができる。
これにより、本研磨の際にはインサートの板厚が最も薄い部分にウェーハの板厚が最も厚い箇所が当たり、インサートの板厚が最も厚い部分にウェーハの板厚が最も薄い部分が当たることで、本研磨時にウェーハの外周の板厚の薄い部分の削りすぎや厚い部分の削り残し等を確実に防ぎ、4回対称のパターンの発生を抑制する。
そのため、ウェーハ外周の平坦性を、より確実に改善できる。
【0024】
このとき、前記作り込みにおける研磨条件と前記本研磨における研磨条件として、研磨開始時の荷重を最終目標荷重の半分に設定し、その後0.1N以下の荷重/minずつ加圧し、最終目標荷重まで研磨を進行することができる。例えば、研磨開始時の荷重を0.392N(40gf)とし、緩やかな増圧として0.098N(10gf)/minずつ加圧し、最終的には通常研磨時と同一荷重である最終目標荷重の0.784N(80gf)で研磨を進行することができる。
このように、研磨開始時の加重を最終的に加圧する加重よりも小さくし、最終的に加圧する加重まで段階的に増圧することで、特にウェーハ厚みパターンを作り込む際のクラッシュ等が生じるのを確実に防止できる。また、ノッチやフックに負荷がかかり難くできる。
【0025】
また本発明は、研磨布が貼付された上下定盤の間に配設され、研磨の際に前記上下定盤の間に挟まれるウェーハを保持するための保持孔が形成されたキャリア本体と、該キャリア本体の前記保持孔の内周に沿って配置され、前記ウェーハの周縁部に接する内周面を有するリング状で樹脂製のインサートを備える両面研磨装置用キャリアであって、前記インサートは、前記ウェーハのノッチを固定するフックを有するものであることを特徴とする両面研磨装置用キャリアを提供する。
【0026】
このような両面研磨装置用キャリアによれば、ウェーハのノッチを固定するフックを有するため、研磨の際にウェーハがキャリア本体およびインサートに対して自転しない。
そこで、異方性のあるウェーハをフックで固定してキャリア本体およびインサートに対してウェーハが自転しないようにして研磨を行うことで予め前記インサートに異方性のパターンを転写してウェーハ厚みパターンを作り込み、その後、作り込みの時とはノッチ角の異なる製品ウェーハをフックで固定して本研磨を行うことができるものとなる。
【0027】
これにより、本研磨の際には、インサートに作り込まれた厚みパターンのうち、板厚が薄い部分にウェーハの厚い部分が当たり、板厚が厚い部分にウェーハの薄い部分が当たることで、本研磨時に、ウェーハの薄い部分の削りすぎや厚い部分の削り残し等を防ぐ。
そのため、この両面研磨装置用キャリアは、ウェーハ外周の平坦性を改善できるものとなる。
【0028】
さらに本発明は、上記に記載の両面研磨装置用キャリアを備えることを特徴とする両面研磨装置を提供する。
このように、両面研磨装置が上記に記載のウェーハ外周の平坦性を改善できるものである両面研磨装置用キャリアを備えるため、ウェーハ外周の平坦性を改善できるものとなる。
【発明の効果】
【0029】
以上のように、本発明の両面研磨方法によれば、ウェーハ外周の平坦性を改善可能となる。また、本発明の両面研磨装置用キャリア、及び両面研磨装置によれば、ウェーハ外周の平坦性を改善可能なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施形態に係る両面研磨装置用キャリアを備える両面研磨装置の一部断面図を示す。
【
図2】
図1の平面図であって、上定盤の記載を省略したものを示す。
【
図3】
図1の両面研磨装置用キャリア、および研磨の対象であるウェーハの平面図を示す。
【
図4】異方性のあるウェーハの周方向の角度と外周厚みの関係を示す。
【
図5】本研磨の際のウェーハ外周部とインサート内周付近の拡大断面図を示す。
【
図6】本発明の実施形態に係る両面研磨方法のフロー図を示す。
【
図7】実施例で本研磨した製品ウェーハの周方向の角度とESFQR変位量の関係を示す。
【
図8】比較例で本研磨した製品ウェーハの周方向の角度とESFQR変位量の関係を示す。
【
図9】従来から用いられている一般的な両面研磨装置によるウェーハの研磨を説明する概略説明図(平面図)であって、上定盤の記載を省略したものを示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
上述のように、ウェーハ外周の平坦性を改善できる両面研磨方法が求められていた。また、ウェーハ外周の平坦性を改善できるものとなる両面研磨装置用キャリア、及び両面研磨装置が求められていた。
【0033】
本発明者は、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、研磨布が貼付された上下定盤の間に配設され、研磨の際に前記上下定盤の間に挟まれるウェーハを保持するための保持孔が形成されたキャリア本体と、該キャリア本体の前記保持孔の内周に沿って配置され、前記ウェーハの周縁部に接する内周面を有するリング状で樹脂製のインサートを備える両面研磨装置用キャリアを用いた両面研磨方法であって、前記ウェーハのノッチを固定するフックを有する前記インサートを用い、異方性のあるウェーハを前記フックで固定しながら研磨して予め前記インサートに異方性のパターンを転写してウェーハ厚みパターンを作り込み、前記異方性のあるウェーハの前記ノッチとは異なる角度にノッチを有する製品ウェーハを前記保持孔に配置した状態で、前記フックで固定し本研磨を行うことを特徴とする両面研磨方法により、ウェーハ外周の平坦性を改善できることを見出し、本発明を完成した。
【0034】
また本発明者は、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、研磨布が貼付された上下定盤の間に配設され、研磨の際に前記上下定盤の間に挟まれるウェーハを保持するための保持孔が形成されたキャリア本体と、該キャリア本体の前記保持孔の内周に沿って配置され、前記ウェーハの周縁部に接する内周面を有するリング状で樹脂製のインサートを備える両面研磨装置用キャリアであって、前記インサートは、前記ウェーハのノッチを固定するフックを有するものであることを特徴とする両面研磨装置用キャリアにより、ウェーハ外周の平坦性を改善できるものとなることを見出し、本発明を完成した。
【0035】
さらに本発明者は、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、上記に記載の両面研磨装置用キャリアを備えることを特徴とする両面研磨装置により、ウェーハ外周の平坦性を改善できるものとなることを見出し、本発明を完成した。
【0036】
以下、図面を参照して説明する。
以下、
図1~
図6を参照しながら本発明の実施形態に係る両面研磨装置用キャリア1を備える両面研磨装置100、本発明の実施形態に係る両面研磨装置用キャリア1、及び本発明の実施形態に係る両面研磨方法について説明する。
【0037】
まず、
図1~
図5を参照して本発明の実施形態に係る両面研磨装置用キャリア1を備える両面研磨装置100、及び本発明の両面研磨装置用キャリア1について説明する。
図1及び
図2に示される両面研磨装置100はウェーハWの表裏両面を研磨する装置であり、上定盤3、下定盤5、サンギヤ11、インターナルギヤ13、及び両面研磨装置用キャリア1を備える。
【0038】
上定盤3と下定盤5はウェーハWを上下に挟む円板状の定盤であり、互いに上下に対向配置される。上定盤3の下面にはウェーハWの上面を研磨する研磨布である上側研磨布7が貼付されており、下定盤5の上面にはウェーハWの下面を研磨する研磨布である下側研磨布9が貼付されている。また上定盤3には上下に貫通する孔であるスラリ供給口17が設けられており、研磨時にはスラリ供給口17から砥粒を含むスラリが研磨剤として供給される。
サンギヤ11は上定盤3と下定盤5の間に同軸配置された平歯車であり、インターナルギヤ13は上定盤3と下定盤5の間の周縁部に同軸配置された内歯車である。
【0039】
両面研磨装置用キャリア1はウェーハWを保持する部材であり、
図3に示すようにキャリア本体21及びインサート25を備える。
キャリア本体21は上側研磨布7が貼付された上定盤3と下側研磨布9が貼付された下定盤5の間に配設された金属製の平歯車であり、サンギヤ11及びインターナルギヤ13と噛合する。キャリア本体21は研磨の際に上定盤3と下定盤5の間に挟まれるウェーハWを保持するための保持孔23が形成されている。キャリア本体21には保持孔23とは別にスラリを通すための捨て孔27が必要に応じて設けられる。
【0040】
インサート25はキャリア本体21とウェーハWが接触してウェーハ周縁部がダメージを受けるのを防ぐ部材であり、キャリア本体21の保持孔23の内周に沿って配置され、ウェーハWの周縁部に接する内周面を有するリング状で樹脂製の部材である。インサート25はキャリア本体21に嵌合あるいは接着により固定される。
【0041】
インサート25は、ウェーハWを保持孔23に収納する際に、ウェーハWのノッチNを固定するフック29を有するものである。フック29の形状はノッチNを引っ掛けてウェーハWが回転しないように固定できる形状である。
図3に示すようにノッチNの形状がV字溝である場合、フック29の形状はインサート25の径方向内側に突出したV字状の突起である。フック29はインサート25と同じ樹脂製のものであるのが好ましい。フック29がウェーハWに傷をつける可能性を下げられるためである。フック29はインサート25と一体でも別体でもよい。
【0042】
インサート25がフック29を有することで、ウェーハWを保持孔23に収納する際にノッチNがフック29で固定されるため、ウェーハWはキャリア本体21及びインサート25に対して回転しない。よって研磨中にウェーハWは両面研磨装置用キャリア1に対して回転しない。
【0043】
ウェーハWの両面研磨の際には、
図1に示す上定盤3及び下定盤5が不図示の駆動源によって回転されるのに伴い、
図2に示すように両面研磨装置用キャリア1は自転しつつサンギヤ11の周りを公転する。さらに砥粒を含むスラリを研磨剤として
図1のスラリ供給口17から上側研磨布7と下側研磨布9に供給する。
【0044】
これにより、両面研磨装置用キャリア1の保持孔23に保持されたウェーハWの上面は上側研磨布7に、下面は下側研磨布9により同時に研磨される。ただし、ウェーハWは
図3に示すようにノッチNがフック29で固定されるため、ウェーハWはインサート25に対して回転しない。
【0045】
このようにインサート25にフック29を設け、ウェーハWがインサート25に対して回転しないものとする理由を以下に説明する。
【0046】
シリコンウェーハ等のウェーハは、両面研磨を行う前にエッチング等の表面処理を行うが、結晶方位によってエッチングレートが異なるため、エッチングレートが速い方位は薄くなり、エッチングレートが遅い方位は厚くなる。
例えば
図4は両面研磨前の45°ノッチ品の外周の厚みを、KLA TencorのWafersight1を用いて測定したものであるが。
図4に示すようにウェーハWの外周は周方向で厚い部分と薄い部分が交互に繰り返される、異方性のあるパターン形状P1を有している。
【0047】
ここでウェーハの異方性とは、ウェーハの厚みのことを指し、異方性のあるウェーハとは周方向で見た際に厚みが厚い部分と薄い部分があることを指す。以下の説明も同様である。
【0048】
図4に示すような異方性を持ったウェーハWを
図9に示すような、フック29を有さない通常品の両面研磨装置用キャリア101で研磨すると、研磨したにもかかわらず4回対称のパターン形状が発生する場合がある。
【0049】
ただし、4回対称パターン形状は両面研磨を行うと常に発生するわけではなく、研磨条件や部材の状態に影響する。一方で、本発明者の知見によるとその発生率を大きくする要因として両面研磨装置用キャリア1のインサート25が原因であることがわかってきた。そこで、この両面研磨装置用キャリア1、特にインサート25の樹脂の影響による4回対称のパターンの発生などの平坦性を改善する両面研磨装置が必要とされている。
【0050】
例えば、
図9に示すように従来の両面研磨装置用キャリア101は、金属製のキャリア本体102と研磨用のスラリを受ける捨て孔105、ウェーハWを保持する保持孔104を備え、保持孔104の内周部にはウェーハWのエッジを保護するためのインサート103が形成されている。
【0051】
インサート103は樹脂製のものがほとんどのため、両面研磨装置用キャリア101のライフ進行とともにインサート103の内周端面は研磨によって削れ、インサート103に凹みが生じると本発明者は考えた。
【0052】
さらに、生じた凹みに対して研磨中のウェーハWがホールドされることがあり、インサート25に対するウェーハWの自転がスムーズに行われなくなる結果、ウェーハWの異方性が修正できないまま両面研磨が進み、ウェーハWのエッジ部分の厚みに異方性と同じバラつきができ、それが4回対称のパターン形状となって発現すると本発明者は考えた。
【0053】
そこで、
図3に示す本発明の両面研磨装置用キャリア1では、敢えてフック29でウェーハWを固定して両面研磨装置用キャリア1に対して自転させない構成とした。
ウェーハWが両面研磨装置用キャリア1に対して自転できないまま両面研磨を行うと、異方性が修正できないまま両面研磨が進むが、この際に異方性がインサート25に転写され、インサート25もウェーハWに対応した異方性を有するものとなる。このようにインサート25に異方性が転写されることで作り込まれた形状を、以下の説明ではウェーハ厚みパターンともいう。
【0054】
このような異方性が転写されたインサート25を有する両面研磨装置用キャリア1で、同じ異方性とノッチ角度を有する別なウェーハを加工したのでは、そのまま異方性が転写されるため、さらに異方性が強調され4回対称が発生しやすいが、ノッチ角度が異なるウェーハWを研磨すると、インサート25の異方性とウェーハWの異方性の部分が打ち消しあい、4回対称パターンのような異常が発生しにくくなる。
【0055】
例えば、
図4に示すパターン形状P1を有するウェーハWを、パターン形状P2が転写されたインサート25を有する両面研磨装置用キャリア1で研磨すれば、異方性を転写した時と比べて結晶方位がずれた状態でウェーハWを研磨することになる。これにより、インサート25に作り込まれた厚みパターンのうち、板厚が薄い部分にウェーハWの厚い部分が当たり、板厚が厚い部分にウェーハWの薄い部分が当たることで、本研磨時に、ウェーハWの外周の板厚の薄い部分の削りすぎや厚い部分の削り残し等を防ぐ。
【0056】
具体的には、
図4の角度0°、90°、180°、270°、360°の位置では、
図5に模式的に示すように、ウェーハWの外周31が厚い部分に対してインサート25の内周33の薄くした部分が当たるため、厚みの違いからスラリ中の砥粒35がウェーハWの外周31とインサート25の内周33の間に入り込みやすくなり、当該部分に対しての研磨効率が上がり、全体的にフラットなウェーハWを得られるようになる。
【0057】
このように、本発明者は、インサート25がフック29を有することで、上記で説明した異方性と同じパターンをインサート25に転写できるものとなること、及び、転写したウェーハとはノッチ角度が異なるウェーハWで本研磨を行うことで、本研磨を行ったウェーハWに4回対称パターンが発生するのを抑制可能なものとなり、ウェーハWの平坦性を改善できるものとなることを見出した。
【0058】
つまり、フック29を設けることで研磨中にウェーハWが回転しないことを利用して初めに異方性のあるウェーハWで、インサート部の形状の作り込みを行うことができるものとなる。さらに、作り込み後にノッチ角度の異なるウェーハWを本研磨することで、4回対称パターンの発生を抑制可能なものとなる。その結果、ウェーハ外周の平坦性を改善可能なものとなる。
以上がインサート25にフック29を設け、ウェーハWがインサート25に対して回転しないものとする理由である。
【0059】
次に、本発明の実施形態に係る両面研磨方法について説明する。
まず、本発明の実施形態に係る両面研磨方法の概要を説明する。
本発明の両面研磨方法は、従来問題であったインサート形状がライフとともに変化し、ウェーハ自転がスムーズに行われず、特に4回対称が発生しやすくなることの対策となる両面研磨方法である。
【0060】
具体的には本発明の両面研磨方法では、インサート25を予め例えば0°ノッチのウェーハWの形状(異方性)に合わせて削り、予め削ったウェーハと異なる角度のノッチ、例えば45°ノッチのウェーハWを保持し研磨を行う方法である。あるいはインサート25を予め例えば45°ノッチのウェーハWの形状(異方性)に合わせて削り、その後、0°ノッチのウェーハWを保持し研磨を行う方法である。
【0061】
このようにすることで、インサート25の板厚が薄い部分に対してウェーハWの板厚の厚い箇所が当たり、インサート25の板厚の厚い部分にはウェーハの板厚の薄い部分が当たり、ウェーハWの外周の薄い部分の削りすぎや厚い部分の削り残し等が改善できる。
【0062】
特に、本発明の両面研磨方法は、研磨中にキャリア本体21およびインサート25に対してウェーハWが自転しないようにインサート25とウェーハWを固定しながら研磨を行う両面研磨方法である。
【0063】
インサート25とウェーハWの固定には、ウェーハWのノッチNが引っかかるようなフック29をインサート25に付けたものを用いる。なお、以下の説明では0°ノッチのウェーハWを0°ノッチ品ともいう。また45°ノッチのウェーハWを45°ノッチ品ともいう。
以上が本発明の実施形態に係る両面研磨方法の概要の説明である。
【0064】
次に、本発明の実施形態に係る両面研磨方法の詳細を説明する。
本発明の実施形態に係る両面研磨方法は例えば
図6に示す以下の工程を含む。
S1:フック29付きの両面研磨装置用キャリア1に作り込み用ウェーハW1をセット
S2:通常研磨時と同一荷重でインサート前準備のための研磨をする
S3:厚み測定でインサート25がウェーハ外周厚みと同じ分布であることを確認
S4:S1、S2で使用したものと同じフック29付きの両面研磨装置用キャリア1を用い作り込み時とノッチ位置の異なるウェーハWである製品ウェーハW2を研磨する
【0065】
なお、以下の説明ではS1~S3を「作り込み」と呼び、S4を「本研磨」と呼ぶことがある。
具体的な各工程の手順は以下の通りである。
【0066】
S1:フック29付きの両面研磨装置用キャリア1に作り込み用ウェーハW1をセット
S1ではウェーハWのノッチNを固定するフック29を有するインサート25を備える両面研磨装置用キャリア1を用い、
図3に示すように保持孔23に作り込み用の際に研磨する異方性のあるウェーハWである作り込み用ウェーハW1を収納し、フック29に異方性のある作り込み用ウェーハW1のノッチN1を引っ掛けて研磨中に作り込み用ウェーハW1がキャリア本体21およびインサート25に対して自転しないようにインサート25に固定する(
図6のS1)。
【0067】
異方性のある作り込み用ウェーハW1は、
図4に示すような異方性を備えていればよい。ただし、
図3に示す製品ウェーハW2とはノッチ角度が異なる必要がある。なお、
図4の作り込み用ウェーハW1はノッチ角度が45°であるため、以下の説明では特に断りがない限り、異方性のある作り込み用ウェーハW1として、ノッチ角度が45°のウェーハWを用いる場合を例に説明する。
【0068】
S2:通常研磨時と同一荷重でインサート前準備のための研磨をする
S2では両面研磨装置用キャリア1を両面研磨装置100のサンギヤ11およびインターナルギヤ13と噛合させ、異方性のある作り込み用ウェーハW1をフック29でインサート25に固定しながら両面研磨装置100で研磨して予めインサート25に異方性のパターンを転写してウェーハ厚みパターンを作り込む(
図6のS2)。
【0069】
インサート前準備のための研磨では、より早く作り込み用ウェーハW1の異方性のパターンをインサート25に転写できる研磨条件であることが好ましい。一方で、ノッチN1をフック29で引っ掛けて固定することによるノッチN1やフック29への負荷を減らすため、一般的な荷重のかけ方よりかなり緩やかに増圧するのが好ましい。
【0070】
よって、例えば、研磨開始時の荷重を通常研磨時の目標荷重(最終目標荷重)の半分程度の0.392N(40gf)とし、緩やかな増圧として0.1N以下の荷重/min、この例では0.098N(10gf)/minずつ加圧し、最終的には通常研磨時と同一荷重である最終目標荷重の0.784N(80gf)で研磨を進行することが好ましい。
【0071】
このように、研磨開始時の加重を最終的に加圧する加重よりも小さくし、最終的に加圧する加重まで段階的に増圧することで、特にウェーハ厚みパターンを作り込む際のクラッシュ等が生じるのを確実に防止できる。また、ノッチN1やフック29に負荷がかかり難くできる。
【0072】
S2の研磨時間は、インサート25のウェーハ厚みパターンが
図4に示すような、形状を転写した異方性のある作り込み用ウェーハW1の厚みと同じ分布となる程度の時間である。
【0073】
S3:厚み測定でインサート25がウェーハ外周厚みと同じ分布であることを確認
S3ではウェーハ厚みパターンを作り込んだインサート25の外周厚みを公知の厚さ測定機で測定し、形状を転写した異方性のある作り込み用ウェーハW1の厚みと同じ分布となっていることを確認する(
図6のS3)。
【0074】
厚み測定でインサート25の厚みの分布が
図4のウェーハ厚みと同じ分布となった点でキャリアの立ち上げ、つまり作り込みは完了とする。分布が異なる場合は分布が同じになるまでS1とS2を繰り返す。
【0075】
S4:S1、S2で使用したものと同じフック29付きの両面研磨装置用キャリア1を用い作り込み時とノッチ位置の異なるウェーハWである製品ウェーハW2を研磨する。
S3でインサート25が削れたことを確認した後に、S4ではインサート前準備のための研磨とは異なるノッチ品で本番の研磨(製品研磨)を行う。
【0076】
具体的には、S4では、
図3に示すように異方性のある作り込み用ウェーハW1のノッチN1とは異なる角度にノッチN2を有する製品ウェーハW2を両面研磨装置用キャリア1の保持孔23に配置した状態で、フック29で固定し本研磨を行う(
図6のS4)。
【0077】
特に、
図3に示す、作り込みの際に研磨する異方性のある作り込み用ウェーハW1のノッチ角度と、本研磨を行う製品ウェーハW2のノッチ角度の差αを45°にすることが好ましい。
【0078】
例えばインサート25の作り込み時に異方性のある作り込み用ウェーハW1として45°ノッチ品を用いた場合、製品ウェーハW2は0°ノッチ品を用いるのが好ましい。逆に製品ウェーハW2が45°ノッチ品であれば、0°ノッチ品を作り込み用ウェーハW1としてインサート25の作り込みを行っておくことが好ましい。作り込み用ウェーハW1と製品ウェーハW2をノッチ位置の異なるウェーハWにすることでインサート25の異方性とウェーハWの異方性をずらした状態で固定し研磨することができるためである。
【0079】
特に、ノッチ角度の差αを45°にすることで、本研磨の際にはインサート25の板厚が最も薄い部分に製品ウェーハW2の板厚が最も厚い箇所が当たり、インサート25の板厚が最も厚い部分に製品ウェーハW2の板厚の最も薄い部分が当たることで、本研磨時に製品ウェーハW2の外周の板厚の薄い部分の削りすぎや厚い部分の削り残し等を確実に防ぎ、4回対称のパターンの発生を抑制する。
そのため、ウェーハ外周の平坦性を、より確実に修正できる。
【0080】
このように本発明の両面研磨方法では、インサート25を予め製品ウェーハW2の異方性をずらした状態で削り、研磨中に製品ウェーハW2がキャリア本体21及びインサート25に対して自転しないようにインサート25と製品ウェーハW2を固定しながら本研磨を行う。
【0081】
このように、インサート25に転写させる対象の作り込み用ウェーハW1と本番(製品)で研磨する製品ウェーハW2でノッチ位置が異なるようにすることで4回対称パターンを効果的になくすことができる。
【0082】
数値としては、両面研磨後に、角度別のESFQRで見た際に90°ごとのPVがそれぞれ10nm以下かつ対称性といったパターンがない製品ウェーハW2にできる。
【実施例0083】
以下、実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
フック29を有する両面研磨装置用キャリア1を備えた本発明の両面研磨装置100を用いて、異方性のある作り込み用ウェーハW1を用いてインサート25に作り込みを行った後に、作り込み用ウェーハW1とは異なるノッチ角度の製品ウェーハW2を本研磨した実施例と、フック29を有さない両面研磨装置120で作り込みを行わなかった比較例で、本研磨後の製品ウェーハW2に4回対称が発生したか否かを比較した。具体的な手順は以下の通りである。
【0084】
(実施例、インサート作り込み有り・フック有りキャリア使用)
製品ウェーハW2を加工する前に、フック29を有する両面研磨装置用キャリア1を備えた本発明の両面研磨装置100を用いて、フック29付きの両面研磨装置用キャリア1に作り込み用ウェーハW1(45°ノッチ品)をセットした。通常研磨時と同一荷重で増圧研磨し、インサート25を削り、インサート25がウェーハ外周形状と同じ分布であることを確認した。その後、同じフック29付きの両面研磨装置用キャリア1を用いノッチ0°品の製品ウェーハW2を増圧研磨により両面研磨した。
【0085】
なお、ここでいう増圧研磨とは、研磨開始時の荷重を0.392N(40gf)とし、0.098N(10gf)/minずつ加圧し、最終的には0.784N(80gf)で研磨を進行させることをいう。以下の説明も同様である。
【0086】
インサート25の作り込みについては、ウェーハWの異方性に合わせてインサート25を意図的に削るため、フック29のある両面研磨装置用キャリア1でインサート前準備のための研磨をしてウェーハ外周の厚みと同じ分布をインサート25に付けた。なお、この際のインサート25の厚みバラつきは0.1μm以内とした。
【0087】
(比較例:インサート作り込み無し・フック無しキャリア使用)
比較例では
図9のような従来の両面研磨装置用キャリア101を使用した。作り込み用ウェーハW1を用いた事前のインサート103の加工は行わず、500分以上、両面研磨に使用した両面研磨装置用キャリア101を用い、製品ウェーハW2の両面研磨を行った。
【0088】
なお、実施例のインサート25の加工(増圧研磨)や実施例、比較例の製品の加工(本研磨)に用いた両面研磨装置は4ウェイ方式の両面研磨装置である不二越機械製DSP-20Bを用いた。研磨布にはショアA硬度90の発泡ウレタンパッドを採用し、スラリはシリカ砥粒含有・平均粒径35nm・砥粒濃度1.0wt%・pH10.5・KOHベースを用いた。加工後のウェーハに対しては、SC-1洗浄を条件NH4OH:H2O2:H2O=1:1:15で行った。また研磨はいずれも増圧研磨で行った。
【0089】
測定結果:
4回対称パターンが発生したか否かについては、90°ごとのPVとパターンで判断した。
ESFQRについては洗浄後ウェーハをKLA TencorのWafersight1を用いて測定した。
【0090】
インサート作り込み無し・ノッチフック無しキャリア使用の通常条件(比較例)と、インサート作り込み有り・ノッチフック有りキャリア使用(実施例)を比較した。
【0091】
図8に示すように比較例では、両面研磨後の製品ウェーハには、角度別ESFQRで90°ごとのPVが20nm以上であり対称性があったため、4回対称パターンが発生していたのに対し、実施例では
図7に示すように同じく角度別ESFQRのPVは10nm以下で対称性もない、4回対称パターンの発生が抑制されたフラットなウェーハが得られた。
【0092】
この結果から、ウェーハWを固定するフック29を備えた両面研磨装置用キャリア1を用いて異方性のあるウェーハWでインサート25に作り込みを行った後に、作り込みとは異なるノッチ角度のウェーハWを本研磨することで、4回対称パターンの発生を抑制できることが分かった。
【0093】
つまり、本発明の両面研磨装置用キャリア1および両面研磨装置100は、インサート25に4回対称パターンの発生を抑制可能な作り込みを行うことができ、ウェーハ外周の平坦性を改善可能なものとなることが分かった。また、本発明の両面研磨方法は、4回対称パターンの発生を抑制可能であり、ウェーハ外周の平坦性を改善可能であることがわかった。
【0094】
このように、フック29でウェーハWの両面研磨装置用キャリア1に対する自転ができないものとし、かつインサート25を製品ウェーハW2とは別角度ノッチの異方性のある作り込み用ウェーハW1で予め削ることで4回対称が発生するのを抑制可能であり、ウェーハ外周の平坦性を改善可能であることがわかった。
【0095】
これは、実施例ではインサート25の板厚の薄い部分に対して0°ノッチ品の製品ウェーハW2の外周の板厚の厚い部分が被るため、研磨の際に当該部分にスラリの砥粒35が入りこみやすくなり、結果として製品ウェーハW2の外周の板厚の厚い部分を効率的に削り、全体的にフラットな製品ウェーハW2を得られるようになったものと考えられる。数値としては、角度別のESFQRで見た際に90°ごとのPVがそれぞれ10nm以下かつ対称性といったパターンがない製品ウェーハWを得られた。
【0096】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
1…両面研磨装置用キャリア、 3…上定盤、 5…下定盤、 7…上側研磨布、 9…下側研磨布、 11…サンギヤ、 13…インターナルギヤ、 17…スラリ供給口、 21…キャリア本体、 23…保持孔、 25…インサート、 27…捨て孔、 29…フック、 31…外周、 33…内周、 35…砥粒、 100…両面研磨装置、 101…両面研磨装置用キャリア、 102…キャリア本体、 103…インサート、 104…保持孔、 105…捨て孔、 111…サンギヤ、 112…インターナルギヤ、 120…両面研磨装置、 N…ノッチ、 N1…ノッチ、 N2…ノッチ、 P1…パターン形状、 P2…パターン形状、 W…ウェーハ、 W1…作り込み用ウェーハ、 W2…製品ウェーハ。