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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119335
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】液体口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/21 20060101AFI20240827BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20240827BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20240827BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
A61K8/21
A61Q11/00
A61K8/02
A61K8/73
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026156
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】仲村 太智
(72)【発明者】
【氏名】平 夏樹
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB052
4C083AB471
4C083AB472
4C083AD351
4C083AD352
4C083CC41
4C083DD23
4C083DD27
4C083EE06
4C083EE31
(57)【要約】
【課題】渋味、苦味、異味を生じることがなく、かつべたつき感を有さない、フッ素化合物を歯表面に保持することのできる液体口腔用組成物を提供すること。
【解決手段】フッ素含有化合物及びカラギーナンを含む液体口腔用組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有化合物及びカラギーナンを含む液体口腔用組成物。
【請求項2】
前記フッ素含有化合物がフッ化ナトリウムである、請求項1に記載の液体口腔用組成物。
【請求項3】
前記カラギーナンがκ-カラギーナン又はλ-カラギーナンである、請求項1又は2に記載の液体口腔用組成物。
【請求項4】
前記カラギーナンの含有量が0.1~2.0質量%である、請求項1又は2に記載の液体口腔用組成物。
【請求項5】
粘度が5~500cPである、請求項1又は2に記載の液体口腔用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化ナトリウム等のフッ素化合物は、う蝕の発症を抑制し、歯の再石灰化を促進する効果のある有効成分として、歯磨きペースト、液体歯磨き、洗口液等の口腔用組成物に従来から広く用いられている。
フッ素化合物を効果的に歯に作用させるためには、歯に対して低濃度のフッ素イオンを定期的にかつ長時間作用させることが重要である。しかしながら、フッ素化合物は、ブラッシング後のすすぎによってほとんどが洗い流され、また唾液等によって流されるため、口腔内に残存するフッ素イオンは微量となり、う蝕予防効果が発揮されないという問題があった。
一方、口腔用組成物中のフッ素化合物の配合量を増加することは、誤飲などによる安全性の問題がある。また、安全性の観点からフッ素化合物の含有量は法令にて、一定量以下に制限されている。
【0003】
このように、フッ素化合物を効果的にかつ安全に作用させるためには、フッ素化合物の配合量を変えることなく、フッ素イオンを口腔内に留めることが必要となる。
フッ素イオンを歯の表面に保持する手段として、例えば、カチオン性ポリマーを使用する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2及び3参照)。
また、洗口液において有効成分の口腔内滞留性を向上するために、粘度を高める方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-320894号公報
【特許文献2】特開2013-67567号公報
【特許文献3】特開2015-117215号公報
【特許文献4】特開平08-333227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1~3に開示されるカチオン性ポリマーは、渋味、苦味、異味が生じることがあり、口腔用組成物としては使用し辛い面があった。特に子供が使用する製品においては、渋味等が原因で継続的に使用することが困難であった。
また、液体歯磨きや洗口液等の液体口腔用組成物において、フッ素イオンを口腔内に留めるために粘度を上げると、べたつきが生じて使用感が悪化するという問題があった。
そこで、本発明は、渋味、苦味、異味を生じることがなく、かつべたつき感を有さない、フッ素化合物を歯の表面に保持することのできる液体口腔用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、フッ素含有化合物及びカラギーナンを含む液体口腔用組成物を用いることで、粘度を増大させることなく、フッ素イオンを歯の表面に保持することができ、かつ渋味、苦味、異味を生じさせず、上記課題を解決し得ることを見出した。本願発明はこのような知見に基づき完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1]フッ素含有化合物及びカラギーナンを含む液体口腔用組成物。
[2]前記フッ素含有化合物がフッ化ナトリウムである、上記[1]に記載の液体口腔用組成物。
[3]前記カラギーナンがκ-カラギーナン又はλ-カラギーナンである、上記[1]又は[2]に記載の液体口腔用組成物。
[4]前記カラギーナンの含有量が0.1~2.0質量%である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の液体口腔用組成物。
[5]粘度が5~500cPである、上記[1]~[4]のいずれかに記載の液体口腔用組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、渋味、苦味、異味を生じることがなく、かつべたつき感を有さない、フッ素化合物を歯の表面に保持することのできる液体口腔用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[液体口腔用組成物]
本発明の液体口腔用組成物(以下、単に「組成物」と記載することがある。)は、フッ素含有化合物及びカラギーナンを含むことを特徴とする。なお、本発明の液体口腔用組成物は、いわゆる液体歯磨き又は洗口液と呼ばれる液状の組成物であって、粉状、ペースト状の歯磨剤とは異なる。より具体的には、本発明の組成物の粘度は5~500cPであることが好ましい。粘度が5cP以上であるとフッ素イオンの歯面での保持率が十分となり、500cP以下であれば、べたつきが生じないために良好な使用感が得られる。以上の観点から、本発明の組成物の粘度は7~200cPの範囲がより好ましく、10~100cPの範囲がさらに好ましい。
【0010】
<フッ素含有化合物>
フッ素含有化合物に含まれるフッ素イオンは、う蝕の発症を抑制し、歯の再石灰化を促進する効果のある有効成分である。フッ素含有化合物は、歯面へのフッ素イオンの保持効果を示し、安全性の高いものであれば、特に限定されない。
フッ素含有化合物としては、例えば、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化第一スズ、フッ化アンモニウム、フッ化ストロンチウム等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。中でも、フッ化ナトリウムが好ましい。
【0011】
フッ素含有化合物の含有量は、フッ素イオン濃度として組成物中225ppm(質量、以下同様)を超えない量が好ましく、100~225ppmがより好ましい。フッ素イオン濃度は高い方がう蝕予防効果は高いが、安全性の点から上限は法令で定められた225ppmである。
また、フッ素含有化合物がフッ化ナトリウムの場合は、組成物中のフッ化ナトリウムの含有量は0.01~0.05質量%が好ましく、0.02~0.05質量%がより好ましい。0.01質量%以上にすることで、歯面上のフッ素の保持率がより向上し、十分なう蝕予防効果が発揮される。一方、上限を0.05質量%以下とすることで、安全性が担保される。
【0012】
<カラギーナン>
本発明の組成物において、カラギーナンは組成物の増粘効果を示さず、フッ素イオンの歯の表面への保持率を向上させることができる。これまでの、歯磨剤(ペースト)では、カラギーナンはフッ素保持効果に加えて、組成物を垂れにくくするために加えていたが、本発明の組成物は液体であるため、その作用機序はペーストとは異なると思われる。
【0013】
カラギーナンの種類としては、κ(カッパ)-カラギーナン、ι(イオタ)-カラギーナン、λ(ラムダ)-カラギーナンが挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができ、中でもκ(カッパ)-カラギーナン、λ(ラムダ)-カラギーナンが好ましい。
κ(カッパ)-カラギーナンの市販品としては、例えば、三菱ケミカル株式会社「ソアギーナ(登録商標)MV101」が挙げられ、λ-カラギーナンの市販品としては、三菱ケミカル株式会社「ソアギーナ(登録商標)ML200」が挙げられる。
【0014】
カラギーナンの含有量は、組成物中0.1~2.0質量%が好ましく、0.3~1.5質量%がより好ましく、0.5~1.2質量%がさらに好ましい。0.1質量%以上とすることで、フッ素イオン保持率を向上させることができ、組成物の高温での外観保存安定性が向上する。また、2.0質量%以下とすることで、組成物の粘度を高めることなく、口腔用組成物としての使用感が良好となる。
【0015】
<その他成分>
本発明の組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分に加えて、界面活性剤、甘味剤、色素、防腐剤、香料、pH調整剤等の成分を任意に配合できる。
【0016】
界面活性剤としては、両性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤を配合でき、1種単独で又は2種以上を適宜選択して用いることができる。界面活性剤を配合する場合、その含有量は、組成物中0.1~4質量%の中で適宜選定される。
【0017】
甘味剤としては、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビオサイド、ステビアエキス、パラメトキシシンナミックアルデヒド、ネオヘスペリジルヒドロカルコン、ペルラルチン、ソーマチン、アスパラチルフェニルアラニンメチルエステル等が挙げられる。
【0018】
色素としては、赤色2号、赤色3号、赤色225号、赤色226号、黄色4号、黄色5号、黄色205号、青色1号、青色2号、青色201号、青色204号、緑色3号、酸化チタン等が挙げられる。
【0019】
防腐剤としては、ブチルパラベン、メチルパラベン、エチルパラベン等のパラベン類(パラオキシ安息香酸エステル)、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
【0020】
香料としては、ペパーミント油、スペアミント油、アニス油、ユーカリ油、ウィンターグリーン油、カシア油、クローブ油、タイム油、セージ油、レモン油、オレンジ油、ハッカ油、カルダモン油、コリアンダー油、マンダリン油、ライム油、ラベンダー油、ローズマリー油、ローレル油、カモミル油、キャラウェイ油、マジョラム油、ベイ油、レモングラス油、オリガナム油、パインニードル油、ネロリ油、ローズ油、ジャスミン油、イリスコンクリート、アブソリュートペパーミント、アブソリュートローズ、オレンジフラワー等の天然香料、及び、これらの天然香料の加工処理(前溜部カット、後溜部カット、分留、液液抽出、エッセンス化、粉末香料化等)した香料、及び、メントール、カルボン、アネトール、シネオール、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、3-1-メントキシプロパン-1,2-ジオール、チモール、リナロール、リナリールアセテート、リモネン、メントン、メンチルアセテート、N-置換-パラメンタン-3-カルボキサミド、ピネン、オクチルアセデヒド、シトラール、プレゴン、カルビートアセテート、アニスアルデヒド、エチルアセテート、エチルブチレート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、メチルアンスラニレート、エチルメチルフェニルグリシデート、バニリン、ウンデカラクトン、ヘキサナール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール、イソアミルアルコール、ヘキセノール、ジメチルサルファイド、シクロテン、フルフラール、トリメチルピラジン、エチルラクテート、メチルラクテート、エチルチオアセテート等の単品香料、更に、ストロベリーフレーバー、アップルフレーバー、バナナフレーバー、パイナップルフレーバー、グレープフレーバー、マンゴーフレーバー、バターフレーバー、ミルクフレーバー、フルーツミックスフレーバー、トロピカルフルーツフレーバー等の調合香料等、歯磨剤組成物に用いられる公知の香料素材を使用することができる。
【0021】
(pH調整剤)
本発明の組成物は、pH調整剤を含有してもよい。
pH調整剤としては、例えば、酢酸、乳酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、アンモニア等を用いることができる。
【0022】
なお、甘味剤、色素、防腐剤、香料、pH調整剤の含有量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【0023】
<溶剤>
本発明の組成物は、安全性及び塗布効率の観点から、水系溶剤を含むことが好ましい。水系溶剤としては、水;エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコールが挙げられる。液体歯磨き又は洗口液としての使用を考慮すると、水を溶媒とする水性組成物とすることが好ましい。
【0024】
(組成物のpH)
被覆剤組成物のpHは、食品に安全に適用できる観点から、4以上10以下が好ましく、4以上8以下がより好ましい。
【実施例0025】
次に、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。但し、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0026】
[評価方法]
<粘度>
B型粘度計(ブルックフィールド社製 LVDV-1 PRIME)を用いて、試料温度24℃にて、回転数60rpm、1分後の粘度を測定した。測定粘度によってスピンドルを交換して測定した。粘度100[cP]以下はスピンドルLV-1、粘度101~500[cP]はスピンドルLV-2、粘度501~2000[cP]はスピンドルLV-3を使用して測定した。
【0027】
<フッ素イオン保持効果>
10mLの遠沈管にハイドロキシアパタイト(富士フイルム和光純薬製 アパタイトHAP,単斜晶)を500mg秤取り、この遠沈管に各実施例及び比較例で調製した評価溶液10mLを加え、ボルテックスミキサーにて3分撹拌した。この遠沈管を遠心分離機に10分かけ、液とハイドロキシアパタイトを分離し、分離した液を捨てた。
次いで、洗浄操作として、純水6mLを加え、ボルテックスミキサーにて5分撹拌した後、遠心分離機に10分かけ、液とハイドロキシアパタイトを分離し、液を捨てた。
この洗浄操作を合計3回実施し、ハイドロキシアパタイトに保持されていないフッ素イオンを除去した。その後1M塩酸10mLを加えてハイドロキシアパタイトを溶解した。ガラス瓶にハイドロキシアパタイトを溶解した塩酸溶液を6mL秤取り、7.6mLの緩衝溶液(TISAB Total Ionic Strength Adjustment Buffer)を加え、フッ素イオン電極(HORIBA社製)でハイドロキシアパタイトに保持されたフッ素イオンの量(フッ素イオン保持量)を測定した。評価値はハイドロキシアパタイトを塩酸10mLに溶解させた溶解液中のフッ素イオン濃度である。
また、比較例1(ブランク)に対する割合を「フッ素イオン保持率」とした。
【0028】
[用いた材料]
κ-カラギーナン:三菱ケミカル株式会社製「ソアギーナ(登録商標)MV101」
λ-カラギーナン:三菱ケミカル株式会社製「ソアギーナ(登録商標)ML200」
カチオン化セルロース:ライオン株式会社製「レオガードMGP」
【0029】
実施例1~4及び比較例1~3
水にフッ化ナトリウムを溶解させ、そこへカラギーナン又はカチオン化セルロースを添加し、撹拌しながら73℃で溶解させた。その後、24℃の部屋に静置しで室温まで冷却することで各評価溶液を調製した。各材料の含有量を表1に示す。
また、上記方法により、評価した結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
実施例1~4の組成物及び比較例1の比較から、本発明の組成物は、粘度を増大させることなく、歯の表面のフッ素イオンの保持率を高く維持できることがわかる。一方、従来から増粘剤として用いられるカチオン化セルロースを1質量%加えた比較例2の組成物は、フッ素イオン保持率は高いものの、粘度が極端に高く、液体歯磨き又は洗口液としての使用を考慮すると、べたつきが生じ、使用感に劣ることが想定される。また、カチオン化セルロースの含有量を低減させた比較例3の組成物は、粘度としては良好であり、使用感は良好と思われるが、実施例の組成物に比較して、フッ素イオン保持率に劣ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、粘度を増大させることなく、歯の表面のフッ素イオンの保持率を高く維持することが可能な液体口腔用組成物を提供することができる。本組成物は、液体であるため、液体歯磨き又は洗口液として有用であり、かつ歯の表面でのフッ素イオンの保持率が高いことから、フッ素化合物を効果的に歯に作用させることができ、高いう蝕予防効果が発揮される。しかも従来使用されていたカチオン化ポリマーを有さないために、渋味、苦味、異味を生じることがない。したがって、本発明は工業的価値の高い技術である。