(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120271
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B05C 5/00 20060101AFI20240829BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20240829BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20240829BHJP
F16K 1/36 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
B05C5/00 101
B41J2/14 301
B41J2/14 607
B05C11/10
F16K1/36 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026945
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 智子
(72)【発明者】
【氏名】中島 牧人
(72)【発明者】
【氏名】寒河江 英利
(72)【発明者】
【氏名】金松 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】杉本 泰規
【テーマコード(参考)】
2C057
3H052
4F041
4F042
【Fターム(参考)】
2C057AG11
2C057AG44
2C057BA07
2C057BA08
2C057BA14
3H052AA01
3H052BA22
3H052CA22
3H052CA33
3H052EA16
4F041AA02
4F041AA07
4F041AA12
4F041AB01
4F041BA01
4F041BA10
4F041BA13
4F041BA17
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4F041BA36
4F041BA38
4F042AA02
4F042AA09
4F042AA22
4F042BA08
4F042BA12
4F042CB03
4F042CB08
4F042CB10
4F042CB11
4F042DH09
(57)【要約】
【課題】安定したインク吐出量を継続的に維持できる液体吐出ヘッドを提供すること。
【解決手段】本発明にかかる液体吐出ヘッドは、液体を吐出する吐出口と、前記吐出口を開閉する開閉弁と、を備える液体吐出ヘッドであって、前記開閉弁31は、前記吐出口に当接し前記吐出口を閉鎖する弾性部材と、備え、弾性部材は、多孔質樹脂であることを特徴とする。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出口を有する吐出口形成部材と、
前記吐出口形成部材と当接する位置と離間する位置とに移動可能であり、前記吐出口を開閉する開閉弁と、を備え、
前記開閉弁は、前記吐出口形成部材に当接し前記吐出口を閉鎖する弾性部材を有し、
前記弾性部材は多孔質樹脂であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記多孔質樹脂に含まれる複数の孔は、独立孔を含む
ことを特徴とする請求項1の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記開閉弁は、前記多孔質樹脂と接合され、前記多孔質樹脂を支持する芯材を備え、
前記複数の孔は、前記芯材との接合面に開口する開口孔を含み、
前記開口孔の少なくとも一部に接着性樹脂が充填される
ことを特徴とする請求項2の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記開口孔の深さは、前記開口孔の前記接合面における開口直径よりも大きい
ことを特徴とする請求項3の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記多孔質樹脂は、
前記多孔質樹脂の母体樹脂に対する前記孔の体積占有率が、
前記開閉弁の移動する方向に垂直な方向において、前記吐出口の中心に対応する中心部から前記弾性部材の外周方向に向かって上昇する分布を有する
ことを特徴とする請求項1の液体突出ヘッド。
【請求項6】
前記中心部の前記孔の径は、前記開閉弁の移動する方向に垂直な方向において、前記弾性部材の外周側の前記孔の径よりも小さいことを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記中心部における前記多孔質樹脂の単位体積あたりの前記孔の数は、前記開閉弁の移動する方向に垂直な方向において、前記弾性部材の外周側における前記多孔質樹脂の単位体積あたりの前記孔の数より少ないことを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
請求項1~請求項7に記載の液体吐出ヘッドと
前記液体吐出ヘッドを保持する手段と、
を有する液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、液体を吐出する吐出口に向けて、移動可能に形成された弁体を押圧することにより液体の吐出を制御する液体吐出ヘッドにおいて、弁体の吐出口に対向する位置に凹部が配置され、弁体の先端部は弾性樹脂で構成されている液体吐出ヘッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
安定したインク吐出量を継続的に維持できる液体吐出ヘッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる液体吐出ヘッドは、液体を吐出する吐出口と、前記吐出口を開閉する開閉弁と、を備える液体吐出ヘッドであって、前記開閉弁31は、前記吐出口に当接し前記吐出口を閉鎖する弾性部材と、を備え、弾性部材は、多孔質樹脂であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、安定したインク吐出量を継続的に維持できる液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態に係る液体吐出ヘッドの外観説明図である。
【
図2】実施形態に係る液体吐出ヘッドの全体断面図である。
【
図3】実施形態に係る液体吐出ヘッドの加熱手段との位置関係を示す説明図である。
【
図4】(a)液体吐出モジュールの断面図、(b)要部拡大図である。
【
図5】開閉弁とノズル板について説明する図である。
【
図6】開閉弁の変位量Xの方向およびインクの吐出流量の模擬図である。
【
図7】開閉弁位置と吐出流量の実験結果を示す図である。
【
図8】開閉弁先端とノズル板とのギャップ量について説明する図である。
【
図9】比較例の開閉弁先端構造について説明する図である。
【
図10】(a)第1の実施形態を説明する図である(b)押圧状態を示す図である。
【
図11】開閉弁の弾性率を評価する手段について説明する図である。
【
図12】第1の実施形態と比較例との弾性率について比較した図である。
【
図14】圧縮永久歪の評価手段を説明する図である。
【
図15】第2の実施形態の圧縮永久歪を評価した結果である。
【
図16】第2の実施形態と比較例との材料変形の応答速度を比較した図である。
【
図18】第3の実施形態を模式的に示した図である。
【
図19】接着力を測定する手段を説明する図である。
【
図20】第4の実施形態について説明する図である。
【
図21】開閉弁先端形状の課題について説明する図である。
【
図23】ノズル板の傾斜に対する追従性を評価する手段について説明する図である。
【
図25】第6の実施形態を模式的に示した図である。
【
図26】多孔質樹脂の製造方法について説明する図である。
【
図27】第7の実施形態(a)液体吐出装置の側面図(b)平面図である。
【
図29】自動車に対する液体吐出装置の配置例を示す説明図である
【
図30】自動車に対する液体吐出装置の他の配置例を示す説明図である
【
図31】(a)球面に画像をプリントした場合(b)球面に四角形をプリントした場合(c)球面に四角形を連続してプリントした場合の説明図である。
【
図32】第9の実施形態である電極製造装置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、発明を実施するための形態を説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0009】
(第1の実施形態)
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッド10の外観説明図である。
図1(a)は、液体吐出ヘッド10の全体斜視図、
図1(b)は、同ヘッドの全体側面図である。本実施形態に係る液体吐出ヘッド10は、液体としてのインクを吐出する。
【0011】
液体吐出ヘッド10は、第1筐体としての第1ハウジング11aと、第2筐体としての第2ハウジング11bとを備える。第2ハウジング11bは、第1ハウジング11aに積層及び接合される。第1ハウジング11aは、金属などの熱伝導性の高い材質から成り、第2ハウジング11bは、第1ハウジング11aと同材質から成る。以下の説明において2つのハウジングを総称する場合は、ハウジング11と記す。
【0012】
また、第1ハウジング11aは、その正面と背面に、加熱手段としてのヒータ12を備える。ヒータ12は温度制御が可能であり、第1ハウジング11aを加熱する。また、第2ハウジング11bは、その上部に電気信号の通信のためのコネクタ13を備える。
【0013】
図2は、本発明の実施形態に係る液体吐出ヘッド10の全体断面図で、
図1(a)のA-A線矢視断面図である。第1ハウジング11aは、吐出口形成部材としてのノズル板15を保持する。ノズル板15は、液体を吐出する、吐出口としてのノズル14を備える。
また、第1ハウジング11aは、液体供給部である流路17を備える。流路17は、供給ポート16側からのインクを、ノズル板15上を経て回収ポート18側へ送る。
【0014】
第2ハウジング11bは、供給ポート16及び回収ポート18を備える。供給ポート16及び回収ポート18は、流路17の一方側及び他方側にそれぞれ接続される。供給ポート16と回収ポート18との間には、複数の液体吐出モジュール30が配置されている。
液体吐出モジュール30は、流路17内のインクをノズル14から吐出する。また、液体吐出モジュール30の上部に規制部材20が設けられる。
【0015】
液体吐出モジュール30は、第1ハウジング11aに設けられたノズル14の数に対応しており、本例では1列に並べた8個のノズル14に対応する8個の液体吐出モジュール30を備える構成が示されている。なお、ノズル14及び液体吐出モジュール30の数及び配列は、上記に限るものではない。例えば、ノズル14及び液体吐出モジュール30の数は、複数ではなく1個であってもよい。また、ノズル14及び液体吐出モジュール30の配列は、1列ではなく、複数列であってもよい。
【0016】
なお、
図2において符号19は、第1ハウジング11aと第2ハウジング11bとの接合部に設けたハウジングシール部材である。本例ではハウジングシール部材としてOリングが用いられており、Oリングは、第1ハウジング11aと第2ハウジング11bとの接合部からのインクの漏れを防いでいる。
【0017】
上記の構成により、供給ポート16は、加圧した状態のインクを外部から取り込み、インクを矢印a1方向へ送り、インクを流路17に供給する。流路17は、供給ポート16からのインクを矢印a2方向へ送る。そして、回収ポート18は、流路17に沿って配置したノズル14から吐出しなかったインクを矢印a3方向へ回収する。
【0018】
液体吐出モジュール30は、開閉弁31と、駆動体としての圧電素子32を備える。開閉弁31は、ノズル14を開閉する。圧電素子32は、開閉弁31を駆動する。また、圧電素子32は、電圧の印加により、
図2の上下方向であるZ方向に伸縮作動する。
【0019】
上記の構成において、圧電素子32が作動して開閉弁31が上方向(+Z方向)へ動かされた場合は、開閉弁31によって閉じていたノズル14が開いた状態になり、ノズル14からインクを吐出することができる。また、圧電素子32が作動して開閉弁31が下方向(-Z方向)へ動かされた場合は、開閉弁31の先端部がノズル14を封止してノズル14が閉じた状態になり、ノズル14からインクが吐出しなくなる。
【0020】
図3は、本発明の実施形態に係る液体吐出モジュール10の加熱手段との位置関係を示す説明図である。第1ハウジング11aは、ヒータ12を備えている。
図3中の破線で示されるように、ヒータ12は、複数のノズル14を横断するようにしてノズル14の近傍に設けられている。
【0021】
次に、液体吐出モジュール30の詳細を
図4に基づいて説明する。
図4(a)は、単一の液体吐出ヘッド10である液体吐出モジュール30の断面図、
図4(b)は、
図4(a)の要部拡大図である。開閉弁31の軸部外周には、高圧インクの漏出防止用にOリング34が上下二段で装着されている。
【0022】
液体吐出モジュール30は、前述の開閉弁31及び圧電素子32と、固定部材33と、保持体35と、プラグ36などを主に備える。
【0023】
保持体35は、その内部に駆動体収容部35aを有し、駆動体収容部35aに圧電素子32を収容して保持する。保持体35は、圧電素子32の長手方向に弾性伸縮可能な金属で構成されている。弾性伸縮可能な金属として、例えばSUS304又はSUS316Lなどのステンレス鋼を使用可能である。保持体35は、長手方向に延びた細長部材が圧電素子32の周囲に複数本配置(例えば90°間隔で4本配置)された枠体であり、圧電素子32は、保持体35を構成する細長部材の相互間を通して保持体35の内側に挿入される。
【0024】
圧電素子32の長手方向は、
図4(a)に示される両矢印方向Aであり、この長手方向Aは、開閉弁31、液体吐出モジュール30及び第2ハウジング11bの長手方向でもある。また、長手方向Aは、開閉弁31の移動方向でもある。
【0025】
保持体35のノズル14側の先端部に開閉弁31が連結されている。また、保持体35のノズル14側に蛇腹部35bが形成されている。蛇腹部35bは、圧電素子32が伸縮作動する際に、保持体35の先端側を圧電素子32と同じように長手方向に伸縮作動させるためのものである。
【0026】
また、保持体35のノズル14側と反対側である基端側に固定部材33が連結されている。別の言い方をすると、固定部材33は、第2ハウジング11bの上端部に収容されている。
【0027】
固定部材33は、径方向に延在する貫通ネジ穴33aを有する。貫通ネジ穴33aに第2ハウジング11b外から位置決めネジ60がねじ込まれている。
【0028】
位置決めネジ60は、第2ハウジング11bの上端部に形成された長手方向(A方向)に長軸を持つ長穴11b1に挿通されている。このため、位置決めネジ60は、第2ハウジング11bの長手方向(A方向)に所定長さ移動可能である。位置決めネジ60は、固定部材33を長手方向(A方向)に位置決めした状態にして締め付けられる。
【0029】
図4(a)に示されるように、第2ハウジング11bの上端開口部には、雌ネジ穴11b2が形成されている。この雌ネジ穴11b2に、
図2の規制部材20に当接するプラグ36が螺合されている。プラグ36は、位置決めネジ60によって長手方向(A方向)に位置決めされた固定部材33の上端部に当接して、固定部材33を最終的に位置固定する。
【0030】
また、第2ハウジング11bの下端部には、圧縮バネ37が配設されている。この圧縮バネ37で、圧電素子32及び圧電素子32を保持した保持体35などが上方に付勢されている。
【0031】
図4(b)に示されるように、開閉弁31は、芯材310と、シール部材40と、を有する。芯材310は、ステンレスなどの金属材料により形成される。シール部材40は、ノズル14側へ突出している。このため、圧電素子32が作動することにより開閉弁31が
図4(a)における下方向へ動かされると、開閉弁31(芯材310)の先端部に設けられるシール部材40がノズル板15に当接し押し当てられ、シール部材40によってノズル14が封止(閉鎖)される。反対に、開閉弁31が上方向へ動かされると、シール部材40がノズル板15から離間してノズル14が開放される。このように、開閉弁31が、シール部材40(弾性部材)をノズル板15(吐出口形成部材)に押し当てる位置とノズル板15から離間した位置との間で移動することにより、ノズル14(吐出口)が開閉される。
【0032】
図5は、開閉弁31とノズル板15の機能について説明する図である。以下に、本実施形態におけるインク封止原理について説明する。
【0033】
図5(a)に示すように、液体吐出ヘッド内の第1のハウジング(液室)11aはインクで満たされた状態であり、φ100umの穴(ノズル14)の開いたノズル板15、先端にシール部材40がついたステンレス鋼製の芯材310、芯材310を高速で上下運動させるためシール部材40と逆側に取り付けられた圧電素子32で構成されている。ここで、ノズル板15は厚さ0.5mmのステンレス材を用いている。
【0034】
図5(a)ではシール部材40が上昇(+Z方向に移動)し、ノズル14は解放されており、インク50が吐出されている。これに対し、
図5(b)は、封止した状態を示す。芯材310を下降(-Z方向に移動)させ、先端のシール部材40でノズル板15に圧接しノズル14を封止し、インクの吐出を停止させている。圧電素子32により芯材310を高速に上下振動させることで、インク吐出を高速に制御している。この圧接の際にノズル板15やインク内に含まれる粒子等によってシール部材40の摩耗、繰り返し押圧による塑性変形が生じる。特に、ノズル14周辺に接触するシール部材40の劣化が速く、インクの吐出への影響も大きい。
【0035】
次に、開閉弁31位置と吐出流量について説明する。
図6は、開閉弁31の変位量Xの方向52、インクの吐出流量54を模擬的に図示している。
【0036】
図7は、開閉弁31位置と吐出流量の実験結果を示す。
図5(a)および
図5(b)の説明で述べたように、開閉弁31はその後端に配した圧電素子32によって駆動されノズル14の封止および開放を繰り返す。
図7のグラフはこの圧電素子32端面の変位量をXとして、縦軸にはその変位量Xに応じた単位時間当たりの吐出液量をプロットしている。
【0037】
図7に示しているように、吐出状態はその吐出液量の大きさから3つのパターンA~Cに区分できる。区分Aは、ギャップ量(開閉弁端面-ノズル間距離)に応じて緩やかに吐出量が変化する状態。区分Bは、ギャップ量に応じて急峻に吐出量が変化する状態。区分Cは、吐出が止まった状態、すなわち吐出液量がゼロとなる状態である。
【0038】
図8は、この区分A~区分Cの開閉弁31先端とノズル板15とのギャップ量56について説明する図である。
図8は
図5、
図6などと同様に開閉弁31の移動方向をZ方向として図示している。
【0039】
区分A~区分Cの状態に応じて、ギャップ量は以下のように変化することが分かる。区分Aではギャップ量56が十分大きい(
図8(a))。区分Bでは、ギャップが小さい(
図8(b))、または開閉弁31が部分的にノズル板15に接触している(
図8(c))。区分Cでは、開閉弁31先端がノズル14に接触し、先端のシール部材40が圧縮変形している(
図8(d))。
【0040】
この構成において、所望の一定量吐出と安定な封止をすることがヘッドに求められる機能である。しかしながら、先に述べたように従来技術における開閉弁31では摩耗や塑性変形等により開閉弁31端面位置が後退するため区分Aおよび区分Cの状態に切り替わる圧電素子32の変位量が刻々と変化してしまう。ここで変位量Zとギャップ量56は、シール部材40の変形量があるため、永久に同一であるという保証がない。変位量Zは圧電素子32によって制御可能であるが、ギャップ量56はシール部材40の塑性変形などによって制御が困難である。つまり、シール部材40の摩耗や塑性変形により吐出安定性やインク封止性といった機能不全が生じる。
【0041】
図9は、比較例の開閉弁31先端構造について説明する図である。比較例で採用したシール部材40は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのフッ素樹脂又はゴムなどの弾性部材により形成されている。比較例で採用したシール部材40は、弾性体としては最適であるが、非粘着性であり接着剤を用いた接着では固定が不十分である。そのため比較例の開閉弁31構成では、
図9に示すようにステンレス鋼でできた芯材310に嵌合部320を設けている。シール部材40を設置し図の下方向(-Z方向)から押し込むことで嵌合部内に挿入し、開閉弁31先端のシール部材40を固定している。その際、嵌合部320とシール部材40の間には隙間58が生じる可能性がある。
【0042】
芯材310とシール部材40との間に隙間58が生じると、堅牢な固定ができなくなり、シール部材40の位置ずれが生じる。この状態でノズル14への圧接を繰り返すことで、シール部材40が嵌合部320に押し込まれシール部材40の端面位置が+Z方向に後退する。シール部材40の位置ずれにより、吐出量が不安定になり、インク漏れが発生する。そのため、シール部材40を芯材310の先端に密着させ固定する必要がある。
【0043】
図10は、本実施形態の特徴部位であるシール部材40について説明する図である。
図10(a)はシール部材40として多孔質樹脂600を採用したことを図示している。芯材310に接着剤62(接着性樹脂の一例)を介して、シール部材40(多孔質樹脂600)が接着(接合)されている。シール部材40は孔66を多数含む多孔質樹脂600(以下本実施形態のシール部材40は多孔質樹脂600として記す)である。なお、多孔質樹脂600における多孔質樹脂600と接着剤62との界面が多孔質樹脂600の接合面(多孔質樹脂の芯材との接合面)であり、芯材310と接着剤62との界面が芯材310の接合面である。
【0044】
芯材310とシール部材40(多孔質樹脂600)との接着に用いる接着性樹脂62は、芯材310の材質と母体樹脂64の材質,接合方法等から、適切な接着剤を選ぶことができる。接着性樹脂として用いる接着剤としては、反応硬化型接着剤,熱硬化型接着剤などを用いることができる。また、母体樹脂64にフッ素系樹脂等のフッ素を含有する材質を用いる場合、フッ素系樹脂に特化した接着剤を用いることが好ましい。また、多孔質樹脂600と芯材310の接着面(接合面)に、接着性を向上するための公知の表面処理を施しても良い。
【0045】
図10(b)は開閉弁31の-Z方向への押圧時の変形を示している。多孔質樹脂600は、押圧により押圧方向(Z方向)に大きく変形している。
【0046】
本実施形態は、開閉弁31先端のシール部材40が多孔質樹脂600であることが特徴である。この特徴により、先に説明した比較例の非多孔質構造のシール部材40を用いた場合に比べ、多孔質樹脂が有する多孔質構造によりマクロ的に弾性率が低下する。ここでは弾性率は、ヤング率と同じ意味で利用し、加えられた外力によって生成された応力を分子、応力によって引き起こされた歪量を分母とした商である。単位歪量に対する応力の大きさで示す。
【0047】
多孔質樹脂600は、母体樹脂(多孔質樹脂の樹脂部)64と複数の孔66の2種類の領域を備えている。母体樹脂64の材質は、吐出する液体である塗料等に対する耐久性から適切な材質を選択できる。例えば、PTFE,フッ素樹脂,フッ素系エラストマーなどが例示できる。これらの材質は、耐薬品性が高く塗料に対する劣化が少なく好ましい。また、狙いとする機械的特性から、母体樹脂64の材質を選定してもよく、機械的強度を要する用途においてはフッ素樹脂を用いても良く、ノズル14の封止性を重視する用途においてはフッ素系エラストマーを用いても良い。
【0048】
本実施形態において、多孔質樹脂600の孔径や密度は、弾性率や後述する圧縮変形歪等の機械的性質から適切な犯意を設定する。孔径は5~100μmの範囲のものを用いることができ、多孔質樹脂の密度は母体樹脂の20~70%の範囲のものが用いることができる。なお、多孔質樹脂600の密度は多孔質樹脂600を切断し断面を顕微鏡等で観察し、一定面積での孔の占有面積から算出することができる。
【0049】
前述の通り、多孔質樹脂600は、その母体樹脂(多孔質樹脂の樹脂部)64と複数の孔66の2種類の領域を備えている。外圧に対する変形量は、母体樹脂64領域と孔66領域とを比較すると、孔66領域の方が大きい。
図10(b)に示す圧縮変形している状態を示す。孔66の領域が大きく変形している様子を示している。
【0050】
弾性率が低下することでノズル封止の際のシール部材40である多孔質樹脂600の変形量が大きくなり、衝撃力が低減する作用が働く。その結果、摩耗量が小さくなる効果が得られる。本実施形態における、多孔質樹脂600の弾性率は、20MPa~1000MPaの範囲とすることが好ましい。弾性率が低すぎる場合は、多孔質樹脂600をノズル板15に当接し押圧しノズル14を封止するために必要な圧力を得るために、開閉弁31の移動するストロークを大きく取る必要があり装置が大型化する。弾性率が高すぎる場合は、多孔質樹脂600の変形量が不足するため、ノズル14の開閉による多孔質樹脂600の摩耗が大きくなる。
【0051】
また、多孔質構造により先に述べた芯材310への固定に関しても効果がある。比較例のシール部材40であるフッ素樹脂などは、ポアソン比が大きく、封止する際、垂直方向(
図10のZ方向)の変形量が、大きなポアソン比によって、水平方向(
図10のX方向もしくはY方向)の大きな歪量の変形が起きる。芯材310は金属製であり変形が著しく小さく、変形量の差が大きく出る接着剤62界面での剥離を誘発する。
【0052】
本実施形態では、シール部材40として、多孔質構造を有する多孔質樹脂600を採用することでポアソン比を大幅に低減できる。つまり横方向(
図10のX方向もしくはY方向)の歪量を低減できる。そのため接着剤62(接着性樹脂の一例)と多孔質樹脂600との剥がれを抑制できるので、接着剤62で多孔質樹脂600の安定した固定が可能となる。これにより比較例のような嵌合による固定で、シール部材40が押し込まれ変位量Zとギャップ量56とに制御できない誤差が生じることがない。これにより、本実施形態のシール部材40としての多孔質樹脂600は、インクの吐出量を高い精度で安定させることができる。なお、本実施形態の多孔質樹脂600のポアソン比は、0~0.25の範囲とすることができる。
【0053】
多孔質樹脂600を採用することで、芯材310への固着力が増す効果が得られる。これにより従来の嵌合構造によるシール部材40の位置ずれ、それによるインク漏れ、封止不良という不具合が解消される。
【0054】
図11は、開閉弁31の弾性率を評価する手段について説明する図である。芯材310に多孔質樹脂600が固定されている。圧電型の位置制御装置によって開閉弁31をZ方向の任意の変位量に移動できる装置である。水晶圧電型動力計72に対して開閉弁31を押し付ける。その際の圧力を計測する。開閉弁31を押し付ける方向(Z方向)に変位を与え、増圧する方向(-Z方向)の変位70とする。それに対し、減圧する方向(+Z方向)の変位68とする。開閉弁31の変位と計測した圧力をグラフ化して評価する。
【0055】
図12に本実施形態である多孔質樹脂600と比較例で採用したフッ素樹脂との弾性率について比較を示す。本実施形態の多孔質樹脂600の場合、比較例と比較して変位に対して、圧力が小さいことが分かる。弾性率は、加えられた外力による応力を分子、ひずみ量を分母とした商であるので、上記の結果は、開閉弁31の弾性率が低減できていることが分かる。
【0056】
また、
図12では、増圧方向70と減圧方向68とを区別して記している。第1の実施形態および比較例の双方において、変位に対する圧力の関係を示す曲線は、増圧方向70と減圧方向68とで異なる曲線となる。より具体的には、同じ加重において、減圧方向68の変位は増圧方向70の変位よりも大きい。従って、同じ加重において、減圧方向68の変形量(変位に対応)は増圧方向70の変形量(変位に対応)より大きくなる。従って、同じ加重における増圧方向70の変形量と減圧方向の変形量との差分だけ塑性変形していることになる。
図12の例では、第1の実施例の多孔質樹脂600の塑性変形量に対して、比較例のシール部材40の塑性変形量が大きいことが見て取れる。
【0057】
図12に示す測定結果から、第1の実施形態の多孔質樹脂600の弾性率および塑性変形量が、比較例のシール部材40に対して低減されていることが確認できる。
【0058】
図12に示す通り、本実施形態の多孔性樹脂600の弾性率は、増圧方向70と減圧方向68とで異なるが、本実施形態および以降に記載する実施形態における多孔性樹脂600の弾性率は、増圧方向70での弾性率として記載する。シール部材40の摩耗は、開閉弁31がノズル板15に押圧する際すなわち増圧方向70で生じるためである。なお、弾性率の計測は、増圧方向70と減圧方向68とで複数回おこない、それぞれの測定値が安定した後に計測することが好ましい。例えば、増圧と減圧をそれぞれ4回以上繰り返した後に、増圧方向70で弾性率を計測する。
【0059】
(第2の実施形態)
図13は第2の実施形態の模式図を示す。本実施形態の開閉弁31において、シール部材40としての多孔質樹脂610が芯材310のノズル14側の端部(芯材310の接合面)に接着剤62(接着性樹脂の一例)を介して固定(接合)される。ここで、多孔質樹脂610の接着剤62との界面は、多孔質樹脂610の接合面(芯材との接合面)である。本実施形態は、多孔質樹脂610が母体樹脂76内に気体を充填した独立孔が含まれていることを特徴としている。これにより、シール部材40の塑性変形や、シール部材40の芯材310への不十分な固定を解決することができる。ここでは、多孔質樹脂610において孔74と孔74の間に母体樹脂76による隔壁が存在するものを独立孔74と定義している。これにより独立孔74に気密保持された気体は、一定の外部圧力下においても、常に気密が保持される。気密された独立孔74は外圧に対して抗力を有し、母体樹脂76によって気密が保たれていれば、独立孔74の形状は塑性変形しづらい。この気密保持された独立孔74の集合体として多孔質樹脂610は耐塑性変形性を有する。比較例の非多孔質構造であるフッ素樹脂などの、圧縮されると不可逆的な塑性変形を生じてしまうのものとは異なる。
【0060】
開閉弁31先端のシール部材40が非多孔質構造である場合、シール部材40はノズル14を有するノズル板15に対して繰り返し押圧されることで塑性変形を起こし、圧縮永久歪が生じる。圧縮永久歪によって開閉弁31のノズル板15側の端面位置が後退するため、初期状態よりも開放時の開閉弁31の端面とノズル板15との間の距離が大きくなり流量が不安定になることや、封止の際にノズル板15に開閉弁31の端面が十分に押圧されずインク漏れが発生する恐れがある。本実施形態のように、シール部材40を、気体を充填した独立孔を含む多孔質樹脂610にすることで、ノズル板15に繰り返して押圧された場合であっても、気体の圧縮回復にて多孔質材料610が元の形状に修復する作用が働き、塑性変形が低減され、インクの吐出流量不安定化やインク漏れが抑制できる。
【0061】
また、通常の金属と比較してゴムやプラスチックは力を掛けた時点から時間をかけて変形する。同様に力を解除した後も時間をかけて回復する。このような材料をシール部材40に使用した場合、ノズル14を開放している間の時間経過とともに開閉弁端面とノズル板15との距離が変化してしまうことがある。その結果、吐出流量が不安定になる。この点においても気体を充填した独立孔では気体の反発力によって材料変形の回復する速度が向上することで、ノズル14を開放している間の時間経過とともに吐出流量が変化することを抑えることが出来る。
【0062】
図14は、本実施形態の圧縮永久歪の評価について示した図である。開閉弁31(芯材310およびシール部材40)を一定荷重で7日間圧縮し、圧縮解放後のシール部材40(もしくは多孔質樹脂610)の厚さを測定した。圧縮解放後の経過時間と初期厚さからの変化量との関係をグラフ化し比較した。比較例は、フッ素樹脂(非多孔質樹脂)をシール部材40とした孔の存在しない材料である。
【0063】
図15は圧縮永久歪を評価した結果である。圧縮変形後の回復量が読み取れる。明らかに、本実施形態の方が、比較例に比べ、変形量が少ない。つまりは、比較例に比べ、塑性変形を抑制できていることが分かる。比較例は、7日間にかけた一定の圧力によって、塑性変形してしまっていることが見て取れる。
【0064】
図16は、本実施形態と比較例との短時間の材料変形の応答速度を比較した図である。縦軸は、開閉弁端部の変位量であり、横軸は経過時間である。開閉弁31を一定荷重で10秒押圧し、その後、押圧を解放した。その時の開閉弁31変位量の時間変化をグラフ化している。
【0065】
押圧の初期段階で、開閉弁31は瞬時に圧縮され、開閉弁端部の変位量が一気に大きくなる。その後、押圧量が一定の間は、徐々に圧縮が進む様子が見て取れる。この時、比較例に比べ、本実施形態は、最初に一気に変位した後、その後の変位が小さいことが分かる。
【0066】
次に、押圧力を解放する。この時も同様に、解放後、一気に開閉弁端部の変位量が変化する。しかし、押圧力が0となっても、開閉弁端部の変位量は0とならず、若干の変位が残る。その後、徐々に変位量が小さくなっていく。この際に、比較例に比べ、本実施形態は、開閉弁31の変位量が小さい。つまりは、本実施形態は、変位量が少なく、比較例に比べ塑性変形を抑制できていることが分かる。
【0067】
これらの実験結果から、本実施形態では、独立孔74を有することで塑性変形を抑制でき、開閉弁端面とノズル間距離が変化することを抑制することができることが分かった。これにより、インクの吐出量が継続的に安定する。
【0068】
図17は、本実施形態に用いる独立孔の多孔質樹脂を観察した顕微鏡写真である。1~10ミクロンメートル程の微細な独立孔が多数存在することが分かる。このような多孔質構造により前述した効果が得られると考えられる。
【0069】
(第3の実施形態)
図18は、芯材310に多孔質樹脂620を固定した第3の実施形態を模式的に示した図である。芯材310に対し、多孔質樹脂610が高い接着力を有して接合している。芯材310に対し、接着剤62(接着性樹脂の一例)が多孔質樹脂620の表面で、孔(開口孔と呼ぶ)78に浸み込んでいることを図示している。ここで、多孔質樹脂620における接着剤62との界面は、多孔質樹脂620の接合面である。この本実施形態では、多孔質樹脂620の表面(接合面)に、開口孔78が露出し微小な凹部が存在していることが特徴である。
【0070】
前述したように比較例などのシール部材40はフッ素樹脂などが利用され非粘着性である。本実施形態では、この微小凹部(開口孔78)に接着剤が入り込み硬化することで接着力が高まるアンカー効果が働くことが示されている。すなわち、開口孔78の少なくとも一部が接着剤62(接着性樹脂の一例)で充填されることで、樹脂材料620と芯材310との接合強度が高まることになる。平坦な表面に比べ、凹部が存在することで表面積が拡大し、接着力が増している。この作用により長期的に利用した際の装置の寿命に関わる接着剤の固定が長期間継続的に維持される。これにより、開閉弁31とノズル14の距離が変動することが抑制でき、安定したインク吐出が長期間継続される。
【0071】
図19は、多孔質樹脂620と芯材310との接着力を測定する方法を説明する図である。バルブジェットヘッドにおける開閉弁31先端のシール部材40と芯材310との接着剥がれは、開閉弁31押圧によるシール部材40のポアソン比による接着面(接合面)に平行な方向の変形によって生じる。そこで、圧電素子32を方向80に示す開閉弁31の移動する方向で連続駆動させ開閉弁31をステージ81に対し押圧することで、シール部材40の変形を何度も繰り返す。一定回数の押圧をした後、接着剤62を観察し接着剥がれ発生箇所の剥がれ量(幅や長さ)を測定することで、本実施形態と比較例と比較して接着力が向上しているかを評価した。この結果、比較例に比べ、接着剤62の剥がれが抑制できることを確認した。この連続試験を長期間継続することで、長期間の安定性を計測できる。
【0072】
(第4の実施形態)
図20は、表面に開口を有する縦長形状の開口孔88を備える第4の実施形態について説明する図である。本実施形態の開閉弁31は、芯材310のノズル側の端面(接合面)に、シール部材40としての多孔質樹脂650が接着剤62(接着性樹脂の一例)を介して接着(接合)される構成である。ここで、多孔質樹脂650の接着剤62との界面が、多孔質樹脂650の接合面(芯材310との接合面)である。多孔質樹脂650は、芯材310との接合面に複数の開口孔88を有する。本実施形態は、開口孔88が高アスペクト比の柱状であることを特徴としている。本実施形態にかかる開口孔88の深さ89は、前記開口孔88の開口直径87よりも大きいことを特徴とする。ここで、開口直径87は、芯材310との接合面における開口孔88の直径である。これによりさらなるアンカー効果向上できる。また、開口孔88の深さを適切に設計することで、弾性率制御も可能となり、さらなる吐出量の安定性を維持できる。第3の実施形態の球状の開口孔78と比較し凹部がより深くなるため、得られるアンカー効果も大きくなる。
【0073】
深さ方向に構造をもつ本実施形態の開口孔88は、果たす機能によって深さ方向に3つの領域に分けられる。芯材310との接着面(接合面)側、開口側で凹部が露出した面側である領域1(82)はアンカー効果、中間の領域2(84)は開口孔が存在し開閉弁31弾性率の低減に効果を奏し、ノズル接触面側の領域3(86)はノズル14の封止として機能する。柱状の開口孔の長さを制御することで領域2(84)と領域3(86)の厚さを制御できる。ノズル14に対して同等の押込み量で押圧した場合、領域3(86)が厚いほど圧力は高くなる。つまり、開閉弁31の弾性率が大きくなる。
【0074】
以上より、本実施形態の柱状の開口孔88の場合は柱の長さを制御することで弾性率制御が可能となる。開閉弁31の押圧力の大きさや、インクの粘性などに合わせて、適切に開閉弁31の弾性率を調整することが可能となる。適切な弾性率の開閉弁31を実現することにより、安定して開閉弁端部とノズル間の距離の維持できる。安定した開閉弁端部とノズル間の距離を実現することで、安定したインク吐出を実現できる。
【0075】
(第5の実施形態)
図21は、ノズル板15に対して十分な平行度が得られなかった開閉弁31における従来の開閉弁31先端形状の課題について説明する図である。組立の際にノズル板15に対して、開閉弁31が十分な平行度を得られないことがある。これはノズル板15の組付け誤差などによるもので、その傾斜角度は±0.1度近くなり、不具合を発生する。平行にならずに傾斜を有した開閉弁31においては、
図21(a)のように開閉弁31端面の接触範囲に偏りが生じる。
【0076】
そのため開閉弁31をノズル板15に強く押圧させるような位置調整を行い、封止時(閉鎖時)のインク漏れを回避してきた。しかしながらこのような調整を行った開閉弁31においては、
図21(b)に示すようにノズル板15およびノズル14が変形しインクの飛翔方向に曲がりの発生や、開放時に十分な開放ギャップが得られず流量が安定しないといった問題が発生していた。そのため、このようなノズル板15の傾斜に対応する必要がある。
【0077】
図22は第5の実施形態を模式的に示す図である。
図22(a)の開閉弁31は、芯材310のノズル板15側の端面に、シール部材40としての多孔質樹脂630を接着剤62(接着性樹脂の一例)により接着(接合)したものである。ここで、多孔質樹脂630と接着剤62との界面が、多孔質樹脂630の芯材310との接合面である。多孔質樹脂630は、母材樹脂76の内部に独立孔74を含む。本実施形態は、先に述べた傾斜を有したノズル板15の課題を解決することができる。
【0078】
本実施形態では、多孔質樹脂630は、多孔質樹脂630の母体樹脂76に対する独立孔74の体積占有率が、開閉弁31の移動する方向(Z方向)に垂直な方向(X方向もしくはY方向)において、前記吐出口の中心に対応する中心部付近73から弾性部材(多孔質樹脂630)の外周方向(外周部75)に向かって上昇する分布を有する。中心部(中心部付近73)の独立孔74の径は、開閉弁31の移動する方向(Z方向)に垂直な方向(X方向もしくはY方向)において、弾性部材(多孔質樹脂630)の外周側(外周部75)の独立孔74の径よりも小さいことを特徴とする。
【0079】
独立孔74の体積占有率は、多孔質樹脂630の単位体積当たりに含まれる独立孔74の体積である。体積占有率は、
図17に示すように多孔質樹脂630の断面を顕微鏡等で観察することで計測できる。または、多孔質樹脂630の密度と、母材樹脂76の密度とを計測することで求めることもできる。
【0080】
本実施形の多孔質樹脂630は、気体が充填された独立孔74の径がノズル位置を中心とした中心部73から外周部75に向かって大きくなることを特徴として有する。
【0081】
シール部材40としての多孔質樹脂630全体で均等に独立孔74の体積占有率を高くするのではなく、ノズル板15の傾斜に沿うために、より大きな変形量が必要となる外周部75での孔径を大きくする構造となっている。単位体積当たりの独立孔74の数は一定としているため、孔径が大きくなると一定体積当たりの独立孔の占有率が向上する。
【0082】
本実施形態にかかる液体吐出ヘッド30の多孔質樹脂630は、多孔質樹脂の母体樹脂76に対する独立孔74の体積占有率が、ノズル14の中心から外周方向に向かって上昇する分布を有することを特徴とする。この構造により、封止時の変形量を抑え、かつ傾斜したノズル14への追従性を高めることができ、過剰な押圧力を要さずに封止が可能となる。
【0083】
図23は、ノズル板15傾斜に対する追従性の評価方法について説明する図である。傾斜への追従性の評価方法として、リーク流量測定装置を用いた。リーク流量測定装置は、傾斜角93を0.01°単位で制御可能なステージ91上に質量72、エア流量97を出力するリークテスタ95の順に積み上げ、リークテスタのエア流出孔であるノズルを開閉弁31で押圧し封止する。開閉弁31は押圧力制御可能であり、押圧時のエア流量とそこで発生する押圧力を同期して取得しグラフ化する。開閉弁31に対してステージを傾斜させた場合のエア流量と荷重量のプロット曲線を取得し、より少ない荷重でエア流量が0となる、もしくは一定荷重にてより少ないエア流量に抑えることができた場合、傾斜への追従性が向上したと判断できる。
【0084】
図24にリークテストの結果の一例を記す。グラフに示すのは、傾斜角を0.2度に傾けた場合の結果である。縦軸にエア流量、横軸に荷重を記している。非多孔質であるフッ素樹脂をシール部材40とした比較例に比べ、第5の実施形態の方が、エア流量が少ないことが分かる。傾斜角度はいくつかのパターンで計測でき、実際の製造公差を考慮して、いくつかのパターンを計測し、追従性として総合判断した。
【0085】
多孔質樹脂の母体樹脂76に対する独立孔74の体積占有率が、ノズル14の中心から外周方向に向かって上昇する分布を有することで、傾斜したノズル板15への追従性を高めることができ、過剰な押圧力を要さずに封止が可能となり、インクの吐出が安定する。
【0086】
(第6の実施形態)
図25は、第6の実施形態の模式図である。
図25の開閉弁31は、芯材310のノズル板15側(-Z方向側)の端面に、シール部材40としての多孔質樹脂640を接着剤62(接着性樹脂の一例)により接着(接合)したものである。ここで、多孔質樹脂640と接着剤62との界面が、多孔質樹脂640の芯材310との接合面である。多孔質樹脂640は、母材樹脂76の内部に独立孔74を含む。本実施形態の多孔質樹脂640は、独立孔74の径を略一定として、その占有率を単位体積当たりの独立孔74の数としてその分布を持たせている。ノズル14を中心とした中心部73から外周部75に向かい孔占有率が高くなる構造である。占有率は、単位体積当たりの独立孔74の数で定量化することができる。
【0087】
第5の実施形態の多孔質樹脂630のように独立孔74の直径を位置に応じて変化させた場合、中心部73から外周部75に向かっての独立孔74の体積占有率の上昇が連続的ではない。第5の実施形態の多孔質樹脂630は、独立孔74の大きさを中心部73から外周部75に向かって段階的に大きくすることで、段階的に独立孔74の体積占有率を大きくしていく。また、独立孔の大きさが大きい外周部では、独立孔がある位置、独立孔が無い位置が存在してしまう。この局所的な独立孔の無い位置では、独立孔の占有率が高い外周部とはいえ局所的な低孔占有率領域が発生してしまう。局所的にも低孔占有率領域ではノズル板15への追従性や材料変形の応答性が低下する。孔占有率は中心部から外周部に向かって連続的に増加することが望ましい。
【0088】
本実施形態にかかる液体吐出ヘッド30の多孔質樹脂640は、多孔質樹脂の母体樹脂76に対する独立孔74の体積占有率が、ノズル14の中心から外周方向に向かって上昇する分布を有することを特徴とする。さらに、独立孔74を略一定の大きさとし、その単位体積あたりの数を中心部73から外周部75に向かって増加させることで、前述の体積占有率を形成することができる。換言すると、中心部73における独立孔74の単位体積あたりの数が、外周部75における独立孔74の数よりも少なくすることで、前述の体積占有率の分布を形成することができる。また、独立孔74の大きさを十分に小さくすることで、中心部73から外周部75に向けての体積占有率の分布は連続的に変化する。
【0089】
本実施形態では、独立孔の径が略一定であり、独立孔の占有率が外周部に向かって連続的に増加する構造とした。この構造により外周部に向かって追従能力が連続的に増加し、ノズル板15の傾斜に対する追従性も高まる。
【0090】
表1は、比較例と第1~6の実施形態の各課題への効果について説明する表である。
【0091】
【0092】
有効性が低い方から×、○、◎の順で示している。
【0093】
表1に記載する効果の検証方法について、以下に詳述する。
【0094】
<摩耗評価>
第1~第6の実施形態,比較例の開閉弁を用いて、摩耗試験を実施した。各実施形態および比較例の開閉弁を用いて
図4に示す液体吐出モジュール30を作成し、開閉弁の開閉動作を200万回繰り返す耐久試験を行った。耐久試験後に開閉弁を閉鎖した液体吐出モジュールに塗料を注入・圧力を印可し、ノズルから塗料が漏れるかを目視判断した。塗料の漏れが確認できた場合を×とし、塗料の漏れが確認できない場合を〇とした。表1に示す通り、いずれの実施形態(第1~第6実施形態)においても摩耗評価の結果は良好(○)であり、比較例に対して耐摩耗性が向上していることが分かる。
【0095】
<塑性変形評価>
第1~第6の実施形態,比較例の開閉弁を用いて、第2の実施形態で説明した圧縮永久歪を評価する方法を用いて、塑性変形評価を行った。圧縮永久歪量が初期厚さの3%以下の結果を〇とし、3%より大きい結果を×とした。塑性変形評価が〇である第2~第6の実施例は、液体吐出モジュールとして吐出流量の経時変化が低減されていることが確認できた。
【0096】
<固定評価>
第1~第6の実施形態,比較例の開閉弁を用いて、第3の実施形態で説明したシール部材と芯材との接着力を測定する方法を用いて、固定評価を行った。200万回の繰り返し押圧までの間に、接着剤が完全にはがれた場合に×を、200万回押圧後に接着剤のはがれた幅が接着幅に対し0.5%以下の場合を〇、剥がれの発生箇所が確認されない場合を◎とした。
【0097】
いずれの実施形態(第1~第6)においても、固定評価は良好な結果であり、液体吐出モジュールの耐久性が向上することが分かった。さらに第3~第6実施形態においては、さらに耐久性が向上していることがわかった。
【0098】
<傾斜対応評価>
第1~第6の実施形態,比較例の開閉弁を用いて、第5の実施形態で説明したノズル板傾斜に対する追従性の評価方法を用いて、傾斜対応を評価した。
傾斜角0.5度,加重1.5Nの条件でエア流量がゼロの場合を○、ゼロを超える場合を×とした。第5および第6の実施形態は、ノズルの傾斜に対して高い追従性を有し、ノズルの傾斜に対応することができる開閉弁であることが分かった。
【0099】
<多孔質樹脂の製造方法>
次に、多孔質樹脂の製造例について説明する。多孔質材の製造方法として、発泡ローラで採用されている製造方法を応用した。未加硫未発泡原材料組成物と未反応物質を混合、混練し成形した後、加熱処理をすることで発泡加硫させ発泡体を作製する。その後、発泡体を水中に浸漬し未反応物質が溶解し除去される。未反応物質が除去されることで、未反応物質が存在した箇所が孔となり発泡体が製造される。発泡ローラの場合、平均セル径は100um、平均セル数は50個/mm^2である。この製造方法では未反応物質の外径・含有量を調整することで孔分布の制御が可能であるため、本発明での提案する構造が実現可能となる。詳細は、特許文献2(特開2007-170579)に記載があるのでここでは割愛する。
【0100】
図26は、多孔質樹脂の製造方法の第2の例について説明する図である。多孔質材の製造方法として、中空構造体の製造方法を応用した。この方法は、
図26(a)
図26(b)に示すような凹部520を持つ基板500上に可塑性材料530を塗布(
図26(c))、減圧し凹部気体570が膨張することで中空構造体560を形成(
図26(d))する。基板の凹部寸法や配置により、孔を高さh5~750um、ピッチw5~150um、隔壁厚さtを0.1~3umと制御することが可能である。この方法を応用し孔サイズや配置を制御することで、第3の変形例のような材料内で外周部に向かって孔径が増加する構造を製造することが出来る。詳細は、特許文献3(特許第5407458号)に記載があるのでここでは割愛する。
【0101】
次に、以上で説明した液体吐出ヘッド30を備えた液体吐出装置について説明する。
【0102】
(第7の実施形態)
<液体吐出装置>
図27は、第7の実施形態である液体吐出装置110の全体概略構成図である。
図27(a)は液体吐出装置の側面図、
図27(b)は同装置の平面図である。液体吐出装置110は、対象物の一例である液体付与対象510に対向して設置されている。液体吐出装置110は、X軸レール101と、このX軸レール101と交差するY軸レール102と、X軸レール101及びY軸レール102と交差するZ軸レール103を備える。特に、本実施形態においては、各レール101,102,103は互いに直交する方向に延在する。
【0103】
Y軸レール102は、X軸レール101がY軸方向に移動可能なようにX軸レール101を保持する。また、X軸レール101は、Z軸レール103がX軸方向に移動可能なようにZ軸レール103を保持する。そして、Z軸レール103は、キャリッジ1がZ軸方向に移動可能なようにキャリッジ1を保持する。
【0104】
液体吐出装置110は、キャリッジ1をZ軸レール103に沿ってZ軸方向に動かす第1のZ方向駆動部92と、Z軸レール103をX軸レール101に沿ってX軸方向に動かすX方向駆動部172を備える。また、液体吐出装置110は、X軸レール101をY軸レール102に沿ってY軸方向に動かすY方向駆動部82を備える。さらに、液体吐出装置110は、キャリッジ1に対してヘッド保持体170(ヘッドを保持する手段の一例)をZ軸方向に動かす第2のZ方向駆動部93を備える。
【0105】
前述した液体吐出ヘッド10は、液体吐出ヘッド10のノズル14が液体付与対象510に対向するようにヘッド保持体170に取り付けられる。このように構成された液体吐出装置110は、キャリッジ1をX軸、Y軸及びZ軸の方向に動かしながら、ヘッド保持体170に取り付けられた液体吐出ヘッド10から液体付与対象510に向けて液体の一例であるインクを吐出し、液体付与対象510に描画を行う。
【0106】
(第8の実施形態)
<車両塗装装置>
次に、第8の実施形態として、液体吐出装置の別の実施例である車両塗装装置のインクジェットプリンタ201の構成について、
図28~
図31を参照して説明する。
図28は、第8の実施形態に係る液体吐出装置の一例としてのインクジェットプリンタ201の構成を示す構成図である。
図29は、液体付与対象である自動車Mに対する
図28に示すインクジェットプリンタ201の配置例を示す説明図である。
図30は、液体付与対象である自動車Mに対する
図28に示すインクジェットプリンタ201の他の配置例を示す説明図である。
図31は、インクジェットプリンタで球面に画像をプリントした場合の説明図である。
図31(a)は、インクジェットプリンタ201で球面に画像をプリントした場合の説明図、
図31(b)は、球面に四角形をプリントした場合の結果を示す説明図、
図31(c)は、球面にインクジェットプリンタ201で四角形を連続してプリントした場合の説明図である。
【0107】
図28に示されるように、本実施形態に係るインクジェットプリンタ201は、プリントヘッド202と、X-Yテーブル203と、カメラ204と、制御部209と、駆動部211などを備えている。
【0108】
プリントヘッド202は、被塗装物(液体付与対象)Mの被塗装面に向けてインク(液体)を吐出するインクジェット方式の液体吐出ヘッドである。なお、ここでいう「インク」には「塗料」も含まれるものとする。プリントヘッド202は、複数の弁型ノズルを備え、インクは各弁型ノズルからプリントヘッド202の吐出面とは垂直な方向に吐出される。すなわち、プリントヘッド202のインクの吐出面は、X-Yテーブル203の移動によって形成されるXY平面と平行であり、各弁型ノズルから吐出されるインクドットはX-Y平面に対して垂直な方向に吐出される。また、各弁型ノズルから吐出されるインクの吐出方向はそれぞれ平行に吐出される。各弁型ノズルは、それぞれ所定の色のインクタンクと連結されている。また、インクタンクが加圧装置によって加圧されていることにより、各弁型ノズルと被塗装物Mのプリント対象面との距離が20cm程度であれば、問題なく各弁型ノズルからインクドットをプリント対象面に吐出することができる。
【0109】
X-Yテーブル203(ヘッドを保持する手段の一例)は、プリントヘッド202及びカメラ204を保持し互いに直交するX方向及びY方向に移動させる機構を備えている。具体的に、X-Yテーブル203は、プリントヘッド202及び後述のカメラ204を保持するスライダをX方向に移動させるX軸移動機構205と、X軸移動機構205を2つのアームで保持しつつY方向に移動させるY軸移動機構206とを備えている。また、Y軸移動機構206にはシャフト207が設けられており、このシャフト207をロボットアーム208が保持して駆動することにより、プリントヘッド202を被塗装物Mに対してプリントを行うべき所定位置に自由に配置できる。例えば、被塗装物Mが自動車である場合、ロボットアーム208は、プリントヘッド202を
図29に示されるような自動車の上部あるいは
図30に示されるような自動車の横位置などに配置できる。なお、ロボットアーム208の動作は、予め制御部209に格納されたプログラムに基づいて制御される。
【0110】
カメラ204は、被塗装物Mのプリント対象面を撮影するデジタルカメラなどの撮像手段である。カメラ204は、X軸移動機構205及びY軸移動機構206によってX方向及びY方向に移動しながら被塗装物Mのプリント対象面の所定の範囲を一定の微小な間隔で撮影する。カメラ204のレンズ及び解像度などの仕様は、プリント対象面の所定の範囲について複数の細分割画像の撮影が可能なように適宜選択される。カメラ204によるプリント対象面の複数の細分割画像の撮影は、後述の制御部209によって連続的、かつ、自動的に行われる。
【0111】
制御部209は、カメラ204によって撮影された画像を編集する画像編集ソフトウエアSと予め設定された制御プログラムに基づいてX-Yテーブル203を動作させてプリントヘッド202のプリント動作(インク吐出動作)を制御する。制御部209は、いわゆるマイクロコンピュータによって構成され、各種のプログラム及び撮影済みの画像のデータのほかプリントすべき画像のデータなどを記録保存する記憶装置、プログラムに従って各種の処理を実行する中央処理装置、キーボードやマウスなどの入力装置、必要に応じてDVDプレイヤーなどを備えている。さらに、制御部209は、モニタ210を備えている。モニタ210は、制御部209への入力情報や制御部209による処理結果などを表示する。
【0112】
制御部209は、カメラ204によって撮影された複数の細分割画像データを、画像処理ソフトを用いて画像処理を行い、被塗装物Mの平面でないプリント対象面を平面に投影された合成プリント面として生成する。また、制御部209は、既にプリント対象面にプリントされた画像に対して連続するようにプリントされる描画対象画像を、合成プリント面に重ね、描画対象画像がプリント済み画像の縁端部と連続するように編集を行い、描画対象編集画像を生成する。例えば、
図31(c)に示した描画対象画像であるプリント画像252bについて、隣接するプリント画像252aとの間に非プリント領域253が形成されないようにプリント画像252bを合成プリント面に整合するように編集することにより、描画対象編集画像を生成する。そして、生成された描画対象編集画像に基づいてプリントヘッド202からプリント対象面にインクが吐出されることにより、新しい画像がプリント済みの画像との間に隙間を生じることなくプリントされる。なお、カメラ204による複数の細分割画像の撮影及びプリントヘッド202の各ノズルからのインクの吐出によるプリントの動作は、制御部209によって動作制御された駆動部211によって行われる。
【0113】
図31(a)においては、球状物の液体付与対象251の球面状の表面にインクジェットノズルによって二次元の四角形を形成するような場合に、ノズルヘッド250に搭載された各インクジェットノズルから噴射されるインクの吐出方向が図示されている。
図31(b)においては、ノズルヘッド250に搭載された各インクジェットノズルから噴射されるインクはノズルヘッド250に対して垂直方向に吐出されるので、液体付与対象251の表面にプリントされたプリント画像252aが、周辺が歪んだ形状の四角形となることが図示されている。
【0114】
(第9の実施形態)
<電極製造装置>
次に、塗布装置の別の例として、
図32を用いて電極製造装置への適用例を説明する。
図32は、電極製造装置の一例を示す説明図である。
【0115】
電極製造装置800は、上述のヘッド100を用いて液体組成物を吐出することで電極材料を有する層を有する電極を製造する装置である。
【0116】
ヘッド100からの液体組成物の吐出により、対象物上に液体組成物を付与して、液体組成物層を形成することができる。この場合の対象物としては、電極材料を有する層を形成する対象であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電極基体(集電体)や活物質層、固体電極材料を有する層などが挙げられる。また、対象物への液体組成物の付与は、対象物に対して電極材料を有する層を形成することが可能であれば、直接液体組成物を吐出することで電極材料を有する層を形成する構成であってもよく、間接的に液体組成物を吐出することで電極材料を有する層を形成する構成であってもよい。
【0117】
電極製造装置におけるその他の構成としては、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、加熱手段などが挙げられる。加熱手段は、ヘッド100により吐出された液体組成物を加熱する手段である。加熱により液体組成物層を乾燥させることができる。
【0118】
図32は、電極製造装置の一例として、電極基体(集電体)上に活物質を含む電極合材層を形成する構成を示している。
【0119】
電極製造装置800は、対象物を有する印刷基材W上に、液体組成物を付与して液体組成物層を形成する工程を含む吐出工程部801と、液体組成物層を加熱して電極合材層を得る加熱工程を含む加熱工程部802を備える。
【0120】
電極製造装置800は、印刷基材Wを搬送する搬送部803,804を備え、搬送部803,804は、吐出工程部801、加熱工程部802の順に印刷基材Wをあらかじめ設定された速度で搬送する。活物質層などの対象物を有する印刷基材Wの製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
【0121】
吐出工程部801は、印刷基材W上に液体組成物を付与する付与工程を実現する印刷装置811と、液体組成物を収容する収容容器812と、収容容器812に貯留された液体組成物を印刷装置811に供給する供給チューブ813を備える。印刷装置811は、上述のヘッド100(液体吐出ヘッドに対応)を少なくとも1つ備えている。印刷装置811は、ヘッド100を保持する手段を有する。
【0122】
収容容器812は、液体組成物10Bを収容し、吐出工程部801は、印刷装置811に備えたヘッド100(液体吐出ヘッドに対応)から液体組成物を吐出して、印刷基材W上に液体組成物10Bを付与して液体組成物層を薄膜状に形成する。なお、収容容器812は、電極製造装置800と一体化した構成であってもよいが、電極製造装置800から取り外し可能な構成であってもよい。また、電極製造装置800と一体化した収容容器812や電極製造装置800から取り外し可能な収容容器812に添加するために用いられる容器であってもよい。
【0123】
収容容器812や供給チューブ813は、液体組成物10Bを安定して貯蔵および供給できるものであれば任意に選択可能である。
【0124】
加熱工程部802は、加熱装置821を備え、液体組成物層に残存する溶媒を、加熱装置821により加熱して乾燥させて除去する溶媒除去工程を含む。これにより電極合材層を形成することができる。加熱工程部802は、溶媒除去工程を減圧下で実施してもよい。
【0125】
加熱装置821としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、基板加熱、IRヒータ、温風ヒータなどが挙げられ、これらを組み合わせてもよい。また、加熱温度や時間に関しては、液体組成物10Bに含まれる溶媒の沸点や形成膜厚に応じて適宜選択可能である。
【0126】
上記のようにして形成される電極合材層は、例えば、電気化学素子の構成の一部として、好適に用いることができる。電気化学素子における電極合材層以外の構成としては、特に制限はなく、公知のものを適宜選択することができ、例えば、正極、負極、セパレータなどが挙げられる。
【0127】
なお、実施形態に係るヘッドユニットは、車体塗装システムや電極製造装置に限定されるものではなく、用紙等の記録媒体に画像を形成する画像形成装置等であってもよい。
【0128】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0129】
本発明において、「液体吐出装置」は、液体吐出ヘッドを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出させる装置である。液体吐出装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0130】
また、「液体吐出装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0131】
例えば、「液体吐出装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0132】
また、「液体吐出装置」は、吐出された液体によって文字、図形などの有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターンなどを形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0133】
上記「液体が付着可能なもの」とは、前述した液体付与対象のことであり、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0134】
また、「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0135】
また、「液体吐出装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0136】
また、「液体吐出装置」としては他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液を、ノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
【0137】
以上説明したように、本発明の態様の一例は以下の通りである。
【0138】
<1>
本実施形態にかかる液体吐出ヘッド10は、液体を吐出する吐出口14を有する吐出口形成部材と、前記吐出口形成部材と当接する位置と離間する位置とに移動可能であり、前記吐出口を開閉する開閉弁31と、を備え、前記開閉弁は、前記吐出口形成部材に当接し前記吐出口を閉鎖する弾性部材(シール部材)40を有し、前記弾性部材(シール部材)40は多孔質樹脂600であることを特徴とする。これにより、シール部材40の弾性率が低下し、シール部材40の摩耗が抑制される。また、多孔質樹脂600によりポアソン比が低減され、接合面に水平の方向への形状変形量が低減し、接着剤62による芯材310との固定が可能となる。
【0139】
<2>
本実施形態にかかる液体吐出ヘッド10は、前記多孔質樹脂610に含まれる複数の孔は、独立孔74を含むことを特徴とする<1>に記載の液体吐出ヘッドである。これにより、独立孔74に充填されたガスの復元力により塑性変形の抑制ができる。塑性変形が少ないことで、インク吐出量が継続的に安定する。インク吐出量が安定した液体吐出ヘッドを提供できる。
【0140】
<3>
本実施形態にかかる液体吐出ヘッド10は、前記開閉弁31は、前記多孔質樹脂620と接合され、前記多孔質樹脂620を支持する芯材310を備え、前記複数の孔78は、前記芯材310との接合面に開口する開口孔78を含み、前記開口孔78の少なくとも一部に接着性樹脂62が充填されることを特徴とする<1>~<2>に記載の液体吐出ヘッド。これにより、開口孔78のアンカー効果により芯材310との接着が強硬なものとなり、さらに、吐出量の安定性を維持できる液体吐出ヘッドを提供できる。
【0141】
<4>
本実施形態にかかる液体吐出ヘッド10は、前記開口孔の深さ89は、前記開口孔88の前記接合面における開口直径87よりも大きいことを特徴とする<3>に記載の液体吐出ヘッドである。これによりさらなるアンカー効果向上できる。また、開口孔88の深さを適切に設計することで、弾性率制御も可能となり、さらなる吐出量の安定性を維持できる。
【0142】
<5>
本実施形態にかかる液体吐出ヘッド10の前記多孔質樹脂630は、前記多孔質樹脂の母体樹脂76に対する前記孔74の体積占有率が、前記開閉弁31の移動する方向(Z方向)に垂直な方向(X方向もしくはY方向)において、前記吐出口14の中心に対応する中心部73から前記弾性部材の外周75方向に向かって上昇する分布を有することを特徴とする<1>~<4>に記載の液体吐出ヘッドである。これにより、ノズル板15の製造による平行度ずれが生じた場合においても、インク吐出量の安定性を維持できる。
【0143】
<6>
本実施形態にかかる液体吐出ヘッド10は、前記中心部73の前記孔74の径は、前記開閉弁31の移動する方向(Z方向)に垂直な方向(X方向もしくはY方向)において、前記弾性部材630の外周75側の前記孔74の径よりも小さいことを特徴とする<5>に記載の液体吐出ヘッドである。これにより、孔74の体積占有率の分布を形成でき、追従性を要求される外周部の弾力性を低下させことができる。ノズル板15を変形させることなく安定したインク吐出量を維持できる。
【0144】
<7>
本実施形態にかかる液体吐出ヘッド10は、前記中心部73における前記多孔質樹脂640の単位体積あたりの前記孔74の数は、前記開閉弁31の移動する方向(Z方向)に垂直な方向(X方向もしくはY方向)において、前記弾性部材640の外周75側における前記多孔質樹脂640の単位体積あたりの前記孔74の数より少ないことを特徴とする<5>に記載の液体吐出ヘッドである。これにより、体積占有率の分布が連続的になり、弾性率も連続的に変化する。ノズル板15の非平行性に対する追従性がさらに向上する。インク吐出量の安定性を維持できる。
【0145】
<8>
本実施形態にかかる液体吐出装置は、<1>~<7>に記載の液体吐出ヘッド10と液体吐出ヘッド30を保持する手段を有することを特徴とする。これにより、安定した吐出量を維持できる液体吐出装置を提供できる。
【符号の説明】
【0146】
10 液体吐出ヘッド
14 ノズル(吐出口の一例)
15 ノズル板
30 液体吐出モジュール
31 開閉弁
40 シール部材(弾性部材の一例)
74 独立孔
62 接着性樹脂(接着剤)
76 母体樹脂
73 中心部付近
75 外周部
78 開口孔
87 開口孔の直径
88 縦長の開口孔
89 開口孔の深さ
310 芯材
600 多孔質樹脂
610 独立孔を備える多孔質樹脂
620 開口孔を有する多孔質樹脂
630 孔の体積占有率の分布を有する多孔質樹脂
640 単位体積あたりの孔数の分布を有する多孔質樹脂
650 縦長の開口孔を有する多孔質樹脂