(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119031
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】ホール素子及びホールセンサ
(51)【国際特許分類】
H10N 52/00 20230101AFI20240826BHJP
G01R 33/07 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
H10N52/00 P
H10N52/00 S
G01R33/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023220204
(22)【出願日】2023-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2023024913
(32)【優先日】2023-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 仁人
【テーマコード(参考)】
2G017
5F092
【Fターム(参考)】
2G017AB09
2G017AD53
5F092AA01
5F092AA04
5F092AA05
5F092AA12
5F092AA14
5F092AA15
5F092AB01
5F092AC02
5F092BA00
5F092BA06
5F092BA07
5F092BA15
5F092BA22
5F092BA25
5F092BA33
5F092BA34
5F092CA02
5F092CA09
(57)【要約】
【課題】ホール素子のオフセット電圧を抑制する。
【解決手段】ホール素子1は、基板2、基板上に配され、互いに交差する中心軸L
1,L
2のそれぞれに沿って延在する平面形状を有する活性層32、活性層の第1軸方向の一側端部3a~3d上に配置される電極胴部5a
0~5d
0と電極胴部から第2軸方向に延びて基板2上に配置される電極端部5a
1~5d
1,5a
2~5d
2とを含み、電極胴部は電極端部より幅が小さい、少なくとも1つの下部電極5a~5d、活性層上に形成される絶縁膜4、絶縁膜上に配置され、絶縁膜に設けられたコンタクトホール4a
1~4d
1,4a
2~4d
2を介して下部電極の電極端部に接続する少なくとも1つの電極6a~6dを備える。これによれば、活性層の実効面積を最大化してノイズの低減を図ることが可能となる。
【選択図】
図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配され、互いに交差する第1軸及び第2軸のそれぞれに沿って延在する平面形状を有する活性層と、
前記活性層の前記第1軸方向の一側端部上に配置される電極胴部と該電極胴部から前記第2軸方向に延びて前記基板上に配置される電極端部とを含み、前記電極胴部は前記電極端部より前記第1軸方向に関する幅が小さい、少なくとも1つの下部電極と、
前記活性層上に形成される絶縁膜と、
前記絶縁膜上に配置され、該絶縁膜に設けられたコンタクトホールを介して前記下部電極の電極端部に接続する少なくとも1つの電極と、
を備えるホール素子。
【請求項2】
前記少なくとも1つの電極は、前記絶縁膜のコンタクトホールを介して前記下部電極の電極端部に接続する接続部と、該接続部に連結して前記活性層の一側端部上に配置される本体部と、を含む、請求項1に記載のホール素子。
【請求項3】
前記少なくとも1つの下部電極は、前記電極胴部から前記第2軸に沿って前記電極端部とは逆方向に延びて前記基板上に配置され、前記少なくとも1つの電極に接続される別の電極端部をさらに含む、請求項1に記載のホール素子。
【請求項4】
前記少なくとも1つの下部電極は、前記活性層の前記第1軸方向の一側端部及び他側端部にそれぞれ接続する第1下部電極及び第2下部電極、前記活性層の前記第2軸方向の一側端部及び他側端部にそれぞれ接続する第3下部電極及び第4下部電極を含み、
前記少なくとも1つの電極は、前記第1下部電極から第4下部電極にそれぞれ接続する第1電極から第4電極を含む、請求項1に記載のホール素子。
【請求項5】
前記基板は、前記第1軸及び第2軸方向に広がる矩形状を有し、
前記活性層は、前記基板の中央に中心部が配され、該中心部から前記第1軸及び前記第2軸方向のそれぞれに延びる略十字形状を有する、請求項1に記載のホール素子。
【請求項6】
前記活性層は、2次元電子ガス膜を形成する層であり、前記活性層の下側及び上側にそれぞれ第1バッファ層及び第2バッファ層が積層されて積層体を形成する、請求項1に記載のホール素子。
【請求項7】
前記活性層は、InAsを含み、前記第1バッファ層及び前記第2バッファ層の少なくとも一方はAlGaAsSbを含む、請求項6に記載のホール素子。
【請求項8】
前記活性層は、GaAsを含み、前記第1バッファ層及び前記第2バッファ層の少なくとも一方はAlGaAsを含む、請求項6に記載のホール素子。
【請求項9】
前記活性層は、前記基板上に中心部が配され、該中心部の近傍に1又は複数の角部を形成して互いに交差する第1軸及び第2軸のそれぞれに沿って延在する十字形状又は略十字形状を有し、
前記少なくとも1つの電極は、前記活性層の前記第1軸に平行な第1軸方向の一側端部及び他側端部にそれぞれ接続する第1電極及び第2電極、前記活性層の前記第2軸に平行な第2軸方向の一側端部及び他側端部にそれぞれ接続する第3電極及び第4電極を含み、前記第3電極及び第4電極は、前記1又は複数の角部の上方に少なくとも前記第1軸に対して対称又は略対称に配置される、
請求項1に記載のホール素子。
【請求項10】
前記基板上の領域は、前記第1軸及び前記第2軸により区画される4つの領域であり、前記第1軸方向の一側且つ前記第2軸方向の一側に位置する第1領域、前記第1軸方向の他側且つ前記第2軸方向の一側に位置する第2領域、前記第1軸方向の他側且つ前記第2軸方向の他側に位置する第3領域、及び前記第1軸方向の一側且つ前記第2軸方向の他側に位置する第4領域を含み、
前記第3電極が、前記1又は複数の角部のうちの前記第1領域内で重なる角部の第1の数と、前記第4電極が、前記1又は複数の角部のうちの前記第4領域内で重なる角部の第4の数と、は互いに等しい、請求項9に記載のホール素子。
【請求項11】
前記第3電極が、前記1又は複数の角部のうちの前記第2領域内で重なる角部の第2の数と、前記第4電極が、前記1又は複数の角部のうちの前記第3領域内で重なる角部の第3の数と、は互いに等しい、請求項10に記載のホール素子。
【請求項12】
前記基板上の領域は、前記第1軸及び前記第2軸により区画される4つの領域であり、前記第1軸方向の一側且つ前記第2軸方向の一側に位置する第1領域、前記第1軸方向の他側且つ前記第2軸方向の一側に位置する第2領域、前記第1軸方向の他側且つ前記第2軸方向の他側に位置する第3領域、及び前記第1軸方向の一側且つ前記第2軸方向の他側に位置する第4領域を含み、
前記第3電極が、前記1又は複数の角部のうちの前記第1領域内で重なる角部の第1の数及び前記第4電極が、前記1又は複数の角部のうちの前記第3領域内で重なる角部の第3の数の和と前記第3電極が、前記1又は複数の角部のうちの前記第2領域内で重なる角部の第2の数及び前記第4電極が、前記1又は複数の角部のうちの前記第4領域内で重なる角部の第4の数の和との差分の絶対値を、前記1又は複数の角部の総数で規格化して得られる値は、ゼロ又は0.25以下である、請求項9に記載のホール素子。
【請求項13】
前記基板上の領域は、前記第1軸及び前記第2軸により区画される4つの領域であり、前記第1軸方向の一側且つ前記第2軸方向の一側に位置する第1領域、前記第1軸方向の他側且つ前記第2軸方向の一側に位置する第2領域、前記第1軸方向の他側且つ前記第2軸方向の他側に位置する第3領域、及び前記第1軸方向の一側且つ前記第2軸方向の他側に位置する第4領域を含み、
前記第3電極が、前記第1領域内で前記活性層と重なる面積と、前記第4電極が、前記第4領域内で前記活性層と重なる面積と、は互いに等しい、請求項9に記載のホール素子。
【請求項14】
前記第3電極が、前記第2領域内で前記活性層と重なる面積と、前記第4電極が、前記第3領域内で前記活性層と重なる面積と、は互いに等しい、請求項13に記載のホール素子。
【請求項15】
前記活性層は、該活性層の下側及び上側にそれぞれ積層される第1バッファ層及び第2バッファ層とともに積層体を形成する、請求項9に記載のホール素子。
【請求項16】
前記活性層は、InAsを含み、前記第1バッファ層及び前記第2バッファ層の少なくとも一方はAlGaAsSbを含む、請求項15に記載のホール素子。
【請求項17】
前記活性層は、GaAsを含み、前記第1バッファ層及び前記第2バッファ層の少なくとも一方はAlGaAsを含む、請求項15に記載のホール素子。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項に記載のホール素子を備え、前記ホール素子の前記活性層に入る磁場の強度を検出するホールセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホール素子及びホールセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気センサの一種であるホール素子として、活性層上に絶縁膜を介して電極を設けること(UP;Under-Pad)で低ノイズ化し、それによりSN比の向上を図ったUP型のホール素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。斯かるUP型のホール素子において、活性層を十字形状に形成することにより磁気感度及び消費電流が向上する。ここで、電極は、良好なワイヤボンディングのために一定面積を必要とする。そこで、チップ面積を縮小するために電極を活性層上に配置すると活性層のシート抵抗が変動し、無磁場状態で駆動電圧を入力した際に出力されるオフセット電圧が増大することが懸念される。
特許文献1 特開2018-160631号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の第1の態様においては、基板と、前記基板上に中心部が配され、該中心部の近傍に1又は複数の角部を形成して互いに交差する第1軸及び第2軸のそれぞれに沿って延在する十字形状又は略十字形状を有する活性層と、前記活性層上に形成される絶縁膜と、前記絶縁膜上に配され、前記絶縁膜に設けられたコンタクトホールを介して、前記活性層の前記第1軸方向の一側端部及び他側端部にそれぞれ接続する第1電極及び第2電極、前記活性層の前記第2軸方向の一側端部及び他側端部にそれぞれ接続する第3電極及び第4電極を含む複数の電極であり、前記第3電極及び第4電極は、前記1又は複数の角部の上方に少なくとも前記第1軸に対して対称又は略対称に配置される、前記複数の電極と、を備えるホール素子が提供される。
【0004】
本発明の第2の態様においては、第1の態様のホール素子を備え、前記ホール素子の前記活性層に入る磁場の強度を検出するホールセンサが提供される。
【0005】
本発明の第3の態様においては、基板と、前記基板上に配され、互いに交差する第1軸及び第2軸のそれぞれに沿って延在する平面形状を有する活性層と、前記活性層の前記第1軸方向の一側端部上に配置される電極胴部と該電極胴部から前記第2軸方向に延びて前記基板上に配置される電極端部とを含み、前記電極胴部は前記電極端部より前記第1軸方向に関する幅が小さい、少なくとも1つの下部電極と、前記活性層上に形成される絶縁膜と、前記絶縁膜上に配置され、該絶縁膜に設けられたコンタクトホールを介して前記下部電極の電極端部に接続する少なくとも1つの電極と、を備えるホール素子が提供される。
【0006】
本発明の第4の態様においては、第3の態様のホール素子を備え、前記ホール素子の前記活性層に入る磁場の強度を検出するホールセンサが提供される。
【0007】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】本実施形態に係るホール素子の全体構成を斜視において示す。
【
図1B】ホール素子の分解構成を斜視において示す。
【
図1C】ホール素子の上面構成を上面視において示す。
【
図1D】
図1Cにおける基準線DDに関するXZ断面上でのホール素子の内部構成を示す。
【
図2A】本実施形態に係るホール素子を備えるホールセンサの全体構成を上面視において示す。
【
図2B】
図2Aの基準線BBに関する断面上でのホールセンサの内部構成を示す。
【
図3】本実施形態に係るホール素子の製造フローを示す。
【
図4A】ホール素子の製造フローの基板準備工程における素子の状態を示す。
【
図4B】ホール素子の製造フローの積層体形成工程における素子の状態を示す。
【
図4C】ホール素子の製造フローの段部形成工程における素子の状態を示す。
【
図4D】ホール素子の製造フローの下部電極形成工程における素子の状態を示す。
【
図4E】ホール素子の製造フローの絶縁膜形成工程における素子の状態を示す。
【
図4F】ホール素子の製造フローの絶縁膜のエッチング工程における素子の状態を示す。
【
図4G】ホール素子の製造フローのコンタクトホール形成工程における素子の状態を示す。
【
図4H】ホール素子の製造フローの電極形成工程における素子の状態を示す。
【
図5A】活性層内での電位分布及び電流経路の一例を示す。
【
図5B】活性層のシート抵抗変動に対するオフセット電圧の変動量分布を示す。
【
図7A】第1実施例に係るホール素子における活性層の形状(略十字形状)及び電極配置を示す。
【
図7B】第2実施例に係るホール素子における活性層の形状(略十字形状)及び電極配置を示す。
【
図7C】第3実施例に係るホール素子における活性層の形状(略十字形状)及び電極配置を示す。
【
図7D】第4実施例に係るホール素子における活性層の形状(略十字形状)及び電極配置を示す。
【
図8】第1から第4実施例に係るホール素子におけるオフセット電圧の実験結果及びシミュレーション結果を示す。
【
図9A】第5実施例に係るホール素子における活性層の形状(十字形状)及び電極配置を示す。
【
図9B】第6実施例に係るホール素子における活性層の形状(十字形状)及び電極配置を示す。
【
図9C】第7実施例に係るホール素子における活性層の形状(十字形状)及び電極配置を示す。
【
図9D】第8実施例に係るホール素子における活性層の形状(十字形状)及び電極配置を示す。
【
図10】第5から第8実施例に係るホール素子におけるオフセット電圧のシミュレーション結果を示す。
【
図11】対称性パラメータIがゼロとなる活性層の形状(略十字形状)及び電極配置の例を模式的に示す。
【
図12】対称性パラメータIがゼロとなる活性層の形状(十字形状)及び電極配置の例を模式的に示す。
【
図13】対称性パラメータIが0.125となる活性層の形状(略十字形状)及び電極配置の例を模式的に示す。
【
図14】対称性パラメータIが0.25となる活性層の形状(略十字形状)及び電極配置の例を模式的に示す。
【
図15】対称性パラメータIが0.25となる活性層の形状(十字形状)及び電極配置の例を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0010】
図1Aから
図1Dに、本実施形態に係るホール素子1の構成を示す。ここで、
図1Aは、ホール素子1の全体構成を斜視において示し、
図1Bは、ホール素子1の分解構成を斜視において示し、
図1Cは、ホール素子1の上面構成を上面視において示し、
図1Dは、
図1Cにおける基準線DD(すなわち、対向する電極6a,6bの中心を結ぶ基準線)に関するXZ断面上でのホール素子1の内部構成を示す。ただし、
図1B及び
図1Cにおいては、絶縁膜4を透過してホール素子1の内部構成を示す。
【0011】
ホール素子1は、対向する電極、例えば電極6a,6b間に駆動電圧を印加して素子本体に電流を流した際に、別の対向する電極、すなわち電極6c,6d間に発生するホール起電力を検出することで、電極6a,6bの対向方向及び電極6c,6dの対向方向のそれぞれに直交する方向に関する磁場強度を検出する素子である。ここで、UP型のホール素子では、駆動電圧を印加することにより電極から膜厚方向に電圧が印加されて活性層のシート抵抗が変動するため、電極が活性層に対して非対称に配置されると活性層のシート抵抗が非対称に変動してオフセット電圧が増大することが懸念される。ここで、オフセット電圧とは、無磁場状態で一方の電極対(例えば、電極6a,6b)に駆動電圧を入力した際に他方の電極対(電極6c,6d)から出力される電圧をいう。ホール素子1は、基板2、積層体3、下部電極5a~5d、絶縁膜4、及び電極6a~6dを備える。
【0012】
基板2は、素子本体である積層体3を形成するための基材であり、例えばガリウム砒素(GaAs)のような化合物半導体を含む半導体基板を採用することができる。基板2は、上面視において互いに交差(本実施形態では直交)するX軸及びY軸方向に広がる矩形状又は略矩形状(本実施形態では正方形状)を有する。なお、X軸に平行な中心軸(第1軸の一例)L
1及びY軸に平行な中心軸(第2軸の一例)L
2の交差点が基板2の中心に位置し、基板2上の領域は、中心軸L
1及び中心軸L
2により区画される4つの領域、すなわち+X側且つ+Y側に位置する第1領域E1、-X側且つ+Y側に位置する第2領域E2、-X側且つ-Y側に位置する第3領域E3、及び+X側且つ-Y側に位置する第4領域E4を含むとする(
図7A参照)。また、X軸及びY軸方向に直交する基板2の厚み方向をZ軸方向とする。
【0013】
積層体3は、基板2上に配される素子本体である。積層体3は、基板2の辺部に沿って、すなわちX軸及びY軸方向に延在する平面形状を有する。本実施形態では特に、基板2の中央に中心部が配され、その中心部から中心軸L
1に対して対称にX軸方向に延びる矩形と中心軸L
2に対して対称にY軸方向に延びる矩形とが交差し(本実施形態では直交)、X軸方向に延びる矩形の+X側端部3a及び-X側端部3b、Y軸方向に延びる矩形の+Y側端部3c及び-Y側端部3dを含む略十字形状を有する(
図7A参照)。なお、略十字形状は、中心軸L
1に関して対称であり且つ中心軸L
2に関して対称でもある。それにより、限られた面積を有する基板2上に配される積層体3(活性層32)の面積を最大化することができ、電流集中が緩和されてノイズ低減、SN比の向上を図ることができる。
【0014】
ここで、積層体3は、隣接する端部3a~3d間に、X軸及びY軸方向にそれぞれ延びる2つの矩形が交差することで中心部の近傍に形成される1又は複数の角部を含む。本例(
図7A参照)では、領域E1において端部3a,3c間に2つの角部3e
1,3e
2が形成され、領域E2において端部3b,3c間に2つの角部3e
3,3e
4が形成され、領域E3において端部3b,3d間に2つの角部3e
5,3e
6が形成され、領域E4において端部3a,3d間に2つの角部3e
7,3e
8が形成される。ここで、角部3e
1~3e
8はそれぞれ優角(180度以上)をなす。なお、角部は、積層体3の縁が屈曲して形成される屈曲角に限らず、湾曲して丸角状に形成される湾曲角であってもよい。湾曲角は、連続的又は不連続的に曲率が変わるように形成されてもよく、曲率中心の数により角部の数を代表することができる。
【0015】
なお、本実施形態においては、積層体3の端部3a,3bの幅と端部3c,3dの幅とが異なるが、それらが等しくなるように積層体3を成形してもよい。また、隣接する端部3a~3d間に各2つ以上の角部を含む形状を略十字形状と呼び、隣接する端部3a~3d間に各1つの角部を含む形状を十字形状と呼ぶ。
【0016】
積層体3は、活性層32、第1バッファ層31及び第2バッファ層33を含む。
【0017】
活性層(感磁面とも呼ぶ)32は、ホール起電力を生成する層であり、例えばインジウム砒素(InAs)のような化合物半導体を含んで基板2上に製膜される。活性層32は、相対的に低いエネルギ伝導帯を有する。
【0018】
第1バッファ層31及び第2バッファ層33は、基板2と活性層32との間の格子不整合を緩和するための層であり、例えばInAsに近い格子定数を有するAlGaAsSbのような化合物半導体を含んで基板2上に製膜される。第1バッファ層31及び第2バッファ層33は、相対的に高い、例えば活性層32より1.3eV程高いエネルギ伝導帯を有する。
【0019】
基板2上で、第1バッファ層31及び第2バッファ層33を活性層32に対してそれぞれ下側及び上側に積層することで(斯かる積層構造の積層体3を超高移動度膜と呼ぶ)、活性層32は、電子が不純物拡散されず、例えば20000cm2/Vs以上の高移動度を有する2次元電子ガス膜を形成する。ただし、第2バッファ層33は、積層体3の端部3a~3dを除く活性層32上に積層される。それにより、積層体3の端部3a~3dでは活性層32の上面が露出し、後述する下部電極5a~5dを積層してこれを活性層32に電気接続することができる。これにより、活性層32は、X軸方向の実効長さLab及びY軸方向の実効長さLcdを有することとなる。
【0020】
なお、第1バッファ層31及び第2バッファ層33は、同一の材料に限らず、異なる材料を用いて形成してもよい。さらに、第1バッファ層31の下にGaAsを含むバッファ層、第2バッファ層33の上にガリウム砒素アンチモニド(GaAsSb)を含むバッファ層を設けてもよい。また、活性層32を製造プロセスによるダメージから保護するよう、第2バッファ層33の上に、例えばGaAsを含むキャップ層を設けてもよい。
【0021】
なお、積層体3は、活性層32をGaAsを含んで形成し、第1バッファ層31及び第2バッファ層33の少なくとも一方をAlGaAsを含んで形成してもよい。斯かる積層構造の積層体3を高移動度膜と呼ぶ。高移動度膜は、例えば20000cm2/Vs以上の移動度を有する。また、積層体3は、活性層32を不純物ドーピングしたGaAsを含んで形成し、第1バッファ層31及び第2バッファ層33の少なくとも一方を真性GaAsを含んで形成してもよい。斯かる積層構造の積層体3を中移動度膜と呼ぶ。中移動度膜は、例えば4000cm2/Vs以上の移動度を有する。
【0022】
下部電極5a~5d(それぞれ、第1から第4下部電極の一例)は、電極6a~6dをそれぞれ積層体3(活性層32)の端部3a~3dに電気接続するための電気部材である。下部電極5a~5dは、金、チタンのような金属、ポリシリコンのような導電性材料を用いて形成される。ここで、下部電極5a,5bは、活性層32の+X側端部3a及び-X側端部3bにそれぞれ接続し、下部電極5c,5dは、活性層32の+Y側端部3c及び-Y側端部3dにそれぞれ接続する。下部電極5a~5dは、それぞれ、活性層32の端部3a~3d上に配置されて活性層32に接続される電極胴部5a0~5d0及び基板2上に配置されて電極6a~6dに接続される電極端部5a1~5d1,5a2~5d2を含む。
【0023】
下部電極5aの電極胴部5a0は、活性層32の端部3a上に配置され、電極端部5a1は、電極胴部5a0から+Y方向に延びて基板2の領域E1上に配置され、電極端部5a2は、電極胴部5a0から電極端部5a1とは逆方向、すなわち-Y方向に延びて基板2の領域E4上に配置される。同様に、下部電極5bの電極胴部5b0は、活性層32の端部3b上に配置され、電極端部5b1は、電極胴部5b0から+Y方向に延びて基板2の領域E2上に配置され、電極端部5b2は、電極胴部5b0から電極端部5b1とは逆方向、すなわち-Y方向に延びて基板2の領域E3上に配置される。ここで、電極胴部5a0,5b0は、Y軸方向を長手とする矩形状を有し、活性層32の端部3a,3bのY軸方向の全幅に接続することで良好な電気接続を得ることができる。
【0024】
また、下部電極5cの電極胴部5c0は、X軸方向を長手として活性層32の端部3c上に配置され、電極端部5c1は、電極胴部5c0から+X方向に延びて基板2の領域E1上に配置され、電極端部5c2は、電極胴部5c0から電極端部5c1とは逆方向、すなわち-X方向に延びて基板2の領域E2上に配置される。同様に、下部電極5dの電極胴部5d0は、X軸方向を長手として活性層32の端部3d上に配置され、電極端部5d1は、電極胴部5d0から+X方向に延びて基板2の領域E4上に配置され、電極端部5d2は、電極胴部5d0から電極端部5d1とは逆方向、すなわち-X方向に延びて基板2の領域E3上に配置される。ここで、電極胴部5c0,5d0は、X軸方向を長手とする矩形状を有し、活性層32の端部3c,3dのX軸方向の全幅に接続することで良好な電気接続を得ることができる。
【0025】
ここで、電極胴部5a0,5b0は、電極端部5a1,5b1,5a2,5b2よりX軸方向に関する幅が小さい。また、電極胴部5c0,5d0は、電極端部5c1,5d1,5c2,5d2よりY軸方向に関する幅が小さい。それにより、活性層32の実効面積(Lab×Lcd)を最大化してノイズの低減を図ることができる。また、後述するように電極6a~6dが絶縁膜4に設けられたコンタクトホール4a1~4d1,4a2~4d2を介して接続する電極端部5a1~5d1,5a2~5d2を大きく形成して、下部電極5a~5dと電極6a~6dとの間の良好な電気接続を図ることができる。
【0026】
また、下部電極5a~5dは、それぞれ2つの電極端部5a1~5d1,5a2~5d2を含むことで、それらを介して電極6a~6dを活性層32の端部3a~3dに良好に電気接続することができる。なお、下部電極5a~5dは、2つの電極端部5a1~5d1,5a2~5d2に代えて、電極端部5a1~5d1又は電極端部5a2~5d2の一方のみを含むものとしてもよい。
【0027】
絶縁膜4は、積層体3(活性層32)上に形成されて、特に活性層32を絶縁し且つ腐食から保護するための膜体である。絶縁膜4は、1種以上の誘電体を含んでよい。絶縁膜4は、酸化シリコン(SiO)及び窒化シリコン(SiN)のうちの少なくとも1つを含んでよい。また、低誘電率膜(low-k膜)、例えば、フッ化シリケートガラス(FSG)、パリレン、炭素ドープSiO(SiOC)、フッ化炭化水素、テフロン(登録商標)、メチルシルセスキオキサン(MSQ)、ハイドロジェンシルセスキオキサン(HSQ)、ポリイミド、芳香族炭化水素ポリマー(SiLK)、ポリアリレンエーテル(PAE)、フッ化アモルファスカーボン、ポーラスシリカ等のうちの少なくとも1つを含んでよい。
【0028】
絶縁膜4は、積層体3の全体を覆う大きさの矩形状を有し、Z軸方向に貫通し、下部電極5a~5dの電極端部5a1~5d1,5a2~5d2の上面に到達するコンタクトホール4a1~4d1,4a2~4d2が形成されている。ここで、コンタクトホール4a1,4a2は、絶縁膜4の+X辺部近傍にY軸方向に離間して配置される。コンタクトホール4b1,4b2は、絶縁膜4の-X辺部近傍にY軸方向に離間して配置される。コンタクトホール4c1,4c2は、絶縁膜4の+Y辺部近傍にX軸方向に離間して配置される。コンタクトホール4d1,4d2は、絶縁膜4の-Y辺部近傍にX軸方向に離間して配置される。コンタクトホール4a1~4d1,4a2~4d2は、電極端部5a1~5d1,5a2~5d2より幾らか小さい矩形状を有する。
【0029】
電極6a~6dは、活性層32に駆動電圧(又は駆動電流)を印加するための一軸方向に対向する2つの電極及び活性層32において発生するホール起電力(ホール出力とも呼ぶ)を検出するための一軸方向に交差する方向に対向する2つの電極を含む。本実施形態では、X軸方向に対向する2つの電極6a,6b及びY軸方向に対向する2つの電極6c,6dを含む。なお、電極6a,6bを入力用(in)の電極、2つの電極6c,6dを出力用(out)の電極とすることができる。複数の電極6a~6dは、金、チタンのような金属、ポリシリコンのような導電性材料を用いて形成される。
【0030】
電極6a~6dは、絶縁膜4上に配置され、それぞれ下部電極5a~5dに接続し、それらを介して活性層32の端部3a~3dに電気接続する。より詳細には、絶縁膜4に設けられたコンタクトホール4a1~4d1,4a2~4d2を介して下部電極5a~5dの電極端部5a1~5d1,5a2~5d2に接続する。ここで、電極6a,6bは、絶縁膜4の+X辺部及び-X辺部近傍にそれぞれ配置され、絶縁膜4のコンタクトホール4a1,4a2,4b1,4b2及び下部電極5a,5b介して活性層32の+X側端部3a及び-X側端部3bにそれぞれ接続する。電極6c,6dは、絶縁膜4の+Y辺部及び-Y辺部近傍にそれぞれ配置され、絶縁膜4のコンタクトホール4c1,4c2,4d1,4d2及び下部電極5c,5d介して活性層32の+Y側端部3c及び-Y側端部3dにそれぞれ接続する。後述するように、電極6c及び電極6dは、積層体3(活性層32)の1又は複数の角部3e1~3e8の上方に中心軸L1,L2に対して対称に配置される。電極6a~6dは、それぞれ、本体部6a0~6d0及び接続部6a1~6d1,6a2~6d2を含む。
【0031】
本体部6a0~6d0は、外部装置等とワイヤボンディングするための電極パッドである。本体部6a0~6d0は、一例として半楕円形状を有し、円弧を基板2に中心に向け且つ弦辺をそれぞれ絶縁膜4の+X辺部、-X辺部、+Y辺部、及び-Y辺部に平行に並べて、積層体3の端部3a~3d上に配置される。
【0032】
接続部6a1~6d1,6a2~6d2は、本体部6a0~6d0に連結し、絶縁膜4のコンタクトホール4a1~4d1,4a2~4d2を介して下部電極5a~5dの電極端部5a1~5d1,5a2~5d2に接続する。接続部6a1,6a2は、本体部6a0から絶縁膜4の+X辺部に沿ってそれぞれ+Y方向及び-Y方向に延びて、絶縁膜4のコンタクトホール4a1,4a2上まで到達する。接続部6b1,6b2は、本体部6b0から絶縁膜4の-X辺部に沿ってそれぞれ+Y方向及び-Y方向に延びて、絶縁膜4のコンタクトホール4b1,4b2上まで到達する。接続部6c1,6c2は、本体部6c0から絶縁膜4の+Y辺部に沿ってそれぞれ+X方向及び-X方向に延びて、絶縁膜4のコンタクトホール4c1,4c2上まで到達する。接続部6d1,6d2は、本体部6d0から絶縁膜4の-Y辺部に沿ってそれぞれ+X方向及び-X方向に延びて、絶縁膜4のコンタクトホール4d1,4d2上まで到達する。
【0033】
斯かる電極形状を採用することで、接続部6a1~6d1,6a2~6d2により下部電極5a~5dの電極端部5a1~5d1,5a2~5d2に電気接続し、その接続部6a1~6d1,6a2~6d2に連結する本体部6a0~6d0を積層体3の端部3a~3d上に配置することで、本体部6a0~6d0を大きく形成して外部と良好な電気接続するための電極パッドとすることができる。なお、電極6a~6dは、2つの接続部6a1~6d1,6a2~6d2に代えて、接続部6a1~6d1又は接続部6a2~6d2の一方のみを含むものとしてもよい。
【0034】
なお、電極6a~6dの本体部6a0~6d0の形状は、半楕円に限らず、良好にワイヤボンディングするために表面積を大きくすることができれば、半円、円、矩形等、任意の形状としてよい。
【0035】
図2A及び
図2Bに、本実施形態に係るホール素子1を備えるホールセンサ10の構成を示す。ここで、
図2Aはホールセンサ10の全体構成を上面視において、ただしモールド部材19を透過して示す。
図2Bは、
図2Aの基準線BBに関する断面上でのホールセンサ10の内部構成を示す。ホールセンサ10は、ホール素子1、保護層9、リード端子12a~12d、ボンディングワイヤ13a~13d、及びモールド部材19を備える。本実施形態のホールセンサ10は、一例として、図面左右方向に延びる立方体形状を有する。
【0036】
ホール素子1は先述のとおり構成される。ホール素子1は、センサ本体の中央に配置される。
【0037】
保護層9は、ホール素子1の下面に設けられて素子本体を保護する膜体である。保護層9は、銀ペーストのような導電性樹脂などの導体、エポキシ系の熱硬化型樹脂及び二酸化シリコン(SiO2)を含む絶縁ペースト、SiN、SiO2などの絶縁体、又はシリコン(Si)基板、ゲルマニウム(Ge)基板等、又はそれらの貼り合わせのような半導体を用いて形成することができる。
【0038】
リード端子12a~12dは、外部回路からホール素子1に駆動電圧を入力し、ホール素子1からのホール起電力を外部回路に出力するためのインタフェースである。リード端子12a~12dは、銅のような金属を用いて矩形板状に形成され、上面視においてセンサ本体の四隅に配置される。なお、リード端子12a~12dは、それぞれの下面に例えば錫(Sn)を含む外装メッキ層14a,14cが設けられる。
【0039】
ボンディングワイヤ13a~13dは、ホール素子1の電極6a~6dをそれぞれリード端子12a~12dの上面に接続する部材である。ボンディングワイヤ13a~13dは、例えば金ワイヤのような導電性材料を用いて形成される。ボンディングワイヤ13a~13d及びリード端子12a~12dを介して、ホール素子1を、外部回路に電気的に接続することができる。
【0040】
モールド部材19は、ホール素子1、リード端子12a~12d、及びボンディングワイヤ13a~13dを封止して、パッケージングする部材である。モールド部材19は、エポキシ系の熱硬化型樹脂のようなリフロー時の高熱に耐え得る樹脂材料を用いて、ホール素子1等の上面側を覆って立方体形状に成形される。
【0041】
ホールセンサ10は、リード端子12a,12bを介してホール素子1の電極6a,6bに駆動電圧を入力してリード端子12c,12dを介してホール素子1の電極6c,6d間に発生するホール起電力を検出するとともに、リード端子12c,12dを介してホール素子1の電極6c,6dに駆動電圧を入力してリード端子12a,12bを介してホール素子1の電極6a,6b間に発生するホール起電力を検出することで、ホール素子1の活性層32に入る磁場の強度を検出する。
【0042】
図3に、本実施形態に係るホール素子1の製造フローを示す。
図4Aから
図4Hにおいては、
図1Dと同様に、
図1Cにおける基準線DDに関するXZ断面上でのホール素子1の製造状態を示す。
【0043】
ステップS1では、
図4Aに示すように、個片化された基板2を準備する。
【0044】
ステップS2では、
図4Bに示すように、基板2上に積層体3を形成する。有機金属気相成長(MOCVD)法及び分子線エピタキシー(MBE)法により化合物半導体をエピタキシャル成長させることで、基板2上に順に第1バッファ層31、活性層32、及び第2バッファ層33を積層する。それらの半導体材料、膜厚等の製造条件は、先述のとおりである。それにより、基板2の上面の全体に積層体3が形成される。そして、積層体3上にハードマスクを設けてイオンミリングにより積層体3の外縁を除去することにより、積層体3を略十字形状に成形するとともに基板2上に積層体3の段差(メサ)を形成する。
【0045】
ステップS3では、
図4Cに示すように、積層体3の端部3a~3dに段部を形成する。ここで、イオンミリングにより、積層体3の端部3a~3dに、第2バッファ層33を貫通し、活性層32の一部にまで到達する段部がそれぞれ形成される。
【0046】
ステップS4では、
図4Dに示すように、基板2上に下部電極5a~5dを形成する。ここで、メッキ法、蒸着、スパッタリング等により導電性材料を積層体3の端部3a~3dに充填するとともに基板2上に延設することで、下部電極5a~5dを構成する電極胴部5a
0~5d
0及び電極端部5a
1~5d
1,5a
2~5d
2が形成される。ここで、電極胴部5a
0~5d
0は、活性層32の端部3a~3d上に配置されて活性層32に接続され、電極端部5a
1~5d
1,5a
2~5d
2は、電極胴部5a
0~5d
0から互いに逆方向に基板2上に延設されて電極6a~6dに接続されることができる。下部電極5a~5dの材料、形状、大きさ等の製造条件については先述のとおりである。
【0047】
ステップS5では、
図4Eに示すように、積層体3上に絶縁膜4を形成する。プラズマ化学気相成膜(プラズマCVD)法により1種以上の誘電体を含んで製膜する。プラズマCVD法では、例えば400kHzの高周波を印加して原料ガス及びキャリアガスをプラズマ化する。絶縁膜4の材料、形状、大きさ等の製造条件については先述のとおりである。
【0048】
ステップS6では、
図4Fに示すように、絶縁膜4をエッチングする。ここで、絶縁膜4上にレジストマスクを形成し、ドライエッチングにより上面視において絶縁膜4の外縁を除去する。
【0049】
ステップS7では、
図4Gに示すように、絶縁膜4の4つの辺部近傍に各2つのコンタクトホール4a
1~4d
1,4a
2~4d
2を形成する。ここで、上面視において、絶縁膜4にコンタクトホール4a
1~4d
1,4a
2~4d
2と同じ大きさ及び形状の開口を有する平面パターンを設け、これをマスクとして用いて絶縁膜4をドライエッチングする。それにより、絶縁膜4をZ軸方向に貫通し、下部電極5a~5dの電極端部5a
1~5d
1,5a
2~5d
2の上面にそれぞれ到達するコンタクトホール4a
1~4d
1,4a
2~4d
2が形成される。
【0050】
ステップS8では、
図4Hに示すように、絶縁膜4の4つの辺部近傍にそれぞれ電極6a~6dを形成する。ここで、メッキ法、蒸着、スパッタリング等により導電性材料をコンタクトホール4a
1~4d
1,4a
2~4d
2内に充填するとともに絶縁膜4の上面上にパターンを形成することで、コンタクトホール4a
1~4d
1,4a
2~4d
2を介して下部電極5a~5dの電極端部5a
1~5d
1,5a
2~5d
2にそれぞれ接続する電極6a~6dを形成することができる。なお、電極6a,6bはX軸方向に対向し、電極6c,6dはY軸方向に対向する。電極6a~6dの材料、形状、大きさ等の製造条件については先述のとおりである。これにより、ホール素子1の製造が完了する。
【0051】
図5Aに、積層体3の活性層32内での電位分布及び電流経路の一例を示す。本例では、有限要素法によるシミュレーションにより、活性層32の端部3a,3b間に電位差を印加した場合に活性層32内に発生する電位分布及び電流経路を算出した。ただし、活性層32は、4つの端部3a~3dの間に各1つの角部を含む十字形状を有するものとした。電位は、端部3aから中心に向かって進むにつれて低くなり、端部3a,3c間の角部及び端部3a,3d間の角部を超えるとさらに端部3c,3dに向かって拡がり、中心を超えると端部3b,3c間の角部及び端部3b,3d間の角部に向かって狭まり、端部3bに向かって進むにつれてさらに低くなる。ここで、4つの角部近傍で等電位線が集中して電位勾配が大きくなり、電流密度が高くなっていることがわかる。
【0052】
図5Bに、活性層32のシート抵抗変動に対するオフセット電圧の変動量分布を示す。本例では、十字形状の活性層32の各位置においてシート抵抗を変動させてオフセット電圧を測定した。ここで、活性層32のシート抵抗は、ホール素子の表面をプローブで一定量押し込むことで局所的に変動させた。図中、シート抵抗を変動させた活性層32内の位置に対するオフセット電圧の変動量分布が等高線を用いて表されている。オフセット電圧の高い部分を「high」、低い部分を「Low」で示している。4つの角部近傍におけるシート抵抗の変動が、大きなオフセット電圧をもたらしていることがわかる。
【0053】
図6に、活性層32の等価回路を示す。上述の考察より、活性層32を4つの抵抗R1~R4より構成されるホイートストンブリッジ(単にブリッジ回路とも呼ぶ)を用いて模型化することができる。ここで、抵抗R1は、領域E1内の活性層32の抵抗を表し、特に角部近傍における活性層32の抵抗に支配される。抵抗R2は、領域E2内の活性層32の抵抗を表し、特に角部近傍における活性層32の抵抗に支配される。抵抗R3は、領域E3内の活性層32の抵抗を表し、特に角部近傍における活性層32の抵抗に支配される。抵抗R4は、領域E4内の活性層32の抵抗を表し、特に角部近傍における活性層32の抵抗に支配される。なお、活性層32は、その中央においても抵抗を有するが、オフセット電圧を考える上では電位分布の非対称には角部近傍の抵抗と比べてほとんど寄与しないから、簡単のために無視することができる。
【0054】
ブリッジ回路において、抵抗R1~R4がバランスしている限り、すなわちR1R3=R2R4が成立している限り、端部3a,3b間に駆動電圧を入力しても端部3c,3d間にオフセット電圧は発生しない。しかし、抵抗R1~R4のバランスが崩れてR1R3≠R2R4となった場合、オフセット電圧が発生することとなる。
【0055】
活性層32の上に電極6a~6dを配置すると、活性層32と電極6a~6dとの間の仕事関数差によって電極6a~6d下の活性層32のシート抵抗が変動する。例えば、GaAsを含む活性層32、SiNを含む3000Å厚の絶縁膜4の場合、電極下の活性層のシート抵抗は1.5%低下する。また、本実施形態に係る2次元電子ガスを構成する活性層32の場合、電極下の活性層のシート抵抗は5%低下する。従って、電極6a~6dが中心軸L1,L2に対して非対称に配置されると抵抗R1~R4のバランスが崩れてオフセット電圧が発生する。逆に、電極6a~6dが活性層32の上方に配置されることで活性層32のシート抵抗が局所的に変動しても、中心軸L1,L2に対して対称に積層体32の上方に配置することで活性層32のシート抵抗が対称的に変動し、抵抗R1~R4のバランスが維持されることでオフセット電圧は発生しない。
【0056】
そこで、本実施形態では、電極6a~6dを中心軸L1,L2に対して対称に活性層32上に配置することで、4つの領域E1~E4におけるシート抵抗(すなわち、抵抗R1~R4)を対称に変動させてバランスさせる。ここで、活性層32の角部近傍のシート抵抗が抵抗R1~R4に支配的に寄与する、特に電極6a~6dにより覆われる活性層32の角部3e1~3e8の数で抵抗R1~R4のそれぞれをおおよそスケールすることができるから、電極6a~6dを中心軸L1,L2に対して(つまり、領域E1~E4について)対称に活性層32の角部の上方に配置することで抵抗R1~R4を対称に変動させてそれらをバランスさせることを考える。
【0057】
図7Aから
図7Dに、4つの実施例に係るホール素子1d1~1d4における活性層32の形状及び電極配置を示す。
図7Aに示す第1実施例に係るホール素子1d1においては、活性層32は先述の略十字形状に成形され、隣接する端部3a~3d間(領域E1~E4)に各2つの角部3e
1~3e
8を含む。これらの角部3e
1~3e
8は、中心軸L
1,L
2について対称に位置している。斯かる形状の活性層32に対して、電極6aは絶縁膜4の+X辺部の中央に配置されていずれの角部も覆わず、電極6bは絶縁膜4の-X辺部の中央に配置されていずれの角部も覆わず、電極6cは絶縁膜4の+Y辺部の中央に配置されて角部3e
2,3e
3を覆い、電極6dは絶縁膜4の-Y辺部の中央に配置されて角部3e
6,3e
7を覆う。つまり、電極6a~6dは、中心軸L
1,L
2について対称に配置され、電極6c,6dが中心軸L
1,L
2について対称に位置する角部3e
2,3e
3,3e
6,3e
7を覆う。
【0058】
図7Bに示す第2実施例に係るホール素子1d2においては、活性層32は同じ略十字形状を有し、電極6aは絶縁膜4上の+X,+Y角部近傍に配置されていずれの角部も覆わず、電極6bは絶縁膜4上の-X,-Y角部近傍に配置されていずれの角部も覆わず、電極6cは絶縁膜4の+Y辺部の-X側に配置されて角部3e
3,3e
4を覆い、電極6dは絶縁膜4の-Y辺部の+X側に配置されて角部3e
7,3e
8を覆う。つまり、電極6a~6dは、中心軸L
1,L
2について非対称に配置され、電極6c,6dが中心軸L
1についても中心軸L
2について対称に位置しない角部3e
3,3e
4,3e
7,3e
8を覆う。
【0059】
図7Cに示す第3実施例に係るホール素子1d3においては、活性層32は同じ略十字形状を有し、電極6aは絶縁膜4上の+X,+Y角部近傍に配置されていずれの角部も覆わず、電極6bは絶縁膜4上の-X,-Y角部近傍に配置されていずれの角部も覆わず、電極6cは絶縁膜4の+Y辺部のさらに-X側に配置されて角部3e
4を覆い、電極6dは絶縁膜4の-Y辺部のさらに+X側に配置されて角部3e
8を覆う。つまり、電極6a~6dは、中心軸L
1,L
2について非対称に配置され、電極6c,6dが中心軸L
1についても中心軸L
2について対称に位置しない角部3e
4,3e
8を覆う。
【0060】
図7Dに示す第4実施例に係るホール素子1d4においては、活性層32は同じ略十字形状を有し、電極6aは絶縁膜4上の+X,+Y角部近傍に配置されていずれの角部も覆わず、電極6bは絶縁膜4上の-X,-Y角部近傍に配置されていずれの角部も覆わず、電極6cは絶縁膜4上の-X,+Y角部近傍に配置されていずれの角部も覆わず、電極6dは絶縁膜4上の+X,-Y角部近傍に配置されていずれの角部も覆わない。つまり、電極6a~6dは、活性層32とほとんど重ならない絶縁膜4上に配置されて、いずれの角部も覆わない。
【0061】
図8に、第1から第4実施例に係るホール素子1d1~1d4におけるオフセット電圧の実験結果及び有限要素法によるシミュレーション結果を示す。ここで、第1から第4実施例に係るホール素子1d1~1d4のそれぞれについて、無磁場状態において、電極6a,6b間に駆動電圧1Vを印加して素子を駆動し、電極6c,6d間に発生するオフセット電圧を検出した。
【0062】
実験結果によると、第1から第4実施例に係るホール素子1d1~1d4において、それぞれ、オフセット電圧0.1V、18.0V、6.3V、及び1.3Vが検出された。第1及び第4実施例に係るホール素子1d1,1d4においては、オフセット電圧は測定誤差の範囲でゼロであったが、第2及び第3実施例に係るホール素子1d2,1d3においては、オフセット電圧は有意な値を呈した。
【0063】
シミュレーション結果によると、第1から第4実施例に係るホール素子1d1~1d4において、それぞれ、オフセット電圧0V、14V、7V、及び0Vが検出された。シミュレーションは実験結果を良く再現していることがわかる。これらの結果より、電極6a~6dが領域E1,E3内の角部3e1,3e2,3e5,3e6を覆うと、1つの角部を覆うごとに-3.5mVのオフセット電圧が発生し、電極6a~6dが領域E2,E4内の角部3e3,3e4,3e7,3e8を覆うと、1つの角部を覆うごとに+3.5mVのオフセット電圧が発生することがわかる。
【0064】
オフセット電圧を抑制するために、電極6cが角部3e1~3e8のうちの領域E1内で重なる角部の数I1と、電極6dが角部3e1~3e8のうちの領域E4内で重なる角部の数I4と、は互いに等しい(I1=I4)ことが望ましい。さらに、電極6cが角部3e1~3e8のうちの領域E2内で重なる角部の数I2と、電極6dが角部3e1~3e8のうちの領域E3内で重なる角部の数I3と、は互いに等しい(I2=I3)ことがより望ましい。さらに、I1=I2=I3=I4がより望ましい。
【0065】
図9Aから
図9Dに、さらに別の4つの実施例に係るホール素子1d5~1d8における活性層32の形状及び電極配置を示す。
図9Aに示す第5実施例に係るホール素子1d5においては、活性層32は十字形状に成形され、隣接する端部3a~3d間(領域E1~E4)に各1つの角部3f
1~3f
4を含む。これらの角部3f
1~3f
4は、中心軸L
1,L
2について対称に位置している。斯かる形状の活性層32に対して、電極6aは絶縁膜4の+X辺部の中央に配置されていずれの角部も覆わず、電極6bは絶縁膜4の-X辺部の中央に配置されていずれの角部も覆わず、電極6cは絶縁膜4の+Y辺部の中央に配置されて角部3f
1,3f
2を覆い、電極6dは絶縁膜4の-Y辺部の中央に配置されて角部3f
3,3f
4を覆う。つまり、電極6a~6dは、中心軸L
1,L
2について対称に配置され、電極6c,6dが中心軸L
1,L
2について対称に位置する角部3f
1,3f
2,3f
3,3f
4を覆う。
【0066】
図9Bに示す第6実施例に係るホール素子1d6においては、活性層32は同じ十字形状を有し、電極6aは絶縁膜4上の+X,+Y角部近傍に配置されていずれの積層体32の角部も覆わず、電極6bは絶縁膜4上の-X,-Y角部近傍に配置されていずれの積層体32の角部も覆わず、電極6cは絶縁層4の+Y辺部の-X側に配置されて角部3f
2を覆い、電極6dは絶縁層4の-Y辺部の+X側に配置されて角部3f
4を覆う。つまり、電極6a~6dは、中心軸L
1,L
2について非対称に配置され、電極6c,6dが中心軸L
1についても中心軸L
2について対称に位置しない角部3f
2,3f
4を覆う。
【0067】
図9Cに示す第7実施例に係るホール素子1d7においては、活性層32は同じ十字形状を有し、電極6aは絶縁膜4上の+X,+Y角部近傍に配置されていずれの角部も覆わず、電極6bは絶縁膜4上の-X,-Y角部近傍に配置されていずれの角部も覆わず、電極6cは絶縁膜4の+Y辺部のさらに-X側に配置されていずれの角部も覆わず、電極6dは絶縁膜4の-Y辺部のさらに+X側に配置されていずれの角部も覆わない。つまり、電極6a~6dは、活性層32とほとんど重ならない絶縁膜4上に配置されて、いずれの角部も覆わない。
【0068】
図9Dに示す第8実施例に係るホール素子1d8においては、活性層32は同じ十字形状を有し、電極6aは絶縁膜4上の+X,+Y角部近傍に配置されていずれの角部も覆わず、電極6bは絶縁膜4上の-X,-Y角部近傍に配置されていずれの角部も覆わず、電極6cは絶縁膜4上の-X,+Y角部近傍に配置されていずれの角部も覆わず、電極6dは絶縁膜4上の+X,-Y角部近傍に配置されていずれの角部も覆わない。つまり、電極6a~6dは、活性層32からさらに離れてほとんど重ならない絶縁膜4上に配置されて、いずれの角部も覆わない。
【0069】
図10に、第5から第8実施例に係るホール素子1d5~1d8におけるオフセット電圧の有限要素法によるシミュレーション結果を示す。ここで、第5から第8実施例に係るホール素子1d5~1d8のそれぞれについて、無磁場状態において、電極6a,6b間に駆動電圧1Vを印加して素子を駆動し、電極6c,6d間に発生するオフセット電圧を検出した。
【0070】
第5から第8実施例に係るホール素子1d5~1d8において、それぞれ、オフセット電圧0V、13V、2V、及び0Vが検出された。これらの結果より、電極6a~6dが領域E1,E3内の角部3f1,3f3を覆うと、1つの角部を覆うごとに-7.0mVのオフセット電圧が発生し、電極6a~6dが領域E2,E4内の角部3f2,3f4を覆うと、1つの角部を覆うごとに+7.0mVのオフセット電圧が発生することがわかる。また、第5から第8実施例に係るホール素子1d5~1d8の活性層32の角部の数が、先述の第1から第4実施例に係るホール素子1d1~1d4の活性層32より少ないことで、1つの角部のオフセット電圧への寄与が大きくなっていることがわかる。
【0071】
オフセット電圧を抑制するために、電極6cが角部3f1~3f4のうちの領域E1内で重なる角部の数I1と、電極6dが角部3f1~3f4のうちの領域E4内で重なる角部の数I4と、は互いに等しい(I1=I4)ことが望ましい。さらに、電極6cが角部3f1~3f4のうちの領域E2内で重なる角部の数I2と、電極6dが角部3f1~3f4のうちの領域E3内で重なる角部の数I3と、は互いに等しい(I2=I3)ことがより望ましい。さらに、I1=I2=I3=I4がより望ましい。
【0072】
オフセット電圧は、ゼロであることが望ましいが、市場スペックとして要求される限度以下であってもよい。ここで、その市場スペックに応じたオフセット電圧の限度は、例えば6.5mVである。ここで、第1から第8実施例に係るホール素子1d1~1d8におけるオフセット電圧の結果より電極が角部を1つ覆うごとのオフセット電圧への寄与が角部の総数に応じて変わることから、対称性パラメータI=|(I1+I3)-(I2+I4)|/(I1+I3+I2+I4)を定め、I1,I3の和とI2,I4の和との差分の絶対値を角部の総数I1+I3+I2+I4で規格化して得られる値がゼロ又は0.25以下となるように、電極6a~6dを活性層32の上方に配置するとよいことがわかる。
【0073】
これにより、略十字形状においては、各領域E1~E4に含まれる角部の数は2に限らず3以上の整数であってもよく、十字形状及び略十字形状を有する活性層32に対して、対称性パラメータIの値がゼロ又は0.25以下となるように、電極6a~6dを活性層32の上方に配置するとよい。
【0074】
図11に、対称性パラメータIがゼロとなる活性層32の形状及び電極配置の例を模式的に示す。先述の略十字形状を有する活性層32に対して、(A)電極6aを活性層32の端部3a上に配置し、電極6bを活性層32の端部3b上に配置し、電極6cを活性層32の角部3e
2,3e
3上に配置し、電極6dを活性層32の端部3d上に配置する。(B)電極6aを活性層32の端部3a上に配置し、電極6bを活性層32の端部3b上に配置し、電極6cを活性層32の角部3e
1,3e
2,3e
3,3e
4上に配置し、電極6dを活性層32の端部3d上に配置する。(C)電極6aを活性層32の端部3a上に配置し、電極6bを活性層32の端部3b上に配置し、電極6cを活性層32の角部3e
2,3e
3上に配置し、電極6dを活性層32の角部3e
5,3e
8上に配置する。(D)電極6aを活性層32の端部3a上に配置し、電極6bを活性層32の端部3b上に配置し、電極6cを活性層32の端部3c上に配置し、電極6dを活性層32の端部3d上に配置する。(E)電極6aを右下の絶縁膜(不図示)上に配置し、電極6bを左上の絶縁膜(不図示)上に配置し、電極6cを右上の絶縁膜(不図示)上に配置し、電極6dを左下の絶縁膜(不図示)上に配置する。
【0075】
図12に、対称性パラメータIがゼロとなる活性層の形状及び電極配置の例を模式的に示す。先述の十字形状を有する活性層32に対して、(A)電極6aを活性層32の端部3a上に配置し、電極6bを活性層32の端部3b上に配置し、電極6cを活性層32の角部3f
1,3f
2上に配置し、電極6dを活性層32の端部3d上に配置する。(B)電極6aを活性層32の角部3f
4上に配置し、電極6bを活性層32の角部3f
3上に配置し、電極6cを活性層32の角部3f
1,3f
2上に配置し、電極6dを活性層32の端部3d上に配置する。
【0076】
図13に、対称性パラメータIが0.125となる活性層の形状及び電極配置の例を模式的に示す。先述の略十字形状を有する活性層32に対して、電極6aを活性層32の端部3a上に配置し、電極6bを活性層32の角部3e
5上に配置し、電極6cを活性層32の角部3e
1,3e
2,3e
3,3e
4上に配置し、電極6dを活性層32の端部3d上に配置する。
【0077】
図14に、対称性パラメータIが0.25となる活性層の形状及び電極配置の例を模式的に示す。先述の略十字形状を有する活性層32に対して、電極6aを活性層32の角部3e
8上に配置し、電極6bを活性層32の角部3e
4上に配置し、電極6cを右上の絶縁膜(不図示)上に配置し、電極6dを左下の絶縁膜上に配置する。
【0078】
図15に、対称性パラメータIが0.25となる活性層の形状及び電極配置の例を模式的に示す。先述の十字形状を有する活性層32に対して、(A)電極6aを活性層32の端部3a上に配置し、電極6bを活性層32の角部3f
3上に配置し、電極6cを活性層32の角部3f
1,3f
2上に配置し、電極6dを活性層32の端部3d上に配置する。(B)電極6aを右下の絶縁膜(不図示)上に配置し、電極6bを左上の絶縁膜(不図示)上に配置し、電極6cを右上の絶縁膜(不図示)上に配置し、電極6dを活性層32の角部3f
3上に配置する。
【0079】
図11から
図15に示した例のように、電極6a~6dを、活性層32の略十字形状又は十字形状に含まれる角部の上方に中心軸L
1,L
2(少なくとも中心軸L
1)に対して対称に配置することで、すなわち対称性パラメータIがゼロとなるように中心軸L
1,L
2(少なくとも中心軸L
1)に対して対称に配置する又は対称性パラメータIが0.25以下となるように中心軸L
1,L
2に対して略対称に配置することで、オフセット電圧をゼロ又は十分に低くすることができる。なお、電極6a~6dを活性層32の角部の上方に中心軸L
1,L
2(少なくとも中心軸L
1)に対して対称に配置するとは、電極6a~6dを中心軸L
1,L
2(少なくとも中心軸L
1)に対して対称に形成して活性層32の角部の上方に配置することを意味するのではないことに留意すべきである。本例では、電極6a~6dを、中心軸L
1,L
2(少なくとも中心軸L
1)に対して対称に位置する活性層32の角部の上方に配置することを意味する。また、電極6a~6dを活性層32の角部の上方に中心軸L
1,L
2(少なくとも中心軸L
1)に対して略対称に配置するとは、例えば、電極6a~6dを、中心軸L
1,L
2(少なくとも中心軸L
1)に対して対称に位置する活性層32の角部に加えて対称に位置しない角部の上方にも配置することを意味する。
【0080】
なお、これらの電極配置は一例であり、その他にも対称性パラメータIがゼロ又は0.25以下となる電極配置を採用してもよい。
【0081】
なお、第7及び第8実施例に係るホール素子1d7,1d8においては、いずれも活性層32の角部は電極6a~6dによって覆われていない、つまり対称性パラメータI=0であるにもかかわらず、第7実施例に係るホール素子1d7のホール電圧が第8実施例に係るホール素子1d8のホール電圧より有意に大きい。先述のとおり活性層32の角部近傍で電流密度が高くなるが、活性層32の辺部近傍に電流が集中しやすいため、辺部近傍の抵抗も抵抗R1~R4に寄与する。そこで、単に電極6a~6dが積層体3の角部を対称に覆うだけでなく、さらに角部以外においても活性層32を対称に覆うこととするのが望ましい。従って、電極6cが領域E1内で活性層32と重なる面積S1と、電極6dが領域E4内で活性層32と重なる面積S4とが互いに等しい又はおよそ等しいのが望ましい。さらに、電極6cが領域E2内で活性層32と重なる面積S2と、電極6dが領域E3内で活性層32と重なる面積S3とが互いに等しい又はおよそ等しいのがより望ましい。さらに、(S1+S3)-(S2+S4)がゼロ又はほぼゼロであることがより望ましい。なお、面積だけでなく、電極が活性層32と重なる領域の形状も等しいことが望ましい。
【0082】
本実施形態に係るホール素子1は、基板2、基板2上に中心部が配され、その中心部の近傍に1又は複数の角部3e1~3e8を形成して互いに交差する中心軸L1,L2のそれぞれに沿って延在する十字形状又は略十字形状を有する活性層32、活性層32上に形成される絶縁膜4、絶縁膜4上に配され、絶縁膜4に設けられたコンタクトホール4a1~4d1,4a2~4d2を介して、活性層32の+X側端部3a及び-X側端部3bにそれぞれ接続する電極6a,6b、活性層32の+Y側端部3c及び-Y側端部3dにそれぞれ接続する電極6c,6dを含む複数の電極6a~6dを備え、電極6c,6dは、1又は複数の角部3e1~3e8の上方に少なくとも中心軸L1に対して対称又は略対称に配置される。略十字形状を有する積層体3の活性層32の4つの端部3a~3dにそれぞれ接続する電極6a~6dのうち、+Y側端部3c及び-Y側端部3dに接続する電極6c,6dが、活性層32の十字形状又は略十字形状に含まれる1又は複数の角部3e1~3e8の上方に少なくとも中心軸L1に対して対称又は略対称に配置されることで、無磁場状態で電極6a,6b間に駆動電圧を入力した際に電極6c,6d間から出力されるオフセット電圧をゼロに又は低くすることができる。
【0083】
また、本実施形態に係るホール素子1は、基板2、基板2上に配され、互いに交差する中心軸L1,L2のそれぞれに沿って延在する平面形状を有する活性層32、活性層32の第1軸方向の一側端部3a~3d上に配置される電極胴部5a0~5d0と電極胴部5a0~5d0から第2軸方向に延びて基板2上に配置される電極端部5a1~5d1,5a2~5d2とを含み、電極胴部5a0~5d0は電極端部5a1~5d1,5a2~5d2より幅が小さい、少なくとも1つの下部電極5a~5d、活性層32上に形成される絶縁膜4、絶縁膜4上に配置され、絶縁膜4に設けられたコンタクトホール4a1~4d1,4a2~4d2を介して下部電極5a~5dの電極端部5a1~5d1,5a2~5d2に接続する少なくとも1つの電極6a~6dを備える。これによれば、活性層32の一側端部上に配置される電極胴部5a0~5d0と基板2上に配置される電極端部5a1~5d1,5a2~5d2とを有する下部電極5a~5dを用いて電極6a~6dを活性層32に電気接続することで、電極6a~6dが絶縁膜4に設けられたコンタクトホール4a1~4d1,4a2~4d2を介して接続する電極端部5a1~5d1,5a2~5d2を大きく形成して良好な電気接続を図るとともに、電極端部5a1~5d1,5a2~5d2に対して電極胴部5a0~5d0の幅を小さく形成することができ、それにより活性層32の実効面積を最大化してノイズの低減を図ることが可能となる。
【0084】
なお、本実施形態に係るホール素子1においては、電極6c,6dを、1又は複数の角部3e1~3e8の上方に少なくとも中心軸L1或いは中心軸L1,L2に対して対称に配置することとしたが、電極6c,6dに加えてさらに電極6a,6bを、1又は複数の角部3e1~3e8の上方に少なくとも中心軸L1或いは中心軸L1,L2に対して対称に配置してもよい。それにより、無磁場状態で電極6a,6b間に駆動電圧を入力した際に電極6c,6d間から出力されるオフセット電圧をゼロに又は低くすることができる。
【0085】
本実施形態に係るホールセンサ10は、本実施形態に係るホール素子1を備え、ホール素子1の活性層32に入る磁場の強度を検出する。ホール素子1を採用することで、良好なSN比で精密に磁場を検出することができる。
【0086】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0087】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0088】
1,1d1~1d8…ホール素子、2…基板、3…積層体、3a~3d…端部(+X側端部、-X側端部、+Y側端部、-Y側端部)、3e1~3e8,3f1~3f4…角部、4…絶縁膜、4a1~4d1,4a2~4d2…コンタクトホール、5a~5d…下部電極、5a0~5d0…電極胴部、5a1~5d1,5a2~5d2…電極端部、6a~6d…電極、6a0~6d0…本体部、6a1~6d1,6a2~6d2…接続部、9…保護層、10…ホールセンサ、12a~12d…リード端子、13a~13d…ボンディングワイヤ、14a,14c…外装メッキ層、19…モールド部材、31…第1バッファ層、32…活性層、33…第2バッファ層、E1~E4…領域、L1,L2…中心軸、R1~R4…抵抗。