(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120123
(43)【公開日】2024-09-04
(54)【発明の名称】光学測定用セル、光学分析装置、窓形成部材、及び光学測定用セルの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/03 20060101AFI20240828BHJP
G01N 21/61 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
G01N21/03 B
G01N21/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021114537
(22)【出願日】2021-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】坂口 有平
(72)【発明者】
【氏名】赤松 武
(72)【発明者】
【氏名】南 雅和
(72)【発明者】
【氏名】中田 嘉昭
【テーマコード(参考)】
2G057
2G059
【Fターム(参考)】
2G057AA01
2G057AB02
2G057AB06
2G057AC01
2G057AC03
2G057BA05
2G057BB08
2G057BD03
2G057DB02
2G059AA01
2G059BB01
2G059DD12
2G059EE01
2G059HH01
2G059JJ03
2G059KK02
2G059NN02
(57)【要約】
【課題】気密性や耐熱性等の要求される種々の性能を満たす光学測定用セルを原子拡散接合により製造するうえで、窓材の割れを防ぐ。
【解決手段】光が透過する透光窓W1、W2を有し、内部に試料が導入される光学測定用セル2であって、透光窓W1、W2を形成する窓材221と、窓材221を支持するフランジ部材222と、窓材221及びフランジ部材222の間に介在するとともに、金属薄膜Mを介して窓材221が接合された緩衝材223とを備え、緩衝材223として、窓材221よりもヤング率が大きいものを用いた。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光が透過する透光窓を有し、内部に試料が導入される光学測定用セルであって、
前記透光窓を形成する窓材と、
前記窓材を支持するフランジ部材と、
前記窓材及び前記フランジ部材の間に介在するとともに、金属薄膜を介して前記窓材が接合された緩衝材とを備え、
前記緩衝材が、前記窓材よりもヤング率が大きいことを特徴とする光学測定用セル。
【請求項2】
前記緩衝材が金属膜を介して前記フランジ部材と接合されている、請求項1記載の光学測定用セル。
【請求項3】
前記緩衝材が前記フランジ部材よりも熱膨張率の低いものである、請求項1又は2記載の光学測定用セル。
【請求項4】
前記緩衝材の熱膨張率が、前記フランジ部材の膨張率よりも前記窓材の膨張率に近い、請求項1乃至3のうち何れか一項に記載の光学測定用セル。
【請求項5】
前記緩衝材が前記フランジ部材よりも平坦度が高いものである、請求項1乃至4のうち何れか一項に記載の光学測定用セル。
【請求項6】
前記緩衝材がサファイア又はチタンからなる、請求項1乃至5のうち何れか一項に記載の光学測定用セル。
【請求項7】
前記窓材が7μm以上の光を透過するものである、請求項1乃至6のうち何れか一項に記載の光学測定用セル。
【請求項8】
前記窓材がセレン化亜鉛又はフッ化バリウムからなる、請求項7記載の光学測定用セル。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか一項に記載の光学測定用セルと、
前記光学測定用セルに光を照射する光照射部と、
前記光学測定用セルを透過した光を検出する光検出部と、
前記光検出部により得られた光強度信号を用いて前記試料中の成分濃度を算出する濃度算出部とを備える、光学分析装置。
【請求項10】
光が透過する透光窓を有し、内部に試料が導入される光学測定用セルの製造方法であって、
前記透光窓を形成する窓材と、前記窓材を支持するフランジ部材との間に前記窓材よりもヤング率が大きい緩衝材を介在させて、
前記緩衝材と前記窓材とを原子間接合させる、光学測定用セルの製造方法。
【請求項11】
内部に試料が導入される光学測定用セルに用いられる窓形成部材であって、
光が透過する透光窓を形成する窓材と、
前記窓材を支持するフランジ部材と、
前記窓材及び前記フランジ部材の間に介在するとともに、金属薄膜を介して前記窓材が接合された緩衝材とを備え、
前記緩衝材が、前記窓材よりもヤング率が大きいことを特徴とする窓形成部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学測定用セル、及び、当該光学測定用セルを用いた光学分析装置等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばNDIRなどの光学分析装置に用いられる光学測定用セルは、特許文献1に示すように、セル本体に窓材を有する窓形成部材を取り付ける構成のものが考えられる。
【0003】
この窓形成部材において窓材を気密に固定する構造としてOリングを用いた場合には、わずかではあるがガスがOリングとシール箇所との隙間から又はOリング自体を透過して漏れてしまい、高気密のシールができない。また、ガスが反応性を有するものの場合には、当該ガスによってOリングが劣化することもある。
【0004】
このOリングに代えてメタルOリングを用いることも考えられるが、この場合には、シール時の線荷重が小さいと一時的にはシール性を保てても、熱サイクルが繰り返されるとリークに至る。一方、線荷重を大きくすると、窓材が割れてしまう。
【0005】
そこで、気密性を担保する構造として、
図6に示すように、窓材の平面部(主面)にフランジ部材に形成した接合部を接合させる構造が考えられている。
【0006】
そして、この構造の接合部分には、非常に低いリークレートが要求されるだけでなく、プロセス中の温度(200℃)に耐えられる耐熱性をも求められ、しかも製造過程における窓材の割れをも防ぐ必要があるなど、種々の性能が要求される。
【0007】
このような中で、本願発明者は、窓材をフランジ部材の接合部に気密に接合する方法として、例えば接着剤やろう付けを検討したものの、何れの方法も要求される種々の性能を全て満たすことは極めて困難であるとの結論に到った。
【0008】
そこで、本願発明者はさらなる鋭意検討を重ねた結果、窓材と接合部とを原子拡散接合により接合することで、要求される種々の性能を全て満たし得る可能性を見出した。
【0009】
しかしながら、フランジ部材は例えばステンレス鋼等からなり、その材質上、接合面に高度な平坦度を出すことができないので、原子拡散接合により高気密性を担保するためには、接合面に窓材を大きな圧力で加圧する必要があり、これにより窓材が割れてしまうという問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、上述した問題点を一挙に解決すべくなされたものであり、気密性や耐熱性等の要求される種々の性能を満たす光学測定用セルを原子拡散接合により製造するうえで、窓材の割れを防ぐことをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明に係る光学測定用セルは、光が透過する透光窓を有し、内部に試料が導入される光学測定用セルであって、前記透光窓を形成する窓材と、前記窓材を支持するフランジ部材と、前記窓材及び前記フランジ部材の間に介在するとともに、金属薄膜を介して前記窓材が接合された緩衝材とを備え、前記緩衝材が、前記窓材よりもヤング率が大きいことを特徴とするものである。
【0013】
このように構成された光学測定用セルによれば、緩衝材に金属膜を介して窓材が接合されており、言い換えれば、緩衝材に窓材が原子拡散接合されているので、これらの間に要求される気密性や耐熱性等の種々の性能を満たすことができる。
しかも、緩衝材が、窓材よりもヤング率が大きく変形しにくい部材であるので、この緩衝材をフランジ部材に大きな圧力で加圧して加圧接合することで、緩衝材を割ることなく、これらの間に要求される気密性や耐熱性等の種々の性能をも満たすことができる。
【0014】
緩衝材のヤング率が大きく、割れる恐れが殆どないことから、緩衝材とフランジ部材との接合方法としては、緩衝材と窓材との接合方法よりも選択肢が広がるものの、これらの間に要求される種々の性能を確実に満たすようにするためには、緩衝材をフランジ部材に原子拡散接合することが好ましく、言い換えれば、前記緩衝材が金属膜を介して前記フランジ部材と接合されていることが好ましい。
【0015】
ここで、光学測定用セルへの熱影響によりフランジ部材が熱変形すると、その変形応力により窓材が割れる恐れがある。
そこで、前記緩衝材が前記フランジ部材よりも熱膨張率の低いものであることが好ましい。
これならば、フランジ部材の熱変形よりも、緩衝材の熱変形の方が小さいので、窓材に加わる熱応力を低減させることができ、窓材の割れを防ぐことができる。また、フランジ部材の熱変形による熱応力が緩衝材に伝わるものの、緩衝材はヤング率が大きく変形しにくいので、緩衝材が割れる恐れもない。
【0016】
窓材の割れをより確実に防ぐためには、前記緩衝材の熱膨張率が、前記フランジ部材の膨張率よりも前記窓材の膨張率に近いことが好ましい。
【0017】
窓材を緩衝材に大きな圧力を加圧することなく原子拡散接合できるようにするためには、前記緩衝材が前記フランジ部材よりも平坦度が高いことが好ましい。
【0018】
緩衝材の具体的な実施態様としては、サファイア又はチタンからなるものを挙げることができる。
これならば、ヤング率が大きいので、加圧接合による緩衝材の割れを防ぐことができ、しかもステンレス鋼よりも熱膨張率が低いので、熱応力による窓材の割れも防ぐことができる。
【0019】
具体的な実施態様としては、前記窓材が7μm以上の光を透過するものであり、より具体的にはセレン化亜鉛(ZnSe)又はフッ化バリウム(BaF2)からなるものを挙げることができる。
このように、窓材として、7μm以上の長波長の光を透過するものが求められ、ZnSeやBaF2からなるものを用いる場合、これらの材質は特に熱膨張率が低いことから、本発明に係る緩衝材の作用効果がより顕著に発揮される。
【0020】
また、本発明に係る光学分析装置は、上記の光学測定用セルと、前記光学測定用セルに光を照射する光照射部と、前記光学測定用セルを透過した光を検出する光検出部と、前記光検出部により得られた光強度信号を用いて前記試料中の成分濃度を算出する濃度算出部とを備えることを特徴とする。
【0021】
さらに、本発明に係る光学測定用セルの製造方法は、光が透過する透光窓を有し、内部に試料が導入される光学測定用セルの製造方法であって、前記透光窓を形成する平板状の窓材と、前記窓材を支持するフランジ部材との間に前記窓材よりもヤング率が高い緩衝材を介在させて、前記緩衝材と前記窓材とを原子拡散接合させることを特徴とする。
【0022】
加えて、本発明に係る窓形成部材は、内部に試料が導入される光学測定用セルに用いられる窓形成部材であって、光が透過する透光窓を形成する平板状の窓材と、前記窓材を支持するフランジ部材と、前記窓材及び前記フランジ部材の間に介在するとともに、金属薄膜を介して前記窓材が接合された緩衝材とを備え、前記緩衝材が、前記窓材よりもヤング率が大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
以上に述べた本発明によって、気密性や耐熱性等の要求される種々の性能を満たす光学測定用セルを原子拡散接合により製造する際に発生する窓材の割れを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態に係るガス分析装置の全体模式図である。
【
図2】同実施形態の窓形成部材の構造を示す(a)斜視図、及び(b)正面図である。
【
図3】同実施形態の窓形成部材の構造を示す断面図である。
【
図4】同実施形態の窓形成部材の形成方法の一例を示す模式図である。
【
図5】同実施形態の窓形成部材の形成方法の一例を示す模式図である。
【
図6】従来の窓形成部材の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の一実施形態に係るガス分析装置について、図面を参照して説明する。
【0026】
<1.全体構成>
本実施形態のガス分析装置100は、例えば非分散型赤外線吸収法(NDIR)を用いて試料ガス中の成分を分析するものである。なお、試料ガスとしては、半導体製造プロセスに用いられる材料ガスや内燃機関から排出される排ガス等が考えられる。
【0027】
具体的にガス分析装置100は、
図1に示すように、試料ガスが導入される光学測定用セル2と、当該光学測定用セル2に赤外光を照射する光照射部3と、光学測定用セル2を通過した赤外光を検出する光検出部4と、光検出部4により得られた光強度信号を用いて試料ガス中の成分濃度を算出する濃度算出部5とを備えている。
【0028】
光学測定用セル2は、赤外光が透過する一対の透光窓W1、W2を有し、導入ポートP1から試料ガスが導入されて、導出ポートP2から試料ガスが導出されるフローセルタイプのものである。
【0029】
具体的に光学測定用セル2は、導入ポートP1及び導出ポートP2が設けられたセル本体21と、透光窓W1、W2を形成する窓材221を有し、セル本体21に固定される窓形成部材22とを有している。なお、光学測定用セル2の窓形成部材22の詳細構造は、後述する。
【0030】
光照射部3は、光学測定用セル2に赤外光を照射するものであり、例えば赤外線ランプである。その他、赤外光を射出するLEDであっても良い。この光照射部3から射出された赤外光は、光学測定用セル2の一方の透光窓W1を通って、光学測定用セル2の内部空間を通過し、他方の透光窓W2を通って、光検出部4により検出される。
【0031】
光検出部4は、光学測定用セル2を通過した赤外光を検出するものであり、光学測定用セル2の他方の透光窓W2から出た赤外光を検出する光検出器41と、他方の透光窓W2及び光検出器41の間の光路上に設けられ、赤外光のうち一部の波長のみを通過させる波長選択フィルタ42とを有している。光検出器41により得られた光強度信号は濃度算出部5に出力される。
【0032】
濃度算出部5は、光検出器41により得られた光強度信号を用いて試料ガス中の所定成分の濃度を算出するものである。具体的に濃度算出部5は、光強度信号から吸光度を演算し、当該吸光度と予め作成されメモリに記録された検量線とに基づいて試料ガス中の所定成分の分圧を求める。そして、濃度算出部5は、光学測定用セル2又はその前後の配管に設けられた圧力計(不図示)によって測定された光学測定用セル2内の試料ガスの全圧に基づいて、所定成分の濃度(=所定成分の分圧/試料ガスの全圧)を算出する。なお、濃度算出部5は、例えばCPU、メモリ、AD変換器、入出力インターフェース等からなるコンピュータにより、その機能が発揮される。
【0033】
<2.光学測定用セル2の窓形成部材22の詳細構造>
次に、光学測定用セル2の窓形成部材22の詳細構造について説明する。
なお、一方の透光窓W1を形成する窓形成部材22の詳細構造と、他方の透光窓W2を形成する窓形成部材22の詳細構造とは同一又は類似しているので、以下では、一方の透光窓W1を形成する窓形成部材22の詳細構造を代表して説明する。
【0034】
窓形成部材22は、
図2及び
図3に示すように、透光窓W1を形成する平板状の窓材221と、当該窓材221が接合されることにより窓材221を支持するフランジ部材222とを有しており、フランジ付き観察窓とも称されるものである。なお、ここでいう平板状とは、全く曲がりのない平板のみならず、球面又は非球面の平凸のレンズ形状やウエッジ角度の付いたくさび形状なども含む概念である。
【0035】
窓材221は、赤外光を透過させる材質から形成されており、平面視において円形状をなす平板である。本実施形態の窓材221は、7μm以上の長波長の赤外光を透過するものであり、この実施形態ではセレン化亜鉛(ZnSe)から形成されている。なお、窓材221としては、フッ化バリウム(BaF2)から形成されていても良い。
【0036】
フランジ部材222は、特に
図3に示すように、窓材221を支持する筒状の接合支持部222aと、窓材221を取り囲むように接合支持部222aに連続して設けられたフランジ部222bとを有している。また、フランジ部材222の中央部には、窓材221を通過した赤外光が通過する通過孔H1が形成されている。さらに、本実施形態では、接合支持部222a及びフランジ部222bは一体形成されており、フランジ部材222は、例えばステンレス鋼から形成されている。
【0037】
接合支持部222aは、後述する緩衝材223が接合されるとともに、この緩衝材223を介して窓材221の主面(平面部)を支持するものであり、本実施形態では円筒形状をなすものである。
【0038】
フランジ部222bは、その一方の面に接合支持部222aが設けられており、本実施形態では円環形状をなすものである。このフランジ部222bは、例えば金属製のガスケット(不図示)を介してセル本体21に取り付けられるものであり、フランジ部222bにおけるセル本体21への取付面には、ICF規格のナイフエッジ部222xが形成されている。また、フランジ部222bには、セル本体21にネジ固定するための貫通孔222hが周方向に複数形成されている。
【0039】
上述した構成において、窓材221とフランジ部材222との間を気密に接合する方法としては、これらの部材を例えば接着剤、ろう付け等により接合する方法が考えられる。
しかしながら、接着剤を用いる場合は、接着剤からの脱ガス、腐食性ガスによる劣化、窓材221とフランジ部材222との熱膨張率の差による窓材221の割れなどが懸念される。
また、ろう付けをする場合は、ろう材に銀や銅などが含まれていると、半導体プロセスにおけるメタルコンタミとなるので使用することができず、そうするとセレン化亜鉛からなる窓材221に適するろう材が無い。仮に、使用可能なろう材があったとしても、接着剤と同様に窓材221の割れが懸念される。
【0040】
そこで、本実施形態の窓形成部材22は、窓材221及びフランジ部材222の間に介在する緩衝材223をさらに備え、この緩衝材223とフランジ部材222とを原子拡散接合により接合するとともに、緩衝材223と窓材221とを原子拡散接合により接合することで構成されている。ただし、緩衝材223とフランジ部材222との接合方法は、原子拡散接合に限らない。
【0041】
原子拡散接合とは、2つの部材それぞれの接合面の間に金属膜を介在させ、これらの部材を加圧することにより接合する方法である。この実施形態では、緩衝材223及びフランジ部材222は、例えば数百nm程度のAu膜等の金属薄膜Mを介して加圧接合されており、緩衝材223及び窓材221は、例えば数百nm程度のAu膜等の金属薄膜Mを介して加圧接合されている。
【0042】
ところで、本実施形態のフランジ部材222は、上述したように例えばステンレス鋼からなるものであり、高度な平坦度(例えば数nmオーダの平坦度)を確保する加工が難しい。このことから、フランジ部材222に緩衝材223を原子拡散接合しようとすると、大きな加圧力が必要となる。このことから、緩衝材223には機械的強度が求められ、少なくとも窓材221よりもヤング率が大きいものを用いている。
なお、以下で述べるヤング率は、例えば下記の規格に基づいて測定したものである。
・JIS Z 2280 金属材料の高温ヤング率試験方法
・IS R 1602 ファインセラミックスの弾性率試験方法
・JIS R 1605 ファインセラミックスの高温弾性率試験方法
【0043】
また、フランジ部材222が熱変形してその変形応力が窓材221に伝わると、窓材221が割れる恐れがある。そこで、緩衝材223としては、少なくともフランジ部材222よりも低い熱膨張率ものが好ましく、フランジ部材222の熱膨張率よりも窓材221の熱膨張率に近いものがより好ましい。
【0044】
以上の理由から、本実施形態の緩衝材223は、サファイア(Al
2O
3)からなるものを用いている。具体的にこの緩衝材223は、
図3に示すように、上述した通過孔H1と連通する連通孔H2が形成されたものであり、ここでは平面視において円環状をなす例えば平板状のものである。なお、窓材221を形成するセレン化亜鉛(ZnSe)の熱膨張率は7.1×10E-6/℃、フランジ部材222を形成するステンレス鋼(SUS316L)の熱膨張率は16×10E-6/℃、緩衝材223を形成するサファイア(Al
2O
3)の熱膨張率は5.0×10E-6/℃である。
【0045】
また、窓材221を形成するセレン化亜鉛(ZnSe)のヤング率は67.2GPa、フランジ部材222を形成するステンレス鋼(SUS316L)のヤング率は200GPa、緩衝材223を形成するサファイア(Al2O3)のヤング率は約335GPaである。
【0046】
このサファイアからなる緩衝材223は、ステンレス鋼からなるフランジ部材222に比べて、平坦度や表面粗さを高精度に加工することができるので、この緩衝材223と窓材221とを原子拡散接合する際に必要な加圧力は、緩衝材223とフランジ部材222とを原子拡散接合する際の加圧力よりも小さくて済む。
【0047】
次に、上述したフランジ部材222、緩衝材223、及び窓材221の接合方法の一例について
図4及び
図5を参照しながら説明する。
【0048】
まず、
図4に示すように、フランジ部材222及び緩衝材223の対向面である接合面T1それぞれに、金属薄膜Mを形成する(S1)。本実施形態では、金属薄膜Mを、接合面T1にスパッタして形成する。
【0049】
そして、金属薄膜Mが設けられた接合面T1を互いに対面させ(S2)、フランジ部材222及び緩衝材223を対向する向きに加圧することにより、フランジ部材222及び緩衝材223を原子拡散接合(加圧接合)する(S3)。
【0050】
次に、
図5に示すように、緩衝材223及び窓材221の対向面である接合面T2それぞれに、金属薄膜Mを形成する(S4)。本実施形態では、金属薄膜Mを、接合面T2にスパッタして形成する。
【0051】
そして、金属薄膜Mが設けられた接合面T2を互いに対面させ(S5)、緩衝材223及び窓材221を対向する向きに加圧することにより、緩衝材223及び窓材221を原子拡散接合(加圧接合)する(S6)。
【0052】
このようにして、フランジ部材222及び緩衝材223が原子拡散接合されるとともに、緩衝材223及び窓材221が原子拡散接合されて、窓形成部材22が構成される。
【0053】
このように構成された窓形成部材22において、
図3に示すように、緩衝材223と接合支持部222aとの間の接合部分に、フランジ部222bの熱膨張による熱応力が加わりにくくするように構成してある。
具体的には、フランジ部222bにおいて接合支持部222a側の面(取付面とは反対側の面)には、接合支持部222aを取り囲むように環状の溝222Mが形成されている。ここでは、溝222Mは、接合支持部222aと同軸上に形成された円環状をなすものである。この溝222Mの深さは、例えば、フランジ部222bの板厚の半分以上とすることが考えられる。
【0054】
ここで、フランジ部材222における溝222Mの内側に位置する内側壁部222Kの壁厚(肉厚)は、接合支持部222aの壁厚(肉厚)よりも小さくなるように構成されている。このように、接合支持部222aの壁厚を大きくし、内側壁部222Kの壁厚を小さくすることにより、緩衝材と接合支持部222aとの間の接合面積を大きくしつつ、緩衝材と接合支持部222aとの間の接合部分に対してフランジ部222bの熱膨張による熱応力が加わりにくくすることができる。
【0055】
さらに、このように溝222Mを設けることにより、フランジ部材222を例えばネジ等で別部材に取り付ける際に生じるフランジ部材222の歪みを、緩衝材223と接合支持部222aとの間の接合部分に伝わりにくくすることもできる。
【0056】
<3.本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態のガス分析装置100によれば、緩衝材223に窓材221が原子拡散接合されているので、これらの間に要求される気密性や耐熱性等の種々の性能を満たすことができる。
しかも、緩衝材223が、窓材221よりもヤング率が大きいので、この緩衝材223をフランジ部材222に大きな力で加圧して原子拡散接合することができ、緩衝材223を割ることなく、これらの間に要求される気密性や耐熱性等の種々の性能をも満たすことができる。
【0057】
さらに、緩衝材223がフランジ部材222よりも熱膨張率の低いサファイアからなるので、フランジ部材222の熱変形よりも、緩衝材223の熱変形の方が小さく、窓材221に加わる熱応力を低減させることができ、窓材221の割れを防ぐことができる。また、フランジ部材222の熱変形による熱応力が緩衝材223に伝わるものの、緩衝材223はヤング率が大きいので、緩衝材223が割れる恐れもない。
【0058】
そのうえ、緩衝材223がサファイアからなり、平坦度や表面粗さを高精度に加工することができるので、窓材221を緩衝材223に原子拡散接合する際に必要な加圧力を抑えることができ、窓材221の割れを防ぐことができる。
【0059】
加えて、上述した緩衝材223を介して窓材221とフランジ部材222とを接合できるので、窓材221としての材料の選択に幅を持たすことができ、本実施形態のように熱膨張率の低いセレン化亜鉛からなる窓材221を用いることが可能となるので、長波長域(例えば7μm以上)の分析に資する。
【0060】
<4.その他の実施形態>
例えば、前記実施形態では、窓材221がセレン化亜鉛からなるものであったが、窓材としてはフッ化バリウム(BaF2)からなるものであっても良い。なお、セレン化亜鉛の透過波長は0.5~22μmであり、フッ化バリウムの透過波長は0.15~12μmであり、何れも長波長(例えば7μm以上)の赤外線を透過するものでる。また、透過する赤外線の波長は約4.0μmまでとなるが、窓材として水晶(SiO2)からなるものを用いても良い。
【0061】
また、緩衝材223としては、前記実施形態ではサファイアからなるものであったが、チタンからなるものであっても良い。なお、チタンのヤング率は106GPaである。
【0062】
前記実施形態では、フランジ部材222と緩衝材223とが原子拡散接合されていたが、これらの部材は、例えば溶接、半田付け、ロウ付け、接着剤、陽極接合などにより接合されていても良い。
【0063】
さらに、前記実施形態では、原子拡散接合に用いる金属薄膜MとしてAu薄膜を採用していたが、金属薄膜としてはこれに限らず、例えば、AlやCrなどからなる薄膜であっても良い。
【0064】
前記実施形態では、フランジ部材222と緩衝材223とを原子拡散接合した後に、緩衝材223と窓材221とを原子拡散接合しているが、緩衝材223と窓材221とを原子拡散接合した後に、フランジ部材222と緩衝材223とを原子拡散接合しても良い。
【0065】
前記実施形態の光学測定用セル2は、一対の透光窓W1、W2を有する構成であったが、1つの透光窓を有する構成としても良い。この場合、1つの透光窓において光の入射及び出射が行われる。また、光学測定用セル2は、3つ以上の透光窓を有する構成としても良い。
【0066】
前記実施形態では、接合支持部222aとフランジ部222bとは一体形成されるものであったが、それらを別部品としても良い。
【0067】
前記実施形態の窓材221は平面視において円形状をなすものであったが、例えば平面視において矩形状をなすなどのその他の形状であっても良い。また、緩衝材223は、平面視において円環状をなすものであったが、通過孔H1と連通する連通孔H2が形成されていれば、平面視において矩形状をなすなどその他の形状であっても良い。
【0068】
加えて、前記実施形態のガス分析装置は、非分散型赤外吸収法(NDIR)を用いたものであったが、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)を用いたものであっても良いし、赤外光以外の光を用いた光学分析法を用いたものであっても良い。また、本発明の光学分析装置は、試料としてガスを分析する他に、液体を分析するものであっても良い。
【0069】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0070】
100・・・ガス分析装置(光学分析装置)
2・・・光学測定用セル
3・・・光照射部
4・・・光検出部
5・・・濃度算出部
W1、W2・・・透光窓
221・・・窓材
222a・・・接合支持部
222b・・・フランジ部
223・・・緩衝材
T1、T2・・・接合面
M・・・金属薄膜