(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119262
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】圧電体組成物、圧電体デバイス、及び積層アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
C04B 35/495 20060101AFI20240827BHJP
H10N 30/093 20230101ALI20240827BHJP
H10N 30/01 20230101ALI20240827BHJP
H10N 30/85 20230101ALI20240827BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20240827BHJP
【FI】
C04B35/495
H10N30/093
H10N30/01
H10N30/85
H10N30/853
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026037
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 淳
(72)【発明者】
【氏名】伊勢 理
(72)【発明者】
【氏名】中村 亮
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 薫
(72)【発明者】
【氏名】王 瑞平
(72)【発明者】
【氏名】相浦 義弘
(57)【要約】
【課題】圧電体組成物を形成する際の焼成温度を低くすることが可能な圧電体組成物を提供すること。
【解決手段】本開示の一態様にかかる圧電体組成物は、下記組成式Aで表される組成物を主成分とし、当該主成分1molに対してマンガン元素をjmol%含む圧電体組成物である。組成式A:{(Na
aK
b)
1-c-dBa
c(Bi
0.5Li
0.5)
d}
e(Nb
1-fSb
fTa
g)
1-h-iZr
hTi
iO
3。ここで、0.3<a<0.7、0.3<b<0.7、0.03<c<0.09、0<d<0.05、0.9<e≦1.1、0<f<0.05、0≦g<0.10、0.03<h<0.09、0<i<0.05、0<j<5である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記組成式Aで表される組成物を主成分とし、当該主成分1molに対してマンガン元素をjmol%含む圧電体組成物。
組成式A:{(NaaKb)1-c-dBac(Bi0.5Li0.5)d}e(Nb1-fSbfTag)1-h-iZrhTiiO3
ここで、0.3<a<0.7、0.3<b<0.7、0.03<c<0.09、0<d<0.05、0.9<e≦1.1、0<f<0.05、0≦g<0.10、0.03<h<0.09、0<i<0.05、0<j<5である。
【請求項2】
前記組成式Aにおいて、0.4≦a≦0.6、0.4≦b≦0.6、0.04≦c≦0.08、0.01≦d≦0.04、0.95≦e≦1.05、0.01≦f≦0.04、0≦g≦0.08、0.04≦h≦0.08、0.01≦i≦0.04、0.5≦j≦4である、請求項1に記載の圧電体組成物。
【請求項3】
前記圧電体組成物の圧電定数d33が400pm/V以上である、請求項1または2に記載の圧電体組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の圧電体組成物と、
前記圧電体組成物に電圧を印加する電極と、を備える、
圧電体デバイス。
【請求項5】
前記圧電体組成物と、複数の前記電極とが交互に積層されている、請求項4に記載の圧電体デバイス。
【請求項6】
請求項1または2に記載の圧電体組成物と、
前記圧電体組成物に電圧を印加する電極と、を備え、
前記圧電体組成物と、複数の前記電極とが交互に積層されている、
積層アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧電体組成物、圧電体デバイス、及び積層アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電体組成物は、各種センサ、超音波振動子、圧電トランス、圧電アクチュエータ、圧電スピーカ等といった様々な圧電体デバイスに用いられている。
【0003】
圧電体組成物としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、ニオブ酸カリウム(KNbO3)等のペロブスカイト型酸化物が知られている。この中でも、鉛を含まないチタン酸バリウム(BaTiO3)、ニオブ酸カリウム(KNbO3)等は、鉛汚染を起こさない等の環境上の問題から注目されている。
【0004】
特許文献1には、(Na,Ka)NbO3が主体をなし、PZTと同じ菱面晶-正方晶相境界を形成し、環境に優しい圧電体組成物に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている圧電体組成物は、(Na,Ka)NbO3が主体をなしているため非鉛であり、また圧電特性も良好である。しかしながら、特許文献1に開示されている圧電体組成物は、圧電体組成物を形成する際の焼成温度が高いという問題がある。
【0007】
上記課題に鑑み本開示の目的は、圧電体組成物を形成する際の焼成温度を低くすることが可能な圧電体組成物、圧電体デバイス、及び積層アクチュエータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様にかかる圧電体組成物は、下記組成式Aで表される組成物を主成分とし、当該主成分1molに対してマンガン元素をjmol%含む圧電体組成物である。
組成式A:{(NaaKb)1-c-dBac(Bi0.5Li0.5)d}e(Nb1-fSbfTag)1-h-iZrhTiiO3
ここで、0.3<a<0.7、0.3<b<0.7、0.03<c<0.09、0<d<0.05、0.9<e≦1.1、0<f<0.05、0≦g<0.10、0.03<h<0.09、0<i<0.05、0<j<5である。
【0009】
上述の組成式Aにおいて、0.4≦a≦0.6、0.4≦b≦0.6、0.04≦c≦0.08、0.01≦d≦0.04、0.95≦e≦1.05、0.01≦f≦0.04、0≦g≦0.08、0.04≦h≦0.08、0.01≦i≦0.04、0.5≦j≦4であってもよい。
【0010】
上述の圧電体組成物の圧電定数d33が400pm/V以上であってもよい。
【0011】
本開示の一態様にかかる圧電体デバイスは、上述の圧電体組成物と、前記圧電体組成物に電圧を印加する電極と、を備える。
【0012】
上述の圧電体デバイスにおいて、前記圧電体組成物と、複数の前記電極とが交互に積層されていてもよい。
【0013】
本開示の一態様にかかる積層アクチュエータは、上述の圧電体組成物と、前記圧電体組成物に電圧を印加する電極と、を備え、前記圧電体組成物と、複数の前記電極とが交互に積層されている。
【発明の効果】
【0014】
本開示により、圧電体組成物を形成する際の焼成温度を低くすることが可能な圧電体組成物、圧電体デバイス、及び積層アクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例および比較例にかかるサンプルの微細構造を示す電子顕微鏡写真である。
【
図2】実施例および比較例にかかるサンプルの信頼性試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態について説明する。
本開示にかかる圧電体組成物は、下記組成式Aで表される組成物を主成分とし、当該主成分1molに対してマンガン元素をjmol%含む圧電体組成物である。
【0017】
組成式A:{(NaaKb)1-c-dBac(Bi0.5Li0.5)d}e(Nb1-fSbfTag)1-h-iZrhTiiO3
【0018】
ここで、0.3<a<0.7、0.3<b<0.7、0.03<c<0.09、0<d<0.05、0.9<e≦1.1、0<f<0.05、0≦g<0.10、0.03<h<0.09、0<i<0.05、0<j<5である。
【0019】
上述の組成式Aで表される圧電体組成物は、ペロブスカイト構造を備える。組成式Aの「{(NaaKb)1-c-dBac(Bi0.5Li0.5)d}e」は、ペロブスカイト構造のAサイトに対応する。また、組成式Aの「(Nb1-fSbfTag)1-h-iZrhTii」は、ペロブスカイト構造のBサイトに対応する。
【0020】
aはNaの組成比(モル比)であり、0.3<a<0.7の範囲が好ましく、0.4≦a≦0.6の範囲がより好ましい。
【0021】
bはKの組成比(モル比)であり、0.3<b<0.7の範囲が好ましく、0.4≦b≦0.6の範囲がより好ましい。
【0022】
cはBaの組成比(モル比)であり、0.03<c<0.09の範囲が好ましく、0.04≦c≦0.08の範囲がより好ましい。
【0023】
dはBi0.5Li0.5の組成比(モル比)であり、0<d<0.05の範囲が好ましく、0.01≦d≦0.04の範囲がより好ましい。
【0024】
eはAサイトの組成比(モル比)であり、0.9<e≦1.1の範囲が好ましく、0.95≦e≦1.05の範囲がより好ましい。
【0025】
fはSbの組成比(モル比)であり、0<f<0.05の範囲が好ましく、0.01≦f≦0.04の範囲がより好ましく、0.01≦f≦0.03の範囲が更に好ましい。
【0026】
gはTaの組成比(モル比)であり、0≦g<0.10の範囲が好ましく、0≦g≦0.08の範囲がより好ましい。
【0027】
hはZrの組成比(モル比)であり、0.03<h<0.09の範囲が好ましく、0.04≦h≦0.08の範囲がより好ましい。
【0028】
iはTiの組成比(モル比)であり、0<i<0.05の範囲が好ましく、0.01≦i≦0.04の範囲がより好ましい。
【0029】
jは、組成式Aで表される組成物1molに対するMnの添加量(mol%)であり、0<j<5の範囲が好ましく、0.5≦j≦4の範囲がより好ましく、1≦j≦4の範囲が更に好ましい。
【0030】
本実施の形態にかかる圧電体組成物では、上記a~jを上記範囲とすることで、圧電特性を良好にすることができる。具体的には、本実施の形態にかかる圧電体組成物では、圧電体組成物の圧電定数d33を400pm/V以上とすることができ、圧電体デバイスとして実用レベルの特性が得られる。
【0031】
また、本実施の形態では、Mnの添加量であるjの範囲を上記範囲とすることで、圧電体組成物を形成する際の焼成温度を低くすることができる。ここで、Mnを添加した場合は、
図1の比較例の電子顕微鏡写真に示すように、結晶粒が異常に成長し粗大粒となる場合がある。このように粗大粒が生成されると、信頼性試験(高温負荷試験)で素子抵抗が劣化するという問題がある。そこで本実施の形態では、Mn添加に起因する粗大粒の発生を抑制するために、Sbを添加している(つまり、ペロブスカイト構造のBサイトをSbで置換している)。Sbの組成比であるfの範囲を上記範囲とすることで、Mn添加に起因する粗大粒の発生を効果的に抑制できる。これにより、圧電体組成物の信頼性を向上させることができる。
【0032】
なお、Mnは、ペロブスカイト構造のAサイト及び/又はBサイトに入ってもよく、または粒内または粒界に含有されてもよい。
【0033】
本実施の形態にかかる圧電体組成物の組成は、蛍光X線装置、ICP発光分光分析装置等を用いて測定できる。また、結晶構造は、X線回折装置を用いて測定できる。
【0034】
次に、本実施の形態にかかる圧電体組成物の製造方法について説明する。
圧電体組成物を製造する際は、まず、上記組成式Aにおいて、a~jの値が上記条件を満たすように各原料粉末を秤量する。原料には、Na2CO3、K2CO3、BaCO3、Li2CO3、Bi2O3、Nb2O5、Sb2O5、ZrO2、TiO2、MnO2等の試薬粉末を使用できる。なお、これらの原料は一例であり、本実施の形態では他の化合物の粉末を原料として用いてもよい。
【0035】
次いで、秤量した各原料粉末をボールミル等を用いてアルコール中で湿式混合する。そして、混合粉末を乾燥後、所定の温度(例えば、900℃)で予焼し、更にボールミルを用いてアルコール中で粉砕する。その後、粉砕後の粉末を乾燥した後、水溶系バインダを加え、所定の形状の成形型に粉末を入れて200MPaの圧力でプレス成形する。そして、成形後のサンプルを所定の温度(例えば、500℃)で熱処理してバインダを分解し、その後、所定の温度(例えば、1100℃前後)で焼成する。本実施の形態にかかる圧電体組成物では、従来の焼成温度(1200℃~1300℃程度)よりも、焼成温度を低くすることができる。
【0036】
次に、本実施の形態にかかる圧電体デバイスについて説明する。本実施の形態にかかる圧電体デバイスは、上述の圧電体組成物と、圧電体組成物に電圧を印加する電極と、を備える。このとき、圧電体組成物と、複数の電極とが交互に積層されていてもよい。つまり、圧電体組成物の層と、電極層とが交互に積層される構成(スタック構造)にしてもよい。その他、本実施の形態にかかる圧電体組成物は、様々な圧電体デバイスに適用することができる。また、本実施の形態にかかる積層アクチュエータは、上述の圧電体組成物と、圧電体組成物に電圧を印加する電極と、を備え、圧電体組成物と、複数の電極とが交互に積層されている構成を備える。本実施の形態では、複数の積層アクチュエータを更に積層して、積層アクチュエータを構成してもよい。
【実施例0037】
<各サンプルの作製>
以下の方法を用いて実施例1~34、及び比較例1~34にかかるサンプルを作製した。
まず、下記の組成式Aにおいて、a~iの値が表1、表2に示す値(モル比)となるように各原料粉末を秤量した。また、下記の組成式Aで表される組成物1molに対してマンガン元素をjmol%(表1、表2に示す値)含むようにMn原料粉末を秤量した。原料には、Na2CO3、K2CO3、BaCO3、Li2CO3、Bi2O3、Nb2O5、Sb2O5、ZrO2、TiO2、MnO2の試薬粉末を用いた。
【0038】
組成式A:{(NaaKb)1-c-dBac(Bi0.5Li0.5)d}e(Nb1-fSbfTag)1-h-iZrhTiiO3
【0039】
次いで、秤量した各原料粉末をボールミルを用いてアルコール中で湿式混合した。そして、混合粉末を乾燥後、900℃で予焼し、更にボールミルを用いてアルコール中で粉砕した。粉砕後の粉末を乾燥した後、水溶系バインダを加えた。その後、Φ12mmの円板状に200MPaの圧力でプレス成形した。成形後、円板状のサンプルを500℃で熱処理してバインダを分解し、その後、1070℃で焼成を行った。
【0040】
<各サンプルの測定>
焼成後、アルキメデス法を用いて各サンプルの密度を測定した。各サンプルの密度を表1、表2に示す。
【0041】
また、各サンプルの上下面にスパッタ装置を用いて金電極を形成した。そして、2kV/mmの電圧を印加して分極処理を行い、中国科学院声学研究所製のd33メータを用いて圧電定数d33を測定した。各サンプルの圧電定数d33を表1、表2に示す。なお、表1における「-」は、「分極不可」を示している。
【0042】
また、各サンプルの表面を鏡面研磨し、1000℃で熱エッチングを行った。その後、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて、組織観察を行った。そして、組織写真から画像処理により平均粒径を測定し、その平均粒径の10倍以上の粒を粗大粒と定義した。各サンプルにおける粗大粒の有無を表1、表2に示す。また、一例として、実施例7および比較例4にかかるサンプルの微細構造を示す電子顕微鏡写真を
図1に示す。
【0043】
また、実施例7および比較例4にかかるサンプルについて信頼性試験を行った。信頼性試験は、高温負荷試験を実施することで行った。具体的には、各サンプルの温度を120℃に維持し、各サンプルの素子抵抗値の経時変化を調べた。信頼性試験の結果を
図2に示す。
【0044】
【0045】
【0046】
<考察>
表1に示す各サンプルは、a~e、g~iの値を固定し、f、jの値を変化させている。つまり、Sb量(f値)とMn量(j値)を変化させている。表1では、圧電定数d33が400pm/V以上かつ粗大粒がないサンプルを実施例とし、それ以外のサンプルを比較例としている。
【0047】
表1に示すように、実施例1~16(f=0.01~0.04、j=0.5~4)では、圧電定数d33が400pm/V以上となり、また粗大粒も観察されなかった。よって、良好な結果となった。
【0048】
比較例1~7では、圧電定数d33が400pm/Vよりも小さくなり、また粗大粒が観察された。粗大粒が観察された理由は、Sb量(f値)が少ないからと考えられる。
【0049】
比較例8~15では、粗大粒は観察されなかったが、圧電定数d33が400pm/Vよりも小さくなった。この理由は、比較例8、10、12、14ではMn量が多すぎるためと考えられる。また、比較例9、11、13、15ではMnを添加しなかったためと考えられる。
【0050】
比較例16~20では、粗大粒は観察されなかったが、分極処理を行っても分極ができなかった。この理由は、Sb量(f値)が多すぎるからと考えられる。
【0051】
表2に示す各サンプルは、Sb量(f値)をf=0.02に、Mn量(j値)をj=2にそれぞれ固定し(実施例7に対応)、a~e、g~iの値を変化させている。表2においても、圧電定数d33が400pm/V以上かつ粗大粒がないサンプルを実施例とし、それ以外のサンプルを比較例としている。
【0052】
比較例21、22、実施例17、18は、Na量(a値)を0.3~0.7の範囲で変化させている。これらの結果から、Na量(a値)は0.4~0.6の範囲が良好な範囲であった。
【0053】
比較例23、24、実施例19、20は、K量(b値)を0.3~0.7の範囲で変化させている。これらの結果から、K量(b値)は0.4~0.6の範囲が良好な範囲であった。
【0054】
比較例25、26、実施例21、22は、Ba量(c値)を0.03~0.09の範囲で変化させている。これらの結果から、Ba量(c値)は0.04~0.08の範囲が良好な範囲であった。
【0055】
比較例27、28、実施例23、24は、Bi0.5Li0.5量(d値)を0~0.05の範囲で変化させている。これらの結果から、Bi0.5Li0.5量(d値)は0.01~0.04の範囲が良好な範囲であった。
【0056】
比較例29、実施例25~27は、Aサイト量(e値)を0.9~1.1の範囲で変化させている。これらの結果から、Aサイト量(e値)は0.95~1.1の範囲が良好な範囲であった。
【0057】
比較例30、実施例28~30は、Ta量(g値)を0.02~0.1の範囲で変化させている。これらの結果及び実施例7を考慮すると、Ta量(g値)は0~0.08の範囲が良好な範囲であった。
【0058】
比較例31、32、実施例31、32は、Zr量(h値)を0.03~0.09の範囲で変化させている。これらの結果から、Zr量(h値)は0.04~0.08の範囲が良好な範囲であった。
【0059】
比較例33、34、実施例33、34は、Ti量(i値)を0~0.05の範囲で変化させている。これらの結果から、Ti量(i値)は0.01~0.04の範囲が良好な範囲であった。
【0060】
図2に示すように、実施例7および比較例4にかかるサンプルについて信頼性試験を行った結果、比較例4にかかるサンプルでは、素子抵抗値の低下がみられた。一方、実施例7にかかるサンプルでは、試験時間が800時間以上であっても素子抵抗値の低下がほとんどみられなかった。よって、実施例7にかかるサンプルは信頼性が高いサンプルであったといえる。
【0061】
<積層アクチュエータの作製>
以下の方法を用いて積層アクチュエータを作製した。
まず、上記組成式Aのa~i(モル比)、及びMn添加量j(mol%)の値が表1の比較例4、実施例7となるように各原料粉末を秤量した。つまり、Sb量(f値)がf=0(比較例4)のサンプルと、f=0.02(実施例7)のサンプルをそれぞれ作製した。原料には、Na2CO3、K2CO3、BaCO3、Li2CO3、Bi2O3、Nb2O5、Sb2O5、ZrO2、TiO2、MnO2の試薬粉末を用いた。
【0062】
次いで、秤量した各原料粉末をボールミルを用いてアルコール中で湿式混合した。そして、混合粉末を乾燥後、900℃で予焼し、更にボールミルを用いてアルコール中で粉砕した。粉砕後の粉末を乾燥した後、バインダ、溶剤と共に混合しスラリーを作製した。その後、作製したスラリーをPETフィルム上にドクターブレードで成膜し、乾燥を行い圧電膜を形成した。そして、圧電膜上に内部電極の銀パラジウム合金ペースト(Ag70%Pd30%合金)を塗布した。塗布した内部電極は所定の寸法に切り抜いた。そして、圧電膜の形成と内部電極の形成を繰り返してこれらを積層し、熱プレスを行い積層体を形成した。
【0063】
次いで、500℃でバインダ成分を揮発させた。そして、焼成炉で1070℃で焼成を行った。その後、焼成体の対向する側面1対に銀ペーストを塗布し、焼付を行い外部電極とし、2kV/mmで分極を行った。作製したアクチュエータは活性層が20層、1層厚みが100μm、不活性層厚みが100μm、サイズ(縦×横×厚さ)が5mm×5mm×2.2mmであった。
【0064】
そして、作製したアクチュエータの変位を評価した。変位は株式会社小野測器製のレーザードップラ振動計により測定した。印加電圧は100Vとした。その結果、実施例7にかかる組成を備える積層アクチュエータの変位が1.5μmであったのに対し、比較例4にかかる組成を備える積層アクチュエータの変位は1.3μmであり、実施例7が良好であった。
【0065】
さらに、作製したアクチュエータの信頼性試験を実施した。その結果、実施例7にかかる組成を備える積層アクチュエータの素子抵抗値は800時間以上経過した後であっても低下が見られなかったが、比較例4にかかる組成を備える積層アクチュエータは素子抵抗値の低下が見られた。
【0066】
以上、本発明を上記実施の形態に即して説明したが、本発明は上記実施の形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。