(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120193
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】原子層堆積法による成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/448 20060101AFI20240829BHJP
C23C 16/455 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C23C16/448
C23C16/455
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024296
(22)【出願日】2023-02-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-08-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】山内 昭佳
(72)【発明者】
【氏名】松永 隆行
(72)【発明者】
【氏名】岸川 洋介
(72)【発明者】
【氏名】堀口 和孝
(72)【発明者】
【氏名】中村 新吾
(72)【発明者】
【氏名】匂坂 重仁
(72)【発明者】
【氏名】霜垣 幸浩
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 健
(72)【発明者】
【氏名】出浦 桃子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 登
(72)【発明者】
【氏名】山口 潤
【テーマコード(参考)】
4K030
【Fターム(参考)】
4K030AA02
4K030AA03
4K030AA05
4K030AA06
4K030AA11
4K030AA12
4K030AA14
4K030AA17
4K030BA05
4K030BA20
4K030CA02
4K030EA01
4K030FA10
4K030HA01
4K030JA09
4K030JA10
(57)【要約】
【課題】安定した成膜を可能とする原子層堆積法の提供。
【解決手段】蒸発器において、原料化合物を含む原料液体を気化させること、前記気化された原料化合物を、成膜室に導入し、基材上に薄膜を形成すること、を含む、原子層堆積法による薄膜の製造方法であって、前記蒸発器の気相部を排出することを含む、薄膜の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発器において、原料化合物を含む原料液体を気化させること、
前記工程において気化された原料化合物を、成膜室に導入すること、
基材上に薄膜を形成すること、
を含む、原子層堆積法による薄膜の製造方法であって、
前記蒸発器の気相部を排出することを含む、薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記蒸発器において前記原料液体を、気相との接触面積が増加するように運動させることを含む、請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記原料液体の運動は、撹拌機構により撹拌されることにより生じる、請求項2に記載の薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記原料液体の前記気相との接触面積は、前記運動がない場合の接触面積に対し、1.1倍以上である、請求項2に記載の薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記蒸発器内の原料液体の温度は、400℃以下である、請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記蒸発器と前記成膜室とを連結する部分における、前記原料化合物の分圧は、前記蒸発器における前記原料化合物の分圧と実質的に同じである、請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記原料化合物は、金属カルボニル錯体、金属メタロセン錯体、又は金属アミジネート錯体である、請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記金属は、Co又はWである、請求項7に記載の薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記原料化合物は、
【化1】
である、請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項10】
前記気相部は、原料化合物の分解物を含む、請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項11】
前記基材は、銅基材である、請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項12】
工程A蒸発器において、原料化合物を含む原料液体を気化させること、
工程B前記蒸発器において気化された原料化合物を、成膜室に導入すること、
工程C反応性ガスを成膜室に導入すること、
工程D前記蒸発器の気相部を排出すること
を含み、
工程Aを行いながら、工程B、次いで、工程Cを行うサイクルであって、工程Bの後、次回の工程Bの間に、工程Dを行うサイクルを実行する、請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項13】
工程(i)成膜室内に、原料化合物を導入することにより、原料化合物を基材上に堆積させ、原料化合物の膜を形成すること、
工程(ii)成膜室内に残留する原料化合物を排気すること、
工程(iii)成膜室内に反応性ガスを導入することにより、基材上に堆積した原料化合物と反応ガスを反応させ、原料化合物を還元し、膜を形成すること、
工程(iv)成膜室内の未反応の反応性ガス及び副生したガスを排気すること
を含む、請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項14】
原料化合物を含む原料液体を気化させる蒸発器と、
前記蒸発器の気相を排出する排出機構と、
基材上に原子層堆積法により成膜する成膜室と、
を有する成膜装置。
【請求項15】
前記蒸発器は、前記原料化合物を含む原料液体を運動させる運動機構を備える、請求項14に記載の成膜装置。
【請求項16】
前記運動機構は、撹拌機構である、請求項14に記載の成膜装置。
【請求項17】
前記蒸発器内の前記原料液体の温度は、400℃以下である、請求項14に記載の成膜装置。
【請求項18】
さらに、前記蒸発器と前記成膜室を連結する連結部を有し、前記蒸発器における前記原料化合物の分圧は、前記蒸発器における前記原料化合物の分圧と実質的に同じである、請求項14に記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、原子層堆積法による成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の基材への成膜方法として、原子層堆積法(以下、「ALD」ともいう)が知られている。ALDを用いた成膜工程においては、一般的に、原料として金属錯体を用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ALDでは、原料として有機金属化合物が用いられているが、有機金属化合物は揮発性が低く、蒸気圧が低いことが問題となり得る。有機金属化合物の蒸気圧を向上させるために、揮発させる際の加熱温度を上げることが考えられる。しかしながら、加熱温度を高くすると、有機金属化合物の蒸気圧は向上するが、微量ながらも有機金属化合物の分解が生じる。生じた分解生成物が不純物として原料化合物に混入することから、蒸発器における原料化合物の蒸気圧が不安定になり得る。また、分解生成物が膜に混入するおそれがある。
【0005】
本開示の目的は、安定した成膜を可能とする原子層堆積法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の態様を含む。
[1] 蒸発器において、原料化合物を含む原料液体を気化させること、
前記工程において気化された原料化合物を、成膜室に導入すること、
基材上に薄膜を形成すること、
を含む、原子層堆積法による薄膜の製造方法であって、
前記蒸発器の気相部を排出することを含む、薄膜の製造方法。
[2] 前記蒸発器において前記原料液体を、気相との接触面積が増加するように運動させることを含む、上記[1]に記載の薄膜の製造方法。
[3] 前記原料液体の運動は、撹拌機構により撹拌されることにより生じる、上記[2]に記載の薄膜の製造方法。
[4] 前記原料液体の前記気相との接触面積は、前記運動がない場合の接触面積に対し、1.1倍以上である、上記[2]又は[3]に記載の薄膜の製造方法。
[5] 前記蒸発器内の原料液体の温度は、400℃以下である、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の薄膜の製造方法。
[6] 前記蒸発器と前記成膜室とを連結する部分における、前記原料化合物の分圧は、前記蒸発器における前記原料化合物の分圧と実質的に同じである、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の薄膜の製造方法。
[7] 前記原料化合物は、金属カルボニル錯体、金属メタロセン錯体、又は金属アミジネート錯体である、上記[1]~[6]のいずれか1項に記載の薄膜の製造方法。
[8] 前記金属は、Co又はWである、上記[7]に記載の薄膜の製造方法。
[9] 前記原料化合物は、
【化1】
である、上記[1]~[8]のいずれか1項に記載の薄膜の製造方法。
[10] 前記気相部は、原料化合物の分解物を含む、上記[1]~[9]のいずれか1項に記載の薄膜の製造方法。
[11] 前記基材は、銅基材である、上記[1]~[10]のいずれか1項に記載の薄膜の製造方法。
[12] 工程A蒸発器において、原料化合物を含む原料液体を気化させること、
工程B前記蒸発器において気化された原料化合物を、成膜室に導入すること、
工程C反応性ガスを成膜室に導入すること、
工程D前記蒸発器の気相部を排出すること
を含み、
工程Aを行いながら、工程B、次いで、工程Cを行うサイクルであって、工程Bの後、次回の工程Bの間に、工程Dを行うサイクルを実行する、上記[1]~[11]のいずれか1項に記載の薄膜の製造方法。
[13] 工程(i)成膜室内に、原料化合物を導入することにより、原料化合物を基材上に堆積させ、原料化合物の膜を形成すること、
工程(ii)成膜室内に残留する原料化合物を排気すること、
工程(iii)成膜室内に反応性ガスを導入することにより、基材上に堆積した原料化合物と反応ガスを反応させ、原料化合物を還元し、膜を形成すること、
工程(iv)成膜室内の未反応の反応性ガス及び副生したガスを排気すること
を含む、上記[1]~[12]のいずれか1項に記載の薄膜の製造方法。
[14] 原料化合物を含む原料液体を気化させる蒸発器と、
前記蒸発器の気相を排出する排出機構と、
基材上に原子層堆積法により成膜する成膜室と、
を有する成膜装置。
[15] 前記蒸発器は、前記原料化合物を含む原料液体を運動させる運動機構を備える、上記[14]に記載の成膜装置。
[16] 前記運動機構は、撹拌機構である、上記[14]又は[15]に記載の成膜装置。
[17] 前記蒸発器内の前記原料液体の温度は、400℃以下である、上記[14]~[16]のいずれか1項に記載の成膜装置。
[18] さらに、前記蒸発器と前記成膜室を連結する連結部を有し、前記蒸発器における前記原料化合物の分圧は、前記蒸発器における前記原料化合物の分圧と実質的に同じである、上記[14]~[17]のいずれか1項に記載の成膜装置。
【発明の効果】
【0007】
本開示の方法によれば、ALDにより安定して成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の成膜装置の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、実施例における原料化合物の蒸発速度を示すグラフである。
【
図3】
図3は、比較例における原料化合物の蒸発速度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示を説明する。なお、以下に説明する成膜方法及び成膜装置は、本開示に係る発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本開示に係る発明を以下のものに限定しない。
【0010】
本開示の薄膜の製造方法は、
蒸発器において原料化合物を含む原料液体を気化させること、
上記気化工程において気化された原料化合物を、成膜室に導入し、基材上に成膜すること、
を含み、さらに上記蒸発器の気相部を排出することを含むことを特徴とする。
【0011】
本開示の薄膜の製造方法は、本開示の成膜装置を用いて実施することができる。本開示の成膜装置は、
原料化合物を含む原料液体を気化させる蒸発器と、
上記蒸発器の気相部を排出する排出機構と、
基材上に成膜する成膜室と
を有し、
上記蒸発器は、上記原料化合物を含む原料液体を運動させる運動機構を備える。
【0012】
本開示の成膜装置の一の実施形態を、
図1に示す。本開示の成膜装置は、蒸発器1と成膜室2とを有し、蒸発器1は、攪拌機(運動機構)3を備える。成膜室2は、成膜台4を備える。蒸発器1と成膜室2とは、メインライン(連結部)5により連結されている。成膜室2には、成膜後のガスを排出するためのライン9が接続されている。メインライン5には、反応性ガスを供給するためのライン6と、及びキャリアガスを供給するためのライン7が接続されている。さらに、メインライン5とライン9は、ライン(排出機構)8により連結されている。ライン8は、メインライン5とライン9をバイパスしており、蒸発器1中の気相におけるガスを、成膜室2を通過させることなく成膜装置の外部に排出することを可能にする。蒸発器1中には原料化合物を含む原料液体15が存在し、蒸発器で気化した原料化合物は、メインライン5を通り、ライン6から供給される反応性ガス、及びライン7から供給されるキャリアガスと混合され、成膜室2に移送される。各ガスは、反応後、成膜室2からライン9を通り排気される。一方、蒸発器1の気相部は、ライン8を介することにより、成膜室2を通過することなく、ライン9から排出させることができる。メインライン5の蒸発器1の近くには、ポンプ11が設けられる。ライン9の成膜室2近くには、ポンプ12が設けられる、ライン9のライン8との接続部よりも下流には、ポンプ13が設けられる。メインライン5には、ガス流量を調整するためのバルブ21,22が設けられる。ライン6には、ガス流量を調整するためのバルブ23,24が設けられる。ライン8には、ガス流量を調整するためのバルブ25が設けられる。ライン7には、ガス流量を調整するためのマスフローコントローラー(以下、「MFC」ともいう)26が設けられる。
【0013】
(工程A)
本開示の成膜方法は、蒸発器において原料化合物を含む原料液体を気化させる工程(以下、「工程A」ともいう)を含む。
【0014】
上記原料化合物は、有機金属化合物である。
【0015】
上記有機金属化合物における金属原子としては、遷移金属、例えば、コバルト、ニッケル、銅、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン等が挙げられる。
【0016】
好ましい態様において、上記金属原子は、コバルト又はタングステンである。金属原子として、コバルト又はタングステンを用いることにより、例えば、銅配線上に成膜した場合に、銅配線の断線を防止することができる。
【0017】
上記有機金属化合物における有機配位子としては、例えば、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アルキニル、アルキルイミノ、アミノ、ジアルキルアミノアルキル、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、ジアミン、ジ(シリル-アルキル)アミノ、ジ(アルキル-シリル)アミノ、ジシリルアミノ、アルコキシ、アルコキシアルキル、ヒドラジド、ホスフィド、ニトリル、ジアルキルアミノアルコキシ、アルコキシアルキルジアルキルアミノ、シロキシ、ジケトナート、シクロペンタジエニル、シリル、ピラゾレート、グアニジネート、ホスホグアニジネート、アミジナート、ホスホアミジナート、ケトイミナート、ジケチミナート、カルボニル等が挙げられる。
【0018】
好ましい態様において、上記有機配位子は、カルボニル、シクロペンタジエニル、又はアミジナートである。
【0019】
好ましい態様において、上記有機金属化合物は、
【化2】
である。
【0020】
上記原料化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
上記原料化合物は、蒸発器1において気化される。
【0022】
上記原料液体は、不純物を含み得る。
【0023】
上記不純物としては、上記原料化合物の分解により生じた分解生成物、水等が挙げられる。
【0024】
好ましい態様において、上記原料液体は、実質的に原料化合物からなる。
【0025】
図1において、蒸発器1は1つのみであるが、例えば2種以上の原料化合物を用いる場合など、2つ以上であってもよい。
【0026】
蒸発器1は、運動機構3を備える。運動機構3は、蒸発器1中に存在する原料液体を運動させる機構である。かかる運動により、原料液体と蒸発器1内の気相との接触面積が増加する。
【0027】
蒸発器において原料液体を運動させ、気相との接触面積を増加させることにより、原料液体の蒸発速度が速くなり、蒸発器内の気相における原料化合物の分圧が高くなる。即ち、蒸発器内の気相において原料化合物が飽和蒸気圧に早期に達することができる。飽和蒸気圧に達する時間が短くなることにより、ALDによる成膜が安定化する。また、成膜サイクル間の時間を短くすることができ、成膜速度を向上させることができる。
【0028】
運動機構3は、原料液体を運動させることができるものであれば、特に限定されない。例えば、運動機構としては、撹拌機構、振動機構等が挙げられる。
【0029】
上記撹拌機構としては、例えば、液体中の撹拌部材を回転させる方式、容器自体を回転させる方式、液体中に原料化合物を噴出させる方式等の撹拌機構が挙げられる。
【0030】
好ましい態様において、撹拌機構は、撹拌部材を液体中に入れて回転させる方式の機構である。かかる撹拌部材としては、例えば、パドル型、タンブラー型、リボン型等のブレンダー等が挙げられる。
【0031】
上記振動機構としては、例えば、超音波を照射して液体を振動させる方式、容器自体を振動させる方式等の振動機構が挙げられる。
【0032】
蒸発器における原料液体と気相との接触面積は、原料液体の運動がない場合と比較して、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.5倍以上、さらに好ましくは2.0倍以上、さらに好ましくは3.0倍以上であり得る。かかる接触面積を大きくすることにより、原料液体の蒸発速度を高めることができる。上記接触面積は、原料液体の運動がない場合と比較して、好ましくは100倍以下、より好ましくは50倍以下であり得る。
【0033】
上記原料液体と気相との接触面積は、流体解析ソフトを用いるシミュレーションにより計算することができる。
【0034】
本開示の成膜方法では、原料液体の蒸発速度が速いことから、蒸発器内の温度及び原料液体の温度を比較的低温とすることができる。蒸発器1内の原料液体の温度は、好ましくは400℃以下、より好ましくは350℃以下である。このように比較的低温を用いることにより、望ましくない原料化合物の分解を抑制することができ、成膜された膜への不純物の混入を防止することができる。また、エネルギー効率にも優れている。上記原料液体の温度は、例えば150℃以上、好ましくは200℃以上であり得る。
【0035】
原料化合物の加熱は、蒸発器を外部からヒーター等で加熱することにより加熱してもよく、蒸発器内部に備えたヒーター等で加熱してもよい。また、別法として、加熱した媒体、例えばキャリアガスを原料液体に吹き込むことにより加熱してもよく、外部で加熱した原料液体を蒸発器内に導入してもよい。
【0036】
蒸発器1内部の気圧は、100Pa~1.5kPaであり得る。
【0037】
(工程B)
本開示の成膜方法は、前記工程Aにおいて気化された原料化合物を、成膜室に導入する工程(以下、「工程B」ともいう)を含む。
【0038】
成膜室に導入された原料化合物は、成膜室内に配置された基材上に堆積し、原料化合物の膜を形成する。
【0039】
蒸発器1で生成された原料化合物の気体は、メインライン5を通り、成膜室2に移送される。成膜室2に残った原料化合物の気体は、ライン9から系外に排出される。
【0040】
メインライン5は、蒸発器1内部の圧力を調整する、あるいは成膜室2への原料化合物の流量を調整するためのバルブを有していてもよい。
図1に示す態様においては、メインライン5は、バルブ21,22を有する。
【0041】
メインライン5には、キャリアガスを移送するためのライン、反応性ガスを移送するためのライン等が接続されていてもよい。
図1に示す態様においては、メインライン5に、反応性ガスを移送するためのライン6と、キャリアガスを移送するためのライン7が接続されている。
【0042】
ライン7は、キャリアガスの流量を制御するための機構を有していてもよい。ライン7は、キャリアガスの流量を制御するためのマスフローコントローラーを有していてもよい。
図1に示す態様においては、ライン7は、マスフローコントローラー26を有する。
図1に示す態様においては、原料化合物の気体と、キャリアガスは、メインライン5において混合される。なお、
図1において、ライン7は、メインライン5に接続されているが、蒸発器1に接続され、蒸発器内で、原料化合物とキャリアガスを混合してもよい。
【0043】
キャリアガスとしては、窒素、希ガス等の不活性ガスが挙げられ、好ましくは窒素又はアルゴンガスが用いられる。
【0044】
メインライン5は、加熱機構を有し得る。加熱機構としては、配管周囲に配置されるヒーター、典型的にはジャケットヒーターが挙げられる。
【0045】
上記加熱は、蒸発器1における原料化合物の分圧と、蒸発器1と成膜室2とを連結する部分(即ちメインライン5)における原料化合物の分圧が、実質的に同じとなる温度とすることが好ましい。蒸発器1における原料化合物の分圧とライン5における原料化合物の分圧とを実質的に同じにすることにより、成膜の制御が容易になり、得られる膜の質が向上する。
【0046】
蒸発器1における原料化合物の分圧と、蒸発器1と成膜室2とを連結する部分(即ちメインライン5)における原料化合物の分圧とが実質的に同じとは、両分圧の差が、50Pa以内であることを意味する。蒸発器1における原料化合物の分圧と、蒸発器1と成膜室2とを連結する部分(即ちライン5)における原料化合物の分圧との差は、好ましくは30Pa以内、より好ましくは10Pa以内、さらに好ましくは5Pa以内である。
【0047】
(工程C)
本開示の成膜方法は、反応性ガスを成膜室に導入する工程(以下、「工程C」ともいう)を含み得る。
【0048】
成膜室に導入された反応性ガスは、基材上に堆積した原料化合物と反応し、原料化合物を還元する。これにより基材上に金属膜が形成される。
【0049】
反応性ガスは、ライン6から、メインライン5を介して、成膜室2に導入される。成膜室2での反応後、反応性ガスは、ライン9から系外に排出される。
【0050】
ライン6は、反応性ガスの流量を制御するための機構を有していてもよい。
図1に示す態様においては、ライン6は、反応性ガスの流量を制御するためのバルブ23,24を有する。
図1に示す態様においては、反応性ガスは、キャリアガスと、メインライン5において混合される。なお、
図1において、ライン7は、メインライン5に接続されているが、成膜室2に接続され、反応性ガスを成膜室2に直接導入してもよい。
【0051】
(工程D)
本開示の成膜方法は、蒸発器の気相部を除去する工程(以下、「工程D」ともいう)を含み得る。
【0052】
蒸発器1内で生じた原料液体の気体が蒸発器1の外部に排出されない間、蒸発器1において、原料化合物の分解物等の不純物、特に低沸点成分の濃度が上昇し、ひいては原料液体内の上記原料化合物の分解物等の濃度が上昇し得る。この状態においては、原料化合物の蒸気圧が不安定となり、安定した成膜が困難になる。また、不純物が膜に混入する可能性が高くなる。工程Dにおいて、蒸発器の気相部を除去することにより、蒸発器1内の不純物の濃度が低下し、原料化合物の蒸気圧が安定し、安定した成膜が可能になる。また、膜に不純物が混入することを抑制することができる。
【0053】
図1の態様において、蒸発器1の気相部は、不純物を含む。上記不純物を含む気相部は、メインライン5に接続されたライン8を通り系外に排出される。
【0054】
ライン8は、ライン5とライン9間をバイパスする。これにより、蒸発器1中の気相におけるガスを、成膜室2を通過させることなく成膜装置の外部に排出することを可能にする。ライン8は、ガスの排出をオン又はオフにするためのバルブ25を有する。
【0055】
工程Dは、上記工程Bの前に行う。具体的には、工程Dは、工程Bの前、1分以内、好ましくは30秒以内、より好ましくは20秒以内、さらに好ましくは10秒以内に行う。
【0056】
工程Dは、工程Cと同時に行ってもよく、別々に行ってもよい。工程Dを工程Cと同時に行う場合、工程D又は工程Cの一部期間のみが他方の工程と同時であってもよい。
【0057】
好ましい態様において、本開示の薄膜の製造方法は、工程Aを行いながら、工程Bを行い、次いで、工程Cを行うサイクルであって、工程Bの後、次回の工程Bの間に、工程Dを行うサイクルを実行する。工程Dは、工程Cと並行して行ってもよい。
【0058】
次に成膜室2における反応を説明する。まず、(i)上記のように成膜室2内に、原料化合物を導入することにより、原料化合物が基材上に堆積し、原料化合物の膜が形成される。次いで、(ii)成膜室2内に残留する原料化合物を排気する。次いで、(iii)成膜室2内に反応性ガスを導入することにより、基材上に堆積した原料化合物と反応ガスが反応し、原料化合物が還元されて、膜、典型的には金属膜が形成される。次いで、(iv)未反応の反応性ガス及び副生したガスを排気する。上記(i)~(iv)により所望の単原子膜が得られる。また、工程(i)~(iv)が繰り返されることにより、所望の厚さの膜が形成される。
【0059】
(工程(i))
工程(i)では、原料化合物が導入され、基材上に原料化合物が堆積し、原料化合物の膜が形成される。
【0060】
上記基材は、通常、原料化合物の導入前に、成膜室2内に設けられた成膜台上に設置する。
【0061】
上記基材を構成する材料は、特に限定されないが、例えば、銅、銀、金、白金、ニッケル、パラジウム、アルミニウム等の金属;シリコン;インジウムヒ素、インジウムガリウム砒素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化チタン、酸化タンタル、窒化タンタル、酸化チタン、窒化チタン、酸化ルテニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ランタン、窒化ガリウム等のセラミックス;ガラス等が挙げられる。
【0062】
一の態様において、上記基材を構成する材料は、銅、銀、金、白金、ニッケル、パラジウム、又はアルミニウムであり、好ましくは銅である。
【0063】
上記基材の形状は、特に限定されず、板状、棒状、球状、層状、繊維状、鱗片状等であってもよい。
【0064】
一の態様において、基材の形状は、基板上に設けられた層状、例えば配線基板上の配線であり得る。
【0065】
原料化合物を基材上に堆積させる際の基材の温度は、例えば、20~600℃、好ましくは50~500℃、より好ましくは100~450℃、さらに好ましくは100~400℃であり得る。
【0066】
(工程(ii))
工程(ii)では、成膜室2内に残留する原料化合物を排気する
【0067】
排気方法としては、窒素又はアルゴン等の不活性ガスにより系内パージする方法、系内を減圧することで排気する方法、これらを組み合わせた方法等が挙げられる。
【0068】
(工程(iii))
工程(iii)では、成膜室2内に反応性ガスが導入され、基材上に堆積した原料化合物と反応性ガスが反応して、原料化合物が還元されることにより、金属膜が形成される。
【0069】
上記反応性ガスとしては、上記原料化合物と反応し得るものであれば特に限定されず、例えば、水素、酸素、ギ酸、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、モノクロロシラン、ジクロロシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシラン、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、ヨウ化メチル、臭化メチル等が挙げられる。
【0070】
反応性ガスを成膜室2に導入する際の基材の温度は、例えば、20~600℃、好ましくは50~500℃、より好ましくは100~450℃、さらに好ましくは100~400℃であり得る。
【0071】
(工程(iv))
工程(iv)では、未反応の反応性ガス及び副生したガスを排気する。
【0072】
排気方法としては、窒素又はアルゴン等の不活性ガスにより系内パージする方法、系内を減圧することで排気する方法、これらを組み合わせた方法等が挙げられる。
【0073】
工程(ii)及び工程(iv)で排気されたガスは、ライン9を通り、排気される。ライン9は、排気流量を調整するため、あるいは成膜室2の圧力を調整するための排気バルブを有していてもよい。
【0074】
上記したように、上記工程(i)~(iv)は、1つのサイクルを形成しており、所望の膜厚に応じて、複数回繰り返すことができる。
【0075】
以上、本開示の1つの実施形態について説明したが、本開示はかかる実施形態に限定されず、種々の改変が可能である。
【実施例0076】
以下、本開示について、実施例において説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
下記に示すように、
図1に示すような装置を用いて、原子層堆積法により薄膜を製造した。
【0078】
プロセス条件は下記の通りである。
原料化合物:(3,3-ジメチル-1-ブチン)ジコバルトヘキサカルボニル:
【化3】
原料化合物ガス流量:0.003scc(Standard Cubic Sentimeters)/サイクル×5サイクル
反応性ガス:水素 反応性ガス流量:14scc/サイクル×3サイクル
キャリアガス:窒素
キャリアガス流量:5ccpm
蒸発器の設定温度:70℃
成膜室の設定温度:200℃
【0079】
<共通プロセス>
原料液体としての原料化合物を、攪拌しながら、設定温度にて加熱する。同時に、成膜室を設定温度に加熱する。キャリアガスをマスフローコントローラーにより設定流量(5sccm)にて供給する。バルブ25を10秒開けて、蒸発器の気相を除去する。その後、バルブ25を閉じる。
【0080】
<実施例プロセス>
上記の共通プロセスの後、下記の工程を行う。
(1)下記を5回繰り返す。
バルブ21を開ける→1秒後にバルブ21を閉じる→0.75秒後にバルブ22開ける→1秒後にバルブ22を閉じる。
(2)(1)の0.25秒後にバルブ25を開け、2秒後にバルブ25を閉じる。
(3)(1)の2秒後に下記を3回繰り返す。
バルブ23を開ける→1秒後にバルブ23を閉じる→0.75秒後にバルブ24を開ける
→1秒後にバルブ24を閉じる
(4)(3)の5秒後に再度(1)に戻る。
【0081】
<比較例プロセス>
(1)下記を5回繰り返す。
バルブ21を開ける→1秒後にバルブ21を閉じる→0.75秒後にバルブ22を開ける→1秒後にバルブ22を閉じる
(2)(1)の2秒後に下記を3回繰り返す。
バルブ23を開ける→1秒後にバルブ23を閉じる→0.75秒後にバルブ24を開ける→1秒後にバルブ24を閉じる。
(3)(2)の5秒後に再度(1)に戻る。
【0082】
上記のプロセスにおける、蒸発器内の圧力変化を測定した。実施例の結果を
図2に、比較例の結果を
図3に示す。
【0083】
図2における、飽和蒸気圧付近の小刻みな変動は、実施例プロセス(1)のパルス供給時の圧力変動である。パルス供給終了後に、実施例プロセス(2)により100Pa程度まで真空引きを行うことにより、熱分解による不純物を除去している。その後、原料の撹拌機構を設けることにより原料の蒸発が速やかに進み、実施例プロセス(3)における反応ガス供給後には原料蒸気圧は飽和蒸気圧付近にまで回復し、実施例プロセス(4)にて再度原料をパルス供給する際には、一定圧力にて供給できている。これにより、安定的なALDプロセスを行うことができることが確認された。
一方、比較例プロセスにおいては、撹拌機構により速やかに原料の蒸発は進むものの、真空引きによる不純物の除去がないために、分解物が容器内に蓄積する。
図3に示すように、容器内圧力は飽和蒸気圧を大きく超え、原料のパルス供給時(小刻みな変動部分)の圧力はサイクルを重ねるごとに上昇し続けている。これは、一定圧力にて原料が供給できていないことに加え、原料中の不純物比率も上がり続けることを意味しており、安定的なALDプロセスを行うことができていないことが確認された。
本開示の成膜方法によれば、純度の高い薄膜を、効率的に成膜することができることから、本開示の成膜方法は、種々の用途、例えば回路基板の製造などに用いることができる。
前記蒸発器と前記成膜室とを連結する部分における、前記原料化合物の分圧は、前記蒸発器における前記原料化合物の分圧と実質的に同じである、請求項1に記載の薄膜の製造方法。