(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119069
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】検査方法および検査装置
(51)【国際特許分類】
B63B 59/10 20060101AFI20240827BHJP
B63B 81/00 20200101ALI20240827BHJP
【FI】
B63B59/10 A
B63B81/00
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025658
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】株式会社三井E&S
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達也
(57)【要約】
【課題】船舶の外壁面の汚損状況を効率よく検査可能な検査方法および検査装置を提供する。
【解決手段】船舶10の外壁面10bの汚損状況を検査する検査方法において、船舶10の船首から船尾に至る範囲で一つの検査位置Pを選定する水平位置選定ステップと、水平位置選定ステップで選定された検査位置Pでカメラを有する水中機器2を上下方向zに沿って移動させながら外壁面10bの画像を取得する撮影ステップと、処理機構が水中機器2からデータを取得する取得ステップとを備えていて、水平位置選定ステップおよび撮影ステップおよび取得ステップが繰り返し実行される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の外壁面の汚損状況を検査する検査方法において、
前記船舶の船首から船尾に至る範囲で一つの検査位置を選定する水平位置選定ステップと、
前記水平位置選定ステップで選定された前記検査位置でカメラを有する水中機器を上下方向に沿って移動させながら前記外壁面の画像を取得する撮影ステップと、
処理機構が前記水中機器からデータを取得する取得ステップとを備えていて、
前記水平位置選定ステップおよび前記撮影ステップおよび前記取得ステップが繰り返し実行されることを特徴とする検査方法。
【請求項2】
前記水平位置選定ステップは、上下方向に延設されるガイド機構が前記検査位置に配置される構成を有していて、
前記撮影ステップは、前記水中機器が前記ガイド機構に沿って移動する構成を有する請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記取得ステップは、前記カメラで取得された画像のデータと、この画像のデータに対応する前記水中機器の位置情報を前記処理機構が取得する構成を有していて、
前記処理機構が、前記取得ステップで取得したデータに基づき、仮想の前記外壁面に複数の前記画像を配置した外観画像を生成する外観画像生成ステップを備える請求項1または2に記載の検査方法。
【請求項4】
船舶の外壁面の汚損状況を検査する検査装置において、
カメラを有する水中機器と、この水中機器からデータを取得する処理機構とを備えていて、
前記水中機器は上下方向に沿って移動しながら前記外壁面の画像を取得することを特徴とする検査装置。
【請求項5】
上下方向に延設されて前記外壁面の近傍に配置されるガイド機構を備えていて、
前記水中機器は前記ガイド機構に案内されて上下方向に沿って移動する請求項4に記載の検査装置。
【請求項6】
前記ガイド機構が、上下方向に張設されるワイヤと、このワイヤの下端近傍に配置される重りとを有する請求項5に記載の検査装置。
【請求項7】
前記外壁面の画像のデータに対応する上下方向の位置情報を取得する位置検知機構を備える請求項4~6のいずれかに記載の検査装置。
【請求項8】
上下方向を中心軸とする前記水中機器の傾きを取得する姿勢検知機構を備えていて、
前記カメラが、少なくとも水平方向に360°の画像を取得するカメラで構成される請求項4に記載の検査装置。
【請求項9】
上下方向を軸方向とする円筒形に構成されて中心に前記カメラが配置されるケースを前記水中機器が有していて、
前記ケースの周面は透明な部材で構成されて、平面視で前記ケースの中心から前記カメラの端部までの距離に対して前記ケースの中心から前記ケースの周面までの距離が2倍以上に設定されていて、前記ケースの内部には透明な気体または透明な液体が充填されている請求項8に記載の検査装置。
【請求項10】
前記水中機器は、前記カメラの撮影方向となる位置に配置される鏡と、壁面の少なくとも一部が透明な部材で構成されて且つ内部に透明な気体または液体が充填されるケースとを有していて、
前記カメラは前記ケースに充填される気体または液体と前記鏡とを介して前記外壁面の画像を取得する構成を有する請求項4に記載の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の外壁面の汚損状況を検査する検査方法および検査装置に関するものであり、詳しくは船舶の外壁面の汚損状況を効率よく検査可能な検査方法および検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、船舶に付着した藻類や貝類の海洋生物の移動を阻止することが求められている。藻類等による船舶の汚損の有無を、入港前に確認できることが望ましく、入港前に船舶の汚損状況を把握して入港の可否を判断するためには、比較的短時間で効率よく船舶の全体的な汚損状況を把握する必要がある。船舶の外壁面の汚損状況を検査するための水中ロボットが種々提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1には外壁面に沿って移動してセンサ等で外壁面の状況を示すデータを取得する水中ロボットの構成が開示されている。
【0003】
特許文献1の水中ロボットは船舶の外壁面の大きさに対して非常に小さいため、船舶の全体を検査するためには多大な時間が必要となっていた。また水が濁っている場合は、距離をあけて撮影しようとすると、水の濁りで船舶の外壁面が見えなくなる。水中ロボットのカメラを船舶の外壁面に接近させる必要があり、水中ロボットのカメラで取得できる画像の範囲が小さくなる。そのためカメラで取得した画像が船舶のどの位置に対応しているかを把握することが極めて困難であった。さらに特許文献1の水中ロボットは、航行中の船舶での使用が前提となっているため、停泊中の船舶の検査には利用できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国特開2022-535681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は船舶の外壁面の汚損状況を効率よく検査可能な検査方法および検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための検査方法は、船舶の外壁面の汚損状況を検査する検査方法において、前記船舶の船首から船尾に至る範囲で一つの検査位置を選定する水平位置選定ステップと、前記水平位置選定ステップで選定された前記検査位置でカメラを有する水中機器を上下方向に沿って移動させながら前記外壁面の画像を取得する撮影ステップと、処理機構が前記水中機器からデータを取得する取得ステップとを備えていて、前記水平位置選定ステップおよび前記撮影ステップおよび前記取得ステップが繰り返し実行されることを特徴とする。
【0007】
上記の目的を達成するための検査装置は、船舶の外壁面の汚損状況を検査する検査装置において、カメラを有する水中機器と、この水中機器からデータを取得する処理機構とを備えていて、前記水中機器は上下方向に沿って移動しながら前記外壁面の画像を取得することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、船舶の船首から船尾に至る方向において複数の検査位置で、上下方向に沿った画像を取得することで、船舶の外壁面の全体的な汚損状況を把握することが可能となる。船舶の外壁面の汚損状況を効率よく検査するには有利である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】処理機構で取得されるデータを例示する説明図である。
【
図6】船舶に設置したガイド機構を例示する説明図である。
【
図7】
図6のガイド機構をA-A矢視で例示する説明図である。
【
図8】
図7のガイド機構の変形例を例示する説明図である。
【
図9】ガイド機構が傾いている状態を例示する説明図である。
【
図11】
図1の水中機器の変形例を例示する説明図である。
【
図12】
図11の水中機器をB-B矢視で例示する説明図である。
【
図13】
図11の水中機器で取得されるデータを例示する説明図である。
【
図15】
図14の水中機器をC-C矢視で例示する説明図である。
【
図18】
図17の水中機器をD-D矢視で例示する説明図である。
【
図19】
図18の水中機器をE-E矢視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、検査方法および検査装置を図に示した実施形態に基づいて説明する。図中では船舶の船首と船尾とを結ぶ方向である船舶の長さ方向を矢印y、長さ方向yを直角に横断する船舶の幅方向を矢印x、上下方向を矢印zで示している。
【0011】
図1に例示するように検査装置1は、水中機器2と、この水中機器2からデータを取得する処理機構3とを備えている。水中機器2は、本体2aと、この本体2aに設置されるカメラ4とを有している。本体2aは例えば円柱形状に構成される。本体2aは上端および下端に配置される円錐形状の部材を有していてもよい。カメラ4は動画または静止画の少なくとも一方を取得できる。
【0012】
処理機構3は水中機器2とケーブル5で接続されている。ケーブル5は、例えばカメラ4で撮影した画像のデータを処理機構3に送る信号線で構成されている。ケーブル5が、処理機構3から水中機器2に電力を供給する電線を含んでいてもよい。処理機構3は公知の種々のコンピュータで構成できる。処理機構3は、中央演算処理部(CPU)、主記憶部(メモリ)、補助記憶部(例えばHDD)を有している。処理機構3は水中機器2の本体2aに設置される構成でもよい。
【0013】
水中機器2は、本体2aを中心に両側に配置される一対の補助構造体2bを有していてもよい。補助構造体2bは、例えば円柱形状に構成される。補助構造体2bは上端および下端を配置される円錐形状の部材を有していてもよい。またそれぞれの補助構造体2bは本体2aとの間に配置される二本の腕部2cを有していてもよい。
【0014】
検査装置1は、例えば本体2aの内部に設置される位置検知機構6を備えていてもよい。位置検知機構6は水中機器2の位置情報を取得する構成を有していて、例えば水深計で構成される。
【0015】
一対の補助構造体2bを有する構成により、水中機器2は上下方向zを中心軸とする回転(以下、スキューということがある)を抑制できる。
【0016】
水中機器2は、例えばモータに連結されたプロペラで構成される複数のスラスタ7を有していてもよい。スラスタ7は例えば本体2aや補助構造体2bに設置される。スラスタ7を有する構成により、水中機器2は水中で上下方向zの移動を制御できる。またスラスタ7により、水中機器2は水中における姿勢を制御できる。ここで水中機器2の姿勢とは、幅方向xまたは長さ方向yまたは上下方向zを中心軸とする水中機器2の傾きをいう。
【0017】
水中機器2は、例えば補助構造体2bに設置されるバラストタンク8を有していてもよい。バラストタンク8は外部との間で水の出入りを制御できる。バラストタンク8を有する構成により、バラストタンク8に水を注入した状態で水中機器2を沈降させて、バラストタンク8から水を排水することで水中機器2を浮力で浮上させることが可能となる。バラストタンク8は本体2aに設置されてもよい。一対の補助構造体2bにそれぞれバラストタンク8を配置して、水の出入りをそれぞれ制御することで、水中機器2の姿勢を制御することも可能となる。水中機器2はスラスタ7またはバラストタンク8の両方を備えていてもよく、一方のみを備えていてもよい。
【0018】
水中機器2は、例えば本体2aに設置される照明9を有するのが好ましい。照明9により光量不足となる比較的深い場所や夜間であってもカメラ4による撮影が可能となる。照明9は補助構造体2bに設置されてもよい。複数の照明9が水中機器2に設置されてもよい。
【0019】
図2に例示するようにタンカーやコンテナ船などの停泊中の船舶10において、船舶10の船首から船尾に至る範囲で一つの検査位置Pを選定する(水平位置選定ステップS1)。長さ方向yに300mの船舶10である場合、例えば検査位置Pは15mごとに設定できる。この場合、左舷側で20点の検査位置P1-20が設定されて、右舷側で20点の検査位置P21-40が設定される。検査位置Pの設定方法は上記に限定されない。検査位置Pどうしの間隔は等間隔に限定する必要はない。また検査位置Pの数は両舷合わせて40点とする必要はなく、例えば両舷合わせて10点でもよく50点以上に設定されてもよい。左舷側または右舷側の一方にのみ検査位置Pが設定される構成でもよい。
【0020】
水平位置選定ステップS1では、予め設定されている検査位置Pの中から例えば検査位置P3など一つの検査位置Pが選定される。
【0021】
次に選定された検査位置P3の上甲板10aから水中機器2を降下させる。水中機器2は例えば自重で水中を降下していく。水中機器2を降下させながら船舶10の外壁面10bの撮影を行う(撮影ステップS2)。水中機器2は、上甲板10aから船底10cに至る範囲を上下方向zに沿って降下しながら撮影を行う。水中機器2を船底10cの近傍まで降下させた後に、上昇させながら撮影を行ってもよい。また水中機器2の降下中および上昇中の両方で撮影を行ってもよい。水中機器2は例えばケーブル5の巻取により上昇していく。水中機器2がケーブル5とは別のロープを連結されて、このロープの巻取により上昇する構成を有していてもよい。水中機器2により撮影される範囲は、水面より下となる範囲に限らない。水面より上の範囲が撮影されてもよい。
図2では説明のため外壁面10bの汚損部分11を斜線で示している。
【0022】
検査装置1を船舶10に配置して検査を行う構成に限らない。検査装置1を配置された小型船舶を検査対象の船舶10に接近させて、この小型船舶から水中機器2を降下させて撮影を行う構成であってもよい。この場合、水平位置選定ステップS1で船舶10に対する小型船舶の位置が選定される。検査を行う作業員が、検査対象の船舶10に乗り込むことなく検査を行える。
【0023】
図3に例示するように処理機構3は、水中機器2からデータを取得する(取得ステップS3)。処理機構3が取得するデータには、カメラ4で撮影した画像のデータが含まれる。画像のデータは動画でも静止画でもよく、その両方であってもよい。動画の場合は、例えば上甲板10aから船底10cまでの一連の画像、または水面から船底10cまでの一連の画像が取得される。静止画の場合は、時間または上下方向zの距離において所定の間隔で複数取得される。
【0024】
処理機構3が取得するデータには、画像のデータに対応する水平方向の位置情報が含まれてもよい。水平方向の位置情報は、複数の検査位置Pを区別する番号または検査位置Pの座標データで構成される。水平方向の位置情報は、船舶10における位置を示すデータで構成されるとも言える。
図3の実施形態では、画像のデータが取得された検査位置Pの番号が、水平方向の位置情報として含まれている。例えば検査位置P1に対応する画像のデータと、検査位置P3に対応する画像のデータとが判別できる状態となる。
【0025】
処理機構3が取得するデータには、画像のデータに対応する上下方向zの位置情報が含まれてもよい。上下方向zの位置情報は、撮影範囲の水深で構成される。上下方向zの位置情報は、水深を直接または間接に示すデータであればよい。水中機器2の位置情報は、例えば水中機器2に設置される位置検知機構6により取得される。位置検知機構6は例えば水中機器2に設置される圧力センサや水深計で構成される。圧力センサや水深計により画像のデータに対応する上下方向zの位置情報を処理機構3は取得できる。位置検知機構6は水中機器2に設置される構成に限定されない。例えば上甲板10aに設置されてケーブル5の繰り出し量を検知するエンコーダで位置検知機構6が構成されてもよい。上甲板10aから水中機器2に対して繰り出しているケーブル5の繰り出し量に基づき、水中機器2の水深を取得する構成にしてもよい。位置検知機構6は例えば処理機構3に記憶されるプログラムで構成される。このプログラムにより水中機器2が水面から降下する速度と時間とに基づき水深を推定する構成にしてもよい。プログラムは例えばカメラ4で取得される画像から水中機器2の速度や移動方向を演算して、水中機器2の位置を推定する構成を有していてもよい。
【0026】
位置検知機構6の構成は上記に限らない。位置検知機構6は画像のデータに対応する上下方向zの位置情報を取得できる構成を有していればよい。これに加えて位置検知機構6は画像のデータに対応する水平方向の位置情報を取得できる構成を有していてもよい。位置検知機構6は、検査装置1の必須の構成要件ではない。
【0027】
位置検知機構6が水平方向の位置情報を取得する構成を有していてもよい。位置検知機構6は、例えば水中機器2に設置される全球測位衛星システム(GNSS)のアンテナで構成される。また位置検知機構6は超音波を利用した測位システムで構成されてもよい。位置検知機構6は、例えば水中機器2に設置される加速度センサで構成されてもよい。加速度センサにより加速度の変化量の積算から水中機器2の位置を推定する。これらの位置検知機構6は水中機器2の三次元空間における座標を位置情報として取得できる。三次元空間における座標からなる位置情報は、画像のデータに対応する上下方向zおよび水平方向の位置情報を含んでいる。
【0028】
位置検知機構6は上記の複数の機器の組み合わせで構成されもよい。例えば位置検知機構6がGNSSおよび超音波測位システムにより構成されて、水中機器2が水上にあるときにGNSSにより位置情報が取得されて、水中にあるとき超音波測位システムにより位置情報が取得される構成であってもよい。
【0029】
撮影ステップS2においてカメラ4が撮影を行っている際に、この画像のデータに位置情報が付加されて処理機構3に送られる構成であってもよい。この場合、水中機器2はカメラ4で撮影しながら、画像のデータおよび位置情報を処理機構3に送る。撮影ステップS2と取得ステップS3とが同時に実行されていると言える。
【0030】
撮影ステップS2の完了後に、取得ステップS3が実行される構成にしてもよい。この場合、撮影ステップS2の完了後に、水中機器2から処理機構3にデータが転送される。水中機器2が水中にあるとき、水中機器2に設置される記憶機構にデータは蓄積される。この実施形態の検査装置1は、ケーブル5を有さない構成であってもよい。
【0031】
検査位置PをP1から例えばP40まで変更しながら、水中機器2による撮影が複数回繰り返される。つまり水平位置選定ステップS1および撮影ステップS2および取得ステップS3が繰り返し実行される。複数台の検査装置1を使用して、同時に検査を行ってもよい。例えば二台の検査装置1を使用して、一方の検査装置1が左舷側の検査位置P1-20の検査を行い、他方の検査装置1が右舷側の検査位置21-40の検査を行う構成としてもよい。
【0032】
複数の画像のデータから、外壁面10bの汚損状況を評価することができる。
図3に例示するように画像のデータには、少なくとも水面(水深0m)から船底10c(水深15m)に至る範囲の外壁面10bの状況が示される。例えば検査位置P2、P3の画像からは、水深約6mの部分に汚損部分11が水平方向に広がっていることが容易に想像できる。また検査位置P20の画像からは、水深約10mの部分に汚損部分11があるため、検査位置P2の汚損部分11が検査位置P20まで下側にずれながら水平方向に広がっていると容易に想像できる。
図3では説明のため汚損部分11に斜線を付してある。また
図3では検査位置P4~P19のデータを省略している。
【0033】
船舶10の船首から船尾に至る長さ方向yにおいて、検査装置1により複数の検査位置Pで画像を取得するすることで、船舶10の外壁面10bの全体的な汚損状況を把握することが可能となる。藻類や貝類などの海洋生物による汚損は、水平方向に広がる性質がある。そのため複数の検査位置Pで、上下方向zに沿った画像を取得することで、外壁面10bの全体的な汚損状況の推定が可能となる。
【0034】
撮影ステップS2において水中機器2は上下方向zに沿ってのみ移動する構成であるため、上下方向zにおける位置を把握すれば画像に示される部分の位置を把握できる。
【0035】
水中機器2は水流を利用することなく上下方向zに移動できるため、停泊中の船舶10において汚損状況の検査が可能となる。
【0036】
図4に例示するように予め設定されているすべての検査位置Pでの撮影が完了したか否かを判定する判定ステップS4が処理機構3で実行される構成を有していてもよい。判定ステップS4で次の検査位置Pがないと判定された後に、外壁面10bの全体を再現した外観画像を生成する外観画像生成ステップS5が実行される構成を有していてもよい。処理機構3が外観画像生成ステップS5を実行する。外観画像が生成される場合は、画像のデータは少なくとも上下方向zの位置情報を有している。画像のデータが水平方向および上下方向zの位置情報を有していることが望ましい。
【0037】
図5に示すように外観画像12は、水平方向および上下方向zの位置情報に基づき、複数の画像のデータが配置されている。外観画像生成ステップS5では、例えば水面の位置(水深0m)や船底10cの位置(水深15m)が一致する状態で各画像の上下方向zの位置が調整される。例えば左舷側の複数の画像が、上下方向zおよび長さ方向yの相対位置を合わせた状態で一つの外観画像12として生成される。外観画像生成ステップS5では、例えば左舷側で一つの外観画像12、右舷側で一つの外観画像12が生成される。
図5では説明のため外観画像12の範囲を破線で示している。破線の内側となる範囲が外観画像12として生成される。外観画像12は、例えば処理機構3に接続されるモニタに表示される。
図5では説明のため長さ方向yにおける画像のデータどうしの間隔を狭く表示している。実際には、長さ方向yにおいて一つの画像のデータに示される範囲は例えば1mであり、隣接する画像のデータどうしの間隔は例えば15mとなる。
【0038】
この外観画像12に基づき汚損状況が判断される。
図5に例示するように外観画像12は、画像の情報が欠落している部分は多々あるものの、あたかも外壁面10bの全体を観察しているような状態となる。外観画像12から、画像が取得されていない範囲における汚損部分11の広がりを推定することは容易となる。
図5では説明のため汚損部分11であると推定される範囲を一点鎖線で示している。外観画像12を生成することで、汚損状況の判断が容易となる。
【0039】
図4に例示するように画像のデータが得られない範囲の状況を推定して、外観画像12を補完する補完ステップS5aが実行される構成を有していてもよい。処理機構3が補完ステップS5aを実行する。補完ステップS5aでは、例えば汚損部分11の範囲が推定されて、この範囲が外観画像12に付加される。例えば
図5に例示される一点鎖線が外観画像12に付加される。
【0040】
補完ステップS5aでは、画像処理により個別の画像のデータから汚損部分11の抽出を行う。例えば二値化処理やエッジ検出処理などの画像処理により汚損部分11が抽出される。隣接する画像のデータにおいて、上下方向zの位置が最も近い汚損部分11の境界線どうしを直線で結ぶ(
図5の一点鎖線参照)。これにより外観画像12の汚損部分11が補完される。一点鎖線で囲まれる範囲が汚損部分11であると推定できる。外観画像12に汚損部分11の範囲を表示することで、外壁面10b全体における汚損部分11の範囲を把握しやすくなる。
【0041】
作業員が補完ステップS5aを実行する構成を有していてもよい。作業員が画像のデータを見て、汚損部分11の範囲を抽出する。外観画像12において汚損部分11が広がっていると推定される範囲に、作業員が境界線を付加する。例えば
図5に例示する一点鎖線を作業員が外観画像12に付加する。
【0042】
図4に例示するように外観画像12から汚損状況を判断する汚損状況判断ステップS6が実行される構成を有していてもよい。処理機構3が汚損状況判断ステップS6を実行する。処理機構3が、外観画像12において外壁面10bに対する汚損部分11の占める割合(以下、汚損度ということがある)を算出して、この汚損度に基づき汚損状況を判断する。汚損度が高いほど汚損がひどい状況となる。具体的には
図5の外観画像12における水面から船底10cに至る範囲を外壁面10bの面積として算出する。また斜線で示される汚損部分11および一点鎖線で囲まれる推定範囲の面積を汚損部分11の範囲として算出する。二つの面積から汚損度を算出する。つまり補完ステップS5aで補完される範囲を含めて汚損度が算出される。上甲板10aから船底10cに至る範囲を、外壁面10bの面積として算出してもよい。この場合、それぞれの画像のデータに上甲板10aが含まれている必要がある。
【0043】
入港前に検査を行うことで、汚損度が例えば10%など予め設定されるしきい値を超える場合に、入港を拒否する等の対応が可能となる。また船舶の点検の際に、汚損度に応じて外壁面10bの洗浄の有無を判断してもよい。汚損度を算出する構成により、船舶10の外壁面10bの汚損状況を定量的に評価することが可能となる。
【0044】
汚損度の算出方法は上記に限定されない。汚損部分11の広がりを定量的に評価できる構成を有していればよい。例えば補完される範囲を含めずに汚損度を算出する構成を有していてもよい。具体的には
図5の画像のデータにおける水面から船底10cに至る範囲を外壁面10bの面積として算出する。また斜線で示される汚損部分11の面積を算出する。二つの面積から汚損度を算出する。検査方法が、外観画像生成ステップS5または補完ステップS5aを有さない場合も上記方法で汚損度を算出できる。
【0045】
作業員が汚損状況判断ステップS6を実行する構成を有していてもよい。作業員が外観画像12または複数の画像のデータを確認して、これらに基づき汚損度を算出して評価してもよい。
【0046】
図6に例示するように検査装置1は、上下方向zに延設されていて外壁面10bの近傍に配置されるガイド機構13を備えていてもよい。この実施形態ではガイド機構13は、上下方向zに張設される一本のワイヤ14と、このワイヤ14の下端近傍に配置される重り15とを有している。ワイヤ14は、水中機器2が船底10cの近傍まで移動可能とする長さを少なくとも有している。
【0047】
ガイド機構13は、上甲板10aからワイヤ14を懸吊するための支持機構16を有していてもよい。支持機構16は上甲板10aから海側に突設されている。支持機構16は、外壁面10bから海側に例えば1mの位置にワイヤ14を保持する。また支持機構16は、上甲板10aの上を長さ方向yに沿って移動可能に構成されている。水平位置選定ステップS1では、予め設定される検査位置Pに合わせて検査装置1とともにガイド機構13を移動させる。
【0048】
図7に例示するように水中機器2は、上下方向zに間隔をあけて配置される一対の連結具17を介してワイヤ14に連結されている。撮影ステップS2では、水中機器2がガイド機構13のワイヤ14に案内されながら移動する。水中機器2は、一対の連結具17によりワイヤ14に連結されるため、長さ方向yまたは幅方向xを中心軸とする水中機器2の回転を抑制できる。この実施形態では水中機器2は補助構造体2bを有していない。
【0049】
図6および
図7に例示するように、ガイド機構13を備える構成により、水中機器2が意図せずに水平方向(長さ方向yおよび幅方向x)に移動する不具合を抑制できる。水中機器2が、外壁面10bに沿ってほぼ真っすぐに降下または上昇できるため、画像のデータに対応する位置情報の精度を向上できる。
【0050】
図8に例示するようにガイド機構13が二本のワイヤ14を有していてもよい。二本のワイヤ14の下端近傍には一つの重り15が配置されている。水中機器2は、上下方向zに間隔をあけて配置される一対の連結具17を介して一方のワイヤ14に連結されて、別の一対の連結具17を介して他方のワイヤ14に連結されている。水中機器2は、連結具17により二本のワイヤ14に連結されるため、長さ方向yおよび幅方向xに加えて上下方向zを中心軸とする水中機器2の回転を抑制できる。水中機器2は、外壁面10bを正面からまっすぐに撮影できる。画像のデータに対応する位置情報の精度を更に向上できる。
【0051】
ガイド機構13の構成は上記に限定されない。ガイド機構13が、ワイヤに比べて変形し難いレールで構成されてもよい。レールは上下方向zに延設される圧延鋼材などの鋼材で構成される。このときレールの下端近傍に重りが配置されてもよく、重りが配置されなくてもよい。長さ方向yおよび幅方向xおよび上下方向zを中心軸とする水中機器2の回転を抑制するには有利である。またワイヤに比べてレールは、変形し難く且つ重量が大きいため、潮流や風の影響を受け難い。水中機器2を上下方向zに平行にまっすぐ降下させるには有利である。
【0052】
ガイド機構13を構成するレールに対して、水中機器2が車輪等の駆動機構を利用して移動する構成としてもよい。例えばレールにラックが形成されて、水中機器2にピニオンギアが配置される。上下方向zにおける水中機器2の移動速度を精度良く制御するには有利である。
【0053】
図9に例示するように検査装置1が、水中機器2またはガイド機構13の傾きを検知する姿勢検知機構18を備えていてもよい。姿勢検知機構18は、例えば支持機構16に設置されて上下方向zに対するワイヤ14の傾きθを検知する傾斜計で構成される。支持機構16に設置されてワイヤ14をかけ回されるシーブ等に、傾斜計が設置される。
【0054】
姿勢検知機構18は、例えば水中機器2に設置されて、上下方向zに対する水中機器2の傾きθを検知する傾斜計やジャイロスコープや加速度センサや光学ジャイロで構成される。姿勢検知機構18は、水中機器2およびガイド機構13の両方に設置されてもよい。処理機構3は、取得ステップS3で、水中機器2の位置情報と同様に姿勢検知機構18から傾きθの値を取得する。
【0055】
検査装置1が姿勢検知機構18を備える構成により、水中機器2により撮影された画像の上下方向zに対する傾きθを取得できる。傾きθは幅方向xを中心軸とする水中機器2の傾きを示している。
図10に例示するように外観画像12を生成する際に、例えば検査位置P2の画像のデータが傾きθに合わせて傾けた状態で配置される。
【0056】
傾きθの取得により、外観画像12を生成する際の精度を向上できる。特に汚損部分11の範囲を推定する際には有利である。例えば検査位置P2に示される汚損部分11が検査位置P20に示される汚損部分11につながるものであるか、否かを正確に判断できる。補完ステップS5aにおいて、外観画像12のうち画像のデータが取得されていない範囲における汚損部分11の広がりを推定する際の精度を向上できる。
【0057】
水中機器2にジャイロスコープや加速度センサが設置される場合は、上下方向zを中心軸とする水中機器2の傾きφも検知できる。水中機器2に傾きφが発生すると、カメラ4は上下方向zを中心軸として左方または右方にずれた位置を撮影する。傾きφの取得により、
図10の検査位置P20の領域R1に示されるように、撮影されている範囲を外観画像12に反映することができる。外観画像12を生成する際の精度をさらに向上できる。姿勢検知機構18は上記の複数の機器の組み合わせで構成されてもよい。
【0058】
姿勢検知機構18が加速度センサで構成される場合は、この加速度センサで水平方向よび上下方向zにおける水中機器2の位置を検知することが可能となる。つまりこの姿勢検知機構18は位置検知機構6としての機能も有することになる。
【0059】
図11および
図12に例示するように、カメラ4が少なくとも水平方向に360°の画像を取得するカメラで構成されてもよい。カメラ4は、例えば水平方向の360°を撮影可能とする半天球カメラや、水平方向および上下方向の360°を撮影可能とする全天球カメラで構成される。この場合検査装置1は、上下方向zを中心軸とする水中機器2の傾きφを検知する姿勢検知機構18を備えている。
図12では説明のため便宜上設けた水中機器2の正面方向を矢印Fで示している。外壁面10bから幅方向xに延びる垂線と、水中機器2の正面方向Fとのなす角が、水中機器2の傾きφとなる。例えば水中機器2の正面方向Fが、
図12の下方を向いたとき傾きφ=90°となり、
図12の左方を向いたときφ=180°となり、
図12の上方を向いたとき傾きφ=270°となる。
【0060】
ここで正面方向Fが外壁面10bを向いている状態の水中機器2が、
図12において時計回りに回転しながら降下した場合を例に説明する。
図13に例示するように水中機器2のカメラ4は水平方向の360°を撮影している。
図13の左方では、360°の画像を便宜上、正面方向Fに対応する位置で切り開いた平面で表示している。
図13の画像のデータには、水深と、水中機器2の傾きφに対応する角度とが位置情報として付加されている。
図13の左方では説明のため、画像のデータにおいて正面方向Fに対応する位置に記号Fを表示している。
【0061】
図13の画像のデータによれば、水深0mでは正面方向Fが外壁面10bに正対する状態であり、画像において正面方向Fに対応する位置に外壁面10bが含まれている。
図13では説明のため外壁面10bが画像に含まれている範囲を斜線で示している。水深5mでは傾きφ=90°であり、水中機器2の正面方向Fが
図12の下方を向いている状態となる。このとき外壁面10bは正面方向Fの左方側に位置している。水深10mでは傾きφ=180°であり、水中機器2の正面方向Fが
図13の左方を向いている状態となる。このとき画像において外壁面10bは正面方向Fの反対側に位置している。水深15mでは傾きφ=270°であり、水中機器2の正面方向Fが
図13の上方を向いている状態となる。このとき画像において外壁面10bは正面方向Fの右方側に位置している。水中機器2が時計回りに回転しながら降下しているので、画像のデータにおいて外壁面10bが含まれる位置は、水中機器2の回転に合わせて正面方向Fから左方に移動していく。
【0062】
処理機構3は、取得ステップS3で水中機器2の上下方向zにおける位置情報とともに姿勢検知機構18から傾きφの値を取得する。処理機構3は、
図13に示す360°の画像から外壁面10bに対応する部分を抽出して、
図13の右方に示すように画像をつなぎ合わせる。
図13の右方に示されるように、水面(水深0m)から船底(水深15m)まで外壁面10bに沿って撮影した場合と同様の画像のデータが取得される。この画像のデータが、例えば検査位置P3など一つの画像のデータとして処理機構3により取り扱われる。この画像のデータを利用して、外観画像12を生成してもよい。
【0063】
傾きφを取得する姿勢検知機構18と半天球カメラとを有する構成により、外壁面10bの画像を精度良く取得できる。検査装置1において、ガイド機構13を一本のワイヤ14として簡易にしたり、ガイド機構13を有さない構成を採用できる。ガイド機構13を有さないまたは簡易とする構成により、ある検査位置Pから別の検査位置Pへのガイド機構13の移動が容易になる。検査時間を短縮するには有利である。
【0064】
水中機器2が、上下方向zに沿って移動する際に、上下方向zを中心軸とする回転を伴う構成を有していてもよい。つまり撮影ステップS2において、水中機器2を積極的に回転させる。例えば水中機器2の本体2aの下端や上端等に回転を拘束されたプロペラを設置する。水中機器2が降下する際の水流をプロペラが受けて、水中機器2が上下方向zを中心軸として時計回りまたは反時計回りに回転しながら降下する。水中機器2を積極的に回転させる構成により、上下方向zに沿って移動する水中機器2の直進性を向上できる。潮流等の影響を水中機器2が受けにくくなる。
【0065】
図14および
図15に例示するように上下方向zを中心軸とする円筒形に構成されて、中心Oにカメラ4が配置されるケース19を、水中機器2が有していてもよい。ケース19の周面はアクリル樹脂やガラスなどの透明な部材で構成されている。ケース19の上面および下面は、水中機器2の本体2aを構成する部材で覆われている。この実施形態ではカメラ4は、前述の半天球カメラや全天球カメラで構成される。
【0066】
図15に例示するように平面視で、ケース19の中心Oからカメラ4の端部までの距離d1に対して、ケース19の中心Oからケース19の周面までの距離d2が二倍以上に設定されている。つまりカメラ4に対して、ケース19は著しく大きく形成されている。
図15に例示する実施形態では、距離d2は距離d1の八倍に設定されている。ケース19の半径となる距離d2は、d1*2≦d2≦d1*20を満たす範囲で適宜設定できる。またケース19の内部には空気などの透明な気体、または蒸留水などの透明な液体が充満している。ケース19は気密性または水密性を有している。
【0067】
カメラ4から撮影の対象である外壁面10bまで、通常は海水等を介する状態で撮影が行われる。撮影された外壁面10bの画像が、海水等の濁りの影響で汚損状況を把握しにくい場合がある。ケース19を備える構成により、カメラ4と外壁面10bとの間に存在する海水等の量が減少する。
図15では説明のためカメラ4の撮影範囲を直線で囲むとともに、海水等が存在する部分に墨入れをしている。ケース19の内部には透明な流体が充填されているため、海水等の影響を抑制した状態で画像を取得できる。外壁面10bの鮮明な画像を取得するには有利である。
【0068】
図16に例示するように半天球カメラや全天球カメラではなく、撮影範囲が一方向に限定されているカメラ4を有する水中機器2において、水中機器2がカメラ4の撮影方向であり水平方向に突設される膨出部20を有していてもよい。この膨出部20は、前述のケース19と同様に透明な流体が充填されていて、気密性または水密性を有している。
【0069】
この実施形態では膨出部20は、円錐台形に形成されている。膨出部20の中心軸がカメラ4の撮影方向と一致する状態で、膨出部20はカメラ4に設置される。またカメラ4の撮影範囲を内側に含む状態に、膨出部20の大きさは設定される。また水平方向においてカメラ4から外壁面10bまでの距離のうち20%以上を占める長さに、膨出部20の長さは設定されることが望ましい。膨出部20の形状は上記に限定されない。膨出部20は角錐台形に形成されてもよく、円柱形状または角柱形状に形成されてもよい。
【0070】
図17に例示するように、水中機器2が、内部にカメラ4を配置されるケース19と、このケース19の内部でありカメラ4の撮影方向となる位置に配置される鏡21とを有していてもよい。この実施形態ではカメラ4の撮影方向が上下方向zにおける下向きであり、カメラ4はケース19の上端近傍に配置されていて、鏡21はケース19の下端近傍に配置されている。鏡21は外壁面10bの方向に傾く状態でケース19に固定されており、カメラ4は鏡21を介して画像を取得する。
【0071】
この実施形態のカメラ4は、ケース19に充填される気体または液体と鏡21とを介して外壁面10bの画像を取得する構成を有していればよい。そのためカメラ4はケース19の内部に配置される構成に限定されず、ケース19の外部に配置されてもよい。例えばケース19の上方にカメラ4が配置される場合、ケース19はカメラ4の撮影方向である下方に配置される。また鏡21がケース19の外部に配置されてもよい。例えばケース19の下方に鏡21が配置される。カメラ4および鏡21のいずれか一方がケース19の内部に配置されてもよく、両方がケース19の外部に配置されてもよい。
【0072】
カメラ4は鏡21を介して外壁面10bの撮影を行うので、外壁面10bに対するカメラ4の物理的な距離を接近させても、カメラ4から外壁面10bまでの光学的な距離を大きくできる。そのため水中機器2を外壁面10bに接近させつつ、比較的広い範囲の外壁面10bをカメラ4で撮影できる。ここで光学的な距離とは、外壁面10bで反射した光がカメラ4に到達するまでの経路の距離をいう。カメラ4のピントの合う合焦面がカメラ4から遠くなるため、焦点の合う範囲が広くなる。被写界深度が深くなるので、カメラ4と外壁面10bとの距離の変化や、外壁面10bの湾曲や凹凸に対しても、カメラ4はピントのあった画像を取得しやすくなる。外壁面10bの鮮明な画像を得るには有利である。
【0073】
図18および
図19に例示するように水中機器2の本体2aは例えば四角柱状に形成されている。ケース19は全体が本体2aの内部に配置される。ケース19は例えば台形柱状に形成されている。本体2aおよびケース19は、長さ方向yおよび上下方向zの長さに比べて幅方向xの長さが小さく構成される。水中機器2は幅方向xに薄く構成されているとも言える。
【0074】
ケース19は壁面の少なくとも一部が透明な部材で構成されている。外壁面10bから鏡21を介してカメラ4に到達する光が通過する範囲の壁面は、少なくとも透明な部材で構成される。カメラ4がケース19の外部に配置される場合は、カメラ4がケース19の内部を覗き込む部分が透明な部材で構成される。その他の部分は透明な部材で構成されてもよく、光を透過しない部材で構成されてもよい。ケース19の内部には透明な気体または透明な液体が充填されている。同様に本体2aの壁面であり、外壁面10bから鏡21に到達する光が通過する範囲の壁面は、少なくとも透明な部材で構成される。本体2aの壁面におけるその他の部分は透明な部材で構成されてもよく、光を透過しない部材で構成されてもよい。
図19では説明のためカメラ4の撮影範囲を直線で囲むとともに、海水等が存在する部分に墨入れをしている。
【0075】
水中機器2は、本体2aの壁面であり幅方向xの一端側となる壁面に、複数の車輪22が設置されてもよい。この車輪22は長さ方向yを軸方向として転動可能に構成されている。水中機器2は、車輪22が設置される壁面に、一つまたは複数の照明7が設置されてもよい。水中機器2は、本体2aに設置されるスラスタ7を有していてもよい。このスラスタ7は、例えば本体2aを幅方向に貫通する円筒形の部材と、この部材の内部に配置されて幅方向xを軸方向とするプロペラとで構成される。スラスタ7は、車輪22が設置されている方向に向かって水中機器2に力を発生させる。スラスタ7の軸方向は幅方向xと平行となる方向に限定されない。幅方向xに対して上下方向zまたは長さ方向yに所定の角度傾けた方向に、スラスタ7の軸方向が設定されてもよい。
【0076】
ケース19が、このケース19を構成する壁面に固定されるダイヤフラム23を有していてもよい。このダイヤフラム23は、ケース19の内側と外側との圧力差を調整する機能を有している。ダイヤフラム23によりケース19の内外の圧力差を抑制できるので、ケース19に力が発生して破損する不具合を回避するには有利である。
図14に例示する実施形態のケース19に、ダイヤフラム23を設置してもよい。
図14に例示する実施形態でも上記と同様の効果が得られる。
【0077】
この水中機器2が水中に投下されると、スラスタ7により水中機器2は外壁面10bに押し付けられる状態となる。モータ等により車輪22を回転させると、車輪22は外壁面10bとの接触を維持しながら転動する。水中機器2は下方に向かって移動しつつ外壁面10bを撮影する。船底10cに到達した水中機器2は、スラスタ7を停止して、ケーブル5等により水上に引き上げられる。
【0078】
車輪22が受動的に回転可能な状態で本体2aに設置される構成でもよい。この場合、車輪22はモータ等の動力を有さない。スラスタ7により外壁面10bに押し付けられる水中機器2は、車輪22と外壁面10bとの接触を維持しながら自重で降下する。スラスタ7の軸方向が上下方向zにおける上方に向かって傾いていて、このスラスタ7により水中機器2が下向きの推進力を得る構成としてもよい。
【0079】
鏡21を介して外壁面10bの撮影を行う構成により、外壁面10bに対するカメラ4の物理的な距離を接近させても、カメラ4から外壁面10bまでの光学的な距離を大きくできる。水中機器2を幅方向xに小型化して、且つカメラ4から外壁面10bまでの光学的な距離を大きくできる。
【0080】
幅方向xにおいて水中機器2の大きさを抑制できるため、潮流等の影響を受けて水中機器2が長さ方向yに流されることを抑制しやすくなる。水中機器2が長さ方向yに移動し難くなるので、上下方向zに沿って水中機器2を移動させるには有利である。
【0081】
スラスタ7により水中機器2を外壁面10bに押し付ける構成により、外壁面10bとカメラ4との光学的な距離を一定に維持しやすくなる。船舶10の船首付近や船尾付近など外壁面10bが比較的大きく湾曲している場合であっても、外壁面10bとカメラ4との物理的な距離および光学的な距離のいずれも一定に維持して撮影を行える。水中機器2は、外壁面10bの鮮明な画像を得やすくなる。
【符号の説明】
【0082】
1 検査装置
2 水中機器
2a 本体
2b 補助構造体
2c 腕部
3 処理機構
4 カメラ
5 ケーブル
6 位置検知機構
7 スラスタ
8 バラストタンク
9 照明
10 船舶
10a 上甲板
10b 外壁面
10c 船底
11 汚損部分
12 外観画像
13 ガイド機構
14 ワイヤ
15 重り
16 支持機構
17 連結具
18 姿勢検知機構
19 ケース
20 膨出部
21 鏡
22 車輪
23 ダイヤフラム
P 検査位置
S1 水平位置選定ステップ
S2 撮影ステップ
S3 取得ステップ
S4 判定ステップ
S5 外観画像生成ステップ
S5a 補完ステップ
S6 汚損状況判断ステップ
F (水中機器の)正面方向
d1,d2 距離
x 幅方向
y 長さ方向
z 上下方向