IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アルバックの特許一覧

<>
  • 特開-真空蒸着装置用の蒸着源 図1
  • 特開-真空蒸着装置用の蒸着源 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118690
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】真空蒸着装置用の蒸着源
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20240826BHJP
【FI】
C23C14/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025115
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】中村 寿充
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029BA62
4K029CA01
4K029DB12
4K029DB18
(57)【要約】
【課題】応答性よく蒸着レートを調節でき、スプラッシュの影響を受けることなく常時安定した蒸着が可能な真空蒸着装置用の蒸着源を提供する。
【解決手段】収容室12とその周囲の補助室13とを有する収容箱1と、拡散空間2を画成して収容箱の上方を覆う蓋体3と、加熱手段Htとを備える。蓋体に蒸着材料Msの放出通路31が形成される。収容箱の上壁部に収容室を臨む弁孔15aが開設された弁座部材15を有し、弁孔を拡散空間側から閉鎖可能な弁体4と、弁体を弁孔に接近する閉じ方向に付勢する付勢手段6と、蓋体に形成される放出通路に対面可能で弁孔より大きい面積を持つ遮蔽板7とを更に備える。収容箱の上壁部にはまた連通孔16が開設され、連通孔に駆動ロッド7が挿通し、補助室内に位置する駆動ロッドの部分に拡散空間と補助室とを雰囲気分離するベローズ管8が外挿される。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内で蒸着材料を蒸発させて被蒸着物に対して蒸着するための真空蒸着装置用の蒸着源において、
互いに隔絶された蒸着材料が収容される中央の収容室とこの収容室の周囲の補助室とを有する収容箱と、拡散空間を画成して収容箱の上方を覆う蓋体と、収容箱の周囲に設けられて蒸着材料を加熱する加熱手段とを備え、
蓋体に、加熱により気化または昇華した蒸着材料の拡散空間を経た真空チャンバ内への放出を可能とする放出通路が形成され、
収容箱の上壁部に収容室を臨む弁孔が開設された弁座部材を有し、弁孔を拡散空間側から閉鎖可能な弁体と、この弁体を弁孔に接近する閉じ方向に付勢する付勢手段と、蓋体に形成される放出通路に対面可能で弁孔より大きい面積を持つ遮蔽板とを更に備え、
収容箱の上壁部に拡散空間と補助室とを連通する連通孔が開設されると共に、連通孔に駆動ロッドが挿通し、補助室内に位置する駆動ロッドの部分に拡散空間と補助室とを雰囲気分離するベローズ管が外挿され、付勢手段の付勢力に抗した遮蔽板への駆動ロッドの押し操作で弁体を弁孔から離間する開き方向に移動するように構成したことを特徴とする真空蒸着装置用の蒸着源。
【請求項2】
前記弁孔の内面が収容室内方に向けて先細りのテーパ面で構成され、前記弁体が、当該弁孔に挿入されて着座可能なニードル部を有することを特徴とする請求項1記載の真空蒸着装置用の蒸着源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバ内で蒸着材料を蒸発させて被蒸着物に対して蒸着するための真空蒸着装置用の蒸着源に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、有機EL素子の製造工程においては、真空雰囲気中で基板などの被蒸着物に対して、α-NPDや2-TNATAといった固体の蒸着材料(有機材料)を気化または昇華(以下、単に「気化」と称する)させて被蒸着物表面に所定の薄膜を蒸着する工程があり、蒸着工程には、一般に、真空蒸着装置が利用される。このような真空蒸着装置用の蒸着源は例えば特許文献1で知られている。このものは、蒸着材料が充填される容器とこの容器内の蒸着材料を加熱する加熱手段とを備える。容器には、容器内を臨む流入口を有して加熱により気化した蒸着材料の真空チャンバ内への放出を可能とする放出通路が設けられると共に、その内部を蒸着材料側の第1空間と流入口側の第2空間とに仕切るコンダクタンス調整板が回動自在に組み込まれている。コンダクタンス調整板には、板厚方向に貫通する多数の分散孔とコンダクタンス調整板の回動位置に応じて放出通路の流入口を選択的に遮る弁部材とが設けられている。
【0003】
上記従来例のものでは、弁部材で放出通路の流入口を遮る遮蔽位置にコンダクタンス調整板を回動させれば、例えば、気化量が安定しない蒸着材料の加熱開始当初にこの気化した蒸着材料の真空チャンバへの放出を防止できる。そして、気化量が安定した後には、コンダクタンス調整板を回動させてその傾きを調整すれば、放出通路から放出される蒸着材料の量を変化させることができるため、応答性よく蒸着レートを調節できる。また、コンダクタンス調整板の仕切姿勢にて各分散孔が放出通路の孔軸上からオフセットさせて設けられているため、加熱当初にスプラッシュ(突沸)が発生したとしても、液体状又は固体状の蒸着材料が飛散して被蒸着物に直接付着することが防止される。然し、コンダクタンス調整板の回動位置によっては、第1空間側から視て第1空間内の蒸着材料の上層部分がコンダクタンス調整板のいずれかの分散孔を通して直視できる位置に放出通路が存することがある。このため、蒸着中に何等かの原因でスプラッシュが発生した場合、液体状又は固体状の蒸着材料の被蒸着物への付着を防止できない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-165867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、応答性よく蒸着レートを調節できるという機能を損なうことなく、スプラッシュの影響を受けることなく常時安定した蒸着が可能な構造を持つ真空蒸着装置用の蒸着源を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、真空チャンバ内で蒸着材料を蒸発させて被蒸着物に対して蒸着するための本発明の真空蒸着装置用の蒸着源は、互いに隔絶された蒸着材料が収容される中央の収容室とこの収容室の周囲の補助室とを有する収容箱と、拡散空間を画成して収容箱の上方を覆う蓋体と、収容箱の周囲に設けられて蒸着材料を加熱する加熱手段とを備え、蓋体に、加熱により気化または昇華した蒸着材料の拡散空間を経た真空チャンバ内への放出を可能とする放出通路が形成され、収容箱の上壁部に収容室を臨む弁孔が開設された弁座部材を有し、弁孔を拡散空間側から閉鎖可能な弁体と、この弁体を弁孔に接近する閉じ方向に付勢する付勢手段と、蓋体に形成される放出通路に対面可能で弁孔より大きい面積を持つ遮蔽板とを更に備え、収容箱の上壁部に拡散空間と補助室とを連通する連通孔が開設されると共に、連通孔に駆動ロッドが挿通し、補助室内に位置する駆動ロッドの部分に拡散空間と補助室とを雰囲気分離するベローズ管が外挿され、付勢手段の付勢力に抗した遮蔽板への駆動ロッドの押し操作で弁体を弁孔から離間する開き方向に移動するように構成したことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、収容箱の収容室内に例えば粉末状の蒸着材料を所定の充填率で充填した後、弁体を弁孔に挿入して着座させて収容室内を密閉状態とする。この状態で真空雰囲気中の真空チャンバ内で収容箱を加熱手段により加熱すると、収容箱の壁面からの伝熱や輻射熱で蒸着材料が加熱されて気化を開始する。このとき、ベローズ管の内面や駆動ロッドも加熱される。収容室内での気化量が安定すると、付勢手段の付勢力に抗した遮蔽板への駆動ロッドの押し操作で弁体を開き方向に移動させる。これにより、蒸着材料が順次気化している収容室と真空チャンバに放出通路を介して連通している拡散空間との間に圧力差が生じて、気化した蒸着材料が遮蔽板の外周側を回って拡散空間へと導かれる。そして、当該拡散空間で拡散された後、放出通路を通って真空チャンバに放出されて被蒸着物表面に付着、堆積して蒸着される。蒸着中には、駆動ロッドにより弁体の開き方向への移動量を変えて弁体と弁孔との間の隙間の大きさを変化させれば、放出通路から放出される蒸着材料の量を変化させることができるため、応答性よく蒸着レートを調節できるという機能は損なわれない。このとき、弁体の開き方向への移動に伴って同方向に移動する遮蔽板によって蒸着材料の飛行経路が常時遮られるため、気化量が安定しない蒸着材料の加熱当初だけでなく、蒸着中にスプラッシュが発生したとしても、液体状又は固体状の蒸着材料が飛散して被蒸着物に直接付着することが防止される。結果として、スプラッシュの影響を受けることなく常時安定した蒸着が可能になる。
【0008】
また、弁孔から遮蔽板の外周側を経て拡散空間へと気化した蒸着材料を一旦導くことで、例えば、遮蔽板の上方に位置する蓋体の部分に放出通路が存する場合でも、当該放出通路にも気化した蒸着材料を確実に導くことができる。蒸着中には、蒸着材料がベローズ管内へと侵入するが、収容箱の外方から加熱することで、ベローズ管の内面や駆動ロッドも加熱されているため、ベローズ管の内面や駆動ロッドの外面に蒸着材料が堆積するといった不具合も生じない。しかも、蒸着を停止する場合、弁体を弁孔に挿入して着座させて収容室内を密閉状態に戻せば、蒸着材料が無駄に消費されることもない。
【0009】
本発明においては、前記弁孔の内面が収容室内方に向けて先細りのテーパ面で構成され、前記弁体が当該弁孔に挿入可能なニードル部を有する構成を採用することができる。これにより、蒸着レートを細やかに調整することができ、有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態の蒸着源を備える真空蒸着装置を模式的に示す断面図。
図2】本実施形態の蒸着源の拡大断面図であり、(a)は、弁体の閉じ位置であり、(b)は、弁体の開き位置である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、被蒸着物を所定厚さのガラス基板(以下、「基板Sg」という)、蒸着材料を固体の有機材料Msとし、基板Sgの一方の面に所定の有機膜を蒸着する場合を例に本発明の真空蒸着装置用の蒸着源の実施形態を説明する。以下において、上、下といった方向を示す用語は、真空蒸着装置の設置姿勢で示す図1を基準にする。
【0012】
図1を参照して、本実施形態の蒸着源DSを備える真空蒸着装置Dmは、真空チャンバVcを備え、真空チャンバVcには、特に図示して説明しないが、排気管を介して真空ポンプが接続され、所定圧力(真空度)に真空排気して真空雰囲気を形成することができる。また、真空チャンバVcの上部には基板搬送装置Tsが設けられている。基板搬送装置Tsは、成膜面としての下面を開放した状態で基板Sgを保持するキャリアCaを有し、図外の駆動装置によってキャリアCa、ひいては基板Sgを真空チャンバVc内の一方向に所定速度で搬送することができる。基板搬送装置Tsとしては公知のものが利用できるため、これ以上の説明は省略する。
【0013】
基板搬送装置Tsによって搬送される基板Sgと蒸着源DSとの間には、板状のマスクプレートMpが設けられている。本実施形態では、マスクプレートMpは、基板Sgと一体に取り付けられて基板Sgと共に基板搬送装置Tsによって搬送される。なお、マスクプレートMpは、真空チャンバVcに予め固定配置しておくこともできる。マスクプレートMpには、板厚方向に貫通する複数の開口Mp1が形成され、これら開口Mp1がない位置にて、蒸発した有機材料Msの基板Sgに対する蒸着範囲が制限されることで所定のパターンで基板Sgに成膜(蒸着)されるようになっている。マスクプレートMpとしては、インバー、アルミ、アルミナやステンレス等の金属製の他、ポリイミド等の樹脂製のものが用いられる。そして、真空チャンバVcの底面には、基板Sgに対向させて本実施形態の蒸着源DSが設けられている。
【0014】
図2(a)及び(b)も参照して、蒸着源DSは、真空チャンバVcの底面に設置される例えば円筒状の輪郭を持つ収容箱1と、拡散空間2を画成して収容箱1の上方を覆う蓋体3と、収容箱1の周囲に設けられて有機材料Msを加熱する加熱手段Htとを備える。加熱手段Htとしては、シースヒータやランプヒータ等の公知のものが利用でき、また、誘導加熱式で収容箱1の外周側から加熱する誘導加熱コイルで構成することができる。収容箱1は、ステンレス鋼(SUS304等)、チタン、タンタル、タングステン、モリブデンやカーボンといった熱伝導が良く、高融点の材料(耐熱性を有する)から形成されている。収容箱1内は、筒状の仕切壁11によって互いに隔絶された有機材料Msが収容される中央の収容室12と収容室12周囲の補助室13とに区画されている。収容室12の上方に位置する収容箱1の上壁部14には開口14aが設けられ、開口14aには、その上面周縁部で支持させて収容室12内を臨む平面視円形の弁孔15aを開設した弁座部材15が設けられている。弁孔15aの内面は収容室12内方に向けて先細りのテーパ面で構成されている。また、補助室13の上方に位置する収容箱1の上壁部14には、補助室13と拡散空間2とを連通する連通孔16が周方向に所定間隔で複数開設されている(本実施形態では、180度間隔で2か所に連通孔16が設けられる)。
【0015】
蓋体3は、上壁部14より上方に突出する収容箱1の側壁部17の上端に着脱自在に取り付けられる。蓋体3もまた、上記同様、熱伝導が良く、高融点の材料から形成され、蓋体3の収容箱1への取付状態で、収容箱1の上壁部14及び側壁部17と蓋体3の内面とによって拡散空間2が画成される。蓋体3には、気化した有機材料Msの拡散空間2を経た真空チャンバVc内への放出を可能とする放出通路31が複数設けられている。本実施形態では、弁孔15aの孔軸Ha上に位置させて第1の放出通路31aが設けられ、孔軸Haを基準として第2~第4の各放出通路31b,31c,31dが径方向の同一線状に位置させて且つ所定間隔で列設されている。この場合、第1及び第2の放出通路31a,31bは同等の通路面積を有して上下方向にのびるように形成される。第3及び第4の各放出通路31c,31dは、その通路面積(内径)が第1及び第2の放出通路31a,31bより大きく設定されると共に、孔軸Haに対して外方に向けて傾斜させて形成されている。なお、各放出通路31の数やその形態は、基板Sgに成膜したときの膜厚分布などを考慮して適宜設定することができる。
【0016】
蓋体3内には、径方向にのびる中空の梁部材32が設けられている。孔軸Ha上に位置する梁部材32の部分には取付開口33が開設され、取付開口33を介して、弁孔15aを拡散空間2側から閉鎖可能な弁体4が設けられる。弁体4は、上端に取付開口33の周縁に係合可能なフランジ部41aを有する弁軸41と、弁軸41の下端にボルト等の締結手段(図示せず)によって取り付けられるニードル部42とで構成される。梁部材32とニードル部42との間には、弁体4を弁孔15aに接近する閉じ方向(図1中、下方向)に付勢する付勢手段としてのコイルバネ5が縮設され、常時は、ニードル部42が弁孔15aに挿入されて着座し、収容室12内を閉塞する(閉じ位置)。また、ニードル部42の上面には遮蔽板6が一体に設けられている。本実施形態では、遮蔽板6が各放出通路31a~31dに対面可能で弁孔15aより大きい面積を持つ円板状部材で形成され、後述の駆動ロッドの上端が当接可能となっている。
【0017】
補助室13内には、連通孔16の下方に夫々位置させて常時は真空チャンバVcの底面に当接するベース板71に立設した駆動ロッド7が格納されている。駆動ロッド7の上端部は、連通孔16を挿通して遮蔽板6の下面に当接可能となっている。また、ベース板71と上壁部14の間には、補助室13内に位置する駆動ロッド7の部分を囲うようにしてベローズ管8が外挿され、ベローズ管8によって補助室13と拡散空間2とを雰囲気分離されるようにしている。そして、真空チャンバVc外に設けられる、例えば図1中に仮想線で示すアクチュエータによってベース板71に対し上方への押圧力を付加すると、コイルバネ5の付勢力に抗した遮蔽板6への各駆動ロッド7の押し操作が行われ、弁体4のニードル部42が弁孔15aから離間する開き方向に移動する(開き位置)。
【0018】
以上の蒸着源DSを備えて真空蒸着装置Smにより基板SgにマスクプレートMp越しに有機膜を蒸着する場合、収容箱1から蓋体3を取り外した状態で収容室12内に例えば粉末状の有機材料Msを所定の充填率で充填した後、収容箱1に蓋体3を取り付ける。この状態では、弁体4のニードル部42が弁孔15aに挿入されて着座し、収容室12内が密閉状態となる。そして、収容箱1を含む真空チャンバVcを真空排気すると共に加熱手段Htによって有機材料Msを加熱する。すると、収容箱1壁面からの伝熱や輻射熱で有機材料Msが加熱されて気化を開始する。このとき、ベローズ管8の内面や駆動ロッド7も加熱され、また、気化した有機材料Msが真空雰囲気の真空チャンバVc内には放出されることはない。
【0019】
次に、有機材料Msの気化量が安定し、また、真空チャンバVcが所定圧力まで真空排気されたことが確認されると、コイルバネ5の付勢力に抗した遮蔽板6への各駆動ロッド7の同期した押し操作で弁体4を開き方向に移動させる。これに併せて、基板搬送装置Tsにより基板Sgが蒸着源DSに対向する所定位置に搬送される。これにより、有機材料Msが順次気化している収容室12と真空チャンバVcに放出通路31を介して連通している拡散空間2との間に圧力差が生じて、図2(b)に矢視して示すように、気化した有機材料Msが遮蔽板6の外周側を回って拡散空間2へと導かれる。そして、拡散空間2で拡散された後、各放出通路31a~31dを通って真空チャンバVcに放出されてマスクプレートMp越しに基板Sg表面に付着、堆積して蒸着される。
【0020】
蒸着中には、各駆動ロッド7により弁体4の開き方向への移動量を変えて弁体4のニードル部42と弁孔15aとの間の隙間の大きさを変化させれば、各放出通路31a~31dから放出される有機材料Msの量を変化させることができるため、応答性よく蒸着レートを調節できるという機能は損なわれない。このとき、弁体4の開き方向への移動に伴って同方向に移動する遮蔽板6によって有機材料Msの飛行経路が常時遮られるため、気化量が安定しない加熱当初だけでなく、蒸着中にスプラッシュが発生したとしても、液体状又は固体状の有機材料Msが飛散して基板Sgに直接付着することが防止される。結果として、スプラッシュの影響を受けることなく常時安定した蒸着が可能になる。
【0021】
以上説明したように、本実施形態では、応答性よく蒸着レートを調節できるという機能を損なうことなく、スプラッシュの影響を受けることなく常時安定した有機膜の蒸着が可能になる。また、弁孔15aから遮蔽板6の外周側を経て拡散空間2へと気化した有機材料Msを一旦導くことで、例えば、弁体4の上方に放出通路31a,31bが存する場合でも、これらの放出通路31a,31bにも気化した有機材料Msを確実に導くことができる。蒸着中には、気化した有機材料Msがベローズ管8内へと侵入するが、収容箱1の外方から加熱することで、ベローズ管8の内面や駆動ロッド7も加熱されているため、ベローズ管8の内面や駆動ロッド7の外面に有機材料Msが堆積するといった不具合も生じない。しかも、蒸着を停止する場合、弁体4のニードル部42を弁孔15aに挿入して着座させて収容室12内を密閉状態に戻せば、有機材料Msが無駄に消費されることもない。しかも、先細りのテーパ面を持つ弁孔15aに弁体4のニードル部42が挿入される構成したため、蒸着レートを細やかに調整することができ、有利である。
【0022】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、収容箱1が円筒状の輪郭、即ち、平面視円形のものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、長円形や矩形の輪郭を持つものでもよい。この場合、収容箱1の輪郭に応じて、遮蔽板6の輪郭も各放出通路31a~31dに対面可能な範囲で適宜設定することができる。また、収容箱1として、収容室12、補助室13、上壁部14や側壁部17が一体に形成されているものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、複数の部材を組付けて構成することもできる。
【0023】
また、上記実施形態では、上壁部14の開口14aに弁孔15aを開設した弁座部材15を設けたものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、上壁部14に直接弁孔を形成して弁座部材とすることでき、また、弁体4の形態も上記のものに限定されるものではない。更に、上記実施形態では、2か所に駆動ロッド7,7を設けるものを例に説明したが、付勢手段の付勢力に抗した遮蔽板6への駆動ロッド7の押し操作で弁体を開き方向に移動できる限り、その数は任意に設定することができる。
【符号の説明】
【0024】
DS…真空蒸着装置用の蒸着源、Dm…真空蒸着装置、Ms…有機材料(蒸着材料)、Vc…真空チャンバ、Ht…ヒータ(加熱手段)、Sg…基板(被蒸着物)、1…収容箱、12…収容室、13…補助室、2…拡散空間、15a…弁孔、15…弁座部材、3…蓋体、31(31a~31d)…放出通路、4…弁体、42…ニードル部、5…コイルバネ(付勢手段)、6…遮蔽板、7…駆動ロッド、8…ベローズ管。
図1
図2