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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119319
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】積層ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20240827BHJP
   C08J 7/044 20200101ALI20240827BHJP
   C08L 79/00 20060101ALI20240827BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B32B27/36
C08J7/044 CFD
C08L79/00 A
C08L65/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026129
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 理奈
(72)【発明者】
【氏名】林崎 恵一
【テーマコード(参考)】
4F006
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F006AA35
4F006AB32
4F006AB37
4F006AB69
4F006BA02
4F006BA07
4F006CA05
4F006CA08
4F100AA20A
4F100AK41A
4F100AK42A
4F100AK51B
4F100AK54B
4F100AK80B
4F100BA02
4F100BA07
4F100CA18B
4F100CA22B
4F100EH46B
4F100EJ38A
4F100EJ423
4F100EJ52B
4F100GB41
4F100JA06A
4F100JB01
4F100JB07
4F100JG01B
4F100JG03B
4F100JK16B
4F100JN01
4J002CE00X
4J002CM01W
4J002FD200
4J002FD310
4J002GQ00
4J002GQ02
4J002HA08
(57)【要約】
【課題】タッチセンサーの不具合などを防止することができ、それでいて、透明性及び耐水性の高い、帯電防止性を有する積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【解決手段】ポリエステルフィルムと、前記ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、樹脂組成物により形成された樹脂層とを備える積層ポリエステルフィルムであって、以下の(1)及び(2)の要件を全て満足する積層ポリエステルフィルムである。
(1)前記樹脂組成物が、下記化合物(A)及び(B)を含むこと。
(A)ポリアニリン化合物
(B)チオフェン又はチオフェン誘導体からなる化合物中に陰イオン基を持ち自己ドープされた重合体から選ばれる1種以上
(2)前記化合物(A)と前記化合物(B)の含有割合(質量比)が、99:1~50:50であること。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムと、前記ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、樹脂組成物により形成された樹脂層とを備える積層ポリエステルフィルムであって、以下の(1)及び(2)の要件を全て満足する積層ポリエステルフィルム。
(1)前記樹脂組成物が、下記化合物(A)及び(B)を含むこと。
(A)ポリアニリン化合物
(B)チオフェン又はチオフェン誘導体からなる化合物中に陰イオン基を持ち自己ドープされた重合体から選ばれる1種以上
(2)前記化合物(A)と前記化合物(B)の含有割合(質量比)が、99:1~50:50であること。
【請求項2】
前記樹脂組成物が、さらに化合物(C)としてバインダー樹脂を含む、請求項1に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記バインダー樹脂が、ポリウレタン樹脂を含む、請求項2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記樹脂組成物が、さらに化合物(D)として(d1)ポリグリセリン、及び(d2)ポリグリセリンへのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる1種以上の化合物又はその誘導体を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記樹脂組成物が、さらに化合物(E)として界面活性剤を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記樹脂層表面の表面抵抗値が、1×10~1×1011Ω/□である、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項7】
23℃、50%RH、蛍光灯照射下で、14日間暴露させたときの暴露前後における前記樹脂層の表面抵抗値の変化率((暴露後の表面抵抗値)/(暴露前の表面抵抗値))が、50倍以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項8】
23℃、50%RH、蛍光灯照射下で、28日間暴露させたときの暴露前後における前記樹脂層の表面抵抗値の変化率((暴露後の表面抵抗値)/(暴露前の表面抵抗値))が、150倍以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項9】
前記樹脂層表面を、水を含ませたキュプラ製不織布で、荷重680gにて3往復摩擦したときの処理前後における前記樹脂層の表面抵抗値の変化率((処理後の表面抵抗値)/(処理前の表面抵抗値))が、5倍以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項10】
フィルムヘーズが、1.0%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、機械的強度、寸法安定性、平坦性、耐熱性、耐薬品性、光学特性等に優れた特性を有し、コストパフォーマンスに優れるため、各種用途に使用されている。
【0003】
ポリエステルフィルムの用途として、電子部品、ディスプレイやタッチパネル周辺部材の保護フィルム、加工工程で他の部材を保護する工程保護フィルムやカバーテープ用途等が挙げられる。これらフィルムの基材にポリエステルフィルムを用いた場合に生じる課題として静電気の発生がある。
【0004】
ポリエステルフィルムは、プラスチックフィルム共通の問題として、静電気が発生して帯電しやすいという特徴があり、加工現場において静電気による異物等の付着あるいは巻き込みによる不具合を生じる場合がある。
【0005】
このため、種々の帯電防止対策が講じられている。一般的には、表面に帯電防止性を有する機能層を設ける方法がある。
ポリエステルフィルムに塗工される帯電防止剤としては、電子導電性化合物が挙げられ、イオン導電性化合物に比べるとより優れた帯電防止性を発現することが知られている。電子導電性化合物としては、種々の導電性有機ポリマー化合物、中でもポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリイソチアナフテン、ポリチオフェンなどの導電性高分子化合物が提案されている。
【0006】
ポリエステルフィルムに導電性高分子化合物を塗布して帯電防止層を形成することで、帯電防止性を付与することができる。しかしながら、帯電防止層の導電性が高すぎると、タッチセンサーの表面保護フィルムに用いる場合に、タッチセンサーの動作確認において不具合が発生しうる。これを防止するために、導電性高分子化合物を複数使用することで、適切な範囲の導電性を持つ帯電防止層が得られることが知られている。
【0007】
例えば特許文献1では、適切な表面抵抗率であり、表面抵抗率の経時安定性に優れる帯電防止フィルムとして、ポリアニリンスルホン酸と、ポリアニオン類によりドープされているポリチオフェン類を併用した塗布層が開示されている。
また、特許文献2では、表面抵抗値が十分に低く、かつ剥離や摩擦による帯電量が小さい帯電防止フィルムとして、ポリアニリンとポリチオフェンを併用した塗布層が開示されている。
【0008】
他にも、導電性高分子化合物を複数使用せずとも、適切な範囲の導電性を持つ帯電防止層が開示されており、例えば特許文献3には、低湿度下での導電性、耐水性、耐溶剤性、透明性に優れかつ生産性の高い帯電防止フィルムとして、特定のポリアニリン化合物を含む塗布層が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2018/012545号
【特許文献2】特開2004-223923号公報
【特許文献3】特開2013-199586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1及び2のフィルムでは、フィルムの透明性が低下する場合があり、また、特許文献3のフィルムでは、耐水性が不十分な場合があった。
かかる場合、例えばタッチセンサー機能を有する光学部材に貼り合わせるような用途に用いた際に、透明性や耐水性が不十分となることがある。
【0011】
そこで、本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、タッチセンサーの不具合などを防止することができ、それでいて、透明性及び耐水性の高い、帯電防止性を有する積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討の結果、次の構成を有することで、上記課題を解決できることを見出した。
本発明は、以下の態様を有する。
【0013】
[1]ポリエステルフィルムと、前記ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、樹脂組成物により形成された樹脂層とを備える積層ポリエステルフィルムであって、以下の(1)及び(2)の要件を全て満足する積層ポリエステルフィルム。
(1)前記樹脂組成物が、下記化合物(A)及び(B)を含むこと。
(A)ポリアニリン化合物
(B)チオフェン又はチオフェン誘導体からなる化合物中に陰イオン基を持ち自己ドープされた重合体から選ばれる1種以上
(2)前記化合物(A)と前記化合物(B)の含有割合(質量比)が、99:1~50:50であること。
[2]前記樹脂組成物が、さらに化合物(C)としてバインダー樹脂を含む、上記[1]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[3]前記バインダー樹脂が、ポリウレタン樹脂を含む、上記[2]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[4]前記樹脂組成物が、さらに化合物(D)として(d1)ポリグリセリン、及び(d2)ポリグリセリンへのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる1種以上の化合物又はその誘導体を含む、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の積層ポリエステルフィルム。
[5]前記樹脂組成物が、さらに化合物(E)として界面活性剤を含む、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の積層ポリエステルフィルム。
[6]前記樹脂層表面の表面抵抗値が、1×10~1×1011Ω/□である、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の積層ポリエステルフィルム。
[7]23℃、50%RH、蛍光灯照射下で、14日間暴露させたときの暴露前後における前記樹脂層の表面抵抗値の変化率((暴露後の表面抵抗値)/(暴露前の表面抵抗値))が、50倍以下である、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の積層ポリエステルフィルム。
[8]23℃、50%RH、蛍光灯照射下で、28日間暴露させたときの暴露前後における前記樹脂層の表面抵抗値の変化率((暴露後の表面抵抗値)/(暴露前の表面抵抗値))が、150倍以下である、上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の積層ポリエステルフィルム。
[9]前記樹脂層表面を、水を含ませたキュプラ製不織布で、荷重680gにて3往復摩擦したときの処理前後における前記樹脂層の表面抵抗値の変化率((処理後の表面抵抗値)/(処理前の表面抵抗値))が、5倍以下である、上記[1]~[8]のいずれか1つに記載の積層ポリエステルフィルム。
[10]フィルムヘーズが、1.0%以下である、上記[1]~[9]のいずれか1つに記載の積層ポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、タッチセンサーの不具合などを防止することができ、それでいて、透明性及び耐水性の高い、帯電防止性を有する積層ポリエステルフィルムが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態の一例について説明する。ただし、本発明は、次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本明細書において、「(メタ)アクリル」という表現を用いる場合、「(メタ)アクリル」は「アクリル」及び「メタクリル」の一方又は両方を意味するものとする。また、同様に「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の一方又は両方、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」及び「メタクリレート」の一方又は両方、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の一方又は両方を意味するものとする。その他についても、上記と同様である。
【0017】
<<<積層ポリエステルフィルム>>>
本発明の積層ポリエステルフィルム(以下、「本積層ポリエステルフィルム」とも称する)は、ポリエステルフィルム(以下、「本ポリエステルフィルム」とも称する)と、該ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、樹脂組成物により形成された樹脂層(以下、「本樹脂層」とも称する)とを備える。
【0018】
本積層ポリエステルフィルムの積層構成としては、ポリエステルフィルムの片面側に樹脂層を形成し、他方の面側はポリエステルフィルムの表面をそのままにした構成であってもよいし、該他方の面側に他の層を形成してなる構成であってもよい。
また、ポリエステルフィルムの両面側に樹脂層を形成してなる構成であってもよい。
さらにまた、樹脂層をポリエステルフィルムの上に直接形成してもよいが、ポリエステルフィルムと樹脂層との間に本発明の要旨を逸脱しない範囲で易接着層やオリゴマー封止層などの他の層を設けてもよい。
本発明の積層ポリエステルフィルムの総厚みは、特に限定されるものではないが、取扱い性の観点から、好ましくは5~380μm、より好ましくは10~215μm、さらに好ましくは12~130μmである。
【0019】
<<ポリエステルフィルム>>
本ポリエステルフィルムは、本積層ポリエステルフィルムの基材としての役割を果たすものである。本ポリエステルフィルムは、単層構造であっても多層構造であってもよい。本ポリエステルフィルムが多層構造の場合、本ポリエステルフィルムは2層構造、3層構造などでもよいし、本発明の要旨を逸脱しない限り、4層又はそれ以上の多層であってもよく、層数は特に限定されない。
また、本ポリエステルフィルムは、無延伸フィルム(シート)であっても延伸フィルムであってもよい。中でも、一軸方向又は二軸方向に延伸された延伸フィルムであることが好ましい。その中でも、力学特性のバランスや平面性に優れる点で、二軸延伸フィルムであることがより好ましい。
【0020】
<ポリエステル>
本ポリエステルフィルムの原料であるポリエステルは、主鎖に連続してエステル結合を有する高分子化合物をいい、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。具体的には、ジカルボン酸成分とジオール成分とを重縮合反応させることによって得られるポリエステルを挙げることができる。また、原料であるポリエステルは、ジカルボン酸成分を100モル%としたとき、ジカルボン酸成分中に、芳香族ジカルボン酸を50モル%よりも多く含有していてもよく、あるいは、脂肪族ジカルボン酸を50モル%よりも多く含有していてもよい。
【0021】
前記ジカルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸及び4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸や、例えばアジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、シクロヘキサンジカルボン酸及びこれらのエステル誘導体等の脂肪族ジカルボン酸を挙げることができる。
【0022】
前記ジオール成分としては、例えばエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルベート及びスピログリコール等を挙げることができる。
【0023】
上記ポリエステルがホモポリエステルである場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、好ましくはテレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族ジオールとしては、好ましくはエチレングリコール、ジエチレングリコール及び1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なホモポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート(PEN)等を例示することができ、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0024】
一方、共重合ポリエステルは、例えばジカルボン酸成分と脂肪族ジオールの重縮合ポリマーであることが好ましい。ジカルボン酸成分としては、好ましくはイソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸及びオキシカルボン酸(例えば、p-オキシ安息香酸等)等の1種又は2種以上が挙げられる。また、脂肪族ジオールとしては、好ましくはエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール及びネオペンチルグリコール等の1種又は2種以上が挙げられる。共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を含み、脂肪族ジオールとしてエチレングリコールを含むことがより好ましい。
上記ポリエステルが共重合ポリエステルの場合は、30モル%以下の第三成分を含有した共重合体であることが好ましい。第三成分とは、ポリエステルを構成するジカルボン酸成分の主成分(すなわち、最も含有量が多い成分)となる化合物と、ジオール成分の主成分となる化合物以外の成分であり、例えば共重合ポリエチレンテレフタレートではテレフタル酸及びエチレングリコール以外の成分である。
また、共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分及び脂肪族ジオール以外の二官能性化合物由来の構成単位を含んでもよい。ジカルボン酸成分及び脂肪族ジオール以外の二官能性化合物由来の構成単位は、ポリエステルを構成する全構成単位の総モルに対して、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。二官能性化合物としては、各種のヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール等が挙げられる。
【0025】
本ポリエステルフィルムを構成する全ジカルボン酸成分中のテレフタル酸の含有量は、50モル%以上が好ましく、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。
また、本ポリエステルフィルムを構成する全ジオール成分中のエチレングリコールの含有量は、50モル%以上が好ましく、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。
なお、テレフタル酸及びエチレングリコールの含有量の上限値は、100モル%である。
【0026】
また、上記ポリエステルは、再生ポリエステルであってもよく、バイオマス由来のポリエステルであってもよい。
【0027】
<重縮合触媒>
上記ポリエステルを重縮合する際の重縮合触媒としては、特に制限はなく、従来公知の化合物を使用することができ、例えばチタン化合物、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、マンガン化合物、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物等が挙げられる。
【0028】
<固有粘度>
本ポリエステルフィルムを構成するポリエステルの固有粘度(IV)は、特に限定されないが、製膜性、生産性などの観点から、0.45~1.0dL/gが好ましく、0.5~0.9dL/gがより好ましい。
なお、「本ポリエステルフィルムを構成するポリエステルの固有粘度(IV)」とは、固有粘度(IV)が異なる2種以上のポリエステルを使用する場合には、これら混合ポリエステルの固有粘度(IV)を意味するものとする。
【0029】
本ポリエステルフィルムが多層構造の場合には、表層を構成するポリエステルの固有粘度(IV)が上記範囲であることが好ましい。
【0030】
<粒子>
本ポリエステルフィルム中には、易滑性の付与及び各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を含有させることも可能である。
本ポリエステルフィルム中に含有させる粒子の種類は、易滑性を付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えばシリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機粒子の他、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋スチレン-アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル粒子等の架橋高分子、シュウ酸カルシウム及びイオン交換樹脂等の有機粒子を挙げることができる。
さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0031】
使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。
また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
【0032】
また、用いる粒子の平均粒径は、通常5μm以下、好ましくは0.01~3μmの範囲である。5μm以下であると、フィルムの表面粗度が粗くなりすぎず、後工程において樹脂層、及び樹脂層以外の各種の表面機能層を形成させる場合等に不具合が生じず好ましい。また、平均粒径がかかる範囲であれば、ヘーズが低く抑えられ、透明性を確保しやすい。
なお、粒子の平均粒径は、10個以上の粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)観察して各粒子の直径を測定し、その平均値として求めることができる。その際、非球状粒子の場合は、最長径と最短径の平均値を各粒子の直径として測定することができる。
【0033】
上記粒子を含有する層における粒子の含有量は、特に制限されず、通常5質量%未満、好ましくは0.0003~3質量%の範囲である。特に、粒子を含有しない場合、あるいは粒子の含有量が少ない場合は、透明性に優れたポリエステルフィルムとなる。なお、粒子を含有する場合であっても、粒子含有量が5質量%未満であれば、ポリエステルフィルムの透明性が十分担保できる。一方、上記範囲で粒子を含有すると、滑り性の点でも十分なポリエステルフィルムとなる。
本ポリエステルフィルムに粒子を含有させる際に、ポリエステルフィルムが多層構造である場合、例えば、ポリエステルフィルムが表層と、中間層とを有する場合には、表層に粒子を含有させることが好ましい。この場合、より好ましくは、粒子を含有する表層、中間層、及び粒子を含有する表層をこの順に有する多層構造とするとよい。表層に粒子を含有させることで、ポリエステルフィルム全体における粒子の含有量を少なくしつつ、効果的に易滑性などを付与できる。
【0034】
本ポリエステルフィルム中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、多層のポリエステルフィルムであれば、各層を構成するポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、エステル化又はエステル交換反応終了後、添加するのが好ましい。
【0035】
<その他>
オリゴマー成分の析出量を抑えるために、オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステルを原料としてフィルムを製造してもよい。オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステルの製造方法としては、種々公知の方法を用いることができ、例えばポリエステル製造後に固相重合する方法等が挙げられる。
また、本ポリエステルフィルムを3層以上の構成とし、本ポリエステルフィルムの表層を、オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステル原料を用いた層とすることで、オリゴマー成分の析出量を抑えてもよい。
また、ポリエステルは、エステル化又はエステル交換反応をした後に、さらに反応温度を高くして減圧下で溶融重縮合して得てもよい。
【0036】
なお、本ポリエステルフィルム中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0037】
本ポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、好ましくは5~350μm、より好ましくは8~250μm、さらに好ましくは10~200μm、特に好ましくは12~125μmの範囲である。なお、ポリエステルフィルムが多層構造である場合には、ポリエステルフィルム全体としての厚みが上記範囲にあるものとする。
【0038】
<ポリエステルフィルムの製造方法>
次に、本ポリエステルフィルムの製造例について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。例えば二軸延伸フィルムを製造する場合、先に述べたポリエステル原料の乾燥したペレットを、押出機などの溶融押出装置を用いてダイから溶融シートとして押し出し、回転冷却ドラムなどの冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る方法が好ましい。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと冷却ロールとの密着性を高めることが好ましく、静電印加密着法及び/又は液体塗布密着法が好ましく採用される。
なお、本ポリエステルフィルムが多層構造の場合には、例えば、押出機として複数の押し出し機を用いてダイから溶融シートとして押し出して、上述した通り、未延伸シートを得ることができる。
【0039】
次に、得られた未延伸シートは二軸方向に延伸される。その場合、まず、前記の未延伸シートを一方向にロール又はテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70~120℃、好ましくは80~110℃であり、延伸倍率は通常2.5~7.0倍、好ましくは3.0~6.0倍である。
次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に延伸するが、その場合、延伸温度は通常70~170℃であり、延伸倍率は通常3.0~7.0倍、好ましくは3.5~6.0倍である。
そして、引き続き、通常180~270℃の温度で、緊張下又は30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸延伸フィルムを得る。この熱処理は、熱固定工程とも呼ばれる。
上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0040】
また、本ポリエステルフィルムの製造に同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は、前記の未延伸シートを通常70~120℃、好ましくは80~110℃で温度コントロールされた状態で長手方向(機械方向、縦方向)及び幅方向(横方向)に同時に延伸し配向させる方法であり、延伸倍率としては、面積倍率で好ましくは4~50倍、より好ましくは7~35倍、さらに好ましくは10~25倍である。
そして、引き続き、通常170~250℃の温度で、緊張下又は30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式及びリニアー駆動方式等、従来公知の延伸方式を採用することができる。
【0041】
なお、フィルムの長手方向(機械方向、縦方向)とは、フィルムの製造工程でフィルムが進行する方向、すなわちフィルムロールの巻き方向をいう。幅方向とは、フィルム面に平行かつ長手方向と直交する方向をいい、すなわち、フィルムロール状としたときロールの中心軸と平行な方向である。
【0042】
<<樹脂層>>
本積層ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも片面側に、樹脂組成物(以下、「本組成物」とも称する)から形成されてなる樹脂層を備えるものである。樹脂層は、硬化樹脂層であってもよい。
【0043】
<樹脂組成物>
本組成物は、下記化合物(A)及び(B)を含む。
(A)ポリアニリン化合物
(B)チオフェン又はチオフェン誘導体からなる化合物中に陰イオン基を持ち自己ドープされた重合体から選ばれる1種以上
また、本組成物において、前記化合物(A)と前記化合物(B)の含有割合(質量比)は、99:1~50:50である。
【0044】
(化合物(A))
化合物(A)は、ポリアニリン化合物である。本組成物が、化合物(A)としてポリアニリン化合物を含むことで、本樹脂層の表面抵抗値が低くなりすぎず、適切な範囲の帯電防止性を付与することができる。
ポリアニリン化合物としては、主たる繰り返し単位がアルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸であり導電性を有するものが好ましい。前記アルコキシ基は、低級アルコキシ基であれば、特に制限はないが、メトキシ基がコスト面及び性能面で好ましい。
【0045】
本発明においては、ポリアニリン骨格中の芳香環の実質的に全てにスルホン酸基とアルコキシ基が含有されることが好ましいが、どちらかあるいは両方の置換基を欠くもの、別の置換基を有するものが含まれることに特に制限はない。
【0046】
主たる繰り返し単位がアルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸であり導電性を有するポリアニリン化合物の数平均分子量は、特に制限はないが、好ましくは5000~20000である。数平均分子量が5000以上であれば、導電ネットワークを構築するのに有利である。一方、数平均分子量が20000以下であれば、粘度が高くなりすぎず、塗工性が良好である。
【0047】
前記主たる繰り返し単位がアルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸であり導電性を有するポリアニリン化合物は、一般に酸性が強いため、塩基性化合物でpHを調整して用いることも可能であり、好ましい。
前記塩基性化合物としては、アンモニア及び有機アミン類が好ましく、なかでもアンモニアがより好ましい。
【0048】
本組成物中の化合物(A)の含有量は、本組成物中の全不揮発成分に占める割合として、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.3~15質量%、さらに好ましくは0.5~7質量%、特に好ましくは0.5~6質量%の範囲である。当該含有量を0.1質量%以上とすることで、適切な範囲の表面抵抗値に調整できる。また、当該含有量を20質量%以下とすることで、十分な耐水性が得られる。
【0049】
(化合物(B))
化合物(B)は、チオフェン又はチオフェン誘導体からなる化合物中に陰イオン基を持ち自己ドープされた重合体から選ばれる1種以上、すなわち自己ドープ型ポリチオフェン化合物である。本組成物が、化合物(B)としてチオフェン又はチオフェン誘導体からなる化合物中に陰イオン基を持ち自己ドープされた重合体から選ばれる1種以上を含むことで、帯電防止性と高透明性を両立させることができる。
【0050】
本発明で用いる化合物(B)は、分子内にドーパントを有するもの、すなわち自己ドープ型であれば特に制限はなく、従来公知の方法で製造したものを用いても、市販品を用いてもよい。化合物(B)としては、例えば、自己ドープ型ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)及びその誘導体等が挙げられる。
公知の方法としては、例えば特開2014-65898号公報等に記載された方法が挙げられ、下記式(1)に示されるようなチオフェンモノマーを原料とし、水又はアルコール溶媒中、酸化剤の存在下に重合させて製造することができる。
【化1】

上記式(1)中、Rは炭素数1~6のアルキル基、又はフッ素原子を表す。Mは水素原子、Li、Na及びKからなる群より選ばれるアルカリ金属、NH(R又はHNCを表す。Rはそれぞれ独立して水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基を表す。
Rの炭素数1~6のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、n-へキシル基、2-エチルブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
の炭素数1~6のアルキル基としては、上記Rと同様のものを例示することができる。また、Rが置換基を有するアルキル基である場合の当該置換基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数6~20のアリール基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基等が挙げられる。
【0051】
使用可能なチオフェンモノマーとしては、より具体的には、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-エチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-プロピル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ブチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ペンチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ヘキシル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-イソプロピル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-イソブチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-イソペンチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-フルオロ-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸カリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸アンモニウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸トリエチルアンモニウム等が挙げられる。
また、市販品としては、例えば、SELFTRON(登録商標)シリーズのSELFTRON S、SELFTRON H(いずれも東ソー株式会社製)等が挙げられる。
【0052】
本組成物中の化合物(B)の含有量は、本組成物中の全不揮発成分に占める割合として、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.2~10質量%、さらに好ましくは0.3~5質量%の範囲である。当該含有量を0.1質量%以上とすることで、高透明な塗膜(樹脂層)が得られる。また、当該含有量を20質量%以下とすることで、適切な範囲の帯電防止性が得られる。
【0053】
本組成物において、前記化合物(A)と前記化合物(B)の含有割合((A):(B)、質量比)は、上述のとおり、99:1~50:50であり、好ましくは90:10~60:40、より好ましくは80:20~65:45である。当該含有割合(質量比)を99:1以下とすることで、十分な耐水性が得られる。また、当該含有割合(質量比)を50:50以上とすることで適切な範囲の帯電防止性が得られる。
【0054】
(化合物(C))
本組成物には、製膜性及び塗膜強度を向上させる目的として、さらに化合物(C)としてバインダー樹脂を含んでもよい。前記バインダー樹脂は、「高分子化合物安全性評価フロースキーム」(昭和60年11月、化学物質審議会主催)に準じて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による数平均分子量(Mn)が1000以上の高分子化合物で、かつ、造膜性を有するものと定義する。
そのようなバインダー樹脂としては、特に制限はなく、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリビニル樹脂(ポリビニルアルコール、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体等)、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンイミン、メチルセルロース、ヒドロキシセルロース、でんぷん類等、従来公知のバインダー樹脂を使用することができる。中でも、透明性の観点から、ポリウレタン樹脂を含むことが好ましい。なお、本組成物において、(C)バインダー樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0055】
((ポリウレタン樹脂))
ポリウレタン樹脂とは、ウレタン結合を分子内に有する高分子化合物で、水分散性又は水溶性のものが好ましい。本発明では、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0056】
水分散性又は水溶性を付与させるために、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、スルホニル基、リン酸基、エーテル基等の親水性基をウレタン樹脂に導入することが一般的であり、好ましい。前記親水性基のなかでも、樹脂層の物性、及び樹脂層とポリエステルフィルムとの密着性の点からカルボキシル基又はスルホン酸基が特に好ましい。
【0057】
ウレタン樹脂を作製する方法の一つに、水酸基含有化合物とイソシアネート基含有化合物との反応によるものがある。原料として用いられる水酸基含有化合物としては、ポリオールが好適に用いられ、例えば、ポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネート系ポリオール類、ポリオレフィンポリオール類、アクリルポリオール類が挙げられる。これらの化合物は単独で用いても、複数種用いてもよい。
【0058】
ポリエーテルポリオール類としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。
【0059】
ポリエステルポリオール類としては、多価カルボン酸(マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等)又はそれらの酸無水物と、多価アルコール(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-ヘキシル-1,3-プロパンジオール、シクロヘキサンジオール、ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、ベンゼンジメタノール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、アルキルジアルカノールアミン、ラクトンジオール等)との反応から得られるものが挙げられる。
【0060】
ポリカーボネート系ポリオール類としては、多価アルコール類と、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート等とから、脱アルコール反応によって得られるポリカーボネートジオール、例えば、ポリ(1,6-ヘキシレン)カーボネート、ポリ(3-メチル-1,5-ペンチレン)カーボネート等が挙げられる。
【0061】
これらの中でもポリエステルポリオールが好ましい。
【0062】
ウレタン樹脂を得るために使用されるポリイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート等が例示される。これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。
【0063】
ウレタン樹脂を合成する際に鎖延長剤を使用してもよく、鎖延長剤としては、イソシアネート基と反応する活性基を2個以上有するものであれば特に制限はない。一般的には、水酸基又はアミノ基を2個有する鎖延長剤を主に用いることができる。
【0064】
水酸基を2個有する鎖延長剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等の脂肪族グリコール;キシリレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン等の芳香族グリコール;ネオペンチルグリコールモノヒドロキシピバレート等のエステルグリコールといったグリコール類を挙げることができる。
【0065】
アミノ基を2個有する鎖延長剤としては、例えば、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン等の芳香族ジアミン;エチレンジアミン、プロパンジアミン、ヘキサンジアミン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、トリメチルヘキサンジアミン、2-ブチル-2-エチル-1,5-ペンタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン等の脂肪族ジアミン;1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン等の脂環式ジアミン等が挙げられる。
【0066】
本組成物がさらに化合物(C)を含む場合、本組成物中の化合物(C)の含有量は、本組成物中の全不揮発成分に占める割合として、好ましくは40~99質量%、より好ましくは50~99質量%、さらに好ましくは60~98質量%の範囲である。当該含有量をかかる範囲とすることで、十分な塗膜強度が得られる。
【0067】
(化合物(D))
本組成物には、所望する帯電防止性及び透明性を得ることを目的として、さらに化合物(D)として(d1)ポリグリセリン、及び(d2)ポリグリセリンへのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる1種以上の化合物又はその誘導体を含んでもよい。
ポリグリセリンとは、下記一般式(2)で表される化合物である。
【0068】
【化2】

(式中、nは2~20の整数を示す。)
【0069】
上記式(2)中のnは2~10が好ましく、より好ましくは2~6の範囲である。かかる範囲であると、樹脂層の耐久性がより向上し、帯電防止性も良好となる。
【0070】
ポリグリセリンへのアルキレンオキサイド付加物とは、一般式(2)で表されるポリグリセリンのヒドロキシル基にアルキレンオキサイドを付加重合した構造を有するものである。
【0071】
ポリグリセリンのアルキレンオキサイド付加物については、ポリグリセリン骨格のヒドロキシル基ごとに、付加されるアルキレンオキサイドの構造は同一であっても異なっていてもよい。また、少なくとも分子中一つのヒドロキシル基にアルキレンオキサイドが付加されていればよく、全てのヒドロキシル基にアルキレンオキサイドが付加されている必要はない。
【0072】
ポリグリセリンに付加されるアルキレンオキサイドとして好ましいものは、エチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドである。アルキレンオキサイドのアルキレン鎖が長くなりすぎると、疎水性が強くなり、塗布液中での分散性が悪化し、樹脂層の帯電防止性や透明性が悪化する傾向がある。かかる観点から、より好ましいものは、エチレンオキサイドである。
アルキレンオキサイドの付加数は、最終的な化合物としての数平均分子量で200~2000の範囲になるものが好ましく、250~1000の範囲がより好ましく、300~800の範囲のものがさらに好ましい。
【0073】
上記ポリグリセリン、又はポリグリセリンへのアルキレンオキサイド付加物は、1種を単独で又は2種以上を複数併用してもよい。
【0074】
本組成物がさらに化合物(D)を含む場合、本組成物中の化合物(D)の含有量は、本組成物中の全不揮発成分に占める割合として、好ましくは1~50質量%、より好ましくは5~40質量%、さらに好ましくは10~30質量%の範囲である。当該含有量を1質量%以上とすることで、十分な造膜性、帯電防止性が得られる。また、当該含有量を50質量%以下とすることで、樹脂層の耐水性が良好になる。
【0075】
(化合物(E))
本組成物には、塗布時の濡れ性向上を目的として、さらに化合物(E)として界面活性剤を含んでもよい。
界面活性剤としては、低起泡性で、得られる樹脂層の帯電防止性を阻害しない観点から、特にその構造中にポリアルキレンオキサイド、ポリグリセリン、これらの誘導体から選ばれる1種を有するノニオン性界面活性剤がより好ましく、ポリアルキレンオキサイドを有するノニオン性界面活性剤がさらに好ましく、ポリエチレンオキサイドを有するノニオン性界面活性剤が特に好ましい。
【0076】
さらに、界面活性剤としては、疎水性部分に分岐アルキル基置換アセチレン構造やフルオロアルキル基、フルオロアルケニル基を有するものも好ましい。
前記疎水性部分に分岐アルキル基置換アセチレン構造を有するものとしては、例えば、下記式(3)に示す、側鎖にポリエチレンオキサイドを有する構造のノニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0077】
【化3】
【0078】
上記式(3)中のm及びnはエチレンオキサイドの付加モル数を示す正数である。
上記式(3)において、m+nの平均は、好ましくは1.3以上30以下、より好ましくは2以上20以下、さらに好ましくは4以上13以下である。
【0079】
界面活性剤は、単独で用いてもよいし、二種以上を併用することも可能である。
【0080】
本組成物がさらに化合物(E)を含む場合、本組成物中の化合物(E)の含有量は、本組成物中の全不揮発成分に占める割合として、好ましくは1~10質量%、より好ましくは1.5~5質量%、さらに好ましくは2~3質量%の範囲である。当該含有量を1質量%以上とすることで、塗布時の濡れ性が良好になる。また、当該含有量を10質量%以下とすることで、樹脂層の透明性が良好になる。
【0081】
(その他)
また、本発明の主旨を損なわない範囲において、本組成物には、上記化合物以外にも、架橋剤、架橋触媒、粒子、反応調整剤、密着強化剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、染料、顔料等の添加剤をさらに適宜配合してもよい。
【0082】
樹脂層中には、本組成物を構成する各成分(化合物(A)及び(B)、並びに任意に含有し得る化合物(C)~(E)及びその他成分)の未反応物、反応後の化合物、あるいはそれらの混合物が存在しているものと推測できる。
なお、樹脂層中の各成分の分析は、例えば、TOF-SIMS、ESCA、蛍光X線等によって行うことができる。
【0083】
(溶媒)
本組成物は、溶媒で希釈して塗布液としてもよい。すなわち、本組成物は、液状の塗布液として、例えば本ポリエステルフィルムに塗布し、必要に応じて乾燥、かつ、硬化させて樹脂層を形成させるとよい。
なお、本組成物を構成する各成分(化合物(A)及び(B)、並びに任意に含有し得る化合物(C)~(E)及びその他成分)は、溶媒に溶解させてもよいし、溶媒中に分散させてもよい。
本組成物を塗布液とした場合、塗布液中における本組成物の全不揮発成分の濃度は、0.1~50質量%であることが好ましい。0.1質量%以上であれば、効率的に所望の厚みの樹脂層を形成することができる。一方、50質量%以下であれば、塗工時の粘度を抑えることで樹脂層の外観を向上させることができ、また、塗布液中の安定性を高めることができる。このような観点から、塗布液中における本組成物の全不揮発成分の濃度は0.5~30質量%であることがより好ましく、1~15質量%であることがさらに好ましい。
【0084】
前記溶媒としては、特に制限はなく、水及び有機溶剤のいずれも使用することができる。環境保護の観点から、水を主溶媒(全溶媒の50質量%以上)として水性塗布液とすることが好ましい。水の含有量に関して、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上であるのがよい。水性塗布液には、少量の有機溶剤を含有していてもよい。有機溶剤の具体的な量は、質量基準で水の量以下とするとよく、例えば、溶媒中の50質量%以下、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下とするのがよい。
水と併用する有機溶剤としては、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類;エチルセロソルブ、t-ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類;ジメチルエタノールアミン等のアミン類等を例示することができる。これらは単独、もしくは複数を組み合わせて用いることができる。水性塗布液に、必要に応じてこれらの有機溶剤を適宜選択し、含有させることで、塗布液の安定性、塗工性を良好にできる場合がある。
【0085】
また、上記溶媒として有機溶剤のみを使用する場合、かかる有機溶剤としては、トルエン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;エチルメチルケトン、イソブチルメチルケトン等のケトン類;エタノール、2-プロパノール等のアルコール類;ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類などを挙げることができる。これらは、溶解性、塗工性や沸点等を考慮して単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。
【0086】
<樹脂層の形成方法>
次に、本積層ポリエステルフィルムを構成する樹脂層の形成方法について説明する。
本樹脂層は、本組成物をポリエステルフィルムに塗布し、必要に応じて、塗布した本組成物に対して乾燥、硬化、熱処理等などの処理を行って形成すればよい。
樹脂組成物を塗布する方法は、特に限定されず、例えばリバースグラビアコート、ダイレクトグラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、カーテンコート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。
【0087】
また、樹脂層の形成方法としては、インラインコーティング及びオフラインコーティングがある。塗布した樹脂組成物を熱処理する方法は、特に限定されるわけではなく、例えばオフラインコーティングにより樹脂層を設ける場合、通常、80~200℃で3~40秒間、好ましくは100~180℃で3~40秒間を目安として熱処理を行うのがよい。一方、インラインコーティングにより樹脂層を設ける場合、通常、70~280℃で3~200秒間を目安として熱処理を行うのがよい。
また、熱処理は、上記温度範囲内において温度の異なる2段以上の工程で行ってもよい。熱処理の少なくとも一部は、延伸時の加熱により行ってもよい。また、乾燥及び硬化は、上記熱処理における加熱により合わせて行うとよい。
【0088】
本発明では、樹脂層は、ポリエステルフィルムの製膜工程中にフィルム表面を処理する、インラインコーティングにより形成されるのが好ましい。
インラインコーティングは、ポリエステルフィルム製造の工程内でコーティングを行う方法であり、具体的には、ポリエステルを溶融押し出ししてから延伸後、熱固定して巻き上げるまでの任意の段階でコーティングを行う方法である。通常は、溶融、急冷して得られる未延伸シート、延伸された一軸延伸フィルム、熱固定前の二軸延伸フィルム、熱固定後で巻き上げ前のフィルムのいずれかにコーティングする。
【0089】
以下に限定するものではないが、例えば逐次二軸延伸においては、特に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルムにコーティングした後に横方向に延伸する方法が優れている。かかる方法によれば、製膜と樹脂層形成を同時に行うことができるため、製造コスト上のメリットがあり、また、コーティング後に延伸を行うために、樹脂層の厚みを延伸倍率により変化させることもでき、オフラインコーティングフィルムに比べ、薄膜コーティングをより容易に行うことができる。
【0090】
また、延伸前にフィルム上に樹脂層を設けることにより、樹脂層をポリエステルフィルムと共に延伸することができ、それにより樹脂層をポリエステルフィルムに強固に密着させることができる。
【0091】
さらに、二軸延伸ポリエステルフィルムの製造において、クリップ等によりフィルム端部を把持しつつ延伸することで、フィルムを縦及び横方向に拘束することができ、その後の熱処理(熱固定工程)において、しわ等が入らず平面性を維持したまま高温をかけることができる。
それゆえ、塗布後に施される熱処理が他の方法では達成されない高温とすることができるために、樹脂層の造膜性が向上し、樹脂層とポリエステルフィルムをより強固に密着させることができる。さらには、強固な樹脂層とすることができ、樹脂層上に形成され得る各種の機能層への耐移行性や耐湿熱性等の性能を向上させることができる。
【0092】
また、オフラインコーティングあるいはインラインコーティングにかかわらず、必要に応じて熱処理と紫外線照射等の活性エネルギー線照射とを併用してもよい。本積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムにはあらかじめ、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施してもよい。
【0093】
本樹脂層の不揮発成分の塗工量(乾燥延伸後)は、好ましくは0.005~0.15g/m、より好ましくは0.01~0.08g/m、さらに好ましくは0.02~0.05g/mである。当該塗工量がかかる範囲であれば、十分な帯電防止性を有する。
【0094】
<<<積層ポリエステルフィルムの物性>>>
本積層ポリエステルフィルムのフィルムヘーズは、1.0%以下であることが好ましい。当該フィルムヘーズが1.0%以下であると、透明性が十分となり、ディスプレイやタッチパネル用など用途に好適に用いることができる。かかる観点から、当該フィルムヘーズは、0.9%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは0.8%以下、特に好ましくは0.7%以下である。当該フィルムヘーズは低ければ低いほど良く、下限値は、通常0.01%程度である。
なお、本積層ポリエステルフィルムのフィルムヘーズは、実施例に記載の方法で測定できる。
【0095】
本積層ポリエステルフィルムの帯電防止性は、樹脂層表面を測定した表面抵抗値で評価できる。よって、前記樹脂層表面の表面抵抗値は、1×10~1×1011Ω/□であることが好ましく、より好ましくは1×10~1×1010Ω/□、さらに好ましくは1×10~1×10Ω/□である。当該表面抵抗値が、1×10Ω/□以上であれば、タッチパネルの表面保護フィルムに使用した場合に、正常にタッチパネルの試験ができるようになる。一方、当該表面抵抗値が、1×1011Ω/□以下であれば、異物やほこりの付着を防ぐために十分な帯電防止性が得られる。
なお、本積層ポリエステルフィルムの表面抵抗値は、実施例に記載の方法で測定でき、当該表面抵抗値は、後述する暴露前の表面抵抗値や耐水性評価における処理前の表面抵抗値に該当する。
【0096】
本積層ポリエステルフィルムの23℃、50%RH、蛍光灯照射下で、14日間暴露させたときの暴露前後における前記樹脂層の表面抵抗値の変化率は、(暴露後の表面抵抗値)/(暴露前の表面抵抗値)から算出され、50倍以下であることが好ましく、より好ましくは30倍以下、さらに好ましくは20倍以下である。
また、本積層ポリエステルフィルムの23℃、50%RH、蛍光灯照射下で、28日間暴露させたときの暴露前後における前記樹脂層の表面抵抗値の変化率は、(暴露後の表面抵抗値)/(暴露前の表面抵抗値)から算出され、150倍以下であることが好ましく、より好ましくは120倍以下、さらに好ましくは80倍以下である。
前記変化率が上限値以下であれば、大気中に曝された際の帯電防止性の低下が抑制されているといえる。当該変化率の下限値は特に制限されないが、低ければ低いほどよく、0倍を超えればよい。
なお、暴露評価は、より詳細には実施例に記載の方法で測定できる。
【0097】
本積層ポリエステルフィルムの樹脂層表面を、水を含ませたキュプラ製不織布で、荷重680gにて3往復摩擦したときの処理前後における前記樹脂層の表面抵抗値の変化率は、(処理後の表面抵抗値)/(処理前の表面抵抗値)から算出され、5倍以下であることが好ましく、より好ましくは3倍以下、さらに好ましくは2倍以下である。
前記変化率が上限値以下であれば、耐水性が良好といえる。当該変化率の下限値は特に制限されないが、低ければ低いほどよく、0倍を超えればよい。
なお、耐水性評価は、より詳細には実施例に記載の方法で測定できる。
【0098】
<<<積層ポリエステルフィルムの用途>>>
本積層ポリエステルフィルムは、帯電防止性、優れた透明性及び耐水性を有することから、電子部品、ディスプレイやタッチパネル周辺部材の保護フィルム、加工工程で他の部材を保護する工程保護フィルムやカバーテープ用途等に好適に使用することができ、中でも透明性が必要な、ディスプレイやタッチパネル周辺部材の保護フィルム、ディスプレイやタッチパネルの加工工程で他の部材を保護する工程保護フィルム用途等に好適である。特に、適度な表面抵抗値を有することから、タッチセンサー機能を有する光学部材に貼り合わせるような用途に用いた場合であっても、タッチセンサーが正常に作動しなくなるような不具合などを防止することができる。したがって、本積層ポリエステルフィルムは、タッチセンサー機能を有する光学部材に貼り合わせる表面保護フィルム用として特に好適に用いることができる。ただし、本発明はかかる用途に限定されるものではない。
【0099】
<<<語句の説明>>>
本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
本発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」あるいは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例0100】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
ただし、本発明は、その要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0101】
<評価方法>
(1)ポリエステルの固有粘度(IV)
ポリエステルに非相溶な成分を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(質量比)の混合溶媒100mLを加えて溶解させ、粘度測定装置「VMS-022UPC・F10」(株式会社離合社製)を用いて、30℃で測定した。
【0102】
(2)ポリエステルフィルム中の粒子の平均粒径
透過型電子顕微鏡(TEM)(株式会社日立ハイテク製「H-7650」、加速電圧100kV)を使用して、実施例及び比較例のポリエステルフィルムを観察し、粒子10個の粒径の平均値を平均粒径とした。
【0103】
(3)樹脂層の塗工量(乾燥延伸後)
塗布液不揮発成分濃度、塗布液消費量から導かれる乾燥前塗工量、横(幅方向)延伸倍率等から計算した。
なお、塗布液不揮発成分濃度は、ハロゲン水分計(メトラー・トレド株式会社製「HR73」)を使用し、105℃、60分の条件で測定した。
【0104】
(4)フィルムヘーズ
ヘーズメーター(株式会社村上色彩技術研究所製「HM-150」)を使用して、JIS K 7136:2000に準じて測定した。
【0105】
(5)樹脂層の表面抵抗値
低抵抗率計(日東精工アナリテック株式会社製「ロレスタGP MCP-T600」)に四探針型ESPプローブを使用し、23℃、50%RHの測定雰囲気で、実施例及び比較例で得た積層ポリエステルフィルムを30分間調湿後、樹脂層表面の表面抵抗値を測定した。
なお、抵抗率補正係数(RCF値)は4.235の一定とした。
また、表2中の「OVER」は、測定上限を超えていたことを意味する。
【0106】
(6)暴露評価
23℃、50%RHの雰囲気で積層ポリエステルフィルムを30分間調湿した後の表面抵抗値(上記(5)の表面抵抗値)を暴露前の表面抵抗値とし、23℃、50%RH、蛍光灯照射下で14日放置した後、及び28日放置した後の表面抵抗値をそれぞれ暴露後の表面抵抗値(14日後、28日後の暴露評価)とした。暴露時の条件としては、より詳細には、23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室の壁面に積層ポリエステルフィルムを、該フィルムの測定面(樹脂層側)が壁との接着面の反対側(室内側)になるように貼り付けた。なお、この壁面には屋外光はあたらず、1日あたりおよそ24時間、白色蛍光灯による約500ルクスの照明を受けていた(すなわち、14日間暴露の場合は延べ336時間、28日間暴露の場合は延べ672時間照射した)。
なお、表面抵抗値は、上記(5)記載の低抵抗率計(日東精工アナリテック株式会社製「ロレスタGP MCP-T600」)に四探針型ESPプローブを使用して測定した。
また、暴露前後における樹脂層の表面抵抗値の変化率は、(暴露後の表面抵抗値)/(暴露前の表面抵抗値)から算出した。
【0107】
(7)耐水性評価
23℃、50%RHの雰囲気で、ラビングテスター(大平理化工業株式会社製)を用いて、5cm×7cmの平板状の摩擦子に、5cm×10cmで4枚重ねにしたキュプラ製不織布(小津産業株式会社製「ベンコットM-3II」)をたるまないように巻き付け、不織布に純水を2mL含ませた状態で、荷重680gにて、実施例及び比較例で得た積層ポリエステルフィルムの樹脂層表面を3往復(15cm長の範囲)摩擦した後の表面抵抗値を測定し、耐水性評価における処理後の表面抵抗値とした。なお、表面抵抗値の測定方法は、(5)に記載の低抵抗率計(日東精工アナリテック株式会社製「ロレスタGP MCP-T600」)に四探針型ESPプローブを使用して測定した。
また、当該処理前後における樹脂層の表面抵抗値の変化率は、(処理後の表面抵抗値)/(処理前の表面抵抗値)から算出した。なお、処理前の表面抵抗値は、上記(5)で測定した表面抵抗値を用いた。
【0108】
<使用した材料>
実施例及び比較例において使用した基材としてのポリエステルフィルムの原料は、以下のとおりである。
【0109】
[ポリエステル(1)]
実質的に粒子を含有しない、固有粘度0.64dL/gのポリエチレンテレフタレート
【0110】
[ポリエステル(2)]
平均粒径2.4μmの非晶質シリカを0.2質量%含有する、固有粘度0.65dL/gのポリエチレンテレフタレート
【0111】
樹脂層を形成するための樹脂組成物の各構成成分として使用した化合物は以下のとおりである。なお、樹脂組成物は、下記表1に示す組成にて撹拌混合して得た。また、得られた樹脂組成物を、表1に記載の濃度となるよう水で希釈して、塗布液1~9を調製した。
【0112】
[化合物(A)]
ポリアニリンスルホン酸(三菱ケミカル株式会社製、aqua-PASS、主たる繰り返し単位:メトキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸)
【0113】
[化合物(B)]
自己ドープ型ポリチオフェン(東ソー株式会社製、SELFTRON S)
【0114】
[化合物(C)]
テレフタル酸282質量部、イソフタル酸282質量部、エチレングリコール62質量部、及びネオペンチルグリコール250質量部を成分とするポリエステルポリオールを(C1a)としたとき、(C1a)876質量部、トリレンジイソシアネート244質量部、エチレングリコール81質量部、及びジメチロールプロピオン酸67質量部を構成成分としたポリエステルポリウレタンをアンモニアで中和して水分散させた分散物(不揮発分濃度20%、25℃での粘度50mPa・s)。
【0115】
[化合物(D)]
下記式(4)で平均n=2であるポリグリセリン骨格にポリエチレンオキサイドが平均4分子付加した化合物
【化4】
【0116】
[化合物(E1)]
下記式(5)において、m+nの平均が10である、側鎖にポリエチレンオキサイドを有する構造のノニオン性界面活性剤
【化5】
【0117】
[化合物(E2)]
疎水性基に分岐パーフルオロアルケニル基、親水性基にポリエチレンオキサイド鎖(平均鎖長8単位)を有する構造のフッ素系ノニオン性界面活性剤
【0118】
[比較化合物(F)]
導電剤「AS-G1」(信越ポリマー株式会社製、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸を主な成分とする)を濃アンモニア水で中和してpH=9とした。
【0119】
(実施例1)
ポリエステル(1)とポリエステル(2)とを質量比で92/8でブレンドしたものをA層、及びポリエステル(1)のみをB層の原料として、押出機にそれぞれを供給し、285℃に加熱溶融し、A層を二分配して最外層(表層)、B層を中間層とする二種三層(A/B/A)の層構成で、押出条件で厚み構成比がA/B/A=5/90/5となるよう共押出し、表面温度40~50℃の鏡面冷却ドラムに密着させながら冷却固化させ、未延伸フィルムを作成した。このフィルムを85℃の加熱ロール群を通過させながら長手方向に3.7倍延伸し、一軸延伸のフィルムとした。この一軸延伸のフィルムの片面に、下記表1に示す組成の樹脂組成物1(塗布液1、不揮発成分濃度8.0質量%)を塗布し、次いでこのフィルムをテンター延伸機に導き、100℃で幅方向に4.3倍延伸し、さらに230℃で熱処理を施した後、幅方向に2%の弛緩処理を行い、乾燥後の塗工量が50mg/mの樹脂層を有する、厚み50μmの二軸延伸のフィルムとし、実施例1の積層ポリエステルフィルムを得た。この積層ポリエステルフィルムの評価結果を下記表2に示す。なお、塗布液1は、樹脂組成物1を水で希釈し、表1の不揮発成分濃度としたものである。
【0120】
(実施例2~6、比較例1~3)
樹脂層を形成するための樹脂組成物2~9(塗布液2~9、不揮発成分濃度8.0質量%)を表1に示す組成に変更する以外は、実施例1と同様に実施して実施例2~6及び比較例1~3の積層ポリエステルフィルムを得た。評価結果を表2に示す。なお、塗布液2~9は、樹脂組成物2~9を水で希釈し、表1の不揮発成分濃度としたものである。
【0121】
【表1】
【0122】
【表2】
【0123】
表2の結果から分かるように、実施例1~6で得られた積層ポリエステルフィルムは、所望する表面抵抗値を持ちながら、高い透明性及び耐水性を有する。また、実施例1~6の積層ポリエステルフィルムは、優れた経時安定性(耐暴露性)をも兼備している。
一方、実施例1~6と比較して、自己ドープ型ポリチオフェン(化合物(B))の代わりにPEDOT/PSS(ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の分散体、比較化合物(F))を使用した比較例1、2では、透明性が下がったのに加えて、耐水性あるいは経時安定性が低下している。また、自己ドープ型ポリチオフェンを加えない比較例3においては、耐水性が低下している。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、帯電防止性、優れた透明性及び耐水性を有することから、電子部品、ディスプレイやタッチパネル周辺部材の保護フィルム、加工工程で他の部材を保護する工程保護フィルムやカバーテープ用途等に好適に使用することができ、中でも透明性が必要な、ディスプレイやタッチパネル周辺部材の保護フィルム、ディスプレイやタッチパネルの加工工程で他の部材を保護する工程保護フィルム用途等に好適である。特に、適度な表面抵抗値を有することから、タッチセンサー機能を有する光学部材に貼り合わせるような用途に用いた場合であっても、タッチセンサーが正常に作動しなくなるような不具合などを防止することができる。
したがって、本発明の積層ポリエステルフィルムは、タッチセンサー機能を有する光学部材に貼り合わせる表面保護フィルム用として特に好適に用いることができ、その工業的利用価値は高い。