(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118982
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】飲食品、食品添加物、サプリメント、医薬品及び医薬部外品
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20240826BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240826BHJP
A61K 31/352 20060101ALI20240826BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L2/00 F
A23L2/52
A61K31/352
A61P19/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025629
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(71)【出願人】
【識別番号】591046892
【氏名又は名称】富士産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲田 全規
(72)【発明者】
【氏名】平田 美智子
(72)【発明者】
【氏名】草野 崇一
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB03
4B018LB04
4B018LB05
4B018LB06
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB09
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE05
4B018MD07
4B018ME05
4B117LC04
4B117LK06
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA96
(57)【要約】
【課題】骨疾患の予防又は治療のための飲食品、食品添加物、サプリメント、医薬品又は医薬部外品を提供する。
【解決手段】デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの少なくとも一方を有効成分として含む、骨疾患の予防又は治療のための飲食品、食品添加物、サプリメント、医薬品又は医薬部外品。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの少なくとも一方を有効成分として含む、骨疾患の予防又は治療のための飲食品。
【請求項2】
デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの少なくとも一方を有効成分として含む、骨疾患の予防又は治療のための食品添加物。
【請求項3】
デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの少なくとも一方を有効成分として含む、骨疾患の予防又は治療のためのサプリメント。
【請求項4】
デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの少なくとも一方を有効成分として含む、骨疾患の予防又は治療のための医薬品又は医薬部外品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品、食品添加物、サプリメント、医薬品及び医薬部外品に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢に伴い骨量が減少する骨粗しょう症の患者数は人口の高齢化が進む国々において増大傾向にあり、深刻な社会問題となっている。
骨粗しょう症などの骨疾患の治療には種々の医薬品が使用されているが、副作用などの解決すべき課題はいまだ存在する。さらに、生活習慣の改善などを通じて骨疾患を予防することへの意識が高まりつつあり、機能性食品などの医薬品以外の分野でも骨疾患の予防又は治療に有用な物質の探索が重要性を増している。
骨疾患の予防又は治療に有用な物質として、例えば、非特許文献1~3には柑橘類由来のポリメトキシフラボノイドであるノビレチン又はタンゲレチンが破骨細胞の分化を抑制する作用を有することが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Pharmaceuticals. 11: 7, 2018
【非特許文献2】J. Pharmacol. Sci. 119: 390-394, 2012
【非特許文献3】J. Pharmacol. Sci. 115: 89-93, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
骨疾患の予防又は治療に有用な物質を新たに見出すことは、骨疾患の予防又は治療のための新たな手段を社会に提供するものであり、その意義は大きい。
上記事情に鑑み、本開示は骨疾患の予防又は治療に有用である飲食品、食品添加物、サプリメント、医薬品及び医薬部外品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段には、以下の通りである。
<1>デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの少なくとも一方を有効成分として含む、骨疾患の予防又は治療のための飲食品。
<2>デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの少なくとも一方を有効成分として含む、骨疾患の予防又は治療のための食品添加物。
<3>デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの少なくとも一方を有効成分として含む、骨疾患の予防又は治療のためのサプリメント。
<4>デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの少なくとも一方を有効成分として含む、骨疾患の予防又は治療のための医薬品又は医薬部外品。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、骨疾患の予防又は治療に有用である飲食品、食品添加物、サプリメント、医薬品及び医薬部外品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】破骨細胞の分化に対する4’-DeNOB及び4’-DeTANの作用を示すグラフである。
【
図2】破骨細胞前駆細胞に対する4’-DeNOB及び4’-DeTANの作用を示すグラフである。
【
図3】破骨細胞の分化に対する4’-DeNOB及び4’-DeTANの作用を示すグラフである。
【
図4】破骨細胞前駆細胞に対する4’-DeNOB及び4’-DeTANの作用を示すグラフである。
【
図5】閉経後骨粗鬆症モデルマウスに対する4’-DeNOB及び4’-DeTANの作用を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示に係る実施形態について詳細に説明する。ただし、以下の説明によって本開示の範囲が制限されるものではない。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本開示において、デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの少なくとも一方を含む場合には、デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンのいずれか一方のみを含む場合と、デメチルノビレチンとデメチルタンゲレチンの両方を含む場合とが包含される。
【0009】
本開示において予防又は治療の対象である骨疾患として具体的には、骨粗しょう症、歯周病、変形性関節炎、慢性リウマチ、廃用性骨萎縮等の骨量の減少を伴う疾患が挙げられる。
【0010】
本開示において骨疾患の予防又は治療には、発症を防止すること、症状を軽減又は消失させること、及び症状の進行を抑制することが含まれる。また、骨疾患の予防又は治療を破骨細胞の分化の抑制、骨量減少の抑制、骨量増大の促進、又は骨リモデリングにおける骨形成と骨吸収とのバランスの改善と言い換えてもよい。
【0011】
<デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチン>
本開示において骨疾患の予防又は治療のための有効成分として使用されるデメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンは、ノビレチン又はタンゲレチンの脱メチル化体を意味し、具体的には下記式で表される化合物を意味する。
【0012】
【0013】
式中のR1~R6はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、R1~R6の少なくとも1つは水素原子である。nは0又は1である。
式中のnが1である化合物がデメチルノビレチンであり、式中のnが0である化合物がデメチルタンゲレチンである。
【0014】
破骨細胞の分化を抑制する効果の観点からは、式中のR1が水素原子でありR2~R6がそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であることが好ましく、式中のR1が水素原子でありR2~R6がそれぞれメチル基である(すなわち、4’-デメチルノビレチン又は4’-デメチルタンゲレチンである)ことがより好ましい。
【0015】
デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンは、天然物由来のものであってもよく、人工的に合成したものであってもよい。天然物由来のデメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンとしては、例えば、柑橘類に含まれるノビレチン又はタンゲレチンに対して脱メチル処理を行って得られるものが挙げられる。脱メチル化処理の方法は特に制限されない。例えば、特開2022-77501号公報に記載されているような麹菌を用いた発酵処理であってもよい。
【0016】
<飲食品>
本開示の一実施形態は、デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの少なくとも一方を有効成分として含む、骨疾患の予防又は治療のための飲食品である。
後述する実施例に示すように、本開示の飲食品に有効成分として含まれるデメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンは破骨細胞の分化を効果的に抑制する。さらに、デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの破骨細胞の分化を抑制する効果は既報の脱メチル化されていないノビレチン又はタンゲレチンの効果よりも大きい。
したがって、本開示の飲食品は骨疾患の予防又は治療に有用である。
【0017】
本開示の飲食品の種類は特に制限されず、乳製品、穀物加工品、肉加工品、水産加工品、大豆加工品、野菜加工品、油脂加工品、菓子、飲料、調味料等が挙げられる。
飲食品は、特定保健用食品、機能性表示食品等の区分に該当しても、該当しなくてもよい。
【0018】
必要に応じ、本開示の飲食品は、デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチン以外の骨疾患の予防又は治療に有用な他の成分を含んでもよい。他の成分として具体的には、大豆イソフラボン、カルシウム、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンK等のビタミン類又はその誘導体、ホエイたんぱく質、ミルクベーシックプロテイン(MBP)等が挙げられる。
【0019】
本開示の飲食品の摂取量は特に制限されないが、たとえば、成人1日当たりのデメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの少なくとも一方の摂取量が30mg~10000mg、好ましくは50mg~10000mg、より好ましくは80mg~10000mgの範囲となるようにすることができる。
【0020】
<食品添加物>
本開示の一実施形態は、デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの少なくとも一方を有効成分として含む、骨疾患の予防又は治療のための食品添加物である。
後述する実施例に示すように、本開示の食品添加物に有効成分として含まれるデメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンは破骨細胞の分化を効果的に抑制する。さらに、デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの破骨細胞の分化を抑制する効果は既報の脱メチル化されていないノビレチン又はタンゲレチンの効果よりも大きい。
したがって、本開示の食品添加物は骨疾患の予防又は治療に有用である。
【0021】
必要に応じ、本開示の食品添加物は、デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチン以外の骨疾患の予防又は治療に有用な他の成分を含んでもよい。他の成分として具体的には、大豆イソフラボン、カルシウム、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンK等のビタミン類又はその誘導体、ホエイたんぱく質、ミルクベーシックプロテイン(MBP)等が挙げられる。
【0022】
必要に応じ、本開示の食品添加物はデメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチン以外の成分を含んでもよい。他の成分として具体的には、着色料、保存料、甘味料、増粘剤、安定剤、ゲル化剤、酸化防止剤、乳化剤、香料などが挙げられる。
【0023】
本開示の食品添加物の摂取量は特に制限されないが、たとえば、成人1日当たりのデメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの少なくとも一方の摂取量が30mg~10000mg、好ましくは50mg~10000mg、より好ましくは80mg~10000mgの範囲となるようにすることができる。
【0024】
<サプリメント>
本開示の一実施形態は、デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの少なくとも一方を有効成分として含む、骨量減少を抑制するためのサプリメントである。
後述する実施例に示すように、本開示の食品添加物に有効成分として含まれるデメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンは破骨細胞の分化を効果的に抑制する。さらに、デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの破骨細胞の分化を抑制する効果は既報の脱メチル化されていないノビレチン又はタンゲレチンの効果よりも大きい。
したがって、本開示のサプリメントは骨疾患の予防又は治療に有用である。
【0025】
必要に応じ、本開示のサプリメントは、デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチン以外の骨疾患の予防又は治療に有用な他の成分を含んでもよい。他の成分として具体的には、大豆イソフラボン、カルシウム、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンK等のビタミン類又はその誘導体、ホエイたんぱく質、ミルクベーシックプロテイン(MBP)等が挙げられる。
【0026】
必要に応じ、本開示のサプリメントはデメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチン以外の成分を含んでもよい。他の成分として具体的には、着色料、保存料、甘味料、増粘剤、安定剤、ゲル化剤、酸化防止剤、乳化剤、香料などが挙げられる。
【0027】
本開示のサプリメントの形態は特に制限されず、錠剤、顆粒剤、散剤、ドリンク剤等であってよい。
【0028】
本開示のサプリメントの摂取量は特に制限されないが、たとえば、成人1日当たりのデメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの少なくとも一方の摂取量が30mg~10000mg、好ましくは50mg~10000mg、より好ましくは80mg~10000mgの範囲となるようにすることができる。
【0029】
<医薬品又は医薬部外品>
本開示の一実施形態は、デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの少なくとも一方を有効成分として含む、骨疾患の予防又は治療のための医薬品又は医薬部外品である。
後述する実施例に示すように、本開示の医薬品又は医薬部外品に有効成分として含まれるデメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンは破骨細胞の分化を効果的に抑制する。さらに、デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの破骨細胞の分化を抑制する効果は既報の脱メチル化されていないノビレチン又はタンゲレチンの効果よりも大きい。
したがって、本開示の医薬品又は医薬部外品は骨疾患の予防又は治療に有用である。
【0030】
必要に応じ、本開示の医薬品又は医薬部外品は、デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチン以外の骨疾患の予防又は治療に有用な他の成分を含んでもよい。他の成分として具体的には、大豆イソフラボン、カルシウム、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンK等のビタミン類又はその誘導体、ホエイたんぱく質、ミルクベーシックプロテイン(MBP)等が挙げられる。
【0031】
本開示の医薬品又は医薬部外品は、添加物又は薬学的に許容可能な担体を含んでもよい。添加物又は薬学的に許容可能な担体として具体的には、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、緩衝剤、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、懸濁化剤、乳化剤、溶剤、増粘剤、粘液溶解剤、湿潤剤、防腐剤などが挙げられる。
【0032】
本開示の医薬品又は医薬部外品の形態は特に制限されず、経口剤又は非経口剤のいずれであってもよい。経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、シロップ剤等が挙げられる。非経口剤としては、注射剤、点滴剤、軟膏剤、点鼻剤、坐剤等が挙げられる。
【0033】
本開示の医薬品又は医薬部外品の投与量は特に制限されないが、たとえば、経口投与の場合は成人1日当たりのデメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの少なくとも一方の摂取量が30mg~10000mg、好ましくは50mg~10000mg、より好ましくは80mg~10000mgの範囲となるようにすることができる。非経口投与の場合は成人1日当たりのデメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの少なくとも一方の投与量が1mg~4000mg、好ましくは1.5mg~4000mg、より好ましくは3mg~4000mgの範囲となるようにすることができる。
【0034】
<骨疾患の予防又は治療方法>
本開示の骨疾患の予防又は治療方法は、デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの少なくとも一方を生体に投与することを含む。生体は人間であっても人間以外の動物であってもよい。
本開示の方法によれば、骨疾患を効果的に予防又は治療することができる。
【0035】
デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの少なくとも一方を生体に投与する方法は特に制限されない。例えば、飲食品、食品添加物、サプリメント、医薬品又は医薬部外品に含まれる有効成分として投与してもよい。
【0036】
デメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの少なくとも一方の投与量は特に制限されないが、例えば、経口投与の場合は成人1日当たりのデメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの少なくとも一方の摂取量が30mg~10000mg、好ましくは50mg~10000mg、より好ましくは80mg~10000mgの範囲となるようにすることができる。非経口投与の場合は成人1日当たりのデメチルノビレチン又はデメチルタンゲレチンの少なくとも一方の投与量が1mg~4000mg、好ましくは1.5mg~4000mg、より好ましくは3mg~4000mgの範囲となるようにすることができる。
【実施例0037】
以下、本開示を実施例により詳細に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0038】
<実験の概要>
破骨細胞は、骨吸収(古い骨の破壊)と骨形成(新しい骨を造る)とからなる骨リモデリングの過程において、骨吸収を司る細胞である。破骨細胞は、単球・マクロファージ系の前駆細胞から分化するが、その分化は、骨芽細胞の細胞表面に発現している破骨細胞分化誘導因子(RANKL)によって調節されている。骨吸収因子であるインターロイキン-1(IL-1)は、骨芽細胞に作用してRANKLの発現を亢進し、破骨細胞の形成を促して、骨吸収活性を発揮する。
以下の実験では、マウス骨芽細胞と骨髄細胞の共存培養系における破骨細胞の分化に対する4’-DeNOB及び4’-DeTANの作用、並びに、破骨細胞前駆細胞株Raw264.7培養系における破骨細胞の分化に対する4’-DeNOB及び4’-DeTANの作用を解析した。
さらに、骨粗鬆症への有効性を評価するために雌性マウスに卵巣摘出手術を施して閉経後骨粗鬆症モデル(OVX)マウスを作出し、OVXマウスに4’-DeNOB及び4’-DeTANを投与して骨破壊に対する抑制作用を解析した。
【0039】
以下の実験において、4’-デメチルノビレチンを4’-DeNOB(下記構造)と称し、4’-デメチルタンゲレチンを4’-DeTAN(下記構造)と称し、ノビレチンをNOBと称し、タンゲレチンをTANと称している。
【0040】
【0041】
<結果の概要>
(1)破骨細胞の分化に対する4’-DeNOB及び4’-DeTANの作用の検討
マウス骨芽細胞と骨髄細胞の共存培養系にIL-1(2ng/ml)を添加すると、培養7日目において、酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ(TRAP)陽性で多核の破骨細胞が形成された。この培養系に、NOB、TAN、4’-DeNOB及び4’-DeTAN(それぞれ30μM)をIL-1と共に添加した。その結果、
図1に示すように、IL-1により誘導される破骨細胞の分化がNOB、TAN、4’-DeNOB及び4’-DeTANの添加によって有意に抑制された。また、NOB及びTANと比べると4’-DeNOB及び4’-DeTANはより顕著な破骨細胞分化の抑制効果を示した。
【0042】
図1において、AはTRAP染色による破骨細胞像であり、BはTRAP陽性多核破骨細胞数を示すグラフである。グラフには平均値±標準偏差(SD)と個々のデータプロット(n=5)を示す。統計的有意差はone-way ANOVA後のTukey法により算出した(
****P<0.0001 vs Control;
####P<0.0001 vs IL-1;
†P<0.05)。
【0043】
(2)破骨細胞前駆細胞に対する4’-DeNOB及び4’-DeTANの作用の検討
破骨細胞前駆細胞株であるRaw264.7細胞は、可溶性RANKL(sRANKL)の添加により破骨細胞に分化することが知られている。骨吸収抑制作用のメカニズムとして破骨細胞前駆細胞への作用を調べるために、Raw264.7細胞培養系にNOB、TAN、4’-DeNOB及び4’-DeTAN(それぞれ30μM)をsRANKLと共に添加した。その結果、
図2に示すように、sRANKLによる破骨細胞の分化がNOB、TAN、4’-DeNOB及び4’-DeTANの添加によって有意に抑制された。また、NOB及びTANと比べると4’-DeNOB及び4’-DeTANはより顕著な破骨細胞分化の抑制効果を示した。
【0044】
図2は破骨細胞数を示すグラフである。グラフには平均値±標準偏差(SD)と個々のデータプロット(n=3)を示す。統計的有意差はone-way ANOVA後のTukey法により算出した(
****P<0.0001 vs Control;
##P<0.01,
####P<0.0001 vs IL-1;
†††P<0.01,
††††P<0.0001)。
【0045】
(3)破骨細胞の分化に対する4’-DeNOB、4’-DeTAN及びこれらの混合標品の作用の検討
マウス骨芽細胞と骨髄細胞の共存培養系にIL-1(2ng/ml)を添加すると、培養7日目において、酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ(TRAP)陽性で多核の破骨細胞が形成された。この培養系に、4’-DeNOB(5μg/mL)、4’-DeTAN(7μg/mL)及びこれらの混合標品(10μg/mL)をIL-1と共に添加した。その結果、
図3に示すように、IL-1により誘導される破骨細胞の分化は4’-DeNOB、4’-DeTAN及びこれらの混合標品の添加によって用量依存的に抑制された。
【0046】
図3において、AはTRAP染色による破骨細胞像であり、BはTRAP陽性多核破骨細胞数を示すグラフである。グラフには平均値±標準偏差(SD)と個々のデータプロット(n=6)を示す。統計的有意差はone-way ANOVA後のTukey法により算出した(
****P<0.0001 vs Control;
####P<0.0001 vs IL-1)。
【0047】
(4)破骨細胞前駆細胞に対する4’-DeNOB、4’-DeTAN及びこれらの混合標品の作用の検討
RAW264.7細胞培養系に4’-DeNOB(1μg/mL)、4’-DeTAN(5μg/mL)及びこれらの混合標品(10μg/mL)をsRANKLと共に添加した。その結果、
図4に示すように、sRANKLによる破骨細胞の分化は4’-DeNOB、4’-DeTAN及びこれらの混合標品の添加によって用量依存的に抑制された。
【0048】
図4は破骨細胞数を示すグラフである。グラフには平均値±標準偏差(SD)と個々のデータプロット(n=4)を示す。統計的有意差はone-way ANOVA後のTukey法により算出した(
****P<0.0001 vs Control;
####P<0.0001 vs sRANKL)。
【0049】
(5)閉経後骨粗鬆症モデルマウスに対する4’-DeNOBと4’-DeTANの混合標品の作用の検討
雌性マウスに卵巣摘出手術(OVX)を施すことで、閉経後骨粗鬆症モデルマウスを作製し、このモデルマウスに4’-DeNOBと4’-DeTANの混合標品の腹腔内投与を4週間実施した。その後、大腿骨の骨微細構造パラメーターとしてマイクロCTにより、骨梁割合(Bone volume/Tissue volume,BV/TV)、骨梁数(Trabecular number,Tb.N)、連結性密度(Connective density,Conn.D)を計測した。その結果、
図5に示すように、OVXによって悪化したパラメーターが4’-DeNOBと4’-DeTANの混合標品の投与によって有意に改善した。
【0050】
図5は骨微細構造パラメーターとしての骨梁割合(BV/TV)、骨梁数(Tb.N)、連結性密度(Conn.D)をそれぞれ示すグラフである。グラフには平均値±標準偏差(SD)と個々のデータプロット(n=5)を示す。統計的有意差はone-way ANOVA後のTukey法により算出した(
*P<0.05,
**P<0.01,
****P<0.0001)。Shamは卵巣を摘出しない疑手術を施したコントロール群を示す。
【0051】
以上の結果から、デメチルノビレチン及びデメチルタンゲレチンが破骨細胞の分化を抑制する効果を示すこと、及びその効果はノビレチン及びタンゲレチンと比べて大きいことがわかった。