(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120206
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】基板処理方法、半導体装置の製造方法、基板処理装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/316 20060101AFI20240829BHJP
H01L 21/318 20060101ALI20240829BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
H01L21/316 X
H01L21/318 B
H01L21/31 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026842
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】318009126
【氏名又は名称】株式会社KOKUSAI ELECTRIC
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】中谷 公彦
【テーマコード(参考)】
5F045
5F058
【Fターム(参考)】
5F045AA06
5F045AA15
5F045AB32
5F045AB33
5F045AC00
5F045AC05
5F045AC07
5F045AC11
5F045AC12
5F045AD07
5F045AD08
5F045AD09
5F045AD10
5F045AD11
5F045AD12
5F045AE15
5F045AE17
5F045AE19
5F045AE21
5F045AE23
5F045AF12
5F045AF20
5F045DC70
5F045DP19
5F045DP28
5F045DQ05
5F045EE17
5F045EF03
5F045EF09
5F045EK06
5F045HA11
5F058BA09
5F058BA20
5F058BC02
5F058BC08
5F058BD04
5F058BD10
5F058BE10
5F058BF04
5F058BF24
5F058BF27
5F058BF29
5F058BF30
5F058BF34
5F058BF37
5F058BH16
5F058BJ06
(57)【要約】
【課題】基板上に形成される膜の特性を向上させる。
【解決手段】(a)表面に、原料から生成させた中間体を吸着させることが可能であって前記原料を吸着させることができない第1吸着サイトと、前記原料と前記中間体とを吸着させることが可能な第2吸着サイトと、を有する基板に対してインヒビターを供給し、前記第1吸着サイトおよび前記第2吸着サイトに前記インヒビターを吸着させる工程と、(b)前記第1吸着サイトおよび前記第2吸着サイトに前記インヒビターを吸着させた後の前記基板に対して前記原料を供給し、前記原料から前記中間体を生成させ、前記第2吸着サイトに吸着させた前記インヒビターを脱離させ、前記第2吸着サイトに前記原料と前記中間体とを吸着させて第1層を形成する工程と、を含むサイクルを所定回数行う。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)表面に、原料から生成させた中間体を吸着させることが可能であって前記原料を吸着させることができない第1吸着サイトと、前記原料と前記中間体とを吸着させることが可能な第2吸着サイトと、を有する基板に対してインヒビターを供給し、前記第1吸着サイトおよび前記第2吸着サイトに前記インヒビターを吸着させる工程と、
(b)前記第1吸着サイトおよび前記第2吸着サイトに前記インヒビターを吸着させた後の前記基板に対して前記原料を供給し、前記原料から前記中間体を生成させ、前記第2吸着サイトに吸着させた前記インヒビターを脱離させ、前記第2吸着サイトに前記原料と前記中間体とを吸着させて第1層を形成する工程と、
を含むサイクルを所定回数行うことで、前記基板の表面上に膜を形成する工程を有する基板処理方法。
【請求項2】
前記基板の表面は凹部を有し、前記凹部の底部側に前記第1吸着サイトが位置し、前記凹部の上部側に前記第2吸着サイトが位置する請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記中間体の分子サイズは前記原料の分子サイズよりも小さく、前記インヒビターの分子サイズは前記原料の分子サイズよりも小さい請求項2に記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記中間体の分子サイズは前記原料の分子サイズよりも小さく、前記インヒビターの分子サイズは前記中間体の分子サイズよりも小さい請求項2に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記第2吸着サイトを構成する原子は、前記原料の前記第1吸着サイトへの吸着を阻害する立体障害を構成する請求項3に記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記第2吸着サイトを構成する原子は、少なくとも一部において離間しており、離間している原子間の距離は、前記原料の分子の幅よりも短い請求項3に記載の基板処理方法。
【請求項7】
前記原子間の距離は、前記中間体の分子の幅よりも長く、前記インヒビターの分子の幅よりも長い請求項6に記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記第2吸着サイトを構成する原子は、少なくとも一部において離間しており、離間している原子間の距離は、前記原料の分子が通過できない距離である請求項3に記載の基板処理方法。
【請求項9】
前記原子間の距離は、前記中間体の分子および前記インヒビターの分子のそれぞれが通過可能な距離である請求項8に記載の基板処理方法。
【請求項10】
(b)において、前記第1吸着サイトに吸着させた前記インヒビターの少なくとも一部を維持し、前記第2吸着サイトに吸着させた前記インヒビターを脱離させることが可能な条件下で、前記原料を供給する請求項3に記載の基板処理方法。
【請求項11】
(b)において、前記第1吸着サイトに吸着させた前記インヒビターの少なくとも一部を維持することで、前記中間体が前記第1吸着サイトに吸着することを抑制する請求項3に記載の基板処理方法。
【請求項12】
(b)において、前記第1吸着サイトに吸着させた前記インヒビターの少なくとも一部を維持することで、前記第2吸着サイトへの前記中間体の吸着量を、前記第1吸着サイトへの前記中間体の吸着量よりも多くする請求項3に記載の基板処理方法。
【請求項13】
前記サイクルは、さらに、
(c)前記基板に対して反応体を供給し、前記第1層を第2層へ改質させる工程を含む請求項1~12のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項14】
(c)において前記第1層を前記第2層へ改質させる際に、(b)において前記第1吸着サイトに残留した前記インヒビターを除去する請求項13に記載の基板処理方法。
【請求項15】
前記サイクルは、(a)と(b)と(c)とをこの順に行うことを含む請求項13に記載の基板処理方法。
【請求項16】
前記サイクルは、(a)を行うことと、(b)と(c)とを含むセットを所定回数行うことと、を含む請求項13に記載の基板処理方法。
【請求項17】
前記インヒビターはハロゲンを含み、前記原料はハロゲンと前記膜を構成する主元素とを含む請求項1~12のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項18】
前記インヒビターはハロゲンを含み、前記原料はハロゲンと前記膜を構成する主元素とを含み、前記反応体は窒素および酸素のうち少なくともいずれかを含む請求項13に記載の基板処理方法。
【請求項19】
(a)表面に、原料から生成させた中間体を吸着させることが可能であって前記原料を吸着させることができない第1吸着サイトと、前記原料と前記中間体とを吸着させることが可能な第2吸着サイトと、を有する基板に対してインヒビターを供給し、前記第1吸着サイトおよび前記第2吸着サイトに前記インヒビターを吸着させる工程と、
(b)前記第1吸着サイトおよび前記第2吸着サイトに前記インヒビターを吸着させた後の前記基板に対して前記原料を供給し、前記原料から前記中間体を生成させ、前記第2吸着サイトに吸着させた前記インヒビターを脱離させ、前記第2吸着サイトに前記原料と前記中間体とを吸着させて第1層を形成する工程と、
を含むサイクルを所定回数行うことで、前記基板の表面上に膜を形成する工程を有する半導体装置の製造方法。
【請求項20】
基板に対して原料を供給する原料供給系と、
基板に対してインヒビターを供給するインヒビター供給系と、
基板の温度を調整する温度調整部と、
(a)表面に、前記原料から生成させた中間体を吸着させることが可能であって前記原料を吸着させることができない第1吸着サイトと、前記原料と前記中間体とを吸着させることが可能な第2吸着サイトと、を有する基板に対して前記インヒビターを供給し、前記第1吸着サイトおよび前記第2吸着サイトに前記インヒビターを吸着させる処理と、(b)前記第1吸着サイトおよび前記第2吸着サイトに前記インヒビターを吸着させた後の前記基板に対して前記原料を供給し、前記原料から前記中間体を生成させ、前記第2吸着サイトに吸着させた前記インヒビターを脱離させ、前記第2吸着サイトに前記原料と前記中間体とを吸着させて第1層を形成する処理と、を含むサイクルを所定回数行うことで、前記基板の表面上に膜を形成する処理を行わせるように、前記原料供給系、前記インヒビター供給系、および前記温度調整部を制御することが可能なよう構成される制御部と、
を有する基板処理装置。
【請求項21】
(a)表面に、原料から生成させた中間体を吸着させることが可能であって前記原料を吸着させることができない第1吸着サイトと、前記原料と前記中間体とを吸着させることが可能な第2吸着サイトと、を有する基板に対してインヒビターを供給し、前記第1吸着サイトおよび前記第2吸着サイトに前記インヒビターを吸着させる手順と、
(b)前記第1吸着サイトおよび前記第2吸着サイトに前記インヒビターを吸着させた後の前記基板に対して前記原料を供給し、前記原料から前記中間体を生成させ、前記第2吸着サイトに吸着させた前記インヒビターを脱離させ、前記第2吸着サイトに前記原料と前記中間体とを吸着させて第1層を形成する手順と、
を含むサイクルを所定回数行うことで、前記基板の表面上に膜を形成する手順と、
をコンピュータによって基板処理装置に実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板処理方法、半導体装置の製造方法、基板処理装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程の一工程として、基板上に膜を形成する処理が行われることがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体装置の微細化に伴い、基板上に形成される膜の特性の改善、向上が強く要求されている。
【0005】
本開示は、基板上に形成される膜の特性を向上させることが可能な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によれば、
(a)表面に、原料から生成させた中間体を吸着させることが可能であって前記原料を吸着させることができない第1吸着サイトと、前記原料と前記中間体とを吸着させることが可能な第2吸着サイトと、を有する基板に対してインヒビターを供給し、前記第1吸着サイトおよび前記第2吸着サイトに前記インヒビターを吸着させる工程と、
(b)前記第1吸着サイトおよび前記第2吸着サイトに前記インヒビターを吸着させた後の前記基板に対して前記原料を供給し、前記原料から前記中間体を生成させ、前記第2吸着サイトに吸着させた前記インヒビターを脱離させ、前記第2吸着サイトに前記原料と前記中間体とを吸着させて第1層を形成する工程と、
を含むサイクルを所定回数行うことで、前記基板の表面上に膜を形成する技術が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、基板上に形成される膜の特性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置の縦型処理炉の概略構成図であり、処理炉202部分を縦断面図で示す図である。
【
図2】
図2は、本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置の縦型処理炉の概略構成図であり、処理炉202部分を
図1のA-A線断面図で示す図である。
【
図3】
図3は、本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置のコントローラ121の概略構成図であり、コントローラ121の制御系をブロック図で示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の一態様における処理シーケンスを示す図である。
【
図5】
図5(a)は、原料から生成させた中間体を吸着させることが可能であって原料を吸着させることができない第1吸着サイトと、原料と中間体とを吸着させることが可能な第2サイトと、を表面に有するウエハの表面状態を示す断面模式図である。
図5(b)は、
図5(a)の状態から、ウエハに対してインヒビターを供給した後のウエハの表面状態を示す断面模式図である。
図5(c)は、
図5(b)の状態から、ウエハに対して原料を供給した後のウエハの表面状態を示す断面模式図である。
図5(d)は、
図5(c)の状態から、ウエハに対して反応体を供給した後のウエハの表面状態を示す断面模式図である。
【
図6】
図6(a)は、原料から生成させた中間体を吸着させることが可能であって原料を吸着させることができない第1吸着サイトと、原料と中間体とを吸着させることが可能な第2サイトと、を表面に有するウエハの表面状態を示す断面模式図である。
図6(b)は、
図6(b)の状態から、ウエハに対して原料を供給した後のウエハの表面状態を示す断面模式図である。
図6(c)は、
図6(b)の状態から、ウエハに対して反応体を供給した後のウエハの表面状態を示す断面模式図である。
【
図7】表面にホールまたはトレンチが設けられたウエハの表面部分を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<本開示の一態様>
以下、本開示の一態様について、主に、
図1~
図4、
図5(a)~
図5(d)を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において用いられる図面は、いずれも模式的なものであり、図面に示される、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実のものとは必ずしも一致していない。また、複数の図面の相互間においても、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は必ずしも一致していない。
【0010】
(1)基板処理装置の構成
図1に示すように、基板処理装置の処理炉202は温度調整部(加熱部)としてのヒータ207を有する。ヒータ207は円筒形状であり、保持板に支持されることにより垂直に据え付けられている。ヒータ207は、ガスを熱で活性化(励起)させる活性化機構(励起部)としても機能する。
【0011】
ヒータ207の内側には、ヒータ207と同心円状に反応管203が配設されている。反応管203は、例えば石英(SiO2)または炭化シリコン(SiC)等の耐熱性材料により構成され、上端が閉塞し下端が開口した円筒形状に形成されている。反応管203の下方には、反応管203と同心円状にマニホールド209が配設されている。マニホールド209は、例えばステンレス鋼(SUS)等の金属材料により構成され、上端および下端が開口した円筒形状に形成されている。マニホールド209の上端部は、反応管203の下端部に係合しており、反応管203を支持するように構成されている。マニホールド209と反応管203との間には、シール部材としてのOリング220aが設けられている。反応管203はヒータ207と同様に垂直に据え付けられている。主に、反応管203とマニホールド209とにより処理容器(反応容器)が構成される。処理容器の筒中空部には処理室201が形成される。処理室201は、基板としてのウエハ200を収容可能に構成されている。この処理室201内でウエハ200に対する処理が行われる。
【0012】
処理室201内には、第1~第3供給部としてのノズル249a~249cが、マニホールド209の側壁を貫通するようにそれぞれ設けられている。ノズル249a~249cを、それぞれ第1~第3ノズルとも称する。ノズル249a~249cは、例えば石英またはSiC等の耐熱性材料により構成されている。ノズル249a~249cには、ガス供給管232a~232cがそれぞれ接続されている。ノズル249a~249cはそれぞれ異なるノズルであり、ノズル249a,249cのそれぞれは、ノズル249bに隣接して設けられている。
【0013】
ガス供給管232a~232cには、ガス流の上流側から順に、流量制御器(流量制御部)であるマスフローコントローラ(MFC)241a~241cおよび開閉弁であるバルブ243a~243cがそれぞれ設けられている。ガス供給管232aのバルブ243aよりも下流側には、ガス供給管232dが接続されている。ガス供給管232bのバルブ243bよりも下流側には、ガス供給管232eが接続されている。ガス供給管232cのバルブ243cよりも下流側には、ガス供給管232fが接続されている。ガス供給管232d~232fには、ガス流の上流側から順に、MFC241d~241fおよびバルブ243d~243hがそれぞれ設けられている。ガス供給管232a~232fは、例えばSUS等の金属材料により構成されている。
【0014】
図2に示すように、ノズル249a~249cは、反応管203の内壁とウエハ200との間における平面視において円環状の空間に、反応管203の内壁の下部より上部に沿って、ウエハ200の配列方向上方に向かって立ち上がるようにそれぞれ設けられている。すなわち、ノズル249a~249cは、ウエハ200が配列されるウエハ配列領域の側方の、ウエハ配列領域を水平に取り囲む領域に、ウエハ配列領域に沿うようにそれぞれ設けられている。平面視において、ノズル249bは、処理室201内におけるウエハ200の中心を挟んで後述する排気口231aと一直線上に対向するように配置されている。ノズル249a,249cは、ノズル249bと排気口231aの中心とを通る直線Lを、反応管203の内壁(ウエハ200の外周部)に沿って両側から挟み込むように配置されている。直線Lは、ノズル249bとウエハ200の中心とを通る直線でもある。すなわち、ノズル249cは、直線Lを挟んでノズル249aと反対側に設けられているということもできる。ノズル249a,249cは、直線Lを対称軸として線対称に配置されている。ノズル249a~249cの側面には、ガスを供給するガス供給孔250a~250cがそれぞれ設けられている。ガス供給孔250a~250cは、それぞれが、平面視において排気口231aと対向(対面)するように開口しており、ウエハ200に向けてガスを供給することが可能となっている。ガス供給孔250a~250cは、反応管203の下部から上部にわたって複数設けられている。
【0015】
ガス供給管232aからは、インヒビターが、MFC241a、バルブ243a、ノズル249aを介して処理室201内へ供給される。
【0016】
ガス供給管232bからは、原料が、MFC241b、バルブ243b、ノズル249bを介して処理室201内へ供給される。
【0017】
ガス供給管232cからは、反応体が、MFC241c、バルブ243c、ノズル249cを介して処理室201内へ供給される。
【0018】
ガス供給管232d~232fからは、不活性ガスが、それぞれMFC241d~241f、バルブ243d~243f、ガス供給管232a~232c、ノズル249a~249cを介して処理室201内へ供給される。不活性ガスは、パージガス、キャリアガス、希釈ガス等として作用する。
【0019】
主に、ガス供給管232a、MFC241a、バルブ243aにより、インヒビター供給系が構成される。主に、ガス供給管232b、MFC241b、バルブ243bにより、原料供給系が構成される。主に、ガス供給管232c、MFC241c、バルブ243cにより、反応体供給系が構成される。主に、ガス供給管232d~232f、MFC241d~241f、バルブ243d~243fにより、不活性ガス供給系が構成される。
【0020】
上述の各種供給系のうち、いずれか、或いは、全ての供給系は、バルブ243a~243fやMFC241a~241f等が集積されてなる集積型供給システム248として構成されていてもよい。集積型供給システム248は、ガス供給管232a~232fのそれぞれに対して接続され、ガス供給管232a~232f内への各種物質(各種ガス)の供給動作、すなわち、バルブ243a~243fの開閉動作やMFC241a~241fによる流量調整動作等が、後述するコントローラ121によって制御されるように構成されている。集積型供給システム248は、一体型、或いは、分割型の集積ユニットとして構成されており、ガス供給管232a~232f等に対して集積ユニット単位で着脱を行うことができ、集積型供給システム248のメンテナンス、交換、増設等を、集積ユニット単位で行うことが可能なように構成されている。
【0021】
反応管203の側壁下方には、処理室201内の雰囲気を排気する排気口231aが設けられている。
図2に示すように、排気口231aは、平面視において、ウエハ200を挟んでノズル249a~249c(ガス供給孔250a~250c)と対向(対面)する位置に設けられている。排気口231aは、反応管203の側壁の下部より上部に沿って、すなわち、ウエハ配列領域に沿って設けられていてもよい。排気口231aには排気管231が接続されている。排気管231には、処理室201内の圧力を検出する圧力検出器(圧力検出部)としての圧力センサ245および圧力調整器(圧力調整部)としてのAPC(Auto Pressure Controller)バルブ244を介して、真空排気装置としての真空ポンプ246が接続されている。APCバルブ244は、真空ポンプ246を作動させた状態で弁を開閉することで、処理室201内の真空排気および真空排気停止を行うことができ、さらに、真空ポンプ246を作動させた状態で、圧力センサ245により検出された圧力情報に基づいて弁開度を調節することで、処理室201内の圧力を調整することができるように構成されている。主に、排気管231、APCバルブ244、圧力センサ245により、排気系が構成される。真空ポンプ246を排気系に含めてもよい。
【0022】
マニホールド209の下方には、マニホールド209の下端開口を気密に閉塞可能な炉口蓋体としてのシールキャップ219が設けられている。シールキャップ219は、例えばSUS等の金属材料により構成され、円盤状に形成されている。シールキャップ219の上面には、マニホールド209の下端と当接するシール部材としてのOリング220bが設けられている。シールキャップ219の下方には、後述するボート217を回転させる回転機構267が設置されている。回転機構267の回転軸255は、シールキャップ219を貫通してボート217に接続されている。回転機構267は、ボート217を回転させることでウエハ200を回転させるように構成されている。シールキャップ219は、反応管203の外部に設置された昇降機構としてのボートエレベータ115によって垂直方向に昇降されるように構成されている。ボートエレベータ115は、シールキャップ219を昇降させることで、ウエハ200を処理室201内外に搬入および搬出(搬送)する搬送装置(搬送機構)として構成されている。
【0023】
マニホールド209の下方には、シールキャップ219を降下させボート217を処理室201内から搬出した状態で、マニホールド209の下端開口を気密に閉塞可能な炉口蓋体としてのシャッタ219sが設けられている。シャッタ219sは、例えばSUS等の金属材料により構成され、円盤状に形成されている。シャッタ219sの上面には、マニホールド209の下端と当接するシール部材としてのOリング220cが設けられている。シャッタ219sの開閉動作(昇降動作や回動動作等)は、シャッタ開閉機構115sにより制御される。
【0024】
基板支持具としてのボート217は、複数枚、例えば25~200枚のウエハ200を、水平姿勢で、かつ、互いに中心を揃えた状態で垂直方向に整列させて多段に支持するように、すなわち、間隔を空けて配列させるように構成されている。ボート217は、例えば石英やSiC等の耐熱性材料により構成される。ボート217の下部には、例えば石英やSiC等の耐熱性材料により構成される断熱板218が多段に支持されている。
【0025】
反応管203内には、温度検出器としての温度センサ263が設置されている。温度センサ263により検出された温度情報に基づきヒータ207への通電具合を調整することで、処理室201内の温度が所望の温度分布となる。温度センサ263は、反応管203の内壁に沿って設けられている。
【0026】
図3に示すように、制御部(制御手段)であるコントローラ121は、CPU(Central Processing Unit)121a、RAM(Random Access Memory)121b、記憶装置121c、I/Oポート121dを備えたコンピュータとして構成されている。RAM121b、記憶装置121c、I/Oポート121dは、内部バス121eを介して、CPU121aとデータ交換可能なように構成されている。コントローラ121には、例えばタッチパネル等として構成された入出力装置122が接続されている。また、コントローラ121には、外部記憶装置123を接続することが可能となっている。
【0027】
記憶装置121cは、例えばフラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等で構成されている。記憶装置121c内には、基板処理装置の動作を制御する制御プログラムや、後述する基板処理の手順や条件等が記載されたプロセスレシピ等が、読み出し可能に記録され、格納されている。プロセスレシピは、後述する基板処理における各手順をコントローラ121によって、基板処理装置に実行させ、所定の結果を得ることができるように組み合わされたものであり、プログラムとして機能する。以下、プロセスレシピや制御プログラム等を総称して、単に、プログラムともいう。また、プロセスレシピを、単に、レシピともいう。本明細書においてプログラムという言葉を用いた場合は、レシピ単体のみを含む場合、制御プログラム単体のみを含む場合、または、それらの両方を含む場合がある。RAM121bは、CPU121aによって読み出されたプログラムやデータ等が一時的に保持されるメモリ領域(ワークエリア)として構成されている。
【0028】
I/Oポート121dは、上述のMFC241a~241f、バルブ243a~243f、圧力センサ245、APCバルブ244、真空ポンプ246、温度センサ263、ヒータ207、回転機構267、ボートエレベータ115、シャッタ開閉機構115s等に接続されている。
【0029】
CPU121aは、記憶装置121cから制御プログラムを読み出して実行すると共に、入出力装置122からの操作コマンドの入力等に応じて記憶装置121cからレシピを読み出すことが可能なように構成されている。CPU121aは、読み出したレシピの内容に沿うように、MFC241a~241fによる各種物質(各種ガス)の流量調整動作、バルブ243a~243fの開閉動作、APCバルブ244の開閉動作および圧力センサ245に基づくAPCバルブ244による圧力調整動作、真空ポンプ246の起動および停止、温度センサ263に基づくヒータ207の温度調整動作、回転機構267によるボート217の回転および回転速度調節動作、ボートエレベータ115によるボート217の昇降動作、シャッタ開閉機構115sによるシャッタ219sの開閉動作等を制御することが可能なように構成されている。
【0030】
コントローラ121は、外部記憶装置123に記録され、格納された上述のプログラムを、コンピュータにインストールすることにより構成することができる。外部記憶装置123は、例えば、HDD等の磁気ディスク、CD等の光ディスク、MO等の光磁気ディスク、USBメモリやSSD等の半導体メモリ等を含む。記憶装置121cや外部記憶装置123は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体として構成されている。以下、これらを総称して、単に、記録媒体ともいう。本明細書において記録媒体という言葉を用いた場合は、記憶装置121c単体のみを含む場合、外部記憶装置123単体のみを含む場合、または、それらの両方を含む場合がある。なお、コンピュータへのプログラムの提供は、外部記憶装置123を用いず、インターネットや専用回線等の通信手段を用いて行うようにしてもよい。
【0031】
(2)基板処理工程
上述の基板処理装置を用い、半導体装置の製造工程の一工程として、基板を処理する方法、すなわち、基板としてのウエハ200の表面上に膜を形成する処理シーケンスの例について、主に、
図4、
図5(a)~
図5(d)を用いて説明する。以下の説明において、基板処理装置を構成する各部の動作はコントローラ121により制御される。
【0032】
本態様における処理シーケンスでは、
(a)表面に、原料から生成させた中間体を吸着させることが可能であって原料を吸着させることができない第1吸着サイトと、原料と中間体とを吸着させることが可能な第2吸着サイトと、を有するウエハ200に対してインヒビターを供給し、第1吸着サイトおよび第2吸着サイトにインヒビターを吸着させるステップ(インヒビター供給ステップ)と、
(b)第1吸着サイトおよび第2吸着サイトにインヒビターを吸着させた後のウエハ200に対して原料を供給し、原料から中間体を生成させ、第2吸着サイトに吸着させたインヒビターを脱離させ、第2吸着サイトに原料と中間体とを吸着させて第1層を形成するステップ(原料供給ステップ)と、
を含むサイクルを所定回数(n回、nは1または2以上の整数)行う。
【0033】
以下では、上述のサイクルが、さらに、
(c)ウエハ200に対して反応体を供給し、第1層を第2層へ改質させるステップ(反応体供給ステップ)を含む場合について説明する。
図4に示す処理シーケンスは、代表的な例として、上述のサイクルにおいて、インヒビター供給ステップと、原料供給ステップと、反応体供給ステップと、をこの順に行う場合について説明する。
【0034】
本明細書では、上述の処理シーケンスを、便宜上、以下のように示すこともある。以下の変形例や他の態様等の説明においても、同様の表記を用いる。
【0035】
(インヒビター→原料→反応体)×n
【0036】
本明細書において用いる「ウエハ」という用語は、ウエハそのものを意味する場合や、ウエハとその表面に形成された所定の層や膜との積層体を意味する場合がある。本明細書において用いる「ウエハの表面」という言葉は、ウエハそのものの表面を意味する場合や、ウエハ上に形成された所定の層等の表面を意味する場合がある。本明細書において「ウエハ上に所定の層を形成する」と記載した場合は、ウエハそのものの表面上に所定の層を直接形成することを意味する場合や、ウエハ上に形成されている層等の上に所定の層を形成することを意味する場合がある。本明細書において「基板」という言葉を用いた場合も、「ウエハ」という言葉を用いた場合と同義である。
【0037】
本明細書において用いる「インヒビター」、「原料」、「反応体」、「物質」等の用語は、ガス状物質および液体状物質のうち少なくともいずれかを含む。液体状物質はミスト状物質を含む。すなわち、インヒビター、原料、反応体のそれぞれは、ガス状物質を含んでいてもよく、ミスト状物質等の液体状物質を含んでいてもよく、それらの両方を含んでいてもよい。
【0038】
本明細書において用いる「層」という用語は、連続層および不連続層のうち少なくともいずれかを含む。例えば、第1層および第2層は、それぞれ、連続層を含んでいてもよく、不連続層を含んでいてもよく、それらの両方を含んでいてもよい。
【0039】
(ウエハチャージおよびボートロード)
複数枚のウエハ200がボート217に装填(ウエハチャージ)されると、シャッタ開閉機構115sによりシャッタ219sが移動させられて、マニホールド209の下端開口が開放される(シャッタオープン)。その後、
図1に示すように、複数枚のウエハ200を支持したボート217は、ボートエレベータ115によって持ち上げられて処理室201内へ搬入(ボートロード)される。この状態で、シールキャップ219は、Oリング220bを介してマニホールド209の下端をシールした状態となる。このようにして、ウエハ200は、処理室201内に準備(提供)されることとなる。
【0040】
ところで、ウエハ200の表面は、
図5(a)に示すように、分子或いは原子レベルの大きさの凹部を有している。凹部の底部側には第1吸着サイトが位置し、凹部の上部側には第2吸着サイトが位置している。これらの吸着サイトは、例えば、NH終端を含んでいる。
【0041】
第2吸着サイトを構成する原子は、少なくとも一部において離間しており、離間している原子間の距離(以下、この距離を離間距離Dともいう)は、後述する原料供給ステップにおいてウエハ200に対して供給される原料の分子の幅(分子サイズ、分子径)よりも短くなっている。すなわち、離間距離Dは、原料の分子が通過できない距離となっている。第2吸着サイトを構成する原子は、後述する原料供給ステップにおいて、原料の第1吸着サイトへの吸着(到達)を阻害する立体障害を構成する。
【0042】
また、上述の離間距離Dは、後述する原料供給ステップにおいて原料から生成させた中間体の分子の幅(分子サイズ、分子径)よりも長く、後述するインヒビター供給ステップにおいてウエハ200に対して供給されるインヒビターの分子の幅(分子サイズ、分子径)よりも長くなっている。すなわち、離間距離Dは、中間体の分子およびインヒビターの分子のそれぞれが通過可能な距離となっている。第2吸着サイトを構成する原子は、後述するインヒビター供給ステップにおいて、インヒビターの第1吸着サイトへの吸着(到達)を阻害する立体障害を構成せず、また、後述する原料供給ステップにおいて、原料から生成させた中間体の第1吸着サイトへの吸着(到達)を阻害する立体障害を構成しない。
【0043】
これらのことから、第1吸着サイトおよび第2吸着サイトは、いずれも、後述するインヒビター供給ステップにおいて、インヒビターを吸着させることが可能な吸着サイトとして機能する。また、第1吸着サイトは、後述する原料供給ステップにおいて、原料から生成させた中間体を吸着させることが可能であって原料を吸着させることができない吸着サイトとして機能し、第2吸着サイトは、後述する原料供給ステップにおいて、原料と中間体とを吸着させることが可能な吸着サイトとして機能する。
【0044】
なお、ウエハ200の表面には、
図7に示すように、ホールまたはトレンチなどの立体構造が設けられている場合がある。この場合においても、この立体構造の表面全体が、上述の表面状態を有している。すなわち、
図7におけるホールまたはトレンチの上面、側面、底面のそれぞれが、
図5(a)に示すように、分子或いは原子レベルの大きさの凹部を有し、これらの凹部のそれぞれの底部側には上述の第1吸着サイトが位置し、これらの凹部のそれぞれの上部側には上述の第2吸着サイトが位置している。
【0045】
(圧力調整および温度調整)
ボートロードが終了した後、処理室201内、すなわち、ウエハ200が存在する空間が所望の圧力(真空度)となるように、真空ポンプ246によって真空排気(減圧排気)される。このとき、処理室201内の圧力は圧力センサ245で測定され、この測定された圧力情報に基づきAPCバルブ244がフィードバック制御される。また、処理室201内のウエハ200が所望の処理温度となるように、ヒータ207によって加熱される。このとき、処理室201内が所望の温度分布となるように、温度センサ263が検出した温度情報に基づきヒータ207への通電具合がフィードバック制御される。また、回転機構267によるウエハ200の回転を開始する。処理室201内の排気、ウエハ200の加熱および回転は、いずれも、少なくともウエハ200に対する処理が終了するまでの間は継続して行われる。
【0046】
(成膜ステップ)
その後、次のインヒビター供給ステップと、原料供給ステップと、反応体供給ステップとを、この順に実行する。
【0047】
[インヒビター供給ステップ]
本ステップでは、表面に第1吸着サイトおよび第2吸着サイトを有するウエハ200に対して、インヒビターを供給する。
【0048】
具体的には、バルブ243aを開き、ガス供給管232a内へインヒビターを流す。インヒビターは、MFC241aにより流量調整され、ノズル249aを介して処理室201内へ供給され、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200の側方から、ウエハ200に対してインヒビターが供給される(インヒビター供給)。このとき、バルブ243d~243fを開き、ノズル249a~249cのそれぞれを介して処理室201内へ不活性ガスを供給するようにしてもよい。
【0049】
上述の表面を有するウエハ200に対して、以下に示す処理条件下でインヒビターを供給することにより、ウエハ200の表面における吸着サイトの全体、すなわち、凹部の底部側に位置する第1吸着サイト、および、凹部の上部側に位置する第2吸着サイトのそれぞれに、インヒビターを吸着させることが可能となる。これにより、
図5(b)に示すように、ウエハ200の表面における吸着サイト全体が、インヒビターにより覆われることとなる。
【0050】
インヒビター供給ステップにてインヒビターを供給する際における処理条件としては、
処理温度:300~850℃、好ましくは500~750℃
処理圧力:1~5000Pa
インヒビター供給流量:0.05~10slm
インヒビター供給時間:5~300秒
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):0~20slm
が例示される。
【0051】
なお、本明細書における「1~5000Pa」のような数値範囲の表記は、下限値および上限値がその範囲に含まれることを意味する。よって、例えば、「1~5000Pa」とは「1Pa以上5000Pa以下」を意味する。他の数値範囲についても同様である。また、本明細書における処理温度とはウエハ200の温度または処理室201内の温度のことを意味し、処理圧力とは処理室201内の圧力のことを意味する。また、処理時間とは、その処理を継続する時間を意味する。また、供給流量に0slmが含まれる場合、0slmとは、その物質(ガス)を供給しないケースを意味する。これらは、以下の説明においても同様である。
【0052】
インヒビターとしては、例えば、ハロゲンを含む物質を用いることができる。ハロゲンには、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)のうち、少なくともいずれかが含まれる。インヒビターとしては、例えば、フッ素(F2)ガス、塩素(Cl2)ガス、臭素(Br2)ガス、ヨウ素(I2)ガス、フッ化窒素(NF3)ガス、フッ化塩素(ClF3)ガス、フッ化水素(HF)ガス、塩化水素(HCl)ガス、臭化水素(HBr)ガス、ヨウ化水素(HI)ガス等を用いることができる。すなわち、インヒビターとしては、例えば、ハロゲン単体、ハロゲン間化合物、ハロゲン化窒素、ハロゲン化水素等を用いることができる。
【0053】
また、インヒビターとしては、例えば、アミンを含む物質を用いることができる。アミンを含む物質は、炭素(C)、窒素(N)、及び水素(H)を含む。アミンを含む物質を、アミン系物質(アミン系ガス)とも称する。インヒビターとしては、例えば、トリエチルアミン((C2H5)3N)ガス、ジエチルアミン((C2H5)2NH)ガス、モノエチルアミン((C2H5)NH2)ガス、トリメチルアミン((CH3)3N)ガス、ジメチルアミン((CH3)2NH)ガス、モノメチルアミン((CH3)NH2)ガス等の鎖状アミン系物質(鎖状アミン系ガス)を用いることができる。
【0054】
インヒビターとしては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0055】
インヒビターの分子サイズは、後述する原料供給ステップにて用いる原料の分子サイズよりも小さいことが好ましく、また、原料供給ステップにて原料から生成される中間体の分子サイズよりも小さいことが好ましい。
【0056】
不活性ガスとしては、窒素(N2)ガスや、アルゴン(Ar)ガス、ヘリウム(He)ガス、ネオン(Ne)ガス、キセノン(Xe)ガス等の希ガスを用いることができる。不活性ガスとしては、これらのうち1以上を用いることができる。この点は、後述する各ステップにおいても同様である。
【0057】
ウエハ200の表面が有する吸着サイトの全体にインヒビターを吸着させた後、バルブ243aを閉じ、処理室201内へのインヒビターの供給を停止する。そして、処理室201内を真空排気し、処理室201内に残留するガス状物質等を処理室201内から排除する。このとき、バルブ243d~243fを開き、ノズル249a~249cを介して処理室201内へ不活性ガスを供給する。ノズル249a~249cより供給される不活性ガスは、パージガスとして作用し、これにより、処理室201内がパージされる(パージ)。本ステップにてパージを行う際における処理温度は、インヒビターを供給する際における処理温度と同様の温度とすることが好ましい。
【0058】
[原料供給ステップ]
インヒビター供給ステップが終了した後、ウエハ200、すなわち、第1吸着サイトおよび第2吸着サイトにインヒビターを吸着させた後のウエハ200に対して、原料を供給する。
【0059】
具体的には、バルブ243bを開き、ガス供給管232b内へ原料を流す。原料は、MFC241bにより流量調整され、ノズル249bを介して処理室201内へ供給され、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200の側方から、ウエハ200に対して原料が供給される(原料供給)。このとき、バルブ243d~243fを開き、ノズル249a~249cのそれぞれを介して処理室201内へ不活性ガスを供給するようにしてもよい。
【0060】
吸着サイトの全体にインヒビターを吸着させたウエハ200に対して、以下に示す処理条件下で原料を供給することにより、原料を熱分解させ、原料から中間体を生成させることが可能となる。また、原料や中間体を、第2吸着サイトに吸着させたインヒビターと反応させ、そのインヒビターを、第2吸着サイトから脱離させて除去することが可能となる。また、インヒビターが脱離した第2吸着サイトに、原料や中間体を吸着させることが可能となる。これらの結果、
図5(c)に示すように、ウエハ200の表面に、原料や中間体を含む第1層を形成することが可能となる。
【0061】
ここで、第2吸着サイトを構成する原子は、上述のように、原料の第1吸着サイトへの到達を阻害する立体障害を構成する。そのため、原料供給ステップでは、第1吸着サイトに吸着させたインヒビターと原料との反応を抑制することが可能となる。
【0062】
なお、中間体の分子サイズは、原料の分子サイズよりも小さくなる。上述のように、離間距離Dが、中間体の分子の幅より長く、中間体の分子が通過可能な距離となっている場合、第2吸着サイトを構成する原子は、中間体の第1吸着サイトへの到達を阻害する立体障害を構成しなくなる。ただし、この場合においても、第2吸着サイトに吸着させたインヒビターは、ウエハ200の最表面に位置しており、第1吸着サイトに吸着させたインヒビターは、凹部内の底部側における奥まった箇所に位置している。そのため、原料供給ステップでは、第1吸着サイトに吸着させたインヒビターと中間体との反応確率を、第2吸着サイトに吸着させたインヒビターと中間体との反応確率よりも、低くすることができる。そのため、原料供給ステップでは、第1吸着サイトに吸着させたインヒビターと原料との反応だけでなく、第1吸着サイトに吸着させたインヒビターと中間体との反応についても抑制することが可能となる。
【0063】
これらの結果、原料供給ステップでは、第1吸着サイトからのインヒビターの脱離を抑制して第1吸着サイトに吸着させたインヒビターの少なくとも一部を維持し、第1吸着サイトおよび第2吸着サイトのうち第2吸着サイトに吸着させたインヒビターを選択的に脱離させて除去することが可能となる。原料供給ステップでは、第1吸着サイトに吸着されたインヒビターの少なくとも一部を維持することで、中間体が第1吸着サイトに吸着することを抑制し、第2吸着サイトへの中間体の吸着量(吸着率)を、第1吸着サイトへの中間体の吸着量(吸着率)よりも多く(高く)することが可能となる。結果として、原料供給ステップでは、
図5(c)に示すように、第1吸着サイトをインヒビターにより埋めた状態(覆った状態)を維持しつつ、第1吸着サイトおよび第2吸着サイトのうち第2吸着サイトに選択的に原料や中間体を吸着させることが可能となる。
【0064】
原料供給ステップにて原料を供給する際における処理条件としては、
処理温度:300~850℃、好ましくは500~750℃
処理圧力:1~2000Pa
原料供給流量:0.05~3slm、好ましくは0.1~2slm
原料供給時間:1~120秒、好ましくは1~60秒
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):0~20slm
が例示される。
【0065】
原料としては、例えば、ハロゲンと、膜を構成する主元素と、を含む物質を用いることができる。ハロゲンには、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)のうち、少なくともいずれかが含まれる。膜を構成する主元素には、シリコン(Si)等の半導体元素が含まれる。
【0066】
原料としては、例えば、Siおよびハロゲンを含有するガス、すなわち、ハロシラン系ガスを用いることができる。原料としては、例えば、ジフルオロシラン(SiH2F2)ガス等のフルオロシラン系ガス、モノクロロシラン(SiH3Cl)ガス、ジクロロシラン(SiH2Cl2)ガス、トリクロロシラン(SiHCl3)ガス、ヘキサクロロジシラン(Si2Cl6)ガス、オクタクロロトリシラン(Si3Cl8)ガス等のクロロシラン系ガス、ジブロモシラン(SiH2Br2)ガス等のブロモシラン系ガス、ジヨードシラン(SiH2I2)ガス等のヨードシラン系ガスを用いることができる。
【0067】
また、原料としては、例えば、Siおよびアミノ基を含有するガス、すなわち、アミノシラン系ガスを用いることができる。原料としては、例えば、テトラキス(ジメチルアミノ)シラン(Si[N(CH3)2]4)ガス、トリス(ジメチルアミノ)シラン(Si[N(CH3)2]3H)ガス、ビス(ジエチルアミノ)シラン(Si[N(C2H5)2]2H2)ガス、ビス(ターシャリーブチルアミノ)シラン(SiH2[NH(C4H9)]2)ガス、(ジイソプロピルアミノ)シラン(SiH3[N(C3H7)2])ガス等のアミノシラン系ガスを用いることができる。
【0068】
原料としては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0069】
なお、原料として、例えば、上述のハロシラン系ガスを用いる場合、中間体として、例えば、SiHF、SiF2、SiHCl、SiCl2、SiHBr、SiBr2、SiHI、SiI2等の分子構造を有する物質が生成される。この場合、インヒビターとしては、例えば、ハロゲンを含む物質を用いることが好ましい。また、原料として、例えば、上述のアミノシラン系ガスを用いる場合、中間体として、例えば、原料の分子からアミノ基、アミノ基の一部、水素のうち少なくともいずれかが外れた分子構造を有する物質が生成される。この場合、インヒビターとしては、例えば、アミンを含む物質を用いることが好ましい。
【0070】
ウエハ200の表面に第1層を形成した後、バルブ243bを閉じ、処理室201内への原料の供給を停止する。そして、インヒビター供給ステップにおけるパージと同様の処理手順、処理条件により、処理室201内に残留するガス状物質等を処理室201内から排除する(パージ)。本ステップにてパージを行う際における処理温度は、原料を供給する際における処理温度と同様の温度とすることが好ましい。
【0071】
[反応体供給ステップ]
原料供給ステップが終了した後、ウエハ200、すなわち、ウエハ200の表面が有する吸着サイトのうち第2吸着サイトに選択的に原料と中間体とを吸着させて第1層を形成した後のウエハ200に対して、反応体を供給する。
【0072】
具体的には、バルブ243cを開き、ガス供給管232c内へ反応体を流す。反応体は、MFC241cにより流量調整され、ノズル249cを介して処理室201内へ供給され、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200の側方から、ウエハ200に対して反応体が供給される(反応体供給)。このとき、バルブ243d~243fを開き、ノズル249a~249cのそれぞれを介して処理室201内へ不活性ガスを供給するようにしてもよい。
【0073】
第1層を形成した後のウエハ200に対して、以下に示す処理条件下で反応体を供給することにより、
図5(d)に示すように、第1層の少なくとも一部を反応体と反応させ、第1層を第2層へ改質させることが可能となる。
【0074】
このとき、反応体の作用により、原料供給ステップにおいて第1吸着サイトに残留したインヒビターを、ウエハ200の表面から除去することが可能となる。これにより、ウエハ200の表面上に最終的に形成される膜中へのインヒビターの残留を抑制することが可能となる。なお、
図5(d)に示すように、ウエハ200の表面からインヒビターの全てが除去されず、ウエハ200の表面上に最終的に形成される膜中に、インヒビターが微量に残留する場合もある。インヒビターが除去された部分は、反応体を構成する原子や分子の吸着により埋まる場合があり、また、原料を構成する原子や分子のマイグレーションにより埋まる場合がある。
【0075】
反応体供給ステップにて反応体を供給する際における処理条件としては、
処理温度:300~850℃、好ましくは500~750℃
処理圧力:1~4000Pa
反応体供給流量:1~30slm、好ましくは2~20slm
反応体供給時間:1~120秒、好ましくは1~60秒
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):0~20slm
が例示される。
【0076】
反応体としては、窒素および酸素のうち少なくともいずれかを含む物質を用いることができる。
【0077】
反応体としては、例えば、窒素(N)及び水素(H)含有物質(N及びH含有ガス)を用いることができる。N及びH含有物質としては、例えば、ジアゼン(N2H2)ガス、ヒドラジン(N2H4)ガス、アンモニア(NH3)ガス、N3H8ガス等の窒化水素系ガス、モノエチルアミン(C2H5NH2)ガス、ジエチルアミン((C2H5)2NH)ガス、トリエチルアミン((C2H5)3N)ガス等のエチルアミン系ガス、モノメチルアミン(CH3NH2)ガス、ジメチルアミン((CH3)2NH)ガス、トリメチルアミン((CH3)3N)ガス等のメチルアミン系ガス、モノメチルヒドラジン((CH3)HN2H2)ガス、ジメチルヒドラジン((CH3)2N2H2)ガス、トリメチルヒドラジン((CH3)2N2(CH3)H)ガス等の有機ヒドラジン系ガスを用いることができる。
【0078】
また、反応体としては、例えば、酸素(O)含有物質(O含有ガス)を用いることができる。O含有物質としては、例えば、酸素(O2)ガス、オゾン(O3)ガス、水蒸気(H2Oガス)、過酸化水素(H2O2)ガス、水素(H2)ガス+酸素(O2)ガス、重水素(D2)ガス+酸素(O2)ガス、酸素ラジカル(O2
*、O*)、原子状酸素(O)等を用いることができる。なお、本明細書における「H2ガス+O2ガス」のような2つのガスの併記記載は、H2ガスとO2ガスとの混合ガスを意味する。混合ガスを供給する場合は、2つのガスを供給管内で混合(プリミックス)させた後、処理室201内へ供給するようにしてもよいし、2つのガスを異なる供給管より別々に処理室201内へ供給し、処理室201内で混合(ポストミックス)させるようにしてもよい。
【0079】
反応体としては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0080】
なお、反応体として、例えば、N及びH含有物質を用いる場合、インヒビターとしては、例えば、ハロゲンを含む物質を用いることが好ましく、原料としては、例えば、ハロシラン系ガスを用いることが好ましい。また、反応体として、例えば、O含有物質を用いる場合、インヒビターとしては、例えば、アミンを含む物質を用いることが好ましく、原料としては、例えば、アミノシラン系ガスを用いることが好ましい。
【0081】
ウエハ200の表面に形成した第1層を第2層へ変化させた後、バルブ243cを閉じ、処理室201内への反応体の供給を停止する。そして、インヒビター供給ステップにおけるパージと同様の処理手順、処理条件により、処理室201内に残留するガス状物質等を処理室201内から排除する(パージ)。本ステップにてパージを行う際における処理温度は、反応体を供給する際における処理温度と同様の温度とすることが好ましい。
【0082】
[所定回数実施]
上述のインヒビター供給ステップ、原料供給ステップ、反応体供給ステップを、非同時に、すなわち、同期させることなくこの順に行うサイクルをn回(nは1または2以上の整数)行うことにより、ウエハ200の表面上に、所望の組成を有する膜を形成することが可能となる。原料として上述のシラン系ガスを用い、反応体として上述の窒素を含むガスを用いる場合、ウエハ200の表面上に、シリコン窒化膜(SiN膜)が形成される。また、原料として上述のシラン系ガスを用い、反応体として上述の酸素を含むガスを用いる場合、ウエハ200の表面上に、シリコン酸化膜(SiO膜)が形成される。上述のサイクルは、複数回繰り返すことが好ましい。すなわち、1サイクルあたりに形成される第2層の厚さを所望の膜厚よりも薄くし、第2層を積層することで形成される膜の膜厚が所望の膜厚になるまで、上述のサイクルを複数回繰り返すことが好ましい。
【0083】
(アフターパージおよび大気圧復帰)
成膜ステップが完了した後、ノズル249a~249cのそれぞれからパージガスとしての不活性ガスを処理室201内へ供給し、排気口231aより排気する。これにより、処理室201内がパージされ、処理室201内に残留するガスや反応副生成物等が処理室201内から除去される(アフターパージ)。その後、処理室201内の雰囲気が不活性ガスに置換され(不活性ガス置換)、処理室201内の圧力が常圧に復帰される(大気圧復帰)。
【0084】
(ボートアンロードおよびウエハディスチャージ)
その後、ボートエレベータ115によりシールキャップ219が下降され、マニホールド209の下端が開口される。そして、処理済のウエハ200が、ボート217に支持された状態でマニホールド209の下端から反応管203の外部に搬出(ボートアンロード)される。ボートアンロードの後は、シャッタ219sが移動させられ、マニホールド209の下端開口がOリング220cを介してシャッタ219sによりシールされる(シャッタクローズ)。処理済のウエハ200は、反応管203の外部に搬出された後、ボート217より取り出される(ウエハディスチャージ)。
【0085】
(3)本態様による効果
本態様によれば、以下に示す1つ又は複数の効果が得られる。
【0086】
(a)インヒビター供給ステップにおいて、一旦、吸着サイト全体(第1吸着サイトおよび第2吸着サイト)にインヒビターを吸着させた後、原料供給ステップにおいて、第1吸着サイトおよび第2吸着サイトのうち第2吸着サイトに吸着させたインヒビターを選択的に脱離させて除去し、第2吸着サイトに選択的に原料と中間体とを吸着させることにより、吸着サイト全体への中間体の吸着量(吸着率)を低減させることが可能となる。結果として、ウエハの表面上に形成される膜のステップカバレッジを大幅に向上させ、この膜を、コンフォーマルな膜とすることが可能となる。
【0087】
ここで、中間体は気相反応により生成されることから、空間が比較的広いトレンチやホール等の上部の方が中央部や底部よりも中間体の供給量が多くなる。また、中間体はCVD反応のように飽和することなく吸着する。すなわち、中間体は、トレンチやホール等の上部に比較的多く吸着する傾向があり、このことが、ステップカバレッジを悪化させる要因となる。そして、トレンチやホール等の吸着サイト全体への中間体の吸着量が多くなれば多くなるほど、この傾向を助長することとなる。これに対し、本開示によれば、トレンチやホール等の上部を含む吸着サイト全体への中間体の吸着量(吸着率)を低減させることができ、これにより、中間体がトレンチやホール等の上部に比較的多く吸着する傾向を抑制することが可能となり、結果として、ステップカバレッジを大幅に向上させることが可能となる。
【0088】
なお、インヒビター供給ステップを実施することなく、原料供給ステップを実施する場合には、ウエハの表面が有する第1吸着サイトおよび第2吸着サイトのうち第2吸着サイトに選択的に原料と中間体とを吸着させることが困難となり、上述の作用効果が得られなくなることがある。この点について、
図6(a)~
図6(c)を用いて以下に説明する。
【0089】
図6(a)は、表面に第1吸着サイトと第2吸着サイトとを有するウエハの表面状態を示す断面模式図である。この図に示すウエハの表面状態は、
図5(a)に示す上述のウエハの表面状態と同様である。このような表面状態を有するウエハに対して、インヒビター供給ステップを行うことなく、原料供給ステップを行うと、
図6(b)に示すように、第2吸着サイトに原料と中間体とが吸着するだけでなく、第1吸着サイトにも中間体が吸着することがある。すなわち、原料供給ステップを行う前に、インヒビター供給ステップを不実施とすると、本態様に示す手法に比べて、吸着サイト全体への中間体の吸着量(吸着率)を低減させることが困難となることがある。この場合、ウエハの表面上に形成される第1層は、中間体の成分を多く含むようになることがある。この状態で反応体供給ステップを行うと、
図6(c)に示すように、ウエハの表面上に形成される第2層は、中間体の成分を多く含むこととなり、本態様に示す手法によりウエハの表面上に形成される膜に比べて、ステップカバレッジが低下する場合があり、この膜を、コンフォーマルな膜とすることが困難となることがある。
【0090】
(b)ウエハの表面が有する凹部の底部側に第1吸着サイトが位置し、上部側に第2吸着サイトが位置することにより、原料供給ステップにおいて、原料および中間体と、第2吸着サイトに吸着させたインヒビターと、の反応確率を、原料および中間体と、第1吸着サイトに吸着させたインヒビターと、の反応確率よりも、高くすることが可能となる。これにより、原料供給ステップにおいて、第1吸着サイトおよび第2吸着サイトのうち第2吸着サイトに吸着させたインヒビターを選択的に脱離させて除去し、第2吸着サイトに選択的に原料と中間体とを吸着させることを、効果的に行うことが可能となる。結果として、吸着サイト全体への中間体の吸着量(吸着率)を低減させることができ、ウエハの表面上に形成される膜のステップカバレッジを大幅に向上させ、この膜を、よりコンフォーマルな膜とすることが可能となる。
【0091】
(c)インヒビターの分子サイズを原料の分子サイズよりも小さくすることにより、インヒビター供給ステップにおいて、凹部の上部側だけでなく、分子が入り込みにくい凹部の底部側にも、均一にインヒビターを吸着させることが可能となる。これにより、凹部内をインヒビターで埋めた状態、すなわち、凹部内をインヒビターで塞いだ状態を作り出すことが可能となる。結果として、上述の反応を効果的に生じさせることが可能となる。
【0092】
(d)原料、中間体、インヒビターのうちインヒビターの分子サイズを最も小さくすることにより、インヒビター供給ステップにおいて、凹部の上部側だけでなく、分子が入り込みにくい凹部の底部側にも、均一にインヒビターを吸着させることが可能となる。これにより、凹部内をインヒビターで埋めた状態、すなわち、凹部内をインヒビターで塞いだ状態を作り出すことが可能となる。結果として、上述の反応を効果的に生じさせることが可能となる。
【0093】
(e)上述の離間距離Dが、原料の分子の幅よりも短く、原料の分子が通過できない距離であることにより、第2吸着サイトを構成する原子が、原料の第1吸着サイトへの吸着を阻害する立体障害を構成することになる。これにより、原料供給ステップにおいて、原料の第2吸着サイトへの吸着を可能としつつ、原料の第1吸着サイトへの吸着を阻害することが可能となる。結果として、上述の反応を効果的に生じさせることが可能となる。
【0094】
(f)上述の離間距離Dが、中間体の分子の幅よりも長く、インヒビターの分子の幅よりも長いことにより、すなわち、中間体の分子およびインヒビターの分子のそれぞれが通過可能な距離であることにより、原料供給ステップにおいて、中間体の第1吸着サイトおよび第2吸着サイトへの吸着が可能となる。また、インヒビター供給ステップにおいて、インヒビターの第1吸着サイトおよび第2吸着サイトへの吸着が可能となる。結果として、上述の反応を効果的に生じさせることが可能となる。
【0095】
(g)原料供給ステップにおいて、第1吸着サイトに吸着させたインヒビターの少なくとも一部を維持し、第1吸着サイトをインヒビターで埋めた状態を維持することにより、第1吸着サイトへの中間体の吸着を抑制しつつ、第2吸着サイトへの原料と中間体との選択的な吸着を効果的に促進させることが可能となる。すなわち、原料供給ステップにおいて、第2吸着サイトへの中間体の吸着量を、第1吸着サイトへの中間体の吸着量よりも多くすることにより、吸着サイト全体への中間体の吸着量(吸着率)を効果的に低減させることが可能となる。結果として、ウエハの表面上に形成される膜のステップカバレッジを大幅に向上させることが可能となる。
【0096】
(h)反応体供給ステップにおいて、ウエハに対して反応体を供給し、第1層を第2層へ改質させる際に、原料供給ステップにおいて第1吸着サイトに残留したインヒビターを、反応体の作用により除去することが可能となる。結果として、ウエハの表面上に形成される膜中へのインヒビターの残留を抑制することが可能となる。
【0097】
(i)上述のサイクルにおいて、インヒビター供給ステップ、原料供給ステップ、反応体供給ステップをこの順に行うことにより、上述の反応を効果的に生じさせることが可能となる。
【0098】
(j)インヒビターがハロゲンを含み、原料がハロゲンと膜を構成する主元素とを含むことにより、上述の反応を効果的に生じさせることが可能となる。また、反応体が窒素および酸素のうち少なくともいずれかを含むことにより、上述の反応を効果的に生じさせることが可能となる。
【0099】
(k)インヒビターとしてハロゲンを含む物質を用い、原料としてハロシラン系ガスを用い、反応体としてN及びH含有物質を用いることにより、上述の反応を、より効果的に生じさせることが可能となる。また、インヒビターとしてアミンを含む物質を用い、原料としてアミノシラン系ガスを用い、反応体としてO含有物質を用いることにより、上述の反応を、より効果的に生じさせることが可能となる。
【0100】
(l)上述の効果は、上述の各種原料、各種反応体、各種インヒビター、各種不活性ガスから、所定の物質を任意に選択して用いる場合においても同様に得ることができる。
【0101】
<本開示の他の態様>
以上、本開示の態様を具体的に説明した。しかしながら、本開示は上述の態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。以下、本開示の他の態様の例について説明する。なお、特に説明がない限り、以下の他の態様の各ステップにおける処理手順、処理条件は、上述の処理シーケンスの各ステップにおける処理手順、処理条件と同様とすることができる。
【0102】
例えば、上述の成膜ステップを実施した後、基板の表面上に形成された膜に対して所定の後処理(ポストトリートメント)を実施するようにしてもよい。
【0103】
後処理としては、例えば、所定の後処理物質(後処理ガス)を含む雰囲気下での熱処理や、後処理物質を用いたプラズマ処理等が挙げられる。後処理物質としては、上述の各種反応体、例えば、NH3ガス、O2ガス、H2ガス、D2ガス等の反応性ガスや、Heガス、Arガス、N2ガス等の不活性ガスや、これらの混合ガスを用いることができる。後処理物質としては、これらのうち1以上を用いることができる。後処理は、成膜ステップを実施する処理室と同一の処理室内で(in-situで)行うようにしてもよく、成膜ステップを実施する処理室とは異なる処理室内で(ex-situで)行うようにしてもよい。
【0104】
後処理を行う際における処理条件としては、
処理温度:300~1000℃、好ましくは200~800℃
処理圧力:1~4000Pa、好ましくは1~1000Pa
後処理物質供給流量:0.01~10slm、好ましくは1~10slm
後処理物質供給時間:1~18000秒、好ましくは120~10800秒
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):0~20slm
RF電力:1~10000W、好ましくは10~5000W
が例示される。なお、RF電力は、後処理物質を用いたプラズマ処理を行う場合に、プラズマを発生させるために印加する電力のことである。
【0105】
本態様においても、上述の態様と同様の効果が得られる。また、後処理を行うことにより、基板の表面上に形成された膜中に残留しているインヒビターを、この膜中から除去することが可能となる。
【0106】
また例えば、以下に示す処理シーケンスのように、上述のサイクルにおいて、インヒビター供給ステップを行うことと、原料供給ステップと反応体供給ステップとを含むセットを所定回数(m回、mは1または2以上の整数)行うことと、を行うようにしてもよい。本態様においても、上述の態様と同様の効果が得られる。
【0107】
〔インヒビター→(原料→反応体)×m〕×n
【0108】
また例えば、以下に示す処理シーケンスのように、複数種の反応体を用い、基板の表面上に、シリコン酸窒化膜(SiON膜)、シリコン酸炭化膜(SiOC膜)、シリコン酸炭窒化膜(SiOCN膜)、シリコン炭窒化膜(SiCN膜)、シリコン硼窒化膜(SiBN膜)、シリコン硼炭窒化膜(SiBCN膜)シリコン硼酸窒化膜(SiBON膜)、シリコン硼酸炭窒化膜(SiBOCN膜)等の多元系膜を形成するようにしてもよい。第1反応体、第2反応体、第3反応体としては、上述の各種反応体の他、プロピレン(C3H6)ガス等の炭素(C)含有ガスや、三塩化硼素(BCl3)ガス等の硼素(B)含有ガス等を用いることができる。本態様においても、上述の態様と同様の効果が得られる。
【0109】
(インヒビター→原料→第1反応体→第2反応体)×n
(インヒビター→原料→第1反応体→第2反応体→第3反応体)×n
〔インヒビター→(原料→第1反応体→第2反応体)×m〕×n
〔インヒビター→(原料→第1反応体→第2反応体→第3反応体)×m〕×n
【0110】
本開示は、基板の表面上に、ハフニウム酸化膜(HfO膜)、ジルコニウム酸化膜(ZrO膜)、アルミニウム酸化膜(AlO膜)、チタン酸化膜(TiO膜)、タングステン酸化膜(WO膜)、ハフニウム窒化膜(HfN膜)、ジルコニウム窒化膜(ZrN膜)、アルミニウム窒化膜(AlN膜)、チタン窒化膜(TiN膜)、タングステン窒化膜(WN膜)、ハフニウム酸窒化膜(HfON膜)、ジルコニウム酸窒化膜(ZrON膜)、アルミニウム酸窒化膜(AlON膜)、チタン酸窒化膜(TiON膜)、タングステン酸窒化膜(WON膜)等の金属元素を含む膜を形成する場合にも好適に適用可能である。本態様においても、上述の態様と同様の効果が得られる。
【0111】
各処理に用いられるレシピは、処理内容に応じて個別に用意し、電気通信回線や外部記憶装置123を介して記憶装置121c内に記録し、格納しておくことが好ましい。そして、各処理を開始する際、CPU121aが、記憶装置121c内に記録され、格納された複数のレシピの中から、処理内容に応じて適正なレシピを適宜選択することが好ましい。これにより、1台の基板処理装置で様々な膜種、組成比、膜質、膜厚の膜を、再現性よく形成することができるようになる。また、オペレータの負担を低減でき、操作ミスを回避しつつ、各処理を迅速に開始できるようになる。
【0112】
上述のレシピは、新たに作成する場合に限らず、例えば、基板処理装置に既にインストールされていた既存のレシピを変更することで用意するようにしてもよい。レシピを変更する場合は、変更後のレシピを、電気通信回線や当該レシピを記録した記録媒体を介して、基板処理装置にインストールするようにしてもよい。また、既存の基板処理装置が備える入出力装置122を操作し、基板処理装置に既にインストールされていた既存のレシピを直接変更するようにしてもよい。
【0113】
上述の態様では、一度に複数枚の基板を処理するバッチ式の基板処理装置を用いて膜を形成する例について説明した。本開示は上述の態様に限定されず、例えば、一度に1枚または数枚の基板を処理する枚葉式の基板処理装置を用いて膜を形成する場合にも、好適に適用することができる。また、上述の態様では、ホットウォール型の処理炉を有する基板処理装置を用いて膜を形成する例について説明した。本開示は上述の態様に限定されず、コールドウォール型の処理炉を有する基板処理装置を用いて膜を形成する場合にも、好適に適用することができる。
【0114】
これらの基板処理装置を用いる場合においても、上述の態様や変形例と同様な処理手順、処理条件にて各処理を行うことができ、上述の態様や変形例と同様の効果が得られる。
【0115】
上述の態様や変形例は、適宜組み合わせて用いることができる。このときの処理手順、処理条件は、例えば、上述の態様や変形例の処理手順、処理条件と同様とすることができる。
【符号の説明】
【0116】
200 ウエハ(基板)