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特開2024-119013剥離フィルム、剥離フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119013
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】剥離フィルム、剥離フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20240826BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023137980
(22)【出願日】2023-08-28
(31)【優先権主張番号】P 2023024774
(32)【優先日】2023-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】宮宅 一仁
(72)【発明者】
【氏名】竹上 竜太
(72)【発明者】
【氏名】玉國 史子
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK12C
4F100AK12H
4F100AK41B
4F100AK52A
4F100AR00
4F100AT00
4F100BA03
4F100CA24C
4F100CA24H
4F100CC102
4F100CC10A
4F100CC10C
4F100EH462
4F100EH46A
4F100EH46C
4F100GB90
4F100JK06
4F100JK14
4F100JL14
4F100YY00
(57)【要約】
【課題】 剥離層表面の転写痕を抑制できる剥離フィルムの提供。
【解決手段】 剥離層と、実質的に無機粒子を含まないポリエステル基材と、突起含有層とを、この順に含む剥離フィルムであって、剥離層の表面から測定したときの複合弾性率が4.0GPa以上であり、突起含有層における、最も突出している突起が有機物からなる、剥離フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥離層と、実質的に無機粒子を含まないポリエステル基材と、突起含有層とを、この順に含む剥離フィルムであって、
前記剥離層の表面から測定したときの複合弾性率が4.0GPa以上であり、
前記突起含有層における、最も突出している突起が有機物からなる、剥離フィルム。
【請求項2】
前記剥離層の厚みが、3~300nmである、請求項1に記載の剥離フィルム。
【請求項3】
前記剥離層が、白金元素を含むポリシロキサン樹脂層である、請求項1に記載の剥離フィルム。
【請求項4】
前記突起含有層表面の粗さ曲線要素の平均長さRSmが10μm超である、請求項1に記載の剥離フィルム。
【請求項5】
前記突起含有層表面の最大突起高さSpが50nm以上である、請求項1に記載の剥離フィルム。
【請求項6】
前記突起含有層が、要件1および要件2のうち少なくとも一方の要件を満たす、請求項1に記載の剥離フィルム。
(要件1)架橋構造を含む
(要件2)ポリエステルと架橋樹脂粒子を含む
【請求項7】
前記有機物が、スチレン残基を含む、請求項1に記載の剥離フィルム。
【請求項8】
前記剥離フィルムの全質量に対して、アンチモンの含有量が0~3質量ppmである、請求項1に記載の剥離フィルム。
【請求項9】
前記ポリエステル基材と前記剥離層とが隣接しており、前記剥離層表面の最大突起高さSpが1~30nmである、請求項1に記載の剥離フィルム。
【請求項10】
前記剥離フィルムの厚みが18~40μmである、請求項1に記載の剥離フィルム。
【請求項11】
セラミックグリーンシート製造用である、請求項1に記載の剥離フィルム。
【請求項12】
剥離層と、実質的に無機粒子を含まないポリエステル基材と、最も突出している突起が有機物からなる突起含有層とを、この順に含む剥離フィルムの製造方法であって、
前記剥離フィルムに含まれる前記剥離層の表面から測定したときの複合弾性率が4.0GPa以上であり、
(a)および(b)いずれか一方の工程を含む、剥離フィルムの製造方法。
(a)前記ポリエステル基材の片面に、樹脂と有機粒子を含む組成物を塗布し、前記突起含有層を形成する工程
(b)有機粒子を含むポリエステルペレットと、無機粒子を含まないポリエステルペレットとを共押出成形して、前記突起含有層と、前記ポリエステル基材とを形成する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離フィルム、及び、剥離フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル基材は、種々の用途に使用されている。例えば、タッチパネル用のフィルム、光学部材用のフィルム、成形用の基材、加飾フィルムの基材、及び、感光性層の基材等の用途に用いられている。
【0003】
用途の一つとして、剥離フィルムが挙げられる。具体的には、ポリエステル基材上に剥離層を設けて、その剥離層上に各種部材を製造した後、その部材を剥離するという用途である。
例えば、特許文献1では、ポリエステル基材と、ポリエステル基材の一方の表面上に配置された剥離層とを有する、セラミックグリーンシート製造用離型フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2023/281972号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
剥離フィルムの搬送面には、搬送時のシワ抑制等を目的として突起を設けることが多いが、剥離フィルムをロール状に巻き取って保管する際に、搬送面の突起が剥離面に転写されて転写痕が形成されることがある。
本発明者らは、特許文献1に記載されるフィルムを用いて、剥離層上で各種部材を製造し、その部材の剥離を行ったところ、上記の剥離層表面における転写痕の形成により部材表面の平滑性が失われる場合があった。特に、剥離フィルムの剥離層表面に凹状の転写痕が存在すると、その凹形状がセラミックグリーンシートに転写されてセラミックグリーンシートの厚みが変動し、積層セラミックコンデンサを製造した際に性能が低下するおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、上記実情に鑑みて、剥離層表面の転写痕を抑制できる剥離フィルムを提供することを課題とする。
また、本発明は、剥離フィルムの製造方法の提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。すなわち、以下の構成により上記課題が解決されることを見出した。
【0008】
(1) 剥離層と、実質的に無機粒子を含まないポリエステル基材と、突起含有層とを、この順に含む剥離フィルムであって、
剥離層の表面から測定したときの複合弾性率が4.0GPa以上であり、
突起含有層における、最も突出している突起が有機物からなる、剥離フィルム。
(2) 剥離層の厚みが、3~300nmである、(1)に記載の剥離フィルム。
(3) 剥離層が、白金元素を含むポリシロキサン樹脂層である、(1)又は(2)に記載の剥離フィルム。
(4) 突起含有層表面の粗さ曲線要素の平均長さRSmが10μm超である、(1)~(3)のいずれかに記載の剥離フィルム。
(5) 突起含有層表面の最大突起高さSpが50nm以上である、(1)~(4)のいずれかに記載の剥離フィルム。
(6) 突起含有層が要件1および要件2のうち少なくとも一方の要件を満たす、(1)~(5)のいずれかに記載の剥離フィルム。
(要件1)架橋構造を含む
(要件2)ポリエステルと架橋樹脂粒子を含む
(7) 上記有機物が、スチレン残基を含む、(1)~(6)のいずれかに記載の剥離フィルム。
(8) 剥離フィルムの全質量に対して、アンチモン元素の含有量が0~3質量ppmである、(1)~(7)のいずれかに記載の剥離フィルム。
(9) ポリエステル基材と剥離層とが隣接しており、剥離層表面の最大突起高さSpが1~30nmである、(1)~(8)のいずれかに記載の剥離フィルム。
(10) 剥離フィルムの厚みが18~40μmである、(1)~(9)のいずれかに記載の剥離フィルム。
(11) セラミックグリーンシート製造用である、(1)~(10)のいずれかに記載の剥離フィルム。
(12) 剥離層と、実質的に無機粒子を含まないポリエステル基材と、最も突出している突起が有機物からなる突起含有層とを、この順に含む剥離フィルムの製造方法であって、
上記剥離フィルムに含まれる上記剥離層の表面から測定したときの複合弾性率が4.0GPa以上であり、
(a)および(b)いずれか一方の工程を含む、剥離フィルムの製造方法。
(a)上記ポリエステル基材の片面に、樹脂と有機粒子を含む組成物を塗布し、上記突起含有層を形成する工程
(b)有機粒子を含むポリエステルペレットと、無機粒子を含まないポリエステルペレットとを共押出成形して、上記突起含有層と、上記ポリエステル基材とを形成する工程
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、剥離層表面の転写痕を抑制できる剥離フィルムを提供できる。
また、本発明は、剥離フィルムの製造方法も提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされる場合があるが、本発明はそのような実施態様に制限されない。
【0011】
以下、本明細書における各記載の意味を表す。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
本明細書において、「工程」との用語には、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0012】
本明細書において、「長手方向」とは、フィルムの製造時におけるフィルムの長尺方向を意味し、「搬送方向」及び「機械方向」と同義である。
本明細書において、「幅方向」とは、長手方向に直交する方向を意味する。本明細書において、「直交」は、厳密な直交に限られず、略直交を含む。「略直交」とは、90°±5°の範囲内で交わることを意味し、90°±3°の範囲内で交わることが好ましく、90°±1°の範囲内で交わることがより好ましい。
【0013】
本発明の剥離フィルムの特徴点としては、剥離層の表面から測定したときの複合弾性率が4.0GPa以上であり、突起含有層における、最も突出している突起が有機物からなる点が挙げられる。
本発明者らが従来技術の問題点について検討したところ、剥離層の表面から測定したときの複合弾性率が低い場合には、突起含有層に含まれる突起が剥離層表面に転写して転写痕となる場合があった。
本発明者は上記課題に対して鋭意検討したところ、剥離層の表面から測定したときの弾性率を4.0GPa以上とし、かつ、突起含有層における、最も突出している突起を有機物とすることにより、剥離層表面の転写痕を抑制できることを見出した。剥離層表面の転写痕を抑制できた理由の詳細は不明だが、本発明者らは以下のように推定している。剥離層の表面から測定したときの弾性率を4.0GPa以上とすることにより、剥離層の剛性が向上し転写痕が生じにくくなったと考えている。さらに、剥離層への転写痕に大きく影響すると考えられる、最も突出している突起を、弾性率の低い有機物とすることにより、上記剥離層表面への転写痕が形成されにくくなったものと推測している。
【0014】
[剥離フィルム]
本発明の剥離フィルム(以下、単に「本フィルム」ともいう。)は、剥離層と、実質的に無機粒子を含まないポリエステル基材と、突起含有層とを、この順に含む。
本フィルムの好ましい態様としては、剥離層と、上記ポリエステル基材と、突起含有層と、からなる剥離フィルムであることが挙げられる。
以下、本フィルムに含まれる各層について詳述する。
【0015】
<ポリエステル基材>
ポリエステル基材は、主たる成分としてポリエステル樹脂を含むフィルム状の物体である。ここで、「主たる成分」とは、フィルム状の物体に含まれる全ての成分のうち、最も含有量(質量)が多い成分を意味する。
【0016】
ポリエステル基材は、実質的に無機粒子を含まない。「実質的に無機粒子を含まない」とは、ポリエステル基材について、蛍光X線分析で無機粒子に由来する元素を定量分析した際に、無機粒子の含有量がポリエステル基材の全質量に対して50質量ppm以下であることで定義され、好ましくは10質量ppm以下であり、より好ましくは検出限界以下である。これは積極的に無機粒子をポリエステル基材中に添加させなくても、外来異物由来のコンタミ成分、原料樹脂、又は、ポリエステル基材の製造工程におけるライン若しくは装置に付着した汚れが剥離して、ポリエステル基材中に混入する場合があるためである。
ここで、無機粒子としては、後述する突起含有層が含んでもよい無機粒子が挙げられる。
【0017】
ポリエステル基材は、実質的に粒子を含まないことが好ましい。粒子としては、上述の無機粒子、および、有機粒子が挙げられる。
ポリエステル基材が、実質的に粒子を含まないかどうかは、以下の手順によって確認する。
ポリエステル基材の断面の異なる10箇所を、走査型電子顕微鏡にて観察し、ポリエステル基材の断面における10nm以上10μm以下のサイズの粒子の有無を確認する。なお、観察時の倍率は、5000~20000倍の倍率に調整する。いずれかの箇所で粒子が観察される場合、剥離層に粒子が含まれることを意味する。一方で、いずれかの断面の箇所においても粒子が確認されない場合、ポリエステル基材に粒子が含まれないことを意味する。
ここで、有機粒子としては、後述する突起含有層に含まれる有機粒子が挙げられる。
【0018】
ポリエステル基材は、チタン元素及びアルミニウム元素の少なくとも一方を含むことが好ましい。ポリエステル基材は、チタン元素及びアルミニウム元素の両方を含んでいてもよい。
【0019】
ポリエステル基材に含まれるチタン元素は、ポリエステル樹脂の製造に使用する触媒であるチタン化合物由来の元素である場合が多い。
チタン化合物としては、有機キレートチタン錯体が好ましい。有機キレートチタン錯体は、配位子として有機酸を有するチタン化合物である。
有機酸としては、例えば、クエン酸、乳酸、トリメリット酸、及び、リンゴ酸が挙げられる。
チタン化合物としては、特許第5575671号公報の段落[0049]~[0053]に記載されたチタン化合物も利用でき、上記公報の記載内容は、本明細書に組み込まれる。
【0020】
ポリエステル基材に含まれるアルミニウム元素は、ポリエステル樹脂の製造に使用する触媒であるアルミニウム化合物由来の元素である場合が多い。
アルミニウム化合物としては、例えば、有機アルミニウム化合物及びその部分加水分解物が挙げられる。有機アルミニウム化合物としては、カルボン酸塩、無機酸塩、又は、キレート化合物が好ましく、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、又は、アルミニウムアセチルアセトネートがより好ましい。
【0021】
ポリエステル基材としては、2軸配向ポリエステル基材が好ましい。
「2軸配向」とは、2軸方向に分子配向性を有する性質を意味する。分子配向性は、マイクロ波透過型分子配向計(例えば、MOA-6004、株式会社王子計測機器社製)を用いて測定する。二軸方向のなす角は、90°±5°の範囲内が好ましく、90°±3°の範囲内がより好ましく、90°±1°の範囲内が更に好ましい。
分子配向性は、延伸を行うことにより変化し、2軸延伸を行うことにより2軸配向ポリエステル基材を製造できる。
【0022】
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル基材に含まれるポリエステル樹脂は、主鎖にエステル結合を有する重合体である。ポリエステル樹脂は、通常、後述するジカルボン酸化合物とジオール化合物とを重縮合させることにより形成される。
ポリエステル樹脂としては特に制限されず、公知のポリエステル樹脂を利用できる。ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン-2,6-ナフタレート(PEN)、及び、それらの共重合体が挙げられ、PET、PEN、及び、それらの共重合体が好ましく、PETがより好ましい。
【0023】
ポリエステル樹脂の固有粘度は、0.50dl/g以上0.80dl/g未満が好ましく、0.55dl/g以上0.70dl/g未満がより好ましい。
ポリエステル樹脂の融点(Tm)は、220~270℃が好ましく、245~265℃がより好ましい。
ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、65~90℃が好ましく、70~85℃がより好ましい。
【0024】
ポリエステル樹脂の製造方法は特に制限されず、公知の方法を利用できる。例えば、触媒存在下で、少なくとも1種のジカルボン酸化合物と、少なくとも1種のジオール化合物とを重縮合させることによりポリエステル樹脂を製造できる。
【0025】
-触媒-
ポリエステル樹脂の製造に使用する触媒は、特に制限されず、ポリエステル樹脂の合成に使用可能な公知の触媒を利用できる。
触媒としては、例えば、アルカリ金属化合物(例えば、カリウム化合物、ナトリウム化合物)、アルカリ土類金属化合物(例えば、カルシウム化合物、マグネシウム化合物)、亜鉛化合物、鉛化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、アルミニウム化合物、ゲルマニウム化合物、及び、リン化合物が挙げられる。中でも、ポリエステル基材中に異物が生じにくく、セラミックグリーンシートに適する点で、チタン化合物、又は、アルミニウム化合物が好ましい。
チタン化合物、及び、アルミニウム化合物は、上述した通りである。
【0026】
-ジカルボン酸化合物-
ジカルボン酸化合物としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸化合物、脂環式ジカルボン酸化合物、及び、芳香族ジカルボン酸化合物等のジカルボン酸、並びに、それらジカルボン酸のメチルエステル化合物及びエチルエステル化合物等のジカルボン酸エステルが挙げられる。中でも、芳香族ジカルボン酸、又は、芳香族ジカルボン酸メチルが好ましい。
【0027】
脂肪族ジカルボン酸化合物としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、及び、エチルマロン酸が挙げられる。
脂環式ジカルボン酸化合物としては、例えば、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、及び、デカリンジカルボン酸が挙げられる。
【0028】
芳香族ジカルボン酸化合物としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルインダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、及び、9,9’-ビス(4-カルボキシフェニル)フルオレン酸が挙げられる。
中でも、テレフタル酸又は2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
【0029】
ジカルボン酸化合物は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ジカルボン酸化合物として、テレフタル酸を使用する場合、テレフタル酸単独で用いてもよく、イソフタル酸等の他の芳香族ジカルボン酸又は脂肪族ジカルボン酸と共重合してもよい。
【0030】
-ジオール化合物-
ジオール化合物としては、例えば、脂肪族ジオール化合物、脂環式ジオール化合物、及び、芳香族ジオール化合物が挙げられ、脂肪族ジオール化合物が好ましい。
【0031】
脂肪族ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、及び、ネオペンチルグリコールが挙げられ、エチレングリコールが好ましい。
脂環式ジオール化合物としては、例えば、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、及び、イソソルビドが挙げられる。
芳香族ジオール化合物としては、例えば、ビスフェノールA、1,3-ベンゼンジメタノール,1,4-ベンゼンジメタノール、及び、9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンが挙げられる。
ジオール化合物は、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
-末端封止剤-
ポリエステル樹脂の製造においては、必要に応じて、末端封止剤を用いてもよい。末端封止剤を用いることで、ポリエステル樹脂の末端に末端封止剤に由来する構造が導入される。
末端封止剤としては、制限されず、公知の末端封止剤を利用できる。末端封止剤としては、例えば、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド系化合物、及び、エポキシ系化合物が挙げられる。
末端封止剤としては、特開2014-189002号公報の段落[0055]~[0064]に記載の内容も参照でき、上記公報の内容は、本明細書に組み込まれる。
【0033】
-製造条件-
反応温度は、制限されず、原材料に応じて適宜設定すればよい。反応温度は、260~300℃が好ましく、275~285℃がより好ましい。
圧力は、制限されず、原材料に応じて適宜設定すればよい。圧力は、1.33×10-3~1.33×10-5MPaが好ましく、6.67×10-4~6.67×10-5MPaがより好ましい。
【0034】
ポリエステル樹脂の合成方法としては、特許第5575671号公報の段落[0033]~[0070]に記載された方法も利用でき、上記公報の内容は、本明細書に組み込まれる。
【0035】
ポリエステル基材におけるポリエステル樹脂の含有量は、ポリエステル基材全質量に対して、85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましく、98質量%以上が特に好ましい。
ポリエステル樹脂の含有量の上限は、制限されず、ポリエステル基材全質量に対して、100質量%未満の範囲で適宜設定できる。
【0036】
ポリエステル基材がポリエチレンテレフタレートを含む場合、ポリエチレンテレフタレートの含有量は、ポリエステル基材中のポリエステル樹脂の全質量に対して、90~100質量%が好ましく、95~100質量%がより好ましく、98~100質量%が更に好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0037】
ポリエステル基材は、ポリエステル樹脂以外の成分(例えば、触媒、未反応の原料成分、粒子、及び、水等)を含んでいてもよい。
【0038】
-特性-
ポリエステル基材は単層であることが好ましい。
ポリエステル基材の厚みは、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、40μm以下が更に好ましく、35μm以下が特に好ましい。厚みの下限は、加工性が向上する点で、3μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、18μm以上が更に好ましい。セラミックグリーンシート製造用に適する点では、18~40μmが好ましく、20~35μmがより好ましい。
ポリエステル基材の厚みは、剥離フィルムの主面に対して垂直な断面を有する切片を作製し、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定される、上記切片中のポリエステル基材の5か所の厚みの算術平均値とする。
【0039】
<剥離層>
剥離層は、ポリエステル基材上に配置される層であり、剥離層として機能する層である。例えば、剥離層上にセラミックグリーンシート等の部材が形成され、部材が剥離層上から剥離される。
【0040】
本フィルムを用いて剥離層の表面から測定したときの複合弾性率は4.0GPa以上であり、5.5GPa以上が好ましく、6.0GPa以上がより好ましく、6.5GPa以上が更に好ましい。上記複合弾性率が大きいほど、剥離層が硬いので、剥離層表面の転写痕をより抑制できる。上限は特に制限されないが、例えば、20GPa以下が好ましい。
剥離層の表面から測定したときの複合弾性率を上記範囲に調整する方法としては、剥離層の厚みを薄くする(例えば、3~300nm)、架橋密度を上げる、および、それらの組合せ等の方法が挙げられる。
本フィルムを用いて剥離層の表面から測定したときの複合弾性率は、ナノインデンテーションを用いて、最大押込み深さ20nmにて測定できる。測定条件の詳細は、実施例に記載したとおりである。
【0041】
剥離層の厚みは、1~500nmであることが好ましく、剥離層表面の転写痕をより抑制できる点(以下、単に「本発明の効果がより優れる点」ともいう。)で、3~300nmがより好ましく、3~150nmが更に好ましく、3~50nmが特に好ましい。剥離層の厚みが上記範囲であると、上記複合弾性率が高くなりやすく、結果として、剥離層表面の転写痕をより抑制できる。
剥離層の厚みは、剥離フィルムの主面に対して垂直な断面を有する切片を作製し、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定される、上記切片中の剥離層の5か所の厚みの算術平均値とする。
【0042】
剥離層表面の最大突起高さSpは、平滑性に優れる点で、1~30nmであることが好ましく、1~20nmであることがより好ましい。
剥離層表面の最大突起高さSpは、例えば、剥離層に粒子を含まない、剥離層形成組成物の塗布ムラをなくす等の方法より調整できる。
剥離層表面の最大突起高さSpは、剥離層の表面を、光学干渉計を用いて測定できる。測定条件の詳細は、実施例に記載したとおりである。
【0043】
剥離層は、ポリシロキサン樹脂層であることが好ましい。ポリシロキサン樹脂層とは、ポリシロキサン骨格を有する樹脂を含む層を意味する。
ポリシロキサン骨格とは、-Si-O-Si-で表されるシロキサン結合を複数含む骨格である。
上記樹脂としては、反応性の硬化型シリコーン樹脂の硬化物であることが好ましい。反応性の硬化型シリコーン樹脂としては、付加反応系のシリコーン樹脂、縮合反応系のシリコーン樹脂、及び、紫外線又は電子線硬化系のシリコーン樹脂が挙げられる。
【0044】
上記樹脂としては、アルケニル基を有する第1化合物とケイ素原子に結合した水素原子(-Si-H)を有する第2化合物との硬化物であることが好ましい。なお、第1化合物及び第2化合物の少なくとも一方がポリシロキサン骨格を有することが好ましい。
中でも、樹脂としては、アルケニル基を有するポリシロキサンとケイ素原子に結合した水素原子を有するポリシロキサンとの硬化物であることが好ましい。アルケニル基を有するポリシロキサンとしては、末端及び側鎖の少なくとも一方にビニル基を導入したポリジメチルシロキサンが挙げられる。ケイ素原子に結合した水素原子を有するポリシロキサンとしては、末端及び側鎖の少なくとも一方にケイ素原子に結合した水素原子を導入したポリジメチルシロキサンが挙げられる。
上記樹脂の場合、第1化合物と第2化合物とを反応させる際に、白金元素を含む触媒を用いることが好ましい。白金触媒を用いて硬化したポリシロキサン樹脂層は、架橋密度を調整しやすいので、複合弾性率を大きくするなどの調整ができるため、剥離層表面の転写痕を抑制しやすい。
【0045】
剥離層中におけるポリシロキサン骨格を含む樹脂の含有量は、特に制限はなく、1~100質量%が好ましい。剥離層表面の転写痕をより抑制できる点で、剥離層全質量に対して、10~100質量%が好ましく、20~100質量%が好ましく、50~100質量%がより好ましく、70~100質量%が更に好ましい。
【0046】
剥離層は、白金元素を含むことが好ましい。
剥離層に含まれる白金元素は、上記樹脂の製造に使用する触媒である白金化合物由来の元素である場合が多い。
白金化合物は、ヒドロシリル化触媒として用いることができる。
白金化合物としては、白金ハロゲン化物(例えば、PtCl、HPtCl・6HO、NaPtCl・4HO、HPtCl・6HOとシクロヘキサンからなる反応生成物)、白金-オレフィン錯体、白金-アルコール錯体、白金-アルコラート錯体、白金-エーテル錯体、白金-アルデヒド錯体、白金-ケトン錯体、白金-ビニルシロキサン錯体(例えば、白金-1,3-ジビニル1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体、ビス-(γ-ピコリン)-白金ジクロライド、トリメチレンジピリジン-白金ジクロライド、ジシクロペンタジエン-白金ジクロライド、シクロオクタジエン-白金ジクロライド、シクロペンタジエン-白金ジクロライド)、ビス(アルキニル)ビス(トリフェニルホスフィン)白金錯体、及び、ビス(アルキニル)(シクロオクタジエン)白金錯体が挙げられる。
【0047】
剥離層中における白金元素の合計含有量は、剥離層全質量に対して、1~1000質量ppmが好ましく、1~500質量ppmがより好ましく、5~250質量ppmが更に好ましい。
剥離フィルムに含まれる白金元素の含有量は、ICP-MSにより測定できる。
【0048】
なお、剥離層は、ポリエステル基材の表面に直接設けてもよく、中間層を介して設けてもよいが、ポリエステル基材の表面に直接設けることが好ましい。すなわち、ポリエステル基材と剥離層とは隣接していることが好ましい。特に、剥離層表面の平滑性を向上する点で、ポリエステル基材と剥離層との間に粒子を含む層がないことが好ましい。
【0049】
<突起含有層>
剥離フィルムは、剥離層側とは反対側の面に、突起含有層を含む。
剥離フィルムが突起含有層を有することにより、滑り性に優れ、搬送性を向上できる。
【0050】
突起含有層における、最も突出している突起は有機物からなる。
突起含有層における、最も突出している突起を有機物とするには、突起含有層に含まれる粒子のうち、最も粒子径が大きい粒子を有機粒子とすることで調整できる。
従って、有機物は、樹脂と有機粒子を含むことが好ましく、樹脂と樹脂粒子を含むことがより好ましい。ここで、樹脂と樹脂粒子は一体となっていてもよい。例えば、樹脂と樹脂粒子とが架橋剤を介して架橋して、突起含有層を形成する場合などが挙げられる。
【0051】
樹脂粒子を構成する樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)等のアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、スチレン樹脂、ウレタン樹脂、及び、スチレン-アクリル樹脂が挙げられる。樹脂粒子は、架橋構造を有していても、有していなくてもよい。
具体的には、有機物に含まれ得る樹脂粒子の好適態様としては、架橋スチレン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋ウレタン樹脂粒子、非架橋スチレン樹脂粒子、非架橋アクリル樹脂粒子、及び、ジビニルベンゼン架橋樹脂粒子が挙げられる。ここで、スチレン樹脂粒子とは、スチレンおよびスチレン誘導体の少なくとも一方のモノマーを重合した樹脂からなる粒子を意味する。なお、本明細書において、アクリル樹脂とは、アクリレート又はメタクリレート由来の構成単位を含む樹脂を意味する。
転写痕の抑制がより向上する点で、有機物はベンゼン環を含むことが好ましく、スチレン樹脂粒子を含むことがより好ましい。言い換えると、有機物は、スチレン残基を含むことが好ましい。最も突出している突起を形成する有機物にベンゼン環を含むことにより、突起の弾性率を適切に制御でき、剥離層表面への転写痕を低減することができる。
【0052】
アクリル樹脂粒子の市販品としては、例えば、エポスター(登録商標)MX020W、MX030W、MX050W、MX100W、MX200W、及び、MX300W(株式会社日本触媒製)、並びに、テクポリマー(登録商標)シリーズ(積水化成品工業株式会社製)が挙げられる。
スチレン樹脂粒子の市販品としては、例えば、Nipol(登録商標)UFN1008(日本ゼオン株式会社製)が挙げられる。
ウレタン樹脂粒子の市販品としては、例えば、アートパール(登録商標)C-1000T、及び、MM110SMA(根上工業株式会社製)が挙げられる。
【0053】
突起含有層に含まれる有機粒子の平均粒子径は、特に制限されず、1nm~3μmが好ましく、40nm~2μmがより好ましく、50nm~1μmが特に好ましい。
粒子の形状は、特に制限されず、例えば、米粒状、球形状、立方体状、紡錘形状、鱗片状、凝集状、及び、不定形状が挙げられる。凝集状とは、1次粒子が凝集した状態を意味する。凝集状にある粒子の形状は制限されないが、球状又は不定形状が好ましい。
突起含有層は、1種単独の粒子を含んでいてもよく、2種以上の粒子を含んでいてもよい。
2種以上の粒子を含む場合、平均粒子径の異なる粒子であることが好ましく、平均粒子径の異なる有機粒子であることがより好ましい。
平均粒子径の異なる2種以上の粒子を含む場合、粒子平均粒子径が大きい粒子が有機粒子からなると、最も突出している突起が有機物となりやすい。
【0054】
突起含有層は、樹脂と有機粒子を含むことが好ましい。
樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、及び、オレフィン樹脂が挙げられる。ポリエステル基材からのオリゴマー析出を防止する観点では、非ポリエステル樹脂が好ましく、具体的には、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、又は、オレフィン樹脂が好ましい。樹脂としては、公知の樹脂を利用できる。また、樹脂は、酸変性樹脂であることが好ましい。
また、突起含有層は、耐溶剤性に優れる点で、架橋構造を有していることが好ましい。架橋構造を有する突起含有層を形成する方法としては、架橋剤を含む突起含有層形成用組成物を塗布して加熱することにより突起含有層を形成する方法、架橋した樹脂粒子を含む突起含有層形成用組成物を塗布する方法が挙げられ、前者が好ましい。
架橋構造を形成する架橋剤としては、オキサゾリン架橋剤、イソシアネート架橋剤、カルボジイミド架橋剤が好ましく用いられる。突起含有層は、これらの架橋剤が上述した樹脂と架橋して架橋構造を形成する層であることが好ましく、上述した樹脂粒子と架橋して架橋構造を形成する層であることがより好ましく、上述した樹脂及び樹脂粒子と架橋して架橋構造を形成する層であることが更に好ましい。
突起含有層は、1種単独の樹脂を含んでいてもよく、2種以上の樹脂を含んでいてもよい。
樹脂の含有量は、突起含有層の全質量に対して、30~99.8質量%が好ましく、50~99.5質量%がより好ましい。
【0055】
有機粒子としては、有機物が含む有機粒子と同じものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
【0056】
突起含有層は、樹脂及び有機粒子に加えて、無機粒子、添加剤および界面活性剤を含んでいてもよい。
無機粒子としては、例えば、シリカ粒子(二酸化ケイ素粒子、コロイダルシリカ)、チタニア粒子(酸化チタン粒子)、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、及び、アルミナ粒子(酸化アルミニウム粒子)が挙げられる。
【0057】
突起含有層における粒子の含有量は、搬送性の点から、突起含有層の全質量に対して、0.1~30質量%が好ましく、1~25質量%がより好ましい。
突起含有層における有機粒子の含有量は、搬送性の点から、突起含有層の全質量に対して、0.1~30質量%が好ましく、1~25質量%がより好ましい。
ここで、「粒子の含有量」および「有機粒子の含有量」は、2種類以上の粒子を含む場合には、複数の粒子の合計量を意味する。
【0058】
突起含有層を塗布により形成する場合には、界面活性剤を含むことが好ましい。
界面活性剤としては、特に制限されず、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及び、炭化水素系界面活性剤が挙げられ、フッ素系界面活性剤(特に、炭素数1~4のパーフルオロアルキル基を有するフッ素系界面活性剤)、又は、炭化水素系界面活性剤が好ましい。
界面活性剤は1種用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
界面活性剤の含有量は、突起含有層の全質量に対して、0.1~10質量%が好ましく、0.1~5質量%がより好ましい。
【0059】
突起含有層に含まれる添加剤としては、例えば、ワックス、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、強化剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、防錆剤、及び、防黴剤が挙げられる。
【0060】
突起含有層の好ましい態様としては、以下の要件1および要件2のうち少なくとも一方の要件を含むことが好ましい。
(要件1)架橋構造を含む
(要件2)ポリエステルと架橋樹脂粒子を含む
【0061】
突起含有層が要件1を満たすには、架橋剤を含む突起含有層形成用組成物を塗布することにより、突起含有層を形成する方法が挙げられる。このとき、突起含有層形成用組成物に含まれる架橋剤が、熱や光によって架橋することにより、突起含有層が架橋構造を含むこととなる。
【0062】
突起含有層が要件2を満たすには、架橋樹脂粒子とポリエステルとを含む突起含有層形成用ポリエステル1と、粒子なしポリエステル2とを共押出成形することにより、突起含有層とポリエステル基材とを積層する方法が挙げられる。
【0063】
突起含有層の厚みは、1nm~10μmが好ましく、突起含有層を塗布により形成する場合には、製造適正の観点から、3~500nmが好ましく、3~300nmがより好ましく、3~150nmが更に好ましく、3~100nmが特に好ましい。
突起含有層は、ポリエステル基材と共押出成形により形成してもよく、その場合には、突起含有層の厚みは1~20μmとなる場合が多く、1~15μmが好ましい。
突起含有層の厚みは、剥離フィルムの主面に対して垂直な断面を有する切片を作製し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定される、上記切片中の突起含有層の5か所の厚みの算術平均値とする。
【0064】
突起含有層表面の最大突起高さSpは、搬送性に優れる点で、30nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましく、100nm以上が更に好ましく、200nm以上が特に好ましい。上限は、剥離層表面の転写痕をより抑制できる点で、3000nm以下が好ましく、2000nm以下がより好ましく、1000nm以下が更に好ましい。
【0065】
突起含有層表面の粗さ曲線要素の平均長さRSmは、1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μm超であることが更に好ましく、11μm以上であることが特に好ましい。上限は、特に制限されないが、搬送性に優れる点で、50μm以下が好ましい。RSmが小さいほど転写痕を抑制しやすいが、本発明を用いた場合には、RSmが大きい場合であっても、剥離層表面の転写痕をより抑制できる。
【0066】
突起含有層表面の最大突起高さSp、および、粗さ曲線要素の平均長さRSmは、例えば、突起含有層に含まれる粒子の平均粒子径および含有量、並びに、突起含有層の厚みにより調整できる。
突起含有層表面の最大突起高さSp、および、粗さ曲線要素の平均長さRSmは、突起含有層の表面を、光学干渉計を用いて測定できる。測定条件の詳細は、実施例に記載したとおりである。
【0067】
<特性>
本フィルムの厚みは、コストに優れる点で、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、40μm以下が更に好ましく、35μm以下が特に好ましい。厚みの下限は特に制限されないが、加工性が向上する点で、3μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、18μm以上が更に好ましい。セラミックグリーンシート製造用に適する点では、18~40μmが好ましく、20~35μmがより好ましい。
本フィルムの厚みは、本フィルムから任意に選択した異なる5か所において、触針式膜厚計で厚みを測定し、得られた測定値の算術平均値を厚みとする。
【0068】
本フィルム中に含まれるチタン元素及びアルミニウム元素の合計含有量は、本フィルム全質量に対して、1~30質量ppmが好ましく、3~20質量ppmがより好ましく、5~15質量ppmが更に好ましい。
本フィルムに含まれるアンチモン(Sb)の含有量は、ポリエステル基材中に異物や空隙が生じにくい点で、本フィルム全質量に対して、0~3質量ppmが好ましく、0~2質量ppmがより好ましく、0~1質量ppmが更に好ましい。
剥離フィルムに含まれるチタン元素、アルミニウム元素及びアンチモン元素の含有量は、ICP-MSにより測定できる。
剥離フィルムに含まれるチタン元素、アルミニウム元素及びアンチモン元素の含有量を上記範囲にする手段としては、ポリエステル基材に含まれるチタン元素、アルミニウム元素及びアンチモン元素を調整する方法等が挙げられる。
【0069】
[本フィルムの製造方法]
本フィルムの製造方法は、上記構成を備える剥離フィルムを製造できる限り、特に制限されない。
例えば、ポリエステル樹脂を溶融押し出しして未延伸のポリエステル基材を作製した後、未延伸のポリエステル基材を縦延伸し、1軸延伸されたポリエステル基材の片面に突起含有層形成用組成物を塗布し、ポリエステル基材のもう一方の面に、剥離層形成用組成物を塗布する。次いで、得られた両面塗布層つきポリエステル基材を横延伸して、本フィルムを製造する方法が挙げられる。つまり、未延伸のポリエステル基材を縦延伸する縦延伸工程と、突起含有層を形成する突起含有層形成工程と、剥離層を形成する剥離層形成工程と、ポリエステル基材を横延伸する横延伸工程とを有する製造方法が挙げられる。
【0070】
縦延伸は、例えば、未延伸のポリエステル基材を長手方向に搬送しながら、搬送方向に設置した2対以上の延伸ロール間で緊張を与えることによって行うことができる。
縦延伸工程における延伸倍率は、用途によって適宜設定されるが、2.0~5.0倍が好ましく、2.5~4.0倍がより好ましく、2.8~4.0倍が更に好ましい。
【0071】
突起含有層形成用組成物は、上述した突起含有層を形成できる組成物であれば特に制限されない。突起含有層形成用組成物としては、例えば、樹脂と有機粒子とを含む組成物が挙げられ、樹脂と有機粒子と架橋剤を含む組成物がより好ましく用いられる。中でも、非ポリエステル樹脂と、スチレン樹脂粒子と、架橋剤を含む組成物が好ましい。
突起含有層形成用組成物は、溶媒を含んでいてもよい。
【0072】
突起含有層形成用組成物の塗布方法は特に制限されず、公知の方法を利用できる。塗布方法としては、例えば、スプレーコート法、スリットコート法、ロールコート法、ブレードコート法、スピンコート法、バーコート法、及び、ディップコート法が挙げられる。
塗布の方法としては、縦延伸されたポリエステル基材を搬送しながら、縦延伸されたポリエステル基材の一方に表面に突起含有層形成用組成物を塗布するインラインコーティング法を適用することが好ましい。
【0073】
剥離層形成用組成物は、上述した剥離層を形成できる組成物であれば特に制限されない。剥離層形成用組成物としては、例えば、上述した反応性の硬化型シリコーン樹脂を含む組成物が挙げられ、製造適正の点で、熱で反応する硬化型シリコーン樹脂を含む組成物が好ましい。中でも、剥離層形成用組成物としては、白金化合物と、アルケニル基を有する第1化合物と、ケイ素原子に結合した水素原子(-Si-H)を有する第2化合物とを含み、第1化合物及び第2化合物の少なくとも一方がポリシロキサン骨格を有する、組成物が好ましい。
剥離層形成用組成物は、溶媒を含んでいてもよい。
【0074】
剥離層形成用組成物の塗布方法は、突起含有層形成用組成物の塗布方法と同様の方法が挙げられる。
塗布の方法としては、縦延伸されたポリエステル基材を搬送しながら、縦延伸されたポリエステル基材の一方に表面に剥離層形成用組成物を塗布するインラインコーティング法を適用することが好ましい。
塗布の方法としては、2軸延伸されたポリエステル基材の、突起含有層とは反対側の面に、剥離層形成用組成物を塗布するオフラインコーティング法を適用することも好ましい。
【0075】
横延伸は、縦延伸されたポリエステル基材を幅方向に延伸する処理である。
【0076】
上記製造方法は、上記縦延伸工程、上記層形成工程、及び、上記横延伸工程以外に、他の工程を有していてもよい。
本実施形態に係る製造方法は、例えば、2軸延伸されたポリエステル基材を加熱して熱固定する熱固定工程、熱固定工程により熱固定されたポリエステル基材を熱固定工程よりも低い温度で加熱して熱緩和する熱緩和工程、熱緩和工程により熱緩和されたポリエステル基材を冷却する冷却工程、及び、冷却工程において、熱緩和されたポリエステル基材を幅方向に拡張する拡張工程からなる群より選択される少なくとも1つの工程を有していてもよい。具体的には、国際公開第2023/281972号の段落[0085]~[0165]に記載の条件が好ましく挙げられる。
【0077】
なお、上記の剥離フィルムの製造方法では、突起含有層形成工程において、突起含有層形成用組成物を塗布して突起含有層を形成する方法を述べたが、突起含有層の形成方法は上記態様に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、共押出成形により、突起含有層が積層された未延伸のポリエステル基材を形成する方法が挙げられる。
【0078】
本フィルムの製造方法は、(a)および(b)いずれか一方の工程を含むことが好ましい。
(a)ポリエステル基材の片面に、樹脂と有機粒子を含む組成物を塗布し、突起含有層を形成する工程
(b)有機粒子を含むポリエステルペレットと、無機粒子を含まないポリエステルペレットとを共押出成形して、突起含有層と、ポリエステル基材とを形成する工程
【0079】
(a)の工程は、突起含有層形成工程において、突起含有層を塗布により設ける場合に好ましい態様である。
(b)の工程は、突起含有層形成工程において、突起含有層を共押出成形により設ける場合に好ましい態様である。(b)工程においては、有機粒子を含むポリエステルペレットを作製する際に、高温でポリエステルと有機粒子とを混錬することが多いため、有機粒子は架橋樹脂粒子であることが好ましい。
【0080】
[用途]
本フィルムは、種々の用途に適用できる。
例えば、本フィルムは、セラミックグリーンシート製造用の剥離フィルム(キャリアフィルム)として用いることが好ましい。本フィルムを用いて製造されるセラミックグリーンシートは、小型化及び大容量化に伴って内部電極の多層化が求められているセラミックコンデンサーの製造に好適に用いることができる。
【0081】
上記本フィルムを使用してセラミックグリーンシートを製造する方法は、特に制限されず、公知の方法で実施できる。セラミックグリーンシートの製造方法としては、例えば、準備したセラミックスラリーを、上記本フィルムの剥離層表面に塗布し、セラミックスラリーに含まれる溶媒を乾燥除去する方法が挙げられる。
セラミックスラリーの塗布方法は、特に制限されず、例えば、セラミック粉体及びバインダー剤を溶媒に分散させてなるセラミックスラリーを、リバースロール法により塗布し、加熱乾燥により溶媒を除去する方法等の公知の方法が適用できる。バインダー剤としては、特に限定されず、例えば、ポリビニルブチラールが挙げられる。また、溶媒としても特に限定されず、例えば、エタノール及びトルエンが挙げられる。
【0082】
作製されたセラミックグリーンシートは、セラミックコンデンサーを製造するために用いられる。セラミックグリーンシートを用いてセラミックコンデンサーを製造する方法としては、公知の方法が適用でき、例えば、下記の方法が挙げられる。
まず、本フィルムとセラミックグリーンシートとの積層体に導電性ペーストの塗布又は印刷等により内部電極を設ける。次に、積層体から本フィルムを除去し、内部電極付きセラミックグリーンシートを順次積層し、得られる積層体をプレスすることにより、中間積層体を作製する。中間積層体を所望の形状に切断した後、切断した中間積層体を焼成し、セラミック素体を得る。次に、焼成された中間積層体の2つの端面に、銀等の導電性ペーストを用いて内部電極と電気的に接続する外部電極をそれぞれ形成することにより、セラミックコンデンサーが得られる。
【0083】
本フィルムは、ドライフィルムレジストの保護フィルム、加飾層及び樹脂シート等のシート成形用フィルム、半導体製造工程用等のプロセス製造用の剥離フィルム、偏光板製造工程用の剥離フィルム、並びに、ラベル用、医療用及び事務用品用等の粘着フィルムのセパレータとしても用いることができる。
【実施例0084】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、及び、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更できる。従って、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきではない。
【0085】
<実施例1>
重合触媒として特許第5575671号公報に記載のチタン化合物(クエン酸キレートチタン錯体、VERTEC AC-420、ジョンソン・マッセイ社製)を用いて、ポリエチレンテレフタレートのペレットを製造した。得られたペレットを、含水率が50ppm以下になるまで乾燥させた後、特許第6049648号公報に記載の二軸混練押出し機のホッパーに投入し、次いで、280℃で溶融して押出した。溶融体(メルト)を、濾過器(孔径3μm)に通した後、ダイから25℃の冷却ドラムに押し出すことにより、ポリエチレンテレフタレートからなる未延伸樹脂基材を得た。なお、押し出された溶融体(メルト)は、静電印加法により冷却ドラムに密着させた。
未延伸樹脂基材を構成するポリエチレンテレフタレートの融点(Tm)は258℃であり、ガラス転移温度(Tg)は80℃であった。
【0086】
国際公開第2020/158316号の段落[0160]~[0169]に記載の条件を参考に、得られた未延伸剥離フィルムを縦延伸したフィルムの片面に下記組成物P1(突起含有層形成用組成物)を塗布し、反対側の面に下記組成物L1(剥離層形成用組成物)を塗布し、形成された塗布膜を100℃の熱風で乾燥させて、突起含有層及び剥離層を形成した。すなわち、組成物P1及び組成物L1をインライン塗布した。このとき、後述する延伸処理後の突起含有層の厚みが60nm、剥離層の厚みが40nmとなるように組成物P1及び組成物L1の塗布量を調整した。得られた塗布層付きフィルムを延伸して、2軸延伸フィルムを作製し、ナーリング加工をせずに7000m毎に巻き取った。作製された2軸延伸フィルムの厚みは31μm(厚み60nmの突起含有層および厚み40nm剥離層を含む)であった。
【0087】
下記に示す各成分を混合し、孔径が6μmであるフィルター(F20、株式会社マーレフィルターシステムズ製)を用いたろ過処理、及び、膜脱気(2x6ラジアルフロースーパーフォビック、ポリポア株式会社製)を実施し、組成物P1を得た。
(組成物P1)
・ウレタン樹脂(タケラック(登録商標)W-605、三井化学株式会社製、固形分濃度25質量%水分散液) :157質量部
・アニオン性炭化水素系界面活性剤(ラピゾール(登録商標)A-90、スルホコハク酸ジ-2-エチルヘキシルナトリウム、日油株式会社製)の固形分濃度1質量%水希釈液:56質量部
・非架橋スチレン樹脂粒子(スチレン共重合体)(Nipol(登録商標)UFN1008、日本ゼオン株式会社製、平均粒子径1.9μm、固形分濃度10質量%水分散液):8質量部
・水:779質量部
【0088】
(組成物L1)
以下の手順にて、エマルジョン(I)と(II)とを調製した。
(A)両末端がそれぞれジメチルビニルシリル基で封鎖されたビニル基含有ポリジメチルシロキサン50質量部と、(B)白金元素含有量1質量%の白金-ビニルシロキサン錯体溶液0.5質量部と、(C)1-エチニル-1-シクロヘキサノール(日信化学工業株式会社製)0.11質量部と、(D)ノニオン系界面活性剤(三洋化成工業株式会社製 ナロアクティーCL-95)6.6質量部と、(E)精製水44質量部とを混合し、撹拌することにより、エマルジョン(I)を調製した。白金含有量は、ポリジメチルシロキサン(A)の質量に対して100質量ppmとした。
また、(F)側鎖にSiH基を有し、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖されたメチルハイドロジェンポリシロキサン35質量部と、(G)ノニオン系界面活性剤(三洋化成工業株式会社製 ナロアクティーCL-95)5質量部と、(H)精製水60質量部とを混合し、撹拌することにより、エマルジョン(II)を調製した。
次に、エマルジョン(I)及びエマルジョン(II)を混合し、更に精製水で希釈した。成分(A)中のアルケニル基のモル数の総和に対する成分(F)中のSiH基のモル数の総和の比率は2.9になるように組成物を調製した。
調製された組成物に対して、組成物P1と同様のろ過処理、及び、膜脱気を実施し、組成物L1を得た。組成物L1は、白金錯体を含む組成物である。
【0089】
<実施例2~3>
組成物P1を下記組成物P2および組成物P3にそれぞれ変更し、剥離層の厚みを表1に記載のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~3の剥離フィルムを作製した。
【0090】
(組成物P2)
・ウレタン樹脂(エストロン(登録商標)H3DF、第一工業製薬株式会社製、固形分濃度28質量%水分散液):72質量部
・アクリル樹脂(メタクリル酸メチル/スチレン/2-エチルヘキシルアクリレート/2-ヒドロキシエチルメタクリレート/アクリル酸=59:8:26:5:2(質量比)の共重合体、固形分濃度19質量%水分散液):105.8質量部
・アニオン性炭化水素系界面活性剤(ラピゾール(登録商標)A-90、日油株式会社製、固形分濃度1質量%水希釈液):12質量部
・非架橋スチレン樹脂粒子(Nipol(登録商標)UFN1008、日本ゼオン株式会社製、平均粒子径1.9μm、固形分濃度20質量%水分散液):11.2質量部
・PMMA樹脂粒子(MP1000、綜研化学株式会社製、平均粒子径0.4μm、固形分濃度5質量%水分散液):134.4質量部
・イソシアネート架橋剤(デュラネート(登録商標)WM44-L70、旭化成株式会社製、固形分濃度70質量%ジプロピレングリコールジメチルエーテル溶液):11.5質量部
・水:597質量部
【0091】
(組成物P3)
・ウレタン樹脂(スーパーフレックス(登録商標)210、第一工業製薬株式会社製、固形分濃度35質量%水分散液):115質量部
・アニオン性炭化水素系界面活性剤(ラピゾール(登録商標)A-90、日油株式会社製、固形分濃度1質量%水希釈液):36質量部
・非架橋スチレン樹脂粒子(Nipol(登録商標)UFN1008、日本ゼオン株式会社製、平均粒子径1.9μm、固形分濃度20質量%水分散液):11.2質量部
・PMMA樹脂粒子(MP1000、綜研化学株式会社製、平均粒子径0.4μm、固形分濃度5質量%水分散液):179.2質量部
・オキサゾリン架橋剤(エポクロス(登録商標)WS-700、株式会社日本触媒製、固形分濃度25質量%水溶液):32.2質量部
・水:622質量部
【0092】
<実施例4~5>
剥離層の厚みを表1に記載のように変更した以外は、実施例3と同様にして、実施例4~5の剥離フィルムを作製した。
【0093】
<実施例6>
組成物P1を組成物P4に変更し、組成物L1を塗布しないこと以外は、実施例1と同様にして、2軸延伸フィルムを作製した。作製された2軸延伸フィルムの厚みは31μm(厚み60nmの突起含有層を含む)であった。
(組成物P4)
・アクリル樹脂(メタクリル酸メチル/スチレン/2-エチルヘキシルアクリレート/2-ヒドロキシエチルメタクリレート/アクリル酸=59:8:26:5:2(質量比)の共重合体、固形分濃度20質量%水分散液):165.7質量部
・アニオン性炭化水素系界面活性剤(ラピゾール(登録商標)A-90、スルホコハク酸ジ-2-エチルヘキシルナトリウム、日油株式会社製)の固形分濃度1質量%水希釈液:30質量部
・架橋アクリル樹脂粒子(エポスター(登録商標)MX300、株式会社日本触媒製、平均粒子径450nm、固形分濃度10質量%水分散液):23.7質量部
・オキサゾリン架橋剤(エポクロス(登録商標)WS-700、株式会社日本触媒製、固形分濃度25質量%水溶液):56.8質量部
・水:750質量部
【0094】
得られた2軸延伸フィルムの突起含有層とは反対側のポリエステル基材面(突起含有層がない方の面)に組成物L2を、表1に記載の厚みとなるように塗布した。120℃の熱風乾燥機を用いて塗布膜を乾燥させて、剥離層を形成し、実施例6の剥離フィルムを製造した。
(組成物L2)
・ポリエステル変性シリコーン樹脂(BYK-370、ビックケミー・ジャパン(株)製、、固形分濃度25質量%):20質量部
・メラミン架橋剤(ヘキサメトキシメチルメラミン、東京化成工業株式会社製):180質量部
・イソプロピルアルコール:270質量部
・イソブチルアルコール:90質量部
・酸触媒(p-トルエンスルホン酸、富士フイルム和光純薬(株)製):10質量部
【0095】
<実施例7>
重合触媒として特許第5575671号公報に記載のチタン化合物(クエン酸キレートチタン錯体、VERTEC AC-420、ジョンソン・マッセイ社製)を用いて、ポリエチレンテレフタレートの粒子なしペレット(PET-1)を製造した。
これとは別に、平均粒子径0.6μmの架橋スチレン樹脂粒子(ジビニルベンゼン/エチルスチレン/スチレン共重合体)と、平均粒子径0.9μmの架橋スチレン樹脂粒子(ジビニルベンゼン/エチルスチレン/スチレン共重合体)を添加して、ポリエチレンテレフタレートの樹脂粒子入りペレット(PET-2)を製造した。
得られた2種類のペレットを、各々、含水率が50ppm以下になるまで乾燥し、各々別の混練押出し機のホッパーに投入し、280℃で溶融して、溶融体(メルト)を、濾過器(孔径3μm)に通した後、ダイから冷却ドラムに共押し出すことにより、PET-1/PET-2=60/40の層比率となるように調整して、積層ポリエチレンテレフタレートからなる未延伸樹脂基材を得た。
【0096】
国際公開第2020/158316号の段落[0160]~[0169]に記載の条件を参考に、得られた未延伸剥離フィルムを縦延伸したフィルムの片面に上記組成物L1(剥離層形成用組成物)を塗布し、形成された塗布膜を100℃の熱風で乾燥させて、剥離層を形成した。すなわち、組成物L1をインライン塗布した。このとき、後述する延伸処理後の剥離層の厚みが40nmとなるように組成物L1の塗布量を調整した。得られた塗布層付きフィルムを延伸して、2軸延伸フィルムを作製し、ナーリング加工をせずに7000m毎に巻き取った。作製された剥離フィルムの厚みは31μm(厚み12μmの突起含有層および厚み40nmの剥離層を含む)であった。
【0097】
<実施例8>
組成物L1を塗布しないこと以外は、実施例7と同様にして、2軸延伸フィルムを作製した。作製された2軸延伸フィルムの厚みは31μm(厚み12μmの突起含有層を含む)であった。
得られた2軸延伸フィルムの突起含有層とは反対側のポリエステル基材面(突起含有層がない方の面)に上記組成物L2を、表1に記載の厚みとなるように塗布した。150℃の熱風乾燥機を用いて塗布膜を乾燥させて、剥離層を形成し、実施例8の剥離フィルムを製造した。
【0098】
<実施例9>
組成物L1を塗布しないこと以外は、実施例7と同様にして、2軸延伸フィルムを作製した。作製された2軸延伸フィルムの厚みは31μm(厚み12μmの突起含有層を含む)であった。
得られた2軸延伸フィルムの突起含有層とは反対側のポリエステル基材面(突起含有層がない方の面)に下記組成物L3を、表1に記載の厚みとなるように塗布した。150℃の熱風乾燥機を用いて塗布膜を乾燥させて、剥離層を形成し、実施例9の剥離フィルムを製造した。
(組成物L3)
・付加反応型のシリコーン(東レダウコーニング(株)製、SRX-345、剥離剤):10質量部
・トルエン及びメチルエチルケトンの混合溶剤(混合比=7:3(質量比)):490質量部
・白金触媒(東レダウコーニング(株)製、SRX-212):0.1質量部
【0099】
<比較例1>
組成物P1を組成物P5に変更したこと以外は、実施例6と同様にして、剥離フィルムを作製した。
(組成物P5)
・アクリル樹脂(メタクリル酸メチル/スチレン/2-エチルヘキシルアクリレート/2-ヒドロキシエチルメタクリレート/アクリル酸=59:8:26:5:2(質量比)の共重合体、固形分濃度20質量%水分散液):157質量部
・アニオン性炭化水素系界面活性剤(ラピゾール(登録商標)A-90、スルホコハク酸ジ-2-エチルヘキシルナトリウム、日油株式会社製)の固形分濃度1質量%水希釈液:56質量部
・シリカ粒子(スノーテックス(登録商標)MP-4540M、日産化学株式会社製、平均粒子径450nm、固形分濃度40質量%水分散液):11質量部
・水:776質量部
【0100】
〔最大突起高さSpおよび粗さ曲線要素の平均長さRSm〕
剥離フィルムが有する突起含有層の表面を、光学干渉計(Vertscan 3300G Lite、株式会社日立ハイテク製)を用いて下記の条件で測定し、その後、内蔵されているデータ解析ソフト(VS-Measure5)にて解析することにより、突起含有層の表面の最大突起高さSp及び粗さ曲線要素の平均長さRSmを求めた。
最大突起高さSpの測定では、測定位置を変えた5回の測定で得られる測定値の最大値を採用し、粗さ曲線要素の平均長さRSmの測定では、測定位置を変えた5回の測定で得られる測定値の算術平均値を採用した。
(測定条件)
・測定モード:WAVEモード
・対物レンズ:50倍
・測定面積:186μm×155μm
・0.5×Tubeレンズ
・RSmの測定長さ:187μm
【0101】
〔最も突出している突起〕
剥離フィルムの突起含有層表面に対して、フェルトペンでマーキングを行った後、光学干渉計(Vertscan 3300G Lite、株式会社日立ハイテク製)を用いて、マーク部を上記最大突起高さSpの測定と同じ条件で測定し、最大突起部を確認した。上記測定部に白金蒸着を行い、サンプルの表面の鉛直方向から、SEM(「S4700」、株式会社日立ハイテク製)を用いて、10000倍で観察し、突起の分布から最大突起部を特定し、最大突起部について同分析装置でEDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy,エネルギー分散型X線)分析にて元素分布の分析を行い、突起が有機物か無機物かを判断した。
次いで、光学干渉計(Vertscan 3300G Lite、株式会社日立ハイテク製)を用いて、マーク部を上記最大突起高さSpの測定と同じ条件で測定し、突起の分布を確認した。その分布とSEMでの観察結果を照合し、SEMで観察した突起を特定し、2次元解析にて突起断面を観察し、突起の高さを測定した。最も突出している突起について、有機物か無機物かを確認した。
【0102】
下記表1に、各例について、フィルムの製造工程、製造されたフィルムの組成及び物性、並びに、上記評価結果を示す。
【0103】
〔複合弾性率〕
剥離フィルムを2cm角に切り出し、切り出したサンプルを接着剤でスライドガラスに固定した。サンプルの剥離層表面に対して、測定装置としてナノインデンテーション(TI-950)(Bruker社製、圧子ベルコビッチ型)を用い、最大押込み深さ20nmにて、負荷時及び除荷時の荷重と押込み深さの関係を測定することにより求めた。
【0104】
<Sb量他>
実施例及び比較例で製造した各フィルムについて、ICP-MS分析装置(アジレント・テクノロジー社製、「Agilent 7800 ICP-MS」)を用いて分析し、フィルムに含まれる各元素の含有量を測定した。実施例及び比較例のいずれにおいても、剥離フィルムの全質量に対して、Sb含有量は0.9質量ppm、Ti含有量は7質量ppm、Mg含有量は75質量ppm、P含有量は65質量ppmであった。
また、各実施例で得られた剥離フィルム中に含まれるポリエステル基材は、無機粒子を含んでいなかった。
【0105】
[評価]
〔転写痕評価〕
得られた剥離フィルムを3.5cm角に裁断したものを、剥離層と突起含有層とが接触する向きで10枚重ねて、積層体のサンプルを得た。このサンプルに対して、84kgの加重をかけた状態で、40℃のオーブンで3日間保持した。オーブンからサンプルを取り出して、サンプルから1枚ずつ剥離フィルムを剥がした。剥離フィルムの剥離層の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテク社製、S4700)を用いて10000倍で観察し、凹みの存在から下記の基準に従って転写痕を評価した。
【0106】
(評価基準)
AA:9枚全て、凹みが観察されず、平滑な表面であった。
A:凹みがうっすら観察されたものが1~4枚あったが、5~8枚は凹みが観察されなかった。
B:9枚とも凹みがうっすら観察されるが、表面は平滑であり、許容範囲内であった。
C:9枚とも凹みが観察され、剥離層の表面が粗面化していた。
【0107】
〔耐溶剤性〕
得られた剥離フィルムの突起含有層表面に対し、メチルエチルケトン及びトルエンの混合溶液(質量比1:1)を含ませたウエスを用いて、荷重1000g/cmで縦5回、横5回擦った。その後、突起含有層表面を目視で観察し、表面の溶解状態に基づいて、耐溶剤性を評価した。評価基準は以下の通りである。
A:剥離層が溶解していない。
B:剥離層が溶解した。
【0108】
表1中、「突起含有層」欄の「最も突出している突起」欄は、最も突出している突起が有機物からなる場合を「有機」、最も突出している突起が無機物を含む場合を「無機」として表す。
表1中、「突起含有層」欄の「架橋構造」欄は、架橋している場合を「Y」、架橋していない場合を「N」として表す。
表1中、「剥離層」欄の「層形成方法」欄は、剥離層形成用組成物を1軸延伸フィルムに塗布して延伸した場合を「インライン塗布」、2軸延伸フィルムに剥離層形成用組成物を塗布した場合を「オフライン塗布」として表す。
表1中、「突起含有層」欄の「層形成方法」欄は、突起含有層形成用組成物を1軸延伸フィルムに塗布して延伸した場合を「インライン塗布」、2軸延伸フィルムに突起含有層形成用組成物を塗布した場合を「オフライン塗布」、粒子なしポリエステルと粒子ありポリエステルとを共押出成形することにより、突起含有層とポリエステル基材を積層した場合を「共押出成形」として表す。
【0109】
【表1】
【0110】
表1に示すように、本発明の剥離フィルムでは、転写痕が抑制され、セラミックグリーンシート製造用に好適に用いることができることが確認された。