(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119939
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】分光素子アレイ、撮像素子および撮像装置
(51)【国際特許分類】
H04N 25/10 20230101AFI20240827BHJP
H04N 25/13 20230101ALI20240827BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H04N25/10
H04N25/13
G02B5/20 101
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024095132
(22)【出願日】2024-06-12
(62)【分割の表示】P 2021551022の分割
【原出願日】2019-10-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮田 将司
(72)【発明者】
【氏名】中島 光雅
(72)【発明者】
【氏名】橋本 俊和
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高感度で、信号処理による色再構成を用いることなく、均一な空間解像度をもつ画像を生成し得る撮像素子および撮像装置を提供する。
【解決手段】本開示の撮像素子は、基板上に光電変換素子を含む複数の画素がアレイ状に配列された2次元画素アレイと、2次元画素アレイの上に形成された透明層と、透明層の内部または上に、複数の分光素子がアレイ状に配列された2次元分光素子アレイと、を備える。分光素子の各々は、透明層の屈折率よりも高い屈折率を有する材料から形成された複数の微細構造体を含む。複数の微細構造体は、微細構造体パターンを有する。分光素子の各々は、入射した光を、波長領域に応じて、それぞれ異なる伝搬方向を有する第1、第2、第3、および第4の偏向光に分離する。分光素子の各々の直下にある互いに隣接する第1、第2、第3、および第4の画素は、第1、第2、第3、および第4の偏向光をそれぞれ検出する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に光電変換素子を含む複数の画素がアレイ状に配列された2次元画素アレイと、
前記2次元画素アレイの上に形成された透明層と、
前記透明層の内部または上に、複数の分光素子がアレイ状に配列された2次元分光素子アレイと、
を備えた撮像素子であって、
前記分光素子の各々が、前記透明層の屈折率よりも高い屈折率を有する材料から形成された複数の微細構造体を含み、前記複数の微細構造体が、微細構造体パターンを有し、前記2次元分光素子アレイにおける2次元の配列方向おいて隣接する分光素子は、並進対称性を有さず、前記分光素子の各々が、入射した光を2次元の方向に分光し、前記複数の画素が、前記2次元の方向に分光された光を検出する、撮像素子。
【請求項2】
前記分光素子の各々が、前記入射した光を、波長領域に応じて、それぞれ異なる伝搬方向を有する第1の偏向光、第2の偏向光、第3の偏向光、および第4の偏向光に分離し、
前記分光素子の各々の直下にある互いに隣接する第1の画素、第2の画素、第3の画素、および第4の画素が、前記第1の偏向光、前記第2の偏向光、前記第3の偏向光、および前記第4の偏向光をそれぞれ検出する、請求項1に記載の撮像素子。
【請求項3】
前記分光素子の各々の中心が、前記分光素子の各々の直下にある互いに隣接する前記第1の画素、前記第2の画素、前記第3の画素、および前記第4の画素が形成する四角形の中心の直上にそれぞれ位置しており、
互いに隣接する前記第1の画素、前記第2の画素、前記第3の画素、および前記第4の画素の波長領域は、前記第1の画素、前記第2の画素、前記第3の画素、および前記第4の画素の各々が検出する前記第1の偏向光、前記第2の偏向光、前記第3の偏向光、および前記第4の偏向光の波長領域に対応し、
前記第1の偏向光、前記第2の偏向光、前記第3の偏向光、および前記第4の偏向光のうちの少なくとも3つの偏向光の波長領域が互いに異なっている、請求項2に記載の撮像素子。
【請求項4】
前記分光素子の各々における前記複数の微細構造体が、光が透過する方向の厚みが一定である、請求項2または3に記載の撮像素子。
【請求項5】
前記分光素子の各々における前記複数の微細構造体が、光が透過する方向の厚みが位置に応じて異なる、請求項2または3に記載の撮像素子。
【請求項6】
前記入射した光が白色光の場合、
前記第1の画素に入射する光は、波長500nm以下の青色波長域で光強度のピークを有し、
前記第2の画素および前記第3の画素に入射する光は、波長500nm~600nmの緑色波長域で光強度のピークを有し、
前記第4の画素に入射する光は、波長600nm以上の赤色波長域で光強度のピークを有する、請求項2乃至5のいずれか一項に記載の撮像素子。
【請求項7】
前記入射した光が白色光の場合、
前記第1の画素に入射する光は、波長500nm以下の青色波長域で光強度のピークを有し、
前記第2の画素に入射する光は、波長500nm~600nmの緑色波長域で光強度のピークを有し、
前記第3の画素に入射する光は、波長600nm~800nmの赤色波長域で光強度のピークを有し、
前記第4の画素に入射する光は、波長800nm以上の近赤外波長域で光強度のピークを有する、請求項2乃至5のいずれか一項に記載の撮像素子。
【請求項8】
前記2次元画素アレイと前記2次元分光素子アレイの間に、さらにフィルタアレイを備え、
前記フィルタアレイは、
波長500nm以下の青色波長域で透過率のピークを有する第1のフィルタ、
波長500nm~600nmの緑色波長域で透過率のピークを有する第2のフィルタ、
波長600nm~800nmの赤色波長域で透過率のピークを有する第3のフィルタ、および
波長800nm以上の近赤外波長域で透過率のピークを有する第4のフィルタ、
のうちの少なくとも1つを含む、請求項6または7に記載の撮像素子。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の撮像素子と、
前記撮像素子の撮像面に光学像を形成するための撮像光学系と
前記撮像素子が出力する電気信号を処理する信号処理部と、
を備えた撮像装置。
【請求項10】
透明層の内部または上に、複数の分光素子がアレイ状に配列された2次元分光素子アレイであって、
前記分光素子の各々が、前記透明層の屈折率よりも高い屈折率を有する材料から形成された複数の微細構造体を含み、前記複数の微細構造体が、微細構造体パターンを有し、前記2次元分光素子アレイにおける2次元の配列方向おいて隣接する分光素子は、並進対称性を有さず、前記分光素子の各々が、入射した光を2次元の方向に分光する、分光素子アレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光素子アレイ、撮像素子および撮像素子を備える撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、CCD(Charge Coupled Device)センサやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサといった光電変換素子を備える撮像素子において、撮像対象の色情報を取得するには、光電変換素子を含む各画素上で入射光の色分離を行う必要がある。
【0003】
図1に、一般のカラー撮像素子の断面図を示す。従来のカラー撮像素子100では、電気配線112上に光電変換素子102が配置され、有機材料または無機材料からなる減色型の色フィルタ104が光電変換素子102を含む各画素に対向して配置される。色フィルタ104の上にはマイクロレンズ103が配置される。マイクロレンズ103から光が入射すると、色フィルタ104を用いて、所望の波長帯の光のみを透過させ、不要な波長帯の光を吸収または反射させることで、画素ごとに赤(R)、緑(G)、青(B)に対応する3つの光電変換素子102から各信号を取得することで、カラーの2次元画像を生成することができる。
【0004】
しかし、上記のような一般的なカラー撮像素子100では、RGBが1:1:1の割合の入射光の場合、色フィルタ104を透過後の総光量が必然的に1/3程度になってしまうという課題がある。失われた残りの光は、色フィルタ104による吸収または反射による損失であり、画像の構成に利用することができない。したがって、入射光の光利用効率は最大でも30%程度となり、撮像素子の感度は大きく制限されている。画素の微細化(画像の高解像度化)が進んでいる近年では、1画素の受ける光量が必然的に低下しており、上記の撮像素子の感度の制限を低減することが望まれている。
【0005】
撮像素子の感度の制限を低減するためアプローチとして、色フィルタ104の代わりに、入射光を波長帯に応じて分岐することが可能なプリズムやダイクロイックミラーといった分光素子を用いて、カラー撮像素子を構成することが提案されている。このようなアプローチは、原理的に入射光の損失を大きく低減することができるため、色フィルタ104を使用した場合に比べて、光利用効率を大幅に向上させることができる。しかしながら、画素の微細化が進んでいる近年では、プリズムやダイクロイックミラーといった分光素子をその機能と特性を保ったまま光電変換素子上への集積することは困難である。
【0006】
そこで近年では、光電変換素子上への集積が比較的容易な微細構造からなる分光素子を用いて、カラー撮像素子を構成することが提案されている。非特許文献1では、入射光を2波長領域に分離することが可能な2種類の微細構造を用いることで、色分離における光損失を原理的になくし、光利用効率を向上させる方法が提案されている。
【0007】
図2(a)に、非特許文献1において提案されているカラー撮像素子200の上面図を示し、
図2(b)に、そのIIb-IIb断面図を示し、
図2(c)に、そのIIc-IIc断面図を示す。図示されているように、カラー撮像素子200は、色フィルタ104に代えて画素(光電変換素子102)に対応して配置された微細な梁構造206-1、206-2によって、入射光は波長領域に応じて、直進する光と左右に偏向する光に分離する。これは、微細な梁構造内とその周囲において、入射光が感じる位相遅延効果が、一方の波長領域では大きく異なり、もう一方の波長領域ではほぼ等しくなるためである。したがって、2次元画素アレイ上に、構造厚さが異なる2種類の微細な梁構造206-1,206-2を行ごとに交互に配置することで、互いに隣接する4つの光電変換素子102はそれぞれ異なる波長成分を持った光を受けることが可能になる。その結果、各光電変換素子102から出力される光電変換信号に対して行列演算を用いた信号処理を行い、色情報を再生することで、色画像を生成することができる。
【0008】
また、非特許文献2では、入射光を3波長領域に分離することが可能な厚さが一定のバイナリー微細構造を、画素(光電変換素子102)上に配置することで、光利用効率を向上させる方法が提案されている。
【0009】
図3(a)に、非特許文献2において提案されている微小分光素子306を有するカラー撮像素子300の上面図を示し、
図3(b)に、そのIIIb-IIIb断面図を示す。非特許文献2のカラー撮像素子300を用いることで、非特許文献1のカラー撮像素子200を用いた場合と同様に、信号処理を用いた色情報再構成により色画像を生成することができる。さらに非特許文献2のカラー撮像素子300における光利用効率は、非特許文献1のカラー撮像素子200の光利用効率を上回る。また、非特許文献2のカラー撮像素子200は、非特許文献1のカラー撮像素子200で問題であった偏光依存性がなく、また、バイナリー構造であるため作製が容易といった利点がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Seiji Nishiwaki, Tatsuya Nakamura, Masao Hiramoto, Toshiya Fujii and Masa-aki Suzuki, "Efficient colour splitters for high-pixel-density image sensors," Nature Photonics, Vol. 7, March 2013, pp.240-246
【非特許文献2】Masashi Miyata, Mitsumasa Nakajima, Toshikazu Hashimoto, "High-Sensitivity Color Imaging Using Pixel-Scale Color Splitters Based on Dielectric Metasurfaces," ACS Photonics, March 2019, pp1442-1450
【非特許文献3】David Sell, Jianji Yang, Sage Doshay, Jonathan A. Fan, "Periodic Dielectric Metasurfaces with High‐Efficiency, Multiwavelength Functionalities," Advanced Optical Materials, Vol.5, 2017, 1700645
【発明の概要】
【0011】
非特許文献1および2には、色画像生成の方法として、信号処理を用いた色再構成方法が提案されている。しかしながら、非特許文献1および2で開示された技術には、実用上の課題が存在する。これらの色画像生成の方法は、この信号処理に起因する色のエラー(ノイズ)が生じてしまうことが懸念され、画像の信号対ノイズ比(SN比)が劣化する恐れがある。したがって、分光素子によって、光利用効率、すなわちセンサでの受光量が増加したとしても、信号処理による新たなノイズの付加により、撮像画像のSN比が改善しない恐れがあり、実質的な感度が向上しない恐れがある。さらに、信号の処理時間が新たに必要になるため、撮像の時間分解能の低下が危惧される。なお、非特許文献2で開示されているように、通常真円であるマイクロレンズの形状を楕円にする、または通常正方形である画素の形状を長方形にするなどして、信号処理を用いずに信号強度から直接色情報を取得する形態を考えることができるが、レンズや画素の形状の変更は既存の作製プロセスや後段処理、画素配置などと適合しない懸念がある他、画像の空間解像度の均一性を乱す恐れがあるため、実現性に乏しい。さらに、非特許文献1および2に開示されている分光素子はともに、入射光を画素アレイ上の1軸方向のみに沿って色分離する素子である。したがって、色分離軸とそれに垂直な軸において、画素間の光クロストークの影響が大きく異なってしまう。これにより、生成される色画像では、互いに垂直な2軸において実質的な空間解像度が異なることが懸念される。
【0012】
本開示は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、高感度で、信号処理による色再構成を用いることなく、均一な空間解像度をもつ画像を生成することが可能な撮像素子および撮像装置を提供することにある。
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明の一実施形態に係る撮像素子は、基板上に光電変換素子を含む複数の画素がアレイ状に配列された2次元画素アレイと、2次元画素アレイの上に形成された透明層と、透明層の内部または上に、複数の分光素子がアレイ状に配列された2次元分光素子アレイと、を備え、分光素子の各々が、透明層の屈折率よりも高い屈折率を有する材料から形成された複数の微細構造体を含み、複数の微細構造体が、微細構造体パターンを有し、分光素子の各々が、入射した光を2次元の方向に分光し、複数の画素が、2次元の方向に分光した光をそれぞれ検出する。一実施形態では、上記の撮像素子において、分光素子の各々が、入射した光を、波長領域に応じて、それぞれ異なる伝搬方向を有する第1の偏向光、第2の偏向光、第3の偏向光、および第4の偏向光に分離し、分光素子の各々の直下にある互いに隣接する第1の画素、第2の画素、第3の画素、および第4の画素が、第1の偏向光、第2の偏向光、第3の偏向光、および第4の偏向光をそれぞれ検出する。
【0014】
本発明の一実施形態によれば、平面2軸方向に沿って入射光を複数の波長領域に分離させることが可能な微小分光素子を用いることにより、高感度で、信号処理による色再構成を用いることなく、均一な空間解像度をもつ画像を生成することが可能な撮像素子および撮像装置を実現することができる。また、本発明の一実施形態に係る撮像素子は、広く用いられている画素配置であるベイヤー配置(Bayer arrangement)と整合性があるため、一般的なカラー撮像素子の構成およびその後段の電子回路を大きく変更することなく、色フィルタを微小分光素子に置き換えることで、高感度化を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】(a)は、非特許文献1において提案されているカラー撮像素子の上面図であり、(b)は、そのIIb-IIb断面図であり、および(c)は、そのIIc-IIc断面図である
【
図3】(a)は、非特許文献2において提案されているカラー撮像素子の上面図であり、
図3(b)は、そのIIIa-IIIb断面図である
【
図4】本発明の一実施形態に係る撮像装置10の概略構成を示した側面図である。
【
図5】(a)は、画素アレイおよび分光素子アレイを含む撮像素子500の上面から見た構成の一部を模式的に示す図であり、(b)は、そのVb-Vb断面を模式的に示す図であり、(c)は、そのVc-Vc断面を模式的に示す図である。
【
図6】(a)は、画素アレイおよび分光素子アレイを含む撮像素子600の上面から見た構成の一部を模式的に示す図であり、(b)は、そのVIb-VIb断面を模式的に示す図であり、(c)は、そのVIc-VIc断面を模式的に示す図である。
【
図7】(a)は、第1の波長領域(R)に対応する波長の位相遅延分布を示す図であり、(b)は、第2の波長領域(G)に対応する波長の位相遅延分布を示す図であり、(c)は、第3の波長領域(B)に対応する波長の位相遅延分布を示す図ある。
【
図8】(a)は、本実施形態に係る微小分光素子101を構成する微細構造体の一例の上面図であり、(b)は微細構造体の一例の側面図である。
【
図9】(a)は、画素アレイおよび分光素子アレイを含む撮像素子900の上面から見た構成の一部を模式的に示す図であり、(b)は、そのIXb-IXb断面を模式的に示す図であり、(c)は、そのIXc-IXc断面を模式的に示す図である。
【
図10】(a)は、画素アレイおよび分光素子アレイを含む撮像素子900の上面から見た構成の一部を模式的に示す図であり、(b)は、そのXb-Xb断面を模式的に示す図であり、(c)は、そのXc-Xc断面を模式的に示す図である。
【
図11】(a)は、第1の波長領域(R)に対応する波長の位相遅延分布を示す図であり、(b)は、第2の波長領域(G)に対応する波長の位相遅延分布を示す図であり、(c)は、第3の波長領域(B)に対応する波長の位相遅延分布を示す図であり、(d)は、第4の波長領域(IR)に対応する波長の位相遅延分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態について詳細に説明する。ただし、以下の実施形態は一例に過ぎず、本発明はこれらの実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【0017】
図4は、本発明の一実施形態に係る撮像装置10の概略構成を示した側面図である。撮像装置10は、レンズ光学系11、撮像素子12、および撮像素子12から出力される光電変換信号を処理して画像信号を生成する信号処理部13を備える。
【0018】
自然光や照明光等の光が物体1に照射され物体1により透過/反射/散乱した光は、または、物体1から発する光は、レンズ光学系11によりCCDやCMOS等の光電変換素子を含む撮像素子12上に光学像を形成する。一般に、レンズ光学系は、様々な光学収差を補正するため、光軸に沿って並んだ複数のレンズからなるレンズ群により構成されるが、
図4では図面を簡略化して単一のレンズとして示している。信号処理部13は、撮像素子12から出力される光電変換信号を処理して画像信号を生成し、生成した画像信号を外部に送出する画像信号出力を備える。なお、本発明の撮像装置10は、赤外光カットの光学フィルタ、電子シャッタ、ビューファインダ、電源(電池)、フラッシュライトなどの公知の構成要素を備え得るが、それらの説明は本発明の実施形態の理解に特に必要でないため省略する。また、以上の構成はあくまでも一例であり、本発明の一実施形態において、レンズ光学系11、撮像素子12、信号処理部13を除く構成要素には、公知の要素を適切に組み合わせて用いることができる。
【0019】
本発明の実施形態の詳細を説明する前に、本発明の実施形態における撮像素子12の概略を説明する。本発明の実施形態の撮像素子12は、微小分光素子101と、光電変換素子102を含む画素とを備える。光電変換素子102を含む画素は、2次元状に複数配列されて画素アレイを構成している。また、微小分光素子101は、2次元状に複数配列されて、分光素子アレイを構成している。互いに隣接する4つの画素は、その一部が1つの分光素子の対応する位置に設けられている。分光素子の対応する位置とは、たとえば分光素子の占める領域から素子面垂直方向に画素アレイへ下ろした投影面に画素アレイの互いに隣接する4つの画素の一部が重なっている状態を含む。
【0020】
図5(a)に、撮像素子12の一例として、画素アレイおよび分光素子アレイを含む撮像素子500の上面から見た構成の一部を示し、
図5(b)に、そのVb-Vb断面における撮像素子500の構成の一部を示し、
図5(c)に、そのVc-Vc断面における撮像素子500の構成の一部を示す。分光素子アレイは画素アレイと対向している。分光素子アレイは、レンズ光学系11からの光が入射する側に配置されている。分光素子アレイと画素アレイとの間、および分光素子アレイのレンズ光学系11側には、透明層111が設けられている。画素アレイの分光素子アレイの反対側には、電気配線112(不図示)が設けられている。
【0021】
分光素子アレイを構成する各微小分光素子101は、厚み(z軸方向の長さ)一定である微細構造パターンを有している。より具体的には、各微小分光素子101は、厚みが一定であるが、上面および下面の形状が配列の位置に応じて異なる微細構造パターンを有している。なお、微小分光素子101の厚みは、位置に応じて厚みが異なる微細構造体でもよい。また、微細構造パターンに制限はなく、様々な配列形態をとり得る。なお、本発明の実施形態の撮像素子12は、マイクロレンズや遮光壁などの公知の構成要素を備え得るが、それらの説明は本発明の概略の理解に特に必要でないため、
図5(a)~5(c)では省略している。
【0022】
本実施形態の説明は、撮像素子12に入射する光を、波長領域毎に第1の波長領域、第2の波長領域、第3の波長領域、および第4の波長領域に分類する。なお、第1から第4の波長領域の組み合わせは、一般に赤(R:波長600nm以上の赤色波長域で光強度のピークを有する)、緑(G:波長500nm~600nmの緑色波長域で光強度のピークを有する)、青(B:波長500nm以下の青色波長域で光強度のピークを有する)の3原色と近赤外光(IR:波長800nm以上の近赤外波長域で光強度のピークを有する)の組み合わせであるが、これに限定されない。例えば、波長領域の組み合わせは、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色と紫外光(UV:波長380nm以下の紫外波長域で光強度のピークを有する)の組み合わせでもよく、赤外光の波長領域における互いに異なる複数の波長領域の組み合わせでもよく、紫外光の波長領域における互いに異なる複数の波長領域の組み合わせでもよい。また、第1~第3の波長領域を互いに異なる波長領域とし、第4の波長領域を第1~第3の波長領域のうちの1つと同じとしてもよい。本発明の実施形態における分光素子アレイを構成する微小分光素子101の各々は、後述する微細構造体に起因する位相遅延効果およびその構造寸法依存性および波長依存性を利用することで、上述した第1から第3の波長領域、または、第1から第4の波長領域に応じて、撮像素子12に入射した光の伝搬方向を変え、画素アレイ上において空間的に光を分離する機能を有する。すなわち、本発明の実施形態では、撮像素子12に入射した光は、各微小分光素子101によって、第1の方向(右上)、第2の方向(右下)、第3の方向(左下)および第4の方向(左上)の4方向に分離し、互いに隣接する4つの画素の一部に入射する。より詳細な例として、微小分光素子101が、赤(R)を第1の方向(右上)に分離し、緑(G)を第2の方向(右下)に分離し、青(B)を第3の方向(左下)に分離し、赤外光(IR)を第4の方向(左上)に分離する場合を説明する。赤(R)の波長領域の光は、第1の方向に広がり幅の広い光(波長成分が並んだ光)として、互いに隣接した4つの画素のうちの赤に対応する画素(緑に対応する画素の上側に隣接し、赤外光に対応する画素の右側に隣接する)に入射する(短波長の光の入射角と長波長の光の入射角が異なる)。緑(G)の波長領域の光は、第2の方向に広がり幅の広い光(波長成分が並んだ光)として、緑に対応する画素(赤に対応する画素の下側に隣接し、青に対応する画素の右側に隣接する)に入射する(短波長の光の入射角と長波長の光の入射角が異なる)。青(B)の波長領域の光は、第3の方向に広がり幅の広い光(波長成分が並んだ光)として、青に対応する画素(緑に対応する画素の左側に隣接し、赤外光に対応する画素の下側に隣接する)に入射する(短波長の光の入射角と長波長の光の入射角が異なる)。赤外光(IR)の波長領域の光は、第4の方向に広がり幅の広い光(波長成分が並んだ光)として、赤外光に対応する画素(赤に対応する画素の左側に隣接し、青に対応する画素の上側に隣接する)に入射する(短波長の光の入射角と長波長の光の入射角が異なる)。
【0023】
また、平面2軸方向(xy平面のx軸方向およびy軸方向)に隣接する4つの微小分光素子101を1つの分光ユニット(分光ユニットは正方形である)とすると、1つの分光ユニットを構成する4つの微小分光素子101の分光機能は互いに異なる。具体的に、1つの分光ユニットは、4種類の微小分光素子を含む。例えば、第1の種類の微小分光素子は、第1の波長領域、第2の波長領域、第3の波長領域の光および第4の波長領域の光を、それぞれ第1の方向(右上)、第2の方向(右下)、第3の方向(左下)および第4の方向(左上)に分離させる分光機能を持つ。第2の種類の微小分光素子は、第1の波長領域、第2の波長領域、第3の波長領域および第4の波長領域の光を、それぞれ第2の方向(右下)、第1の方向(右上)、第4の方向(左上)および第3の方向(左下)に分離させる分光機能を持つ。第3の種類の微小分光素子は、第1の波長領域、第2の波長領域、第3の波長領域および第4の波長領域の光を、それぞれ第3の方向(左下)、第4の方向(左上)、第1の方向(右上)および第2の方向(右下)に分離させる分光機能を持つ。第4の種類の微小分光素子は、第1の波長領域、第2の波長領域、第3の波長領域および第4の波長領域の光を、それぞれ第4の方向(左上)、第3の方向(左下)、第3の方向(右下)および第1の方向(右上)に分離させる分光機能を持つ。
【0024】
したがって、微小分光素子101と光電変換素子102を含む画素との距離を、当該微小分光素子101により第1の方向(右上)に分離された光、当該微小分光素子101の右側に隣接する微小分光素子により第4の方向(左上)に分離された光、当該微小分光素子101の右上側に隣接する微小分光素子により第3の方向(左下)に分離された光、および当該微小分光素子101の上側に隣接する微小分光素子により第2の方向(右下)に分離された光が、当該光電変換素子102に入射する距離にすることで、各々の分光ユニットの直下にある4つの画素(光電変換素子102)は、それぞれ第1、第2、第3および第4の波長領域のいずれかの光のみを受けることになる。画素に光が入射すると、光電変換素子102が入射した光の強度に応じた電気信号(光電変換信号)を出力するため、波長領域に応じた信号(3原色であればカラー情報)を、直接的に取得するようになる。以上の微小分光素子101および微小分光素子に対応した複数の画素(光電変換素子102)が、2次元状に配置されているため、レンズ光学系により形成される物体の光学像の波長領域毎の情報を、特別な信号処理を用いることなく同時に取得することができる。また、この構成では平面2軸方向に沿って光の分離を行うため、任意の画素間における光クロストークの影響が等しくなるため、均一な空間解像度をもつ画像を生成できる。
【0025】
後述する第1の実施形態については、第1から第3の波長領域をR、G、Bの3原色とし、第4の波長領域を第2の波長領域と同じとして、微小分光素子101によってR、G、B、Gの波長領域毎に入射光を4方向に空間的に分離する。すなわち、入射光のほぼすべてがR、G、Bの波長領域に分離された状態で微小分光素子101の直下にある隣接する4つの画素(光電変換素子102)に入射する。なお、4つの画素のうちの2つは、同じ波長領域の光が入射する。したがって、画素(光電変換素子102)から得られる光電変換信号から、カラー情報を直接的に取得することができる。
【0026】
また、後述する第2の実施形態については、第1から第3の波長領域をR、G、Bの3原色とし、第4の波長領域を赤外光IRとし、微小分光素子101が、R、G、B、およびIRの波長領域毎に入射光を4方向に空間的に分離する。すなわち、入射光のほぼすべてがR、G、B、IRの波長領域に分離された状態で微小分光素子101の直下にある隣接する4つの画素(光電変換素子102)に入射する。なお、4つの画素は、すべて異なる波長領域の光が入射する。したがって、画素(光電変換素子102)から得られる光電変換信号から、直接的に、カラー情報とIR情報を取得することができる。
【0027】
本発明の実施形態における撮像素子12によれば、減光型のバンドパスフィルタを用いることなく、微小分光素子101を用いた波長領域毎の光分離により、特別な信号処理を用いることなく、物体の光学像の波長領域毎の情報を取得することができる。すなわち、第1から第4の波長領域をR、G、B、Gの3原色とすれば、カラー画像を取得することができる。したがって、色フィルタを用いた撮像素子と比較して、画素アレイに到達する光総量を増加させることができ、カラー撮像の感度を高めることが可能となる。また、第1から第4の波長領域をR、G、Bの3原色とIRとすれば、カラー画像に加えてIR画像を高感度に同時に取得することができる。さらに、画素アレイ上において平面2軸方向に沿った光分離により各波長域の情報を取得するため、任意の画素間における光クロストークの影響が等しく、均一な空間解像度をもつ画像を生成できることから、非特許文献1および2で開示された技術における課題を解決することができる。さらに、本発明の実施形態に係る撮像素子12は、一般的に採用されているマイクロレンズ形状や画素形状、ベイヤー配置などの画素配置を変更する必要がないため、既存の作製プロセスや撮像システムと整合性が高く、フィルタを微小分光素子に置き換えるだけで効果が得られるといった利点がある。
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明のより実施形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
以下、本実施形態における撮像素子の構成の概略について説明する。
本実施形態では第1から第3の波長領域をR、G、Bの3原色とし、第4の波長領域を第2の領域と同じとし、入射光をR、G、B、Gに分光する形態を示すが、分光される波長領域の数や各波長領域における波長はこれに限られない。たとえば、4つの波長領域のうちの少なくとも1つが3原色以外の波長の光(例えば赤外光や紫外光)であっても良い。
【0029】
図6(a)に、第1の実施形態による撮像素子12の例として、画素アレイおよび分光素子アレイを含む撮像素子600の上面から見た概略構成の一部を模式的に示し、
図6(b)に、そのVIb-VIb断面における撮像素子600の構成の一部を示し、
図6(c)に、そのVIc-VIc断面における撮像素子600の構成の一部を示す。光電変換素子102を含む画素がアレイ状になるように配列された2次元画素アレイ上に、SiO
2等からなる低屈折率の透明層111、および複数のマイクロレンズ103が積層されている。低屈折率の透明層111の内部には、微小分光素子101が埋め込まれている。
【0030】
微小分光素子101は、透明層111の屈折率よりも高い屈折率を有するSiNやTiO2等の材料で形成された複数の微細構造体を含む。複数の微細構造体は、微細構造パターンを有するように形成されている。便宜上、以下の説明において、2次元画素アレイの法線方向をz軸、2次元画素アレイに平行な水平方向をx軸、2次元画素アレイに平行なx軸に垂直な方向をy軸とするxyz直交座標系を設定する。
【0031】
図6(a)~6(c)に示すように、マイクロレンズ103、微小分光素子101および画素(光電変換素子102)はxy平面上において同一の周期で格子状に配置され、それぞれアレイを形成している。各マイクロレンズ103の直下に1つの微小分光素子101が配置されている。また、マイクロレンズアレイおよび微小分光素子アレイは、画素アレイの配置から、アレイ周期(中心間の距離)の1/2の長さ分、x軸およびy軸に沿ってそれぞれシフトしている。微小分光素子101における、x軸方向に隣接する微小分光素子との境界からx軸方向のアレイ周期の1/2の長さの位置、且つy軸方向に隣接する微小分光素子との境界からy軸方向のアレイ周期の1/2の長さの位置を、微小分光素子101の中心とする。このとき、
図6(a)に示すように、微小分光素子101の中心は、当該微小分光素子101の直下にある互いに隣接する4つの微小分光素子101が形成する四角形の中心の直上に位置する。微小分光素子アレイは、入射光を3波長領域毎(R、G、B)に、平面上x軸に対して±45°の方向にそれぞれ平行な4方向に沿って空間的に分離する微小分光素子101からなる。また、隣接する4つの微小分光素子101を1つの分光ユニット601(
図6(a)に二点破線の矩形で示す)とすると、微小分光素子アレイは、分光ユニットが格子状にアレイを形成しているとみることができる。分光ユニットを構成する隣接する4つの微小分光素子101は、3波長領域毎に割り当てられた4つの方向の組み合わせがそれぞれ異なり、ユニットの直下にある4つの画素にそれぞれ同一の波長領域の光が入射するように配置されている。なお、各々の微小分光素子101の直下にある4つの画素のうちの2つは、同じ波長領域の光が入射する。上記のユニットは、同一の分光機能をもつ1種類の微小分光素子を90°回転させて構成してもよく若しくは反転させて構成してもよく、または、4種類の分光機能をそれぞれ実現する4種類の微小分光素子101から構成されていてもよい。
図6(a)に示す分光ユニットは、Rの光(実線)を第1の方向(右上)に分離し、Gの光(破線)を第2の方向(右下)に分離し、Bの光(一点鎖線)を第3の方向(左下)に分離し、Gの光(破線)を第4の方向(左上)に分離させる分光機能をもつ素子を含み、当該素子の右側、下側および右下には当該素子を反時計回りに90°回転させた素子、当該素子を時計回りに90°回転させた素子、および当該素子を反転させた素子をさらに含む。
【0032】
なお、上述の説明では、一例として、正方形の画素(光電変換素子102)からなる直交格子状に配列された2次元画素アレイの場合について説明したが、画素の配列、形状、サイズなどはこの図の例に限らない。また、
図6(a)~6(c)では省略しているが、2次元画素アレイと微小分光素子アレイとの間に、内部マイクロレンズとして動作し、微小分光素子101からの光を画素内の光電変換素子102へと導くように作用するSiNやTiO
2等からなる透明層より高い屈折率の凹凸構造による集光機能を持つ構造体を備え得る。
図6(a)~6(c)に示した構造は、公知の半導体製造技術により作製され得る。
【0033】
なお、
図6(a)~6(c)に示される撮像素子600は、電気配線112が形成された配線層の反対側から光が入射する裏面照射型の構造を有しているが、本実施形態ではこのような構造に限定されず、例えば配線層の側から受光する表面照射型の構造を有していてもよい。
【0034】
以下、本実施形態に係る撮像素子600の各構成要素の働きについて説明する。
撮像素子600に入射する白色の光は、まずマイクロレンズアレイによって集光され、ほぼすべての光が各マイクロレンズ103に対応した微小分光素子101を通過する。各微小分光素子101によって、光は3波長領域毎に4方向に空間的に分離され、各微小分光素子101の直下にある隣接する4つの画素(光電変換素子102)によりそれぞれ受光される。分光ユニットの構成から、微小分光素子アレイの直下にある画素アレイの各画素はR、G、Bのいずれかの波長域の光が入射することになるため、各画素がR、G、Bのいずれかのカラー情報の検出を対応する。なお、
図6(a)~6(c)の例は、4つの画素を1つの画素ユニットとした場合、4つの画素がそれぞれR、G、G、Bの光に対応しているべイヤー配置に適合した一例であって、各微小分光素子101の構成によっては、色成分と伝搬方向の組み合わせは自由に変更可能であり、それに伴って、RGBそれぞれに対応する画素の配置も変更される。最後に、各画素内の光電変換素子102によって光電変換がなされ、カラー情報を含む画像信号として出力される。
【0035】
なお、画素アレイと微小分光素子101との間に、内部マイクロレンズとして動作するSiNやTiO2等からなる透明層より高い屈折率の凹凸構造による集光機能を持つ構造体を備え得るが、後述する微小分光素子101は形成する位相遅延分布によっては、レンズ機能を有することが可能であるため、内部マイクロレンズを省略することも可能である。
【0036】
以下、本実施形態における微小分光素子101について説明する。
微小分光素子101が入射光を3波長領域毎(R、G、B)に、上述の4方向に沿って空間的に分離するには、1つの微小分光素子101を透過する光に対して、波長領域毎に異なる位相遅延分布を与え、光波面を変化させることが必要である。
【0037】
図7(a)~7(c)は、上述した分光特性を実現することが可能な微小分光素子101が有する位相遅延分布の1例である。この例では、
図7(a)に示すように、第1の波長領域(R)に対応する波長の位相遅延分布は、左下から右上に沿って位相遅延量が0から2πまで線形増加する分布を形成しており、
図7(b)に示すように、第2の波長領域(G)に対応する波長の位相遅延分布は、左上から中央に向かって位相遅延量が0からπまで線形増加し、中央から右下に向かって位相遅延量がπから0まで線形減少する分布を形成しており、
図7(c)に示すように、第3の波長領域(B)に対応する波長の位相遅延分布は、右上から左下に沿って位相遅延量が0から2πまで線形増加する分布を形成している。このような位相遅延分布を有する素子を透過した光は、第1の波長領域(R)が右上方向、第2の波長領域(G)が左上および右下方向、第3の波長領域(B)が左下方向に沿って、それぞれ偏向しながら伝搬する。なお、上述の説明は一例であって、位相遅延分布によっては、波長領域と伝搬方向の組み合わせは自由に変更可能である。以上のような位相遅延分布は、後述するように微細構造体の材料、数、形状、サイズ、パターンなどを適切に設計することにより実現することができる。すなわち、本実施形態における微小分光素子101は、微細構造体を2次元平面上に配置し、入射光に対して、波長領域に応じて異なる光波面を与え、色成分を空間的に分離する。
【0038】
図8(a)に、本実施形態における微小分光素子101を構成する微細構造体の一例の上面を示し、
図8(b)に微細構造体の側面図を示す。微細構造体の一例である柱状構造体121は、透明層111の屈折率n
0よりも高い屈折率n
1を有するSiNやTiO
2等の材料から形成されており、構造の厚みhを一定とする。また、柱状構造体121の底面および上面は正方形である。この柱状構造体121は、透明層111と柱状構造体121との間の屈折率差から、光を構造内に閉じ込めて伝搬させる光導波路として考えることができる。したがって、上面側から入射した光は、柱状構造体121内に強く閉じ込められながら伝搬し、光導波路の実効的な屈折率n
effにより決定される位相遅延効果を受けて、底面側から出射する。具体的に、透明層111を構造の厚み分の長さを伝搬した光の位相を基準した際、柱状構造体121による位相遅延量φは、光の真空中での波長をλとおくと、式(1)で表される。
φ=(n
eff-n
0)×2πh/λ ・・・(1)
この位相遅延量φは、光の波長λによって異なるため、同一の柱状構造体121において、光を波長領域(色成分)に応じて異なる位相遅延量を与えることができる。さらに、n
effは柱状構造体121の幅wの関数であることが知られており、n
0<n
eff<n
1の値をとる。したがって、
図8(a)および(b)に示す例では、柱状構造体121の幅wを変化させることで、光の波長λに応じた位相遅延量の多彩な組み合わせを設定することが可能である。また、柱状構造体121の底面および上面が正方形であるため、入射光の偏光(偏波)方向を変化させた場合においても、位相遅延効果を含む光学特性に変化はない。
【0039】
以上のような構造体を
図7(a)~(c)を参照して上述した位相遅延分布に適合するように位置に応じて柱状構造体121の幅wをそれぞれ設定し、2次元平面上に複数配置することで、本実施形態における微小分光素子を実現することができる。また、上述の各柱状構造体121の配置において、周期的な構造に起因する不要な回折光が発生することを防ぐため、光の波長以下の間隔で配置することが望ましい。なお、光を効率的に偏向させるには位相遅延分布が0から2πまで変化する分布が適しているため、それぞれの波長域において、厚み一定の柱状構造体121による位相遅延量の可変範囲は、2π以上有していることが好ましい。したがって、式(1)から、分離する波長域の最も長波長側の波長域における所望の中心波長をλ
rとすると、構造の厚みhは、h=λ
r/(n
1-n
0)以上に設定することが望ましい。上述の例では、柱状構造体121の底面および上面が正方形の場合について説明したが、この形状に限定されない。すなわち、面の中心を対称軸として4回回転対称を含む形状面であれば、分光機能の偏光に対する依存性が生じることは無く、位相遅延効果をもたらす光導波路としての動作も失われることは無い。したがって、正方形、中空正方形、円形、中空円形、十字形状といった4回回転対称となる面をもつ柱状構造体を採用することが望ましい。このような厚み一定の微細構造体からなる微小分光素子は、例えば、非特許文献2に開示されている。
【0040】
また、本実施形態における微小分光素子101は、上述の柱状構造体121に限定されることなく、様々な形態の微細構造を用いることができる。例えば、非特許文献3に開示されているような、計算機によって最適化された構造パターンを持つ厚みが一定の微細構造体は、上述した原理と同様の原理で波長領域毎に位相遅延分布を形成することができ、色成分を空間的に分離することが可能である。さらに、式(1)より、柱状構造体121の幅wに加えて構造の厚みhを変化させることで、光の波長λに応じた位相遅延量のより多彩な組み合わせを設定することが可能である。したがって、上述の位相遅延分布に適合するように微細構造体が配置される位置に応じて微細構造体の幅wおよび厚みhをそれぞれ設定し、2次元平面上に複数配置することでも、本実施形態における微小分光素子を実現することができる。
【0041】
上述した分光機能をもつ微小分光素子101は、公知の半導体製造技術により、薄膜堆積およびパターニングを実行することにより、作製され得る。
【0042】
以上のように、微小分光素子を構成する構造体の材料、数、形状、サイズ、パターンなどを適切に設計することにより、所望の分光特性を与えることが可能である。その結果、上述したように、個々の画素に所望の波長領域の光を分離して入射させることが可能となり、各画素内の光電変換素子から出力される光電変換信号から、波長領域に対応する信号を直接取得することができる。また、微小分光素子を構成する材料が低損失であれば、光損失はほとんど生じないため、従来技術のフィルタを用いた撮像素子と比較して、画素アレイに到達する光総量を飛躍的に増加させることができ、カラー撮像の感度を高めることが可能となる。また、画素アレイ上において平面2軸方向に沿った光分離により各波長領域の情報を取得するため、任意の画素間における光クロストークの影響が等しく、均一な空間解像度をもつ画像を生成することが可能である。また、本実施形態では、単一の分光素子アレイの形態を用いた撮像素子を説明するが、単一の分光素子アレイの代わりに、複数の分光素子アレイをz軸方向に重ねた形態を用いて、撮像素子を実現することも可能である。すなわち、単一の分光素子アレイを構成する微小分光素子101が、入射する光を2次元の方向(平面2軸方向)に分光してもよく、光の伝搬方向(z軸方向)に重ねられた複数の微小分光素子が、入射する光を2次元の方向に分光してもよい。なお、各微小分光素子の分光性能が上述した理想的な性能と多少異なっていても、性能の差異の程度に応じて、取得した信号を補正・演算することによって良好な色情報を得ることが可能である。
【0043】
なお、微小分光素子による色成分の分離後において、画素アレイ上での画素間の光クロストークを最小にするには、分離した各光が各画素の中心近傍に入射することが望ましい。したがって、微小分光素子によって偏向する光の伝搬方向と画素アレイの法線方向との角度をθ、画素アレイの周期をPとすると、微小分光素子の出力端と光電変換素子との間隔が20.5P/tanθの近傍であることが好ましい。
【0044】
以上の説明では、微小分光素子のみを用いた場合の撮像素子について述べた。次に、減色型の色フィルタを併用した際の変形例について説明する。
【0045】
図9(a)に、本実施形態の変形例に係る画素アレイおよび分光素子アレイを含む撮像素子900を示し、
図9(b)に、そのIXb-IXb断面における撮像素子900の構成の一部を示し、
図9(c)に、そのIXc-IXc断面における撮像素子900の構成の一部を示す。
図6(a)~6(c)に示した撮像素子600との差異は、色成分に対応した画素の上方に、画素の色にそれぞれ対応した色フィルタ104
R、104
G、104
Bを配置している点であり、その他は同一である。この構成の場合、入射光は、微小分光素子101によって色分離された後に、画素(光電変換素子102)の直上において色フィルタ104によってフィルタリングされる。この場合、色分離後に色フィルタ104を透過するため、従来技術の色フィルタのみの構成に比べて、光利用効率が向上する一方、2つの素子を透過する必要があるため、微小分光素子101のみの構成に比べて、光利用効率は減少する。また、微小分光素子101の分光特性と色フィルタ104のフィルタリング特性が掛け合わされ、不要な色成分がより排除された状態で各画素に入射するため、色フィルタ104のみの構成および微小分光素子101のみの構成に比べて、色再現性が大きく向上する。したがって、光利用率、すなわち感度と色再現性のバランスがよい構成といえる。
【0046】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態における撮像素子の構成の概略について説明する。
図10(a)に、撮像素子12の例として、画素アレイおよび分光素子アレイを含む撮像素子1000の上面から見た概略構成の一部を模式的に示し、
図10(b)に、そのXb-Xb断面における撮像素子1000の構成の一部を示し、
図10(c)に、そのXc-Xc断面における撮像素子1000の構成の一部を示す。
図10(a)~10(c)から明らかなように、本実施形態の撮像素子1000および撮像素子1000を用いた撮像装置10は、第1から第4の波長領域をR、G、Bの3原色と、赤外光(IR)とし、微小分光素子101によってR、G、B、およびIRの波長領域毎に、入射光を4方向に空間的に分離する点が第1の実施形態の撮像素子と比較して異なる。したがって、入射光のほぼすべてがR、G、B、およびIRの波長領域に分離された状態で微小分光素子101の直下にある4つの画素(光電素子102
R、102
G、102
B、102
IR)に入射する。なお、その他の構成要素は第1の実施形態の撮像素子と同一である。以下、第1の実施形態との相違点を中心に説明し、重複する点は説明を省略する。
【0047】
図10(a)~10(c)に示されているように、マイクロレンズ103、微小分光素子101、画素(光電変換素子102)は、xy平面上において同一の周期で格子状に配置され、それぞれアレイを形成しており、各マイクロレンズ103の中心軸上に1つの微小分光素子101が配置されている。また、マイクロレンズアレイおよび微小分光素子アレイは、画素アレイの配置から、アレイ周期の1/2の長さ分、x軸およびy軸に沿ってそれぞれシフトしている。微小分光素子アレイは、入射光を4波長領域毎(R、G、B、IR)に、x軸に対して±45°の方向にそれぞれ平行な4方向に沿って空間的に分離する微小分光素子101からなる。また、隣接する4つの微小分光素子を1つの分光ユニットとすると(
図10(a)に二点破線の矩形で示す)、微小分光素子アレイは、分光ユニットが格子状にアレイを形成しているとみることができる。分光ユニットを構成する微小分光素子101は、4波長領域毎に割り当てられた4つの方向の組み合わせがそれぞれ異なり、ユニットの直下にある4つの画素にそれぞれ同一の波長領域の光が入射するように配置されている。なお、4つの画素は、すべて異なる波長領域の光が入射する。上記のユニットは、同一の分光機能をもつ1種類の微小分光素子を90°回転させて構成してもよく若しくは反転させて構成してもよく、または、4種類の分光機能をそれぞれ実現する4種類の微小分光素子101から構成されていてもよい。
図10(a)に示す分光ユニットは、Rの光(実線)を第1の方向(右上)に分離し、Gの光(破線)を第2の方向(右下)に分離し、Bの光(一点鎖線)を第3の方向(左下)に分離し、IRの光(二点破線)を第4の方向(左上)に分離させる分光機能をもつ素子を含み、当該素子の右側、下側および右下には当該素子を反時計回りに90°回転させた素子、当該素子を時計回りに90°回転させた素子、および当該素子を反転させた素子をさらに含む。
【0048】
撮像素子1000に入射する白色の光は、まずマイクロレンズアレイによって集光され、ほぼすべての光が各マイクロレンズ103に対応した微小分光素子101を通過する。各微小分光素子101によって、光は4波長領域毎に4方向に空間的に分離され、各微小分光素子101の直下にある4画素(光電変換素子102)によりそれぞれ受光される。分光ユニットの構成から、微小分光素子アレイの直下にある画素アレイの各画素はR、G、B、およびIRのいずれかの波長域の光が入射することになるため、各画素がR、G、B、IRのいずれかの波長領域情報の検出に対応する。なお、各微小分光素子101の構成によっては、波長領域と伝搬方向の組み合わせは自由に変更可能であり、それに伴って、R、G、BおよびIRそれぞれに対応する画素の配置も変更される。最後に、各画素内の光電変換素子102によって光電変換がなされ、カラー情報とIR情報を含む画像信号として出力される。
【0049】
図11(a)~11(c)は、入射光の4波長領域毎(R、G、B、IR)の空間的な分離を実現する位相遅延分布の1例である。この例では、
図11(a)に示すように、第1の波長領域(R)に対応する波長の位相遅延分布は、左下から右上に沿って位相遅延量が0から2πまで線形増加する分布を形成しており、
図10(b)に示すように、第2の波長領域(G)に対応する波長の位相遅延分布は、左上から右下に向かって位相遅延量が0から2πまで線形増加する分布を形成しており、
図10(c)に示すように、第3の波長領域(B)に対応する波長の位相遅延分布は、右上から左下に沿って位相遅延量が0から2πまで線形増加する分布を形成しており、
図10(d)に示すように、第4の波長領域(IR)に対応する波長の位相遅延分布は、右下から左上に向かって位相遅延量が0から2πまで線形増加する分布を形成している。このような位相遅延分布を有する素子を透過した光は、第1の波長領域(R)が右上方向、第2の波長領域(G)が右下方向、第3の波長領域(B)が左下方向、第4の波長領域(IR)が左上方向に沿って、それぞれ偏向しながら伝搬する。なお、上述の説明は一例であって、位相遅延分布によっては、波長領域と伝搬方向の組み合わせは自由に変更可能である。以上のような位相遅延分布は、第1の実施形態の撮像素子と同様に微細構造体の材料、数、形状、サイズ、パターンなどを適切に設計することにより実現することができる。
【0050】
以上より、本実施形態の構成において、カラー情報に加えてIR情報も同時に取得することができる。本実施形態は、上記以外は第1の実施形態と同様であり、第1の実施形態で説明したものと同様の効果を有し、また、同様の変更が可能である。
【0051】
上述した第1の実施形態1および第2の実施形態は、本発明の好適な具体例に過ぎず、本発明はこれらに限定されず、種々の変更が可能である。
【0052】
上述した第1の実施形態および第2の実施形態では、微小分光素子の材料としてSiNやTiO2を想定した例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、本発明の実施形態の撮像素子を光の波長が380~1000nmの範囲の可視光~近赤外光領域で用いる場合は、微小分光素子の材料には、SiN、SiC、TiO2、GaN等の材料が、屈折率が高く、吸収損失が少ないため適している。また、波長が800~1000nmの範囲の近赤外光に対しては、これらの光に対して低損失な材料として、Si、SiC、SiN、TiO2、GaAs、GaN等の材料が適している。さらに長波長体の近赤外領域(通信波長である1.3μmや1.55μm等)では、上述の材料に加えて、InP等を用いることができる。さらに、貼り付け、塗布して微小分光素子を形成する場合、フッ素化ポリイミド等のポリイミド、BCB(ベンゾシクロブテン)、光硬化性樹脂、UVエポキシ樹脂、PMMA等のアクリル樹脂、レジスト全般などのポリマー等が材料として挙げられる。
【0053】
また、第1の実施形態および第2の実施形態では、透明層111の材料としてSiO2を想定した例を示したが、本発明はこれに限定されない。一般的なガラス材料、SiO2、空気層等、屈折率が微小分光素子101の材料の屈折率より低く、入射光の波長に対して低損失なものであれば何でもよい。
【0054】
以上、本発明の実施形態に係る撮像素子および当該撮像素子を用いた撮像装置に基づいて説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。