(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118264
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】全固体型イオン選択性電極
(51)【国際特許分類】
G01N 27/403 20060101AFI20240823BHJP
G01N 27/333 20060101ALI20240823BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
G01N27/403 371H
G01N27/333 331A
G01N27/333 331C
G01N27/333 331L
G01N27/416 351K
G01N27/416 346
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024609
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】寺内 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 伸
(57)【要約】
【課題】内部液を用いることなく、小型化が可能なイオン選択性電極を提供する。
【解決手段】測定対象物を含む試料と接し、該試料に含まれる測定対象物のイオン濃度に応じた電位を発生させるイオン感応膜と、電位を測定するための内部極と、イオン感応膜と内部極との間に設けられており、イオンを介してイオン感応膜に生じた電位を内部極に伝達する固体状のイオン伝達性部材と、を備えるイオン選択性電極。また、イオン伝達性部材は、イオン交換基を有する高分子化合物を含んでなるものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物を含む試料と接し、該試料に含まれる前記測定対象物のイオン濃度に応じた電位を発生させるイオン感応膜と、
前記電位を測定するための内部極と、
前記イオン感応膜と前記内部極との間に設けられており、イオンを介して前記イオン感応膜に生じた電位を前記内部極に伝達する固体状のイオン伝達性部材と、
を備えるイオン選択性電極。
【請求項2】
前記イオン伝達性部材は、イオン交換基を有する高分子化合物を含んでなる、
請求項1に記載のイオン選択性電極。
【請求項3】
前記高分子化合物は、ポリスチレン骨格を有する非架橋型の化合物である、
請求項2に記載のイオン選択性電極。
【請求項4】
前記イオン交換基は、4級アンモニウム基を含む、
請求項2又は3に記載のイオン選択性電極。
【請求項5】
前記イオン感応膜は、イオン交換基を含んで構成されている、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のイオン選択性電極。
【請求項6】
前記イオン伝達性部材は、前記イオン感応膜の表面に密着して設けられている、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のイオン選択性電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床検査、水質検査、食品工業などにおけるプロセス管理などに用いられるイオン選択性電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオン選択性電極は、溶液中のイオン濃度を測定するために用いられる。このイオン選択性電極は、比較電極とともに、測定対象である溶液に浸漬されることで、イオン選択性電極と比較電極との間に電位差を発生させ、発生した電位差に基づいて溶液中のイオン濃度を得ることができる。
【0003】
図2に示すように、従来のイオン選択性電極20は、イオン濃度に応じて電位を発生させるイオン感応膜5、内部極6、及び内部液7から構成されている。電極筐体8の中で内部液7を格納するためのスペースが大きく、イオン選択性電極20の小型化が困難であった。
【0004】
これに対して、内部液を全く使用せず、内部極にイオン感応膜を直接取り付けて電位を取り出す、いわゆるコーテッドワイヤー型の電極が提案されている(非特許文献1)。しかしながらこの電極では電位の再現性が乏しく、同じ標準溶液を測定しても電位値が大きく変動するため、頻繁にキャリブレーションが必要となることが多かった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Anal.Chem., Vol.43,pp.1905-1906(1971)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、内部液を用いることなく、小型化が可能なイオン選択性電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、イオン感応膜と内部極との間にイオン伝達性部材を設置することで、イオン感応膜に生じた電位を内部極に伝達させることができ、内部液の機能の代替えとなり得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明の構成は以下の通りである。
[1]測定対象物を含む試料と接し、該試料に含まれる前記測定対象物のイオン濃度に応じた電位を発生させるイオン感応膜と、前記電位を測定するための内部極と、前記イオン感応膜と前記内部極との間に設けられており、イオンを介して前記イオン感応膜に生じた電位を前記内部極に伝達する固体状のイオン伝達性部材と、を備えるイオン選択性電極。
[2]前記イオン伝達性部材は、イオン交換基を有する高分子化合物を含んでなる、[1]に記載のイオン選択性電極。
[3]前記高分子化合物は、ポリスチレン骨格を有する非架橋型の化合物である、[2]に記載のイオン選択性電極。
[4]前記イオン交換基は、4級アンモニウム基を含む、[2]又は[3]に記載のイオン選択性電極。
[5]前記イオン感応膜は、イオン交換基を含んで構成されている、[1]乃至[3]のいずれか1つに記載のイオン選択性電極。
[6]前記イオン伝達性部材は、前記イオン感応膜の表面に密着して設けられている、[1]乃至[3]のいずれか1つに記載のイオン選択性電極。
【発明の効果】
【0009】
本発明のイオン選択性電極は、内部液の代わりに固体状のイオン伝達性部材を設置しており、イオン伝達性部材を通じてイオン感応膜に生じた電位を内部極に伝達させることができ、内部液の格納スペースを大幅に削減することができ、電極を小型化させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るイオン選択性電極の構成の一例を模式的に示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、内部液を用いたイオン選択性電極の構成の一例を模式的に示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0012】
[実施の形態]
図1は、本発明の一実施形態に係るイオン選択性電極の構成の一例を模式的に示す概略断面図である。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るイオン選択性電極10は、測定対象物を含む試料(不図示)と接し、該試料に含まれる前記測定対象物のイオン濃度に応じた電位を発生させるイオン感応膜1と、前記電位を測定するための内部極2と、前記イオン感応膜1と前記内部極2との間に設けられており、イオンを介して前記イオン感応膜1に生じた電位を前記内部極2に伝達する固体状のイオン伝達性部材3と、を備える。これらイオン感応膜1、内部極2およびイオン伝達性部材3は、電極筐体4に収容されている。
【0013】
本実施形態において測定対象物とは、水溶液中でイオンの形態をとっている原子または原子団であり、イオン選択性電極で測定可能なものであれば特に制限なく対象とすることができる。
【0014】
本実施形態において試料とは、測定対象物を含んだ塩溶液であれば特に制限されるものではなく、海水、河川水、雨水、地下水などの天然由来のもの、メッキ液、工業廃液、下水などの生活や工業に供されるもの、飲料水、食品、果汁などの飲用に供されるもの、血液、血清、血漿、尿、髄液などの生体試料などを用いることができる。試料はそのまま用いることもできるが、必要に応じて適切な希釈液で希釈してから測定に用いることもできる。
【0015】
(イオン感応膜1)
本実施形態においてイオン感応膜1とは、測定対象物のイオン濃度に応じた電位を発生させる材料であれば特に制限されるものではなく、難溶性塩の粉末を加圧成型または溶融成型して得られる無機系固体膜、イオン交換基を有する高分子化合物を用いた有機系固体膜、バリノマイシン、クラウンエーテルなどのニュートラルキャリアを有機溶媒に溶解し、ポリ塩化ビニルのような高分子化合物に含浸し、保持させた液体膜などを用いることができる。中でもイオン交換基を有する高分子化合物としては、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体の構造を持つ高分子化合物が広く用いられる。
【0016】
(内部極2)
本実施形態において電位を測定するための内部極2とは、イオン感応膜1に発生した測定対象物のイオン濃度に応じた電位を取り出すための部材であり、一般的には銀の表面に塩化銀を析出させた銀/塩化銀極が広く用いられるが、イオン選択性電極10で使用可能である材料であれば特に制限なく用いることができる。
【0017】
(イオン伝達性部材3)
本実施形態においてイオン伝達性部材3とは、測定対象物を測定した際にイオン感応膜1に生じた電位を内部極2へ伝達する材料であり、β-アルミナ、α-ヨウ化銀や安定化ジルコニアのような無機固体電解質や、ポリエチレンオキシドをはじめとする高分子化合物に塩を添加したものや、側鎖や主鎖末端に電荷をもつ官能基を有した構造の有機固体電解質が例示される。
【0018】
イオン伝達性部材3は、イオン感応膜1の密着性向上が期待できる点から、イオン感応膜1と同一の材料を用いることが好ましい。例えば、イオン感応膜1に、一例として、イオン交換基を有する高分子化合物を用いたイオン選択性電極10の場合は、イオン感応膜1との密着性向上が期待できる点から、イオン伝達性部材3は、イオン交換基を有する高分子化合物が好適であり、なかでもイオン交換基を有する高分子化合物を含んでなる有機固体電解質がより好適である。
【0019】
本実施形態においてイオン交換基とは、イオン交換樹脂またはイオン交換膜におけるイオンを交換し得る官能基のことであり、一般的にスルホン酸基やカルボン酸基のような陽イオン交換基、4級アンモニウム基や第1~3級アミノ基のような陰イオン交換基を、特に制限なく用いることができる。
【0020】
本実施形態において高分子化合物とは、分子量が小さい分子単位の多数回繰り返しで構成される分子量が大きい分子を示し、人工的に合成された合成高分子化合物や自然界から得られる天然高分子化合物、および天然高分子化合物から化学的に誘導された半合成高分子化合物を、特に制限なく用いることができる。中でも、高分子化合物としては、ポリスチレン骨格を有する化合物を用いることが好ましい。ポリスチレン骨格を有する高分子化合物は合成が容易で、また用途に応じて高分子化合物の性状を調整することも比較的容易なためである。
【0021】
本実施形態においてポリスチレン骨格とは、スチレンを繰り返し単位とした高分子化合物の構造を示し、側鎖を含む場合や、ベンゼン環に置換基を有する場合を含む。中でも、非水溶性で、かつ、柔軟性があることから、ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレントリブロック共重合体、あるいはポリスチレン-ポリ(エチレン-プロピレン)-ポリスチレントリブロック共重合体のように非架橋型の構造を有し、エラストマー特性を有した高分子化合物が好ましい。かかる構造を有することで、接着部の剥がれを抑制することができる。また、かかる構造を有することで、振動への耐性を向上させ、より長期的な使用を可能とすることができる。
【0022】
本実施形態において4級アンモニウム基とは、一般的に第3級アミンとハロゲン化アルキル、あるいはハロゲン化アリールとの反応で得られる、N+R1R2R3R4X-(ここでR1~R4はアルキル基、またはアリール基、X-はイオン化されたハロゲン原子を示す)の構造を有する化合物である。
【0023】
以上をまとめると、イオン伝達性部材3としては、例えば、非架橋型ポリスチレン系4級アンモニウム固体電解質を好適な材料として用いることができる。
【0024】
イオン伝達性部材3は、イオン感応膜1に密着させて配置することが好ましい。イオン伝達性部材3を、イオン感応膜1に密着させて配置することで、測定に際してイオン感応膜1に発生した電位を速やかに内部極へ伝達することができる。イオン伝達性部材3とイオン感応膜1とを密着させる方法は特に制限されるものではなく、固体状の材料同士をそのまま接触させる方法、固体状の材料同士を適切な接着剤を用いて接着する方法、片方の材料を予め適切な溶媒に溶解あるいは懸濁させておいてもう一方の固体材料表面に滴下した後に溶剤を蒸発させて製膜する方法、などが例示される。
【0025】
(電極筐体4)
電極筐体4は、特定のものに限られず、例えば、有底筒状の形状を有するものを用いることができる。
【実施例0026】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0027】
<実施例1>
発明者らは、まず、
図1に示した構成において、イオン感応膜1としてスチレン-ジビニルベンゼン共重合体を母体とする4級アンモニウム系陰イオン交換膜((株)トクヤマ製)、イオン伝達性部材3としてポリスチレンレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレントリブロック共重合体を母体とする非架橋型ポリスチレン系4級アンモニウム固体電解質(特開2002-367626号公報の実施例に従い合成)、内部極2として銀/塩化銀を用いて塩化物イオン選択性電極を作製した。
【0028】
被検液に前記塩化物イオン選択性電極とガラス製比較電極を浸漬し、両電極間の電位差をデータロガー(midi LOGGER GL240:Graphtec製)で測定した。被検液には100mmol/L、10mmol/L、1mmol/Lの塩化ナトリウム溶液を使用した。測定結果をもとに濃度勾配を算出した結果、-48.5~-51.0mV/decadeと、理論値(-59.15mV/decade)に近い良好な値が得られた。また、被検液を変えた際の電位変化の速度(応答速度)も数秒~1分以内と、高速に電位応答した。
【0029】
<実施例2>
イオン感応膜1としてスチレン-ジビニルベンゼン共重合体を母体とする4級アンモニウム系陰イオン交換膜((株)トクヤマ製)、イオン伝達性部材3としてポリスチレンレン-ポリ(エチレン-プロピレン)-ポリスチレントリブロック共重合体を母体とする非架橋型ポリスチレン系4級アンモニウム固体電解質(特開2002-367626号公報の実施例に従い合成)、内部極2として銀/塩化銀を用いて塩化物イオン選択性電極を作製した。
【0030】
被検液に前記塩化物イオン選択性電極とガラス製比較電極を浸漬し、実施例1と同様にして両電極間の電位差をデータロガーで測定した。被検液には100mmol/L、10mmol/L、1mmol/Lの塩化ナトリウム溶液を使用した。測定結果をもとに濃度勾配を算出した結果、-45.1~-50.0mV/decadeと、実施例1と同様に良好な値が得られた。また、被検液を変えた際の電位変化の速度(応答速度)も数秒~1分以内と、高速に電位応答した。
【0031】
【0032】
<比較例1>
イオン伝達性部材3を使用しなかった以外は実施例1と同様にして塩化物イオン選択性電極を作製した。
【0033】
被検液として100mmol/L、10mmol/L、1mmol/Lの塩化ナトリウム溶液を使用して実施例1と同様に電位差を測定したが、電位差は観察されなかった。