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特開2024-119186ポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法
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  • 特開-ポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119186
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】ポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/48 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
C08G65/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025911
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】下山 祥弘
(72)【発明者】
【氏名】中島 裕美子
(72)【発明者】
【氏名】樋口 久美子
【テーマコード(参考)】
4J005
【Fターム(参考)】
4J005AA26
4J005BD01
(57)【要約】
【課題】PPOを温和な条件で、簡便に、有用な、ポリマーの原料化合物に酸化分解可能なPPOの酸化分解方法を提供することである。
【解決手段】ポリフェニレンオキサイドと、ヘテロポリ酸と、硝酸または/および硝酸塩と、ハロゲン化水素または/およびオキソ酸のアルカリ金属塩とを水溶媒中に含み、加熱する、ポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法である。また、ヘテロポリ酸として、ケイタングステン酸または/およびリンタングステン酸を使用したり、酸化剤として、硝酸イットリウム、硝酸スカンジウム、硝酸ランタン、硝酸ストロンチウム、硝酸酸化ジルコニウムから選択される1種または2種以上の硝酸塩を使用したりするとよい。さらに、前記水溶媒中に、過酸化水素等の過酸の再酸化剤を含んでいてもよい。また、ハロゲン化水素または/およびオキソ酸のアルカリ金属塩には、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウムを使用すると良い。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンオキサイドと、ヘテロポリ酸と、酸化剤である硝酸または/および硝酸塩と、ハロゲン化水素または/およびオキソ酸のアルカリ金属塩とを水溶媒中に含み、加熱することを特徴とするポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法。
【請求項2】
前記加熱する温度は80-140℃であることを特徴とする請求項1に記載のポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法。
【請求項3】
前記ヘテロポリ酸として、ケイタングステン酸または/およびリンタングステン酸を使用することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法。
【請求項4】
前記酸化剤として、硝酸イットリウム、硝酸スカンジウム、硝酸ランタン、硝酸ストロンチウム、硝酸酸化ジルコニウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸アルミニウムから選択される1種または2種以上の硝酸塩を使用することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法。
【請求項5】
前記ハロゲン化水素または/およびオキソ酸のアルカリ金属塩として、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウムを使用することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法。
【請求項6】
さらに、前記水溶媒中に、前記酸化剤の再酸化剤となる過酸を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法。
【請求項7】
前記過酸として、過酸化水素を使用することを特徴とする請求項6項に記載のポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法。
【請求項8】
前記ヘテロポリ酸として、ケイタングステン酸または/およびリンタングステン酸を使用し、前記酸化剤として、硝酸イットリウム、硝酸スカンジウム、硝酸ランタン、硝酸ストロンチウム、硝酸酸化ジルコニウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸アルミニウムから選択される1種または2種以上の硝酸塩を使用し、さらに、前記水溶媒中に過酸化水素を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法。
【請求項9】
前記ハロゲン化水素または/およびオキソ酸のアルカリ金属塩として、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウムを使用することを特徴とする請求項8に記載のポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法に関し、特に代表的なポリフェニレンオキサイドであるポリ2,6-ジメチルフェニレンオキサイドの酸化分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くのプラスチック製品が市場に流通しており、私たちの生活には欠かせないものとなっている。特にプラスチックのなかでも、エンジニアリングプラスチックの1つであるポリフェニレンオキサイド(以下、PPOと省略する場合がある。)は、低温帯から耐熱温度領域まで幅広い範囲で物性が安定している樹脂で、他に難燃性、優れた電気特性(誘電損失が小さい)などを特長としており、自動車部品、耐熱性製品、電気電子部品、事務部品、給水部品等など種々のものに用いられている。
【0003】
PPOは、このような特性がある一方、廃棄する場合は自然に分解されにくいことから、深刻な環境問題を引き起こしてしまう。また、プラスチックごみが海に流れることによる、海洋生物に与える影響も懸念されている。したがって、このような難分解性ポリマーの分解は、資源循環の観点からも非常に重要なプロセスであり、廃プラスチックのケミカルリサイクル手法の開発や、海洋プラスチックごみ問題を解決する手法の1つとして知られている。
【0004】
通常、PPOは上記特長に加えて、酸や塩基、熱、衝撃、酸化に対して非常に安定なことから、合成樹脂ポリマーアロイである変性ポリフェニレンエーテルとして、例えば、電気・OA機器の外装、特に床用ケーブルカバーに用いられる他、水道配管や、ドアハンドル、ホイールキャップなどの自動車外装材に用いられている。これらの化学的な分解には、錯体触媒や固体触媒を用いる方法がある。
【0005】
例えば、その誘導体の一つであるポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキサイド)の分解では、当該ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキサイド)に塩化銅(I)、ピリジンを触媒系としてポリマーからオリゴマーへと分子量を減少させる方法(非特許文献1)や、酸化ニオブにルテニウムを担持した固体触媒と水素ガスにより3,5-ジメチルフェノールを得る方法(非特許文献2)およびm-キシレンを得る方法(非特許文献3)がある。また、2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテルに酸化剤を用いてアセトキシフェノールを生成し、続いてベンゾキノンに酸化させる方法(非特許文献4)がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K. Saito, et al. Chem. Eur. J. 2003, 9, p4240-4246.
【非特許文献2】G. Li, et al. Green Chem. 2021, 23, p9640-9645.
【非特許文献3】Y. Jing, et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2021, 60, p5527-5535.
【非特許文献4】H. Finkbeiner, et al. The Journal of Organic Chemistry 1968, Vol.33, No.12, p4347-4351.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、非特許文献1に記載の方法では、分子量が減少したオリゴマーの生成に留まり、単一の芳香族化合物を得ることはできない。一方、非特許文献2および3に記載の方法は、 単一の芳香族化合物を得るものであるが、これらの方法は280℃のような高温条件が必要となり、省エネルギーの観点からも問題があり、反応の効率化の面で産業上有用なプロセスとは言えない。また、非特許文献4に記載の方法は、有用な化合物であって、ポリマー原料となるベンゾキノンに分解するものであるが、3量体の2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテルの酸化分解に留まり、汎用的な高分子量のPPOに適用できるものではない。また、酸化剤として有毒な酸化鉛を大量に用いる必要があるほか、ベンゾキノンの単離精製までに複数の工程を必要とする。
【0008】
このように、従来のPPOの酸化分解方法は、オリゴマーへの低分子量化に留まる点や、比較的高温条件が必要といった、省エネルギーとコストの両面から課題がある。
また、触媒として用いる遷移金属元素は安価であっても、触媒として機能する金属錯体が反応中の安定性に欠けるなど、合成にかかるコストに見合う効果が小さいといった、省エネルギーと品質の両面からの課題もある。そして、簡便な方法で、酸化分解物として有用な、ポリマー原料等の化合物が得られることが望ましい。
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、PPOを温和な条件で、簡便に、有用な、ポリマー原料等の化合物に酸化分解可能なPPOの酸化分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記(1)-(9)に記載のポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法に関する。
(1) ポリフェニレンオキサイドと、ヘテロポリ酸と、酸化剤である硝酸または/および硝酸塩と、ハロゲン化水素または/およびオキソ酸のアルカリ金属塩とを水溶媒中に含み、加熱する、ポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法である。
(2)前記加熱する温度は80-140℃である、前記(1)に記載のポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法である。
(3)前記ヘテロポリ酸として、ケイタングステン酸または/およびリンタングステン酸を使用する、前記(1)または前記(2)に記載のポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法である。
(4)前記酸化剤として、硝酸イットリウム、硝酸スカンジウム、硝酸ランタン、硝酸ストロンチウム、硝酸酸化ジルコニウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸アルミニウムから選択される1種または2種以上の硝酸塩を使用する、前記(1)または前記(2)に記載のポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法である。
(5)前記ハロゲン化水素または/およびオキソ酸のアルカリ金属塩として、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム(NFBS)を使用する、請求項1または請求項2に記載のポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法である。
(6)さらに、前記水溶媒中に、前記酸化剤の再酸化剤となる過酸を含む、前記(1)または前記(2)に記載のポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法である。
(7)前記過酸として、過酸化水素を使用する、前記(6)に記載のポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法である。
(8)前記ヘテロポリ酸として、ケイタングステン酸または/およびリンタングステン酸を使用し、前記酸化剤として、硝酸イットリウム、硝酸スカンジウム、硝酸ランタン、硝酸ストロンチウム、硝酸酸化ジルコニウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸アルミニウムから選択される1種または2種以上の硝酸塩を使用し、さらに、前記水溶媒中に過酸化水素を含む、前記(1)または前記(2)に記載のポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法である。
(9)前記ハロゲン化水素または/およびオキソ酸のアルカリ金属塩として、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム(NFBS)を使用する、前記(8)に記載のポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、PPOを温和な条件で、簡便に、有用な、ポリマー原料等の化合物に酸化分解可能なPPOの酸化分解方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】2,6-ジメチルベンゾキノン(26DMBQ)のHNMRスペクトルである(実施例1)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明の実施の形態について詳しく説明する。なお、本発明の実施の形態において、温度範囲や濃度範囲等を示すときは、上限値及び下限値を含むものとする。また、%濃度は質量%を示すものとする。
【0013】
本実施形態のポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法は、PPOと、ヘテロポリ酸と、硝酸または硝酸塩等の酸化剤と、ハロゲン化水素またはオキソ酸のアルカリ金属塩とを水溶媒中に含み、加熱することを特徴とする。分解対象のPPOは、2,6-ジメチルフェノールを繰り返し単位に持つポリ(2,6-ジメチルフェニレンオキサイド)である。通常、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキサイド)を意味する。繰り返し単位数(n)は1以上であるが、分子量は、GPCによる重量平均分子量、数平均分子量は概ねMw30,000-60,000、Mn10,000-40,000のものでよい。
【0014】
例えば、PPOを、水溶液中、ヘテロポリ酸、硝酸または硝酸塩、ハロゲン化水素またはオキソ酸のアルカリ金属塩の存在下で所定時間、加熱することで、2,6-ジメチルベンゾキノン(以下、26DMBQと省略する場合がある。)を得ることができる。
PPOは、硝酸または硝酸塩等の酸化剤によって酸化されるが、ヘテロポリ酸とハロゲン化水素またはオキソ酸のアルカリ金属塩である添加剤の作用によって酸化剤が活性化されることで、26DMBQに酸化分解する。26DMBQへの酸化分解反応は、PPOの構造単位である2,6-ジメチルフェノール(酸素原子を1個有する)に硝酸(HNO)中の酸素原子(O)が1個結合することで、酸素原子を2個有する26DMBQとなるものである。
【0015】
なお、26DMBQはPPOのポリマー原料ではないが、アミン化合物との脱水縮合によって得られるポリイミンなどの他のポリマー原料や数多の有機合成の出発原料など種々の用途がある、有用な化合物である。なお、26DMBQは、適切な還元剤を用いて還元することで、容易にPPOの原料化合物である2,6-ジメチルフェノールに合成することができるため、再度PPOを製造可能である。
前記加熱時の温度は、比較的温和な条件である80-140℃が好ましく、反応性の観点から、特に100-140℃が好ましく、省エネルギー化も考慮すると、100-120℃がより好ましい。また、加熱時間は温度にもよるが16-128時間程度あれば良く、長い方が反応性は高くなるが、長すぎても効果の向上が頭打ちとなることから、48-64時間程度としてもよい。
【0016】
さらに反応系には過酸化水素等の過酸の再酸化剤を含んでいてもよい。上記したように26DMBQへの酸化分解反応では、硝酸(HNO)は酸素原子(O)1個が消費されてHNOとなるが、その状態では酸化作用が弱くなるため、HNOをHNOに戻す必要がある。そこで、反応系に過酸等の酸素原子を2個以上有する物質を含ませることで、HNOをHNOに戻すことができる。ここで、再酸化剤とは、HNOの酸化作用を助ける補助的な酸化剤であり、HNOをHNOに戻すための酸化剤を意味する。再酸化剤は用いなくても反応は進行するが、再酸化剤を用いることで、酸化反応の促進化が図れるため、好ましい。以下に、各化合物について詳述する。
【0017】
(硝酸または硝酸塩)
硝酸または硝酸塩は、PPOを酸化させる酸化剤として機能するものである。硝酸塩の場合、例えば、遷移金属、ランタノイド、アルカリ金属、アルカリ土類金属の硝酸塩やこれら金属酸化物の硝酸塩が挙げられる。これらの中でも、水中でも安定して反応を進行させる効果を発揮させる点から、原子価が3価のイットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)などのランタノイドが好ましく、他には酸化剤や再酸化剤の活性化に効果を発揮させる点から、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)などの典型または遷移金属の硝酸塩が挙げられる。また、ジルコニウムやチタン、ハフニウムなどの4価の状態をとりうる金属は、安定した構造となる金属酸化物の硝酸塩であることが好ましい。そして、特に、硝酸イットリウム、硝酸スカンジウム、硝酸ランタン、硝酸ストロンチウム、硝酸酸化ジルコニウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸アルミニウムなどは、試薬の入手が容易な点から好ましい。さらに、硝酸イットリウムが、水に溶解しやすく、安定して機能を発揮する点からより好ましい。また、硝酸塩の場合、これらの水和物であってもよい。水和物は水溶媒に溶解しやすいため、水和物であることが好ましい。また、硝酸や硝酸塩は、単独使用または2種以上併用することができる。硝酸や硝酸塩の配合量は、PPOに対して、酸化剤の効率の点から、50-150質量%の範囲が好ましい。また、硝酸や硝酸塩の濃度は、PPO樹脂含有水溶液に対して、モル濃度として50-300mM、好ましくは、100-200mMであるとよい。
【0018】
(ヘテロポリ酸)
ヘテロポリ酸は塩酸や硫酸などよりも強い強酸であり、前記酸化剤にプロトン(H)を供与する働きを有するものである。ヘテロポリ酸の存在によって、酸化剤の働きを活性化させることができる。
ヘテロポリ酸としては、例えば、ケイタングステン酸(HSiW1240・nHO)、ケイモリブデン酸(HSiMo1240・nHO)、リンタングステン酸(HPW1240・nHO)、リンモリブデン酸(HPMo1240・nHO)、ケイタングストモリブデン酸(HSiWMo12-X40・nHO)、リンバナドタングステン酸(H3+XPV12-X40・nHO)、リンバナドモリブデン酸(H3+XPVMo12-X40・nHO)、リンタングストモリブデン酸(HPWMo12-X40・nHO)、ケイバナドタングステン酸(H4+XSiV12-X40・nHO)、および、ケイバナドモリブデン酸(H4+XSiVMo12-X40・nHO)などが挙げられる。ヘテロポリ酸の各化学式において、xは、1以上11以下の整数を示す。なお、ヘテロポリ酸は、上記に示したものに限定されない。
【0019】
このような固体のヘテロポリ酸は、結晶水を含んでもよく、結晶水を含まなくてもよい。固体のヘテロポリ酸の各化学式において、nは、結晶水の数を示し、例えば、0以上、好ましくは、10以上、例えば、30以下、好ましくは、26以下である。言い換えれば、固体のヘテロポリ酸は、好ましくは、ヘテロポリ酸の0-30水和物を含み、より好ましくは、ヘテロポリ酸の10―30水和物を含む。
【0020】
ヘテロポリ酸は、安価に大量に入手可能な点から、ケイタングステン酸、リンタングステン酸、ケイモリブデン酸、リンモリブデン酸であることが好ましく、特に、酸化剤や再酸化剤との副反応を起こしにくい点から、ケイタングステン酸、リンタングステン酸であることがより好ましい。また、ケイタングステン酸の場合、より好ましくは、ケイタングステン酸の10-30水和物が挙げられ、さらに好ましくは、ケイタングステン酸の20-26水和物が挙げられる。また、固体のヘテロポリ酸は、単独使用または2種以上併用することができる。
また、ヘテロポリ酸の配合量は、PPOに対して、反応速度の点から、300-600質量%の範囲が好ましい。また、ヘテロポリ酸の濃度は、PPO樹脂含有水溶液に対して、モル濃度として50-300mM、好ましくは、100-150mMであるとよい。
【0021】
(添加剤)
添加剤は、ハロゲン化水素またはオキソ酸のアルカリ金属塩であり、ヘテロポリ酸のプロトン供給を助ける作用を有するものである。ハロゲン化水素としては、フッ化水素、塩酸、臭化水素、ヨウ化水素などの強酸、またオキソ酸としては、硝酸、硫酸、スルホン酸、塩素酸、過塩素酸、カルボン酸、炭酸、リン酸、ホウ酸、パーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸などが挙げられる。また、アルカリ金属としては、リチウム、カリウム、ナトリウムなどが挙げられる。
【0022】
このようなものとしては、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム(NFBS)、ヘプタフルオロ酪酸ナトリウム(HFBA)、ノナフルオロブタンスルホン酸リチウム(NFBS-Li)、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム(CFSOK)、硫酸カリウム(KSO)、メタンスルホン酸カリウム(CHSOK)、過塩素酸カリウム(KClO)、塩化カリウム(KCl)、トリフルオロ酢酸カリウム(CFCOOK)、酢酸カリウム(KOAc)、炭酸水素カリウム(KHCO)、炭酸カリウム(KCO)、硝酸カリウム(KNO)などが挙げられる。特に、電離度が1の水溶性の塩が挙げられ、共役酸のpKaが低い、すなわち酸性度の高いものが、ヘテロポリ酸のプロトン供給を助ける作用が大きいので好ましい。なお、硝酸カリウムは酸化剤としても機能するため、硝酸カリウムを酸化剤としても使用する場合は、トータルの使用量を多めにすると良い。また、これらハロゲン化水素やオキソ酸のアルカリ金属塩は、単独使用または2種以上併用することができる。
添加剤の配合量は、PPOに対して、反応効率の点から、50-200質量%の範囲が好ましい。また、添加剤の濃度は、PPO樹脂含有水溶液に対して、モル濃度として20-300mM、好ましくは、60-300mMであるとよい。
【0023】
(再酸化剤)
再酸化剤は、上記したように、HNOをHNOに戻す作用を有するものである。再酸化剤としては、酸素原子(O)1個を供給可能な酸化剤が選択される。例えば、ペルオキシド構造(-O-O-構造)を有する過酸が有効であり、過酸化水素、過ギ酸、過酢酸、過炭酸、過リン酸、過酸化ナトリウム、メタクロロ安息香酸などの代表的なものの他に、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、ペルオキソホウ酸ナトリウムなどの過ホウ酸塩等が挙げられる。また、過酸化水素と尿素の混合物や、過炭酸ナトリウム(炭酸ナトリウム/過酸化水素の混合物)を用いても良い。これらの酸化剤は、50℃以下、特に25℃以下の低温で安定性があるものである。そして、これらの中でも、とりわけ過酸化水素が、安価で、かつ原子効率も高いことから、好ましい。また、再酸化剤は、樹脂含有水溶液に対して、モル濃度として3-20mol/L、好ましくは、4-10mol/Lであるとよい。再酸化剤の濃度が2mol/L未満では、効率よく酸化されない場合があり、また、効果の向上と安全性を考慮すると、10mol/L以下が好適である。特に、再酸化剤として過酸化水素を使用する場合は、3-50%、好ましくは6―35%のものが、酸化作用及び安全性の点からも望ましい。例えば、入手しやすい30-35%程度のものを使用するとよい。また、再酸化剤の濃度は、水を溶媒として用いて調整すればよい。なお、過酸化水素をそのまま使う場合には、希釈用の水を除けば、溶媒は不要である。
【0024】
そして、再酸化剤の配合量は、生成物の分解作用があるヒドロキシルラジカルが生成しにくいように、また分解が進行するように、PPOの繰り返し単位のモル数(=PPOの重量/PPO繰り返し単位構造の式量)に対して、4-30倍モルの範囲が好ましい。なお、繰り返し単位構造は、2,6-ジメチルフェノールから2つ水素を除いたものである。そして、上記したモル濃度の再酸化剤を含む水溶液において、液量やPPOの量を変えることで上記配合量(配合比)を調整するとよい。
【0025】
(PPOの酸化分解反応)
PPOの酸化分解方法について、下記化学反応式(1)に基づいて説明する。この例では、ヘテロポリ酸としてケイタングステン酸、硝酸塩(酸化剤)として硝酸イットリウム、添加剤としてNFBS、再酸化剤として過酸化水素を使用した場合を示している。
【化1】
【0026】
2,6-ジメチルフェノールを繰り返し単位に持つポリ(2,6-ジメチルフェニレンオキサイド) (PPO)を、過酸化水素(例えば、30%)溶媒中、ケイタングステン酸、NFBS、硝酸イットリウム六水和物存在下で、所定時間(例えば64時間)、低温(例えば、120℃)で加熱することで、酸化的に分解し、2,6-ジメチルベンゾキノン(26DMBQ)を得ることができる。PPOを懸濁させた水溶媒中に、ヘテロポリ酸、酸化剤、添加剤等を加えてもよい。26DMBQは、反応容器の上部を冷却することで昇華し、結晶化したものを掻き出すことで、容易に回収することができる。
この方法によれば、反応条件に特殊な技術や厳しい条件を必要とせず、簡便かつ温和な条件で、PPOを有用な、ポリマーの原料化合物に酸化分解できる。
【実施例0027】
[実施例1]
本実施例では、ヘテロポリ酸としてケイタングステン酸、硝酸塩として硝酸イットリウム六水和物、添加剤としてNFBS、再酸化剤として過酸化水素を使用した場合を示す。
PPO(Sigma-Aldrich社製、品番181781-5G、数平均分子量20,000-30,000、形状は粉末状)50mg、30%過酸化水素(富士フイルム和光純薬株式会社製)1mL、ケイタングステン酸26水和物(HSiW1240・26HO、以下SiW12と表記する) (富士フイルム和光純薬株式会社製)310mg、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム(NFBS) (東京化成工業株式会社製)33.8mg、硝酸イットリウム六水和物(Y(NO・6HO) (Sigma-Aldrich社製)38.3mg、撹拌子(2×4mm)を、テフロン(登録商標)コック付試験管型シュレンク(有限会社古川理工製)中に入れて密閉し、温度調整機能付き反応装置(東京理化器械株式会社製、商品名ケミステーション)にセットし、ガラス部分上部を冷却ユニット(不凍液を流通させたアルミブロック)により冷却しながら、120℃で64時間加熱した。なお、ケイタングステン酸、NFBS、硝酸イットリウムの濃度は、それぞれ100mMであった。
【0028】
その後、ガラス部分上部に黄色の針状結晶が生成することを確認し、加熱部位を室温まで冷却したのち、黄色の針状結晶を反応溶媒(シュレンクフラスコ内の液)中に再度溶かした。溶解後に得られた懸濁液を回収し、懸濁液を静置した後の上清を300μLとり、定量溶液300μLと混合し、計600μLとなった溶液にさらに濃硫酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)を10μL加え、この溶液に対するHNMRスペクトル測定を行い、その結果から、溶液内の各種有機物(生成物)の濃度の定量を、内部標準をもとに行った。なお、HNMRスペクトル測定には、核磁気共鳴装置(Bruker社製、AV600)を使用した(測定条件:ロック溶媒:DO、積算回数8回)。図1には、HNMRスペクトルを示す。主な生成物として、26DMBQの他に、酢酸、グリコール酸、ギ酸などが得られた(表1)。収率は、HNMRスペクトルの各生成物の信号の面積値と内部標準の信号の面積値の比から算出して求めた。
【0029】
なお、この際に用いた定量溶液の調製法を以下に示す。
9.18mgの4,4-ジメチル-4-シラペンタンスルホン酸ナトリウム(Sodium4,4-dimethyl-4-silapentanesulfonate)(DSS)を容積50mLのメスフラスコに量り取り、これに重水(DO)を加えてDSSを溶解し全量を50mLとした重水溶液を定量溶液とした。
以下の実施例および比較例において、使用した化合物や装置および条件等は、特に断りのない限り、実施例1と同様の化合物や装置および条件等で実施した。また、以下の実施例において、PPOに対する酸化剤(硝酸塩または硝酸として)、再酸化剤、ヘテロポリ酸、添加剤の量は、全て同じmol(当量)とした。
なお、上記したように、26DMBQは昇華により得られるため、ガラス部分上部に付着した結晶を直接スパーテル等で掻き出すか、ヘキサンなどの飽和炭化水素で抽出することで、26DMBQのみを容易に回収できる。ヘキサンで抽出する場合、他の生成物はヘキサンには溶解しないため、他生成物との分離は非常に容易にできる。
【0030】
[実施例2]
ヘテロポリ酸としてケイタングステン酸の代わりに、リンタングステン酸26水和物(HPW1240・26HO、以下PW12と表記する) (富士フイルム和光純薬株式会社製)310mgを用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0031】
[実施例3]
硝酸塩として硝酸イットリウム六水和物の代わりに、硝酸スカンジウム五水和物(Sc(NO・5HO) (富士フイルム和光純薬株式会社製)32mgを用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0032】
[実施例4]
硝酸塩として硝酸イットリウム六水和物の代わりに、硝酸ランタン六水和物(La(NO・6HO) (富士フイルム和光純薬株式会社製)43mgを用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0033】
[実施例5]
硝酸塩として硝酸イットリウム六水和物の代わりに、硝酸ストロンチウム四水和物(Sr(NO・4HO) (富士フイルム和光純薬株式会社製)32mgを用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0034】
[実施例6]
硝酸塩として硝酸イットリウム六水和物の代わりに、硝酸酸化ジルコニウム二水和物(ZrO(NO・2HO) (富士フイルム和光純薬株式会社製)40mgを用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0035】
[実施例7]
硝酸塩として硝酸イットリウム六水和物の代わりに、硝酸ナトリウム (NaNO) (富士フイルム和光純薬株式会社製)26mgを用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0036】
[実施例8]
硝酸塩として硝酸イットリウム六水和物の代わりに、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO) (富士フイルム和光純薬株式会社製)39mgを用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0037】
[実施例9]
硝酸塩として硝酸イットリウム六水和物の代わりに、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO・9HO) (富士フイルム和光純薬株式会社製)38mgを用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0038】
[実施例10]
硝酸イットリウム六水和物の代わりに、60%硝酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)23.1μL(硝酸イットリウム六水和物と、硝酸量として同じモル量である)を用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0039】
[実施例11]
添加剤としてNFBSの代わりに、ヘプタフルオロ酪酸ナトリウム(HFBA,Fluorochem Ltd社製)24mg(NFBSと同量)を用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0040】
[実施例12]
添加剤としてNFBSの代わりに、ノナフルオロブタンスルホン酸リチウム(NFBS-Li, 東京化成工業株式会社製)31mgを用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0041】
[実施例13]
添加剤としてNFBSの代わりに、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム(東京化成工業株式会社製)19mgを用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0042】
[実施例14]
添加剤としてNFBSの代わりに、硫酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)9mgを用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0043】
[実施例15]
添加剤としてNFBSの代わりに、メタンスルホン酸カリウム(東京化成工業株式会社製)13mgを用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0044】
[実施例16]
添加剤としてNFBSの代わりに、過塩素酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)19mgを用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0045】
[実施例17]
添加剤としてNFBSの代わりに、塩化カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)7mgを用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0046】
[実施例18]
添加剤としてNFBSの代わりに、硝酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)10mgを用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0047】
[実施例19]
添加剤としてNFBSの代わりに、トリフルオロ酢酸カリウム(東京化成工業株式会社製)15mgを用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0048】
[実施例20]
添加剤としてNFBSの代わりに、酢酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)10mgを用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0049】
[実施例21]
添加剤としてNFBSの代わりに、炭酸水素カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)10mgを用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0050】
[実施例22]
添加剤としてNFBSの代わりに、炭酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)14mgを用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0051】
[実施例23]
過酸化水素の代わりに蒸留水1mLを用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0052】
[比較例1]
ヘテロポリ酸を用いなかった点で上記実施例1と異なるが、それ以外は同様の条件として、生成物を得た。
【0053】
[比較例2]
添加剤を用いなかった点で上記実施例1と異なるが、それ以外は同様の条件として、生成物を得た。
【0054】
[比較例3]
硝酸塩を用いなかった点で上記実施例1と異なるが、それ以外は同様の条件として、生成物を得た。
【0055】
[比較例4]
硝酸イットリウム六水和物の代わりに、硫酸イットリウム(Strem-Chemical社製)31mgを用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0056】
[比較例5]
硝酸イットリウム六水和物の代わりに、トリフルオロメタンスルホン酸イットリウム((CFSOY)(Sigma-Aldrich社製)54mgを用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0057】
[比較例6]
硝酸イットリウム六水和物の代わりに、塩化イットリウム六水和物(YCl・6HO)(Sigma-Aldrich製)30mgを用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。
【0058】
表1には、上記実施例の結果を示し、表2には、比較例の結果を示す。実施例、比較例共に、反応温度は120℃、反応時間は64時間であった。なお、実施例20においては、酢酸カリウム(KOAc)由来の酢酸と区別できないことから酢酸の定量は行わなかった。
【表1】
【表2】
【0059】
表1の結果から、上記実施例によれば比較的良好な収率で26DMBQを得ることができたことが確認された。特に、ヘテロポリ酸としてケイタングステン酸を用いた場合に、安定して収率が高くなった。硝酸塩は、硝酸イットリウム、硝酸スカンジウム、硝酸ランタン、硝酸ストロンチウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸アルミニウムを用いた場合に、収率が高くなり、特に硝酸イットリウムが有効であった。この結果によれば、硝酸塩の対カチオンには大きくは影響しないことがいえる。また、硝酸塩の代わりに硝酸を用いた場合でも、比較的良好な収率で26DMBQを得ることができた。一方、硫酸や塩酸などの塩では反応が進まなかったことから(比較例4-6)、硝酸がPPOの酸化分解反応に有効に機能していることがいえる。さらに、添加剤では、どの添加剤でも収率が高かったが、特にNFBSが有効であった。表3には、各添加剤の共役酸のpKa(第1pKaの値)を示す(出典:Evans group pKa Table, Harvard University)。
【0060】
【表3】
添加剤として、塩基性の強いKCOを用いた場合でも反応に適用可能であったが、全体的に見て、pKaの値が小さいもの(酸性度の高いもの)や電離度が1に近いものほど効果があるといえ、pKaや電離度が反応性に関係していることが推測される。特に、共役酸が強酸のアルカリ金属塩が好ましい。
なお、再酸化剤は用いなくても26DMBQは生成するが、再酸化剤として過酸化水素を使用することで、収率が向上した。したがって、再酸化剤を使用した方が好ましいといえる。なお、上記実施例において、中には、副生成物である酢酸の収率と同等のものもあったが、上述したように26DMBQと酢酸等の他の生成物との分離は容易にできることから、26DMBQの回収は容易であり、大量製造も可能である。
【0061】
[実施例24-40]
次に、反応温度やヘテロポリ酸、硝酸塩、添加剤等の濃度を変えて、実験を行った。反応温度は80、100、120、140℃とした。また、ヘテロポリ酸、硝酸塩、添加剤等は、それぞれ表1から良好な結果が得られたケイタングステン酸、硝酸イットリウム六水和物、NFBSを使用した。その結果を表4に示す。なお、表4に記載の事項以外は、上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。反応時間は、どの実施例においても64時間とした。
【表4】
【0062】
表4の結果から、ケイタングステン酸(SiW12)の濃度は60-150mMのときに良好な収率で26DMBQを得ることができた。また、硝酸イットリウムの濃度は100-300mMで良好な結果が得られた。そして、NFBSの濃度は20-300mMの比較的広い範囲において、安定した高い収率で26DMBQを得ることができた。反応温度については、100℃以上、特に120℃で、収率が向上した。本実施例によれば、この程度の低温でもPPOの酸化分解反応が効率よく進むことが確認できた。
【0063】
[実施例41-45]
さらに、再酸化剤である30%過酸化水素の濃度を変えて、それ以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。その結果(反応温度120℃、反応時間64時間)を表5に示す。
【表5】
【0064】
表5の結果から、過酸化水素水の濃度は、全体で6%以上あれば反応効率は良好であることが確認された。したがって、少ない量の再酸化剤により、飛躍的に収率が向上することがいえる。
【0065】
[実施例46-48]
また、ケイタングステン酸、硝酸イットリウム六水和物、NFBSを使用して、反応時間を変えて、実験を行った。反応時間以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。その結果(反応温度120℃)を表6に示す。
【表6】
【0066】
この結果から、反応時間を長くした方が、収率の向上は確認されたが、64時間以上で頭打ちとなり、省エネルギー化や反応の効率化の面から、48-64時間程度が好ましいといえる。
【0067】
[実施例49]
さらに、ヘテロポリ酸としてケイタングステン酸の代わりに、リンタングステン酸26水和物310mgを用いて、硝酸イットリウム六水和物の代わりに、硝酸酸化ジルコニウム二水和物(ZrO(NO・2HO)40mgを用いた以外は上記実施例1と同様の条件として、生成物を得た。その結果(反応温度120℃)を表7に示す。
【表7】
ヘテロポリ酸としてリンタングステン酸26水和物を使用した場合は、硝酸塩として硝酸酸化ジルコニウム二水和物を用いた場合においても、副生成物である酢酸の収率は上がったものの硝酸イットリウム六水和物を用いた場合と同等の収率で26DMBQが得られた。
【0068】
以上のように、上記実施例によれば、280℃などの高温の厳しい反応条件を必要とすることもなく、温和な条件で、簡便に、省エネルギー化にも優れたPPOの酸化分解方法が可能となる。そして、上記実施例によれば、PPOを26DMBQに酸化分解できるため、26DMBQから容易に原料化合物である2,6-ジメチルフェノールを合成できるし、また、他のポリマー原料や試薬など種々の利用法もある。さらに、反応に使用するヘテロポリ酸も比較的簡便な方法で安価に入手可能で高温・強酸化条件でも分解しないため、長時間の反応でも耐えうるPPOの酸化分解方法といえる。したがって、このPPOの酸化分解方法は、産業上有用なプロセスである。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、自動車部品、耐熱性製品、電気電子部品、事務部品、給水部品などに使用されるPPO等のポリフェニレンオキサイドの酸化分解方法として、利用可能性がある。
図1