(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118350
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】気相成長装置及び気相成長方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20240823BHJP
H01L 21/365 20060101ALI20240823BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20240823BHJP
B01D 53/64 20060101ALI20240823BHJP
C23C 16/44 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
H01L21/205
H01L21/365
H01L21/31 F
B01D53/64 ZAB
C23C16/44 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024718
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100176728
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】内藤 一樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 裕大
【テーマコード(参考)】
4D002
4K030
5F045
【Fターム(参考)】
4D002AA18
4D002AA28
4D002AC10
4D002BA13
4D002BA14
4D002CA20
4D002EA01
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4D002HA06
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4K030KA25
5F045AA03
5F045AB09
5F045AB10
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5F045BB08
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5F045DQ08
5F045EG01
5F045EG05
5F045EG08
(57)【要約】
【課題】未反応の金属塩化物に起因する配管の閉塞又は腐食を防ぎやすくする。
【解決手段】半導体膜を生成する気相成長装置10が、内部空間21を有し、半導体膜の原料となる金属塩化物を含む原料ガスを内部空間21に配置された基板11上で反応させる反応炉20と、反応炉20の内部空間21を真空排気する排気装置30と、排気装置30による真空排気中に使用される第1系統41と、未反応の金属塩化物を捕集するためのトラップ43が設置され、半導体膜の生成中に使用される第2系統42とを切替え自在に有し、反応炉20の内部空間21から排出される排ガスを流通させる排気配管40とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体膜を生成する気相成長装置において、
内部空間を有し、前記半導体膜の原料となる金属塩化物を含む原料ガスを当該内部空間に配置された基板上で反応させる反応炉と、
前記反応炉の内部空間を真空排気する排気装置と、
前記排気装置による真空排気中に使用される第1系統と、未反応の金属塩化物を捕集するためのトラップが設置され、前記半導体膜の生成中に使用される第2系統とを切替え自在に有し、前記反応炉の内部空間から排出される排ガスを流通させる排気配管と
を備える気相成長装置。
【請求項2】
前記反応炉は、前記内部空間を開放するための蓋を有し、
前記排気配管の第1系統は、前記反応炉の内部空間の開放中に当該内部空間に進入した大気又は水分を含む排ガスを流通させる請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項3】
前記排気配管の第2系統は、前記半導体膜の生成中に前記基板上で反応しなかった金属塩化物を含む排ガスを流通させる請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項4】
前記排気配管の第2系統には、粉体を捕集するフィルターが更に設置されている請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項5】
前記排気配管を加熱するヒーターを更に備え、
前記排気配管は、前記第1系統と前記第2系統とに分岐する分岐部を有し、
前記排気配管の第1系統及び第2系統は、当該第1系統及び当該第2系統にそれぞれ設置された第1バルブ及び第2バルブを開閉することで切り替えられ、
前記ヒーターは、前記排気配管の、少なくとも、前記分岐部から前記第1バルブまでの範囲と、前記分岐部から前記第2バルブまでの範囲とを加熱する請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項6】
前記ヒーターは、前記排気配管の前記分岐部の上流側を更に加熱する請求項5に記載の気相成長装置。
【請求項7】
前記ヒーターは、前記排気配管の前記第2バルブの下流側を更に加熱する請求項5に記載の気相成長装置。
【請求項8】
前記ヒーターは、前記排気配管の前記第1バルブの下流側を更に加熱する請求項5に記載の気相成長装置。
【請求項9】
前記半導体膜は、III-VI族半導体又はIII-V族半導体を含み、III族成分としてガリウム、アルミニウム、及びインジウムからなる群より選ばれる1種以上を含む請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項10】
前記半導体膜は、III-VI族半導体を含み、VI族成分として酸素を含む請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項11】
前記半導体膜は、III-V族半導体を含み、V族成分として窒素、リン、及びヒ素からなる群より選ばれる1種以上を含む請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項12】
半導体膜を生成する気相成長方法において、
第1系統と、未反応の金属塩化物を捕集するためのトラップが設置された第2系統とを有し、反応炉の内部空間から排出される排ガスを流通させる排気配管を前記第1系統に切り替えた上で、当該内部空間を真空排気することと、
前記排気配管を前記第2系統に切り替えた上で、前記半導体膜の原料となる金属塩化物を含む原料ガスを前記反応炉の内部空間に配置された基板上で反応させることと
を含む気相成長方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、気相成長装置及び気相成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の半導体デバイスの材料として、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、及び酸化ガリウム(Ga2O3)などのワイドギャップ半導体が盛んに研究されている。ヒ化ガリウム(GaAs)又はリン化インジウム(InP)を使用した超高効率低損失を実現する太陽電池の研究も行われている。これらのデバイスの製造には、主にMOCVD法が用いられている。「MOCVD」は、metal organic chemical vapor deposition(有機金属気相成長)の略語である。
【0003】
MOCVD法において原料となる有機金属は炭素(C)を含む。そのため、一定量の、具体的には1015cm-3以上の炭素(C)が不純物として膜中に混入する。炭素(C)濃度がn型不純物よりも高い場合、低濃度n型伝導性制御が困難となるため、炭素(C)を含まない原料を使用することが理想である。
【0004】
そこで注目されているのがHVPE法である。「HVPE」は、halide vapor phase epitaxy(ハライド気相成長)又はhydride vapor phase epitaxy(ハイドライド気相成長)の略語である。HVPE法は、金属ガリウム(Ga)と塩素系ガスとを反応させて供給される一塩化ガリウム(GaCl)又は三塩化ガリウム(GaCl3)など、原料に炭素(C)をほとんど含まないことがメリットである。
【0005】
特許文献1及び特許文献2には、HVPE法を実施するための装置、すなわち、HVPE装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2011/142402号
【特許文献2】特開2019-196293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既存のHVPE装置の原料利用効率は数%程度である。原料となるGaCl3などの金属塩化物のほとんどは反応せずにガス排気用の配管へ流れる。金属塩化物は低温において凝縮及び固化しやすい性質があるため、配管の閉塞の原因となる。金属塩化物が流れる配管に大気成分が混入すると、金属塩化物の加水分解で生じる塩化水素により配管の腐食も発生する。特に、量産型のHVPE装置では、未反応のまま排気系に流れる金属塩化物の量が必然的に多くなるため、配管の閉塞及び腐食が大きな課題となる。
【0008】
本開示の目的は、未反応の金属塩化物に起因する配管の閉塞又は腐食を防ぎやすくすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の幾つかの態様を以下に示す。
【0010】
[1]
半導体膜を生成する気相成長装置において、
内部空間を有し、前記半導体膜の原料となる金属塩化物を含む原料ガスを当該内部空間に配置された基板上で反応させる反応炉と、
前記反応炉の内部空間を真空排気する排気装置と、
前記排気装置による真空排気中に使用される第1系統と、未反応の金属塩化物を捕集するためのトラップが設置され、前記半導体膜の生成中に使用される第2系統とを切替え自在に有し、前記反応炉の内部空間から排出される排ガスを流通させる排気配管と
を備える気相成長装置。
【0011】
[2]
前記反応炉は、前記内部空間を開放するための蓋を有し、
前記排気配管の第1系統は、前記反応炉の内部空間の開放中に当該内部空間に進入した大気又は水分を含む排ガスを流通させる[1]に記載の気相成長装置。
【0012】
[3]
前記排気配管の第2系統は、前記半導体膜の生成中に前記基板上で反応しなかった金属塩化物を含む排ガスを流通させる[1]又は[2]に記載の気相成長装置。
【0013】
[4]
前記排気配管の第2系統には、粉体を捕集するフィルターが更に設置されている[1]から[3]のいずれか1項に記載の気相成長装置。
【0014】
[5]
前記排気配管を加熱するヒーターを更に備え、
前記排気配管は、前記第1系統と前記第2系統とに分岐する分岐部を有し、
前記排気配管の第1系統及び第2系統は、当該第1系統及び当該第2系統にそれぞれ設置された第1バルブ及び第2バルブを開閉することで切り替えられ、
前記ヒーターは、前記排気配管の、少なくとも、前記分岐部から前記第1バルブまでの範囲と、前記分岐部から前記第2バルブまでの範囲とを加熱する[1]から[4]のいずれか1項に記載の気相成長装置。
【0015】
[6]
前記ヒーターは、前記排気配管の前記分岐部の上流側を更に加熱する[5]に記載の気相成長装置。
【0016】
[7]
前記ヒーターは、前記排気配管の前記第2バルブの下流側を更に加熱する[5]又は[6]に記載の気相成長装置。
【0017】
[8]
前記ヒーターは、前記排気配管の前記第1バルブの下流側を更に加熱する[5]から[7]のいずれか1項に記載の気相成長装置。
【0018】
[9]
前記半導体膜は、III-VI族半導体又はIII-V族半導体を含み、III族成分としてガリウム、アルミニウム、及びインジウムからなる群より選ばれる1種以上を含む[1]から[8]のいずれか1項に記載の気相成長装置。
【0019】
[10]
前記半導体膜は、III-VI族半導体を含み、VI族成分として酸素を含む[1]から[9]のいずれか1項に記載の気相成長装置。
【0020】
[11]
前記半導体膜は、III-V族半導体を含み、V族成分として窒素、リン、及びヒ素からなる群より選ばれる1種以上を含む[1]から[9]のいずれか1項に記載の気相成長装置。
【0021】
[12]
半導体膜を生成する気相成長方法において、
第1系統と、未反応の金属塩化物を捕集するためのトラップが設置された第2系統とを有し、反応炉の内部空間から排出される排ガスを流通させる排気配管を前記第1系統に切り替えた上で、当該内部空間を真空排気することと、
前記排気配管を前記第2系統に切り替えた上で、前記半導体膜の原料となる金属塩化物を含む原料ガスを前記反応炉の内部空間に配置された基板上で反応させることと
を含む気相成長方法。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、未反応の金属塩化物に起因する配管の閉塞又は腐食を防ぎやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本開示の実施形態に係る気相成長装置の構成を示す図である。
【
図2】本開示の実施形態に係る気相成長装置の構成の変形例を示す図である。
【
図3】本開示の実施形態に係る気相成長装置による気相成長の手順を示す図である。
【
図4】本開示の実施形態に係る気相成長装置の排気配管を示す図である。
【
図5】本開示の実施形態に係る気相成長装置の排気配管の加熱に関する一例を示す図である。
【
図6】本開示の実施形態に係る気相成長装置の排気配管の加熱に関する別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示の実施形態について、図を参照して説明する。
【0025】
各図中、同一又は相当する部分には、同一符号を付している。本実施形態の説明において、同一又は相当する部分については、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0026】
図1を参照して、本実施形態に係る気相成長装置10の構成を説明する。
【0027】
気相成長装置10は、半導体膜を生成する装置である。例えば、半導体膜は、III-VI族半導体又はIII-V族半導体を含み、III族成分としてガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、及びインジウム(In)からなる群より選ばれる1種以上を含む。半導体膜は、III-VI族半導体のVI族成分として酸素(O)を含むか、又はIII-V族半導体のV族成分として窒素(N)、リン(P)、及びヒ素(As)からなる群より選ばれる1種以上を含む。
【0028】
気相成長装置10は、反応炉20と、排気装置30と、排気配管40とを備える。反応炉20は、内部空間21を有する。反応炉20は、半導体膜の原料となる金属塩化物を含む原料ガスを内部空間21に配置された基板11上で反応させる。排気装置30は、反応炉20の内部空間21を真空排気する。排気装置30は、本実施形態では、内部空間21を減圧するとともに不活性ガスを内部空間21に送り込むことで内部空間21を真空排気するが、単に不活性ガスを内部空間21に送り込むだけで内部空間21を真空排気してもよい。排気装置30は、例えば、ドライ真空ポンプである。排気配管40は、反応炉20の内部空間21から排出される排ガスを流通させる。排気配管40は、第1系統41と第2系統42とを切替え自在に有する。排気配管40の第1系統41は、排気装置30による真空排気中に使用される。排気配管40の第2系統42には、未反応の金属塩化物を捕集するためのトラップ43が設置されている。トラップ43は、例えば、コールドトラップである。必須ではないが、排気配管40の第2系統42には、粉体を捕集するフィルター44が更に設置されている。フィルター44は、トラップ43の後段に設置されてもよいが、本実施形態ではトラップ43の前段に設置されている。排気配管40の第2系統42は、半導体膜の生成中に使用される。
【0029】
本実施形態によれば、未反応の金属塩化物に起因する排気配管40の閉塞又は腐食を防ぎやすくなる。具体的には、排気配管40に対し、トラップ43の設置などの金属塩化物対策を実施するとともに、金属塩化物が流れる配管に大気が混入するのを防止することで、排気配管40の閉塞、腐食、及びそれらに付随して生じる装置トラブルを未然に防ぐことが可能となる。結果として、HVPE装置の安定稼働を実現できる。特に、量産型HVPE装置においては、ダウンタイムを最小限化することができ、装置稼働率が向上する。
【0030】
本実施形態では、反応炉20は、内部空間21を開放するための蓋22を有する。蓋22は、例えば、フランジである。排気配管40の第1系統41は、反応炉20の内部空間21の開放中に内部空間21に進入した大気又は水分を含む排ガスを流通させる。一方、排気配管40の第2系統42は、半導体膜の生成中に基板11上で反応しなかった金属塩化物を含む排ガスを流通させる。よって、本実施形態によれば、大気又は水分が混入した排ガスの流通用の配管と、半導体材料ガスを含む排ガスの流通用の配管とを選択的に切り替えて使用することが可能となる。
【0031】
HVPE装置では副生成物として種々の粉体が多く発生することがある。例えば、酸化ガリウム(Ga2O3)などの半導体材料が生成されても、基板11に固定される前に冷やされて粉体になり、排気配管40に排出されることがある。そのような粉体も排気配管40の閉塞の原因になる。本実施形態では、排気配管40の第2系統42の、金属塩化物捕集用のトラップ43の前段に粉体捕集用のフィルター44を設置することで、後段の配管又はトラップ43で生じ得る、粉体による閉塞を予防することができる。
【0032】
図1に示した構成では、反応炉20は、外部から原料を供給される金属チャンバーとして構成されている。反応炉20の蓋22は、上方に開閉自在に取り付けられている。反応炉20には、第1導入管31、第2導入管32、及び第3導入管33が接続されている。第1導入管31は、金属塩化物を含む原料ガスを外部から反応炉20の内部空間21に導入するために使用される。第2導入管32は、金属塩化物を含む原料ガスとは別の原料ガスを外部から反応炉20の内部空間21に導入するために使用される。第3導入管33は、キャリアガスを外部から反応炉20の内部空間21に導入するために使用される。
【0033】
図1に示した例では、三塩化ガリウム(GaCl
3)、酸素(O
2)、及び窒素(N
2)がそれぞれ第1導入管31、第2導入管32、及び第3導入管33を通じて反応炉20の内部空間21に導入される。窒素(N
2)は、キャリアガスとしてだけでなく、反応炉20の内部空間21を真空排気するための不活性ガスとしても利用することができる。そのため、
図1に示した例では、排気装置30から、第3導入管33を通じて反応炉20の内部空間21に窒素(N
2)を送り込む構成が採用されている。ただし、この構成は必須ではなく、排気装置30から、窒素(N
2)が第3導入管33とは別の経路で反応炉20の内部空間21に送り込まれてもよい。キャリアガスとしては、窒素(N
2)の代わりに、アルゴン(Ar)又は水素(H
2)が第3導入管33を通じて反応炉20の内部空間21に導入されてもよい。
【0034】
図1に示した構成の変形例として、
図2に示すように、反応炉20は、内部で原料を生成する管状炉として構成されてもよい。
図2に示した構成では、反応炉20の蓋22は、側方に開閉自在に取り付けられている。反応炉20は、ガス供給部23を内部空間21に有する。反応炉20には、
図1に示した構成と同様の第2導入管32及び第3導入管33が接続されているほか、
図1に示した第1導入管31の代わりに、第4導入管34が接続されている。第4導入管34は、金属塩化物を含む原料ガスを生成するのに必要なガスを外部から反応炉20の内部空間21に導入するために使用される。反応炉20のガス供給部23は、固体材料又は液体材料を収納している。第3導入管33を通じて導入されたキャリアガスと、第4導入管34を通じて導入されたガスとを含む混合ガスがガス供給部23に流れ込むと、ガス供給部23に収納された固体材料又は液体材料と混合ガスとが反応して、金属塩化物を含む原料ガスが生成される。ガス供給部23には、ガスノズル35が備えられている。ガス供給部23で生成された、金属塩化物を含む原料ガスは、ガスノズル35によって基板11上へ輸送される。
【0035】
図2に示した例では、酸素(O
2)、窒素(N
2)、及び塩素(Cl
2)がそれぞれ第2導入管32、第3導入管33、及び第4導入管34を通じて反応炉20の内部空間21に導入される。金属ガリウム(Ga)が反応炉20のガス供給部23に収納されている。塩素(Cl
2)は、金属ガリウム(Ga)と反応して、三塩化ガリウム(GaCl
3)を発生させる。三塩化ガリウム(GaCl
3)は、ガスノズル35を介して基板11上へ輸送される。
【0036】
図1及び
図2に示した例では、三塩化ガリウム(GaCl
3)は、酸化ガリウム(Ga
2O
3)成膜のための原料として使用される。別の例として、三塩化ガリウム(GaCl
3)は、窒化ガリウム(GaN)成膜のための原料として使用されてもよい。そのため、例えば、酸素(O
2)の代わりに、アンモニア(NH
3)が第2導入管32を通じて反応炉20の内部空間21に導入されてもよい。更に別の例として、三塩化ガリウム(GaCl
3)は、ヒ化ガリウム(GaAs)成膜のための原料として使用されてもよい。そのため、例えば、酸素(O
2)の代わりに、三塩化ヒ素(AsCl
3)が第2導入管32を通じて反応炉20の内部空間21に導入されてもよい。
【0037】
三塩化ガリウム(GaCl3)は常温常圧で白色固体である。三塩化ガリウム(GaCl3)の融点は78℃である。三塩化ガリウム(GaCl3)は、大気中水分と反応すると潮解し、塩化水素(HCl)を発生させる。
【0038】
図1又は
図2に示した例では、三塩化ガリウム(GaCl
3)が排気配管40に流れる。トラップ43として、例えば、三塩化ガリウム(GaCl
3)捕集用のコールドトラップが設置されていたとしても、それだけでは完全に三塩化ガリウム(GaCl
3)を除去することはできない。少なくとも反応炉20の筐体にグローブボックスが設置されていない場合は、反応炉20の蓋22が開けられると、反応炉20の内部空間21及び各種ガス配管が大気又は水分に暴露される。このときに混入した大気又は水分は排気配管40へ流れてしまう。排気配管40の、三塩化ガリウム(GaCl
3)が残留している箇所に大気又は水分が流れると、三塩化ガリウム(GaCl
3)が潮解により液状化し、加水分解で生じた塩化水素(HCl)により配管類が腐食してしまう。そのため、本実施形態では、反応炉20の大気暴露時に使用する一般排気ライン、すなわち、大気開放ラインと、成膜中に使用するプロセス排気ラインとが別々に設けられている。反応炉20の大気暴露直後は反応炉20内に大気成分が残っているため、不活性ガスを用いて反応炉20内がパージされる。その結果、大気成分が大気開放ラインへ流れる。大気成分がパージにより除去できた段階で、本来のプロセス排気ラインへの切替えが行われて成膜が実施される。これにより、プロセス排気ラインに直接大気成分が混入することがなくなり、配管類、バルブ類、及びフィルターハウジングの腐食を防止することが可能となる。三塩化ガリウム(GaCl
3)の液状化を防ぐことは、その後の洗浄などのメンテナンスも実施しやすくなることを意味している。よって、本実施形態によれば、メンテナンスの頻度を低減することができる。装置のダウンタイムも低減することができる。
【0039】
本実施形態では、排気配管40は、第1系統41と第2系統42とに分岐する分岐部45を有する。排気配管40の第1系統41及び第2系統42は、第1系統41及び第2系統42にそれぞれ設置された第1バルブ46及び第2バルブ47を開閉することで切り替えられる。
【0040】
図3を参照して、本実施形態に係る気相成長装置10による気相成長の手順を説明する。この手順は、本実施形態に係る気相成長方法に相当する。
【0041】
ステップS1では、反応炉20の内部空間21に基板11を設置するなどの目的で反応炉20の蓋22が開けられている。すなわち、反応炉20の内部空間21が開放されている。この間、反応炉20の内部空間21には、水分を含む大気が進入する。第1バルブ46及び第2バルブ47は、両方閉じられている。
【0042】
反応炉20の内部空間21の開放目的が達成された後、ステップS2では、反応炉20の蓋22が閉じられる。すなわち、反応炉20の内部空間21が閉鎖される。その後、第2バルブ47が閉じられたまま、第1バルブ46が開かれ、これにより、排気配管40が第1系統41に切り替えられる。その上で、排気装置30により反応炉20の内部空間21が真空排気される。よって、水分を含む大気が追い出されるまでは、一般排気ラインが使用される。
【0043】
反応炉20の内部空間21の真空排気が完了した後、ステップS3では、第1バルブ46が閉じられる一方、第2バルブ47が開かれ、これにより、排気配管40が第1系統41から第2系統42に切り替えられる。その上で、ステップS4では、金属塩化物を含む原料ガスが外部から反応炉20の内部空間21に導入されるか、又は内部空間21で生成され、この原料ガスを基板11上で反応させることにより、半導体膜が基板11上に生成される。よって、水分を含む大気が追い出された後の気相成長中は、プロセス排気ラインが使用される。
【0044】
ステップS1からステップS4は所望の回数繰り返される。例えば、ステップS4の成膜中に潮解性のある三塩化ガリウム(GaCl3)がプロセス排気ラインに流れ込み、配管壁のほか、フィルター44及びトラップ43に蓄積されたとしても、その後のステップS1で反応炉20の内部空間21に進入した大気は、プロセス排気ラインとは別の系統である一般排気ラインにしか流れない。したがって、大気中に含まれる水分が三塩化ガリウム(GaCl3)を潮解させ、配管を閉塞又は腐食させるという事態を防ぎやすくなる。
【0045】
図4に示すような、排気配管40の分岐部45の直後から第1バルブ46までの第1範囲51、及び分岐部45の直後から第2バルブ47までの第2範囲52には、ガスが溜まりやすい。例えば、ステップS4の成膜中に三塩化ガリウム(GaCl
3)が第1範囲51及び第2範囲52に堆積すると、その後のステップS1で反応炉20の内部空間21に進入した大気中に含まれる水分が、第1範囲51及び第2範囲52に堆積した三塩化ガリウム(GaCl
3)を潮解させるおそれがある。そこで、第1範囲51及び第2範囲52における三塩化ガリウム(GaCl
3)の堆積を抑えるために、第1範囲51及び第2範囲52が加熱されてもよい。排気配管40の分岐部45の上流側の第3範囲53が更に加熱されてもよい。排気配管40の第2バルブ47の下流側の範囲、具体的には第2バルブ47の直後からフィルター44までの第4範囲54が更に加熱されてもよい。排気配管40の第1バルブ46の下流側の第5範囲55が更に加熱されてもよい。
【0046】
図5に示した例では、気相成長装置10は、排気配管40を加熱するヒーター50を更に備える。ヒーター50は、排気配管40の、少なくとも、分岐部45から第1バルブ46までの範囲と、分岐部45から第2バルブ47までの範囲とを加熱する。すなわち、ヒーター50は、排気配管40の、少なくとも第1範囲51及び第2範囲52を加熱する。よって、第1範囲51及び第2範囲52における三塩化ガリウム(GaCl
3)などの金属塩化物の堆積を抑えやすくなる。
【0047】
図5に示した例では、ヒーター50は、排気配管40の分岐部45の上流側を更に加熱する。すなわち、ヒーター50は、排気配管40の第3範囲53を更に加熱する。よって、第3範囲53における三塩化ガリウム(GaCl
3)などの金属塩化物の堆積も抑えやすくなる。
【0048】
図5に示した例では、ヒーター50は、排気配管40の第2バルブ47の下流側を更に加熱する。すなわち、ヒーター50は、排気配管40の第4範囲54を更に加熱する。この例によれば、排気配管40の第2バルブ47を下流側からも加熱することで、特に第2範囲52における三塩化ガリウム(GaCl
3)などの金属塩化物の堆積を抑えやすくなる。
【0049】
図6に示した例では、ヒーター50は、排気配管40の第1バルブ46の下流側を更に加熱する。すなわち、ヒーター50は、排気配管40の第5範囲55を更に加熱する。この例によれば、排気配管40の第1バルブ46を下流側からも加熱することで、特に第1範囲51における三塩化ガリウム(GaCl
3)などの金属塩化物の堆積を抑えやすくなる。
【0050】
本開示は上述の実施形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない範囲での変更が可能である。
【符号の説明】
【0051】
10 気相成長装置
11 基板
20 反応炉
21 内部空間
22 蓋
23 ガス供給部
30 排気装置
31 第1導入管
32 第2導入管
33 第3導入管
34 第4導入管
35 ガスノズル
40 排気配管
41 第1系統
42 第2系統
43 トラップ
44 フィルター
45 分岐部
46 第1バルブ
47 第2バルブ
50 ヒーター
51 第1範囲
52 第2範囲
53 第3範囲
54 第4範囲
55 第5範囲