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特開2024-119694振動子、粘性センサ及び粘性センサユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119694
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】振動子、粘性センサ及び粘性センサユニット
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/10 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
G01N11/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026775
(22)【出願日】2023-02-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「IoT社会実現のための革新的センシング技術開発/革新的センシング技術開発/極限環境の液体管理をIoT化する革新的粘性センサの開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100170070
【弁理士】
【氏名又は名称】坂田 ゆかり
(72)【発明者】
【氏名】山本 泰之
(72)【発明者】
【氏名】小林 健
(57)【要約】
【課題】振動子、粘性センサ及び粘性センサユニットを小型化することができる。
【解決手段】棒状部材を渦巻き状に巻回した第1部材及び第2部材と、第1部材の表面に設けられた駆動部と、を備える。第1部材及び第2部材は、第1部材の間に第2部材が設けられ、かつ、第1部材と第2部材とが対向して設けられた二重渦巻き構造を有する。駆動部は、複数の圧電素子を有し、圧電素子は、それぞれ、第1部材の長手方向に沿った中心線との圧電素子との交点における中心線の接線に対して略45度傾けて設いている。複数の圧電素子は、第1部材の長手方向に沿って並んで配置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状部材を渦巻き状に巻回した第1部材及び第2部材と、
前記第1部材の表面に設けられた駆動部と、
を備え、
前記第1部材及び前記第2部材は、前記第1部材の間に前記第2部材が設けられ、かつ、前記第1部材と前記第2部材とが対向して設けられた二重渦巻き構造を有し、
前記駆動部は、複数の圧電素子を有し、
前記圧電素子は、それぞれ、前記第1部材の長手方向に沿った第1中心線に対して傾いており、
複数の前記圧電素子は、前記第1部材の長手方向に沿って並んで配置されていることを特徴とする振動子。
【請求項2】
前記圧電素子は、それぞれ、前記第1中心線との前記圧電素子との交点における前記第1中心線の接線である第1接線に対して略45度傾いていることを特徴とする請求項1に記載の振動子。
【請求項3】
前記第1部材の表面に設けられた変位測定部を備え、
前記変位測定部は、複数の圧電型変位センサを有し、
前記圧電型変位センサは、前記第1中心線に対して傾いており、
複数の前記圧電型変位センサは、前記第1部材の長手方向に沿って並んで配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の振動子。
【請求項4】
前記圧電型変位センサは、前記第1中心線との前記圧電素子との交点における前記第1中心線の接線である第2接線に対して略45度傾いていることを特徴とする請求項3に記載の振動子。
【請求項5】
複数の前記圧電素子は、前記第1部材の長手方向の略全体にわたって設けられており、
複数の前記圧電型変位センサは、前記第1部材の最外周の一部に設けられている
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の振動子。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の振動子を備えたことを特徴とする粘性センサ。
【請求項7】
前記第1部材と前記第2部材との隙間は、中心部から外周部に向かうにつれて徐々に狭くなることを特徴とする請求項6に記載の粘性センサ。
【請求項8】
前記圧電素子を駆動する駆動信号発生部を備え、
前記駆動信号発生部は、前記第1部材を、前記第1部材の延設方向と略直交する方向に、一定期間、一定速度で移動させることを特徴とする請求項6又は7に記載の粘性センサ。
【請求項9】
前記第2部材の表面に設けられた複数の第2圧電型変位センサを有する第2変位測定部と、
前記第2圧電型変位センサの測定結果を取得する変位取得部と、
前記第1部材と前記第2部材との間に充填された液体の粘度を算出する粘度算出部と、
を備え、
前記第2圧電型変位センサは、前記第2部材の長手方向に沿った第2中心線に対して傾いた状態で、前記第2部材の長手方向に沿って並んで設けられており、
前記粘度算出部は、前記変位取得部が取得した結果に基づいて前記粘度を算出することを特徴とする請求項6から8のいずれか一項に記載の粘性センサ。
【請求項10】
請求項6から9のいずれか一項に記載の粘性センサと、
前記振動子を覆うように設けられた筐体と、
ポンプと、
を備え、
前記筐体は、前記振動子が内部に設けられる空洞部と、前記空洞部を外部と連通する流路と、を有し、
前記ポンプは、前記流路を介して前記空洞部に液体を流入させることを特徴とする粘性センサユニット。
【請求項11】
前記ポンプは、前記筐体に設けられたダイヤフラムを含み、
前記ダイヤフラムは、前記振動子と平行に、前記空洞部を横断するように前記空洞部の内部に設けられていることを特徴とする請求項10に記載の粘性センサユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動子、粘性センサ及び粘性センサユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、液体からの粘性応力を受ける構造体が二重渦巻き構造を有する粘度計であって、二重渦巻き構造の一方はばねに接続され、二重渦巻き構造の他方はアクチュエータに接続され、二重渦巻き構造の他方をアクチュエータにより渦巻きの中心軸に平行な方向に移動させることにより、二重渦巻き構造の一方と他方の二つの渦巻きのギャップの液体から粘性応力が発生するようにし、一方の渦巻きの中心軸に平行な方向の移動量が粘性応力に依存することを利用した二重渦巻き構造を有する粘度計が開示されている。
【0003】
また、非特許文献1には、液体からの粘性応力を受ける構造体が二重渦巻き構造を有する粘度計であって、渦巻き構造の外側の端部は固定されており、中央側の端部は渦巻きの中心軸に平行な方向にタケノコばねのように変形させ、二重渦巻き構造の一方には変位センサを設置し、他方には変位センサとアクチュエータを設置し、二重渦巻き構造の他方をアクチュエータにより渦巻きの中心軸に平行な方向に移動させることにより、二重渦巻き構造の一方と他方の二つの渦巻きのギャップの液体から粘性応力が発生するようにし、一方の渦巻きの中心軸に平行な方向の移動量が粘性応力に依存することを利用した二重渦巻き構造を有する粘度計が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許5483112号公報
【非特許文献1】山本泰之・松本壮平著 「MEMS技術を用いた超小型粘度センサー」 計測自動制御学会 「計測と制御」 2015年5月号 第54巻 第5号 351-355頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の発明では、他方の渦巻きに接続されたピエゾアクチュエータで振動させている。以下、アクチュエータに接続された渦巻きを振動体という。しかしながら、ピエゾアクチュエータを振動体とは別に設置する方法では、装置が大型化し、部品点数が多く、複雑化し、低コスト化と小型化が困難であった。
【0006】
非特許文献1に記載の発明では、振動体の中心部をボイスコイルモータで移動させることで、二重渦巻き構造の他方(以下、感力体という)を振動させている。具体的には、振動体の中央部に磁石を設け、二重渦巻き構造を覆うケースの内部にコイルを設け、コイルにより磁石、すなわち振動体の中心部を移動させている。しかしながら、ボイスコイルモータを用いる場合には、部品点数が多くなり、ケースも大型化してしまう。また、ボイスコイルモータの出力を高くしようとすると、コイルが大型化してしまう。
【0007】
特許文献1および非特許文献1の粘度計は、液体がニュートン流体の場合にのみ正確に測定でき、非ニュートン流体の場合には大きな誤差が発生することがあった。
【0008】
非特許文献1に記載の発明では、流れが激しい場所に粘度計が設置されると、流れの状況によっては、理論と異なるずり応力が発生して粘度測定に誤差が発生したり、温度変動の影響を受けたり、渦巻き構造が破壊されたりするなどの影響を受けることがあるため、設置可能な場所が、流れが穏やかな場所に限定されていた。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、小型の振動子、粘性センサ及び粘性センサユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る振動子は、例えば、棒状部材を渦巻き状に巻回した第1部材及び第2部材と、前記第1部材の表面に設けられた駆動部と、を備え、前記第1部材及び前記第2部材は、前記第1部材の間に前記第2部材が設けられ、かつ、前記第1部材と前記第2部材とが対向して設けられた二重渦巻き構造を有し、前記駆動部は、複数の圧電素子を有し、前記圧電素子は、それぞれ、前記第1部材の長手方向に沿った第1中心線に対して傾いており、複数の前記圧電素子は、前記第1部材の長手方向に沿って並んで配置されていることを特徴とする。また、本発明の別の形態に係る粘性センサは、例えば、当該振動子を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る振動子、粘性センサによれば、棒状部材を渦巻き状に巻回した第1部材及び第2部材が二重渦巻き構造を有し、第1部材の表面に設けられた駆動部が設けられている。駆動部が有する複数の圧電素子は、それぞれ、第1部材の長手方向に沿った第1中心線に対して傾いており、かつ、第1部材の長手方向に沿って並んで配置されている。これにより、駆動部が第1部材を第1部材の延設面と直交する方向に移動させことができる。したがって、小型の振動子とすることができる。
【0012】
前記圧電素子は、それぞれ、前記第1中心線との前記圧電素子との交点における前記第1中心線の接線である第1接線に対して略45度傾いていてもよい。圧電素子が振動体に発生させるねじりによる変形は、圧電素子の延設方向に対して45度傾いた方向が最も大きくなるため、圧電素子を第1接線に対して略45度傾けることで圧電素子が最も効率よく振動体11をねじり変形させることができる。
【0013】
前記第1部材の表面に設けられた変位測定部を備え、前記変位測定部は、複数の圧電型変位センサを有し、前記圧電型変位センサは、前記第1中心線に対して傾いており、複数の前記圧電型変位センサは、前記第1部材の長手方向に沿って並んで配置されていてもよい。これにより、変位センサにより測定された変位量に基づいて第1部材の変形量を所望の値にすることができる。
【0014】
前記圧電型変位センサは、前記第1中心線との前記圧電素子との交点における前記第1中心線の接線である第2接線に対して略45度傾いていてもよい。これにより、第1部材の変位を正確に測定することができる。
【0015】
複数の前記圧電素子は、前記第1部材の長手方向の略全体にわたって設けられており、複数の前記圧電型変位センサは、前記第1部材の最外周の一部に設けられていてもよい。これにより、少しの変位センサで第1部材の中心端の変形量が分かる。
【0016】
前記第1部材と前記第2部材との隙間は、中心部から外周部に向かうにつれて徐々に狭くなってもよい。これにより、第1部材や第2部材の位置によらず、ずり速度(第1部材の移動速度/第1部材と第2部材との隙間)を一定に保つことができる。これにより、非ニュートン流体の粘度が測定可能になる。
【0017】
前記圧電素子を駆動する駆動信号発生部を備え、前記駆動信号発生部は、前記第1部材を、前記第1部材の延設方向と略直交する方向に、一定期間、一定速度で移動させてもよい。これにより、非ニュートン流体の粘度が測定可能になる。
【0018】
前記第2部材の表面に設けられた複数の第2圧電型変位センサを有する第2変位測定部と、前記第2圧電型変位センサの測定結果を取得する変位取得部と、前記第1部材と前記第2部材との間に充填された液体の粘度を算出する粘度算出部と、を備え、前記第2圧電型変位センサは、前記第2部材の長手方向に沿った第2中心線との前記圧電素子との交点における前記第2中心線の接線に対して傾いた状態で、前記第2部材の長手方向に沿って並んで設けられており、前記粘度算出部は、前記変位取得部が取得した結果に基づいて前記粘度を算出してもよい。これにより、第2圧電型変位センサの測定結果に基づいて粘度を算出することができる。
【0019】
上記課題を解決するために、本発明に係る粘性センサユニットは、例えば、粘性センサと、前記振動子を覆うように設けられた筐体と、ポンプと、を備え、前記筐体は、前記振動子が内部に設けられる空洞部と、前記空洞部を外部と連通する流路と、を有し、前記ポンプは、前記流路を介して前記空洞部に液体を流入させることを特徴とする。これにより、流れが激しい場所に設置しても正確な粘度測定が可能である。
【0020】
前記ポンプは、前記筐体に設けられたダイヤフラムを含み、前記ダイヤフラムは、前記振動子と平行に、前記空洞部を横断するように前記空洞部の内部に設けられていてもよい。これにより、粘性センサユニットを小型化することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、振動子、粘性センサ及び粘性センサユニットを小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】二重渦巻き構造の振動子1の概略を示す平面図である。
図2図1の部分拡大図である。
図3】圧電素子131による振動体11の変形のシミュレーション結果を示す図である。グレーの濃度が濃くなるほど、紙面手前側への変位量が大きいことを示す。
図4】振動体11の最外周に位置する端を位置ゼロとして、長手方向に沿った位置と変形量との関係を示す図である。
図5】振動子2の概略を示す平面図である。
図6】圧電素子131及び変位センサ141の配置の変形例を示す図である。
図7】粘性センサ3の電気的な構成を示すブロック図である。
図8】振動体11Aをz方向に移動させたときに液体を介して感力体12Aがz方向に移動する様子を模式的に示す図である。
図9】ずり速度v/dと粘性応力σとの関係を示す図である。
図10】駆動信号発生部21による振動体11Aの駆動を説明する図であり、(A)は時間と振動体11Aの変位との関係を示し、(B)は時間と速度との関係を示し、(C)は時間と感力体12の変位との関係を示す。
図11】粘性センサ3を含む粘性センサユニット4の概略を示す分解斜視図である。
図12】圧電素子131を振動体11の長手方向に沿って配置したときの振動体11の変形のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
<第1の実施の形態>
図1は、振動子1の概略を示す平面図である。図2は、図1の部分拡大図である。振動子1は、棒状部材を渦巻き状に巻回した振動体11(本発明の第1部材に相当)及び感力体12(本発明の第2部材に相当)を有する。また、振動子1は、駆動部13と、変位測定部14とを有する。
【0025】
以下、振動体11及び感力体12が設けられている面をxy平面とし、xy平面に直交する方向をz方向とする。x方向及びy方向は直交する。振動子1の中心軸は、z方向に沿っている。
【0026】
振動子1は、振動体11の間に感力体12が設けられ、かつ、振動体11と感力体12とが対向して設けられた二重渦巻き構造を有する。振動体11と感力体12との間には数μm~数百μmの隙間が設けられている。二重渦巻き構造の振動子1は、振動体11及び感力体12の面積を広くしつつ小型化が可能であり、また、渦巻き構造の振動体11及び感力体12は、ばね定数が小さく、柔軟であるため壊れにくいという利点がある。
【0027】
このような二重渦巻き構造の振動子1を製作する方法としては、切削加工、ワイヤー放電加工、MEMS加工技術などがある。
【0028】
振動体11及び感力体12は、棒状部材を渦巻き状に巻くことにより形成される。ここでは、振動体11及び感力体12は、帯状の薄板を用いて形成されており、長手方向と直交する方向で切断したときの断面形状が矩形形状である。
【0029】
なお、振動体11及び感力体12の形状は図示した形態に限られない。例えば、振動体11及び感力体12の巻数はこれに限られないし、断面形状も矩形形状に限られない。
【0030】
振動体11及び感力体12は、最外周に位置する端(外端11b、12b)が基板等に固定されており、中央部の端(中心端11a、12a)は自由に移動可能である。振動体11は、駆動部13により、z方向(図1、2の紙面に対して垂直方向)に、すなわち振動子1の中心軸に沿って移動可能である。
【0031】
駆動部13は、振動体11の表面に形成された圧電体薄膜である。したがって、駆動部13をウェーハの段階で振動体11に形成可能であり、組み込み工程や部品管理がないため、効率的に振動子1を製造できる。駆動部13は、振動体11の略全体にわたって設けられている。以下、図2を用いて駆動部13について説明する。
【0032】
駆動部13は、主として、複数の圧電素子131と、圧電素子131を連結する連結部132とを有する。圧電素子131は、連結部132を介して電源に接続されている。
【0033】
連結部132は、振動体11の長手方向に沿って延設されている。圧電素子131は、それぞれ、振動体11の長手方向に沿った中心線c1(本発明の第1中心線に相当)と圧電素子131との交点mにおける中心線c1の接線d1に対して略45度傾いている。また、複数の圧電素子131は、振動体11の長手方向に沿って並んで配置されている。
【0034】
圧電素子131は、振動体11に対してねじりによる変形を発生させる。棒状物体の長手方向の軸に沿ってねじれモーメントを加えると、棒状物体の表面近傍の応力は、軸に対して45度方向が最大、あるいは最小となる。逆に、棒状物体の表面に軸に対して45度方向に、圧縮あるいは引っ張りの応力を加えると、長手方向の軸に沿ったねじれモーメントを発生させることができる。したがって、振動体11では、交点mにおける中心線c1の接線d1に対して略45度傾けて圧電素子131を配置することにより、圧電素子131が最も効率よく振動体11をねじり変形させ、配置位置よりも内側(中心端11a寄り)の振動体11をz方向に移動させる。そして、複数の圧電素子131を振動体11の長手方向に沿って並んで配置することで、ねじりによる変形が積み重なって大きな力が発生し、振動体11の中心端11aのz方向の変形量が最も大きくなる。
【0035】
図3は、このように配置された圧電素子131による振動体11の変形のシミュレーション結果を示す図である。振動体11の外周部の移動量が一番小さく、内周に向かうにつれて移動量が徐々に大きくなり、振動体11の中心の移動量が最も大きいことが分かる。
【0036】
図4は、振動体11の最外周に位置する端を位置ゼロとして、長手方向に沿った位置と変形量との関係を示す図である。図4の横軸は振動体11の位置であり、左側が振動体11の外側(外端11b)、右側が振動体11の内側(中心端11a)である。振動体11の変形量は概ね位置の2次関数状に変化することが分かる。
【0037】
図1、2の説明に戻る。変位測定部14は、振動体11及び感力体12の表面にそれぞれ設けられた圧電体薄膜である。したがって、変位測定部14をウェーハの段階で振動体11及び感力体12に形成可能であり、組み込み工程や部品管理がないため、効率的に振動子1を製造できる。
【0038】
変位測定部14は、主として、複数の変位センサ141と、変位センサ141を連結する連結部142とを有する。振動体11に設けられた変位センサ141は本発明の圧電型変位センサに相当し、感力体12に設けられた変位センサ141は本発明の第2圧電型変位センサに相当する。変位センサ141は、連結部142を介して外部装置(図示省略)等に接続されている。
【0039】
連結部142は、振動体11又は感力体12の長手方向に沿って延設されている。変位センサ141は、それぞれ、振動体11、感力体12の長手方向に沿った中心線c1、中心線c2(本発明の第2中心線に相当)と変位センサ141との交点nにおける中心線c1、c2の接線d2、d3に対して略45度傾いている。また、複数の変位センサ141は、振動体11又は感力体12の長手方向に沿って並んで配置されている。
【0040】
圧電素子131のねじりによる変形が振動体11の長手方向であるため、振動体11の変形の方向に対して略45度傾けて変位センサ141を配置することで、振動体11の変位センサ141が設けられた位置における変形量を、各変位センサ141で効率よく測定することができる。
【0041】
本実施の形態では、振動体11の各部位における変形量を測定するために、圧電素子131の間に変位センサ141を配置している。
【0042】
変位センサ141を振動体11の変形量が大きい外周部の一部に配置すれば中心端11aの変形量が分かるため、変位センサ141を振動体11の全体にわたって設ける必要はない。本実施の形態では、振動体11の外周部の半周程度にわたって変位センサ141が設けられている。
【0043】
なお、図1、2では、振動体11において、1つの圧電素子131に対して1つの変位センサ141が設けられていたが、変位センサ141の配置は図1、2に示す形態に限られない。例えば、2つ又は3つの圧電素子131に対して1つの変位センサ141が設けられていてもよい。
【0044】
変位センサ141が接続された外部装置は、変位センサ141により測定された変位量に基づいて圧電素子131を駆動させ、振動体11の変形量を所望の値にすることができる。当該処理は。すでに公知の様々な技術を用いることができるため、説明を省略する。
【0045】
感力体12は振動体11の移動に従ってz方向に移動する(後に詳述、第3の実施の形態参照)ため、振動体11の場合と同様に、感力体12の変形の方向に対して略45度傾けて変位センサ141を配置することで、感力体12の変位センサ141が設けられた位置における変形量を、各変位センサ141で測定することができる。また、振動体11と同様に、変位センサ141は、感力体12の変形量が大きい外周部の一部に配置すればよい。
【0046】
本実施の形態の振動子1によれば、振動体11の間に感力体12が配置された二重渦巻き構造とし、駆動部13を振動体11表面に設けることで、小型の振動子1とすることができる。
【0047】
また、本実施の形態の振動子1によれば、中心線c1と圧電素子131との交点mにおける中心線c1の接線に対して略45度傾けて圧電素子131をそれぞれ配置することにより振動体11を高効率でz方向に振動させることができる。
【0048】
例えば、振動体11の長手方向に沿って圧電素子を配置すると、図12のシミュレーション結果に示すように、振動体11の外周面の一部がめくれ上がるような運動しかできない。図12は、圧電素子131を振動体11の長手方向に沿って配置したときの振動体11の変形のシミュレーション結果を示す図であり、図12における右側のみが大きく変形し、振動体11の中心部は少ししか変形していない。
【0049】
それに対し、交点mにおける中心線c1の接線d1に対して略45度傾けて圧電素子131をそれぞれ配置することで、振動体11をz方向に移動させ、かつ、中心端11aを大きく変形させることができる。
【0050】
また、本実施の形態の振動子1によれば、交点nにおける中心線c1の接線d2に対して略45度傾けて変位センサ141を配置することにより、振動体11の変位を正確に測定することができる。同様に、交点nにおける中心線c2の接線d3に対して略45度傾けて変位センサ141を配置することにより、感力体12の変位を正確に測定することができる。
【0051】
また、本実施の形態の振動子1によれば、駆動部13及び変位測定部14が圧電体薄膜であるため、組み込み工程や部品管理が不要であり、製造が容易である。また、ボイスコイルモータ等を用いる場合に比べ、低電力で振動子1の駆動が可能である。
【0052】
なお、本実施の形態の振動子1では、複数の圧電素子131を、中心線c1と圧電素子131との交点mにおける中心線c1の接線に対して略45度傾けてそれぞれ配置したが、圧電素子131の配置はこれに限られない。少なくとも圧電素子131が中心線c1に対して傾いていればよく、これにより圧電素子131をねじり変形させることができる。ただし、圧電素子131により最も効率よく振動体11をねじり変形させるためには、交点mにおける中心線c1の接線に対して略45度傾けて圧電素子131をそれぞれ配置することが最も好ましい。
【0053】
同様に、少なくとも変位センサ141を中心線c1、c2に対して傾けて配置すればよく、これにより振動体11、感力体12の変位を測定することができる。ただし、中心線c1、c2と変位センサ141との交点nにおける接線d2、d3に対して略45度傾けて変位センサ141を配置することにより、振動体11、感力体12の変位を正確に測定することができる。
【0054】
第1の実施の形態に係る振動子1は、振動子1を液体の内部に浸漬させて粘性センサとして用いることができる。また、振動子1は、中心端11aにミラーを配置することで、ミラーを上下動させるアクチュエータとして用いることができる。また、振動子1は、振動体11及び感力体12を覆うように膜を設けて液体に浸漬させることで、液体を駆動するダイヤフラムとして用いることができる。
【0055】
<第2の実施の形態>
第1の実施の形態に係る振動子1は、z方向から見たときの(平面視における)振動体11及び感力体12の幅が一定であったが、振動体11及び感力体12の形態はこれに限られない。以下、第2の実施の形態に係る振動子2について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の部分には、同様の符号を付し、説明を省略する。
【0056】
図5は、振動子2の概略を示す平面図である。振動子2は、棒状部材を渦巻き状に巻回した振動体11A(本発明の第1部材に相当)及び感力体12A(本発明の第2部材に相当)を有する。また、振動子2は、駆動部13と、変位測定部14とを有する。駆動部13は振動体11Aの表面に設けられており、変位測定部14は振動体11A及び感力体12Aの表面に設けられている。なお、図5では、駆動部13及び変位測定部14の図示を省略する。
【0057】
振動子2は、振動子1と同様に、振動体11Aの間に感力体12Aが設けられ、かつ、振動体11Aと感力体12Aとが対向して設けられた二重渦巻き構造を有する。振動子2は、平面視における振動体11A及び感力体12Aの幅が一定でない点で振動子1と異なる。
【0058】
振動体11A及び感力体12Aは、中心端11a、12a近傍における幅が最も狭く、外周に向かうにつれて徐々に幅が広くなる。すなわち、振動体11Aと感力体12Aとの隙間は、中心部から外周部に向かうにつれて徐々に狭くなる。
【0059】
中央(中心端11a)から外周に向かうにつれて隙間を徐々に狭くするとき、例えば、振動体の位置ごとの変形量に対して、その逆数に比例するように幅を減少させる。図4で示したように、変位量の位置の関数が2次関数の場合は、隙間を位置の二乗の逆数に比例して減少させる。
【0060】
本実施の形態の振動子2によれば、振動体11A及び感力体12Aを二重渦巻き構造とし、駆動部13を振動体11Aの表面に設けることで、小型の振動子2とすることができる。また、低電力で振動子2の駆動が可能である。
【0061】
また、本実施の形態の振動子2によれば、中心線c1と圧電素子131との交点における中心線c1の接線に対して略45度傾けて圧電素子131を配置することにより振動体11Aをz方向に振動させることができる。
【0062】
なお、振動子2も振動子1と同様に、粘性センサ、アクチュエータ、ダイヤフラム等に用いることができるが、振動子2は粘性センサに用いることが好ましい。
【0063】
また、本実施の形態の振動子2は、最外周における振動体11A及び感力体12Aの幅が広いため、圧電素子131の間に変位センサ141が配置されている必要はない。例えば、図6に示すように、圧電素子131の先端と変位センサ141の先端とが離間していてもよい。
【0064】
<第3の実施の形態>
本発明の第3の実施の形態は、振動子2を備えた粘性センサ3である。以下、粘性センサ3について説明する。なお、第1、2の実施の形態と同様の部分には、同様の符号を付し、説明を省略する。
【0065】
粘性センサ3の使用時には、振動子2は液体に浸漬されている。振動子2が液体に浸漬されると、振動体11Aと感力体12Aとの間が液体で満たされ、これにより液体の粘度が測定可能になる。
【0066】
図7は、粘性センサ3の電気的な構成を示すブロック図である。粘性センサ3は、主として、振動子2が有する駆動部13及び変位測定部14と、駆動信号発生部21と、変位取得部22と、粘度算出部23と、を備える。本実施の形態では、駆動信号発生部21、変位取得部22及び粘度算出部23は、アナログ回路でもよいし、集積回路等を用いたデジタル回路でもよい。
【0067】
駆動信号発生部21は、圧電素子131を駆動する。例えば、駆動信号発生部21は、圧電素子131のドライバ回路と、圧電素子131を駆動する駆動信号発生器(ファンクションジェネレータ)とを含む。ドライバ回路及び駆動信号発生器は、公知の様々な技術を用いることができる。駆動信号発生部21は、振動体11Aをz方向に移動させる。
【0068】
変位取得部22は、各変位センサ141の測定結果を取得する。例えば、変位取得部22はチャージアンプ及びADコンバータを含む。変位取得部22の測定結果は、駆動信号発生部21及び粘度算出部23に出力される。変位取得部22の測定結果に基づいて、駆動信号発生部21は圧電素子131を駆動する。
【0069】
粘度算出部23は、変位取得部22が取得した結果に基づいて、振動体11Aと感力体12Aとの間に充填された液体の粘度を算出する。例えば、粘度算出部23は、RMS回路を含む。粘度算出部23については後に詳述する。
【0070】
例えば、変位センサ141の測定結果、すなわちチャージアンプの出力は、ADコンバータでデジタル変換され、マイコン(Field Programmable Gate Array等)に入力される。マイコンは、ロックインアンプ、バンドパスフィルタ、RMS回路を含む。デジタル変換された変位センサ141の測定結果は、ロックインアンプ、バンドパスフィルタ、RMS回路の順で処理され、DC電圧に変換された後でコンピュータ等に出力される。コンピュータは、入力された結果に基づいて粘度を算出する。粘度の算出方法(計算式)については後に詳述する。
【0071】
なお、コンピュータの図示しない記憶部に変位センサ141の変位と粘度との関係を格納しておき、入力された結果と格納されたデータとを比較することで粘度を求めてもよい。
【0072】
このように構成された粘性センサ3の動作について説明する。駆動信号発生部21が振動体11Aをz方向に移動させると、振動体11Aと感力体12Aとの間に充填された液体を介して感力体12Aがz方向に移動する。変位取得部22は、感力体12Aに設けられた変位センサ141の測定結果を取得し、粘度算出部23は、変位取得部22の測定結果に基づいて液体の粘度を測定する。
【0073】
図8は、振動体11Aをz方向に移動させたときに液体を介して感力体12Aがz方向に移動する様子を模式的に示す図である。振動体11Aと感力体12Aとの隙間が距離dであり、振動体11Aが+z方向に速度vで移動したとすると、振動体11Aと感力体12Aとの間に充填された液体により、感力体12Aには以下の数式(1)に示す粘性応力σがかかる。数式(1)において、ηは液体の粘度である。粘性応力σにより、感力体12Aが+z方向に移動する。
【数1】
【0074】
ここで、v/dをずり速度と定義する。圧電素子131が振動体11Aを移動させるときには、振動体11Aの中央部が大きく変位するため、距離dが一定だとすると、中心端11aに近づくほどずり速度が大きくなってしまう。同様に、ずり変形量(振動体11Aの移動量÷距離d)も、中心端11aに近づくほど大きくなってしまう。
【0075】
しかしながら、振動子2では、中心部から外周部に向かうにつれて振動体11Aと感力体12Aとの隙間を徐々に狭くし、中心端11aの距離dを最も大きくし、外端11bに向かうにつれて距離dを徐々に小さくする。これにより、振動体11Aや感力体12Aの位置によらず、ずり速度及びずり変形量を一定に保つことができる。つまりずり速度、ずり変形量が空間的に一定となる。
【0076】
図9は、ずり速度v/dと粘性応力σとの関係を示す図である。ニュートン流体(図9実線参照)では、ずり速度v/dと粘性応力σとは比例するが、非ニュートン流体、ずり速度v/dと粘性応力σとは比例しない。。
【0077】
このような非ニュートン流体の粘度を測定する場合には、振動体11A及び感力体12Aの位置によってずり速度が異なれば、粘度の算出が不正確となる。したがって、中心端11a、12a近傍における振動体11Aと感力体12Aとの隙間が最も狭く、外周に向かうにつれて振動体11Aと感力体12Aとの隙間が徐々に幅が広くなる振動子2を用いることで、ずり速度v/dを振動体11A及び感力体12Aの渦巻きの位置によらずどこでも一定にし、これにより非ニュートン流体であっても粘性応力σを一意に決めることができる。つまり、あるずり速度に対する、一意の粘性応力を測定できることから、図9のように液体の非ニュートン性を明示することができる。
【0078】
このようにして振動体11A、感力体12Aの位置におけるずり速度v/dの差異を無くしたとしても、速度vが時間領域で変化すると粘度の算出が不正確となるおそれがある。したがって、駆動信号発生部21は、振動体11Aを、振動体11Aの延設方向と略直交する方向に一定速度で移動させる。
【0079】
図10は、駆動信号発生部21による振動体11Aの駆動を説明する図であり、(A)は振動体11Aの時間と変位との関係を示し、(B)は振動体11Aの時間と速度との関係を示し、(C)は感力体12の時間と変位との関係を示す。
【0080】
図10(A)に示すように、時間と振動体11Aの変位との関係において、振動体11Aの変位が三角波状になるように、駆動信号発生部21が振動体11Aを移動させる。その結果、図10(B)に示すように、振動体11Aが移動している間は振動体11Aの移動速度が一定になる。これにより、半周期の間はずり速度v/dを一定にすることができる。
【0081】
振動体11Aを三角波状に振動させるには、少なくとも三角波をフーリエ級数展開した際の3次以上の奇数倍波成分の周波数、つまり三角波の周波数の3倍の周波数が、振動体の共振周波数より小さくなるような周波数を選択すればよい。5倍、7倍、9倍・・・の奇数倍の周波数が、小さい順に出来るだけ多く、振動体の共振周波数より小さくなる周波数を選択すれば、三角波はより理想的な三角波に近づく。
【0082】
図10(C)に示すように、感力体12Aは、振動体11Aの移動速度が一定の間は、粘性力とばね力がつりあう位置まで変位する。感力体12Aの変位xsは変位取得部22により取得されるため、粘度算出部23は、以下の数式(2)により液体の粘度η’を算出することができる。数式(2)のkは振動体11Aのばね定数、dは振動体と感力体の間のすき間の幅の最大値、Sは感力体の側面の面積であり、それぞれ測定して求めてもよいし、まとめて装置定数として校正してもよい。
【数2】
【0083】
図11は、粘性センサ3を含む粘性センサユニット4の概略を示す分解斜視図である。粘性センサユニット4は、主として、粘性センサ3と、筐体30と、ポンプ40と、を有する。筐体30は、粘性センサ3を覆うように設けられており、空洞部30aが形成されている。振動子2は、空洞部30aの内部に設けられている。
【0084】
筐体30は、板状部材31、32、33、34、35を有する。粘性センサ3を挟むように、粘性センサ3の上側に板状部材32が設けられており、粘性センサ3の下側に板状部材33が設けられている。板状部材32の上側に板状部材31が設けられており、板状部材33の下側に板状部材34が設けられており、板状部材34の下側に板状部材35が設けられている。
【0085】
板状部材32、33には、それぞれ、振動子2と重なる位置に孔32a、33aが設けられている。板状部材34には、振動子2と重なる位置に孔34aが設けられている。板状部材35には、振動子2と重なる位置に孔35aが設けられている。
【0086】
板状部材34には、孔34aを覆うように、ポンプ40のダイヤフラム41が設けられている。ダイヤフラム41は、振動子2と平行に、空洞部30aを横断するように空洞部30aの内部に設けられている。つまり、振動子2とダイヤフラム41とが積層されている。
【0087】
また、ダイヤフラム41の表面には圧電薄膜のアクチュエータ(図示省略)が設けられている。アクチュエータがダイヤフラム41を振動させる。孔33a、35aは、ダイヤフラム41が振動したときにダイヤフラム41がぶつからないようにする。ただし、ポンプ40の位置はこれに限られず、筐体30の外(例えば、基板43)に設けられていて、流路等で接続されていてもよい。
【0088】
板状部材31及びダイヤフラム41は、孔32a、33aの両端を覆う壁となり、これらは振動子2を囲む空洞部30aを形成し、この空間に液体が充填される。
【0089】
また、板状部材31、32、34には、振動子2を囲む空洞部と外部とを連通する流路となる孔31a、32b、33b、34bが設けられている。孔34bと孔34aは微細な流路で接続されており、途中には整流部42(例えば、弁、ディフューザ機構等)が設けられている。
【0090】
したがって、ダイヤフラム41が振動することで、流路を介して液体が空洞部30aに流入し、かつ、流路を介して液体が空洞部30aから流出する。このように、振動子2とダイヤフラム41とを積層し、筐体30で覆うことで、振動子2を筐体30でカバーしつつ、空洞部30aの液体を入れ替えることができる。
【0091】
ただし、ポンプ40の形態はこれに限られない。ポンプ40は、振動子2を囲む空洞部30aに液体を流入させればよく、例えばチューブポンプ(チュービングポンプ)を用いてもよい。
【0092】
本実施の形態の粘性センサ3によれば、二重渦巻き構造の振動子2を用いることで、低いずり速度での粘性センサ3を実現することができる。なお、低いずり速度での粘度測定は、振動子1を用いた粘性センサでも同様である。
【0093】
また、本実施の形態の粘性センサ3によれば、振動子2の振動体11Aと感力体12Aとの隙間を中心部から外周部に向かうにつれて徐々に狭くすることで、場所によらずずり速度を一定にすることができる。
【0094】
例えば、ずり速度(ずり変形の速度)に対するずり応力の関係が線形にならない非ニュートン性の液体の粘度測定では、様々なずり速度に対するずり応力の大きさを測定し、図9に示されるようなずり速度とずり応力の非線形性を測定することが必要とされる。
【0095】
しかしながら、振動子1や、非特許文献1に記載の粘度計を用いる場合には、振動体11と感力体12との隙間が場所によらず一定であり、ずり速度及びずり変形量は、中央部に近づくほど大きく、外側にいくにつれて小さくなってしまう。このように、ずり速度が場所によって異なる場合には、ずり速度を一つの値に特定することができず、ずり応力も特定のずり速度に対応する値と特定することもできないことから、非ニュートン流体の測定は困難であった。
【0096】
それに対し、振動体11Aと感力体12Aとの隙間が中心部から外周部に向かうにつれて徐々に狭くなる振動子2を用いることで、場所によらずずり速度が一定になることから、ずり応力を一意に決定することができるため、非ニュートン流体の粘度を測定することができる。
【0097】
また、本実施の形態の粘性センサ3によれば、時間と振動体11Aの変位との関係において、振動体11Aの変位が三角波状になるため、振動体11Aの延設方向と略直交する方向に振動体11Aが一定速度で移動する。これにより、一定期間はずり速度を一定に保つことができる。
【0098】
例えば、特許文献1及び非特許文献1に記載の粘度計では、時間と振動体11Aの変位との関係において振動体11Aの変位が正弦波状である。このような正弦波状の振動変位の場合には、振動体11Aの速度も正弦波状になり、ずり速度も正弦波状になることから、ある特定のずり速度に対するずり応力を測定するには、瞬時値を知る必要があるが、ずり応力に対する振動子等の応答は時間遅れを伴うものであるから、実際にずり応力の瞬時値を測定することは困難で、結果的に非ニュートン流体の粘度測定は困難であった。
【0099】
それに対し、粘性センサ3のように、時間と振動体11Aの変位との関係において振動体11Aの変位が三角波状であれば、一定期間はずり速度が時間的に変動しない。そして、ずり速度を一定にすることで、粘性センサ3が非ニュートン性流体の粘度を計測することができる。また、粘性センサ3の粘度測定精度を高くすることができる。
【0100】
身の回りには、非ニュートン流体が数多く存在するため、非ニュートン流体の粘度が測定できる粘性センサ3は様々な用途が考えられる。例えば、潤滑油、作動油などのオイルの粘度が測定可能であり、建機、輸送機械(乗用車、トラック等)への粘性センサ3の適用があり得る。また、冷媒と冷媒用潤滑油の混合比を測定するためのセンサとして、冷凍・空調機への粘性センサ3の適用があり得る。さらに、インキ・塗料の塗布状態の制御(粘性コントロール)のためのセンサとしての粘性センサ3の適用があり得る。さらに、塗布工程を含むフィルム製造、コーティング、セラミック、半導体などの分野において、プロセスの高精度化のためにインプロセスセンサとしての粘性センサ3の適用があり得る。さらに、食品工業では粘性の変化が大きく、増粘多糖類のように粘性自体が製品としての機能を持つ場合も多いため、粘性のインプロセスモニタリングを粘性センサ3で行なうことができる。また、人体・動物においても粘性変化が発生する体液(血液、唾液、胆液など)は多く、健康状態の危機に直結する血液や胆液の粘性変化を粘性センサ3でモニターすることができる。
【0101】
また、本実施の形態の粘性センサユニット4によれば、振動子2が筐体30により覆われるため、液体の流動の影響を受けず、粘度の測定精度を高くすることができる。例えば、振動子2に触れる液体が動いている場合には、粘度の測定に誤差が発生するが、振動子2を覆うことで液体の流動により誤差を防ぐことができる。したがって、激しい流動を伴う液体空間にセンサを設置することができる。また、コンタミの影響を低減できる。さらに、振動子2を筐体30で覆って振動子2を保護することで、振動子2の破損を防止することができる。
【0102】
例えば、非特許文献1に記載の粘度計は、微細加工技術を用いて渦巻き等の構造を作成し、小型の粘性センサとしてエンジン等へ内蔵することを意図していたが、流れが激しい場所に粘度計を設置すると、流れによって理論と異なるずり応力が発生して粘度測定に誤差が生じたり、温度変動の影響を受けたり、渦巻き構造が破壊されたりするなどの影響を受けることがある。したがって、粘度計の設置可能な場所は流れが穏やかな場所に限定されていた。
【0103】
それに対し、粘性センサユニット4は、振動子2を筐体30で覆うため、流れが激しい場所に設置しても正確な粘度測定が可能である。
【0104】
また、本実施の形態の粘性センサユニット4によれば、振動子2の周囲にポンプ40で液体を供給することで、空洞部30aの中の液体を入れ替えることができる。これにより、常に最新の状態の液体の粘度を測定することができる。
【0105】
また、本実施の形態の粘性センサユニット4によれば、振動子2とダイヤフラム41とを積層することで、粘性センサユニット4を小型化することができる。
【0106】
以上、この発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成に他の構成の追加、削除、置換等をすることが可能である。
【0107】
また、「略」とは、厳密に同一である場合のみでなく、同一性を失わない程度の誤差や変形を含む概念である。例えば、「円筒形状」とは、厳密に円筒形状の場合には限られず、例えば円筒形状と同一視できる場合を含む概念である。また、例えば、単に直交、平行、一致等と表現する場合において、厳密に直交、平行、一致等の場合のみでなく、略平行、略直交、略一致等の場合を含むものとする。
【0108】
また、「近傍」とは、基準となる位置の近くのある範囲(任意に定めることができる)の領域を含むことを意味する。例えば、端近傍という場合に、端の近くのある範囲の領域であって、端を含んでもいても含んでいなくてもよいことを示す概念である。
【0109】
[用語の説明]
振動体:二重渦巻き構造のうち、アクチュエータに接続された、あるいは表面にアクチュエータが形成された渦巻き
感力体:二重渦巻き構造のうち、振動体とは異なる渦巻き
【符号の説明】
【0110】
1、2 :振動子
3 :粘性センサ
4 :粘性センサユニット
11、11A:振動体
12、12A:感力体
11a、12a:中心端
11b、12b:外端
13 :駆動部
14 :変位測定部
21 :駆動信号発生部
22 :変位取得部
23 :粘度算出部
30 :筐体
30a :空洞部
31、32、33、34、35:板状部材
31a、32a、32b、33a、33b、34a、34b、35a:孔
40 :ポンプ
41 :ダイヤフラム
42 :アクチュエータ
43 :基板
131 :圧電素子
132 :連結部
141 :変位センサ
142 :連結部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12