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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120195
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】二酸化炭素分離用組成物
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20240829BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20240829BHJP
   C12N 9/88 20060101ALN20240829BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/62
C12N9/88
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026820
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷口 直優
(72)【発明者】
【氏名】半澤 敏
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 陽介
【テーマコード(参考)】
4B050
4D002
4D020
【Fターム(参考)】
4B050CC07
4B050EE03
4B050LL05
4D002AA09
4D002AC05
4D002AC10
4D002BA02
4D002CA02
4D002CA06
4D002CA07
4D002DA31
4D002DA32
4D002DA70
4D002EA08
4D002FA01
4D002GA01
4D002GB02
4D002GB03
4D002GB08
4D002GB11
4D020AA03
4D020BA16
4D020BA19
4D020BA30
4D020BB03
4D020BB04
4D020BB10
4D020BC01
4D020CB01
4D020CB08
4D020CB18
4D020CC21
4D020DA03
4D020DB02
4D020DB03
4D020DB07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ガス中に含まれる二酸化炭素を吸収可能、かつ当該吸収した二酸化炭素を放散可能な二酸化炭素分離用組成物であって、前記放散を低温で実施可能な前記組成物を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で示されるアミン化合物と、炭酸脱水酵素とを含む組成物とする。

【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるアミン化合物と、炭酸脱水酵素とを含む、二酸化炭素分離用組成物。
【化3】
[上記式中、R10、R11、R12、R13およびR14は、各々独立して、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基、2-ヒドロキシエチル基、および炭素数1以上4以下のアルコキシ基、のいずれかを表す。a及びbは、それぞれ独立に、0または1であり、a+b=1の関係を満たす。R15は、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、メトキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、および2-ヒドロキシエチル基、のいずれかを表す。]
【請求項2】
上記一般式(1)で示されるアミン化合物が、下記式で示される、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン-2-メタノールである、請求項1に記載の二酸化炭素分離用組成物。
【化4】
【請求項3】
二酸化炭素を含むガスを請求項1または2に記載の二酸化炭素分離用組成物に接触させて当該ガス中に含まれる二酸化炭素を吸収させる工程と、前記工程で二酸化炭素を吸収させた前記組成物から当該二酸化炭素を放散させる工程とを含む、二酸化炭素の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス中に含まれる二酸化炭素を二酸化炭素吸収液により吸収した後、放散させるための二酸化炭素分離組成物に関する。より詳しくは、本発明は、前記放散を低温で行なえる、二酸化炭素分離用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化問題のため、二酸化炭素の分離・回収が注目されており、二酸化炭素吸収液の開発が盛んに行なわれている。
【0003】
二酸化炭素の分離・回収設備が設置される火力発電所やセメント焼成炉等の燃焼排ガスは、NO(窒素酸化物)を含有していることが多い。この場合、二酸化炭素回収システムの中では、燃焼排ガス中のNOが吸収液に吸収されて、亜硝酸(HNO)等が生成される。従来より二酸化炭素吸収液として知られている、モノエタノールアミン(特許文献1)や、2-イソプロピルアミノエタノール(特許文献2)の水溶液では、前記生成した亜硝酸と反応し、二酸化炭素吸収能が低下する、という課題があった(特許文献3)。具体的には、
モノエタノールアミンなどの1級アミン化合物は亜硝酸と反応してアルコールを生成し、
【0004】
【化1】
【0005】
2-イソプロピルアミノエタノールなどの2級アミン化合物は亜硝酸と反応してニトロソアミンを生成する。
【0006】
【化2】
【0007】
前記課題を解決すべく、亜硝酸と反応しない3級アミン化合物のみを含む水溶液からなる二酸化炭素吸収液も報告されている(特許文献4および5)。また3級アミン化合物にジアミン化合物を追加することで、二酸化炭素の吸収速度を向上させた吸収液(特許文献6)や、二酸化炭素の吸収速度に加え吸収した二酸化炭素の放散速度も向上させた吸収液(特許文献7)も報告されている。さらにアミン化合物に炭酸脱水酵素を追加することで、二酸化炭素の吸収速度を向上させた吸収液も報告されている(特許文献8)。
【0008】
しかし、これら文献に記載の吸収液で吸収させた二酸化炭素を放散させる際、高温に加熱する必要があるため、二酸化炭素回収に消費されるエネルギーが大きくなるという課題があった。また、その放散時の高温または/およびアミン化合物のアルカリ性条件下にて、天然型の炭酸脱水酵素は失活してしまうという問題点があった。そのため、大規模な二酸化炭素補足プロセスで天然型の炭酸脱水酵素を実装するのは難しいとされていた。(非特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6-343858号公報
【特許文献2】特開2019-115888号公報
【特許文献3】特開2013-202523号公報
【特許文献4】特表2006-528062号公報
【特許文献5】特表2013-517925号公報
【特許文献6】特表2009-539595号公報
【特許文献7】特開2022-101908号
【特許文献8】特表2010-517533号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Oscar Alvizoa他,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2014 Nov 18,111(46),16436-16441
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述したように、これまで報告されている二酸化炭素吸収液は、吸収した二酸化炭素の放散を高温で行なう必要があった。本発明は上記の課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、低温で二酸化炭素を放散可能な、二酸化炭素分離用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、特定の3級アミン化合物と、炭酸脱水酵素を含む、二酸化炭素分離用組成物を用いることで、吸収した二酸化炭素の放散を低温で行なえるという知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下の[1]から[3]に記載の態様を包含する。
【0014】
[1]下記一般式(1)で示されるアミン化合物と、炭酸脱水酵素とを含む、二酸化炭素分離用組成物。
【0015】
【化3】
【0016】
[上記式中、R10、R11、R12、R13およびR14は、各々独立して、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基、2-ヒドロキシエチル基、および炭素数1以上4以下のアルコキシ基、のいずれかを表す。a及びbは、それぞれ独立に、0または1であり、a+b=1の関係を満たす。R15は、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、メトキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、および2-ヒドロキシエチル基、のいずれかを表す。]
[2]上記一般式(1)で示されるアミン化合物が、下記式で示される、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン-2-メタノールである、請求項1に記載の二酸化炭素分離用組成物。
【0017】
【化4】
【0018】
[3]二酸化炭素を含むガスを[1]または[2]に記載の二酸化炭素分離用組成物に接触させて当該ガス中に含まれる二酸化炭素を吸収させる工程と、前記工程で二酸化炭素を吸収させた前記組成物から当該二酸化炭素を放散させる工程とを含む、二酸化炭素の分離方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の二酸化炭素分離用組成物は、特定の3級アミン化合物と炭酸脱水酵素とを含むことを特徴としており、ガス中に含まれる二酸化炭素を吸収させる工程と前記工程で吸収した二酸化炭素を放散させる工程とを含む二酸化炭素の分離方法に、本発明の組成物を適用することで、従来の組成物(二酸化炭素吸収剤)と比較し、前記放散させる工程をより低温で行なえる。したがって、ガス中に含まれる二酸化炭素の分離に要するエネルギーの消費量が低減し、より環境負荷の低い二酸化炭素分離プロセスを提供できる。また放散温度を低下させることで、天然型の炭酸脱水酵素を用いたときでも、放散時の失活を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例および比較例で用いた、二酸化炭素吸収/放散装置の概略図である。
図2】実施例1および比較例1で、吸収工程における排ガス中に含まれる二酸化炭素濃度の推移をプロットした図である(実施例1:太線、比較例1:細線)。なお実施例1では白抜き矢印で示した時点で炭酸脱水酵素(CA)を添加している。
図3】実施例2および比較例2で、放散工程における排ガス中に含まれる二酸化炭素濃度の推移(実施例2:太線、比較例2:細線)および湯浴槽の水温(吸収液の液温に相当)(実施例2:太点線、比較例2:細点線)の推移をプロットした図である。
図4】比較例3および4で、吸収工程における排ガス中に含まれる二酸化炭素濃度の推移をプロットした図である(比較例3:細線、比較例4:太線)。なお比較例4では白抜き矢印で示した時点で炭酸脱水酵素(CA)を添加している。
図5】比較例3および4で、放散工程における排ガス中に含まれる二酸化炭素濃度の推移(比較例3:細線、比較例4:太線)および湯浴槽の水温(吸収液の液温に相当)(比較例3:細点線、比較例4:太点線)の推移をプロットした図である。
図6】比較例5および6で、吸収工程における排ガス中に含まれる二酸化炭素濃度の推移をプロットした図である(比較例5:細線、比較例6:太線)。なお比較例6では白抜き矢印で示した時点で炭酸脱水酵素(CA)を添加している。
図7】比較例5および6で、放散工程における排ガス中に含まれる二酸化炭素濃度の推移(比較例5:細線、比較例6:太線)および湯浴槽の水温(吸収液の液温に相当)(比較例5:細点線、比較例6:太点線)の推移をプロットした図である。
図8】実施例および比較例の結果のうち、吸収工程で吸収した二酸化炭素の吸収量の合計と、放散工程で放散した二酸化炭素の放散量の合計とを示した図である。
図9】実施例および比較例の結果のうち、吸収液温度による二酸化炭素の放散割合の変化をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
<<二酸化炭素分離用組成物>>
本発明の二酸化炭素分離用組成物[C]は、一般式(1)で示されるアミン化合物[A]、および炭酸脱水酵素(Carbonic anhydrase、以下CAとも表記)[B]を含むことを特徴とする。
【0023】
[A]アミン化合物
本発明の組成物を構成する一般式(1)で示されるアミン化合物は、二酸化炭素の吸着および放散の役割を担う。
【0024】
一般式(1)において、R10、R11、R12、R13およびR14は、各々独立して、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基、2-ヒドロキシエチル基、および炭素数1以上4以下のアルコキシ基、のいずれかを表す。このうち炭素数1以上4以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、およびtert-ブチル基を例示できる。また炭素数1以上4以下のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、およびsec-ブトキシ基を例示できる。中でも、各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、ブチル基、ヒドロキシメチル基、およびメトキシ基のいずれかが、二酸化炭素の放散効率に優れる点で好ましく、水素原子がより好ましい。
【0025】
一般式(1)において、R15は、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、メトキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、および2-ヒドロキシエチル基のいずれかを表す。このうち炭素数1以上4以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基を例示できる。中でも、水素原子、メチル基、エチル基、ブチル基、メトキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、および2-ヒドロキシエチル基のいずれかが、二酸化炭素の放散効率に優れる点で好ましく、水素原子がより好ましい。
【0026】
一般式(1)において、aおよびbは、それぞれ独立に、0または1であり、a+b=1の関係を満たす。具体的には、a=1かつb=0のとき、上記の一般式(1)は下記一般式(1a)で示され、a=0かつb=1のとき、上記の一般式(1)は下記一般式(1b)で示される。
【0027】
【化5】
【0028】
【化6】
【0029】
なお一般式(1a)および(1b)のR10、R11、R12、R13、R14およびR15の定義および好ましい範囲は、前述した一般式(1)のR10、R11、R12、R13、R14およびR15の定義および好ましい範囲と同義である。
【0030】
一般式(1)の具体例としては、以下の化合物(例示化合物1から28)があげられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
【化7】
【0032】
中でも、二酸化炭素の吸収および放散特性ならびに入手容易性の観点から、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン-2-メタノール(一般式(1)においてR11、R12、R13、R14およびR15が全て水素原子、かつa=0、b=1の態様、例示化合物1)が好ましい。
【0033】
本発明において、一般式(1)で示されるアミン化合物は市販のものでもよいし、公知の方法により合成したものでもよく、特に限定されない。また前記アミン化合物の純度としては、特に限定するものではないが、純度が95%を下回ると二酸化炭素の吸収量が低下するおそれがあることから、95%以上が好ましく、99%以上が特に好ましい。
【0034】
[B]炭酸脱水酵素(CA)
本発明の組成物を構成するCAは、溶媒等への二酸化炭素の拡散速度を向上させる役割を担う。
【0035】
CAは二酸化炭素の水和作用およびその逆反応を触媒する酵素であり、反応速度10-1という極めて高い触媒活性を有する。CAは生物界に広く存在し、動物では組織で生産された二酸化炭素を水和して血中への溶解を促進したり、肺では炭酸水素イオンを脱水して二酸化炭素の気相への放出を促進するなどの生理的役割を行なう。植物では光合成における二酸化炭素の輸送と反応の促進に関係する。微生物ではゼノバイオティクス(Xenobiotics、生体異物)の生産にもかかわることが指摘されており、例えば大腸菌におけるシアン酸塩の生産への関与が指摘されている(非特許文献2:Clemente Capassoら、J.Enzyme Inhib.Med.Chem.,2015 Apr.,30(2),325-332)。CAはアミノ酸配列の相同性からα型、β型、γ型、δ型およびζ型に分類される。α型、β型、およびδ型は活性中心に亜鉛イオンを持ち、γ型は鉄イオンを有するとされる。またζ型はカドミウムイオンまたは亜鉛イオンを有する(非特許文献2)。
【0036】
本発明の組成物に用いるCAは、70℃以下で前記触媒活性を有するものであれば特に限定はなく、例えば、動物、植物または微生物由来のCAが利用可能である。
【0037】
動物では炭酸輸送を効率的に進めるため、赤血球に多量のCAが含まれている。赤血球を含む血液試料は畜産副産物として安価に入手できるため、CAの分離源として好ましく用いることができる。家畜としては、ウシ、ブタ、ヒツジ、ニワトリ、ガチョウ、アヒル、カモが例示できる。また医療廃棄物として発生する献血検体、ヒト胎盤や摘出臓器もCAの分離源として利用可能である。さらには魚介類やエビなどの水産動物をCAの分離源として利用してもよい。
【0038】
植物由来のCAは、例えば穀物や果実の葉部などの農産物の非可食部を分離源とし、取得できる。
【0039】
微生物由来のCAの分離源としては、微細藻類を含む微生物、大腸菌、枯草菌、酵母、糸状菌、および古細菌等、種類を問わず利用可能である。また清酒やビール醸造後の酵母菌体を含むろ過残渣などもCAの分離源として利用可能である。
【0040】
前述したように農水畜産業の副産物や医療廃棄物などCAを含む試料(分離源)から、分離精製しCAを取得してもよいが、CAを得ることを主目的として、例えば微生物を培養することで取得してもよい。前記培養によりCAを得る場合、例えば、前述した各種分離源からCAタンパク質をコードするポリヌクレオチド(以下、CA遺伝子とも表記)を取得し、当該遺伝子を大腸菌等の培養が容易な微生物に導入して得られる組換え体を培養しCAを得てもよい。前記組換え体を用いる場合、さらに導入するCA遺伝子を改変することで、耐熱性、耐アルカリ性、比活性などの特性を向上させたCAとして、取得してもよい。改変したCA(改変型CA)としては、Desulfovibrio vulgaris由来の改変型βクラスCA(非特許文献1)、Methabacterium thermoautotorophicus DeltaH由来の改変型βクラスCA(WO2011/066304号)、Methanosarcina thermophila由来の改変型γクラスCA(WO2011/041011号)などが知られている。
【0041】
得られたCAは分離源をそのまま使用してもよいが、二酸化炭素分離を行なうために好ましい態様に加工して使用してもよく、さらに適切な溶媒で抽出して使用してもよい。抽出に使用する溶媒は水または塩類を溶解した緩衝液が好ましいが、CA活性を阻害しない範囲でエタノールやアセトンなどの有機溶媒、尿素や塩酸グアニジンなどの変性剤等を混合して使用してもよい。抽出したCAは抽出液としてそのまま使用してもよいが、任意の純度に精製し使用してもよい。精製手段としては、硫安塩析、溶媒分画、各種クロマトグラフィーなど既存の方法を任意に組み合わせて行なえばよい。
【0042】
CAは化学修飾した態様や、不溶性担体に物理吸着または共有結合で固定化した態様で使用してもよい。化学修飾した態様の例としては、αクラスCAであるヒトCAIIを化学的に架橋して安定化した例(US8569031号公報)が知られている。不溶性担体に固定化した態様の例としては、Cristhian Molina-Fernandezらが開示(J.CO2 Util.、47、101475(2021))している固定化CAが知られている。不溶性担体の材質は、本発明の二酸化炭素分離方法で使用する条件(温度や溶媒雰囲気など)で安定性を維持可能な材質であれば特に限定はなく、例えば、シリカ、アルミナ、マグネシア、多孔性ガラス、活性炭、ポリメチルメタクリレート系の多孔性樹脂、または繊維があげられる。不溶性材質としてシリカを用いる場合、使用するシリカに特に制限はなく、結晶性シリカであってもよく、非結晶性(アモルファス)シリカであってもよい。また細孔を有するゼオライト状のシリカであってもよく、メソポーラスシリカであってもよい。さらには工業的に流通しているシリカをそのまま使用してもよい。中でも表面積が大きいシリカが好ましい。不溶性担体に多孔質を用いる場合、当該孔内に水が含まれていてもよい。当該不溶性担体孔内に含まれる水の量は、吸収する二酸化炭素に対し等モル以上が好ましい。水の量が二酸化炭素に対し等モル以上であれば、二酸化炭素の放散エネルギーが余り大きくならないからである。
【0043】
[C]二酸化炭素分離用組成物
本発明の二酸化炭素分離用組成物については、二酸化炭素吸収速度が速いという点で、上記一般式(1)で示されるアミン化合物とCAとの組成比が、アミン化合物100重量部に対して、CAが0.001重量部以上1重量部以下であることが好ましく、アミン化合物100重量部に対して、CAが0.005重量部以上0.5重量部以下であることがより好ましく、アミン化合物100重量部に対して、CAが0.01重量部以上0.1重量部以下であることがさらにより好ましい。
【0044】
本発明の二酸化炭素分離用組成物は、そのまま当該分離用途に使用できるが、操作性の観点から、さらに溶媒を含ませた態様として使用してもよい。なお、前記溶媒については、特に限定はなく、例えば、水、アルコール化合物、ポリオール化合物(例えば、エチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール)、およびこれらの混合物が挙げられる。なお前記例示した溶媒のうち水が、二酸化炭素ガスを重炭酸塩として吸収分離する効率性に優れる点、分離用組成物の粘度上昇や固形分生成抑制に優れる点、二酸化炭素の放散エネルギーがあまり高くならない点で、好ましい。前記溶媒(例えば、水)を用いる場合、当該溶媒の濃度については、本発明の二酸化炭素分離用組成物の操作性に優れる点で、当該溶媒を含んだ二酸化炭素分離用組成物全量に対して30重量%以上95重量%以下が好ましく、50重量%以上80重量%以下にするとより好ましい。
【0045】
<<二酸化炭素の分離方法>>
次に、本発明の二酸化炭素の分離方法(以下単に、本発明の分離方法とも表記する)について詳細に説明する。
【0046】
本発明の分離方法は、本発明の二酸化炭素分離用組成物を二酸化炭素を含むガスに接触させ、当該二酸化炭素を前記組成物に吸収させる工程(吸収工程)と、前記工程で二酸化炭素を吸収させた前記組成物を吸収工程よりも高温および/または減圧することにより放散させる工程(放散工程)とを含む方法であり、本発明の二酸化炭素分離用組成物を用いることで、ガス中に含まれる二酸化炭素を高選択的に吸収でき、かつ吸収した二酸化炭素を従来の方法より低温で放散できることを特徴としている。
【0047】
本発明の分離方法で本発明の二酸化炭素分離用組成物に吸収させる、二酸化炭素を含むガスについては、純粋な二酸化炭素ガスであってもよいし、二酸化炭素とその他ガスを含む混合ガスであってもよい。前記その他のガスとしては、特に限定するものではなく、例えば、大気、窒素、酸素、水素、アルゴン、ネオン、へリウム、一酸化炭素、水蒸気、メタン、窒素酸化物(NO)が挙げられる。前記混合ガスに含まれる二酸化炭素の濃度は、二酸化炭素と他のガスとの分離性能向上を考慮すると、二酸化炭素濃度が5%以上が好ましく、より好ましくは10%以上である。
【0048】
本発明の分離方法において、二酸化炭素を含むガスを、本発明の二酸化炭素分離用組成物に接触させる方法については、特に制限はなく、バブリング法や、充填塔または棚段塔を用いた対向接触法など公知の方法が使用できる。
【0049】
本発明の分離方法において、二酸化炭素を含むガスを、本発明の二酸化炭素分離用組成物に吸収させる際の温度としては、特に制限するものではないが、通常0℃以上50℃以下の範囲を挙げられる。
【0050】
前述した通り、本発明の分離方法は、二酸化炭素分離用組成物に吸収させた二酸化炭素を従来の方法よりも低温で放散できることを特徴としている。従来のアミン化合物を用いた二酸化炭素の分離方法では、前記アミン化合物に化学吸着した二酸化炭素を放散させるのに100℃以上の高温を必要としたが、本発明の二酸化炭素分離用組成物では、例えば70℃以下、65℃以下、60℃以下の低温で前記組成物に化学吸着した二酸化炭素を放散できる。そのため、二酸化炭素の分離に要するエネルギーを低減できる。また放散温度が低下することにより、天然型の炭酸脱水酵素の放散時における失活を防ぐことができる。
【0051】
本発明の二酸化炭素の分離方法では、前述した吸収工程および放散工程以外のその他工程を含んでも一向に差し支えない。その他工程の例として、冷却工程、加熱工程、洗浄工程、抽出工程、超音波処理工程、蒸留工程、その他薬液で処理する工程があげられる。
【0052】
本発明の二酸化炭素の分離方法は、例えば、火力発電所、鉄鋼プラント、およびセメント工場などで発生する燃焼排ガスからの二酸化炭素の分離や、水蒸気改質プロセスで得られる水蒸気改質ガスからの二酸化炭素の分離に適用できる。
【実施例0053】
以下、本発明の各実施形態について、実施例および比較例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら例により何ら限定されるものではない。
【0054】
実施例1 1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン-2-メタノール(商品名:RZETA)水溶液への二酸化炭素吸収(炭酸脱水酵素(CA)添加あり)
(1)RZETA(東ソー製)を20.3g(143mmol)秤量し、純水を加えて50.6gとして吸収液2aを調製した。吸収液2aのpHは11.6だった。
【0055】
(2)(1)で調製した吸収液2aおよびスターラーチップ11を、図1に示した装置のボトル10に入れ、室温(21℃から23℃)条件下マグネチックスターラー30で撹拌した。
【0056】
(3)マスフローコントローラー41/42を用いて、空気1a 450mL/min、二酸化炭素1b 50mL/minの混合ガス(混合ガスとしての流量:500mL/min)を、排ガス分析計80(OFF-GAS Jr.DEX-2562A、エイブル製)へ直接通気した後、データ収集を開始し、混合ガス中に含まれる二酸化炭素濃度を10分間測定(通気量:5L)した。なお測定データはデータロガー90(midi Logger GL220、GRAPHTEC製)を用いて5秒間隔で収集した。
【0057】
(4)混合ガスの配管を吸収液2aの入ったボトル10に、排ガス分析計80を排ガス配管(エアフィルタ52下流)に、それぞれ接続しなおした後、前記混合ガス(空気1a 450mL/min、二酸化炭素1b 50mL/min)を、エアーストーン12(ジェックス製GX-63[丸ストン小])を介して吸収液2aの入ったボトル10へ通気し、吸収液2a中に分散させた。排ガス3中に含まれる二酸化炭素濃度を排ガス分析計80で測定し、測定データをデータロガー90を用いて5秒間隔で収集した。
【0058】
(5)吸収液2aへの通気開始から10分経過後(吸収液2aへの通気量5L、(3)からの通算通気量10L)、0.2g/Lウシ赤血球由来CA(Sigma-Aldrich製)水溶液2bを60mL添加し、さらに30分経過後(吸収液2aへの通気量20L、(3)からの通算通気量25L)、CA水溶液2bを50mL添加した。
【0059】
(6)排ガス中の二酸化炭素濃度が8%を越えた時点で二酸化炭素吸収量がほぼ飽和に達したものとして、混合ガスの供給量を50mL/minに下げ、排ガス分析計80による測定およびデータロガー90によるデータ収集を停止した。
【0060】
(7)二酸化炭素吸収量を、混合ガスおよび排ガス3中に含まれる二酸化炭素濃度の差の積算値(積算区間はボトル中の空気が排出されて排ガス3中の二酸化炭素濃度が上昇し始めた時点から(6)のデータ収集停止までの間)から算出した。
【0061】
本例における排ガス3中の二酸化炭素濃度の推移を図2の太線に示す。なお図2中、白抜き矢印で示したタイミングでCA水溶液2bを添加している。1回目のCA水溶液2b投入で二酸化炭素濃度の顕著な低下が観察され、CAの添加により二酸化炭素の吸収が促進されることが確認された。2回目のCA水溶液2b投入でも、若干の二酸化炭素濃度の低下が観察された。二酸化炭素吸収量は1333mL(59.5mmol)となり、RZETA 1molあたりに換算すると0.42molだった。
【0062】
比較例1 RZETA水溶液への二酸化炭素吸収(CA添加なし)
RZETA(東ソー製)21.6g(152mmol)を純水で51.2gとして調製した水溶液を二酸化炭素の吸収液2aとし、実施例1(5)に記載のCA水溶液2b添加操作を行なわなかった他は、実施例1と同様な方法で二酸化炭素吸収工程を行なった。
【0063】
本例における排ガス3中の二酸化炭素濃度の推移を図2の細線に示す。二酸化炭素吸収量は609mL(27.2mmol)であり、RZETA 1molあたりの換算値は0.18molにとどまった。本例と実施例1との比較から、CAの添加により、RZETA 1molあたりの二酸化炭素吸収量が2.3倍になることが確認された。
【0064】
実施例2 二酸化炭素を吸収したRZETA水溶液からの二酸化炭素放散(CA添加あり)
(1)実施例1で二酸化炭素を吸収した吸収液2aが入ったボトル10に、排ガス分析計80の表示が安定するまで、空気と二酸化炭素の混合ガス(空気1a 450mL/min、二酸化炭素1b 50mL/min)を500mL/minで通気した後、空気1a 500mL/minに切り替えて通気すると同時にデータロガー90によるデータ収集を開始した。
【0065】
(2)排ガス3中の二酸化炭素濃度が4%程度まで低下した時点で、湯浴槽20の温度を60℃に設定し、吸収液2aが入ったボトル10の加温を開始した。
【0066】
(3)吸収液2aが60℃に到達した時点で吸収液2aが激しく発泡し始めたため、消泡剤(25%(v/v)アデカノールLG-109(ADEKA製)エタノール溶液200μL)を計3回添加し、突沸を防止した。なお、アデカノールは図1中の2b投入口から添加した。
【0067】
(4)二酸化炭素の放散が落ち着き、排ガス3中の二酸化炭素濃度が3%程度まで低下したところで、残存二酸化炭素の放散を加速させるため、湯浴槽20の設定温度を70℃に変更した。
【0068】
(5)残存二酸化炭素の放散をさらに加速させるため、湯浴槽20の設定温度を80℃に変更した。排ガス3中の二酸化炭素濃度が1%程度に低下したところでデータロガー90によるデータ収集を停止し、実験を終了した。
【0069】
(6)(2)で排ガス3中の二酸化炭素濃度が上昇し始めた時点から(5)のデータ収集停止までの二酸化炭素濃度の積算値から、二酸化炭素放散量を算出した。
【0070】
本例における排ガス3中の二酸化炭素濃度(太線)、および吸収液2a温度(太点線)の推移を図3に示す。(1)で空気のみを通気してもボトル10内の二酸化炭素濃度は約4%残存したが、これは気相の二酸化炭素分圧の低下とともに室温においても二酸化炭素の放散が始まったためと考えられる。二酸化炭素放散量は1181mL(52.7mmol)であり、実施例1で測定した二酸化炭素吸収量に対する回収率は89%だった。なお前述したとおり、二酸化炭素濃度の積算開始時点で既に二酸化炭素が放散されていることが考えられるため、(5)で完全に吸収液から二酸化炭素を放散できたと判断しても、必ずしも二酸化炭素回収率が100%とはならない。二酸化炭素の温度域毎の回収率はそれぞれ、室温から60℃((2)および(3))で65%、60℃から70℃((4))で16%、70℃から80℃((5))で8%だった。すなわち70℃以下の低温で、吸収した二酸化炭素の大部分(81%)が放散され回収できることがわかる。
【0071】
比較例2 二酸化炭素を吸収したRZETA水溶液からの二酸化炭素放散(CA添加なし)
(1)比較例1で二酸化炭素を吸収した吸収液2aが入ったボトル10に、排ガス分析計80の表示が安定するまで、500mL/minで空気と二酸化炭素の混合ガス(空気1a 450mL/min、二酸化炭素1b 50mL/min)を通気した後、空気1a 500mL/minに切り替えた。
【0072】
(2)排ガス3中の二酸化炭素濃度が0.5%以下まで低下した時点でデータロガー90によるデータ収集を開始するとともに湯浴槽20の温度を70℃に設定し、吸収液2aが入ったボトル10を加温した。
【0073】
(3)二酸化炭素の放散が落着き、排ガス3中の二酸化炭素濃度が4%程度まで低下したところで、残存二酸化炭素の放散を加速させるため、湯浴槽20の設定温度を80℃に変更した。
【0074】
(4)残存二酸化炭素の放散をさらに加速させるため、湯浴槽20の設定温度を90℃に変更した。二酸化炭素濃度が0.5%以下までに低下したところでデータロガー90によるデータ収集を停止し、実験を終了した。
【0075】
(5)(2)の工程で排ガス3中の二酸化炭素濃度が上昇し始めた時点から(4)のデータ収集停止までの二酸化炭素濃度の積算値から、二酸化炭素放散量を算出した。
【0076】
本例における排ガス3中の二酸化炭素濃度(細線)、および吸収液2a温度(細点線)の推移を図3に示す。(2)で排ガス3中の二酸化炭素濃度は上昇したが、吸収液2aの温度が60℃に到達しても二酸化炭素濃度は1%程度に過ぎず、吸収液液温が70℃に到達すると排ガス3中の二酸化炭素濃度は5%から6%程度のピークを示し、(3)により吸収液液温が80℃に到達した時点で二酸化炭素濃度4%前後の第二のピークが認められた。その後(4)により吸収液液温は90℃に到達したが、排ガス3中の二酸化炭素濃度の上昇は僅かに認められたにすぎなかった。二酸化炭素放散量は649mL(29.2mmol)であり、比較例1の二酸化炭素吸収量に対する回収率は107%だった。回収率が100%を超えているが、誤差のためであると考えられる。二酸化炭素の各温度域の回収率はそれぞれ、室温から60℃((2))で5%、60℃から70℃((2))で67%、70℃から80℃((3))で25%、80℃から90℃((4))で9%だった。CA非存在下ではCA存在下(実施例2)とは異なり、二酸化炭素回収に70℃以上の高温が必要であることがわかる。なお吸収液2aを90℃に加温((4))した際、エアーストーン12が破損したため、以降の実験では吸収液2aへの加温は80℃で留めることにした。
【0077】
比較例3 N-(2-アミノエチル)エタノールアミン(AEEA)水溶液による二酸化炭素分離(CA添加なし)
(1)AEEA(東京化成工業製)を20.1g(197mmol)秤量し、純水を加え49.6gとした水溶液(pH12.4)を二酸化炭素の吸収液2aとした他は、比較例1と同様な方法で二酸化炭素吸収工程を行なった。ただしデータロガー90によるデータ収集は、二酸化炭素/空気混合ガスを約70L供給した時点で停止している。
【0078】
(2)(1)で二酸化炭素を吸収した吸収液2aが入ったボトル10に、排ガス分析計80の表示が安定するまで、500mL/minで空気と二酸化炭素の混合ガス(空気450mL/min、二酸化炭素50mL/min)を通気した後、空気500mL/minに切り替えた。
【0079】
(3)排ガス3中の二酸化炭素濃度が0.1%以下まで低下した時点でデータ収集を開始するとともに湯浴槽の温度を60℃に設定し、吸収液2aが入ったボトルを加温した。
【0080】
(4)排ガス3中の二酸化炭素濃度が3.5%となった時点で、残存二酸化炭素の放散を加速させるため、湯浴槽の設定温度を70℃に変更した。
【0081】
(5)排ガス3中の二酸化炭素濃度が約4%まで低下した時点で、残存二酸化炭素の放散をさらに加速させるため、湯浴槽の設定温度を80℃に変更した。排ガス3中の二酸化炭素濃度が約2%まで低下したところでデータロガー90によるデータ収集を停止し、実施例2(6)と同様な方法で二酸化炭素放散量を算出した。
【0082】
本例の二酸化炭素吸収工程((1))における、排ガス3中の二酸化炭素濃度の推移を図4の細線に示す。二酸化炭素吸収量は4027mL(179.8mmol)となり、AEEA 1molあたりに換算すると0.91molだった。
【0083】
本例の二酸化炭素放散工程((2)から(5))における、排ガス3中の二酸化炭素濃度、吸収液温度の推移を図5に示す(二酸化炭素濃度:細実線、吸収液2a温度:細点線)。(3)で排ガス3中の二酸化炭素濃度は昇温とともに上昇し、(4)でさらに上昇し、ピーク時の二酸化炭素濃度は5%前後に達した。その後は低下したが、(5)で二酸化炭素濃度は再び上昇し、6%付近まで上昇した。その後は再びに低下し、二酸化炭素濃度が2%付近まで低下した時点でデータ収集を停止し、実験を終了した。二酸化炭素放散量は1372mL(61.3mmol)であり、前記二酸化炭素吸収量に対する回収率は34%だった。また各温度域の二酸化炭素回収率はそれぞれ、室温から60℃((3))で2%、60℃から70℃((4))で10%、70℃から80℃((5))で23%だった。二酸化炭素分離組成物としてAEEAを用いると、吸収した二酸化炭素の放散をRZETA(実施例2)より高温で行なう必要があることがわかる。その理由として、AEEAのような低級アミン(1級および2級アミン)は二酸化炭素と安定なカルバミン酸を形成することが知られており、その開裂に多くの熱エネルギーを要するためと考えられる。
【0084】
比較例4 AEEA水溶液による二酸化炭素分離(CA添加あり)
(1)AEEAを21.3g(208mmol)秤量し、純水を加えて51.8gとして吸収液2aを調製した。なお吸収液2aのpHは12.7だった。
【0085】
(2)(1)で調製した吸収液2aを、実施例1(2)から(4)に記載の方法で準備し、混合ガスを通気した。
【0086】
(3)吸収液2aへの通気開始から20分経過後(吸収液2aへの通気量10L)、0.2g/Lウシ赤血球由来CA(Sigma-Aldrich製)水溶液2bを50mL添加し、さらに40分経過後(吸収液への通気量30L)、CA水溶液2bを50mL添加した。
【0087】
(4)排ガス3中の二酸化炭素濃度が約5%に到達した時点で混合ガスの供給量を50mL/minに下げ、排ガス分析計80による測定およびデータロガー90によるデータ収集を停止した。二酸化炭素吸収量は、実施例1(7)に記載の方法で算出した。
【0088】
(5)比較例3(2)から(5)と同様な方法で、(4)の吸収液2aからの二酸化炭素放散工程を行なった。ただし前記吸収液2aにはあらかじめ気泡抑制剤(25%アデカノールLG-109(ADEKA製)のエタノール溶液200μL)を添加しており、設定温度は排ガス3中の二酸化炭素濃度が3%となった時点で70℃に、同濃度が4%を下回った時点で80℃に、それぞれ切り替えている。
【0089】
本例の二酸化炭素吸収工程((1)から(4))における、排ガス3中の二酸化炭素濃度の推移を図4の太線に示す。二酸化炭素吸収量は3965mL(177.0mmol)となった。AEEA 1molあたりに換算すると0.85molであり、CAを添加しない場合(比較例3、AEEA 1molあたりの二酸化炭素吸収量0.91mol)とほぼ同等であった。この結果からAEEAを用いたときは、RZETA(実施例1/比較例1)を用いたときのような、CA添加による二酸化炭素吸収量向上効果がないことがわかる。この理由として、AEEAが強い塩基性のため、特に1回目に添加したCAが直ちに失活したためと考えられる。
【0090】
本例の二酸化炭素放散工程((5))における、排ガス3中の二酸化炭素濃度、および吸収液2a温度の推移を図5に示す(二酸化炭素濃度:太実線、吸収液2a温度:太点線)。二酸化炭素放散量は1236mL(55.2mmol)であり、前記二酸化炭素吸収量に対する回収率は31%であった。また各温度域の二酸化炭素回収率はそれぞれ、室温から60℃で2%、60℃から70℃で8%、70℃から80℃で21%であった。RZETA(実施例2/比較例2)を用いたときとは異なり、CA添加による、放散温度低下の効果は確認できなかった。
【0091】
比較例5 N-(メチル)ジエタノールアミン(MDEA)水溶液による二酸化炭素分離(CA添加なし)
(1)MDEA(東京化成工業製)を21.2g(178mmol)秤量し、純水を加え52.8gとした水溶液(pH11.6)を二酸化炭素の吸収液2aとした他は、比較例1と同様な方法で二酸化炭素吸収工程を行なった。ただしエアーストーン12はCRBrewBeer社製のステンレス製エアストーンを使用し、データロガー90によるデータ収集は二酸化炭素/空気混合ガスを約45L供給した時点で停止している。
【0092】
(2)比較例3(2)から(5)と同様な方法で、(4)の吸収液2aからの二酸化炭素放散工程を行なった。ただし設定温度は、空気を約7.5L通気した時点で70℃に、約12.5L通気した時点で80℃に、それぞれ切り替えている。
【0093】
本例の二酸化炭素吸収工程((1))における、排ガス3中の二酸化炭素濃度の推移を図6の細線に示す。二酸化炭素吸収量は499mL(22.3mmol)となった。MDEA 1molあたりに換算すると0.13molであった。
【0094】
本例の二酸化炭素放散工程((2))における、排ガス3中の二酸化炭素濃度、および吸収液2a温度の推移を図7に示す(二酸化炭素濃度:細実線、吸収液2a温度:細点線)。二酸化炭素放散量は317mL(14.2mmol)であり、前記二酸化炭素吸収量に対する回収率は64%であった。また各温度域毎の二酸化炭素回収率はそれぞれ、室温から60℃は0%、60℃から70℃で7%、70℃から80℃で57%であった。MDEAはRZETAと同じ3級アミンであるが、吸収した二酸化炭素を放散させるにはRZETA(比較例2)より高温で行なう必要があることがわかる。
【0095】
比較例6 MDEA水溶液による二酸化炭素分離(CA添加あり)
(1)MDEAを21.6g(181mmol)秤量し、純水を加え51.2gとした水溶液(pH11.6)を二酸化炭素の吸収液2aとした他は、比較例4と同様な方法で二酸化炭素吸収工程を行なった。ただしCA水溶液2bの添加(50mL)は、吸収液2aへの通気開始から20分(吸収液への通気量10L)および50分後(同通気量25L)に行ない、データロガー90によるデータ収集は二酸化炭素/空気混合ガスを約45L供給した時点で停止している。
【0096】
(2)比較例3(2)から(5)と同様な方法で、(1)の吸収液2aからの二酸化炭素放散工程を行なった。ただし設定温度は排ガス3中の二酸化炭素濃度が約1%で安定した時点で70℃に、同濃度が約2.5%まで低下した時点で80℃に、それぞれ切り替えており、設定温度を70℃に切り替えた時点で気泡抑制剤(25%アデカノールLG-109(ADEKA製)のエタノール溶液200μL)を添加している。
【0097】
本例の二酸化炭素吸収工程((1))における、排ガス中の二酸化炭素濃度の推移を図6の太線に示す。二酸化炭素吸収量は668mL(29.8mmol)となった。MDEA 1molあたりに換算すると0.16molであった。
【0098】
本例の二酸化炭素放散工程((2))における、排ガス3中の二酸化炭素濃度、および吸収液2a温度の推移を図7に示す(二酸化炭素濃度:太実線、吸収液2a温度:太点線)。二酸化炭素放散量は652mL(29.1mmol)であり、前記二酸化炭素吸収量に対する回収率は98%であった。また各温度域の二酸化炭素回収率はそれぞれ、室温から60℃は5%、60℃から70℃で22%、70℃から80℃で71%であった。CA未添加(比較例5)との比較では、二酸化炭素の回収率は向上し、かつより低温で二酸化炭素を放散できた。しかしながら、RZETAを用いたときの方が、CA添加の有無にかかわらず、より低温で二酸化炭素を放散できる(実施例2および比較例2)。
【0099】
実施例1および2ならびに比較例1から6の結果をまとめた図表を表1および2、ならびに図8および9に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の二酸化炭素分離用組成物は、当該組成物に吸収された二酸化炭素を、従来の組成物よりも低い温度で放散できる。つまり、本発明の組成物を使用することで、前記放散に要するエネルギー消費量が低減し、より環境負荷の低い二酸化炭素分離プロセスを提供できる。
【符号の説明】
【0103】
1a:空気
1b:二酸化炭素
2a:吸収液(アミン化合物水溶液)
2b:酵素液(CA水溶液)
3:排ガス
4:冷却水
10:ボトル
11:スターラーチップ
12:エアストーン
20:湯浴槽
30:マグネチックスターラー
41・42:マスフローコントローラ
51・52:エアフィルター
60:還流管
70:ミストトラップ
80:排ガス分析計(赤外式二酸化炭素分析計)
90:データロガー
91:熱電対
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9