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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118623
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】環状亜硫酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 327/10 20060101AFI20240826BHJP
【FI】
C07D327/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025008
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】手島 樂
(72)【発明者】
【氏名】今井 克俊
(72)【発明者】
【氏名】深澤 瑞基
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 崇
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 葉裕
(57)【要約】
【課題】蒸留工程に供する処理液中に含まれる、有機ハロゲン化合物等が有するハロゲン原子の濃度を抑制することにより、蒸留時の蒸留器中の残液の発熱開始温度を高くすることができ、蒸留温度を高く設定することができ、効率よい蒸留を可能とすることを目的とする。
【解決手段】特定のジオール化合物とハロゲン化チオニルとを液相で反応する反応工程、及びこの反応工程で得られる反応液に水性媒体を混合させて、有機相と水性相に二相分離させ、この有機相を分取する後処理工程を行い、この後処理工程で得られた処理液を蒸留精製する蒸留工程を行って環状亜硫酸エステルを製造する方法であって、処理液中のハロゲン原子濃度が0.15質量%以下とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物とハロゲン化チオニルとを液相で反応する反応工程、及びこの反応工程で得られる反応液に水性媒体を混合させて、有機相と水性相に二相分離させ、この有機相を分取する後処理工程を行い、この後処理工程で得られた処理液を蒸留精製する蒸留工程を行って、下記一般式(2)で表される環状亜硫酸エステルを製造する方法であって、
該処理液中のハロゲン原子濃度が0.15質量%以下である環状亜硫酸エステルの製造方法。
【化1】
(式中、R及びRはそれぞれ互いに独立し、炭素数1から4の炭化水素基又は水素である。)
【化2】
(式中、R及びRは前記に同じ。)
【請求項2】
前記ハロゲン化チオニルが塩化チオニルである請求項1に記載の環状亜硫酸エステルの製造方法。
【請求項3】
前記反応が、前記一般式(1)で表される化合物が存在する液相に、前記ハロゲン化チオニルを導入する、請求項1又は2に記載の環状亜硫酸エステルの製造方法。
【請求項4】
前記蒸留工程の蒸留温度が80℃以上200℃以下である請求項1又は2に記載の環状亜硫酸エステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状亜硫酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状亜硫酸エステルは、非水電解液の添加物として用いられている。非水電解液は、優れた電池特性を高い安定性で示すリチウム二次電池に供するため、一般的に、有機塩素化合物含有量を低減することを求められる。よって環状亜硫酸エステルにおいても、有機塩素化合物を含んでいると非水電解液の添加物として避けられる。
【0003】
特許文献1には、ジオール化合物とハロゲン化チオニルとを反応させ、環状亜硫酸エステルとすることが記載されている。また、特許文献2には、エチレングリコールと塩化チオニルとの反応において、塩基性水洗浄、全還流脱水、精密蒸留、吸着処理により、クロロエタノールを低減させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2011/016440号公報
【特許文献2】特開2003-160580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この特許文献1に記載の製造方法では、反応の副産物として発生する塩化水素の系外への除去については記載も示唆もなく、該塩化水素に起因する副生物である有機塩素化合物が多く生成されるものである。また、特許文献2に記載の製造方法においても、反応でクロロエタノールが多く生成される。これらの塩素化合物は、目的生成物との分離のために蒸留等を行う必要があるが、これらの塩素化合物の存在により、蒸留時における蒸留器中の残液の発熱開始温度が低くなり、蒸留温度を低く設定する必要が生じ、非効率な蒸留精製を行う必要が生じる。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものである。すなわち、蒸留工程に供する処理液中に含まれる、有機ハロゲン化合物等が有するハロゲン原子の濃度を抑制することにより、蒸留時の蒸留器中の残液の発熱開始温度を高くすることができ、蒸留温度を高く設定することができ、効率よい蒸留を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、環状亜硫酸エステルの製造おいて、蒸留工程に供する環状亜硫酸エステルを含む処理液中のハロゲン原子濃度を所定範囲内に低く抑えることにより、目的生成物である環状亜硫酸エステルの蒸留精製において、蒸留時の蒸留器中の残液の発熱開始温度を高くすることができ、蒸留温度を高く設定することができ、効率よい蒸留を可能とすることができることを見いだし、本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下を要旨とする。
[1]下記一般式(1)で表される化合物とハロゲン化チオニルとを液相で反応する反応工程、及びこの反応工程で得られる反応液に水性媒体を混合させて、有機相と水性相に二相分離させ、この有機相を分取する後処理工程を行い、この後処理工程で得られた処理液を蒸留精製する蒸留工程を行って、下記一般式(2)で表される環状亜硫酸エステルを製造する方法であって、
該処理液中のハロゲン原子濃度が0.15質量%以下である環状亜硫酸エステルの製造方法。
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、R及びRはそれぞれ互いに独立し、炭素数1から4の炭化水素基又は水素である。)
【0011】
【化2】
【0012】
(式中、R及びRは前記に同じ。)
【0013】
[2]前記ハロゲン化チオニルが塩化チオニルである[1]に記載の環状亜硫酸エステルの製造方法。
[3]前記反応が、前記一般式(1)で表される化合物が存在する液相に、前記ハロゲン化チオニルを導入する、[1]又は[2]に記載の環状亜硫酸エステルの製造方法。
[4]前記蒸留工程の蒸留温度が80℃以上200℃以下である[1]~[3]のいずれか一項に記載の環状亜硫酸エステルの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、環状亜硫酸エステルの製造において、蒸留工程に供する環状亜硫酸エステルを含む処理液中のハロゲン原子濃度を低く抑えることにより、目的生成物である環状亜硫酸エステルの蒸留精製において、蒸留時の蒸留器中の残液の発熱開始温度を高くすることができ、蒸留温度を高く設定することができ、効率よい蒸留を可能とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、特定のジオール化合物とハロゲン化チオニルとを反応させ、後処理を行い、蒸留精製して、特定の環状亜硫酸エステルを製造する方法に関する発明である。具体的には、特定のジオール化合物とハロゲン化チオニルとを液相で反応させる反応工程、及びこの反応工程で得られる反応液に水性媒体を混合させて、有機相と水性相に二相分離させ、この有機相を分取する後処理工程を行い、この後処理工程で得られた処理液を蒸留精製する蒸留工程を行って、特定の環状亜硫酸エステルを製造する方法に関する発明である。
【0016】
[ジオール化合物A]
本発明で用いられるジオール化合物(以下「ジオール化合物A」と称する場合がある。)は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【0017】
【化3】
【0018】
なお、式中、R及びRはそれぞれ互いに独立し、炭素数1から4の炭化水素基又は水素である。
該炭素数1から4の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、ビニル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基等が挙げられ、メチル基、エチル基、ビニル基、n-プロピル基及びn-ブチル基からなる群より選ばれた少なくとも一つの基が好ましく、エチル基及び/又はビニル基がより好ましく、ビニル基がさらに好ましい。又、R及びRの片方が水素であることが好ましい。R及びRを前記した好ましい基とすることにより、反応収率に優れ、且つ、有機ハロゲン化合物の副生、特にハロゲンが塩素の場合は、目的生成物と分離が困難な有機塩素化合物の副生を抑制することが可能となる。
【0019】
このジオール化合物Aの具体例としては、1,2-ジヒドロキシエタン、1,2-ジヒドロキシプロパン、1,2-ジヒドロキシブタン、2,3-ジヒドロキシブタン、1,2-ジヒドロキシ-3-ブテン、1,2-ジヒドロキシペンタン、2,3-ジヒドロキシペンタン、1,2-ジヒドロキシ-3-ペンテン、3,4-ジヒドロキシ-1-ペンテン等が挙げられる。
【0020】
[環状亜硫酸エステルA]
前記環状亜硫酸エステル(以下「環状亜硫酸エステルA」と称する場合がある。)は、前記のジオール化合物Aとハロゲン化チオニルとを反応させることにより得られ、下記一般式(2)で表される。
【0021】
【化4】
【0022】
なお、式中、R及びRは前記に同じである。
この環状亜硫酸エステルAの具体例としては、エチレンサルファイト、1-メチル-エチレンサルファイト、1-エチル-エチレンサルファイト、1,2-ジメチル-エチレンサルファイト、ビニルエチレンサルファイト、1-プロピル-エチレンサルファイト、1-エチル-2-メチル-エチレンサルファイト、プロペンエチレンサルファイト、1-メチル-4-ビニル-エチレンサルファイト等が挙げられる。
【0023】
[ハロゲン化チオニル]
ハロゲン化チオニルとしては、フッ化チオニル、塩化チオニル、臭化チオニルが挙げられるが、発生するハロゲン化水素の取り扱いの容易さから、塩化チオニルが好ましい。
【0024】
[反応工程]
本発明において、ジオール化合物Aとハロゲン化チオニルを反応させる反応工程を行うことにより、環状亜硫酸エステルAが製造される。この反応工程において、ジオール化合物Aとハロゲン化チオニルとは、連続的に反応が行われる。連続反応方法において、初期に反応釜中に配する液相として、ジオール化合物Aからなる相、ハロゲン化チオニルからなる相、ジオール化合物A及びハロゲン化チオニルと反応性を有さず、かつ、ジオール化合物A又はハロゲン化チオニルを溶解させる有機溶媒からなる相、ジオール化合物Aと前記有機溶媒の混合相、ハロゲン化チオニルと前記有機溶媒の混合相等があげられる。
【0025】
そして、ジオール化合物Aが存在する液相に、ハロゲン化チオニルを連続的に導入して反応を行う方法、ハロゲン化チオニルが存在する液相に、ジオール化合物Aを連続的に導入して反応を行う方法、ジオール化合物A及びハロゲン化チオニルが存在しない液相に、ジオール化合物A及びハロゲン化チオニルをそれぞれ別個に、同時に導入する方法等により連続反応を行うことができる。
【0026】
この有機溶媒を、初期に反応釜中に配される液相を構成する少なくとも1種の成分としてこの反応工程に用いると、この反応工程において生じる後記の副生物等のハロゲンを有する化合物の量を低減することが可能となり、好ましい。
このとき、初期に反応釜中に配される液相中の有機溶媒の量は、使用する反応物全量に対し、30体積%以上を用いることがよく、50体積%以上を用いることが好ましい。30体積%以上とすることにより、後記する蒸留工程に供与される処理液中のハロゲン原子濃度を低く押させることができる。一方、80体積%以下を用いることがよく、70体積%以下を用いることが好ましい。80体積%を越える量とすると、有機溶媒の量が多すぎるため、製造効率が低下するおそれがある。
【0027】
前記のジオール化合物Aが存在する液相、ハロゲン化チオニルが存在する液相、ジオール化合物A及びハロゲン化チオニルが存在しない液相の温度は、いずれも、0℃以下が好ましく、-10℃以下がより好ましく、-20℃以下がさらに好ましい。該反応温度の下限は特に制限はないが、-50℃が好ましい。前記範囲とすることにより、反応収率に優れ、且つ、ハロゲン原子を有する化合物である有機ハロゲン化合物の副生を抑制することが可能となる。
【0028】
また、前記ハロゲン化チオニル、前記ジオール化合物Aは、いずれかを反応系に導入する場合や、これらを同時に反応系に導入する場合において、ハロゲン化チオニルが導入された時点で、ジオール化合物Aは反応系に存在し、ジオール化合物Aが導入された時点で、ハロゲン化チオニルは反応系に存在する。よって、導入されるハロゲン化チオニルやジオール化合物Aを反応系への導入する際の反応温度は、前記した液相の温度範囲と同様の範囲とすることが好ましい。
【0029】
前記連続反応において、後記の副反応を抑え、反応工程を効率よく行う観点から、不活性ガスを反応釜内に流通させることがよい。特に不活性ガスを反応釜内の前記液相中に流通させると、副反応の抑制効果がより高まる。
この不活性ガスとしては、窒素や、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガス等があげられる。
この不活性ガスの反応釜内における流通速度は、前記反応で発生するハロゲン化水素ガスの最大理論発生速度の0.4倍以上が好ましく、1倍以上がより好ましい。0.4倍より低いと、後記する副反応が生じやすくなり、前記環状亜硫酸エステルAと分離が困難な有機ハロゲン化合物等の副生物の生成量が増加する問題点が生じる傾向がある。また、不活性ガスの反応釜内における流通速度は、前記反応で発生するハロゲン化水素ガスの最大理論発生速度の10倍以下が好ましく、5倍以下がより好ましい。10倍より高いと、反応剤が揮発し、反応収率が低下するという問題点が生じる傾向がある。
【0030】
この反応工程は、目的生成物と分離が困難な有機ハロゲン化合物の副生を抑制する観点から、常圧又は減圧下で行うことが好ましい。
【0031】
[副反応]
前記のジオール化合物Aとハロゲン化チオニルとの反応工程において、副反応として、環状亜硫酸エステルAとの分離が困難である有機ハロゲン化合物等の副生物が生じる反応が生じ得る。この有機ハロゲン化合物の例としては、4-アセトキシ-3-クロロ-1-ブテン、1-クロロ-2-ヒドロキシ-3-ブテン、2-クロロ-1-ヒドロキシ-3-ブテン、1-アセトキシ-2-クロロ-3-ブテン、2-アセトキシ-1-クロロ-3-ブテン、1,2-ジクロロ-3-ブテン、1,4-ジクロロ-2-ブテン、3-クロロ-4-((2-クロロブタ-3-エン-1-イル)オキシ)ブタ-1-エン(3-chloro-4-((2-chlorobut-3-en-1-yl)oxy)but-1-ene)、1-((2-クロロブタ-3-エン-1-イル)オキシ)ブタ-3-エン-2-オール(1-((2-chlorobut-3-en-1-yl)oxy)but-3-en-2-ol)、(E/Z)-4-((2-クロロブタ-3-エン-1-イル)オキシ)ブタ-2-エン-1-オール((E/Z)-4-((2-chlorobut-3-en-1-yl)oxy)but-2-en-1-ol)、(E/Z)-1-((4-クロロブタ-2-エン-1-イル)オキシ)ブタ-3-エン-2-オール((E/Z)-1-((4-chlorobut-2-en-1-yl)oxy)but-3-en-2-ol)、4-クロロ-3-((1-クロロブタ-3-エン-2-イル)オキシ)ブタ-1-エン(4-chloro-3-((1-chlorobut-3-en-2-yl)oxy)but-1-ene)、4-クロロ-3-((2-クロロブタ-3-エン-1-イル)オキシ)ブタ-1-エン(4-chloro-3-((2-chlorobut-3-en-1-yl)oxy)but-1-ene)、O,O-ビス(2-クロロブタ-3-エン-1-イル)カルボノチオエート(O,O-bis(2-chlorobut-3-en-1-yl) carbonothioate)、O-(2-クロロブタ-3-エン-1-イル)-O-(1-クロロブタ-3-エン-2-イル)カルボノチオエート(O-(2-chlorobut-3-en-1-yl)-O-(1-chlorobut-3-en-2-yl) carbonothioate)、O,O-ビス(1-クロロブタ-3-エン-2-イル)カルボノチオエート(O,O-bis(1-chlorobut-3-en-2-yl) carbonothioate)等があげられる。
【0032】
[量比]
ジオール化合物Aとハロゲン化チオニルとの反応における量比(モル比)は、ジオール化合物A:ハロゲン化チオニルで、1:0.8以上2以下のモル比とすることがよく、モル比の下限は1:0.85が好ましく、1:0.9がより好ましい。モル比の上限は1:1.5が好ましく、1:1.2がより好ましい。前記範囲とすることにより、反応収率に優れ、且つ、有機ハロゲン化合物の副生、特にハロゲンが塩素の場合は、目的生成物と分離が困難である有機塩素化合物の副生を抑制することが可能となる。
【0033】
[ハロゲン吸収化合物]
前記の反応工程においてはさらに、反応で発生するハロゲン化水素を吸収する化合物(以下「ハロゲン吸収化合物」と称する場合がある。)を導入してもよい。導入量としては、特に制限はないが、目的生成物の精製の観点から、ジオール化合物A量に対して、0.01モル%以下が好ましい。吸収化合物の種類としては、ジメチルフォルムアミド(以下「DMF」と称する場合がある。)等のN,N-二置換アミド、トリエチルアミン等の3級アミン、ピリジン等の含窒素複素環化合物等が挙げられ、DMF、ピリジンが好ましい。
【0034】
[後処理工程]
前記の反応工程で得られる反応液に水性媒体を混合し、撹拌や振とうを行って前記の反応液と水性媒体の接触を増やし、次いで、静置して前記反応液を主とする有機相と、前記水性媒体を主とする水性相に二相分離させ、このうち有機相を分取する後処理工程を行う。
前記の反応工程で得られる反応液には、前記反応で生じたハロゲン化水素、前記ハロゲン吸収化合物等と反応して生成したハロゲン化塩等を含有する。このハロゲン化水素やハロゲン化塩を反応液から除去する目的で、この後処理工程を行う。
前記水性媒体としては、前記のジオール化合物A、ハロゲン化チオニル、有機溶媒と相溶性のない媒体が用いられる。この例としては、水やメタノール、エタノール等が挙げられる。
また、前記反応液には、ハロゲン化水素を含有するので、これを中和する目的で、前記水性媒体に塩基性成分を混合させてもよい。この塩基性成分としては、塩基性を示せば特に限定されるものではなく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の水酸化塩、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸塩等の一般的な塩基性化合物を用いることができる。
使用する塩基性化合物の量は、特に制限はないが、ハロゲン化水素を確実に塩とするため、ハロゲン化チオニルA量に対して、100モル%以上が好ましい。
また、水性媒体の量は、前記ハロゲン化水素やハロゲン化塩を水性相に移行させるのに十分な量があれば特に限定されない。
【0035】
[蒸留工程]
前記の後処理工程で得られる処理液、すなわち、有機相は、蒸留精製を行う蒸留工程を行うことにより、高純度の環状亜硫酸エステルAを得ることができる。
この蒸留工程を行う処理液に含まれるハロゲン原子濃度は、0.15質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることが好ましい。0.15質量%以下とすることにより、蒸留工程において、蒸留中途における蒸留器中の残液の発熱開始温度を高くすることができ、蒸留温度を高く設定することが可能となる。そして、これにより、効率よい蒸留が可能となる。
前記蒸留工程を行う処理液に含まれるハロゲン原子濃度を前記の範囲内とする方法としては、前記の通り、反応工程において、初期に反応釜中の液相に前記有機溶媒を配し、かつ、この有機溶媒の量を前記の範囲内とすることが挙げられる。
【0036】
前記蒸留中途における蒸留器中の残液の発熱開始温度は、200℃以上がよく、220℃以上が好ましい。200℃より低いと、蒸留に用いる熱源の温度を低くしなければ安全に蒸留することが困難となり、蒸留工程に時間がかかり、効率が悪化するおそれがある。
【0037】
この蒸留工程における蒸留温度は、80℃以上がよく、100℃以上が好ましい。蒸留温度をこの範囲内とすることにより、蒸留効率を上げることができる。この範囲より低いと、蒸留工程に時間がかかり、効率が悪化するおそれがある。一方、蒸留工程における蒸留温度の上限は、200℃以下がよく、150℃以下が好ましい。この範囲より高いと、残液の発熱開始温度に達し、残液の分解反応が進行し、安全上の問題が生じるおそれがある。なお、この蒸留温度は、蒸留器中の残液の温度を意味するが、蒸留器中の残液の温度の測定が難しい場合、蒸留器の加熱媒体の温度を蒸留温度としてもよい。
なお、この蒸留温度の範囲を満たす方法としては、蒸留工程を行う処理液に含まれるハロゲン原子濃度を前記した範囲内にする方法が挙げられる。
【実施例0038】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
[測定方法]
(塩素原子濃度の測定)
原子吸光法により測定した。試料と助燃剤を磁製ボートに採取して、石英製管状炉で加熱し、燃焼ガス中のC1分をH202水溶液で吸収した。吸収液中のCI-をイオンクロマトグラフで測定した。
(装置)石英製管状炉:日東精工アナリテック社製:AQF-100型、
イオンクロマトグラフ:Thermo Fisher scientific社製 ICS-1100型。
【0039】
(発熱開始温度の測定)
メトラー・トレド社製示唆走査熱量計DSC1を用いて測定した。セルは、SUS316L製密封セル(スイス製)F-40,測定温度範囲25~450℃、昇温速度10℃/min、測定雰囲気はN2で行った。
【0040】
(比較例1)
撹拌機を具備した200mlのガラス製容器に1,2-ジヒドロキシ-3-ブテン49.7g(0.564mol)を導入し、-20℃に冷却し、反応液とした。塩化チオニル73.8g(0.626mol)を少量ずつ、50分かけて連続的に該反応液に導入し、反応を行った。塩化チオニル導入終了後、-20℃で150分間撹拌して反応を続行した。その後、反応液を室温とし、反応液に窒素を連続的に導入しながら30分撹拌した。次いで、反応液を氷冷し、反応液に7.82質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液を86.45g加えて30分撹拌した後、窒素ガスの流通を停止し、撹拌を停止し、反応を終了した。尚、以上の反応は全て常圧下で実施した。
反応液は水性相と有機相の2相に分離した。同様の反応操作を繰り返し、得られた有機相を合計すると140.2gであった。該有機相をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ビニルエチレンサルファイトの反応収率は88.3%(0.996mol)であった。又、該有機相を原子吸光法による塩素原子濃度は1.90質量%であった。
該有機相を蒸留液として200mlのガラス製容器に導入し、オイルバス温100℃、蒸留温度100℃、10mmHgの条件で蒸留を行った。蒸留の中途で該有機相の留出率が76%、84%、93%となったときのガラス製容器残液をそれぞれサンプルとして少量ずつ取り出した。各サンプルについて示差走査熱量計で発熱開始温度を測定したところ、136℃(76%留出)、132℃(84%留出)、123℃(93%留出)であった。
【0041】
(実施例1)
撹拌機を具備した500mlのガラス製容器に1,2-ジヒドロキシ-3-ブテン60.0g(0.682mol)、トルエン60.1gを導入し、-20℃に冷却し、反応液とした。該反応液気相部に窒素ガスを0.3L/minの流通速度で流通させながら、塩化チオニル88.4g(0.743mol)を少量ずつ、50分かけて連続的に該反応液に導入し、反応を行った。塩化チオニル導入終了後、-20℃で80分間撹拌して反応を続行した。その後、室温で反応液に窒素を連続的に導入しながら30分撹拌した後、反応液を氷冷し、反応液に8.25質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液を61.13g加えて30分撹拌し、さらに炭酸水素ナトリウムを9.69g加えて30分撹拌した後、窒素ガスの流通を停止し、撹拌を停止し、反応を終了した。尚、以上の反応は全て常圧下で実施した。
反応液は水性相と有機相の2相に分離した。同様の反応操作を繰り返し、得られた有機相を合計すると285.4gであった。該有機相をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ビニルエチレンサルファイトの反応収率は98.1%(1.34mol)であった。該有機相をオイルバス温70℃、70mmHgの条件でトルエンを除去し、残存した液量は170.4gであった。残存した液の原子吸光法による塩素原子濃度は0.13質量%であった。
残存した液を蒸留液とし、200mlのガラス製容器に導入し、オイルバス温100℃、蒸留温度100℃、10mmHgの条件で蒸留を行った。蒸留の中途で該有機相の留出率が88%となったときのガラス製容器残液をサンプルとして少量ずつ取り出した。該サンプルを示差走査熱量計で発熱開始温度を測定したところ、215℃であった。
【0042】
(実施例2)
撹拌機を具備した500mlのガラス製容器に1,2-ジヒドロキシ-3-ブテン60.0(0.682mol)、トルエン149.1gを導入し、-20℃に冷却し、反応液とした。該反応液気相部に窒素ガスを0.3L/minの流通速度で流通させながら、塩化チオニル89.1g(0.749mol)を少量ずつ、50分かけて連続的に該反応液に導入し、反応を行った。塩化チオニル導入終了後、-20℃で80分間撹拌して反応を続行した。その後、室温で反応液に窒素を連続的に導入しながら30分撹拌した後、反応液を氷冷し、反応液に24.15質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液を65.9g加えて30分撹拌した後、窒素ガスの流通を停止し、撹拌を停止し、反応を終了した。尚、以上の反応は全て常圧下で実施した。
反応液は水性相と有機相の2相に分離した。同様の反応操作を繰り返し、得られた有機相を合計すると231.7gであった。該有機相をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、ビニルエチレンサルファイトの反応収率は99.8%(0.681mol)であった。該有機相を60℃、40mmHgの条件でトルエンを除去し、残存した液量は101.4gであった。残存した液の原子吸光法による塩素原子濃度は0.07質量%であった。
残存した液を蒸留液とし、200mlのガラス製容器に導入し、オイルバス温90℃、蒸留温度90℃、5mmHgの条件で蒸留を行った。蒸留の中途で該有機相の留出率が91%となったときのガラス製容器残液をサンプルとして少量ずつ取り出した。該サンプルを示差走査熱量計で発熱開始温度を測定したところ、239℃であった。
【0043】
以上より、本発明の製造方法では、蒸留液中の塩素原子濃度は低く、蒸留中途における蒸留器中の残液の発熱開始温度は高くなることより、蒸留温度を高く設定することができ、効率よい蒸留が可能となることが明らかである。一方、比較例の方法では、蒸留液中の塩素原子濃度は高く、蒸留中途における蒸留器中の残液の発熱開始温度は低く、蒸留温度を低く設定せざるを得ず、非効率な蒸留精製とならざるを得ない。