(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118436
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】成形体
(51)【国際特許分類】
B29B 15/12 20060101AFI20240823BHJP
B29K 105/10 20060101ALN20240823BHJP
【FI】
B29B15/12
B29K105:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024014433
(22)【出願日】2024-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2023024261
(32)【優先日】2023-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】古橋 佑真
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA08
4F072AB10
4F072AB22
4F072AD42
4F072AG03
4F072AG17
4F072AH06
4F072AH49
4F072AL02
4F072AL04
4F072AL05
4F072AL16
4F072AL17
(57)【要約】
【課題】本発明は、内部の残留歪が抑制され、かつ、均質性に優れた成形体を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の成形体は、熱可塑性樹脂と繊維基材とを含み、MIRS法によって測定される最大主歪が-600~+600μεであり、結晶化度が、45%以下である。MIRSとは、Modified Internal Residual Stressの略である。好ましい一例において、成形体の結晶化度は20%以上である。好ましい他の一例において、成形体の内部欠陥率は3%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と繊維基材とを含む成形体であって、
MIRS法によって測定される最大主歪が、-600~+600μεであり、
結晶化度が、45%以下である、成形体。
【請求項2】
前記結晶化度が、20%以上である、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記成形体の内部欠陥率が、10%以下である、請求項1に記載の成形体。
【請求項4】
前記成形体の厚みが、0.5mm以上である、請求項1または2に記載の成形体。
【請求項5】
前記成形体の厚みが、100mm以下である、請求項1または2に記載の成形体。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が、ポリアリールエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂およびポリアミド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の成形体。
【請求項7】
前記繊維基材が、一方向に繊維を引き揃えたシートを含む、請求項1または2に記載の成形体。
【請求項8】
前記繊維基材が、炭素繊維を含む、請求項1または2に記載の成形体。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂がポリアリールエーテルケトン樹脂を含み、前記ポリアリールエーテルケトン樹脂の割合が前記熱可塑性樹脂の総量の80質量%以上である、請求項1または2に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材は、そのマトリックス樹脂の特徴に応じて、航空機、自動車、医療機器等の幅広い用途に適用されている。繊維強化複合材のマトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂、エンジニアリングプラスチックのような熱可塑性樹脂が用いられている。
【0003】
繊維強化複合材は、その用途に応じて材料および形態が異なる。繊維強化複合材の形態の一つとして、肉厚な板形状がある。肉厚な板形状の繊維強化複合材の製造においては、薄い板に比べ内部欠陥が生じやすい。また、板内部に歪が蓄積しやすい。これらは製品の品質および加工性に直接的に影響を与えるためその改善が必要である。
【0004】
特許文献1には、結晶性の熱可塑性樹脂を含むスタンパブルシートの熱伝導率をガラス繊維の含有量により制御することが記載されている。熱伝導率の異なる複数のスタンパブルシートを積層することで、成形時の板内部の温度勾配を低減することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ガラス繊維の含有量によって熱伝導率を制御すると、同一の成形板内であっても各層の剛性に差異が生じるため、成形体の内部で歪が発生する恐れがある。加えて、各層の剛性差により成形体内での物性差が発生する恐れもある。よって、製品の均質性が不十分である。
本発明の目的の一つは、加工精度および均質性が改善された成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]熱可塑性樹脂と繊維基材とを含む成形体であって;MIRS法によって測定される最大主歪が、-600~+600μεであり;結晶化度が、45%以下である、成形体。
[2]前記結晶化度が、20%以上である、[1]に記載の成形体。
[3]前記成形体の内部欠陥率が、10%以下である、[1]または[2]に記載の成形体。
[4]前記成形体の厚みが、0.5mm以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の成形体。
[5]前記成形体の厚みが、100mm以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の成形体。
[6]前記熱可塑性樹脂が、ポリアリールエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂およびポリアミド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の成形体。
[7]前記繊維基材が、一方向に繊維を引き揃えたシートを含む、[1]~[6]のいずれかに記載の成形体。
[8]前記繊維基材が、炭素繊維を含む、[1]~[7]のいずれかに記載の成形体。
[9]前記熱可塑性樹脂がポリアリールエーテルケトン樹脂を含み、前記ポリアリールエーテルケトン樹脂の割合が前記熱可塑性樹脂の総量の80質量%以上である、[1]~[8]のいずれかに記載の成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、内部の残留歪が抑制され、かつ、均質性に優れた成形体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、成形体内部の冷却速度の最大値、最小値の決定法の説明図である。
【
図2】
図2は、加工性試験での穴の寸法を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例1の成形板の結晶化度の算出に使用したXRDの測定結果を示す。
【
図4】
図4は、比較例1の成形板の結晶化度の算出に使用したXRDの測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<成形体>
本発明の一形態に係る成形体は、熱可塑性樹脂と繊維基材とを含み、Modified Internal Residual Stress(MIRS)法によって測定される最大主歪が-600~+600μεであり、かつ、結晶化度が45%以下である。
【0011】
(最大主歪)
MIRS法によって測定される最大主歪が前記数値範囲内である成形体は、成形体内部における残留歪が抑制されている。残留歪が抑制された成形体によれば、加工精度が向上するという利点が提供される。
残留歪の抑制の点では、該最大主歪は-600~+600μεが好ましく、-500~+500μεがより好ましく、-400~+400μεがさらに好ましく、-300~+300μεが特に好ましく、-250~+250μεが最も好ましい。
最大主歪は、MIRS法によって測定される値である。詳細な測定方法、測定条件は後述の実施例に記載の通りである。
【0012】
(結晶化度)
結晶化度の上限値を所定値以下に制御することで、耐衝撃性が向上する。また、ボイドのような欠陥が成形体の内部で生じにくくなる結果、成形体の均質性が向上する。結晶化度は45%以下が好ましく、44%以下がより好ましい。また、結晶化度は20%以上が好ましく、35%以上がより好ましい。結晶化度が前記数値範囲内の下限値以上であると、後の加工工程や製品使用環境における再結晶化による歪が発生しにくい。
結晶化度は、X-Ray Diffraction(XRD)の測定結果に基づいて算出される値である。詳細な測定方法、測定条件は後述の実施例に記載の通りである。
【0013】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂には、例えば、ハイサイクルでの成形が可能であること、耐衝撃性に優れること等の利点がある。また、エンジニアリングプラスチックの場合、耐熱性に優れるという利点もある。
熱可塑性樹脂は特に限定されるものではなく、結晶性樹脂、非晶性樹脂のいずれも用いることができる。結晶性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリールエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。ポリアリールエーテルケトンとしては、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン等が挙げられる。非晶性樹脂としては、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド等が挙げられる。
熱可塑性樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。使用環境での安定性の観点からは、結晶性の熱可塑性樹脂が好ましい。
【0014】
熱可塑性樹脂としては、ポリアリールエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂およびポリアミド樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むものが好ましく、ポリアリールエーテルケトン樹脂を含むことが特に好ましい。耐熱性の観点から、結晶性樹脂の場合、その融点は260℃以上であることが好ましい。非晶性樹脂の場合、そのガラス転移温度は200℃以上であることが好ましい。融点やガラス転移温度が高いほど成形時の最高温度と室温の差が大きくなる。そのため、冷却速度による最大主歪の制御における加工精度向上が顕著になる。
【0015】
熱可塑性樹脂が結晶性樹脂を含む場合、結晶性樹脂の割合は、例えば、熱可塑性樹脂の総量の50~60質量%、60~70質量%、70~80質量%、80~100質量%とすることができる。結晶性樹脂の割合を増やすと、使用環境下で暴露される可能性のある薬品に対する耐薬品性能が向上した成形体が得られやすい。結晶性樹脂の割合を減らすと、異種材との接着性や寸法安定性が向上した成形体が得られやすい。
【0016】
熱可塑性樹脂がポリアリールエーテルケトン樹脂を含む場合、ポリアリールエーテルケトン樹脂の割合は、例えば、熱可塑性樹脂の総量の50~60質量%、60~70質量%、70~80質量%、80~100質量%とすることができる。ポリアリールエーテルケトン樹脂の割合が多いほど、耐薬品性能や機械特性が向上した成形体が得られやすい。
【0017】
成形体のマトリクス樹脂は熱可塑性樹脂以外の他の樹脂を含んでもよい。成形体が他の樹脂を含む場合、熱可塑性樹脂の割合はマトリクス樹脂の総量の95質量%以上、99質量%以上、100質量%とすることができる。熱可塑性樹脂の割合が多いほど、耐衝撃性や靭性が向上した成形体が得られやすい。
【0018】
(繊維基材)
繊維基材は、複数の繊維の集合体である。繊維基材はシート状であることが好ましい。繊維基材中の繊維の配向は、繊維が単一方向に配列したものであってもよく、ランダム方向に配列したものであってもよい。
繊維基材の形態としては、特に限定されるものではないが、例えば、織物、不織布、連続繊維が単一方向に引き揃えられた繊維の束からなるシート、繊維束をチョップしたチョップド繊維束が散布されたシートが挙げられる。繊維基材の形態は1種を単独でもよく、2種以上でもよい。
【0019】
比強度、比弾性率が高い成形体が得られやすいという点では、連続繊維が単一方向に引き揃えられた繊維の束からなるシートが好ましい。取り扱いが容易であるという点では、繊維の織物が好ましい。
繊維基材の目付は特に制限されないが、例えば25~500g/m2とすることができる。
【0020】
繊維基材の繊維としては、強化繊維が使用できる。強化繊維の種類は特に限定されるものではないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維、高強度ポリエステル繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、窒化珪素繊維が挙げられる。なかでも、機械物性、軽量化の点から、炭素繊維が好ましい。
繊維は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
一つの繊維束における繊維の本数は、1000~70000本が好ましい。
【0021】
繊維基材における強化繊維としては、複数の強化繊維を束ねた強化繊維束の形態が好ましい。強化繊維束を複数束用いて一方向に繊維を引き揃えたシートを含む強化繊維基材としてもよいし、強化繊維束をチョップしたチョップド強化繊維束を散布してシート状の強化繊維基材としてもよい。
一つの強化繊維束における強化繊維の本数は、1000~70000本が好ましい。
【0022】
(内部欠陥率)
成形体の内部欠陥率は10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、4%以下がさらに好ましい。内部欠陥率が前記上限値以下であれば、成形体の内部の欠陥が少ないため、均質性にさらに優れると言える。
内部欠陥率は、超音波プローブを用いて測定される値である。詳細な測定方法、測定条件は後述の実施例に記載の通りである。
【0023】
(厚み)
成形体の厚みは0.5mm以上が好ましく、1mm以上がより好ましく、2mm以上がさらに好ましく、5mm以上がことさら好ましく、10mm以上が特に好ましく、15mm以上が極めて好ましく、20mm以上が最も好ましい。成形体の厚みが前記下限値以上であれば、内部の残留歪が抑制され、かつ、均質性に優れた成形体を提供することの技術的意義がより顕著である。
成形体の厚みは100mm以下が好ましく、80mm以下がより好ましく、50mm以下がさらに好ましい。成形体の厚みが前記上限値以下であれば、内部の残留歪が抑制され、かつ、均質性に優れた成形体が得られやすい。
例えば、肉厚の成形板の場合、上面の四隅と上面の中心の5点において高さ方向の厚みを測定し、これら5点の平均値として厚みは算出される。
【0024】
(成形体の製造方法)
成形体の製造には、繊維基材に粉末状、フィルム状、繊維状の熱可塑性樹脂を配置した未含浸の中間基材、また、繊維基材に熱可塑性樹脂が含浸したプリプレグを用いることができる。例えば、複数のプリプレグからなるプリプレグ積層体を加熱成形または圧縮成形することで成形体を製造できる。具体的には、プリプレグを2枚以上積層した後、得られた積層体に圧力を付与しながら加熱した後に冷却することで成形体を製造できる。
【0025】
プリプレグは、例えば熱可塑性樹脂を繊維基材に含浸させることで得られる。熱可塑性樹脂を繊維基材に含浸させる方法としては、例えば、熱可塑性樹脂フィルムを加熱して溶融させながら加圧して繊維基材に押し付ける方法が挙げられる。他にも、熱可塑性樹脂粉体を繊維基材の表面に散布した後に加熱する方法(パウダー法)、熱可塑性樹脂が液状媒体に溶解または分散した液に繊維基材を浸漬する方法(スラリー法)が挙げられる。
【0026】
プリプレグ中の熱可塑性樹脂の含有量(以下、「樹脂含有量」ともいう。)は、プリプレグの総質量の15~70質量%が好ましく、20~60質量%がより好ましく、25~45質量%がさらに好ましい。樹脂含有量が前記数値範囲内の下限値以上であれば、繊維基材と熱可塑性樹脂の接着性を十分に確保しやすい。樹脂含有量が前記数値範囲内の上限値以下であれば、成形体の機械物性がより向上しやすい。
【0027】
プリプレグ中の繊維基材の含有量(以下、「繊維含有量」ともいう。)は、プリプレグの総体積の20~75体積%が好ましく、30~70体積%がより好ましく、45~65体積%がさらに好ましい。繊維含有量が前記数値範囲内の下限値以上であれば、成形体の機械物性がより向上しやすい。繊維含有量が前記数値範囲内の上限値以下であれば、繊維基材と熱可塑性樹脂の接着性を十分に確保しやすい。
【0028】
成形方法は特に限定されない。例えば、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法、シートラップ成形法が挙げられる。これらのなかでも、高い生産性が得られる点でプレス成形法が好ましい。
【0029】
成形体の最大主歪を-600~+600μεの範囲内とし、かつ、結晶化度を45%以下とするためには、加熱成形した後の熱可塑性樹脂の冷却速度を調整することが好ましい。
冷却速度としては、最大主歪および結晶化度を特定範囲にする観点から、100℃/分以下が好ましく、50℃/分以下がより好ましく、10℃/分以下がさらに好ましい。また、成形体内部の冷却速度の最大値と最小値の差が最大値の10%以下であることが好ましい。
【0030】
成形体の冷却速度は成形時の最高温度から、マトリックス樹脂の融点またはガラス転移温度に至るまでの時間から算出できる。成形体内部の冷却速度の最大値、最小値は、板を厚み方向に1区画が2mm~3mmの範囲になるように3区画以上に分割して測定された各位置における冷却速度に基づいて決定される。例えば、
図1に示す厚みtの成形体1を厚み方向に5分割したとき、成形体1に示す厚み方向の各範囲D
1,D
2,D
3,D
4、D
5において、内部の冷却速度を測定する。各範囲における5つの冷却速度から最大値、最小値を選択することができる。
【0031】
(用途)
成形体は、例えば自動車用部材、航空宇宙構造部材、医療機器用部材、土木建築用部材、釣り竿、ゴルフシャフト、ラケット等のスポーツ・レジャー用部材、圧力容器、風車ブレード等の工業用部材のような幅広い用途に使用できる。
【実施例0032】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の記載によって限定されない。
【0033】
<実施例1>
ポリエーテルエーテルケトン樹脂(ポリプラ・エボニック株式会社製、商品名「VESTAKEEP3300G」)をフィルム状に押出成形することで、プリプレグに用いるマトリックス樹脂フィルムを得た。次いで、PAN系炭素繊維(三菱ケミカル株式会社製品「MR50R」、570tex、12,000本のストランド)を一方向に配向した炭素繊維シートに、先に作製したマトリックス樹脂フィルムを積層し、フィルムを炭素繊維シートに加熱溶融含浸させ、プリプレグを作製した。得られたプリプレグを118mm×118mmの寸法に裁断したものを129枚、繊維方向が0°/90°/0°/90°・・・0°/90°/0°と交互になるように積層することで、積層体を作製した。得られた積層体を鋼製金型の下型内に配置した後、上型を閉じた。続いて、加熱冷却二段プレス(株式会社神藤金属工業所製、50トンプレス)にて390℃に設定された加熱盤内で、金型温度を計測しながら約60分間予熱した後、10MPaの圧力で30分間圧縮成形を行った。続いて、加熱盤のヒーターを停止することで冷却を開始した。金型温度が30℃に到達した後5分経過したとき、プレス機から金型を取り出した。冷却速度は成形体の一方の表面から板の厚み方向に約0.2mmの位置で1.9℃/min、板の厚み方向に約11mmの位置で1.7℃/minであった。金型内から120mm×120mmの肉厚成形板(厚み22mm)を得た。肉厚成形板の厚みは、上面の四隅と上面の中心の5点において高さ方向の厚みを測定し、これら5点の平均値として算出した。
【0034】
<比較例1>
実施例1において、圧縮成形を行った後の冷却条件を、ヒーターを停止すること(徐冷条件)の代わりに20℃の冷却盤を金型の外から接触させること(急冷条件)に変更した以外は、実施例1と同じ操作によって120mm×120mmの肉厚成形板(厚み22mm)を得た。冷却速度は成形体の一方の表面から板の厚み方向に約0.2mmの位置で89℃/min、板の厚み方向に約11mmの位置で48℃/minであった。
【0035】
<比較例2>
比較用の肉厚成形板としてPort Plastics社製品「Ketron LSG CC PEEK」を用意した。サイズは300mm×218mm×25mmである。マトリックス樹脂はポリエーテルエーテルケトンであり、繊維基材は炭素繊維であり、炭素繊維の体積含有率は50%であった。
【0036】
<測定方法>
(最大主歪)
肉厚成形板の残留歪について、「河合真二, 岡野成威, 村田友宏, 望月正人, 永井卓也『ディープホールドリリング法による極厚板多層溶接継手における内部残留応力計測の精度検証』圧力技術第57巻第3号p.162-170,2019(JHPI Vol.57 No.3 2019)」を参照してMIRSによって評価した。具体的には、最大主歪を、肉厚成形板の一方の表面から実施例1および比較例1は1~21mmまでの範囲を、比較例2は1~24mmまでの範囲を0.2mm間隔で測定した。得られた最大主歪の最大値(最大主歪(+))および最小値(最大主歪(-))を表1に示す。最大主歪(+)を計測した深さD1、最大主歪(-)を計測した深さD2を併せて表1に示す。
【0037】
(結晶化度)
湿式カッター(マルトー社製品「MC―438」)を用いて、2cm×2cm×(2mm~3mm)の試験片を3体切り出した。切断の際には、肉厚成形板の一方の表面から厚み方向で3mm毎に離れた位置で順に切断した。採取した試験片は、表面に近い方からサンプル1、サンプル2、サンプル3とした。肉厚成形板の該表面から見てサンプル1、サンプル2、サンプル3の順により深い内部位置にある。
【0038】
サンプル1~3について、XRDによってそれぞれ取得した結晶ピークおよび非晶ピークより結晶化度を算出した。本実施例においては、XRDプロファイル(2θ=10.55~35.55°の範囲)を7つのガウス関数(結晶ピーク5つ、非晶ピーク2つ)の足し併せでフィッティングした。結晶由来ピーク面積の割合を結晶化度とした。
【0039】
XRDの測定条件は以下の通りである。
・分析装置:EMPYREAN(Malvern Panalytical)
・X線:CuKα
・X線出力:40mA、 45kV
・フォーカス:ポイント
・スリット:2.0mm×2.0mm
・測定範囲:5~60°(step 0.1°)
・露光時間:10s/step
【0040】
(内部欠陥率)
超音波探傷映像化装置(エビデント社製品「Focus PX」)を用いて肉厚成形板の内部欠陥率を測定した。超音波プローブにはオリンパス社製品「5L64-I1」を用いた。スキャナーには2軸水槽試験装置を用いた。
得られる波高値を256諧調に分離した際50%以上の高さが検出される部分を内部欠陥とし、肉厚成形板の上面の全面積に対する内部欠陥率を算出した。得られた内部欠陥率を表1に示す。
【0041】
超音波探傷の各種条件は以下の通りである。
・Beam Delay:0.00us
・Start(深さ):-2.00mm
・Range(深さ):60.58mm
・PRF:100
・Type:UT
・Averaging Factor:1
・Pretrig.:1.54us
・Rectification:全波
・Band-Pass Filter:バンドパス1.0-3.5MHz
・Voltage:115V
・Fain:22.00dB
・Mode:PE(パルスエコー)
・Wave Type:縦波
・Sound Velocity:2600.0m/秒
・Pulse Width:100.00ns
・Scan offset:0.00mm
・Index Offset:3.30mm
・Skew:90.0o
・Conditional A-Scan:オフ
・Gate Saved:オン
【0042】
(加工性)
肉厚成形板に対して、以下に示す加工を実施しその寸法精度から加工性を評価した。
図2に示すように肉厚成形板10の端部に3つの穴11,12,13をあける加工を施した。各穴同士の間隔pは30.0mm、各穴の大きさsは10.0mm、深さdは12.5mmとなるようその寸法を設計した。
加工にはマシニングセンタ(ファナック株式会社製、α―D14LiB5)、直径10mmのエンドミル(三菱マテリアル株式会社製、DFC4JCD1000)を用いた。回転速度6000rpm、加工速度100mm/minで加工した。加工後、表層(表層から0~1mm)および内層(表層から11~12mm)の穴の直径を、ノギス(株式会社ミツトヨ製、CD-20PMX)を用いて測定した。加工性評価は、実施例1及び比較例1について実施した。
【0043】
<結果>
最大主歪、結晶化度、内部欠陥率の測定結果を表1に示す。
【0044】
【0045】
実施例1の肉厚成形板は、適度な結晶化状態に制御されている。このことで良好な内部欠陥を達成でき、また、残留歪を抑制できたと考えられる。
【0046】
比較例1の肉厚成形板は、板内部の品質に優れるものの非常に大きな残留歪が生じていた。実施例1と比較すると比較例1では結晶化度が総じて低い。このことを考慮すると、十分に結晶化するだけの冷却時間が与えられなかったため、板内部での固化タイミングにずれが生じたと推定される。その結果として、肉厚成形板の表面側の各層には引張歪が残留し、また、内層には圧縮歪が残留したと考えられる。
【0047】
比較例2の肉厚成形板は板内部の残留歪が抑制されているものの内部欠陥が非常に多かった。これは結晶化度が高いがゆえに結晶化における成形収縮により、クラックが発生した結果、ボイドが形成されたと考えられる。
【0048】
実施例1、比較例1のXRDの測定結果を
図3、
図4にそれぞれ示す。
図3に示すように実施例1では、サンプル1、サンプル2およびサンプル3の間でXRDプロファイルの各スペクトルが良好に一致した。対して
図4に示すように比較例1では、サンプル1、サンプル2およびサンプル3の間でXRDプロファイルの各スペクトルが実施例1ほど一致していない。よって、実施例1の成形体は均質性に優れると考えられる。
【0049】
加工性の評価結果を表2に示す。
【0050】
【0051】
表2に示すように、直径10mmのエンドミルでの加工後、実施例1は比較例1と比較して寸法誤差の少ない結果となった。これは最大主歪の違いによるものと推測される。比較例1は穴あけ加工により板内部に残存していた歪が解放されたことで、微小な寸法変化が生じた結果、狙いの加工寸法に対して誤差が生じたと考えられる。