(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118181
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】磁壁移動型空間光変調素子および空間光変調器
(51)【国際特許分類】
G02F 1/09 20060101AFI20240823BHJP
【FI】
G02F1/09 503
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024465
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】青島 賢一
(72)【発明者】
【氏名】川那 真弓
(72)【発明者】
【氏名】船橋 信彦
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA27
2K102BA05
2K102BB05
2K102BC04
2K102BC09
2K102BD08
2K102CA21
2K102DA01
2K102DC08
2K102DD10
2K102EA02
2K102EA19
2K102EB11
(57)【要約】
【課題】光変調層にノッチを形成しても、駆動電流を小さくすることが可能な磁壁移動型空間光変調素子を提供する。
【解決手段】磁壁移動型空間光変調素子30は、入射した光の偏光の向きを変化させて出射する、矩形状の光変調層31と、光変調層31の両端部に平行に延びて配置されており、互いに保磁力が異なる第1磁化固定層22および第2磁化固定層23と、を備える。光変調層31は、第1磁化固定層22が配置されている側の端部および第2磁化固定層23が配置されている側の端部における幅方向の両側に、矩形状のノッチNが形成されている。磁壁移動型空間光変調素子30は、光変調層31の幅W
0に対するノッチNの幅W
Nの比が0.067以上0.16以下である。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射した光の偏光の向きを変化させて出射する、矩形状の光変調層と、前記光変調層の両端部に平行に延びて配置されており、互いに保磁力が異なる第1磁化固定層および第2磁化固定層と、を備え、
前記光変調層は、前記第1磁化固定層が配置されている側の端部および前記第2磁化固定層が配置されている側の端部における幅方向の両側に、矩形状のノッチが形成されており、
前記光変調層の幅に対する前記ノッチの幅の比が0.067以上0.16以下である、磁壁移動型空間光変調素子。
【請求項2】
前記第1磁化固定層が配置されている側の端部に形成されているノッチの角部と前記第1磁化固定層との間の距離および前記第2磁化固定層が配置されている側の端部に形成されているノッチの角部と前記第2磁化固定層との間の距離が、それぞれ200nm以上400nm以下である、請求項1に記載の磁壁移動型空間光変調素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁壁移動型空間光変調素子を備える、空間光変調器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁壁移動型空間光変調素子および空間光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
立体ホログラフィを実現するためには、実用上、30°以上の視域が求められる。そのため、表示装置である空間光変調器の画素ピッチを1μm以下にする必要がある。液晶、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)等の既存の空間光変調器の画素ピッチは、それぞれ5μm程度、3.5μm程度であり、これ以上微細化するのは困難である。
【0003】
一方、磁化の向きに応じた光の偏光面の回転(磁気光学効果)を明暗に割り当てる磁気光学式空間光変調器は、画素の書き換えにスピン注入や磁壁移動を用いることで、1μm以下の画素ピッチを実現することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
磁壁移動型空間光変調素子は、入射した光の偏光の向きを変化させて出射する、矩形状の光変調層と、光変調層の両端部に互いに平行に延びて配置されており、保磁力が異なる第1磁化固定層および第2磁化固定層を備え、光変調層に流す電流の向きにより、磁区の拡大および縮小を制御することができる(例えば、特許文献2参照)。磁壁移動型空間光変調素子は、スピン注入型空間光変調素子に比べて、消費電力が低くなることが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-141402号公報
【特許文献2】特開2018-206900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、磁壁移動型空間光変調素子では、外部磁界を印加することにより、光変調層の両端で互いに反平行な初期磁化方向を実現すると、第1磁化固定層からの漏れ磁界によって、光変調層の第1磁化固定層側の端部に初期磁区が形成される。また、磁壁電流駆動を実施すると、第2磁化固定層からの漏れ磁界によって、光変調層の第2磁化固定層側の端部に第2磁区が形成される。このため、磁壁移動型空間光変調素子の開口率は、初期磁区および第2磁区を含まない光変調領域で決定される。
【0007】
磁壁移動型空間光変調素子の開口率を大きくするために、例えば、光変調層の第1磁化固定層が配置されている側の端部および第2磁化固定層が配置されている側の端部における幅方向の両側に、矩形状のノッチを形成することが考えられるが、ノッチの幅が大きくなると、磁壁を移動させるための駆動電流が大きくなる。
【0008】
本発明は、光変調層にノッチを形成しても、駆動電流を小さくすることが可能な磁壁移動型空間光変調素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)入射した光の偏光の向きを変化させて出射する、矩形状の光変調層と、前記光変調層の両端部に平行に延びて配置されており、互いに保磁力が異なる第1磁化固定層および第2磁化固定層と、を備え、前記光変調層は、前記第1磁化固定層が配置されている側の端部および前記第2磁化固定層が配置されている側の端部における幅方向の両側に、矩形状のノッチが形成されており、前記光変調層の幅に対する前記ノッチの幅の比が0.067以上0.16以下である、磁壁移動型空間光変調素子。
【0010】
(2)前記第1磁化固定層が配置されている側の端部に形成されているノッチの角部と前記第1磁化固定層との間の距離および前記第2磁化固定層が配置されている側の端部に形成されているノッチの角部と前記第2磁化固定層との間の距離が、それぞれ200nm以上400nm以下である、(1)に記載の磁壁移動型空間光変調素子。
【0011】
(3)(1)または(2)に記載の磁壁移動型空間光変調素子を備える、空間光変調器。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光変調層にノッチを形成しても、駆動電流を小さくすることが可能な磁壁移動型空間光変調素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】従来の磁壁移動型空間光変調素子の構造の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図1の磁壁移動型空間光変調素子の動作を示す側面図である。
【
図3】
図1の磁壁移動型空間光変調素子の構造および動作を示す側面図である。
【
図4】従来の磁壁移動型空間光変調器の構造の一例を示す図である。
【
図5】本実施形態の磁壁移動型空間光変調器の構造の一例を示す上面図である。
【
図6】
図5の磁壁移動型空間光変調素子の部分拡大図である。
【
図7】実施例1の磁壁移動型空間光変調素子を示す上面図である。
【
図8】実施例2の磁壁移動型空間光変調素子の磁化状態を示す模式図である。
【
図9】比較例2の磁壁移動型空間光変調素子の磁化状態を示す模式図である。
【
図10】実施例2の磁壁移動型空間光変調素子の磁気光学差分像である。
【
図11】比較例2の磁壁移動型空間光変調素子の磁気光学差分像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明するが、本実施形態の磁壁移動型空間光変調器の基本的な構成(材料、構造、動作等)は、従来の磁壁移動型空間光変調器と同様であるため、まず、従来の磁壁移動型空間光変調器について説明する。
【0015】
[従来の磁壁移動型空間光変調器]
図1に、従来の磁壁移動型空間光変調素子の構造の一例を示す。
【0016】
磁壁移動型空間光変調素子10は、入射した光の偏光の向きを変化させて出射する、矩形状の光変調層11と、光変調層11の両端部に配置されており、保磁力が異なる第1磁化固定層12および第2磁化固定層13と、を有し、Si等の基板上に形成される。
【0017】
第1磁化固定層12および第2磁化固定層13は、それぞれCu、Al、Au、Ag、Ru、Ta、Cr等の金属およびその合金等の一般的な金属電極材料で構成される下部電極を最下層に有し、下部電極にパルス電流源が接続されている。
【0018】
磁壁移動型空間光変調素子10は、所定方向に延びている上面視矩形状の光変調層11の両端部に、互いに平行に延びている第1磁化固定層12および第2磁化固定層13が配置されており、光変調層11は、第1磁化固定層12および第2磁化固定層13が平行に延びている方向に対して、垂直に延びている。光変調層11の下面と、第1磁化固定層12および第2磁化固定層13の上面は、同一平面で接しており、第1磁化固定層12および第2磁化固定層13を介して、光変調層11にパルス電流を注入することができる。
【0019】
図2に、磁壁移動型空間光変調素子10の動作を示す。具体的には、第1磁化固定層12の保磁力(Hc1)および第2磁化固定層13の保磁力(Hc2)の間に、保磁力差(Hc2>Hc1)を設計し、外部磁界を印加することにより、光変調制御に必須となる光変調層11の両端の互いに反平行な初期磁化方向を実現する。まず、Hc2よりも大きい、下向きの外部磁界Hx1(Hx1>Hc2>Hc1)を印加すると、光変調層11、第1磁化固定層12および第2磁化固定層13の磁化が下向きになる(
図2(a)参照)。次に、Hc1よりも大きく、Hc2よりも小さい、上向きの外部磁界Hx2(Hc2>Hx2>Hc1)を印加すると、光変調層11および第1磁化固定層12の磁化の向きが上向きに変化する(
図2(b)参照)。このとき、第1磁化固定層12からの漏れ磁界Hlによって光変調層11の第1磁化固定層12側の端部に初期磁区11aが形成され、これにより、磁壁移動型空間光変調素子10の開口率が決定される(
図2(c)参照)。
【0020】
図3に、磁壁移動型空間光変調素子10の構造および動作を示す。磁壁移動型空間光変調素子10Aは、光変調層11と、第1磁化固定層12および第2磁化固定層13との間に、微細加工プロセスや磁気的な設計に応じて、非磁性金属層14が形成されている。
【0021】
第1磁化固定層12は、強磁性材料からなり、磁化方向が一方向に固定された層であり、保磁力が大きい。第1磁化固定層12は、光変調層11と同一方向の磁気異方性を有し、光変調層11に垂直磁気異方性を有する強磁性材料を用いる場合には、第1磁化固定層12も垂直磁気異方性を有する強磁性材料を用いる。光変調層11および第1磁化固定層12が、垂直磁気異方性を有する強磁性材料で構成されることが好ましい。
【0022】
第1磁化固定層12および第2磁化固定層13を構成する材料としては、磁化が垂直方向に固定された磁化固定層および磁化の方向が反転可能な磁化自由層で非磁性層が挟持されており、垂直磁気異方性を有するCPP-GMR(垂直通電型巨大磁気抵抗効果)素子、TMR素子等の磁化固定層を構成する公知の強磁性材料を用いることができる。具体的には、Fe、Co、Ni等の遷移金属およびそれらの遷移金属を含む合金を用いることができ、例えば、TbFe系合金、TbFeCo系合金、CoCr系合金、CoPt系合金、CoPd系合金、FePt系合金等が挙げられる。これにより、第1磁化固定層12の保磁力を大きくすることができ、第1磁化固定層12の磁化方向が外部磁場によって容易に変化しないように固定することが可能となる。
【0023】
また、第1磁化固定層12は、Fe層、Co層、Ni層等の遷移金属層と、Pt層、Pd層等の非磁性金属層と、が交互に積層されている多層膜であってもよく、例えば、Co/Pt、Fe/Pt、Co/Pd等の多層膜であってもよい。これらの強磁性材料を用いることにより、垂直磁気異方性が高く、保磁力が大きい第1磁化固定層12が得られる。
【0024】
ここで、上述の多層膜は、熱処理することにより保磁力が増大する特性を有する。そのため、上述の多層膜を熱処理して第1磁化固定層12の保磁力を増大させると、光変調領域11bとの保磁力差が大きくなる。
【0025】
非磁性金属層14は、光変調層11および第1磁化固定層12の間に配置され、光変調層11および第1磁化固定層12の間の磁界による相互作用を保つことができる。
【0026】
非磁性金属層14は、第1磁化固定層12上に積層される。非磁性金属層14は、後述する製造工程において、第1磁化固定層12に、エッチングのダメージが及ばないようにするために設けられる。非磁性金属層14としては、非磁性金属からなる薄膜を用いることができる。非磁性金属としては、例えば、Ta、Mo、Ru等が挙げられる。
【0027】
なお、非磁性金属層14上に、バッファ層が形成されていてもよい。バッファ層は、電流を流す必要があるため、薄膜化したときに、適度な導電性を有する材料で構成される。また、バッファ層は、後述する製造工程におけるエッチングのレートが遅く、且つSIMS(二次イオン質量分析)の検出感度が高い元素を含み、SIMS式エンドポイントモニターで見える材料で構成されることが望ましい。これにより、エッチングをバッファ層で確実に止めることが可能となり、第1磁化固定層12にダメージが及ぶのを回避できる。
【0028】
バッファ層を構成する材料としては、酸化物または窒化物を用いることができ、例えば、MgO、Al2O3、MgAl2O4、TiO2、ZnO、RuO2等が挙げられる。これら中でも、MgOが好ましい。MgO層は、適度な導電性を有し、エッチングのレートが遅い上、SIMS感度が高い。
【0029】
光変調層11は、第1磁化固定層12上または非磁性金属層14上に積層される。光変調層11を構成する材料としては、公知の強磁性材料を用いることができ、磁気光学効果(カー効果)の大きい材料を用いることが好ましい。磁気光学効果を大きくするためには、光変調層11は、垂直磁気異方性を有する磁性層であることが好ましい。光変調層11の具体例としては、Co/Pd多層膜等の遷移金属と、Pd、Pt、Cu等との多層膜、TbFeCo膜、GdFe膜、GdFeCo膜等の希土類金属と遷移金属との合金(RE-TM合金)膜等が挙げられる。これらの中でも、GdFe膜およびGdFeCo膜が好ましい。
【0030】
第1磁化固定層12と、直上に配置された光変調層11の一部との間には、非磁性金属層14を介して、磁界による相互作用が存在している。これにより、第1磁化固定層12の磁化方向と直上に配置された光変調層11の一部の磁化方向は同時反転する。
【0031】
第2磁化固定層13は、第1磁化固定層12で使用可能な材料の中から選択され、同様に、非磁性金属層14も、それぞれ第1磁化固定層12における非磁性金属層14で使用可能な材料の中から選択される。光変調層11に対しては、第1磁化固定層12の場合と同様に振る舞うように設計する。
【0032】
ここで、第1磁化固定層12および第2磁化固定層13は、光変調領域11bおよび磁壁11cを形成するために、互いの保磁力が異なるように設計される。このため、外部磁界を印加することにより、光変調制御に必須となる光変調層11の両端の互いに反平行な初期磁化方向を実現することが可能となっている。
【0033】
なお、光変調層11、第1磁化固定層12、第2磁化固定層13、各非磁性金属層14の各層間または下部電極との界面に、機能層を適宜形成してもよい。例えば、微細加工プロセス中に光変調層11が受けるダメージを防ぐために、光変調層11上に、Ta、RuまたはSiNを含むキャップ層を設けてもよい。キャップ層は、光変調層11の形成に用いられて酸化しやすいGdFeやTbFeCoが、磁壁移動型空間光変調素子10が完成した後に、大気中で酸化するのを防止する機能を有する。
【0034】
上述した通り、第1磁化固定層12と、直上の光変調層11の一部との間には、磁界による相互作用が存在しており、第2磁化固定層13と、直上の光変調層11の一部との間にも、同じく磁界による相互作用が存在しており、それぞれの磁化方向は、同時に反転する。そして、
図1および
図3に示すように、第1磁化固定層12の磁化方向が上向きになるように設計されている一方で、第2磁化固定層13の磁化方向が下向きになるように設計されている。
【0035】
光変調層11には、光変調層11の長手方向に対して直交する磁壁11cが形成されている。即ち、光変調層11の磁壁11cの両側に形成される磁区の磁化方向が互いに逆方向となっている。例えば、
図1および
図3に示すように、磁壁11cよりも第1磁化固定層12側の磁区の磁化方向が下向きとなっており、磁壁11cよりも第2磁化固定層13側の磁区の磁化方向が上向きとなっている。
【0036】
このように、磁壁11cを介して、磁化方向の向きが異なる磁区を光変調層11に形成することにより、磁壁移動型空間光変調素子10を空間光変調素子として機能させることができる。より詳しくは、例えば、磁壁移動型空間光変調素子10を反射型の空間光変調素子として構成した場合には、磁壁移動型空間光変調素子10の上方から光変調層11の上面に対して偏光の揃った光が入射すると、磁化方向の向きに応じて、反射光の偏光面の回転角度が異なったものとなる。そのため、これらの異なる偏光面の回転角度に応じた各反射光を、偏光フィルタを介して、それぞれ光の明暗に割り当てることにより、光を変調させることが可能となる。一方で、ガラス、サファイア等の透光性の材料で基板を構成することにより、磁壁移動型空間光変調素子10を透過型の空間光変調素子として機能させることも可能である。
【0037】
図4に、従来の磁壁移動型空間光変調器の構造の一例を示す。なお、
図4(a)および(b)は、それぞれ上面図および断面図である。
【0038】
磁壁移動型空間光変調器200は、複数の磁壁移動型空間光変調素子20を備える。また、磁壁移動型空間光変調素子20は、磁壁移動型空間光変調素子10と同様に、矩形状の光変調層21と、第1磁化固定層22と、第2磁化固定層23と、を有する。このとき、第1磁化固定層22および第2磁化固定層23を構成する材料は同一であるが、第1磁化固定層22が延びている方向の長さは、第2磁化固定層23が延びている方向の長さよりも長い。このため、第1磁化固定層22の保磁力は、第2磁化固定層23の保磁力よりも小さい。ここで、第1磁化固定層22の両側に配置されている磁壁移動型空間光変調素子20は、第1磁化固定層22を共有している。また、第1磁化固定層22が延びている方向に配置されている磁壁移動型空間光変調素子20は、第1磁化固定層22を共有している。
【0039】
また、第1磁化固定層22がグランド電極24と接し、第2磁化固定層23の一部が画素選択トランジスタ25のドレイン電極Dと接する。このとき、データ入力に応じて、画素選択トランジスタ25のゲート電極Gおよびソース選択トランジスタ26に電圧を印加することで、画素選択トランジスタ25のドレイン電極Dから、第2磁化固定層23を介して、光変調層21にパルス電流が注入される。このとき、グランド電極24の電圧を高くして、グランド電極24から、第1磁化固定層22を介して、光変調層21にパルス電流が注入されるように構成してもよい。
【0040】
なお、磁壁移動型空間光変調器200は、公知の方法により、製造することができる(例えば、特許文献2参照)。
【0041】
[本実施形態の磁壁移動型空間光変調器]
図5に、本実施形態の磁壁移動型空間光変調器の構造の一例を示す。
【0042】
磁壁移動型空間光変調器300は、磁壁移動型空間光変調器200と同様に、複数の磁壁移動型空間光変調素子30を備えるが、磁壁移動型空間光変調素子30が光変調層31を有する点で、磁壁移動型空間光変調器200とは異なる。具体的には、光変調層31は、
図6に示すように、第1磁化固定層22が配置されている側の端部および第2磁化固定層23が配置されている側の端部における幅方向の両側に、矩形状のノッチNが形成されている。このため、漏れ磁界がトラップされる。ここで、光変調層31の幅W
0に対するノッチNの幅W
Nの比は、0.067以上0.16以下であり、0.08以上0.11以下であることが好ましい。光変調層31の幅W
0に対するノッチNの幅W
Nの比が0.067未満であると、光変調層31に精度よくノッチNを形成するのが困難になり、0.16を超えると、磁壁を移動させるための駆動電流が大きくなる。なお、光変調層31およびノッチNの幅は、第1磁化固定層22および第2磁化固定層23が延びている方向のサイズである。
【0043】
光変調層31の幅W0は、特に限定されないが、例えば、300nm以上800nm以下である。
【0044】
第1磁化固定層22が配置されている側の端部に形成されているノッチNの角部Cと第1磁化固定層22との間の距離D1および第2磁化固定層23が配置されている側の端部に形成されているノッチNの角部Cと第2磁化固定層23との間の距離D2は、それぞれ200nm以上400nm以下であることが好ましく、250nm以上350nm以下であることがさらに好ましい。D1およびD2が200nm以上であると、磁壁移動型空間光変調素子30を製造しやすくなる。一方、D1およびD2が400nm以下であると、磁壁を移動させるための駆動電流が小さくなる。また、光変調層31の光変調領域を大きくするとともに、図中、左右方向の画素ピッチを微細化することができる。
【0045】
第1磁化固定層22と第2磁化固定層23との間の距離D3は、特に限定されないが、例えば、1.4μm以上1.7μm以下である。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨の範囲内で、上記の実施形態を適宜変更してもよい。例えば、第1磁化固定層の延びている方向の長さを長くする代わりに、第1磁化固定層の幅を広くして、第1磁化固定層の保磁力を小さくしてもよい。
【実施例0047】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0048】
[実施例1]
図7に示す磁壁移動型空間光変調素子40を作製した。ここで、光変調層41は、厚さ5nmのSi-N膜、厚さ10nmのGd-Fe膜および厚さ5nmのSi-N膜が積層されている。また、第1磁化固定層22および第2磁化固定層23は、厚さ0.3nmのCo膜および厚さ0.6nmのPd膜が交互に18層ずつ積層されている多層膜である。このとき、第1磁化固定層22および第2磁化固定層23の保磁力を、それぞれ4kOeおよび2kOeとした。また、第1磁化固定層22および第2磁化固定層23のサイズを、それぞれ0.8μm×0.12μmおよび600μm×0.2μmとした。一方、光変調層41の幅W
0およびノッチNの幅W
Nを、それぞれ450nmおよび50nmとした(
図6参照)。また、第1磁化固定層22が配置されている側の端部に形成されているノッチNの角部Cと第1磁化固定層22との間の距離D
1および第2磁化固定層23が配置されている側の端部に形成されているノッチNの角部Cと第2磁化固定層23との間の距離D
2を300nmとした。さらに、第1磁化固定層22と第2磁化固定層23との間の距離D
3を4.51μmとした。
【0049】
[比較例1-1]
ノッチNの幅WNを100nmとした以外は、実施例1と同様にして、磁壁移動型空間光変調素子を作製した。
【0050】
[比較例1-2]
ノッチNの幅WNを150nmとした以外は、実施例1と同様にして、磁壁移動型空間光変調素子を作製した。
【0051】
[比較例1-3]
光変調層41にノッチNを形成しなかった以外は、実施例1と同様にして、磁壁移動型空間光変調素子を作製した。
【0052】
[実施例2]
第1磁化固定層22と第2磁化固定層23との間の距離D3を1.51μmとした以外は、実施例1と同様にして、磁壁移動型空間光変調素子を作製した。
【0053】
[比較例2]
光変調層41にノッチNを形成しなかった以外は、実施例2と同様にして、磁壁移動型空間光変調素子を作製した。
【0054】
[駆動電流]
図7に示すように、磁壁移動型空間光変調素子40の第1磁化固定層22および第2磁化固定層23に接触電極を接続した後、初期磁区を形成し、第1磁化固定層22が配置されている側の端部に形成されているノッチNの角部Cを通過する、すなわち、300nmを超えて移動するのに必要な駆動電流(パルス電流)を評価した。このとき、パルス電流の幅を1μsとした。
【0055】
表1に、磁壁移動型空間光変調素子の駆動電流の測定結果を示す。
【0056】
【0057】
表1から、実施例1、2の磁壁移動型空間光変調素子は、駆動電流が小さいことがわかる。これに対して、比較例1-1、1-2の磁壁移動型空間光変調素子は、WN/W0が0.22、0.33であるため、駆動電流が大きい。また、比較例1-3、2の磁壁移動型空間光変調素子は、光変調層41にノッチNが形成されていないため、駆動電流が大きい。
【0058】
図8および
図9に、それぞれ実施例2および比較例2の磁壁移動型空間光変調素子の磁化状態を示す。なお、(a)、(b)、(c)は、それぞれ、初期磁区が形成されている状態(初期状態)、状態(a)で-1mAのパルス電流を注入した状態、状態(b)で1mAのパルス電流を注入した状態である。
【0059】
図10および
図11に、それぞれ実施例2および比較例2の磁壁移動型空間光変調素子の磁気光学差分像を示す。なお、(a)、(b)は、それぞれ、
図8および
図9における、状態(a)と状態(b)との間の磁気光学差分像、状態(b)と状態(c)との間の磁気光学差分像である。ここで、(a)における黒色部、(b)における白色部は、磁壁が移動した距離を表している。
【0060】
図10および
図11から、実施例2の磁壁移動型空間光変調素子は、比較例2の磁壁移動型空間光変調素子と比較して、磁壁が移動した距離が2倍程度大きいことがわかる。これは、実施例2の磁壁移動型空間光変調素子は、光変調層41にノッチNが形成されていることにより、初期磁区が小さくなったためである。