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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120114
(43)【公開日】2024-09-04
(54)【発明の名称】藻類の培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/12 20060101AFI20240828BHJP
【FI】
C12N1/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021079124
(22)【出願日】2021-05-07
(71)【出願人】
【識別番号】504202472
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人情報・システム研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(72)【発明者】
【氏名】宮城島 進也
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 俊亮
(72)【発明者】
【氏名】藤原 崇之
(72)【発明者】
【氏名】杉本 諒
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA83X
4B065AC14
4B065BB02
4B065BB04
4B065BC03
4B065BC06
4B065BC48
(57)【要約】
【課題】単細胞性の紅藻、緑藻、珪藻及び藍藻からなる群より選択される少なくとも一種の藻類の有機炭素源を添加した培地での培養において、前記藻類の生育を向上させる培養方法を提供する。
【解決手段】藻類を前記藻類の細胞内のNADH/NAD比を減少させる条件下で、有機炭素源を添加した培地で培養することを含み、前記藻類が、単細胞性の紅藻、緑藻、珪藻及び藍藻からなる群より選択される少なくとも一種の藻類である、藻類の培養方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
藻類を前記藻類の細胞内のNADH/NAD比を減少させる条件下で、有機炭素源を添加した培地で培養することを含み、
前記藻類が、単細胞性の紅藻、緑藻、珪藻及び藍藻からなる群より選択される少なくとも一種の藻類である、藻類の培養方法。
【請求項2】
前記培養が通気培養である、請求項1に記載の藻類の培養方法。
【請求項3】
前記通気培養において、前記藻類が培養される培地に吹き込まれる気体の酸素濃度が、通常大気の酸素濃度を超える、請求項2に記載の藻類の培養方法。
【請求項4】
前記培地が液体培地であり、前記培地に吹き込まれる気体の前記液体培地1mL当たりの通気量が、1~400mL/min・mLである、請求項2又は3に記載の藻類の培養方法。
【請求項5】
前記培養を、窒素源として硝酸塩、亜硝酸塩、硝酸イオン(NO )、及び亜硝酸イオン(NO )からなる群より選択される少なくとも一種を含む培地を用いて行う、請求項1~4のいずれか一項に記載の藻類の培養方法。
【請求項6】
前記培養を暗所で行う、請求項1~5のいずれか一項に記載の藻類の培養方法。
【請求項7】
前記藻類が、シアニディオシゾン(Cyanidioschyzon)属に属する、請求項1~6のいずれか一項に記載の藻類の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻類の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
藻類は、陸上植物と比較して、高い二酸化炭素固定能力を有すること、及び農産物と生育場所が競合しないことから、いくつかの種は、大量培養されて、飼料、機能性食品、化粧品材料等として産業的に利用されている。
【0003】
藻類を産業利用する場合には、コスト面や培養管理が容易であること等から、容易に効率よく培養できることが好ましい。
【0004】
例えば、非特許文献1及び非特許文献2では、シアニディオシゾン・メロラエ(Cyanidioschyzon merolae)を従属栄養培養することが可能であることが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Takashi Moriyama, Natsumi Mori, and Naoki Sato. Activation of oxidative carbon metabolism by nutritional enrichment by photosynthesis and exogenous organic compounds in the red alga Cyanidioschyzon merolae: evidence for heterotrophic growth. SpringerPlus (2015) 4:559.
【非特許文献2】Takashi Moriyama, Natsumi Moril, Noriko Nagata, and Naoki Sato. Selective loss of photosystem I and formation of tubular thylakoids in heterotrophka11y grown red alga cyanidioschyzon merolae. Photosynthesis Research (2019) 140, 275-287.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従属栄養培養では、有機炭素源を供給することで、高効率に藻類を培養可能とも考えられる。しかし、非特許文献1及び非特許文献2で報告されるシアニディオシゾン・メロラエなど、従属栄養条件下で独立栄養条件下よりも生育が抑制される場合がある。
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたものであり、単細胞性の紅藻、緑藻、珪藻及び藍藻からなる群より選択される少なくとも一種の藻類の、有機炭素源を添加した培地での培養において、前記藻類の生育を向上させる培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を含む。
(1) 藻類を前記藻類の細胞内のNADH/NAD比を減少させる条件下で、有機炭素源を添加した培地で培養することを含み、
前記藻類が、単細胞性の紅藻、緑藻、珪藻及び藍藻からなる群より選択される少なくとも一種の藻類である、藻類の培養方法。
(2) 前記培養が通気培養である、前記(1)に記載の藻類の培養方法。
(3) 前記通気培養において、前記藻類が培養される培地に吹き込まれる気体の酸素濃度が、通常大気の酸素濃度を超える、前記(2)に記載の藻類の培養方法。
(4) 前記培地が液体培地であり、前記培地に吹き込まれる気体の前記液体培地1mL当たりの通気量が、1~400mL/min・mLである、前記(2)又は(3)に記載の藻類の培養方法。
(5) 前記培養を、窒素源として硝酸塩、亜硝酸塩、硝酸イオン(NO )、及び亜硝酸イオン(NO )からなる群より選択される少なくとも一種を含む培地を用いて行う、前記(1)~(4)のいずれか一つに記載の藻類の培養方法。
(6) 前記培養を暗所で行う、前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の藻類の培養方法。
(7) 前記藻類が、シアニディオシゾン(Cyanidioschyzon)属に属する、前記(1)~(6)のいずれか一つに記載の藻類の培養方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、単細胞性の紅藻、緑藻、珪藻及び藍藻からなる群より選択される少なくとも一種の藻類の、有機炭素源を添加した培地での培養において、前記藻類の生育を向上させる培養方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】細胞内でのNADHの生成と酸化の過程の一例を説明する模式図である。
図2】各培養条件で培養したシアニディオシゾン・メロラエの細胞内のNADH/NAD比を測定した結果である。
図3】旋回培養と通気培養とで、シアニディオシゾン・メロラエの生育状況を比較した結果を示すグラフである。
図4】旋回培養での、シアニディオシゾン・メロラエの継代後の生育状況を示すグラフである。
図5】通気培養での、シアニディオシゾン・メロラエの継代後の生育状況を示すグラフである。
図6】通常大気での通気培養と、酸素添加大気での通気培養とで、シアニディオシゾン・メロラエの生育状況を比較した結果を示すグラフである。
図7】通常大気での通気培養と、酸素添加大気での通気培養とで、シアニディオシゾン・メロラエの生育状況を比較した結果を示すグラフである。
図8】培地に含まれる窒素源をNH からNO -に変更した旋回培養での、シアニディオシゾン・メロラエの生育状況を比較した結果を示すグラフである。
図9】培地に含まれる窒素源をNH からNO -に変更した通気培養での、シアニディオシゾン・メロラエの生育状況を比較した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の藻類の培養方法の実施形態を説明する。
【0012】
≪藻類の培養方法≫
実施形態の培養方法は、藻類を前記藻類の細胞内のNADH/NAD比を減少させる条件下で、有機炭素源を添加した培地で培養することを含み、前記藻類が、単細胞性の紅藻、緑藻、珪藻及び藍藻からなる群より選択される少なくとも一種の藻類である方法である。
【0013】
「有機炭素源を添加した培地で培養」するとは、藻類が有機炭素源を資化して生育するように培養することをいう。上記の有機炭素源を資化して生育することは、培養される藻類が利用する有機炭素源の少なくとも一部について、藻類自身が光合成により生合成した有機炭素源以外の有機炭素源が外部から培地に供給されて資化されることを意味する。「有機炭素源を添加した培地で培養すること」としては、「従属栄養条件」及び「混合栄養条件」での培養を含む概念である。「従属栄養条件」とは、光照射がなく、且つ有機炭素源が存在する条件をいう。「混合栄養条件」とは、光照射があり、且つ有機炭素源が存在する条件をいう。なお、「独立栄養条件」とは、光照射があり、且つ有機炭素源が存在しない条件をいう。ここでいう有機炭素源とは、培養される藻類自身が光合成により生合成した有機炭素源又はそれに由来する有機炭素源に該当しない、新たに培養系に添加された有機炭素源である。
実施形態の培養方法において、前記藻類は、従属栄養条件下で培養してもよく、混合栄養条件下で培養してもよい。
【0014】
従来の培養方法では、例えば、シアニディオシゾン・メロラエ(以下単に「シゾン」ともいう)は、暗所(従属栄養条件下)では、6~7回細胞分裂すると生育が停止してしまい、最大到達藻密度に上限が生じる。継代を行っても同様に生育が停止してしまうことから、生育の停止は藻密度の上昇や栄養源の枯渇に起因するものではないと考えられる。また即ち、従来の培養方法では従属栄養条件下で培養した場合、継代による長期間の培養維持ができないという問題があった。
【0015】
本発明者らの検討により、後述の実施例にて示されるとおり、「従属栄養条件」及び「混合栄養条件」下で培養されたシゾンの細胞内のNADH/NAD比の値が、「独立栄養条件」下で培養されたシゾンの細胞内のNADH/NAD比の値よりも、上昇しているとの知見を得た。
この知見に基づき、有機炭素源を添加した培地での藻類の培養において、藻類の細胞内のNADH/NAD比を減少させる条件下で培養を行うことで、藻類の生育を向上可能であることを見出だした。
【0016】
前記藻類の生育が向上したことは、「従属栄養条件」又は「混合栄養条件」下で、藻類の細胞内のNADH/NAD比を減少させる条件を適用していない従来の培養方法よりも、藻類の細胞内のNADH/NAD比を減少させる条件を適用した培養方法で培養した場合に、前記藻類の増殖速度が向上されること、最大到達藻密度が向上すること、及び継代も含めた増殖期間が増加すること、のいずれか一つ以上が達成されることで確認できる。
【0017】
図1は、細胞内でのNADHの生成と酸化の過程の一例を説明する模式図である。NADHの生成については、例えば、解糖系やTCAサイクルでグルコースやグリセロール等の有機炭素源が利用される過程において、NADが還元されNADHが生成される。
NADの生成については、例えば、呼吸や嫌気発酵(不図示)によりNADHが消費されNADが生成される。
したがって、有機炭素源を添加した「従属栄養条件」又は「混合栄養条件」下での培養では、有機炭素源の消費(NADH生産)及び/又は呼吸の制限(NADH消費の抑制)が生じ易く、細胞内のNADH量が多くなり、NADH/NADのアンバランスが生じていると考えられる。
【0018】
実施形態の藻類の培養方法は、有機炭素源を添加した培地での培養で、細胞内のNADHの消費を助け、細胞内のNADH/NAD比の値を減少させることで、藻類の生育を改善するものである。細胞内のNADH量を減少させることで藻類の生育を改善する仕組みについては、必ずしも明らかではない。しかし例えば、NADH量が高まるとNADHの生成に関わる解糖系やTCAサイクルが抑制されることが知られており、細胞内のNADH量を減少させることで、抑制されていた代謝経路の進行が改善されることが推察される。
【0019】
“細胞内のNADH/NAD比を減少させる条件”としては、特に制限されるものではないが、実施容易であり、且つ優れた生育改善の効果が得られるとの観点から、以下の2つを例示できる。
1)培地への酸素供給を増加させること
2)電子受容体を含む培地を用いること
【0020】
上記の2)としては、以下が好ましい。
2-1)特定の窒素源を含む培地を用いること
【0021】
後述の実施例に示されるとおり1)培地への酸素供給を増加させることのみでも優れた生育改善の効果が得られる。また2-1)特定の窒素源を含む培地を用いることのみでも優れた生育改善の効果が得られる。更に1)培地への酸素供給を増加させ、且つ2-1)特定の窒素源を含む培地を用いることの両方を行うことにより、より一層優れた生育改善の効果が得られる。
上記1)及び2)の詳細について以下に説明する。
【0022】
1)酸素供給
酸素供給を増加させることにより、例えば、下記反応が促進されて、藻類の細胞内でのNADHの消費が促進されると考えられる。
2H+ + 1/2O2 + 2NADH → H2O +2NAD+
【0023】
実施形態の藻類の培養方法は、“細胞内のNADH/NAD比を減少させる条件”として例示した、上記1)の培地への酸素供給を増加させる方法の一例として、前記培養が通気培養である方法を例示する。
【0024】
実施形態の藻類の培養方法は、有機炭素源を添加した培地で前記藻類を通気培養することを含む方法であることが好ましい。
【0025】
ここで通気培養とは、藻類を培養する培地中に気体を吹込む(通気又はバブリングともいう)ことで、培地への酸素供給量を増加させる方法である。効率的な酸素供給の観点から、気泡発生装置を用いて、通気される気体の気泡を微細化して通気してもよい。通気対象の培地は液体培地であることが好ましい。
【0026】
通気される気体は酸素を含有する気体であればよく、実施容易の観点から、通常大気であってもよい。通常大気の酸素濃度は約21体積%である。通気される気体としては、例えば、酸素濃度21体積%以上の気体が挙げられる。
【0027】
通気される気体の流量は、液体培地50mLに対して、例えば、50~20000mL/minであってよく、50~10000mL/minであってよく、100~1000mL/minであってよく、200~900mL/minであってよく、300~800mL/minであってよく、400~700mL/minであってよい。液体培地1mL当たりの通気量としては、例えば、1~400mL/min・mLであってよく、1~200mL/min・mLであってよく、2~20mL/min・mLであってよく、4~18mL/min・mLであってよく、6~16mL/min・mLであってよく、8~14mL/min・mLであってよい。
【0028】
通気される気体の酸素濃度は特に制限されるものではないが、通常大気よりも酸素濃度の高い気体を通気することが、酸素供給効率を容易に向上可能であるため好ましい。
実施形態の藻類の培養方法は、前記藻類が培養される培地に通気される気体の酸素濃度が、通常大気の酸素濃度を超えることが好ましい。
【0029】
通気される気体の酸素濃度の一例として、気体の総体積に対して、25~100体積%の酸素を含有する気体であってよく、30~90体積%の酸素を含有する気体であってよく、40~80体積%の酸素を含有する気体であってよい。
【0030】
当該気体としては、大気に酸素を添加して得られる大気及び酸素の混合気体を例示できる。
通気される気体の一例として、気体の総体積に対して、25~100体積%の酸素を含有するよう大気に酸素が添加された気体であってよく、30~90体積%の酸素を含有するよう大気に酸素が添加された気体であってよく、40~80体積%の酸素を含有するよう大気に酸素が添加された気体であってよい。
【0031】
実施形態の藻類の培養方法は、有機炭素源を添加した培地で前記藻類を通気培養することを含み、前記通気培養は、例えば、通気させる気体の総体積に対して25~100体積%の酸素を含有する気体を、液体培地50mLに対して50~20000mL/min(液体培地1mL当たりの通気量として1~400mL/min・mL)の流量で通気させる培養であってよく、
通気させる気体の総体積に対して30~90体積%の酸素を含有する気体を、液体培地50mLに対して100~1000mL/min(液体培地1mL当たりの通気量として2~20mL/min・mL)の流量で通気させる培養であってよく、
通気させる気体の総体積に対して40~80体積%の酸素を含有する気体を、液体培地50mLに対して300~800mL/min(液体培地1mL当たりの通気量として6~16mL/min・mL)の流量で通気させる培養であってよい。
【0032】
前記培地の40℃での溶存酸素量(DO,Dissolved Oxygen)の一例としては、0.5mg/L以上であってもよく、6.3mg/L以上であってよい。前記培地の40℃での溶存酸素量の上限値は特に制限されるものではないが、好ましくは6.3~30mg/Lであってよく、より好ましくは13~27mg/Lであってよく、さらに好ましくは19~24mg/Lであってよい。
上記の数値範囲内で溶存酸素量を含む培地は、前記藻類の生育を効果的に向上させることができる。
【0033】
なお、ここでは、培地への効率的な酸素供給の例として通気培養を主に例示したが、例えば、通常大気の酸素濃度を超える酸素濃度下での旋回培養や、撹拌翼による混合、静置培養を行い、培地への酸素供給を増加させることを行ってもよい。
【0034】
<培地>
実施形態の藻類の培養方法に用いる培地は、上述のとおり液体培地が好ましいが、固体培地であってもよく、液体培地を用いることが好ましい。
【0035】
培地の組成は、特に限定されず、培養する藻類の種類に応じて適宜適切なものを選択すればよい。培地としては、例えば、窒素源、リン源、鉄源、微量元素(亜鉛、ホウ素、コバルト、銅、マンガン、モリブデンなど)等を含む無機塩培地が例示される。例えば、窒素源としては、アンモニウム塩、硝酸塩、亜硝酸塩、尿素、アミン類等が挙げられ、リン源としては、リン酸塩、亜リン酸塩等が挙げられ、鉄源としては、塩化鉄、硫酸鉄、クエン酸鉄等が挙げられる。培地の具体例としては、例えば、2×Allen培地(Allen MB. Arch. Microbiol. 1959 32:270-277.)、M-Allen培地(Minoda A et al. Plant Cell Physiol. 2004 45: 667-71.)、MA2培地(Ohnuma M et al. Plant Cell Physiol. 2008 Jan;49(1):117-20.)等が挙げられる。なお、本明細書においては、M-Allen培地を「MA培地」と記載することがある。
【0036】
有機炭素源を添加した培地における有機炭素源としては、例えば、糖アルコール、糖、アミノ酸等が挙げられる。糖アルコールとしては、例えば、グリセロールが挙げられる。糖としては、例えば、グルコース、マンノース、フルクトース、スクロース、マルトース、ラクトース糖が挙げられる。藻類がイデユコゴメ綱に属する藻類である場合、有機炭素源としては、グルコース、グリセロールが挙げられ、グリセロールが好ましい。
【0037】
2)電子受容体
実施形態の藻類の培養方法は、上記の“細胞内のNADH/NAD比を減少させる条件“として2)電子受容体を含む培地を用いることができる。
実施形態の藻類の培養方法は、有機炭素源を添加した培地で前記藻類を培養することを含み、前記培地が電子受容体を含む方法であることが好ましい。
別の側面として、実施形態の藻類の培養方法は、有機炭素源及び電子受容体を添加した培地で前記藻類を培養することを含む方法であることが好ましい。
前記電子受容体としては、ピルビン酸、リンゴ酸等を例示できる。
【0038】
2-1)窒素源
また、上記2)における電子受容体として、特定の窒素源を例示でき、前記特定の窒素源として、硝酸塩、亜硝酸塩、硝酸イオン(NO )、及び亜硝酸イオン(NO )からなる群より選択される少なくとも一種を含む培地を用いて前記培養を行うことが好ましい。なお、培地中に配合された硝酸塩は、通常、電離して硝酸イオンを生じる。培地中に配合された亜硝酸は、通常、電離して亜硝酸イオンを生じる。
【0039】
上記の特定の窒素源を含む培地を用いることにより、培養される藻類におけるNADHの消費が促進される。これは、上記の硝酸イオン等を利用するには、硝酸イオン(NO )→亜硝酸イオン(NO )→アンモニウムイオン(NH )への変換が必要となり、この過程でNADHが消費されるためと考えられる。
【0040】
より多くのNADHの消費が期待できることから、窒素源として硝酸塩及び硝酸イオン(NO )、からなる群より選択される少なくとも一種を含む培地を用いて前記培養を行うことがより好ましい。即ち、前記培地に配合される窒素源としては、実質的に硝酸塩及び/又は硝酸イオンのみが含有されることが好ましい。例えば、培地は、アンモニウム塩及びアンモニウムイオン(NH )を含まないことが好ましい。
【0041】
従来、明所でシアニディオシゾン・メロラエを培養する場合に、硝酸イオンを窒素源とするほうが、アンモニウムイオンを窒素源とするよりも生育が低下することが知られていた(S. Imamura et al., Plant Cell Physiol. 51(5): 707-717 (2010)。
このような知見を踏まえると、従属栄養条件下で上記の特定の窒素源を含む培地を用いることで、藻類の生育が向上されることは予想外の結果である。
【0042】
前記培地に配合される窒素源から生じることのできるアンモニウムイオン(NH )、硝酸イオン(NO )、及び亜硝酸イオン(NO )の総量に対する、硝酸イオン(NO )及び亜硝酸イオン(NO )の総量は、モル基準で、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、実質的に硝酸イオン(NO )又は亜硝酸イオン(NO )のみであることがさらに好ましい。
【0043】
なお、上述のとおり1)培地への酸素供給を増加させることの一例として、通気培養を例示したが、後述の実施例に示されるとおり、例えば2)特定の窒素源を含む培地を用いることのみであっても、優れた生育向上の効果が得られる。そのため、通気培養以外の“細胞内のNADH/NAD比を減少させる条件”を採用した場合の培養方法は、通気培養には限定されず、藻類の培養方法として一般的に用いられる方法を適宜用いることができる。具体例としては、静置培養、旋回培養(100~200rpmなど)等が挙げられる。
【0044】
また、通気培養との組み合わせを行ってもよく、通気培養としては、上記に例示した方法が挙げられる。
【0045】
実施形態の藻類の培養方法は、有機炭素源を添加した培地で藻類を培養することを含み、液体培地50mLに対して50~10000mL/min(液体培地1mL当たりの通気量として1~200mL/min・mL)の流量で通気させる通気培養を行う方法であることが好ましく、且つ、前記培養を、窒素源として硝酸塩、亜硝酸塩、硝酸イオン(NO )、及び亜硝酸イオン(NO )からなる群より選択される少なくとも一種を含む培地を用いて行う方法であることが好ましい。
【0046】
実施形態の藻類の培養方法は、有機炭素源を添加した培地で藻類を培養することを含み、前記培養が通気させる気体の総体積に対して25~100体積%の酸素を含有する気体を、液体培地50mLに対して50~10000mL/min(液体培地1mL当たりの通気量として1~200mL/min・mL)の流量で通気させる通気培養を行う方法であることが好ましく、且つ、前記培養を、窒素源として硝酸塩、亜硝酸塩、硝酸イオン(NO )、及び亜硝酸イオン(NO )からなる群より選択される少なくとも一種を含む培地を用いて行う方法であることが好ましい。
【0047】
培地のpHとしては、培養する対象の藻類に応じて適宜定めることができる。例えば、イデユコゴメ綱に属する藻類の場合は、酸性条件でより良好に増殖することができるため、pH1~6が好ましく、pH1~5がより好ましく、pH1~3がさらに好ましい。
【0048】
<その他の培養条件>
前記培養における温度条件は、藻類の種類に応じて適宜選択すればよい。一般的には、培養温度は、15~60℃を例示することができ、好ましくは15~50℃、さらに好ましくは30~50℃である。藻類が、イデユコゴメ綱に属する藻類である場合、培養温度は30~50℃が好ましい。
【0049】
培養におけるCO条件は、藻類の種類に応じて適宜選択すればよい。一般的には、0.04~5%CO条件を例示することができる。藻類がイデユコゴメ綱に属する藻類である場合、0.04~3%CO条件が好ましい。
【0050】
前培養における光条件は、藻類の種類に応じて適宜選択すればよい。一般的には、5~2000μmol/msを例示することができる。藻類が、イデユコゴメ綱に属する藻類である場合、5~1500μmol/msが好ましく、5~100μmol/msがより好ましい。光条件は、連続光であってもよく、明暗周期(10L:14Dなど)を設けてもよい。培養は、自然光下で行ってもよい。
【0051】
従属栄養条件又は混合栄養条件下を与えやすいとの観点からは、前記培養における光条件は、光補償点未満であることが好ましく、一例として、0~20μmol/msであってよく、0~10μmol/msであってよく、0~5μmol/msであってよい。
【0052】
実施形態の藻類の培養方法は、前記培養を暗所で行うことが好ましい。ここで「暗所」とは5μmol/ms未満を意味し、0μmol/msが好ましい。
【0053】
暗所では、藻類は従属栄養条件で培養されて有機炭素源が消費(NADH生産)され、光合成も制限されるため呼吸の制限(NADH消費の抑制)が生じ易い。そのため、細胞内のNADH/NAD比を減少させることによる、藻類の生育向上の効果が、より効果的に発揮される。
【0054】
培養期間中、藻類は、適宜継代して培養してもよい。液体培地で増殖させる場合、継代の間隔としては、例えば、10日~50日、又は15~30日が挙げられる。
【0055】
培養期間は特に制限されないが、継代も含めた培養期間が連続で30日以上であることが好ましく、40日以上であることがより好ましく、80日以上であることがさらに好ましい。継代も含めた暗所での培養期間が、連続暗期で30日以上であることが好ましく、40日以上であることがより好ましく、80日以上であることがさらに好ましい。
【0056】
<藻類>
実施形態の培養方法の培養対象の藻類は、単細胞性の紅藻、緑藻、珪藻及び藍藻からなる群より選択される少なくとも一種の藻類であり、単細胞性の紅藻が好ましい。
【0057】
単細胞性の緑藻としては、クラミドモナス属(Chlamydomonas)に属する藻類が挙げられる。単細胞性の珪藻としては、フェオダクチラム属(Phaeodactylum)に属する藻類が挙げられる。単細胞性の藍藻としては、シアノバクテリア門(Cyanobacteria)に属する藻類が挙げられ、シネコシスティス属(Synechocystis)に属する藻類であることが好ましく、Synechocystis sp.PCC 6803がより好ましい。
【0058】
単細胞性の紅藻としては、例えば、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する藻類が挙げられる。イデユコゴメ綱は、分類学上、紅色植物門(Rhodophyta)、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に分類される。イデユコゴメ綱には、現在、シアニディオシゾン(Cyanidioschyzon)属、シアニジウム(Cyanidium)属、及びガルデリア(Galdieria)属の3属が分類されている。
【0059】
前記藻類としては、シアニディオシゾン(Cyanidioschyzon)属に属する藻類であることが好ましく、シアニディオシゾン・メロラエがより好ましい。
【0060】
本実施形態の培養方法は、前記藻類の中でも、従属栄養条件又は混合栄養条件下で培養した場合に独立栄養条件下で培養した場合よりも生育が抑制される藻類に適用することが好ましい。ここで前記「従属栄養条件又は混合栄養条件下で培養した場合に生育が抑制される」とは、独立栄養条件下で培養した場合と比べ、増殖が抑制されること(増殖できないことを含む)、増殖速度が低下すること、最大到達藻密度が向上すること、及び継代も含めた増殖期間が短縮されることを含む概念である。
【0061】
別の側面において、本実施形態の培養方法は、前記藻類の中でも、従属栄養条件又は混合栄養条件下で培養した場合に独立栄養条件下で培養した場合よりも細胞内のNADH/NADの値が増加する藻類に適用することが好ましい。従属栄養条件又は混合栄養条件下で培養した場合の細胞内のNADH/NADの値が、独立栄養条件下で培養した場合の細胞内のNADH/NADの値よりも大きく、且つ、従属栄養条件又は混合栄養条件下で培養した場合の細胞内のNADH/NADの値が、独立栄養条件下で培養した場合の細胞内のNADH/NADの値の1.3倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることが好ましい。従属栄養条件又は混合栄養条件下で培養した場合の細胞内のNADH/NADの値が、独立栄養条件下で培養した場合の細胞内のNADH/NADの値よりも大きく、且つNADH/NADの値が0.05以上である藻類が好ましく、0.05~0.5である藻類がより好ましく、0.1~0.4である藻類がさらに好ましい。細胞内のNADH/NADの値は、後述の実施例に記載の方法にて取得できる。
【0062】
また、本実施形態の培養方法を適用する藻類は、環境中から単離してもよく、カルチャー・コレクション等から入手してもよい。例えば、シアニディオシゾン・メロラエは、国立研究開発法人国立環境研究所微生物系統保存施設(日本国茨城県つくば市小野川16-2)、American Type Culture Collection(ATCC;10801 University Boulevard Manassas, VA 20110 USA)等から入手することができる。
【0063】
また、本実施形態の培養方法を適用する藻類は、自然界から単離されたものに限定されず、天然の藻類に変異が生じたものであってもよい。変異は、自然発生的に生じたものであってもよく、人為的に生じたものであってもよい。例えば、シアニディオシゾン・メロラエは、ゲノムサイズが小さく(約16Mbp)、ゲノム配列の解読が完了しているため(Matsuzaki M et al., Nature. 2004 Apr 8;428(6983):653-7.)、遺伝子改変を行いやすい。したがって、例えば、遺伝子改変により作製されたシアニディオシゾン・メロラエの形質転換体(例えば、栄養成分が強化された形質転換体)に、本実施形態の培養方法を適用してもよい。また、遺伝子改変可能であれば、他の藻類の形質転換体に、本実施形態の培養方法を適用してもよい。
【0064】
実施形態の藻類の培養方法によれば、有機炭素源を添加した培地での培養において、前記藻類の生育を向上させることができる。
実施形態の藻類の培養方法によれば、独立栄養条件下よりも従属栄養条件下で増殖速度が低下する藻類の前記増殖速度を向上可能である。
実施形態の藻類の培養方法によれば、独立栄養条件下よりも従属栄養条件下で最大到達藻密度が低下する藻類の前記最大到達藻密度を向上可能である。
【0065】
実施形態の藻類の培養方法は、従来、従属栄養条件下で長期間の培養維持が困難であった藻類の継代培養を可能とし、広範囲の藻類の培養に関して多大な貢献をもたらす画期的な培養方法である。
【実施例0066】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
実験1 NADH/NAD+比の確認
発明者らは、シアニディオシゾン・メロラエが、暗所で生育能力が低いことの要因として、細胞内の酸化還元バランス(NADH/NAD比)に着目した。そこで、各培養条件での細胞内のNADH/NAD比を求めた。
【0068】
MA2培地にグリセロールを350mM添加した培地を用いて、シアニディオシゾン・メロラエ 10D株(NIES-3377,国立遺伝学研究所にて維持、以下「シゾン」という)を、下記の独立栄養条件下、混合栄養条件下、又は従属栄養条件下でそれぞれ培養した。
独立栄養条件:光強度(25μmol/ms)、MA2培地への有機炭素源の添加無し
混合栄養条件:光強度(25μmol/ms)、MA2培地への有機炭素源の添加有り
従属栄養条件:暗所(光条件0μmol/ms)、MA2培地への有機炭素源(グリセロール)の添加有り
ここでの各培養は、40℃に維持したインキュベーター(IS 600、ヤマト科学)で、バイオシェーカー(NR-3, TAITEC)を用いて、通常大気下で旋回培養(130rpm rotary)した。
培地は、独立栄養条件ではMA2培地を用い、混合栄養条件及び従属栄養条件ではMA2+350mM glycerol培地を用いた。
初期植菌量はOD750=0.2となるように植菌した。その後、独立栄養条件及び混合栄養条件では5日間の培養を行い、シゾンを回収した。従属栄養条件ではシゾンの生育が悪かったため、5日間の混合栄養条件での培養後、従属栄養条件で2日間培養し、シゾンを回収した。
回収したシゾンの細胞内のNADH/NAD比を測定した。抽出・測定にはNAD/NADH Assay Kit,EnzyChrom(BioAssay Systems社)を使用し、マイクロプレートリーダー(SYNERGY H1、BioTek社)により565nmの吸光度を測定した。
【0069】
MA2培地の組成を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
結果を図2に示す。混合栄養条件及び従属栄養条件下で培養されたシアニディオシゾン・メロラエの細胞では、独立栄養条件での細胞よりも、細胞内のNADH/NAD比の値が増加していることが明らかとなった。
【0072】
上記の知見を得て、NADHの消費を高める条件のもとに培養を行うことで、シゾンの暗所(従属栄養条件下)で生育能力を向上させることができるかについて、以下の検証を行った。
【0073】
実験2-1 通気培養
以下の旋回培養又は通気培養の培養条件にて、シゾンの培養を行い、藻密度を指標に生育状況を比較した。
【0074】
・旋回培養(40℃,暗所,MA2+glycerol 350mM,20mL culture, 125rpm,通常大気下)
・通気培養(40℃,暗所、MA2+glycerol 350mM,50mL culture,600mL air/min,通常大気を通気)
【0075】
(通気培養条件)
・容器:試験管 直径30mm 長さ200mm
・エアポンプ:水作社製,水心 SSPP-2S
エアポンプから、シリコンチューブを経由して、流量計、0.22μmフィルターの順に通過させた空気を、純水を入れた試験管内を通じて、培養に用いた試験管内の培養液に吹き込んだ。シリコンチューブと試験管の接続にはシリコン栓(9号)を用いた。
【0076】
(藻密度の測定)
培養液をサンプリングし、分光光度計により、濁度(OD750)を測定した。
【0077】
結果を図3に示す。通常の旋回培養で培養を行った場合では、培養開始から20日程度で増殖が停止し、到達藻密度は頭打ちとなった。
対して、通気培養にて、通気量を増やした場合では、シゾンが増殖できる期間が長く、到達藻密度も旋回培養に比べて約4.6倍となった。
【0078】
実験2-2 通気培養での継代後の生育
上記実験2-1の旋回培養又は通気培養と同様の培養条件にて、シゾンの継代培養を実施した。継代の植菌量はOD750=0.4程度となるように設定した。通気培養期間中、液体培地中への大気の吹込み(強制通気)を常時実施した。
【0079】
・旋回培養(40℃,暗所、MA2+glycerol 350mM,50mL culture,125rpm,通常大気下)
・通気培養(40℃,暗所、MA2+glycerol 400mM,50mL culture,600mL air/min,通常大気を通気)
複数回および複数時点での継代を実施。
【0080】
通常の旋回培養で培養を行った結果を図4に示す。20日間培養した培養液の一部を、新たな培養液に懸濁(希釈)して培養を継続した(図4中の矢印は、継代を示す。)。旋回培養では、継代後の生育が良好ではなく、継代後15日程度で増殖が停止した。
【0081】
図5は、通気培養で培養を行った結果である。21日、30日、又は44日間培養した培養液の一部を、新たな培養液に懸濁(希釈)して培養を継続した(図5中の矢印は、継代を示す。)。図5に示されるとおり、通気培養にて通気量を増やした培養では、複数回の継代後にも良好な増殖が確認され、合計で95日間の培養が可能であることが確認された。
これまでのシゾンの培養方法では、暗所の生育では継代培養が難しいという問題があったが、通気培養を行うことにより、良好に継代培養が実施可能であることが確認された。
【0082】
実験2-3 高酸素濃度での通気培養(1)
以下の培養条件にて、シゾンの培養を行った。
培養中は、液体培地内への気体の吹込み(強制通気)を常時実施した。通気培養(酸素添加大気)の培養系では、培養開始時点では通常大気(O濃度21%)にて通気を行い、その後増殖の停滞がみられてから、通常大気に酸素を添加し、段階的に酸素濃度を上げた気体を通気する通気培養を行った(O濃度21%→42%→63%→80%)。酸素濃度の変更時期は、図6に示す培養後の日数の時点である。
また、酸素濃度の変更を行わない、通常大気(O濃度21%)での通気培養(通常大気)も実施し、藻密度を指標に生育状況を比較した。
【0083】
・通気培養(酸素添加大気)(40℃,暗所、MA2+glycerol 400mM,50mL culture,400mL/min,酸素発生機及びガス混合器を使用し、通常大気に対して酸素を添加した気体を通気)
・通気培養(通常大気)(40℃,暗所、MA2+glycerol 400mM,50mL culture,400mL air/min,通常大気を通気)
【0084】
結果を図6に示す。酸素添加大気で通気培養を実施した場合のほうが、最大到達藻密度の向上が確認された。
【0085】
実験2-4 高酸素濃度での通気培養(2)
上記の通気培養では、培養開始時点では通常大気(O濃度21%)にて通気を行っていたが、本実験では培養開始時点から通常大気よりも酸素濃度を上げた気体を通気する通気培養(酸素添加大気)を行った(O濃度42%→63%→80%)。酸素濃度の変更時期は、図7に示す培養後の日数の時点である。
また、酸素濃度の変更を行わない、通常大気(O濃度21%)での通気培養(通常大気)も実施し、藻密度を指標に生育状況を比較した。
【0086】
・通気培養(酸素添加大気)(40℃,暗所、MA2+glycerol 400mM,50mL culture,400mL/min,酸素発生機及びガス混合器を使用し、通常大気に対して酸素を添加した気体を通気)
・通気培養(通常大気)(40℃,暗所、MA2+glycerol 400mM,50mL culture,400mL air/min,通常大気を通気)
【0087】
結果を図7に示す。培養初期には増殖速度に差は見られなかったが、培養日数が経過するにつれて、酸素添加大気で通気培養を実施した場合のほうが、最大到達藻密度の向上が確認された。
【0088】
以上の結果により、酸素供給量を増加させることにより、暗所においてのシゾンの最大生育量を向上可能であることが示された。
【0089】
実験3-1 窒素源の変更(旋回培養)
上記の各培養で用いたMA2+glycerol培地では、窒素源としてアンモニウムイオン(NH )を含んでいたが、窒素源を硝酸イオン(NO )に変更した培地(硝酸MA2培地)にグリセロールを添加した培地を使用して、旋回培養にて、シゾンの培養を行い、藻密度を指標に生育状況を確認した。
【0090】
・NO (40℃,暗所、硝酸MA2+glycerol 400mM,20mL culture,130rpm,通常大気下)
・NH (40℃,暗所、MA2+glycerol 400mM,20 mL culture,130rpm,通常大気下)
【0091】
硝酸MA2培地の組成を表2に示す。
【0092】
【表2】
【0093】
結果を図8に示す。窒素源として硝酸イオン(NO -)を含む培地での旋回培養のほうが、窒素源としてアンモニウムイオン(NH )含む培地で旋回培養した場合よりも、生育速度が向上していた。
【0094】
実験3-2 窒素源の変更(通気培養)
上記の実験3-1では、旋回培養により培養を実施したが、それを通気培養に代えたこと以外は、同様の条件にてシゾンの培養を行った。
【0095】
・NO (40℃,暗所、硝酸MA2+glycerol 400mM,50mL culture,400~500mL/min,通常大気を通気)
・NH (40℃,暗所、MA2+glycerol 400mM,50mL culture,400~500mL air/min,通常大気を通気)
【0096】
結果を図9に示す。窒素源として硝酸イオン(NO -)を含む培地での通気培養のほうが、窒素源としてアンモニウムイオン(NH )含む培地で通気培養した場合よりも、生育速度が向上し、最大到達藻密度が向上していた。
【0097】
以上の結果により、窒素源として硝酸イオン(NO -)を与えることにより、暗所においてのシゾンの生育速度を向上可能であることが示された。
また、通気培養にて窒素源として硝酸イオン(NO -)を与えたほうが、旋回培養にて窒素源として硝酸イオン(NO -)を与えた場合よりも、藻密度が向上していた。
このことから、酸素供給量の増加、及び硝酸イオン(NO -)利用のそれぞれが、暗所でのシゾンの生育能力の向上に寄与していることが示唆された。
【0098】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9