(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118045
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】光学ターゲット、光学ターゲットの識別方法および計測システム
(51)【国際特許分類】
G01B 11/245 20060101AFI20240823BHJP
【FI】
G01B11/245 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024217
(22)【出願日】2023-02-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、ムーンショット型農林水産研究開発事業委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】林 篤司
(72)【発明者】
【氏名】高地 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】根岸 美智哉
(72)【発明者】
【氏名】相馬 史幸
(72)【発明者】
【氏名】宇賀 優作
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA04
2F065AA53
2F065BB28
2F065DD03
2F065FF04
2F065FF05
2F065FF09
2F065JJ03
2F065JJ05
2F065JJ26
2F065MM07
2F065PP02
2F065QQ31
2F065QQ38
(57)【要約】
【課題】、熱画像で利用できる実用的なターゲットを提供する。
【解決手段】可視光帯域の照明が行われている環境下で利用される熱画像用の基準点ターゲット224であって、黒色と白色を含む色彩により構成された識別表示を備えた表示部材である白いプラスチック板253と、支持部材であるアルミ板251と、前記表示部材と前記支持部材の間に配置された熱絶縁部材であるコルク板252とを有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光帯域の照明が行われている環境下で利用される熱画像用のターゲットであって、
黒色と白色を含む色彩により表示が構成された表示部を有し、
前記表示部が熱絶縁されて保持されている光学ターゲット。
【請求項2】
前記表示部は、多孔質部材により支持されている請求項1に記載の光学ターゲット。
【請求項3】
前記多孔質部材は、熱伝導率が0.1W/(m・k)以下の部材である請求項2に記載の光学ターゲット。
【請求項4】
前記多孔質部材は、発泡プラスチックである請求項3に記載の光学ターゲット。
【請求項5】
前記多孔質部材は、コルクである請求項2に記載の光学ターゲット。
【請求項6】
前記多孔質部材は板状であり、
前記板状の多孔質部材の一方の面に接して前記表示部が配置され、
前記板状の多孔質部材の他方の面に接して支持部材が配置されている請求項2に記載の光学ターゲット。
【請求項7】
前記多孔質部材が前記表示部の一部を構成している請求項2に記載の光学ターゲット。
【請求項8】
可視光帯域の照明が行われている環境下で利用される熱画像用のターゲットであって、
可視光帯域における反射率に10倍以上の差がある2つの色を含む色彩により表示が構成された表示部を有し、
前記表示部が熱絶縁されて保持されている光学ターゲット。
【請求項9】
請求項1に記載の光学ターゲットに可視光帯域の照明が行われている環境下において、前記光学ターゲットの熱画像を撮影し、
前記熱画像において、前記表示部の識別を行う光学ターゲットの識別方法。
【請求項10】
前記光学ターゲットは、人工気象器の内部に配置され、
前記照明は、前記人工気象器内の照明である請求項9に記載の光学ターゲットの識別方法。
【請求項11】
請求項1に記載の光学ターゲットと、
前記光学ターゲットに可視光の照明を行う照明装置と、
前記光学ターゲットの熱画像を撮影する熱画像カメラと
を備える計測システム。
【請求項12】
前記光学ターゲットは、人工気象器の内部に配置され、
前記照明装置は、前記人工気象器内の植物の照明を行うための照明装置である請求項11に記載の計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視画像と熱画像の両方で識別可能なターゲットおよびそれに関連する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、可視画像と熱画像を用いて三次元モデルを作成する技術について記載されている。特許文献2には、熱画像カメラの校正に利用するターゲットについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-32600号公報
【特許文献2】特開2011-64636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2に記載されているように、熱画像中で基準点を提供するターゲットを画像認識するには、画像認識の対象を加熱し発熱させ、熱画像中で画像化させる必要があった。しかしそれには、発熱のための電源等が必要であり、またシステムの構築が煩雑であり、実用的ではなかった。
【0005】
このような背景において、本発明は、熱画像で利用できる実用的なターゲットの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、可視光帯域の照明が行われている環境下で利用される熱画像用のターゲットであって、黒色と白色を含む色彩により表示が構成された表示部を有し、前記表示部が熱絶縁されて保持されている光学ターゲットである。本発明において、前記表示部は、多孔質部材により支持されている態様が挙げられる。本発明において、前記多孔質部材は、熱伝導率が0.1W/(m・k)以下の部材である態様が挙げられる。
【0007】
本発明において、前記多孔質部材は、発泡プラスチックである態様が挙げられる。本発明において、前記多孔質部材は、コルクである態様が挙げられる。本発明において、前記多孔質部材は板状であり、前記板状の多孔質部材の一方の面に接して前記表示部が配置され、前記板状の多孔質部材の他方の面に接して支持部材が配置されている態様が挙げられる。本発明において、前記多孔質部材が前記表示部の一部を構成している態様が挙げられる。
【0008】
本発明は、可視光帯域の照明が行われている環境下で利用される熱画像用のターゲットであって、可視光帯域における反射率に10倍以上の差がある2つの色を含む色彩により表示が構成された表示部を有し、前記表示部が熱絶縁されて保持されている光学ターゲットである。
【0009】
本発明は、上述した発明の光学ターゲットに可視光帯域の照明が行われている環境下において、前記光学ターゲットの熱画像を撮影し、前記熱画像において、前記表示部の識別を行う光学ターゲットの識別方法である。この発明において、前記光学ターゲットは、人工気象器の内部に配置され、前記照明は、前記人工気象器内の照明である態様が挙げられる。
【0010】
本発明は、上述した発明の光学ターゲットと、前記光学ターゲットに可視光の照明を行う照明装置と、前記光学ターゲットの熱画像を撮影する熱画像カメラとを備える計測システムである。この発明において、前記光学ターゲットは、人工気象器の内部に配置され、前記照明装置は、前記人工気象器内の植物の照明を行うための照明装置である態様が挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱画像で利用できる実用的なターゲットが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】植物の3次元計測を行うシステムを示す図である。
【
図2】植物の3次元計測を行うシステムを示す図である。
【
図3】熱絶縁構造を有する基準点ターゲットの断面図(A)および(B)である。
【
図4】可視画像と熱画像を示す図面代用写真である。
【
図5】可視画像と熱画像を示す図面代用写真である。
【
図6】可視画像と熱画像を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.第1の実施形態
(構成)
図1には、三次元計測システム100が示されている。
図2は、
図1をX軸正の方向から見た図である。三次元計測システム100は、植物(この場合は稲)の三次元計測を行う。
【0014】
三次元計測システム100は、三次元計測の対象である植物(この場合は、
図2の稲102)が配置される計測空間110と、前記計測空間110を撮影し、特定の方向(X軸方向)に移動が可能な可視画像の撮影を行うRGBカメラ111,112および熱画像カメラ113,114と、RGBカメラ111,112および熱画像カメラ113,114により撮影され、前記移動の方向に沿って配置され、熱絶縁構造を有する複数の基準点ターゲット221~224により構成される第1の基準点群と、第1の基準点群と高さ位置と水平位置が異なり、前記計測空間110を水平方向で囲む位置に配置され、熱絶縁構造を有する複数の基準点ターゲット241~244により構成された第2の基準点群とを備える。
【0015】
三次元計測システム100は、人工気象器の内部で実現されている。計測空間110は、図示しない壁や天板により、外部から遮断され密閉されている。この計測空間110は、温度、湿度、照度、雰囲気が所定のものとなるように調整されている。人工気象器は公知の技術を利用して構築されている。
【0016】
三次元計測システム100は、土台(床面)上に配置されたポット(鉢)101に植えられた稲102(
図1では図視せず、
図2参照)の三次元写真計測を行う。稲102が植えられたポッド101は、2列に多数が配置されている。
【0017】
三次元計測システム100における三次元写真計測では、RGB可視画像に基づき作成した点群データと、熱画像に基づき作成した点群データを統合した三次元データを得る。可視画像に基づく三次元データと熱画像に基づく三次元データを統合する技術については、例えば特願2022―22258号に記載されている。
【0018】
上記稲のRGB可視画像は、RGBカメラ111,112により撮影され、熱画像は熱画像カメラ113,114により撮影される。RGBカメラ111,112は、RGB(赤、緑、青)のカラー画像を撮影するカメラであり、熱画像カメラ113,114は赤外線カメラである。この例において、熱画像カメラ113,114は、室温付近の熱画像を撮影する機能を有し、波長7μm~14μmの赤外線に感度を有するものが利用されている。
【0019】
各2台のカメラを用いるのは、死角を極力無くすためである。RGBカメラ111,112は、Y軸方向に並んで配置され、X軸方向に移動しながら下方を撮影する。同様に、熱画像カメラ113,114は、Y軸方向に並んで配置され、X軸方向に移動しながら下方を撮影する。RGBカメラ111,112と熱画像カメラ113,114は一体化されており、全体で一体となって移動する。RGBカメラと熱画像カメラの数は特に限定されず、各1台も可能である。なお、RGBカメラと熱画像カメラが各1台だと死角が発生する可能性が生じ、台数が多くなると、設備が大規模化し、コストが増大する。
【0020】
RGB画像と熱画像の撮影では、時間軸上で隣接する撮影画像の撮影範囲が一部重複するように撮影の間隔とカメラの移動速度が設定される。例えば、時刻T1において第1のRGB画像の撮影が行われ、次に時刻T2において次の第2のRGB画像の撮影が行われるとする。この場合、第1のRGB画像と第2のRGB画像が一部で重複するようにする。これは、熱画像も同じである。各カメラは、レール115に吊り下げられ、図示しないモータによって駆動され、一体となってX軸方向に移動する。
【0021】
移動しながらの撮影により、異なる多視点からの撮像画像が得られる。この多視点からの撮像画像を用いたSFM(Structure from Motion)により、稲の三次元写真計測が行われる。
【0022】
SFMを行うには、基準点を撮影し、カメラの標定を行う必要がある。
図1の例では、仮想基準点フレーム200を用いて、基準点を確保している。仮想基準点フレーム200は、RGBカメラ111,112と熱画像カメラ113,114の移動方向(X軸方向)に延長した長手形状の部材であるメインフレーム201を備える。メインフレーム201の両側に複数のポッド101が置かれている。すなわち、X軸上の2列に並んで配置された稲と稲の間にメインフレーム201が位置するように仮想基準点フレーム200が設置されている。
【0023】
メインフレーム201の両端には、水平方向で直交する長手形状のサブフレーム202,203が結合している。サブフレーム202の両端は2本の脚部204,205によって土台(人工気象器の床面)上で支持されている。サブフレーム203の両端は2本の脚部206,207によって土台上で支持されている。
【0024】
メインフレーム201には、上記カメラの移動方向に沿って、上方に延長する基準点ターゲット支持部材211~214が固定されている。基準点ターゲット支持部材211~214の上端には、それぞれ基準点ターゲット221~224が固定されている。
【0025】
基準点ターゲット221~224は、RGB画像(可視画像)および熱画像において識別(画像認識)が可能なコード化ターゲットである。コード化ターゲットは、個別に画像中から識別が可能であり、且つ、その中心が画像中から正確に特定できる図形コードが表示された標定用のターゲットである。表示パターンは、図示する形態に限定されず、他の形態のものを利用することもできる。
【0026】
基準点ターゲット221~224は、表示部分が熱絶縁されて支持された熱絶縁構造を有し、表示面から熱が他の部材(支持部材等)に逃げないように工夫されている。この例では、熱絶縁体(この例では、薄板状のコルク)によって、表示面を構成する部材が基台から熱絶縁されて配置されている。これにより、可視光帯域の照明がされている環境下において、基準点ターゲット221~224をRGB画像中および熱画像中で画像として認識することが可能となる。これは、基準点ターゲット241~244も同様である。
【0027】
図3(A)および(B)には、表示部分が熱絶縁されて支持されている構造の一例が記載されている。ここでは、代表して基準点ターゲット224の場合を説明するが、他の基準点ターゲットも同様の構造を有している。
【0028】
図3(A)には、可視光帯域の照明が行われている環境下で利用される熱画像用の基準点ターゲット224が示されている。基準点ターゲット224は、黒色と白色を含む色彩により構成された識別表示を備えた表示部材である白いプラスチック板253と、支持部材であるアルミ板251と、前記表示部材(符号253)と前記支持部材(符号251)の間に配置された熱絶縁部材であるコルク板252とを有する。
【0029】
図3(A)に示す基準点ターゲット224は、基準点ターゲット支持部材214の上端に固定された基台となる厚さ2mmの矩形形状のアルミ板251、アルミ板251の上面に接着剤により固定された厚さ5mmのコルク板(コルクシート)252、コルク板252の上面に接着剤により固定された厚さ1mmの白いプラスチック板253により構成されている。この場合、コルク板252を熱絶縁体として用いている。
【0030】
白いプラスチック板253の上面には、黒い塗料(インク)を用いて、コード化ターゲットのコード表示を構成するコードパターン254が印刷されている。プラスチック板253は、面に沿った方向への熱伝導を抑えるために、なるべく薄い方がよい。コルク板252の表面を白く塗装し、その上に黒い塗料(インク)を用いてコードパターン254を印刷してもよい。コルクの代わりに白い発泡スチロールを利用し、その表面に黒色のコードパターンを印刷してもよい。あるいは、白いプラスチック板の代わりに、紙や黒色をよく吸収する特殊な印刷シートに基準点ターゲットを印刷してコルク板252にはりつけてもよい。
【0031】
白いプラスチック板253を透明なプラスチック板とし、コルク板252を白色表面のもの、あるいはコルク板252の代わりに白い発泡スチロール板を採用してもよい。透明なプラスチック板は、可視光を透過するので、黒色のコードパターンと背景の温度差をさらに際立たせることができる。
【0032】
図3(B)は、別態様の基準点ターゲット224の詳細な構造の一例である。
図3(B)に示す基準点ターゲット224は、基準点ターゲット支持部材214の上端に固定された基台となる厚さ2mmの矩形形状のアルミ板251、アルミ板251の上面に接着剤により固定された厚さ2mmの白い発泡スチロール板255、白い発泡スチロール板255の上面に接着剤により固定され、コードパターンを構成する厚さ2mmの黒い発泡スチロール板256により構成されている。この場合、発泡スチロール板255,256を熱絶縁体として用いている。
【0033】
図3(B)の場合、背景が白い発泡スチロール板255であり、コードパターンが黒い発泡スチロール板256により構成される。すなわち、発泡スチロール板256は、コードパターン(識別表示)を構成するパターンにパターニングされている。この場合、白い発泡スチロール板255が識別表示部材の一部を構成する共に熱絶縁部材を兼ねた構造となる。
【0034】
黒い発泡スチロール板256は、素材自体にカーボン粉等の黒い顔料を混ぜ、黒く着色したものや、表面を黒く塗装したものが採用される。この例では、黒い発泡スチロール板256のパターンない部分において、背後の白い発泡スチロール板255が露出し、黒色と白色により構成されるコードパターンの表示が行われる。
【0035】
符号255の発泡スチロール板を黒色、符号256の発泡スチロール板を白色としてもよい。また、黒い発泡スチロール板256の代わりに黒鉛を含んだシート状の部材で識別パターンを形成してもよい。
【0036】
図3に示す構造により、基準点ターゲット221~224、および基準点ターゲット241~244をRGB画像上および熱画像上で識別できる。符号224以外の他の基準点ターゲットもコード化ターゲットの識別用のコードの表示内容が異なるだけで構造は同じである。
【0037】
熱絶縁体は、熱伝導率が0.1W/(m・k)以下、好ましくは0.05W/(m・k)以下のものが好ましい。熱絶縁体としては、無数の気泡を含んだ多孔質体(多孔質材料)が好ましい。多孔質体としては、発泡体、特に独立気泡体が好ましい。各種の発泡プラスチック(プラスチック発泡体)が知られており、それらを熱絶縁体として利用できる。発泡プラスチックとしては、発泡スチロール、ピオセラン、発泡ポリエチレン、発泡ポリプロピレン、発泡ポリウレタンが利用できる。多孔質構造を有した熱絶縁体としてコルクを利用することもできる。
【0038】
基準点ターゲット221~224が熱画像上で識別できるのは、以下の理由による。人工気象器の内部は、LED照明装置116により明るく照らされている。この照明は、植物の育成のための照明であり、自然光(太陽光)に近い波長分布のものが採用されている。
【0039】
この可視光帯域の照明の輻射エネルギーは、ターゲット表面の黒色部分に相対的に高い効率で吸収される。これは、黒の顔料として輻射効率(これは吸収効率でもある)の高いカーボン成分が高濃度に含まれるからである。特に可視光帯域では、黒は高い吸収率を示す(故に黒く見える)。
【0040】
他方において、白色部分では可視光帯域の吸収効率は相対的に低い(故に反射が多く白く見える)。ちなみに、赤外帯域以上の波長では、色による輻射熱の吸収効率(輻射率)の差はあまりない。
【0041】
このため、黒色部分はLED照明の輻射熱(可視光帯域の輻射エネルギー)を受けて温度が上昇するが、白色部分の温度の上昇がそれ程でもなく、両者に温度差が生じる。この傾向は、熱絶縁により顕在化する。すなわち、熱絶縁構造により、可視光の照射を受けた基準点ターゲットにおける上記の温度差が生じ易くなる。
【0042】
ところで、物体の温度が上昇すると、当該物体からの熱輻射が生じる。輻射熱は赤外帯域の電磁波として放射される。熱輻射のエネルギーは、温度の4乗に比例するので、極めて僅かな温度差であっても輻射熱のエネルギーには差が生じる。特に黒い顔料(炭素材料)は輻射効率が高いので、その傾向が大となる。
【0043】
このため、強い可視光帯域の照明を受けているターゲット表面の黒色の部分は相対的に高温となり相対的に強い赤外領域の輻射熱(赤外領域の電磁波)の放射を行い、白色の部分は相対的に低温でそこからの赤外領域の輻射熱の放射はそれ程でもない状態となる。この結果、ターゲット表面の黒色の部分と白色の部分の識別が熱画像上で可能となる。
【0044】
なお、熱絶縁を行わないと、熱画像中における基準点ターゲットの模様が明確でなく、その検出が困難であることが実験により確認されている。これは、基準点ターゲットを支持する基材に黒色部分の熱が逃げ、上記の温度差が生じる現象が抑制されるからであると考えられる。
【0045】
以下、この点に関する実証データを説明する。
図4は、熱絶縁構造有と熱絶縁構造無しのターゲットのRGB画像と熱画像である。熱絶縁の構造は、
図3(A)に示すもの採用している。
【0046】
図4は、ターゲットとして黒と白のチェッカー模様(市松模様)を表示したターゲットのRGB画像と熱画像である。このターゲットは、
図3(A)に示す熱絶縁構造を採用し、
図1の人工気象器内と同様の照明を行っている状態で撮影を行った。これは、後述する
図5と
図6の場合も同じである。
【0047】
図4から明らかなように、熱絶なしのターゲットは熱画像中で画像認識(画像化)が困難であるが、熱絶有りのターゲットは熱画像中で画像認識(画像化)が可能となる。
【0048】
図5は、カメラの内部標定要素を求めるキャリブレーションに利用されるキャリブレーションターゲットの可視画像と熱画像の図面代用写真である。
図6は、コード化ターゲットに上述した熱絶縁構造を採用した場合におけるRGB画像と熱画像の図面代用写真である。
【0049】
図4~
図6から明らかなように、熱絶縁構造を採用することで、可視光帯域の画像中で識別でき、且つ、熱画像中でも識別できるターゲット表示を実現できる。なお、
図6には、RGB画像では黒色のターゲット表示部分が熱画像において相対的に高温と表示され、RGB画像では白色のターゲット表示部分が熱画像において相対的に低温と表示される状態が明確に示されている。
【0050】
なお、上記の現象を確実に得るには、黒色と白色の組み合わせにより識別パターンを形成することが最善であるが、目安として可視光帯域の光の反射率の比(差)が10倍以上ある色の組み合わせにより、上記の効果が得られる。なお、可視光帯域の光の反射率が10倍以上ある実際の色の組み合わせは、黒に近い色と白に近い色の組み合わせとなる。
【0051】
ちなみに、近赤外光(780nm~2500nm)の反射率として日射反射率がある。これは、建築の分野等で使われる概念である。スノーホワイト(JIS規格の白)の日射反射率は80.5であり、ブラックの日射反射率は4.4である。なお、波長が1μm(1000nm)を超えると、色の違いによる反射率の差は小さくなるので、可視光帯域(400nm~700nm)では、反射率の差は日射反射率に比較して更に大きくなる。
【0052】
以上の基準点ターゲットに関する事柄は、後述する基準点ターゲット241~244においても同様である。
【0053】
基準点ターゲット221~224および基準点ターゲット241~244の間隔(隣接する基準点ターゲット間の離間距離)は、既知な値とされている。これにより、計測空間にスケール(実寸法)が与えられる。寸法が既知の間隔は、少なくとも2つの基準点ターゲット間におけるものでもよい。
【0054】
サブフレーム202の両端には、上方に延長する基準点ターゲット支持部材231,232が固定され、サブフレーム203の両端には、上方に延長する基準点ターゲット支持部材233,234が固定されている。基準点ターゲット支持部材231の上には、基準点ターゲット241が固定されている。基準点ターゲット支持部材232の上には、基準点ターゲット242が固定されている。基準点ターゲット支持部材233の上には、基準点ターゲット243が固定されている。基準点ターゲット支持部材234の上には、基準点ターゲット244が固定されている。
【0055】
(基準点ターゲットの位置について)
基準点ターゲット221~224は、RGBカメラ111,112と熱画像カメラ113,114の移動方向に沿って配置され、またその高さ位置は、ポッド101に植えられた稲(
図2の符号102)の最終的に成長した高さよりも高い位置が選択されている。
【0056】
基準点ターゲット221~224をカメラの移動方向に沿って配置することで、SFMにおける標定(撮影時のカメラの位置と姿勢を求める処理)が効率よく行える。また、基準点ターゲット221~224の高さ位置を上記の位置とすることで、成長した稲によって基準点ターゲット221~224の少なくとも一つが隠れ、撮影に支障が出ないようにしている。
【0057】
基準点ターゲット241~244は、計測対象(この場合は、
図2の稲102)が存在する計測空間110を水平方向で囲むように、該空間110の4隅に配置され、また基準点ターゲット221~224よりも高さが低い位置に配置されている。
【0058】
基準点ターゲット241~244には、以下の役割がある。
図1および
図2のシステムでは、RGB画像由来の点群データと、熱画像由来の点群データを統合した点群データを得る。
【0059】
この統合では、RGB画像由来の点群データと、熱画像由来の点群データのマッチング(位置合わせ)の精度が重要となる。一般に2つの点群データの位置合わせは、両者で共通する基準点を用いて行われる。基準点を用いないマッチングも理論上は可能であるが、演算の負担が大きく、高い精度は期待できないのが現状である。
【0060】
特に、RGB画像(可視画像)に基づく点群データと熱画像に基づく点群データは、質的に異なる対象が特徴点となるので、同じ範囲であっても点同士が必ずしも重複しない。すなわち、RGB画像から抽出された特徴点は、色や濃淡の境、形状のエッジ部分等から抽出されるが、熱画像から抽出された特徴点は、温度差のある部分から抽出される。両者は、抽出の対象が異なり、必ずしも対応しない。このため、基準点を用いないで、RGB画像に基づく点群データと熱画像に基づく点群データのマッチングを行った場合、誤差が生じ易くなる。
【0061】
図1のシステムでは、RGB画像に基づく点群データと熱画像に基づく点群データのマッチングに、一例に並んだ基準点ターゲット221~224と、4隅に配置され、基準点ターゲット221~224と高さが異なる基準点ターゲット241~244を用いる。基準点ターゲット221~224は、直線上に配置されているので、それだけでは、空間的に広がりのある点群同士のマッチングの精度の追求には、限界がある。
【0062】
そこで、基準点ターゲット221~224と上下位置が異なり、また水平方向において2次元的に分布した基準点ターゲット241~244を併用する。基準点ターゲット221~224と基準点ターゲット241~244を利用することで、計測対象の3次元空間内の3次元的(X軸方法、Y軸方向およびZ軸方向)に基準点ターゲットが分布した状態となり、RGB画像に基づく点群データと熱画像に基づく点群データのマッチングの精度を高めることができる。
【0063】
なお、基準点ターゲット241~244を基準点ターゲット221~224よりも高い位置に配置する構成も考えられるが、RGBカメラ111,112と熱画像カメラ113,114の画角(
図2参照)を考えると、基準点ターゲット241~244を基準点ターゲット221~224よりも低い位置に配置する構成が好ましい。
【0064】
また、標定におけるスケールは、基準点ターゲット241~244により与えられるので、位置が固定されているのであれば、基準点ターゲット221~224における隣接する基準点ターゲット間の離間距離の情報は未知でもよい(勿論、既知であってもよい)。
【0065】
(三次元計測について説明)
RGBカメラ111,112および熱画像カメラ113,114をX軸方向に移動させながら、多数の静止画(可視カラー画像(RGB画像)と熱画像)の撮影を行う。この際、隣接する画像が一部で重複するように撮影の時間間隔とカメラの移動速度を設定する。多数のRGB画像と熱画像を得たら、SFMの原理により、RGB画像に基づく点群データと熱画像に基づく点群データを得る。この際、基準点ターゲット221~224および基準点ターゲット241~244を用いた相互標定および絶対標定が行われる。
【0066】
基準点ターゲット221~224および基準点ターゲット241~244は、熱画像中でも画像認識できるので、熱画像に関してもSFMによる点群データの作成が可能である。
【0067】
絶対標定では、基準点ターゲット241~244の間隔の値が既知であることが利用され、相互標定で得られた相対三次元モデルにスケール(実寸法)が与えられる。
【0068】
RGB画像に基づく点群データと熱画像に基づく点群データを得たら、両点群データを統合する。この際、基準点ターゲット221~224および基準点ターゲット241~244が両点群データにおける共通の基準点として利用され、両点群データの対応関係の特定が行われる。ここで、基準点ターゲット221~224および基準点ターゲット241~244が計測空間100内に上下左右に3次元的に分布しているので、2つの点群データのマッチングを効率良くまた高精度に行うことができる。
【0069】
(優位性)
基準点ターゲット221~224および基準点ターゲット241~244は、熱絶縁構造を採用することで、基準点ターゲット毎の熱源を用意せずに、可視画像中と熱画像中で画像認識が可能である。このため、高い実用性が得られる。
【0070】
(その他)
識別表示を構成する色彩を3色以上で行っても良い。RGBカメラに加えて、またはそれに加えて、モノクロカメラ、特定の波長帯域を撮影するカメラ、マルチスペクトルカメラを利用することもできる。
【0071】
基準点の位置の測定にレーザースキャナやトータルステーションを用いることもできる。この場合、スケールの設定は不要であり、レーザースキャンやトータルステーションのデータから隣接する基準点間の離間距離の情報が得られる。
【符号の説明】
【0072】
100…計測システム、101…植物が植えられるポッド、110…計測対象の空間、111,112…RGBカメラ、113,114…熱画像カメラ、115…レール、116…LED照明装置、200…仮想基準点フレーム、201…メインフレーム、202,203…サブフレーム、204~207…脚部、211~214…基準点ターゲット支持部材、221~224…基準点ターゲット、241~244…基準点ターゲット、231~234…基準点ターゲット支持部材、251…アルミ板、252…コルク板、253…白いプラスチック板、254…印刷されたコードパターン、255…白い発泡スチロール板、256…黒い発泡スチロール板。