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特開2024-119147加工装置、方法、及び、学習済みモデルの生成方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119147
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】加工装置、方法、及び、学習済みモデルの生成方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20240827BHJP
   B24B 49/16 20060101ALI20240827BHJP
   B24B 49/14 20060101ALI20240827BHJP
   B24B 49/00 20120101ALI20240827BHJP
   G05B 19/4155 20060101ALI20240827BHJP
   G01L 1/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H01L21/66 N
B24B49/16
B24B49/14
B24B49/00
G05B19/4155 V
G01L1/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025839
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】110003535
【氏名又は名称】スプリング弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】津留 太良
【テーマコード(参考)】
3C034
3C269
4M106
【Fターム(参考)】
3C034AA20
3C034BB92
3C034CA05
3C034CA15
3C034CA16
3C034CA19
3C034CB20
3C034DD07
3C269AB07
3C269BB03
3C269MN16
3C269MN23
3C269MN28
3C269MN29
3C269MN44
4M106AA01
4M106CB17
4M106DH14
4M106DH25
4M106DH34
4M106DJ06
(57)【要約】
【課題】 処理済みワークにおける残留応力分布を簡便に予測できる、加工装置の提供
【解決手段】 ワークの研削加工のための工具3装着されるスピンドルユニット1と、ワークを保持して回転させるワーク保持装置2と、ワークと工具との相対位置を調整する位置決め機構10と、研削加工中のワークに生じる加工変質層に影響するパラメータを含む状態データを取得するための測定値を測定する検出器25、26と、状態データと、状態データに応じて加工したワークにおける残留応力分布とを関連付けた複数の実測データを訓練データとして生成された学習済モデルを有する制御装置20と、を備え、制御装置は、学習済みモデルにより測定値に基づいて取得した状態データから加工後のワークにおける残留応力分布を予測する、加工装置。
【選択図】 図23
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの研削加工のための工具が装着されるスピンドルユニットと、
前記ワークを保持して回転させるワーク保持装置と、
前記ワークと前記工具との相対位置を調整する位置決め機構と、
研削加工中の前記ワークに生じる加工変質層に影響するパラメータを含む状態データを取得するための測定値を測定する検出器と、
前記状態データと、前記状態データに応じて加工した前記ワークにおける残留応力分布とを関連付けた複数の実測データを訓練データとして生成された学習済みモデルを有する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記学習済みモデルにより前記測定値に基づいて取得した前記状態データから加工後の前記ワークにおける残留応力分布を予測する、加工装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記ワークの回転状態、及び、予め記憶されたワークの結晶方位分布から、前記ワークと前記工具の接点として定義される加工点における前記ワークの結晶方位を計算する結晶方位計算部を備える、請求項1に記載の加工装置。
【請求項3】
前記状態データは、加工力、加工速度、切り込み深さ、温度、及び、前記加工点における前記ワークの結晶方位を含む、請求項2に記載の加工装置。
【請求項4】
前記制御装置は、更に、候補作成部を有し、
前記候補作成部は、
前記予測の結果が、予め定められた基準値を満たさない場合、
得られるワークの残留応力の分布が未知である状態データの複数を候補状態データとして生成し、
前記候補状態データごとに計算された残留応力分布の予測結果と、前記候補状態データとを関連付けて予測結果データセットを生成する、請求項3に記載の加工装置。
【請求項5】
前記候補作成部は、
予測結果データセットに含まれる前記予測結果と、前記基準値とを比較し、前記基準値を満たす前記予測結果を特定し、特定した前記予測結果に関連付けられた前記候補状態データを抽出する、請求項4に記載の加工装置。
【請求項6】
前記制御装置は、条件計算部を更に備え、
前記条件計算部は、
前記状態データと、前記状態データを得るための加工条件とを関連付けた複数の実測データを訓練データとして生成された学習済みモデルであり、
前記候補作成部により抽出された前記候補状態データから、前記加工条件を算出する、請求項5に記載の加工装置。
【請求項7】
前記制御装置は、
前記条件計算部により計算された前記加工条件に基づき、前記スピンドルユニット、前記ワーク保持装置、及び、前記位置決め機構からなる群より選択される少なくとも1種をフィードバック制御する、請求項6に記載の加工装置。
【請求項8】
ワークの研削加工のための工具を備えるスピンドルユニットと、
前記ワークを保持して回転させるワーク保持装置と、
前記ワークと前記工具との相対位置を調整する位置決め機構と、
研削加工中の前記ワークにおける、状態データの取得に必要な値を測定するための検出器と、を備え、
前記状態データは、加工力、加工速度、切り込み深さ、温度、及び、前記ワークと前記工具の接点として定義される加工点における結晶方位を含む、加工装置を用いて、
前記検出器により前記値を測定することと、
前記値に基づき、前記状態データを取得することと、
前記状態データに基づき、研削加工後の前記ワークにおける残留応力分布を予測することと、を含む方法。
【請求項9】
ワークの研削加工のための工具が装着されるスピンドルユニットと、前記ワークを保持して回転させるワーク保持装置と、前記ワークと前記工具との相対位置を調整する位置決め機構と、研削加工中の前記ワークに生じる加工変質層に影響するパラメータを含む状態データを取得するための測定値を測定する検出器と、を備える加工装置を用いて、
前記状態データと、前記状態データに応じて加工した前記ワークにおける残留応力分布とを関連付けた複数の実測データを訓練データとした機械学習によって、前記測定値に基づいて取得した前記状態データから加工後の前記ワークにおける残留応力分布を予測する学習済みモデルを生成する、学習済みモデルの生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工装置、方法、及び、学習済みモデルの生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハ(Si、Ga、SiC、及び、GaN等)の研削加工後の状態(特にその表面の状態)は、後工程であるエッチング、テープ研磨、及び、CMP(Chemical Mechanical Polishing)等の効果やその仕上がりに影響を与えることが知られている。
【0003】
近年、研削加工後のワークの状態を学習済みモデルを使って予測するための技術開発が進んでいる。このような技術として、特許文献1には、「研削盤にて砥石車により工作物の研削を行っている際の実測データであって、前記研削盤の構造部材の状態を表す第一実測データ、および、研削部位に関する第二実測データの少なくとも一つである前記実測データを、前記工作物毎に所定期間分取得する実測データ取得部と、複数の前記工作物に関する前記実測データを第一学習用入力データとする機械学習により、前記工作物の研削品質を推定するための第一学習モデルを生成する第一学習モデル生成部と、を備える、研削品質推定モデル生成装置。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-23040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、半導体ウエハ等のワークの研削加工後の表面と、後工程への影響との関係を様々な測定機器等を用いて、科学的に検証する取り組みを続けてきた。その結果、研削加工後のワークにおける残留応力、特に、その表面の残留応力が、後工程の効果・品質に多大な影響を与えることを突き止めた。
【0006】
ワークが研削加工されるとき、その表面層は、加工による機械的エネルギ、及び/又は、熱エネルギによる変質を受ける。一般にこのような変質部分は加工変質層と呼ばれる。より具体的には、研削加工後のワーク(以下「処理済みワーク」ともいう。)の表面層では、塑性変形に起因して、格子欠陥の発生、結晶粒の変化、表面流動、及び、亀裂等が生じたり、加熱(冷却)によって相変態、組織変化、及び、熱亀裂等が生じたりする。
【0007】
このような表面層における残留応力、特に、そのばらつき(分布)は、後加工、例えば、ケミカルエッチングであれば、エッチングレートの局所的なばらつき等をひきおこし、品質への影響が大きい。
【0008】
処理済みワークにおける残留応力は、ラマン分光法によって評価できる。図1は、処理済みワーク(シリコンウエハ)の端面のラマン分光法による評価方法とその結果の一例を表す図である。図1(A)は、処理済みワークの模式図である。円盤状のワークWは端面WEが所定の形状となるよう研削加工されたものである。この端面WEに対して、励起光を照射し、ラマン散乱光を用いて残留応力を評価する。
【0009】
図1(B)は、ラマンスペクトルの模式図である。横軸は励起光からの波数シフト量であるラマンシフト(cm-1)を表す。一方、縦軸は、散乱光強度を表す。
スペクトルsp1~sp3は、端面WEの異なる箇所から得られたラマンスペクトルを表し、スペクトルAveはこれらの平均値である。これらのスペクトルのピーク位置(a)、(b)、(c)、(d)は、残留応力の程度を反映する。すなわち、ピーク位置のシフト量、及び、その符号は、残留応力の量、及び、種類(引張/圧縮)に関連付けられる。
従って、標準状態からの波数シフト量・符号を測定することによって、励起光の照射位置における残留応力が評価できる。
【0010】
図1(C)は、端面WEの所定領域における残留応力の分布を表すヒートマップである。図面からは判別することはできないが、実際には、シフト量の大きさ、符号を基に色分けされて表示されており、残留応力分布が定量化されている。
【0011】
上述のとおり、残留応力は所定の方法により評価できるものの、そのためには特殊な評価計測機器が必要となり、製造現場において処理済みワークの残留応力分布をリアルタイムで評価することは難しい。一方で、後工程を考慮すると、残留応力分布(ばらつき)を所定の範囲に収めたり、又は、残留応力をワークの位置に応じて、特に結晶方位に応じてコントロールしたいという要求は大きい。そのためには、処理済みワークの残留応力分布を簡便な方法によって取得する必要がある。
【0012】
そこで、本発明は、処理済みワークにおける残留応力分布を簡便に予測できる、加工装置を提供することを課題とする。また、本発明は、方法、及び、学習済みモデルの生成方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決することができることを見出した。
【0014】
[1] ワークの研削加工のための工具が装着されるスピンドルユニットと、上記ワークを保持して回転させるワーク保持装置と、上記ワークと上記工具との相対位置を調整する位置決め機構と、研削加工中の上記ワークに生じる加工変質層に影響するパラメータを含む状態データを取得するための測定値を測定する検出器と、上記状態データと、上記状態データに応じて加工した上記ワークにおける残留応力分布とを関連付けた複数の実測データを訓練データとして生成された学習済みモデルを有する制御装置と、を備え、上記制御装置は、上記学習済みモデルにより上記測定値に基づいて取得した上記状態データから加工後の上記ワークにおける残留応力分布を予測する、加工装置。
[2] 上記制御装置は、上記ワークの回転状態、及び、予め記憶されたワークの結晶方位分布から、上記ワークと上記工具の接点として定義される加工点における上記ワークの結晶方位を計算する結晶方位計算部を備える、[1]に記載の加工装置。
[3] 上記状態データは、加工力、加工速度、切り込み深さ、温度、及び、上記加工点における上記ワークの結晶方位を含む、[2]に記載の加工装置。
[4] 上記制御装置は、更に、候補作成部を有し、上記候補作成部は、上記予測の結果が、予め定められた基準値を満たさない場合、得られるワークの残留応力の分布が未知である状態データの複数を候補状態データとして生成し、上記候補状態データごとに計算された残留応力分布の予測結果と、上記候補状態データとを関連付けて予測結果データセットを生成する、[3]に記載の加工装置。
[5] 上記候補作成部は、予測結果データセットに含まれる上記予測結果と、上記基準値とを比較し、上記基準値を満たす上記予測結果を特定し、特定した上記予測結果に関連付けられた上記候補状態データを抽出する、[4]に記載の加工装置。
[6] 上記制御装置は、条件計算部を更に備え、上記条件計算部は、上記状態データと、上記状態データを得るための加工条件とを関連付けた複数の実測データを訓練データとして生成された学習済みモデルであり、上記候補作成部により抽出された上記候補状態データから、上記加工条件を算出する、[5]に記載の加工装置。
[7] 上記制御装置は、上記条件計算部により計算された上記加工条件に基づき、上記スピンドルユニット、上記ワーク保持装置、及び、上記位置決め機構からなる群より選択される少なくとも1種をフィードバック制御する、[6]に記載の加工装置。
[8] ワークの研削加工のための工具を備えるスピンドルユニットと、上記ワークを保持して回転させるワーク保持装置と、上記ワークと上記工具との相対位置を調整する位置決め機構と、研削加工中の上記ワークにおける、状態データの取得に必要な値を測定するための検出器と、を備え、上記状態データは、加工力、加工速度、切り込み深さ、温度、及び、上記ワークと上記工具の接点として定義される加工点における結晶方位を含む、加工装置を用いて、上記検出器により上記値を測定することと、上記値に基づき、上記状態データを取得することと、上記状態データに基づき、研削加工後の上記ワークにおける残留応力分布を予測することと、を含む方法。
[9] ワークの研削加工のための工具が装着されるスピンドルユニットと、上記ワークを保持して回転させるワーク保持装置と、上記ワークと上記工具との相対位置を調整する位置決め機構と、研削加工中の上記ワークに生じる加工変質層に影響するパラメータを含む状態データを取得するための測定値を測定する検出器と、を備える加工装置を用いて、上記状態データと、上記状態データに応じて加工した上記ワークにおける残留応力分布とを関連付けた複数の実測データを訓練データとした機械学習によって、上記測定値に基づいて取得した上記状態データから加工後の上記ワークにおける残留応力分布を予測する学習済みモデルを生成する、学習済みモデルの生成方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、処理済みワークにおける残留応力分布を簡便に予測できる、加工装置が提供できる。また、本発明によれば、方法、及び、学習済みモデルの生成方法も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】処理済みワーク(シリコンウエハ)の端面のラマン分光法による評価方法とその結果の一例を表す図である。(A)は、処理済みワークの模式図である。(B)は、ラマンスペクトルの模式図である。横軸は励起光からの波数シフト量であるラマンシフト(cm-1)を表す。(C)は、端面WEの所定領域における残留応力の分布を表すヒートマップである。
図2】加工装置の説明に用いる座標系の説明図である。
図3】加工装置の正面視の模式図である。
図4】加工装置のハードウェア構成図である。
図5】スピンドルユニットの構成を表す断面図である。
図6図5のスピンドルユニットのA部の断面図である。
図7図5のスピンドルユニットのB部の断面図である。
図8】径方向応力検知部による応力検知の説明図である。(A)は工具ホルダに取り付けられた工具に矢印のような力が加わったことを示し、(B)は、そのとき、主軸が変位した様子を示している。
図9】Z方向における軸方向応力検知部の軸方向永久磁石側を示す斜視図である。
図10】研削加工時のワーク、及び、工具の位置関係(A)、並びに、単粒切削モデル(B)である。
図11】ワーク保持装置の断面模式図である。
図12】XY変位センサの構成例を示す模式図である。(A)は、XY変位センサを模式的に示す断面図であり、(B)は、Z(-)方向から観た場合のXY変位センサの斜視図である。
図13】回転駆動軸の変位、すなわち、永久磁石の変位と、XY変位センサの応答との関係の説明するための模式図である。(A)は、回転駆動軸の回転軸が基準位置にある場合、すなわち回転駆動軸が基準状態である場合のXY変位センサの応答を示す模式図、(B)は、回転駆動軸の回転軸が基準位置からX(+)方向に所定量変位した場合の変位センサの応答を示す模式図、回転駆動軸の回転軸(θ軸)が基準位置からX(-)方向に所定量変位した場合のXY変位センサの応答を示す模式図である。
図14】交流電流が印加された抵抗(R)-コイル(L)直列回路の説明図である。
図15】回転駆動軸の変位に伴うコイルの電圧波形の変化の説明図である。(A)は、基準状態におけるXY変位センサの状態と、コイルの電圧波形を示す説明図、(B)は、回転駆動軸の回転軸(θ軸)が基準位置から、X(+)方向に変位した場合、すなわち、永久磁石がXY基準位置よりもX(+)方向にある場合のXY変位センサの状態と、コイルの電圧波形を示す説明図、(C)は、回転駆動軸が基準位置から、X(-)方向に変位した場合、すなわち、永久磁石がXY基準位置よりもX(-)方向にある場合の、XY変位センサの状態と、コイルの電圧波形を示す説明図である。
図16】変位量の計算方法を示す説明図である。(A)は、基準電圧波形であり、(B)は、回転軸がX(+)方向に変位した場合のコイルの電圧波形を表す図であり、(C)は、回転軸がX(-)方向に変位した場合のコイルの電圧波形を表す図である。
図17】Z(+)方向からXY変位検出器を観た場合の永久磁石に対向する複数のXY変位センサの配置を示す平面断面図である。
図18】永久磁石とZ変位センサの位置関係を示す模式図である。
図19】フランジ(回転駆動軸)の変位による、Z変位センサの状態の変化の説明図である。(B)(C)は、コイルの電圧波形(電圧-時間波形)を表す図(模式図)である。
図20】フランジ(回転駆動軸)が、Z方向に変位する場合のZ変位センサのコイルにかかる電圧波形の説明図である。
図21】Z(+)方向から観た永久磁石及びZ変位センサのコイルの配置の一例を示す模式図である。
図22】(A)は、回転駆動軸のθ軸周りのトルク検知のためのトルク検出器の構成例を模式的示す平面図である。また、(B)は、その部分拡大図である。
図23】加工装置の機能ブロック図である。
図24】加工装置のフィードバック制御のフローチャートである。
図25】シリコンウエハであるワークWにおける結晶方位分布を表す図である。(A)は、主面が(100)であるワークWにおける端面の結晶方位の分布を表す図である。(B)は、ケイ素結晶における面方位(結晶方位)を更に詳細に表す図である。(C)は、ワークWの端面の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0018】
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化した一例であって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、及び、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。また、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なる場合があり、また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なることがある。
【0019】
[加工装置]
本実施形態の加工装置は、スピンドルユニット、ワーク保持装置、及び、位置決め機構を含む加工部と、研削加工中のワークにおける状態データの取得に必要な値を測定するための検出器と、を備え、加工力、加工速度、切り込み深さ、温度、及び、ワークと工具の接点として定義される加工点におけるワークの結晶方位を含む状態データから、ワークにおける残留応力分布を予測する点に特徴の1つがある。残留応力の変化は、加工変質層の厚さの変化に対応する。状態データは、例えば、本実施形態に係る加工装置でワークを加工した際にこのワークに生じ得る加工変質層に影響するパラメータを含む。本実施形態において、「結晶方位」という用語は、「ヤング率」及び/又は「降伏応力」という意味を含んでいてもよい。なお、状態データは、加工力、加工速度、切り込み深さ、温度、及び、ワークと工具の接点として定義される加工点におけるワークの結晶方位の内の少なくとも1つを含んでいなくともよい。
【0020】
本発明者は、加工部の設定パラメータ(以下、「加工条件」ともいう。)と、処理済みワークの残留応力分布との関係を科学的な測定手法を駆使して鋭意検討してきた。その結果、ワークWのある領域における残留応力は、その領域を加工する際の加工力、加工速度、切り込み深さ、及び、温度、並びに、その領域の結晶方位を含む状態データの影響を強く受けることを実験的に知見した。言い換えれば、ワークの残留応力分布は、状態データをパラメータとする関数として記述できることを知見した。本発明は上記知見に基づき完成されたものである。
【0021】
本発明の加工装置の第1の実施例(実施例1)について、図面を参照しながら説明する。まず、図2は、加工装置の説明に用いる座標系の説明図である。
【0022】
加工装置100は、ワークWの研削加工のための工具3を備えるスピンドルユニット1と、ワークWを吸着保持して回転させるワーク保持装置2と、これらの相対位置を調整する位置決め機構(図示されない)とを備える。
更に、スピンドルユニット1、及び、ワーク保持装置2は、加工力(研削力)、加工速度、切り込み深さ、温度、及び、ワークWと工具3の接点(接触領域)として定義される加工点における結晶方位を含む状態データの取得に必要な値を測定するための各種検出器を備える。
【0023】
チャックテーブル4により吸着保持されたワークWは、Z軸と平行なθ軸6(ヨー軸)を中心に回転される。また、ワークWは位置決め機構によりY軸、X軸、及び、Z軸方向にそれぞれ独立に移動可能とされ、工具3との接触位置である加工点を通り、X軸と平行なピッチ軸5を中心に回転可能とされる。
なお、ワークWは、上記5軸制御(X軸、Y軸、Z軸、θ軸、及び、ピッチ軸)とされているが、上記5軸に限定されず、このうちの一部の軸に沿って移動(回転)可能な形態とされてもよい。
【0024】
なお、以下の説明において、図2の座標軸に示されるように、Z軸の+(プラス)方向を「Z(+)方向」、-(マイナス)方向を「Z(-)方向」ということがあり、上記は、X軸、及び、Y軸についても同様である。
【0025】
図3は、加工装置100の正面視の模式図である。ワークWは、チャックテーブル4に吸着保持され、θ軸6を中心に回転される。一方、スピンドルユニット1の工具3も加工軸7を中心に回転される。ワークWと工具3との相対位置は、位置決め機構10により調整され、それらが接触する部分が加工点8となる。
なお、位置決め機構10はワーク保持装置2と一体として構成されているが、上記に限定されず、スピンドルユニット1と一体とされていてもよいし、ワーク保持装置2、及び、スピンドルユニット1のそれぞれに位置決め機構が付属していてもよい。
【0026】
また、ワーク保持装置2によりワークWが回転し、また、スピンドルユニット1によって、工具3が回転するが、上記に限定されず、少なくともワーク保持装置2によりワークWが回転すればよい。その場合、工具3は回転しなくてもよい。
【0027】
次に、加工装置100のハードウェア構成について詳述する。図4は、加工装置100のハードウェア構成図である。加工装置100は、スピンドルユニット1と、ワーク保持装置2と、位置決め機構10と、制御装置20とを有し、スピンドルユニット1、ワーク保持装置2、及び、位置決め機構10は、制御装置20により制御される。
【0028】
スピンドルユニット1には、ワークWの研削加工のための工具3が装着される。工具3は、典型的には複数の砥粒の集合体である砥石であり、これを、回転するワークWに接触させることで、ワークW(特にワークWの端面WE)が研削される。
また、スピンドルユニット1は、検出器25を有している。この検出器25は、加工力、加工速度、切り込み深さ、温度、及び、加工点8におけるワークの結晶方位を含む状態データの取得に必要な値を測定する。
【0029】
検出器25は、例えば、ワークWと工具3との接触による両者の変位を測定する変位センサ、工具3が受ける応力を測定するひずみセンサ、工具3の回転速度を測定する回転速度センサ、及び、非接触の温度センサ等である。また、加工点8におけるワークWの結晶方位をリアルタイムで測定するX線回折測定器が含まれていてもよい。
【0030】
検出器25が測定する値は、状態データそのものであってもよいし、状態データの計算のために必要な値であってもよい。例えば、加工力(研削力)は、典型的には、砥石抗力のXY方向、及び、Z方向の分力により定義されるが、砥石抗力そのものを検出器25によって測定してもよいし、砥石(工具3)、又は、ワークWの変位を測定し、予め定められた関数によって、それを加工力に換算してもよい。
【0031】
また、加工速度については、ワークW、及び、工具3の回転速度、並びに、位置決め機構10の移動速度等から計算することができる。すなわち、ワークW、及び、工具3の回転速度を検出器25(例えば、ロータリーエンコーダ等)によって測定し、加工条件として設定された位置決め機構10の移動速度のデータと合わせて、計算によって取得される。
【0032】
また、切り込み深さは、位置決め機構10の移動速度、加工力(特にZ方向の分力)、砥粒の種類・大きさ等のデータから、計算される。すなわち、加工力の取得に必要なデータ(変位等)を測定し、加工条件として設定されるその他のデータと合わせて、計算によって取得される。
【0033】
また、温度は非接触の温度計によって、加工点8の温度を直接測定することで、取得してもよい。また、加工点8付近の温度、熱流等を測定して、加工点8の温度を推測(計算)してもよい。
【0034】
また、結晶方位は、予め設定されたワークWの結晶方位分布(マップ)、ワークのWの回転状態(回転速度、回転開始位置)等から計算されてもよい。すなわち、ノッチ・オリフラの回転前の位置、回転速度、回転回数、及び、時間等を測定し(本明細書では、これらを「回転状態」という)、これと、結晶方位分布とから加工点8における結晶方位を計算できる。
一方で、X線回折測定器によって、加工点8における結晶方位をリアルタイムで測定してもよい。
【0035】
図25は、シリコンウエハであるワークWにおける結晶方位分布を表す図である。図25(A)は、主面が(100)であるワークWにおける端面の結晶方位の分布を表す図である。主面が(100)であるシリコンウエハであるワークWの端面では、90度ごとに(100)と(110)とが繰り返されることがわかる。
【0036】
図25(B)は、ケイ素結晶における面方位(結晶方位)を更に詳細に表す図であり、図25(A)と同様に平面視で(100)となるよう配置されている。
また、図25(C)は、ワークWの端面の断面模式図である。これによれば、平面方向は(100)であり、端面方向が(110)である場合、斜面方向は(111)となることがわかる。上記のとおり、ワークWの結晶方位の分布は、公知である。ワークWの形状(位置座標)に関連付けられた結晶方位情報を本明細書では結晶方位分布という。なお、以上はワークWがシリコンウエハである場合について説明したが、ワークWの材質が異なる場合についても同様である。
なお、ワークWが非晶質の場合には、結晶方位はないが、この場合における「結晶方位」は、単に全体が均質なものとして定義する。
【0037】
(スピンドルユニットの具体例)
以下では、加工力を取得するための検出器25を備えるスピンドルユニット1の具体例について説明する。図5は、上記スピンドルユニット1の構成を表す断面図である。スピンドルユニット1において、主軸30の先端部はハウジング31から所定長さ突出し、先端に工具ホルダ32が取り付けられている。主軸30においては、ラジアル軸受33、34によって、適切な予圧をもって中心線に対し垂直な径方向に掛かる荷重が支持されている。
【0038】
主軸30の軸方向に掛かる荷重は、スラスト軸受35で支持されている。主軸30の他端部(Z(+)方向端)はモータ側であり、高速回転するモータの回転軸(図示せず)と結合されている。
【0039】
図5のA部は、XY方向における径方向応力検知部、B部はZ方向における軸方向応力検知部である。これら、径方向応力検知部、及び、軸方向応力検知部がそれぞれ検出器25に該当し、以下に説明するように、状態データのうち、加工力(研削力)の取得に必要な値を測定できる。
【0040】
図6はA部の断面図、図7はB部の断面図である。A部において、主軸30の外周は、径方向永久磁石36が複数(図6では4個)、軸方向を長手方向として円周に等間隔で配置されている。ハウジング31に取り付けられた円環リング31-1は、径方向永久磁石36の外周の周囲に半径方向に所定の隙間を隔てて、かつ径方向永久磁石36と対向して径方向電磁石37が複数(図6では4個)設置されている。
【0041】
径方向ひずみセンサ38は、円環リング31-1の径方向電磁石37の外周に面した部分に取り付けられている。なお、円環リング31-1はハウジング31の一部として一体化しても良い。また、径方向ひずみセンサ38は、薄い電気絶縁物のベースの上に格子上の抵抗線又はフォトエッチング加工した抵抗箔が形成された径方向ひずみセンサ、又は、圧電効果を利用したピエゾ素子による圧電センサ等を用いる。
【0042】
径方向永久磁石36の磁極は、図6では中心から半径方向に向かってSNと着磁されている。径方向電磁石37は、円環リング31-1に取り付けられ、径方向永久磁石36と対向して中心から半径方向に向かってNSとなるように通電されている。径方向ひずみセンサ38は、径方向電磁石37の取り付けられた位置で、その外周の円環リング31-1に接着して設置されている。
【0043】
なお、径方向ひずみセンサ38は、径方向永久磁石36と径方向電磁石37との同じ極性同士による斥力、つまり反発力による円環リング31-1、あるいは円環リング31-1をハウジング31と一体化した場合は、円環リング31-1に代わるハウジング31の一部に加わる応力を検知すればよい。そして、磁極は反対、つまり図6でNSをSNとして同極同士を対向させればよい。また、径方向電磁石37は永久磁石と異なり、磁力を調整可能なので、磁力が強すぎて主軸30の回転を阻害しないように調整することができる。
【0044】
図7は、Z方向の応力を検知する軸方向永久磁石41-2と軸方向電磁石39-2との配置を示している。B部において、主軸30に、Z方向用の円環状の軸方向永久磁石41-2が軸と垂直方向に配置されている。軸方向電磁石39-2はそれぞれ、軸方向永久磁石41-2と面対向して複数(図6では4個)設置されている。軸方向応力検知部である軸方向ひずみセンサ40-2は、軸方向電磁石39-2のそれぞれハウジング31に取り付けられた円環リング31-2のつば状部の外周に軸方向電磁石39-2と対向して接着して設置されている。なお、上記は、軸方向永久磁石41-1と軸方向電磁石39-1との関係においても同様である。
【0045】
なお、軸方向電磁石39-2の取り付けられる部分は、円環リング31-2と一体化されている。つまり、円環リング31-2をハウジング31の一部とした場合は、ハウジング31につば状部を設ければ良い。
【0046】
図8は、検出器25である径方向応力検知部による応力検知の説明図である。図8(A)は工具ホルダ32に取り付けられた工具3に矢印のような力が加わったことを示し、図8(B)は、そのとき、主軸30が変位した様子を示している。なお、図8(B)では、主軸30が目視で認識できるほどに大きく変位したように記載されているが、これは説明のためで、実際の変位は目視で確認できない程度であってよい。
【0047】
主軸30は、応力が掛かると変位し、それに取り付けられた径方向永久磁石36も図8(B)に示す如く変位する。そして、変位がない状態でバランスしていた径方向永久磁石36と37との斥力は、変化して円環リング31-1に応力が発生し、径方向ひずみセンサ38によって検知される。
【0048】
径方向ひずみセンサ38による検知は、ブリッジ回路の二辺にひずみゲージが、他の二辺に固定抵抗が接続される2ゲージ法で行われる。これにより軸方向応力に対応した出力電圧が得られる。主軸30に掛かる応力の計測は、予め出力電圧と応力の関係を校正しておけばよい。
【0049】
図9は、Z方向における軸方向応力検知部の軸方向永久磁石41-1側を示す斜視図である。軸方向電磁石39-1は軸方向永久磁石41-1と面対向して複数(図9では4個)で円周方向に等分割して設置されている。軸方向ひずみセンサ40-1は、円環リング31-2の外周に、軸方向であるZ方向に抵抗値が変化するように接着されている。軸方向永久磁石41-2側は同様である。軸方向電磁石39-1の磁束Bの向きが矢印のようにZ方向の場合は、軸方向電磁石39-1と軸方向永久磁石41-1との間で斥力が生じる。
【0050】
主軸30は、Z方向に応力が掛かると変位し、斥力が変化して円環リング31-2の応力が軸方向ひずみセンサ40-1によって検知される。軸方向ひずみセンサ40-1による検知は、ブリッジ回路の一辺にひずみゲージが、他の三辺に固定抵抗が接続される1ゲージ3線法でz方向の応力に対応した出力電圧により行える。上記スピンドルユニットでは、各センサが主軸30の円周方向に配置されているので、応力の方向(力の方向)も3次元で検出できる。
【0051】
次に、上記スピンドルユニットにより取得される状態データの1つである加工力(研削力)について説明する。図10は、研削加工時のワークW、及び、工具3の位置関係(A)、並びに、単粒切削モデル(B)である。
図10(A)は、研削加工時のワークWとの工具3との位置関係を表す図である。スピンドルユニット1に取り付けられた工具3は、回転するワークWと加工点8において接触し、ワークWが研削加工される。
【0052】
図10(B)は砥粒の切れ刃50とそれに作用する加工力(研削力)を表す力学モデル(単粒切削モデル)である。砥石の砥粒切れ刃を円錐形と仮定し、これがワークWに対して切削方向51に移動しながら切削することで、ワークWの表面が切削され、同時に加工変質層55が生ずる。
ここで、単位切削断面積当たりの研削力の垂直分力53は、fn=β・gtanαと表される。このうち、βは研削力、gは切り込み深さ52、及び、αは、砥粒切れ刃の半頂角を表す。また、砥石抵抗の垂直分力Fnは、このfnを工具3(砥石)・ワークWの加工点8における同時研削砥粒の数だけ積分することで得られる。
【0053】
加工力は、典型的には、研削力の垂直分力53、水平分力54、砥粒の大きさ、切り込み深さ、及び、砥石(工具3)における砥粒の密度等に関連して決まる。実測値としては、砥石抵抗のZ方向のFn、及び、XY方向の分力Ftが使用できる。これらは、上記の径方向応力検知部、軸方向応力検知部によって取得される測定値(値)を基に計算できる。
【0054】
図4のハードウェア構成図に戻り、スピンドルユニット1以外の要素について説明する。
ワーク保持装置2は、ワークWを吸着保持して回転させるハードウェアである。ワーク保持装置2は、検出器26を有している。検出器26による測定項目は、スピンドルユニット1が有する検出器25と同一であってもよいし、異なってもよい。
【0055】
(ワーク保持装置の具体例)
加工力(研削力)を取得するための値を測定可能な検出器26を備えるワーク保持装置の具体例について説明する。
図11は、ワーク保持装置2の断面模式図である。ワーク保持装置2は、チャックテーブル4(回転テーブル)と、チャックテーブル4と一体に回転する回転駆動軸106と、θ軸6を中心に回転駆動軸106を回転可能に保持するベース105とを有する。ワーク保持装置2は、チャックテーブル104と、ベース105と、を有する。
チャックテーブル104は、ワークWを吸着保持する。チャックテーブル104は、ワークWを配置する面に形成された開口に通じる通路内を真空雰囲気に減圧することにより生じる吸引力でワークWを吸着して保持する。なお、チャックテーブル104におけるワークWの吸着保持方法としては本実施例の方法に限定されない。例えば、チャックテーブル104は、多孔体であってもよい。また、例えば、磁石を備えるチャックテーブル104が磁性体であるワークWを磁気的に保持してもよい。
【0056】
チャックテーブル104は、θ軸6を中心に回転し得る。チャックテーブル104に吸着されたワークWは、チャックテーブル104の回転に応じてθ軸6を中心に回転する。
ベース105は、チャックテーブル104のZ(-)方向に配置されている。ベース105は、位置決め機構10上に載置されている。
【0057】
工具は、加工軸7を中心に回転する。加工軸7は、Z方向に平行であってもよいし、Z方向に平行でなくてもよい。工具は、Z軸方向、及びY軸方向に移動する。なお、工具は、移動しない構成であってもよい。工具は、回転し、加工点8においてワークWと接触してこのワークW、例えば、このワークWのエッジを加工(例えば、研削)する。
【0058】
位置決め機構10は、加工軸7を中心に回転するスピンドルに保持された工具とワークWとが加工点8で接触するように、ワークWと工具との相対位置を調整する。位置決め機構10は、ワーク保持装置2を介してワークWをX軸方向に移動させる。なお、位置決め機構10は、ワーク保持装置2を介してワークWをY軸、X軸、及び、Z軸方向にそれぞれ独立に移動させてもよい。
【0059】
ワーク保持装置2は、例えば、略円柱状に形成されている。なお、ワーク保持装置2は、略円柱状以外の形状に形成されていてもよい。ワーク保持装置2は、上部と、上部よりもZ(-)方向に位置する下部とを有する。ワーク保持装置2は、上部の中心部から下部がZ(-)方向に延出している。
ワーク保持装置2の上部は、例えば、円柱状に形成されている。なお、ワーク保持装置2の上部は、円柱状以外の形状に形成されていてもよい。
ワーク保持装置2の下部は、例えば、円柱状に形成されている。なお、ワーク保持装置2の下部は、円柱状以外の形状に形成されていてもよい。
例えば、ワーク保持装置2の下部の径は、ワーク保持装置2の上部の径よりも小さい。
【0060】
ワーク保持装置2は、チャックテーブル(回転テーブル)104と、ベース105と、チャックテーブル104と一体に回転する回転駆動軸106と、を有する。
チャックテーブル104の表面(Z(+)方向の面)には、通路109に連通する吸着孔108が形成されている。チャックテーブル104は、吸着孔108に通じる通路109内を真空雰囲気に減圧することによってチャックテーブル104にワークWを吸着保持する。図2に示した例では、通路109は、回転駆動軸106、θ軸モータ107、及びベース105に亘って形成されている。
【0061】
ベース105は、位置決め機構10上に設けられている。
ベース105は、基準軸を有する。基準軸は、例えば、Z軸に平行である。なお、基準軸は、Z軸に平行でなくてもよい。なお、基準軸は、ベース105以外の部材に設定されてもよいし、部材に設定された軸ではなく所定の位置に設定された軸であってもよい。
ベース105は、例えば、基準軸を中心とする略円柱状に形成されている。なお、ベース105は、略円柱状以外の形状に形成されていてもよい。ベース105は、上部と、上部よりもZ(-)方向に位置する下部とを有する。ベース105は、上部の中心部から下部がZ(-)方向に延出している。
【0062】
ベース105の上部は、例えば、基準軸を中心とする円筒状に形成される。なお、ベース105の上部は、円筒状以外に形状に形成されていてもよい。
ベース105の下部は、例えば、基準軸を中心とする円筒状に形成されている。なお、ベース105の下部は、円筒形状以外の形状に形成されていてもよい。例えば、ベース105の下部の径は、ベース105の上部の径よりも小さい。
ベース105は、回転駆動軸106を回転可能に保持する。ベース105は、回転駆動軸106が嵌合する穴部を有している。ベース105の穴部の形状は、回転駆動軸106の形状に対応している。
【0063】
ベース105の穴部は、基準軸を中心とする略円柱状である。ベース105の穴部は、ベース105の上部の内側に形成された孔の中心部からベース105の下部の内側に形成された穴がZ(-)方向に延出している。
ベース105の上部の内側に形成された孔は、例えば、基準軸を中心とする円盤状若しくは円柱状である。なお、ベース105の上部の内側に形成された孔は、例えば、円盤又は円柱状以外の形状であってもよい。
【0064】
ベース105の下部の内側に形成された穴は、例えば、基準軸を中心とする円柱状である。なお、ベース105の下部の内側に形成された穴は、例えば、円柱状以外の形状であってもよい。ベース105の下部の内側に形成された孔の径は、ベース105の上部の内側に形成された穴の径よりも小さい。
ベース105は、上部の内周部と下部の内周部との間に段差部を有している。図11に示した例では、ベース105は、上部の内周部と下部の内周部との間に少なくとも2つの段差部を有している。以下、2つの段差部の内、Z(+)方向の段差部を上側段差部と称し、上側段差部よりもZ(-)方向に設けられた段差部を下側段差部と称する。
【0065】
ベース105は、上側段差部に中空の円盤状のフランジ125が配置されている。言い換えると、ベース105は、上側段差部にフランジ125が嵌合されている。フランジ125の内周部は、上側段差部よりも内側に突出している。なお、フランジ125は、ベース105と一体に形成されていてもよい。
回転駆動軸106は、チャックテーブル104の表面(Z(+)方向の面)と反対側の裏面(Z(-)方向の面)に接続されている。また、回転駆動軸106は、ベース105の穴部に嵌合されて、保持されている。
回転駆動軸106は、フランジ112(第1フランジ)と、フランジ112よりも-Z方向に位置する軸部とを有する。
回転駆動軸106は、フランジ112の中心部から軸部が-Z方向に延出している。
【0066】
フランジ112は、例えば、θ軸6を中心とする円盤状又は円柱状に形成されている。なお、フランジ112は、円盤状又は円柱状以外の形状に形成されていてもよい。フランジ112は、チャックテーブル104の裏面に接続される。
回転駆動軸106の軸部は、θ軸6を中心とする円柱状に形成されている。なお、回転駆動軸106の軸部は、円柱形状以外の形状に形成されていてもよい。回転駆動軸106の軸部の径は、フランジ112の径よりも小さい。
回転駆動軸106の軸部は、リング状のフランジ(第2フランジ)113が設けられている。回転駆動軸106の軸部は、フランジ113の中心部の孔に嵌合される。
【0067】
回転駆動軸106をベース105の穴に嵌合した場合、フランジ113は、ベース105の内側の上側段差部及び下側段差部の間に配置される。回転駆動軸106をベース105の穴に嵌合した場合、フランジ113は、フランジ125の内周部と下側段差部との間に配置される。なお、フランジ113の径は、フランジ112の径よりも小さい。
【0068】
回転駆動軸106は、Z(-)方向に設けられたθ軸モータ107によってθ軸6を中心に回転する。回転駆動軸106をベース105の穴に嵌合した場合、回転駆動軸106は、基準軸をθ軸6として回転する。このとき、回転駆動軸106は、例えば、全周囲でベース105から等しい間隔、若しくは略等しい間隔離れている。なお、回転駆動軸106は、基準軸に対して傾いたθ軸6、又は基準軸からずれたθ軸6を中心に回転し得る。
【0069】
典型的には、回転駆動軸106は、ワークW等に負荷がかからない状態で空転した場合、回転駆動軸106のθ軸6の位置が基準軸に従う位置(以下、基準位置と称する場合もある)に対してずれていない状態又は、θ軸6が基準軸と一致した状態で、回転し得る。以下、回転駆動軸106のθ軸6の位置が基準位置に対してずれていない状態、又は回転駆動軸106のθ軸6が基準軸と一致した状態を基準状態と称する場合もある。
回転駆動軸106の中心部には、通路109の一部である通路が形成される。例えば、回転駆動軸106の中心部において、通路109の一部である通路がθ軸6に沿って形成される。
【0070】
θ軸モータ107は、回転駆動軸106のZ(-)方向に接続されている。θ軸モータ107は、θ軸6を中心に回転する。例えば、θ軸モータ107は、基準軸をθ軸6として回転する。なお、θ軸モータ107は、基準軸に対して傾いた、又は基準軸からずれた位置に配置されるθ軸6を中心に回転し得る。
θ軸モータ107の中心部(回転軸部)には、通路109の一部である通路が形成される。例えば、θ軸モータ107の中心部において、通路109の一部である通路がθ軸6に沿って形成される。
【0071】
θ軸モータ107の回転により回転駆動軸106が回転することで、チャックテーブル104及びチャックテーブル104に吸着されたワークWも回転する。
チャックテーブル104、回転駆動軸106、及びθ軸モータ107とベース105との間には、空隙がある。チャックテーブル104、及び回転駆動軸106とベース105との間の空隙は、θ軸モータ107の外周部のZ(+)方向の上端部に沿って設けられたシールと、チャックテーブル104の外周部のZ(-)方向の裏面側又はベース105の外周部のZ(+)方向の上端部に設けられたシール110とによって封止されている。チャックテーブル104、及び回転駆動軸106とベース105との間の空隙は、伝熱、振動特性の最適化のために、流体、例えば、粘弾性流体等が充填されていてもよい。なお、チャックテーブル104、及び回転駆動軸106とベース105との間の空隙は、θ軸モータ107の外周部のZ(+)方向の上端部に沿って設けられたシールとシール110とによって完全密閉されていなくてもよい。
【0072】
ワーク保持装置2は、検出器Dc(図4における検出器26に対応する具体例のひとつ)を有している。検出器Dcは、磁性体Mgと、センサScとを有している。
検出器Dcは、磁性体の変位(磁場の変化)よる誘導起電力発生回路の出力(自己誘導起電力等)の変化を検出する。言い換えると、検出器Dcは、磁性体との距離の変化による誘導起電力発生回路の出力の変化を検出する。磁性体Mgは、例えば、永久磁石、又は電磁石等である。センサScは、例えば、誘導起電力発生回路を含む。
【0073】
図11に示した例では、検出器Dcは、検出器Dc1、Dc2、及びDc3を含む。永久磁石Mgは、永久磁石Mg1、Mg2、及びMg3を含む。センサScは、Sc1、Sc2、及びSc3を含む。
検出器Dc1は、XY軸方向の変位を検出する検出器(以下、XY変位検出器と称する場合もある)である。検出器Dc2は、Z軸方向の変位を検出する検出器(以下、Z変位検出器と称する場合もある)である。検出器Dc3は、トルクを検知する検出器(以下、トルク検出器と称する場合もある)である。
XY変位検出器Dc1は、ワーク保持装置2の上部のZ(+)方向に配置される。ワーク保持装置2では、θ軸モータ107からの発熱が大きいため、θ軸モータ107から離れるほど、熱の影響が小さい。また、回転駆動軸106は、θ軸モータ107側を固定端とする片持ち梁と考えた場合、θ軸モータ107側からZ(-)方向に離れるほどX方向及びY方向への変位が大きくなる。ワーク保持装置2の上部のZ(+)方向にXY変位検出器Dc1を配置することにより、XY変位検出器Dc1への熱の影響を抑制し、且つX方向及びY方向の変位の検出精度を向上することができる。なお、XY変位検出器Dc1は、ワーク保持装置2において図11に示した例以外の位置に配置されていてもよい。
【0074】
XY変位検出器Dc1は、磁性体Mg11(Mg1)と、センサ(以下、XY変位センサ又は第1変位センサと称する場合もある)Sc11(Sc1)及びSc12(Sc1)とを有する。磁性体Mg11は、例えば、永久磁石Mg11である。
永久磁石Mg11は、回転駆動軸106のフランジ112の外周部に配置される。永久磁石Mg11は、リング状(ドーナツ状)である。永久磁石Mg11は、X方向において、内側がS極であり、外側がN極である。なお、永久磁石Mg11は、リング状(ドーナツ状)でなくてもよい。例えば、永久磁石Mg11は、半円弧状であってもよい。また、例えば、永久磁石Mg11は、外周部に沿って所定の間隔で配置された複数の永久磁石Mgで構成されていてもよい。
XY変位センサSc11及びSc12は、それぞれ、X方向において、永久磁石Mg11に対向している。XY変位センサSc11及びSc12は、それぞれ、X方向において、フランジ112に配置された永久磁石Mg11に対向するベース105の内周部に配置される。
【0075】
XY変位センサSc11及びSc12は、X方向において、基準軸に対して対称に配置される。XY変位センサSc11は、フランジ112に配置された永久磁石Mg11に対向するX(-)方向のベース105の内周部に配置される。XY変位センサSc12は、フランジ112に配置された永久磁石Mg11に対向する+X方向のベース105の内周部に配置される。
XY変位センサSc1は、電磁誘導を利用して検出するため、例えば、ベース105及びフランジ112の間の空隙に伝熱及び振動特性を最適化するために流体等を充填した場合であっても、安定して検出することができる。
XY変位センサSc11及びSc12により検出された変位データは予め定められた関係式によって加工力に変換できる。
【0076】
Z変位検出器Dc2は、ワーク保持装置2の上部から下部に亘って配置される。ワーク保持装置2の上部から下部に亘ってのZ変位検出器Dc2を配置することにより、Z変位検出器Dc2への熱の影響を抑制し、Z方向の変位を検出しやすくし、且つXY変位検出器Dc1の検出に影響を抑制することができる。なお、Z変位検出器Dc2は、ワーク保持装置2において図11に示した例以外の位置に配置されていてもよい。
Z変位検出器Dc2は、磁性体Mg21(Mg2)、Mg22(Mg2)と、センサ(以下、Z変位センサ又は第2変位センサと称する場合もある)Sc21(Sc2)、Sc22(Sc2)、Sc23(Sc2)、及びSc4(Sc2)とを有する。例えば、磁石Mg21及びMg22は、それぞれ、永久磁石Mg21及びMg22である。
【0077】
永久磁石Mg21及びMg22は、それぞれ、回転駆動軸106のフランジ113の外周部に配置される。永久磁石Mg21は、永久磁石Mg22の+Z方向に配置される。言い換えると、永久磁石Mg22は、永久磁石Mg21の-Z方向に配置される。
永久磁石Mg21及びMg22は、リング状(ドーナツ状)である。永久磁石Mg21は、Z(+)方向がS極であり、Z(-)方向がN極である。永久磁石Mg22は、Z(+)方向がN極であり、Z(-)方向がS極である。永久磁石Mg21及びMg22は、Z方向において、互いに極性が逆になるように配置されている。なお、永久磁石Mg21及びMg22は、リング状(ドーナツ状)でなくてもよい。例えば、永久磁石Mg21及びMg22は、それぞれ、半円弧状であってもよい。また、例えば、永久磁石Mg21及びMg22は、それぞれ、外周部に沿って所定の間隔で配置された複数の永久磁石Mg2で構成されていてもよい。
【0078】
Z変位センサSc21及びSc23は、それぞれ、Z方向において、永久磁石Mg21に対向している。Z変位センサSc21及びSc23は、それぞれ、Z方向において、フランジ113に配置された永久磁石Mg21に対向するフランジ125の内周部に配置される。
Z変位センサSc21及びSc23は、X方向において、基準軸に対して対称に配置される。Z変位センサSc21は、フランジ113に配置された永久磁石Mg21に対向するX(-)方向のフランジ125の内周部に配置される。Z変位センサSc23は、フランジ113に配置された永久磁石Mg21に対向するX(+)方向のフランジ125の内周部に配置される。
【0079】
Z変位センサSc22及びSc24は、それぞれ、Z方向において、永久磁石Mg22に対向している。Z変位センサSc22及びSc24は、それぞれ、Z方向において、フランジ113に配置された永久磁石Mg22に対向するベース105の下側段差部の内周部に配置される。
Z変位センサSc22及びSc24は、X方向において、基準軸に対して対称に配置される。変位センサSc22は、フランジ113に配置された永久磁石Mg22に対向するX(-)方向のベース105の下側段差部の内周部に配置される。Z変位センサSc24は、フランジ113に配置された永久磁石Mg22に対向するX(+)方向のベース105の下側段差部の内周部に配置される。
【0080】
Z変位センサSc21及びSc22は、Z方向において、永久磁石Mg21及びMg22を間に挟んで、対向している。なお、Z変位センサSc21及びSc22は、Z方向において、永久磁石Mg21及びMg22を間に挟んで、対向していなくともよい。
Z変位センサSc23及びSc24は、Z方向において、永久磁石Mg21及びMg22を間に挟んで、対向している。なお、Z変位センサSc23及びSc24は、Z方向において、永久磁石Mg21及びMg22を間に挟んで、対向していなくともよい。
【0081】
Z変位センサSc2は、電磁誘導を利用して検出するため、例えば、ベース105及びフランジ113の間の空隙に伝熱及び振動特性を最適化するために流体等(シリコーンオイル等)が充填した場合であっても、安定して検出することができる。
トルク検出器Dc3は、ワーク保持装置2の下部のZ(-)方向に配置される。トルク検出器Dc3は、ワーク保持装置2において回転駆動軸106のX方向及びY方向への変位が小さい位置に配置される。例えば、トルク検出器Dc3は、ワーク保持装置2の下部(回転駆動軸106の-Z方向の根本部分)又はθ軸モータ107の近傍に配置される。ワーク保持装置2の下部のZ(-)方向にトルク検出器Dc3を配置することにより、トルク検出器Dc3による回転駆動軸106のトルクの検出の精度を向上することができる。なお、トルク検出器Dc3は、ワーク保持装置2において図11に示した例以外の位置に配置されていてもよい。
【0082】
トルク検出器Dc3は、磁性体Mg31(Mg3)と、センサ(以下、トルクセンサ又はθセンサと称する場合もある)Sc31(Sc3)、及びSc32(Sc3)とを有する。磁石Mg31は、例えば、永久磁石Mg31である。
永久磁石Mg31は、回転駆動軸106の-Z方向の軸部の外周部に配置される。永久磁石Mg31は、リング状(ドーナツ状)である。なお、永久磁石Mg31は、リング状(ドーナツ状)でなくてもよい。例えば、永久磁石Mg31は、外周部に沿って所定の間隔で配置された複数の永久磁石Mgで構成されていてもよい。
【0083】
θセンサSc31及びSc32は、それぞれ、X方向において、永久磁石Mg31に対向している。θセンサSc31及びSc32は、それぞれ、X方向において、回転駆動軸106の軸部に配置された永久磁石Mg31に対向するベース105の内周部に配置される。
θセンサSc31及びSc32は、X方向において、基準軸に対して対称に配置される。θセンサSc31は、回転駆動軸106の軸部に配置された永久磁石Mg31に対向するX(-)方向のベース105の内周部に配置される。θセンサSc32は、回転駆動軸106の軸部に配置された永久磁石Mg31に対向する+X方向のベース105の内周部に配置される。
【0084】
θセンサSc31は、電磁誘導を利用して検出するため、例えば、ベース105及び回転駆動軸106の軸部との間の空隙に伝熱及び振動特性を最適化するために流体等(シリコーンオイル等)を充填した場合であっても、安定して検出することができる。
【0085】
X方向及びY方向の変位検出について説明する。
図12は、XY変位センサSc12の構成例を示す模式図である。図12(A)は、XY変位センサSc12を模式的に示す断面図であり、図12(B)は、Z(-)方向から観た場合のXY変位センサSc12の斜視図である。なお、図12では、XY変位センサSc12を用いて説明するが、他のセンサSc、例えば、XY変位センサSc1及びZ変位センサSc2も同等の構成である。
XY変位センサSc12は、筒状部材201、ストッパ203、蓋204、コイル200C、仕切り板205C、永久磁石PMg12、及びバネ209Cを有する。
【0086】
筒状部材201は、コイル200C、仕切り板205C、永久磁石PMg12、及びバネ(付勢部材)209Cを内部に収容する。
筒状部材201のX(-)方向の端部の開口には、ストッパ203が固定(又は嵌合)される。ストッパ203は、中心部に孔202が形成されている。筒状部材201のX(-)方向の端部の開口(ストッパ203が固定された端部と反対側の端部の開口)には、蓋204が固定される。
コイル200C、仕切り板205C、永久磁石PMg12、及びバネ209Cは、筒状部材201内で同軸に配置される。なお、コイル200C、仕切り板205C、永久磁石PMg12、及びバネ209Cは、筒状部材201内で同軸に配置されていなくともよい。
【0087】
コイル200Cは、その一方端(Fr)がストッパ203に固定され、一方端(Fr)と反対側の他方端(Bk)が仕切り板205Cに固定される。コイル200Cは、筒状部材201内で伸縮自在に設けられる。仕切り板205Cは、筒状部材201内でX方向に摺動可能に設けられる。
仕切り板205CがX(-)方向に摺動、移動、若しくは変位する場合、コイル200Cの中間部(Mid)が収縮し、コイルの両端間(Fr-Bk間)の長さである「len」は減少する。仕切り板205Cが+X方向に摺動、移動、又は変位する場合、コイル200Cの中間部(Mid)が伸長し、長さlenは増大する。
【0088】
なお、筒状部材201には、側面にスリット208が設けられ、このスリットからは、コイル200Cの一方端(Fr)側の配線210、及び、他方端(Bk)側の配線211が引き出される。更に、円柱状である仕切り板205Cの外周には、突起207が設けられ、これがスリット208に嵌め合わされて周り止めとして機能する。なお、仕切り板205Cは、円柱形状以外の形状に形成されていてもよい。
【0089】
永久磁石PMg12は、仕切り板205Cの中心部に嵌め込まれて固定される。永久磁石PMg12のX(-)方向の極性は、S極であり、永久磁石PMg12の+方向の極性は、N極である。永久磁石PMg12は、内周部の極性がS極であり、外周部の極性がN極である永久磁石Mg11との間で引力を生ずる。永久磁石PMg12は、仕切り板205Cに固定されるため、永久磁石PMg12に与えられる永久磁石Mg11からの引力の大きさが変化すると、仕切り板205Cにかかる力も変化する。
【0090】
上述のとおり、ストッパ203の中心には孔202が設けられており、ストッパ203はリング状である。永久磁石PMg12は、フランジ112に配置された永久磁石Mg11からの磁力を受けて仕切り板205Cを前後に変位させる力を生じる。そのため、ストッパ203が孔202を有していると、永久磁石PMg12は、永久磁石Mg11からの磁力の影響を受けやすく、変位センサとしての感度が向上する。なお、磁力の調整が必要な場合は、ストッパ203は、円板状(孔があいていない形態)であってもよい。
【0091】
バネ209Cは、筒状部材201内において、仕切り板205Cを挟んでコイル200Cが配置された空間と反対側の空間に配置される。バネ209Cは、仕切り板205Cと、蓋204とに固定される。これらは、仕切り板205Cをその復元力によって摺動させる摺動機構として機能する。
一形態として、仕切り板205Cが基準状態から-X方向に変位すれば、摺動機構は、復元力によりこれをX(+)方向に戻そうとして引張応力を発生する。逆に、仕切り板205Cが基準状態からX(+)方向に変位すれば、摺動機構は、これを復元力によりこれを-X方向に戻そうとして圧縮応力を発生する。
また、コイル200Cは、交流電流が印加される電気的な素子である一方、弾性体としての性質も有しており、その長さlenに応じた復元力を生じ、仕切り板205Cに対し、これを変位させ得る力を与える。
【0092】
仕切り板205Cには、上述のとおり、(A)コイル200Cの復元力、(B)永久磁石Mg11から永久磁石PMg12が受ける引力、(C)バネ209Cの復元力(又は付勢力)等が働いている。
XY変位センサSc12の特徴点の1つとして、回転駆動軸106が基準位置で回転するとき(基準状態のとき)、仕切り板205Cにおいて、上記(A)~(C)を含む力のつり合いが実現する点が挙げられる。
典型的には、回転駆動軸106の回転中心がθ軸であるとき、仕切り板205Cにおいて、上記(A)~(C)を含む力の平衡状態(力学的平衡状態)が実現する。
【0093】
基準状態における力の釣合いは、コイル200Cのばね定数(材質、太さ、巻数、及び、直径)、コイル200Cの伸長・圧縮の具合、永久磁石Mg11・永久磁石PMg12の磁力、ストッパ203の形状(孔の有無)・材質・厚み、バネ209Cのばね定数等を調整することで容易に実現できる。基準状態における永久磁石Mg11とXY変位センサSc12の位置等に応じて上記各要素を適宜調整すればよい。
XY変位センサSc12の各部の材質は特に制限されず、ワーク保持装置2の他の部分(例えば、ベース105、及び、回転駆動軸106)と同様としてもよい。ベース105、及び、回転駆動軸106等の材質が同じだと、伝熱、及び/又は、振動特性等を揃えることができ、より高感度の測定ができる。
また、θ軸モータ107から発生する磁気による影響をより抑制できる観点では、筒状部材201は磁気シールド性の材質(例えば、強磁性体、パーマロイ等)であってもよい。また、熱による影響をより抑制できる観点では、低熱膨張性の材質を用いてもよい。
【0094】
前述した例に示すように、磁性体Mg同士の間隔や磁性体Mg等の材質を適切にすることで、熱による磁束への影響及び自己インダクタンスへの影響を無視できるほど小さくし、検出器Dcによる変位検出への影響を抑制することができる。
次に、上記の構成を有するXY変位センサSc12によって、X方向及びY方向の変位を検出する機序について説明する。
図13は、回転駆動軸106の変位、すなわち、永久磁石Mg11の変位と、XY変位センサSc12の応答との関係の説明するための模式図である。
図13(A)は、回転駆動軸106の回転軸が基準位置にある場合、すなわち回転駆動軸106が基準状態である場合のXY変位センサSc12の応答を示す模式図である。
【0095】
回転駆動軸106が基準状態である場合、永久磁石Mg11は、X方向(又はY方向)の位置(XY基準位置と称する場合もある)220にある。このとき、XY変位センサSc12の仕切り板205Cでは力学的平衡状態が実現されている。すなわち、(A)~(C)を含む力が釣合い、回転駆動軸106が回転しても、仕切り板205Cは摺動しない(その場で留まる)。このときのコイル200C長さを、初期値としてlen=1.2とする(説明上の値である)。
コイル200Cには、交流電流が印加される。回転駆動軸106が基準位置で回転しても、コイル200Cと永久磁石Mg11との距離は不変であり、コイル200Cを貫く磁束に変化はない。そのため、コイル200Cには、交流電源の周波数、及び、回路の各定数等に応じた所定の電圧が生ずる。
【0096】
図13(B)は、回転駆動軸106の回転軸が基準位置からX(+)方向に所定量変位した場合の変位センサSc12の応答を示す模式図である。
永久磁石Mg11は、回転駆動軸106の回転軸(θ軸6)の変位によって、XY基準位置220から、+X方向へと変位する。
永久磁石Mg11がXY基準位置220からXY変位センサSc12に接近したことにより、永久磁石PMg12が永久磁石Mg11から受ける引力が増大し、永久磁石PMg12には、-X方向へ変位する力が生ずる。すると、仕切り板205Cの力学的平衡状態が崩れ、仕切り板205Cは永久磁石Mg11に接近する-X方向に変位する。
【0097】
この変位により、コイル200Cが圧縮され、バネ209Cが伸長されるため、それぞれの復元力が変化する。そのため、一定程度、仕切り板205Cが変位すると、再び力の釣合いが実現し、仕切り板205Cの摺動は、ある位置で停止する。
この際のコイル200Cの長さをlen=1.0とする。すなわち、圧縮量は、Δlen=0.2となる。
なお、圧縮されたコイル200Cの長さは永久磁石Mg11の変位量、すなわち、回転駆動軸106の変位量に応じて定まる。この「1.0」の数値は説明のためのもので、圧縮されたコイル200Cの長さは、回転駆動軸106の変位量に応じて任意の値を取り得る。
【0098】
回転駆動軸106がこの位置で回転するとき、永久磁石Mg11と、永久磁石PMg12との距離は変化しない。すなわち、コイル200Cを貫く磁束は経時的に変化しない。
更に、永久磁石Mg11が接近した分、永久磁石PMg12も接近するため、両者の磁束を合成すると、結果として、コイル200Cを貫く磁束は、回転駆動軸106が基準状態である場合と比較して、その絶対量も略同一となる。すなわち、回転駆動軸106の変位によってコイル200Cを貫く磁束の変化が抑制される。これにより、誘導起電力がより小さく抑えられるため、XY変位センサSc1の精度が向上する(後段で詳述する)。
【0099】
図13(C)は、回転駆動軸106の回転軸(θ軸6)が基準位置から-X方向に所定量変位した場合のXY変位センサSc12の応答を示す模式図である。
永久磁石Mg11は、回転駆動軸106の回転軸の変位によって、XY基準位置220から、-X方向へと変位する。
永久磁石Mg11がXY基準位置220からX(-)方向に離隔したことにより、永久磁石Mg11はXY変位センサSc12から離れるため、永久磁石PMg12が受ける引力が減少し、永久磁石PMg12に生じていた、X(-)方向へ変位する力が減少する。すると、仕切り板205Cの力学的平衡状態が崩れ、バネ209Cによる復元力、及び、コイル200Cによる復元力によって、仕切り板205Cは、X(+)方向へと変位する。
【0100】
この変位により、コイル200Cが伸長され、バネ209Cは圧縮されるため、それぞれの復元力が変化する。そのため、一定程度、仕切り板205Cが変位すると、再び力の釣合いが実現し、仕切り板205Cの摺動は、ある位置で停止する。
この際のコイル200Cの長さをlen=1.5とする。すなわち、図13(A)の場合と比較した伸長量は、Δlen=0.5となる。
なお、伸長されたコイル200Cの長さは永久磁石Mg11の変位量、すなわち、回転駆動軸106の変位量に応じて定まる。この「1.5」の数値は説明のためのもので、伸長されたコイル200Cの長さは、回転駆動軸106の変位量に応じて任意の値を取り得る。
【0101】
回転駆動軸106がこの位置で回転するとき、永久磁石Mg11と、永久磁石PMg12との距離は変化しない。すなわち、コイル200Cを貫く磁束は経時的に変化しない。
更に、永久磁石Mg11が離隔した分、永久磁石PMg12も離隔するため、両者の磁束を合成すると、結果として、コイル200Cを貫く磁束は、基準状態と比較して、その絶対量も略同一となる。
【0102】
また、XY変位センサSc12の検知法は、電磁誘導を利用したものであるため、透磁率が水、油、又は空気等であまり変化しないため、周囲の環境が変化しても安定して検知することができる。つまり、XY変位センサSc12の検知法は、耐環境性を有する。
【0103】
上述のとおり、XY変位センサSc12では、回転駆動軸106が変位すると、コイル200Cの長さが変化する。コイル200Cには交流電流が印加されており、このときに起こるコイル200Cの電圧波形の変化について説明する。
まず、交流電流が印加された一般的なコイルの電圧波形について説明する。
図14は、交流電流が印加された抵抗(R)-コイル(L)直列回路の説明図である。回路250は、抵抗252とコイル253とが直列に配置され、交流電源251によって交流電流254が印加された回路である。この回路250は、変位センサ116Cの等価回路である。
【0104】
交流電流の角周波数をωとすると、交流電源251は図中に記載された式(1)で表される。式(1)において、Aは定数、tは時間を表す。
抵抗252の抵抗値をR、コイル253の自己インダクタンスをLとすると、交流電流254は、式(2)で表される。このとき、φは式(3)で表される。
結局、コイル253にかかる電圧Vは、式(4)で表され、A、R、及び、ωは回路に固有の定数、又は、固定できる定数であることから、電圧Vは、Lの関数となる。
【0105】
コイル253の自己インダクタンスLは、透磁率、コイルの巻き数、断面積、及び、長さ等により決まるが、同一のコイルを基準とすると、長さの関数といえる。
上記のとおりであるから、交流電流が印加されたコイル200Cの長さが変化すると、コイル200Cの自己インダクタンスLが変化し、その変化は、電圧変化、典型的には、時間-電圧波形(以下単に、電圧波形ともいう。)の振幅の変化として検知できる。
すでに説明したとおり、コイル200Cに永久磁石Mg11が接近し、又は、離隔した場合、永久磁石PMg12がそれに応じて接近し、又は、離隔するため、結果として、コイル200Cを貫く磁束は、回転駆動軸106の位置によらず略同一となる。
【0106】
このため、XY変位センサSc12では、コイル内の磁束の変化により生ずる誘導起電力が小さく抑制されおり、コイル200Cの電圧波形の変化は、略自己インダクタンスの変化に帰結できる。すなわち、コイル200Cの電圧波形の変化は、回転駆動軸106の変位を表す。
図15は、回転駆動軸106の変位に伴うコイルの電圧波形の変化の説明図である。
【0107】
図15(A)は、基準状態におけるXY変位センサSc12の状態と、コイル200Cの電圧波形を示す説明図である。
永久磁石Mg11がXY基準位置220にあるとき、コイル200Cの長さはすでに説明したとおりlen=1.2(説明のための数値)となる。
この際、コイル200Cにかかる電圧波形は、左図のとおりである。なお、図中、横軸は時間、縦軸は、電圧を表している。
電圧波形240は、角周波数ωに応じた位相の波形となっており、その振幅は1.0となっている。
【0108】
次に、図15(B)は、回転駆動軸106の回転軸(θ軸6)が基準位置から、X(+)方向に変位した場合、すなわち、永久磁石Mg11がXY基準位置220よりもX(+)方向にある場合のXY変位センサSc12の状態と、コイル200Cの電圧波形を示す説明図である。
このとき、コイル200Cは圧縮され、長さlen=1.0となり、Δlen=-0.2となる(本図では、便宜的に、圧縮を表す符号「-」を含めてΔlenを表記する)。
【0109】
この際、コイル200Cにかかる電圧波形は左図のとおりである。電圧波形241は、基準電圧波形(基準状態での電圧波形)、すなわち、電圧波形240と比較すると、同位相ながら、振幅が1.2倍となる。ここで、コイル200Cの自己インダクタンスLは、以下の式、
【数1】
で表される。上記式において、μはコイルの芯の透磁率、Nはコイルの巻き数、Sはコイルの断面積、及び、lenはコイルの長さを表す。また、コイル200Cにかかる電圧は、図14の式(4)すなわちV=ωLIで表されるため、基準状態における電圧をVとし、変位後の電圧をV′とすると、これらの関係は、以下の式、
【0110】
【数2】
【0111】
で表される。上記式において、L′、Lは、それぞれの場合におけるコイル200Cの自己インダクタンスを表す。すでに説明したとおり、コイル200Cの自己インダクタンスの計算式において、コイル200Cの長さ以外の変数は、コイル200Cに固有の定数とみなせるため、自己インダクタンスL′、及び、Lの関係は、以下の式、
【0112】
【数3】
【0113】
で表される。なお、このときΔlenは、圧縮の場合は「-」符号、伸長の場合は「+」符号とする。そうすると、図15(B)における、電圧波形241と、電圧波形240との関係(V′/V)は、以下の式で表される自己インダクタンスの関係から説明できる。
【0114】
【数4】
【0115】
すなわち、永久磁石Mg11の変位は、電圧波形(特に振幅)と基準電圧波形との差により検知できる。
図15(C)は、回転駆動軸106が基準位置から、X(-)方向に変位した場合、すなわち、永久磁石Mg11がXY基準位置220よりもX(-)方向にある場合の、XY変位センサSc12の状態と、コイル200Cの電圧波形を示す説明図である。
【0116】
すでに説明したとおり、このとき、コイル200Cは伸長され、長さlen=1.5となり、Δlen=+0.3となる(本図では、便宜的に伸長を表す符号「+」を含めてΔlenを表記する)。
この際、コイル200Cにかかる電圧波形は左図のとおりである。電圧波形242は、基準電圧波形である電圧波形240と比較すると、同位相ながら、振幅が0.8倍となる。
このとき、電圧波形242(V″)と、電圧波形240(V)との関係(V″/V)は、以下の式で表される自己インダクタンスの関係から説明できる。
【0117】
【数5】
【0118】
このように、基準電圧波形(V)と、変位後のコイル200Cの電圧(V′、V″)波形を比較することにより、回転駆動軸106の変位の有無、及び/又は、方向を検知できる。
更に、自己インダクタンスと、電圧との関係を利用して、変位量を計算することもできる。
【0119】
図16は変位量の計算方法を示す説明図である。
図16(A)は、基準電圧波形である。
このとき、電圧Vは、図中の式(5)により表され、電圧Vは、自己インダクタンスLに比例し(式(6))、Lは、式(7)により表される。コイル200Cの長さlenは、コイル200Cの長さの初期値(基準状態におけるコイル200Cの長さ)であり、予め測定し、記憶することができる定数である。
【0120】
図16(B)は、回転軸がX(+)方向に変位した場合のコイル200Cの電圧波形を表す図である。
このとき、自己インダクタンスL′とLとの関係は、式(8)で表され、かつ、L′は、式(9)により計算される。なお、この際のΔlenは、伸縮量の絶対値を表す。
すると、伸縮量Δlenと、コイル200Cの長さの初期値との関係は、式(10)で表され、これにより、仕切り板205Cの変位量(及びその方向)を定量できる。
仕切り板205Cの変位量と、回転駆動軸106の変位量との関係についての相関(例えば、検量線)を予め得ておけば、V′の測定値から仕切り板205Cの変位量を計算し、この変位量から、回転駆動軸106の変位量を計算できる。
【0121】
図16(C)は、回転軸がX(-)方向に変位した場合のコイル200Cの電圧波形を表す図である。
このとき、自己インダクタンスL″とLとの関係は、式(11)で表され、かつ、L″は、式(12)により計算される。なお、この際のΔlenは、伸縮量の絶対値を表す。
すると、伸縮量Δlenと、コイル200Cの長さの初期値との関係は、式(13)で表され、これにより、仕切り板205Cの変位量(及びその方向)を定量できる。
【0122】
以上、XY変位センサSc12について説明したが、以上は、XY変位センサSc11についても同様であり、更に複数設置されるXY変位センサSc1についても同様である。ワーク保持装置2が有するXY変位センサSc1は、いずれも同一の構造であり、実質的に同一であることが好ましい。「同一の構造」には、コイルの材質、断面積、巻き数、及び、初期長さ等のコイルの特性も含まれる。なお、ワーク保持装置2が有するXY変位センサSc1は、異なる構造であってもよい。
【0123】
図17は、Z(+)方向からXY変位検出器Dc1を観た場合の永久磁石Mg11に対向する複数のXY変位センサSc1の配置を示す平面断面図である。
XY変位検出器Dc1は、永久磁石Mg11と、センサSc11、Sc12、Sc13、及びSc14とを有する。なお、永久磁石Mg11及びセンサSc11と、永久磁石Mg11及びセンサSc12と、永久磁石Mg11及びセンサSc13と、永久磁石Mg11及びセンサSc14との組み合わせをそれぞれXY変位検出器Dc1と称してもよい。
【0124】
永久磁石Mg11は、Z(+)方向から観た場合に、リング状(ドーナツ状)である。回転駆動軸106が基準位置で回転する場合、永久磁石Mgがリング状である方がXY変位センサSc1により得られる電圧波形が簡易なものとなるため、変位の量、及び変位の方向等(以下、「変位量等」と称する場合もある)の計算処理が容易となる点で好ましい。
【0125】
永久磁石Mg11の外周部の極性は、全周囲に亘って同一極性である。言い換えると、永久磁石Mg11の内周部の極性は、全周囲に亘って同一極性である。なお、永久磁石Mg11の外周部の極性は、全周囲に亘って同一極性でなくともよい。例えば、永久磁石Mg11の外周部は、所定の間隔を置いて配置された同一極性の複数の永久磁石で構成されていてもよい。言い換えると、永久磁石Mg11の内周部の極性は、全周囲に亘って同一極性でなくてもよい。永久磁石Mg11の内周部は、所定の間隔を置いて配置された同一極性の複数の永久磁石で構成されていてもよい。
【0126】
永久磁石Mg11の外周部の極性は、全周囲に亘ってN極であり、永久磁石Mg11の内周部の極性は、全周囲に亘ってS極である。なお、XY変位センサSc1との間で力学的平衡状態を実現できれば、永久磁石Mg11の極性は、図17に示した例と逆であってもよい。つまり、永久磁石Mg11の外周部の極性は、全周囲に亘ってS極であり、永久磁石Mg11の内周部の極性は、全周囲に亘ってN極であってもよい。
【0127】
XY変位センサSc11、Sc12、Sc13、及びSc14は、永久磁石Mg11を囲うように配置されている。図17に示した例では、XY変位センサSc11、Sc13、Sc12、及びSc14は、記載の順番で、基準軸を中心として時計周りに角度90度毎に配置されている。XY変位センサSc11及びSc12は、X方向において基準軸に対して対称に配置されている。XY変位センサSc13及びSc14は、Y方向において基準軸に対して対称に配置されている。
【0128】
回転駆動軸106が基準状態である場合、XY変位センサSc11、Sc12、Sc13、及びSc14と、永久磁石Mg11とのそれぞれの距離は、同じである。なお、回転駆動軸106が基準状態である場合、XY変位センサSc11、Sc12、Sc13、及びSc14と、永久磁石Mg11とのそれぞれの距離は、異なっていてもよい。
【0129】
各XY変位センサSc11、Sc13、Sc12、及びSc14がそれぞれ有する永久磁石PMg11、PMg13、PMg12、及びPMg14の磁極は、永久磁石Mg11の外周部の磁極に対して引力が働くように配置される。すなわち、永久磁石Mg11の外周部の磁極がN極であるため、永久磁石PMg11、PMg13、PMg12、及びPMg14の内周部の磁極は、それぞれ、S極となるよう配置される。
【0130】
これにより、いずれのXY変位センサSc11、Sc13、Sc12、及びSc14の仕切り板に対しても、永久磁石Mg11から引力が働く。
なお、コイル200A、200B、200C、及び、200Dの巻き数、直径、及び、材質等のコイルの特性はいずれも同一が好ましい。
また、コイル200A、200B、200C、及び、200Dの直径DX(-)、DY(+)、DX(+)、及び、DY(-)は、永久磁石Mg11のZ軸方向の幅(高さ)と比較したとき、より大きいことが好ましい。このように構成することで、永久磁石Mg11が熱により膨張、又は、収縮した場合でも、各コイルを貫く磁束がより変化しにくい。
【0131】
磁束密度=磁束/面積で定義されるところ、例えば、温度変化により永久磁石Mgが膨張すると、面積が増大する分、磁束密度が減少することがある。このような場合でも、コイルの直径をより大きくしておくと、コイルを貫く磁束自体の変化は抑制できる。磁束の変化により誘導起電力が生じて変位センサの精度が低下することを抑制できる。
本実施形態では、永久磁石Mg11の外周に沿ってXY変位センサSc1が4つ配置されており、X軸、Y軸のそれぞれでは、XY変位センサSc1が永久磁石Mg11を挟んで対向している。そのため、対向するXY変位センサSc1の信号を合成することで、増幅し、より感度を向上できる。
なお、本実施形態のワーク保持装置2が有するXY変位センサSc1の数は4個に限定されず、1個以上が好ましく、2個以上がより好ましく、3個以上が更に好ましい。
【0132】
XY変位センサSc1が3個以上であると、回転駆動軸106のXY平面内の変位方向をより正確に検知しやすい。このときのXY変位センサSc1の位置は特に限定されないが、永久磁石Mg11の外周に沿ってN個のXY変位センサSc1を配置する場合、N個のXY変位センサSc1は、基準軸を中心とする円周方向で角度360/N度毎に配置されることが好ましい。
【0133】
次に、Z方向の変位検出について説明する。
図18は、永久磁石Mg21及びMg22とZ変位センサSc21及びSc22との位置関係を示す模式図である。
永久磁石Mg21及びMg22は、フランジ113の外周部に配置される。永久磁石Mg21は、永久磁石Mg21のZ(+)方向の極性が、S極であり、永久磁石Mg21の-Z方向の極性が、N極であるように配置される。永久磁石Mg22は、永久磁石Mg22の+Z方向の極性が、S極であり、永久磁石Mg22の-Z方向の極性が、N極であるように配置される。
【0134】
図18では、回転駆動軸106が基準状態である場合、フランジ113(すなわち回転駆動軸106)は、Z方向の位置(以下、Z基準位置と称する場合もある)320にある。
Z変位センサSc21及びSc22は、それぞれ、すでに説明したXY変位センサSc12と実質的に同一の変位センサである。
Z変位センサSc21及びSc22は、それぞれ、筒状部材301及び311と、ストッパ303及び313と、コイル300A及び310Aと、永久磁石PMg21及びPMg22と、バネ(付勢部材)309A及び319Aとを有する。
筒状部材301及び311は、それぞれ、交流電流が印加されたコイル300A及び310Aと、永久磁石PMg21及びPMg22と、バネ309A及び319Aとを内部に収容する。
【0135】
筒状部材301の-Z方向の端部の開口には、ストッパ303が固定(又は嵌合)される。ストッパ303は、中心部に孔が形成されている。筒状部材301の+Z方向の端部の開口(ストッパ303が固定された端部と反対側の端部の開口)には、蓋304が固定される。
筒状部材311のZ(+)方向の端部の開口には、ストッパ313が固定(又は嵌合)される。ストッパ313は、中心部に孔が形成されている。筒状部材311の-Z方向の端部の開口(ストッパ313が固定された端部と反対側の端部の開口)には、蓋314が固定される。
【0136】
ストッパ303及び313と、コイル300A及び310Aと、永久磁石PMg21及びPMg22と、バネ309A及び319Aとは、それぞれ、筒状部材301及び311内で同軸上に配置される。なお、ストッパ303及び313と、コイル300A及び310Aと、永久磁石PMg21及びPMg22と、バネ309A及び319Aとは、それぞれ、筒状部材301及び311内で同軸上に配置されていなくてもよい。
【0137】
コイル300A及び310Aの一方端は、それぞれ、ストッパ303及び313に固定され、一方端と反対側の他方端は、それぞれ、仕切り板305A及び315Aに固定される。コイル300A及び310Aは、それぞれ、筒状部材301及び311内で伸縮自在に設けられている。仕切り板305A及び315Aは、それぞれ、筒状部材301及び311内でZ方向に摺動可能に設けられる。
なお、筒状部材301及び311には、側面にスリットが設けられ、このスリットからは、コイル300A及び310Aの一方端側の配線、及び、他方端側の配線が引き出される。更に、円柱状である仕切り板305A及び315Aの外周には、突起が設けられ、これがスリットに嵌め合わされて周り止めとして機能する。なお、仕切り板305A及び315Aは、円柱形状以外の形状に形成されていてもよい。
【0138】
永久磁石PMg21及びPMg22は、それぞれ、仕切り板305A及び315Aの中心部に嵌め込まれて固定される。
永久磁石PMg21は、Z(-)方向の極性がN極であり、+Z方向の極性がS極である永久磁石Mg21との間で引力を生じる。永久磁石PMg21は、仕切り板305Aに固定されるため、永久磁石PMg21に与えられる永久磁石Mg21からの引力の大きさが変化すると、仕切り板305Aにかかる力も変化する。
【0139】
永久磁石PMg22は、Z(+)方向の極性がN極であり、Z(-)方向の極性がS極である永久磁石Mg22との間で引力を生じる。永久磁石PMg22は、仕切り板315Aに固定されるため、永久磁石PMg22に与えられる永久磁石Mg22からの引力の大きさが変化すると、仕切り板315Aにかかる力も変化する。
バネ309A及び319Aは、それぞれ、筒状部材301及び311内において、仕切り板305A及び315A内を挟んでコイル300A及び310Aが配置された空間と反対側の空間に配置される。バネ309A及び319Aは、それぞれ、仕切り板305A及び315Aと、蓋304及び314とに固定される。これらは、仕切り板305A及び315Aをその復元力によって摺動させる摺動機構として機能する。なお、重力による影響を考慮して、Z変位センサSc21及びSc22のバネ309A及び319Aの強度は、XY変位センサSc12のバネ209Cの強度よりも高くしてもよい。
【0140】
フランジ113(すなわち、回転駆動軸106)がZ基準位置320にあるとき、仕切り板305A(315A)にそれぞれかかる以下の(A)~(C)を含む力の釣合いが実現する。
(A)コイル300A(310A)の復元力、
(B)永久磁石Mg21(Mg22)から、永久磁石PMg21(Pmg22)が受ける引力、
(C)摺動機構であるバネ309A(319A)の復元力
そのため、回転駆動軸106が回転しても、仕切り板305A(315A)は静止する。
【0141】
なお、XY変位センサSc12と異なり、Z変位センサSc21及びSc22では、仕切り板305A、及び、仕切り板315Aにそれぞれ生ずる重力によって、コイル300Aは圧縮され、コイル310Aは伸長される。そのため、Z変位センサSc21、及び、Z変位センサSc22に同一のセンサを用いると、第2のフランジがZ基準位置320にあるときのコイル300A、及び、コイル310Aの長さに差が生ずる。
上記差は、Z基準位置320における各コイルの自己インダクタンスの初期値の差として現れる。
【0142】
すでに説明したとおり、回転駆動軸106の変位は、この初期値と、測定値との差として計算される。したがって、上記のようにZ方向に永久磁石Mg21、及びMg22を挟んで対向する上下のZ変位センサSc21及びSc22の自己インダクタンスの初期値に差があったとしても、結局はキャンセルされ、測定値には実質的な差は生じない。
しかしながら、変位量等の計算をより容易にできる観点では、Z基準位置320において、コイル300Aの長さと、コイル310Aの長さとが同一となるように調整されることが好ましい。
【0143】
この調整は、典型的には、バネ309A、及び、バネ319Aのばね定数を調整したり、仕切り板305A、315Aの重さを調整したりすることによって容易に実施できる。
コイル300A、及び、310Aのばね定数によっても調整は行えるが、それにより自己インダクタンスに変化が生ずる可能性があるため、上述のように、バネ309A、及び、バネ319A(摺動機構)の復元力の強さを調整することが好ましい。
【0144】
図19は、フランジ113(回転駆動軸106)の変位による、Z変位センサSc21及びSc22の状態の変化の説明図である。
具体的には、フランジ113(回転駆動軸106)が、Z基準位置320と比較して、Z(+)方向に変位した場合を表す。
Z変位センサSc21では、永久磁石Mg21からの引力が増加して、仕切り板305Aにおける力の釣合いが崩れ、仕切り板305Aは-Z方向に変位する。その後、バネ309Aの復元力、コイル300Aの復元力が増大し、仕切り板305Aが-Z方向に一定程度変位した状態で、再び平衡状態が実現される。
これによって、コイル300Aは圧縮された状態となり、その長さlen_upは、基準状態と比較して、Δlen_up(-)だけ減少する。
【0145】
一方、Z変位センサSc22では、永久磁石Mg21からの引力は減少する。これにより仕切り板315Aにおける力の釣合いが崩れ、コイル310Aの復元力、及び、バネ319Aの復元力により、仕切り板315Aは、-Z方向に変位し、結果として、コイル310Aは伸長する。コイル310Aの長さlen_dnは、基準状態と比較して、Δlen_dn(+)だけ増加する。
【0146】
このように各コイルの長さが変化すると、それに応じてコイル300A(310Aの自己インダクタンスが変化し、それぞれのコイルの電圧波形も変化する。
図19(B)は、コイル300Aの電圧波形(電圧-時間波形)、図19(C)は、コイル310Aの電圧波形を表す図(模式図)である。
図19(B)では、基準状態における電圧波形340と比較して、電圧波形341は、同位相であるものの、振幅がより大きい。これは、コイル300Aが圧縮されたことによって自己インダクタンスが増加したことに起因する。
【0147】
一方、図19(C)では、基準状態における電圧波形340と比較して、電圧波形342は、同位相であるものの、振幅がより小さい。これは、コイル310Aが伸長され自己インダクタンスが減少したことに起因する。
図19(B)と、図19(C)の各電流波形は逆位相である。各コイルにおける電圧波形の位相は、印加する交流電流の極性、及び/又は、コイルの巻き方向等を適宜調整することによって容易に調整できる。
以下では、永久磁石Mg21、及びMg22を挟んで対向する変位センサSc21、及びSc22におけるコイル300A、及び310Aの電圧波形の位相を逆転させることの効果について説明する。
【0148】
図20は、フランジ113(回転駆動軸106)が、Z(+)方向に変位する場合のZ変位センサSc21、及び、Z変位センサSc22のコイル300A、及び、310Aにかかる電圧波形の説明図である。
このうち、図20(A)は、Z変位センサSc21のコイル300Aにかかる電圧波形を表す図である。横軸は時間、縦軸は電圧を表している。
【0149】
図20(A)において、電圧波形350は、フランジ113(回転駆動軸106)がZ基準位置320にある場合の電圧波形を表す。これに対し、電圧波形351は、フランジ113(回転駆動軸106)がZ基準位置320から+Z方向に変位した場合の電圧波形を表す。フランジ113が+Z方向へ変位すると、コイル300Aが圧縮され、自己インダクタンスLが増加するため、電圧波形の振幅が増大する。
【0150】
次に、電圧波形352は、温度が変化する場合の電圧波形を表す。電圧波形は、Z変位センサSc21の温度上昇により変化することがある。本実施例におけるコイル300Aは空芯コイルであり、温度変化に伴う透磁率μの変化は小さいものの、温度変化によりコイル300Aの熱膨張(収縮)によって各定数が変化した結果、自己インダクタンスLが変化する場合がある。また、温度変化によって抵抗値等も変化する。このような種々の要因により、温度変化に起因して、電圧波形351が、電圧波形352のようにシフトすることがある。
【0151】
自己インダクタンスの式には、S(面積)とl(コイル長)が含まれているので、原則として、温度が変化し部材形状が変化(膨張/収縮)すれば、自己インダクタンスは変化することがある。しかし、その度合いは、S/lの効果であり、一般的な条件下では、無視できることが多い。
本発明のワーク保持装置は、加工力による変位をインダクタンスの変化でとらえることを計測原理としている。そのため、上記のように、波形自体がシフトするのは、回路の抵抗成分が温度により変化することをとおして電圧の変動がある場合ということができる。
【0152】
次に、図20(B)は、Z変位センサSc22のコイル310Aにかかる電圧波形を表す図である。こちらも横軸は時間、縦軸は電圧を表す。
図20(B)において、電圧波形360は、フランジ113(回転駆動軸106)がZ基準位置320にある場合の電圧波形を表す。これに対し、電圧波形361は、フランジ113(回転駆動軸106)がZ基準位置320から+Z方向に変位する場合の電圧波形を表す。フランジ113が+Z方向へ変位すると、コイル310Aが伸長され、自己インダクタンスLが減少するために、電圧波形の振幅が増大する。
【0153】
電圧波形362は、温度が上昇した場合の電圧波形を表す。Z変位センサSc22がZ変位センサSc21と同一のセンサである場合、その温度変化への感度は同様であり、結果として電圧波形361と比較すると、電圧波形362は全体が縦軸+方向にシフトする。
【0154】
図20(C)は電圧波形351と電圧波形361との差分である電圧波形371を表す図である。電圧波形351と電圧波形361とが逆位相であることにより、その差分である電圧波形371は、電圧波形351、及び、電圧波形361の単独の波形と比較して、振幅が増大する。
すなわち、電圧波形を逆位相とすることにより、変位を検出するための信号をより大きくできる。言い換えれば、ダイナミックレンジをより広くすることができ、感度が向上する。
【0155】
図20(D)は、温度変化によるドリフト後の電圧波形352と電圧波形362との差分による出力波形である電圧波形372を表す図である。電圧波形352と電圧波形362とが逆位相とされているため、その差分をとると、温度上昇によるドリフト分がキャンセルされ、結果として得られた電圧波形372は、図20(C)の電圧波形371と同一となる。
【0156】
このように、永久磁石Mg21及びMg22を挟んで対向する2つのZ変位センサSc21及びSc22のコイルにかかる電圧波形を逆位相とすることで、Z変位センサSc21及びSc22の感度をより向上し、かつ、温度によるドリフトの影響をより小さくできる。この効果は、XY変位センサSc1においても同様である。
以上、Z変位センサSc21、及びSc22の構成について説明したが、上記の構成は、ワーク保持装置2が有する他のZ変位センサSc2についても同様である。
【0157】
また、2つの永久磁石Mg2を挟んで対向する2つのZ変位センサSc2が必要であるように記載したが、1つの永久磁石Mg2に対向する少なくとも1つのZ変位センサSc2が配置されていればよい。
図21は、Z(+)方向から観た永久磁石Mg21及びZ変位センサSc2のコイル300A~300Dの配置の一例を示す模式図である。
図21には、Z変位センサSc21、Sc25、Sc23、及びSc27を示している。
【0158】
Z変位センサSc21は、コイル300Aを有し、Z変位センサSc23は、コイル300Cを有し、Z変位センサSc25は、コイル300Bを有し、Z変位センサSc27は、コイル300Dを有する。図21には、説明の便宜上、Z変位センサSc21、Sc25、Sc23、及びSc27について、コイル300A、300B、300C、及び300Dのみを示しているが、実際には、それぞれ、図11に示したZ変位センサSc2の構成を有する。
コイル300A、300B、300C、及び、300Dの巻き数、直径、及び、材質等のコイルの特性はいずれも同一であることが好ましい。
また、コイル300A、300B、300C、及び、300Dの直径DZ(+)は、永久磁石Mg21のZ方向の幅と比較したとき、より大きいことが好ましい。
【0159】
このように構成することで、永久磁石Mg21が熱により膨張、又は、収縮した場合でも、各コイルを貫く磁束がより変化しにくい。磁束が変化しにくいことは、温度変化によって誘導起電力が生ずるのをより抑制できることを意味し、結果として、Z変位センサSc2の精度がより向上する。
以上は、永久磁石Mg21の外周、+Z方向側のZセンサであるが、永久磁石Mg22の外周、-Z方向側にも同様に実質的に同一のZ変位センサSc2が配置されている。各Z変位センサSc2は、永久磁石Mg21、Mg22を挟んで対向して配置されている。
Z変位センサSc2がこのように配置されることで、各Z変位センサSc2の出力値の差から、チャックテーブル104(θ軸6)のチルト方向、チルト角を計算することもできる。
【0160】
図22(A)は、回転駆動軸106のθ軸6周りのトルク検知のためのトルク検出器Dc3の構成例を模式的示す平面図である。また、図22(B)は、その部分拡大図である。
トルク検出器Dc3は、永久磁石Mg31と、θセンサSc31及びSc32とを有する。
永久磁石Mg31の外周部は、異なる磁極(S極及びN極)が円周方向に交互に配置されるように構成されている。つまり、永久磁石Mg31の内周部も、異なる磁極(S極及びN極)が円周方向に交互に配置されるように構成されている。
θセンサSc31及びSc32は、XY平面において、互いに基準軸を挟んで対向している。なお、θセンサSc31及びSc32は、XY平面において、互いに基準軸を挟んで対向していなくてもよい。
θセンサSc31は、コイル400Aと、電圧変化検出装置401Aとを有する。θセンサSc32は、コイル400Cと、電圧変化検出装置401Cとを有する。
【0161】
電圧変化検出装置401Aは、コイル400Aの電圧変化を検出する。電圧変化検出装置401Cは、コイル400Cの電圧変化を検出する。
回転駆動軸106が制止している場合、コイル400Cを貫く磁束をΦとすると、ΔΦ/Δtがゼロ(0)となるため、電圧変化検出装置401Cにおいて検出される電圧は0である。
【0162】
一方、空回転のように、回転駆動軸106に負荷がかからず、θ軸6を中心に(基準状態で)回転するときには、コイル400C付近の永久磁石Mg31の磁性は規則的に変化し、コイル400Cを貫く磁束も規則的に変化する(周波数f0)。このとき、電圧変化検出装置401Cは、コイル400Cを貫く磁束の変化による誘導起電力を検出する。この誘導起電力は、周波数f0に応じて規則的に変化する。
【0163】
研削加工等により、ワークに対してθ軸周りに負荷が加わると、回転速度が変化することがある。このとき、誘導起電力(-N×ΔΦ/Δt)、及び、誘導起電力の周期(周波数f1)は、空回転のときと比較すると、回転速度の変化に応じて、変化する。なお、Nはコイルの巻き数である。
θ軸周りに負荷が加わると、θ軸モータ107の出力値(電流値、及び、負荷率等、すなわち消費電力)も変化する。上記誘導起電力の周波数f1と、θ軸モータの出力値から、トルク、及び、周方向の力を計算することができる。
θセンサSc3におけるコイル400A、400Cの巻き数Nは等しいことが好ましい。また、コイルの巻き方向を反対にすると、信号が逆位相となり、差分を取ることで、XYセンサ、Zセンサと同様に温度補償できる。
【0164】
また、コイルの直径D(+)、及び、D(-)は、磁極の間隔WDより大きいことが好ましい。このようにすることで、温度変化により永久磁石Mg31が膨張/収縮した場合でも、より正確に測定できる。
なお、本実施例では、回転駆動軸106の回転速度を上記θセンサSc3により検知することとしているが、上記θセンサSc3に代えて、又は、上記θセンサSc3とともに、一般的なロータリーエンコーダを用いて、回転速度を計算する形態であってもよい。
【0165】
回転駆動軸106のトルクをθ軸モータ107の出力値(電流値及び負荷率等(消費電力))とロータリーエンコーダ(図示せず)により検知した回転速度とによりトルク等を検出する場合、トルク検出器Dc3は、回転駆動軸106に設けられていなくともよい。
以上、XYセンサSc1、ZセンサSc2、及び、θセンサSc3による変位量等の評価方法について説明したが、上記のセンサの測定結果から他の値を計算することもできる。
【0166】
以上、検出器25を備えるスピンドルユニット1、及び、検出器26を備えるワーク保持装置2の具体例について詳述したが、状態データを測定することができれば、スピンドルユニット1、又は、ワーク保持装置2のいずれか一方が検出器を有していて、他方は有していなくてもよい。
【0167】
また、検出器25と検出器26とに含まれる個々の検出器は、いずれも同様のものであってもよいし、異なるものであってもよい。例えば、検出器25が、変位センサ(応力センサ)、ひずみセンサ、回転速度センサ、及び、温度センサを含み、検出器26が、回転速度センサのみを有する形態であってもよい。一方で、検出器25、及び、検出器26に同じ検出器が含まれる(例えば、変位センサと変位センサ)場合、両者の測定値を比較して、測定不具合を検知したり、状態データの取得に、測定データの平均値を使用したりできる点で好ましい。
【0168】
再度、図4のハードウェア構成図に戻り、スピンドルユニット1、ワーク保持装置2、及び、位置決め機構10以外のハードウェアについて説明する。
【0169】
制御装置20は、プロセッサ21と、記憶デバイス22と、図示しない表示デバイス、及び、入力デバイスを接続するための入出力インタフェース(I/F)23とを有し、スピンドルユニット1、ワーク保持装置2、及び、位置決め機構10とは、相互にデータを送受信できるよう有線、又は、無線で接続されている。
【0170】
プロセッサ21は、例えば、マイクロプロセッサ、プロセッサコア、マルチプロセッサ、ASIC(application-specific integrated circuit)、FPGA(field programmable gate array)、及び、GPGPU(General-purpose computing on graphics processing units)等である。
【0171】
記憶デバイス22は、各種プログラム、及び、データを一時的に、及び/又は、非一時的に記憶する機能を有し、プロセッサ21の作業エリアを提供する。
記憶デバイス22は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ、及び、SSD(Solid State Drive)等である。
【0172】
入出力インタフェース(I/F)23に接続される入力デバイスは、各種情報入力を受け付け、また、加工装置100への指示の入力を受け付ける。入力デバイスは、キーボード、マウス、スキャナ、及び、タッチパネル等でよい。
【0173】
また、入出力I/F23に接続される表示デバイスは、加工装置100のステータス、加工条件、及び、処理済みワークの残留応力分布等を表示できる。表示デバイスは、液晶ディスプレイ、及び、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等でよい。
また、表示デバイスは、入力デバイスと一体として構成されていてもよい。この場合、表示デバイスがタッチパネルディスプレイであって、GUI(Graphical User Interface)を提供する形態が挙げられる。
【0174】
データバスにより相互にデータを通信可能なプロセッサ21、記憶デバイス22、入出力I/F23を備える制御装置20は、典型的にはコンピュータである。
【0175】
次に、加工装置100の機能について詳述する。図23は、加工装置100の機能ブロック図である。加工装置100は、測定部60、状態データ取得部61、結晶方位計算部62、予測部63、比較部64、候補作成部65、条件計算部66、及び、加工部67を有する。
【0176】
測定部60は、ハードウェアとして検出器25、及び、検出器26を含み、制御装置20の記憶デバイス22に記憶されたプログラムをプロセッサ21が実行し、上記各ハードウェアを制御することで実現される機能である。
測定部60は、検出器25、及び/又は、検出器26を制御して得た測定値を状態データ取得部61に渡す。
【0177】
状態データ取得部61は、制御装置20の記憶デバイス22に記憶されたプログラムをプロセッサ21が実行して実現される機能である。
状態データ取得部61は、測定部60から渡される測定値をもとに、加工力、加工速度、切り込み深さ、及び、温度を取得する。
検出器25、及び/又は、検出器26の測定値は、そのまま状態データである場合と、状態データの取得のために、何らかの計算が必要な場合とがある。計算が必要な場合、記憶デバイス22に予め定められた関係式等を用いて、状態データを取得する。
状態データ取得部61により取得された加工力、加工速度、切り込み深さ、及び、温度は予測部63に渡される。
【0178】
結晶方位計算部62は、制御装置20の記憶デバイス22に記憶されたプログラムをプロセッサ21が実行して実現される機能である。
結晶方位計算部62は、入出力I/F23を介して、外部70から取得され、予め記憶デバイス22に記憶された結晶方位分布情報と、ワークWの回転状態(回転角度、及び、時間等)をもとに、加工点8におけるワークWの結晶方位を取得する。
【0179】
具体的には、結晶方位計算部62は、オリフラ、及び/又は、ノッチの当初配置、結晶方位分布、並びに、回転状態から、ある時点の加工点8における結晶方位を計算できる。結晶方位計算部62により計算された加工点8における結晶方位は、予測部63に渡される。
【0180】
状態データ取得部61にて取得された加工力、加工速度、切り込み深さ、及び、温度と、結晶方位計算部62にて取得された結晶方位とは、互いに関連付けて整理される。すなわち、ある時点における加工点8における結晶方位と、その際の加工力、加工速度、切り込み深さ、及び、温度とが対応するように記憶され、予測部63にて使用される。
【0181】
なお、加工装置100は、結晶方位計算部62を有しているが、本発明の加工装置は結晶方位計算部62を有していなくてもよい。この場合、測定部60がX線回折測定器等の結晶方位を直接測定可能な機器を含む。X線回折測定器を含む測定部60は、加工点8におけるワークWの結晶方位を測定し、その値は回転状態により、ワークWの座標位置と関連付けられるとともに、他の状態データとも関連付けられて、予測部63へと渡される。
【0182】
予測部63は、制御装置20の記憶デバイス22に記憶されたプログラムをプロセッサ21が実行して実現される機能である。予測部63は、状態データ取得部61、及び、結晶方位計算部62によって取得(測定・計算)された状態データ(互いに関連付けられた加工力、加工速度、切り込み深さ、温度、及び、結晶方位)から、ある時点の加工点8におけるワークWの残留応力を計算し、その複数をワークWの位置座標と関連付けて整理した残留応力分布を予測する。
【0183】
予測部63は、典型的には、状態データと、その結果として得られた処理済みワークにおける残留応力分布とを関連付けた複数の実測データ68を訓練データとして生成された学習済みモデルであることが好ましい。学習済みモデルは、典型的には、状態データを説明変数とし、残留応力分布を目的変数として学習されたニューラルネットワークであってよい。
この学習済みモデルは、加工装置100と同様に、スピンドルユニット1、ワーク保持装置2、及び、位置決め機構10を有する装置を用いて得ることができる。
【0184】
上記装置を用いて、種々の装置パラメータ(加工条件)を設定して、予測対象となるワークWと同種のワークを研削加工し、状態データ、及び、残留応力分布を実測する。そして、状態データと、対応する残留応力分布とを関連付けたデータセットを作成し、これを訓練データとすればよい。
この際、状態データの取得方法はすでに説明したとおりであり、残留応力分布についても、すでに説明したラマン分光法が利用できる。
【0185】
加工装置100は予測部63を有しているため、処理済みワークWの残留応力分布を実際に測定しなくても、その予測結果を得ることができる。処理済みワークWの残留応力分布をリアルタイムに測定することが難しくても、本加工装置によれば、リアルタイムに、かつ、容易に測定可能な値をもとに取得できる状態データから、その予測ができる。
残留応力分布は後工程の品質、後工程の方法等に大きな影響を与える。言い換えれば、残留応力分布を把握することで、より優れた品質を有する半導体ウエハ等が製造できる。
【0186】
比較部64は、制御装置20の記憶デバイス22に記憶されたプログラムをプロセッサ21が実行して実現される機能である。比較部64は、予測部63によって得られた残留応力分布の予測結果と、基準値とを比較する。その結果は、候補作成部65に渡される。
基準値は、入出力I/F23を介して、外部71から入力され、処理済みワークWの残留応力分布の目標を定義する情報である。なお、基準値は、予め記憶デバイス22に記憶されていてもよい。
【0187】
基準値は、目的に応じて適宜選択されればよく、特に制限されないが、一形態として、ワークWの全体における残留応力分布のばらつきの許容値としてもよい。また、他の形態として、後工程が結晶異方性エッチングである場合、結晶方位分布と関連付けられた、領域ごとの残留応力の閾値としてもよい。
【0188】
候補作成部65は、制御装置20の記憶デバイス22に記憶されたプログラムをプロセッサ21が実行して実現される機能である。候補作成部65は、比較部64による比較の結果、予測結果が基準値に満たない場合、残留応力分布が未知である状態データの複数を含む候補データセットを生成する。作成された候補データセットは、予測部63に渡され、候補データセットに含まれる状態データのそれぞれについて、残留応力分布が予測される。
【0189】
候補作成部65は、この予測結果のうち、基準値を満たすものを特定し、対応する状態データ(「候補状態データ」)を抽出する。抽出された候補状態データは、フィードバック用の状態データとして、条件計算部66に渡される。
【0190】
候補データセットの生成方法は特に限定されず、任意の方法であってよい。例えば、実測された当初の状態データをもとに、ランダムに数値を変更して準備した複数のデータから構成されていてもよい。これを、「当初候補データセット」と呼ぶこととする。
なお、候補作成部65によって作成された当初候補データセットに含まれる状態データは、この時点では、残留応力分布とは関連付けられておらず、結果は未知である。
【0191】
この当初候補データセットについて、予測部63によって予測結果を得て、これらを関連付けた予測結果データセットが生成される。これを「当初予測結果データセット」と呼ぶこととする。
【0192】
候補作成部65は、この当初予測結果データセットに含まれる予測結果と、基準値とを比較する。当初予測結果データセットのもとになった当初候補データセットは、実測の状態データ(基準値を満たさない結果となったもの)からランダムに数値を変更して得られたものであるため、当初予測結果データセットには、基準値を満たす予測結果が含まれていない場合もある。
【0193】
このとき、候補作成部65は、予測結果と基準値との差をより小さくする(又は、基準値を超える予測結果が得られる)可能性の高い新たな状態データを、公知の局所探索アルゴリズム、及び、遺伝的アルゴリズム等を用いて探索し、これを新たな候補データセットとしてもよい。この候補データセットを「候補データセット(2)」ともいう。
候補作成部65は、この候補データセット(2)について、再度、予測結果データセットを作成する。これを繰り返すことで、基準値を満たす予測結果を得やすくなる。基準値を満たす予測結果が得られたら、候補作成部65は、これに対応する状態データを予測結果データセットから抽出し、候補状態データとして、条件計算部66に渡す。
【0194】
本加工装置は、候補作成部65を有しているため、ユーザは、処理済みワークの残留応力分布の予測結果を得られるだけでなく、それが基準値に満たない場合に、状態データをどのように制御すべきかについての情報(示唆)も得ることができる。状態データの制御は、加工装置の設定パラメータである加工条件を調整することで実施できる。この調整は、熟練の作業者であれば容易に実施できる。
【0195】
条件計算部66は、制御装置20の記憶デバイス22に記憶されたプログラムをプロセッサ21が実行して実現される機能である。条件計算部66は、候補作成部65により抽出された状態データから、それに対応する加工条件を算出する。
本明細書において、加工条件とは、加工装置100の運用の際に、ユーザが入力・設定等する装置パラメータを意味する。
【0196】
加工装置100の運用の際に、ユーザが入力・設定できる装置パラメータは、研削砥石の形状、及び、研削の方法等によって異なる場合がある。例えば、研削砥石の表面形状(例えば溝)をワークWの外縁に転写して所望の形状を創成する場合、以下のような装置パラメータが挙げられる。
【0197】
・ワークW(典型的にはウェハ)外周径(直径)
・砥石形状(2次元断面形状):砥石形状をワークに転写するため
・砥石の番手(粗さ):粗研削(番手:小)、精密研削(番手:大)、なお、砥粒サイズ「切れ刃のサイズ」に相当する。
・ウェハ厚さ:ワークWがウェハであって、その面取りを行う場合、面取りはX、Y、Z方向に位置合わせして、エッジ形状を砥石(形状)の転写により創成する。このとき、加工中はZ方向に、スピンドル、及び、ワークWは原則として移動しない(固定)。実際はワークやテーブルに「平面度(勾配)」があり加工中にZ軸も「平面度」を加味して移動させることもある。これは、現実的に、ワーク、テーブルが理想形状(平面度=0)ではないためである。
・ワーク(加工)軌道:ワークがXY座標系で動く軌道。例えば、外周研削の場合の、ワークと研削砥石との相対位置が切込み深さ、形状創成(ねらった形状)に関わるパラメタとなる。これは、複雑な曲面形状をなすノッチ部研削についても同様である。
・θ軸回転速度(ワーク回転速度):ワークのθ軸周りの移動速度
・ワーク移動速度(X,Y方向速度):XY軸方向へのワークの移動速度
・スピンドル回転速度:砥石の回転速度、すなわち、砥石半径×スピンドル回転速度(rad/s)
・冷却水流量・温度:加工熱に関わるパラメータの一つ(強制対流熱伝達)
なお、以上の装置パラメータは一例であり、研削砥石の形状、及び、研削の方法等によって種々設定され得る。
【0198】
条件計算部66は、典型的には、状態データと、その状態データが得られた際の加工条件(装置パラメータ)とを関連付けた複数の実測データ69を訓練データとして生成された学習済みモデルであることが好ましい。学習済みモデルは、典型的には、状態データを説明変数とし、加工条件を目的変数として学習されたニューラルネットワークであってよい。
この学習済みモデルは、加工装置100と同様に、スピンドルユニット1、ワーク保持装置2、及び、位置決め機構10を有する装置を用いて得ることができる。
【0199】
上記装置を用いて、種々の装置パラメータ(加工条件)を設定して、予測対象となるワークWと同種のワークを研削加工し、状態データを実測する。そして、加工条件と、対応する状態データとを関連付けたデータセットを作成し、これを訓練データとすればよい。
【0200】
本加工装置は条件計算部66を有しているため、ユーザにとっては、候補状態データを実現するための加工条件の調整がより容易になる。具体的には、熟練の作業者による加工条件の調整が不要となり、基準値達成のための状態データの調整がより容易に自動化できる。
【0201】
加工部67は、ハードウェアとしてスピンドルユニット1、ワーク保持装置2、及び、位置決め機構10を含んで構成され、制御装置20の記憶デバイス22に記憶されたプログラムをプロセッサ21が実行し、上記各ハードウェアを制御することで実現される機能である。
加工部67は、条件計算部66により計算された加工条件をもとにフィードバック制御される。
【0202】
図24は、加工装置のフィードバック制御のフローチャートである。
まず、ステップS1として、測定部60によって状態データの取得のための値が測定される。なお、値の測定方法はすでに説明したとおりである。
【0203】
次に、ステップS2として、結晶方位計算部62によって、加工点8における結晶方位が取得される。なお、測定部60が結晶方位の測定装置(例えば、X線回折測定器)を含む場合、本ステップは省略されてよい。
更に、ステップS3として、状態データ取得部61によって、測定部60による測定値から、加工力、加工速度、切り込み深さ、及び、温度の各状態データが取得される。
加工点における結晶方位、及び、加工力、加工速度、切り込み深さ、並びに、温度は互いに関連付けられた一組のデータとして記憶され、このデータの複数、すなわち、ある時点において加工点に位置するワークWについての状態データの複数からなるデータセットが生成される。
【0204】
次に、ステップS4として、状態データ取得部61、及び、結晶方位計算部62によって取得された状態データ(セット)から、予測部63が残留応力分布を予測する。典型的には、残留応力分布は、ワークWの表面の加工点(所定の領域)ごとに計算された残留応力を、ワークWの表面の位置座標に応じてマッピングされたものであることが好ましい。
【0205】
次に、ステップS5として、外部71から入出力I/F23を介して取得された基準値と、予測部63によって計算された残留応力分布とが比較される。この比較の結果、基準を満たす場合(ステップS6:YES)、フィードバック制御は不要であるから、フローは終了する。
【0206】
一方、残留応力分布が、基準を満たさない場合(ステップS6:NO)、ワークの残留応力分布が未知である状態データの複数を含む候補データセットを候補作成部65が作成する(ステップS7)。この候補データセットに含まれる各状態データは、実測の状態データとはそれぞれ異なる点(異なる値)を含む。
【0207】
作成された候補データセットは、予測部63に渡され、状態データごとに残留応力分布が予測される。これにより、状態データとそれに対応する残留応力分布とからなるデータの複数を含む予測結果データセットが作成される(ステップS8)。
【0208】
候補作成部65は、上記予測結果データセットに含まれる予測結果と、基準値とを比較し、これを満たす予測結果を特定する。基準を満たす予測結果がある場合、これに対応する状態データ(候補状態データ)を抽出し、条件計算部66に渡す(ステップS9:YES)。
一方、基準値を満たす予測結果がない場合(ステップS9:NO)、再度、候補データセットを作成する。この場合の候補データセットの作成方法としては特に制限されないが、すでに説明した、局所探索アルゴリズム、及び、遺伝的アルゴリズム等が使用できる。
【0209】
次に、ステップS10として、候補状態データから、条件計算部66が加工条件を計算する。更に、ステップS11として、制御装置20は、条件計算部66によって計算された加工条件により加工部67をフィードバック制御する。
【0210】
上記フィードバック制御方法によれば、リアルタイムでの測定が困難な場合が多い処理済みワークの残留応力分布の予測ができるうえ、更に、その結果が基準値を満たさない場合でも、新たな加工条件を機械的に算出し、容易に修正ができる。
【0211】
なお、図24では、加工装置を用いたフィードバック制御方法について説明したが、加工装置を用いた処理済みワークの残留応力分布の予測方法は、上記フローの一部を構成する。すなわち、本発明の実施形態に係る残留応力分布の予測方法は、ステップS1~ステップS4を含む。上記残留応力分布の予測方法によれば、リアルタイムでの測定が困難な場合が多い処理済みワークの残留応力分布の予測ができる。
【符号の説明】
【0212】
1 スピンドルユニット、2 候補データセット、2 ワーク保持装置、3 工具、4 チャックテーブル、5 ピッチ軸、6 回転軸、7 加工軸、8 加工点、10 位置決め機構、20 制御装置、21 プロセッサ、22 記憶デバイス、23 入出力インタフェース(I/F)、25 検出器、26 検出器、30 主軸、31 ハウジング、31-1 円環リング、31-2 円環リング、32 工具ホルダ、33 ラジアル軸受、34 ラジアル軸受、35 スラスト軸受、36 径方向永久磁石、37 径方向電磁石、38 センサ、39-1 軸方向電磁石、39-2 軸方向電磁石、40-1 センサ、40-2 センサ、41-1 軸方向永久磁石、41-2 軸方向永久磁石、50 切れ刃、53 垂直分力、54 水平分力、55 加工変質層、60 測定部、61 状態データ取得部、62 結晶方位計算部、63 予測部、64 比較部、65 候補作成部、66 条件計算部、67 加工部、68 実測データ、69 実測データ、70 外部、71 外部、90 角度、100 加工装置、104 チャックテーブル(回転テーブル)、105 ベース、106 回転駆動軸、107 軸モータ、108 吸着孔、109 通路、110 シール、112 フランジ、113 フランジ、116C 変位センサ、125 フランジ、200A コイル、200B コイル、200C コイル、201 筒状部材、202 孔、203 ストッパ、204 蓋、205C 板、207 突起、208 スリット、209C バネ、210 配線、211 配線、250 回路、251 交流電源、252 抵抗、253 コイル、254 交流電流、300A コイル、300B コイル、300C コイル、300D コイル、301 筒状部材、303 ストッパ、304 蓋、305A 板、309A バネ、310A コイル、311 筒状部材、313 ストッパ、314 蓋、315A 板、319A バネ(付勢部材)、319A バネ、400A コイル、400C コイル、401A 電圧変化検出装置、401C 電圧変化検出装置
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