(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118464
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】粉末調味料、それを含む食品およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20240823BHJP
A23C 19/076 20060101ALI20240823BHJP
A23L 27/10 20160101ALI20240823BHJP
A23L 27/14 20160101ALI20240823BHJP
A23L 27/12 20160101ALI20240823BHJP
【FI】
A23L27/00 A
A23C19/076
A23L27/10 E
A23L27/10 F
A23L27/10 Z
A23L27/14
A23L27/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024023914
(22)【出願日】2024-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2023024557
(32)【優先日】2023-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】加畑 結衣
(72)【発明者】
【氏名】井上 暢子
【テーマコード(参考)】
4B001
4B047
【Fターム(参考)】
4B001AC15
4B001AC21
4B001AC43
4B001BC99
4B001EC01
4B047LB09
4B047LE06
4B047LG10
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4B047LG38
4B047LG43
4B047LG44
4B047LG47
4B047LG49
4B047LP05
(57)【要約】
【課題】様々な風味のバリエーションを、軟質ナチュラルチーズをはじめとする食品に対して安定的に付与する新たな技術的手段を提供する。
【解決手段】糖質含有量が75質量%未満の固形状風味物質と、液状風味改良剤とから形成される食品用粉末を含み、かつCarrの流動性指数表に基づき換算される安息角と圧縮度の指数の合算値が17以上である、粉末調味料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖質含有量が75質量%未満の固形状風味物質と、液状風味改良剤とから形成される食品用粉末を含み、かつ
Carrの流動性指数表に基づき換算される安息角と圧縮度の指数の合算値が17以上である、粉末調味料。
【請求項2】
軟質ナチュラルチーズのための粉末調味料である、請求項1に記載の粉末調味料。
【請求項3】
前記固形状風味物質が、10~50メッシュを通過するサイズを有する、請求項1または2に記載の粉末調味料。
【請求項4】
前記固形状風味物質の糖質含有量が、70質量%以下である、請求項1または2に記載の粉末調味料。
【請求項5】
前記固形状風味物質が、香辛料、ハーブまたは果実粉末である、請求項1または2に記載の粉末調味料。
【請求項6】
前記固形状風味物質が、ブラックペッパー、ホワイトペッパー、山椒、唐辛子およびマスタードシードからなる群から選択される少なくとも一つのものである、請求項1または2に記載の粉末調味料。
【請求項7】
前記固形状風味物質における耐熱性総菌数が、前記固形状風味物質1g当たり1,000個以下である、請求項1または2に記載の粉末調味料。
【請求項8】
前記液状風味改良剤が、水性風味改良剤、油性風味改良剤またはそれらの混合物を含んでなる、請求項1または2に記載の粉末調味料。
【請求項9】
前記液状風味改良剤が油性風味改良剤を含んでなる、請求項8に記載の粉末調味料。
【請求項10】
前記油性風味改良剤が香味食用油である、請求項9に記載の粉末調味料。
【請求項11】
前記油性風味改良剤が、ガーリックオイル、チキンオイル、ポークオイル、ビープオイル、ベーコンオイル、燻製オイル、ホタテオイル、シュリンプオイル、カツオオイル、チキンオイル、ラー油、オニオンオイル、ネギオイル、カレーオイル、ハーブオイル、バジルオイル、トリュフオイル、マスタードオイル、オリーブオイルおよびフルーツオイルからなる群から選択される少なくとも一つのものである、請求項9に記載の粉末調味料。
【請求項12】
前記食品用粉末が、前記固形状風味物質と、前記液状風味改良剤とを含む混合物を加熱滅菌することにより得られたものである、請求項1または2に記載の粉末調味料。
【請求項13】
前記固形状風味物質と、前記液状風味改良剤との質量比が、10:1~3:1である、請求項1または2に記載の粉末調味料。
【請求項14】
請求項1または2に記載の粉末調味料を含んでなるかまたは表面または内部に添加されてなる、食品。
【請求項15】
前記食品が軟質ナチュラルチーズである、請求項14に記載の食品。
【請求項16】
カビにより熟成された、請求項14に記載の食品。
【請求項17】
白カビチーズ、青カビチーズ、または麹カビチーズである、請求項14に記載の食品。
【請求項18】
ポーションカットされかつ/または個包装された、請求項15に記載の食品。
【請求項19】
粉末調味料の製造方法であって、
糖質含有量が75質量%未満の固形状風味物質と、液状風味改良剤とを含む混合物を加熱滅菌して得られる食品用粉末を準備する工程、および
Carrの流動性指数表に基づき換算される安息角と圧縮度の指数の合算値が17以上となるように、前記食品用粉末のサイズを調整する工程
を含む、方法。
【請求項20】
請求項1または2に記載の粉末調味料を、食品の表面または内部に添加する工程を含む、食品の製造方法。
【請求項21】
前記食品が軟質ナチュラルチーズである、請求項20に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末調味料、それを含む食品およびそれらの製造方法に関する。より詳細には、本発明は様々な風味のバリエーションを、軟質ナチュラルチーズをはじめとする食品に安定的に付与することが可能な粉末調味料、それを含む食品およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の食嗜好の多様化から、様々な食品に対して風味を効果的に付与する方法が検討されている(特許文献1、特許文献2)。カマンベールチーズを始めとする軟質ナチュラルチーズにも、風味のバリエーション展開が求められている。軟質ナチュラルチーズの製造においては、風味物質を用いた風味付けがしばしば行われている。風味物質を用いて軟質ナチュラルチーズに風味を付与する方法としては、例えば、原料乳に粉末調味料を混合する手法が考えられるが、チーズカード製造時にホエイが排出されるため風味が流出してしまうことから風味物質を安定的に含有させることは困難である。そこで、近年、風味物質を軟質ナチュラルチーズに安定的に含有させる技術手段として、チーズを半分にカットしブラックペッパー等の粉末の風味物質をカット面に散布してサンドし、チーズ表面に白カビを生育させて製造する方法や、風味物質をチーズのカット面に散布する散布機が報告されている(特許文献3、特許文献4)。
【0003】
粉末の風味物質の代表的な例としては、香辛料等の調味料が挙げられる。香辛料について、食品衛生法(昭和22年法律第233号:以下、単に「食品衛生法」という。)で「食肉製品、鯨肉製品、魚肉ねり製品に使用する香辛料は、耐熱性総菌数(胞子数)1g当たり1,000個以下」と定められており、香辛料は、この規格に適合する殺菌処理が施されている。この殺菌方法として日本では、過熱水蒸気を用いた気流式殺菌が主流である。その他の薬剤やガンマ線による殺菌は日本では認められていない。日本の各メーカーの殺菌条件は、食品衛生法をみたしかつ風味が失われない条件設定を行っており、滅菌処理に近い条件は、一般に香辛料の風味が失われるとの理由か通常用いられていない。すなわち、市販されている香辛料等の調味料(例えば乾燥香辛料、乾燥ハーブなど)は、通常添加後に調理による加熱がされることを前提としており、また乾燥状態では水分活性が低いことから一般生菌数などは規格化されておらず、芽胞形成菌が含まれることもある。したがって、チーズカードに香辛料等の風味物質をそのまま散布、もしくは混合した場合、水分活性が上がり熟成中や保存中に微生物が増菌してしまい、風味異常やフードロス、食中毒菌の増殖に繋がるリスクがある。また、加熱滅菌した場合には、風味物質の風味付与機能へ影響が懸念される。
【0004】
そこで、加熱滅菌処理を行っても、様々な風味を付与しうる風味物質を創出することが検討されている。例えば、特許文献5には、ペッパー、ガーリックおよびハーブ等の香辛料を殺菌するために、高温高圧殺菌機を用い、予め香辛料へ水を対重量比5%~30%添加し、レトルトパウチに充填密封シールしたものを加圧下加熱処理することを特徴とする、香辛料の殺菌方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-41957号公報
【特許文献2】特開平5-336919号公報
【特許文献3】特開2013-99839号公報
【特許文献4】特許第6035102号公報
【特許文献5】特開2008-86291号公報
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、香辛料をはじめとする粉末の風味物質を単に加熱滅菌すると、粉末同士が結着してしまい、軟質ナチュラルチーズをはじめとする食品に対して均一に散布しにくい性状になり、軟質ナチュラルチーズに風味のバリエーションを安定的に付与することが困難であることが本発明者らの検討により明らかとなった。
【0007】
したがって、本発明は、様々な風味のバリエーションを、軟質ナチュラルチーズをはじめとする食品に対して安定的に付与する新たな技術的手段を提供することを一つの目的としている。
【0008】
本発明者らは、今般、鋭意検討した結果、固形状風味物質と液状風味改良剤を原料とする粉末調味料を加熱滅菌して一定のサイズに調整したところ、散布適性に優れかつ良好な風味を備えており、当該粉末調味料を用いて軟質ナチュラルチーズをはじめとする食品に様々な風味のバリエーションを安定的に付与しうることを見出した。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0009】
本発明の一実施態様によれば、糖質含有量が75質量%未満の固形状風味物質と、液状風味改良剤とから形成される食品用粉末を含み、カー(Carr)の流動性指数表に基づき換算される安息角と圧縮度の指数の合算値が17以上である粉末調味料が提供される。
【0010】
また、本発明の別の実施態様によれば、上記粉末調味料を含んでなる軟質ナチュラルチーズが提供される。
【0011】
また、本発明の別の実施態様によれば、粉末調味料の製造方法であって、
糖質含有量が75質量%未満の固形状風味物質と、液状風味改良剤とを含む混合物を加熱滅菌して得られる食品用粉末を準備する工程、および
Carrの流動性指数表に基づき換算される安息角と圧縮度の指数の合算値が17以上となるように、上記食品用粉末のサイズを調整する工程
を含む方法が提供される。
【0012】
また、本発明の別の実施態様によれば、上記粉末調味料を、軟質ナチュラルチーズの表面または内部に添加する工程を含む、軟質ナチュラルチーズの製造方法が提供される。
【0013】
本発明によれば、上述のような粉末調味料を用いて、様々な風味のバリエーションを、軟質ナチュラルチーズをはじめとする食品に対して安定的に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】粉末調味料の散布適性の評価方法の模式図である。
【
図2】粉末調味料の散布適性評価の結果が良好な場合と不良な場合を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<粉末調味料>
本発明の一実施態様によれば、粉末調味料は、
糖質含有量が75質量%未満の固形状風味物質と、液状風味改良剤とから形成される食品用粉末を含み、かつ
Carrの流動性指数表に基づき換算される安息角と圧縮度の指数の合算値が17以上である。
【0016】
本実施形態の粉末調味料は、軟質ナチュラルチーズのための粉末調味料として好ましい。
【0017】
上述のような安息角と圧縮度の指数の合算値(以下、単に、「合算値」ともいう)の閾値を満たす粉末調味料が、優れた散布適性を有し、加熱滅菌処理を経ても風味を損なうことなく、様々な風味のバリエーションを軟質ナチュラルチーズに安定的に付与することは意外な事実である。
【0018】
Carrの流動性指数の測定については、特公昭51-14278号公報に詳しく記載されており、特に限定されないが、本発明では以下の方法で測定することができる。
すなわちパウダテスタ(登録商標,HOSOKAWA MICRON CORP.)を使用し、安息角、圧縮度の各パラメーターを測定する。それぞれについて求められた値をCarrの流動性指数表(Carr’s flowability index table:Carr,R.L.Jr.、“Evaluating Flow Properties of Solids”、Chemical Engineering、1965年、第72巻、第2号、p.163-168)に当てはめ、各25以下のそれぞれの指数に換算し、各パラメーターから求められた指数の合計を流動性指数として算出する。
【0019】
本発明の一実施態様によれば、粉末調味料において、Carrの流動性指数表に基づき換算される安息角と圧縮度の指数の合算値は通常17以上、好ましくは18以上、より好ましくは19以上、より好ましくは20以上、より一層好ましくは25以上とされる。また、本発明の一実施態様によれば、粉末調味料において、Carrの流動性指数表に基づき換算される安息角と圧縮度の指数の合算値は通常43以下とすることができる。
【0020】
また、本発明の一実施態様によれば、粉末調味料において、Carrの流動性指数表に基づき換算される安息角の指数は通常7~25である。さらに、該安息角の指数は、散布適性の観点から、好ましくは12~25、より好ましくは17.5~25、より一層好ましくは20~25、さらに好ましくは22.5~25とされる。
【0021】
また、本発明の一実施態様によれば、粉末調味料において、Carrの流動性指数表に基づき換算される圧縮度の指数は通常12~25である。さらに、該圧縮度の指数は、散布適性の観点から、好ましくは15~25、より好ましくは17.5~25、より一層好ましくは20~25、さらに好ましくは22.5~25とされる。
【0022】
また、本発明の一実施態様によれば、粉末調味料において、安息角は、散布適性の観点から、通常60°以下、好ましくは50°以下、より好ましくは40°以下、より一層好ましくは35°以下、さらに好ましくは30°以下とされる。また、本発明の一実施態様によれば、粉末調味料において安息角は通常10°以上とすることができる。
【0023】
また、本発明の一実施態様によれば、粉末調味料において、圧縮度は、散布適性の観点から、通常30.5%以下、好ましくは25.5%以下、より好ましくは20.0%以下、より一層好ましくは15.0%以下、さらに好ましくは10.0%以下とされる。また、本発明の一実施態様によれば、粉末調味料において、圧縮度は通常5.0%以上とすることができる。
【0024】
本発明の一実施態様によれば、粉末調味料は、固形状風味物質と、液状風味改良剤とを含む混合物を加熱滅菌することにより得られる食品用粉末を主成分とする。粉末調味料は合算値を満たす限りにおいて、食品用粉末以外の食品衛生上許容可能な添加剤粉末を含有していてもよいが、上記食品用粉末からなることが好ましい。
【0025】
また、食品用粉末において、固形状風味物質は主成分であり、液状風味改良剤は、固形状風味物質に対して風味のバリエーションを付与する観点から好適に添加される。本発明の具体的な実施態様によれば、固形状風味物質の量は粉末調味料全量に対して50質量%以上とされ、液状風味改良剤の量は粉末調味料全量に対して50質量%未満とされる。
【0026】
食品用粉末において、固形状風味物質と、液状風味改良剤との質量比は、風味改善効果の観点から例えば、10~3:1、好ましくは10:1~4:1、より好ましくは9:1~5:1、より一層好ましくは7:1~6:1とされる。
【0027】
本発明の一実施態様によれば、固形状風味物質は、粉末調味料の各粉末の核を形成する、室温で固形状の食用成分であり、粒状または粉末状であることが好ましい。
【0028】
固形状風味物質は香辛料、ハーブまたは果実粉末であり、好ましくは香辛料である。香辛料としては、食品に特別な風味を与えることを目的とし、比較的少量使用される種々の植物の風味または芳香性の葉、茎、樹皮、根、根茎、花、蕾、種子、果実、または果皮等であり、具体的には、ペッパー、バジル、ガーリック、トウガラシ、サンショウ、シナモン、クローブ、ペパーミント、ベイリーフ、ジンジャー、マスタード、ターメリック、ごま、オレガノ、パプリカ、ペパーミント、レモングラス、クローブ、カルダモン、ミックススパイス、カレーパウダー、ガラムマサラ、七味唐辛子、またはピクリングスパイス等がそれに該当するが、好ましくはブラックペッパー、ホワイトペッパー、山椒、またはマスタードシードとされる。
【0029】
また、固形状風味物質の糖質含有量は、固形状風味物質同士の結着を回避する観点から、例えば、70質量%以下、好ましくは68~5質量%、より好ましくは66~10質量%、より一層好ましくは65~20質量%とされる。固形状風味物質の糖質含有量は、日本食品標準成分表(八訂)に準ずる。
【0030】
固形状風味物質のサイズは、粉末調味料における所望の上記合算値を勘案すれば、例えば、10~50メッシュを通過するサイズとされる。
【0031】
また、固形状風味物質における耐熱性総菌数(胞子数)は、食品衛生法上、固形状風味物質1g当たり1,000個以下であることが好ましい。固形状風味物質における耐熱性総菌数(胞子数)は、殺菌処理後の固形状風味物質を滅菌済み生理食塩水で10倍希釈後、混合したものをさらに希釈し、滅菌シャーレに1mlずつサンプリング後、滅菌済み標準寒天培地(栄研器材株式会社製)で混釈し、30℃48時間培養後に発育した集落数を測定することにより決定することができる。
【0032】
また、本発明の一実施態様によれば、液状風味改良剤は、固形状風味物質の有する風味と異なる風味を有するか、または固形状風味物質の本来有する風味を増強する機能を有する、室温で液状の食用成分である。本発明の好ましい実施態様によれば、液状風味改良剤は、水性風味改良剤であってもよく、油性風味改良剤であってもよく、またはそれらを公知手法にて適宜混合した混合物であってもよい。
【0033】
液状風味改良剤は、粉末調味料により強い風味を付与する観点からは、油性風味改良剤を含んでいることが好ましい。本発明の一実施態様によれば、油性風味改良剤は香料や香味食用油であり、より好ましくは香味食用油であり、さらに好ましくはガーリックオイル、チキンオイル、ポークオイル、ビープオイル、ベーコンオイル、燻製オイル、ホタテオイル、シュリンプオイル、カツオオイル、チキンオイル、ラー油、オニオンオイル、ネギオイル、カレーオイル、ハーブオイル、バジルオイル、トリュフオイル、オリーブオイル、マスタードオイル、フルーツオイル(レモンピールオイル、オレンジピールオイル等)等である。
【0034】
油性風味改良剤は、風味の揮発を防止する観点から、液状風味改良剤の主成分であることが好ましい。液状風味改良剤における油性風味改良剤の含有量は、例えば、1質量%以上であってもよいが、好ましくは1~99質量%、より好ましくは5~95質量%、さらに好ましくは10~90質量%、一層好ましくは30~80質量%、より一層好ましくは50~75質量%とされる。油性風味改良剤の量を増加させることは、風味を増強する上で有利である。また、油性風味改良剤の量を減少させることは流動性を向上させる上で有利である。
【0035】
本発明の一実施態様によれば、液状風味改良剤において使用される水性風味改良剤としては、香料や香味食用エキスである。水性風味改良剤の好ましい例としては、ガーリックエキス、チキンエキス、ポークエキス、ビープエキス、ベーコンエキス、燻製エキス、ホタテエキス、シュリンプエキス、カツオエキス、チキンエキス、オニオンエキス、カレーエキス、バジルエキス等が挙げられる。
【0036】
また、液状風味改良剤における水性風味改良剤の含有量は、例えば、1質量%以上であってもよいが、口腔内でのフレーバーリリースや適度な風味改良の観点から、好ましくは1~99質量%、より好ましくは5~95質量%、より一層好ましくは10~90質量%、さらに好ましくは10~30質量%とされる。
【0037】
液状風味改良剤において、油性風味改良剤と、水性風味改良剤との質量比は、特に限定されないが、例えば、100:1~1:100、好ましくは25:1~1:25、より好ましくは5:1~1:5、より一層好ましくは4:1~1:1とされる。
【0038】
<粉末調味料の製造方法>
本発明の一実施態様によれば、粉末調味料は、固形状風味物質と、液状風味改良剤とを用いて得られる食品用粉末のサイズを所定の範囲に調整することにより得ることができる。したがって、本発明の別の態様によれば、粉末調味料の製造方法であって、
糖質含有量が75質量%未満の固形状風味物質と、液状風味改良剤とを含む混合物を加熱滅菌して得られる食用粉末を準備する工程、および
Carrの流動性指数表に基づき換算される安息角と圧縮度の指数の合算値が17以上となるように、上記食用粉末のサイズを調整する工程
を含む方法が提供される。
【0039】
(食品用粉末の準備工程)
食品用粉末の準備工程においては、糖質含有量が75質量%未満の固形状風味物質と、液状風味改良剤とを含む混合物を通常の加熱滅菌装置により加熱滅菌することにより食品用粉末を得ることができる。食品用粉末は、例えば、予め水分を固形状風味物質と液状風味改良剤の合計質量に対して通常5~30重量%、好ましくは7~20重量%加水して加熱滅菌することが好ましい。加水して加熱滅菌することは、(加水しないで)乾熱滅菌するより滅菌効果を高める観点から好ましい。
【0040】
食品用粉末の準備工程において、加熱滅菌処理の条件は、チーズ内において熟成中や保存中に微生物が増菌することを防止する観点から適宜設定される。加熱滅菌温度は、例えば、100~150℃、好ましくは110~145℃とされる。また、加熱滅菌温度は、風味物質の結着防止の観点から、特に好ましくは110~120℃とされる。また、加熱滅菌時間としては、例えば、10秒間~40分間、好ましくは1~40分間とされる。
【0041】
(食品用粉末のサイズ調整工程)
食品用粉末のサイズ調整工程においては、上記食品用粉末のサイズを、Carrの流動性指数表に基づき換算される安息角と圧縮度の指数の合算値が17以上となるように調整する。
【0042】
食品用粉末のサイズの調整は、例えば、パウダテスタを用いて算出される上記合算値が所望の範囲となるように、食品用粉末を篩や公知のフィーダー装置等を用いて選別する方法を用いてもよい。また、食品用粉末を上記合算値が所望の範囲となるように、固形状風味物質および液状風味改良剤の種類、量、サイズ等を予め設定したうえで製造し、得られた食品用粉末のサイズが上記合算値を満たすものであること確認して粉末調味料に分類する手法を用いてもよく、本発明にはかかる態様も包含される。
【0043】
<軟質ナチュラルチーズ>
本発明によれば、上記粉末調味料を軟質ナチュラルチーズに添加する加工処理を施すことにより、軟質ナチュラルチーズに様々なバリエーションの風味を付与することができる。したがって、本発明の一実施態様によれば、上記粉末調味料を含んでなる軟質ナチュラルチーズが提供される。
【0044】
軟質ナチュラルチーズとは、当業者において半軟質または軟質ナチュラルチーズとして分類させるチーズが含まれる。具体例として、カッテージチーズ、モッツレラチーズ、カマンベールチーズ、ブリー、カマンブルー、クリームチーズ、クワルクチーズまたはマスカルポーネ等が挙げられる。
【0045】
また、軟質ナチュラルチーズの好適な例としては、カビにより熟成されたものが挙げられ、軟質カビ熟成チーズとも称される。かかるチーズの好適な例としては、白カビチーズ、青カビチーズまたは麹カビチーズ等である。
【0046】
また、軟質ナチュラルチーズは、喫食しやすい形態に加工してもよい。したがって、本発明の一実施態様によれば、軟質ナチュラルチーズは、ポーションカットされかつ/または個包装されている。
【0047】
<軟質ナチュラルチーズの製造方法>
本発明の軟質ナチュラルチーズは、上記粉末調味料を、軟質ナチュラルチーズの表面または内部に添加することにより製造することができる。したがって、本発明の一実施態様によれば、上記粉末調味料を、軟質ナチュラルチーズの表面または内部に添加する工程を含む、軟質ナチュラルチーズの製造方法が提供される。
【0048】
軟質ナチュラルチーズに対する粉末調味料の添加は、特許文献4等に記載の公知の散布機を使用して実施することができる。例えば、軟質ナチュラルチーズの表面に粉末調味料を散布してもよく、カットされた軟質ナチュラルチーズ断片のカット面に粉末調味料を散布し、散布後に軟質ナチュラルチーズ断片をカット面で整合し、軟質ナチュラルチーズ内部に粉末調味料を挟んでもよい。
【0049】
なお、本発明の一実施態様によれば、上記粉末調味料は、水分活性が0.8以上、好ましくは0.9以上である食品に使用できる。軟質ナチュラルチーズ以外の食品に添加して喫食することができる。かかる食品としは、ヨーグルト、発酵クリーム、発酵バター、ケーキ、キッシュ、パン、惣菜の固形状の食品が挙げられる。
【0050】
また、本発明の一実施態様によれば、以下の[1]~[21]が提供される。
[1]糖質含有量が75質量%未満の固形状風味物質と、液状風味改良剤とから形成される食品用粉末を含み、かつ
Carrの流動性指数表に基づき換算される安息角と圧縮度の指数の合算値が17以上である、粉末調味料。
[2]軟質ナチュラルチーズのための粉末調味料である、[1]に記載の粉末調味料。
[3]上記固形状風味物質が10~50メッシュを通過するサイズを有する、[1]または[2]に記載の粉末調味料。
[4]上記固形状風味物質の糖質含有量が、70質量%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の粉末調味料。
[5]上記固形状風味物質が、香辛料、ハーブまたは果実粉末である、[1]~[4]のいずれかに記載の粉末調味料。
[6]上記固形状風味物質が、ブラックペッパー、ホワイトペッパー、山椒、唐辛子、およびマスタードシードからなる群から選択される少なくとも一つである、[1]~[5]のいずれかに記載の粉末調味料。
[7]上記固形状風味物質における耐熱性総菌数が、上記固形状風味物質1g当たり1,000個以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の粉末調味料。
[8]上記液状風味改良剤が、水性風味改良剤、油性風味改良剤またはそれらの混合物を含んでなる、[1]~[7]のいずれかに記載の粉末調味料。
[9]上記液状風味改良剤が油性風味改良剤を含んでなる、[8]に記載の粉末調味料。
[10]上記油性風味改良剤が香味食用油である、[8]または[9]に記載の粉末調味料。
[11]上記油性風味改良剤が、ガーリックオイル、チキンオイル、ポークオイル、ビープオイル、ベーコンオイル、燻製オイル、ホタテオイル、シュリンプオイル、カツオオイル、チキンオイル、ラー油、オニオンオイル、ネギオイル、カレーオイル、ハーブオイル、バジルオイル、トリュフオイル、マスタードオイル、オリーブオイルおよびフルーツオイルからなる群から選択される少なくとも一つものである、[8]~[10]のいずれかに記載の粉末調味料。
[12]上記食品用粉末が、上記固形状風味物質と、上記液状風味改良剤とを含む混合物を加熱滅菌することにより得られたものである、[1]~[11]のいずれかに記載の粉末調味料。
[13]上記固形状風味物質と、上記液状風味改良剤との質量比が、10:1~3:1である、[1]~[12]のいずれかに記載の粉末調味料。
[14][1]~[13]のいずれかに記載の粉末調味料を含んでなるかまたは表面または内部に添加されてなる、食品。
[15]軟質ナチュラルチーズである、[14]に記載の食品。
[16]カビにより熟成された、[15]に記載の食品。
[17]白カビチーズ、青カビチーズまたは麹カビチーズである、[14]~[16]のいずれかに記載の食品。
[18]ポーションカットされかつ/または個包装された、[14]~[17]のいずれかに記載の食品。
[19]粉末調味料の製造方法であって、
糖質含有量が75質量%未満の固形状風味物質と、液状風味改良剤とを含む混合物を加熱滅菌して得られる食品用粉末を準備する工程、および
Carrの流動性指数表に基づき換算される安息角と圧縮度の指数の合算値が17以上となるように、上記食品用粉末のサイズを調整する工程
を含む、方法。
[20][1]~[13]のいずれかに記載の粉末調味料を、食品の表面または内部に添加する工程を含む、食品の製造方法。
[21]上記食品が軟質ナチュラルチーズである、[20]に記載の製造方法。
【実施例0051】
以下、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。なお、この実施例は、本発明を限定するものではない。なお、特に記載しない限り、本明細書における測定方法および単位は、JIS(日本工業規格)に従う。
【0052】
試験区1:固形状風味物質(ブラックペッパー;糖質含有量65質量%)を選択し、粒径16~42メッシュに調整した。次に、固形状風味物質に対して90gに10%加水し、均一に混合し、レトルトパウチ(東洋製缶株式会社製)に充填してヒートシールした後、レトルト殺菌機(株式会社日販製作所)を用いて121℃15分で加熱滅菌した。
【0053】
参考区1:固形状風味物質(ガーリックパウダー;糖質含有量75質量%)を選択し、試験区1と同様に処理し、加熱滅菌を実施した。
【0054】
その結果、試験区1(糖質含有量65%)は結着しなかった一方で、参考区(糖質含有量75%)は結着して団子状となった。このため、参考区(糖質含有量75%)は、散布機(株式会社明治製、特許番号6035102号と同様の散布機構)を用いて固形状風味物質を均一に散布することは困難であった。試験区1のような糖質含有量(糖質含有量65%)程度の固形状風味物質では、加熱滅菌しても結着が抑制されることが示唆された。
【0055】
試験例1
以下の手順に従い、チーズに適用する風味のバリエーションの拡大および散布適性を両立する方法を検討した。
具体的には、カビチーズに衛生的に風味付けをするため、粒径16~42メッシュ(長径が0.297mm以上2mm以下)の固形状風味物質(ブラックペッパー:糖質含有量65質量%)に液状風味改良剤を表1Aの割合で混合し試験区1と同様の方法で加熱滅菌し、試験区2~8の粉末調味料を得た。ここで、風味改良剤としては、水性風味改良剤としてガーリックエキス(池田糖化工業(株)製)、油性風味改良剤としてガーリックオイル(にんにく油:神戸物産製)を使用した。
なお、試験区2~8の粉末調味料は、いずれも、試験区1の粉末調味料と同様に加熱滅菌しても結着が抑制されていた。
【0056】
次に、一般的なカマンベールチーズの製造方法に従って製造し、一次熟成途中で白カビが生育したチーズを水平に切断した。次に、上記散布機を用いて、風味付与粉末をチーズ上に均一に散布した後、訓練されたパネラー(5名)により、風味の強さに関して官能評価した。官能評価では、試験区1(風味改良剤0質量%)を基準として、以下のスコアを適用した。スコア2以上は風味付与適正ありと判定した。
スコア
5:付与された風味を非常に強く感じる。
4:付与された風味を強く感じる
3:付与された風味を感じる
2:付与された風味をやや感じる
1:付与された風味は感じない
【0057】
結果は、表1Aに示される通りであった。
【表1A】
【0058】
また、官能評価の結果の順(上ほど良い)に並び替えると、表1Bに示すとおりであった。
【表1B】
【0059】
液状風味改良剤を用いることにより、加熱滅菌による固形状風味物質の結着を回避しながら、風味について広範な範囲で調整されることが確認された。また、水性風味改良剤と油性風味改良剤は、いずれも同様の風味(ガーリックの風味)であるものの、油性風味改良剤の量が多いほど風味が強くなる傾向が確認された。
【0060】
試験例2
以下の手順に従い、粉末調味料の散布適性を評価した。
1.孔径2.5mmの穴を有するスクリーン板(ステンレス製、10cm×10cm)を用意し、水平に配置した。
図1は、粉末調味料の散布適性の評価方法の模式図である。
図1に示される通り、スクリーン板1の中央には、複数の穴が円状に散在していた。実際にスクリーン板1の有する穴の数は51個であり、穴が散在する部分(円状)の面積は約24cm
2であった。
2.次に、
図1に示される通り、スクリーン板の穴のない端部3に粉末調味料0.5gを略直方体(1cm×5cm)となるように均一に広げた。
3.次に、
図1に示される通り、別の板4(5.5cm×9cm)を用意した。粉末調味料がスクリーン板1の穴2から落下するように、別の板4はスクリーン板1に対する角度を約20°に維持しながら、粉末調味料を押し出すように、スクリーン板1の端部3から穴2上を移動させた(スクリーン版の移動速度2cm/秒)。
4.別の板4がスクリーン板1の別の端部5まで到達したら、穴上を再度通過させる作業を粉末調味料の全量が穴から落下するまで繰り返した。
5.スクリーン板1の穴2(穴が散在する部分)の通過回数が10回以内で粉末調味料の全量が落下すれば散布適性が良好(〇)と評価し、全量が落下しなければ不良(×)とした。
図2は、粉末調味料の散布適性評価の結果が良好(〇)な場合と不良(×)な場合を示す写真である。
6.また、パウダテスタ(HOSOKAWA MICRON CORP.)を用いて粉末調味料の圧縮度および安息角を測定し、粉体の流動性指数表(Carrの指数表)から測定値の指数を導き出した。
【0061】
【0062】
また、試験区2~8を指数の合算値の順(上ほど大きい)に並べ替えると、表2Bに示すとおりであった。
【表2B】
【0063】
表2Aから、粉末調味料の圧縮度と安息角から導きだした指数の合算値が16.5以下である場合、散布適性が不良(×)となることが確認された。また、表に示さないが、試験例1と同様の手法にて指数の合算値が44.5を超える粉末調味料を調製したところ、散布適性は高いにもかかわらず、官能評価の結果は大幅に低下したことが確認された。
【0064】
また、表1Aおよび表2Aの結果から、油性風味改良剤を多く添加するほど、粉末調味料の粉体としての流動性が悪くなり散布適性が低下する傾向が観察された。なお、表1Aの官能評価の結果からは、固形状風味物質に、水性風味改良剤(香味エキス)を混合することにより風味を改良することは可能であるが、風味の発現の強さを考慮すると、油性風味改良剤(香味オイル)を併用することにより風味のバリエーションを調整することが好ましいことが示唆された。
【0065】
上記結果から、加熱滅菌することによる風味低下を防止し、かつ散布適性を両立するには、粉末調味料の圧縮度および安息角から導き出される指数の合算値が少なくとも16.5を超える加熱滅菌粉末とする必要があることが示唆された。