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特開2024-118238ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの製造方法、及びラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118238
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの製造方法、及びラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサン
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/38 20060101AFI20240823BHJP
【FI】
C08G77/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024573
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】金井 那矢
【テーマコード(参考)】
4J246
【Fターム(参考)】
4J246AA03
4J246AB01
4J246AB11
4J246BA010
4J246BA02X
4J246BB021
4J246BB02X
4J246CA24X
4J246CA53U
4J246CA53X
4J246CA56X
4J246CA65E
4J246CA65X
4J246CA760
4J246CA76U
4J246CA830
4J246CA83U
4J246EA14
4J246EA17
4J246FB212
4J246FE04
4J246FE24
4J246FE32
4J246FE33
4J246GA06
4J246HA22
4J246HA59
(57)【要約】
【課題】
本発明は、ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサン中に溶存する有機塩基の塩酸塩の量を低減するための簡便な方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
ヒドロキシ基、チオール基、及び活性水素を有するアミノ基から選ばれる基を末端に有する1価有機基を1分子中に1個以上有するオルガノポリシロキサン(A)と、ラジカル重合性基含有カルボン酸クロライド(B)とを、有機塩基(C)の存在下で反応させて、ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンを得る反応工程を含む、前記ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの製造方法であって、
前記反応工程で生成した前記有機塩基(C)の塩酸塩を濾過により除去して粗生成物を得る濾過工程、及び、
前記粗生成物に含まれる不揮発性成分100質量部に対して0.5~20質量部となる量のシリカゲルを添加し、撹拌した後に加圧濾過を行う精製工程、
を含むことを特徴とする、前記製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシ基、チオール基、及び活性水素を有するアミノ基から選ばれる基を末端に有する1価有機基を1分子中に1個以上有するオルガノポリシロキサン(A)と、ラジカル重合性基含有カルボン酸クロライド(B)とを、有機塩基(C)の存在下で反応させて、ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンを得る反応工程を含む、前記ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの製造方法であって、
前記反応工程で生成した前記有機塩基(C)の塩酸塩を濾過により除去して粗生成物を得る濾過工程、及び、
前記粗生成物に含まれる不揮発性成分100質量部に対して0.5~20質量部となる量のシリカゲルを添加し、撹拌した後に加圧濾過を行う精製工程、
を含むことを特徴とする、前記製造方法。
【請求項2】
前記オルガノポリシロキサン(A)が下記式(1)で表される、請求項1に記載のラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの製造方法。
【化1】
[式(1)中、Rは、互いに独立に、炭素数1~10の1価炭化水素基であり、a、b、c、及びdは、独立に0~500の整数であり、eは0~10の整数であり、ただし0≦a+b+(c+d)×e≦500であり、
は、互いに独立に、前記Rで定義される基、または下記式(2)もしくは(3)で示される基であり、
【化2】
(式(2)中、Rは、炭素数3~20の2価炭化水素基であり、Rは、水素原子又は炭素数1~6の1価炭化水素基であり、Lは酸素原子又は硫黄原子であり、x、y、及びzは、独立に0~50の整数であり、ただし0≦x+y+z≦50であり、及び、上記括弧内に示されるオキシアルキレン単位は、それぞれブロック構造を有していてもランダムに結合していてもよい)
【化3】
(式(3)中、Rは、水素原子又は炭素数1~6の1価炭化水素基であり、R、x、y、及びzは上述の通りであり、上記括弧内に示されるオキシアルキレン単位は、それぞれブロック構造を有していてもランダムに結合していてもよい)
ただし、前記Rの1つ以上は、式(2)で示されRが水素原子である基、又は、式(3)で示されRの少なくとも一つが水素原子である基である。なお、上記式(1)において括弧内に示される各シロキサン単位はランダムに結合していてもよい。]
【請求項3】
前記(B)成分が、アクリル酸クロライド及びメタクリル酸クロライドから選ばれる1以上である、請求項1記載のラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項4】
前記(C)成分が、有機アミンである、請求項1記載のラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項5】
前記精製工程にて得たラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの、25℃、3カ月間経過後における前記有機塩基(C)の塩酸塩の析出量が前記オルガノポリシロキサンの質量に対して1ppm以下である、請求項1記載のラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの製造方法。
【請求項6】
下記式(4)で表されるラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンであって、
【化4】
[式(4)中、R、a、b、c、d、及びeは、前記と同じであり、
は、互いに独立に、前記Rで示される基、又は下記式(5)で示される基であり、
【化5】
(式(5)中、R、x、y、及びzは、前記と同じであり、Rはラジカル重合性基 を含む1価有機基であり、上記括弧内に示されるオキシアルキレン単位は、それぞれブ ロック構造を有していてもランダムに結合していてもよい)
ただし、前記Rの1つ以上は前記式(5)で示される基であり、前記式(4)において 括弧内に示される各シロキサン単位はランダムに結合していてもよい。]
前記ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンをトルエンで5倍に希釈し、さらに、前記ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの質量の2倍量の純水を添加して2時間振盪して得られる抽出水の電気伝導率が8mS/m以下であることを特徴とする、前記ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサン。
【請求項7】
前記ラジカル重合性基が(メタ)アクリロイル基を有する基である、請求項6記載のラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサン。
【請求項8】
前記ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンに含有される塩化物イオン量が2ppm以下である、請求項6記載のラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサン。
【請求項9】
微量塩素分析装置を用いて酸化分解-電量滴定により測定される、前記ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンに含まれる塩素量が25ppm以下である、請求項6記載のラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサン。
【請求項10】
微量窒素分析装置を用いて酸化分解-化学発光法により測定される、前記ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンに含まれる窒素量が25ppm以下である、請求項6記載のラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの製造方法、及びラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンに関する。
【背景技術】
【0002】
ラジカル重合性を示す(メタ)アクリロイル基をオルガノポリシロキサンに化学的に結合させた(メタ)アクリル変性シロキサンは、熱や光によってシロキサンを化学的に硬化物中に固定化できるため、ポリシロキサンの特性を持続させることが可能である。
しかしながら、(メタ)アクリル変性シロキサンは、他のラジカル重合性モノマーや塗料等との相溶性に乏しく、他の硬化性成分と反応しにくい問題、或いは、消泡性や分散性の低下を招く場合があった。
【0003】
特許文献1及び2には、他のラジカル重合性モノマーや塗料等との相溶性に優れたポリエーテル基と、熱や光による硬化性を示す(メタ)アクリロイル基とを共に有するオルガノポリシロキサン化合物を含む組成物が記載されている。
【0004】
オルガノポリシロキサンと(メタ)アクリロイル基の間にリンカーとしてポリエーテルブロックを導入した構造を有する化合物は、一般的に、トリエチルアミンのような有機塩基を触媒兼酸捕捉剤として使用して、末端に反応性水酸基を有するポリエーテル変性オルガノポリシロキサンと、(メタ)アクリル酸クロライドを反応させて合成する。
【0005】
また、ポリエーテルを含まない化合物の合成においても、ケイ素原子に直接結合しないヒドロキシ基やチオール基、または活性水素を有するアミンと、ラジカル重合性基を有する酸クロライドを、有機塩基を用いて反応させる方法が公知である。
【0006】
特許文献2において、合成反応時に副生する有機塩(トリエチルアミン塩酸塩)の除去方法として、濾過工程のみが例示されている。しかしながら、この方法では、シリコーン成分中に溶存する有機塩を除去できず、15~30℃の温度下では、2ヶ月以内に有機塩が析出するという問題があった。
【0007】
特許文献3では、ヒドロキシ基と(メタ)アクリル酸クロライドとの反応終了後に、得られた反応物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製する方法が例示されている。しかしながら、この方法では、大量のシリカゲルを必要とする問題があった。
【0008】
特許文献4では、トリエチルアミン塩酸塩を濾過した後、食塩水で洗浄する方法が例示されている。しかしながら、この方法では、特にオルガノポリシロキサンと(メタ)アクリロイル基とのスペーサーにエーテル結合を有する(メタ)アクリル変性シロキサンでは、水層と有機層の分離性が悪く、洗浄工程が長時間を要したり、目的物の収率が低下したりする問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004-149592号公報
【特許文献2】特開2009-263527号公報
【特許文献3】特開2006-315961号公報
【特許文献4】特開2002-88119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサン中に溶存する有機塩基の塩酸塩の量を低減するための簡便な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンに溶存する有機塩基の塩酸塩が、シリカゲルと撹拌混合した後に濾過することで容易に除去できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0012】
従って、本発明は、下記に示すラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの製造方法を提供する。
ヒドロキシ基、チオール基、及び活性水素を有するアミノ基から選ばれる基を末端に有する1価有機基を1分子中に1個以上有するオルガノポリシロキサン(A)と、ラジカル重合性基含有カルボン酸クロライド(B)とを、有機塩基(C)の存在下で反応させて、ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンを得る反応工程を含む、前記ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの製造方法であって、
前記反応工程で生成した前記有機塩基(C)の塩酸塩を濾過により除去して粗生成物を得る濾過工程、及び、
前記粗生成物に含まれる不揮発性成分100質量部に対して0.5~20質量部となる量のシリカゲルを添加し、撹拌した後に加圧濾過を行う精製工程、
を含むことを特徴とする、前記製造方法。
【0013】
本発明は下記[1]~[4]から選ばれる少なくとも一の構成要件をさらに有する、上記製造方法を提供する。
[1]前記オルガノポリシロキサン(A)が下記式(1)で表される、上記ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの製造方法。
【化1】
[式(1)中、Rは、互いに独立に、炭素数1~10の1価炭化水素基であり、a、b、c、及びdは、独立に0~500の整数であり、eは0~10の整数であり、ただし0≦a+b+(c+d)×e≦500であり、
は、互いに独立に、前記Rで定義される基、または下記式(2)もしくは(3)で示される基であり、
【化2】
(式(2)中、Rは、炭素数3~20の2価炭化水素基であり、Rは、水素原子又は炭素数1~6の1価炭化水素基であり、Lは酸素原子又は硫黄原子である。x、y、及びzは、独立に0~50の整数であり、ただし0≦x+y+z≦50であり、上記括弧内に示されるオキシアルキレン単位は、それぞれブロック構造を有していてもランダムに結合していてもよい)
【化3】
(式(3)中、Rは、水素原子又は炭素数1~6の1価炭化水素基である。R、x、y、及びzは、前記と同じであり、上記括弧内に示されるオキシアルキレン単位は、それぞれブロック構造を有していてもランダムに結合していてもよい)
ただし、前記Rの1つ以上は、式(2)で示されRが水素原子である基、又は、式(3)で示されRの少なくとも一つが水素原子である基である。なお、上記式(1)において括弧内に示される各シロキサン単位はランダムに結合していてもよい。]
[2]前記(B)成分が、アクリル酸クロライド及びメタクリル酸クロライドから選ばれる1以上である、上記ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの製造方法。
[3]前記(C)成分が、有機アミンである、上記ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの製造方法。
[4]前記精製工程にて得たラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの、25℃、3カ月間経過後における前記有機塩基(C)の塩酸塩の析出量が前記オルガノポリシロキサンの質量に対して1ppm以下である、上記ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの製造方法。
【0014】
また本発明は、下記式(4)で表されるラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンであって、
【化4】
[式(4)中、R、a、b、c、d、及びeは、前記と同じであり、
は、互いに独立に、前記Rで示される基、又は下記式(5)で示される基であり、
【化5】
(式(5)中、R、x、y、及びzは、前記と同じであり、Rはラジカル重合性基 を含む1価有機基であり、上記括弧内に示されるオキシアルキレン単位は、それぞれブ ロック構造を有していてもランダムに結合していてもよい)
ただし、前記Rの1つ以上は前記式(5)で示される基であり、前記式(4)において 括弧内に示される各シロキサン単位はランダムに結合していてもよい。]
前記ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンをトルエンで5倍に希釈し、さらに、前記ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの質量の2倍量の純水を添加して2時間振盪して得られる抽出水の電気伝導率が8mS/m以下であることを特徴とする、前記ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンを提供する。
【0015】
本発明は下記[1]~[4]から選ばれる少なくとも一の構成要件をさらに有する上記ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンを提供する。
[1]前記ラジカル重合性基が(メタ)アクリロイル基を有する基である、上記ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサン。
[2]前記ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンに含有される塩化物イオン量が2ppm以下である、上記ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサン。
[3]微量塩素分析装置を用いて酸化分解-電量滴定により測定される、前記ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンに含まれる塩素量が25ppm以下である、上記ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサン。
[4]微量窒素分析装置を用いて酸化分解-化学発光法により測定される、前記ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンに含まれる窒素量が25ppm以下である、上記ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサン。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、濾過のみでは除去困難なラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサン中の有機塩基の塩酸塩の溶存量を低減できる。これにより、当該有機塩が長期間析出しないラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンを、高い製造効率で提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の製造方法を詳細に説明する。
【0018】
本発明はラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの製造方法であり、特には(メタ)アクリロイル基を有するオルガノポリシロキサン(以下、(メタ)アクリル変性シロキサン化合物ともいう)の製造方法である。該オルガノポリシロキサンは、オルガノポリシロキサンの末端、もしくは側鎖の1つ以上にラジカル重合性基を有する。
【0019】
本発明は、より詳細には、下記3つの工程を含むことを特徴とするラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの製造方法である。
(1)ヒドロキシ基、チオール基、及び活性水素を持つアミノ基から選ばれる基を末端に有する1価有機基を1分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサン(A)と、ラジカル重合性基を含有するカルボン酸クロライド(B)とを、有機塩基(C)の存在下で反応させて、ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンを得る反応工程、
(2)前記反応工程で生成した前記有機塩基の塩酸塩を、濾過により除去して粗生成物を得る濾過工程、
及び、
(3)前記粗生成物に含まれる不揮発性成分100質量部に対して0.5~10質量部のシリカゲルを添加、撹拌後に加圧濾過を行う精製工程。
【0020】
以下、各工程についてより詳述する。
[反応工程]
本発明のラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの製造方法は、まず、ヒドロキシ基、チオール基、及び活性水素を有するアミノ基から選ばれる基を末端に有する1価有機基(以下、反応性有機基と称する)を、1分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサン(A)と、ラジカル重合性基を含有するカルボン酸クロライド(B)とを、有機塩基(C)の存在下で反応させて、ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンを得る反応工程を有することを特徴とする。
【0021】
[オルガノポリシロキサン(A)]
(A)成分は、上記の反応性有機基を1分子中に1個以上含有するオルガノポリシロキサンである。該オルガノポリシロキサンは、後述するラジカル重合性基を含有するカルボン酸クロライド(B)と反応し、それぞれエステル結合、チオエステル結合、もしくはアミド結合を形成してラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンを与える。
【0022】
該オルガノポリシロキサンは上記反応性有機基を1分子中に1個以上有することが特徴であり、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~3個有するのがよい。上記反応性有機基の中では、合成のしやすさなどの観点からヒドロキシ基、または活性水素を持つアミノ基を有する基が好ましい。
【0023】
上記(A)成分としては、下記式(1)で示されるオルガノポリシロキサンが好ましい。
【化6】
[式(1)中、Rは、互いに独立に、炭素数1~10の1価炭化水素基であり、a、b、c、及びdは、独立に0~500の整数であり、eは0~10の整数であり、ただし0≦a+b+(c+d)×e≦500であり、
は、互いに独立に、上記Rで定義される基、または下記式(2)もしくは(3)で示される基であり、
【化7】
(式(2)中、Rは、炭素数3~20の2価炭化水素基であり、Rは、水素原子又は炭素数1~6の1価炭化水素基であり、Lは酸素原子又は硫黄原子であり、x、y、及びzは、独立に0~50の整数であり、ただし0≦x+y+z≦50であり、及び、上記括弧内に示されるオキシアルキレン単位は、それぞれブロック構造を有していてもランダムに結合していてもよい)
【化8】
(式(3)中、Rは、水素原子又は炭素数1~6の1価炭化水素基であり、R、x、y、及びzは上述の通りであり、上記括弧内に示されるオキシアルキレン単位は、それぞれブロック構造を有していてもランダムに結合していてもよい)
ただし、上記Rの1つ以上は、式(2)で示されRが水素原子である基、又は、式(3)で示されRの少なくとも一つが水素原子である基である。なお、上記式(1)において括弧内に示される各シロキサン単位はランダムに結合していてもよい。]
【0024】
上記式(1)中、Rは、互いに独立に、炭素数1~10の1価炭化水素基である。上記1価炭化水素基としては、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及び炭素数7~10のアラルキル基が挙げられる。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。アリール基の例としては、フェニル基、トリル基などが挙げられる。また、アラルキル基の例としては、ベンジル基、2-フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基などが挙げられる。この中でも原料の入手しやすさ、製造のしやすさ、シロキサンの特性の発現のしやすさなどからアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0025】
aは0~500の整数であり、好ましくは5~200の整数であり、より好ましくは10~150の整数である。bは、0~500の整数であり、好ましくは0~100の整数であり、より好ましくは0~20の整数であり、最も好ましくは0である。cは0~500の整数であり、好ましくは0~100の整数であり、より好ましくは0~20の整数であり、最も好ましくは0である。dは0~500の整数であり、好ましくは5~200の整数であり、より好ましくは10~150の整数である。a、b、c及びdの各々が上記上限値を超えると、得られるラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの反応性が悪くなり、また非シロキサンモノマー等との相溶性が悪くなる。さらには、化合物が高粘度となりハンドリング性が悪くなるおそれがあるため好ましくない。eは0~10の整数であり、好ましくは0~5の整数であり、さらに好ましくは0である。eが上記上限値を超えると粘性が高くなるためハンドリング性に劣り、またカルボン酸クロライドとの反応性も低下するおそれがある。
【0026】
なお、0≦a+b+(c+d)×e≦500であり、好ましくは5≦a+b+(c+d)×e≦400であり、より好ましくは15≦a+b+(c+d)×e≦200、さらに好ましくは20≦a+b+(c+d)×e≦100である。a+b+(c+d)×eの値が上記上限値を超えると、化合物の粘度が高くなりハンドリング性が低下するおそれがある。
【0027】
は、互いに独立に、上記R、または下記式(2)もしくは(3)で示される基である。
【化9】
式(2)中、Rは、炭素数3~20の2価炭化水素基であり、Rは、水素原子又は炭素数1~6の1価炭化水素基であり、Lは酸素原子又は硫黄原子である。x、y、及びzは、互いに独立に、0~50の整数であり、ただし0≦x+y+z≦50であり、上記括弧内に示されるオキシアルキレン単位は、それぞれブロック構造を有していてもランダムに結合していてもよい。
【化10】
式(3)中、Rは、水素原子又は炭素数1~6の1価炭化水素基である。R、x、y、及びzは、上述の通りであり、上記括弧内に示されるオキシアルキレン単位は、それぞれブロック構造を有していてもランダムに結合していてもよい。
【0028】
上記式(1)において、Rの1つ以上、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~3個が、式(2)で示されRが水素原子である基、又は、式(3)で示されRの少なくとも一つが水素原子である基である。
【0029】
なお、上記式(1)において括弧内に示される各シロキサン単位はランダムに結合していてもよい。
【0030】
上記式(2)又は(3)中、Rは、炭素数3~20、好ましくは3~10の2価炭化水素基である。該2価炭化水素基は、直鎖状でも分岐鎖状でも良く、分子鎖途中にシクロアルキレン基やフェニレン基などの環状構造を有していてもよい。好ましくはトリメチレン基及びメチルプロピレン基である。
【0031】
上記式(2)中、Rは、水素原子又は炭素数1~6の1価炭化水素基である。炭素数1~6の1価炭化水素基としては、メチル基及びエチル基が好ましく、Rはより好ましくは水素原子である。
【0032】
上記式(2)中、Lは酸素原子又は硫黄原子であり、好ましくは酸素原子である。
【0033】
上記式(3)中、Rは、互いに独立に、水素原子又は炭素数1~6の1価炭化水素基であり、炭素数1~6の1価炭化水素基としては、メチル基及びエチル基が好ましい。Rの少なくとも1つが、水素原子であることが好ましい。
【0034】
上記式(2)または式(3)中、x、y、及びzは、互いに独立に、0~50の整数であり、好ましくは0~30の整数である。ただし、0≦x+y+z≦50であり、好ましくは0≦x+y+z≦30である。さらに、上記式(3)においては、0≦x+y+z≦10がより好ましく、x+y+z=0がさらに好ましい。
【0035】
上記x、y、及びzの値は、シロキサン鎖長などの他の成分との比率により、生成物のHLB値を変えるために上記範囲内で任意に選択できる。x、y、及びzの各々が上記上限値を超えたり、x+y+zが上記上限値を超えたりする場合は、該化合物の粘性が高くなるため、ハンドリング性に劣り、またカルボン酸クロライドとの反応性も低下するおそれがある。
【0036】
[(B)ラジカル重合性基含有カルボン酸クロライド]
本発明の(B)ラジカル重合性基含有カルボン酸クロライドは、上記(A)成分と反応して、ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンを与える。例えば、アクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライド、3-ブテン酸クロライド、4-ビニル安息香酸クロライド、クロトン酸クロライド、イソクロトン酸クロライド、ケイ皮酸クロライドなどが挙げられ、好ましくは、アクリル酸クロライドまたはメタクリル酸クロライドである。
【0037】
ラジカル重合性基含有カルボン酸クロライドの量は、上記(A)成分のオルガノポリシロキサンが有する反応性有機基の総量(反応性基のモル数(総数))に対する比で、1.0~5.0等量が好ましく、より好ましくは1.0~1.5等量であり、さらに好ましくは1.0~1.05等量となる量がよい。上記下限値未満では、原料オルガノポリシロキサンの反応性有機基が、生成物に残存するため、得られる化合物の純度が低下する。また上記上限値を超えると、反応後に残存する未反応のカルボン酸クロライドが多量になるため、後述する後処理工程でのクエンチ操作の試薬量が多量となり、時間も要するため好ましくない。
【0038】
[(C)有機塩基]
(C)有機塩基は、上記(A)反応性有機基含有オルガノポリシロキサンを上記(B)ラジカル重合性基含有カルボン酸クロライドと反応させるための触媒として機能する。有機塩基は、反応副生物として生成する塩化水素を捕捉するための酸捕捉剤としても機能する。有機塩基は、後述する(D)有機溶媒に可溶であることが好ましい。また、反応後に系中から容易に除去することができることが好ましい。そのために、大気圧(1013hPa)下での沸点が150℃以下であることが好ましく、60~120℃であることがより好ましい。
【0039】
上記(C)有機塩基は塩酸を捕捉して有機塩基塩酸塩を生じる。該有機塩基塩酸塩は、上記(A)及び(B)成分や、目的物であるラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサン、さらには後述する(D)有機溶媒に対して難溶性であることが好ましい。難溶性であれば、濾過により有機塩基塩酸塩の大部分を容易に除去できる。
【0040】
有機塩基としては、有機アミンが上記要件を満たすため好ましい。例えば、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリ-n-ブチルアミンなどのアルキルアミン、ジアザビシクロウンデセン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンなどの脂環式アミン、及びピリジン等の芳香族複素環式アミンが挙げられる。中でも、トリエチルアミン、ピリジンが特に好ましい。
【0041】
(C)有機塩基の量は、上記(A)オルガノポリシロキサンが有する反応性有機基の総量に対してモル比として1.0~5.0等量が好ましく、さらに好ましくは1.1~1.5等量である。有機塩基の量が上記下限値未満では、系内で生成する塩酸を捕捉しきることができず、反応系内が酸性となり、シロキサン結合の切断が起こるおそれがある。また上記上限値を超えると、反応後に未反応の有機塩基が過剰に残存し、有機塩基を除去する工程に時間を要するため好ましくない。
【0042】
[(D)有機溶媒]
本発明の反応工程は、無溶剤下で行っても良いが、該反応は著しい発熱を伴うため、上記(A)~(C)成分に加えて、(D)有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒を用いることにより、発熱を抑制することができる。有機溶媒は、上記(A)成分が可溶であれば良く、かつ本発明の反応に対して不活性であればよい。
【0043】
有機溶媒の例としては、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタンなどの脂肪族炭化水素、クロロホルム、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類などが挙げられ、中でもトルエン、キシレン、酢酸ブチル、ジイソプロピルエーテルが好ましい。メタノール、エタノール、及びプロパノール等のアルコール類や、ピリジンなどのアミン系溶媒は酸クロライドと反応するため好ましくない。
【0044】
(D)有機溶媒の添加量は、上記(A)成分100質量部に対して、10~200質量部が好ましく、30~150質量部がより好ましく、50~100質量部がさらに好ましい。
【0045】
[酸化防止剤または還元剤]
上記(A)オルガノポリシロキサンを(B)カルボン酸クロライドと反応させる際に、酸化防止剤または還元剤の存在下で行うことができる。酸化防止剤及び還元剤は、上記(A)反応性有機基含有オルガノポリシロキサンと、(D)任意の有機溶媒、及び(C)有機塩基との混合液に可溶であればよい。
【0046】
酸化防止剤または還元剤としては、例えば、4,4’-ブチリデンビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、2,5-ジ-t-アミル-ハイドロキノン、2,5-ジ-t-ブチル-ハイドロキノン、2-t-ブチル-ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,t-ブチル-ヒドロキシアニソールなどのフェノール化合物、L-アスコルビン酸、エリソルビン酸、クエン酸、トコフェロール、カテコール、フェノチアジン、及び2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルなどが挙げられる。これらの中でも、分子中のヒドロキシル基への酸クロライドの反応性が低い2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールが特に好ましい。酸化防止剤および還元剤は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0047】
酸化防止剤または還元剤の量は、(A)オルガノポリシロキサン100質量部に対して0.05質量部以上5質量部以下であり、より好ましくは0.07質量部以上3質量部以下であり、さらに好ましくは0.1質量部以上2質量部以下である。酸化防止剤または還元剤を当該範囲となる量で使用することにより、本発明の反応中に生じ得る着色を抑制することができる。上記下限値未満では着色を抑制する効果が低下する。また上記上限値超ではラジカル重合性基含有カルボン酸クロライドとの副反応が多数生じ、不純物量が増加するおそれがある。
【0048】
[反応温度]
上記(B)カルボン酸クロライドと上記(A)オルガノポリシロキサンの反応温度は、特に制限されるものでない。上記(D)有機溶媒を使用する場合には、その沸点以下であれば良い。好ましくは0~120℃であり、さらに好ましくは0~80℃である。反応温度が上記上限値超えでは、オルガノポリシロキサンに導入されたラジカル重合性基が、反応中に熱重合を起こすおそれがある。反応温度が上記下限値未満では反応性が低下して非効率である。
【0049】
[後処理工程]
本発明の反応工程の後に、未反応のカルボン酸クロライドのクエンチ操作を行う後処理工程を追加することができる。クエンチ操作を行うことで、生成物内に未反応カルボン酸クロライドの残留を抑えられるため好ましい。クエンチ操作は任意の方法で行うことができるが、メタノール、エタノール等の低級アルコール、または水等を添加して行う方法が、クエンチ操作により生じる副生物の除去が容易であるため好ましい。
【0050】
[濾過工程]
本発明の濾過工程は、上記反応工程で生成した上記有機塩基塩酸塩を、濾過により除去し、粗生成物を得る工程である。濾過方法、装置については特に限定されず、従来公知の方法、装置を用いることができる。
【0051】
[精製工程]
本発明の精製工程は、上記粗生成物の不揮発性成分量の0.5~10質量%のシリカゲルを添加、撹拌後に加圧濾過を行う工程である。粗生成物にシリカゲルを添加、攪拌後に加圧濾過を行うが、その方法、装置については、上記濾過工程と同様、特に限定されず、加圧可能な濾過方法、装置を選択すればよい。
【0052】
シリカゲルの粒径は40~250μmの範囲が好ましく、40~100μmの範囲がさらに好ましい。小さい粒径の割合が多くなるほど、濾過板に詰まりやすくなるため、濾過助剤の併用が必要となるおそれがある。また、粒径が大きいほど、吸着効率が低下し、多量に用いる必要がある。好ましくは、平均粒径40~250μmを有するのがよく、平均粒径40~100μmがさらに好ましい。なお、本発明において平均粒径とは、レーザー回折式粒度分布計で測定した体積粒度分布のメジアン径(d50)の値を指すものとする。
【0053】
シリカゲルの添加量は、上記粗生成物に含まれる不揮発性成分量100質量部に対して0.5~20質量部、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは0.5~5質量部となる量である。より好ましくは、上記濾過工程の後、上記精製工程の前に溶媒留去をする方法においては、シリカゲルの添加量は上記粗生成物に含まれる不揮発性成分量100質量部に対して0.5~5質量部であるのがよい。上記濾過工程及び上記精製工程の後に溶媒留去する方法では、シリカゲルの添加量は上記粗生成物に含まれる不揮発性成分量100質量部に対して10~15質量部であるのがよい。
【0054】
シリカゲルを添加後の攪拌時間は、1時間以上が好ましく、3~12時間がより好ましい。攪拌時の温度は0~40℃の範囲で良く、15~30℃が好ましい。また、上記粗生成物が、(D)有機溶媒を含む場合は、シリカゲルを添加する前に、上記粗生成物に含まれる不揮発性成分の含有量を予め測定することが好ましい。測定方法としては、以下のような方法が挙げられる。
(1)6cm径のアルミシャーレに粗生成物3gを精秤し、105℃の循環型熱風乾燥機中で3時間加熱する。
(2)加熱後のアルミシャーレを25℃まで放冷し、再び精秤して不揮発性成分量を求める。
【0055】
[溶媒留去工程]
本発明の製造方法では、必要に応じて(D)有機溶媒や揮発性成分を除くための溶媒留去工程を追加することができる。当該溶媒留去工程は、上記濾過工程の次(すなわち、精製工程の前)に行ってもよいし、精製工程の後に行ってもよい。濾過工程の次に行う場合には、精製工程でのシリカゲルによる有機塩基塩酸塩の除去効率が上がり、シリカゲルの量を抑えることができるため好ましい。また、精製工程後に行う場合には、(D)有機溶媒により精製工程時の粘度を下げることができるため、シリカゲルによる処理、濾過が容易となるので好ましい。
【0056】
本発明の製造方法に従い得られるラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンは、該オルガノポリシロキサン中に溶存する有機塩基塩酸塩の量が低減され、経時で上記有機塩基塩酸塩がオルガノポリシロキサン中に再析出することを抑えることができる。本発明の方法によれば、25℃の温度下で3ヶ月、好ましくは20~30℃の温度下で3カ月以上経過後のオルガノポリシロキサンにおいても有機塩基塩酸塩の析出を抑制できる。
【0057】
さらに、上記反応において生成する有機塩基塩酸塩がトリエチルアミン塩酸塩である場合には、トリエチルアミン塩酸塩の経時での析出の有無を簡易評価により予測することが可能である。すなわち、ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンを、2倍の質量のヘキサンと混合した際に、混合液の外観が透明である場合には、経時でトリエチルアミン塩酸塩の析出はなく、微白濁~白濁である場合には、経時でトリエチルアミン塩酸塩が析出するという相関があることが確認されている。
【0058】
ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンに溶存する有機塩の量が低減されたことは、下記の測定値の1以上によって示すことができる。特には下記の測定値を全て満たすことが好ましい。
すなわち、
1)ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンを含む抽出水の電気伝導率が8mS/m以下、好ましくは5mS/m以下の値であること、
2)オルガノポリシロキサン中の塩化物イオン量が2ppm以下、好ましくは1ppm以下であること、
3)ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの塩素量が25ppm以下、好ましくは20ppm以下であること、及び、
4)ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの窒素量が25ppm以下、好ましくは20ppm以下であること
のうち少なくとも1の測定値を満たすとき、特には上記の全てを満たすことき、ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンに溶存する有機塩の含有量は極めて少ない。上記各測定値の下限値は制限されず、検出限界以下であればよい。従って、該ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンは、経時で上記有機塩基塩酸塩がオルガノポリシロキサン中に再析出することを抑えることができる。
【0059】
各測定方法は以下の通りである。
1)抽出水の電気伝導率
ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンをトルエンで5倍に希釈した溶液に、上記オルガノポリシロキサンの質量の2倍の純水を添加し、2時間の振盪後に得られる抽出水の電気伝導率を、電気伝導率計により測定する。
【0060】
2)ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサン中の塩化物イオン量
該塩化物イオン量は、ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンをトルエンで5倍に希釈した溶液に、上記オルガノポリシロキサンの質量の2倍の純水を添加し、2時間の振盪後に得られる抽出水中の塩化物イオン含有量を測定し、ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサン中の含有量として換算した値である。
【0061】
3)塩素量
ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの塩素量は、微量塩素分析装置を用いた酸化分解-電量滴定により測定される。
【0062】
4)窒素量
ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの窒素量は、微量窒素分析装置を用いた酸化分解-化学発光法により測定される。
【0063】
[ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサン]
ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンとしては、下記式(4)で表されるものが好ましい。
【化11】
式(4)中、R、a、b、c、d及びeは、上記式(1)のために定義した基と同じであり、Rは、互いに独立に、上記Rで示される基又は下記式(5)で示される基である。
【化12】
式(5)中、R、x、y及びzは、上記式(2)のために定義した基と同じであり、Rはラジカル重合性基を含む1価有機基である。上記括弧内に示されるオキシアルキレン単位は、それぞれブロック構造を有していてもランダムに結合していてもよい。ただし、上記Rの1つ以上は上記式(5)で示される基である。なお、上記式(4)において括弧内に示される各シロキサン単位は、ブロック構造を有していてもランダムに結合していてもよい。
【0064】
ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンがラジカル重合性基を1つ有する場合、硬化物を形成する高分子の主鎖に対してシロキサン鎖がペンダント状に組み込まれる。これにより、シロキサン鎖によってもたらされる消泡性、撥水性、親水性、離形性、防汚性、及びすべり特性などを硬化物に与えることができる。ラジカル重合性基を2つ以上有する場合、ラジカル重合性基が架橋成分として働き、硬化物を形成する。なお、ラジカル重合性基を有さないシロキサンは硬化することができない。このようなシロキサン化合物を含有すると、経時で硬化物からブリードを引き起こしたり、硬化時に他のラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンとの相溶性が低下したり、表面剥離や密着性の低下などが生じたりするおそれがある。ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンが、ラジカル重合性基を多数(特には上記した上限を超える数で)有する場合、架橋成分としての特性が強く表れ、シロキサン鎖によってもたらされる特性(消泡性、撥水性、離形性、防汚性、すべり性、耐熱性、耐寒性、電気絶縁性、及び難燃性等)を硬化物に与えることが困難になる。さらに、熱や光によって容易に重合が起こるため、保存中に重合反応が進行するおそれがあり、保存性及びハンドリング性に劣る。
【実施例0065】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0066】
[実施例1]
トルエン800g、下記式(7)で示される両末端カルビノールポリエーテル変性シロキサン(OH価約42.5mgKOH/g)500g、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール0.45g、トリエチルアミン47.8gを仕込み、内温を60℃にてアクリル酸クロライド36.0gを滴下した。滴下終了後、70℃にて2時間撹拌を行い、その後、未反応のアクリル酸クロライドをメタノールで処理し、生成した固体のトリエチルアミン塩酸塩を、濾過板(ADVANTEC社製、NA-10)を用いた加圧濾過により取り除いた。続いて、得られた溶液約3gをアルミシャーレに取り、105℃、3時間の乾燥後に残存した不揮発性成分の質量から、溶液濃度を算出した。これを基に、得られた溶液中の不揮発性成分量に対して10質量%となる量のシリカゲル60N(球状、中性、粒径40~100μm、関東化学(株)製)を溶液に添加して、3時間撹拌した。濾過板(ADVANTEC社製、NA-10)を用いて、後処理液の加圧濾過を行った後、溶媒及び未反応原料を減圧留去して、下記式(7’)で表されるラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサン1を収率90%で得た。
【化13】
(式中、x=12,a=19)

【化14】
(式中、x=12,a=19)
【0067】
[実施例2]
トルエン800g、上記式(7)で示される両末端カルビノールポリエーテル変性シロキサン(OH価約42.5mgKOH/g)500g、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール0.45g、トリエチルアミン47.8gを仕込み、内温を60℃にてアクリル酸クロライド36.0gを滴下した。滴下終了後、70℃にて2時間撹拌を行い、その後、未反応のアクリル酸クロライドをメタノールで処理し、生成したトリエチルアミン塩酸塩を、濾過板(ADVANTEC社製、NA-10)を用いた加圧濾過により取り除いた。
続いて、溶媒及び未反応原料を減圧留去した後に、得られた粗生成物(不揮発性成分)に対して1質量%のシリカゲル60N(球状、中性、粒径40~100μm、関東化学(株)製)を添加して3時間撹拌し、濾過板(ADVANTEC社製、NA-10)を用いて、後処理液の加圧濾過を行うことで、上記式(7’)で表されるラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサン2を収率87%で得た。
【0068】
上記本願発明の方法によると、精製時に濾過板への吸収や壁面ロスにより収率が若干低下するものの、洗浄等の精製方法に比べて高収率でラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサン、特にはアクリル変性シロキサンを得ることができる。
【0069】
[比較例1]
実施例1において、シリカゲル60Nによる撹拌とその後の加圧濾過を行わないこと以外は、実施例1と同様の方法により、上記式(7’)で表されるラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサン3を収率95%で得た。
【0070】
上記実施例及び比較例にて得られた各ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンについて、抽出水の電気伝導率、抽出水の塩化物イオン量、塩素量、及び、窒素量を、以下の方法を用いて測定した。また、ヘキサンとの混合による簡易評価、及び3ヶ月経過後の外観を観察した。
【0071】
[抽出水の電気伝導率]
ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンをトルエンで5倍に希釈した溶液に、該オルガノポリシロキサンの質量の2倍の純水を添加し、2時間の振盪後に得られる抽出水について、電気伝導率計を使用して電気伝導率を測定した。
【0072】
[抽出水から測定されるサンプル中の塩化物イオン量]
ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンをトルエンで5倍に希釈した溶液に、該オルガノポリシロキサンの質量の2倍の純水を添加し、2時間の振盪後に得られる抽出水について、イオンクロマトグラフィを使用してCl量を測定し、ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサン中の塩化物イオン含有量として換算した。
【0073】
[塩素量]
ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンをトルエンで5倍に希釈し、微量塩素分析装置を使用した酸化分解-電量滴定法により塩素量を測定した。
【0074】
[窒素量]
ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンをトルエンで5倍に希釈し、微量窒素分析装置を使用した酸化分解-化学発光法により窒素量を測定した。
【0075】

【表1】
【0076】
上記表1に示されるように、本発明による、実施例1、2の製造方法で得られたラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンは、下記1)乃至4)の要件を全て満たす。
1)ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンを含む抽出水の電気伝導率が8mS/m以下の値であること
2)オルガノポリシロキサン中の塩化物イオン量が2ppm以下であること
3)ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの塩素量が25ppm以下であること
4)ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンの窒素量が25ppm以下であること
当該実施例1、2の製造方法で得られたラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンは、上記表1に示されるように、経時による析出が見られなかった。一方、従来の方法である、比較例1の製造方法で得たラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンは上記1)乃至4)の要件を満たさず、経時で沈殿が生じた。すなわち、比較例1の製造方法で得たラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンは、経時で有機塩基塩酸塩が析出した。
本発明の製造方法では、従来の製造方法で得るラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサンに対して、アクリル変性シロキサンに溶存する有機塩基塩酸塩(特には、トリエチルアミン塩酸塩)の量が低減される。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の製造方法によれば、溶存する有機塩の量を低減された、ラジカル重合性基含有オルガノポリシロキサン、特には(メタ)アクリル変性シロキサン化合物を、高い製造効率で提供できる。該オルガノポリシロキサンは、塗料、皮膜形成剤、及び樹脂等の、熱硬化性組成物または光硬化性組成物に添加して用いられる、樹脂改質材料として有用である。