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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119267
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】ゴルフクラブシャフト
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/10 20150101AFI20240827BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20240827BHJP
【FI】
A63B53/10 A
A63B102:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026046
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】中澤 讓
【テーマコード(参考)】
2C002
【Fターム(参考)】
2C002CS03
2C002MM02
(57)【要約】
【課題】軽量で、捩じり剛性に優れ、捩じり強度が高いゴルフクラブシャフトを提供することを目的する。
【解決手段】プリプレグの硬化物からなる複数の炭素繊維強化樹脂層が積層されてなるゴルフクラブシャフトであって、前記複数の炭素繊維強化樹脂層には、シャフトの軸方向に対して配向角度+20°~+70°または-20°~-70°で配向した炭素繊維を含有するアングル層が含まれ、前記アングル層には、引張弾性率が350GPa以上であり、且つ引張強度が1500MPa以上2500MPa以下であるアングル層Aが含まれ、全ての前記アングル層に対して前記アングル層Aが占める割合が5質量%以上70質量%以下である、ゴルフクラブシャフト。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリプレグの硬化物からなる複数の炭素繊維強化樹脂層が積層されてなるゴルフクラブシャフトであって、
前記複数の炭素繊維強化樹脂層には、シャフトの軸方向に対して配向角度+20°~+70°または-20°~-70°で配向した炭素繊維を含有するアングル層が含まれ、
前記アングル層には、引張弾性率が350GPa以上であり、且つ引張強度が1500MPa以上2500MPa以下であるアングル層Aが含まれ、
全ての前記アングル層に対して前記アングル層Aが占める割合が5質量%以上70質量%以下である、ゴルフクラブシャフト。
【請求項2】
前記アングル層Aの軸方向の長さが、シャフトの全長に対して50%以上である、請求項1に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項3】
シャフトの総質量に対して前記アングル層Aが占める割合が1質量%以上30質量%以下である、請求項1又は2に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項4】
パターン1の炭素繊維強化樹脂層が前記アングル層Aである、請求項1又は2に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項5】
前記アングル層Aがピッチ系炭素繊維を含む、請求項1に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項6】
前記アングル層Aがピッチ系炭素繊維を含む、請求項2に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項7】
前記アングル層Aがピッチ系炭素繊維を含む、請求項3に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項8】
前記アングル層Aがピッチ系炭素繊維を含む、請求項4に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項9】
トルクが3.2°以上4.6°以下である、請求項1又は2に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項10】
総パターン数が14以下である、請求項1又は2に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項11】
ドライバー用である、請求項1又は2に記載のゴルフクラブシャフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維を熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂とともに複合化した材料である炭素繊維強化樹脂は各種の用途に用いられている。特にゴルフクラブシャフトでは、主として、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維と熱硬化性樹脂を複合化した炭素繊維強化樹脂(CFRP)が用いられている。
【0003】
炭素繊維としては、PAN系炭素繊維以外にピッチ系炭素繊維も知られている。
ゴルフシャフトの屈曲に対する強度向上を目的として、低弾性のピッチ系炭素繊維を含む、圧縮破壊に対する強度に優れた炭素繊維強化樹脂層を、外層に部分層として用いることが提案されている(例えば、特許文献1)。
また、捩じれ振動を抑制して打球方向を安定させる目的で、繊維弾性率が80tf/mm以上のピッチ系炭素繊維を含むハイブリッドプリプレグをバイアス層に使用したゴルフクラブシャフトが提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-76142号公報
【特許文献2】特開2017-164008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
引張弾性率の高いピッチ系炭素繊維を含む炭素繊維強化樹脂層をバイアス層として配置すると、シャフトのトルクは小さくなるものの、ピッチ系炭素繊維の引張強度が低いために高い捩じり強度を得ることが難しくなる傾向がある。
また、本発明者らが検討したところ、PAN系炭素繊維のみを用いる場合もバイアス層を多くすればシャフトのトルクは小さくなるが、PAN系炭素繊維とピッチ系炭素繊維を併用した同等のトルクを有するシャフトに比べてシャフトが重くなる傾向があることが分かった。
【0006】
本発明は、軽量で、捩じり剛性に優れ、捩じり強度が高いゴルフクラブシャフトを提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]プリプレグの硬化物からなる複数の炭素繊維強化樹脂層が積層されてなるゴルフクラブシャフトであって、
前記複数の炭素繊維強化樹脂層には、シャフトの軸方向に対して配向角度+20°~+70°または-20°~-70°で配向した炭素繊維を含有するアングル層が含まれ、
前記アングル層には、引張弾性率が350GPa以上であり、且つ引張強度が1500MPa以上2500MPa以下であるアングル層Aが含まれ、
全ての前記アングル層に対して前記アングル層Aが占める割合が5質量%以上70質量%以下である、ゴルフクラブシャフト。
[2]前記アングル層Aの軸方向の長さが、シャフトの全長に対して50%以上である、[1]に記載のゴルフクラブシャフト。
[3]シャフトの総質量に対して前記アングル層Aが占める割合が1質量%以上30質量%以下である、[1]又は[2]に記載のゴルフクラブシャフト。
[4]パターン1の炭素繊維強化樹脂層が前記アングル層Aである、[1]~[3]のいずれか記載のゴルフクラブシャフト。
[5]前記アングル層Aがピッチ系炭素繊維を含む、[1]に記載のゴルフクラブシャフト。
[6]前記アングル層Aがピッチ系炭素繊維を含む、[2]に記載のゴルフクラブシャフト。
[7]前記アングル層Aがピッチ系炭素繊維を含む、[3]に記載のゴルフクラブシャフト。
[8]前記アングル層Aがピッチ系炭素繊維を含む、[4]に記載のゴルフクラブシャフト。
[9]トルクが3.2°以上4.6°以下である、[1]~[8]のいずれかに記載のゴルフクラブシャフト。
[10]総パターン数が14以下である、[1]~[9]のいずれかに記載のゴルフクラブシャフト。
[11]ドライバー用である、[1]~[10]のいずれかに記載のゴルフクラブシャフト。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、軽量で、捩じり剛性に優れ、捩じり強度が高いゴルフクラブシャフトが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係るゴルフクラブシャフトの一例を示した模式図である。
図2】実施例1で用いた各パターンのプリプレグの形状及び寸法を示した模式図である。図2中の矢印は炭素繊維の繊維軸方向を示す。
図3】実施例2で用いた各パターンのプリプレグの形状及び寸法を示した模式図である。図3中の矢印は炭素繊維の繊維軸方向を示す。
図4】実施例3で用いた各パターンのプリプレグの形状及び寸法を示した模式図である。図4中の矢印は炭素繊維の繊維軸方向を示す。
図5】比較例1で用いた各パターンのプリプレグの形状及び寸法を示した模式図である。図5中の矢印は炭素繊維の繊維軸方向を示す。
図6】参考例1で用いた各パターンのプリプレグの形状及び寸法を示した模式図である。図6中の矢印は炭素繊維の繊維軸方向を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書および特許請求の範囲における用語の定義は、以下のとおりである。
「パターンXの炭素繊維強化樹脂層」とは、内側から数えてX番目に配置された1枚のプリプレグの硬化物からなる炭素繊維強化樹脂層を意味する。
例えばパターン1の炭素繊維強化樹脂層は、シャフトの最も内側に配置されたプリプレグの硬化物からなる炭素繊維強化樹脂層であり、パターン2の炭素繊維強化樹脂層は、シャフトの内側から2番目に配置されたプリプレグの硬化物からなる炭素繊維強化樹脂層である。
なお、X番目とX+1番目の2枚のプリプレグが重ね合わされた状態でマンドレルに複数回巻き付けられて硬化された場合、シャフトの軸方向に垂直な断面の径方向においては、X番目のプリプレグの硬化物からなる炭素繊維強化樹脂層と、X+1番目のプリプレグの硬化物からなる炭素繊維強化樹脂層とが内側から交互に現れることになるが、これらは1つのパターンXの炭素繊維強化樹脂層と、1つのパターンX+1の炭素繊維強化樹脂層である。3枚以上のプリプレグが重ね合わされた状態でマンドレルに複数回巻き付けられて硬化された場合も同様である。
パターンXの外側に2つの炭素繊維強化樹脂層が互いに重ならずに配置されている場合、パターンX+1とパターンX+2はそれら2つの炭素繊維強化樹脂層のどちらであってもよい。パターンXの外側に3つ以上の炭素繊維強化樹脂層が互いに重ならずに配置されている場合も同様である。
【0011】
図1は、実施形態の一例のゴルフクラブシャフト1を示す模式図である。ゴルフクラブシャフト1は、軸方向に垂直な面の外径が、軸方向の一端11から他端12に向かって大きくなっている。ゴルフクラブシャフトは、典型的にはこのような形状であり、軸方向に垂直な面の外径が軸方向の一端から他端に向かって大きくなり、途中の径切換部から他端まで外径が同一となるように形成されることもある。「細径端」とは、シャフトの外径が小さい側の端(チップ端)を意味する。「太径端」とは、シャフトの外径が大きい側の端(バット端)を意味する。
【0012】
「炭素繊維のシャフトの軸方向に対する配向角度」は、細径端(チップ端)を左、太径端(バット端)を右にして横方向にシャフトを配置した状態の正面視で、反時計回りの角度を正、時計回りの角度を負とする。
「アングル層の引張弾性率」とは、アングル層に用いたプリプレグの硬化物の引張弾性率を意味し、「アングル層の引張強度」とは、アングル層に用いたプリプレグの硬化物の引張強度を意味する。ストレート層等の他の炭素繊維強化樹脂層の引張弾性率及び引張強度についても同様である。
プリプレグの硬化物の引張弾性率は、ASTM D3039により測定される。
プリプレグの硬化物の引張強度は、ASTM D3039により測定される。
「トルク」とは、シャフトの細径端部と太径端部をそれぞれチャックでクランプし、細径端部側のチャックを介してシャフトに1.36N・mの捩じれトルクを加えた時の捩じれ角である。
【0013】
以下、本発明の実施形態について、一例を示し、図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において例示される図の寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0014】
[ゴルフクラブシャフト]
実施形態に係るゴルフクラブシャフトは、プリプレグの硬化物からなる複数の炭素繊維強化樹脂層が積層されてなるゴルフクラブシャフトであって、以下の要件(1)~(3)を充たす。
(1)前記複数の炭素繊維強化樹脂層には、シャフトの軸方向に対して配向角度+20°~+70°または-20°~-70°で配向した炭素繊維を含有するアングル層が含まれる。
(2)前記アングル層には、引張弾性率が350GPa以上であり、且つ引張強度が1500MPa以上2500MPa以下であるアングル層Aが含まれる。
(3)全ての前記アングル層に対して前記アングル層Aが占める割合が5質量%以上70質量%以下である。
【0015】
(炭素繊維強化樹脂層)
炭素繊維強化樹脂層は、炭素繊維を含むプリプレグの硬化物からなる層である。
炭素繊維強化樹脂層は、例えば一方向に揃えられた複数の炭素繊維にマトリックス樹脂を含浸させたシート状のUDプリプレグをマンドレル(芯金)に巻き付け、これを加熱して硬化させるシートラッピング法により形成される。
【0016】
炭素繊維としては、PAN系炭素繊維を用いてもよく、ピッチ系炭素繊維を用いてもよい。
1つの炭素繊維強化樹脂層に含まれる炭素繊維は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0017】
マトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂が挙げられるが、限定されるものではない。
エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂は、液状のものも固体状のものも使用できる。
炭素繊維強化樹脂層に含まれるマトリックス樹脂は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0018】
実施形態に係るゴルフクラブシャフトの複数の炭素繊維強化樹脂層には、炭素繊維の配向角度が+20°~+70°または-20°~-70°のアングル層が含まれる。
複数の炭素繊維強化樹脂層には、アングル層に加えて、炭素繊維の配向角度が-5°~+5°のストレート層、および、炭素繊維の配向角度が+85°~+95°または-85°~-95°のフープ層の少なくとも一方が含まれてもよい。
【0019】
ゴルフクラブシャフトに含まれるアングル層は、炭素繊維の配向角度が+20°~+70°であるアングル層のみであってもよく、炭素繊維の配向角度が-20°~-70°のアングル層のみであってもよく、それらの両方であってもよい。
正の配向角度の炭素繊維を含有するアングル層と、負の配向角度の炭素繊維を含有するアングル層の両方を用いる場合、それらが対となったバイアス層を形成してもよい。バイアス層を設けることは、捩じり剛性および捩じり強度を高める観点から好ましい。
【0020】
実施形態に係るゴルフクラブシャフトには、アングル層として、引張弾性率が350GPa以上であり、且つ引張強度が1500MPa以上2500MPa以下であるアングル層Aが含まれる。
また、ゴルフクラブシャフトに含まれるアングル層には、アングル層Aに加えて、アングル層A以外のアングル層Bも含まれる。
アングル層Bは、引張弾性率が350GPa未満であるか、または引張強度が1500MPa未満もしくは2500MPa超であるアングル層である。
【0021】
全てのアングル層に対してアングル層Aが占める割合(割合P)は、5質量%以上70質量%以下である。割合Pが前記範囲内であれば、軽量で、捩じり剛性に優れ、捩じり強度が高いゴルフクラブシャフトとなる。
割合Pは、7.5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、12.5質量%以上が更に好ましく、一方、65質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、55質量%以下が更に好ましい。アングル層Aが占める割合が前記下限値以上であれば、軽量でありながら捩じり剛性に優れたゴルフクラブシャフトが得られやすい傾向がある。アングル層Aが占める割合が前記上限値以下であれば、捩じり強度が高いゴルフクラブシャフトが得られやすい傾向がある。
【0022】
シャフトの総質量に対してアングル層Aが占める割合(割合Q)は、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上が更に好ましく、一方、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましく、15質量%以上が特に好ましい。割合Qが前記下限値以上であれば、軽量でありながら捩じり剛性に優れたゴルフクラブシャフトが得られやすい傾向がある。割合Qが前記上限値以下であれば、捩じり強度が高いゴルフクラブシャフトが得られやすい傾向がある。
【0023】
シャフト全長に対するアングル層Aの軸方向の長さの割合は、50%以上が好ましく、75%以上がより好ましく、100%であることが更に好ましい。シャフト全長に対するアングル層Aの軸方向の長さが前記下限値以上であれば、軽量でありながら捩じり剛性に優れたゴルフクラブシャフトが得られやすい傾向がある。
【0024】
アングル層Aの位置は、限定されるものではないが、軽量でありながら、捩じれ剛性に優れ、捩じれ強度の高いゴルフクラブシャフトが得られやすいことから、パターン1からパターン3の炭素繊維強化樹脂層の少なくとも1つとして配置されることが好ましく、パターン1の炭素繊維強化樹脂層がアングル層Aであることがより好ましい。
アングル層Aは、1つであってもよく、2つ以上であってもよい。
【0025】
捩じれ剛性に優れ、捩じれ強度の高いゴルフクラブシャフトが得られやすいことから、パターン1からパターン3までに配置されるアングル層Aは、その内側または外側のアングル層と対となったバイアス層を形成していることが好ましい。この場合、2つのアングル層Aが対となったバイアス層を形成していることが好ましいが、限定はされない。アングル層Aとアングル層Bが対となったバイアス層を形成してもよい。
例えば、パターン1とパターン2の2つのアングル層Aが対となったバイアス層を形成する構成や、パターン3とパターン4の2つのアングル層Aが対となったバイアス層を形成する構成が挙げられる。
【0026】
アングル層Aは、ピッチ系炭素繊維を含むことが好ましい。
アングル層Aの引張弾性率は、350GPa以上であり、350GPa以上が好ましく、400GPa以上がより好ましく、450GPa以上が更に好ましく、一方、800GPa以下が好ましく、700GPa以下がより好ましく、600GPa以下が更に好ましい。前記引張弾性率が前記下限値以上であれば、軽量でありながら、捩じれ振動が抑制され、打球方向の安定性に優れたゴルフクラブシャフトが得られる。前記引張弾性率が前記上限値以下であれば、捩じれが小さいゴルフクラブシャフトが得られる。
【0027】
アングル層Aの引張強度は、1500MPa以上2500MPa以下であり、1600MPa以上が好ましく、1700MPa以上がより好ましく、1800MPa以上が更に好ましく、一方、2400MPa以下が好ましく、2300MPa以下がより好ましく、2200MPa以下が更に好ましい。前記引張強度が前記下限値以上であれば、強度に優れたゴルフクラブシャフトが得られる。前記引張強度が前記上限値以下であれば、軽量でありながら、捩じれ振動が抑制され、打球方向の安定性に優れたゴルフクラブシャフトが得られる。
【0028】
アングル層Bは、PAN系炭素繊維を含むことが好ましい。
アングル層Bの引張弾性率は、200GPa以上が好ましく、300GPa以上がより好ましく、400GPa以上が更に好ましく、一方、600GPa以下が好ましく、550GPa以下がより好ましく、500GPa以下が更に好ましい。前記引張弾性率が前記下限値以上であれば、軽量でありながら、捩じれ振動が抑制され、打球方向の安定性に優れたゴルフクラブシャフトが得られやすい。前記引張弾性率が前記上限値以下であれば、軽量でありながら、捩じれ振動が抑制され、打球方向の安定性に優れたゴルフクラブシャフトが得られる。
【0029】
アングル層Bの引張強度は、2500MPa超が好ましく、3000MPa以上がより好ましく、4000MPa以上が更に好ましく、一方、9000MPa以下が好ましく、8000MPa以下がより好ましく、7000MPa以下が更に好ましい。前記引張強度が前記下限値以上であれば、軽量でありながら、捩じれ振動が抑制され、打球方向の安定性に優れたゴルフクラブシャフトが得られる。前記引張強度が前記上限値以下であれば、強度に優れたゴルフクラブシャフトが得られる。
【0030】
実施形態のゴルフクラブシャフトがストレート層を含む場合、ストレート層は、PAN系炭素繊維を含むことが好ましい。
ストレート層の引張弾性率は、200GPa以上が好ましく、220GPa以上がより好ましく、240GPa以上がさらに好ましく、一方460GPa以下が好ましく、400GPa以下がより好ましく、400GPa以下がさらに好ましい。ストレート層に含まれる炭素繊維の引張弾性率が前記範囲内であれば、打球の方向性がより安定する傾向にある。
少なくとも一部のストレート層が、引張弾性率が前記範囲内のストレート層であることが好ましく、全てのストレート層が、引張弾性率が前記範囲内のストレート層であることが特に好ましい。
【0031】
ストレート層の引張強度は、シャフトの軽量化が容易なことから、3500MPa以上が好ましく、4000MPa以上がより好ましく、4500MPa以上が更に好ましく、一方8500MPa以下が好ましく、8200MPa以下がより好ましく、8000MPa以下がさらに好ましい。ストレート層に含まれる炭素繊維の引張強度が前記範囲内であれば、軽量かつ高強度なシャフトを得やすい。
少なくとも一部のストレート層が、引張強度が前記範囲内のストレート層であることが好ましく、全てのストレート層が、引張強度が前記範囲内のストレート層であることが特に好ましい。
【0032】
実施形態のゴルフクラブシャフトがフープ層を含む場合、フープ層は、PAN系炭素繊維を含むことが好ましい。
フープ層の引張弾性率および引張強度の好ましい範囲は、ストレート層の引張弾性率および引張強度の好ましい範囲と同様である。
【0033】
実施形態に係るゴルフクラブシャフトが有する炭素繊維強化樹脂層の総数(総パターン数)は、14以下が好ましく、13以下がより好ましく、12以下が更に好ましい。総パターン数が前記上限値以下であれば、軽量なゴルフクラブシャフトを得られる。ゴルフクラブシャフトの機能の発現の点では、総パターン数は、6以上が好ましく、7以上がより好ましく、8以上が更に好ましい。総パターン数は、例えば8以上14以下とすることができる。
【0034】
ゴルフクラブシャフトのトルク(Tq)は、3.2°以上が好ましく、3.6°以上がより好ましく、一方、4.6°以下が好ましく、4.0°以下がより好ましい。トルクが前記上限値以下であれば、打球方向の安定性に優れる。トルクが前記下限値以上であれば、バイアス層の数が過度になりにくく軽量化しやすい。
【0035】
実施形態に係るゴルフクラブシャフトは、適用するゴルフクラブに制限はないが、打球方向の安定性に優れることから、ドライバー用として特に有効である。
【0036】
[ゴルフクラブシャフトの製造方法]
実施形態に係るゴルフクラブシャフトの製造方法としては、パターン1からパターン3までの炭素繊維強化樹脂層を形成するプリプレグの少なくとも1つとして、アングル層Aを形成するプリプレグを用いる以外は、公知の方法を採用できる。
【0037】
より具体的には、複数のプリプレグをマンドレルに順に巻き付け、加熱して硬化させることを含み、パターン1からパターン3までの炭素繊維強化樹脂層を形成するプリプレグの少なくとも1つとして、硬化したときに引張弾性率が350GPa以上、且つ引張強度が1500MPa以上2500MPa以下となるプリプレグを繊維の配向角度+20°~+70°または-20°~-70°で配置する方法により、実施形態に係るゴルフクラブシャフトを製造することができる。
例えば配向角度が正のプリプレグと、配向角度が負のプリプレグとを貼り合わせた状態でマンドレルに巻き付け、硬化させることにより、バイアス層を形成することができる。
【0038】
以上説明したように、実施形態に係るゴルフクラブシャフトは、高弾性の炭素繊維を含むアングル層Aと、アングル層A以外のアングル層Bとを特定の割合で組み合わせるため、軽量でありながら、捩じり剛性に優れ、打球方向の安定性に優れている。また、捩じり強度も高く、外部から加わった衝撃がシャフトの内部に伝播しても炭素繊維が折れにくく、シャフトの折損が抑制される。
【0039】
本発明のゴルフクラブシャフトにおいては、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前述の実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【実施例0040】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と、下記実施例の値または実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0041】
本実施例で用いた炭素繊維UDプリプレグを以下に示す。
プリプレグ1:三菱ケミカル株式会社製 HyEJ05M80D-32(目付:50g/m、ピッチ系炭素繊維、硬化物の引張弾性率:460GPa、硬化物の引張強度:2100MPa)
プリプレグ2:三菱ケミカル株式会社製 HSX350C75S(厚さ0.056mm、PAN系炭素繊維、硬化物の引張弾性率:425GPa、硬化物の引張強度:4610MPa、炭素繊維目付:69g/m、樹脂含有量:25質量%)
プリプレグ3:三菱ケミカル株式会社製 MRX350C100R(厚さ0.084mm、PAN系炭素繊維、硬化物の引張弾性率:290GPa、硬化物の引張強度:5680MPa、炭素繊維目付:100g/m、樹脂含有量:25質量%)
プリプレグ4:三菱ケミカル株式会社製 TR350C125S(厚さ0.103mm、PAN系炭素繊維、硬化物の引張弾性率:240GPa、硬化物の引張強度:4900MPa、炭素繊維目付:125g/m、樹脂含有量:25質量%)
プリプレグ5:三菱ケミカル株式会社製 MRX350C125R(厚さ0.104mm、PAN系炭素繊維、硬化物の引張弾性率:325GPa、硬化物の引張強度:7000MPa、炭素繊維目付:125g/m、樹脂含有量:24質量%)
プリプレグ6:三菱ケミカル株式会社製 MRX350C150S(厚さ0.125mm、PAN系炭素繊維、硬化物の引張弾性率:325GPa、硬化物の引張強度:7000MPa、炭素繊維目付:150g/m、樹脂含有量:25質量%)
プリプレグ7:三菱ケミカル株式会社製 TR350E125S(厚さ0.113mm、PAN系炭素繊維、硬化物の引張弾性率:240GPa、硬化物の引張強度:4900MPa、炭素繊維目付:125g/m、樹脂含有量:30質量%)
プリプレグ8:三菱ケミカル株式会社製 HRX350C050S(目付:77g/m、PAN系炭素繊維、硬化物の引張弾性率:375GPa、硬化物の引張強度:4410MPa)
【0042】
[実施例1]
パターン1~10の炭素繊維強化樹脂層を形成するプリプレグとして、表1に示すプリプレグを裁断し、図2に示す形状及び寸法のプリプレグをそれぞれ作製した。
パターン1に用いるプリプレグ1は、炭素繊維の配向角度を+45°とし、細径端の巻き回数が0.7回、太径端の巻き回数が0.7回となるように調整した。
パターン2に用いるプリプレグ1は、炭素繊維の配向角度を-45°とし、細径端の巻き回数が0.7回、太径端の巻き回数が0.7回となるように調整した。
パターン3に用いるプリプレグ2は、炭素繊維の配向角度を+45°とし、細径端の巻き回数が2.8回、太径端の巻き回数が4.1回となるように調整した。
パターン4に用いるプリプレグ2は、炭素繊維の配向角度を-45°とし、細径端の巻き回数が2.8回、太径端の巻き回数が4.1回となるように調整した。
パターン5に用いるプリプレグ3は、炭素繊維の配向角度を0°とし、巻き回数が2回となるように調整した。
パターン6に用いるプリプレグ4は、炭素繊維の配向角度を0°とし、巻き回数が1回となるように調整した。
パターン7に用いるプリプレグ5は、炭素繊維の配向角度を0°とし、巻き回数が2回となるように調整した。
パターン8に用いるプリプレグ5は、炭素繊維の配向角度を0°とし、巻き回数が1回となるように調整した。
パターン9に用いるプリプレグ6は、炭素繊維の配向角度を0°とし、巻き回数が1回となるように調整した。
パターン10に用いるプリプレグ7は、炭素繊維の配向角度を0°とし、巻き回数が1回となるように調整した。
これらのプリプレグは、細径端の外径が8.70mm程度になるよう調整した。
【0043】
次に、各プリプレグをパターン1~10の順番にマンドレルに巻き付けた。パターン1のプリプレグ1とパターン2のプリプレグ1は、それらを重ね合わせた状態で巻き付けた。パターン3のプリプレグ2とパターン4のプリプレグ2は、それらを重ね合わせた状態で巻き付けた。各プリプレグの巻き付けにおいては、それぞれのプリプレグの細径端側の端(図1に示す各プリプレグの左端)を、マンドレルの細径端から160mmの位置で一致させた。
次に、厚さ20μm、幅30mmの熱収縮性を有するポリプロピレンテープを巻き付けピッチ2mmの条件で巻き付けてプリプレグを固定し、マンドレルの外周側にシャフト素管を形成した。
【0044】
前記マンドレルおよびシャフト素管を硬化炉に入れ、145℃で2時間加熱してプリプレグの樹脂を硬化させた後、ポリプロピレンテープとマンドレルを取り除いた。硬化後のシャフトの両端部分をそれぞれの端から各々11mm分カットし、全長1168mm、細径端の外径8.77mm、太径端の外径15.85mmのシャフトとした。その後、シャフトの固有振動数が273cpmとなるように、シャフト表面を円筒研磨機で研磨してゴルフクラブシャフトを得た。得られたゴルフクラブシャフトの細径端の外径は8.50mmであった。
【0045】
[実施例2]
パターン1~10の炭素繊維強化樹脂層を形成するプリプレグとして、表1に示すプリプレグを裁断し、図3に示す形状及び寸法のプリプレグをそれぞれ作製した。これらのプリプレグをパターン1~10の順番にマンドレルに巻き付ける以外は、実施例1と同様にしてゴルフクラブシャフトを作製した。
なお、パターン1のプリプレグ2とパターン2のプリプレグ2は、それらを重ね合わせた状態で巻き付けた。パターン3のプリプレグ1とパターン4のプリプレグ1は、それらを重ね合わせた状態で巻き付けた。
【0046】
[実施例3]
パターン1~9の炭素繊維強化樹脂層を形成するプリプレグとして、表1に示すプリプレグを裁断し、図4に示す形状及び寸法のプリプレグをそれぞれ作製した。これらのプリプレグをパターン1~9の順番にマンドレルに巻き付ける以外は、実施例1と同様にしてゴルフクラブシャフトを作製した。
なお、パターン1のプリプレグ1とパターン2のプリプレグ1は、それらを重ね合わせた状態で巻き付けた。パターン3のプリプレグ2とパターン4のプリプレグ2は、それらを重ね合わせた状態で巻き付けた。
【0047】
[比較例1]
パターン1~9の炭素繊維強化樹脂層を形成するプリプレグとして、表1に示すプリプレグを裁断し、図5に示す形状及び寸法のプリプレグをそれぞれ作製した。これらのプリプレグをパターン1~9の順番にマンドレルに巻き付ける以外は、実施例1と同様にしてゴルフクラブシャフトを作製した。
なお、パターン1のプリプレグ1とパターン2のプリプレグ1は、それらを重ね合わせた状態で巻き付けた。パターン6のプリプレグ8とパターン7のプリプレグ8は、それらを重ね合わせた状態で巻き付けた。
【0048】
[参考例1]
パターン1~7の炭素繊維強化樹脂層を形成するプリプレグとして、表1に示すプリプレグを裁断し、図6に示す形状及び寸法のプリプレグをそれぞれ作製した。これらのプリプレグをパターン1~7の順番にマンドレルに巻き付ける以外は、実施例1と同様にしてゴルフクラブシャフトを作製した。
なお、パターン1のプリプレグ2とパターン2のプリプレグ2は、それらを重ね合わせた状態で巻き付けた。
【0049】
【表1】
【0050】
[トルクの測定方法]
シャフトの細径端部と太径端部をそれぞれチャックでクランプし、細径端部側のチャックを介してシャフトに1.36N・mの捩じれトルクを加えたときの捩じれ角(度)を測定してトルクとした。
【0051】
[捩じれ角、破壊エネルギーおよび捩じり強度の測定方法]
シャフトのチップ端(細径端)を第1治具で回転しないよう固定した。シャフトのバット端(太径端)を第2治具で把持し、第2治具を回転させてシャフトを捩じり、シャフトの捩じり破壊が発生した時のシャフトの捩じれ角(度)および破壊エネルギー(kgf・m)を測定した。また、捩じれ角と破壊エネルギーを乗じて捩じり強度(kgf・m・度)を算出した。
【0052】
各例のゴルフクラブシャフトのトルク、捩じれ角、破壊エネルギーおよび捩じり強度の測定結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2に示すように、全てのアングル層に対するアングル層Aの割合Pが適切な範囲である実施例1~3のシャフトは、トルクが低く、また捩じり強度も高かった。
一方、アングル層Aの割合Pが大きすぎる比較例1のシャフトは、捩じり強度が著しく低かった。
実施例1のシャフトは、PAN系炭素繊維のみを用いたトルクが同等の参考例1のシャフトに比べて軽量であった。
【符号の説明】
【0055】
1 ゴルフクラブシャフト
11 一端
12 他端
図1
図2
図3
図4
図5
図6