IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エフ イー アイ カンパニの特許一覧

特開2024-118456実験データにおける高速異常検出のための深層学習技術
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118456
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】実験データにおける高速異常検出のための深層学習技術
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/244 20060101AFI20240823BHJP
   H01J 37/22 20060101ALI20240823BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20240823BHJP
   G01N 23/2206 20180101ALI20240823BHJP
   G01N 23/2252 20180101ALI20240823BHJP
   G06N 3/0455 20230101ALI20240823BHJP
   G01N 23/2276 20180101ALI20240823BHJP
   G01N 23/20091 20180101ALI20240823BHJP
   G01N 23/203 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
H01J37/244
H01J37/22
H01J37/28 C
G01N23/2206
G01N23/2252
G06N3/0455
G01N23/2276
G01N23/20091
G01N23/203
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024022867
(22)【出願日】2024-02-19
(31)【優先権主張番号】18/171,541
(32)【優先日】2023-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100229448
【弁理士】
【氏名又は名称】中槇 利明
(72)【発明者】
【氏名】ハンズ バンロムペイ
(72)【発明者】
【氏名】モーリス ペーメン
【テーマコード(参考)】
2G001
5C101
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA05
2G001BA07
2G001BA11
2G001DA06
2G001DA09
2G001EA03
2G001FA29
2G001HA07
2G001HA13
5C101AA05
5C101AA13
5C101AA14
5C101AA16
5C101AA22
5C101AA23
5C101GG03
5C101GG04
5C101GG05
5C101GG06
5C101GG07
5C101GG09
5C101HH11
5C101HH51
(57)【要約】      (修正有)
【課題】科学的機器支援システム、方法、装置、コンピューティングデバイス及びコンピュータ可読媒体を提供する。
【解決手段】1つ以上の分光モダリティと撮像モダリティとを支援する検出器160、170、180と、検出器が受信した測定値162、172、182のストリームを処理する電子コントローラ150と、を含む科学機器であって、電子コントローラは、撮像モダリティに対応する測定値に基づいて試料Sのベース画像を生成し、ベース画像に基づいて、かつ、ベース画像の異なるピクセルに対応する、測定されたスペクトルとオートエンコーダによって再構築されたスペクトルとの間の差異に更に基づいて、試料の異常マップを生成する。異常マップは、より詳細な検査及び/又は分析のために、試料内の特定の問題スポットを数秒以内に識別するために、品質管理手順において有益に使用することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置であって、
試料を横切って電子ビームを走査するように構成された電子ビームカラムと、
前記電子ビームと前記試料との相互作用によって引き起こされた信号を測定するように構成された複数の検出器であって、第1のモダリティのための第1の検出器と、撮像モダリティのための第2の検出器と、を含む、複数の検出器と、
電子コントローラと、を備え、前記電子コントローラが、前記複数の検出器から測定値のストリームを受信するように接続されており、かつ
前記撮像モダリティを使用して生成された、前記試料のベース画像の各ピクセルについて、オートエンコーダを用いて、それぞれの第1の入力ベクトルを潜在空間内のそれぞれの確率密度にマッピングすることであって、前記それぞれの第1の入力ベクトル及び前記ベース画像が、前記測定値のストリームに基づいて取得され、前記それぞれの第1の入力ベクトルが、前記第1のモダリティに対応する、マッピングすることと、
前記オートエンコーダを用いて、前記それぞれの確率密度に対応するそれぞれの第1の出力ベクトルを計算することと、
前記ベース画像の異なるピクセルに対応するそれぞれの差異に基づいて、前記試料の異常マップを生成することであって、前記それぞれの差異の各々が、前記それぞれの第1の入力ベクトルと前記それぞれの第1の出力ベクトルとの間の差異である、生成することと、を行うように構成されている、装置。
【請求項2】
前記複数の検出器が、高角度環状暗視野検出器、中角度環状暗視野検出器、環状明視野検出器、セグメント化環状検出器、微分位相コントラスト検出器、電子エネルギー損失分光法(EELS)検出器、エネルギー分散型X線分光法(EDS)検出器、及び二次元回折パターン検出器からなる群から選択される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1の検出器が、EELS検出器又はEDS検出器である、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記オートエンコーダが、
前記それぞれの第1の入力ベクトルを、前記潜在空間内の前記それぞれの確率密度にマッピングするように構成されたニューラルネットワークエンコーダと、
前記それぞれの確率密度に基づいて、前記それぞれの第1の出力ベクトルを生成するように構成されたニューラルネットワークデコーダと、を備え、
前記ニューラルネットワークエンコーダ及び前記ニューラルネットワークデコーダが、損失関数と、トレーニングベクトルのセットと、再構築されたトレーニングベクトルの対応するセットと、を使用してトレーニングされており、前記損失関数が、再構築損失を表す項と正則化項との和を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記電子コントローラが、平均二乗誤差(MSE)、二乗平均平方根誤差(RMSE)、平均絶対誤差(MAE)、外れ値検査、又はHuber損失に基づいてそれぞれの差異評価メトリック(DEM)値を計算することによって、前記それぞれの第1の入力ベクトルと前記それぞれの第1の出力ベクトルとの間の差異を評価するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記ベース画像の各ピクセルについて、前記電子コントローラが、前記それぞれのDEM値とDEM閾値との比較に基づいて、前記ピクセルを異常又は非異常としてマーキングするように構成されている、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記異常マップが、前記試料のバイナリ、グレースケール、又はカラー画像であり、前記異常マップにおいて、各非異常ピクセルは黒であり、各異常ピクセルは白であり、前記それぞれのDEM値と前記DEM閾値との間の差異に基づいてグレースケールコード化され、又は前記それぞれのDEM値と前記DEM閾値との間の差異に基づいてカラーコード化される、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記複数の検出器が、第2のモダリティのための第3の検出器を含み、
前記電子コントローラが、
前記ベース画像の各ピクセルについて、前記オートエンコーダを用いて、前記それぞれの第1の入力ベクトル及びそれぞれの第2の入力ベクトルを、前記潜在空間内の前記それぞれの確率密度に合同でマッピングすることであって、前記それぞれの第2の入力ベクトルが、前記第2のモダリティに対応し、かつ前記測定値のストリームに基づいて取得される、マッピングすることと、
前記オートエンコーダを用いて、前記それぞれの確率密度に対応するそれぞれの第2の出力ベクトルを計算することであって、第1の出力ベクトルが前記第1のモダリティに対応し、第2の出力ベクトルが前記第2のモダリティに対応する、計算することと、を行うように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記オートエンコーダが、
前記それぞれの第1の入力ベクトルを、前記潜在空間の第1のプライベート部分空間における第1の確率密度にマッピングするように構成された第1のニューラルネットワークエンコーダと、
前記それぞれの第2の入力ベクトルを、前記潜在空間の第2のプライベート部分空間における第2の確率密度にマッピングするように構成された第2のニューラルネットワークエンコーダと、を備え、
前記第1のニューラルネットワークエンコーダ及び前記第2のニューラルネットワークエンコーダが、前記それぞれの第1の入力ベクトル及び前記それぞれの第2の入力ベクトルを、前記潜在空間の共有部分空間における前記それぞれの確率密度に合同でマッピングするように更に構成されている、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記それぞれの第1の入力ベクトル及び前記それぞれの第2の入力ベクトルの各々が、100~10000の範囲内のそれぞれの次元数を有しており、
前記潜在空間が、二次元空間、四次元空間、又は八次元空間である、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記電子コントローラが、前記測定値のストリームに処理を適用して、前記それぞれの第1の入力ベクトルを取得するように構成されており、前記処理が、外れ値ピークの除去、推定バックグラウンドの減算、スケーリング、正規化、平均化、選択された関数によるフィッティング、ビニング又は再ビニング、及びガウスカーネルフィルタリングからなる群から選択される1つ以上の動作を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
科学機器のための支援装置であって、前記支援装置は、
前記科学機器の複数の検出器から測定値のストリームを受信するように構成されたインターフェースデバイスであって、前記複数の検出器が、電子ビームと試料との相互作用によって引き起こされた信号を測定するように構成されており、かつ前記科学機器の第1のモダリティのための第1の検出器と、前記科学機器の撮像モダリティのための第2の検出器と、を含む、インターフェースデバイスと、
処理デバイスと、を備え、前記処理デバイスは、
前記撮像モダリティを使用して生成された、前記試料のベース画像の各ピクセルについて、オートエンコーダを用いて、それぞれの第1の入力ベクトルを潜在空間内のそれぞれの確率密度にマッピングすることであって、前記それぞれの第1の入力ベクトル及び前記ベース画像が、前記測定値のストリームに基づいて取得され、前記それぞれの第1の入力ベクトルが、前記第1のモダリティに対応する、マッピングすることと、
前記オートエンコーダを用いて、前記それぞれの確率密度に対応するそれぞれの第1の出力ベクトルを計算することと、
前記ベース画像の異なるピクセルに対応するそれぞれの差異に基づいて、前記試料の異常マップを生成することであって、前記それぞれの差異の各々が、前記それぞれの第1の入力ベクトルと前記それぞれの第1の出力ベクトルとの間の差異である、生成することと、を行うように構成されている、支援装置。
【請求項13】
前記複数の検出器が、高角度環状暗視野検出器、中角度環状暗視野検出器、環状明視野検出器、セグメント化環状検出器、微分位相コントラスト検出器、電子エネルギー損失分光法(EELS)検出器、エネルギー分散型X線分光法(EDS)検出器、及び二次元回折パターン検出器からなる群から選択される、請求項12に記載の支援装置。
【請求項14】
前記第1の検出器が、EELS検出器又はEDS検出器である、請求項12に記載の支援装置。
【請求項15】
前記オートエンコーダが、
前記それぞれの第1の入力ベクトルを、前記潜在空間内の前記それぞれの確率密度にマッピングするように構成されたニューラルネットワークエンコーダと、
前記それぞれの確率密度に基づいて、前記それぞれの第1の出力ベクトルを生成するように構成されたニューラルネットワークデコーダと、を備え、
前記ニューラルネットワークエンコーダ及び前記ニューラルネットワークデコーダが、損失関数と、トレーニングベクトルのセットと、再構築されたトレーニングベクトルの対応するセットと、を使用してトレーニングされており、前記損失関数が、再構築損失を表す項と正則化項との和を含む、請求項12に記載の支援装置。
【請求項16】
前記処理デバイスが、平均二乗誤差(MSE)、二乗平均平方根誤差(RMSE)、平均絶対誤差(MAE)、外れ値検査、又はHuber損失に基づいてそれぞれの差異評価メトリック(DEM)値を計算することによって、前記それぞれの第1の入力ベクトルと前記それぞれの第1の出力ベクトルとの間の差異を評価するように構成されている、請求項12に記載の支援装置。
【請求項17】
前記ベース画像の各ピクセルについて、前記処理デバイスが、前記それぞれのDEM値とDEM閾値との比較に基づいて、前記ピクセルを異常又は非異常としてマーキングするように構成されている、請求項16に記載の支援装置。
【請求項18】
前記異常マップが、前記試料のバイナリ、グレースケール、又はカラー画像であり、前記異常マップにおいて、各非異常ピクセルは黒であり、各異常ピクセルは白であり、前記それぞれのDEM値と前記DEM閾値との間の差異に基づいてグレースケールコード化され、又は前記それぞれのDEM値と前記DEM閾値との間の差異に基づいてカラーコード化される、請求項17に記載の支援装置。
【請求項19】
科学機器に支援を提供するためにコンピューティングデバイスを介して実施される自動化された方法であって、前記方法が、
前記科学機器の複数の検出器から測定値のストリームを受信することであって、前記複数の検出器が、電子ビームと試料との相互作用によって引き起こされた信号を測定するように構成されており、かつ前記科学機器の第1のモダリティのための第1の検出器と、前記科学機器の撮像モダリティのための第2の検出器と、を含む、受信することと、
前記撮像モダリティを使用して生成された、前記試料のベース画像の各ピクセルについて、オートエンコーダを用いて、それぞれの第1の入力ベクトルを潜在空間内のそれぞれの確率密度にマッピングすることであって、前記それぞれの第1の入力ベクトル及び前記ベース画像が、前記測定値のストリームに基づいて取得され、前記それぞれの第1の入力ベクトルが、前記第1のモダリティに対応する、マッピングすることと、
前記オートエンコーダを用いて、前記それぞれの確率密度に対応するそれぞれの第1の出力ベクトルを計算することと、
前記ベース画像の異なるピクセルに対応するそれぞれの差異に基づいて、前記試料の異常マップを生成することであって、前記それぞれの差異の各々が、前記それぞれの第1の入力ベクトルと前記それぞれの第1の出力ベクトルとの間の差異である、生成することと、を含む、方法。
【請求項20】
コンピューティングデバイスによって実行されたときに、前記コンピューティングデバイスに、請求項19に記載の方法を含む動作を実施させる命令を記憶する非一時的コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
様々な例は、概して、顕微鏡構成要素、機器、システム、及び方法に関する。いくつかの例は、電子顕微鏡法と様々なタイプの分光法とを組み合わせた使用を表す。
【背景技術】
【0002】
顕微鏡技術の例としては、光学顕微鏡法、荷電粒子顕微鏡法、及び走査プローブ顕微鏡法が挙げられる。例えば、荷電粒子顕微鏡法の一種である走査透過電子顕微鏡法(scanning transmission electron microscopy、STEM)は、集束電子ビームを比較的薄い試料に送り、試料を通過した電子を捕捉して詳細な二次元(two-dimensional、2D)画像を生成することによって機能する。走査プローブ顕微鏡法の例示的なタイプとしては、原子間力顕微鏡法(atomic force microscopy、AFM)、走査トンネル顕微鏡法(scanning tunnelling microscopy、STM)、及び近接場走査光学顕微鏡法(near-field scanning optical microscopy、NSOM)が挙げられる。分光法は、典型的には時間、質量、角度、波長、周波数、又はエネルギーの関数として対応する物理量のフラックスを表す、電磁スペクトル又は粒子スペクトルを測定及び解釈するために使用される。
【発明の概要】
【0003】
本明細書では、とりわけ、科学機器支援システムの様々な例、態様、特徴、及び実施形態、並びに関連する方法、装置、コンピューティングデバイス、及びコンピュータ可読媒体が開示される。いくつかの実施形態は、1つ以上の分光モダリティと撮像モダリティとを支援する検出器を含み、かつ検出器から受信された測定値のストリームを処理するように構成された電子コントローラを更に含む、科学機器を提供する。電子コントローラは、撮像モダリティに対応する測定値に基づいて試料のベース画像を生成するように動作し、また、ベース画像に基づいて、かつベース画像の異なるピクセルに対応する、測定されたスペクトルとオートエンコーダによって再構築されたスペクトルとの間の差異に更に基づいて、試料の異常マップを生成するように更に動作する。少なくともいくつかの例では、異常マップは、より詳細な検査及び/又は分析のために、試料内の特定の問題スポットを数秒以内に識別するために、品質管理手順において有益に使用することができる。
【0004】
一例は、装置を提供し、装置は、試料を横切って電子ビームを走査するように構成された電子ビームカラムと、電子ビームと試料との相互作用によって引き起こされた信号を測定するように構成された複数の検出器であって、第1のモダリティのための第1の検出器と、撮像モダリティのための第2の検出器と、を含む、複数の検出器と、電子コントローラと、を備え、電子コントローラは、複数の検出器から測定値のストリームを受信するように接続されており、かつ撮像モダリティを使用して生成された、試料のベース画像の各ピクセルについて、オートエンコーダを用いて、それぞれの第1の入力ベクトルを潜在空間内のそれぞれの確率密度にマッピングすることであって、それぞれの第1の入力ベクトル及びベース画像が、測定値のストリームに基づいて取得され、それぞれの第1の入力ベクトルが、第1のモダリティに対応する、マッピングすることと、オートエンコーダを用いて、それぞれの確率密度に対応するそれぞれの第1の出力ベクトルを計算することと、ベース画像の異なるピクセルに対応するそれぞれの差異に基づいて、試料の異常マップを生成することであって、それぞれの差異の各々が、それぞれの第1の入力ベクトルとそれぞれの第1の出力ベクトルとの間の差異である、生成することと、を行うように構成されている。
【0005】
別の例は、科学機器のための支持装置を提供し、支持装置は、科学機器の複数の検出器から測定値のストリームを受信するように構成されたインターフェースデバイスであって、複数の検出器は、電子ビームと試料との相互作用によって引き起こされた信号を測定するように構成されており、かつ科学機器の第1のモダリティのための第1の検出器と、科学機器の撮像モダリティのための第2の検出器と、を含む、インターフェースデバイスと、処理デバイスと、を備え、処理デバイスは、撮像モダリティを使用して生成された、試料のベース画像の各ピクセルについて、オートエンコーダを用いて、それぞれの第1の入力ベクトルを潜在空間内のそれぞれの確率密度にマッピングすることであって、それぞれの第1の入力ベクトル及びベース画像が、測定値のストリームに基づいて取得され、それぞれの第1の入力ベクトルが、第1のモダリティに対応する、マッピングすることと、オートエンコーダを用いて、それぞれの確率密度に対応するそれぞれの第1の出力ベクトルを計算することと、ベース画像の異なるピクセルに対応するそれぞれの差異に基づいて、試料の異常マップを生成することであって、それぞれの差異の各々が、それぞれの第1の入力ベクトルとそれぞれの第1の出力ベクトルとの間の差異である、生成することと、を行うように構成されている。
【0006】
更に別の例は、科学機器に支援を提供するためにコンピューティングデバイスを介して実施される自動化された方法を提供し、方法は、科学機器の複数の検出器から測定値のストリームを受信することであって、複数の検出器が、電子ビームと試料との相互作用によって引き起こされる信号を測定するように構成され、かつ科学機器の第1のモダリティのための第1の検出器と、科学機器の撮像モダリティのための第2の検出器とを含む、受信することと、撮像モダリティを使用して生成された、試料のベース画像の各ピクセルについて、オートエンコーダを用いて、それぞれの第1の入力ベクトルを潜在空間内のそれぞれの確率密度にマッピングすることであって、それぞれの第1の入力ベクトル及びベース画像が、測定値のストリームに基づいて取得され、それぞれの第1の入力ベクトルが、第1のモダリティに対応する、マッピングすることと、オートエンコーダを用いて、それぞれの確率密度に対応するそれぞれの第1の出力ベクトルを計算することと、ベース画像の異なるピクセルに対応するそれぞれの差異に基づいて、試料の異常マップを生成することであって、それぞれの差異の各々が、それぞれの第1の入力ベクトルとそれぞれの第1の出力ベクトルとの間の差異である、生成することと、を含む。
【0007】
更に別の例は、コンピューティングデバイスによって実行されたときに、コンピューティングデバイスに、上記の自動化された方法を含む動作を実施させる命令を記憶する非一時的コンピュータ可読媒体を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本特許又は出願ファイルには、カラーで作成された少なくとも1つの図面が含まれる。カラー図面を含む本特許又は特許出願公開のコピーは、要求及び必要な料金の支払いに応じて、特許庁(Office)によって提供される。
【0009】
本開示の前述の態様及び多くの付随する利点が、添付図面と併せて以下の詳細な説明を参照することでより良好に理解されるので、より容易に認識されるであろう。
図1】いくつかの実施形態による、例示的な科学機器を例解するブロック図である。
図2】一実施形態による、図1の科学機器の一部分を例解するブロック図である。
図3】一例による、図1の科学機器で使用されるデータ構造を図式的に例解する。
図4】様々な実施形態による、少なくともいくつかの科学機器支援動作を実施するように構成された例示的なコンピューティングデバイスのブロック図である。
図5】いくつかの実施形態による、図1の科学機器で使用されるオートエンコーダを例解するブロック図である。
図6】いくつかの他の実施形態による、図1の科学機器で使用されるオートエンコーダを例解するブロック図である。
図7A】一実施形態による、図1の科学機器を用いて獲得された電子エネルギー損失分光法(Electron Energy Loss Spectroscopy、EELS)データの予備処理をグラフで例解する。
図7B】一実施形態による、図1の科学機器を用いて獲得された電子エネルギー損失分光法(Electron Energy Loss Spectroscopy、EELS)データの予備処理をグラフで例解する。
図8A】別の実施形態による、図1の科学機器を用いて獲得されたエネルギー分散型X線分光法(Energy-Dispersive X-ray Spectroscopy、EDS)データの予備処理をグラフで例解する。
図8B】別の実施形態による、図1の科学機器を用いて獲得されたエネルギー分散型X線分光法(Energy-Dispersive X-ray Spectroscopy、EDS)データの予備処理をグラフで例解する。
図8C】別の実施形態による、図1の科学機器を用いて獲得されたエネルギー分散型X線分光法(Energy-Dispersive X-ray Spectroscopy、EDS)データの予備処理をグラフで例解する。
図9A】一実施形態による、図1の科学機器を用いて生成された実験データのオートエンコーダベースの処理の第1の例を例解する。
図9B】一実施形態による、図1の科学機器を用いて生成された実験データのオートエンコーダベースの処理の第1の例を例解する。
図10A】一実施形態による、図1の科学機器を用いて生成された実験データのオートエンコーダベースの処理の第2の例を例解する。
図10B】一実施形態による、図1の科学機器を用いて生成された実験データのオートエンコーダベースの処理の第2の例を例解する。
図11A】一実施形態による、図1の科学機器を用いて生成された実験データのオートエンコーダベースの処理の第3の例を例解する。
図11B】一実施形態による、図1の科学機器を用いて生成された実験データのオートエンコーダベースの処理の第3の例を例解する。
図12】一実施形態による、図6のオートエンコーダの八次元(eight-dimensional、8D)潜在空間を図式的に例解する。
図13】一実施形態による、図5又は図6のオートエンコーダで使用されるニューラルネットワークを例解するブロック図である。
図14】一実施形態による、図1の科学機器を使用して実装される分析方法を示すフローチャートである。
図15】一実施形態による、図1の科学機器を使用して実施される別の分析方法を示すフローチャートである。
図16A】一実施形態による、図15の分析方法で使用される、測定されたスペクトル及び再構築されたスペクトルの例示的な対を例解するグラフである。
図16B】一実施形態による、図15の分析方法で使用される、測定されたスペクトル及び再構築されたスペクトルの例示的な対を例解するグラフである。
図17A】一実施形態による、図15の分析方法を使用して生成された例示的な異常マップを例解する。
図17B】一実施形態による、図15の分析方法を使用して生成された例示的な異常マップを例解する。
図17C】一実施形態による、図15の分析方法を使用して生成された例示的な異常マップを例解する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書における「一実施形態(one embodiment)」又は「一実施形態(an embodiment)」への言及は、その実施形態に関連して説明された特定の特徴、構造、又は特性が、本開示の少なくとも1つの実施形態に含まれ得ることを意味する。本明細書の様々な箇所における「一実施形態による(in accordance with one embodiment)」又は「一実施形態による(in accordance with an embodiment)」という句の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態を指すわけではなく、別個の又は代替的な実施形態が他の実施形態と必ずしも相互排他的であるわけでもない。同じことが「実装形態」という用語にも当てはまる。
【0011】
図1は、いくつかの実施形態による、科学機器100を例解するブロック図である。科学機器100は、真空チャンバ108に結合された走査透過電子顕微鏡(STEM)カラム102を含む。真空チャンバ108は、中に可動試料ホルダ110を収容し、1つ以上の真空ポンプ(図1には明示せず)を使用して排気することができる。例示的な実施形態では、試料ホルダ110は、XY座標平面に平行に、かつZ座標軸に平行に独立して移動可能であり、対応する座標系は、図1に示されるXYZ座標トライアドによって示される。科学機器100を使用して調査される試料Sは、図1に示されるように試料ホルダ110に取り付けられる。
【0012】
示される例では、STEMカラム102は、電子源112と、2つ以上の荷電粒子ビーム(charged-particle-beam、CPB)レンズとを備えるが、図1では、例解目的のために、そのうちの2つ、すなわち対物レンズ106及びコンデンサレンズ116のみを概略的に示す。いくつかの例では、(2とは)異なる数のそのようなレンズが、STEMカラム102内で使用されてもよい。いくつかの実施形態では、対物レンズ106は、超高解像度(ultra-high-resolution、UHR)レンズであってもよい。
【0013】
動作中、電子源112は、STEMカラム102の長手方向軸115に概ね沿って伝搬する電子ビーム114を生成する。CPBレンズ106及び116は、電子ビーム114内の電子軌道に影響を及ぼす電場及び磁場を生成するように動作する。電子コントローラ150によって生成される制御信号152、156は、これらの場の強度及び/又は空間構成を変更し、電子ビーム114に所望の特性を付与するために使用される。概して、CPBレンズ106及び116、制御信号152及び156、並びに科学機器100の他の関連構成要素を使用して、様々な動作を実施し、ビーム集束、収差緩和、開口クロッピング、フィルタリングなどの様々な機能をサポートすることができる。STEMカラム102は、電子コントローラ150によって印加された制御信号154に応答して電子ビーム114をステアリングすることができる、偏向ユニット118を更に備える。このようなビームステアリングを使用して、電子ビーム114の集束部分を、試料Sを横切る所望の経路に沿って移動させて、例えば試料Sのラスタ走査又はベクトル走査を実施することができる。
【0014】
科学機器100はまた、試料Sに比較的近接して真空チャンバ108内に位置する検出器160、170、180を含む。動作中、検出器160、170、及び180は、電子コントローラ150によって受信される測定値162、172、及び182のストリームを生成する。検出器160、170、180の具体的なタイプは、科学機器100の実施形態に依存し、典型的には、電子ビーム114に応答して作られる、試料Sからの異なるタイプの放出及び/又は放射を検出するのに好適な様々な検出器タイプから選択することができる。このようにして作られ得る放出/放射の例示的なタイプとしては、X線、赤外線、可視光線、紫外線、後方散乱電子、二次電子、オージェ電子、弾性散乱電子、非散乱(例えば、ゼロエネルギー損失)電子、及び非弾性散乱電子が挙げられるが、これらに限定されない。様々な実施形態では、(3とは)異なる数のそのような検出器を使用することができる(図2も参照のこと)。いくつかの実施形態では、検出器160、170、180は、高角度環状暗視野検出器、中角度環状暗視野検出器、環状明視野検出器、セグメント化環状検出器、微分位相コントラスト検出器、EELS検出器、EDS検出器、及び二次元ピクセル化回折パターン検出器からなる群から選択される。いくつかの例では、EELS検出器は、非散乱電子を検出するように構成される。そのような例では、対応する検出信号を使用して、試料Sの厚さを実験的に決定することができる。上記のタイプの放出/放射のうちの様々なものを検出することができる他の検出器もまた、様々な追加の実施形態において使用することができる。
【0015】
示される例では、検出器160、170は、試料Sの上方に位置決めされている。検出器180は試料Sの下方に位置決めされている。本明細書では、「上方」及び「下方」という用語は、電子源112から試料Sに向かって概ねZ座標軸に沿って伝搬する電子ビーム114の伝搬方向に対して使用される。この意味で、試料Sの「上方」にある場所は、電子ビーム114の上流方向に、Z座標軸に沿って試料Sからゼロでないオフセットを有する。同様に、試料Sの「下方」にある場所は、電子ビーム114の下流方向に、Z座標軸に沿って試料Sからゼロでないオフセットを有する。様々な追加の実施形態では、異なる数の検出器が、試料Sの上方及び下方に位置することができる。いくつかの実施形態では、全てのそのような検出器は、試料Sの下方又は上方に位置することができる。
【0016】
図2は、1つの例示的な実施形態による、科学機器100の一部分200を例解するブロック図である。部分200は、科学機器100における分光法と顕微鏡法との併用に好適な検出器構成の例示的な一例である。分光法及び顕微鏡法は両方とも、個別に試料を分析するために有用なツールであるが、分光法及び顕微鏡法は、組み合わせると更により強力な結果をもたらすことができる。示される例では、部分200は、STEM撮像能力を提供する。部分200に実装される分光技術としては、電子エネルギー損失分光法(EELS)及びエネルギー分散型X線分光法(EDS)が挙げられるが、これらに限定されない。様々な追加の例では、他の顕微鏡法/分光法の組み合わせが実装される。
【0017】
部分200は、図1にも示される対物レンズ106と、試料Sと、検出器160、180と、を含む。部分200は、投影レンズ210と、環状検出器220、230、及び240と、開口250と、磁場セクタ260と、を更に含む。図2はまた、図1を参照して上述したように、試料Sに送達される電子ビーム114も概略的に示す。科学機器のSTEM撮像モダリティは、電子ビーム114の伝搬方向に対して異なる散乱角を有する電子を選択する環状検出器220、230、及び240の、一部又は全部を使用して、試料Sの選択された部分にわたる電子ビーム114の集束部分の順次走査を伴う。このようにして実行されたピクセルごとのデータ取得を使用して、とりわけ、試料Sの走査領域のSTEM画像を構築する。
【0018】
いくつかの例では、環状検出器220は、核によるインコヒーレント準弾性電子散乱を検出するように構成された高角度環状暗視野(high-angle annular dark field、HAADF)検出器であり、通常、80mradよりも高い散乱角に対する主要な構成要素である。HAADF検出器220を用いて検出されるインコヒーレント電子散乱の評価に好適なモデルを適用することにより、例えば、単層材料及び薄膜中の化学種の判定、ナノワイヤ中の重原子不純物の検出、及びナノ結晶の三次元(three-dimensional、3D)形態の評価が可能になる。HAADFモダリティの別の重要な用途は、金属粒子のサイズ及び触媒中のそれらの分布が触媒の効力に有意な影響を及ぼすので、不均一触媒反応研究に関連する。
【0019】
いくつかの例では、環状検出器230は、約30~80mradの散乱角を有する電子を検出するように構成された中角環状暗視野(medium-angle annular dark field、MAADF)検出器である。HAADFモダリティとMAADFモダリティとの組み合わせは、例えば、結晶試料からの追加の特徴の抽出に適用される。そのような用途の一例は、電子ビーム方向に沿った原子種の順序付けに関する情報を提供することができる高次ラウエゾーン(high-order Laue zones、HOLZ)を選択するための特定の角度範囲の設計された使用である。MAADFモダリティは、STEMトモグラフィにおける3D欠陥解析にも適用することができる。
【0020】
いくつかの例では、環状検出器240は、低散乱角で電子を検出するように構成された環状明視野(annular bright field、ABF)検出器である。ABF検出器240によって生成された信号の分析から抽出される情報は、典型的に、より軽い原子種に関連する。例えば、HAADFモダリティとABFモダリティとの組み合わせは、Alなどの金属酸化物中の酸素の原子列、及びVHなどの金属水素化物中の水素の原子列の直接撮像のために使用することができる。別の例では、HAADFモダリティとABFモダリティとの組み合わせを使用して、半導体用の基板として電子機器で使用されることが多いBNなどの単層窒化物上の化学種を明確に識別することができる。
【0021】
様々な電子顕微鏡ベースの分光技術は、典型的には、試料S上での電子ビーム140の走査中に生成される様々な信号から定量的及び/又は定性的情報を取得することを対象とする。適切に収集した後、分光信号は、例えば、環状検出器220、230、及び240並びに/又は他の好適な検出器のうちの1つ以上を用いて上で示されたように生成される、対応する電子顕微鏡画像とともに提示されるか又はその上にオーバーレイされる材料特性のマップの構築のために使用することができる。データ超立方体表現の形態のそのようなマップの一例は、図3を参照して以下でより詳細に説明される。本明細書で使用される場合、「超立方体」という用語は、三次元立方体をn次元に一般化することを指し、nは1より大きい正の整数である。様々な例では、超立方体は、単位長の辺を有するように正規化されてもよく、正規化されなくてもよい。いくつかの文献では、超立方体は、n立方体又は正測体と称される。超立方体は、相互に垂直な辺を有する規則的な多面体であり、したがって超直方体である。二次元超立方体は、正方形である。三次元超立方体は、立方体である。四次元超立方体は、正八胞体(tesseract)であり、以下同様である。図3に例解する例示的なデータ構造300は、非正規化正八胞体を表し、STEM画像302の各元素(i,j)は、EDS検出器160を使用して測定されたそれぞれのEDSスペクトル304i,j及びEELS検出器180を使用して測定されたそれぞれのEELSスペクトル306i,jに関連付けられている。
【0022】
図2に例解するいくつかの例では、検出器160は、電子ビーム114によって刺激された試料Sからの特性X線の放出を検出するように構成されているEDS検出器として動作する。基底(励起されていない)状態では、試料S内の原子は、原子の内部電子殻の離散エネルギー準位に電子を有する。電子ビーム114と原子との相互作用は、原子の内殻から電子が飛び出すことを引き起こし得、それによって、内殻中に電子正孔(空孔)を作り出す。次いで、この電子正孔と原子の外殻(高エネルギー)からの電子との再結合が、X線光子の放出を引き起こす。そのようなX線光子の束及びそれらのエネルギーは、EDS検出器160によって測定され、それによって対応するX線放出スペクトルが測定される。各化学元素は、X線放出スペクトルにおいて固有のピークのセットを有するので、EDS検出器160によって測定されたX線スペクトルの分析を使用して、試料Sの元素組成を明らかにすることができる。
【0023】
図2に例解するいくつかの例では、検出器180は、開口250によって選択された狭い角度範囲内で伝搬する電子ビーム140の非弾性散乱電子を検出するように構成されている、EELS検出器として動作する。開口250を通過する電子は、磁場セクタ260を更に通過し、電子は、EELS検出器180に衝突する前に磁場によって角度分散される。したがって、EELS検出器180の異なるピクセルは、異なるそれぞれのエネルギーの電子を受け取り、ピクセル読み出しは、対応するエネルギー損失スペクトルを提供する。このようにして測定されたエネルギー損失の量は、エネルギー損失の原因が何であったかを解明することができる。例えば、EELS検出器180によって検出可能なエネルギー損失を引き起こし得る非弾性相互作用としては、フォノン励起、バンド間及びバンド内遷移、プラズモン励起、内殻イオン化、及びチェレンコフ放射が挙げられる。EELS検出器180によって検出される内殻イオン化は、試料Sの元素組成を検出するのに特に有用であり得る。
【0024】
図3は、一例による、科学機器100で使用されるデータ構造300を図式的に例解する。データ構造300は、例えば、環状検出器220、230、及び240又は他の好適な検出器のうちの1つ以上を用いて実施された測定に基づいて、科学機器100のSTEMモダリティを使用して生成された、試料SのSTEM画像302を含む。STEM画像302は、ピクセル化された画像であり、各ピクセルは、それぞれの座標(x,y)及びピクセル値Pi,jによって特徴付けられ、(i,j)はピクセルインデックスである。画像302のタイプに応じて、ピクセル値Pi,jは、スカラー(例えば、強度値)又はベクトル(例えば、RGBカラーベクトル)であり得る。1つのチャネル測定に対して、ピクセル値Pi,jは、典型的には、グレースケールにマッピングされる。座標(x,y)は、一般に、図1図2に示されるXYZ座標系のXY座標平面におけるピクセルの位置を表す。各ピクセル(x,y)について、ピクセル値Pi,jに加えて、データ構造300は、EDS検出器160を使用して測定されたそれぞれのEDSスペクトル304i,jと、EELS検出器180を使用して測定されたそれぞれのEELSスペクトル306i,jとを含む。
【0025】
一例として、STEM画像302の(i,j)番目及び(k,l)番目のピクセルは、データ構造300の正八胞体表現の画像ファセット上にマークされる。STEM画像302の(i,j)番目のピクセルについて、データ構造300は、ピクセル値Pi,j、EDSスペクトル304i,j、及びEELSスペクトル306i,jを含む。例解のために、図3にはEDSスペクトル304i,jのみが明示的に示されている。同様に、STEM画像302の(k,l)番目のピクセルについて、データ構造300は、ピクセル値Pk,l、EDSスペクトル304k,l、及びEELSスペクトル306k,lを含む。例解のために、図3にはEELSスペクトル306k,lのみが明示的に示されている。
【0026】
科学機器100の対応する実施形態で使用される検出器の特定のセット及び/又は分光モダリティに応じて、他のデータ構造(一般にデータ構造300に類似する)を同様に生成することができる。いくつかの例では、そのような他のデータ構造は、データ構造300よりも多い又は少ない次元を有し得る。様々な実施形態では、科学機器100のための検出器の異なるセットは、環状暗視野検出器(例えば、220、230)、環状明視野検出器(例えば、240)、EDS検出器(例えば、160)、EELS検出器(例えば、260、180)、微分位相差(DPC)検出器、及び2D回折パターン検出器を含む、検出器の群から選択することができるが、これらに限定されない。いくつかの例では、2D回折パターン検出器は、様々な電子回折パターンを捕捉及び記録するために使用される蛍光スクリーンを備える。いくつかの例では、2D回折パターン検出器はピクセル化される。
【0027】
一例では、DPC STEM検出器は、例えば直径方向に対向する2つの象限セグメントを有するセグメント化環状検出器を含む。検出器セグメントの代表的な角度範囲は、約15mrad~約30mradである。DPC STEM信号は、2つの正反対の象限セグメントによって生成された個々の信号の差をとることによって生成される。位相物体とみなすことができる弱散乱試料Sの場合、DPC STEM画像は、対向する検出器セグメントの方向にとられた試料の電磁場の勾配を表す。部分オングストローム分解能でのDPC STEM撮像の実装により、実質的に単一原子のレベルでの局所電磁場の直接特徴付けが有利に可能となる。例えば、各ドメイン内のメゾスコピック分極場と、BaTiOなどの様々な技術的強誘電性酸化物の各単位セル内の個々の電気双極子によって誘導される原子スケールの電場との両方を、DPC STEM撮像によって高感度に検出することができる。
【0028】
別の例では、四次元(four-dimensional、4D)STEMを実装するために、2Dピクセル化回折パターン検出器が使用される。4D STEMは、STEM画像302の各ピクセルについて完全な2D回折パターンを捕捉する技術である。この能力は、高速直接電子検出器技術の開発によって可能になった比較的最近の進歩である。比較のために、この開発以前、完全な2D回折パターンは、典型的には、その1つ又は2つの部分においてのみサンプリングされ、それによって、回折信号情報の大部分が捕捉されないままにされていた。典型的な4D STEM出力は、4Dデータセットを含み、回折信号は、座標(x,y,X,Y)の関数として表示され、式中、座標(x,y)は、STEM画像302におけるi番目のピクセル座標であり、座標(X,Y)は、2Dピクセル化回折パターン検出器におけるj番目のピクセル座標である。4D STEMの1つの重要な用途は、仮想撮像に関する。4D STEMの別の重要な用途は、DPC STEM撮像に関する。
【0029】
図4は、様々な実施形態による、少なくともいくつかの科学機器支援動作を実施するように構成された例示的なコンピューティングデバイス400のブロック図である。例えば、いくつかの実施形態では、コンピューティングデバイス400は、電子コントローラ150(図1も参照のこと)の少なくともいくつかの動作を実施する。様々な実施形態では、科学機器100の支援モジュールは、単一のコンピューティングデバイス400によって、又は複数のコンピューティングデバイス400によって実装され得る。
【0030】
図4のコンピューティングデバイス400は、いくつかの構成要素を有するものとして例解されているが、これらの構成要素のうちのいずれか1つ以上は、用途及び設定に好適なものであるように、省略又は複製され得る。いくつかの実施形態では、コンピューティングデバイス400に含まれる構成要素の一部又は全部は、1つ以上のマザーボードに取り付けられ、筐体に封入され得る。いくつかの実施形態では、これらの構成要素の一部は、単一のシステムオンチップ(system-on-a-chip、SoC)上に製作され得る(例えば、SoCは、1つ以上の処理デバイス402及び1つ以上の記憶デバイス404を含み得る)。加えて、様々な実施形態では、コンピューティングデバイス400は、図4に例解される1つ以上の構成要素を含まない場合があるが、任意の好適なインターフェース(例えば、ユニバーサルシリアルバス(Universal Serial Bus、USB)インターフェース、高精細マルチメディアインターフェース(High-Definition Multimedia Interface、HDMI(登録商標))インターフェース、コントローラエリアネットワーク(Controller Area Network、CAN)インターフェース、シリアルペリフェラルインターフェース(Serial Peripheral Interface、SPI)インターフェース、イーサネットインターフェース、無線インターフェース、又は任意の他の好適なインターフェース)を使用して1つ以上の構成要素に結合するためのインターフェース回路を含み得る。例えば、コンピューティングデバイス400は、表示デバイス410を含まない場合があるが、外部表示デバイス410が結合され得る表示デバイスインターフェース回路(例えば、コネクタ及びドライバ回路)を含み得る。
【0031】
コンピューティングデバイス400は、処理デバイス402(例えば、1つ以上の処理デバイス)を含み得る。本明細書で使用される場合、「処理デバイス」という用語は、レジスタ及び/又はメモリからの電子データを処理して、その電子データをレジスタ及び/又はメモリに記憶され得る他の電子データに変換する、任意のデバイス又はデバイスの一部分を指す。様々な実施形態では、処理デバイス402は、1つ以上のデジタル信号プロセッサ(digital signal processor、DSP)、特定用途向け集積回路(application-specific integrated circuit、ASIC)、中央処理ユニット(central processing unit、CPU)、グラフィックス処理ユニット(graphics processing unit、GPU)、サーバプロセッサ、又は任意の他の好適な処理デバイスを含み得る。
【0032】
コンピューティングデバイス400はまた、記憶デバイス404(例えば、1つ以上の記憶デバイス)を含んでもよい。様々な実施形態では、記憶デバイス404は、ランダムアクセスメモリ(random-access memory、RAM)デバイス(例えば、スタティックRAM(static RAM、SRAM)デバイス、磁気RAM(magnetic RAM、MRAM)デバイス、ダイナミックRAM(dynamic RAM、DRAM)デバイス、抵抗性RAM(resistive RAM、RRAM)デバイス、又は導電性ブリッジRAM(conductive-bridging RAM、CBRAM)デバイス)、ハードドライブベースのメモリデバイス、ソリッドステートメモリデバイス、ネットワークドライブ、クラウドドライブ、又はメモリデバイスの任意の組み合わせなどの、1つ以上のメモリデバイスを含み得る。いくつかの実施形態では、記憶デバイス404は、処理デバイス402とダイを共有するメモリを含み得る。そのような実施形態では、メモリは、キャッシュメモリとして使用され得、例えば、埋め込み型ダイナミックランダムアクセスメモリ(embedded dynamic random-access memory、eDRAM)又はスピントランスファートルク磁気ランダムアクセスメモリ(spin transfer torque magnetic random-access memory、STT-MRAM)を含む。いくつかの実施形態では、記憶デバイス404は、命令を有する非一時的コンピュータ可読媒体を含み得、命令は、1つ以上の処理デバイス(例えば、処理デバイス402)によって実行されたときに、コンピューティングデバイス400に、本明細書の以下に開示される方法のうちの任意の適切な方法、又はそのような方法の部分を実施させる。
【0033】
コンピューティングデバイス400は、インターフェースデバイス406(例えば、1つ以上のインターフェースデバイス406)を更に含む。様々な実施形態では、インターフェースデバイス406は、コンピューティングデバイス400と他のコンピューティングデバイスとの間の通信を管理するために、1つ以上の通信チップ、コネクタ、並びに/又は他のハードウェア及びソフトウェアを含み得る。例えば、インターフェースデバイス406は、コンピューティングデバイス400との間でデータを転送するための無線通信を管理する回路を含み得る。「無線」という用語及びその派生語は、非固体媒体を介して変調された電磁放射を介してデータを通信し得る回路、デバイス、システム、方法、技術、通信チャネルなどを説明するために使用され得る。この用語は、関連するデバイスがいかなるワイヤを含まないことを意味するものではないが、いくつかの実施形態では含まない場合もある。無線通信を管理するためにインターフェースデバイス406に含まれる回路は、Wi-Fi(IEEE802.11ファミリ)、IEEE802.16規格を含む米国電気電子学会(Institute for Electrical and Electronic Engineers、IEEE)規格、任意の修正、更新、及び/又は改訂を伴うロングタームエボリューション(Long-Term Evolution、LTE)プロジェクト(例えば、アドバンストLTEプロジェクト、ウルトラモバイルブロードバンド(ultra-mobile broadband、UMB)プロジェクト(「3GPP(登録商標)2」とも称される)など)を含む、複数の無線規格又はプロトコルのいずれかを実装し得るが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、無線通信を管理するためのインターフェースデバイス406に含まれる回路は、モバイル通信用グローバルシステム(Global System for Mobile Communication、GSM)、汎用パケット無線サービス(General Packet Radio Service、GPRS)、ユニバーサルモバイル電気通信システム(Universal Mobile Telecommunications System、UMTS)、高速パケットアクセス(High Speed Packet Access、HSPA)、進化型HSPA(Evolved HSPA、E-HSPA)、又はLTEネットワークに従って動作し得る。いくつかの実施形態では、無線通信を管理するためにインターフェースデバイス406に含まれる回路は、GSM進化型高速データ(Enhanced Data for GSM Evolution、EDGE)、GSM EDGE無線アクセスネットワーク(GSM EDGE Radio Access Network、GERAN)、ユニバーサル地上無線アクセスネットワーク(Universal Terrestrial Radio Access Network、UTRAN)、又は進化型UTRAN(Evolved UTRAN、E-UTRAN)に従って動作し得る。いくつかの実施形態では、無線通信を管理するためのインターフェースデバイス406に含まれる回路は、符号分割多元接続(Code Division Multiple Access、CDMA)、時分割多元接続(Time Division Multiple Access、TDMA)、デジタル拡張コードレス通信(Digital Enhanced Cordless Telecommunications、DECT)、進化データ最適化(Evolution-Data Optimized、EV-DO)、及びその派生物、及び3G、4G、5G、並びにそれ以降として指定されている任意の他の無線プロトコルに従って動作し得る。いくつかの実施形態では、インターフェースデバイス406は、無線信号を受信及び/又は送信するように構成された1つ以上のアンテナ(例えば、1つ以上のアンテナアレイ)を含み得る。
【0034】
いくつかの実施形態では、インターフェースデバイス406は、電気的、光学的、又は任意の他の好適な通信プロトコルなどの有線通信を管理するための回路を含み得る。例えば、インターフェースデバイス406は、イーサネット技術に従って通信を支援する回路を含み得る。いくつかの実施形態では、インターフェースデバイス406は、無線通信及び有線通信の両方をサポートし得、並びに/又は複数の有線通信プロトコル及び/若しくは複数の無線通信プロトコルをサポートし得る。例えば、インターフェースデバイス406の回路の第1のセットは、Wi-Fi又はBluetoothなどの短距離無線通信専用であり得、インターフェースデバイス406の回路の第2のセットは、全地球測位システム(global positioning system、GPS)、EDGE、GPRS、CDMA、WiMAX、LTE、EV-DO、又はその他などの長距離無線通信専用であり得る。いくつかの他の実施形態では、インターフェースデバイス406の回路の第1のセットは、無線通信専用であり得、インターフェースデバイス406の回路の第2のセットは、有線通信専用であり得る。
【0035】
コンピューティングデバイス400はまた、バッテリ/電源回路408も含む。様々な実施形態では、バッテリ/電源回路408は、1つ以上のエネルギー貯蔵デバイス(例えば、バッテリ若しくはキャパシタ)、及び/又はコンピューティングデバイス400の構成要素をコンピューティングデバイス400とは別個のエネルギー源に(例えば、ACライン電源に)結合するための回路を含み得る。
【0036】
コンピューティングデバイス400はまた、表示デバイス410(例えば、1つ又は複数の個別の表示デバイス)も含み得る。様々な実施形態では、表示デバイス410は、ヘッドアップディスプレイ、コンピュータモニタ、プロジェクタ、タッチスクリーンディスプレイ、液晶ディスプレイ(liquid crystal display、LCD)、発光ダイオードディスプレイ、又はフラットパネルディスプレイなどの任意の視覚インジケータを含み得る。
【0037】
コンピューティングデバイス400はまた、追加の入力/出力(input/output、I/O)デバイス412も含み得る。様々な実施形態では、I/Oデバイス412は、1つ以上のデータ/信号転送インターフェース、オーディオI/Oデバイス(例えば、マイクロフォン又はマイクロフォンアレイ、スピーカ、ヘッドセット、イヤホン、アラームなど)、オーディオコーデック、ビデオコーデック、プリンタ、センサ(例えば、熱電対又は他の温度センサ、湿度センサ、圧力センサ、振動センサなど)、画像捕捉デバイス(例えば、1つ以上のカメラ)、ヒューマンインターフェースデバイス(例えば、キーボード、マウス、スタイラス、トラックボール、又はタッチパッドなどのカーソル制御デバイス)などを含み得る。
【0038】
科学機器100及び/又は機器部分200の特定の実施形態に応じて、インターフェースデバイス406及び/又はI/Oデバイス412の様々な構成要素は、科学機器100の様々な構成要素のための好適な制御信号(例えば、152、154、156)を出力し、科学機器100の様々な構成要素から好適な制御信号/遠隔測定信号を受信し、かつ科学機器100の様々な検出器から測定値(例えば、162、172、182)のストリームを受信するように構成することができる。いくつかの例では、インターフェースデバイス406及び/又はI/Oデバイス412は、受信されたアナログ信号を、処理デバイス402及び/又は記憶デバイス404によって実施される動作に好適なデジタル形式に変換するための1つ以上のアナログデジタル変換器(analog-to-digital converter、ADC)を含む。いくつかの追加の例では、インターフェースデバイス406及び/又はI/Oデバイス412は、処理デバイス402及び/又は記憶デバイス404によって提供されるデジタル信号を、科学機器100の対応する構成要素に通信されるのに好適なアナログ形式に変換するための1つ以上のデジタルアナログ変換器(digital-to-analog converter、DAC)を含む。
【0039】
科学機器100のいくつかの産業用途では、科学機器100に統合された様々な分光モダリティは、品質管理のために、例えば合成された材料及び/又は製造された(マイクロ/ナノ)構造が適用可能な仕様を満たすかどうかを判定するために、利用される。そのような分光技術(例えば、EDS、EELS)のうちのいくつかでは、高速測定(例えば、分光データ収集を含む)は、比較的低い信号対雑音比(signal-to-noise-ratio、SNR)値を伴う信号を作る。この低いSNR値のために、例えば、反復取得実行、ビニング、平均化、主成分分析(principal component analysis、PCA)などを含む特定のタイプの信号処理が、典型的には、決定的な品質管理決定に到達するために適用される。これらの信号処理方法のいくつかの制限の例は、特に比較的広い視野及び/又は比較的高い空間解像度に対応するデータセットに適用されるときに、これらの信号処理方法論は時間集約的であり得ることがある。別の例として、PCAは、典型的には、低損失EELSに対して観察される非線形効果又はチャネリングに起因する非線形効果などの非線形効果を扱うことを意図しない線形技術であることに留意されたい。そのような制限により、典型的には、機器のユーザ/オペレータが、試料Sに適用されている品質管理基準に関して十分に明確な実質的、定性的、及び/又は定量的な指標を得ることができるまでに、不利に長い時間(例えば、数時間)を要することになる。
【0040】
従来技術における上述の問題及び場合によってはいくつかの他の関連する問題は、本明細書に開示される少なくともいくつかの実施形態を使用して有益に対処される。1つの例示的な実施形態は、品質管理手順を高速化するために深層学習技術を使用する。より具体的には、ニューラルネットワークを使用して実装される変分オートエンコーダは、データセットの基礎となる統計を学習し、試料Sの異なるそれぞれの化学的又は構造的特徴を表す異なるクラスタを定義することによって、学習された統計をより低次元の潜在空間において視覚化するようにトレーニングされる。例えば、2つのスペクトルが類似している場合、トレーニングされた変分オートエンコーダは、そのようなスペクトルを、典型的には同じクラスタ内に位置する潜在空間内の近くの「点」に「符号化」する。潜在空間内の特定のクラスタに対する様々な獲得されたスペクトルのそのような「符号化」に基づいて、対応する科学機器支援システムは、検出された信号が比較的低いSNR値を有する場合であっても、試料S内の化学的に類似した領域を識別し強調することができる。その結果、対応する科学機器支持システムは、上述した時間集約的な信号処理方法論に依存することなく、実質的にリアルタイムで(例えば、数時間ではなく数秒以内に)、試料Sに関する適切な化学的及び/又は構造的情報を、科学機器100のユーザ/オペレータに有益に提供することが可能となる。別の実施形態は、トレーニングされた変分オートエンコーダに依存して、実質的にリアルタイムで、獲得された低SNRスペクトルが予期される試料特性からの有意かつ有意義な偏差を示す、試料Sにおける異常領域を識別する。品質管理手順において、このような異常領域は、潜在的な問題スポットとして特に関心事である。そのような異常領域の識別に基づいて、科学機器100のユーザ/オペレータは、例えば、より高い倍率及び/又は好適な適応走査パターンを適用することによって、特定の問題スポットをより詳細に調査するために、機器の実験設定を有益に変更(例えば、最適化)することができる。
【0041】
図5は、いくつかの実施形態による、科学機器100で使用されるオートエンコーダ500を例解するブロック図である。いくつかの例では、オートエンコーダ500は、例えば上で説明したように、科学機器100の関連する構成要素に適切に結合されたコンピューティングデバイス400を使用して実装される。オートエンコーダ500は、エンコーダ510及びデコーダ520を含む。エンコーダ510及びデコーダ520の各々は、それぞれのニューラルネットワークを備える。
【0042】
本明細書において、ニューラルネットワーク(neural network、NN)は、典型的には非線形のトレーニング可能な回路であり、「ニューロン」、「人工ニューロン」、又は「NNノード」とも称される複数の処理要素(processing element、PE)を備える。いくつかの実装形態では、ニューラルネットワークは特定用途向け回路であり、異なるPEは、対応する物理ネットワークを形成する物理リンクによって接続されたそれぞれの構成可能な部分回路として実装される。いくつかの他の実装形態では、ニューラルネットワークは、コンピュータエミュレート又はプロセッサエミュレートされてもよく、その場合、1つ以上の電子プロセッサ(例えば、図4の402)は、対応する特定用途向け回路の信号処理と類似の信号処理を実施するようにプログラムされる。
【0043】
ニューラルネットワークの各PEは、典型的に、1つ以上の他のPEとの接続を有する。(物理的又はコンピュータエミュレートされた)PE間の複数の接続は、ニューラルネットワークのトポロジを定義する。いくつかのトポロジでは、PEは層に集約される。異なる層は、それらの入力に対して異なるそれぞれの種類の変換を実施するように構成された異なるタイプのPEを有してもよい。信号は、第1のPE層(典型的には入力層と称される)から最後のPE層(典型的には出力層と称される)に進む。いくつかのトポロジでは、ニューラルネットワークは、入力PE層と出力PE層との間に位置する1つ以上の中間PE層(典型的には隠れ層と称される)を有する。例示的なPEは、着信信号をスケーリングし、合計し、バイアスし、活性化関数を使用して、バイアスされた合計の静的非線形関数である出力信号を作るように動作する。結果として生じるPE出力は、ニューラルネットワークの出力のうちのいずれか1つになり得るか、又は対応する接続を通して1つ以上の他のPEに送信され得る。個々のPEによって適用されるそれぞれの重み及び/又はバイアスは、トレーニング(学習)動作モード中に変更(例えば、最適化)することができ、典型的に、テスト(作業)動作モード中に固定(すなわち、一定に)される。
【0044】
NNエンコーダ510への入力は、K次元(K-dimensional、KD)ベクトル502である。NNエンコーダ510の構成は、θで表される、重みとバイアスとのセットを含む。いくつかの例では、NNエンコーダ510の出力は、k次元(kD)ベクトル512であり、ここで、k<Kである。kDベクトル512は隠れ表現とも称される。ベクトル512に対応するkD空間は、潜在空間と称される。以下では、NNエンコーダ510によって実施される変換は、qθ(z|x)で表され、式中、z及びxは、それぞれ、対応するkD及びKDベクトルを表す。変分オートエンコーダ500の場合、潜在空間は確率的であり、すなわちNNエンコーダ510は、パラメータを、qθ(z|x)に確率密度として出力する。いくつかの例では、確率密度はガウス確率密度である。そのような例では、NNエンコーダ510は、入力ベクトル502を、潜在空間における平均及び分散にマッピングする。次に、NNデコーダ520は、潜在分布をサンプリングして復号動作を実施するように動作する。NNデコーダ520への入力は、kDベクトル512である。NNデコーダ510の構成は、φで表される、重みとバイアスとのセットを含む。NNデコーダ520の出力は、KDベクトル522である。以下では、NNデコーダ520によって実施される変換は、pφ(x|z)で表される。様々な追加の実施形態では、オートエンコーダ500の他のエンコーダ/デコーダアーキテクチャが同様に使用される。そのような追加の実施形態のいくつかは、以下の特徴を有する。(i)比較的大きいメモリ層に関連付けられるk>K、及び(ii)そのようなより大きいk次元から小さい次元に移行するためのPCAの使用。
【0045】
kはKより小さいので、NNエンコーダ510は次元削減を実施する。機械学習において、「次元削減」とは、データを記述する特徴の数を削減するプロセスである。特徴の数は、典型的には、選択(既存の特徴の一部のみが保存される)又は抽出(古い特徴に基づいて、削減された数の新しい特徴が作成される)のいずれかによって削減される。次元削減は、低次元データに依存する多くのアプリケーションにおいて有用であり得る。次元削減は、データ圧縮として解釈することもでき、エンコーダ510はデータを初期空間から潜在空間に圧縮し、デコーダ520はデータを圧縮解除する。初期データ分布、潜在空間次元数、及びエンコーダ定義に応じて、データ圧縮は不可逆である可能性があり、これは、情報の一部が符号化プロセス中に損失し、復号によって完全に回復することができないことを意味する。例えば、情報損失に起因して、出力ベクトル522は、典型的には、入力ベクトル502とは異なる。情報損失の尺度は、再構築対数尤度logpφ(x|z)である。この尺度は、それぞれの潜在表現512が与えられた入力ベクトル502を再構築するためにNNデコーダ520がどの程度効果的に学習したかの尺度である。
【0046】
オートエンコーダ500のための重みとバイアスとのセットであるθ及びφは、損失関数に基づいてトレーニング(学習)動作モード中に決定される。変分オートエンコーダ500の損失関数は、正則化項を使用して負の対数尤度を使用して構築される。いくつかの例では、総損失関数L(θ,φ,x,z)は、損失関数l(θ,φ)の和に分解され、以下のように個々の入力ベクトルxに対応する。
【0047】
【数1】

式中、関数l(θ,φ)は、以下で表される。
【0048】
【数2】

式中、第1項は、予測される負の対数尤度Eの形態のベクトルxの再構築損失を表し、第2項は、エンコーダの分布qθ(z|x)と潜在空間分布p(z)との間の重み付けされたカルバックライブラー(Kullback-Leibler、KL)ダイバージェンス(divergence、D)の形態の正則化項であり、βは、正の重み付け係数である。いくつかの例では、重み係数はβ=1である。式(2)によって表される損失関数の第1項は、データを良好に再構築する方法を学習するようにデコーダ520を「奨励」する。デコーダの出力ベクトル522が入力ベクトル502を良好に再構築しない場合、統計的言語では、デコーダ520が、真のデータに多くの確率質量を配置しない尤度分布をパラメータ化することを意味する。不十分な再構築は、式(1)~(2)によって表される損失関数に従って大きいコストを招く。潜在事後分布と(ガウス)事前分布との間のKLダイバージェンスは、その分布をガウス分布に近づけることによって正則化された潜在空間を維持する。例えば、エンコーダ510が、標準正規ガウス分布とは異なる潜在表現zを出力するとき、式(1)~(2)によって表される損失関数は、対応するペナルティを課す。正則化項がない場合、エンコーダ510は、潜在空間の異なる領域における表現を各入力ベクトルに与えてもよい。しかしながら、正則化項は、「類似の」入力ベクトルの表現を潜在空間において互いに近くに保つ効果を有する。
【0049】
いくつかの例では、トレーニング動作モード中に、オートエンコーダ500は、エンコーダ510のパラメータθ及びデコーダ520のパラメータφに関する損失関数L(θ,φ,x,z)をほぼ最小化するために、好適な勾配降下法を使用して、トレーニングセット{x}でトレーニングされる。例えば、ステップサイズρを有する確率的勾配降下の場合、エンコーダパラメータθは、以下のように、loos関数の勾配に基づいて再帰的かつ反復的に更新される。
【0050】
【数3】

デコーダパラメータφも同様にして更新される。収束基準が満たされると、反復は停止する。パラメータθ及びφは、その後、オートエンコーダ500の試験(作業)動作モードで使用されるために固定される。
【0051】
いくつかの例では、ベクトル502、512、及び522は、科学機器100の単一のモダリティを表す。そのような例では、入力ベクトル502は、科学機器100の対応する分光モダリティを用いて生成された単一スペクトルである。特定の一例では、入力ベクトル502はEDSスペクトル304である。別の特定の例では、入力ベクトル502はEELSスペクトル306である。更なる特定の例では、科学機器100の対応する分光モダリティで使用される別の単一検出器の出力は、入力ベクトル502を取得するために同様に使用される。いくつかの例では、潜在空間の次元数はk=2であり、これは、ユーザ/オペレータが視認して検査するために潜在空間を比較的簡単に視覚化するのに役立つ。他の例では、他の次元値kが同様に使用される。
【0052】
様々な例では、混合ガウスモデル(Gaussian Mixture model、GMM)が、例えば、トレーニングデータセットの潜在空間表現をクラスタリングすることによって、潜在空間を分類するために使用される。GMMは、d個のガウス分布(数dはパラメータである)を、これらのガウス分布によって生成されるデータの尤度が最大になるように(例えば、期待値最大化アルゴリズムに基づいて)潜在空間データに適合させる。GMMの使用は、例えば、符号化されたデータが、変分オートエンコーダの事前の性質に起因してガウス分布にほぼ従うことが予想されるので、変分オートエンコーダに好適である。いくつかの例では、数dは、BIC(Bayesian Information Criterion、ベイズ情報量基準)及び/又はAIC(Akaike Information Criterion、赤池情報量基準)を使用してエルボー法ヒューリスティックに基づいて決定される。各GMMに対して、クラスタリングが数回(例えば、10回)実施され、いくつかの分類の中から最良のクラスタ分類が、特徴(例えば、化学元素)分散に基づいて、それがトレーニングデータセットに関連するときに選択される。いくつかの例では、雑音を用いたアプリケーションの密度ベースの空間クラスタリング(Density-Based Spatial Clustering of Applications with Noise、DBSCAN)アルゴリズムが、密度ベースのクラスタリングのために使用される。
【0053】
いくつかの他の例では、ベクトル502、512、及び522は、科学機器100の2つの分光モダリティを表す。そのような例では、入力ベクトル502は、科学機器100の検出器の対応する選択された対を使用して生成された、2つのスペクトルの組み合わせである。特定の一例では、入力ベクトル502は、EDSスペクトルとEELSスペクトルとの組み合わせ(例えば、連結)(304,306)i,jである(図3も参照のこと)。他の特定の例では、科学機器100の対応する実施形態で使用される他の検出器対の出力は、入力ベクトル502を取得するために同様に使用される。いくつかの実施形態は、2021年8月2日にArtificial Intelligenceに提出されたプレプリント「Multimodal Variational Autoencoders for Semi-Supervised Learning:In Defense of Product-of-Experts」と題されたSvetlana Kutuzova,Oswin Krause,Douglas McCloskey,et al.による論文に記載されている特定の特徴から利益を得ることができ、この論文は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0054】
いくつかの場合、科学機器100の2つのモダリティの表現は、対応する別個の単一モダリティモデルから取得された潜在的表現をスタッキングすることによって、オートエンコーダ500において組み合わされる。単一モダリティモデルの各々は、例えば、上で示されたように、対応する単一モダリティのデータのそれぞれの二次元(k=2)の潜在表現を学習している。これらの潜在的表現のスタッキングの結果として、2つのモダリティの両方からのスペクトルを含む各ピクセルについて四次元(k=4)の潜在的表現が得られる。次いで、GMMクラスタリングが、この4D潜在空間に適用され、BIC及びAICが、適切な数(d)のクラスタを求めるために使用される。オートエンコーダ500のユニモーダル構成と同様に、各GMMに対してクラスタリングが数回(例えば、10回)実施され、いくつかの分類の中から最良のクラスタ分類が、特徴(例えば、化学元素)分散に基づいて、それがトレーニングデータセットに関連するときに選択される。
【0055】
いくつかの場合、科学機器100の2つの選択されたモダリティを表すオートエンコーダ500は、データ構造300(図3)に構造的に類似するトレーニングデータセットを使用してトレーニングされる。言い換えれば、この手法で使用されるトレーニングデータセットは、対応する画像の各ピクセルについてそれぞれのスペクトル対を有し、そのスペクトルの両方が、オートエンコーダ500のトレーニング動作モード中に入力ベクトル502の形態でエンコーダ510に供給される。上述したスタッキング手法と比較して、合同バイモーダルトレーニング(joint bimodal training)は、2つのモダリティ間の相関が潜在空間においてより良好に反映され、次いでオートエンコーダ500の作業動作モード中に活用されることを可能にする。
【0056】
図6は、追加の実施形態による、科学機器100で使用されるオートエンコーダ500を例解するブロック図である。示される例では、オートエンコーダ500は、科学機器100の2つのモダリティに対応する(例えば、2つの選択された検出器を用いて生成される)実験データを取り扱うように構成された、解きほぐされたバイモーダル変分オートエンコーダ(disentangled bimodal variational autoencoder、DBVAE)を実装する。他の例(明示せず)では、同様のオートエンコーダアーキテクチャを使用して、科学機器100の3つ以上のモダリティに対応する実験データを取り扱うように構成された、解きほぐされたマルチモーダル変分オートエンコーダ(disentangled multimodal variational autoencoder、DMVAE)500を実装する。以下に提供する説明から、当業者は、任意の過度の実験を伴わずに、そのようなDMVAE500をどのように作製及び使用するかを容易に理解するであろう。
【0057】
DBVAE500のエンコーダ510は、それぞれ、510及び510とラベル付けされた2つのエンコーダ部分を含む。エンコーダ部分510及び510の各々は、それぞれのニューラルネットワークを使用して実装され、したがって、「NNエンコーダ部分」と称される。入力ベクトル502は、それぞれ、502及び502とラベル付けされた2つの部分ベクトルを含む。部分ベクトル502は、科学機器100の第1のモダリティに対応し、NNエンコーダ部分510に適用される。部分ベクトル502は、科学機器100の第2のモダリティに対応し、NNエンコーダ部510に適用される。いくつかの例では、部分ベクトル502及び502は、STEM画像302の同じピクセルに対応する、EDS及びEELSスペクトルである。
【0058】
DBVAE500の潜在空間は、(1)NNエンコーダ部分510及び510のそれぞれに対する2つのプライベート部分空間630及び630と、(ii)NNエンコーダ部分510及び510によって共有される共有部分空間630とを有する。対になった部分ベクトル502及び502、{(x,x)}が与えられると、NNエンコーダ部分510及び510は、潜在的表現z~qθ1(z|x)及びz~qθ2(z|x)を推論するように動作し、式中、θ及びθは、それぞれ、NNエンコーダ部分510及び510のNNパラメータである。潜在的表現z及びzは、z=[zp1,s1]及びz=[zp2,zs2]に因数分解され、式中、zp1、zp2はそれぞれ、モダリティx及びxのそれぞれのプライベート部分空間630及び630における潜在的表現を表し、zs1、zs2はそれぞれ、モダリティx及びxの共有部分空間630における潜在的表現を表す。潜在空間は確率的であるので、潜在部分空間630、630、及び630における様々な潜在表現は、ガウス確率密度632、632、及び632のうちの対応するものを適切にサンプリングすることによって取得され、632、632、及び632の各々は、図6に示されるように、平均値と分散値のそれぞれの対(μ,σ)によって特徴付けられる。共有部分空間630における潜在表現zs1、zs2については、DBVAE500のトレーニングは、効果的にzs1=zs2=zとなるように構成され、これにより、図6に更に示すように、平均値及び分散値の単一の対(μ,σ)によって特徴付けられる共有ガウス確率密度632の使用が可能となる。いくつかの例では、この結果は、Product-of-Experts(PoE)ベースの一貫性モデル又はMixture-of-Experts(MoE)ベースの一貫性モデルを使用して達成され得る。
【0059】
DBVAE500のデコーダ520は、それぞれ、520及び520とラベル付けされた2つのデコーダ部分を含む。デコーダ部分520及び520の各々は、それぞれのニューラルネットワークを使用して実装され、したがって、「NNデコーダ部分」と称される。NNデコーダ部分520及び520の構成は、それぞれ、φ及びφとして示される重み及びバイアスの、対応するセットによって定義される。NNデコーダ部分520は、潜在表現zp1及びzに対して動作する。NNデコーダ部分520は、潜在表現zp2及びzに対して同様に動作する。NNデコーダ部分520の出力は、科学機器100の第1のモダリティに対応する部分ベクトル522である。NNデコーダ部分520の出力は、科学機器100の第2のモダリティに対応する部分ベクトル522である。
【0060】
いくつかの例では、潜在表現zp1、zp2、及びzは、以下の3つの異なる再構築タスクに対してDBVAE500をトレーニングすることによって学習される:(1)単一のモダリティを符号化及び復号することを含む、例えば、
【0061】
【数4】

である、自己再構築、(2)両方のモダリティを一緒に符号化及び復号することを含む、すなわち、
【0062】
【数5】

である、合同再構築、並びに(3)一方のモダリティを符号化し、他方のモダリティに復号することを含む、例えば、
【0063】
【数6】

であり、式中、
【0064】
【数7】

は部分ベクトル522及び522を示す(図6も参照のこと)、クロス再構築。これらの再構築タスクの各々は、損失関数におけるそれ自体の項に関連付けられ、完全損失関数L(θ,φ)は、それらの項の加重和であり、例えば、式(4)によって簡略化された形式で表される。
【0065】
【数8】

式中、インデックスiは、2つのモダリティを表し、インデックスjは、上で示された3つの再構築タスクを表し、Ej,iは、j番目の再構築タスク及びi番目のモダリティに対応する、再構築損失であり、
【0066】
【数9】

は、j番目の再構築タスク及びi番目のモダリティに対応する、カルバックライブラーダイバージェンスであり、λ,βは、重みである。式(4)で表される損失関数L(θ,φ)のいくつかの具体例は、例えば、2021年にProceedings of the IEEE/CVF conference on computer vision and pattern recognition(pp.1692-1700)において公開された、Mihee Lee及びVladimir Pavlovicによる論文「Private-Shared Disentangled Multimodal VAE for Learning of Latent Representations」に見出すことができ、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態は、33rd Conference Neural Information Processing Systems(NeurIPS 2019),Vancouver,Canadaにおいて公開された、Yuge Shi,et al.による「Variational Mixture-of-Experts Autoencoders for Multi-Modal Deep Generative Models」と題される論文に記載されたいくつかの特徴から利益を得ることができ、本論文はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0067】
いくつかの例では、DBVAE500は、八次元(eight-dimensional、8D)潜在空間を使用するように構成される。混合ガウスモデル(GMM)は、科学機器100の単一モダリティに対応するオートエンコーダ500の上述した実施形態に使用される2Dの例のものと同様の様式でトレーニングデータセットの潜在空間表現をクラスタリングすることによって、この8D潜在空間を分類するために使用される。特に、上記のBIC基準及びAIC基準は、GMMにおけるガウス分布の数dを決定するために使用される。
【0068】
例解目的のために、いかなる暗黙の限定もなしに、科学機器100のEDSモダリティ及びEELSモダリティを参照して、追加の実施形態を本明細書の以下で説明する。そのような実施形態のいくつかの例では、図5又は図6に示されるオートエンコーダ500は、データ構造300(図3)に対応する実験データを処理するように構成される。以下に提供される説明から、当業者は、任意の過度の実験を伴わずに、科学機器100の他の単一モダリティ、他のデュアルモダリティ、及び/又は複数の個々のモダリティの様々なセット、に対応する他の実施形態をどのように作製及び使用するかを容易に理解するであろう。
【0069】
図7図12及び図16図17に提示され、以下でより詳細に説明される例示的な実験データは、元素C、N、O、Al、Si、Ti、Cu、Hf、Ta、及びWを含有する様々な技術的材料で作られたマイクロチップトランジスタに対応する。STEM画像302などの対応するSTEM画像の例示的なサイズは、270×208ピクセルである。そのようなSTEM画像のピクセルサイズ及び関連する空間解像度を示す例示的なスケールバーが、図9B及び図17Aに提示されている。様々な例において、STEM画像の各ピクセルについて、対応するデータ構造は、(i)科学機器100のEELSモダリティを表すそれぞれのEELSスペクトル、(ii)科学機器100のEDSモダリティを表すそれぞれのEDSスペクトル、又は(iii)科学機器100のデュアルEDS+EELSモダリティを表すそれぞれのEELSスペクトル及びそれぞれのEDSスペクトルの両方、を含む。デュアルEDS+EELSモダリティが有効であるとき、STEM画像のピクセルに対応するEELS及びEDSスペクトルは、それぞれの検出器、例えば、EELS検出器260、180及びEDS検出器160(図2も参照のこと)を介して並行して(例えば、実質的に同時に)記録される。EELS検出器260、180及びEDS検出器160の異なるそれぞれの感度に起因して、獲得されたEELS及びEDSスペクトルは、典型的には、異なるそれぞれのSNRを有する。獲得されたEELSスペクトルの各々は、1.5eVのエネルギー分解能で、約200eV~約3300eVのエネルギー範囲をカバーする。獲得されたEDSスペクトルの各々は、5eVのエネルギー分解能で、約0eV~約20keVのエネルギー範囲をカバーする。少なくともいくつかの例では、生の実験データは、図3のデータ構造300などの対応するデータ構造にアセンブルされる前に前処理され、次いで、オートエンコーダ500を使用して実装される処理のために提示される。
【0070】
図7A図7Bは、例示的な実施形態による、EELS検出器260、180を使用して獲得されたEELSスペクトルの予備処理をグラフで例解する。より具体的には、図7Aに示されるEELSスペクトル702は、未処理(生)のEELSスペクトルの一例である。図7Bに示されるEELSスペクトル704は、EELSスペクトル702を処理することによって生成される、前処理されたEELSスペクトルの例である。いくつかの例では、図3のデータ構造300は、EELSスペクトル704に類似する前処理されたEELSスペクトルを含む。
【0071】
図7Aに示されるEELSスペクトル702などの未処理のEELSスペクトルは、典型的には、EELSスペクトルから典型的に抽出される化学情報に寄与しない2つの顕著な特徴の一方又は両方を有する。2つの顕著な特徴のうちの第1の特徴は、強いエネルギー依存性バックグラウンドであり、その強度は、エネルギー損失が増加するにつれて減少する。2つの顕著な特徴のうちの第2の特徴は、検出器180に当たる漂遊X線によって引き起こされた1つ以上の外れ値ピークの偶発的な存在である。したがって、例示的な予備処理は、EELSスペクトルからこれらの特徴を除去することが対象となる。前処理のいくつかの例では、外れ値ピークが最初に除去される。そのようなピークは、実質的に、試料Sに関する有用な物理的又は化学的情報を搬送しない雑音特徴であるが、いくつかの有意なスペクトル特徴を不明瞭にすることが多い。前処理中、各外れ値ピークは、周囲のいくつか(例えば、4つ)の検出器ピクセルの平均値によって置き換えられる。この外れ値ピーク除去の後に、推定されたエネルギー依存バックグラウンドの減算が続く。
【0072】
エネルギー依存バックグラウンドは、典型的には、低エネルギー遷移エッジの長いテールによって引き起こされる。エネルギー依存性バックグラウンドの大きさは、試料の厚さ及び組成に依存し得る。いくつかの例では、エネルギー依存バックグラウンドは、べき乗則(又はべき乗則の和)をEELSスペクトルのプレエッジ領域(すなわち、観測されたエッジの前のスペクトルの部分)に当てはめ、この当てはめをEELSスペクトルの他の部分に外挿することによって近似される。いくつかの他の例では、バックグラウンド除去のための異なる手法が実装される。第1に、EELSスペクトルは全て、それらのエネルギー依存バックグラウンドが0と1との間の範囲に収まるようにスケーリングされる。このスケーリングは、最初と最後のエネルギー損失値に対応する強度間の差を使用して各EELSスペクトルを正規化することによって行われ、これはエネルギー依存バックグラウンドの全範囲を近似的に表す。次に、データセットの平均スペクトルが計算される。式(5)によって表される5つのべき乗則の線形結合は、次に、この平均スペクトルに当てはめられる。
【0073】
【数10】

式中、cは、係数であり、Eは、エネルギー損失である。当てはめは、係数cを調整して最小二乗平均(least mean square、LMS)偏差を最小化することによって実施される。得られたエネルギー依存曲線b(E)は、次いで、データセットの各EELSスペクトルから減算され、それによって、EELSスペクトル704の対応するセットを生成する。
【0074】
図8A図8Cは、例示的な実施形態による、EDS検出器160を使用して獲得されたEDSスペクトルの予備処理をグラフで例解する。より具体的には、図8Aに示されるEDSスペクトル802は、未処理のEDSスペクトルの一例である。それぞれ、図8B及び図8Cに示されるEDSスペクトル804及び806は、EDSスペクトル802に適用される予備処理の異なる動作をグラフで例解している。
【0075】
様々な例において、予備処理動作は、獲得されたEDSスペクトルにPCAを適用することを含む。EDSスペクトル802などの未処理のEDSスペクトルにおける雑音は、典型的には、ポアソンノイズに大半を占められており、その強度は、EDSスペクトルにおけるカウント数に応じて変化する。この雑音特徴により、少なくともいくつかの例では、PCA自体では不十分となる可能性がある。そのため、いくつかの例では、ビニング及びフィルタリング動作は、PCAの前に適用される。典型的なEDSスペクトルは、比較的少ない数のカウントを含むので、EDSスペクトル802などの未処理のEDSスペクトルは、最初に、SNRを改善するために、エネルギー軸に沿って、例えば、8倍に再ビニングされる。8倍の再ビニングは、エネルギー分解能を5eV~40eVに低減する。いくつかの例では、再ビニングの後に、標準偏差σ=1を有するエネルギー方向のガウスカーネルフィルタリング(Gaussian kernel filtering)が続く。いくつかの例では、ガウスカーネルフィルタリングの後、バックグラウンド減算演算が実行される。いくつかの他の例では、バックグラウンドレベルが十分ゼロに近い場合、バックグラウンド減算演算は省略される。最後に、EDSスペクトルは正規化される。図8Bに示されるEDSスペクトル804は、図8AのEDSスペクトル802の8倍の再ビニングによって取得される。図8Cに示されるEDSスペクトル806は、図8AのEDSスペクトル802から、上述した全ての予備処理が終了した後に取得されたものである。
【0076】
図9図12は、いくつかの実施形態による、科学機器100を用いて生成された様々なデータセットのオートエンコーダベースの処理の例示的な例を提供する。図3を参照して説明されたデータ構造300は、そのようなデータセットの代表的な非限定的な例である。そのようなオートエンコーダベースの処理の代表的な利点としては、対応する科学機器支援システムが、(i)対応する検出信号が比較的低いSNRを示す場合であっても、試料S内の化学的に類似した領域を実質的にリアルタイムで識別し強調すること、(ii)試料Sにおける異常領域を実質的にリアルタイムで識別するために、いくつかの従来の時間集約的な信号処理方法論を回避すること、及び(iii)より短い時間でより正確な信号推定値を生成するために、改善された信号雑音除去能力を提供すること、を可能にすることが挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
図9A図9Bは、一実施形態による、科学機器100を用いて生成されたデータ構造のオートエンコーダベースの処理の第1の例を例解する。この特定の例は、科学機器100の単一の分光モダリティに対応しており、当該単一のモダリティはEELSモダリティである。対応するデータ構造は、(i)上記のトランジスタのSTEM画像(例えば、図3のSTEM画像302と同様)と、(ii)STEM画像の各ピクセルについて、それぞれのEELSスペクトル(例えば、図7Bのスペクトル704と同様)と、を有する。
【0078】
図9Aは、同様の技術的材料を含む基準構造のEELSスペクトル上で、上述のようにトレーニングされたオートエンコーダ500(図5)の2D潜在空間900を示す。オートエンコーダ500の潜在空間900は、上述したように、GMMを使用して8つのクラスタ910~917に分類される。クラスタの数(d=8)は、クラスタ910~917の各々が比較的低い元素分散を有するような数である。低い元素分散は、クラスタに対応する化学組成が実質的に均質であること、例えば、潜在空間クラスタ全体にわたってほぼ同じ量のほぼ同じ化学元素を表すことを示す。
【0079】
図9Bは、対応するデータ構造に属するピクセル化されたSTEM画像を示し、各ピクセルは、オートエンコーダ500のNNエンコーダ510によってクラスタ910~917のうちの対応する1つにマッピングされる。マッピングは、(i)STEM画像のピクセルに関連付けられたEELSスペクトルをエンコーダ510に供給して、対応する潜在的表現を決定し、(ii)決定された潜在的表現が入るクラスタ910~917のうちの対応する1つを識別することによって実施される。このマッピングは、示された凡例に従って図9Bに示されている。
【0080】
図10A図10Bは、一実施形態による、科学機器100を用いて生成されたデータ構造のオートエンコーダベースの処理の第2の例を例解する。この特定の例は、科学機器100の単一の分光モダリティに対応しており、当該単一のモダリティはEDSモダリティである。対応するデータ構造は、(i)上記のトランジスタのSTEM画像(例えば、図3のSTEM画像302と同様)と、(ii)STEM画像の各ピクセルについて、それぞれのEDSスペクトル(例えば、図8Cのスペクトル806と同様)と、を有する。
【0081】
図10Aは、同様の技術的材料を含む基準構造のEDSスペクトル上で、上述のようにトレーニングされたオートエンコーダ500(図5)の2D潜在空間1000を例解する。オートエンコーダ500の潜在空間1000は、上述したように、GMMを使用して8つのクラスタ1010~1017に分類される。クラスタの数(d=8)は、クラスタ1010~1017の各々が比較的低い元素分散を有するような数である。既に上述したように、低い元素分散は、クラスタに対応する化学組成が実質的に均質であること、例えば、クラスタ全体にわたってほぼ同じ量のほぼ同じ化学元素を表すことを示す。
【0082】
図10Bは、対応するデータ構造に属するピクセル化されたSTEM画像を示し、各ピクセルは、それぞれのEDSスペクトルに基づいて、オートエンコーダ500のNNエンコーダ510によってクラスタ1010~1017のうちの対応する1つにマッピングされる。このマッピングは、示された凡例に従って図10Bに示されている。
【0083】
図11A図11Bは、一実施形態による、科学機器100を用いて生成されたデータ構造のオートエンコーダベースの処理の第3の例を例解する。この特定の例は、科学機器100のデュアルEELS+EDSモダリティに対応する。対応するデータ構造は、(i)上記のトランジスタのSTEM画像(例えば、図3のSTEM画像302に類似する)と、(ii)STEM画像の各ピクセルについて、それぞれのEELSスペクトル(例えば、図7Bのスペクトル704と同様)と、(iii)STEM画像の各ピクセルについて、それぞれのEDSスペクトル(例えば、図8Cのスペクトル806と同様)と、を有する。
【0084】
図11Aは、上述したように、EELSモダリティに対応する2D潜在空間と科学機器100のEELSモダリティに対応する2D潜在空間とをスタッキングすることによって作られる、オートエンコーダ500(図5)の4D潜在空間を例解する。この4D潜在空間の対応する2D投影は、それぞれ、図11Aにおいて1101及び1103としてラベル付けされている。2D投影1101は、EELSモダリティを表す。2D投影1103は、EDSモダリティを表す。2D投影1101と1103とに対応する4D潜在空間は、上述のように、GMMを使用して8つのクラスタ1110~1117に分類される。
【0085】
図11Bは、対応するデータ構造のピクセル化されたSTEM画像を示し、各ピクセルは、それぞれのEELS及びEDSスペクトルに基づいて、オートエンコーダ500のNNエンコーダ510によってクラスタ1110~1117のうちの対応する1つにマッピングされる。このマッピングは、示された凡例に従って図11Bに示されている。
【0086】
図12は、一実施形態による、図6のオートエンコーダ500の8D潜在空間を例解する。この8D潜在空間は、図11A図11Bのものと同じデュアルEELS+EDSモダリティに対応する。既に上述したように、対応するデータ構造は、(i)上記のナノトランジスタのSTEM画像(例えば、図3のSTEM画像302に類似する)と、(ii)STEM画像の各ピクセルについて、それぞれのEELSスペクトル(例えば、図7Bのスペクトル704と同様)と、(iii)STEM画像の各ピクセルについて、それぞれのEDSスペクトル(例えば、図8Cのスペクトル806と同様)と、を有する。
【0087】
オートエンコーダ500の8D潜在空間は、その4つの直交2D投影によって図12に例解されており、それらはそれぞれ、1201、1203、1205、及び1207とラベル付けされている。2D投影1201は、EELSモダリティのプライベート部分空間630を表す。2D投影1203は、EDSモダリティのプライベート部分空間630を表す。2D投影1205及び1207は、EELSモダリティ及びEDSモダリティの、4D共有部分空間630を表す。この8D潜在空間は、上述したように、GMMを使用して8つのクラスタ1210~1217に分類される。対応するデータ構造のピクセル化されたSTEM画像は、それぞれのEELS及びEDSスペクトルに基づいてクラスタ1210~1217にマッピングされる。このクラスタマッピングされた画像は、図11Bの画像と定性的に類似しており、そのため明示的に示されていない。
【0088】
図13は、一実施形態による、NNエンコーダ510で使用されるニューラルネットワーク1300を例解するブロック図である。ニューラルネットワーク1300は、(N+2)個の層1310~1310N+1を有し、式中、Nは正の整数である。層1310は入力層である。次のN個の層1310~1310は隠れ層である。層1310N+1は出力層である。いくつかの特定の例では、数Nは1~4の範囲である。様々な例では、ニューラルネットワーク1300は、NNエンコーダ510(図5)、NNエンコーダ部分510図6)、又はNNエンコーダ部分510図6)を実装する。
【0089】
ニューラルネットワーク1300のi番目の層1310は、M個のPE1302を有し、式中、i=0、1、...、N+1である。様々な例では、入力層1310におけるPE1302の数Mは、入力ベクトル502(図5)のサイズ、入力ベクトル502図6)のサイズ、又は入力ベクトル502図6)のサイズに対応する。科学機器100のEELS及びEDSモダリティに対応する上述した特定の例のいくつかについて、数Mは、500~5000の範囲内である。出力層1310N+1におけるPE1302の数MN+1は、潜在空間の次元数に対応する。オートエンコーダ500の上述した例は、2D、4D、及び8D潜在空間を有する。他の例では、他の次元の潜在空間も使用される。隠れ層1310~1310の各々について、それぞれの数Mは、典型的には、数M~数MN+1の範囲内である。いくつかの例では、2つの隣接する隠れ層1310及び1310i+1について、PE1302のそれぞれの数は、以下の不等式、M≧Mi+1を満たす。一例では、ニューラルネットワーク1300は、以下のパラメータ、N=3、M=512、M=M=M=125、及びM=4を有する。
【0090】
様々な例では、入力層1310のPe1302は、入力ベクトル502、502、又は502の対応する成分を受信するように構成される(図5図6も参照のこと)。後続の層1310のPe1302の各々は、先行する層1310のPe1302の各々からそれぞれの入力を受信するように直接接続される。いくつかの例では、様々なPe1302は、正規化線形関数(Rectified Linear Unit、ReLU)活性化関数を使用して動作する。他の例では、他の好適な活性化関数も使用することができる。
【0091】
いくつかの例では、NNデコーダ520で使用されるニューラルネットワークは、反転トポロジを有するが、他の点ではニューラルネットワーク1300と同様である。反転トポロジは、図13に示されるニューラルネットワーク1300の鏡像をとることによって視覚化することができる。そのような反転トポロジでは、層1310N+1は、潜在空間から対応する入力ベクトル512を受け取るように構成された入力層として動作する。層1310は、出力ベクトル522、522、又は522を出力するように構成された出力層として動作する。NNデコーダ520で使用されるニューラルネットワークを視覚化する別の方法は、図13に示されるように、信号が反対方向に、すなわち、層1310N+1から層1310に流れるニューラルネットワーク1300を視認することである。
【0092】
図14は、一実施形態による、科学機器100を使用して実装される分析方法を例解するフローチャート1400である。分析方法1400は、事前にトレーニングされたオートエンコーダ500に依存して、実質的にリアルタイムで、試料Sに関する化学的及び構造的情報を、試料Sの測定スペクトルに基づいて科学機器100のユーザに提供する。様々な例において、オートエンコーダ500は、例えば上述したように、基準構造及び/又は試料Sの材料と同様の材料を含む試料の対応するスペクトルに対して、かつ/又は数値的にシミュレートされたデータを使用してトレーニングされる。例解目的のために、いかなる暗黙の限定もなしに、STEM撮像モダリティを参照して分析方法1400を説明する。提供された説明に基づいて、当業者は、分析方法1400を、対応する科学機器の他の撮像モダリティにどのように適合させ適用するかを容易に理解するであろう。
【0093】
分析方法1400は、(ブロック1402において)科学機器100のSTEMカラム102の視野(field of view、FOV)内のピクセルを選択することを含む。ピクセルは、ブロック1402において、適用可能なFOV走査パターンに基づいて選択される。様々な例では、FOV走査パターンは、ラスタ走査パターン、ベクトル走査パターン、又は任意の他の好適な走査パターンであり、それに基づいて、電子ビーム114は、偏向ユニット118によってステアリングされ、試料Sを横断する所望の経路に沿って移動する。既に上で示されたように、ビームステアリングは、電子コントローラ150によって偏向ユニット118に印加された制御信号154に応答して、偏向ユニット118によって実施される。
【0094】
分析方法1400はまた、(ブロック1404において)科学機器100の2つ以上の検出器を用いて、試料Sからの様々な信号を測定することを含む。様々な例において、そのような様々な信号は、ブロック1402において選択されたピクセルに対応する試料S上のスポットから作られ、電子ビーム114によるそのスポットのプロービング、刺激、及び/又は励起に応答して作られる。いくつかの例では、ブロック1404で使用される科学機器100の2つ以上の検出器は、科学機器100の撮像モダリティに対応する少なくとも1つの検出器と、科学機器100の分光モダリティに対応する少なくとも1つの検出器と、を含む。いくつかの他の例では、ブロック1404で使用される検出器は、科学機器100の撮像モダリティに対応する少なくとも1つの検出器と、科学機器100の2つの異なる分光モダリティに対応する少なくとも2つの検出器と、を含む。様々な例では、ブロック1404で使用される科学機器100の検出器は、高角度環状暗視野検出器(例えば、220)、中角度環状暗視野検出器(例えば、230)、環状明視野検出器(例えば、240)、セグメント化環状検出器、微分位相コントラスト検出器、EELS検出器(例えば、260/180)、EDS検出器(例えば、160)、及び2Dピクセル化回折パターン検出器からなる群から選択される。ブロック1404において科学機器100の2つ以上の検出器によって生成された測定値のストリームは、電子コントローラ150に向けられ、そこで処理される。
【0095】
分析方法1400はまた、電子コントローラ150が、(ブロック1406において)受信された測定値のストリームに、1つ以上の任意選択の予備処理動作を適用することを含む。様々な例では、そのような予備処理動作のタイプは、ブロック1404において使用される検出器のタイプに依存する。例えば、EELS検出器(例えば、260、180)で測定されたEELSスペクトルの場合、ブロック1406の予備処理動作には、(i)外れ値ピークの除去、(ii)推定されたエネルギー依存性バックグラウンドの減算、(iii)スケーリング、(iv)正規化、(v)平均化、及び(vi)選択された関数を用いたフィッティングからなる群から選択される処理動作が含まれ得るが、これらに限定されない。EDS検出器(例えば、160)を用いて測定されたEDSスペクトルの場合、ブロック1406の予備処理動作には、(i)ビニング又は再ビニング、(ii)ガウスカーネルフィルタリング、(iii)推定されたバックグラウンドを減算すること、及び(iv)正規化からなる群から選択される処理動作が含まれ得るが、これらに限定されない。他のタイプの測定されたスペクトル及び/又は信号は、典型的には、電子コントローラ150に、ブロック1406における予備処理動作の他の好適なセットを呼び出させる。いくつかの例では、ブロック1406の予備処理動作の一部又は全部は、迂回又は省略される。
【0096】
分析方法1400はまた、電子コントローラ150が、1つ以上の測定されたスペクトル及び/又は信号を、入力ベクトル、例えば502又は502、502として、オートエンコーダ500に印加することを含む(ブロック1408において)。いくつかの例では、そのような印加されたスペクトル及び/又は信号は、ブロック1406の予備処理動作から生じるスペクトル及び/又は信号である。いくつかの他の例では(例えば、ブロック1406の対応する予備処理動作が迂回又は省略される場合)、そのような印加されるスペクトル及び/又は信号は、検出器から受信された未処理のスペクトル及び/又は信号である。そのような入力ベクトルを受信したことに応答して、オートエンコーダ500のエンコーダ510は、ブロック1408において、受信された入力ベクトルを潜在空間における対応する(例えば、ガウス)確率密度にマッピングするように動作する。様々な例では、オートエンコーダ500の潜在空間は、2D空間(例えば、図9A図10Aを参照のこと)、4D空間(例えば、図11Aを参照のこと)、8D空間(例えば、図12を参照のこと)、又は好適な次元数kの他の多次元空間である。
【0097】
分析方法1400はまた、(ブロック1410において)電子コントローラ150が、対応する潜在空間クラスタを識別することも含む。クラスタ識別は、ブロック1410において、(i)対応する入力ベクトルがブロック1408においてオートエンコーダ500のエンコーダ510によってマッピングされる潜在空間確率密度と、(ii)上述した潜在空間のGMMベースの分類とに基づいて実施される。いくつかの例では、ブロック1410において実施されるクラスタ特定は、k平均アルゴリズム、GMMアルゴリズム、及びDBSCANアルゴリズムからなる群から選択されるアルゴリズムを使用する。
【0098】
分析方法1400はまた、電子コントローラ150が、(判断ブロック1412において)試料Sの意図された走査が終了したかどうかを判定することを含む。電子コントローラ150が、走査が終了したと判定した場合(判断ブロック1412の「はい」)、ブロック1414の動作が実施される。電子コントローラ150が、走査が終了していないと判定した場合(判断ブロック1412の「いいえ」)、分析方法1400の処理動作は、ブロック1402の動作にループバックされる。
【0099】
分析方法1400のブロック1414の動作には、電子コントローラ150が試料Sのクラスタマッピングされた画像を生成することが含まれ、各ピクセルは、ブロック1410の対応するインスタンスにおいて識別される潜在空間のそれぞれのクラスタにマッピングされる。いくつかの例では、ブロック1414において試料Sのクラスタマッピングされた画像を生成することを対象とする動作は、例えば従来の様式で、科学機器100のアクティブな撮像モダリティに対応する検出器信号を使用して試料Sのベース画像を生成することを含む。このようにしてブロック1414で生成されたベース画像の一例は、STEM画像302(図3)である。ブロック1414において試料Sのクラスタマッピングされた画像を生成することを対象とする動作はまた、処理ループ1402~1412のブロック1410の異なるインスタンスにおいて判定されたピクセル対クラスタマッピングの視覚表現を試料Sのベース画像上にオーバーレイすることによって、試料Sのベース画像を修正することを含む。
【0100】
いくつかの例では、ブロック1414において使用されるピクセル対クラスタマッピングの視覚表現は、オートエンコーダ500の潜在空間の異なるクラスタを異なるそれぞれの色でカラーコーディングすることに基づく。そのようなカラーコーディングのいくつかの例が、図9図12に示される凡例によって提供される。そのような例においてブロック1414でベース画像を修正する動作には、ベース画像の各ピクセルを、ブロック1410の対応するインスタンスにおいてピクセルがマッピングされるクラスタのカラーコードに従って着色することが含まれる。このようにして取得された試料Sのクラスタマッピングされた画像のいくつかの例が、図9B図10B、及び図11Bに示される。
【0101】
いくつかの他の例では、ブロック1414で使用されるピクセル対クラスタマッピングの視覚表現は、色混合及び/又は各潜在空間座標をカラー画像の対応する層に割り当てることに基づく。ブロック1414の動作が完了すると、分析方法1400は終了する。
【0102】
図15は、別の実施形態による、科学機器100を使用して実装される分析方法1500を例解するフローチャートである。分析方法1500は、事前にトレーニングされたオートエンコーダ500に依存して、科学機器100のユーザが、実質的にリアルタイムで、獲得されたスペクトルが予期される試料特性からの有意かつ有意義な逸脱を示す、試料Sにおける異常領域を識別することを可能にする。例えば、オートエンコーダ500を用いて実施される潜在空間マッピング及び信号再構築は、検出された信号が比較的低いSNRを有する場合であっても、偏差の大きさを評価し、異常領域と非異常領域とを区別するために容易に定量化可能なメトリックを提供する。品質管理手順において、異常領域は、潜在的な技術的問題スポットとして特に関心事である。オートエンコーダ500を用いたそのような異常領域の識別に基づいて、科学機器100のユーザは、例えば、試料Sのより詳細な化学的及び構造的特徴付けのための試料Sの次の走査において、特定の異常領域にズームインすることができ、かつ/又は他の好適な是正措置をとることができる。分析方法1500の重要な利点は、トレーニングされたオートエンコーダ500が、非常に短い信号取得時間(例えば、数秒以内)で試料S内の異常領域にフラグを立てることができ、それによって、少なくともいくつかの品質管理手順を大幅に早めることである。
【0103】
様々な例では、分析方法1500は、図14を参照しながら上述したブロック1402~1408の動作を含む。簡潔にするために、これらの動作の説明はここでは繰り返さない。読者は、ブロック1402~1408において実施される動作の詳細について、上記で提供された分析方法1400の説明の関連部分を参照されたい。
【0104】
分析方法1500は、(ブロック1512において)オートエンコーダ500が、対応する出力ベクトル、例えば522又は522、522を生成することを更に含む。いくつかの例では、ブロック1512の動作は、(i)分析方法1500のブロック1408において入力ベクトル502又は502、502がマッピングされる潜在空間確率密度を適切にサンプリングすることによって、潜在空間ベクトル512又は512、512、512を計算することと、(ii)計算された潜在空間ベクトルをオートエンコーダ500のNNデコーダ520に適用して、対応する出力ベクトル522又は522、522を生成することと、を含む(図5図6も参照のこと)。既に上で示されたように、出力ベクトル522又は522、522は、入力ベクトル502又は502、502として印加された測定されたスペクトルに基づいてオートエンコーダ500によって計算された再構築スペクトルを含む。
【0105】
ブロック1512の動作が完了すると、電子コントローラ150は、選択されたピクセルの測定されたスペクトルごとに、オートエンコーダ500に印加される、対応する再構築されたスペクトルを有する。したがって、様々な例では、ブロック1512の動作を完了すると、電子コントローラ150は、選択されたピクセルについて測定/再構築されたスペクトルの1つ以上の対を有する。より具体的には、単一の分光モダリティの場合、電子コントローラ150は、選択されたピクセルに対して測定/再構築されたスペクトルの単一の対を有する。デュアル分光モダリティの場合、電子コントローラ150は、選択されたピクセルに対して2対の測定/再構築されたスペクトルを有し、各対は、デュアルモダリティの異なるそれぞれの個々の単一モダリティに対応する。(3つ以上の異なる分光モダリティを含む)複数の分光モダリティの場合、電子コントローラ150は、同様に、選択されたピクセルに対して3対以上の測定/再構築されたスペクトルを有する。
【0106】
図16A図16Bは、一実施形態による、科学機器100のEELSモダリティについて測定された、スペクトル及び再構築されたスペクトルの例示的な対を例解するグラフである。より具体的には、図16Aは、試料Sの1つの選択されたピクセルについて測定された、EELSスペクトル1612及び対応する再構築されたEELSスペクトル1614をグラフで示す。図16Bは、試料Sの別の選択されたピクセルについて測定された、EELSスペクトル1622及び対応する再構築されたEELSスペクトル1624をグラフで示す。
【0107】
EELSスペクトル1612は、分析方法1500のブロック1404の1つのインスタンスにおいて、EELS検出器260、180によって測定される。EELSスペクトル1614は、入力ベクトル502におけるEELSスペクトル1612を受信したことに応答して、分析方法1500のブロック1512の対応するインスタンスにおいてオートエンコーダ500によって計算される。EELSスペクトル1622は、分析方法1500のブロック1404の別のインスタンスにおいて、EELS検出器260、180によって同様に測定される。EELSスペクトル1624は、入力ベクトル502におけるEELSスペクトル1622を受信したことに応答して、分析方法1500のブロック1512の対応するインスタンスにおいてオートエンコーダ500によって計算される。
【0108】
図15に戻って参照すると、分析方法1500はまた、(ブロック1514において)電子コントローラ150が、ピクセルの測定されたスペクトルと再構築されたスペクトルとの間の差異を評価することを含む。いくつかの例では、ブロック1514においてこの目的のために使用される差異評価メトリックは、平均二乗誤差(mean squared error、MSE)に基づく。例えば、測定/再構築されたEELSスペクトル1612/1614(図16A)の場合、対応するMSE値は、約0.02である。測定/再構築されたEELSスペクトル1622/1624(図16B)の場合、対応するMSE値は、約0.05である。他の例では、ブロック1514において使用される差異評価メトリックは、他の好適な損失関数に基づく。そのような他の損失関数の例としては、二乗平均平方根誤差(root-mean-square error、RMSE)、平均絶対誤差(mean absolute error、MAE)、及びHuber損失が挙げられる。いくつかの例では、電子コントローラ150は、潜在表現内の外れ値を検出する損失関数を使用することもでき、「外れ値」という用語は、潜在空間内の対応するクラスタから遠く離れて位置する点を指す。
【0109】
様々な例において、差異評価メトリックは、単一の分光モダリティの場合、デュアル分光モダリティの場合、又は複数の分光モダリティの場合のブロック1514において計算される。単一の分光モダリティの場合、ブロック1514で計算される差異評価メトリックは、損失関数、すなわち、MSE、RMSE、MAE、又はHuber損失のうちの選択された1つと同じである。デュアル又は複数の分光モダリティの場合、ブロック1514で使用される差異評価メトリックは、デュアル又は複数の分光モダリティを構成する個々の分光モダリティに対応する損失関数の加重和として計算される。例えば、損失関数がMSEである場合、差異評価メトリック(difference-evaluation metric、DEM)値は、ブロック1514において以下のように計算される。
【0110】
【数11】

式中、Qは、個々の分光モダリティの総数であり、qは、モダリティインデックスであり、cは、q番目のモダリティに対応する重みであり、MSEは、q番目のモダリティの測定/再構築されたスペクトルの対のMSE値である。重みcは、構成する個々のモダリティのタイプに基づいて選択されるアルゴリズムパラメータである。例えば、重みcは、分析方法1500を用いて実行されている特定の品質管理動作のために最適に選択されてよい。デュアル分光モダリティの場合、数QはQ=2である。上述した科学機器100のEELS+EDSモダリティは、デュアル分光モダリティの一例である。
【0111】
分析方法1500はまた、電子コントローラ150が、(ブロック1516において)試料Sの選択されたピクセルを異常又は非異常としてマーキングすることを含む。マーキングは、ブロック1514において計算されたピクセルのDEM値に基づいてブロック1516で実施される。より具体的には、ピクセルのDEM値がDEM閾値(DEM)より小さい場合、ピクセルは、ブロック1516において非異常としてマーキングされる。ピクセルのDEM値がDEM閾値以上である場合、ピクセルは、ブロック1516において異常としてマーキングされる。様々な例において、DEM閾値は、調整可能なアルゴリズムパラメータであり、その値は、特定の品質管理動作及び検査中のマイクロ/ナノ構造に基づいて選択される。
【0112】
分析方法1500はまた、電子コントローラ150が、(判断ブロック1518において)試料Sの意図された走査が終了したかどうかを判定することを含む。電子コントローラ150が、走査が終了したと判定した場合(判断ブロック1518の「はい」)、その後、ブロック1520の動作が実施される。電子コントローラ150が、走査が終了していないと判定した場合(判断ブロック1518の「いいえ」)、分析方法1500の処理動作は、ブロック1402の動作にループバックされる。
【0113】
分析方法1500のブロック1520の動作は、電子コントローラ150が試料Sの異常マップを生成することを含む。一例では、異常マップは、試料Sの白黒二値画像であり、各非異常ピクセルは黒であり、各異常ピクセルは白である。別の例では、異常マップは、試料Sのグレースケール画像であり、各非異常ピクセルは黒であり、各異常ピクセルは、ブロック1514において計算されたピクセルのDEM値と、DEM閾値との間の差異に基づいて、グレースケール符号化される。更に別の例では、異常マップは試料Sのカラー画像であり、各非異常ピクセルは黒であり、各異常ピクセルは、ブロック1514で計算されたピクセルのDEM値と、DEM閾値との間の差に基づいて、カラー符号化される。ブロック1520の動作が完了すると、分析方法1500は終了する。
【0114】
図17A図17Cは、一実施形態による、分析方法1500を使用して生成された例示的な異常マップを例解する。示される例では、試料Sは、電界効果トランジスタ(field-effect transistor、FET)の縦断面を含む。図17Aは、試料SのSTEM画像1702を示す。図17Bは、単一のEELSモダリティに対応する分析方法1500の実施形態によって生成された試料Sの異常マップ1704を示し、DEM閾値はDEM=0.02に設定されている。図17Cは、分析方法1500の同じ実施形態によって生成された試料Sの異常マップ1706を示すが、DEM閾値はDEM=0.05に設定されている。異常マップ1704、1706のピクセルフレームは、STEM画像1702のピクセルフレームと同じである。
【0115】
異常マップ1704、1706とSTEM画像1702との比較は、異常ピクセルがFET構造の様々な材料界面に沿って集中していることを明らかにする。異常マップ1706に使用されるDEM閾値は、異常マップ1704に使用されるDEM閾値よりも大きいため、後者のマップは、異常としてマーキングされたピクセルをより多く有する。材料界面に沿って化学組成又は原子価状態が変化する小さい(例えば、薄い)領域は、通常の予想される技術的出来事であるが、DEM閾値の正しい(例えば、経験的な)選択は、分析方法1500を使用して実施される品質検査が、界面層及び他の場所における比較的多数の異常ピクセルを示すことによって、欠陥バッチに迅速にフラグを立てることを可能にする。多くの場合、品質検査は、特に、図17AのFETなどの手近なナノ構造の界面層に焦点を当てているが、これは、これらの層が、典型的には、ナノ構造の特性に不相応な影響を及ぼすためである。
【0116】
例えば概要セクションにおいて、かつ/又は図1図17の一部若しくは全部のいずれか1つ若しくはいずれかの組み合わせを参照して上記で開示された一例によれば、装置が提供され、装置は、試料を横切って電子ビームを走査するように構成された電子ビームカラムと、電子ビームと試料との相互作用によって引き起こされた信号を測定するように構成された複数の検出器であって、第1のモダリティのための第1の検出器と、撮像モダリティのための第2の検出器と、を含む、複数の検出器と、電子コントローラと、を備え、電子コントローラは、複数の検出器から測定値のストリームを受信するように接続されており、かつ撮像モダリティを使用して生成された、試料のベース画像の各ピクセルについて、オートエンコーダを用いて、それぞれの第1の入力ベクトルを潜在空間内のそれぞれの確率密度にマッピングすることであって、それぞれの第1の入力ベクトル及びベース画像が、測定値のストリームに基づいて取得され、それぞれの第1の入力ベクトルが、第1のモダリティに対応する、マッピングすることと、オートエンコーダを用いて、それぞれの確率密度に対応するそれぞれの第1の出力ベクトルを計算することと、ベース画像の異なるピクセルに対応するそれぞれの差異に基づいて、試料の異常マップを生成することであって、それぞれの差異の各々が、それぞれの第1の入力ベクトルとそれぞれの第1の出力ベクトルとの間の差異である、生成することと、を行うように構成されている。
【0117】
上記装置のいくつかの例では、複数の検出器は、高角度環状暗視野検出器、中角度環状暗視野検出器、環状明視野検出器、セグメント化環状検出器、微分位相コントラスト検出器、電子エネルギー損失分光法(EELS)検出器、エネルギー分散型X線分光法(EDS)検出器、及び二次元回折パターン検出器からなる群から選択される。
【0118】
上記装置のいずれかのいくつかの例では、第1の検出器は、EELS検出器又はEDS検出器である。
【0119】
上記装置のいずれかのいくつかの例では、オートエンコーダは、それぞれの第1の入力ベクトルを、潜在空間内のそれぞれの確率密度にマッピングするように構成されたニューラルネットワークエンコーダと、それぞれの確率密度に基づいて、それぞれの第1の出力ベクトルを生成するように構成されたニューラルネットワークデコーダと、を備え、ニューラルネットワークエンコーダ及びニューラルネットワークデコーダは、損失関数と、トレーニングベクトルのセットと、再構築されたトレーニングベクトルの対応するセットと、を使用してトレーニングされており、損失関数は、再構築損失を表す項と正則化項との和を含む。
【0120】
上記装置のいずれかのいくつかの例では、電子コントローラは、平均二乗誤差(MSE)、二乗平均平方根誤差(RMSE)、平均絶対誤差(MAE)、外れ値検査、又はHuber損失に基づいてそれぞれの差異評価メトリック(DEM)値を計算することによって、それぞれの第1の入力ベクトルとそれぞれの第1の出力ベクトルとの間の差異を評価するように構成されている。
【0121】
上記装置のいずれかのいくつかの例では、ベース画像の各ピクセルについて、電子コントローラは、それぞれのDEM値とDEM閾値との比較に基づいて、ピクセルを異常又は非異常としてマーキングするように構成されている。
【0122】
上記装置のいずれかのいくつかの例では、異常マップは、試料のバイナリ、グレースケール、又はカラー画像であり、異常マップにおいて、各非異常ピクセルは黒であり、各異常ピクセルは白であり、それぞれのDEM値とDEM閾値との間の差異に基づいてグレースケールコード化され、又はそれぞれのDEM値とDEM閾値との間の差異に基づいてカラーコード化される。
【0123】
上記装置のいずれかのいくつかの例では、複数の検出器は、第2のモダリティのための第3の検出器を含み、電子コントローラは、ベース画像の各ピクセルについて、オートエンコーダを用いて、それぞれの第1の入力ベクトル及びそれぞれの第2の入力ベクトルを、潜在空間内のそれぞれの確率密度に合同でマッピングすることであって、それぞれの第2の入力ベクトルが、第2のモダリティに対応し、かつ測定値のストリームに基づいて取得される、マッピングすることと、オートエンコーダを用いて、それぞれの確率密度に対応するそれぞれの第2の出力ベクトルを計算することであって、第1の出力ベクトルが第1のモダリティに対応し、第2の出力ベクトルが第2のモダリティに対応する、計算することと、を行うように構成されている。
【0124】
上記装置のいずれかのいくつかの例では、オートエンコーダは、それぞれの第1の入力ベクトルを、潜在空間の第1のプライベート部分空間における第1の確率密度にマッピングするように構成された第1のニューラルネットワークエンコーダと、それぞれの第2の入力ベクトルを、潜在空間の第2のプライベート部分空間における第2の確率密度にマッピングするように構成された第2のニューラルネットワークエンコーダと、を備え、第1のニューラルネットワークエンコーダ及び第2のニューラルネットワークエンコーダは、それぞれの第1の入力ベクトル及びそれぞれの第2の入力ベクトルを、潜在空間の共有部分空間におけるそれぞれの確率密度に合同でマッピングするように更に構成されている。
【0125】
上記装置のいずれかのいくつかの例では、それぞれの第1の入力ベクトル及びそれぞれの第2の入力ベクトルの各々は、100~10000の範囲内のそれぞれの次元数を有しており、潜在空間は、二次元空間、四次元空間、又は八次元空間である。
【0126】
上記装置のいずれかのいくつかの例では、電子コントローラは、測定値のストリームに処理を適用して、それぞれの第1の入力ベクトルを取得するように構成されており、処理は、外れ値ピークの除去、推定バックグラウンドの減算、スケーリング、正規化、平均化、選択された関数によるフィッティング、ビニング又は再ビニング、及びガウスカーネルフィルタリングからなる群から選択される1つ以上の動作を含む。
【0127】
例えば概要セクションにおいて、かつ/又は図1図17の一部若しくは全部のいずれか1つ若しくはいずれかの組み合わせを参照して上記で開示された別の例によれば、科学機器のための支援装置が提供され、支援装置は、科学機器の複数の検出器から測定値のストリームを受信するように構成されたインターフェースデバイスであって、複数の検出器は、電子ビームと試料との相互作用によって引き起こされた信号を測定するように構成されており、かつ科学機器の第1のモダリティのための第1の検出器と、科学機器の撮像モダリティのための第2の検出器と、を含む、インターフェースデバイスと、処理デバイスと、を備え、処理デバイスは、撮像モダリティを使用して生成された、試料のベース画像の各ピクセルについて、オートエンコーダを用いて、それぞれの第1の入力ベクトルを潜在空間内のそれぞれの確率密度にマッピングすることであって、それぞれの第1の入力ベクトル及びベース画像が、測定値のストリームに基づいて取得され、それぞれの第1の入力ベクトルが、第1のモダリティに対応する、マッピングすることと、オートエンコーダを用いて、それぞれの確率密度に対応するそれぞれの第1の出力ベクトルを計算することと、ベース画像の異なるピクセルに対応するそれぞれの差異に基づいて、試料の異常マップを生成することであって、それぞれの差異の各々が、それぞれの第1の入力ベクトルとそれぞれの第1の出力ベクトルとの間の差異である、生成することと、を行うように構成されている。
【0128】
上記支援装置のいくつかの例では、複数の検出器は、高角度環状暗視野検出器、中角度環状暗視野検出器、環状明視野検出器、セグメント化環状検出器、微分位相コントラスト検出器、電子エネルギー損失分光法(EELS)検出器、エネルギー分散型X線分光法(EDS)検出器、及び二次元回折パターン検出器からなる群から選択される。
【0129】
上記支援装置のいずれかのいくつかの例では、第1の検出器は、EELS検出器又はEDS検出器である。
【0130】
上記支援装置のいずれかのいくつかの例では、オートエンコーダは、それぞれの第1の入力ベクトルを、潜在空間内のそれぞれの確率密度にマッピングするように構成されたニューラルネットワークエンコーダと、それぞれの確率密度に基づいて、それぞれの第1の出力ベクトルを生成するように構成されたニューラルネットワークデコーダと、を備え、ニューラルネットワークエンコーダ及びニューラルネットワークデコーダは、損失関数と、トレーニングベクトルのセットと、再構築されたトレーニングベクトルの対応するセットと、を使用してトレーニングされており、損失関数は、再構築損失を表す項と正則化項との和を含む。
【0131】
上記支援装置のいずれかのいくつかの例では、処理デバイスは、平均二乗誤差(MSE)、二乗平均平方根誤差(RMSE)、平均絶対誤差(MAE)、外れ値検査、又はHuber損失に基づいてそれぞれの差異評価メトリック(DEM)値を計算することによって、それぞれの第1の入力ベクトルとそれぞれの第1の出力ベクトルとの間の差異を評価するように構成されている。
【0132】
上記支援装置のいずれかのいくつかの例では、ベース画像の各ピクセルについて、処理デバイスは、それぞれのDEM値とDEM閾値との比較に基づいて、ピクセルを異常又は非異常としてマーキングするように構成されている。
【0133】
上記支援装置のいずれかのいくつかの例では、異常マップは、試料のバイナリ、グレースケール、又はカラー画像であり、異常マップにおいて、各非異常ピクセルは黒であり、各異常ピクセルは白であり、それぞれのDEM値とDEM閾値との間の差異に基づいてグレースケールコード化され、又はそれぞれのDEM値とDEM閾値との間の差異に基づいてカラーコード化される。
【0134】
例えば概要セクションにおいて、かつ/又は図1図17の一部若しくは全部のいずれか1つ若しくはいずれかの組み合わせを参照して上記で開示された更に別の例によれば、科学機器に支援を提供するためにコンピューティングデバイスを介して実施される自動化された方法が提供され、方法は、科学機器の複数の検出器から測定値のストリームを受信することであって、複数の検出器が、電子ビームと試料との相互作用によって引き起こされる信号を測定するように構成され、かつ科学機器の第1のモダリティのための第1の検出器と、科学機器の撮像モダリティのための第2の検出器とを含む、受信することと、撮像モダリティを使用して生成された、試料のベース画像の各ピクセルについて、オートエンコーダを用いて、それぞれの第1の入力ベクトルを潜在空間内のそれぞれの確率密度にマッピングすることであって、それぞれの第1の入力ベクトル及びベース画像が、測定値のストリームに基づいて取得され、それぞれの第1の入力ベクトルが、第1のモダリティに対応する、マッピングすることと、オートエンコーダを用いて、それぞれの確率密度に対応するそれぞれの第1の出力ベクトルを計算することと、ベース画像の異なるピクセルに対応するそれぞれの差異に基づいて、試料の異常マップを生成することであって、それぞれの差異の各々が、それぞれの第1の入力ベクトルとそれぞれの第1の出力ベクトルとの間の差異である、生成することと、を含む。
【0135】
上記の説明は例解を目的としたものであって、限定的なものではないことを理解されたい。提供された例以外の多くの実装形態及び用途は、上記の説明を読めば明らかになるであろう。範囲は、上記の説明を参照して決定されるべきではなく、代わりに、添付の特許請求の範囲を参照して、そのような特許請求の範囲が権利を与えられる均等物の全範囲とともに決定されるべきである。将来の開発が本明細書で考察される技術において行われること、並びに開示されるシステム及び方法がそのような将来の例に組み込まれることが予想され、意図される。要するに、本出願は、修正及び変形が可能であることを理解されたい。
【0136】
特許請求の範囲で使用される全ての用語は、本明細書で反対の明示的な指示がなされない限り、本明細書に記載される技術に精通する者によって理解される、それらの最も広範な妥当な解釈及びそれらの通常の意味を与えられることが意図される。特に、「a」、「the」、「said」などの単数形の冠詞の使用は、特許請求の範囲が反対の明示的な限定を記載しない限り、示された要素のうちの1つ以上を列挙するように読まれるべきである。
【0137】
要約書は、読者が技術的開示の性質を迅速に確認することを可能にするために提供される。要約書は、それが特許請求の範囲の範囲若しくは意味を解釈するため又は制限するために使用されるものではないとの理解をもって提出される。加えて、上記した「発明を実施するための形態」の中で、開示を簡略化する目的のために、様々な特徴が様々な例において総合してグループ化されていることが分かり得る。この開示方法は、特許請求された主題が各請求項において明示的に列挙された特徴よりも多くの特徴を組み込むという意図を反映することとして解釈してはならない。むしろ、下記の特許請求の範囲が反映するように、発明の主題は単一の開示された例の全ての特徴よりも少ないものにある。したがって、下記の特許請求の範囲は、独立して特許請求された主題として自立している各請求項によって、「発明を実施するための形態」の中に組み込まれる。
【0138】
特に明記しない限り、各数値及び範囲は、「約(about)」又は「約(approximately)」という単語がその値又は範囲の前にあるかのように近似であると解釈されるべきである。
【0139】
以下の方法請求項において要素がある場合、それらの要素は、対応するラベル付けを伴って特定の順序で列挙されているが、請求項の記載が、それらの要素の一部又は全部を実装するための特定の順序を別様に暗示しない限り、それらの要素は、必ずしもその特定の順序で実装されるように限定されるように意図されるわけではない。
【0140】
本明細書で別段の定めがない限り、複数の同様の物体のうちの1つの物体を指すための序数の形容詞「第1の」、「第2の」、「第3の」などの使用は、そのような同様の物体の異なるインスタンスが言及されていることを示すにすぎず、そのように言及された同様の物体が、時間的に、空間的に、ランク付けで、又は任意の他の様式のいずれかで、対応する順序又はシーケンスでなければならないことを暗示することを意図するものではない。
【0141】
本明細書で別段の定めがない限り、接続詞「の場合(if)」は、その明白な意味に加えて、「のとき(when)」又は「すると(upon)」又は「決定に応じて(in response to determining)」又は「検出に応じて(in response to detecting)」を意味するように更に又は代替的に解釈されてもよく、この解釈は、対応する特定の文脈に依存してもよい。例えば、「決定された場合」又は「[述べられた条件]が検出された場合」という句は、「決定すると」又は「決定に応じて」又は「[述べられた条件又は事象]を検出する際」又は「[述べられた条件又は事象]の検出に応じて」を意味すると解釈され得る。
【0142】
また、この説明の目的のために、用語「結合する」、「結合すること」、「結合された」、「接続する」、「接続している」、又は「接続された」は、エネルギー若しくは力が2つ以上の要素間で伝達されることを可能にし、1つ以上の追加の要素の介在が企図されるが必須ではない、当技術分野で既知の若しくは後に開発される任意の様式を指す。逆に、「直接結合された」、「直接接続された」などの用語は、そのような追加の要素が存在しないことを意味する。
【0143】
「プロセッサ」及び/又は「コントローラ」とラベル付けされた任意の機能ブロックを含む、図に示される様々な要素の機能は、専用ハードウェア、並びに適切なソフトウェアに関連してソフトウェアを実行することが可能なハードウェアの使用を通して提供され得る。プロセッサによって提供されるとき、機能は、単一の専用プロセッサによって、単一の共有プロセッサによって、又は一部が共有され得る複数の個々のプロセッサによって提供され得る。更に、「プロセッサ」又は「コントローラ」という用語を明示的に使用することは、ソフトウェアを実行することが可能なハードウェアを排他的に指すと解釈されるべきではなく、限定はしないが、デジタル信号プロセッサ(DSP)ハードウェア、ネットワークプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(field programmable gate array、FPGA)、ソフトウェアを記憶するための読み取り専用メモリ(read only memory、ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び不揮発性記憶装置を暗黙的に含み得る。従来型及び/又はカスタムの他のハードウェアも含まれ得る。同様に、図に示される任意のスイッチは概念的なものにすぎない。それらの機能は、プログラム論理の動作を通して、専用論理を通して、プログラム制御と専用論理との相互作用を通して、又は手動でさえ実行されてもよく、特定の技術は、文脈からより具体的に理解されるように、実装者によって選択可能である。
【0144】
本出願で使用される場合、「回路(circuit)」、「回路(circuitry)」という用語は、以下のうちの1つ以上又は全部を指し得る。(a)ハードウェアのみの回路実装(アナログ及び/又はデジタル回路のみでの実装など)、(b)(適用可能な場合)、(i)アナログ及び/又はデジタルハードウェア回路とソフトウェア/ファームウェアとの組み合わせ、並びに(ii)ハードウェアプロセッサの任意の部分とソフトウェア(デジタル信号プロセッサを含む)、ソフトウェア、及びメモリとの組み合わせであって、協働して携帯電話若しくはサーバなどの装置に様々な機能を実施させる)などの、ハードウェア回路とソフトウェアとの組み合わせ、並びに(c)動作のためにソフトウェア(例えば、ファームウェア)を必要とするが、動作のために必要とされないときにはソフトウェアが存在しなくてもよい、マイクロプロセッサ又はマイクロプロセッサの一部分などのハードウェア回路及び/又はプロセッサ」。回路のこの定義は、任意の請求項を含む本出願におけるこの用語の全ての使用に適用される。更なる例として、本出願で使用される場合、回路という用語はまた、単にハードウェア回路若しくはプロセッサ(若しくは複数のプロセッサ)、又はハードウェア回路若しくはプロセッサの一部分、並びにその(又はそれらの)付随するソフトウェア及び/又はファームウェアの実装形態もカバーする。回路という用語はまた、例えば、特定の請求項要素に適用可能な場合、モバイルデバイスのためのベースバンド集積回路若しくはプロセッサ集積回路、又はサーバ、セルラネットワークデバイス、若しくは他のコンピューティングデバイス若しくはネットワークデバイス内の同様の集積回路もカバーする。
【0145】
当業者であれば、本明細書における任意のブロック図は、本開示の原理を具現化する例示的な回路の概念図を表すことを理解されたい。同様に、任意のフローチャート、フロー図、状態遷移図、擬似コードなどは、コンピュータ可読媒体において実質的に表され、コンピュータ又はプロセッサが明示的に示されているか否かにかかわらず、そのようなコンピュータ又はプロセッサによって実行され得る様々なプロセスを表すことが理解されよう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図17A
図17B
図17C
【外国語明細書】