(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118908
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】新規ポリヌクレオチド
(51)【国際特許分類】
C12N 15/30 20060101AFI20240826BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240826BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240826BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240826BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240826BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240826BHJP
C07K 14/445 20060101ALI20240826BHJP
C07K 16/20 20060101ALI20240826BHJP
A61K 39/015 20060101ALI20240826BHJP
A61P 33/06 20060101ALI20240826BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
C12N15/30 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K14/445
C07K16/20
A61K39/015
A61P33/06
A61P37/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025488
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】堀井 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】パラックパック,ニリアン,マリー ケリヘロ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA83X
4B065AA86X
4B065AA86Y
4B065AA87X
4B065AA88X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA45
4C085AA03
4C085BA06
4C085CC03
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA22
4H045DA86
4H045EA31
4H045FA74
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ヒト由来細胞においてSE36タンパク質を効率的に発現させる手法等の提供。
【解決手段】下記(i)又は(ii)のポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド、前記ポリヌクレオチド又は前記ポリペプチドを含む、マラリア原虫感染症の予防及び/又は治療用ワクチンを提供する。
(i)特定の塩基配列からなるDNA配列、又は該DNA配列に対応するRNA配列を含むポリヌクレオチド。(ii)前記DNA配列又はRNA配列と80%以上の同一性を有し、かつSE36タンパク質の免疫原性を有するタンパク質をコードする、DNA配列若しくはRNA配列を含むポリヌクレオチド。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)又は(ii)のポリヌクレオチド。
(i) 配列番号1若しくは3に示される塩基配列からなるDNA配列、又は該DNA配列に対応するRNA配列を含むポリヌクレオチド。
(ii) 前記DNA配列又はRNA配列と80%以上の同一性を有し、かつSE36タンパク質の免疫原性を有するタンパク質をコードする、DNA配列若しくはRNA配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項2】
請求項1に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
【請求項3】
請求項2に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
【請求項4】
請求項1に記載のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド。
【請求項5】
請求項4に記載のポリペプチドに対する抗体。
【請求項6】
請求項1に記載のポリヌクレオチド、又は請求項4に記載のポリペプチドを含む、マラリア原虫感染症の予防及び/又は治療用ワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ポリヌクレオチド、組換えベクター、形質転換体等に関する。具体的には、熱帯熱マラリア原虫であるプラスモジウム(Plasmodium falciparum;以下、Pfとも称する)のSERA5(serine-repeat antigen 5)由来のSE36タンパク質の免疫原性を有するタンパク質をコードする、新規ポリヌクレオチド等に関する。
【背景技術】
【0002】
ハマダラカによって媒介される熱帯熱マラリアは、アフリカ諸国を中心に年間で約2億人の感染者と60万人を超える犠牲者を出している。犠牲者は、5歳以下の小児が60~80%を占めるといわれており、また、同地域の多くの妊産婦が妊娠マラリアの危険にさらされており、年間約20万人の胎児が犠牲となっているともいわれている。効果的なマラリアワクチンによる小児等のマラリア予防はグローバルヘルスの最大の関心事の一つである。さらに、健康被害のみならずアフリカ諸国の経済及び発展を大きく妨げていることも問題視されている。
【0003】
SERA5(serine-repeat antigen 5)ポリペプチドは、赤血球内期のPfsera5遺伝子により発現される合計989アミノ酸からなる分子量115kdのタンパク抗原であり、その構造はN末端からC末端方向に順に、47kd-50kd-18kdの3つのドメインからなる。これらのドメインの前駆体としてのSERA5は、合計5868塩基からなるSERA遺伝子(DNA)上に分散する4つのエキソンによる発現後、赤血球内期でのメロゾイト放出の際にプロセッシングされ、上記3ドメインに開裂する(例えば、非特許文献1及び2)。なお、SERA5遺伝子(DNA)とこれがコードするアミノ酸配列の完全長データは、GenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)で公開され入手可能である(Accession Number: J04000)。また、SERA5のN末端領域(以下、「47kd領域」とも称する)は、合計382アミノ酸残基からなり、その配列に係るPf株間のホモロジー検索によれば、アミノ酸の欠失、付加、及び約20ヵ所におけるアミノ酸の変異(非同義置換)等の散在がみられ、多様である(例えば、非特許文献3及び4)。熱帯熱マラリア原虫Pf由来のSE36タンパク質(SE36ポリペプチド;「SE36-Pf」とも称する)は、熱帯熱マラリア原虫PfのHonduras-1株のSERA5の47kd領域を基礎とするSE47’抗原(例えば、非特許文献5)に由来し、当該47kd領域を構成する合計382アミノ酸のN末端のメチオニンを起点(第1番目のアミノ酸)としてC末端方向に順次、序数付けした第16番目のアミノ酸(アスパラギン)のコドンを、開始コドン(メチオニン)に置換し、かつ、第382番目のアミノ酸(グルタミン酸)の後に翻訳停止コドンを隣接挿入し、更に、そのセリン反復領域を占める合計33個の重合セリン残基(第193番目から第225番目までのセリン)を切除した合計334アミノ酸からなるポリペプチドである(例えば、非特許文献5)。SE36タンパク質はマラリア原虫メロゾイト細胞の表面を覆うタンパク質であり、宿主の細胞接着分子(血清タンパク質)であるヴィトロネクチンがSE36タンパク質に結合し、さらにヴィトロネクチンに30種以上の宿主タンパク質が結合して、原虫表面を宿主タンパク質でカモフラージュしていることが知られている(例えば、非特許文献6)。また、SE36タンパク質とヴィトロネクチンの複合体が宿主の免疫系に提示されることにより徐々に免疫寛容が生じると考えられている。
【0004】
これまでに、赤血球期のマラリア原虫のSERA5抗原遺伝子を操作して、大腸菌で発現させた組換えSE36タンパク質をワクチン抗原とした、マラリアワクチン(NPC-SE36/AHG、NPC-SE36/CpG、等)が開発されている(例えば、非特許文献7及び8)。
一方、抗原タンパク質としてのSE36タンパク質を、大腸菌ではなくヒト由来細胞で大量発現させる手法や、さらには、例えば、ウイルスベクターワクチンや、DNAワクチン又はmRNAワクチンのように、抗原タンパク質としてのSE36タンパク質をコードする核酸分子をヒト免疫系に提示する手段の開発も検討されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Li, J., et al., Molecular & Biochemical Parasitology, vol. 120, pp. 177-186, 2002
【非特許文献2】Fox, B.A., et al., Experimental Parasitology, vol. 85, pp. 121-134, 1997
【非特許文献3】Tanabe, K., et al., Vaccine, vol. 30, pp. 1583-1593, 2012
【非特許文献4】Arisue, N., et al., Frontiers in Cellular and Infection Microbiology, (2022) 12:1058081. DOI: 10.3389/fcimb.2022.1058081
【非特許文献5】Horii, T., et al., Parasitology International, vol. 59, pp. 380-386, 2010
【非特許文献6】Tougan, T., et al., Scientific Reports, (2018) 8:5052. DOI: 10.1038/s41598-018-23194-9
【非特許文献7】Bougouma, E.C., et al., Frontiers in Immunology, (2022) 13:978591. DOI: 10.3389/fimmu.2022.978591.
【非特許文献8】Ezoe, S., et al., Vaccine, vol. 38, pp. 7246-7257, 2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況下において、ヒト由来細胞においてSE36タンパク質(又はそれと同程度の免疫原性を有するタンパク質)を効率的に発現させる手法等の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、以下に示す、ポリヌクレオチド、組換えベクター、形質転換体等を提供するものである。
【0008】
(1)下記(i)又は(ii)のポリヌクレオチド。
(i) 配列番号1若しくは3に示される塩基配列からなるDNA配列、又は該DNA配列に対応するRNA配列を含むポリヌクレオチド。
(ii) 前記DNA配列又はRNA配列と80%以上の同一性を有し、かつSE36タンパク質の免疫原性を有するタンパク質をコードする、DNA配列若しくはRNA配列を含むポリヌクレオチド。
【0009】
(2)上記(1)に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
(3)上記(2)に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
(4)上記(1)に記載のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド。
(5)上記(4)に記載のポリペプチドに対する抗体。
(6)上記(1)に記載のポリヌクレオチド、又は上記(4)に記載のポリペプチドを含む、マラリア原虫感染症の予防及び/又は治療用ワクチン。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ヒト由来細胞においてSE36タンパク質(又はそれと同程度の免疫原性を有するタンパク質)を効率的かつ大量に発現させることができるポリヌクレオチド等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1-1】SE36-Human-maximizedのDNA配列(配列番号1)及びアミノ酸配列(配列番号2)を示す図である。
【
図1-2】SE36-Human-maximizedのDNA配列(配列番号1)及びアミノ酸配列(配列番号2)を示す図である(
図1-1に示される配列に続く配列を示す図である)。
【
図2-1】SE36-originalのDNA配列(配列番号5)及びアミノ酸配列(配列番号6)を示す図である。
【
図2-2】SE36-originalのDNA配列(配列番号5)及びアミノ酸配列(配列番号6)を示す図である(
図2-1に示される配列に続く配列を示す図である)。
【
図3-1】pcDNA-SE36-original Vectorのマップを示す図である。
【
図3-2】pcDNA-SE36-Human-maximized Vectorのマップを示す図である。
【
図3-3】pcDNA-SE36-Human-maximized-short Vectorのマップを示す図である。
【
図4-1】構築した哺乳類細胞用発現ベクター(pcDNA-SE36-original Vector)を制限酵素処理したサンプルをアガロースゲル電気泳動した結果(写真)を示す図である。
【
図4-2】構築した哺乳類細胞用発現ベクター(pcDNA-SE36-Human-maximized Vector)を制限酵素処理したサンプルをアガロースゲル電気泳動した結果(写真)を示す図である。
【
図4-3】構築した哺乳類細胞用発現ベクター(pcDNA-SE36-Human-maximized-short Vector)を制限酵素処理したサンプルをアガロースゲル電気泳動した結果(写真)を示す図である。
【
図5-1】BSAを用いて作成した検量線を示す図である。後述する表2-1の各BSA濃度の測定値を用いて作成した。
【
図5-2】発現確認の結果(CBB染色)を示す図である。(A)CBB染色後のゲルを示した。SE36の位置とSE36-shortの推定される位置を矢印で示した。(B)Aの拡大図を示した。レーン8のSE36のバンド位置を*で示した。
【
図5-3】発現確認の結果(ウエスタンブロット)を示す図である。SE36とSE36-shortの位置を矢印で示した。
【
図5-4】バンド強度測定時のレーン範囲を示す図である。ImageJを用いて、レーン6、8、10、12のバンド強度を算出した。四角の枠は、選択した範囲を示している。
【
図5-5】バンド強度測定に使用したピーク領域を示す図である。
図5-4の選択範囲(四角の枠)のプロットから目的のピークを選択して黒で表示した。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0013】
本発明に係るポリヌクレオチドは、前述のとおり、
(i) 配列番号1若しくは3に示される塩基配列からなるDNA配列、又は該DNA配列に対応するRNA配列を含むポリヌクレオチド;あるいは、
(ii) 前記DNA配列又はRNA配列と80%以上の同一性を有し、かつSE36タンパク質の免疫原性を有するタンパク質をコードする、DNA配列若しくはRNA配列を含むポリヌクレオチド
である。
【0014】
配列番号1に示される塩基配列からなるDNA配列は、
図1-1~
図1-2にも記載されているとおり、1008bpの塩基配列からなるものであり、ヒト由来細胞において発現し得る335アミノ酸残基のポリペプチド(配列番号2)をコードするものである。当該DNA配列は、本明細書(後述する実施例を含む)においては「cDNA-SE36-Human-maximized」あるいは「SE36-Human-maximized」と称することがある。また、当該DNA配列(配列番号1)によりコードされるタンパク質(配列番号2)自体を「SE36-Human-maximized」と称することもある。
【0015】
ここで、本明細書(後述する実施例を含む)においては、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum;Pfとも称する)由来のSE36タンパク質(SE36-Pf;前述の「背景技術」欄の記載を参照)コードするDNA配列において、当該タンパク質の各アミノ酸残基に対応するコドンを、大腸菌での発現を考慮して最適化した、DNA配列(配列番号5;
図2-1~
図2-2も参照)を、「cDNA-SE36-original」あるいは「SE36-original」と称することがある。また、当該DNA配列(配列番号5)によりコードされるタンパク質(配列番号6)自体を「SE36-original」と称することもある。
【0016】
配列番号1に示される塩基配列は、配列番号5に示されるSE36-originalの塩基配列におけるコドンの塩基を、コンピューターソフトによる自動変換に頼らず、独自の基準によりマニュアルでヒトコドンの塩基に変換したものである。詳しくは、各々のアミノ酸残基について、ある残基についてはヒト由来細胞において最も高頻度で使用されるコドンを選択し、他の残基についてはヒト由来細胞において2番目や3番目などの頻度で使用されるコドンを選択するなど、本発明者は、各々のアミノ酸残基に対応するヒトコドンの塩基の種類を様々組み合わせることによって、ヒト由来細胞において驚くべき高発現率を達成するDNA配列(すなわち配列番号1の塩基配列)を見出した。また本発明者は、ヒト由来細胞での発現においては糖鎖が付加され得るアミノ酸残基については付加されないアミノ酸残基のコドンに変更したり、さらに、コードされるポリペプチドのC末端にSE36-originalのSE36タンパク質には無いアミノ酸残基(スレオニン;Thr)を付加するためのコドンを追加することも、配列番号1に示される塩基配列において行った。なお、上記の糖鎖が付加されないアミノ酸残基のコドンへの変更については、具体的には、配列番号1に示される塩基配列中の、第457番目~第459番目の塩基が、SE36-originalの塩基配列(配列番号5)における「AAC」から「CAA」に変更され、第784番目~第786番目の塩基が、SE36-originalの塩基配列(配列番号5)における「AAT」から「CAA」に変更された。これら2つのコドン変更は、いずれも、アスパラギン(Asn;N)のコドンからグルタミン(Gln;Q)のコドンへの変更である。
【0017】
配列番号3に示される塩基配列からなるDNA配列は、配列番号1に示される塩基配列の一部(具体的には、配列番号1の塩基配列の第220番目~第1008番目の塩基)で構成される789塩基からなる配列であり、ヒト由来細胞において発現し得る262アミノ酸残基のポリペプチド(配列番号4)をコードするものである。当該DNA配列は、本明細書(後述する実施例を含む)においては「cDNA-SE36-Human-maximized-short」あるいは「SE36-Human-maximized-short」と称することがある。また、当該DNA配列(配列番号3)によりコードされるタンパク質(配列番号4)自体を「SE36-Human-maximized-short」と称することもある。前述の配列番号1に示される塩基配列からなるDNA配列と同様に、配列番号3に示される塩基配列からなるDNA配列も、当業者が予期し得ない程度のヒト由来細胞における高発現量を実現し得るDNA配列として、本発明者が見出したものである。
【0018】
本発明においては、配列番号1又は3に示される塩基配列からなるDNA配列に対応するRNA配列を含むポリヌクレオチドも包含される。DNA配列に対応するRNA配列とは、当業者において通常理解されているとおり、各塩基がDNAからRNAに変換され、DNA配列中のチミン(T)塩基がウラシル(U)塩基に変換された塩基配列を意味する。当該RNA配列には、メッセンジャーRNA(mRNA)も含まれる。
【0019】
本発明に係るポリヌクレオチドは、配列番号1若しくは3に示される塩基配列からなるDNA配列、又は当該DNA配列に対応するRNA配列と80%以上(好ましくは、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上)の同一性を有し、かつSE36タンパク質の免疫原性を有するタンパク質をコードする、DNA配列若しくはRNA配列、を含むポリヌクレオチドも包含し得る。ここで、「SE36タンパク質の免疫原性を有するタンパク質」とは、ヒト免疫系に提示された場合に(具体的には、ヒトの生体内に取り込まれた場合に)、SE36タンパク質(具体的にはSE36-originalやSE36-Pfのタンパク質;以下、本段落において同様)の免疫原性と同様に免疫原性を有するタンパク質であればよく、SE36タンパク質との免疫原性の高低の違いは特に制限はされないが、例えば、SE36タンパク質の免疫原性の10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、又は95%以上のいずれかの免疫原性の高さを有していることが好ましい。SE36タンパク質の免疫原性を有するタンパク質の免疫原性の高さは、例えば、熱帯熱マラリア原虫感染症患者の血清や、当該タンパク質で免疫した実験小動物、例えば、ラットやマウス等の血清等を用いる抗原抗体反応などにより測定及び確認することができる。
【0020】
本発明に係るポリヌクレオチドにおけるDNA配列やRNA配列の合成は、市販のDNA合成機、例えば、DNA/RNA合成機(Applied Biosystem Medel 392:PE社(米国)製)、ASM-102U DNA合成機(BIOSSET社(米国)製)等を用いることができる。かかる合成機により、約100ないし約200ヌクレオチドが重合したセンス(+)とアンチセンス(-)の両鎖DNA断片を別途に合成した後、各合成DNA断片を、例えば、ポリアクリルアミド電気泳動により精製する。次いで、精製された単鎖DNA断片の相補鎖(対)のアニーリングにより合成2本鎖DNA断片を調製する。
【0021】
合成2本鎖DNA断片のクローニングには、既知又は市販の、宿主が哺乳類細胞のクローニング用ベクターを用いることができる。かかるクローニングでは、例えば、上記DNA断片の制限酵素断片を、これと同一の酵素で開裂したベクターの制限酵素サイトに挿入連係し構築したベクターを宿主に移入することにより、形質転換体としてのクローンが得られる。次いで、2本鎖DNA断片の各クローンは、上記形質転換体の培養により増幅後、これらの各塩基配列をチェインターミネーター法(dideoxy法)やマクサム・ギルバート法により決定する。その際、市販のDNAシーケンサー、例えば、ABI PRISM 3700(PE社(米国)製)等を用いることができる。その結果に基づき、本発明に係るポリヌクレオチドにおけるDNA配列について、2本鎖DNA断片を約5~10クローンを選択する。
【0022】
本発明に係るポリヌクレオチドにおけるDNA配列のクローニングは、前記2本鎖DNA断片クローンの連結により行う。例えば、8クローン(8対)が選択された場合には、これらの2本鎖DNA断片を順次、連結することにより、本発明に係るポリヌクレオチドにおけるDNA配列を得ることができる。次いで、この全長DNAを、前述と同様にしてクローニングする。尚、上記連結の際は、2本鎖DNAの各断片の両末端には連結用の制限酵素cohesiveサイトの導入が好ましい。
【0023】
本発明に係るポリヌクレオチドを含む発現ベクターの構築には、既知又は市販の、宿主が哺乳類細胞の発現用ベクターを用いることができる。当該発現ベクターの構築は、例えば、前記クローニングベクターから本発明に係るポリヌクレオチドを含む制限酵素断片を切出した後、これと同一の酵素で開裂したベクターの制限酵素サイトに挿入連係することにより行う。次いで、構築した発現ベクターを宿主(ヒト由来細胞)に移入することにより形質転換体が得られる。
【0024】
発現ベクターに組込むポリヌクレオチドには、必要に応じ、予めその上流に転写プロモーター、及びKozak配列を連結しておいてもよいし、下流にターミネーターを連結しておいてもよく、その他、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー等を連結しておくこともできる。なお、上記転写プロモーター等の遺伝子発現に必要な各要素は、初めから当該ポリヌクレオチドに含まれていてもよいし、もともと発現ベクターに含まれている場合はそれを利用してもよく、各要素の使用態様は特に限定はされない。
【0025】
また、宿主に用いるヒト由来細胞としては、限定はされないが、例えば、ヒト繊維芽細胞、ヒト胎児腎細胞、HEK293細胞、HEK293T細胞、293F細胞、Expi293F(登録商標)細胞などが挙げられる。
形質転換体を得る方法は、限定はされず、宿主と発現ベクターとの種類の組み合わせを考慮して適宜選択できるが、例えば、電気穿孔法、リポフェクション法、ヒートショック法、PEG法、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、並びに、DNAウイルスやRNAウイルス等の各種ウイルスを感染させる方法などが挙げられる。なお、本発明で言う「形質転換体」とは宿主に外来遺伝子が導入されたものを意味し、例えば、宿主にプラスミドDNA等を導入すること(形質転換)で外来遺伝子が導入されたもの、並びに、宿主に各種ウイルス及びファージを感染させること(形質導入)で外来遺伝子が導入されたものがいずれも包含される。得られた形質転換体は、本発明に係るポリヌクレオチドの発現系として選別及び利用することができる。
【0026】
本発明に係るポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドの量産は、上記のヒト由来細胞の形質転換体の培養により行う。培養系は、ポリペプチドの生産収率を高める観点から、インデューサーの使用、培地組成、培養の温度と時間、宿主細胞内プロテアーゼの除去などについて、改良や改善が可能であり、例えば、発現ベクターの改造、更に、プロモーターや宿主細胞の種類の変更等により行うことができる。
【0027】
発現及び産生されるポリペプチドが細胞外へ分泌される場合には、形質転換体の培養物の培養液をポリペプチド抽出の出発材料として用いる。細胞内に蓄積される場合は、例えば、培養物から遠心及び濾過等により回収した細胞からポリペプチドを抽出する。その後の抽出の手段や手法については周知の技術及び条件を用いることができる。
得られたポリペプチドの検出とサイズの確認は、例えば、沈降係数の測定、分子ふるい、SDS-ポリアクリルアミド電気泳動等により行うことができる。また、ポリペプチドの抗原性は、SERA5の47kdに対するポリクローナル抗体やモノクローナル抗体を用いるWestern blot分析、ELISA、凝集反応,蛍光抗体法、ラジオイムノアッセイ等での抗原抗体反応により確認できる。ポリペプチドの免疫原性の測定及び確認は前述のとおり行うことができる。
【0028】
本発明においては、上述のようにして得られたポリペプチドを抗原とし、マラリア原虫の感染が疑われる患者の血清等を被験試料として、沈降反応、凝集反応、中和反応、蛍光抗体法、酵素免疫測定法、ラジオイムノアッセイ等によって抗SE36抗体を検出することができる。これにより、被験試料中に抗体が検出されればマラリア原虫に感染していると診断することができる。
【0029】
また、本発明においては、上述のようにして得られたポリペプチドの抗体(当該ポリペプチドに対する結合活性を有する抗体)も包含され、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体のいずれであってもよい。当該抗体は、マラリア原虫感染症の診断に使用し得る。そのため、本発明においては、当該抗体を含有するマラリア原虫感染症の診断剤や診断用医薬組成物も提供され得る。当該抗体は、抗原検出用として使用し、マラリア原虫の感染が疑われる患者の血清等の被験試料中に抗原が検出されれば、マラリア原虫に感染していると診断することができる。当該抗体は、例えば、前記ポリペプチドを、常法に従って、動物、例えば、ウサギ、モルモット、マウス等の腹腔内、皮下や筋肉内等に接種し、抗体産生させたこれらの動物の血清から採取し得る。本発明においては、抗体の断片(部分断片)も、本発明における抗体に含まれるものとする。ここで、当該抗体断片は、本発明における抗体と同様に、前述のとおり得られたポリペプチドに対する結合活性を有するである。当該抗体断片は、本発明における抗体の一部分の領域(すなわち、本発明における抗体に由来する抗体断片)を意味し、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv(variable fragment of antibody)、一本鎖抗体(H鎖、L鎖、H鎖V領域、及びL鎖V領域等)、scFv、diabody(scFv二量体)、dsFv(ジスルフィド安定化V領域)、並びに、相補性決定領域(complementarity determining region:CDR)を少なくとも一部に含むペプチド等が挙げられる。
【0030】
上述した診断用の抗原ポリペプチドや抗体は、これらの診断剤中の含量が、抗原抗体反応を呈するに必要な量となるよう、例えば、PBS等の溶媒で希釈調整して使用に供することが望ましい。
また上記診断の対象とするマラリア原虫感染症としては、三日熱マラリア、四日熱マラリア、卵形マラリア、及び熱帯熱マラリアによるいずれの感染症も挙げられ、限定はされないが、抗原又は抗体としての特異性の高さから、熱帯熱マラリア原虫感染症が好ましい。
【0031】
本発明においては、前述した、本発明に係るポリヌクレオチド、又はポリペプチドを含む、マラリア原虫感染症の予防及び/又は治療用ワクチンも提供され得る。当該ワクチンの対象疾患となるマラリア原虫感染症としては、前述のとおり、各種マラリアによる感染症が挙げられるが、抗原としての特異性の高さから、熱帯熱マラリア原虫感染症が好ましい。
本発明に係るポリヌクレオチドを含むワクチンとしては、限定はされないが、例えば、ウイルスベクターワクチン、DNAワクチン、mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン等が挙げられ、ポリペプチドを含むワクチンとしては、限定はされないが、例えば、組換えタンパクワクチン等が挙げられる。本発明に係るポリヌクレオチドは、前述のとおり、ヒト由来細胞内で高発現し得るものであるため、当該ポリヌクレオチドを含むワクチンは、ヒト免疫系に抗原タンパク質(ポリペプチド)を多く提示することができ、有用性が高いと考えられる。
【0032】
なお、各種ワクチンの調製や製剤化、ワクチンの検定、及び各種アジュバントとの併用については、当業者において通常知られている公知の手段、手法及び知見を適用して行うことができる。
また、本発明においては、上記ワクチンを、マラリア原虫の感染が疑われる又はマラリア原虫感染症に罹患している対象(患者)に投与することを含む、マラリア原虫感染症の予防及び/又は治療方法も提供される。当該予防及び治療の対象となるマラリア原虫感染症としては、前述のとおり、各種マラリアによる感染症が挙げられるが、熱帯熱マラリア原虫感染症が好ましい。当該予防及び治療方法における上記ワクチンの用法及び用量については、ワクチンの種類や形態に応じて、また当業者において通常知られている公知の知見に基づいて、適宜設定できる。
【0033】
なお、本発明においては、本発明に係るポリヌクレオチド又はポリペプチドを含む、マラリア原虫感染症の予防及び/又は治療用医薬組成物や、マラリア原虫感染症の予防及び/又は治療方法において使用される本発明に係るポリヌクレオチド又はポリペプチドや、マラリア原虫感染症を予防及び/又は治療するための本発明に係るポリヌクレオチド又はポリペプチドの使用や、マラリア原虫感染症を予防及び/又は治療する薬剤を製造するための本発明に係るポリヌクレオチド又はポリペプチドの使用などに係るいずれの発明も包含される。
【0034】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0035】
<哺乳類細胞用発現ベクター構築>
SE36-original (配列番号5)、SE36-Human-maximized (配列番号1)、SE36-Human-maximized-short (配列番号3)を、それぞれ人工遺伝子合成(GeneArt Strings DNA Fragments、Thermo Fisher Scientific)により直線状二本鎖DNAフラグメントとして調製した。調製したDNAフラグメントを、それぞれPCR法のテンプレートとし、発現ベクター用のインサートDNAを作製した。作製したインサートDNAをpcDNA3.1(+) (Thermo Fisher Scientific)のKpn I及びNot Iの制限酵素間にクローニングし、SE36-original (配列番号5)、SE36-Human-maximized (配列番号1)、SE36-Human-maximized-short (配列番号3)を、それぞれ組込んだ哺乳類細胞用発現ベクターとして、pcDNA-SE36-original Vector、pcDNA-SE36-Human-maximized Vector、pcDNA-SE36-Human-maximized-short Vectorを構築した(
図3-1~
図3-3参照)。
【0036】
構築した哺乳類細胞用発現ベクターについては、以下の方法で、目的の発現ベクターが構築されていることを確認した。まず、挿入したインサート配列及びその周辺領域のDNAシークエンス解析をし、目的の配列が意図した場所に挿入されていることを確認した。
次に、構築した哺乳類細胞用発現ベクターを、Kpn I-HF (New England Biolabs)、Xho I-HF (New England Biolabs)、及びMlu I-HF (New England Biolabs)の各制限酵素で処理した。pcDNA-SE36-original Vectorにおいて、Kpn I-HFによる処理では6,384 bp、Xho I-HFによる処理では5,896 bp及び488 bp、Mlu I-HFによる処理では6,384 bpのバンドがそれぞれ検出された(
図4-1参照)。pcDNA-SE36-Human-maximized Vectorにおいて、Kpn I-HFによる処理では6,387 bp、Xho I-HFによる処理では6,387 bp、Mlu I-HFによる処理では4,920 bp及び1,467 bpのバンドがそれぞれ検出された(
図4-2参照)。pcDNA-SE36-Human-maximized-short Vectorにおいて、Kpn I-HFによる処理では6,174 bp、Hind III-HF及びXho I-HFによる処理では5,354 bp及び820 bp、Mlu I-HFによる処理では4,920 bp及び1,254 bpのバンドがそれぞれ検出された(
図4-3参照)。
また、標的タンパク質の発現量は、SE36-Human-maximizedが最も多く、次にSE36-Human-maximized-short、最後にSE36-originalであった。画像解析の結果、SE36-Human-maximizedの発現量はSE36-originalの約65倍であり、SE36-Human-maximized-shortの発現量はSE36-originalの約28倍であることが確認された。