(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118766
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】水硬性組成物、水硬性組成物の製造方法、及び、硬化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/08 20060101AFI20240826BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20240826BHJP
C04B 22/12 20060101ALI20240826BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20240826BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20240826BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20240826BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20240826BHJP
B28C 7/00 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B18/14 A
C04B22/12
C04B22/10
C04B22/14 B
C04B22/08 B
C04B22/08 Z
C04B22/06 Z
B28C7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025236
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182914
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 善紀
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴康
(72)【発明者】
【氏名】原田 奏也
(72)【発明者】
【氏名】大崎 雅史
【テーマコード(参考)】
4G056
4G112
【Fターム(参考)】
4G056AA07
4G056CB01
4G056CB19
4G056CB36
4G112MA00
4G112MB04
4G112MB06
4G112MB08
4G112MB23
4G112MB24
4G112PA10
4G112PA29
4G112PB03
4G112PB05
4G112PB06
4G112PB07
4G112PB08
4G112PB09
4G112PB10
4G112PB11
(57)【要約】
【課題】セメントクリンカの配合量が5質量%以下であり、炭酸塩を含有する水硬性組成物であって、硬化によって優れた圧縮強さを発揮し得る水硬性組成物を提供すること。
【解決手段】本開示の一側面は、アルカリ刺激材、高炉水砕スラグ、炭酸塩、及び石膏からなるセメントと、促進剤と、を含み、上記アルカリ刺激材、上記高炉水砕スラグ、及び上記炭酸塩の合計100質量%を基準として、上記アルカリ刺激材の含有量が0.1~5.0質量%であり、上記高炉水砕スラグの含有量が55.0~94.9質量%であり、上記炭酸塩の含有量が5.0~40.0質量%であり、上記セメントにおける上記石膏の含有量がSO3換算で2.5~10.0質量%であり、上記促進剤の含有量が、上記セメント100質量部に対して、0.2~4.0質量部である、水硬性組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ刺激材、高炉水砕スラグ、炭酸塩、及び石膏からなるセメントと、
促進剤と、を含み、
前記アルカリ刺激材、前記高炉水砕スラグ、及び前記炭酸塩の合計100質量%を基準として、前記アルカリ刺激材の含有量が0.1~5.0質量%であり、前記高炉水砕スラグの含有量が55.0~94.9質量%であり、前記炭酸塩の含有量が5.0~40.0質量%であり、
前記セメントにおける前記石膏の含有量がSO3換算で2.5~10.0質量%であり、
前記促進剤の含有量が、前記セメント100質量部に対して、0.2~4.0質量部である、水硬性組成物。
【請求項2】
前記炭酸塩は炭酸カルシウムを含む、請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
前記炭酸塩は、排ガス中に含まれる二酸化炭素を固定化した炭酸塩を含む、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
前記促進剤が、アルカリ金属塩、及びアルカリ土類金属塩からなる群より選択される少なくとも一種を含有する、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
前記促進剤が一価の陰イオンを有する塩を含有する、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項6】
前記促進剤がカルシウム塩を含有する、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項7】
前記促進剤が、亜硝酸塩、硝酸塩、及び塩化物からなる群より選択される少なくとも一種を含有する、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項8】
前記アルカリ刺激材が、ポルトランドセメントクリンカ、消石灰、及び生石灰からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項9】
前記石膏が、二水石膏、及び半水石膏からなる群より選択される少なくとも一種を含有する、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項10】
前記高炉水砕スラグの塩基度が1.60~1.95である、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項11】
前記高炉水砕スラグにおける酸化アルミニウムの含有量が10.0質量%以上である、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項12】
アルカリ刺激材、高炉水砕スラグ、炭酸塩、及び石膏を含む原料を、混合してセメントを調製する第一工程と、
前記セメントの100質量部に対して、0.2~4.0質量部の促進剤を混合する第二工程と、を含み、
前記第一工程は、
前記アルカリ刺激材、前記高炉水砕スラグ及び前記炭酸塩の合計100質量%を基準として、前記アルカリ刺激材の配合量が0.1~5.0質量%となり、前記高炉水砕スラグの配合量が95.0~99.9質量%となるように調整すること、及び、
前記セメント中の石膏の含有量を、SO3換算で、2.5~10.0質量%に調整すること、を含む、水硬性組成物の製造方法。
【請求項13】
前記炭酸塩は炭酸カルシウムを含む、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記炭酸塩は、排ガス中に含まれる二酸化炭素を固定化した炭酸塩を含む、請求項12又は13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記炭酸塩が、アルカリ金属の炭酸塩、及びアルカリ土類金属の炭酸塩からなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項12又は13に記載の製造方法。
【請求項16】
アルカリ刺激材、高炉水砕スラグ、炭酸塩、及び石膏を含む原料を混合してセメントを調製する第一工程と、
前記セメントの100質量部に対して、0.2~4.0質量部の促進剤を混合して水硬性組成物を得る第二工程と、
前記水硬性組成物100質量部に対して、50質量部の水を配合する第三工程と、を含み、
前記第一工程は、
前記アルカリ刺激材、前記高炉水砕スラグ及び前記炭酸塩の合計100質量%を基準として、前記アルカリ刺激材の配合量が0.1~5.0質量%となり、前記高炉水砕スラグの配合量が55.0~94.9質量%となり、炭酸塩の配合量が5.0~40.0質量%となるように調整すること、及び、
前記セメント中の石膏の含有量を、SO3換算で、2.5~10.0質量%に調整すること、を含む、硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水硬性組成物、水硬性組成物の製造方法、及び硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントの製造においては、燃料の燃焼におけるCO2発生量、原料の脱炭酸などによるCO2発生量が大きく、地球温暖化対策の要求の高まりに応じて、セメント製造における上述のようなCO2発生量の低減が求められている。原料であるセメントクリンカの調製の際のCO2発生量が大きいことから、CO2発生量低減の観点から、セメントクリンカの一部を混合材に置き換えたセメントが広く検討されている。
【0003】
混合材の増量によって、セメントの硬化によって得られる硬化体の圧縮強さは一般的に低下するとされており、混合材を配合しつつ、実用に供し得る圧縮強さ等の所望の性能を発揮させることも重要である。混合材の中でも、高炉スラグ等の鉄鋼スラグは、コンクリートの長期強度増進、及び塩分遮蔽効果の向上を期待できる。そのため、混合材として鉄鋼スラグを用い、その混合比率を高めたセメントの研究が進められている。
【0004】
セメントクリンカの一部を、高炉水砕スラグ(BFS)に置き換えた高炉セメントは、その置き換え割合に応じて分類されている。JIS R 5211:2019において、高炉スラグの分量が、30質量%を超え60質量%以下である高炉セメントB種、及び60質量%を超え70質量%以下である高炉セメントC種が規定されているが、高炉スラグの分量が70質量%を超えるセメントについては、規定がなく、現状、特に初期において十分な圧縮強さを発揮し得ないと考えられている。
【0005】
一方で、上述のCO2発生量低減の観点から、高炉スラグの分量を高炉セメントC種よりも更に高めたセメント組成物の研究も行われている(例えば、非特許文献1)。非特許文献1では、セメントクリンカの配合量が1質量%以下となるような配合において、セメント組成物が硬化することが確認されている。しかし、この配合量は厳密に制御される必要があることが知られている。例えば、セメントクリンカの配合量が1質量%を超え、3~5質量%程度となると、非特許文献1に記載の例ではセメント組成物の硬化反応が進まず、圧縮強さが極端に低下することが確認されている。具体的には、セメントクリンカの配合量が1質量%である場合の55N/mm2程度の強度から、セメントクリンカの配合量が1質量%から前後することによって10N/mm2未満の強度になるまで著しく圧縮強さが低下することが確認されている。
【0006】
一般に、工業レベルでのセメント組成物の調製における計量精度はせいぜい1~2質量%といわれており、上述のようにセメントクリンカの配合量を1質量%に制御することは現実的ではない。この点も、高炉スラグの分量が極めて大きいセメント組成物の製品化が進まない一因となっている。このような観点から、実用上、JISに規定されるように、セメントクリンカの分量を少なくとも30質量%以上となるように高炉セメントの組成を調整することが適正であり、これが当業界の常識となっている。
【0007】
また、高炉スラグの分量が30質量%を超え60質量%以下である高炉セメントB種に使用される混合材の一部を石灰石微粉末(炭酸カルシウムの微粉末)に置換することによって、セメント製造におけるCO2発生量の低減も検討されている(非特許文献2)。しかし、混合材として炭酸塩を用い、その量が増加することで、高炉セメントB種を硬化させて得られる硬化体の圧縮強さが次第に低下することが確認されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】東京工業大学他、“エネルギー消費とCO2排出量を6割以上削減できる低炭素型セメント「ECMセメント」”、
図6、[online]、2017年5月、NEDO実用化ドキュメント、[令和4年1月4日検索]、インターネット<URL:https://www.nedo.go.jp/hyoukabu/articles/201705ecm/index.html>
【非特許文献2】西田豊一他、「石灰石微粉末を利用した環境負荷の低い混合セメントの開発」、セメント・コンクリート論文集、2012、66巻、p.375-381
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
セメントクリンカの配合量が極めて低い領域(例えば、5質量%以下の領域)において、水硬性組成物を硬化させて得られる硬化体の圧縮強さが著しく低下することを抑制でき、工業レベルの計量精度の下でも安定した品質を発揮し得る水硬性組成物を製造できる技術があれば有用である。
【0010】
また炭酸塩を配合した場合であっても、強度発現性が大きく損なわれることがない水硬性組成物を製造できる技術があれば有用である。
【0011】
本開示は、セメントクリンカの配合量が5質量%以下であり、炭酸塩を含有する水硬性組成物であって、硬化によって優れた圧縮強さを発揮し得る水硬性組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。本開示はまた、上述の水硬性組成物を用いた硬化体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示は、以下の[1]~[16]を提供する。
【0013】
[1] アルカリ刺激材、高炉水砕スラグ、炭酸塩、及び石膏からなるセメントと、
促進剤と、を含み、
前記アルカリ刺激材、前記高炉水砕スラグ、及び前記炭酸塩の合計100質量%を基準として、前記アルカリ刺激材の含有量が0.1~5.0質量%であり、前記高炉水砕スラグの含有量が55.0~94.9質量%であり、前記炭酸塩の含有量が5.0~40.0質量%であり、
前記セメントにおける前記石膏の含有量がSO3換算で2.5~10.0質量%であり、
前記促進剤の含有量が、前記セメント100質量部に対して、0.2~4.0質量部である、水硬性組成物。
[2] 前記炭酸塩は炭酸カルシウムを含む、[1]に記載の水硬性組成物。
[3] 前記炭酸塩は、排ガス中に含まれる二酸化炭素を固定化した炭酸塩を含む、[1]又は[2]に記載の水硬性組成物。
[4] 前記促進剤が、アルカリ金属塩、及びアルカリ土類金属塩からなる群より選択される少なくとも一種を含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の水硬性組成物。
[5] 前記促進剤が一価の陰イオンを有する塩を含有する、[1]~[4]のいずれかに記載の水硬性組成物。
[6] 前記促進剤がカルシウム塩を含有する、[1]~[5]のいずれかに記載の水硬性組成物。
[7] 前記促進剤が、亜硝酸塩、硝酸塩、及び塩化物からなる群より選択される少なくとも一種を含有する、[1]~[6]のいずれかに記載の水硬性組成物。
[8] 前記アルカリ刺激材が、ポルトランドセメントクリンカ、消石灰、及び生石灰からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、[1]~[7]のいずれかに記載の水硬性組成物。
[9] 前記石膏が、二水石膏、及び半水石膏からなる群より選択される少なくとも一種を含有する、[1]~[8]のいずれかに記載の水硬性組成物。
[10] 前記高炉水砕スラグの塩基度が1.60~1.95である、[1]~[9]のいずれかに記載の水硬性組成物。
[11] 前記高炉水砕スラグにおける酸化アルミニウムの含有量が10.0質量%以上である、[1]~[10]のいずれかに記載の水硬性組成物。
[12] アルカリ刺激材、高炉水砕スラグ、炭酸塩、及び石膏を含む原料を、混合してセメントを調製する第一工程と、
前記セメントの100質量部に対して、0.2~4.0質量部の促進剤を混合する第二工程と、を含み、
前記第一工程は、
前記アルカリ刺激材、前記高炉水砕スラグ及び前記炭酸塩の合計100質量%を基準として、前記アルカリ刺激材の配合量が0.1~5.0質量%となり、前記高炉水砕スラグの配合量が95.0~99.9質量%となるように調整すること、及び、
前記セメント中の石膏の含有量を、SO3換算で、2.5~10.0質量%に調整すること、を含む、水硬性組成物の製造方法。
[13] 前記炭酸塩は炭酸カルシウムを含む、[12]に記載の製造方法。
[14] 前記炭酸塩は、排ガス中に含まれる二酸化炭素を固定化した炭酸塩を含む、[12]又は[13]に記載の製造方法。
[15] 前記炭酸塩が、アルカリ金属の炭酸塩、及びアルカリ土類金属の炭酸塩からなる群から選択される少なくとも一種を含む、[12]~[14]のいずれかに記載の製造方法。
[16] アルカリ刺激材、高炉水砕スラグ、炭酸塩、及び石膏を含む原料を混合してセメントを調製する第一工程と、
前記セメントの100質量部に対して、0.2~4.0質量部の促進剤を混合して水硬性組成物を得る第二工程と、
前記水硬性組成物100質量部に対して、50質量部の水を配合する第三工程と、を含み、
前記第一工程は、
前記アルカリ刺激材、前記高炉水砕スラグ及び前記炭酸塩の合計100質量%を基準として、前記アルカリ刺激材の配合量が0.1~5.0質量%となり、前記高炉水砕スラグの配合量が55.0~94.9質量%となり、炭酸塩の配合量が5.0~40.0質量%となるように調整すること、及び、
前記セメント中の石膏の含有量を、SO3換算で、2.5~10.0質量%に調整すること、を含む、硬化体の製造方法。
【0014】
本開示の一側面は、アルカリ刺激材、高炉水砕スラグ、炭酸塩及び石膏からなるセメントと、促進剤と、を含み、上記アルカリ刺激材、上記高炉水砕スラグ及び上記炭酸塩の合計100質量%を基準として、上記アルカリ刺激材の含有量が0.1~5.0質量%であり、上記高炉水砕スラグの含有量が55.0~94.9質量%であり、上記炭酸塩の含有量が5.0~40.0質量%であり、上記セメントにおける上記石膏の含有量がSO3換算で2.5~10.0質量%であり、上記促進剤の含有量が、上記セメント100質量部に対して、0.2~4.0質量部である、水硬性組成物を提供する。
【0015】
上記水硬性組成物は、セメント中の炭酸塩及び石膏の含有量、並びに水硬性組成物中の促進剤の含有量が所定の範囲内となるように調整されている。これによって、セメントクリンカのようなアルカリ刺激材の配合量が少ない組成物であっても、硬化し、十分な圧縮強さを発現することが可能となっている。さらには、上記水硬性組成物を調製する際の計量によって、アルカリ刺激材の含有量が0.1~5.0質量%内で変化した場合であっても、従来のような圧縮強さの極端な変動の発生は抑制されている。このような効果が得られる理由は定かではない。しかし、促進剤を配合することによって水硬性組成物の硬化反応が促進されることから、穏やかに反応が進む場合に比べると、促進剤を配合する方が反応の制御が難しく圧縮強さの変動が大きくなると考えるのが一般的であり、また炭酸塩の配合によって水硬性組成物の硬化体の強度発現性が低下することが知られている。このような当業者の技術常識に照らせば、炭酸塩及び石膏の配合量と促進剤の配合量とを調整することによって、上述のような効果が得られることは、想定が困難な新しい知見である。
【0016】
上記炭酸塩は炭酸カルシウムを含んでよい。
【0017】
上記炭酸塩は、排ガス中に含まれる二酸化炭素を固定化した炭酸塩を含んでよい。炭酸塩として、排気ガス中の二酸化を固定化して得られる化合物を用いることで、水硬性組成物の製造における見かけのCO2発生量をより低減し得る。
【0018】
上記促進剤は、アルカリ金属塩、及びアルカリ土類金属塩からなる群より選択される少なくとも一種を含有してよい。促進剤が上述の促進剤を含有することで、高炉水砕スラグの反応性をより向上させることができる。
【0019】
上記促進剤は一価の陰イオンを有する塩を含有してよい。促進剤が一価の陰イオンを有する塩を含有することによって、アルカリ刺激材の含有量の違いによる影響をより低減することができる。
【0020】
上記促進剤はカルシウム塩を含有してよい。促進剤がカルシウム塩を含有することによって、アルカリ刺激材の含有量の違いによる影響をより低減することができる。
【0021】
上記促進剤は、亜硝酸塩、硝酸塩、及び塩化物からなる群より選択される少なくとも一種を含有してよい。
【0022】
上記アルカリ刺激材は、ポルトランドセメントクリンカ、消石灰、及び生石灰からなる群より選択される少なくとも1種を含有してよい。アルカリ刺激材が上述の成分を含有することで、上記高炉水砕スラグの水和反応を促進し、水硬性組成物における硬化反応をより促進できる。
【0023】
上記石膏は、二水石膏、及び半水石膏からなる群より選択される少なくとも一種を含有してよい。石膏が二水石膏、及び半水石膏の少なくとも一方を含有することで、アルカリ刺激材(例えば、ポルトランドセメントクリンカ)及び高炉水砕スラグの初期の反応促進を更に促すことができる。
【0024】
上記高炉水砕スラグの塩基度は1.60~1.95であってよい。
【0025】
上記高炉水砕スラグにおける酸化アルミニウムの含有量は10.0質量%以上であってよい。
【0026】
本開示の一側面は、アルカリ刺激材、高炉水砕スラグ、炭酸塩、及び石膏を含む原料を、混合してセメントを調製する第一工程と、上記セメントの100質量部に対して、0.2~4.0質量部の促進剤を混合する第二工程と、を含み、上記第一工程は、上記アルカリ刺激材、上記高炉水砕スラグ及び上記炭酸塩の合計100質量%を基準として、上記アルカリ刺激材の配合量が0.1~5.0質量%となり、上記高炉水砕スラグの配合量が55.0~94.9質量%、前記炭酸塩の配合量が5.0~40.0質量%となるように調整すること、及び、上記セメント中の石膏の含有量を、SO3換算で、2.5~10.0質量%に調整すること、を含む、水硬性組成物の製造方法を提供する。
【0027】
上記製造方法は、第一工程において、セメント中の炭酸塩及び石膏の含有量を調整し、第二工程において促進剤の含有量を調整することで、上述のような水硬性組成物を製造し得る。
【0028】
上記製造方法において、上記炭酸塩は炭酸カルシウムを含んでよい。
【0029】
上記製造方法において、上記炭酸塩は、排ガス中に含まれる二酸化炭素を固定化した炭酸塩を含んでよい。炭酸塩として、排気ガス中の二酸化を固定化して得られる化合物を用いることで、水硬性組成物の製造における見かけのCO2発生量をより低減し得る。
【0030】
上記製造方法において、上記炭酸塩が、アルカリ金属の炭酸塩、及びアルカリ土類金属の炭酸塩からなる群から選択される少なくとも一種を含んでよい。
【0031】
本開示の一側面は、アルカリ刺激材、高炉水砕スラグ、炭酸塩、及び石膏を含む原料を混合してセメントを調製する第一工程と、上記セメントの100質量部に対して、0.2~4.0質量部の促進剤を混合して水硬性組成物を得る第二工程と、上記水硬性組成物100質量部に対して、50質量部の水を配合する第三工程と、を含み、上記第一工程は、上記アルカリ刺激材、上記高炉水砕スラグ及び上記炭酸塩の合計100質量%を基準として、上記アルカリ刺激材の配合量が0.1~5.0質量%となり、上記高炉水砕スラグの配合量が55.0~94.9質量%となり、上記炭酸塩の配合量が5.0~40.0質量%となるように調整すること、及び、上記セメント中の石膏の含有量を、SO3換算で、2.5~10.0質量%に調整すること、を含む、硬化体の製造方法を提供する。
【0032】
上記硬化体の製造方法は、第一工程において、セメント中の炭酸塩及び石膏の含有量を調整し、第二工程において促進剤の含有量を調整することで、上述のような水硬性組成物を調製することが可能であり、これを水及び標準砂と配合することで、優れた圧縮強さを発揮し得るモルタルを製造し得る。
【発明の効果】
【0033】
本開示によれば、セメントクリンカの配合量が5質量%以下であり、炭酸塩を含有する水硬性組成物であって、硬化によって優れた圧縮強さを発揮し得る水硬性組成物及びその製造方法を提供できる。本開示によればまた、上述の水硬性組成物を用いた硬化体の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。なお、以下の説明では、「X~Y」(X、Yは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「X以上Y以下」を意味する。
【0035】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0036】
[水硬性組成物]
水硬性組成物の一実施形態は、アルカリ刺激材、高炉水砕スラグ、炭酸塩、及び石膏からなるセメントと、促進剤と、を含む。当該水硬性組成物において、上記アルカリ刺激材及び上記高炉水砕スラグの合計100質量%を基準として、上記アルカリ刺激材の含有量が0.1~5.0質量%であり、上記高炉水砕スラグの含有量が55.0~94.9質量%であり、炭酸塩が5.0~40.0質量%である。また、上記セメントにおける上記石膏の含有量がSO3換算で2.5~10.0質量%である。また上記促進剤の含有量が、上記セメント100質量部に対して、0.2~4.0質量部である。
【0037】
本明細書におけるセメントとは、アルカリ刺激材がセメントクリンカを含む場合に限らず、高炉水砕スラグを主成分とし、これにアルカリ刺激材を含有させた粉体(場合によって、石膏を更に含有させた粉体)を意味する。
【0038】
アルカリ刺激材は、高炉水砕スラグの硬化反応を刺激し、水硬性組成物の硬化反応を促進する成分である。アルカリ刺激材は、例えば、ポルトランドセメントクリンカ、消石灰、及び生石灰からなる群より選択される少なくとも1種を含有してよく、ポルトランドセメントクリンカ、消石灰、及び生石灰のいずれか一種であってよく、ポルトランドセメントクリンカであってよい。
【0039】
ポルトランドセメントクリンカは、JIS R 5210:2003「ポルトランドセメント」に規定の各種ポルトランドセメントを調製するため使用されるポルトランドセメントクリンカを使用することができる。上記各種ポルトランドセメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、及び低熱ポルトランドセメント等が挙げられる。ポルトランドセメントクリンカとしては、普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントを調製するために使用されるポルトランドセメントクリンカであってよい。
【0040】
ポルトランドセメントクリンカの鉱物組成はBogue式によって算出することができる。ここで、Bogue式とは、化学組成の含有比率からポルトランドセメントクリンカ中の主要鉱物の含有率を算定する式として広く用いられる式である。以下に示すBogue式を用いることによって、ポルトランドセメントクリンカ中のケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO2,C3Sで示す。)、ケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO2,C2Sで示す。)、及びアルミン酸三カルシウム(3CaO・Al2O3,C3Aで示す。)の含有量を算出することができる。なお、下記式中の「%」は「質量%」を意味する。化学式は、JIS R 5204:2019「セメントの蛍光X線分析方法」による化学分析値が示す各化合物の含有比率(質量%)を表す。
【0041】
<Bogue式>
C3S[%]=(4.07×CaO[%])-(7.60×SiO2[%])-(6.72×Al2O3[%])-(1.43×Fe2O3[%])-(2.85×SO3[%])
C2S[%]=(2.87×SiO2[%])-(0.754×C3S[%])
C3A[%]=(2.65×Al2O3[%])-(1.69×Fe2O3[%])
C4AF[%]=3.04×Fe2O3[%]
【0042】
ポルトランドセメントクリンカにおけるC3A量は、好ましくは0.5~11.0質量%、より好ましくは0.5~10.5質量%、さらに好ましくは0.5~10.0質量%以下、特に好ましくは0.5~9.5質量%であってよい。ポルトランドセメントクリンカにおけるC3A量が上記範囲内であることによって、水硬性組成物における水和反応を抑制するための石膏量をより低減することが可能であり、また高炉水砕スラグの水和反応をより十分に発揮させることができる。
【0043】
ポルトランドセメントクリンカの粉末度は、水硬性組成物における水和反応の性能をより向上させる観点から調整してよい。ポルトランドセメントクリンカのブレーン比表面積の下限値は、例えば、2800cm2/g以上、又は3000cm2/g以上であってよい。ポルトランドセメントクリンカのブレーン比表面積の下限値を上記範囲内とすることで、高炉水砕スラグとの水和反応をより増進させることができる。ポルトランドセメントクリンカのブレーン比表面積の上限値は、例えば、10000cm2/g以下、5000cm2/g以下、4000cm2/g以下、又は3500cm2/g以下であってよい。ポルトランドセメントクリンカのブレーン比表面積の上限値を上記範囲内とすることで、水硬性組成物の製造コストを低減することができ、またポルトランドセメントクリンカの製造におけるCO2排出量をより低減することができる。ポルトランドセメントクリンカのブレーン比表面積は上述の範囲内で調整してよく、例えば、2800~10000cm2/g、3000~5000cm2/g、3000~4000cm2/g、又は3000~3500cm2/gであってよい。
【0044】
高炉水砕スラグは、例えば、市販のものを使用してもよく、高炉水砕スラグに相当するスラグを自ら調製して使用してもよい。
【0045】
高炉水砕スラグにおける酸化アルミニウムの含有量(Al2O3量とも表記する)の上限値は、例えば、14.5質量%以下、又は14.3質量%以下であってよい。高炉水砕スラグにおけるAl2O3量が上記範囲内であることで、得られる水硬性組成物の長期の強度発現性が低下することをより抑制できる。高炉水砕スラグにおけるAl2O3量の下限値は、例えば、10.0質量%以上、11.0質量%以上、12.0質量%以上、又は13.0質量%以上であってよい。高炉水砕スラグにおけるAl2O3量の下限値が上記範囲内であることで、高炉水砕スラグの有する潜在水硬性をより十分に発揮できる。なお、潜在水硬性とは、アルカリ刺激材を添加することで水和反応を開始する特性のことを意味する。高炉水砕スラグにおけるAl2O3量は上述の範囲内で調整してよく、例えば、10.0~14.5質量%、12.0~14.5質量%、又は13.0~14.5質量%であってよい。
【0046】
高炉水砕スラグにおける二酸化ケイ素の含有量(SiO2量とも表記する)の下限値は、例えば、30.0質量%以上、33.0質量%以上、34.0質量%以上、34.5質量%以上、又は35.0質量%以上であってよい。高炉水砕スラグのSiO2量の下限値が上記範囲内であることで、初期及び長期の強度発現性の低下を抑制できる。高炉水砕スラグのSiO2量の上限値は、例えば、40.0質量%以下、38.0質量%以下、36.5質量%以下、又は35.5質量%以下であってよい。高炉水砕スラグのSiO2量の上限値が上記範囲内であることで、初期の強度発現性の低下を抑制できる。高炉水砕スラグのSiO2量は上述の範囲内で調整してよく、例えば、33.0~40.0質量%、又は34.0~35.5質量%であってよい。
【0047】
高炉水砕スラグにおける酸化カルシウムの含有量(CaO量とも表記する)の下限値は、例えば、35.0質量%以上、38.5質量%以上、又は40.0質量%以上であってよい。高炉水砕スラグのCaO量の下限値が上記範囲内であることで、初期の強度発現性をより向上させることができる。高炉水砕スラグのCaO量の上限値は、例えば、45.0質量%以下、43.5質量%以下、43.0質量%以下、42.5質量%以下、42.0質量%以下又は41.5質量%以下であってよい。高炉水砕スラグのCaO量の上限値が上記範囲内であることで、長期の強度発現性の低下を抑制できる。高炉水砕スラグのCaO量は上述の範囲内で調整してよく、例えば、38.5~45.0質量%、又は40.0~42.5質量%であってよい。
【0048】
高炉水砕スラグにおける酸化マグネシウムの含有量(MgO量とも表記する)の下限値は、例えば、4.0質量%以上、5.0質量%以上、5.5質量%以上、6.0質量%以上、又は7.0質量%以上であってよい。高炉水砕スラグのMgO量の下限値が上記範囲内であることで、初期及び長期の強度発現性の低下を抑制できる。高炉水砕スラグのMgO量の上限値は、例えば、10.0質量%以下、9.0質量%以下、7.5質量%未満、7.4質量%未満、7.2質量%未満、又は7.1質量%未満であってよい。高炉水砕スラグのMgO量の上限値が上記範囲内であることで、初期の強度発現性の低下を抑制できる。高炉水砕スラグのMgO量は上述の範囲内で調整してよく、例えば、4.0~10.0質量%、又は6.0質量%以上7.4質量%未満であってよい。
【0049】
高炉水砕スラグは、その他の成分として、例えば、三酸化硫黄(SO3)、酸化ナトリウム(NaO2)、酸化カリウム(K2O)、及び酸化チタン(TiO2)等を含んでよい。
【0050】
本明細書における高炉水砕スラグの化学組成は、JIS R 5202:2015「セメントの化学分析方法」の記載に準拠して測定した値を意味する。
【0051】
高炉水砕スラグの反応性は、(CaO+MgO+Al2O3)/SiO2の値(高炉水砕スラグにおける二酸化ケイ素の含有量に対する、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、及び酸化アルミニウムの合計含有量の比)で表される塩基度という指標で評価される。高炉水砕スラグとしては、塩基度が高いものを使用してもよく、塩基度が低いものを使用することもできる。
【0052】
高炉水砕スラグとしては、例えば、塩基度が1.60~1.95となるようなものを幅広く使用できる。塩基度の1.75未満の高炉水砕スラグは、塩基度が低く、一般に反応性の低い低品位スラグと考えられるが、本開示の水硬性組成物の成分としては使用可能である。
【0053】
高炉水砕スラグの塩基度の上限値は、例えば、1.95以下、1.95未満、1.90未満、1.85未満、又は1.80未満であってよい。比較的反応性に優れる高炉水砕スラグの塩基度の下限値は、例えば、1.75超、又は1.78以上であってよい。塩基度の下限値が上記範囲内であることで、水硬性組成物の初期強度の向上をより容易なものとし得る。高炉水砕スラグの塩基度は上述の範囲内で調整でき、例えば、1.75~1.95、又は1.75以上1.80未満等であってよい。
【0054】
本開示に係る水硬性組成物においては、高炉水砕スラグとして塩基度が低いものも使用できる。塩基度の低い高炉水砕スラグは、通常、十分な圧縮強さを得難いことから、低品位のスラグとして使用が控えられることが多いが、本開示に係る水硬性組成物においては、比較的多くの石膏を配合し、促進剤の含有量も調製することによって硬化反応が十分に促進することが可能であることから、上記低品位のスラグであっても使用できる。このような低品位の高炉水砕スラグとしては、塩基度の上限値が、例えば、1.75未満、1.70未満、又は1.65未満であってよい。低品位の高炉水砕スラグの塩基度の下限値は、特に限定されるものではないが、例えば、1.60以上、又は1.65以上であってよい。低品位の高炉水砕スラグの塩基度は上述の範囲内で調整してよく、例えば、1.60以上1.75未満であってよい。
【0055】
本明細書における塩基度は、JIS A 6206:2013「コンクリート用高炉スラグ微粉末」の記載に準拠して測定される値であり、具体的には、(CaO+MgO+Al2O3)/SiO2の値(二酸化ケイ素の含有量に対する、酸化カルシウム、酸化マグネシウム及び酸化アルミニウムの合計含有量の比)を意味する。
【0056】
高炉水砕スラグのブレーン比表面積は、例えば、2500~10000cm2/g、2500~8000cm2/g、2500~6000cm2/g、2500~5000cm2/g、3000~5000cm2/g、4000~5000cm2/g、又は4000~4500cm2/gであってよい。
【0057】
本明細書における「ブレーン比表面積」は、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に記載の方法に準拠して測定される値を意味する。
【0058】
炭酸塩は、例えば、アルカリ金属の炭酸塩、及びアルカリ土類金属の炭酸塩からなる群から選択される少なくとも一種を含んでもよく、好ましくは、アルカリ土類金属の炭酸塩を含む。上記アルカリ金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸カルシウム、及び炭酸マグネシウムなどが挙げられる。上記炭酸塩がアルカリ土類金属の炭酸塩を含む場合、好ましくは炭酸カルシウムを含む。
【0059】
炭酸塩は、石灰石を粉砕・分級して得られた重質炭酸カルシウムを含んでいてもよく、消石灰を水に分散させた石灰乳に二酸化炭素を反応させて得られる軽質炭酸カルシウムを含んでいてもよい。石炭火力発電所やセメントキルンや工場などの排ガス中に含まれる二酸化炭素を用いて製造される軽質炭酸カルシウムを用いると、CO2排出量をマイナス(カーボンネガティブ)にする水硬性組成物を製造することができるため、排ガスを二酸化炭素源として製造した軽質炭酸カルシウムを用いることが好ましい。
【0060】
炭酸塩の含有量は、上記セメントの全量を基準として、5.0~40.0質量%である。炭酸塩の含有量が5.0質量%以上とすることで水硬性組成物の製造におけるCO2排出量低減の効果をより一層期待することができ、また40.0質量%以下とすることで、水硬性組成物の強度発現性の低下をより十分に抑制し得る。炭酸塩の含有量の下限値は、上記セメントの全量を基準として、例えば、7.0質量%以上、10.0質量%以上、15.0質量%以上、又は20.0質量%以上であってよい。炭酸塩の含有量の下限値が上記範囲内であることで、水硬性組成物の製造におけるCO2発生量をより低減することができる。炭酸塩の含有量の上限値は、上記セメントの全量を基準として、例えば、35.0質量%以下、30.0質量%以下、又は25.0質量%以下であってよい。炭酸塩の含有量の上限値が上記範囲内であることで、強度発現性により優れた水硬性組成物を提供できる。
【0061】
本開示に係る水硬性組成物は、いわゆる低セメント水硬性組成物であり、セメント中におけるアルカリ刺激材の含有量が比較的小さなものとなっている。すなわち、上記アルカリ刺激材及び上記高炉水砕スラグの含有量は、上記アルカリ刺激材、上記高炉水砕スラグ及び上記炭酸塩の合計100質量%を基準として、上記アルカリ刺激材の含有量が0.1~5.0質量%であり、上記高炉水砕スラグの含有量が95.0~99.9質量%であり、上記炭酸塩の含有量が5.0~40.0質量%である。
【0062】
本明細書におけるアルカリ刺激材の含有量は、以下に示す方法によって特定される値を意味する。アルカリ刺激材である、ポルトランドセメントクリンカ、消石灰、及び生石灰とで検出方法が異なるため、下記3つの測定を行い、その合計量を算出することで、アルカリ刺激材の含有量を決定する。まず、アルカリ刺激材のうちポルトランドセメントクリンカの含有量を決定する。具体的には、まず、水硬性組成物を900℃で1時間加熱して高炉水砕スラグ(ガラス)を結晶化させた測定サンプルを調製する。その後、上記測定サンプルに対するX線回折測定を行い、リートベルト解析法によって、上記測定サンプル中の各結晶相を定量することによって、エーライト、ビーライト、アルミネート相、及びフェライト相の合計量をポルトランドセメントクリンカの含有量とする。次に、アルカリ刺激材のうち消石灰の含有量を決定する。熱重量示差熱分析法(TG-DTA)によって、水硬性組成物1gの重量減少を測定し、450~500℃付近の重量減少値を熱分解反応によるH2O量として算出する。上記の重量減少値から各分子量を使って消石灰(Ca(OH)2)に戻した値を消石灰の含有量とする。最後に、アルカリ刺激材のうち生石灰(CaO)の含有量は以下のように決定する。上記のリートベルト解析法によって、CaOを算出し、算出値より熱重量示差熱分析法(TG-DTA)によって求めた消石灰(Ca(OH)2)を生石灰(CaO)換算した含有量を減算した値を生石灰の含有量とする。以上のとおり算出した、ポルトランドセメントクリンカ、消石灰、及び生石灰の含有量を合計し、アルカリ刺激材の含有量を決定する。
【0063】
本明細書における高炉水砕スラグの含有量は、以下に示す方法によって特定される値を意味する。具体的には、まず、水硬性成物を900℃で1時間加熱して高炉水砕スラグ(ガラス)を結晶化させた測定サンプルを調製する。その後、上記測定サンプルに対するX線回折測定を行い、リートベルト解析法によって、上記測定サンプル中の各結晶相を定量することによって、ゲーレナイト、オケルマナイト及びメルビナイトを高炉水砕スラグが結晶化してできた結晶相として定量し、これらの合計量を高炉水砕スラグの含有量とする。なお、自身で水硬性組成物を製造する場合には、製造過程で投入する高炉水砕スラグの配合量(計量値)が、上記含有量に相当する。
【0064】
本明細書における炭酸塩の含有量は、以下に示す方法によって特定される値を意味する。具体的には、セメント組成物中の全炭素量を炭素・硫黄分析装置(C/S計)によって測定し、得られた値に基づいて、下記式(A)から炭酸塩の含有量に換算される値である。
[炭酸塩の含有量(質量%)]=12÷[全炭素量(質量%)]×[CaCO3の分子量] … 式(A)
【0065】
本開示に係る水硬性組成物において、上記セメント中の石膏の含有量は、優れた圧縮強さを発揮させる観点から、比較的多量となっている。上記セメントにおける上記石膏の含有量がSO3換算で2.5~10.0質量%である。石膏の含有量が上記範囲内であることによって、アルカリ刺激材の含有量の少ない水硬性組成物であっても、石膏による水硬性組成物の硬化に伴う圧縮強さの向上効果を発揮しつつ、所定量に調製された促進剤等との条件によって、アルカリ刺激材の含有量が上述の範囲内で変動した場合であっても、極端な圧縮強さの変動が生じないよう抑制されたものとなっている。
【0066】
セメントにおける石膏の含有量の上限値は、SO3換算で、例えば、9.0質量%以下、8.0質量%以下、7.5質量%以下、又は7.0質量%以下であってよい。石膏の含有量の上限値が上記範囲内であることで、初期及び長期における強度発現性をより向上できる。セメントにおける石膏の含有量の下限値は、SO3換算で、例えば、3.0質量%以上、3.5質量%以上、4.0質量%以上、4.5質量%以上、5.0質量%以上、5.5質量%以上、6.0質量%以上、又は6.5質量%以上であってよい。石膏(SO3)の含有量の下限値を上記範囲内とすることで、セメントの水和反応をより好適なものとし、水と練り混ぜた後の水硬性組成物の流動性をより向上し、初期強度発現性をより向上できる。セメントにおける石膏の含有量は上述の範囲内で調整してよく、例えば、3.0~8.0質量%、又は6.0~7.0質量%であってよい。
【0067】
本明細書における石膏の含有量は、アルカリ刺激材及び高炉水砕スラグに含まれ得る石膏成分に加えて、セメントに対して配合される石膏成分等の合計量を意味する。本明細書における石膏の含有量は、以下に示す方法によって特定される値を意味する。石膏の含有量は、具体的には、JIS R 5202:2015「セメントの化学分析方法」に規定されるSO3の分析方法に準拠して測定するものとする。
【0068】
石膏は、例えば、二水石膏、半水石膏、及び無水石膏等を使用することができる。石膏は、二水石膏、及び半水石膏からなる群より選択される少なくとも一種を含有してよく、二水石膏、及び半水石膏からなる群より選択される一種であってもよい。石膏は廃石膏ボードを再生して得られた石膏であってもよい。
【0069】
上記セメントのブレーン比表面積は、例えば、2800~10000cm2/gであってよい。また上記セメントを構成するアルカリ刺激材がポルトランドセメントクリンカを含む場合、ポルトランドセメントクリンカと、高炉水砕スラグと、石膏とを同時に粉砕し、セメントとしてもよい。同時に粉砕する場合、上記セメントのブレーン比表面積の下限値は、例えば、2800cm2/g以上、又は3000cm2/g以上であってよい。セメントのブレーン比表面積の下限値を上記範囲内とすることで、高炉水砕スラグとの水和反応をより増進させることができる。上記セメントのブレーン比表面積の上限値は、例えば、10000cm2/g以下、5000cm2/g以下、4000cm2/g以下、又は3500cm2/g以下であってよい。
【0070】
促進剤は、高炉水砕スラグの反応を促進し、初期強度を向上させる化合物である。
【0071】
促進剤は、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩からなる群より選択される少なくとも一種を含有してよい。促進剤が、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩を含むことによって、高炉水砕スラグの反応性をより向上させることができる。上記アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩は、炭酸塩を除く、その他の塩である。
【0072】
上記アルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、及びカリウム等であってよく、上記アルカリ土類金属としては、例えば、マグネシウム、及びカルシウム等であってよい。水和物の生成促進、及び圧縮強さの向上の観点から、上記アルカリ土類金属は、カルシウムを含むことが好ましく、カルシウムであることがより好ましい。高炉水砕スラグの硬化反応の開始には、セメントクリンカから溶出される水酸化カルシウム(Ca(OH)2)が寄与していると考えられるが、促進剤がカルシウム塩を含む場合、上記セメントクリンカからの溶出成分と同様に高炉水砕スラグの硬化を促進することが期待され得る。したがって、促進剤がカルシウム塩を含む場合、アルカリ刺激材の含有量が低下した領域であっても、高炉水砕スラグの十分な硬化反応を期待することができ、このような作用によって、水硬性組成物におけるアルカリ刺激材の配合量の揺らぎをより許容することができる。
【0073】
促進剤は一価の陰イオンを有する塩を含有してよく、またカルシウム塩を含有してよい。促進剤が亜硝酸塩、硝酸塩、及び塩化物からなる群より選択される少なくとも一種を含有してよい。促進剤が亜硝酸塩を含むことによって、水硬性組成物の硬化の際の初期強度をより向上させることができる。促進剤が亜硝酸塩を含むことによって、水硬性組成物の硬化の際の水和に伴う発熱量を低減することもできる。
【0074】
促進剤は、より具体的には例えば、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、塩化ナトリウム、及び塩化カリウム等が挙げられる。促進剤は、上述の化合物の中でも、好ましくはアルカリ金属の亜硝酸塩を含有し、より好ましくは亜硝酸カルシウムを含有し、更に好ましくは亜硝酸カルシウムである。
【0075】
促進剤の含有量の上限値は、上記セメントの100質量部に対して、4.0質量部以下であるが、例えば、3.8質量部以下、3.6質量部以下、3.4質量部以下、又は3.2質量部以下であってよい。促進剤の含有量の上限値が上記範囲内であることで、高炉水砕スラグ等の反応が過度に促進された場合の異常凝結の発生をより確実に抑制できる。促進剤の含有量の下限値は、上記セメントの100質量部に対して、0.2質量部以上であるが、例えば、0.5質量部以上、1.0質量部以上、2.0質量部以上、又は3.0質量部以上であってよい。促進剤の含有量の下限値が上記範囲内であることで、高炉水砕スラグの反応をより促進することができる。促進剤の含有量は上述の範囲内で調整してよく、上記セメントの100質量部に対して、例えば、0.2~4.0質量部、又は3.0~4.0質量部であってよい。
【0076】
本明細書における促進剤の含有量は、測定対象である粉体状の組成物に対してX線回折測定を行い、リートベルト解析法によって、促進剤の含有量を定量する。なお、水硬性組成物を自ら調整する場合には、促進剤の含有量は配合量と一致するため、上述のような分析を要しない。
【0077】
上記水硬性組成物は、セメント及び促進剤に加えて、その他の成分を更に含んでもよい。その他の成分としては、例えば、硅石粉、その他カルシウムを含む無機粉末、フライアッシュ及びシリカフューム、SiやAlを含む無機鉱物、コンクリート用減水剤、及び遅延剤等が挙げられる。
【0078】
[水硬性組成物の製造方法]
上述の水硬性組成物は、例えば、以下のような方法によって製造することができる。水硬性組成物の製造方法の一実施形態は、アルカリ刺激材、高炉水砕スラグ、炭酸塩、及び石膏を含む原料を、混合してセメントを調製する第一工程と、上記セメントの100質量部に対して、0.2~4.0質量部の促進剤を混合する第二工程と、を含む。
【0079】
第一工程においては、原料を構成する各成分を破砕してもよい。第一工程において破砕を行う場合、混合及び破砕の順序は特に限定されるものではない。すなわち、各種成分を混合した後に破砕を行ってもよく、各種成分を破砕した後に混合してもよく、また各種成分の混合と破砕とを同時に行ってもよい。第一工程における各種成分の混合は、例えば、パン型ミキサー、傾胴式ミキサー、及びリボンミキサー等の混合機を用いて行ってよく、ボールミル、竪型ローラーミル、及びローラープレス等の粉砕機を用いて混合粉砕してもよく、又は各種成分のそれぞれを粉砕した後に機械混合機等の混合機で混合してもよい。
【0080】
上記第一工程は、上記アルカリ刺激材、上記高炉水砕スラグ、及び上記炭酸塩の合計100質量%を基準として、上記アルカリ刺激材の配合量が0.1~5.0質量%となり、上記高炉水砕スラグの配合量が55.0~94.9質量%となり、上記炭酸塩の配合量が5.0~40.0質量%となるように調整すること、及び、上記セメント中の石膏の含有量を、SO3換算で、2.5~10.0質量%に調整すること、を含む。
【0081】
第二工程では、セメントと、促進剤とを混合する。混合の手段は第一工程と同一であっても、異なってもよい。第二工程、又は、第一工程及び第二工程以外の工程において、その他の成分を配合してもよい。その他の成分としては、例えば、硅石粉、その他カルシウムを含む無機粉末、フライアッシュ、及びSiやAlを含む無機鉱物等が挙げられる。
【0082】
水硬性組成物の製造方法は、第一工程及び第二工程に加えて、その他の工程を含んでもよい。その他の工程としては、例えば、生石灰及び消石灰の少なくとも一方を水に分散させた石灰乳に二酸化炭素を接触させることによって上記炭酸塩を調製する工程(炭酸塩調製工程)等が挙げられる。炭酸塩調製工程における二酸化炭素は、例えば、排ガス中に含まれるものであってよく、排ガスを接触させることで、上述の石灰乳と二酸化炭素との接触を図ってもよい。上記排ガスとしては、例えば、石炭火力発電所、セメントキルン、及び工場などからの排ガスなどが挙げられる。炭酸塩として、軽質炭酸カルシウム等の排ガス中に含まれる二酸化炭素を固定化した炭酸塩を含有させること、又は上記炭酸塩調製工程における二酸化炭素の供給源として、排ガスを使用することによって、水硬性組成物の製造における見かけのCO2排出量を低減することが可能であり、マイナス(カーボンネガティブ)にすることも可能となり得る。
【0083】
[硬化体の製造方法]
上述の水硬性組成物は、モルタル及びコンクリート等の硬化体を調製する原料として好適である。つまり、硬化体の製造方法の一実施形態は、上述の水硬性組成物100質量部に対して、50質量部の水を配合する工程を有する。上述の製造方法では、水の他に、例えば、細骨材、粗骨材、混和剤等と混合してモルタル硬化体を製造してもよい。
【0084】
水硬性組成物は、上述の水硬性組成物の製法と同様であってよい。すなわち、硬化体の製造方法は、例えば、アルカリ刺激材、高炉水砕スラグ、炭酸塩、及び石膏を含む原料を混合してセメントを調製する第一工程と、上記セメントの100質量部に対して、0.2~4.0質量部の促進剤を混合して水硬性組成物を得る第二工程と、上記水硬性組成物100質量部に対して、50質量部の水を配合する第三工程と、を含み、上記第一工程は、上記アルカリ刺激材、上記高炉水砕スラグ及び上記炭酸塩の合計100質量%を基準として、上記アルカリ刺激材の配合量が0.1~5.0質量%となり、上記高炉水砕スラグの配合量が55.0~94.9質量%となり、上記炭酸塩の配合量が5.0~40.0質量%となるように調整すること、及び、上記セメント中の石膏の含有量を、SO3換算で、2.5~10.0質量%に調整すること、を含む、製法であってよい。
【0085】
水としては、例えば、水道水、蒸留水、及び脱イオン水等が挙げられる。水の使用量は、上述の水硬性組成物の100質量部に対して、20~100質量部、又は40~70質量部であってよい。
【0086】
細骨材は、JIS A 5005:2020「コンクリート用砕石及び砕砂」に規定の細骨材等を用いることができる。細骨材としては、例えば、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、銅スラグ細骨材、及び電気炉酸化スラグ細骨材等が挙げられる。細骨材を使用する場合、細骨材の使用量は、上述の水硬性組成物の100質量部に対して、例えば、50~500質量部、100~300質量部、又は200~250質量部であってよい。
【0087】
粗骨材は、JIS A 5005:2020「コンクリート用砕石及び砕砂」に規定の粗骨材等を用いることができる。粗骨材としては、例えば、砂利、及び砕石等が挙げられる。粗骨材を使用する場合、粗骨材の使用量は、上述の水硬性組成物の100質量部に対して、例えば、50~500質量部、100~300質量部、又は200~250質量部であってよい。
【0088】
細骨材及び粗骨材を併用することもできるが、この場合、細骨材及び粗骨材の合計の使用量は、上述の水硬性組成物の100質量部に対して、100~300質量部、又は200~250質量部であってよい。
【0089】
混和剤は、例えば、AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、消泡剤、収縮低減剤、凝結促進剤、凝結遅延剤、及び増粘剤等が挙げられる。混和剤の使用量は、上述の水硬性組成物の100質量部に対して、例えば、0.01~2質量部であってよい。
【0090】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例0091】
以下、実施例、比較例、及び参考例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0092】
[水硬性組成物の原料]
水硬性組成物の原料として以下のものを用いた。
【0093】
(セメントクリンカ)
セメントクリンカとしては、普通ポルトランドセメントを調製する際に、一般に使用されるセメントクリンカを用いた。表1中、普通ポルトランドセメントクリンカをクリンカと記す。セメントクリンカの化学組成をJIS R 5202:2015「セメントの化学分析方法」の記載に準拠して測定した。結果を表1に示す。
【0094】
(石膏)
石膏は、石炭火力発電所で副生する排脱二水石膏、及び試薬の無水石膏を用いた。表1中、排脱二水石膏を二水石膏と記す。石膏の化学組成をJIS R 5202:2015「セメントの化学分析方法」の記載に準拠して測定した。結果を表1に示す。
【0095】
(高炉水砕スラグ)
高炉水砕スラグは、石膏無添加の高炉スラグ微粉末を用いた。高炉スラグ微粉末の化学組成をJIS R 5202:2015「セメントの化学分析方法」の記載に準拠して測定した。結果を表1に示す。
【0096】
【0097】
表1中、C/S比とは、(CaOの含有量)/(SiO2の含有量)値を示す。また、表1中の強熱減量(ig.lоssとも表記する)は、JIS R 5202:2010の「5.強熱減量の定量方法」における「5.2 高炉セメント及び高炉スラグ以外の場合」に記載の方法に準拠し、加熱温度700℃にて測定した値である。
【0098】
(炭酸塩)
炭酸塩としては、株式会社ニューライム製の軽質炭酸カルシウムを使用した。上記軽質炭酸カルシウムは消石灰を水に分散させた石灰乳に二酸化炭素を反応させて得られたものである。上記軽質炭酸カルシウムのブレーン比表面積は、18640cm2/gであった。
【0099】
(促進剤)
促進剤としては、無機系促進剤を使用した。無機系促進剤として、キシダ化学株式会社製の亜硝酸カルシウム・1水和物(以下、場合によりCNと表記する)を使用した。
【0100】
[実施例1]
アルカリ刺激材として普通ポルトランドセメントクリンカが1質量%、高炉水砕スラグが69質量%、炭酸塩として炭酸カルシウムが15質量%、石膏として二水石膏が15質量%となるように、各成分を混合することでセメントを調製した。普通ポルトランドセメント、高炉水砕スラグ、及び炭酸カルシウムの合量を基準として、普通ポルトランドセメントクリンカが1.2質量%であり、高炉セメントスラグが81.2質量%であり、炭酸カルシウムが17.6質量%であった。セメント中の石膏の含有量はSO3換算で6.9質量%であった。
【0101】
次に、上記セメント100質量部に対して、促進剤が2質量部となるように、促進剤として亜硝酸カルシウム・1水和物を配合することによって、実施例1の水硬性組成物を調製した。
【0102】
[実施例2]
普通ポルトランドセメントクリンカ及び高炉水砕スラグの配合量を表2に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水硬性組成物を調製した。
【0103】
[実施例3]
普通ポルトランドセメントクリンカ及び高炉水砕スラグの配合量、並びに促進剤の配合量を表2に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水硬性組成物を調製した。
【0104】
[比較例1]
促進剤を配合しなかったこと以外は、実施例2と同様にして、水硬性組成物を調製した。
【0105】
[比較例2~4]
普通ポルトランドセメントクリンカ、高炉水砕スラグ、炭酸塩(炭酸カルシウム)及び石膏(二水石膏)の配合量を表2に示すとおりに変更した以外と以外は、実施例1と同様にして、水硬性組成物を調製した。
【0106】
[参考例]
参考例として、高炉セメントB種に分類される高炉セメントを調製した。本例で調製した高炉セメントは、普通ポルトランドセメントクリンカが26.0質量%、高炉水砕スラグが70.0質量%、及び二水石膏が4.0質量%(SO3換算で1.9質量%)となるような配合とした。
【0107】
【0108】
[水硬性組成物の評価:圧縮強さ]
上述のようにして調製された水硬性組成物について、後述する方法に沿って、材齢7日及び28日における圧縮強さを測定した。結果を表3に示す。
【0109】
水硬性組成物、細骨材、及び水を配合して得られるモルタル組成物を用いて圧縮強さの評価を行った。具体的には、実施例、比較例及び参考例で調製した水硬性組成物のそれぞれについて、100質量部の水硬性組成物に対して、細骨材としての砂(標準砂/セメント協会製)を200質量部、及び、50質量部の水を配合することによって、評価用のモルタル組成物を調製した。上述の配合は、水硬性組成物:砂:水が100:300:50(質量比、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」の記載に沿って配合)となるように調整したものである。
【0110】
得られたモルタル組成物のそれぞれを用いて、モルタル硬化体を調製した。まず、上記モルタル組成物を20℃の恒温室においてモルタルとして練り混ぜ、4cm×4cm×16cm(JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」の記載に沿って調製)の型枠に型詰めした。型枠を湿気箱内に貯蔵して、24時間、養生した。24時間養生の後に脱型し、モルタル硬化体を得た。得られたモルタル硬化体を7日間(材齢7日)、20℃の恒温室で水中養生させた。水中養生後のモルタル硬化体を試験体として、材齢7日のモルタル硬化体の圧縮強さを測定した。同様にして、得られたモルタル硬化体を28日間(材齢28日)、20℃の恒温室で水中養生させ、材齢28日のモルタル硬化体の圧縮強さを測定した。圧縮強さの測定は、JIS R 5201:1992「セメントの物理試験方法」の記載に準拠して行った。結果を表3に示す。
【0111】
[水硬性組成物の評価:CO2削減効果]
上述のようにして調製された水硬性組成物について、後述する方法に沿って、CO2削減効果を測定した。結果を表3に示す。なお、表3に示す結果は、普通ポルトランドセメント(セメントクリンカ96質量%及び二水石膏4質量%(SO3換算で1.9質量%)の組成を有する組成物)の製造に係るCO2排出量を100とした場合の比率(%)を示したものである。
【0112】
より具体的には、水硬性組成物の製造に係るCO2排出量を、各成分の調製に係るCO2排出量の合計値として算出し、普通ポルトランドセメントの製造に係るCO2排出量を100とした場合に比率を算出した。上述の算出にあたり、セメント及び高炉水砕スラグの調製に係るCO2排出量は、「コンクリート構造物の環境性能照査指針(試案)」;コンクリートライブラリー125号,2005,p.15(土木学会)に記載された値を用いた。セメント及び高炉水砕スラグの調製に係るCO2排出量は、それぞれ+766.6[単位:kg-CO2/t]及び+26.5[単位:kg-CO2/t]を用いた。また、石膏は再生石膏の利用を想定しており、再生石膏は副産消石灰である。このため、石膏の調製に係るCO2排出量は、0[単位:kg-CO2/t]とした。炭酸塩として軽質炭酸カルシウムを使用する場合、炭酸塩の調製に係るCO2排出量(炭酸塩は、その合成によってCO2を消費することから回収量ともいえる)は、化学成分の分子量から-439.6[単位:kg-CO2/t]を用いた。
【0113】
【0114】
表2及び表3に示されるように、促進剤を含まない組成物であって、普通ポルトランドセメントクリンカの含有量が3質量%(比較例1)との結果を比較すると、従来の研究結果に示されるとおり、普通ポルトランドセメントクリンカの含有量が1質量%の場合に比べて、3質量%まで普通ポルトランドセメントクリンカの含有量が増加すると、圧縮強さが大きく低下することが確認されており、このような系において工業展開することは困難であることが確認された。
【0115】
一方で、表2及び表3に示されるとおり、普通ポルトランドセメントクリンカの配合量が1~5質量%と少ない領域であり、炭酸塩を含むのにもかかわらず、実施例1~3で調製した水硬性組成物の示す圧縮強さは、普通ポルトランドセメントの硬化体(参考例)を基準としてもそん色のないものとなることが確認された。
【0116】
さらに、表2及び表3に示されるとおり、実施例1~3で調製した水硬性組成物は、高炉水砕スラグ及び炭酸塩を用いることで、その製造における見かけのCO2発生量がマイナスとなっており、本開示に係る水硬性組成物及びその製造方法が、従前には無いカーボンネガティブでのセメント製造を可能とし得る技術であることが確認された。
本開示によれば、セメントクリンカの配合量が5質量%以下であり、炭酸塩を含有する水硬性組成物であって、硬化によって優れた圧縮強さを発揮し得る水硬性組成物及びその製造方法を提供できる。本開示によればまた、上述の水硬性組成物を用いた硬化体の製造方法を提供できる。また、本開示において、炭酸塩としてCO2を含む排気ガスを固定化することで得られた化合物を用いることによって、セメント製造に係るCO2発生量を実質的にゼロにすることも可能であり、炭酸塩の使用量によってはセメント製造におけるCO2発生量をマイナスにすること(いわゆる、カーボンネガティブ)も可能となり得る。