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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119178
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】魚類の生殖腺発育促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/22 20060101AFI20240827BHJP
   C12N 5/075 20100101ALI20240827BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20240827BHJP
   A23K 20/147 20160101ALI20240827BHJP
   A23K 50/80 20160101ALI20240827BHJP
   A01K 61/10 20170101ALI20240827BHJP
   C07K 7/06 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
A61K38/22
C12N5/075
A61P15/00 171
A23K20/147
A23K50/80
A01K61/10
C07K7/06 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025897
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神田 真司
(72)【発明者】
【氏名】大久保 範聡
【テーマコード(参考)】
2B005
2B104
2B150
4B065
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
2B005GA02
2B005GA04
2B005MB09
2B104AA03
2B104AA07
2B104BA02
2B104BA09
2B150AA08
2B150AB20
2B150DC23
4B065AA90X
4B065BB19
4B065BB34
4B065CA60
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084CA18
4C084CA45
4C084DB41
4C084DB43
4C084NA14
4C084ZC61
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA15
4H045CA52
4H045DA30
(57)【要約】
【課題】新規な魚類の生殖腺発育促進剤の提供。
【解決手段】本発明によれば、コレシストキニン受容体作動剤(CCK受容体作動剤)を有効成分として含んでなる、魚類の生殖腺発育促進剤が提供される。本発明によればまた、CCK受容体作動剤を有効成分として含んでなる、魚類の卵胞刺激ホルモン放出促進剤が提供される。本発明によればまた、CCK受容体作動剤を魚類に投与することを含んでなる、魚類卵母細胞の卵黄形成促進方法が提供される。本発明によればまた、CCK受容体作動剤を魚類に投与することを含んでなる、生殖腺の発育が促進された魚類の生産方法が提供される。本発明によればまた、CCK受容体作動剤を魚類に投与することを含んでなる、早期催熟された魚類の生産方法が提供される。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コレシストキニン(CCK)受容体作動剤を有効成分として含んでなる、魚類の生殖腺発育促進剤。
【請求項2】
生殖腺が卵巣である、請求項1に記載の促進剤。
【請求項3】
卵胞細胞および/または卵母細胞の発育を促進するための、請求項1または2に記載の促進剤。
【請求項4】
CCK受容体作動剤がCCKまたはガストリンである、請求項1に記載の促進剤。
【請求項5】
CCKまたはガストリンが、ヒトまたは魚類のCCKまたはガストリンである、請求項4に記載の促進剤。
【請求項6】
CCKおよびガストリンが、式(A)DXGWXDF-NH(式中、XはYまたはAであり、前記Yは硫酸化されていてもよく、XおよびXは任意のアミノ酸である)(配列番号13)のアミノ酸配列または式(B)WXDF-NH(式中、Xは任意のアミノ酸である)(配列番号12)のアミノ酸配列をC末端に有するペプチドである、請求項4に記載の促進剤。
【請求項7】
前記式(A)のアミノ酸配列が、
式(1)DYMGWMDF-NH(式中、C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されている)(配列番号6)、
式(2)DYLGWMDF-NH(式中、C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されている)(配列番号4)、
式(3)DYRGWLDF-NH(式中、C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されている)(配列番号5)、
式(4)DYLGWMDF-NH(式中、C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されている)(配列番号18)、
式(5)DYVGWMDF-NH(式中、C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されている)(配列番号19)、
式(6)DYMGWMDF-NH(式中、C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されている)(配列番号20)および
式(7)DANGWMDF-NH(配列番号21)
からなる群から選択される、請求項6に記載の促進剤。
【請求項8】
魚類が、下位条鰭類または真骨魚類である、請求項1または5に記載の促進剤。
【請求項9】
CCK受容体作動剤を有効成分として含んでなる、魚類の卵胞刺激ホルモン(FSH)放出促進剤。
【請求項10】
CCK受容体作動剤を魚類に投与することを含んでなる、魚類卵母細胞の卵黄形成促進方法。
【請求項11】
CCK受容体作動剤を魚類に投与することを含んでなる、生殖腺の発育が促進された魚類の生産方法。
【請求項12】
魚類がウナギまたはチョウザメである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載の方法を実施して生殖腺の発育が促進された魚類を生産し、次いで、生殖腺の発育が促進された魚類から卵を採取する、魚類の卵の採取方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法を実施して魚類から卵を採取し、次いで、採取された卵を人工受精させることを含む、魚類の受精卵の生産方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法を実施して魚類から卵を採取し、次いで、採取された卵を人工受精させ、さらに得られた受精卵を孵化させることを含む、魚類の仔魚の生産方法。
【請求項16】
生殖腺の発育が促進された魚類が、早期催熟された魚類である、請求項11または12に記載の生産方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類の生殖腺発育促進剤に関する。本発明はまた、魚類の卵胞刺激ホルモン(FSH)放出促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脊椎動物において、卵を成長させて排卵させる制御システムとして、脳下垂体で産生される卵胞刺激ホルモン(FSH)及び黄体形成ホルモン(LH)といった生殖腺刺激ホルモン(GTH)が中心的役割を果たしている。魚類では、脳下垂体から分泌されたFSHが血流に入り卵母細胞を取り囲む卵胞細胞に作用し、エストロジェンおよびビテロジェニンを介することにより、卵母細胞では卵黄形成が進み、卵母細胞が発育する。人工飼育環境下のウナギ等においては、生殖腺の成熟がほとんど進行しないため人為的な成熟誘導(人為催熟)が行われる。近年の人為催熟の研究により、ウナギやその他の魚類の発達中の卵巣において卵母細胞と、卵母細胞を取り囲む卵胞細胞の発育はFSHのみによって促進され、LHは卵母細胞の最終成熟・排卵の誘発のみに関わることが明らかとなってきた(非特許文献1および2)。人為催熟としては、これまでウナギの卵を得るためにFSHの投与が行われてきたものの、FSHは複雑な糖タンパク質ホルモンであり、合成に莫大なコストがかかる。このため、FSHの比較的安価な代用として、サケ脳下垂体抽出物を使用する技術が用いられているが、排卵を促すホルモン等の夾雑物の影響による卵質の低下が課題となっている。
【0003】
魚類において、LHの制御には視床下部ホルモンであるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH/LHRH)が有効であることが古くから知られていた。一方で、卵胞細胞および卵母細胞の発達を促すFSHの制御に関しては明らかとなっていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Takahashi et al., Endocrinology, 157, 2016: 3994-4002.
【非特許文献2】日本水産学会誌、86(5)、364-366(2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、魚類の生殖腺発育促進剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは今般、イン・サイチュ(in situ)ハイブリダイゼーション法および免疫組織化学により、メダカ成体脳下垂体においてFSH細胞がCCK受容体B1(CCKRB1)を発現し、視床下部のCCKニューロンからの支配を受けることを見出した。本発明者らはまた、CCKRB1レポーターアッセイにより、メダカCCK-8およびメダカガストリン-8がCCKRB1を介してcAMP、Ca2+およびMAPKを賦活することを見出した。本発明者らはまた、CCKRB1ノックアウトメダカの解析により、CCKRB1ノックアウトメダカでは卵巣および精巣の発達が著しく阻害され、FSH発現量も著しく低下することを見出した。本発明者らはまた、カルシウムイメージング解析により、メダカCCK-8およびメダカCCK-4がFSH細胞の細胞内カルシウム濃度を急激に上昇させること、すなわちFSH放出を促進することを見出した。本発明者らはまた、PCR法および二重イン・サイチュハイブリダイゼーション法により、メダカで見出した知見が魚類一般において保存された機構であって、魚類一般に適用できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0007】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]コレシストキニン(CCK)受容体作動剤を有効成分として含んでなる、魚類の生殖腺発育促進剤。
[2]生殖腺が卵巣である、上記[1]に記載の促進剤。
[3]卵胞細胞および/または卵母細胞の発育を促進するための、上記[1]または[2]に記載の促進剤。
[4]CCK受容体作動剤がCCKまたはガストリンである、上記[1]~[3]のいずれかに記載の促進剤。
[5]CCKまたはガストリンが、ヒトまたは魚類のCCKまたはガストリンである、上記[4]に記載の促進剤。
[6]CCKおよびガストリンが、式(A)DXGWXDF-NH(式中、XはYまたはAであり、前記Yは硫酸化されていてもよく、好ましくは硫酸化チロシンであり、XおよびXは任意のアミノ酸であり、Xは好ましくはM、V、N、A、Q、R、TまたはNであり、Xは好ましくはV、LまたはMである)(配列番号13)のアミノ酸配列または式(B)WXDF-NH(式中、Xは任意のアミノ酸であり、Xは好ましくはM、LまたはVである)(配列番号12)のアミノ酸配列をC末端に有するペプチドである、上記[4]または[5]に記載の促進剤。
[7]前記式(A)のアミノ酸配列が、
式(1)DYMGWMDF-NH(式中、C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されている)(配列番号6)、
式(2)DYLGWMDF-NH(式中、C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されている)(配列番号4)、
式(3)DYRGWLDF-NH(式中、C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されている)(配列番号5)、
式(4)DYLGWMDF-NH(式中、C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されている)(配列番号18)、
式(5)DYVGWMDF-NH(式中、C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されている)(配列番号19)、
式(6)DYMGWMDF-NH(式中、C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されている)(配列番号20)および
式(7)DANGWMDF-NH(配列番号21)
からなる群から選択される、上記[6]に記載の促進剤。
[8]魚類が、下位条鰭類または真骨魚類である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の促進剤。
[9]CCK受容体作動剤を有効成分として含んでなる、魚類の卵胞刺激ホルモン(FSH)放出促進剤。
[10]CCK受容体作動剤を魚類に投与することを含んでなる、魚類卵母細胞の卵黄形成促進方法。
[11]CCK受容体作動剤を魚類に投与することを含んでなる、生殖腺の発育が促進された魚類の生産方法。
[12]魚類がウナギまたはチョウザメである、上記[11]に記載の方法。
[13]上記[11]または[12]に記載の方法を実施して生殖腺の発育が促進された魚類を生産し、次いで、生殖腺の発育が促進された魚類から卵を採取する、魚類の卵の採取方法。
[14]上記[13]に記載の方法を実施して魚類から卵を採取し、次いで、採取された卵を人工受精させることを含む、魚類の受精卵の生産方法。
[15]上記[13]に記載の方法を実施して魚類から卵を採取し、次いで、採取された卵を人工受精させ、さらに得られた受精卵を孵化させることを含む、魚類の仔魚の生産方法。
[16]生殖腺の発育が促進された魚類が、早期催熟された魚類である、上記[11]~[15]のいずれかに記載の生産方法。
【0008】
本発明によれば、魚類において生殖腺、特に卵胞細胞および卵母細胞の発育を、4ないし8アミノ酸からなる非常に安価なCCKおよびガストリン等のCCK受容体作動剤の投与により促進できる点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、メダカ成体脳下垂体におけるFSHbプローブおよびCCKRB1プローブを用いた二重イン・サイチュハイブリダイゼーションの結果を示す図である。左はFSHbの像(マゼンタ)、中央はCCKRB1の像(緑色)、右はFSHbとCCKRB1とを重ね合わせた像である。脳下垂体においてFSHbとCCKRB1との発現の重なりが観察された。
図2図2は、メダカ成体脳におけるCCK抗体を用いた免疫組織化学の結果を示す図である。左は視床下部、右は脳下垂体の像である。図中の矢印は、CCKニューロンの細胞体を示す。
図3図3は、CCKRB1レポーターアッセイの結果を示す図である。AはcAMP、BはCa2+、CはMAPKに対応するレポーターのCCKおよびガストリンにより賦活された活性を示す。
図4図4は、CCKRB1ノックアウト個体における生殖腺の表現型および脳下垂体におけるFSH遺伝子の発現量を示す図である。Aは野生型およびCCKRB1ホモノックアウト個体の卵巣および精巣の表現型、BはCCKRB1ヘテロノックアウト個体およびCCKRB1ホモノックアウト個体におけるFSHb mRNAの定量結果(FSHb/actb)を示す。
図5図5は、CCKペプチドに対するFSH細胞の反応性および用量応答性に関するカルシウムイメージング解析の結果を示す図である。Aは式(2)のペプチドへの反応性、Bは式(8)のペプチドへの反応性、Cは式(2)のペプチドへの用量応答性を示す。なお、AおよびBのグラフの縦軸は細胞内カルシウム(Ca2+)レベルの相対値を示し、横軸はペプチド投与後の経過時間(秒)を示す。Cのグラフの縦軸は細胞内カルシウムレベルの相対値を示す。
図6図6は、ウナギおよびチョウザメの脳下垂体におけるCCKRB遺伝子の発現を示す図である。左のレーンより、100bpラダーマーカー、ウナギCCKRB、チョウザメCCKRBのPCR産物の電気泳動を示す。
図7図7は、ウナギ脳下垂体におけるFSHbプローブおよびCCKRBプローブを用いた二重イン・サイチュハイブリダイゼーションの結果を示す図である。左はFSHbの像(マゼンタ)、中央はCCKRBの像(緑色)、右はCCKRBとFSHbとを重ね合わせた像である。脳下垂体においてFSHbとCCKRBとの発現の重なりが観察された。
【発明の具体的説明】
【0010】
本発明において「コレシストキニン受容体作動剤」(本明細書において、「CCK受容体作動剤」ともいう)は、CCK受容体介在性シグナル伝達を活性化する薬剤をいう。
【0011】
CCK受容体介在性シグナル伝達の活性化は、後記実施例に記載されるように、CCKRB1遺伝子を発現させた培養細胞を用いて、細胞内カルシウム濃度、細胞内cAMP濃度または細胞内MAPK濃度をモニターする方法により確認することができる。
【0012】
CCK受容体作動剤としては、CCK受容体に対してアゴニストとして作用するペプチド、タンパク質および化合物とすることができ、例えば、コレシストキニン(cholesystokinin、本明細書において「CCK」ということがある)、ガストリン(gastrin)が挙げられる。本発明においては、コレシストキニン(CCK)およびガストリン並びにそれらの断片からなる群から選択される1種以上のペプチドをCCK受容体作動剤として使用することができる。なお、本発明において上記ペプチドを構成するアミノ酸は天然のCCKおよびガストリンにおけるアミノ酸の修飾(例えば、C末端から7番目のチロシン残基の硫酸化、C末端アミノ酸のカルボキシ基のアミド化)がなされているものとすることができる。
【0013】
「コレシストキニン」(本明細書において、「CCK」ともいう)は、消化管ホルモンおよび神経伝達物質として機能するペプチドである。ヒトでは、33個のアミノ酸残基からなるコレシストキニンポリペプチド(CCK-33)は消化管ホルモンであり、C末端オクタペプチド(CCK-8)がCCK-33の生物活性に重要な役割を果たす。ヒトではまた、CCKは脳および末梢神経系にも存在し、CCK-8の形でシナプス小胞内に存在し、睡眠や食欲に関与することが知られている。また、本明細書においてCCKのC末端テトラペプチドをCCK-4という。
【0014】
「ガストリン」とは、ヒトでは消化管ホルモンであり、17個のアミノ酸残基からなる直鎖のペプチドである。
【0015】
天然に存在するCCKおよびガストリンは、いずれもCCKのアゴニスト活性を高める、硫酸化されたチロシン(Tyr)残基を有することがあり、この場合、CCKではC末端から7番目のチロシン残基が、非哺乳類動物のガストリンではC末端から7番目のチロシン残基が硫酸化されている。天然に存在するCCKとガストリンはまた、いずれも、C末端アミノ酸残基はアミド化されているという特徴を有する。天然に存在するCCKとガストリンはさらに、CCKおよびガストリンと受容体との結合に寄与するC末端側の4アミノ酸残基において共通し、共通配列は式(B)WXDF-NH(式中、Xは任意のアミノ酸であり、Xは好ましくはM、LまたはVである)(配列番号12)のアミノ酸配列で表すことができる。本発明においては式(B)のアミノ酸配列をC末端に有するペプチド(アミノ酸長の上限は33アミノ酸残基、17アミノ酸残基、15アミノ酸残基、14アミノ酸残基、13アミノ酸残基、12アミノ酸残基、11アミノ酸残基、10アミノ酸残基または9アミノ酸残基とすることができる)をCCK受容体作動剤として使用することができ、好ましくは式(B)のアミノ酸配列を有するテトラペプチドをCCK受容体作動剤として使用することができる。
【0016】
CCKとガストリンは、脊椎動物において共通祖先を有するペプチドであることが示唆され、軟骨魚類から哺乳類まで広い動物種で同定されている。魚類では多くの種において、CCKおよびガストリンの活性部位は共通し、該活性部位はC末端側の8アミノ酸残基からなる式(A)DXGWXDF-NH(式中、XはYまたはAであり、前記Yは硫酸化されていてもよく、好ましくは硫酸化チロシンであり、XおよびXは任意のアミノ酸であり、Xは好ましくはM、V、N、A、Q、R、TまたはNであり、Xは好ましくはV、LまたはMである)(配列番号13)のアミノ酸配列で表すことができる。本発明においては式(A)のアミノ酸配列をC末端に有するペプチド(アミノ酸長の上限は33アミノ酸残基、17アミノ酸残基、15アミノ酸残基、14アミノ酸残基、13アミノ酸残基、12アミノ酸残基、11アミノ酸残基、10アミノ酸残基または9アミノ酸残基とすることができる)をCCK受容体作動剤として使用することができ、好ましくは式(A)のアミノ酸配列を有するオクタペプチドをCCK受容体作動剤として使用することができる。
【0017】
ヒトでは、CCKは消化管ホルモンおよび神経伝達物質であり、C末端の8個のアミノ酸残基からなる活性部位をもつ。この活性部位の8アミノ酸残基は式(1)DYMGWMDF-NH(C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されている)(配列番号6)のアミノ酸配列で表すことができる。本発明においては式(1)のアミノ酸配列をC末端に有するペプチド(アミノ酸長の上限は33アミノ酸残基、17アミノ酸残基、15アミノ酸残基、14アミノ酸残基、13アミノ酸残基、12アミノ酸残基、11アミノ酸残基、10アミノ酸残基または9アミノ酸残基とすることができる)をCCK受容体作動剤として使用することができ、好ましくは式(1)のアミノ酸配列を有するオクタペプチドをCCK受容体作動剤として使用することができる。
【0018】
メダカでは、CCKはペプチドホルモン・神経伝達物質であり、C末端の8個のアミノ酸残基からなる活性部位をもつ。メダカではCCK遺伝子はCCKAおよびCCKB遺伝子の2種類が存在し、いずれの遺伝子がコードするペプチドも、活性部位の8アミノ酸残基は式(2)DYLGWMDF-NH(C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されている)(配列番号4)のアミノ酸配列で表すことができ、C末端側の4アミノ酸残基は式(8)WMDF-NH(配列番号22)のアミノ酸配列で表すことができる。本発明においては式(2)のアミノ酸配列をC末端に有するペプチド(アミノ酸長の上限は33アミノ酸残基、17アミノ酸残基、15アミノ酸残基、14アミノ酸残基、13アミノ酸残基、12アミノ酸残基、11アミノ酸残基、10アミノ酸残基または9アミノ酸残基とすることができる)をCCK受容体作動剤として使用することができ、好ましくは式(2)のアミノ酸配列を有するオクタペプチドをCCK受容体作動剤として使用することができる。本発明においては式(8)のアミノ酸配列をC末端に有するペプチド(アミノ酸長の上限は33アミノ酸残基、17アミノ酸残基、15アミノ酸残基、14アミノ酸残基、13アミノ酸残基、12アミノ酸残基、11アミノ酸残基、10アミノ酸残基、9アミノ酸残基、8アミノ酸残基、7アミノ酸残基、6アミノ酸残基または5アミノ酸残基とすることができる)をCCK受容体作動剤として使用することができ、好ましくは式(8)のアミノ酸配列を有するテトラペプチドをCCK受容体作動剤として使用することができる。
【0019】
メダカではまた、ガストリンはペプチドホルモンであり、C末端の8個のアミノ酸残基からなる活性部位をもつ。この活性部位の8アミノ酸残基は式(3)DYRGWLDF-NH(式中、C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されている)(配列番号5)のアミノ酸配列で表すことができる。本発明においては式(3)のアミノ酸配列をC末端に有するペプチド(アミノ酸長の上限は17アミノ酸残基、15アミノ酸残基、14アミノ酸残基、13アミノ酸残基、12アミノ酸残基、11アミノ酸残基、10アミノ酸残基または9アミノ酸残基とすることができる)をCCK受容体作動剤として使用することができ、好ましくは式(3)のアミノ酸配列を有するオクタペプチドをCCK受容体作動剤として使用することができる。
【0020】
ウナギでは、CCK遺伝子は2種類存在し、活性部位の8アミノ酸残基は、式(4)DYLGWMDF-NH(C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されている)(配列番号18)および式(5)DYVGWMDF-NH(C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されている)(配列番号19)のアミノ酸配列で表すことができる。本発明においては式(4)または式(5)のアミノ酸配列をC末端に有するペプチド(アミノ酸長の上限は33アミノ酸残基、17アミノ酸残基、15アミノ酸残基、14アミノ酸残基、13アミノ酸残基、12アミノ酸残基、11アミノ酸残基、10アミノ酸残基または9アミノ酸残基とすることができる)をCCK受容体作動剤として使用することができ、好ましくは式(4)または式(5)のアミノ酸配列を有するオクタペプチドをCCK受容体作動剤として使用することができる。
【0021】
チョウザメ類、例えば、コチョウザメにおいてもCCK遺伝子が存在し、活性部位の8アミノ酸残基は式(6)DYMGWMDF-NH(式中、C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されている)(配列番号20)および式(7)DANGWMDF-NH(配列番号21)のアミノ酸配列で表すことができる。本発明においては式(6)または式(7)のアミノ酸配列をC末端に有するペプチド(アミノ酸長の上限は33アミノ酸残基、17アミノ酸残基、15アミノ酸残基、14アミノ酸残基、13アミノ酸残基、12アミノ酸残基、11アミノ酸残基、10アミノ酸残基または9アミノ酸残基とすることができる)をCCK受容体作動剤として使用することができ、好ましくは式(6)または式(7)のアミノ酸配列を有するオクタペプチドをCCK受容体作動剤として使用することができる。
【0022】
本明細書において、アミノ酸は以下の周知の3文字表記または1文字表記により特定することができる。
アラニン:Ala A
アルギニン:Arg R
アスパラギン:Asn N
アスパラギン酸:Asp D
システイン:Cys C
グルタミン:Gln Q
グルタミン酸:Glu E
グリシン:Gly G
ヒスチジン:His H
イソロイシン:Ile I
ロイシン:Leu L
リシン:Lys K
メチオニン:Met M
フェニルアラニン:Phe F
プロリン:Pro P
セリン:Ser S
トレオニン:Thr T
トリプトファン:Trp W
チロシン:Tyr Y
バリン:Val V
【0023】
本発明において「任意のアミノ酸」は上記の20種のアミノ酸から選択することができる。また、アミノ酸配列により特定されたペプチドは向かって左側がN末端であり、右側がC末端である。また、ペプチドのC末端アミノ酸残基がアミド化されている場合には、本明細書ではペプチドのC末端を「-NH」と表記する。
【0024】
本発明においてCCKおよびガストリンは、魚類等の生物素材から単離または精製(粗精製を含む)したものを使用しても、化学的に合成したものを使用してもよい。コスト的観点から化学的に合成したものが好ましい。また本発明においてペプチドを構成するアミノ酸はL-アミノ酸とすることができるが、D-アミノ酸等の非天然アミノ酸も使用することができる。
【0025】
本発明において、CCK受容体作動剤は、CCKおよびガストリンとすることができ、CCKおよびガストリンとしては、脊椎動物のCCKおよびガストリンが挙げられ、脊椎動物としてはヒト等の哺乳類、下位条鰭類および真骨魚類などの魚類が挙げられ、ヒトまたは魚類のCCKまたはガストリンとすることができる。本発明においてCCKおよびガストリンは、下位条鰭類および真骨魚類のCCKおよびガストリンとすることができる。下位条鰭類としては、例えば、チョウザメ目魚類が挙げられる。真骨魚類としては、例えば、ウナギ目魚類、スズキ目魚類、、カレイ目魚類、ダツ目魚類、サケ目魚類、フグ目魚類、タラ目魚類、コイ目魚類が挙げられ、本発明においてCCKおよびガストリンは、真骨魚類のCCKおよびガストリンとすることができ、ウナギ目魚類、スズキ目魚類、チョウザメ目魚類、カレイ目魚類、ダツ目魚類、サケ目魚類、フグ目魚類、タラ目魚類およびコイ目魚類からなる群から選択される真骨魚類のCCKおよびガストリンとすることができる。
【0026】
本発明においてCCKおよびガストリンは、例えば、表1に示されるデータベースおよびアクセッション番号により特定されるアミノ酸配列を基準とすることができる。すなわち本発明においては、表1により特定される全長アミノ酸を有するペプチドに加え、該ペプチドのC末端から8残基のアミノ酸配列または該ペプチドのC末端から4残基のアミノ酸配列をC末端に有するペプチド(アミノ酸長の上限は33アミノ酸残基、17アミノ酸残基、15アミノ酸残基、14アミノ酸残基、13アミノ酸残基、12アミノ酸残基、11アミノ酸残基、10アミノ酸残基または9アミノ酸残基とすることができる)をCCK受容体作動剤として使用することができ、好ましくは該ペプチドのC末端から8残基のアミノ酸配列からなるオクタペプチドまたは該ペプチドのC末端から4残基のアミノ酸配列からなるテトラペプチドをCCK受容体作動剤として使用することができる。この場合、上記ペプチドのいずれにおいてもC末端アミノ酸残基はアミド化されており、C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されたチロシン残基である。なお、表1に記載されていない生物種由来のCCKおよびガストリン並びにそれらのC末端断片を含むペプチドを本発明においてCCK受容体作動剤として使用できることはいうまでもない。
【0027】
【表1】

【0028】
本発明においてCCK受容体作動剤の標的となるCCK受容体(CCKR)としては、例えば、脊椎動物のCCK受容体が挙げられ、脊椎動物としては下位条鰭類および真骨魚類などの魚類が挙げられるが、好ましくは生殖腺の発育促進の対象である魚類のCCK受容体とすることができる。例えば、生殖腺の発育促進の対象が下位条鰭類および真骨魚類である場合には、CCK受容体を下位条鰭類および真骨魚類のCCK受容体A(CCKRA、CCK1Rとも呼ばれる)およびCCK受容体B(CCKRB、CCK2Rとも呼ばれる)を含むCCK受容体とすることができ、好ましくは脳下垂体において発現するCCKRAおよびCCKRBからなる群から選択される1種以上とすることができる。CCKRBを複数有する種においては、CCKRBはいずれのCCKRB(動物種によっては、CCKRB1およびCCKRB2等と呼ばれる場合がある)であってもよい。
【0029】
なお、CCK-CCKRファミリーの機能は脊椎動物を通じて保存されていることから(Sekiguchi, Handbook of Hormones, 2016 :177-178, e20B-1-e20B-3)、CCK受容体作動剤のFSH細胞に対するFSHホルモン放出の制御は、魚類全般で適応可能である。また、本発明の実施にあたっては適用対象の魚類の種と同じ種のCCKまたはそのC末端ペプチドあるいはガストリンまたはそのC末端ペプチドをCCK受容体作動剤として使用することができるが、本発明においては、適用対象の魚類の種とは異なる種のCCKまたはそのC末端ペプチドあるいはガストリンまたはそのC末端ペプチドをCCK受容体作動剤として使用することもできる。
【0030】
本明細書において「生殖腺の発育促進」とは、生殖腺の発育を促進させることをいい、魚類においては卵胞の発育促進および卵母細胞の卵黄形成促進を含む意味である。生殖腺としては、卵巣および精巣が挙げられ、卵巣としては卵母細胞および卵胞(卵胞細胞)を含み、精巣としては精子、体細胞および生殖細胞を含む。
【0031】
後記実施例に示されるように、CCK受容体作動剤はFSH放出促進作用を有する。魚類の卵巣では卵母細胞を取り囲む卵胞細胞の発育によって、卵母細胞の卵黄形成が促進されて卵母細胞が発育することが知られ、該卵胞の発育は、脳下垂体のFSH細胞から放出されたFSHによって促進される(化学と生物、Vol.39、No.1、2001)。すなわち、CCK受容体作動剤を魚類に投与することにより、卵胞細胞の発育、卵母細胞の卵黄形成および生殖腺発育を促進することができる。
【0032】
本発明において魚類とは、特に限定されるものではなく、例えば硬骨魚類が挙げられ、好ましくは下位条鰭類および真骨魚類とすることができる。下位条鰭類としては、例えば、チョウザメ目魚類が挙げられ、チョウザメ目魚類としては、例えば、チョウザメが挙げられる。真骨魚類としては、例えば、ウナギ目魚類、スズキ目魚類、カレイ目魚類、ダツ目魚類、サケ目魚類、フグ目魚類、タラ目魚類、コイ目魚類が挙げられ、これらの魚類としては、ウナギ、マグロ、ブリ、シマアジ、アジ、ハタ、タイ、スズキ、ヒラメ、メダカ、サケ、フグ、タラ、ゼブラフィッシュが挙げられる。また、本発明において魚類は養殖魚とすることができる。
【0033】
本発明の剤は魚類の生殖腺の発育を促進するホルモン剤としての側面を持つことから、水産用医薬品、飼料添加物等の形態で提供することができ、下記の記載に従って実施することができる。
【0034】
本発明においてCCK受容体作動剤は、魚類に経口投与することができる。CCK受容体作動剤を含む剤を経口投与する場合は、CCK受容体作動剤は飼料添加物として飼料の原料の形態であってもよい。
【0035】
本発明においてCCK受容体作動剤は、魚類に投与することができる。投与形態としては、例えば、注射による腹腔内、皮下または筋肉への注入投与、浸透圧ポンプによる持続投与および経口投与が挙げられる。CCK受容体作動剤を含む剤を注入投与する場合は、CCK受容体作動剤を生理食塩水に溶解させた液状組成物を調製し、該組成物を注射器により投与することができる。CCK受容体作動剤を含む剤を浸透圧ポンプあるいはアジュバントにより持続投与する場合は、公知の方法により投与することができ、例えば、CCK受容体作動剤をリン酸緩衝液に溶解させた組成物を市販の浸透圧ポンプにセットし、該浸透圧ポンプを腹腔内に埋め込むこと、あるいは、CCK受容体作動剤をアジュバントに混合した組成物として投与することで、より持続的な投与をすることができる。
【0036】
本発明の剤の1日当たりの投与量は、対象魚類の魚種、年齢、体重、用途等によって異なるため、特に限定されない。生殖腺発育促進を目的とする投与の場合、成体1回当たりのCCK受容体作動剤の投与量(固形分換算)は、特に制限されないが、その下限は、例えば、0.001mg/kg・日または0.01mg/kg・日とすることができる。また、その上限は、例えば、100mg/kg・日、50mg/kg・日、10mg/kg・日または5mg/kg・日とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができる。また、投与の回数および頻度は、求められる生殖腺発育促進の程度に応じて適宜定めることができる。投与量ならびに投与間隔は、例えば、1日当たり1回、1週当たり1回とすることができる。本発明の剤はその効果をよりよく発揮させるために、投与期間は好ましくは2週間以上、より好ましくは3週間または4週間以上である。
【0037】
本発明の剤は、他の投与できる組成物や剤と併用することに制限はない。例えば、生殖腺発育促進が期待できる素材や組成物と併用することで、生殖腺発育促進効果をさらに高めることができる。例えばまた、GnRH/LHRH、LHおよびhCG等の卵の最終成熟・排卵を誘発する成分と組み合わせて用いることで、成熟した卵を適切に得ることができる。
【0038】
本明細書において「卵胞刺激ホルモン(FSH)放出促進」とは、脳下垂体のFSH細胞におけるFSHの放出を促進させることをいう。本発明の卵胞刺激ホルモン(FSH)放出促進剤は、本発明の生殖腺発育促進剤の記載に従って実施することができる。
【0039】
前述の通り、CCK受容体作動剤はFSH放出促進作用を有するため、魚類卵母細胞の卵黄形成を促進する。従って、CCK受容体作動剤は魚類卵母細胞の卵黄形成促進剤の有効成分として使用することができる。
【0040】
すなわち、本発明によれば、CCK受容体作動剤を魚類に投与することを含んでなる、魚類卵母細胞の卵黄形成促進方法が提供される。本発明において「魚類卵母細胞の卵黄形成促進」とは、魚類の卵母細胞における卵黄形成を促進させることをいう。本発明の方法を実施する場合には魚類に有効量のCCK受容体作動剤を投与することにより実施することができる。魚類としては前記したものが挙げられ、好ましくは、ウナギまたはチョウザメとすることができる。本発明の卵黄形成促進方法は、本発明の生殖腺発育促進剤の記載に従って実施することができる。
【0041】
前述の通り、CCK受容体作動剤はFSH放出促進作用を有するため、魚類の生殖腺の発育を促進する。従って、CCK受容体作動剤は生殖腺の発育が促進された魚類の生産に用いる薬剤の有効成分として使用することができる。
【0042】
すなわち、本発明によれば、CCK受容体作動剤を魚類に投与することを含んでなる、生殖腺の発育が促進された魚類の生産方法が提供される。本発明の生産方法を実施する場合には魚類に有効量のCCK受容体作動剤を投与することにより実施することができる。魚類としては前記したものが挙げられ、好ましくは、ウナギまたはチョウザメとすることができる。本発明の魚類の生産方法は、本発明の生殖腺発育促進剤の記載に従って実施することができる。
【0043】
本発明によれば、本発明の生産方法を実施して生殖腺の発育が促進された魚類を生産し、次いで、生殖腺の発育が促進された魚類から卵を採取することができる。卵母細胞の最終成熟・排卵および卵の採取は公知の方法により行うことができる。
【0044】
すなわち、本発明によれば、本発明の生産方法を実施して生殖腺の発育が促進された魚類を生産し、次いで、生殖腺の発育が促進された魚類から卵を採取する、魚類の卵の採取方法が提供される。卵の採取方法は、卵母細胞の最終成熟および排卵させる工程を含むものとすることができる。魚類としては前記したものが挙げられ、好ましくは、ウナギまたはチョウザメとすることができる。本発明の魚類の卵の採取方法は、本発明の生殖腺発育促進剤および本発明の生産方法の記載に従って実施することができる。
【0045】
本発明によれば、本発明の卵の採取方法を実施して魚類から卵を採取し、次いで、採取された卵は人工受精させることができ、人工受精により受精卵を生産することができる。卵の人工受精は公知の方法により行うことができる。
【0046】
すなわち、本発明によれば、本発明の卵の採取方法を実施して魚類から卵を採取し、次いで、採取された卵を人工受精させることを含む、魚類の受精卵の生産方法が提供される。魚類としては前記した魚類が挙げられ、好ましくは、ウナギまたはチョウザメとすることができる。本発明の魚類の受精卵の生産方法は、本発明の生殖腺発育促進剤、本発明の生産方法および本発明の魚類の卵の採取方法の記載に従って実施することができる。
【0047】
本発明の卵の採取方法を実施して魚類から卵を採取し、次いで、採取された卵を人工受精させることができ、さらに得られた受精卵を孵化させることにより、仔魚を生産することができる。仔魚の生産は公知の方法により行うことができる。
【0048】
すなわち、本発明によれば、本発明の卵の採取方法を実施して魚類から卵を採取し、次いで、採取された卵を人工受精させ、さらに得られた受精卵を孵化させることを含む、魚類の仔魚の生産方法が提供される。魚類としては前記した魚類が挙げられ、好ましくは、ウナギまたはチョウザメとすることができる。本発明の卵の採取方法は、本発明の生殖腺発育促進剤、本発明の生産方法および本発明の魚類の卵の採取方法の記載に従って実施することができる。
【0049】
前述の通り、CCK受容体作動剤はFSH放出促進作用を有するため、魚類の生殖腺の発育を促進する。従って、CCK受容体作動剤は早期催熟された魚類の生産に用いる薬剤の有効成分として使用することができる。
【0050】
すなわち、本発明の魚類の生産方法の好ましい態様によれば、CCK受容体作動剤を魚類に投与することを含んでなる、早期催熟された魚類の生産方法が提供される。本明細書において「早期催熟」とは、生殖腺の発育を促進させて性成熟を早めることをいう。本発明の生産方法を実施する場合には魚類に有効量のCCK受容体作動剤を投与することにより実施することができる。魚類としては前記したものが挙げられ、好ましくは、ウナギまたはチョウザメとすることができる。本発明の早期催熟された魚類の生産方法は、本発明の生殖腺発育促進剤および本発明の生産方法の記載に従って実施することができる。
【実施例0051】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0052】
例1:FSH細胞におけるCCK受容体(CCKRB1)発現および視床下部からのCCK入力の検証
例1では、FSH細胞がCCK受容体を発現すること、また、FSH細胞がCCKニューロンの入力を受けることを検証した。
【0053】
(1)方法
ア 二重イン・サイチュハイブリダイゼーション法
メダカ成体をエチル3-アミノベンゾエートメタンスルホン酸塩(MS-222;0.02%、Sigma)によって麻酔処理(以下、同様)した後、脳を摘出して4%PFA/PBSにより4℃で固定し、次いで30%スクロース/PBSに置換した。次いで、固定した脳を5%低融点アガロース(Type IX、Sigma)・20%スクロース/PBSにより包埋し、-80℃に冷却したn-ヘキサンで凍結した後、クリオスタット(CM3050 S、Leica、Wetzlar, Germany)を用いて25μm厚の脳凍結切片を作製した(Umatani et al., In: d'Angelo L, Girolamo Pd, eds. Laboratory Fish in Biomedical Research. Amsterdam: Elsevier; 2021:215-243.)。イン・サイチュハイブリダイゼーション法は、DIGラベルCCKRB1プローブおよびフルオレセインラベルFSHbプローブを用い、従来の方法に従って行った(Kanda et al., PLoS One. 2013; 8(4): e62776.)。なお、FSHb遺伝子はFSHホルモンをコードし、CCKRB1遺伝子はCCKRB1をコードする。それぞれのプローブ、ラベルされたプローブに対する抗体による標識の後、TSA増感(TSA plus biotinまたはcy3、Perkin Elmer/Akoya)を行い、TSA-ビオチンでラベルされたCCKRB1 DIGプローブは、ストレプトアビジンAlexafluor488コンジュゲートにより可視化した。両者のペルオキシダーゼ活性の検出の間に3%過酸化水素水による30分間の処理を行い、シグナルの誤検出を防いだ。Alexafluor488とcy3の蛍光(それぞれCCKRB1 mRNA、FSHb mRNAを標識)を、共焦点顕微鏡(FV-1000、オリンパス)により観察した。
【0054】
イ 免疫組織化学
上記の二重イン・サイチュハイブリダイゼーション法に記載の方法によりメダカ成体脳の凍結切片を作成し、抗ヒトCCK抗体(C2581、sigma-aldrich)により標識した。具体的には、80度に加熱した抗原賦活液(HistoVT One)内で抗原賦活化処理を15分間行った後、10%正常ヤギ血清を含むPBSで1/5,000倍に希釈したCCK抗体を添加した。次いで、ビオチン化抗ウサギIgG二次抗体(Vector laboratory)により標識した後、ABCキット(Vector laboratory)で増感し、ストレプトアビジンalexafluor488コンジュゲートで蛍光標識した。サンプルを封入した後、共焦点顕微鏡(FV-1000、オリンパス)により観察した。
【0055】
(2)結果
結果は、図1および図2に示す通りであった。図1では、二重イン・サイチュハイブリダイゼーションにより、メダカ成体において、FSHを発現する脳下垂体の細胞(本明細書において「FSH細胞」ということがある)が、CCK受容体であるCCKRB1遺伝子を発現していることが確認された(図1)。この結果から、FSH細胞はCCKRB1を介して何らかの作用を受けることが示唆された。図2では、CCK抗体を用いた免疫組織化学により、視床下部NVT領域においてCCKを発現するニューロン(本明細書において「CCKニューロン」ということがある)が局在すること、また、脳下垂体においてCCK免疫陽性である神経線維が密に存在することが確認された(図2)。なお、視床下部NVT領域におけるCCKニューロンの位置は、イン・サイチュハイブリダイゼーションにより確認されるCCKAおよびCCKB mRNAの局在と一致することが確認された(データ示さず)。以上の結果から、FSH細胞は、視床下部のCCKニューロンからの支配を受けるとともに、CCKをFSH細胞が発現するCCKRB1で受容していることが示された。なお、メダカには、CCKA遺伝子およびCCKB遺伝子の2つのCCK遺伝子がありいずれも視床下部で発現しているが、CCKAおよびCCKBペプチドにおいて活性を示す8アミノ酸残基である式(2)DYLGWMDF-NH(C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されている)(配列番号4)のアミノ酸配列を有するメダカCCK-8は共通する。
【0056】
例2:CCKに対するCCKRB1活性の検証
例2では、CCKに対するCCKRB1の活性をCCKRB1レポーターアッセイにより検証した。
【0057】
(1)方法
CCKRB1レポーターアッセイ
表2に示すメダカCCKBR1遺伝子のコード配列(配列番号1)を、Kozak配列を含む下記プライマーを用いてメダカ脳cDNAにおいてPCR法により増幅した。
【0058】
【表2】
【0059】
<メダカCCKBR1用プライマー>
フォワード(配列番号2):CTTGCCGCCATGGATACTTTGAGAAACGAGAC
リバース(配列番号3):CTCTCAGCAGTTTCCCATGGTG
【0060】
増幅したCCKBR1遺伝子コード配列をpcDNA3.1/V5-His-TOPOにクローニングすることにより、CCKRB1発現ベクターを構築した。次いで、Hela細胞に、CCKRB1発現ベクターと、cAMP測定用コンストラクト(pGL4.29)、Ca2+測定用コンストラクト(pGL4.30)またはMAPK測定用コンストラクト(pGL4.33)と、コントロールベクター(pGL4.74)との3つのコンストラクトをトランスフェクションし42時間インキュベーションを行った。次いで、Hela細胞を、0、10-11、10-10、10-9、10-8、10-7、10-6または10-5Mの濃度の式(2)DYLGWMDF-NH(C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されている)(配列番号4、スクラム社受託合成品)のアミノ酸配列を有するメダカCCK-8または式(3)DYRGWLDF-NH(C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されている)(配列番号5、スクラム社受託合成品)のアミノ酸配列を有するメダカガストリン-8とそれぞれ6時間反応させた後、細胞を回収し、Dual-Gloルシフェラーゼアッセイシステムを用いてルシフェラーゼ活性を測定した。測定用ホタルベクター(pGL4.29、pGL4.30またはpGL4.33)のシグナルを、コントロールベクター(pGL4.74)のシグナルで補正した。なお、本試験ではCCK受容体ファミリーのリガンドとなるCCK-8およびガストリン-8は、多くの魚類で保存されている活性部位である8アミノ酸残基(式(A))に含まれるペプチドを用いた。
【0061】
(2)結果
結果は、図3に示す通りであった。図3では、CCKRB1レポーターアッセイにより、メダカCCK-8およびメダカガストリン-8のいずれのペプチドも、CCKRB1を介してcAMP、Ca2+およびMAPKに対応するレポーターを生理的な濃度で賦活することが確認された。この結果は、哺乳類や鳥類などのCCKRBで報告されている結果と整合することから、脊椎動物全般においてCCKはCCKRBに作用することが示された(Wan et al., Poult Sci. 2023 Jan;102(1):102273.、Zeng Q, Ou L, Wang W, Guo DY. Front Endocrinol (Lausanne). 2020 Mar 6;11:112.)。
【0062】
例3:CCKRB1ノックアウトが生殖腺発育およびFSH mRNA発現に与える影響の検証
例3では、CCKRB1ノックアウトが生殖腺発育およびFSH mRNA発現に与える影響を検証した。
【0063】
(1)方法
ア CCKRB1のノックアウト個体の作製および表現型の検証
CCKRB1の第一エキソンに対するCRISPR(配列番号7:AAGCGTGGACGGGTTCACGCAGG)を設計し、Cas9 protein(Cas9 Nuclease protein NLS(15μg/μl)、ニッポンジーン)およびtracr RNA(FASMAC)とともに、1-2細胞期のメダカ胚にマイクロインジェクションした。該メダカ胚から発生した成体の交配後に得られた個体から、GAACCCGTの8塩基欠失を示すアリルを得て、野生型遺伝子座との交配を行い、系統化した。同腹由来の野生型、ヘテロノックアウト個体およびホモノックアウト個体について、卵巣および精巣の形態観察並びに脳下垂体におけるFSHb mRNAの発現解析を逆転写リアルタイムPCR法により行った。
【0064】
イ FSHb mRNAの逆転写リアルタイムPCRによる発現解析
メダカ成体を麻酔処理し、脳下垂体を摘出した後、FastGene RNA Basic Kit(日本ジェネティクス)を用いて脳下垂体からトータルRNAを抽出した。得られたトータルRNAを、PrimeScript RT Master Mix(タカラバイオ)を用いて逆転写し、KAPA SYBR Fast qPCR Kit(日本ジェネティクス)および下記プライマーを用いてFSHb mRNAおよび内部標準としてのactb mRNAの定量的PCRを行った。
【0065】
<FSHb用プライマー>
フォワード(配列番号8):TGGAGATCTACAGGCGTCGGTAC
リバース(配列番号9):AGCTCTCCACAGGGATGCTG
<actb用プライマー>
フォワード(配列番号10):GTGATGTTGATATCCGTAAGGATCTGTA
リバース(配列番号11):TCTGGTGGGGCAATGATCTTGA
【0066】
(2)結果
結果は、図4に示す通りであった。図4Aでは、野生型およびCCKRB1ホモノックアウト個体における生殖腺の表現型解析により、CCKRB1ホモノックアウト個体では野生型と比較して、卵巣および精巣の大きさが著しく小さくなることが確認された。卵巣重(体重比)を測定したところ、CCKRB1ホモノックアウト個体では野生型と比較して、7分の1へ減少した。この結果から、CCKRB1ノックアウトにより卵巣において卵胞および卵母細胞の発達が阻害されることが示された。この結果はまた、FSH(FSHb遺伝子)のノックアウトメダカ個体において生殖腺の大きさが著しく小さくなるという研究結果と類似していることから、CCKRB1のノックアウトによりFSHの分泌が阻害されることが示された(Takahashi et al., Endocrinology, Volume 157, Issue 10, 1 October 2016, Pages 3994-4002)。上記を確認するため、図4Bでは、CCKRB1ノックアウト個体の脳下垂体におけるFSHb mRNA発現の逆転写リアルタイムPCR法により、CCKRB1ホモノックアウト個体ではヘテロノックアウト個体と比較して、FSH遺伝子発現が400分の1へ著しく低下することが確認された。これらの結果はまた、CCKAおよびCCKBのダブルノックアウトメダカ個体において卵巣およびFSH発現が著しく阻害されるという結果と非常に類似する(データ示さず)。これらの結果から、メダカ生体内においてCCKRB1が卵巣において卵胞発育および卵母細胞の発達(すなわち、卵黄形成)を促すFSHの正常な発現に必須であることが示された。
【0067】
例4:CCK受容体作動剤がFSH細胞におけるFSH放出に与える影響の検証
例4では、一般的にホルモンの放出は細胞内カルシウムの上昇によって引き起こされるため、CCK受容体作動剤がFSHの放出を促す可能性を検証するために、カルシウムイメージング実験により、CCK受容体作動剤が細胞内カルシウムに与える影響を検証した。
【0068】
(1)方法
FSH細胞のカルシウムイメージング解析
カルシウムインジケーターであるinverse pericamをFSH細胞特異的に発現するトランスジェニックメダカ(Karigo et al., Endocrinology, Volume 155, 2014, 536-547、本明細書において「FSH-IPトランスジェニックメダカ」ということがある)を用いて、CCK受容体作動剤に対する反応性および用量応答性をカルシウムイメージングにより試験した。FSH-IPトランスジェニックメダカを麻酔処理した後、脳下垂体を摘出し、灌流チューブへのペプチド吸着防止のために0.1%BSAを含む人工脳脊髄液(ACSF、134mM NaCl;2.9mM KCl;2.1mM CaCl2;1.2mM MgCl2;10mM HEPESおよび15mM Glucose、pH7.4)を満たしたチャンバーに移し、脳下垂体の腹側を上面にして露出した。次いで、チャンバー内に式(1)DYMGWMDF-NH(C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されている)(配列番号6、ペプチド研究所)のアミノ酸配列を有するヒトCCK-8、式(2)DYLGWMDF-NH(C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されている)(配列番号4、スクラム社受託合成品)のアミノ酸配列を有するメダカCCK-8、式(3)DYRGWLDF-NH(C末端から7番目のチロシン残基は硫酸化されている)(配列番号5、スクラム社受託合成品)のアミノ酸配列を有するメダカガストリン-8または式(8)WMDF-NH(配列番号22、ペプチド研究所)のアミノ酸配列を有するメダカCCK-4を含む上記ACSF溶液を灌流し、灌流投与時の蛍光強度の変化を、各ペプチドがFSH細胞の細胞内カルシウム濃度へ与える影響として解析した。各ペプチドの潅流投与の濃度は、反応性試験では1000nMとし、用量応答性試験では0nM、100pM、1nM、10nM、100nMまたは1000Mの濃度とした。なお、式(1)のペプチドは終濃度0.1%のDMSOに溶解しているため、灌流時に使用したACSF溶液には同濃度のDMSOを含ませた。カルシウムイメージングは、正立蛍光顕微鏡(Eclipse E600FN、Nikon)および励起光(X-Cite 110LED Illumination System、Excelitas Technologies)を用いて行い、蛍光画像はZyla4.2P(Andor Technology)およびイメージングソフトウェア(Micro Manager)を用いて、exposure:50ms;interval 100msにて撮影し、取得したイメージ画像をImage Jにより解析した。
【0069】
(2)結果
結果は、図5に示す通りであった。図5Aおよび図5Bでは、メダカCCK-8およびメダカCCK-4の投与に対する反応性をカルシウムイメージング解析したところ、1000nMのメダカCCK-8およびメダカCCK-4がFSH細胞の細胞内カルシウムを著しく上昇させることが確認された。図5Cでは、メダカCCK-8の投与に対する用量応答性をカルシウムイメージング解析したところ、メダカCCK-8の濃度に依存してFSH細胞の細胞内カルシウムが上昇することが確認された。なお、ヒトCCK-8およびメダカガストリン-8に対しても同様の反応性が観察された(データ示さず)。これらの結果から、CCK-8およびガストリン-8がFSH細胞のFSHホルモン放出を促進する作用を有すること、また、CCK-4であっても上記作用を有することが示された。
【0070】
例5:メダカ以外の魚類の脳下垂体におけるCCKRB発現の検証
例5では、逆転写PCR法によってメダカ以外の魚類(ウナギおよびチョウザメ)の脳下垂体においてCCKRBの発現を検証した。
【0071】
(1)方法
ア CCKBR1 mRNAのPCR法による発現解析
未成熟個体のニホンウナギ(約200~260g)および未成熟個体のチョウザメ(140~200g)から例3(1)イに記載の方法と同様にして脳下垂体トータルRNAの抽出および逆転写を行い、下記プライマーを用いてCCKRBの増幅の可否をPCR法により検証した。
【0072】
<ウナギCCKBR1用プライマー>
フォワード(配列番号14):GCGATGGACGTACAGAAACTGAATG
リバース(配列番号15):CTTCCAGGTGTTGACGGAGTAG
【0073】
<チョウザメCCKBR1用プライマー>
フォワード(配列番号16):GTGGAAACGGCTCTGTGACAAG
リバース(配列番号17):GCTGACAGTGGTGTAGCTGAATTTAGAC
【0074】
PCR反応の増幅条件は、最初に95℃、2分の変性を行った後、95℃、10秒(変性)、68℃、10秒(1サイクルごとに0.5℃低下)(アニーリング)、72℃、30秒(伸長)を20サイクル、次いで、95℃、10秒(変性)、60℃、10秒(アニーリング)、72℃、30秒(伸長)を16サイクルとした。
【0075】
イ cDNA配列の決定
ウナギおよびチョウザメの脳下垂体cDNAから増幅してCCKBR1をクローニングし、各DNAの塩基配列を決定した。
【0076】
(2)結果
結果は、図6に示す通りであった。図6では、ウナギおよびチョウザメにおいて、各CCKRBとして予想される長さ(1071bpおよび1202bp)のPCR産物がそれぞれ増幅された。また、ウナギおよびチョウザメの各脳下垂体cDNAから得られたDNA配列は、別種のCCKRBとの配列類似性から、正しくCCKRB遺伝子であることが確認された。これらの結果から、ウナギおよびチョウザメ未成熟個体の脳下垂体においてCCKRB遺伝子が発現していることが示された。ここで、チョウザメは真骨魚類が出現する前の下位条鰭類(古代魚)であり、ウナギは真骨魚類の基部でメダカと分岐した下位真骨魚類である。したがって、以上の結果から、メダカにおいて証明された、CCKが脳下垂体におけるFSH放出を制御するというメカニズムがチョウザメを含む下位条鰭類および真骨魚類を含む魚類において広く保存されているメカニズムであることが示された。よって、本実施例(例1~5)により、メダカに加え、ウナギおよびチョウザメを含む魚類において広く、CCK受容体作動剤が生殖腺発育促進作用を奏することが示された。
【0077】
例6:ウナギ脳下垂体のFSH細胞におけるCCKRB発現の検証
例6では、例5におけるPCRレベルのCCKRB検出結果が正しいことを確認するため、例としてウナギ脳下垂体のFSH細胞がCCKRBを発現することを検証した。
【0078】
(1)二重イン・サイチュハイブリダイゼーション法
ニホンウナギの脳下垂体を用いて、例1アに記載の方法と同様にして二重イン・サイチュハイブリダイゼーション法を行った。DIGラベルCCKRBプローブおよびフルオレセインラベルFSHbプローブは、ニホンウナギの脳下垂体cDNAを材料にして、以下のプライマーを用いて増幅した配列から作製した。
【0079】
<ウナギCCKBR1用プライマー>
フォワード(配列番号14):GCGATGGACGTACAGAAACTGAATG
リバース(配列番号15):CTTCCAGGTGTTGACGGAGTAG
【0080】
<ウナギFSHb用プライマー>
フォワード(配列番号23):CAGATTCACAGTTGCCATGCATCT
リバース(配列番号24):CATCTATCCCTTGCCGCAGTT
【0081】
(2)結果
結果は、図7に示す通りであった。図7では、二重イン・サイチュハイブリダイゼーションにより、ニホンウナギ成体において、脳下垂体のFSH細胞が、CCKRB遺伝子を発現していることが確認された。この結果から、ウナギにおいても、メダカと同様にFSH細胞がCCKによって制御されていることが示された。この結果からまた、ウナギとメダカは真骨魚類の初期に分岐したため、FSH細胞におけるCCKRBを介する、CCKによるFSH放出制御は真骨魚類全般で共通していることが示された。さらに、ウナギと同様にPCRレベルでCCKRBの発現が脳下垂体で検出されたチョウザメにおいても、FSH細胞におけるCCKRBを介する、CCKによるFSH放出制御の機構が存在することが示唆された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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