(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118567
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】負極スラリー、負極及び二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1395 20100101AFI20240826BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240826BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240826BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240826BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240826BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20240826BHJP
【FI】
H01M4/1395
H01M4/62 Z
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M4/587
H01M4/36 E
H01M4/134
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024917
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】深谷 倫行
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB29
5H050DA03
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA28
5H050HA01
5H050HA19
(57)【要約】
【課題】二次電池のサイクル特性を、高温において従来よりもさらに向上させることができる負極スラリーを提供する。
【解決手段】ケイ素原子を含有する第1活物質を5質量%以上100質量%以下の範囲で含有する負極活物質と、該負極活物質を結着させるバインダーと、前記負極活物質及び前記バインダーを分散させる負極スラリー用溶媒とを含む負極スラリーであって、前記第1活物質が、ケイ素原子を20質量%以上100質量%以下の範囲で含有するものであり、前記バインダーが、粒状分散体と、水溶性共重合体とを含有するものであり、前記水溶性共重合体が、アクリル酸系単量体単位とスチレンスルホン酸ナトリウム単量体単位とアクリロニトリル系単量体単位とを含む共重合体(以下、AA-NaSS-AN共重合体ともいう。)を含むものであり、前記共重合体の重量平均分子量が30万以上200万以下であり、前記負極活物質及び前記バインダーの合計質量を100質量%とした場合の前記水溶性重合体の含有量が0.5質量%以上2質量%以下であることを特徴とする負極スラリー。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素原子を含有する第1活物質を5質量%以上100質量%以下の範囲で含有する負極活物質と、
該負極活物質を結着させるバインダーと、
前記負極活物質及び前記バインダーを分散させる負極スラリー用溶媒とを含む負極スラリーであって、
前記第1活物質が、ケイ素原子を20質量%以上100質量%以下の範囲で含有するものであり、
前記バインダーが、粒状分散体と水溶性共重合体とを含有するものであり、
前記水溶性共重合体が、アクリル酸系単量体単位とスチレンスルホン酸ナトリウム単量体単位とアクリロニトリル系単量体単位とを含む共重合体を含むものであり、
前記共重合体の重量平均分子量が30万以上200万以下であり、
前記負極活物質及び前記バインダーの合計質量を100質量%とした場合の前記水溶性重合体の含有量が0.5質量%以上2質量%以下であることを特徴とする負極スラリー。
【請求項2】
前記共重合体中のアクリロニトリル系単量体単位の含有量が、前記共重合体100質量%に対して10質量%以上50質量%以下である、請求項1に記載の負極スラリー。
【請求項3】
前記負極スラリー用溶媒が水系溶媒である、請求項1に記載の負極スラリー。
【請求項4】
前記第1活物質が、ケイ素を含有する微粒子と炭素材料との複合物、ケイ素の微粒子及びケイ素を基本材料とする合金からなる群より選ばれる1種以上を含むものである、請求項1に記載の負極スラリー。
【請求項5】
前記共重合体中のスチレンスルホン酸ナトリウム単量体単位の含有量が、前記共重合体100質量%に対して10質量%以上50質量%以下である、請求項1に記載の負極スラリー。
【請求項6】
前記共重合体が、前記アクリル酸系単量体単位、前記スチレンスルホン酸ナトリウム単量体単位又は前記アクリロニトリル系単量体単位と共重合可能な単量体単位をさらに含有する、請求項1に記載の負極スラリー。
【請求項7】
前記水溶性共重合体が、カルボキシメチル基を含有するセルロースエーテル又はカルボキシメチル基を含有するセルロースエーテルの塩をさらに含む、請求項1に記載の負極スラリー。
【請求項8】
25℃における粘度が、1000mPa・s以上5000mPa・s以下である、請求項1に記載の負極スラリー。
【請求項9】
前記負極活物質が第2活物質として黒鉛系活物質をさらに含有する、請求項1に記載の負極スラリー。
【請求項10】
導電剤をさらに含有する、請求項1に記載の負極スラリー。
【請求項11】
請求項1~10に記載の負極スラリーの固形成分を含む負極。
【請求項12】
面積容量が3.5mAh/cm2以上10mAh/cm2以下である、請求項11に記載の負極。
【請求項13】
請求項11に記載の負極を備えた非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極スラリー、この負極スラリーを使用して形成された負極、及び前記負極を備える二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池をはじめとする非水電解質二次電池の高容量化の方法の一つとして、従来の黒鉛系活物質に比べてリチウム吸蔵量の多いケイ素含有活物質を適用することが挙げられる。
ケイ素含有活物質はリチウム吸蔵・放出に伴う体積変化が大きいため、充放電時に負極合剤層が激しく膨張収縮する。その結果、負極活物質-負極活物質間における電子伝導性の低下、合剤層内におけるケイ素含有活物質の孤立や負極活物質-集電体間での導電パスの遮断が起こり、二次電池のサイクル特性が悪くなるという課題がある。
負極の膨張を抑制することを目的として、本発明者らは特許文献1に示すように、アクリル酸-アクリロニトリル系共重合体をバインダーとして含む負極スラリーを使用して負極を作製することを考えた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、本発明者が、特許文献1に記載の発明により大幅に改善された二次電池のサイクル特性を、高温においてさらに向上させることを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明に係る負極スラリー、負極及び二次電池は、以下のようなものである。
[1]ケイ素原子を含有する第1活物質を5質量%以上100質量%以下の範囲で含有する負極活物質と、該負極活物質を結着させるバインダーと、前記負極活物質及び前記バインダーを分散させる負極スラリー用溶媒とを含む負極スラリーであって、
前記第1活物質が、ケイ素原子を20質量%以上100質量%以下の範囲で含有するものであり、
前記バインダーが、粒状分散体と水溶性共重合体とを含有するものであり、
前記水溶性共重合体が、アクリル酸系単量体単位とスチレンスルホン酸ナトリウム単量体単位とアクリロニトリル系単量体単位とを含む共重合体(以下、AA-NaSS-AN共重合体ともいう。)を含むものであり、
前記共重合体の重量平均分子量が30万以上200万以下であり、
前記負極活物質及び前記バインダーの合計質量を100質量%とした場合の前記水溶性重合体の含有量が0.5質量%以上2質量%以下であることを特徴とする負極スラリー。
[2]前記共重合体中のアクリロニトリル系単量体単位の含有量が、前記共重合体100質量%に対して10質量%以上50質量%以下である、[1]に記載の負極スラリー。
[3]前記負極スラリー用溶媒が水系溶媒である、[1]又は[2]に記載の負極スラリー。
[4]前記第1活物質が、ケイ素を含有する微粒子と炭素材料との複合物、ケイ素の微粒子、及びケイ素を基本材料とする合金からなる群より選ばれる1種以上を含むものである、[1]~[3]のいずれかに記載の負極スラリー。
[5]前記共重合体中のスチレンスルホン酸ナトリウム単量体単位の含有量が、前記共重合体100質量%に対して10質量%以上50質量%以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の負極スラリー。
[6]前記共重合体が、前記アクリル酸系単量体単位、前記スチレンスルホン酸ナトリウム単量体単位又は前記アクリロニトリル系単量体単位と共重合可能な単量体単位をさらに含有する、[1]~[5]のいずれかに記載の負極スラリー。
[7]前記水溶性共重合体が、カルボキシメチル基を含有するセルロースエーテル又はカルボキシメチル基を含有すセルロースエーテルの塩をさらに含む[1]~[6]のいずれかに記載の負極スラリー。
[8]25℃おける粘度が、1000mPa・s以上5000mPa・s以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の負極スラリー。
[9]前記負極活物質が第2活物質として黒鉛系活物質をさらに含有する、[1]~[8]のいずれかに記載の負極スラリー。
[10]導電剤をさらに含有する、[1]~[9]のいずれかに記載の負極スラリー。
[11]ケイ素原子を含有する第1活物質を5質量%以上100質量%以下の範囲で含有する負極活物質と、該負極活物質を結着させるバインダーとを含む負極であって、
前記第1活物質が、ケイ素原子を20質量%以上100質量%以下の範囲で含有するものであり、
前記バインダーが、粒状分散体と、水溶性共重合体とを含有するものであり、
前記水溶性共重合体が、アクリル酸系単量体単位とスチレンスルホン酸ナトリウム単量体単位とアクリロニトリル系単量体単位とを含む共重合体を含むものであり、
前記共重合体の重量平均分子量が30万以上200万以下であり、
前記負極活物質及び前記バインダーの合計質量を100質量%とした場合の前記水溶性重合体の含有量が0.5質量%以上2質量%以下であることを特徴とする負極。
[12]前記共重合体中のアクリロニトリル系単量体単位の含有量が、前記共重合体100質量%に対して10質量%以上50質量%以下である、[11]に記載の負極。
[13]前記第1活物質が、ケイ素を含有する微粒子と炭素材料との複合物、ケイ素の微粒子、及びケイ素を基本材料とする合金からなる群より選ばれる1種以上を含むものである、[11]又は[12]に記載の負極。
[14]前記共重合体中のスチレンスルホン酸ナトリウム単量体単位の含有量が、前記共重合体100質量%に対して10質量%以上50質量%以下である、[11]~[13]のいずれかに記載の負極。
[15]前記共重合体が、前記アクリル酸系単量体単位、前記スチレンスルホン酸ナトリウム単量体単位又は前記アクリロニトリル系単量体単位と共重合可能な単量体単位をさらに含有する、[11]~[14]のいずれかに記載の負極。
[16]前記水溶性共重合体が、カルボキシメチル基を含有するセルロースエーテル又はカルボキシメチル基を含有すセルロースエーテルの塩をさらに含む[11]~[15]のいずれかに記載の負極。
[17]前記負極活物質が第2活物質として黒鉛系活物質をさらに含有する、[11]~[16]のいずれかに記載の負極。
[18]導電剤をさらに含有する、[11]~[17]のいずれかに記載の負極。
[19]面積容量が3.5mAh/cm2以上10mAh/cm2以下である、[11]~[18]のいずれかに記載の負極。
[20]正極と、負極と、セパレータと、電解液とを備えた非水電解質二次電池であって、前記負極が[11]~[19]のいずれかに記載の負極である非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、リチウム吸蔵・放出に伴う体積変化が大きいケイ素含有活物質を用いた二次電池を高温下で充放電することによる二次電池の容量劣化を十分に抑制することができる負極スラリーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明の一実施形態に係る二次電池の具体的な構成について説明する。
<1.非水電解質二次電池>
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、セパレータ(separator)と、非水電解質と、を備えるものである。
このリチウムイオン二次電池の充電到達電圧(酸化還元電位)は、例えば、4.0V(vs.Li/Li+)以上5.0V以下、特に4.2V以上5.0V以下となる。リチウムイオン二次電池の形態は、特に限定されないが、例えば、円筒形、角形、ラミネート(laminate)形、またはボタン(button)形等のいずれであってもよい。
【0008】
(1-1.正極)
前記正極は、正極集電体と、該正極集電体上に形成された正極合剤層とを備えている。
前記正極集電体は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、板状又は箔状のものであり、アルミニウム(aluminum)、ステンレス(stainless)鋼、及びニッケルメッキ(nickel coated)鋼等で構成されることが好ましい。
前記正極合剤層は、少なくとも正極活物質を含み、導電剤と、正極用バインダーとをさらに含んでいてもよい。
【0009】
前記正極活物質は、例えば、リチウムを含む遷移金属酸化物または固溶体酸化物であり、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出することができる物質であれば特に制限されない。リチウムを含む遷移金属酸化物としては、例えば、Li1.0Ni0.88Co0.1Al0.01Mg0.01O2等を挙げることができるが、これ以外にも、LiCoO2等のLi・Co系複合酸化物、LiNixCoyMnzO2等のLi・Ni・Co・Mn系複合酸化物、LiNiO2等のLi・Ni系複合酸化物、またはLiMn2O4等のLi・Mn系複合酸化物等を例示することができる。固溶体酸化物としては、LiaMnxCoyNizO2(1.150≦a≦1.430、0.45≦x≦0.6、0.10≦y≦0.15、0.20≦z≦0.28)、LiMn1.5Ni0.5O4等を例示することができる。なお、前記正極活物質の含有量(含有比)は、特に制限されず、非水電解質二次電池の正極合剤層に適用可能な含有量であればよい。また、これらの化合物を単独で用いても良いし、または複数種混合して用いてもよい。
【0010】
前記導電剤は、前記正極の導電性を高めるためのものであれば特に制限されない。前記導電剤の具体例としては、例えば、カーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛及び繊維状炭素の中から選ばれる一種以上を含有するものを挙げることができる。
前記カーボンブラックの例としては、ファーネスブラック(furnace black)、チャネルブラック(channel black)、サーマルブラック(thermal black)、ケッチェンブラック(ketjen black)、アセチレンブラック(acetylene black)等を挙げることができる。
前記繊維状炭素の例としては、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンナノファイバ等を挙げることができる。
前記導電剤の含有量は、特に制限されず、非水電解質二次電池の正極合剤層に適用可能な含有量であれば良い。
【0011】
前記正極用バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)等のフッ素含有樹脂、スチレンブタジエンゴム(styrene-butadiene rubber)等のエチレン含有樹脂、エチレンプロピレンジエン三元共重合体(ethylene-propylene-diene terpolymer)、アクリロニトリルブタジエンゴム(acrylonitile-butadiene rubber)、フッ素ゴム(fluororubber)、ポリ酢酸ビニル(polyvinyl acetate)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)、ポリエチレン(polyethylene)、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol)、カルボキシメチルセルロース(carboxy metyl cellulose)若しくはカルボキシメチルセルロース誘導体(カルボキシメチルセルロースの塩等)、又はニトロセルロース(nitrocellulose)等を挙げることができる。前記正極用バインダーは、前記正極活物質及び前記導電剤を前記正極集電体上に結着させることができるものであればよく、特に制限されない。
【0012】
(1-2.負極)
負極は、負極集電体と、該負極集電体上に形成された負極合剤層とを備えるものである。
前記負極集電体は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、板状又は箔状のものであり、銅、ステンレス鋼、及びニッケルメッキ鋼等で構成されるものであることが好ましい。
前記負極合剤層は、例えば、負極活物質と、負極用バインダーとを含むものである。
この負極合剤層の構成は、本発明の特徴部分にあたるので、後で詳しく述べることとする。
【0013】
(1-3.セパレータ)
セパレータは、特に制限されず、リチウムイオン二次電池のセパレータとして使用されるものであれば、どのようなものであってもよい。セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。セパレータを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン(polyethylene)、ポリプロピレン(polypropylene)等に代表されるポリオレフィン(polyolefin)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate)、ポリブチレンテレフタレート(polybutylene terephthalate)等に代表されるポリエステル(polyester)系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene difluoride)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(vinylidene difluoride-hexafluoropropylene copolymer)、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル共重合体(vinylidene difluoride-perfluoroninylether copolymer)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-tetrafluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-trifluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-fluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン共重合体(vinylidene difluoride-hexafluoroacetone copolymer)、フッ化ビニリデン-エチレン共重合体(vinylidene difluoride-ethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-プロピレン共重合体(vinylidene difluoride-propylene copolymer)、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン共重合体(vinylidene difluoride-trifluoro propylene copolymer)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(vinylidene difluoride-tetrafluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン-エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride-ethylene-tetrafluoroethylene copolymer)等を挙げることができる。なお、セパレータの気孔率は、特に制限されず、従来のリチウムイオン二次電池のセパレータが有する気孔率を任意に適用することが可能である。
【0014】
セパレータの表面に、耐熱性を向上させるための無機粒子を含む耐熱層、または電極と接着して電池素子を固定化するための接着剤を含む層があってもよい。前述の無機粒子としては、Al2O3、AlOOH、Mg(OH)2、SiO2などがあげられる。接着剤としてはフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン重合体の酸変性物、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体などがあげられる。
【0015】
(1-4.非水電解液)
非水電解液は、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。非水電解液は、電解液用溶媒である非水溶媒に電解質塩を含有させた組成を有する。前記非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート(propylene carbonate)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate)、ブチレンカーボネート(butylene carbonate)、クロロエチレンカーボネート(chloroethylene carbonate)、フルオロエチレンカーボネート(fluoroethylene carbonate)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate)等の環状炭酸エステル類、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、γ-バレロラクトン(γ-valerolactone)等の環状エステル類、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate)、ジエチルカーボネート(diethyl carbonate)、エチルメチルカーボネート(ethylmethyl carbonate)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル(methylformate)、酢酸メチル(methylacetate)、酪酸メチル(methylbutyrate)、プロピオン酸エチル(ethyl propionate)、プロピオン酸プロピル(propyl propionate)等の鎖状エステル類、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)またはその誘導体、1,3-ジオキサン(1,3-dioxane)、1,4-ジオキサン(1,4-dioxane)、1,2-ジメトキシエタン(1,2-dimethoxyethane)、1,4-ジブトキシエタン(1,4-dibutoxyethane)、またはメチルジグライム(methyldiglyme)、エチレングリコールモノプロピルエーテル(ethylene glycol monopropyl ether)、プロピレンレングリコールモノプロピルエーテル(propylene glycol monopropyl ether)等のエーテル類、アセトニトリル(acetonitrile)、ベンゾニトリル(benzonitrile)等のニトリル類、ジオキソラン(dioxolane)またはその誘導体、エチレンスルフィド(ethylene sulfide)、スルホラン(sulfolane)、スルトン(sultone)またはその誘導体等を、単独で、またはそれら2種以上を混合して使用することができる。なお、前記非水溶媒を2種以上混合して使用する場合、各非水溶媒の混合比は、従来のリチウムイオン二次電池で用いられる混合比が適用可能である。
【0016】
電解質塩としては、例えば、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiPF6、LIPF6-x(CnF2n+1)x[但し、1<x<6、n=1or2]、LiSCN、LiBr、LiI、Li2SO4、Li2B10Cl10、NaClO4、NaI、NaSCN、NaBr、KClO4、KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、(CH3)4NBF4、(CH3)4NBr、(C2H5)4NClO4、(C2H5)4NI、(C3H7)4NBr、(n-C4H9)4NClO4、(n-C4H9)4NI、(C2H5)4N-maleate、(C2H5)4N-benzoate、(C2H5)4N-phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム(stearyl sulfonic acid lithium)、オクチルスルホン酸リチウム(octyl sulfonic acid lithium)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(dodecyl benzeneulfonic acid lithium)等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。なお、電解質塩の濃度は、従来のリチウムイオン二次電池で使用される非水電解液と同様でよく、特に制限はない。本実施形態では、前述したようなリチウム化合物(電解質塩)を0.8mol/l以上1.5mol/l以下程度の濃度で含有させた非水電解液を使用することが好ましい。
【0017】
なお、非水電解液には、各種の添加剤を添加してもよい。このような添加剤としては、負極作用添加剤、正極作用添加剤、エステル系の添加剤、炭酸エステル系の添加剤、硫酸エステル系の添加剤、リン酸エステル系の添加剤、ホウ酸エステル系の添加剤、酸無水物系の添加剤、及び電解質系の添加剤等が挙げられる。これらのうちいずれか1種を非水電解液に添加しても良いし、複数種類の添加剤を非水電解液に添加してもよい。
【0018】
<2.本実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法>
次に、リチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。正極は、以下のように作製される。まず、正極活物質、導電剤、及び正極用バインダーを所望の割合で混合したものを、正極スラリー用溶媒(例えばN-メチル- 2-ピロリドン)に分散させることで正極スラリーを形成する。次いで、この正極スラリーを正極集電体上に塗布し、乾燥させることで、正極合剤層を形成する。なお、塗布の方法は、特に限定されない。塗布の方法としては、例えば、ナイフコーター(knife coater)法、グラビアコーター(gravure coater)法、リバースロールコーター(reverse roll coater)、スリットダイコーター(slit die coater)等が考えられる。以下の各塗布工程も同様の方法により行われる。次いで、プレス(press)機により正極合剤層を所望の密度となるようにプレスする。これにより、正極が作製される。
【0019】
負極も、正極と同様に作製される。まず、負極合剤層を構成する材料を混合したものを、負極スラリー用溶媒(例えば、水等の水系溶媒)に分散させることで、負極スラリーを作製する。次いで、負極スラリーを負極集電体上に塗布し、乾燥させることで、負極合剤層を形成する。次いで、プレス機により負極合剤層を所望の密度となるようにプレスする。これにより、負極が作製される。
【0020】
次いで、セパレータを正極及び負極で挟むことで、電極構造体を作製する。次いで、電極構造体を所望の形態(例えば、円筒形、角形、ラミネート形、ボタン形等)に加工し、当該形態の容器に挿入する。次いで、当該容器内に非水電解液を注入することで、セパレータ内の各気孔や正極及び負極の空隙に電解液を含浸させる。これにより、リチウムイオン二次電池が作製される。
【0021】
<3.本実施形態に係るバインダー組成物の特徴構成>
以下に、本実施形態に係る負極合剤層及び該負極合剤層を形成するために使用される負極スラリーについて詳述する。
【0022】
(3-1.負極スラリー)
前述したように、前記負極スラリーは、負極活物質と、負極用バインダーとを含有するものである。前記負極スラリーは、前記負極活物質及び前記負極用バインダーを分散させる負極スラリー用溶媒をさらに含有するものである。
【0023】
前記負極活物質は、例えば、ケイ素原子を含有するケイ素含有活物質であるSi系活物質(第1活物質ともいう。)と、黒鉛を含有する黒鉛系活物質(第2活物質ともいう。)とを含有するものである。
【0024】
前記Si系活物質の具体例としては、例えば、ケイ素(Si)もしくはケイ素酸化物(SiOx(0≦x≦2))等のケイ素を含有する微粒子と、黒鉛質炭素もしくは非晶質炭素などの炭素材料とが複合された複合物(シリコン-カーボン複合活物質ともいう。)、ケイ素の微粒子、ケイ素を基本材料とした合金等からなる群より選ばれる1種以上の活物質を含むものを挙げることができる。
前記黒鉛系活物質の具体例としては、例えば、石炭系、石油系の生コークス、カルサインコークス、ニードルコークス(Coke, Car Sign coke, Needle coke)などのコークス類、メソフェーズ(Mesophase)小球体、バルクメソフェーズ(Bulk mesophase)などのメソフェーズカーボン類などの黒鉛前駆体を1500℃以上、好ましくは2800℃~3200℃で黒鉛化処理した人造黒鉛、鱗片状、塊状又は造粒球形化した天然黒鉛、人造黒鉛と天然黒鉛との混合物、人造黒鉛を被覆した天然黒鉛等からなる群より選ばれる1種以上の活物質を含むものを挙げることができる。これらは、化学的あるいは物理的な処理を施したものであってもよく、処理法として、粉砕、分級、造粒、積層、圧縮、複合、混合、被覆、酸化、蒸着、メカノケミカル(Mechano Chemical)処理、角取り、球形化、湾曲化、熱処理などが例示される。人造黒鉛の場合は黒鉛化処理前後のいずれにおいてもこれらの処理を組み合わせて行うことができる。前記人造黒鉛の具体例としては、例えば、MCMB、MCF、MAG等を挙げることができるが、これらに限られるものではない。
負極合剤層の充放電量容量を十分に大きくするという観点から、前記黒鉛系活物質と前記Si系活物質との含有比は、例えば、前記黒鉛系活物質の比容量(単位:mAh/g)に対して、前記Si系活物質の比容量(単位:mAh/g)が3.5倍以上となっていることが好ましい。
このような容量比を実現するには、前記Si系活物質が、ケイ素原子を20質量%以上100質量%以下の範囲で含有するものであることが好ましく、さらに前記負極活物質中に占める前記Si系活物質の含有量を5質量%以上100質量%以下とすることが好ましい。
【0025】
前記負極活物質は前述したもの以外に、例えば、Sn系活物質(例えば、スズ(Sn)もしくはスズ酸化物の微粒子と黒鉛系活物質との混合物、スズの微粒子、スズを基本材料とした合金)、金属リチウム及びLi4Ti5O12等の酸化チタン系化合物、リチウム窒化物等からなる群から選ばれる1種以上の負極活物質をさらに含有していても良い。
【0026】
前記負極用バインダーは、前記負極活物質同士、及び前記負極合剤層を前記負極集電体上に結着させる結着剤であり、粒子状分散体と水溶性重合体とを含有するものである。
【0027】
前記粒子状分散体は、前記負極スラリー用溶媒である水などの水系溶媒に均一に分散可能な微粒子であり、そのガラス転移温度が、-50℃以上、より好ましくは-30℃以上である疎水性重合体からなる微粒子であることが好ましく、前記疎水性重合体としては、例えば、スチレン単量体由来の単位と、ブタジエン単量体由来の単位とを含有するものであることが好ましい。前記疎水性重合体の具体例としては、例えば、スチレンブタジエン共重合体、スチレンブタジエン共重合体を加硫した変性スチレンブタジエン共重合体、スチレンアクリル酸エステル共重合体、ポリオレフィン系重合体、ポリフッ化ビニリデン系重合体等を挙げることができる。前記疎水性重合体は、ガラス転移温度が、室温以下(例えば20℃以下)である合成ゴムであることがさらに好ましい。なお、前記水系溶媒とは、前述した水以外にも、例えば、水と混和可能な有機溶媒と水との混合液であり、水の含有量が50質量%以上のものを指す。水と混和可能な有機溶媒としては、例えば、水溶性アルコールなどを挙げることができる。
前記粒子状分散体の平均粒子径は、10nm以上500nm以下であることが好ましく、より好ましくは30nm以上400nm以下、さらに好ましくは50nm以上300nm以下である。
【0028】
前記水溶性重合体は、アクリル酸-スチレンスルホン酸ナトリウム-アクリロニトリル系三元共重合体(AA-NaSS-AN系共重合体ともいう。)を含有するものである。
前記AA-NaSS-AN系共重合体は、アクリル酸系単量体由来の単位と、スチレンスルホン酸ナトリウム単量体由来の単位と、アクリロニトリル系単量体由来の単位とを含むものである。
前記AA-NaSS-AN系共重合体は、例えば、アクリル酸系単量体由来の単位の含有量が10質量%以上50質量%以下であり、スチレンスルホン酸ナトリウム単量体由来の単位の含有量が10質量%以上50質量%以下であり、アクリロニトリル系単量体由来の単位の含有量が10質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
前記AA-NaSS-AN系共重合体が、アクリル酸系単量体単位、スチレンスルホン酸ナトリウム単量体単位及び/又はアクリロニトリル系単量体単位と共重合可能な他の単量体由来の単位を含有しているものとしても良く、前記他の単量体由来の単位の含有量は、0質量%を超えて20質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0029】
前記AA-NaSS-AN系共重合体におけるアクリル酸系単量体に由来する単位の含有量が、10質量%以上であれば前記アクリル酸-アクリロニトリル系共重合体が水に溶けやすくなり、負極活物質の分散性並びに負極スラリーの保存安定性をより向上させることができるので好ましい。また、前記AA-NaSS-AN系共重合体のアクリル酸系単量体に由来する構造単位の含有量が50質量%以下であれば、負極スラリーの塗布、乾燥工程におけるクラックの発生をより抑制することができるので好ましい。
【0030】
前記AA-NaSS-AN系共重合体におけるスチレンスルホン酸ナトリウム単量体由来の単位の含有量が10質量%以上であれば、共重合体の電解液への膨潤性をより抑制することができ、高温サイクル性能をより向上させることができるので好ましい。また、前記AA-NaSS-AN系共重合体におけるスチレンスルホン酸ナトリウム単量体由来の単位の含有量が50質量%以下であれば、負極スラリーの塗布、乾燥工程におけるクラックの発生をより抑制することができるので好ましい。
【0031】
前記AA-NaSS-AN系共重合体におけるアクリロニトリル系単量体に由来する構造単位の含有量が、10質量%以上であれば、負極合剤層の負極集電体に対する密着性をより向上させることができるので好ましい。また、前記AA-NaSS-AN系共重合体におけるアクリロニトリル系単量体に由来する構造単位の含有量が、50質量%以下であれば、前記AA-NaSS-AN系共重合体が水により溶けやすくなり、負極活物質の分散性並びに負極スラリーの保存安定性をより向上させやすいので好ましい。
【0032】
前記AA-NaSS-AN系共重合体におけるアクリル酸系単量体、スチレンスルホン酸ナトリウム単量体由来の単位及びアクリロニトリル系単量体と共重合可能な他の単量体に由来する構造単位の含有量が、20質量%以下であれば、負極スラリーの塗布、乾燥工程におけるクラックの発生や充電時における負極合剤層の負極集電体からの剥離を抑制することができる。
【0033】
前記アクリル酸系単量体が、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸の金属塩、(メタ)アクリル酸のアンモニウム塩及び(メタ)アクリル酸のアミン塩からなる群から選択される少なくとも1種を含有するものであることが好ましい。
【0034】
前記(メタ)アクリル酸の金属塩としては、例えば、(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩等を使用することが好ましい。(メタ)アクリル酸の金属塩の具体的な例としては、例えば、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸リチウム、アクリル酸カリウム、アクリル酸カルシウム、アクリル酸マグネシウム、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸リチウム、メタクリル酸カリウム、メタクリル酸カルシウム等を挙げることができる。これらの中でも、アクリル酸ナトリウムを使用することがより好ましい。
【0035】
前記(メタ)アクリル酸のアンモニウム塩としては、(メタ)アクリル酸のアンモニア中和物、モノエタノールアミン中和物、ジエタノールアミン中和物、ヒドロキシルアミン中和物等が挙げることができる。これらの中でも、アクリル酸のアンモニア中和物を使用することがより好ましい。
【0036】
前記AA-NaSS-AN系共重合体におけるアクリル酸系単量体単位、スチレンスルホン酸ナトリウム単量体単位及びアクリロニトリル系単量体単位と共重合可能な他の単量体単位は、例えば、水溶性の単量体単位であることが好ましい。
前記水溶性の単量体の具体例としては、(メタ)アクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、N-イソプロピルアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、ビニルピロリドン、ビニルアセトアミド、ビニルホルムアミド、ビニルアルコールなどを挙げることができる。
【0037】
前記AA-NaSS-AN系共重合体の重量平均分子量は、30万以上200万以下であることが好ましく、160万以下であることがより好ましく、150万以下であることがさらに好ましい。この重量平均分子量は、実施例において詳述するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0038】
前記AA-NaSS-AN系共重合体の重量平均分子量を前述した範囲のものとするためには、前記他の単量体由来の単位として架橋性単量体単位が非添加のものとすることが好ましい。架橋性単量体単位を非添加とすることにより、共重合体の水溶性が低下することを抑制して活物質の分散性が損なわれることによるサイクル性能の低下を抑制することができる。
なお、架橋性単量体単位とは、少なくとも2つ以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物を広く意味し、具体例としては、メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートやジビニルベンゼン等を挙げることができる。
【0039】
前記AA-NaSS-AN系共重合体の8質量%の水溶液のB型粘度計によって測定される25℃における粘度が500mPa・s以上20000mPa・s以下の範囲であることが好ましい。
前記AA-NaSS-AN系共重合体の水溶液の前記粘度が500mPa・s以上であれば、負極合剤層の負極集電体に対する密着性を向上することができ、さらに良好なサイクル性能を得ることができるので好ましい。また、前記AA-NaSS-AN系共重合体水溶液の前記粘度が20000mPa・s以下であれば、負極合剤層を形成するための負極スラリーに過度に粘性を付与することがないため、高固形成分な状態でスラリーを塗工することができ、負極スラリーを効率よく乾燥して負極を得ることができるので好ましい。なお、固形成分とはスラリーや水溶液から溶媒を除去した際の残部のことを指す。負極スラリー中の固形成分は、乾燥した状態の負極合材層の質量と同じであると考えられる。
【0040】
前記水溶性重合体は、前記AA-NaSS-AN系共重合体以外の水溶性高分子化合物をさらに含有していても良い。前記水溶性高分子化合物は、例えば、カルボキシメチル基を含有するセルロースエーテル又はその塩を含むものであることが好ましい。このような水溶性高分子化合物の具体例としては、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩などを挙げることができる。
【0041】
前記水溶性重合体中における前記AA-NaSS-AN系共重合体の含有量は、前記Si系活物質による負極の膨張ならびに負極合剤層の負極集電体からの剥離をより低減するという観点から、30質量%以上、より好ましく50質量%以上であることが好ましい。
【0042】
前記負極スラリー中の前記負極用バインダーの含有量は、前記負極活物質と前記負極用バインダーとを合わせた合計質量を100質量%とした場合に、2.5質量%以上4.5質量%となるようにすることが好ましい。前記負極用バインダーの含有量が、2.5質量%以上であれば、負極合剤層を塗工乾燥し、圧延(プレス)したときに負極合剤層の割れや剥離をより抑えることができるので好ましい。また、前記負極用バインダーの含有量が、4.5質量%以下であれば、電極抵抗が過度に大きくなることを抑えて、サイクル性能が良好な負極を得ることができるので好ましい。
【0043】
前記負極活物質及び前記負極用バインダーの合計質量を100質量%とした場合における、前記水溶性重合体の含有量が0.5質量%以上2質量%以下の範囲になるようにしてある。
前記水溶性重合体の含有量が0.5質量%以上とすることによって、前記Si系活物質による負極の膨張を十分に抑えることができる。また、前記水溶性重合体の含有量が、2質量%以下であれば、前記負極スラリーを塗工乾燥、圧延したときに負極合剤層におけるクラックを生じにくくすることができる。
【0044】
前記負極スラリーの固形成分濃度を40質量%以上60質量%以下とした場合のB型粘度計による前記負極スラリーの粘度は、25℃において1000mPa・s以上5000mPa・s以下であることが好ましく、1500mPa・s以上4500mPa・s以下であることがさらに好ましい。この負極スラリーの粘度は、例えば、前記水溶性高分子化合物の添加量などによって調節するようにしても良い。なお、この粘度は作成してから時間が経っても変化が少なく前述した範囲内に維持されていることが好ましい。
【0045】
(3-2.負極合剤層)
前記負極合剤層は、前述したように、前記負極スラリーを前記負極集電体上の片面又は両面に塗布して、乾燥させ、プレスすることにより形成される。前記乾燥工程において、前記負極スラリー用溶媒が揮発し、前記負極スラリー中に分散していた前記負極活物質や前記負極用バインダー等の固形成分が前記負極集電体上に残留して前記負極合剤層を形成するので、前記負極合剤層中の各構成成分の含有比率は、前記負極スラリー中における前記固形成分の含有比率をそのまま反映するものとなっている。
【0046】
前記負極合剤層は、プレス後の面積容量が3.5mAh/cm2以上10mAh/cm2以下の範囲となっていることが好ましい。このような負極合剤層を形成するには、前述した負極スラリーを、例えば、片面の面密度で5mg/cm2以上25mg/cm2以下の塗工量で塗工することが好ましく、10mg/cm2以上20mg/cm2以下の塗工量で塗工することがより好ましい。
また、乾燥及びプレス後の前記負極合剤層の厚みは、片面の厚みとして、例えば、50μm以上150μm以下であることが好ましい。
前記負極合剤層の塗工量及び厚みをこのような範囲とすることによって、前記リチウムイオン二次電池の充放電容量をより大きくすることができるので好ましい。
【0047】
なお、前記負極合剤層は導電剤をさらに含んでいても良い。導電剤は、例えば、正極に使用するものとして例示したものを用いることができる。
【0048】
<4.本実施形態による効果>
以上のように構成した負極スラリー、この負極スラリーによって形成された負極合剤層及び負極によれば、以下のような効果を奏することができる。
前記バインダーが、前記AA-NaSS-AN系共重合体を含有する水溶性重合体と粒子状分散体とを含有し、前記AA-NaSS-AN系共重合体の重量平均分子量が30万以上200万以下であり、前記水溶性重合体の含有量が前記負極活物質及び前記バインダーの合計質量を100質量%とした場合の前記水溶性重合体の含有量が0.5質量%以上2質量%以下であるので、前記負極活物質がケイ素原子を含むものである場合における負極の膨張を十分に抑え、かつ、前記負極スラリーを塗工・乾燥する際のクラックの発生を抑えることができる。
本実施形態で記載した例のように、面積容量が3.5mAh/cm2以上10mAh/cm2以下の負極合剤層を形成する場合や、円筒状の電池を形成する場合には、前述した効果が特に顕著に発揮される。
【実施例0049】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいてより詳細に説明する。しかしながら、以下の実施例は、あくまでも本発明の一例であり、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
本実施例では、まず表1に記載の共重合体A~Nを合成した。次に、これら共重合体A~Nを含有する負極スラリーを調製して、実施例1~15及び比較例1~19の二次電池を作製し、これらの二次電池について評価を行った。
以下、各実施例及び比較例について説明する。
【0050】
(共重合体Aの合成)
アクリル酸54.0g、p-スチレンスルホン酸ナトリウム54.0g、アクリロニトリル12.0g、イオン交換水202.9g、2,2'-アゾビス(2-メチル-N-2-ヒドロキシエチルプロピオンアミド)1606mgをフラスコに仕込み、重合温度85℃にて4時間以上重合した。その後、加熱減圧蒸留によって反応液を濃縮して未反応単量体を除去した後、アンモニア水およびイオン交換水を添加して、ポリマー水溶液の固形分濃度およびpHを調整して、重合体を9.5質量%含有するpH7.5の水溶性共重合体A水溶液を得た。得られた共重合体Aの重量平均分子量は96万、分子量分布は3.3であった。また、得られた共重合体Aの9.5質量%ポリマー水溶液の粘度は、B型粘度計にて、25℃、30rpmにおいて10200mPa・sであった。なお、ポリマー水溶液の濃度は、未反応の単量体を除いた状態での水溶液の不揮発成分(固形成分)の質量から算出することができる。また、共重合体の重量平均分子量と分子量分布は、以下の方法により測定した。
【0051】
<重量平均分子量及び分子量分布>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。Shodex製のカラム(OHpak SB-G、SB-805HQ、SB-804HQを3本直列に接続)を用い、移動相に0.2Mリン酸水素二ナトリウム水溶液を用いて、40℃で測定したデータ(リファレンス:ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール)より算出した。なお、測定試料溶液は、共重合体濃度が0.1重量%となるように移動相水溶液で希釈調製した水溶液を、孔径0.2μmのディスクフィルターでろ過処理したものを用いた。
【0052】
(共重合体Bの合成)
アクリル酸48.0g、p-スチレンスルホン酸ナトリウム48.0g、アクリロニトリル24.0g、イオン交換水202.9g、2,2'-アゾビス(2-メチル-N-2-ヒドロキシエチルプロピオンアミド)1753mgをフラスコに仕込み、重合温度85℃にて4時間以上重合した。その後、加熱減圧蒸留によって反応液を濃縮して未反応単量体を除去した後、アンモニア水およびイオン交換水を添加して、ポリマー水溶液の固形分濃度およびpHを調整して、重合体を9.5質量%含有するpH7.5の水溶性共重合体B水溶液を得た。得られた共重合体Bの重量平均分子量は96万、分子量分布は3.2であった。また、得られた共重合体Bの9.5質量%ポリマー水溶液の粘度は、B型粘度計にて、25℃、30rpmにおいて10100mPa・sであった。
【0053】
(共重合体Cの合成)
アクリル酸42.0g、p-スチレンスルホン酸ナトリウム42.0g、アクリロニトリル36.0g、イオン交換水202.9g、2,2'-アゾビス(2-メチル-N-2-ヒドロキシエチルプロピオンアミド)1901mgをフラスコに仕込み、重合温度85℃にて4時間以上重合した。その後、加熱減圧蒸留によって反応液を濃縮して未反応単量体を除去した後、アンモニア水およびイオン交換水を添加して、ポリマー水溶液の固形分濃度およびpHを調整して、重合体を9.5質量%含有するpH7.5の水溶性共重合体C水溶液を得た。得られた共重合体Cの重量平均分子量は92万、分子量分布は3.1であった。また、得られた共重合体Cの9.5質量%ポリマー水溶液の粘度は、B型粘度計にて、25℃、30rpmにおいて9900mPa・sであった。
【0054】
(共重合体Dの合成)
アクリル酸39.0g、p-スチレンスルホン酸ナトリウム39.0g、アクリロニトリル42.0g、イオン交換水202.9g、2,2'-アゾビス(2-メチル-N-2-ヒドロキシエチルプロピオンアミド)1975mgをフラスコに仕込み、重合温度85℃にて4時間以上重合した。その後、加熱減圧蒸留によって反応液を濃縮して未反応単量体を除去した後、アンモニア水およびイオン交換水を添加して、ポリマー水溶液の固形分濃度およびpHを調整して、重合体を9.5質量%含有するpH7.5の水溶性共重合体D水溶液を得た。得られた共重合体Dの重量平均分子量は90万、分子量分布は3.1であった。また、得られた共重合体Dの9.5質量%ポリマー水溶液の粘度は、B型粘度計にて、25℃、30rpmにおいて9200mPa・sであった。
【0055】
(共重合体Eの合成)
アクリル酸38.5g、p-スチレンスルホン酸ナトリウム27.5g、アクリロニトリル44.0g、イオン交換水208.5g、2,2'-アゾビス(2-メチル-N-2-ヒドロキシエチルプロピオンアミド)1727mgをフラスコに仕込み、重合温度85℃にて4時間以上重合した。その後、加熱減圧蒸留によって反応液を濃縮して未反応単量体を除去した後、アンモニア水およびイオン交換水を添加して、ポリマー水溶液の固形分濃度およびpHを調整して、重合体を9.5質量%含有するpH7.5の水溶性共重合体E水溶液を得た。得られた共重合体Eの重量平均分子量は90万、分子量分布は3.3であった。また、得られた共重合体Eの9.5質量%ポリマー水溶液の粘度は、B型粘度計にて、25℃、30rpmにおいて9400mPa・sであった。
【0056】
(共重合体Fの合成)
アクリル酸32.5g、p-スチレンスルホン酸ナトリウム32.5g、アクリロニトリル35.0g、イオン交換水320.4g、2,2'-アゾビス(2-メチル-N-2-ヒドロキシエチルプロピオンアミド)2194mgをフラスコに仕込み、重合温度85℃にて4時間以上重合した。その後、加熱減圧蒸留によって反応液を濃縮して未反応単量体を除去した後、アンモニア水およびイオン交換水を添加して、ポリマー水溶液の固形分濃度およびpHを調整して、重合体を9.5質量%含有するpH7.5の水溶性共重合体F水溶液を得た。得られた共重合体Fの重量平均分子量は40万、分子量分布は3.8であった。また、得られた共重合体Fの9.5質量%ポリマー水溶液の粘度は、B型粘度計にて、25℃、30rpmにおいて1900mPa・sであった。
【0057】
(共重合体Gの合成)
アクリル酸39.0g、p-スチレンスルホン酸ナトリウム39.0g、アクリロニトリル42.0g、イオン交換水160.0g、2,2'-アゾビス(2-メチル-N-2-ヒドロキシエチルプロピオンアミド)1975mgをフラスコに仕込み、重合温度85℃にて4時間以上重合した。その後、加熱減圧蒸留によって反応液を濃縮して未反応単量体を除去した後、アンモニア水およびイオン交換水を添加して、ポリマー水溶液の固形分濃度およびpHを調整して、重合体を9.5質量%含有するpH7.5の水溶性共重合体G水溶液を得た。得られた共重合体Gの重量平均分子量は130万、分子量分布は3.5であった。また、得られた共重合体Gの9.5質量%ポリマー水溶液の粘度は、B型粘度計にて、25℃、30rpmにおいて16000mPa・sであった。
【0058】
(共重合体Hの合成)
アクリル酸70.0g、アクリロニトリル30.0g、4mol/l水酸化ナトリウム水溶液110.3g、イオン交換水114.5g、2,2'-アゾビス(2-メチル-N-2-ヒドロキシエチルプロピオンアミド)1773mgをフラスコに仕込み、重合温度85℃にて4時間以上重合した後、4mol/l水酸化ナトリウム水溶液110.3gを加えて4時間撹拌を継続した。その後、加熱減圧蒸留によって反応液を濃縮して未反応単量体を除去した後、アンモニア水およびイオン交換水を添加して、ポリマー水溶液の固形分濃度およびpHを調整して、重合体を9.5質量%含有するpH7.5の水溶性共重合体H水溶液を得た。得られた共重合体Hの重量平均分子量は92万、分子量分布は3.3であった。また、得られた共重合体Hの9.5質量%ポリマー水溶液の粘度は、B型粘度計にて、25℃、30rpmにおいて12500mPa・sであった。
【0059】
(共重合体Iの合成)
アクリル酸70.0g、アクリロニトリル30.0g、4mol/l水酸化ナトリウム水溶液94.4g、イオン交換水118.5g、2,2'-アゾビス(2-メチル-N-2-ヒドロキシエチルプロピオンアミド)1830mgをフラスコに仕込み、重合温度85℃にて4時間以上重合した後、4mol/l水酸化ナトリウム水溶液94.4gを加えて4時間撹拌を継続した。その後、加熱減圧蒸留によって反応液を濃縮して未反応単量体を除去した後、アンモニア水およびイオン交換水を添加して、ポリマー水溶液の固形分濃度およびpHを調整して、重合体を9.5質量%含有するpH7.5の水溶性共重合体I水溶液を得た。得られた共重合体Iの重量平均分子量は87万、分子量分布は3.3であった。また、得られた共重合体Iの9.5質量%ポリマー水溶液の粘度は、B型粘度計にて、25℃、30rpmにおいて12000mPa・sであった。
【0060】
(共重合体Jの合成)
アクリル酸60.0g、p-スチレンスルホン酸ナトリウム60.0g、イオン交換水202.9g、2,2'-アゾビス(2-メチル-N-2-ヒドロキシエチルプロピオンアミド)1458mgをフラスコに仕込み、重合温度85℃にて4時間以上重合した。その後、加熱減圧蒸留によって反応液を濃縮して未反応単量体を除去した後、アンモニア水およびイオン交換水を添加して、ポリマー水溶液の固形分濃度およびpHを調整して、重合体を9.5質量%含有するpH7.5の水溶性共重合体J水溶液を得た。得られた共重合体Jの重量平均分子量は89万、分子量分布は3.4であった。また、得られた共重合体Jの9.5質量%ポリマー水溶液の粘度は、B型粘度計にて、25℃、30rpmにおいて9980mPa・sであった。
【0061】
(共重合体Lの合成)
アクリル酸38.5g、p-スチレンスルホン酸ナトリウム27.5g、アクリロニトリル42.9g、エチレングリコールジメタクリレート1.1g、イオン交換水208.5g、2,2'-アゾビス(2-メチル-N-2-ヒドロキシエチルプロピオンアミド)1727mgをフラスコに仕込み、重合温度85℃にて4時間以上重合した。その後、加熱減圧蒸留によって反応液を濃縮して未反応単量体を除去した後、アンモニア水およびイオン交換水を添加して、ポリマー水溶液の固形分濃度およびpHを調整して、重合体を9.5質量%含有するpH7.5の水溶性共重合体L水溶液を得た。得られた共重合体Lの9.5質量%ポリマー水溶液の粘度は、B型粘度計にて、25℃、30rpmにおいて18100mPa・sであった。なお、共重合体LのGPC測定は、ディスクフィルターでのろ過処理工程において詰まりが発生して、測定試料溶液が得られなかったため、測定不可とした。
【0062】
(共重合体Mの合成)
アクリル酸38.5g、p-スチレンスルホン酸ナトリウム27.5g、アクリロニトリル43.89g、メチレンビスアクリルアミド0.11g、イオン交換水236.7g、2,2'-アゾビス(2-メチル-N-2-ヒドロキシエチルプロピオンアミド)1727mgをフラスコに仕込み、重合温度85℃にて4時間以上重合した。その後、加熱減圧蒸留によって反応液を濃縮して未反応単量体を除去した後、アンモニア水およびイオン交換水を添加して、ポリマー水溶液の固形分濃度およびpHを調整して、重合体を9.5質量%含有するpH7.5の水溶性共重合体M水溶液を得た。得られた共重合体Mの9.5質量%ポリマー水溶液の粘度は、B型粘度計にて、25℃、30rpmにおいて24100mPa・sであった。なお、共重合体MのGPC測定は、ディスクフィルターでのろ過処理工程において詰まりが発生して、測定試料溶液が得られなかったため、測定不可とした。
【0063】
(共重合体Nの合成)
アクリル酸32.5g、p-スチレンスルホン酸ナトリウム32.5g、アクリロニトリル35.0g、イオン交換水536.7g、2,2'-アゾビス(2-メチル-N-2-ヒドロキシエチルプロピオンアミド)2560mgをフラスコに仕込み、重合温度85℃にて4時間以上重合した。その後、加熱減圧蒸留によって反応液を濃縮して未反応単量体を除去した後、アンモニア水およびイオン交換水を添加して、ポリマー水溶液の固形分濃度およびpHを調整して、重合体を9.5質量%含有するpH7.5の水溶性共重合体N水溶液を得た。得られた共重合体Nの重量平均分子量は20万、分子量分布は4.3であった。また、得られた共重合体Nの9.5質量%ポリマー水溶液の粘度は、B型粘度計にて、25℃、30rpmにおいて350mPa・sであった。
【0064】
【表1】
なお、表1中の「AA」はアクリル酸を示し、「NaSS」はp-スチレンスルホン酸ナトリウムを示し、「AN」はアクリロニトリルを示し、「EDMA」はエチレンジメタクリレートを示し、「MBA」はメチレンビスアクリルアミドを示す。また、表1に記載した単量体仕込み比率は、合成後の各共重合体中の各単量体単位の含有比率としてそのまま反映される。
【0065】
<実施例1>
以下のように実施例1~15及び比較例1~17のリチウムイオン二次電池を作成した。
(負極作製)
Si系活物質であるシリコン-カーボン複合活物質8.0g、黒鉛系活物質である人造黒鉛活物質46.0g、天然黒鉛活物質46.0g、共重合体Aの9.5質量%水溶液12.94g、カーボンナノチューブの0.4質量%分散液5.12g(分散剤として0.6質量%のカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(CMC)を含有)、イオン交換水79.87gを混合した後、変性スチレンブタジエン共重合体からなる粒子状分散体の40質量%水分散液3.07gを加えることで、負極スラリーを作製した。次いで、乾燥後の負極合剤層の塗布量(面密度)が片面あたり14.1mg/cm2になるように、前記負極スラリーを負極集電体となる銅箔上の両面にリバースロールコーターを用いて塗工し乾燥させた。その後、ロールプレス機で負極合剤層の密度が1.65g/ccとなるようにプレスし、面積容量5.2mAh/cm2の負極を作製した。
【0066】
(正極作製)
Li1.0Ni0.88Co0.1Al0.01Mg0.01O2、アセチレンブラック、ポリフッ化ビニリデンを粉体としての質量比が97.7:1.0:1.3となるように、正極スラリー用溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン中に分散させて混合することで、正極スラリーを作製した。次いで、乾燥後の正極合剤層の塗布量(面密度)が片面27.8mg/cm2になるようにスラリーを正極集電体となるアルミニウム集電箔上の片面にリバースロールコーターを用いて塗工乾燥させた後、ロールプレス機で合剤層密度が3.65g/ccとなるようにプレスし、正極を作製した。
【0067】
(二次電池セル作製)
上述の負極、正極をそれぞれ29mm×29mm、27mm×27mmの正方形に切り出し、ニッケル及びアルミリード線を溶接した後、ポリエチレン製多孔質セパレータを介して正極7枚を負極8枚で挟む形で積層させることで、電極積層体を作製した。次いで、アルミラミネートフィルム内に上記の電極積層体を、リード線を外部に引き出した状態で収納し、電解液を注液して減圧封止することで初期充電前二次電池セルを作製した。電解液には、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート/ジメチルカーボネート/フルオロエチレンカーボネートを10/15/70/5(体積比)で混合した電解液用溶媒に1%質量%のビニレンカーボネートを溶解させたものを使用し、注液量は1.4gとした。作製した電池の設計容量は550mAhである。
【0068】
<実施例2>
実施例1の負極作製工程において、共重合体Aに替えて、共重合体Bを使用した以外は、実施例1と同様の手順で二次電池を作製した。
【0069】
<実施例3>
実施例1の負極作製工程において、共重合体Aに替えて、共重合体Cを使用した以外は、実施例1と同様の手順で二次電池を作製した。
【0070】
<実施例4>
実施例1の負極作製工程において、共重合体Aに替えて、共重合体Dを使用した以外は、実施例1と同様の手順で二次電池を作製した。
【0071】
<実施例5>
実施例1の負極作製工程において、共重合体Aに替えて、共重合体Eを使用した以外は、実施例1と同様の手順で二次電池を作製した。
【0072】
<実施例6>
実施例1の負極作製工程において、シリコン-カーボン複合活物質8.0g、黒鉛系活物質である人造黒鉛活物質46.0g、天然黒鉛活物質46.0g、水溶性共重合体Fの9.5質量%水溶液21.75g、カーボンナノチューブの0.4質量%分散液5.17g(分散剤として0.6質量%のCMCを含有)、イオン交換水61.38gを混合した後、変性スチレンブタジエン共重合体からなる粒子状分散体の40質量%水分散液3.10gを加えることで、負極スラリーを作製した。負極スラリーの配合を変更し、乾燥後の負極合剤層の塗布量(面密度)を片面あたり14.2mg/cm2に変更した以外は、実施例1と同様の手順で二次電池を作製した。
【0073】
<実施例7>
実施例1の負極作製工程において、シリコン-カーボン複合活物質8.0g、黒鉛系活物質である人造黒鉛活物質46.0g、天然黒鉛活物質46.0g、水溶性共重合体Gの9.5質量%水溶液10.76g、カーボンナノチューブの0.4質量%分散液(分散剤として0.6質量%のCMCを含有)5.11g、イオン交換水85.66gを混合した後、変性スチレンブタジエン共重合体からなる粒子状分散体の40質量%水分散液3.07gを加えることで、負極スラリーを作製した。負極スラリーの配合を変更した以外は、実施例1と同様の手順で二次電池を作製した。
【0074】
<実施例8>
実施例1の負極作製工程において、シリコン-カーボン複合活物質8.0g、黒鉛系活物質である人造黒鉛活物質46.0g、天然黒鉛活物質46.0g、共重合体Aの9.5質量%水溶液5.39g、CMCの1.2質量%水溶液42.69g、カーボンナノチューブの0.4質量%分散液(分散剤として0.6質量%のCMCを含有)5.12g、イオン交換水48.23gを混合した後、変性スチレンブタジエン共重合体からなる粒子状分散体の40質量%水分散液3.59gを加えることで、負極スラリーを作製した。負極スラリーの配合を変更した以外は、実施例1と同様の手順で二次電池を作製した。
【0075】
<実施例9>
実施例8の負極作製工程において、共重合体Aに替えて、共重合体Bを使用した以外は、実施例8と同様の手順で二次電池を作製した。
【0076】
<実施例10>
実施例8の負極作製工程において、共重合体Aに替えて、共重合体Cを使用した以外は、実施例8と同様の手順で二次電池を作製した。
【0077】
<実施例11>
実施例8の負極作製工程において、共重合体Aに替えて、共重合体Dを使用した以外は、実施例8と同様の手順で二次電池を作製した。
【0078】
<実施例12>
実施例8の負極作製工程において、共重合体Aに替えて、共重合体Eを使用した以外は、実施例8と同様の手順で二次電池を作製した。
【0079】
<実施例13>
実施例8の負極作製工程において、共重合体Aに替えて、共重合体Fを使用し、イオン交換水の配合量を40.35gに変更した以外は、実施例8と同様の手順で二次電池を作製した。
【0080】
<実施例14>
実施例8の負極作製工程において、共重合体Aに替えて、共重合体Gを使用し、イオン交換水の配合量を56.77gに変更した以外は、実施例8と同様の手順で二次電池を作製した。
【0081】
<実施例15>
実施例1の負極作製工程において、シリコン-カーボン複合活物質8.0g、黒鉛系活物質である人造黒鉛活物質46.0g、天然黒鉛活物質46.0g、共重合体Dの9.5質量%水溶液3.24g、CMCの1.2質量%水溶液59.77g、カーボンナノチューブの0.4質量%分散液5.12g(分散剤として0.6質量%のCMCを含有)、イオン交換水41.84gを混合した後、変性スチレンブタジエン共重合体からなる粒子状分散体の40質量%水分散液3.59gを加えることで、負極スラリーを作製した。負極スラリーの配合を変更した以外は、実施例1と同様の手順で二次電池を作製した。
【0082】
<比較例1>
実施例1の負極作製工程において、シリコン-カーボン複合活物質8.0g、黒鉛系活物質である人造黒鉛活物質46.0g、天然黒鉛活物質46.0g、共重合体Aの9.5質量%水溶液32.56g、カーボンナノチューブの0.4質量%分散液5.15g(分散剤として0.6質量%のCMCを含有)、イオン交換水77.17gを混合することで、負極スラリーを作製した。実施例1と同様の手順で負極スラリーを銅箔上に塗工して、乾燥を行ったが、塗工乾燥中に負極合剤層に亀裂(クラック)が発生した。その後、実施例1と同様の手順でロールプレス機でのプレス工程を行ったが、負極合剤層に亀裂(クラック)が発生した状態は改善されなかったため、二次電池セルを作製することができなかった。
【0083】
<比較例2>
実施例1の負極作製工程において、シリコン-カーボン複合活物質8.0g、黒鉛系活物質である人造黒鉛活物質46.0g、天然黒鉛活物質46.0g、共重合体Dの9.5質量%水溶液32.56g、カーボンナノチューブの0.4質量%分散液(分散剤として0.6質量%のCMCを含有)5.15g、イオン交換水77.17gを混合することで、負極スラリーを作製した。実施例1と同様の手順で負極スラリーを銅箔上に塗工して、乾燥を行ったが、塗工乾燥中に負極合剤層に亀裂(クラック)が発生した。その後、実施例1と同様の手順でロールプレス機でのプレス工程を行ったが、負極合剤層に亀裂(クラック)が発生した状態は改善されなかったため、二次電池セルを作製することができなかった。
【0084】
<比較例3>
実施例1の負極作製工程において、シリコン-カーボン複合活物質8.0g、黒鉛系活物質である人造黒鉛活物質46.0g、天然黒鉛活物質46.0g、共重合体Aの9.5質量%水溶液21.70g、CMCの1.2質量%水溶液85.91g、カーボンナノチューブの0.4質量%分散液(分散剤として0.6質量%のCMCを含有)5.15g、イオン交換水27.11gを混合することで、負極スラリーを作製した。実施例1と同様の手順で負極スラリーを銅箔上に塗工して、乾燥を行ったが、塗工乾燥中に負極合剤層に亀裂(クラック)が発生した。その後、実施例1と同様の手順でロールプレス機でのプレス工程を行ったが、負極合剤層に亀裂(クラック)が発生した状態は改善されなかったため、二次電池セルを作製することができなかった。
【0085】
<比較例4>
実施例1の負極作製工程において、シリコン-カーボン複合活物質8.0g、黒鉛系活物質である人造黒鉛活物質46.0g、天然黒鉛活物質46.0g、共重合体Dの9.5質量%水溶液21.70g、CMCの1.2質量%水溶液85.91g、カーボンナノチューブの0.4質量%分散液(分散剤として0.6質量%のCMCを含有)5.15g、イオン交換水27.11gを混合することで、負極スラリーを作製した。実施例1と同様の手順で負極スラリーを銅箔上に塗工して、乾燥を行ったが、塗工乾燥中に負極合剤層に亀裂(クラック)が発生した。その後、実施例1と同様の手順でロールプレス機でのプレス工程を行ったが、負極合剤層に亀裂(クラック)が発生した状態は改善されなかったため、二次電池セルを作製することができなかった。
【0086】
<比較例5>
実施例1の負極作製工程において、共重合体Aに替えて、共重合体Hを使用した以外は、実施例1と同様の手順で二次電池を作製した。
【0087】
<比較例6>
実施例1の負極作製工程において、共重合体Aに替えて、共重合体Iを使用した以外は、実施例1と同様の手順で二次電池を作製した。
【0088】
<比較例7>
実施例1の負極作製工程において、共重合体Aに替えて、共重合体Jを使用した以外は、実施例1と同様の手順で二次電池を作製した。
【0089】
<比較例8>
実施例1の負極作製工程において、共重合体Aに替えて、共重合体Kを使用し、イオン交換水の配合量を83.89gに変更した以外は、実施例1と同様の手順で二次電池を作製した。
【0090】
<比較例9>
実施例1の負極作製工程において、共重合体Aに替えて、共重合体Mを使用し、イオン交換水の配合量を83.89gに変更した以外は、実施例1と同様の手順で二次電池を作製した。
【0091】
<比較例10>
実施例1の負極作製工程において、シリコン-カーボン複合活物質8.0g、黒鉛系活物質である人造黒鉛活物質46.0g、天然黒鉛活物質46.0g、共重合体Nの9.5質量%水溶液21.75g、カーボンナノチューブの0.4質量%分散液(分散剤として0.6質量%のCMCを含有)5.17g、イオン交換水51.31gを混合した後、変性スチレンブタジエン共重合体からなる粒子状分散体の40質量%水分散液3.10gを加えることで、負極スラリーを作製した。負極スラリーの配合を変更し、乾燥後の負極合剤層の塗布量(面密度)を片面あたり14.2mg/cm2に変更した以外は、実施例1と同様の手順で二次電池を作製した。
【0092】
<比較例11>
実施例8の負極作製工程において、共重合体Aに替えて、共重合体Hを使用した以外は、実施例8と同様の手順で二次電池を作製した。
【0093】
<比較例12>
実施例8の負極作製工程において、共重合体Aに替えて、共重合体Iを使用した以外は、実施例8と同様の手順で二次電池を作製した。
【0094】
<比較例13>
実施例8の負極作製工程において、共重合体Aに替えて、共重合体Jを使用した以外は、実施例8と同様の手順で二次電池を作製した。
【0095】
<比較例14>
実施例8の負極作製工程において、共重合体Aに替えて、共重合体Lを使用し、イオン交換水の配合量を52.41gに変更した以外は、実施例8と同様の手順で二次電池を作製した。
【0096】
<比較例15>
実施例8の負極作製工程において、共重合体Aに替えて、共重合体Mを使用し、イオン交換水の配合量を52.41gに変更した以外は、実施例8と同様の手順で二次電池を作製した。
【0097】
<比較例16>
実施例8の負極作製工程において、共重合体Aに替えて、共重合体Nを使用し、イオン交換水の配合量を33.04gに変更した以外は、実施例8と同様の手順で二次電池を作製した。
【0098】
<比較例17>
実施例1の負極作製工程において、シリコン-カーボン複合活物質8.0g、黒鉛系活物質である人造黒鉛活物質46.0g、天然黒鉛活物質46.0g、CMCの1.2質量%水溶液85.38g、カーボンナノチューブの0.4質量%分散液(分散剤として0.6質量%のCMCを含有)5.12g、イオン交換水24.02gを混合した後、変性スチレンブタジエン共重合体からなる粒子状分散体の40質量%水分散液3.59gを加えることで、負極スラリーを作製した。負極スラリーの配合を変更した以外は、実施例1と同様の手順で二次電池を作製した。
【0099】
<負極スラリー、負極、二次電池の評価>
(負極スラリーの粘度変化)
実施例1~15および比較例1~17において、作成直後の負極スラリー粘度と、室温下40rpmの撹拌下で24時間保管後の負極スラリー粘度とを比較することで、スラリーの粘度安定性を評価した。なお、スラリー粘度(単位:mPa・s)は、25℃、30rpm撹拌下、B型粘度計にて測定した。評価基準を以下に示す。表中に記載の粘度は作成直後の粘度である。
〇:作成直後に対する、24時間保管後のスラリー粘度が50%以上150%以下の範囲内
△:作成直後に対する、24時間保管後のスラリー粘度が50%超増加
×:作成直後に対する、24時間保管後のスラリー粘度が50%未満に低下
【0100】
(塗工適性)
実施例1~15および比較例1~17において、負極スラリーを銅箔上に塗工乾燥する工程において、塗工乾燥中に負極合剤層に亀裂(クラック)発生有無を見ることで、塗工適性を評価した。評価基準を以下に示す。
○:クラック発生無し
△:クラックが部分的に発生
×:クラックが全面に発生
【0101】
(極板柔軟性)
実施例1~15および比較例1~17で作製したプレス後の負極を幅30mm、長さ500mmの短冊状に切り出した。ついで、露点マイナス40℃以下の環境下のドライルーム内で、この負極を直径2.5mmの丸棒に巻き付けた際の負極合剤層への亀裂(クラック)発生有無を見ることで、極板柔軟性を評価した。評価基準を以下に示す。
○:クラック発生無し
△:クラックが部分的に発生
×:クラックが全面に発生
【0102】
(密着性)
実施例1~15および比較例5~17で作製したプレス後の負極を幅25mm、長さ100mmの短冊状に切り出した。ついで、両面テープを用いてステンレス板に活物質面を被着面として張り合わせ、密着性評価用サンプルとした。剥離試験機((株)島津製作所社製SHIMAZU EZ-S)にサンプルを装着し、180度ピール強度を測定した。
【0103】
(高温サイクル特性)
実施例1~15および比較例5~17で作製した二次電池セルを、25℃の恒温槽内で設計容量の0.1CAで4.3Vまで定電流充電を行い、引き続き4.3Vで0.05CAになるまで定電圧充電を行った。その後0.1CAで2.5Vまで定電流放電を行った。さらに、25℃の恒温槽内で、充電終止電圧4.3V、放電終止電圧2.5Vの条件で0.2CAで定電流充電、0.05CAで定電圧充電、0.2CAで定電流放電を2サイクル行った。
そして、この二次電池を、45℃の温度下、充電終止電圧4.3V、放電終止電圧2.5Vの条件で1.0CAで定電流充電、0.05CAで定電圧充電、1.0CAで定電流放電する寿命試験を200サイクル実施した。そのときの1サイクル目の放電容量C1と200サイクル目の放電容量C2から、(C1/C2)×100(%)で示す容量維持率を求めた。
【0104】
(高温サイクル後の合剤層剥離)
前述の高温サイクル特性評価において、200サイクル試験後の電池を解体し、負極を取出した。取り出した負極を目視観察し、以下の基準で評価した。
○:基材銅箔に対する負極合剤層の剥離無し
△:基材銅箔に対して負極合剤層が一部剥離した箇所が有る
×:基材銅箔に対して負極合剤層が全面剥離
【0105】
(評価結果)
実施例1~15、比較例1~17の評価結果を表2及び表3にまとめた。
【0106】
【0107】
【0108】
(実施例、比較例の結果についての考察)
【0109】
実施例1~15においては、表2に示すように、水溶性重合体とSBR分散体とを併用することによって、負極バインダーとして水溶性重合体のみを用いた比較例1~4においてみられたような塗工性の不良やクラック発生、極板柔軟性不足の問題を改善することができた。
また、実施例1~15と比較例5、6、11及び12との比較から、実施例1~15によれば、水溶性重合体と粒状分散体とを併用し、さらに水溶性重合体としてAA-NaSS-AN系共重合体を含有するものとすることによって、負極スラリーの塗工性、極板柔軟性、負極合材と負極集電体との密着性を従来のAA-AN系共重合体を用いている比較例5、6、11及び12と同程度に保ちながらも、これら比較例よりも高温でのサイクル容量維持率及び高温サイクル時の負極合剤層の剥離抑制効果を大幅に向上させることができることが分かった。
さらに、表2の結果から、AA-NaSS-AN系共重合体の分子量が30万以上200万以下の範囲を満たす実施例1~15においては、CMCを含有の有無を問わず、この範囲外の分子量を有する共重合体L、M、Nを用いた比較例8~10に比べて負極スラリーの粘度安定性を向上させることができるとともに、共重合体L、M、Nを用いた比較例8~10及び14~16に比べて高温サイクル後の負極合材剥離を抑制することができる結果となった。