(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119770
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】情報処理システム、情報処理方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06N 3/044 20230101AFI20240827BHJP
G06F 18/10 20230101ALI20240827BHJP
G06F 123/02 20230101ALN20240827BHJP
【FI】
G06N3/044 100
G06F18/10
G06F123:02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024023533
(22)【出願日】2024-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2023025883
(32)【優先日】2023-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年10月10日にarXivのウェブサイトhttps://arxiv.org/abs/2310.06497にて発表 〔刊行物等〕 令和5年12月31日にNew Physics:Sae Mulliのウェブサイトhttps://www.npsm-kps.org/journal/view.html?volume=73&number=12&spage=1155&year=2023にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】求 幸年
(72)【発明者】
【氏名】小林 海翔
(57)【要約】 (修正有)
【課題】時系列信号を処理する情報処理システムを提供する。
【解決手段】この情報処理システムでは、次の各ステップがなされるようにプログラムを実行可能な少なくとも1つのプロセッサを備える。取得ステップでは、機器から時系列に沿って入力される時系列信号である少なくとも1つの外部信号を取得する。生成ステップでは、外部信号に基づき、所定のニューラルネットワークに入力される入力信号を生成する。入力信号は、少なくとも第1の交流信号および/または第2の交流信号を時系列的に含むように構成される。第1の交流信号および第2の交流信号は、それぞれ第1の周波数の成分を含み、これにより、入力信号が入力されるニューラルネットワークが、第1の周波数の成分を含む出力信号を出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理システムであって、
次の各ステップがなされるようにプログラムを実行可能な少なくとも1つのプロセッサを備え、
取得ステップでは、機器から時系列に沿って入力される時系列信号である少なくとも1つの外部信号を取得し、
生成ステップでは、前記外部信号に基づき、所定のニューラルネットワークに入力される入力信号を生成し、ここで、
前記入力信号は、少なくとも第1の交流信号および/または第2の交流信号を時系列的に含むように構成され、
前記第1の交流信号および前記第2の交流信号は、それぞれ第1の周波数の成分を含み、これにより、前記入力信号が入力される前記ニューラルネットワークが、前記第1の周波数の成分を含む出力信号を出力する、もの。
【請求項2】
請求項1に記載の情報処理システムにおいて、
前記第1の交流信号および前記第2の交流信号は、前記第1の周波数の成分とは異なる第2の周波数の成分をさらに含む、もの。
【請求項3】
請求項2に記載の情報処理システムにおいて、
前記生成ステップでは、前記外部信号に基づき、前記第1の周波数の成分と前記第2の周波数の成分をともに含む単一の前記入力信号を生成する、もの。
【請求項4】
請求項2記載の情報処理システムにおいて、
前記取得ステップでは、前記外部信号の周波数の成分を取得し、
前記生成ステップでは、取得された前記外部信号の周波数の成分に基づき、当該周波数の成分に対応する周波数の成分を含む前記入力信号を生成する、もの。
【請求項5】
請求項2に記載の情報処理システムにおいて、
前記生成ステップでは、第1の期間ごとの前記外部信号に基づき前記入力信号に含まれる前記第1の周波数の成分を生成し、前記第1の期間とは異なる第2の期間ごとの前記外部信号に基づき前記入力信号に含まれる前記第2の周波数の成分を生成する、もの。
【請求項6】
請求項1に記載の情報処理システムにおいて、
さらに、抽出ステップでは、前記出力信号から少なくとも前記第1の周波数の成分を含む特定の周波数の成分を抽出する、もの。
【請求項7】
請求項1に記載の情報処理システムにおいて、
前記ニューラルネットワークは、中間層として機能するリザバーを含む、もの。
【請求項8】
情報処理システムであって、
次の各ステップがなされるようにプログラムを実行可能な少なくとも1つのプロセッサを備え、
取得ステップでは、機器から時系列に沿って入力される時系列信号である少なくとも1つの外部信号を取得し、
生成ステップでは、前記外部信号に基づき、所定のニューラルネットワークに入力される入力信号を生成し、ここで、
前記入力信号は、少なくとも第1の交流信号および/または第2の交流信号を時系列的に含むように構成され、
前記第1の交流信号および前記第2の交流信号は、それぞれ第1の周波数の成分を含み、これにより、前記入力信号が入力される前記ニューラルネットワークが、前記第1の周波数に対応する特定周波数の成分を含む出力信号を出力する、もの。
【請求項9】
情報処理方法であって、
請求項1~請求項8の何れか1つに記載の情報処理システムの各ステップを備える、方法。
【請求項10】
プログラムであって、
少なくとも1つのコンピュータに、請求項1~請求項8の何れか1つに記載の情報処理システムの各ステップを実行させる、もの。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理システム、情報処理方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ニューラルネットワークのような非線形システムを用いて時系列信号を処理する方法が提示されている。例えば、特許文献1に記載の量子情報処理システムは、互いに相互作用する複数の量子ビットにより構成された量子系を含み、一定の時間間隔を複数に分割した各時刻における各量子ビットからの信号を保持する複数の仮想ノードを備えた量子リザバーと、複数の仮想ノード間の線形結合における線形重みを決定する重み決定部と、量子ビットの1つに前記時間間隔で入力信号を与える信号入力部と、信号入力部が与えた入力信号に対し、前記重み決定部にて決定された線形重みを用いて線形結合した前記仮想ノードの状態の重ね合わせから得られる出力信号を読み出す信号読出部とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような時系列信号を処理するための方法等には、未だ改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、情報処理システムが提供される。この情報処理システムでは、次の各ステップがなされるようにプログラムを実行可能な少なくとも1つのプロセッサを備える。取得ステップでは、機器から時系列に沿って入力される時系列信号である少なくとも1つの外部信号を取得する。生成ステップでは、外部信号に基づき、所定のニューラルネットワークに入力される入力信号を生成する。入力信号は、少なくとも第1の交流信号および/または第2の交流信号を時系列的に含むように構成される。第1の交流信号および第2の交流信号は、それぞれ第1の周波数の成分を含み、これにより、入力信号が入力されるニューラルネットワークが、第1の周波数の成分を含む出力信号を出力する。
【0006】
このような一態様によれば、例えば、時系列情報の解析等をより容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】情報処理装置2のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】ユーザ端末3のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図4】IoTデバイス4のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図5】プロセッサ33が備える機能部の一例を示す図である。
【
図6】情報処理の流れの一例を示すアクティビティ図である。
【
図7】
図6に示す情報処理による信号の変遷の一例を示す図である。
【
図8】温度Tの環境下で周波数f
inによって特徴づけられる入力信号S1を入力した場合における、出力用スピン443のz成分の絶対値|S
z|のスペクトルに関するシミュレーション結果を示す図である。
【
図9】
図8に示す出力信号S2における、周波数および遅延ステップ数に対する決定係数r2のシミュレーション結果を示す図である。
【
図10】有限温度の環境下で複数の周波数f
in
1,f
in
2,f
in
3によって特徴づけられる入力信号S1を入力した場合における、出力用スピン443のz成分の絶対値|S
z|のスペクトルに関するシミュレーション結果を示す図である。
【
図11】
図10に示す出力信号S2における、周波数および遅延ステップ数に対する決定係数r2のシミュレーション結果を示す図である。
【
図12】同時に生成される複数の外部信号S0の並列処理に対する適用例を示す図である。
【
図13】時間変化する連続画像の解析処理に関する適用例を示す図である。
【
図14】RGB画像の解析処理に関する適用例を示す図である。
【
図15】実験例に対応する入力信号S1が入力された物理リザバー44から検出される、出力信号S2のシミュレーション結果を示す図である。
【
図16】遅延部としてのディレイライン5を備える情報処理システム1による信号処理の一例を示す図である。
【
図17】情報処理システム1の全体構成の別例である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0009】
ところで、本実施形態に登場するソフトウェアを実現するためのプログラムは、コンピュータが読み取り可能な非一時的な記録媒体(Non-Transitory Computer-Readable Medium)として提供されてもよいし、外部のサーバからダウンロード可能に提供されてもよいし、外部のコンピュータで当該プログラムを起動させてクライアント端末でその機能を実現(いわゆるクラウドコンピューティング)するように提供されてもよい。
【0010】
また、本実施形態において「部」とは、例えば、広義の回路によって実施されるハードウェア資源と、これらのハードウェア資源によって具体的に実現されうるソフトウェアの情報処理とを合わせたものも含みうる。また、本実施形態においては様々な情報を取り扱うが、これら情報は、例えば電圧・電流を表す信号値の物理的な値、0または1で構成される2進数のビット集合体としての信号値の高低、または量子的な重ね合わせ(いわゆる量子ビット)によって表され、広義の回路上で通信・演算が実行されうる。
【0011】
また、広義の回路とは、回路(Circuit)、回路類(Circuitry)、プロセッサ(Processor)、及びメモリ(Memory)等を少なくとも適当に組み合わせることによって実現される回路である。すなわち、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等を含むものである。
【0012】
1.ハードウェア構成
本節では、ハードウェア構成について説明する。
【0013】
[情報処理システム1]
図1は、情報処理システム1を表す構成図である。情報処理システム1は、情報処理装置2と、ユーザ端末3と、機器としてのIoTデバイス4とを備える。情報処理装置2と、ユーザ端末3と、IoTデバイス4とは、電気通信回線を通じて通信可能に構成されている。一実施形態において、情報処理システム1とは、1つ又はそれ以上の装置又は構成要素からなるものである。仮に例えば、情報処理装置2のみからなる場合であれば、情報処理システム1は、情報処理装置2となり、仮に例えば、ユーザ端末3のみからなる場合であれば、情報処理システム1は、ユーザ端末3となりうる。以下、これらの構成要素について説明する。本実施形態では、IoTデバイス4は、ユーザ端末3を介して情報処理装置2と通信するように構成されており、ユーザ端末3がIoTデバイス4から得られる情報を処理するようなエッジコンピュータとして機能するように構成されている。
【0014】
[情報処理装置2]
図2は、情報処理装置2のハードウェア構成を示すブロック図である。情報処理装置2は、通信バス20と、通信部21と、記憶部22と、プロセッサ23とを備える。通信部21、記憶部22、及びプロセッサ23は、情報処理装置2の内部において通信バス20を介して電気的に接続されている。
【0015】
[通信部21]
通信部21は、USB、IEEE1394、Thunderbolt(登録商標)、有線LANネットワーク通信等といった有線型の通信手段が好ましいものの、無線LANネットワーク通信、3G/LTE/5G等のモバイル通信、BLUETOOTH(登録商標)通信等を必要に応じて含めてもよい。すなわち、これら複数の通信手段の集合として実施することがより好ましい。すなわち、情報処理装置2は、通信部21及びネットワークを介して、外部から種々の情報を通信してもよい。
【0016】
[記憶部22]
記憶部22は、前述の記載により定義される様々な情報を記憶する。これは、例えば、プロセッサ23によって実行される情報処理装置2に係る種々のプログラム等を記憶するソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)等のストレージデバイスとして、あるいは、プログラムの演算に係る一時的に必要な情報(引数、配列等)を記憶するランダムアクセスメモリ(Random Access Memory:RAM)等のメモリとして実施されうる。記憶部22は、プロセッサ23によって実行される情報処理装置2に係る種々のプログラムや変数等を記憶している。
【0017】
[プロセッサ23]
プロセッサ23は、情報処理装置2に関連する全体動作の処理・制御を行う。プロセッサ23は、例えば不図示の中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)である。プロセッサ23は、記憶部22に記憶された所定のプログラムを読み出すことによって、情報処理装置2に係る種々の機能を実現する。すなわち、記憶部22に記憶されているソフトウェアによる情報処理が、ハードウェアの一例であるプロセッサ23によって具体的に実現されることで、プロセッサ23に含まれる各機能部として実行されうる。これらについては、次節においてさらに詳述する。なお、プロセッサ23は単一であることに限定されず、機能ごとに複数のプロセッサ23を有するように実施してもよい。またそれらの組合せであってもよい。
【0018】
[ユーザ端末3]
図3は、ユーザ端末3のハードウェア構成を示すブロック図である。ユーザ端末3の具体的態様は任意であり、デスクトップ型パーソナルコンピュータであっても、スマートフォンやノートパソコンなどのように、ユーザが携帯可能な携帯端末であってもよい。ユーザ端末3は、通信バス30と、通信部31と、記憶部32と、プロセッサ33と、表示部34と、入力部35とを備える。通信部31、記憶部32、プロセッサ33、表示部34、及び入力部35は、ユーザ端末3の内部において通信バス30を介して電気的に接続されている。通信部31、記憶部32及びプロセッサ33の説明は、情報処理装置2における各部の説明と同様のため省略する。
【0019】
[表示部34]
表示部34は、ユーザが操作可能なグラフィカルユーザインターフェース(Graphical User Interface:GUI)の画面を表示する。表示部34は、ユーザ端末3筐体に含まれるものであってもよいし、外付けされるものであってもよい。具体的には、表示部34は、CRTディスプレイ、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、又はプラズマディスプレイ等の表示デバイスとして実施され得る。これらの表示デバイスは、ユーザ端末3の種類に応じて使い分けて実施されることが好ましい。
【0020】
[入力部35]
入力部35は、ユーザによってなされた操作入力を受け付ける。操作入力は、命令信号として通信バス30を介してプロセッサ33に転送される。プロセッサ33は、必要に応じて、転送された命令信号に基づいて所定の制御や演算を実行しうる。入力部35は、ユーザ端末3の筐体に含まれるものであってもよいし、外付けされるものであってもよい。例えば、入力部35は、表示部34と一体となってタッチパネルとして実施されてもよい。入力部35がタッチパネルとして実施される場合、ユーザは、入力部35に対してタップ操作、スワイプ操作等を入力することができる。入力部35としては、タッチパネルに代えて、スイッチボタン、マウス、QWERTYキーボード等が採用可能である。
【0021】
[IoTデバイス4]
図4は、IoTデバイス4のハードウェア構成を示すブロック図である。IoT(Internet of Things)デバイス4は、情報処理装置2やユーザ端末3等のデバイスやローカルネットワーク、またはインターネットを通じて情報処理システム1の内部または外部のデバイスと通信するように構成されている。IoTデバイス4の具体的態様は任意であり、例えば、家電製品、工業製品、建築物、通信機器、産業機械などが挙げられる。このようなIoTデバイス4は、その機能に応じて所定の外部信号S0を生じさせるように構成される。当該外部信号S0は、例えばIoTデバイス4の振動、電流、熱等の種々の情報を含む。
【0022】
本実施形態のIoTデバイス4は、通信バス40と、通信部41と、記憶部42と、プロセッサ43と、リザバーとしての物理リザバー44と、外場出力部45と、少なくとも1つのセンサ46とを備える。通信部41、記憶部42、プロセッサ43、物理リザバー44、外場出力部45、及びセンサ46は、IoTデバイス4の内部または外部において通信バス40を介して電気的に接続されている。通信部41、記憶部42及びプロセッサ43の説明は、情報処理装置2およびユーザ端末3における各部の説明と同様のため省略する。
【0023】
[物理リザバー44]
物理リザバー44は、所定の外場によって非線形応答を示すダイナミクスを発現するように構成され、ニューラルネットワークの中間層として機能する。言い換えれば、ニューラルネットワークは、中間層として機能する物理リザバー44を含む。このような構成によれば、より複雑なニューロ処理を少ない計算量で実装することができる。本実施形態の物理リザバー44は、スピン系によって構成される磁性体を含み、当該磁性体のスピンダイナミクスとの相関を有する信号を出力するように構成される。特に、スピン系は、反強磁性的なハイゼンベルグスピン系を含む。このような構成によれば、物理リザバー44がより多様なスピンダイナミクスを発現することができるため、物理リザバー44の処理性能を向上することができる。このような構成によれば、物理リザバー44の小型化を図りつつ、スピン系に対する熱雑音が物理リザバー44の短期記憶性に与える影響を低減することができる。物理リザバー44は、単にリザバーともいわれる。
【0024】
[外場出力部45]
外場出力部45は、物理リザバー44に対して物理リザバー44の状態を変化させる入力信号S1を外場として入力するように構成される。本実施形態の入力信号S1は、少なくとも交流磁場を含み、例えばピックアップコイル、レーザ等の光照射装置、磁気力顕微鏡(MFM)等によって実装される。このような構成によれば、入力信号S1と出力信号S2との間で比較的強い相関を生成することができる。当該入力信号S1により物理リザバー44のスピン系のダイナミクスが誘起され、当該ダイナミクスに応じて物理リザバー44のホール電圧等が変化する。
【0025】
[センサ46]
センサ46は、IoTデバイス4およびIoTデバイス4に含まれる種々の部材の状態を検出可能に構成される。センサ46は、例えば、IoTデバイス4の状態を検出することにより、上記外部信号S0をユーザ端末3等に出力するように構成される。また、本実施形態のセンサ46は、物理リザバー44の状態を検出し、物理リザバー44の状態の検出結果を出力信号S2としてユーザ端末3に出力するように構成される。物理リザバー44の状態とは、例えば所定のダイナミクスによって変化する形状、物性値等によって観測される。本実施形態では、センサ46は、物理リザバー44の1つまたは複数のスピンの磁化を検出可能に構成されている。スピンの磁化は、物理リザバー44のスピン系のダイナミクスに応じて変化する。なお、センサ46は、ホール電圧を検出可能に構成されていてもよい。
【0026】
以上のようなIoTデバイス4の構成によれば、例えば、IoTデバイス4が物理リザバー44として機能し、ユーザ端末3のそれぞれが計算処理を担うことができるため、計算負荷を分散させることができる。
【0027】
2.機能構成
本節では、本実施形態の機能構成について説明する。
図5は、プロセッサ33が備える機能部の一例を示す図である。
図5に示すように、プロセッサ33は、取得部331と、フィルタ部332と、生成部333と、抽出部334と、送信部335とを備える。
【0028】
[取得部331]
取得部331は、取得ステップを実行可能に構成されている。取得部331は、ユーザ端末3又は他のデバイスからの情報を取得可能に構成されている。取得部331は、記憶部22の少なくとも一部であるストレージ領域に記憶されている種々のデータを読み出し、読み出されたデータを記憶部22の少なくとも一部である作業領域に書き込むことで、種々のデータを取得可能に構成されている。ストレージ領域とは、例えば、記憶部32のうち、SSD等のストレージデバイスとして実施される領域である。作業領域とは、例えば、RAM等のメモリとして実施される領域である。取得部331は、記憶部22、記憶部42等のユーザ端末3以外のデバイスに記憶されている種々のデータを、記憶部32のストレージ領域に記憶されている種々の情報と同様に取得可能に構成されている。取得部331は、例えば、外部信号S0、入力信号S1、出力信号S2など、種々の信号および当該信号に関する情報を取得する。
【0029】
[フィルタ部332]
フィルタ部332は、取得された信号に対して種々のフィルタをかけるように構成される。これにより、フィルタ部332は、例えば、外部信号S0から特定の周波数の信号を抽出する。なお、フィルタ部332は、出力信号S2に対するフーリエ変換等の所定の信号処理を行うことによってソフトウェア上で実装されても、バンドパスフィルタなどのアナログ回路を用いてハードウェア上で実装されてもよい。
【0030】
[生成部333]
生成部333は、生成ステップを実行可能に構成されている。生成部333は、種々の信号、特に入力信号S1を生成可能に構成されている。
【0031】
[抽出部334]
抽出部334は、抽出ステップを実行可能に構成されている。抽出部334は、例えば、出力信号S2に含まれている種々の周波数の成分のなかから特定の周波数の成分を抽出するように構成される。なお、抽出部334は、出力信号S2に対するフーリエ変換等の所定の信号処理を行うことによってソフトウェア上で実装されても、バンドパスフィルタなどのアナログ回路を用いてハードウェア上で実装されてもよい。
【0032】
[送信部335]
送信部335は、情報処理装置2に対して出力信号S2および出力信号S2に基づく物理リザバー44の計算結果を情報処理装置2に送信可能に構成されている。これにより、情報処理装置2の記憶部22には、物理リザバー44の計算結果が蓄積される。
【0033】
3.情報処理方法
本節では、前述された情報処理システム1において行われる情報処理の一例について説明する。
図6は、情報処理の流れの一例を示すアクティビティ図である。なお、当該情報処理は、図示されない任意の例外処理を含みうる。例外処理は、当該情報処理の中断や、各処理の省略を含む。当該情報処理にて行われる選択又は入力は、ユーザによる操作に基づくものでも、ユーザの操作に依らず自動で行われるものでもよい。また、以下の情報処理の順序はあくまで例示であり、技術的に矛盾しない範囲で任意に入れ替え可能である。
【0034】
まずアクティビティA1にて、センサ46は、IoTデバイス4の状態または動作を検出し、当該検出結果に応じて外部信号S0を生成する。
【0035】
次にアクティビティA2にて、取得部331は、IoTデバイス4から時系列に沿って入力される時系列信号である少なくとも1つの外部信号S0を取得する。
【0036】
フィルタ部332は、取得した外部信号S0から第1の周波数f1の成分および第2の周波数f2の成分を抽出する。これにより、取得部331は、外部信号S0の特定の周波数(本実施形態では第1の周波数f1および第2の周波数f2)の成分を取得する。
【0037】
次にアクティビティA3にて、生成部333は、外部信号S0に基づき、物理リザバー44に入力される入力信号S1を生成する。なお、ここでは、外場出力部45が入力信号S1を生成するための信号を生成する。言い換えれば、生成部333は、IoTデバイス4を通じて間接的に入力信号S1を生成する。
【0038】
入力信号S1は、少なくとも第1の交流信号S11および/または第2の交流信号S12を時系列的に含むように構成される。第1の交流信号S11および第2の交流信号S12は、それぞれ第1の周波数f1の成分を含み、それぞれが物理リザバー44の所定の領域にむけて出力される。これにより、入力信号S1が入力されるニューラルネットワークとしての物理リザバー44が、第1の周波数f1の成分を含む出力信号S2を出力する。本実施形態では、第1の交流信号S11および第2の交流信号S12は、第1の周波数f1の成分とは異なる第2の周波数f2の成分をさらに含む。これにより、例えば、各交流信号に含まれる第1の周波数f1の成分と第2の周波数f2の成分とに対して、1つの入力信号S1に含まれる複数の情報や、複数の入力信号S1のそれぞれの情報など、複数の情報を割り当てることができる。したがって、交流信号により多くの情報を含めることができるため、ニューラルネットワークでより多様な処理を行うことができる。第2の周波数f2は、第1の周波数f1の整数倍であり、例えば、2倍である。このような構成によれば、ニューラルネットワークに対する入力単位の設定が容易となる。
【0039】
生成ステップでは、第1の期間ごとの外部信号S0の時系列変化に基づき入力信号S1に含まれる第1の周波数f1の成分を生成し、第1の期間とは異なる第2の期間ごとの外部信号S0の時系列変化に基づき入力信号S1に含まれる第2の周波数f2の成分を生成する。このような構成によれば、外部信号S0の異なる時系列変化をそれぞれ別の周波数の成分に割り当てて解析を行うことができる。
【0040】
本実施形態では、生成部333は、取得された外部信号S0の周波数の成分に基づき、取得した特定の周波数(例えば、第1の周波数f1および第2の周波数f2)の成分に対応する周波数の成分を含む入力信号S1を生成する。すなわち、生成部333は、第1の周波数f1および第2の周波数f2の成分を含む入力信号S1を生成する。このような構成によれば、物理リザバー44に入力される外部信号S0のうち、特に解析したい周波数成分の信号のみを選択的に抽出した入力信号S1を生成することができる。生成部333は、例えば異なるセンサ46から生成される外部信号S0ごとに割り当てられた周波数の入力信号S1ごとに、第1の交流信号S11と第2の交流信号S12とを所定の期間に区切って連続的に生成する。これにより、異なる周波数の入力信号S1をマルチパス信号として取り扱うことができる。なお、特定の周波数(例えば、第1の周波数f1および第2の周波数f2)の成分に対応する周波数の成分とは、特定の周波数と同一の周波数の成分に限られず、特定の周波数と異なる周波数の成分であってもよい。
【0041】
本実施形態では、さらに、生成部333は、第1の交流信号S11と第2の交流信号S12とが互いに所定の位相差を有することにより、ほぼ連続的な入力信号S1を生成する。このような構成によれば、入力信号S1が不連続な変化点を有することによって物理リザバー44で再起可能な過去の情報量が減少することを抑制することができる。このような位相差は任意に設定可能であるが、例えば、位相差は、第1の交流信号S11および第2の交流信号S12の振幅がほぼ0となるタイミングで、第1の交流信号S11と第2の交流信号S12とが切り替わるように構成される。このような構成によれば、第1の交流信号S11と第2の交流信号S12との切り替わりを検出しやすくなり、入力信号S1の変換精度を向上することができる。本実施形態の第1の交流信号S11および第2の交流信号S12は、それぞれ第1の周波数f1の正弦波と第2の周波数f2と正弦波を主成分とする合成波であり、互いに180度の位相差を有することにより振幅が0となるタイミングで連続となるように接続されている。例えば、所定のタイミングから期間tが経過した場合、第1の交流信号S11は、sin(2πft)を用いて表され、第2の交流信号S12は、sin(2πft-π)を用いて表される。
【0042】
本実施形態では、生成部333は、外部信号S0に基づき、第1の周波数f1の成分と第2の周波数f2の成分をともに含む単一の入力信号S1を生成する。このような構成によれば、単一の交流信号で複数の情報をニューラルネットワークに入力することができる。したがって、情報処理システム1をより簡素化することができる。生成部333は、例えば1つの交流信号のなかに第1の周波数f1の成分と出力信号S2の成分とを重畳させて出力する。
【0043】
次にアクティビティA4にて、外場出力部45は、生成部333から出力される信号に基づき、物理リザバー44に対して入力信号S1となる外場(例えば、磁場、電場、電磁場等)を出力する。これにより、物理リザバー44のダイナミクスが誘起され、その結果として物理リザバー44が出力信号S2を出力する。
【0044】
次にアクティビティA5にて、センサ46は、物理リザバー44のダイナミクスが反映されるホール電圧等を検出し、当該出力信号S2の検出結果を出力する。
【0045】
次にアクティビティA6にて、抽出部334は、出力信号S2から少なくとも第1の周波数f1の成分を含む特定の周波数(本実施形態では第1の周波数f1および第2の周波数f2)の成分を抽出する。このような構成によれば、現在から所定の期間まで過去に遡った物理リザバー44の状態を特に反映している。したがって、当該期間において相関を有するような系の時系列信号の解析をより正確に行うことができる。
【0046】
その後、アクティビティA7にて、送信部335は、抽出された出力信号S2の第1の周波数f1および第2の周波数f2の成分を、外部信号S0を入力とするニューラルネットワークの計算結果として情報処理装置2に送信し、情報処理装置2は、当該計算結果を記憶部22等に記憶する。このような計算結果は、例えばIoTデバイス4の動作制御、異常検知等に用いられる。具体的には、アクティビティA8にて、情報処理装置2は、計算結果に基づきIoTデバイス4の制御等の予め定められた処理を実行する。
【0047】
計算結果とは、抽出された出力信号S2そのものであっても、抽出された出力信号S2に対して学習可能な重み成分を演算することにより得られる信号であってもよい。このような演算は、例えば、線形変換等によって記述され、所定の行列、テンソル等によって規定される。
【0048】
以上を換言すると、取得部331は、機器としてのIoTデバイス4から時系列に沿って入力される時系列信号である少なくとも1つの外部信号S0を取得する。生成部333は、外部信号S0に基づき、所定のニューラルネットワークに入力される入力信号S1を生成する。入力信号S1は、少なくとも第1の交流信号S11および/または第2の交流信号S12を時系列的に含むように構成される。第1の交流信号S11および第2の交流信号S12は、それぞれ第1の周波数f1の成分を含み、これにより、入力信号S1が入力されるニューラルネットワークが、第1の周波数f1の成分を含む出力信号S2を出力する。
【0049】
このような構成によれば、例えば、熱雑音等の影響により物理リザバー44等のニューラルネットワークが過去に入力された入力信号S1の影響を再起しにくくなっている場合においても、ニューラルネットワークに第1の周波数f1の成分を通じて過去の影響を再起させやすくなる。したがって、ニューラルネットワークを用いた時系列情報の解析等をより容易にすることができる。特に、このような構成は、再帰的なニューラルネットワークの短期記憶性能が熱雑音によって低下する場合に有用である。なお、プロセッサ23は、第1の周波数f1と強い相関のある周波数f1'の成分を、第1の周波数f1の成分として抽出してもよい。
【0050】
4.情報処理方法の具体例について
4.1.信号の変遷の一例について
本節では、前述した情報処理に基づく信号の変遷の一例について説明する。
図7は、
図6に示す情報処理による信号の変遷の一例を示す図である。
【0051】
図7に示すように、まず、外部から外部信号S0が入力された場合、生成部333、および外場出力部45によって入力信号S1が生成される。具体的には、生成部333は、入力された外部信号S0を所定の分解時間で区切り、区切られた分解時間における外部信号S0をデジタル信号Sdに変換する。分解時間は、外部信号S0の解析を行う際の時間分解能を表す。外部信号S0をデジタル信号Sdに変換する態様は任意であるが、例えば、外部信号S0に関する特徴量、例えば、平均値、最大値、最小値、周波数等、を所定の閾値と比較することにより実行され得る。本実施形態では、デジタル信号Sdは、0または1のいずれか一方によって表される2値の信号であるが、これに限られず、3以上の値をとり得るマルチチャネルな信号であってもよい。これにより、外部信号S0の時系列的な変化が、分解時間ごとに0と1との数列(例えば、{0,0,1,0,...})として表される。
【0052】
次に、外場出力部45は、生成部333から生成されたデジタル信号Sdに基づき、入力信号S1としての磁場Hzを生成する。入力信号S1は、上記デジタル信号Sdの値が「1」の場合に第1の交流信号S11となり、「0」の場合は第2の交流信号S12となるように振動する、振動磁場である。なお、入力信号S1は、第1の交流信号S11と第2の交流信号S12とが連続するように構成される。外場出力部45から出力された交流磁場としての入力信号S1は、物理リザバー44に入力される。生成部333および外場出力部45は、情報処理システム1によって構成されるニューラルネットワークの入力層(エンコーダ)として機能し得る。
【0053】
本実施形態における物理リザバー44は、複数の磁気スピン441を含む磁性体である。本実施形態の磁性体は、例えば、磁気スピン441によって規定されるスピン系の挙動を反強磁性ハイゼンベルグモデルを用いて記述可能な反強磁性体であるが、これに限られず、XYモデル、イジングモデル等の他のモデルによって記述可能なものであってもよい。また、磁気スピン441は、例えば、単一の電子スピンであるが、核スピンやマクロスピン等であってもよい。また、磁気スピン441は、複数の電子スピンの集合によって規定されてもよい。磁気スピン441は、少なくとも1つの入力用スピン442と、少なくとも1つの出力用スピン443とを含む。
【0054】
入力用スピン442は、外場出力部45によって出力される外場としての磁場(または電磁場)が入力される磁気スピン441である。磁場が隣接する磁気スピン441に漏れ出す可能性がある場合、入力用スピン442は、例えば、外場出力部45によって出力される磁場の強度が最も大きい磁気スピン441に対応する。
【0055】
出力用スピン443は、センサ46によって局所的な磁気モーメントの時間変化等の挙動を検出される磁気スピンである。例えば、出力用スピン443は、磁気モーメントの時間変化を検出するためのプローブ(例えば、レーザや磁気力顕微鏡のチップ等)との相互作用が最も強い磁気スピン441である。物理リザバー44は、情報処理システム1によって構成されるニューラルネットワークの中間層として機能し得る。
【0056】
外場出力部45から出力される入力信号S1は、入力用スピン442に入力される。入力用スピン442に入力された磁場は、入力用スピン442の状態を変化させる。このような入力用スピン442の状態の変化は、古典的にはLLG方程式(Landau-Lifshitz-Gilbert equation)によって記述される歳差運動である。当該状態の変化は、磁気スピン同士のスピン間の相互作用によって他の磁気スピン441を介して出力用スピン443へと伝搬される。これにより、出力用スピン443の物理量、例えば、出力用スピン443のz成分の絶対値|Sz|、が時間的に変化する。出力用スピン443の状態の変化は、例えば、出力用スピン443に照射されるレーザの反射率等の光学的性質の変化をセンサ46を用いて検出することによって間接的に観測され得る。
【0057】
センサ46は、出力用スピン443の状態変化の検出結果を、出力信号S2として抽出部334に出力する。抽出部334は、入力された出力信号S2から、外場出力部45によって出力される磁場の周波数に対応する成分を抽出し、送信部335へと送信する。具体的には、抽出部334は、入力された出力信号S2に対してフーリエ変換を行う。次に、抽出部334は、入力信号S1に含まれる主要な周波数と等しい周波数の成分以外の周波数成分を除去する。次に、抽出部334は、除去後の周波数スペクトルを逆フーリエ変換することによって出力信号S2を再構成する。その後、抽出部334は、再構成された出力信号S2を抽出結果として送信部335に出力する。
【0058】
次に、送信部335は、抽出結果に基づき計算を行い、計算結果を情報処理装置2に送信する。送信部335は、情報処理システム1によって構成されるニューラルネットの出力層(言い換えればデコーダ)を構成し得る。例えば、ニューラルネットワークが分類器として機能する場合、送信部335は、抽出結果に基づき分類結果を出力する。送信部335によって送信される計算結果は、種々の処理に用いられ得る。このような、送信部335の計算の態様の具体例については適用例として後述する。
【0059】
4.2.出力信号S2のスペクトルについて
次に、入力信号S1を入力した場合における出力用スピン443のz成分の絶対値|S
z|のスペクトルについて説明する。z成分は、センサ46によって検出可能な成分である。
図8は、温度Tの環境下で周波数f
inによって特徴づけられる入力信号S1を入力した場合における、出力用スピン443のz成分の絶対値|S
z|のスペクトルに関するシミュレーション結果を示す図である。なお、温度Tは無次元化されたパラメータであることに留意されたい。
図8において、(a)はT=0(すなわち絶対零度)におけるスペクトルに対応し、(b)はT=0.001(すなわち、比較的低い有限温度)におけるスペクトルに対応し、(c)はT=0.1(すなわち、比較的高い有限温度)におけるスペクトルに対応する。
図8における各図の横軸は周波数であり、縦軸は出力用スピン443のz成分の絶対値|S
z|である。
【0060】
図8(a),(b)に示すように、出力用スピン443のz成分の絶対値|S
z|のスペクトルは、入力信号S1を特徴づける周波数f
inの絶対値と等しい周波数においてピークを有する。このことから、周波数f
inの絶対値と等しい周波数(すなわち、±f
in)の成分は、他の周波数の成分に比べて入力信号S1と強い相関を有することがわかる。このような相関は、有限温度領域では熱雑音に埋もれる傾向があるが、
図8(b)に示すように、本実施形態では、このような入力信号S1と出力信号S2との相関が有限温度となっても熱雑音に埋もれずに維持されていることがわかる。
【0061】
次に、出力信号S2の短期記憶(short term memory:STM)タスクに関するシミュレーション結果について説明する。
図9は、
図8に示す出力信号S2における、周波数および遅延ステップ数に対する決定係数r
2のシミュレーション結果を示す図である。
図9において、縦軸はSTMタスクにおける遅延ステップ数、すなわち、最新のステップに対する過去のステップの差、を示す。横軸は、周波数を示す。また、
図9の各領域の色は、対応する遅延ステップ数および周波数における決定係数r
2を示す。決定係数r
2は、最新のステップにおける出力信号S2の状態において、対応する過去のステップにおける入力信号S1の状態の寄与が含まれている程度を示唆している。決定係数r
2が大きいほど、当該ステップでの出力信号S2の状態が、最新のステップにおける出力信号S2の状態に影響を大きく及ぼすことを示唆している。
図9において、(a)は絶対温度(T=0)の場合に対応し、(b)は比較的低い有限温度(T=0.001)の場合に対応する。
【0062】
図9(a)に示すように、絶対零度では入力信号S1を特徴づける周波数f
inだけでなく、f
in以外の比較的広範囲の周波数でも、遅延ステップ数が5~8程度まで高い決定係数r
2が得られ、良好な短期記憶性能が得られていることが示されている。
【0063】
一方、
図9(b)に示すように、決定係数r
2は、有限温度の環境下では、f
inの近傍では遅延ステップ数が6程度まで比較的高い値を維持しているのに対し、それ以外の周波数領域ではほぼ0となっていることがわかる。このことから、出力信号S2から入力信号S1を特徴づける周波数と同一の周波数の成分を抽出することにより、有限温度でも比較的良好な短期記憶性能を有する情報処理システム1を提供することができる。また、遅延ステップ数が7以降では徐々に決定係数r
2が低下し、0となることから、無視すべきほど遠い過去の状態が直近の検出結果に影響を及ぼすことを抑制することができる。
【0064】
4.3.複数の周波数による信号の多重化について
前節では、1つの外部信号S0に基づく入力信号S1を特徴づける周波数が1つ(f
in)の場合について説明したが、本節では、複数の外部信号S0に基づく入力信号S1を特徴づける周波数が複数(具体的には3つであり、f
in
1,f
in
2,f
in
3)の場合における出力信号S2のスペクトルについて説明する。この場合、入力信号S1は、複数の周波数f
in
1,f
in
2,f
in
3のそれぞれに対応する正弦波等の信号を重ね合わせることにより実現され得る。
図10は、有限温度の環境下で複数の周波数f
in
1,f
in
2,f
in
3によって特徴づけられる入力信号S1を入力した場合における、出力用スピン443のz成分の絶対値|S
z|のスペクトルに関するシミュレーション結果を示す図である。
図10に示すように、各周波数f
in
1,f
in
2,f
in
3において、出力用スピン443のz成分の絶対値|S
z|がピークを有することがわかる。このことから、入力信号S1を特徴づける周波数がf
inのみの場合と同様に、各周波数f
in
1,f
in
2,f
in
3のそれぞれが個別に特異的な特性を有することが示唆される。
【0065】
図11は、
図10に示す出力信号S2における、周波数および遅延ステップ数に対する決定係数r
2のシミュレーション結果を示す図である。なお、
図11の構成は、
図9と同様である。
図11に示すように、
図9(b)と同様に、出力信号S2は、各周波数f
in
1,f
in
2,f
in
3のそれぞれの近傍では、比較的大きい遅延ステップ数においても高い決定係数r
2を示し、これらの各周波数f
in
1,f
in
2,f
in
3のそれぞれが個別に異なる短期記憶タスクを実行可能なチャネルとして機能可能であることを示唆している。この結果は、入力信号S1に複数の異なる周波数信号を重畳させることにより、信号の多重化を行うことが可能であることが示している。
【0066】
5.複数の周波数を用いた場合における上記情報処理の適用例について
本章では、複数の周波数によって特徴づけられる入力信号S1を用いた場合における上記情報処理の適用例について説明する。なお、ニューラルネットワークを構成する入力層に対応する生成部333、および出力層に対応する送信部335は、予め定められたタスクに対応する分類器として学習されているものとする。
【0067】
5.1.複数の外部信号の並列処理
図12は、同時に生成される複数の外部信号S0の並列処理に対する適用例を示す図である。本適用例では、生成部333は、スイッチSWとして実装される。
図12に示すように、信号A,B,C,D,E...という、複数の外部信号S0が存在する場合、プロセッサ33は、これらの信号のそれぞれに対して異なる周波数f
1,f
2,f
3,f
4,f
5,...を割り当てる。その後、スイッチSWは、対応する外部信号S0に基づき0または1のいずれかの値をとるデジタル信号Sdを時系列的に出力し、外場出力部45は、対応するスイッチSWからのデジタル信号Sdに基づき、割り当てられた周波数の磁場を出力する。このとき、各周波数の磁場が、1つの外場出力部45から重畳されるように、物理リザバー44の入力用スピン442に入力される。この場合、入力信号S1は、割り当てられた各周波数によって特徴づけられる。物理リザバー44の出力用スピン443の状態は、このような入力信号S1に対応する磁場を印加することによって時間変化する。センサ46は、出力用スピン443の時間変化を出力信号S2として検出する。その後、抽出部334が出力信号S2に含まれる対応する周波数成分をそれぞれを抽出し、送信部335は、対応する周波数ごとの出力信号S2を0または1の2値の時系列信号として情報処理装置2に送信する。これにより、情報処理装置2は、予め定められたパターンと比較することにより、各外部信号S0に対応する状態を識別し、当該状態に対応する処理を行う。これにより、複数の外部信号S0のパターンマッチングを並列的に実行することができる。
【0068】
5.2.連続画像の解析処理
次に、時間変化する連続画像の解析処理に関する適用例を説明する。
図13は、時間変化する連続画像の解析処理に関する適用例を示す図である。
【0069】
図13に示すように、外部信号S0としての連続画像IM1は、複数のピクセルPxによって規定されている二次元画像である。各ピクセルPxは、画像の表示態様を規定するピクセル値が割り当てられている。本実施形態の連続画像IM1は、ピクセル値をグレースケールで表現するように構成される。プロセッサ33は、各ピクセルPxの番地iに対して異なる周波数f
iを割り当てる。iは、ピクセルPxを識別するためのインデックスである。生成部333は、このように周波数f
iに対応づけられたピクセルPxのそれぞれのピクセル値が予め定められた閾値(例えば、「128」)未満の場合は「0」を出力し、ピクセル値が閾値以上の場合は「1」を出力するように構成される。このように周波数をピクセルPxごとに割り当て、各ピクセル値の時系列変化をデジタル信号Sdに変換することにより、空間的な状態の時系列変化を並列処理することができる。
【0070】
なお、連続画像は、グレースケール画像に限られず、RGB画像のようなマルチチャネルな画像であってもよい。
図14は、RGB画像の解析処理に関する適用例を示す図である。RGB画像IM2は、各ピクセルPxごとにRGBのそれぞれに対応する3つのピクセル値が格納されている。生成部333は、上述した場合と同様に、あるピクセルPxに格納されている3つのピクセル値のそれぞれを閾値と比較し、それぞれに対してピクセルPxに割り当てられた同一の周波数f
1によって特徴づけられる入力信号S1を生成する。RGBのそれぞれに対して生成された入力信号S1は、物理リザバー44の異なる入力用スピン442に入力される。また、異なる出力用スピン443の状態は、各入力信号S1に対応する出力信号S2として検出される。ここでは、RGBのそれぞれに対応する入力用スピン442と出力用スピン443とを含む物理リザバー44を、それぞれ第1~第3ターミナル44a~44cという。なお、第1~第3ターミナル44a~44cは、単一の物理リザバー44の異なる領域として規定されていても、異なる複数の物理リザバー44として規定されてもよい。このように構成される第1~第3ターミナル44a~44cに対して、各ピクセルPxからのRGBに対応する入力信号S1が、ピクセルPxに対応する周波数によって特徴づけられて入力される。これにより、RGB画像等のマルチチャネルな画像の時系列解析を行うことができる。
【0071】
ここで、上記連続画像の解析処理に関するより具体的な例として、MNISTを用いた手書き文字映像の分類タスクに対する実験例について説明する。本実験例では、手書き数字のデータセットであるMNISTを用いた。本実験例における連続画像IM1は、MNISTに含まれる各画像データを1ステップごとに切り替えた、グレースケール画像である。これは、複数ステップにわたり手書き文字が入力された場合における画像解析に対応する。このような連続画像IM1の各ピクセルPxごとに異なる周波数とターミナル44a~44cを割り当て、連続画像IM1に対応する入力信号S1を物理リザバー44に入力した。
図15は、実験例に対応する入力信号S1が入力された物理リザバー44から検出される、出力信号S2のシミュレーション結果を示す図である。
図15の列(Predicted digits)は、連続画像IM1に表される数字の、出力信号S2に基づく計算結果である。
図15の行(Answer digits)は、連続画像IM1に表される正解の数字である。
図15のマトリクスのうち、対角成分が大きいほど物理リザバー44を用いた計算結果の正答率が高くなる。
図15に示すように、連続画像IM1のうち、入力直後(言い換えれば、遅延ステップ数が0)の場合における、対角成分の値が非対角成分に比べて10倍以上大きいことから、直近の画像に対する物理リザバー44による数字の予測精度は比較的高いことがわかる。そして、1ステップ前、2ステップ前と遅延ステップ数を重ねるにつれて、マトリクスの対角成分と非対角成分との差異が小さくなることから、当該予測精度は、遅延ステップ数が大きくなるにつれて低下する傾向がみられるものの、依然として対角成分は、非対角成分より大きい。したがって、本情報処理により、複数ステップ前の画像まで手書き文字(数字)を精度良く判別し、手書き文字映像の分類を従来技術に比べて高い精度で行うことができることが示唆される。これにより、例えば、映像に対するリアルタイムな物体動作検知や状態推移検知などを、比較的高い精度で実現することができる。
【0072】
[その他]
前述した情報処理システム1に関して、以下のような態様を採用してもよい。
【0073】
ニューラルネットワークは、入力信号S1と同一の周波数である第1の周波数f1の成分を含む出力信号S2を出力するものに限られない。例えば、ニューラルネットワークは、当該第1の周波数f1とは異なるが、当該第1の周波数f1に対応する特定周波数の成分を含む出力信号S2を出力してもよい。この場合、抽出部334は、物理リザバー44の出力信号S2から当該特定周波数の成分を抽出すればよい。このような特定周波数は、例えば、入力信号S1の周波数によって誘起される、物理リザバー44を構成する系特有の周波数である。
【0074】
上記プロセッサ33は、さらに、遅延部を備えていてもよい。遅延部は、遅延ステップを実行することによりは、外部信号S0を所定の期間だけ遅延させた遅延信号を生成する。このとき、生成部333は、外部信号S0および遅延信号に基づき入力信号S1を生成する。そして、第1の周波数f1の成分および第2の周波数f2の成分のそれぞれは、外部信号S0および遅延信号のいずれか一方に対応づけられている。このような構成によれば、ニューラルネットワークの再帰性をより強めることができる。
図16は、遅延部としてのディレイライン5を備える情報処理システム1による信号処理の一例を示す図である。なお、ディレイライン5は、情報処理装置2、ユーザ端末3、IoTデバイス4等の任意のデバイスによって実装可能である。
図13に示すように、まず情報処理システム1は、外部信号S0を複数の信号に分割する。外部信号S0の分割は、例えば、外部信号S0が電圧信号の場合、外部信号S0の伝達経路内で並列回路となる分岐を設けることによって実現可能である。分割された信号の1つは、生成部333としてのスイッチSWの1つに入力され、これにより周波数f
1に対応する交流磁場が外場出力部45から出力される。一方、分割された信号の1つは、ディレイライン5に入力される。ディレイライン5は、外部信号S0を一定時間遅延させた遅延信号S3をスイッチSWの1つに入力する。当該スイッチSWには、周波数f
1と異なる周波数f
2が割り当てられている。外場出力部45は、周波数f
2が割り当てられているスイッチSWからのデジタル信号Sdに基づき、周波数f
2の交流磁場を、上記周波数f
1に対応する交流磁場に重畳させて、物理リザバー44に出力する。その後、抽出部334が物理リザバー44から出力される出力信号S2を、周波数f
1,f
2のそれぞれの成分ごとで抽出し、送信部335は、当該成分ごとの計算結果を0と1とによって表される時系列データとして送信する。
【0075】
生成部333は、少なくとも第1の期間および第2の期間に含まれる外部信号S0に基づき入力信号S1を生成してもよい。第1の期間および第2の期間は時系列的に連続しており、入力信号S1の入力単位を表す。これらの期間は任意に設定可能であるが、例えば、IoTデバイス4から生成される外部信号S0の周期に比べて短いことが好ましい。第1の周波数f1の成分は、第1の期間の外部信号S0に対応付けられ、第2の周波数f2の成分は、第2の期間の外部信号S0に対応付けられる。このような構成によれば、例えば、1つの外部信号S0の時系列変化を、異なる周波数の成分ごとに並列的に解析することができるため、計算時間の短縮を図ることができる。生成部333は、これらの期間のそれぞれにおいて外部信号S0が所定の第1の状態(例えば0状態)に対応する場合に第1の交流信号S11を生成し、所定の第2の状態(例えば1状態)に対応する場合に第2の交流信号S12を生成する。このように、生成部333は、時系列信号である外部信号S0を所定の期間に区切り、当該期間ごとに第1の交流信号S11と第2の交流信号S12とを生成することで、入力信号S1を構成する。これにより、入力信号S1は、時系列上で2状態を表すビット列として機能する。なお、第1の期間と第2の期間は時系列的に連続していなくてもよい。すなわち、第1の期間と第2の期間とは、同じ時系列信号を分割する単位を示すものであってもよい。
【0076】
入力信号S1は、第1の周波数f1および第2の周波数f2以外の周波数の成分を含んでいてもよい。例えば、入力信号S1は、第1の周波数f1の3倍以上の周波数の成分を含んでいてもよい。また入力信号S1は、第1の周波数f1の成分のみを含んでいてもよい。また、例えば、入力信号S1の不連続性を許容する場合、第1の周波数f1と第2の周波数f2との関係は任意である。
【0077】
上記位相差は180度に限られない。例えば、当該第1の交流信号S11は、sin(2πft-θ)(ただし、θは0より大きく2πより小さい。)と表され、第2の交流信号S12は、sin(2πft-π+θ)と表されていてもよい。さらには、入力信号S1の不連続性を許容する場合、第1の交流信号S11と第2の交流信号S12との位相差は任意である。
【0078】
物理リザバー44はハイゼンベルグモデルによって表されるスピン系に限られず、イジングモデル系、XYモデル系、スピングラス系等の任意のモデルによって表されるスピン系であってもよい。また、物理リザバー44は、磁性体に限られず、強弾性体、強誘電体、電荷秩序物質、マルチフェロイック物質など、分極や弾性テンソルなどの任意の物理量が秩序状態(例えば、短距離秩序や長距離秩序)を有する物質であってもよい。さらに、物理リザバー44は、水等の液体の波紋形状などであってもよい。外場出力部45は、このような物理リザバー44に対応する外場は、交流磁場に限られず、交流電場、超音波、光、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0079】
ニューラルネットワークは、物理リザバー44を中間層として有するものに限られず、コンピュータ上で既存のアルゴリズムによって表現可能なものであってもよい。
【0080】
上記入力信号S1は、少なくとも第1の交流信号および/または第2の交流信号を時系列的に含むように構成されていればよく、それ以外の信号(例えば、第3の交流信号S13)を含んでいてもよい。第3の交流信号S13は、第1の交流信号S11および第2の交流信号S12と同一の周波数の成分を含んでいてもよく、異なる周波数の成分を含んでいてもよい。また、第3の交流信号S13は、第1の交流信号S11および第2の交流信号S12と異なる位相を有していてもよい。第1の交流信号S11、第2の交流信号S12、および第3の信号の位相に応じて異なる情報が割り当てられた上で、これらを含む入力信号S1が物理リザバー44に入力されてもよい。この場合、特に第1の交流信号S11、第2の交流信号S12、第3の交流信号S13が同一の周波数(例えば、第1の周波数f1)の成分を含むことが好ましい。これにより、物理リザバー44に当該周波数の成分の情報が蓄積されることで、ノイズへの頑強性を獲得することができる。
【0081】
本実施形態では、取得部331、フィルタ部332、生成部333、抽出部334、および送信部335を、ユーザ端末3のプロセッサ33によって実現される機能部として説明しているが、この少なくとも一部を、他の装置において実施することで、情報処理システムを実現してもよい。
図17は、情報処理システム1の全体構成の別例である。この場合、各IoTデバイス4は、ユーザ端末3を経由せずにインターネットに接続されており、情報処理装置2は、外部信号S0、入力信号S1、出力信号S2等の種々の信号をIoTデバイス4から直接取得することができる。これにより、ユーザ端末3に要求される処理能力を下げることができる。
【0082】
ユーザ端末3は、オンプレミス形態であってもよく、クラウド形態であってもよい。クラウド形態のユーザ端末3としては、例えば、SaaS(Software as a Service)、クラウドコンピューティングという形態で、上述の機能や処理を提供してもよい。
【0083】
上記実施形態では、情報処理装置2が種々の記憶・制御を行ったが、情報処理装置2に代えて、複数の外部装置が用いられてもよい。すなわち、種々の情報やプログラムは、ブロックチェーン技術等を用いて複数の外部装置に分散して記憶されてもよい。
【0084】
本実施形態の態様は、情報処理システム1に限定されず、情報処理方法であっても、情報処理プログラムであってもよい。情報処理方法は、情報処理システム1の各ステップを備える。プログラムは、少なくとも1つのコンピュータに、情報処理システム1の各ステップを実行させる。
【0085】
上記実施形態からは、さらに以下のような技術的思想を抽出することができる。
【0086】
情報処理システムであって、次の各ステップがなされるようにプログラムを実行可能な少なくとも1つのプロセッサを備え、取得ステップでは、機器から時系列に沿って入力される時系列信号である少なくとも1つの外部信号を取得し、生成ステップでは、前記外部信号に基づき、所定のニューラルネットワークに入力される入力信号を生成し、ここで、前記入力信号は、少なくとも第1の交流信号と、前記第1の交流信号と異なる第2の信号とを時系列的に含み、前記第1の交流信号は、少なくとも第1の周波数の成分を含み、これにより、前記入力信号が入力される前記ニューラルネットワークが、前記第1の周波数の成分を含む出力信号を出力する、もの。
【0087】
上記情報処理システム1等は、さらに、次に記載の各態様で提供されてもよい。
【0088】
(1)情報処理システムであって、次の各ステップがなされるようにプログラムを実行可能な少なくとも1つのプロセッサを備え、取得ステップでは、機器から時系列に沿って入力される時系列信号である少なくとも1つの外部信号を取得し、生成ステップでは、前記外部信号に基づき、所定のニューラルネットワークに入力される入力信号を生成し、ここで、前記入力信号は、少なくとも第1の交流信号および/または第2の交流信号を時系列的に含むように構成され、前記第1の交流信号および前記第2の交流信号は、それぞれ第1の周波数の成分を含み、これにより、前記入力信号が入力される前記ニューラルネットワークが、前記第1の周波数の成分を含む出力信号を出力する、もの。
【0089】
このような構成によれば、例えば、熱雑音等の影響によりニューラルネットワークが過去に入力された入力信号の影響を再起しにくくなっている場合においても、ニューラルネットワークに第1の周波数の成分を通じて過去の影響を再起させやすくなる。したがって、ニューラルネットワークを用いた時系列情報の解析等をより容易にすることができる。
【0090】
(2)上記(1)に記載の情報処理システムにおいて、前記第1の交流信号および前記第2の交流信号は、前記第1の周波数の成分とは異なる第2の周波数の成分をさらに含む、もの。
【0091】
このような構成によれば、例えば、各交流信号に含まれる第1の周波数の成分と第2の周波数の成分とに対して、1つの入力信号に含まれる複数の情報や、複数の入力信号のそれぞれの情報など、複数の情報を割り当てることができる。したがって、交流信号により多くの情報を含めることができるため、ニューラルネットワークでより多様な処理を行うことができる。
【0092】
(3)上記(2)に記載の情報処理システムにおいて、前記生成ステップでは、前記外部信号に基づき、前記第1の周波数の成分と前記第2の周波数の成分をともに含む単一の前記入力信号を生成する、もの。
【0093】
このような構成によれば、単一の入力信号で複数の情報をニューラルネットワークに入力することができる。したがって、情報処理システムをより簡素化することができる。
【0094】
(4)上記(2)または(3)記載の情報処理システムにおいて、前記取得ステップでは、前記外部信号の周波数の成分を取得し、前記生成ステップでは、取得された前記外部信号の周波数の成分に基づき、当該周波数の成分に対応する周波数の成分を含む前記入力信号を生成する、もの。
【0095】
このような構成によれば、ニューラルネットワークに入力される外部信号のうち、特に解析したい周波数成分の信号のみを選択的に抽出した入力信号を生成することができる。
【0096】
(5)上記(2)~(4)の何れか1つに記載の情報処理システムにおいて、前記生成ステップでは、第1の期間ごとの前記外部信号に基づき前記入力信号に含まれる前記第1の周波数の成分を生成し、前記第1の期間とは異なる第2の期間ごとの前記外部信号に基づき前記入力信号に含まれる前記第2の周波数の成分を生成する、もの。
【0097】
このような構成によれば、外部信号の異なる時系列変化をそれぞれ別の周波数の成分に割り当てて解析を行うことができる。
【0098】
(6)上記(1)~(5)の何れか1つに記載の情報処理システムにおいて、さらに、抽出ステップでは、前記出力信号から少なくとも前記第1の周波数の成分を含む特定の周波数の成分を抽出する、もの。
【0099】
このような構成によれば、現在から所定の期間まで過去に遡ったニューラルネットワークの状態を特に反映している。したがって、当該期間において相関を有するような系の時系列信号の解析をより正確に行うことができる。
【0100】
(7)上記(1)~(6)の何れか1つに記載の情報処理システムにおいて、前記ニューラルネットワークは、中間層として機能するリザバーを含む、もの。
【0101】
このような構成によれば、より複雑なニューロ処理を少ない計算量で実装することができる。
【0102】
(8)情報処理システムであって、次の各ステップがなされるようにプログラムを実行可能な少なくとも1つのプロセッサを備え、取得ステップでは、機器から時系列に沿って入力される時系列信号である少なくとも1つの外部信号を取得し、生成ステップでは、前記外部信号に基づき、所定のニューラルネットワークに入力される入力信号を生成し、ここで、前記入力信号は、少なくとも第1の交流信号および/または第2の交流信号を時系列的に含むように構成され、前記第1の交流信号および前記第2の交流信号は、それぞれ第1の周波数の成分を含み、これにより、前記入力信号が入力される前記ニューラルネットワークが、前記第1の周波数に対応する特定周波数の成分を含む出力信号を出力する、もの。
【0103】
(9)情報処理方法であって、上記(1)~(8)の何れか1つに記載の情報処理システムの各ステップを備える、方法。
【0104】
このような構成によれば、ニューラルネットワークを用いた時系列情報の解析等をより容易にすることができる。
【0105】
(10)プログラムであって、少なくとも1つのコンピュータに、上記(1)~(8)の何れか1つに記載の情報処理システムの各ステップを実行させる、もの。
【0106】
このような構成によれば、ニューラルネットワークを用いた時系列情報の解析等をより容易にすることができる。
もちろん、この限りではない。
【0107】
さらに、以下の観点にも留意されたい。
【0108】
(A)情報処理システムであって、次の各ステップがなされるようにプログラムを実行可能な少なくとも1つのプロセッサを備え、取得ステップでは、機器から時系列に沿って入力される時系列信号である少なくとも1つの外部信号を取得し、生成ステップでは、前記外部信号に基づき、所定のニューラルネットワークに入力される入力信号を生成し、ここで、前記ニューラルネットワークは、前記入力信号を入力することにより、所定の出力信号を出力し、前記入力信号は、少なくとも第1の交流信号を時系列的に含むように構成され、前記第1の交流信号は、少なくとも第1の周波数の成分を含み、抽出ステップでは、前記出力信号に含まれる前記第1の周波数の成分を抽出する、もの。
【0109】
このような構成によれば、入力信号に基づきニューラルネットワークに誘起される時系列情報を、出力信号に含まれる第1の周波数の成分として抽出しやすくなる。したがって、ニューラルネットワークの時系列的な短期記憶能力を向上することができる。
【0110】
(B)情報処理システムであって、次の各ステップがなされるようにプログラムを実行可能な少なくとも1つのプロセッサを備え、取得ステップでは、機器から時系列に沿って入力される時系列信号である少なくとも1つの外部信号を取得し、生成ステップでは、前記外部信号に基づき、所定のニューラルネットワークに入力される入力信号を生成し、ここで、前記ニューラルネットワークは、前記入力信号を入力することにより所定の出力信号を出力し、前記入力信号は、少なくとも第1の交流信号を時系列的に含むように構成され、前記第1の交流信号は、少なくとも第1の周波数の成分と第2の周波数の成分とを含み、抽出ステップでは、前記出力信号に含まれる、前記第1の周波数の成分、前記第2の周波数の成分、または前記第1の周波数と前記第2の周波数との和もしくは差に対応する周波数の成分を出力信号から抽出する、もの。
【0111】
このような構成によれば、より複数の周波数の成分を含む入力信号によってニューラルネットワークに誘起される短期記憶能力を、出力信号をもとに抽出しやすくなる。
【0112】
これら(A)および(B)のそれぞれもまた、上記(1)~(14)と、技術的に矛盾しない範囲で適宜組み合わせ可能である。
【0113】
最後に、本発明に係る種々の実施形態を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0114】
さらに、以下の内容にも留意されたい。
【0115】
0と1の情報を入力する分には、πだけ位相が異なる二つの信号(第1・第2の交流信号)により情報を表現することが可能である。例えば、πだけ異なる信号を使う場合、周波数に関する適切な条件下では入力信号が連続性を獲得するが、この連続性は研究における性能解析上の不便を避けるものであり、実用上は連続でなくても問題ないと考えられる。例えば、on-offでの入力では、入力信号の切り替え時刻で不連続に振る舞うが、入力信号を介した情報入力に支障はない。このことから、π以外の位相差を用いることで、位相の自由度を使って入力可能な情報が広がる。具体的には、0と1と2とにそれぞれ位相0、2π/3、4π/3などを割り当てて3つの情報を表現することも可能だと考えられる。
【0116】
物理リザバーコンピューティングの枠組みでは、生の観測信号(0.427など、今回の「出力信号」に対応)を所望の最終出力(0や1)へ変換するために線形変換を行う。また、物理リザバーをニューラルネットワークの中間層として用いるならば、物理リザバーからの出力信号をさらに後続のニューラルネットに入力し、最終出力を得ることも可能である。いずれの場合も、最終出力は物理リザバーからの出力信号とは異なっており、意味のある結果を得るためには出力信号の変換を行ってもよい。
【0117】
第1の周波数f1の情報Aは出力信号のf1成分に、第2の周波数f2の情報Bは出力信号のf2成分に最も強く反映されるが、周波数f1+f2やf2-f1では、情報AとBのどちらも反映した情報を含み得る。例えば、AND(A,B)やXOR(A,B)の情報がf1+f2やf2-f1付近の周波数から復元可能である。
【0118】
例えば外部信号の周波数f1成分の大きさに特に興味があるならば、取得ステップでf1成分を取得し、その信号のみから生成ステップで入力信号を生成する。このように、外部信号から入力したい周波数の情報のみを抽出した入力信号を生成することで、当該情報がスピン系へもたらす影響がより大きくなり、計算性能の向上が期待される。なお、取得ステップで取得した周波数f1と、生成ステップで変換する入力信号の周波数f1'は異なっていても構わない。
【0119】
「tin
1ごとに外部信号を分割→入力ビットを生成→周波数f1で入力」と「tin
2ごとに外部信号を分割→入力ビットを生成→周波数f2で入力」を、同じ外部信号に対して並列で行う、という動作も可能である。一つの外部信号の時系列変化を、二つのタイムスケールtin
1とtin
2に着目し並列に解析可能であれば、より複雑な情報の入力・解析が可能であると期待される。
【符号の説明】
【0120】
1 :情報処理システム
2 :情報処理装置
3 :ユーザ端末
4 :IoTデバイス
5 :ディレイライン
20 :通信バス
21 :通信部
22 :記憶部
23 :プロセッサ
30 :通信バス
31 :通信部
32 :記憶部
33 :プロセッサ
331 :取得部
332 :フィルタ部
333 :生成部
334 :抽出部
335 :送信部
34 :表示部
35 :入力部
40 :通信バス
41 :通信部
42 :記憶部
43 :プロセッサ
44 :物理リザバー
441 :磁気スピン
442 :入力用スピン
443 :出力用スピン
44a :第3ターミナル
44b :第3ターミナル
44c :第3ターミナル
45 :外場出力部
46 :センサ
IM1 :連続画像
IM2 :RGB画像
Px :ピクセル
S0 :外部信号
S1 :入力信号
S11 :第1の交流信号
S12 :第2の交流信号
S13 :第3の交流信号
S2 :出力信号
S3 :遅延信号
SW :スイッチ
Sd :デジタル信号
f1 :第1の周波数
f2 :第2の周波数