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特開2024-119153湯種及びその製造方法、並びに湯種を用いる食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119153
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】湯種及びその製造方法、並びに湯種を用いる食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 8/02 20060101AFI20240827BHJP
   A21D 2/36 20060101ALI20240827BHJP
   A21D 2/26 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
A21D8/02
A21D2/36
A21D2/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025856
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154597
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】岸野 智
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DG02
4B032DG04
4B032DG05
4B032DG08
4B032DG20
4B032DK32
4B032DK33
4B032DK51
(57)【要約】
【課題】穀物ブランを含むベーカリー製品等の食品を製造するための湯種であって、穀物ブランを含むベーカリー製品等の食品を製造する際の作業性が向上され、且つ得られる食品のしっとり感を向上することができる湯種及びその製造方法を提供する。
【解決手段】穀粒粉を含む湯種であって、前記穀粒粉の質量に基づいて、穀物ブランを3.5質量%以上含有し、且つへミセルラーゼを含有することを特徴とする湯種、湯種を製造する方法であって、穀粒粉、水(高温水である場合を含む)、及びへミセルラーゼを含む材料を混合し、湯種を調製する工程を含み、前記穀粒粉が、前記穀粒粉の質量に基づいて、穀物ブランを3.5質量%以上含有することを特徴とする湯種の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粒粉を含む湯種であって、
前記穀粒粉の質量に基づいて、穀物ブランを3.5質量%以上含有し、且つ
へミセルラーゼを含有することを特徴とする湯種。
【請求項2】
前記へミセルラーゼの含有量が、前記穀粒粉100gに対して、2~700単位である請求項1に記載の湯種。
【請求項3】
前記穀物ブランの含有量が、前記穀粒粉の50質量%以上である請求項1又は2に記載の湯種。
【請求項4】
前記穀物ブランが、小麦、大豆、ごま、あわ、きび、ひまわりの種、アマニ、大麦、オーツ麦、米、キヌア、小豆、緑豆、アマランサス、ひえ、もち麦からから選択される1種又は2種以上の穀物由来である請求項1又は2に記載の湯種。
【請求項5】
湯種を製造する方法であって、
穀粒粉、水(高温水である場合を含む)、及びへミセルラーゼを含む材料を混合し、湯種を調製する工程を含み、
前記穀粒粉が、前記穀粒粉の質量に基づいて、穀物ブランを3.5質量%以上含有することを特徴とする湯種の製造方法。
【請求項6】
湯種を用いて食品用生地を製造する方法であって、
請求項1若しくは2に記載の湯種、又は請求項5に記載の製造方法によって得られた湯種と、更なる穀粒粉を含む材料を混合し、生地を調製する工程を含む
食品用生地の製造方法。
【請求項7】
前記生地に含まれる穀粒粉の総質量に基づいて、前記湯種中の穀粒粉が0.5~30質量%である請求項6に記載の食品用生地の製造方法。
【請求項8】
湯種を用いて食品を製造する方法であって、
請求項6に記載の食品用生地の製造方法によって生地を調製する工程、及び
前記生地を加熱する工程
を含む食品の製造方法。
【請求項9】
穀物ブランを含有する食品のしっとり感を向上する方法であって、
前記食品を製造する際に、請求項1又は2に記載の湯種を用いることを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー製品、麺類、及びその他の食品の製造に用いる湯種及びその製造方法に関し、特に穀物ブランを含むベーカリー製品等の食品を製造する際に課題となる作業性が向上され、且つ得られる食品のしっとり感を向上することができる湯種及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
穀物の外皮、胚芽等の糠部分は、穀物ブランとも称され、健康効果が注目され、様々な食品に利用されている。しかしながら、穀物ブランをパン類や洋菓子類等のベーカリー製品、麺類、及びクリームコロッケ等の食品用生地を調製して製造する食品に配合する場合、生地の伸展性が低くなること等により作業性が悪くなったり、得られるベーカリー製品等の食感が硬くなったりする場合がある。一方、ベーカリー製品等の食品の製造方法の一種に、生地の一部に湯種を加えてベーカリー製品を製造する「湯種法」と称される方法がある。特に湯種法で製造されたベーカリー製品は、もっちり、しっとりとした独特な食感を有することが特徴とされている。そこで、近年、穀物ブランを含むベーカリー製品等の食品の品質向上のため、湯種法を用いる研究開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、パンに配合される小麦粉のうちの90重量%以上を全粒粉(すなわち、小麦ブランを含む)としても、柔らかく、しっとりして、食感や歯切れの良い全粒粉パン及びその製造方法を提供することを目的とし、小麦粉、糖類、乳製品、酵母、卵、油脂、酢、塩、及び水を含む生地の各材料を混合し、捏ねて生地を作る工程と、前記生地を一次発酵させる工程と、前記一次発酵させた生地を、分割、成型する工程と、前記成型した生地を二次発酵させる工程と、前記二次発酵させた生地を焼成する工程とを含み、前記小麦粉の90重量%以上が全粒粉であり、前記乳製品の90重量%以上が生クリームである全粒粉パンの製造方法が開示され、さらに、好ましい態様として、前記生地を作る工程が、前記生地の各材料のうち、小麦粉の一部、糖類の一部、酢の一部、及び塩の一部、並びに湯を混合し、捏ねて湯種生地を作る工程と、前記湯種生地と、前記生地の各材料のうちの残りの各材料を混合し、捏ねて本捏生地を作る工程とを更に含むことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-078364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、湯種法で製造されたベーカリー製品等の食品用生地は、べたつきが生じやすいこと、伸展性が低いこと等により、作業性が悪い場合があり、特にベーカリー製品を大規模な製パン工場等の大型製造ラインで製造する場合に特に顕著である。また、湯種法によって得られるベーカリー製品等の食品は、品質が十分でない場合がある。特に、生地を冷凍保存する冷凍生地の場合、保存性を高めるために加水を少なくしたり、発酵が必要な生地であっても発酵を控えたりするため、得られる製品の品質が経時的に変化しやすく、保存中にしっとり感が低下し、パサつきが生じやすい傾向がある。そうすると、特許文献1の技術であっても、湯種法を用いて、全粒粉、すなわち穀物ブランを含むベーカリー製品等の食品を製造する場合、作業性や得られる食品の品質が十分でない場合がある。
【0006】
したがって、本発明の目的は、穀物ブランを含むベーカリー製品等の食品を製造するための湯種であって、穀物ブランを含むベーカリー製品等の食品を製造する際の作業性が向上され、且つ得られる食品のしっとり感を向上することができる湯種及びその製造方法、並びにそれを用いる食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、穀物ブランを含む食品の製造に用いる湯種に穀物ブランを含有させ、さらに所定の酵素を含有させることで、上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
すなわち、上記目的は、穀粒粉を含む湯種であって、前記穀粒粉の質量に基づいて、穀物ブランを3.5質量%以上含有し、且つヘミセルラーゼを含有することを特徴とする湯種、湯種を製造する方法であって、穀粒粉、水(高温水である場合を含む)、及びへミセルラーゼを含む材料を混合し、湯種を調製する工程を含み、前記穀粒粉が、前記穀粒粉の質量に基づいて、穀物ブランを3.5質量%以上含有することを特徴とする湯種の製造方法、湯種を用いる食品用生地を製造する方法であって、本発明の湯種、又は本発明の製造方法によって得られた湯種と、更なる穀粒粉を含む材料を混合し、生地を調製する工程を含む食品用生地の製造方法、湯種を用いる食品を製造する方法であって、本発明の食品用生地の製造方法によって生地を調製する工程、及び前記生地を加熱する工程を含む食品の製造方法によって達成される。なお、本発明において、「穀粒粉」は穀物の粒状物、穀物の粉砕物(粗挽きしたものを含む)全体を意味し、穀物の全粒、全粒粉、穀物ブラン、小麦粉等が包含される。「穀物ブラン」は、穀物の外皮、胚芽等の糠部分を意味し、粒状でもよく、粉状でもよく、穀物の全粒、又は全粒を粉砕した全粒粉(粗挽きした粒状物を含む)に含まれる穀物の外皮、胚芽等の糠部分も含む。また、「へミセルラーゼ」は、ヘミセルロース(キシラン、アラビノキシラン、アラビナン、マンナン、ガラクタン、キシログルカン、グルコマンナン等の植物組織からアルカリ抽出されるの多糖類の総称)を加水分解する酵素の総称である。へミセルラーゼの活性は、1分間に1μmolのキシロースに相当する還元糖を生成する酵素量を1単位と定義される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の湯種を用いることにより、穀物ブランを含むベーカリー製品等の食品を製造する際の作業性が向上され、且つ得られる食品のしっとり感を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[湯種]
本発明の湯種は、穀粒粉を含む湯種であって、前記穀粒粉の質量に基づいて、穀物ブランを3.5質量%以上含有し、且つへミセルラーゼを含有することを特徴とする。上記の含有量以上の穀物ブランを含み、且つへミセルラーゼを含む湯種を用いてベーカリー製品等の食品を製造することで、穀物ブランを含むベーカリー製品等の食品を製造する際の作業性が向上され、且つ得られる食品のしっとり感を向上することができる。へミセルラーゼをベーカリー製品等の食品用生地に用いる技術として、特開2017-108690号公報では、湯種法により得られたパン生地でありながら、生地伸展性が良好で且つべたつきがなく扱いやすく、体積の大きなパンを得ることができるパン生地を提供することを目的とし、湯種生地、及び、ヘミセルラーゼ含有油脂組成物を含有するパン生地が開示されている。しかしながら、特開2017-108690号公報には、穀物ブランとへミセルラーゼとを湯種に含有させることについて言及はなく、穀物ブランを含有するパン生地の実施例もない。本発明においては、後述する実施例に示す通り、穀物ブラン、及びへミセルラーゼを含んでいても、それらの何れかが、湯種ではなく、本捏生地に含有される場合は、上述の効果は得られず、穀物ブラン、及びへミセルラーゼの両方が湯種に含有される場合に初めて上述の効果が得られることを見出している。
【0011】
本発明において、へミセルラーゼの活性は、Megazyme社製のXylazyme AX Tabletsを用いて測定することができる。具体的には、MES緩衝液(pH6.0)中で染色キシラン基質と酵素反応させ、反応停止後に、酵素分解によって生じた染色断片を吸光度測定し、1分間に1μmolのキシロースに相当する還元糖を生成する酵素量を1単位として算出する。本発明の湯種において、前記ヘミセルロースの含有量は、前記穀粒粉100gに対して、2~700単位であることが好ましく、30~500単位であることがさらに好ましく、60~400単位であることがより好ましい。へミセルラーゼとしては、市販の酵素製剤を適宜使用することができる。ヘミセルラーゼ酵素製剤1g中のヘミセルラーゼの酵素活性は、好ましくは1000~3000単位、より好ましくは1500~2800単位、さらにより好ましくは2000~2800単位である。例えば、天野エンザイム社製のヘミセルラーゼ「アマノ」90、ノボザイムズジャパン社製の「ペントパン」等を使用することができる。
【0012】
本発明の湯種において、前記穀物ブランの含有量は、前記穀粒粉の3.5質量%以上であれば特に制限はないが、製造する食品中の穀物ブラン含有量を高めるためには、多い方が好ましい。穀物の全粒又は全粒粉を用いて穀物ブランを含有させる場合は、穀物の全粒又は全粒粉中の穀物ブランの含有量に依存するため、少なくとも3.5質量%以上の穀物ブランを含有する全粒又は全粒粉を用いる。前記穀物ブランの含有量は、前記穀粒粉の50質量%以上が好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がよりさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましい。
【0013】
本発明の湯種において、前記穀物ブランの種類に特に制限はなく、各種穀物を精製する過程で得られる、外皮、胚芽等の糠部分の混合物や分離精製したもの、若しくはその粉砕物、又は各種穀物の全粒、若しくはそれを粉砕した全粒粉に含まれた状態のものを使用することができる。穀物ブランとして用いる穀粒粉の長径は平均7mm以下が好ましく、5mm以下がさらに好ましく、3mm以下がより好ましい。前記穀物ブランは、小麦、大豆、ごま、あわ、きび、ひまわりの種、アマニ、大麦、オーツ麦、米、キヌア、小豆、緑豆、アマランサス、ひえ、もち麦から選択される1種又は2種以上の穀物由来であることが好ましく、小麦、及び/又は大豆由来であることがさらに好ましい。
【0014】
本発明の湯種において、穀物ブラン以外の穀粒粉は、ベーカリー製品等の食品の製造に使用されるものであれば、特に制限はない。例えば、小麦粉(国内産、国外産(北米産、オーストラリア産等)の小麦由来の強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム小麦粉、それらの2種以上の組み合わせ等)、大麦粉、ライ麦粉、燕麦粉、トウモロコシ粉、ホワイトソルガム粉、米粉、大豆粉、緑豆粉、そば粉、アマランサス粉、キビ粉、アワ粉、ヒエ粉、これらを加熱処理した加熱処理粉、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉等の澱粉、及びそれらの澱粉を原料として、物理的又は化学的に加工を施した加工澱粉、それらの2種以上の組み合わせ等が挙げられる。また、本発明の効果を損なわない限り、前記穀粒粉以外に、通常湯種に用いられるその他の材料を適宜含有させることができる。その他の材料としては、水、砂糖、ぶどう糖、麦芽糖、異性化糖、水あめ、粉あめ、オリゴ糖、デキストリン、糖アルコール等の糖質;バター、ラード、サラダ油、マーガリン、ショートニング等の油脂;グルテン、大豆たん白、乳たん白等のたん白質素材;脱脂粉乳等の乳製品;乾燥卵等の卵製品;食塩、カルシウム塩、調味料、香料、着色料、α-アミラーゼ、マルトース生成酵素等のへミセルラーゼ以外の酵素製剤、ビタミンC、増粘剤、乳化剤等が挙げられる。
【0015】
本発明において、湯種を用いる食品は、湯種を用いて製造できる食品であれば、特に制限はない。例えば、食パン、ロールパン、食卓パン、フランスパン、菓子パン、調理パン、デニッシュ、イーストドーナツ、中華まん、小籠包等のパン類;クッキー、パイ、スポンジケーキ、バターケーキ、パンケーキ、ケーキドーナツ等のケーキ類;その他、たこ焼、お好み焼、クレープ等のベーカリー製品、うどん、そば、中華麺、ワンタン、餃子等の麺類、コロッケ、クリームコロッケ、グラタン、芋羊羹等のその他の食品が挙げられる。本発明において、食品は、本発明の効果が特に有効なベーカリー製品であることが好ましい。
【0016】
[湯種の製造方法]
本発明の湯種の製造方法は、湯種を製造する方法であって、穀粒粉、水(高温水である場合を含む)、及びへミセルラーゼを含む材料を混合し、湯種を調製する工程を含み、前記穀粒粉が、前記穀粒粉の質量に基づいて、穀物ブランを3.5質量%以上含有することを特徴とする。上記の含有量以上の穀物ブランを含み、且つへミセルラーゼを含む材料を用いて製造された湯種を用いてベーカリー製品等の食品を製造することで、上述の通り、穀物ブランを含むベーカリー製品等の食品を製造する際の作業性が向上され、且つ得られる食品のしっとり感を向上することができる。湯種を調製する工程は、特に制限はなく、従来の湯種を調製する方法と同様な方法で行うことができる。例えば、穀粒粉、水(高温水である場合を含む)、及び必要に応じて、上記その他の材料を含む材料を混合機、混捏機等で混合、混捏し、必要に応じて、さらに加熱しながら混合、混捏することができる。出来上がり時の湯種温度は、50℃~80℃が好ましく、55℃~70℃がさらに好ましい。混合、混捏時間は特に制限はなく、従来の湯種を調製する方法と同様の範囲で、例えば、2~20分間、好ましくは3~5分間で実施することができる。本発明において、湯種を調製する工程の後、得られた湯種は放冷してから用いる。湯種の冷却条件は、冷蔵(5℃)下で2時間以上放冷することが好ましく、10時間以上放冷することがさらに好ましく、15時間以上放冷することがよりさらに好ましい。湯種は、常温(25℃)下で3時間以上放冷してもよい。得られた湯種は、続けて、後述する食品用生地の調製に用いてもよく、得られた湯種を冷蔵・冷凍保存して、食品用生地を調製する際に、随時用いて良い。本発明の湯種の製造方法の好ましい態様は、本発明の湯種の好ましい態様と同様である。
【0017】
[食品用生地の製造方法]
本発明の食品用生地(以下、単に「生地」とも称する)を製造する方法は、湯種を用いる食品用生地を製造する方法であって、本発明の湯種、又は本発明の湯種の製造方法によって得られた湯種と、更なる穀粒粉を含む材料を混合し、生地を調製する工程を含む。上述の通り、本発明の湯種、及び本発明の製造方法によって製造された湯種を用いてベーカリー製品用生地等の食品用生地を製造することで、穀物ブランを含むベーカリー製品等の食品を製造する際の作業性が向上され、且つ得られる食品のしっとり感を向上することができる。
【0018】
本発明の食品用生地の製造方法において、本発明の湯種、又は本発明の湯種の製造方法によって得られた湯種と混合する材料における更なる穀粒粉は、湯種における、穀物ブラン以外の穀粒粉と同様にベーカリー製品等の食品の製造に使用されるものであれば、特に制限はない。例えば、小麦粉(国内産、国外産(北米産、オーストラリア産等)の小麦由来の強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム小麦粉、それらの2種以上の組み合わせ等)、大麦粉、ライ麦粉、燕麦粉、トウモロコシ粉、ホワイトソルガム粉、米粉、大豆粉、緑豆粉、そば粉、アマランサス粉、キビ粉、アワ粉、ヒエ粉、これらを加熱処理した加熱処理粉、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉等の澱粉、及びそれらの澱粉を原料として、物理的又は化学的に加工を施した加工澱粉、それらの2種以上の組み合わせ等が挙げられる。本発明の食品用生地の製造方法において、前記湯種中の穀粒粉の割合は、前記生地に含まれる穀粒粉の総質量に基づいて、0.5~30質量%であることが好ましく、5~25質量%であることがさらに好ましく、10~20質量%であることがより好ましい。なお、本発明をより効果的にするために、前記食品用生地に混合する更なる穀粒粉は、穀物ブランを含まないことが好ましい。また、本発明の効果を損なわない限り、前記湯種と混合する材料は、その他の材料を含んでいても良い。例えば、水、液卵、牛乳、果汁、だし汁、調味液等の液体材料;砂糖、ぶどう糖、麦芽糖、異性化糖、水あめ、粉あめ、オリゴ糖、デキストリン、糖アルコール等の糖質;バター、ラード、サラダ油、マーガリン、ショートニング等の油脂;グルテン、大豆たん白、乳たん白等のたん白質素材;脱脂粉乳等の乳製品;乾燥卵等の卵製品;イースト、ベーキングパウダー、増粘多糖類、食塩、カルシウム塩、調味料、香料、着色料、酵素製剤、ビタミンC、乳化剤、イーストフード等が挙げられる。なお、本発明においては、乳化剤を使用しなくても穀物ブランを含むベーカリー製品等の食品を製造する際の作業性が向上され、且つ得られる食品のしっとり感を向上することができる。
【0019】
本発明において、食品用生地の製造方法としては、本発明の湯種、又は本発明の製造方法によって製造された湯種を用いていればよく、例えば、ベーカリー製品の場合、パン類の中種法、ストレート法、ノータイム法、発酵種法等の公知のベーカリー製品の製造方法における生地の製造方法と組み合わせることができる。したがって、本発明において、生地を調製する工程は、ベーカリー製品等の食品用生地の製造方法の常法に応じて、適宜、湯種と更なる穀粒粉を含む材料を混合することができる。調製した食品用生地は、冷蔵してもよく、冷凍してもよい。本発明の食品用生地、特にベーカリー製品用生地は、生地を冷凍保存する際、保存性を高めるために加水を少なくしたり、発酵が必要な生地であっても発酵を控えたりする場合であっても、得られるベーカリー製品の経時的なしっとり感の低下やパサつきが生じることを抑制することができる。また、発酵時間が短く得られるベーカリー製品が老化しやすいノータイム法で製造されるベーカリー製品においても、同様の効果が発揮される。したがって、本発明の食品用生地は、ベーカリー製品用生地の冷凍生地であることや、ノータイム法で製造されるベーカリー製品用生地であることが好ましい。本発明の食品用生地の製造方法の好ましい態様は、本発明の湯種、及び本発明の湯種の製造方法の好ましい態様と同様である。なお、本発明は、本発明の湯種を含む食品用生地にも関する。
【0020】
[食品の製造方法]
本発明の湯種を用いる食品の製造方法は、本発明の食品用生地の製造方法によって生地を調製する工程、及び前記生地を加熱する工程を含む。上述の通り、本発明の製造方法によって製造された生地を用いてベーカリー製品等の食品を製造することで、穀物ブランを含むベーカリー製品等の食品を製造する際の作業性が向上され、且つ得られる食品のしっとり感を向上することができる。前記生地は、ベーカリー製品等の食品の種類に応じて、常法に従って、必要に応じて発酵させてもよく、成形してもよく、冷凍保存してもよい。生地を加熱する工程は、ベーカリー製品等の食品の種類に応じて、焼成、油ちょう、蒸し調理等で適切な時間加熱することができる。本発明の食品の製造方法の好ましい態様は、本発明の湯種、本発明の湯種の製造方法、及び本発明の食品用生地の製造方法の好ましい態様と同様である。なお、本発明は、加熱された本発明の食品用生地からなる食品にも関する。
【0021】
なお、上述の本発明の湯種の製造方法の説明から理解できるように、本発明は、穀物ブランを含有する食品、特にベーカリー製品のしっとり感を向上する方法であって、前記食品を製造する際に、本発明の湯種を用いることを特徴とする方法にも関する。本発明の方法の好ましい態様は、本発明の湯種、本発明の湯種の製造方法、本発明の食品用生地の製造方法、及び本発明の食品の製造方法の好ましい態様と同様である。
【実施例0022】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
1.比較例1のベーカリー製品(ロールパン)の製造
穀物ブランを含むベーカリー製品としてロールパンを選定し、表1に示した配合(粉2kg仕込み)に従って、以下の方法で比較例1(ストレート法)のロールパンを製造した。具体的には、まず、表1に示した材料のうちマーガリン以外の材料を低速3分中速6分混捏した。次いでマーガリンを加え、さらに低速2分中速4分高速2分混捏し、パン生地を得た(捏上温度27℃)。こうして得られたパン生地を、27℃湿度75%条件で20分間フロアタイムをとり、70gに分割し、室温で30分間のベンチタイムをとった。パン生地を棒状に成形し、天板に並べ、38℃湿度85%条件で50分間ホイロ内で最終発酵を行い、210℃のオーブンで12分間焼成し、ロールパンを作製した。
2.実施例、比較例2~3、及び参考例のベーカリー製品(ロールパン)の製造
表1に示した配合(粉2kg仕込み)で、各実施例、及び比較例2、3及び参考例の湯種、並びにロールパンを製造した。具体的には、表1示した湯種の材料(高温水の温度は90℃)を混捏機で、捏ね上げ温度60℃で混捏して湯種を得た。次に、調製した各湯種を5℃下で18時間放冷した後、表1に示した材料の内、マーガリンと湯種以外の材料と混合し、低速3分中速6分間混捏した。マーガリンと湯種を加え、さらに低速2分中速4分高速2分間混捏し、パン生地を得た(捏上温度22℃)。こうして得られたパン生地を、27℃湿度75%条件で20分間フロアタイムをとり、70gに分割し、室温で30分間のベンチタイムをとった。パン生地を棒状に成形し、天板に並べ、38℃湿度85%条件で50分間ホイロ内で最終発酵を行い、210℃のオーブンで12分間焼成し、ロールパンを作製した。
【0023】
3.評価
(1)作業性
上記の製パン工程における作業性を、以下の評価基準で評価した。各評価結果は、10名のパネルによる評価点の平均値を示した。
5:べたつきがなく、非常に良好
4:べたつきがほとんどなく、良好
3:ややべたつきはあるものの、やや良好
2:べたつきがあり、悪い
1:非常にべたつきが強く、非常に悪い
(2)食感の評価
上記の方法で得られた各パンを焼成1日後(D+1)に袋に入れ、2日間常温保存後(D+3)にしっとり感の食感評価を行った。しっとり感の食感評価は、以下の基準に従って評価した。各評価結果は、訓練を受けた専門パネル10名の評点の平均値を示した。
(i)しっとり感
5:非常にしっとりとした食感であり、非常に良好
4:しっとりとした食感であり、良好
3:ややしっとりとした食感であり、やや良好
2:しっとりとした食感がほとんど感じられず、ややパサついた食感であり、悪い
1:しっとりとした食感が全く感じられず、パサついた食感であり、非常に悪い
評価結果を表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
表1に示した通り、穀粒粉の質量に基づいて、穀物ブランを合計で3.75質量%~100質量%含有し、且つヘミセルラーゼを含有する湯種を用いて製造した実施例1~15のロールパンは、穀物ブランを含有しているにもかかわらず、作業性が良好で、得られたパンのしっとり感も良好であった。一方、湯種法ではなく、ストレート法で穀物ブラン及びヘミセルラーゼをパン生地に含有させて製造した比較例1のロールパンはしっとり感が感じられずパサついた食感であった。湯種法を用いても、穀物ブラン及びヘミセルラーゼを湯種ではなく、本捏生地に含有させて製造した比較例2のロールパン、穀物ブランを湯種に含有させ、ヘミセルラーゼを本捏生地に含有させて製造した比較例3のロールパンは、実施例と比較して、しっとり感の評価が低かった。したがって、穀粒粉の質量に基づいて、穀物ブランを3.5質量%以上含有し、且つへミセルラーゼを含有する湯種を用いることで、穀物ブランを含むベーカリー製品等の食品を製造する際の作業性が向上され、且つ得られる食品のしっとり感を向上することができることが示唆された。湯種におけるヘミセルラーゼの含有量については、穀粒粉100gに対して、857.14単位の実施例7と、642.86単位の実施例6を比較すると、実施例6の方が作業性が良好な評価であったことから、穀粒粉100gに対して、2~700単位が好ましいことが示唆された。なお、生地の穀粒粉中の湯種中穀粉粒の割合については、0.7~28質量%の範囲で、良好な評価が得られた。
【0026】
以上の結果から、本発明の湯種を用いることで、穀物ブランを含むベーカリー製品等の食品を製造する際の作業性が向上され、且つ得られる食品のしっとり感を向上することができることが示された。
【0027】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の湯種を用いることにより、穀物ブランを含むベーカリー製品等の食品を製造する際の作業性が向上され、且つ得られる食品のしっとり感を向上することができる。これにより、しっとり感が向上された穀物ブランを含むベーカリー製品等の食品を容易に製造することができる。