(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118353
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】供給方法および供給装置
(51)【国際特許分類】
C23C 16/448 20060101AFI20240823BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
C23C16/448
H01L21/31 B
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024725
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100195785
【弁理士】
【氏名又は名称】市枝 信之
(72)【発明者】
【氏名】村田 逸人
(72)【発明者】
【氏名】清水 秀治
(72)【発明者】
【氏名】和田 吉史
【テーマコード(参考)】
4K030
5F045
【Fターム(参考)】
4K030AA03
4K030BA02
4K030BA05
4K030BA10
4K030BA12
4K030BA17
4K030BA20
4K030BA22
4K030BA29
4K030EA01
4K030JA01
4K030KA46
5F045AA03
5F045AA15
5F045AB31
5F045AB33
5F045AC00
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5F045AC17
5F045AD07
5F045AD08
5F045AD09
5F045BB09
5F045BB17
5F045EE02
5F045EE04
(57)【要約】
【課題】材料を高温に加熱する必要がなく、簡便な装置で、高濃度のガス状の材料を連続的に供給する。
【解決手段】ガス状の材料を供給する供給方法であって、前記材料が固体または液体状で収容された容器にキャリアガスを導入し、気化した前記材料と前記キャリアガスとの混合ガスを得る混合ガス調製工程と、分離膜を用いて、前記混合ガス中の前記材料の濃度を高めた濃縮ガスを得る濃縮工程と、前記材料を使用する装置へ前記濃縮ガスを供給する供給工程とを有する、供給方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス状の材料を供給する供給方法であって、
前記材料が固体または液体状で収容された容器にキャリアガスを導入し、気化した前記材料と前記キャリアガスとの混合ガスを得る混合ガス調製工程と、
分離膜を用いて、前記混合ガス中の前記材料の濃度を高めた濃縮ガスを得る濃縮工程と、
前記材料を使用する装置へ前記濃縮ガスを供給する供給工程とを有する、供給方法。
【請求項2】
前記分離膜が、平均直径0.1~10nmの孔を有する、請求項1に記載の供給方法。
【請求項3】
前記濃縮工程において、前記分離膜を備える二重管式分離器を使用する、請求項1または2に記載の供給方法。
【請求項4】
前記濃縮工程において、前記分離膜の片側を減圧する、請求項1または2に記載の供給方法。
【請求項5】
前記材料が、塩化アルミニウム、塩化ハフニウム、塩化ジルコニウム、塩化タンタル、五塩化タングステン、六塩化タングステン、二酸化二塩化モリブデン、五塩化モリブデン、塩化ルテニウム、ヒドラジン化合物、ハフニウム化合物、ジルコニウム化合物、白金化合物、ルテニウム化合物、コバルト化合物、シリコン化合物、アルミニウム化合物、チタン化合物、タンタル化合物、純水、過酸化水素、有機溶剤からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1または2に記載の供給方法。
【請求項6】
ガス状の材料を供給する供給装置であって、
前記材料が固体または液体状で収容される容器と、
前記容器にキャリアガスを導入するキャリアガス流路と、
前記容器から、気化した前記材料と前記キャリアガスとの混合ガスを取り出す混合ガス流路と、
分離膜を用いて、前記混合ガス中の前記材料の濃度を高めた濃縮ガスを得る濃縮手段と、
前記材料を使用する装置へ前記濃縮ガスを供給する濃縮ガス流路とを備える、供給装置。
【請求項7】
前記分離膜が、平均直径0.1~10nmの孔を有する、請求項6に記載の供給装置。
【請求項8】
前記濃縮手段が、前記分離膜を備える二重管式分離器である、請求項6または7に記載の供給装置。
【請求項9】
前記分離膜の片側を減圧する減圧手段をさらに備える、請求項6または7に記載の供給装置。
【請求項10】
前記材料が、塩化アルミニウム、塩化ハフニウム、塩化ジルコニウム、塩化タンタル、五塩化タングステン、六塩化タングステン、二酸化二塩化モリブデン、五塩化モリブデン、塩化ルテニウム、ヒドラジン化合物、ハフニウム化合物、ジルコニウム化合物、白金化合物、ルテニウム化合物、コバルト化合物、シリコン化合物、アルミニウム化合物、チタン化合物、タンタル化合物、純水、過酸化水素、有機溶剤からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項6または7に記載の供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス状の材料を供給する供給方法に関する。また、本発明は、ガス状の材料を供給する供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス状の材料を用いて成膜やエッチング等を行う技術は、様々な分野で用いられている。
【0003】
例えば、半導体デバイスの製造においては、金属、金属酸化、金属窒化などの薄膜を形成するプロセスが一般的に用いられている。特に近年、半導体デバイスの微細化および高集積化に対応するために、サブnmオーダーの膜厚制御が可能であり、良好なカバレッジ特性を有する薄膜形成技術が求められている。
【0004】
そのような要求に応えうる成膜プロセスとしては、化学気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition)や原子層体積法(ALD:Atomic Layer Deposition)などの成膜法が一般的に用いられている。これらの成膜法では、成膜原料として、金属含有化合物、窒素含有化合物、酸化含有化合物、炭素含有化合物など、様々な材料が用いられる。しかし、それら材料の多くは、通常の環境下で液体または固体状態であるため、上記成膜法に用いるためには気体状態で成膜装置へ供給する必要がある。
【0005】
同様に、成膜以外のプロセス(例えば、ドライエッチングなど)においても、ガス状の材料を供給することが一般的に行われている。
【0006】
材料を気体状態で成膜装置に供給する方法としては、材料を気化させて、キャリアガスとともに供給する方法が広く用いられている。具体的には、まず、材料が固体または液体状で収容された容器にキャリアガスを導入し、気化した前記材料と前記キャリアガスとの混合ガスを得る。次いで、前記混合ガスが成膜装置へ供給される。
【0007】
前記方法によれば、ガス状の材料を安定して成膜装置へ供給することができる。しかし、この方法では、混合ガス中に含まれる材料の濃度が低いという問題があった。
【0008】
すなわち、成膜プロセスにおいて良質な薄膜を形成するためには、供給される材料ガスの高濃度化が必要である。また、ドライエッチングなど、成膜以外のプロセスにおいても、反応を効率的に進めるために、材料ガスの高濃度化が求められる。
【0009】
しかし、上記供給方法では、材料がキャリアガスによって希釈された状態で供給されるため、材料ガスの濃度が低い。加えて、この供給方法に用いられる材料の多くは低蒸気圧であるため、混合ガス中の材料濃度を高めることが難しい。
【0010】
混合ガス中の材料濃度を高める方法としては、固体または液体状の材料を高温に加熱することが考えられる。高温に加熱すれば気化する材料の量が増加するため、混合ガス中の材料濃度が高くなる。しかし、これらの用途に用いられる材料の多くは熱により分解しやすいため、加熱による高濃度化には限界があった。
【0011】
そこで、特許文献1、2では、多孔質性金属錯体に材料ガスを吸着させ、次いで加熱により脱離させることで、前記材料ガスを濃縮する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2021-077676号公報
【特許文献2】特開2021-075739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1、2で提案されている方法によれば、材料ガスの濃度を高めることができる。しかし、前記方法では、多孔質性金属錯体に材料ガスを吸着させ、次いで加熱により脱離させるという2つの工程を交互に行う必要があるため、断続的にしか材料を供給することができない。前記方法で材料を連続的に供給するためには、多孔質性金属錯体が充填された吸着塔を備える供給ラインを少なくとも2つ用意し、前記供給ラインを切替えながら運転する必要がある。そのため、システムが複雑となるとともに、装置が大型化する。
【0014】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、材料を高温に加熱する必要がなく、簡便な装置で、高濃度のガス状の材料を連続的に供給することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を達成するためになされたものであり、その要旨は、次の通りである。
【0016】
1.ガス状の材料を供給する供給方法であって、
前記材料が固体または液体状で収容された容器にキャリアガスを導入し、気化した前記材料と前記キャリアガスとの混合ガスを得る混合ガス調製工程と、
分離膜を用いて、前記混合ガス中の前記材料の濃度を高めた濃縮ガスを得る濃縮工程と、
前記材料を使用する装置へ前記濃縮ガスを供給する供給工程とを有する、供給方法。
【0017】
2.前記分離膜が、平均直径0.1~10nmの孔を有する、上記1に記載の供給方法。
【0018】
3.前記濃縮工程において、前記分離膜を備える二重管式分離器を使用する、上記1または2に記載の供給方法。
【0019】
4.前記濃縮工程において、前記分離膜の片側を減圧する、上記1~3のいずれか一つに記載の供給方法。
【0020】
5.前記材料が、塩化アルミニウム、塩化ハフニウム、塩化ジルコニウム、塩化タンタル、五塩化タングステン、六塩化タングステン、二酸化二塩化モリブデン、五塩化モリブデン、塩化ルテニウム、ヒドラジン化合物、ハフニウム化合物、ジルコニウム化合物、白金化合物、ルテニウム化合物、コバルト化合物、シリコン化合物、アルミニウム化合物、チタン化合物、タンタル化合物、純水、過酸化水素、有機溶剤からなる群より選択される少なくとも1つである、上記1~4のいずれか一つに記載の供給方法。
【0021】
6.ガス状の材料を供給する供給装置であって、
前記材料が固体または液体状で収容される容器と、
前記容器にキャリアガスを導入するキャリアガス流路と、
前記容器から、気化した前記材料と前記キャリアガスとの混合ガスを取り出す混合ガス流路と、
分離膜を用いて、前記混合ガス中の前記材料の濃度を高めた濃縮ガスを得る濃縮手段と、
前記材料を使用する装置へ前記濃縮ガスを供給する濃縮ガス流路とを備える、供給装置。
【0022】
7.前記分離膜が、平均直径0.1~10nmの孔を有する、上記6に記載の供給装置。
【0023】
8.前記濃縮手段が、前記分離膜を備える二重管式分離器である、上記6または7に記載の供給装置。
【0024】
9.前記分離膜の片側を減圧する減圧手段をさらに備える、上記6~8のいずれか一つに記載の供給装置。
【0025】
10.前記材料が、塩化アルミニウム、塩化ハフニウム、塩化ジルコニウム、塩化タンタル、五塩化タングステン、六塩化タングステン、二酸化二塩化モリブデン、五塩化モリブデン、塩化ルテニウム、ヒドラジン化合物、ハフニウム化合物、ジルコニウム化合物、白金化合物、ルテニウム化合物、コバルト化合物、シリコン化合物、アルミニウム化合物、チタン化合物、タンタル化合物、純水、過酸化水素、有機溶剤からなる群より選択される少なくとも1つである、上記6~9のいずれか一つに記載の供給装置。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、特許文献1、2で提案されているような従来技術とは異なり、分離膜を用いて濃縮を行うため、簡便な装置であるにもかかわらず、インラインで連続的に高濃度のガス状の材料を供給することができる。また、気化させる際に材料を高温に加熱することなく高濃度のガスを供給することができるため、幅広い材料の供給に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態における供給装置の概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態における二重管式分離器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明を実施する方法について具体的に説明する。なお、以下の説明は、本発明の好適な実施態様の例を示すものであり、本発明は、以下の説明によって何ら限定されるものではない。なお、本明細書において、ガス中の成分の濃度を「%」で表した場合、特に断らない限り「体積%」を表すものとする。
【0029】
図1は、本発明の一実施形態における供給装置1の概略図である。供給装置1は、キャリアガス流路10を備えており、キャリアガス流路10により容器20にキャリアガスが導入される。キャリアガス流路10には、キャリアガスの流量を調節する流量調節手段11が設けられていることが好ましい。流量調節手段11としては、例えば、ニードル弁およびマスフローコントローラーの一方または両方を用いることができる。また、キャリアガス流路10には、キャリアガスの流れを開閉することができる弁を備えることができる。
図1に示した例では、キャリアガス流路10に2つの弁12、13が備えられている。
【0030】
容器20は、材料Mを収容するための容器である。容器20には、材料Mが固体または液体状で収容される。キャリアガス流路10から容器20へキャリアガスが導入されると、気化した材料Mとキャリアガスとが混合され、混合ガスが形成される(混合ガス調製工程)。
【0031】
容器20は、容器20内に収容された材料Mを加熱するための加熱手段(図示されない)を備えていることが好ましい。前記加熱手段としては、とくに限定されることなく、材料任意のものを用いることができる。前記加熱手段としては、例えば、マントルヒーター、リボンンヒーター、シリコンラバーヒーター、アルミヒーター、恒温槽、ウォーターバス、およびオイルバスからなる群より選択される少なくとも1つを用いることが好ましい。また、前記加熱手段は、材料Mの温度を一定に保つための温度制御装置を備えていることが好ましい。
【0032】
容器20には、前記混合ガスを取り出すための混合ガス流路30が接続されており、混合ガス流路30を通って混合ガスは濃縮手段40へ送られる。混合ガス流路には、混合ガスの流れを開閉することができる弁を備えることができる。
図1に示した例では、混合ガス流路30に2つの弁31、32が備えられている。
【0033】
図1に示すように、キャリアガス流路10と混合ガス流路30との間には、両者を接続するバイパス流路14と、バイパス流路14を開閉する弁15を設けることが好ましい。このようにバイパス流路14を設けることにより、容器20を経由することなくキャリアガスを下流側へ流すことができるので、フラッシングなど供給装置のメンテナンスを容易に行うことができる。特に、ガスが流路に残っている状態で配管を開放した場合、放出されたガスが大気中の成分と反応して毒性ガスが発生する場合がある。しかし、バイパス流路14があれば残留ガスを予めパージすることができるため、安全に作業を行うことができる。
【0034】
また、混合ガス流路30には、圧力測定手段33が備えられていることが好ましい。圧力測定手段33を用いることにより、混合ガスの圧力をモニターすることができる。さらに、混合ガス流路30には、圧力調整手段34が備えられていることが好ましい。圧力測定手段33で測定された圧力に基づいて圧力調整手段34を制御することにより、混合ガスの圧力を調整することができる。圧力調整手段34としては、例えば、背圧弁(バックブレッシャーレギュレーター、BPR)、オートプレッシャーレギュレータ、ピエゾバルブ、圧力コントロールシステムなどが好適に使用できる。
【0035】
また、圧力測定手段33は、容器内での異常の発生の検知に用いることができる。例えば、材料の熱分解などにより、異常な圧力上昇が生じた場合、圧力測定手段33により検知可能である。そのような異常を検知した場合、例えば、真空排気ラインより異常圧力上昇分を取り除くことができる。
【0036】
濃縮手段40は、図示されない分離膜を備えており、前記分離膜により混合ガス中の材料の濃度を高めた濃縮ガスを得ることができる(濃縮工程)。濃縮手段40の好ましい形態については後述する。
【0037】
なお、濃縮工程においてガスの温度が過度に低下すると、ガス中に含まれる材料ガスが、流路や濃縮手段40の内部で液化または固化してしまう場合がある。そのため、濃縮手段40は、図示されない加熱手段をさらに備えていることが好ましい。前記加熱手段は、予め定めた温度に保持するための温度制御手段を備えることがさらに好ましい。
【0038】
濃縮手段40の下流側には濃縮ガス流路50が接続されており、濃縮ガス流路50を通って濃縮ガスが装置60へ供給される(供給工程)。濃縮ガス流路50には、濃縮ガスの流れを開閉することができる弁51を備えることが好ましい。
【0039】
装置60の種類はとくに限定されず、前記材料を使用する装置であれば任意の装置であってよい。代表的な装置としては、成膜装置およびドライエッチング装置が挙げられる。前記成膜装置としては、例えば、CVD装置およびALD装置が挙げられる。
【0040】
一方、濃縮手段40の下流側には、排気流路70が接続されていることが好ましい。濃縮手段40では、分離膜をキャリアガスが選択的に透過することにより濃縮ガスが得られる。その際、同時に濃縮ガスの濃度が低下したガスが生じる。そのため、排気流路70を通じて前記濃縮ガスの濃度が低下したガスを排出すればよい。
【0041】
排気流路70には、
図1に示すように減圧手段71が接続されていることが好ましい。前記減圧手段により、濃縮手段40の分離膜の片側(排気側)を減圧し、効果的にキャリアガスを分離することができる。減圧手段71としてはとくに限定されることなく任意のものを用いることができるが、典型的には真空ポンプが用いられる。前記真空ポンプとしては、例えば、ドライポンプ、スクロールポンプ、油回転ポンプ、ターボ分子ポンプ、ダイヤフラムポンプ、およびクライオポンプからなる群より選択される少なくとも1つを用いることができる。
【0042】
また、排気流路70には、排気されるガスの流れを開閉することができる弁72を備えることが好ましい。
【0043】
本発明によれば、従来技術とは異なり、分離膜を用いて濃縮を行うため、簡便な装置であるにもかかわらず、インラインで連続的に高濃度のガス状の材料を供給することができる。また、分離膜によって濃縮を行うため、気化させる際に材料を高温に加熱して濃度を高くする必要がない。そのため、本発明は幅広い材料の供給に利用することができる。
【0044】
(材料)
本発明は、とくに限定されることなく任意の材料の供給に利用することができる。前記材料は、固体または液体状で容器内に収容される。そのため、通常は、常温、常圧において固体または液体である材料を用いることが好ましい。また、前記材料は、最終的にはガス状となって装置へ供給される必要がある。そのため、前記材料は、揮発性または昇華性であることが好ましい。
【0045】
本発明の一実施形態においては、材料が、塩化アルミニウム、塩化ハフニウム、塩化ジルコニウム、塩化タンタル、五塩化タングステン、六塩化タングステン、二酸化二塩化モリブデン、五塩化モリブデン、塩化ルテニウム、ヒドラジン化合物、ハフニウム化合物、ジルコニウム化合物、白金化合物、ルテニウム化合物、コバルト化合物、シリコン化合物、アルミニウム化合物、チタン化合物、タンタル化合物、純水、過酸化水素、有機溶剤からなる群より選択される少なくとも1つである。
【0046】
本発明では、複数の材料を同時に供給することもできる。複数の材料を供給する場合には、例えば、1つの容器内に複数の材料を混合した状態で収容しておき、それら複数の材料を気化させて同時に供給してもよい。また、それぞれ別の材料を収容した複数の容器を用いてもよい。複数の容器を用いる場合は、各容器にキャリアガスを供給し、各容器からの混合ガスを1つの濃縮装置に供給してもよい。
【0047】
(キャリアガス)
上記キャリアガスについても、とくに限定されることなく任意のガスを用いることができる。前記キャリアガスとしては、例えば、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、窒素(N2)、および水素(H2)からなる群より選択される少なくとも1つを用いることが好ましい。分離膜による濃縮の行いやすさの観点からは、単原子分子であるアルゴンまたはヘリウムをキャリアガスとして用いることがより好ましい。
【0048】
(濃縮手段)
次に、前記濃縮手段について、さらに具体的に説明する。上述したように、本発明の濃縮手段は、分離膜を備えている。通常、前記材料とキャリアガスとでは分子サイズが異なっており、一般的には、キャリアガス分子の方が前記材料の分子よりもサイズが小さい。この分子サイズの違いのため、前記分離膜は、キャリアガスを選択的に透過させることができる。
【0049】
使用する分離膜はとくに限定されないが、平均直径0.1~10nmの孔を有する分離膜を用いることが好ましい。
【0050】
また、前記分離膜の材質についてもとくに限定されないが、例えば、シリカ、炭素、ゼオライト、および樹脂から選択される少なくとも1つからなる分離膜を用いることができる。
【0051】
最終的に成膜装置などへ供給される材料ガスの濃度を高めるという観点からは、前記分離膜を用いた濃縮工程において、可能な限り混合ガス中のキャリアガスを除去することが望ましい。前記観点からは、混合ガス中に含まれるキャリアガスの1%以上を除去することが好ましく、10%以上を除去することが好ましく、50%以上を除去することがさらに好ましい。一方、除去されるキャリアガスの割合の上限はとくに限定されず、100%であってよいが、99%以下であってもよい。
【0052】
前記濃縮手段の構造はとくに限定されないが、典型的には、分離膜の一方の側(濃縮側)へ混合ガスを供給し、該混合ガスに含まれるキャリアガスを選択的に前記分離膜の他方の側(透過側)へ透過させる構造とすればよい。このようにキャリアガスを透過させることにより、前記一方の側に供給された混合ガス中の材料ガス濃度を高め、濃縮ガスとすることができる。なお、減圧を行う場合には、前記分離膜の透過側を減圧すればよい。
【0053】
前記濃縮手段の数はとくに限定されず、1つでもよく、複数でもよい。複数の濃縮手段を用いる場合には、それら濃縮手段は、並列に接続されていてもよく、直接に接続されていてもよい。
【0054】
(二重管式分離器)
本発明の一実施形態においては、前記濃縮手段として二重管式分離器を用いることが好ましい。以下、二重管式分離器を用いる場合について説明する。
【0055】
図2は、本発明の一実施形態における二重管式分離器100の構造を示す概略図である。二重管式分離器100は、外管110と、外管110の内側を通すように設けられた内管120とを備えている。そして、内管120の壁面の少なくとも一部は、分離膜121により構成されている。
【0056】
混合ガスは、まず矢印aで示すように、外管110の内部へ供給される。そして、混合ガス内に含まれるキャリアガスの少なくとも一部は、分離膜121を透過して内管120の内部に入る(矢印b)。その結果、供給された混合ガス中の材料ガス濃度が上昇して濃縮ガスとなる。得られた濃縮ガスは、矢印cで示すように外管110から排出される。一方、分離膜121を透過したキャリアガスは、矢印dで示すように内管120から排出される。
【0057】
(温度)
上述したように、容器は、該容器内に収容された材料を加熱するための加熱手段を備えることが好ましい。容器内の材料を加熱する際の温度はとくに限定されず、前記材料が分解しない温度とすればよい。容器に収容された材料の気化を促進するという観点からは、前記容器を30℃以上に加熱することが好ましい。一方、過度に加熱すると材料が熱分解する場合がある、そのため、本発明の一実施形態においては、前記容器を加熱する際の加熱温度を前記材料の分解温度以下とすることが好ましく、(分解温度-20℃)以下とすることがより好ましい。また、本発明の他の実施形態においては、前記容器を加熱する際の加熱温度を200℃以下とすることが好ましい。
【0058】
また、上述したように、濃縮手段は、材料の液化および固化を防止するために加熱手段を備えることが好ましい。濃縮手段を加熱する際の温度はとくに限定されず、前記材料が分解しない温度とすればよい。材料の液化および固化を防止するという観点からは、前記濃縮手段を30℃以上に加熱することが好ましい。一方、過度に加熱すると材料が熱分解する場合がある、そのため、本発明の一実施形態においては、前記濃縮手段を加熱する際の加熱温度を前記材料の分解温度以下とすることが好ましく、(分解温度-20℃)以下とすることがより好ましい。また、本発明の他の実施形態においては、前記濃縮手段を加熱する際の加熱温度を250℃以下とすることが好ましい。
【0059】
容器内の材料と濃縮手段の両者を加熱する場合、濃縮手段の加熱温度が、容器内の材料の加熱温度よりも高いことが好ましい。これは、濃縮手段やその周辺の流路(配管)における材料の液化・固化をより確実に防止するためである。すなわち、実際の装置では、濃縮手段を加熱している場合であっても、該濃縮手段やその周辺の流路を流れるガスの温度が局所的に低い箇所(コールドポイント)が発生する。そこで、濃縮手段の温度を高めにすることにより、前記コールドポイントにおける材料の液化・固化を、より確実に防止することができる。そしてその結果、より安定して高濃度のガスを供給することができる。
【0060】
言い換えると、本発明では容器の加熱温度を、濃縮手段の加熱温度よりも低くすることが好ましい。本発明のような分離膜を用いた濃縮を行わない場合、容器の加熱温度を低くすると供給される材料ガスの濃度が低下してしまう。しかし、本発明では分離膜を用いて濃縮することにより材料ガス濃度を高めることができる。したがって、本発明によれば、容器の加熱温度を低くして材料の分解を抑制しつつ、高濃度の材料ガスを供給することが可能となる。
【実施例0061】
本発明の効果を確認するために、表1に示す条件でALDによる成膜を行った。その際、ガスとして表1に示したプリカーサと反応剤を使用し、プリカーサおよび反応剤のいずれか一方のガスを本発明の方法で供給した。濃縮対象ガスおよびキャリアガスの組成を表1に併記する。
【0062】
濃縮前のガス(混合ガス)中に含まれる材料の濃度と、濃縮後のガス(濃縮ガス)に含まれる材料の濃度を、それぞれFT-IR法により測定した。測定結果を表1に示す。なお、比較のため、比較例1~7においては濃縮を行わなかった。そのため、比較例1~7においては濃縮前の濃度のみを示している。
【0063】
【0064】
上記各実施例における成膜速度(Growth Per cycle:GPC、1サイクルあたりの成膜量)は表1に示したとおりであった。GPCが高いほど成膜速度が速く、効率的に成膜できることを示している。
【0065】
また、一部の実施例では、得られた膜の密度、絶縁破壊電解強度、および1% HF WER(wet etch rate)を測定した。測定結果を表1に示す。膜密度が高い方ほど、緻密な膜が形成されたことを表しており、良好な結果といえる。また、絶縁破壊電解強度が高いほど膜の絶縁性が高いことを意味しており、良好な結果といえる。さらに、1% HF WERが低いほどフッ酸耐性が高いことを意味しており、良好な結果といえる。
【0066】
表1に示した結果から分かるように、本発明を適用した実施例では、材料ガスを濃縮して供給した結果、成膜速度および膜質が向上した。これは、材料ガスが濃縮されたことで、成膜中の材料ガス分圧が上昇し、基板に対し材料ガスの衝突頻度が向上したためであると考えられる。