(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119158
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】二酸化炭素還元光触媒粒子、及び二酸化炭素還元光触媒粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 35/39 20240101AFI20240827BHJP
B01J 35/45 20240101ALI20240827BHJP
B01J 37/34 20060101ALI20240827BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20240827BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20240827BHJP
B01J 23/66 20060101ALI20240827BHJP
C01B 32/40 20170101ALI20240827BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J35/02 H
B01J37/34
B01J37/02 101D
B01J37/16
B01J23/66 M
C01B32/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025871
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】西本 大夢
(72)【発明者】
【氏名】田中 庸裕
(72)【発明者】
【氏名】寺村 謙太郎
【テーマコード(参考)】
4G146
4G169
【Fターム(参考)】
4G146JA01
4G146JB04
4G146JC01
4G146JC22
4G146JC30
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA21C
4G169BA48A
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB04C
4G169BB08C
4G169BC17A
4G169BC17B
4G169BC17C
4G169BC32A
4G169BC32B
4G169BC32C
4G169BC33A
4G169BC33B
4G169BC33C
4G169BD01C
4G169BD02C
4G169BD04C
4G169BD12C
4G169BE06C
4G169CB81
4G169EA02X
4G169EA02Y
4G169EB18X
4G169EB19
4G169EC27
4G169EE01
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB14
4G169FB19
4G169FB46
4G169FB58
4G169FC02
4G169FC04
4G169FC06
4G169HA01
4G169HB06
4G169HC24
4G169HD03
4G169HE20
(57)【要約】
【課題】触媒性能に優れた二酸化炭素還元光触媒粒子及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】酸化ガリウム(Ga
2O
3)粒子と、前記酸化ガリウム粒子の表面に担持された銀(Ag)コート金(Au)ナノ粒子と、を含み、前記銀コート金ナノ粒子は、金属金(Au)ナノ粒子と、前記金属金ナノ粒子の表面に設けられた金属銀(Ag)コートと、を備え、拡散反射スペクトルにおいて波長350~550nmの範囲内にピークを有する、二酸化炭素還元光触媒粒子。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ガリウム(Ga2O3)粒子と、前記酸化ガリウム粒子の表面に担持された銀(Ag)コート金(Au)ナノ粒子と、を含み、
前記銀コート金ナノ粒子は、金属金(Au)ナノ粒子と、前記金属金ナノ粒子の表面に設けられた金属銀(Ag)コートと、を備え、
拡散反射スペクトルにおいて波長350~550nmの範囲内にピークを有する、二酸化炭素還元光触媒粒子。
【請求項2】
前記銀コート金ナノ粒子の平均粒子径は5.0~100.0nmである、請求項1に記載の二酸化炭素還元光触媒粒子。
【請求項3】
前記銀コート金ナノ粒子の担持量は酸化ガリウム粒子に対して0.3~10.0質量%である、請求項1又は2に記載の二酸化炭素還元光触媒粒子。
【請求項4】
前記銀コート金ナノ粒子における金(Au)の含有量は金(Au)及び銀(Ag)の合計量に対して1.0~80.0mol%である、請求項1又は2に記載の二酸化炭素還元光触媒粒子。
【請求項5】
CO2還元光触媒性能評価試験におけるCO選択率が20%以上である、請求項1又は2に記載の二酸化炭素還元光触媒粒子。
【請求項6】
酸化ガリウム(Ga2O3)粒子と金(Au)供給源と第1還元液とを含む第1反応液を準備する工程、
前記第1反応液に超音波を照射して、金ナノ粒子を担持した酸化ガリウム粒子を作製する工程、
前記金ナノ粒子を担持した酸化ガリウム粒子と銀(Ag)供給源と第2還元液とを含む第2反応液を準備する工程、及び
前記第2反応液に超音波を照射して、銀コート金ナノ粒子を担持した酸化ガリウム粒子を作製する工程を含む、二酸化炭素還元光触媒粒子の製造方法。
【請求項7】
前記金供給源はテトラクロリド金(III)酸(HAuCl4)及び/又はその水和物を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記銀供給源は酸化銀(Ag2O)を含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1還元液及び/又は前記第2還元液はアルコールを含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項10】
前記第1反応液に照射する超音波の周波数は20~300kHzである、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項11】
前記第1反応液に超音波を照射する処理を、不活性ガス雰囲気下で5分~10時間行う、請求項6又は7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素還元光触媒粒子、及び二酸化炭素還元光触媒粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体光触媒粒子を用いた水分解及び二酸化炭素還元技術は、エネルギー問題や環境問題を解決できる技術として注目を集めている。特に助触媒として銀(Ag)などからなるナノ粒子を光触媒粒子に担持させることで、光励起によって生成した電子をトラップして電荷分離を促進する効果や二酸化炭素還元生成物を選択する効果を期待できる。例えば通常の光触媒では光照射により水が水素(H2)と酸素(O2)とに分解する。これに対して銀粒子を担持させた光触媒では、二酸化炭素(CO2)の還元により一酸化炭素(CO)が水素(H2)とともに生成する。このような二酸化炭素還元光触媒として、銀ナノ粒子を助触媒として担持させた酸化ガリウム粒子(銀ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子)が知られている。
【0003】
ところで、一酸化炭素(CO)は化学工業や産業における重要な出発物質であり、これを水素と反応させて様々な燃料や化学物質を合成することが可能である。このような合成において、一酸化炭素(CO)と水素(H2)の混合ガスが用いられ、このガスは合成ガス(シンガス)と呼ばれている。例えば、一酸化炭素と水素とを、CO:H2=1:2の割合で含む合成ガスは、メタノールやメタンなどの様々な化成品の合成に使用されている。
【0004】
合成ガス(シンガス)を製造する上で、一酸化炭素と水素とを生成する二酸化炭素還元光触媒の使用は好都合である。効率的に合成ガスを得るために、二酸化炭素還元光触媒には、一酸化炭素の生成割合、すなわち選択率を制御でき、かつガス生成量の多いことが望まれる。ここでCO選択率とは、下記(1)式に表されるように、還元反応により生じる水素(H2)ガスの発生速度(発生量)と一酸化炭素(CO)ガスの発生速度の合計に対する一酸化炭素(CO)ガスの発生速度の割合である。
【0005】
【0006】
上述したように、二酸化炭素還元光触媒粒子は、銀ナノ粒子などの金属ナノ粒子を光触媒粒子に担持させて製造されている。金属ナノ粒子を担持させる方法として、含浸法や光電析法(光電着法)などの手法が従来から知られている。例えば、特許文献1には二酸化炭素の還元方法に関して、CO2とH2Oと光触媒とに光を照射してCO2を還元する反応によりCOを生成させること、光電着法又は含浸法で銀を酸化ガリウムに担持した触媒を用いること、光電着法では硝酸銀など銀前駆体を含むアルコール水溶液に酸化ガリウム粉末を入れて混合後、光照射を行って銀前駆体を還元処理すること、含浸法では銀前駆体水溶液に酸化ガリウムを加えて撹拌し、水を除去した後に加熱乾燥し、更に空気中で焼成することが記載されている(特許文献1の請求項1、2及び[0015])。
【0007】
また、二酸化炭素還元光触媒に関するものではないが、特許文献2には超音波を照射して溶媒中に1種類以上の貴金属酸化物を分散させて貴金属酸化物分散液を得る工程と、前記貴金属酸化物分散液を加熱する工程とを含むことを特徴とする貴金属ナノ材料の製造方法が開示されている(引用文献2の請求項1)。さらに、溶媒に貴金属担持用の担体を更に含有させること、担体の表面上に高度な分散性を持って担持された状態の貴金属ナノ材料を得ることが可能であるため、これを燃料電池用触媒、材料合成用触媒等に好適に利用することが可能となることが記載されている(特許文献2の請求項6及び[0014])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012-192302号公報
【特許文献2】特開2008-24968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者らが調べたところ、特許文献1で提案される含浸法や光電析法で作製された光触媒には、一定の効果があるものの改良の余地があることが分かった。すなわち助触媒の効果を十分に発揮させるためには、その担持量をある程度に多くすることが望ましい。また助触媒粒子の粒径が小さく、数十nmオーダー程度であることが望まれる。粒径が大きすぎると触媒活性が失われてしまうためである。この点、含浸法や光電析法で作製した光触媒粒子では、銀濃度(担持量)を高くすると、助触媒たる銀粒子が凝集して粒径が大きくなってしまう問題がある。そのため粒径の小さい助触媒粒子を高濃度で担持させることは困難である。
【0010】
特許文献2は貴金属ナノ材料を二酸化炭素還元光触媒に用いることを意図しておらず、ましてやナノ材料の粒径を数十nmオーダーに小さくすることを目的としていない。実際、引用文献2では実施例において貴金属(Pt)ナノ微粒子担持球状カーボンや貴金属(Pt)ナノチューブを作製することや、燃料電池用触媒、材料合成用触媒、医療や食品添加剤、導電性ペーストに好適であることを教示するに過ぎない(特許文献2の[0043]~[0062])。
【0011】
一方で、金属ナノ粒子を合成する際に、原料濃度を低くするとともに多量の有機保護剤を用いて均一且つ微細な粒子を合成する手法が知られている。しかしながら、このような手法で光触媒粒子を作製すると、光触媒粒子の収率が低いとともに、有機保護剤が粒子表面に付着するという問題がある。付着した有機保護剤は触媒活性を低下させてしまうため、これを分解除去するために触媒粒子を高温焼成する必要がある。このような焼成を経た触媒粒子では、金属ナノ粒子の粒径が大きくなってしまう。そのため従来の手法では、微細な助触媒粒子を高分散且つ高担持量で担持させることは困難であり、触媒性能が優れた光触媒粒子を効率的に製造する上で限界があった。
【0012】
本発明者らは、このような従来の問題に鑑みて検討を行った。その結果、酸化ガリウム粒子と金供給源に超音波を照射し、さらに銀供給源と共に超音波を照射するという簡易な手法で、銀コート金ナノ粒子を担持した酸化ガリウム粒子からなる光触媒粒子を得ることができるとの知見を得た。また、この光触媒粒子は、CO生成量を維持したままH2生成量を増加できる効果があり、それ故、触媒性能に優れることが分かった。
【0013】
本発明はこのような知見に基づき完成されたものであり、触媒性能に優れた二酸化炭素還元光触媒粒子及びその製造方法の提供を課題とする
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、下記(1)~(11)の態様を包含する。なお本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0015】
(1)酸化ガリウム(Ga2O3)粒子と、前記酸化ガリウム粒子の表面に担持された銀(Ag)コート金(Au)ナノ粒子と、を含み、
前記銀コート金ナノ粒子は、金属金(Au)ナノ粒子と、前記金属金ナノ粒子の表面に設けられた金属銀(Ag)コートと、を備え、
拡散反射スペクトルにおいて波長350~550nmの範囲内にピークを有する、二酸化炭素還元光触媒粒子。
【0016】
(2)前記銀コート金ナノ粒子の平均粒子径は5.0~100.0nmである、上記(1)の二酸化炭素還元光触媒粒子。
【0017】
(3)前記銀コート金ナノ粒子の担持量は酸化ガリウム粒子に対して0.3~10.0質量%である、上記(1)又は(2)の二酸化炭素還元光触媒粒子。
【0018】
(4)前記銀コート金ナノ粒子における金(Au)の含有量は金(Au)及び銀(Ag)の合計量に対して1.0~80.0mol%である、上記(1)~(3)のいずれかの二酸化炭素還元光触媒粒子。
【0019】
(5)CO2還元光触媒性能評価試験におけるCO選択率が20%以上である、上記(1)~(4)のいずれかの二酸化炭素還元光触媒粒子。
【0020】
(6)酸化ガリウム(Ga2O3)粒子と金(Au)供給源と第1還元液とを含む第1反応液を準備する工程、
前記第1反応液に超音波を照射して、金ナノ粒子を担持した酸化ガリウム粒子を作製する工程、
前記金ナノ粒子を担持した酸化ガリウム粒子と銀(Ag)供給源と第2還元液とを含む第2反応液を準備する工程、及び
前記第2反応液に超音波を照射して、銀コート金ナノ粒子を担持した酸化ガリウム粒子を作製する工程を含む、二酸化炭素還元光触媒粒子の製造方法。
【0021】
(7)前記金供給源はテトラクロリド金(III)酸(HAuCl4)及び/又はその水和物を含む、上記(6)の方法。
【0022】
(8)前記銀供給源は酸化銀(Ag2O)を含む、上記(6)又は(7)の方法。
【0023】
(9)前記第1還元液及び/又は前記第2還元液はアルコールを含む、上記(6)~(8)の方法。
【0024】
(10)前記第1反応液に照射する超音波の周波数は20~300kHzである、上記(6)~(9)の方法。
【0025】
(11)前記第1反応液に超音波を照射する処理を、不活性ガス雰囲気下で5分~10時間行う、上記(6)~(10)の方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、触媒性能に優れた二酸化炭素還元光触媒粒子及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図2】光触媒粒子(例1)のSTEM/EDX像を示す。
【
図3】光触媒粒子(例2)のSTEM/EDX像を示す。
【
図4】光触媒粒子(例1及び2)の拡散反射スペクトルを示す。
【
図5】光触媒粒子(例1及び2)のCO
2還元光触媒性能を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について、以下に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0029】
<<1.光触媒粒子>>
本実施形態の二酸化炭素還元光触媒粒子(以下、「光触媒粒子」と総称する場合がある)は、酸化ガリウム(Ga2O3)粒子と、この酸化ガリウム粒子の表面に担持された銀(Ag)コート金(Au)ナノ粒子と、を含む。銀コート金ナノ粒子は、金属金(Au)ナノ粒子と、この金属金ナノ粒子の表面に設けられた金属銀(Ag)コートと、を備える。さらに、光触媒粒子は、拡散反射スペクトルにおいて波長350~550nmの範囲内にピークを有する。光触媒粒子の詳細について、以下に説明する。
【0030】
酸化ガリウム(Ga2O3)粒子は主触媒として機能するものである。酸化ガリウム粒子は、光触媒に用いられるものであれば特に限定されない。Ga2O3には、α型、β型、γ型、δ型及びε型が知られているが、いずれを用いてもよい。しかしながら、安定な酸化物であるβ型(β-Ga2O3)が好ましい。粒子の大きさも特に限定されない。例えば、粒子の平均粒子径は0.3~5.0μmである。さらに粒子の形状も特に限定されない。例えば、球状、不定形状、異方形状(ロッド又は板状等)が挙げられる。粒子がロッド状である場合、例えば、長軸径が1.0~5.0μm、短軸径が0.3~1.0μmのものを用いることができる。
【0031】
銀(Ag)コート金(Au)ナノ粒子は助触媒として機能するものであり、その平均粒子径はnmオーダー(1~999nm)である。助触媒として機能するナノ粒子を微細にすることで、光触媒の触媒性能が高くなる。これに対してナノ粒子がnmオーダーより大きいと、触媒活性などの助触媒としての機能が失われたり、あるいは酸化ガリウム粒子の表面活性点が少なくなったりする恐れがある。
【0032】
銀コート金ナノ粒子における金属銀(Ag)は、二酸化炭素(CO2)光還元の際に、一酸化炭素(CO)を選択的に生成させる働きがある。一方で、金属金(Au)はCO2の還元ではなく、水素イオン(H+)の還元による水素生成を促進する。金は銀よりも仕事関数が大きい。そのため、銀コート金ナノ粒子を助触媒として用いて、半導体である酸化ガリウムとの接点を金とすると、光励起により生成した電子と正孔の電荷分離をより促進する。したがって、光触媒反応が起きやすくなり、その結果、生成ガス量の増大が期待される。
【0033】
本実施形態の光触媒粒子は、拡散反射スペクトルにおいて波長350~550nmの範囲内にピークを有する。これにより光触媒粒子の触媒性能が優れたものになる。拡散反射スペクトルは拡散反射法により得られる吸収スペクトルである。粉末などの固体試料に光を照射すると、散乱過程を経て、照射した光の一部が試料表面で反射されて、残りは試料内に侵入する。侵入した入射光は試料の電子遷移状態により一部が吸収されて、残りが試料外に出ていく。紫外光や可視光の入射光強度と散乱過程後の光強度とから吸収スペクトルを得ることができる。
【0034】
拡散反射スペクトルにおいて特定波長域(350~550nm)にピークを有する光触媒粒子が高いCO選択率を示す、そのメカニズムの詳細は不明である。しかしながら、銀コート金ナノ粒子の粒子サイズと電子遷移状態とが関係しているのではないかと推測している。すなわち、拡散反射法により得られるスペクトル(拡散反射スペクトル)は、種の価数、配位構造、配位子場といった試料の電子遷移状態を反映している。また、試料が微粒子である場合には、その粒子サイズによって異なる吸収エネルギーを示す場合がある。例えば、微粒子は、プラズモン共鳴に対応する波長域に吸収帯を与えることが知られている。したがって、特定波長域(350~550nm)にピークを有する本実施形態の光触媒粒子では、銀コート金ナノ粒子が、微細で特有の電子遷移状態を有するものになっていると考えられる。
【0035】
ところで、銀コート金ナノ粒子の粒子サイズと電子遷移状態は、光触媒の触媒性能、例えばCO選択率に影響を及ぼすことが予想される。このことを銀コート金ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子(光触媒粒子)のCO2還元のメカニズムに基づき説明する。エネルギーhνをもつ光が粒子に照射されると、酸化ガリウム粒子(半導体光触媒粒子)中に電子(e-)と正孔(h+)とが生じる。この際、金属銀(助触媒)は電荷分離(電子e-と正孔h+の分離)を促進する。正孔(h+)が周囲の水分(H2O)と反応することで、下記[A]に示す反応が右方向に進み、酸素(O2)とプロトン(H+)とが生成される。一方で、電子(e-)が二酸化炭素(CO2)及びプロトン(H+)と反応する結果、下記[B]及び[C]に示す反応が右方向に進み、一酸化炭素(CO)と水(H2O)と水素(H2)が生成する。また、下記[A]から[C]の反応を合わせると、原理的には下記[D]に示す反応が進む。
【0036】
【0037】
上記[B]と[C]の反応が同じ程度で起こると、上記[D]に示されるようにCO選択率(CO発生速度/(H2発生速度+CO発生速度))は一定である。しかしながら、実際にはこれらの反応が同じ程度に起こるとは限らない。上記[B]の反応が優先的に起こることで、CO選択率が高くなる。
【0038】
この点、上記[B]の反応では、二酸化炭素(CO2)が炭酸塩種(carbonate species)として触媒表面に吸着し、光照射により反応中間体であるギ酸塩種(formate species)に変化した後に水分子と相互作用して一酸化炭素(CO)になるとの報告がある。またこの報告では、銀助触媒が反応中間体の生成を促進することが示唆されている。したがって、助触媒による電荷分離の作用及び反応中間体生成の作用を高めることで、上記[B]の反応が優先的に起こり、CO選択率がより一層に改善されると期待される。本実施形態の光触媒粒子は、銀コート金ナノ粒子が微細で特有の電子遷移状態を有するものになっているが故に、これらが複合的に作用して電荷分離の作用及び反応中間体生成の作用が高くなっているのではないかと推察している。
【0039】
本実施形態の光触媒粒子では、銀コート金ナノ粒子の平均粒子径は5.0~100.0nmが好ましい。平均粒子径を5.0nm以上とすることで、助触媒(金及び銀)の濃度(担持量)を低くしたり、あるいは有機表面保護剤を添加したりする必要無く、ナノ粒子形成が可能になる。一方で平均粒子径を100.0nm以下とすることで、触媒活性などの助触媒としての機能が失われたり、あるいは酸化ガリウム粒子の表面活性点が少なくなったりする問題を防ぐことが可能になる。平均粒子径は10.0~30.0nmがより好ましい。なお平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて光触媒粒子を観察することで求めることができる。一例として、目視又は画像解析ソフトウエアにより金コート銀ナノ粒子の粒径分布を求め、この粒径分布から個数平均値を算出するという手法が挙げられる。
【0040】
本実施形態の光触媒粒子では、銀コート金ナノ粒子の担持量は酸化ガリウム粒子に対して0.3~10.0質量%が好ましい。担持量が過度に少ないと助触媒の効果を十分に発揮させることが困難になる。そのため、CO2還元に光触媒を用いたときにCOガス発生速度とCO選択率が低くなってしまう。一方で、担持量が過度に多いとCOガス発生速度が低下する。担持量は、光触媒粒子製造時に金及び銀の供給源配合量や超音波処理条件を制御することで調整できる。銀コート金ナノ粒子の担持量は0.5質量%以上であってよく、1.0質量%以上であってよく、3.0質量%以上であってよく、5.0質量%以上であってもよい。また担持量は7.5質量%以下であってよく、5.0質量%以下であってよく、3.0質量%以下であってよく、1.0質量%以下であってもよい。
【0041】
本実施形態の光触媒粒子では、銀コート金ナノ粒子における金(Au)の担持量(含有量)は金(Au)及び銀(Ag)の合計量に対して1.0~80.0mol%であることが好ましい。金担持量が過度に少ないと金ナノ粒子の効果を十分に発揮させることが困難になる。一方で金担持量が過度に多いと、金助触媒の効果が大きくなり過ぎてしまい、COが生成せずH2のみが生成する恐れがある。金担持量は1.0mol%以上であってよく、3.0mol%以上であってよく、5.0mol%以上であってよく、10.0mol%以上であってもよい。また金担持量は80.0mol%以下であってよく、50.0mol%以下であってよく、30.0mol%以下であってよく、10.0mol%以下であってもよい。
【0042】
本実施形態の光触媒粒子は、CO2還元光触媒性能評価試験において、光触媒粒子のCO選択率が20%以上であることが好ましい。CO選択率を高めることで、CO2還元により発生するCOガス量の割合を高くすることが可能になる。CO選択率は30%以上であってもよい。CO選択率の上限は特に限定されるものではないが、典型的には90%以下、より典型的には80%以下である。
【0043】
CO
2還元光触媒性能評価試験は公知の評価装置を用いて行えばよい。評価装置の一例を
図1に示す。評価装置(2)は槽(4)とこの槽(4)内部に設けられた高圧水銀(Hg)ランプ(6)とから構成される。槽(4)の内部には評価用溶液(22)が入れられる。また槽(4)はガス導入管(8)、ガス排出管(10)、pH計(12)、ゴム栓(14)及びスターラー(16)を備えている。ガス導入管(8)の先端にはバブリングフィルター(18)が設けられている。水銀ランプ(6)は、その周囲に流れる冷却水(20)によって冷却される。
【0044】
評価試験は次のようにして行えばよい。純水、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)及びサンプル(光触媒粒子)を混合して評価用溶液(22)を作製する。この評価用溶液(22)を評価装置(2)の槽(4)に入れて、スターラー(16)で撹拌する。二酸化炭素(CO2)ガス(30)をガス導入管(8)から吹き込み、それと同時に高圧Hgランプ(6)からUV光を評価用溶液(22)に照射する。所定時間照射した後に、発生したガス(32)を、ガス排出管(10)を通してガスクロマトグラフィー(34)に導入し、そこで分析する。この分析により、水素(H2)、酸素(O2)及び一酸化炭素(CO)の発生速度(生成量)を求める。得られた発生速度を用いて、下記(1)式に基づきCO選択率を算出する。
【0045】
【0046】
<<2.光触媒粒子の製造方法>>
本実施形態の光触媒は、上述する要件を満足する限り、その製造方法は限定されない。しかしながら、酸化ガリウム(Ga2O3)粒子と金(Au)供給源と第1還元液とを含む第1反応液に超音波を照射して、金ナノ粒子を担持した酸化ガリウム粒子を作製し、その後、得られた金ナノ粒子を担持した酸化ガリウム粒子と銀(Ag)供給源と第2還元液とを含む第2反応液に超音波を照射して得られたものであることが好ましい。好ましい製造方法の態様について以下に具体的に説明する。
【0047】
光触媒粒子の製造方法は、好ましくは、以下の工程;酸化ガリウム(Ga2O3)粒子と金(Au)供給源と第1還元液とを含む第1反応液を準備する工程(第1反応液準備工程)、第1反応液に超音波を照射して、金ナノ粒子を担持した酸化ガリウム粒子を作製する工程(超音波金担持工程)、金ナノ粒子を担持した酸化ガリウム粒子と銀(Ag)供給源と第2還元液とを含む第2反応液を準備する工程(第2反応液準備工程)、及び第2反応液に超音波を照射して、銀コート金ナノ粒子を担持した酸化ガリウム粒子を作製する工程(超音波銀担持工程)を含む。各工程の詳細について以下に説明する。
【0048】
<第1反応液準備工程>
第1反応液準備工程では、酸化ガリウム(Ga2O3)粒子と金(Au)供給源と第1還元液とを含む第1反応液を準備する。酸化ガリウム(Ga2O3)粒子は光触媒に用いられるものであれば特に限定されない。Ga2O3には、α型、β型、γ型、δ型及びε型が知られているが、いずれを用いてもよい。しかしながら、安定な酸化物であるβ型(β-Ga2O3)が好ましい。粒子の大きさも特に限定されない。例えば、粒子の平均粒子径は0.3~5.0μmである。さらに粒子の形状も特に限定されない。例えば、球状、不定形状、異方形状(ロッド又は板状等)が挙げられる。粒子がロッド状である場合、例えば、長軸径が1.0~5.0μm、短軸径が0.3~1.0μmのものを用いることができる。
【0049】
金(Au)供給源は、第1還元液(アルコールや水等)に溶解するものであれば特に限定されない。金供給源は、例えば、AuBr3、KAuBr4、NaAuBr4、AuCl3、KAuCl4、NaAuCl4、HAuCl4、AuI3、Au2S3、HAuCl4N、AuCN、及びこれらの水和物から選ばれる少なくとも一種が挙げられ、その中でも、テトラクロリド金(III)酸(HAuCl4)及び/又はその水和物が好ましい。金供給源の供給は、金供給源を第1還元液に添加及び混合して行えばよい。金供給源の添加中又は添加後に超音波を照射してもよい。金供給源の添加中又は添加後の第1還元液の液温を、好ましくは20~60℃、より好ましくは30~50℃に維持する。
【0050】
第1還元液は、還元性を有する液体である限り限定されない。それ自体が還元性を有する液体であってもよく、あるいは還元性を有しない液体に還元剤を溶解させたものであってもよい。しかしながら、それ自体が還元性を有する液体であることが好ましい。また別個の還元剤を含まなくともよい。このような還元液として、毒性が低く入手が容易なエタノールやプロパノールなどのアルコール類、あるいはアルコール類と水との混合液が好ましい。水溶液中のアルコール濃度は1~500mMが好ましい。
【0051】
第1反応液は、準備した酸化ガリウム粒子と金供給源とを第1還元液に加えて調整する。酸化ガリウム粒子と金供給源の配合割合は、最終的に得られる光触媒中の金担持量が所望の値となるように調整すればよい。
【0052】
<超音波金担持工程>
超音波金担持工程では、得られた第1反応液に超音波を照射して、金ナノ粒子を担持した酸化ガリウム粒子(金ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子)を作製する。超音波照射により、第1反応液中の金供給源であるAu3+イオンが還元されて、金属金(Au)ナノ粒子となり、これが酸化ガリウム粒子の表面に担持される。
【0053】
具体的には、次に示すメカニズムにより、金ナノ粒子の担持が進むと考えられる。周波数が数百kHzの超音波を、アルコールなどを含む水溶液に照射すると、まず下記[E]に示すように水の熱分解反応が起こり、水素ラジカル(H・)とヒドロキシルラジカル(OH・)が生成する。次に下記[F]に示す反応が進行し、これらのラジカルがアルコールなどの有機物と反応して、有機物由来のラジカル(R・)が生成する。その後、下記[G]に示すように、水素ラジカル(H・)や有機物由来ラジカル(R・)が還元剤となり、金イオンが還元されて、金属金ナノ粒子が生成し、これが酸化ガリウム粒子上に担持される。
【0054】
【0055】
超音波処理には特別な装置を用いる必要はなく、通常の超音波発振源を備えた装置を用いればよい。例えば、市販の超音波洗浄機を使用してもよい。照射する超音波の周波数は20~300kHzが好ましい。また超音波の出力は、例えば10~1000Wであってよく、あるいは50~80Wであってもよい。
【0056】
超音波を照射する処理を、不活性ガス雰囲気下で5分~10時間行うことが好ましい。また、超音波処理前の第1反応液に、不活性ガスを用いたバブリング処理を行うことが好ましい。溶液中に溶存酸素が存在する場合、Au3+イオンの還元反応は起きない。不活性ガス種としては、アルゴン(Ar)が好ましく、窒素(N2)や、アルゴン(Ar)以外の希ガスを用いることができる。また、処理時間を長くすることで、金供給源の全てを金ナノ粒子に変換させて酸化ガリウム粒子に担持させることが可能となる。一方で、処理時間を短くすることで、金ナノ粒子の担持量を調整することが可能となる。
【0057】
必要に応じて、超音波照射後の反応液(第2反応液)に固液分離処理を施して、金ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子を回収してもよい。固液分離処理の手法は特に限定されず、減圧濾過や遠心分離などの手段で行えばよい。また、回収した金ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子を洗浄及び/又は乾燥してもよい。乾燥方法は特に限定されず、大気乾燥や真空乾燥を用いることができる。乾燥温度は、好ましくは20~70℃である。
【0058】
<第2反応液準備工程>
第2反応液準備工程では、金ナノ粒子を担持した酸化ガリウム粒子と銀(Ag)供給源と第2還元液とを含む第2反応液を準備する。金ナノ粒子を担持した酸化ガリウム粒子として、上述した超音波金担持工程を経て得られたものを用いる。
【0059】
銀(Ag)供給源は、銀を供給できるものである限り限定されない。具体的には、酸化物、無機金属塩及び/又は有機金属化合物が挙げられる。無機金属塩として硝酸塩、塩化物及び/又は硫酸塩などが挙げられる。銀供給源は、還元液に溶解するものであってもよいし、あるいは溶解しないものであってもよい。しかしながら、銀供給源は酸化銀を含むことが好ましい。酸化銀は、銀イオンと酸素イオンのみで構成されるため、ハンドリングが容易であり、廃棄物処理等の問題が無い。酸化銀には、銀の酸化数が異なるAg2O、AgO及びAg2O3が知られており、いずれも使用が可能である。しかしながら、入手がより容易なAg2Oが好ましい。銀供給源の大きさも特に限定されない。例えば銀供給源の平均粒子径は0.3~3.0μmである。
【0060】
第2還元液は、還元性を有する液体である限り限定されない。それ自体が還元性を有する液体であってもよく、あるいは還元性を有しない液体に還元剤を溶解させたものであってもよい。しかしながら、それ自体が還元性を有する液体であることが好ましい。また別個の還元剤を含まなくともよい。このような還元液として、毒性が低く入手が容易なエタノールやプロパノールなどのアルコール類、あるいはアルコール類と水との混合液が好ましい。水溶液中のアルコール濃度は1~500mMが好ましい。第2還元液は第1還元液と同じであってよく、あるいは異なっていてもよい。好ましくは、第1還元液及び/又は第2還元液はアルコールを含む。
【0061】
第2反応液は、超音波金担持工程を経て得られた金ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子と銀供給源とを第2還元液に加えて調整する。第2反応液の調製手法は特に限定されない。超音波金担持工程で金ナノ粒子担持酸化ガリウムを第1反応液から回収及び乾燥した場合には、乾燥した金ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子と酸化ガリウム粒子とを第2還元液に加えればよい。あるいは、第1還元液と第2還元液が同一の場合には、超音波金担持工程を経た第1反応液にさらに銀供給源を加えて第2反応液としてもよい。酸化ガリウム粒子と銀供給源の配合割合は、最終的に得られる光触媒中の銀担持量が所望の値となるように調整すればよい。
【0062】
<超音波銀担持工程>
超音波銀担持工程では、得られた第2反応液に超音波を照射して、銀コート金ナノ粒子を担持した酸化ガリウム粒子(銀コート金ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子)を作製する。この際、銀供給源は超音波照射により金属銀へ還元され、金ナノ粒子表面に析出し、金属銀コート金属金ナノ粒子(銀コート金ナノ粒子)を形成する。
【0063】
金属銀への還元メカニズムをより具体的に説明するに、超音波が照射されると反応液中に疎密波が生じ、この疎密波により正負の繰り返し圧力が生じる。負圧サイクル時には蒸発により無数の微細な気泡が反応液中に生じる。正圧サイクル時に、この気泡は圧壊して強力な衝撃力を周囲に与える。この現象を超音波キャビテーションという。キャビテーションにより反応液中の金ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子と銀供給源とが均一に分散されるとともに、その表面が清浄化される。またキャビテーションにより微小で高温且つ高圧のホットスポットが生成する。生成したホットスポットは、銀供給源を分解還元させるとともに、反応液に作用してラジカルが発生し、このラジカルが銀供給源の分解還元を促進する。このようにして銀供給源から金属銀へ還元され、銀コート金ナノ粒子が生成する。
【0064】
例えば、固体である酸化銀(Ag2O)を銀供給源に用いた場合には、酸化銀にホットスポットやラジカルが作用し、酸化銀が表面で分解及び還元されて金属銀が析出する。有機保護剤や高温焼成が不要であるため、銀表面への有機物の残留がない銀コート金ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子(光触媒粒子)の作製が可能である。
【0065】
光触媒粒子が銀コート金ナノ粒子以外の銀供給源を含むと、助触媒の効果を十分に発揮させることが困難になることがある。この点、超音波処理によれば、銀供給源(酸化銀等)を殆ど含まない光触媒粒子を得ることが可能である。例えば、X線回折パターンにおいて、酸化銀(Ag2O)のピークが観察されない光触媒粒子を得ることが可能である。
【0066】
超音波処理には特別な装置を用いる必要はなく、通常の超音波発振源を備えた装置を用いればよい。例えば、市販の超音波洗浄機を使用してもよい。処理も通常の条件で行えばよい。例えば、超音波の周波数は20~300kHzであってよく、28~45kHzであってよい。超音波処理を同一の周波数で継続して行ってもよく、あるいは周波数発振切替モードを用いて処理の途中で周波数を切り替えてもよい。周波数切り替えの回数は1回でもよく、あるいは複数回であってもよい。周波数発振切替モード(例えば28kHz/45kHzの2周波切替発振モード)で処理することで、酸化ガリウム粒子の液中での分散性をより一層に向上させることが可能になる。また、超音波の出力は10~500Wであってよく、50~200Wであってよい。さらに処理時間は1~10時間であってよい。処理時間を長くすることで、銀供給源の全てをナノ粒子表面の銀コートに変換させて酸化ガリウム粒子に担持させることが可能である。一方で処理時間を短くすることで、銀の担持量を調整することが可能である。
【0067】
超音波銀担持反応により得られた生成物(銀コート金ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子)は、第2反応液中に分散又は沈殿した状態で存在する。したがって、第2反応液から生成物を回収して、これを洗浄及び/又は乾燥すればよい。回収では、濾過や遠心分離等の公知の分離手段を用いればよい。また乾燥は、銀コート金ナノ粒子が過度の粒成長を起こさない条件、例えば100℃以下で行えばよい。このようにして銀コート金ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子からなる光触媒粒子を得ることができる。なお先述したように、銀コート金ナノ粒子の担持量が酸化ガリウム粒子に対して0.3~10.0質量%であることが好ましい。担持量は、金及び銀の供給源の配合量や超音波処理条件を制御することで調整できる。
【0068】
本実施形態の製造方法によれば、特に超音波処理を行うことで、銀コート金ナノ粒子を高分散且つ高担持率で析出させることが可能になる。実際、銀コート金ナノ粒子を3.5質量%もの高濃度で担持でき、それによりCO選択率に優れた光触媒粒子を得られることが確認されている。これに対して、従来から提案されている含浸法や光電析法では金属銀ナノ粒子を高分散且つ高担持率で担持させることは困難である。例えば、特許文献1には銀の担持量に関して、光電着法による場合には酸化ガリウムに対して0.2~2質量%、含浸法による場合には0.05~2%であること、最適範囲より多い場合には銀ナノ粒子の粒子径が大きくなり触媒活性などの効果が失われたり、酸化ガリウムの表面活性点を減らしたりすることが記載されている(特許文献1の[0014]及び[0015])。
【0069】
また、特許文献2で提案される製造方法では、超音波処理は貴金属酸化物を分散させるために行われるに過ぎず、超音波処理後の加熱工程で貴金属酸化物の還元を図っている(特許文献2の[0038])。したがって、超音波処理により銀供給源(酸化銀等)の還元を行う本実施形態の方法とは明確に異なる。本実施形態の製造方法では、超音波処理後の加熱を行わなくとも、十分に還元された銀コートを備えたナノ粒子を担持させることが可能である。
【0070】
さらに本実施形態の製造方法によれば、限定されるものではないが、反応液に溶解しない酸化銀などの化合物を固体状態のまま銀供給源に用いることが可能である。反応液に溶解しない化合物を用いた場合には、反応液がアニオン等の有害物を含んでおらず、廃液処理が容易である。これに対して特許文献1で提案される含浸法や光電析法では、硝酸銀を溶解させた水溶液などの前駆体溶液を用いている。このような前駆体溶液に含まれる硝酸イオンなどのアニオンは大気汚染の原因となる有害物質である。したがって含浸法や光電析法では有害物質を無毒化するための廃液処理が必要である。ただし本実施形態の製造方法は、反応液に溶解する化合物を用いることを排除するものではない。そのような場合であっても、銀コート金ナノ粒子を高分散且つ高担持率で析出させることができる。
【0071】
その上、本実施形態の製造方法を採用することで、触媒性能、特にCO選択率及びガス生成量に優れた触媒粒子を簡易に得ることが可能である。その詳細な理由は不明であるが、超音波還元により生成した銀コート金ナノ粒子が微細で特有の電子遷移状態を有するためと推測している。すなわち超音波還元処理で生成した銀コート金ナノ粒子(助触媒)は粒子サイズが小さい。また超音波処理時に発生した高温且つ高圧のホットスポットやラジカルの作用によって特有の電子遷移状態になっていると考えられる。実際、超音波により生じたホットスポットは5000℃近くの高温であるとの報告があり、このような高温のホットスポットが瞬間的にでも作用することで、電子遷移状態が変化することは容易に予想される。そしてこの微細な粒子サイズと特有の電子遷移状態とが複合的に作用して優れた触媒性能をもたらすと推測している。
【実施例0072】
本実施形態を、以下の例によってさらに具体的に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定される訳ではない。
【0073】
(1)光触媒粒子の作製
[例1]
例1では、銀コート金ナノ粒子を担持した酸化ガリウム粒子を超音波処理によって作製し、これを光触媒粒子に用いた。作製の際、酸化ガリウム0.5gに対する金と銀の合計担持量を0.14mmol(3.2質量%)とした。また金と銀のモル比率を、金:銀=10:90とした。具体的には以下の手順でサンプルを作製した。
【0074】
酸化ガリウム粒子(株式会社高純度化学研究所、Ga2O3)、塩化金酸4水和物(富士フィルム和光純薬株式会社、HAuCl4・4H2O)、酸化銀(富士フィルム和光純薬株式会社、Ag2O)、1-プロパノール(富士フィルム和光純薬株式会社)、及びエタノール(関東化学株式会社)を準備した。酸化ガリウム粒子は、純度が99.99%であり、平均粒子径は、長径が約3μm、短径が約1μmであった。また酸化銀は、純度が99%であり、1次粒子径が約2μmの凝集体であった。また塩化金酸4水和物から塩化金酸水溶液を調整した。
【0075】
酸化ガリウム粒子(0.5g)と塩化金酸水溶液(49mM、0.28mL)と超純水(49.6mL)を混合した還元溶液を1-プロパノール(0.15mL)に添加して、第1反応液を調整した。第1反応液中の1-プロパノール濃度は40mMであった。
【0076】
得られた第1反応液にArガスバブリング処理(流量:0.3L/分)を30分間施して、ガス置換した。次いで、超音波照射装置を用いて、ガス置換した第1反応液に超音波を1時間照射した。この際、超音波の周波数は200kHzとした。また第1反応液の温度を20~25℃に制御した。超音波処理後の第1反応液を減圧濾過して生成粒子を回収し、回収した生成粒子を超純水で洗浄した後、大気中60℃で2時間乾燥した。これにより、金ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子を得た。
【0077】
得られた金ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子(0.91g)と酸化銀(26mg)をエタノール(50mL;第2還元液)に添加して第2反応液を調整した。次いで、得られた第2反応液に超音波処理を施した。超音波処理は、28kHzと45kHzの2周波切替発振とし、出力100Wの条件で行った。また処理時間を3時間とした。この際、反応液の温度を40℃に維持した。この処理により、第2反応液中の酸化銀(Ag2O)が還元されて銀(Ag)に変化し、それに伴い、銀コート金ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子が得られた。
【0078】
[例2]
例2では、銀コート金ナノ粒子を担持した酸化ガリウム粒子を超音波処理によって作製し、これを光触媒粒子に用いた。作製の際、酸化ガリウム0.5gに対する金と銀の合計担持量を0.14mmol(3.5質量%)とした。また金と銀のモル比率を、金:銀=20:80とした。
【0079】
具体的には、第1反応液を調整する際、酸化ガリウム粒子(0.5g)と塩化金酸水溶液(49mM、0.57mL)を1-プロパノールに添加した。また、第2反応液を調整する際、金ナノ粒子担持酸化ガリウム粒子(0.91g)と酸化銀(23mg)を第2還元液(エタノール)に添加した。それ以外は例1と同様にして、光触媒粒子を作製した。
【0080】
(2)光触媒粒子の評価
例1及び2で得られたそれぞれのサンプルについて、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0081】
<STEM観察>
サンプルを走査透過型電子顕微鏡(STEM;株式会社日立ハイテクノロジーズ、HD2700)を用いて観察した。観察は、透過電子像で加速電圧200kVの条件で行った。また、顕微鏡付属のEDX装置を用いて、ナノ粒子の元素分析を行い、構成元素の分布を調べた。
【0082】
<拡散反射スペクトル>
サンプルの固体状態での拡散反射スペクトルを、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社、V-650)を用いて、波長200~800nmの範囲で測定した。
【0083】
<CO
2還元光触媒性能>
サンプルのCO
2還元光触媒性能を
図1に示す評価装置を用いて評価した。まず超純水(1L)、NaHCO
3(0.1M)及び光触媒粒子(0.5g)を混合して評価用溶液を作製した。次にこの評価用溶液を評価装置の槽に入れ、二酸化炭素(CO
2)ガスを30mL/分の流量で吹き込みながら、400W高圧HgランプでUV光を照射した。1時間照射後に発生したガスをガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所、GC-8A)を用いて分析して、H
2、O
2及びCO発生速度を求めた。そして下記(1)式に基づきCO選択率を算出した。
【0084】
【0085】
(3)評価結果
<STEM観察>
例1及び例2のサンプルについて得られたSTEM/EDX像のそれぞれを
図2及び
図3に示す。EDX像(マッピング像)から、いずれのサンプルでも銀コート金ナノ粒子が酸化ガリウム粒子表面に担持していることが分かる。
【0086】
<拡散反射スペクトル>
例1及び2のサンプルについて得られた拡散反射スペクトルを
図4に示す。いずれのサンプルで、波長350nm~550nm付近にピークが観測された。このピークは金属銀に起因すると推測された。
【0087】
<CO
2還元光触媒性能>
例1及び2のサンプルについて得られてCO
2還元光触媒性能(ガス発生速度及びCO選択率)を下記表1及び
図5に示す。例1及び2のサンプルでは、CO選択率が30%以上であり、合成ガスに対する光触媒性能を十分に期待できるレベルであった。
【0088】
以上の結果から、本実施形態によれば、触媒性能に優れた二酸化炭素還元光触媒粒子及びその製造方法が提供されることが分かる。
【0089】