(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118888
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】トラッキング放電検出装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20240826BHJP
G01R 31/52 20200101ALI20240826BHJP
【FI】
G01R31/12 D
G01R31/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025455
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000124591
【氏名又は名称】河村電器産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000116622
【氏名又は名称】愛知県
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】林 文移
(72)【発明者】
【氏名】水野 幸男
(72)【発明者】
【氏名】竹中 清人
(72)【発明者】
【氏名】平出 貴大
(72)【発明者】
【氏名】水野 大貴
【テーマコード(参考)】
2G014
2G015
【Fターム(参考)】
2G014AA15
2G014AB33
2G014AC19
2G015AA27
2G015BA04
2G015CA12
(57)【要約】
【課題】 1つの検出装置で多数のコンセントを監視し、いずれかでトラッキング放電が発生したら、それを検出するトラッキング放電検出装置を提供する。
【解決手段】 電路に重畳される1MHz~20MHzの周波数のノイズを、1MHzの幅で17分割して抽出するフィルタ回路2と、分割したそれぞれの区間のノイズの最大値を1秒間隔で計測する測定部3と、トラッキング放電を検出する検出部4とを有し、検出部4は、測定部3が計測したノイズの最大値を、1秒間隔で比較して差を求め、ノイズの最大値の差が8dBμV以上となる区間が3以上発生し、且つその発生区間と同一の少なくとも3区間で、更に1秒が経過した際のノイズの最大値の差が8dBμV以上あったら、トラッキング放電発生と判断する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電路に重畳される20MHz以下のノイズを5MHz以上の幅に亘り検出し、その際少なくとも5区間の周波数帯に分割して検出するノイズ抽出部と、
分割したそれぞれの区間のノイズの最大値を2秒以下の一定時間の間隔で計測する最大値計測部と、
トラッキング放電発生を検出する検出部と、を有し、
前記検出部は、前記最大値計測部が計測した前記ノイズの最大値を、前記一定時間の整数倍の時間で設定された特定の時間間隔の前後で比較して差を算出し、算出した差が第1の所定値以上あるか比較判断する比較部と、
前記比較部が前記第1の所定値以上あると判定した前記区間が3区間以上あり、且つ、その発生区間のうちの少なくとも3区間で、次回の前記特定の時間間隔が経過した際の前記比較部の判定が前記第1の所定値以上あったら、トラッキング放電発生と判定する判定部と、を有することを特徴とするトラッキング放電検出装置。
【請求項2】
前記比較部は、前記特定の時間間隔の前後で比較して算出した前記ノイズの最大値の差が、前記第1の所定値に加えて前記第1の所定値より小さい第2の所定値により比較判断し、
前記判定部は、前記第1の所定値に基づく判断でトラッキング放電が検出できなければ前記第2の所定値により判断し、前記第2の所定値以上と判定した区間が2以上あり、且つ、その発生区間のうち少なくとも2区間で、次回及び次々回の前記特定の時間間隔が経過した際の前記比較部の判定が、前記第2の所定値以上あったら、トラッキング放電発生と判定することを特徴とする請求項1記載のトラッキング放電検出装置。
【請求項3】
前記ノイズ抽出部は、1MHz~18MHzの間を0.5MHz~2MHzの間の一定の周波数幅で分割して抽出することを特徴とする請求項1又は2記載のトラッキング放電検出装置。
【請求項4】
電路に重畳される20MHz以下のノイズを5MHz以上の幅に亘り検出し、その際少なくとも5区間の周波数帯に分割して検出するノイズ抽出部と、
分割したそれぞれの区間のノイズの最大値を2秒以下の一定時間の間隔で計測する最大値計測部と、
トラッキング放電発生を検出する検出部と、を有し、
前記検出部は、前記最大値計測部が計測した前記ノイズの最大値を、前記一定時間の整数倍の時間で設定された特定の時間間隔の前後で比較して差を算出し、算出した差が所定の閾値以上あるか比較判断する比較部と、
前記比較部が前記所定の閾値以上あると判定した前記区間が2以上あり、且つ、その発生区間のうちの少なくとも2区間で、次回及び次々回の前記特定の時間間隔が経過した際の前記比較部の判定が前記所定の閾値以上あったら、トラッキング放電発生と判定する判定部と、を有することを特徴とするトラッキング放電検出装置。
【請求項5】
電路に重畳される20MHz以下のノイズを5MHz以上の幅に亘り検出するノイズ抽出部と、
検出したノイズの最大値を0.5秒~2秒の間の一定時間の間隔で計測する最大値計測部と、
トラッキング放電発生を検出する検出部と、を有し、
前記検出部は、前記最大値計測部が計測した前記ノイズの最大値を、前記一定時間経過の前後で比較して差を算出し、算出した差が所定の閾値以上あるか比較判断する比較部と、
前記比較部が前記所定の閾値以上あると判定した前記区間で、次回の前記一定の時間が経過した際に前記比較部が算出した前記ノイズの最大値の差が前記所定の閾値以上あったら、トラッキング放電発生と判定する判定部と、を有することを特徴とするトラッキング放電検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源コンセント等で発生するトラッキング放電を検出するトラッキング放電検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電源コンセントでは、接続されたプラグの栓刃間でトラッキング放電が発生する場合がある。このトラッキング放電は放置すると火災に至る危険があるため、検出したら電源電路を遮断する機能を備えたものがある。
例えば、特許文献1の電源コンセント(コンセント装置)では、トラッキング検出回路、報知部に加えて、電路を遮断する接点部を電路の途中に設け、トラッキング放電を検出したらトラッキング放電の発生を報知すると共に電路を遮断した。
一方で、電路に重畳される特有の放電現象を検出することで電路の接続異常発生を検知する技術がある。例えば特許文献2の接続異常検出装置は、電路上に特定の周波数の電磁ノイズが重畳されたら接続異常発生と判断した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-220363号公報
【特許文献2】特開2022-61355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の技術は、コンセント毎に設置してトラッキング放電の発生を検出する技術であるため、全てのコンセントに対応するにはコンセントの数だけトラッキング検出回路が必要であった。
一方で、上記特許文献2の技術は、例えば分電盤に1つ設置すれば、分岐先のコンセント等で接続異常が発生したらそれを検出できるが、トラッキング放電の検出には対応していなかった。
【0005】
そこで、本発明はこのような問題点に鑑み、1つの検出装置で多数のコンセントを監視し、いずれかでトラッキング放電が発生したら、それを検出するトラッキング放電検出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する為に、本発明に係るトラッキング放電検出装置は、電路に重畳される20MHz以下のノイズを5MHz以上の幅に亘り検出し、その際少なくとも5区間の周波数帯に分割して検出するノイズ抽出部と、分割したそれぞれの区間のノイズの最大値を2秒以下の一定時間の間隔で計測する最大値計測部と、トラッキング放電発生を検出する検出部と、を有し、検出部は、最大値計測部が計測したノイズの最大値を、一定時間の整数倍の時間で設定された特定の時間間隔の前後で比較して差を算出し、算出した差が第1の所定値以上あるか比較判断する比較部と、比較部が第1の所定値以上あると判定した区間が3区間以上あり、且つ、その発生区間のうちの少なくとも3区間で、次回の特定の時間間隔が経過した際の比較部の判定が第1の所定値以上あったら、トラッキング放電発生と判定する判定部と、を有することを特徴とする。
この構成によれば、電路に重畳されたノイズが、トラッキング放電特有の経過時間特性を示したらトラッキング放電発生と判定するため、トラッキング放電特有の特性を検出して判断することができる。また、電路を監視してトラッキング放電を検出するため、個々のコンセントに検出回路を設置することなく検出できる。
【0007】
本発明の別の態様は、上記構成において、比較部は、特定の時間間隔の前後で比較して算出したノイズの最大値の差が、第1の所定値に加えて第1の所定値より小さい第2の所定値により比較判断し、判定部は、第1の所定値に基づく判断でトラッキング放電が検出できなければ第2の所定値により判断し、第2の所定値以上と判定した区間が2以上あり、且つ、その発生区間のうち少なくとも2区間で、次回及び次々回の特定の時間間隔が経過した際の比較部の判定が、第2の所定値以上あったら、トラッキング放電発生と判定することを特徴とする。
この構成によれば、閾値を2段階に設定して判定するため、トラッキング放電を高い精度で検出できるし、誤検知を削減できる。
【0008】
本発明の別の態様は、上記構成において、ノイズ抽出部は、1MHz~18MHzの間を0.5MHz~2MHzの間の一定の周波数幅で分割して抽出することを特徴とする。
この構成によれば、分割する周波数幅を小さくすることで、トラッキング放電の検出精度を高くできる。
【0009】
本発明の別の態様は、電路に重畳される20MHz以下のノイズを5MHz以上の幅に亘り検出し、その際少なくとも5区間の周波数帯に分割して検出するノイズ抽出部と、分割したそれぞれの区間のノイズの最大値を2秒以下の一定時間の間隔で計測する最大値計測部と、トラッキング放電発生を検出する検出部と、を有し、検出部は、最大値計測部が計測したノイズの最大値を、一定時間の整数倍の時間で設定された特定の時間間隔の前後で比較して差を算出し、算出した差が所定の閾値以上あるか比較判断する比較部と、比較部が所定の閾値以上あると判定した区間が2以上あり、且つ、その発生区間のうちの少なくとも2区間で、次回及び次々回の特定の時間間隔が経過した際の比較部の判定が所定の閾値以上あったら、トラッキング放電発生と判定する判定部と、を有することを特徴とする。
この構成によれば、電路に重畳されたノイズが、トラッキング放電特有の経過時間特性を示したらトラッキング放電発生と判定するため、トラッキング放電特有の特性を検出して判断することができる。また、電路を監視してトラッキング放電を検出するため、個々のコンセントに検出回路を設置することなく検出できる。
【0010】
本発明の別の態様は、電路に重畳される20MHz以下のノイズを5MHz以上の幅に亘り検出するノイズ抽出部と、検出したノイズの最大値を0.5秒~2秒の間の一定時間の間隔で計測する最大値計測部と、トラッキング放電発生を検出する検出部と、を有し、検出部は、最大値計測部が計測したノイズの最大値を、一定時間経過の前後で比較して差を算出し、算出した差が所定の閾値以上あるか比較判断する比較部と、比較部が所定の閾値以上あると判定した区間で、次回の一定の時間が経過した際に比較部が算出したノイズの最大値の差が所定の閾値以上あったら、トラッキング放電発生と判定する判定部と、を有することを特徴とする。
この構成によれば、電路に重畳されたノイズが、トラッキング放電特有の経過時間特性を示したら、トラッキング放電発生と判定する。よって、負荷から発生するノイズ等を誤検知する事が無い。また、1つの周波数帯におけるノイズの最大値データを用いて比較判断するため、簡易な回路で検出できる。そして、電路を監視してトラッキング放電を検出するため、個々のコンセントに検出回路を設置することなく検出できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電路に重畳されたノイズが、トラッキング放電特有の経過時間特性を示したらトラッキング放電発生と判定するため、トラッキング放電特有の特性を検出して判断することができる。また、電路を監視してトラッキング放電を検出するため、個々のコンセントに検出回路を設置することなく検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】トラッキング放電検出装置の一例を示すブロック図である。
【
図2】判定部の判定の流れを示すフローチャートである。
【
図3】実際の計測値を示し、負荷を電気ヒータとした場合にトラッキング放電が発生したと考えられる最初のノイズの周波数特性を示している。
【
図4】
図3の計測から1秒経過した時点での特性を示している。
【
図5】
図3の計測から2秒経過した時点での特性を示している。
【
図6】
図3の計測から3秒経過した時点での特性を示している。
【
図7】1MHz間隔で17の周波数帯に分割し、周波数帯毎の最大値の変化を示している。
【
図8】
図3に対応し、トラッキング放電が発生していない正常な場合のノイズの周波数特性を基準時刻で示している。
【
図9】トラッキング放電検出装置の他の例を示すブロック図である。
【
図10】トラッキング放電発生を受けて計測したノイズの最大値の経過時間特性を示すグラフである。
【
図11】負荷が電気ヒータの場合の正常時の経過時間特性を示している。
【
図12】正常時の負荷が電気ヒータの場合の電源オン時の経過時間特性を示している。
【
図13】
図3に対応するグラフで、負荷が掃除機の場合の正常時の周波数特性を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明に係るトラッキング放電検出装置の一例を示し、分電盤内に設置した構成を示している。
図1において、10が分電盤であり、分電盤10に主幹ブレーカ11、複数の分岐ブレーカ12が収容され、主幹ブレーカ11に接続される一次側の電路Lにトラッキング放電検出装置1が接続されている。
また、5は分岐ブレーカ12の2次側に接続された分岐電路L1の先に接続されたコンセント、6はコンセント5に接続されたプラグ、7は負荷、8は異常発生を報知する報知部、Pは交流100Vの商用電源を示している。
【0014】
トラッキング放電検出装置1は、特定の周波数のノイズを抽出するノイズ抽出部としてのフィルタ回路2、抽出したノイズの最大値を計測する最大値計測部としての測定部3、ノイズの大きさ情報を基にトラッキング放電の発生を検出する検出部4を備えている。
【0015】
フィルタ回路2は、複数のバンドパスフィルタ(BPF)2aにより構成され、ノイズを複数の周波数帯に分離して検出する。
測定部3は、フィルタ回路2のBPF2a毎に分割された区間毎に測定回路3aを有し、区間毎にノイズの最大値を計測する。この計測は、例えば1秒等の一定時間の間隔で計測され、計測した最大値が個々に検出部4に出力される。
【0016】
尚、ここでは、フィルタ回路2は17個のBPF2aを備えて、1MHz~18MHzの17MHzに亘る周波数帯のノイズを、1MHz~2MHz、2MHz~3MHz、・・・17MHz~18MHzと、1MHzの幅を持つ17の周波数帯に分割している。よって、測定回路3aは17個設けられている。
【0017】
検出部4は、一定時間間隔で測定部3が計測したノイズの最大値データを記憶する記憶部4a、最大値データを比較する比較部4b、トラッキング放電の有無を判定する判定部4cを有している。
記憶部4aは、分割した周波数の区間毎に2つのメモリを有している、具体的に、現在の計測値を記憶する第1メモリ41、及び直前の計測値を含む過去の計測値を記憶する第2メモリ42から成るメモリの組を有している。
【0018】
比較部4bは、特定の時間の経過によるノイズ最大値の変化が所定値以上であったらそれを判断する。具体的に比較部4bは、2つの閾値(第1の所定値、第1の所定値より小さい第2の所定値)を記憶し、特定の時間が経過する間のノイズの最大値の変化が、少なくともいずれかの閾値以上であるか判定し、判定結果を判定部4cに通知する。
【0019】
判定部4cは、比較部4bの出力を受けてトラッキング放電の有無を判定する。トラッキング放電発生と判断したらトラッキング発生信号を出力する。この信号を受けて、主幹ブレーカ11が遮断動作し、報知部8が報知動作する。
【0020】
上記の如く構成されたトラッキング放電検出装置1は、以下のように動作する。
まずフィルタ回路2により、電路Lから1MHz~18MHzのノイズが抽出される。抽出されたノイズは、各BPF2aにより1MH間隔で分割され、全17の周波数帯に分割されて測定部3へ出力される。
測定部3は、測定部3の計測値を受けて最大値を計測し、計測された最大値は検出部4の記憶部4aに入力される。
【0021】
記憶部4aにはノイズの時間変化情報が蓄積され、特定の時間が経過する間に計測値の最大値が第1の所定値以上(例えば8dBμV以上)変化したら、比較部4bがそれを検出し、その情報が判定部4cに出力される。
【0022】
ここで、特定の時間を説明する。特定の時間とは、ノイズの最大値がトラッキング放電の発生を受けて変化する現象を検出するための時間であり、0.5秒~2秒の間で設定される。ここでは、この特定の時間を、測定部3がノイズの最大値を計測するタイミングと同じ1秒として説明する。
【0023】
尚、ノイズの最大値を計測する間隔が、例えば0.2秒の一定時間であれば、特定の時間はそれより長い0.5秒~2秒が好ましいため、0.2秒の数倍の時間間隔に設定される。また、計測値の最大値を比較する所定値の設定は、ノイズの計測帯域全域の平均値が約30dBμVであった場合に例えば8dBμVとしている。ノイズの平均値が例えば60dBμVであったら、所定値は例えば16dBμVとなり、計測環境により閾値である所定値は変更される。
【0024】
図2は判定部4cの判定動作の流れを示すフローチャートを示している。以下、判定部4cの動作を
図2を参照して説明する。
判定部4cでは、比較部4bが出力する情報を受けてトラッキング放電発生を判定する。上述したように、特定の時間を1秒とし、1秒が経過する間にノイズの最大値が、まず第1の所定値である8dBμV上変化した区間が同時に3区間以上発生していないか判断する(S1)。
3区間以上で発生していたら(S1でYES)、その発生区間を監視してその中の少なくとも3区間において、その1秒経過後においても8dBμV以上変化したか判断する(S2)。こうして3区間以上で連続して8dBμV以上の変化が2秒間継続したらトラッキング放電発生と判断し、トラッキング発生信号を出力(S5)して終了する。
【0025】
一方、8dBμVの変化が発生する区間が2区間以下であったら(S1でNO、S2でNO)、次に第2の所定値である6dBμV以上変化した区間が複数ないか判定する(S3)。複数区間あったら、S4に進みトラッキング放電検出の判断を継続する。尚、2以上の区間で6dBμV以上の変化が発生しなかったら(S3でNO)、判定をリセットし、再スタートする。
【0026】
S4では、変化のあった区間のうち少なくとも2区間で、次の1秒経過後、更にその次の1秒経過後も6dBμV以上変化したか判定する。こうして6dBμV以上の変化が3秒間継続して発生したら(S4でYES)、トラッキング放電発生と判断し、トラッキング発生信号を出力(S5)して終了する。
しかし、最初の6dBμV以上の変化があった区間のうち2以上の区間で6dBμV以上の変化が発生しなかったら(S4でNO)、判定をリセットして再スタートする。
【0027】
このように、電路Lに重畳されたノイズが、トラッキング放電特有の経過時間特性を示したらトラッキング放電発生と判定するため、トラッキング放電特有の特性を検出して判断することができる。また、電路Lを監視してトラッキング放電を検出するため、個々のコンセント5に検出回路を設置することなく検出できる。
そして、閾値を8dBμV、6dBμVと2段階に設定して判定するため、トラッキング放電を高い精度で検出できるし、誤検知を削減できる。
また、1MHz~18MHzの間を1MHz間隔で17分割することで、分割する周波数幅を小さくでき、トラッキング放電の検出精度を高くできる。
【0028】
尚、上記実施形態では、閾値を第1の所定値(8dBμV)と第2の所定値(6dBμV)の2段階に設定して判定しているが、何れか一方の所定値のみの判定でもトラッキング放電発生の判定は可能である。
また、1MHz~18MHzの間の周波数帯を、1MHzの幅で17区画に分割しているが、20MHz以下で、少なくとも5MHzに亘る周波数帯を少なくとも5区間に分けて計測することで、トラッキング放電特有の現象を検出することは可能である。例えば、10MHz~15MHzの間の5MHzの幅を、1MHzの幅で5区間に分割して計測しても良い。もちろん、区間分けする数及び周波数幅も、上記設定範囲であれば任意であり、例えば4MHz~16MHzの間の12MHzの幅を2MHzの幅で6区間に分割して計測しても良い。
更に、比較部4bで使用される閾値も、周波数の分割条件の変更に伴い判定制度を低下させないために好ましい閾値(所定の閾値)が設定される。
【0029】
ここで、実際のノイズ計測値の一例を示す。
図3~7は、実際に負荷として電気ヒータが接続された電路において、トラッキング放電が発生した場合のノイズの計測値(周波数スペクトル)を示している。
図3は、トラッキング放電が発生したと考えられるノイズを検知したら、その時点を0時間として計測をスタートしたノイズの周波数特性を示すグラフである。
図4は
図3の計測から1秒経過した時点での周波数特性、
図5は
図3の計測から2秒経過した時点での周波数特性、
図6は
図3の計測から3秒経過した時点での周波数特性をそれぞれ示している。
そして、
図7は1MHz~18MHzの間を1MHz間隔で分割して17分割し、分割した各区間のノイズの最大値を示している。
【0030】
尚、
図3では16MHz~18MHzの周波数帯で他の周波数帯より8dBμV以上大きいノイズが発生していることで、この計測時刻を基準にノイズの時間経過の計測が開始される。
【0031】
図7から、最初の計測(0秒)とその1秒後を比較すると、17の全区間で1秒の計測値が0秒に比べて8dBμV以上大きな数値となっている。即ち8dBμV以上の差が発生している。また、1秒後と2秒後を比較すると、8MHz~9MHz、9MHz~10MHz以外の区間で8dBμV以上の差が発生している。尚、2秒後と3秒後を比較すると、4MHz~5MHzの区間から9MHz~10MHzの区間の6区間に亘り8dBμV以上の差が発生している。
結果、2区間以上で少なくとも2秒後に至るまで1秒以上継続する変化が発生している。よって、複数の区間で所定値(第1の所定値)以上(8dBμV以上)の差が1秒以上発生していることが確認でき、この特性からトラッキング放電が発生していると判断される。
【0032】
尚、8dBμVの閾値(第1の所定値)は、電気ヒータ、ドライヤ、掃除機の3種類の電気機器を接続して各300回の行った実験データに基づいて設定した数値である。また、第2の所定値である6dBμVの閾値も同様に実験から設定された数値である。
【0033】
ここで、比較のため正常な場合のデータを説明する。
図8は、トラッキング放電が発生しない正常な場合の電気ヒータが接続された電路の特性を示している。トラッキング放電発生初期の0秒時点の上記
図3に示す計測値はこの
図8と差異は小さい。一方、1秒後、2秒後のノイズ計測値は、
図7に示すように、多くの区間で8dBμV以上の差が発生している。本発明はこの差異を検出して判定する。
【0034】
図9は、トラッキング放電検出装置1の他の形態を示すブロック図であり、この
図9を参照して他の形態を説明する。
図9に示すトラッキング放電検出装置1も、
図1と同様に特定の周波数のノイズを抽出するフィルタ回路2、抽出したノイズの大きさを計測する測定部3、ノイズの大きさ情報を基にトラッキング放電の発生を判定する検出部4を備えている。そして、
図1と同様に分電盤10内に設置した構成を示している。尚、
図1と同一の構成要素には同一の符号を付与している。
【0035】
但し、フィルタ回路2は、例えば1MHz~20MHzのノイズを抽出する1つのBPFのみで構成されている。従って、測定部3も最大値を計測する1つの回路のみで構成されている。また検出部4も、記憶部4a、比較部4b、判定部4cを有しているが、記憶部4a、比較部4bは1組のみで構成されている。
このように、多数の周波数帯に分割することはせず、1つの周波数帯のノイズの最大値情報を基に判定する点が上記実施形態とは相違している。
尚、ノイズを抽出する周波数は、20MHz以下であって、少なくとも5MHzの幅で抽出することで、トラッキング放電による特有のノイズを検出することは可能である。
【0036】
そして、比較部4bでは第3の所定値(例えば、8dBμV)が記憶されており、特定の時間間隔(ここでは、1秒としている)の経過によるノイズの最大値の変化が8dBμV以上発生したら、判定部4cが判定を開始する。
【0037】
図10は、
図9に示すトラッキング放電検出装置1が、トラッキング放電発生と判定する場合のグラフを示している。トラッキング放電発生初期を0時間としてその後の4秒間のノイズ最大値の1秒経過する毎の変化を示している。
図10に示すように、計測を開始した0秒の時点では正常時の最大値に比べて8dBμV程度の変化しかないが、0秒~1秒で36dBμVの変化があり、1秒~2秒で16dBμVの変化があり、2秒~3秒で28dBμVの変化が発生している。このように3秒に亘り8dBμV以上の変化が発生していることで、トラッキング放電が発生したと判定する。
尚、このグラフの、0秒~3秒のデータは、上記
図3~6のデータと共通である。
【0038】
ここで、トラッキング放電発生と判断しない計測値を説明する。
図11、12は時間経過特性、
図13は
図3に対応する周波数特性を示している。
図11は、トラッキング放電が発生しない電気ヒータの経過時間特性を示している。このように、正常時は、1MHz~20MHzの間のノイズ最大値は殆ど変化しない。また
図12は、負荷オン操作時の過渡特性を示している。この場合、1秒~2秒の間で8dBμV以上の変化が発生しているが、2秒~3秒の変化は無い。従って、このような特性を示してもトラッキング放電発生とは判断しない。
また、
図13は、負荷が掃除機の場合の正常時の周波数特性を示している。この場合、6MHz以下で大きな数値を示すノイズが発生するが、安定してノイズが発生する(図示せず)ため、トラッキング放電と判断する条件を満たさず、誤検知することはない。
【0039】
このように、電路Lに重畳されたノイズが、トラッキング放電特有の経過時間特性を示したら、トラッキング放電発生と判定する。よって、負荷から発生するノイズ等を誤検知する事が無い。また、1つの周波数帯におけるノイズの最大値の1データを用いて比較判断するため、簡易な回路で判定できる。そして、電路Lを監視してトラッキング放電を検出するため、個々のコンセント5に検出回路を設置することなく検出できる。
【0040】
尚、上記実施形態は負荷の例としてデジタル機器を示していないが、デジタル機器であっても同様の手法でトラッキング放電の検出は可能である。
【符号の説明】
【0041】
1・・トラッキング放電検出装置、2・・フィルタ回路(ノイズ抽出部)、3・・測定部(最大値計測部)、4・・検出部(判定部)、4a・・記憶部、4b・・比較部、4c・・判定部、5・・コンセント、10・・分電盤、L・・電路。