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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120352
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】組成物、塗膜及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/00 20060101AFI20240829BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240829BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20240829BHJP
   C08L 101/06 20060101ALI20240829BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20240829BHJP
   C08F 255/00 20060101ALI20240829BHJP
   C09D 123/00 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C08L23/00
B32B27/32 E
B32B7/027
C08L101/06
C08F2/44 C
C08F255/00
C09D123/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027089
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】松田 敬太
(72)【発明者】
【氏名】原口 辰介
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J011
4J026
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AB01C
4F100AK07B
4F100AK42C
4F100AK67A
4F100AL07A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100CB00
4F100CC00A
4F100JA05A
4F100JK06
4F100JL11
4F100YY00A
4J002BB201
4J002BC042
4J002GF00
4J002GH00
4J011PA64
4J011PA78
4J011PC02
4J011PC07
4J026AA11
4J026AC15
4J026AC35
4J026BA05
4J026BA27
4J026BA30
4J026BB03
4J026BB04
4J026CA03
4J026DB03
4J026DB16
4J026GA10
4J038CB141
4J038CG141
4J038MA08
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】ポリオレフィン基材、金属基材あるいは極性重合体基材との密着性に優れ、ポリオレフィン基材と金属基材、極性重合体基材とを接着させることができる密着性に優れた組成物、前記組成物の乾燥物である塗膜及び積層体を提供すること。
【解決手段】オレフィン系単量体由来の構成単位を有する重合体(A)と、ラジカル重合性単量体由来の構成単位を有する重合体(B)とを含み、前記ラジカル重合性単量体は、水酸基を有する単量体を前記ラジカル重合性単量体の総質量に対して10質量%以上100質量%以下含み、前記重合体(B)の水酸基価が43mgKOH/g以上430mgKOH/g以下であり、前記重合体(B)のガラス転移温度Tgが28℃以上165℃以下である組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系単量体由来の構成単位を有する重合体(A)と、ラジカル重合性単量体由来の構成単位を有する重合体(B)とを含み、
前記ラジカル重合性単量体は、水酸基を有する単量体を前記ラジカル重合性単量体の総質量に対して10質量%以上100質量%以下含み、
前記重合体(B)の下記式(1)によって計算した水酸基価が43mgKOH/g以上430mgKOH/g以下であり、
前記重合体(B)のFOXの下記式(2)で求めたガラス転移温度Tgが28℃以上165℃以下である組成物。
水酸基価=Σ(Ci×Wi/Mwi)×56.1×1000 ・・・式(1)
(ただし、前記式(1)中、Ciは単量体iの水酸基の価数であり、Wiは単量体iの質量分率であり、Mwiは単量体iの分子量である。)
1/(273+Tg)=Σ(Wi×(273+Tgi)) ・・・式(2)
(ただし、前記式(2)中、Wiは単量体iの質量分率であり、Tgiは単量体iの単独重合体のTgである。)
【請求項2】
前記重合体(B)の前記式(1)によって計算した水酸基価が100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記重合体(A)と前記重合体(B)の質量割合が90:10~10:90である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記重合体(A)及び前記重合体(B)が水系溶媒に分散している、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の組成物の乾燥物である塗膜。
【請求項6】
請求項5に記載の塗膜とポリプロピレンを含む層とが接している積層体。
【請求項7】
ポリプロピレンを含む層と、前記塗膜と、極性重合体基材又は金属基材とがこの順に積層されている、請求項6に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、前記組成物の乾燥物である塗膜、及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン系重合体やプロピレン-α-オレフィン共重合体等のポリオレフィンは安価であり、かつ、機械的物性、耐熱性、耐薬品性等に優れていることから広い範囲で使用されている。近年では、リサイクル需要の高まりから、ポリオレフィン基材への注目が高まっている。それに伴い、ポリオレフィン基材の接着需要が増えている。しかしながら前記ポリオレフィンは分子中に極性基をもたないために低極性であり、塗装や接着が困難であった。とりわけ、ポリオレフィン基材と極性重合体基材あるいは金属基材との接着は、それぞれの基材の極性の違いから、一般に困難である。
【0003】
ポリオレフィン基材の塗装性や接着性を改善するため、成形体の表面を薬剤等で化学的に処理すること、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の手法で成形体表面を酸化処理すること等の種々の手法が試みられている。しかしながら、前記手法は、いずれも特殊な装置が必要であるばかりでなく、塗装性や接着性の改良効果が必ずしも十分ではなかった。
【0004】
比較的簡便な方法でポリオレフィン、例えばプロピレン系重合体に良好な塗装性や接着性を付与するための方法として、塩素化ポリプロピレン、酸変性プロピレン-α-オレフィン共重合体、酸変性塩素化ポリプロピレン等の変性ポリオレフィンを用いることが提案されてきた。前記変性ポリオレフィンは、一般的にはポリオレフィンの成形体表面にプライマー、接着剤あるいは塗料等として塗布できるという特徴を有する。前記変性ポリオレフィンは通常、有機溶媒、又は水への分散体などの形態で塗布することで使用されており、安全衛生や環境保全の観点から水分散体が好ましく用いられている。
【0005】
特許文献1には、ポリプロピレン樹脂に対する密着性に優れたオレフィン重合体とラジカル重合体を含む水系樹脂分散体が記載されている。その一方で、被着体はポリオレフィン樹脂に限定されており、異種基材の密着に対しての課題が残る。
【0006】
特許文献2には、ポリオレフィン樹脂又はその変性物と(メタ)アクリル酸エステル重合体とのグラフト共重合体が金属及び/又は樹脂用の塗料、プライマー、塗料用あるいはインキ用バインダーとして使用できることが記載されている。しかし、具体的な例として金属基材との接着性については言及されておらず、異種基材の接着が可能であるかは不明であり、課題が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2017/213192号
【特許文献2】国際公開第2018/128111号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的はポリオレフィン基材、金属基材あるいは極性重合体基材との密着性に優れ、ポリオレフィン基材と金属基材あるいは極性重合体基材とを接着させることができる密着性に優れた組成物、前記組成物の乾燥物である塗膜及び積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の[1]~[7]を要旨とする。
[1]オレフィン系単量体由来の構成単位を有する重合体(A)と、ラジカル重合性単量体由来の構成単位を有する重合体(B)とを含み、
前記ラジカル重合性単量体は、水酸基を有する単量体を前記ラジカル重合性単量体の総質量に対して10質量%以上100質量%以下含み、
前記重合体(B)の下記式(1)によって計算した水酸基価が43mgKOH/g以上430mgKOH/g以下であり、
前記重合体(B)のFOXの下記式(2)で求めたガラス転移温度Tgが28℃以上165℃以下である組成物。
水酸基価=Σ(Ci×Wi/Mwi)×56.1×1000 ・・・式(1)
(ただし、前記式(1)中、Ciは単量体iの水酸基の価数であり、Wiは単量体iの質量分率であり、Mwiは単量体iの分子量である。)
1/(273+Tg)=Σ(Wi×(273+Tgi)) ・・・式(2)
(ただし、前記式(2)中、Wiは単量体iの質量分率であり、Tgiは単量体iの単独重合体のTgである。)
[2]前記重合体(B)の前記式(1)によって計算した水酸基価が100mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である、[1]に記載の組成物。
[3]前記重合体(A)と前記重合体(B)の質量割合が90:10~10:90である、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]前記重合体(A)及び前記重合体(B)が水系溶媒に分散している、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5][1]~[4]のいずれかに記載の組成物の乾燥物である塗膜。
[6][5]に記載の塗膜とポリプロピレンを含む層とが接している積層体。
[7]ポリプロピレンを含む層と、前記塗膜と、極性重合体基材又は金属基材とがこの順に積層されている、[6]に記載の積層体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリオレフィン基材、金属基材あるいは極性重合体基材との密着性に優れ、ポリオレフィン基材と金属基材あるいは極性重合体基材とを接着させることができる密着性に優れた組成物、前記組成物の乾燥物である塗膜及び積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「~」で表される数値範囲は、その前後の数字を下限値及び上限値として含むことを意味する。
「(メタ)アクリル」とはアクリル及びメタクリルの総称を意味する。
【0012】
<組成物>
実施形態に係る組成物は、後述のオレフィン系単量体由来の構成単位を有する重合体(A)と、後述のラジカル重合性単量体由来の構成単位を有する重合体(B)とを含む。
【0013】
[オレフィン系単量体由来の構成単位を有する重合体(A)]
オレフィン系単量体由来の構成単位を有する重合体(A)(以下、単に「重合体(A)」と記載することがある。)は、オレフィンを原料の単量体とする重合体であり、オレフィンの単独重合体や共重合体が含まれる。
【0014】
重合体(A)としては、反応性基を有さないオレフィン系単量体由来の構成単位を有する重合体(A1)(以下、単に「重合体(A1)」と記載することがある。)、反応性基及びオレフィン系単量体由来の構成単位を有する変性重合体(A2)(以下、単に「重合体(A2)」と記載することがある。)等が挙げられる。
【0015】
前記重合体(A)の好ましい態様としては、下記の(a1)~(a2)を満たすプロピレン系重合体が挙げられる。
(a1)ポリプロピレン基材への密着性が良好となる点で、前記重合体(A)のプロピレン含有率は、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、70モル%以上がさらに好ましい。
(a2)120℃以下の低温ヒートシール時の密着性が良好となる点で、前記重合体(A)の融点(Tm)は、120℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、90℃以下がさらに好ましい。また、Tmの下限は、ブロッキング性に優れる点から60℃以上が好ましい。
【0016】
(反応性基を有さないオレフィン系単量体由来の構成単位を有する重合体(A1))
前記重合体(A1)としては、公知のオレフィン系単独重合体及びオレフィン系共重合体を用いることができる。前記重合体(A1)としては、特に限定されないが、例えば以下の重合体が挙げられる。
・エチレン又はプロピレンの単独重合体。
・エチレン及びプロピレンの共重合体。
・エチレン及びプロピレンのうちの少なくとも1種と、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、ヘプテン-1、オクテン-1、シクロペンテン、シクロヘキセン、及びノルボルネン等の炭素数4以上のα-オレフィン単量体の少なくとも1種との共重合体。
・前記α-オレフィン単量体と、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の単量体との共重合体。
・前記α-オレフィン単量体と芳香族ビニル単量体との共重合体、又はその水素添加体。
・共役ジエンブロック共重合体又はその水素添加物。
【0017】
重合体(A1)を溶剤に溶解し、容易に反応できる点で、重合体(A1)に用いるα-オレフィン単量体としては、炭素数2~4のα-オレフィン単量体が好ましい。なお、前記の各種共重合体はランダム共重合体及びブロック共重合体のうちの少なくとも1種であってもよい。
前記重合体(A1)の分子構造は直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0018】
前記の各種共重合体としては、ポリオレフィンを塩素化した塩素化ポリオレフィンを使用することもできる。
重合体(A1)の溶剤への溶解性が向上する点で、前記塩素化ポリオレフィンの塩素化度は、ポリオレフィンの総質量に対して、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、また40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0019】
前記重合体(A1)の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、プロピレン-ヘキセン共重合体、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、塩素化エチレン-プロピレン共重合体、塩素化プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEPS)等が挙げられる。
【0020】
ポリプロピレン基材への密着性が良好となる点で、前記重合体(A1)としては、プロピレン単独重合体、プロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体及び、これらの塩素化された重合体が好ましく、プロピレン単独重合体、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、塩素化ポリプロピレン、塩素化エチレン-プロピレン共重合体、又は塩素化プロピレン-ブテン共重合体がより好ましく、塩素を含有しないプロピレン単独重合体、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体がさらに好ましい。
前記重合体(A1)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
前記重合体(A1)としては、その構成単位としてプロピレン由来の構成単位を有するプロピレン系重合体が好ましい。即ち、前記オレフィン系単量体としてはプロピレンを含むことが好ましい。前記オレフィン系単量体がプロピレンを含むことで、ポリプロピレン基材への密着性が増す傾向がある。
前記プロピレン系重合体の全構成単位に対するプロピレン由来の構成単位の割合は、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、70モル%以上がさらに好ましい。前記範囲内であれば、プロピレン由来の構成単位の割合が高いほどポリプロピレン基材への密着性が増す傾向がある。
【0022】
前記重合体(A1)の重量平均分子量(Mw)は、GPC(Gel Permeation Chromatography)で測定し、各々のポリオレフィンの検量線で換算して求めることができる。前記重合体(A1)のMwは、5,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましく、50,000以上がさらに好ましく、100,000以上が特に好ましい。また、500,000以下が好ましく、300,000以下がより好ましい。前記範囲内であれば、Mwが高いほどべたつき度合いが小さくなり、基材への密着性が増す傾向がある。また前記範囲内であれば、Mwが低いほど粘度が低くなり、水系樹脂分散体の調製が容易になる傾向がある。
【0023】
前記GPCによるMwの測定は、オルトジクロロベンゼン等を溶媒として、市販のGPC装置を用いて従来公知の方法で行うことができる。
【0024】
前記重合体(A1)の融点(Tm)は、120℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、90℃以下がさらに好ましい。また前記重合体(A1)の融点は、50℃以上が好ましい。前記範囲内であれば、融点が高いほどブロッキング性が良好になる傾向がある。また融点が低いほど、低温ヒートシール性が向上する傾向がある。
【0025】
前記重合体(A1)の製造方法については、本発明の要件を満たす重合体を製造できれば特に限定されず、いかなる製造方法であってもよい。例えばラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、配位重合等が挙げられ、それぞれリビング重合的であってもよい。
【0026】
配位重合の場合は、例えばチーグラー・ナッタ触媒により重合する方法、シングルサイト触媒により重合する方法が挙げられる。これらの中でも、配位子のデザインにより分子量分布や立体規則性分布をシャープにすることができる点で、シングルサイト触媒により重合する方法が好ましい。
【0027】
前記シングルサイト触媒としては、例えばメタロセン触媒、ブルックハート型触媒を用いることができる。前記メタロセン触媒としては、C1対称型、C2対称型、C2V対称型、CS対称型等、重合するポリオレフィンの立体規則性に応じて適切な触媒を選択すればよい。
【0028】
前記重合体(A1)の製造は、溶液重合、スラリー重合、バルク重合、気相重合等のいずれの重合形態でも実施することができる。
溶液重合及びスラリー重合の場合の溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族系炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ハロゲン化炭化水素、エステル類、ケトン類、エーテル類等が挙げられる。なかでも、重合体(A1)を容易に溶解する点で、芳香族系炭化水素、脂肪族系炭化水素、及び脂環式炭化水素が好ましく、トルエン、キシレン、ヘプタン、及びシクロヘキサンがより好ましい。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
(反応性基及びオレフィン系単量体由来の構成単位を有する変性重合体(A2))
前記重合体(A2)としては、変性重合時にオレフィンと反応性基を有する不飽和化合物とを共重合した共重合体(A2a)、反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物を、オレフィン系単量体由来の構成単位を有する重合体にグラフト重合したグラフト重合体(A2b)等が挙げられる。
【0030】
前記共重合体(A2a)は、オレフィンと、反応性基を有する不飽和化合物とを共重合して得られ、反応性基を有する不飽和化合物が主鎖に導入された共重合体である。前記共重合体(A2a)としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等のα-オレフィンと、アクリル酸、無水マレイン酸等のα、β-不飽和カルボン酸又はその無水物との共重合体が挙げられる。前記共重合体(A2a)としては、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体等を使用することができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記共重合体(A2a)の製造方法は、前記重合体(A1)で述べた方法を同様に用いることができる。
【0031】
前記グラフト重合体(A2b)は、オレフィン系単量体由来の構成単位を有する重合体に、反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物をグラフト重合することにより得ることができる。前記反応性基としては、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、イソシアナート基、スルホニル基、水酸基等が挙げられる。これらの中でも反応性基が反応性に優れる点から、前記反応性基としては、カルボキシル基及びその無水物が好ましい。
前記グラフト重合体(A2b)としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンに(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸又はそれらの無水物、クロトン酸等をグラフト重合した重合体が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
前記グラフト重合体(A2b)に用いるオレフィン系単量体由来の構成単位を有する重合体としては、前記重合体(A1)を使用することができる。
前記グラフト重合体(A2b)としては、無水マレイン酸変性ポリプロピレン及びその塩素化物、無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体及びその塩素化物、無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体、アクリル酸変性ポリプロピレン及びその塩素化物、アクリル酸変性エチレン-プロピレン共重合体及びその塩素化物、アクリル酸変性プロピレン-ブテン共重合体等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
グラフト重合体(A2b)の製造に用いるラジカル重合開始剤としては、通常のラジカル重合開始剤から適宜選択して使用することができ、有機過酸化物、アゾニトリル等を挙げることができる。前記有機過酸化物としては、ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等のパーオキシケタール類;クメンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド類;ジ(t-ブチル)パーオキシド等のジアルキルパーオキシド類;ベンゾイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類;t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等のパーオキシエステル類等を挙げることができる。前記アゾニトリルとしては、アゾビスブチロニトリル、アゾビスイソプロピルニトリル等が挙げられる。これらの中でも水素引き抜き力が強く、グラフト反応に優れる点で、ベンゾイルパーオキシド及びt-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートが好ましい。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
前記グラフト重合体(A2b)の全構成単位に対するラジカル重合開始剤の使用割合は、ラジカル重合開始剤:グラフト重合体(A2b)の全構成単位=1:100~2:1(モル比)が好ましく、1:20~1:1(モル比)がより好ましい。前記範囲内であれば、グラフト重合体同士の結合が抑制できる。
反応温度は、50℃以上が好ましく、80~200℃がより好ましい。前記範囲内であれば、ラジカル重合成開始剤の水素引き抜き力により、グラフト反応が進行する。
反応時間は、通常2~20時間程度である。
【0035】
前記重合体(A2b)の製造方法については、特に限定されず、いかなる製造方法であってもよい。前記重合体(A2b)の製造方法としては、溶液中で加熱撹拌して反応する方法、無溶媒で溶融加熱撹拌して反応する方法、押し出し機で加熱混練して反応する方法等が挙げられる。溶液中で製造する場合の溶媒としては、前記重合体(A1)で説明した溶媒を同様に用いることができる。
【0036】
前記重合体(A2)中の前記反応性基の含有量は、前記重合体(A2)1g当たり0.01mmol/g以上が好ましく、0.05mmol/g以上がより好ましく、0.1mmol/g以上がさらに好ましい。また1mmol/g以下が好ましく、0.5mmol/g以下がより好ましく、0.3mmol/g以下がさらに好ましい。前記範囲内であれば、反応性基の含有量が高いほど、親水系が増すため分散粒子径が小さくなる傾向にあり、反応性基の含有量が低いほど、ポリプロピレン基材に対する密着性が増す傾向にある。
【0037】
(重合体(A)の分散体)
重合体(A)は分散体としてもよい。
前記重合体(A)の分散体の製造方法としては、前記重合体(A)に界面活性剤を含有させて前記重合体(A)を分散させる方法、前記重合体(A)に親水性高分子をグラフト結合させたグラフト共重合体を用いてグラフト共重合体を分散させる方法、前記重合体(A2)の前記反応性基が、カルボキシル基又はその無水物、スルホニル基等の酸性基である場合に、前記酸性基を塩基性化合物で中和することにより、前記重合体(A2)を分散させる方法等が挙げられる。貯蔵安定性や耐水性の観点から、親水性高分子をグラフト結合させることが好ましい。
【0038】
前記重合体(A)の分散体で使用する前記親水性高分子は、25℃の水に10質量%の濃度で溶解させたときに、不溶分が1質量%以下の高分子を意味する。前記親水性高分子としては、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、特に限定することなく用いることができ、合成高分子、半合成高分子、天然高分子等を用いることができる。ポリオレフィン分散体の機械安定性に優れる点で、前記親水性高分子の数平均分子量(Mn)は300以上が好ましい。
【0039】
前記重合体(A)の分散体で使用する前記塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基;アンモニア、トリエチルアミン、ジエチルアミン、エタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、2-メチル-2-アミノ-プロパノール、トリエタノールアミン、モルフォリン、ピリジン等の有機塩基等が挙げられる。塩基性化合物による中和率は、水への分散性が得られる範囲であれば特に限定はされないが、前記酸性基に対して1~100モル%が好ましく、50モル%以上がより好ましい。前記範囲内であれば、中和率が高いほど水への分散性が良好となる。
【0040】
本発明において「分散体」とは、分散粒子が極めて小さく単分子で分散している状態、実質的には溶解と言えるような状態まで含むことを意味する。従って、分散体の平均粒子径の下限値は、0μmでもよい。本発明で用いられる前記重合体(A)の分散体の平均粒子径は、0.5μm以下が好ましく、0.3μm以下がより好ましく、0.2μm以下がさらに好ましい。また前記重合体(A)の分散体の平均粒子径は、0.02μm以上が好ましく、0.05μm以上がさらに好ましい。粒子径が0.02μm以上であれば、得られるエマルションの粘度が高くなりすぎず、ハンドリングが良好になる。前記範囲内であれば、分散安定性を向上させ、凝集が起きにくくなる。なお、平均粒子径は、動的光散乱法やレーザードップラー法等により測定できる。
【0041】
前記重合体(A)の分散体の固形分の含有量は、前記重合体(A)の分散体の総質量に対して5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。また70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい。前記範囲内であれば、固形分の含有量が少ないほど粘度が低く、ラジカル重合性単量体との重合性に優れる傾向にある。また固形分の含有量が多いほど、乾燥にあまり多量のエネルギーを必要としないため、乾燥性に優れる傾向にある。
【0042】
作業者の労働環境や環境負荷低減の観点から、前記重合体(A)は水系溶媒に分散していることが望ましい。
【0043】
前記重合体(A)の分散体の、水系溶媒における水以外の溶媒の比率は、前記重合体(A)の分散体の総質量に対して、50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。前記範囲内であれば、溶媒が少ないほど貯蔵安定性に優れる傾向にある。水系樹脂分散体の貯蔵安定性が良好となる点で、前記溶媒としては水に1質量%以上溶解する溶媒が好ましく、水に5質量%以上溶解する溶媒がより好ましい。
【0044】
水以外の前記溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、シクロヘキサノール、テトラヒドロフラン、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、2-メトキシプロパノール、2-エトキシプロパノールが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
前記重合体(A)の分散体として、日本製紙社製アウローレン及びスーパークロン、東洋紡社製ハードレン、三菱ケミカル社製アプトロック、ユニチカ社製アローベース等を用いることができる。これらの中でも、塩素が含まれていないことからアウローレン、ハードレン、アプトロック、アローベースが好ましく、アプトロックがより好ましい。
【0046】
[ラジカル重合性単量体由来の構成単位を有する重合体(B)]
ラジカル重合性単量体由来の構成単位を有する重合体(B)(以下、単に「重合体(B)」と記載することがある。)は、ラジカル重合性単量体を原料の単量体とする重合体である。重合体(B)は、オレフィン系単量体由来の構成単位を含まない。
【0047】
重合体(B)は、以下の(b1)~(b3)を満たす。
(b1)前記ラジカル重合性単量体が、水酸基を有する単量体を前記ラジカル重合性単量体の総質量に対して10質量%以上100質量%以下含む。
(b2)前記重合体(B)の下記式(1)によって計算した水酸基価が43mgKOH/g以上430mgKOH/g以下である。
(b3)前記重合体(B)のFOXの下記式(2)で求めたガラス転移温度Tgが28℃以上165℃以下である。
【0048】
水酸基価=Σ(Ci×Wi/Mwi)×56.1×1000 ・・・式(1)
(ただし、前記式(1)中、Ciは単量体iの水酸基の価数であり、Wiは単量体iの質量分率であり、Mwiは単量体iの分子量である。)
1/(273+Tg)=Σ(Wi×(273+Tgi)) ・・・式(2)
(ただし、前記式(2)中、Wiは単量体iの質量分率であり、Tgiは単量体iの単独重合体のTgである。)
各単量体の単独重合体のガラス転移温度は、ポリマーハンドブック第4版(POLYMER HANDBOOK Fourth Edition),John Wiley & Sons, Inc.(1999)に記載されている値を使用することができる。
【0049】
重合体(B)が前記(b3)を満たすとき、ポリオレフィン基材、金属基材あるいは極性重合体基材との密着性に優れ、ポリオレフィン基材と金属基材、極性重合体基材とを接着させることができる密着性に優れた組成物を提供することができる。
塗膜の凝集力が向上するため、重合体(B)のガラス転移温度は、35℃以上がより好ましい。さらに、塗膜の成膜性や低温でのヒートシール性の観点から、重合体(B)のガラス転移温度は150℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましく、100℃未満がさらに好ましい。即ち、前記重合体(B)のガラス転移温度は35℃以上165℃以下がより好ましく、35℃以上100℃以下がさらに好ましい。
【0050】
ラジカル重合性単量体は、重合性に優れることからビニル系単量体が好ましい。
ビニル系単量体としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル系単量体;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族系単量体;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド等のアミド系単量体;(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられる。本発明の効果を著しく損なわない範囲で、ビニル系単量体を特に限定なく用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
これらの中でも、塗膜の耐候性、耐溶剤性の点で、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
前記(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸-t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシフェニル、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、(メタ)アクリル酸ベンジル等の炭素原子数6~12のアリール基又はアラルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸-2-アミノエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸-2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸-3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸とポリエチレンオキサイドの付加物等が挙げられる。また、例えば(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸-2-パ-フルオロエチルエチル等のフッ素原子を有する炭素原子数1~20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル類を用いることもできる。
【0052】
前記重合体(B)が前記(b1)及び(b2)を満たすとき、ポリオレフィン基材、金属基材あるいは極性重合体基材との密着性に優れ、ポリオレフィン基材と金属基材、極性重合体基材とを接着させることができる密着性に優れた組成物を提供することができる。
ヒートシール性の観点から、前記重合体(B)の水酸基価は、80mgKOH/g以上が好ましく、100mgKOH/g以上がより好ましい。前記重合体(A)及び重合体(B)が水系溶媒に分散している組成物の安定性の観点から、前記重合体(B)の水酸基価は180mgKOH/g以下が好ましい。
【0053】
水酸基を有する単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシフェニル、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、(メタ)アクリル酸2,3-ジヒドロキシプロピル等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。貯蔵安定性、重合性の観点から、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル等の水酸基を含む(メタ)アクリル酸エステルが特に好ましい。
【0054】
ポリプロピレンを含む層、極性重合体基材、金属基材、無機蒸着膜層、及び熱可塑性樹脂への密着性の観点、並びに、前記重合体(A)及び前記重合体(B)が水系溶媒に分散している組成物の安定性の観点から、前記重合体(B)は芳香族系単量体由来の構成単位、あるいは低極性(低SP値)の重合性単量体由来の構成単位を含むことが好ましい。なお、前記重合体(B)は芳香族系単量体由来の構成単位あるいは低極性の重合性単量体由来の構成単位を含まなくてもよい。
【0055】
前記芳香族系単量体の具体例としては、スチレン、メタクリル酸フェノキシエチル、スチレンモノマー単位、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、ビニルピレン、ビニルアニソール、ビニル安息香酸エステル、アセチルスチレン等が挙げられる。低極性値の重合性単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソボニル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、重合性の観点から、スチレン、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチルが好ましい。
前記重合体(A)及び前記重合体(B)との複合性の観点から、前記重合体(B)中の芳香族系単量体由来の構成単位及び低極性の重合性単量体由来の構成単位の合計含有量は、前記重合体(B)の全構成単位に対して20質量%以上であることが好ましい。また、前記合計含有量は、85質量%以下であることが好ましい。
【0056】
前記重合体(A)と前記重合体(B)の質量割合は90:10~10:90が好ましい。重合体(A)の割合が高いとポリオレフィン基材への密着性が高くなり、重合体(B)の割合が高いと金属基材や極性重合体基材への密着性が高くなる。ポリオレフィン基材への密着性の観点から、前記重合体(A)と前記重合体(B)の合計質量に対し、重合体(A)の割合は30質量%以上が好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。一方、金属や極性重合体への密着性の観点からは、前記重合体(A)と前記重合体(B)の合計質量に対し、重合体(B)の割合は10質量%以上が好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。
ポリオレフィン基材と金属基材、極性重合体基材といった異種基材の接着の観点では、前記重合体(A)と前記重合体(B)の質量割合は90:10~30:70が好ましく、80:20~60:40が特に好ましい。
【0057】
前記重合体(A)と前記重合体(B)は水系樹脂分散体であることが好ましい。その際に、前記重合体(A)と前記重合体(B)は同一粒子内に存在しても良いし、互いに独立した粒子を混合しても良い。塗膜の外観、貯蔵安定性の観点からは前者が好ましい。
【0058】
水系樹脂分散体の固形分の含有量は、水系樹脂分散体の総質量に対して5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。また水系樹脂分散体の固形分の含有量は、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい。前記範囲内であれば、固形分の含有量が少ないほど粘度が低く、また貯蔵安定性に優れる傾向がある。また固形分の含有量が多いほど、乾燥にあまり多量のエネルギーを必要としないため、乾燥性に優れる傾向にある。
【0059】
作業者の労働環境や環境負荷低減の観点から、前記重合体(A)及び前記重合体(B)は水系溶媒に分散していることが望ましい。
水系樹脂分散体の、水系溶媒における水以外の溶媒の比率は、水系樹脂分散体の総質量に対して、50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。前記範囲内であれば、溶媒が少ないほど貯蔵安定性に優れる傾向にある。水系樹脂分散体の貯蔵安定性が良好となる点で、前記溶媒としては水に1質量%以上溶解する溶媒が好ましく、水に5質量%以上溶解する溶媒がより好ましい。
【0060】
<積層体>
実施形態に係る積層体は、前記重合体(A)と前記重合体(B)を含む組成物の乾燥物からなる塗膜を含む積層体であることが好ましい。前記組成物の乾燥物からなる塗膜は、ポリオレフィン基材、金属基材あるいは極性重合体基材との密着性に優れるため、ポリオレフィン基材同士や、ポリオレフィン基材と金属基材あるいは極性重合体基材などとのヒートシール性が良好となる。
【0061】
実施形態に係る積層体においては、前記組成物の乾燥物からなる塗膜とプロピレンを含む層とが接していることが好ましい。
好適例の積層体では、プロピレンを含む層と、前記組成物の乾燥物からなる塗膜と、極性重合体基材又は金属基材とがこの順に積層される。すなわち、プロピレンを含む層と、前記組成物の乾燥物からなる塗膜と、極性重合体基材とがこの順に積層された積層体、プロピレンを含む層と、前記組成物の乾燥物からなる塗膜と、金属基材とがこの順に積層された積層体が好ましい。
【0062】
前記重合体(A)と前記重合体(B)を含む組成物の乾燥物である塗膜は、前記組成物の乾燥物から形成されていればよい。例えばポリプロピレンを含む層上に前記組成物を直接塗布して塗膜を形成してもよいし、極性重合体基材あるいは金属基材上に塗布乾燥した塗膜と、ポリプロピレンを含む層とをヒートシール等で貼り合わせてもよい。前記ヒートシールの温度条件は、ポリプロピレンを含む層の外観の観点から、150℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。
【0063】
前記塗膜は、前記重合体(A)と前記重合体(B)を含む組成物の水系樹脂分散体を乾燥して得ることが好ましい。前記水系樹脂分散体はそのまま使用してもよいし、本発明の効果を損なわない範囲で、接着強度、耐水性、耐熱性、耐薬品性、濡れ性等の性能を向上させるため、必要に応じて、その他の樹脂を含んでもよい。前記その他の樹脂としては、ブロッキング防止剤や密着性付与剤等の添加剤や架橋剤等を挙げることができる。
【0064】
前記添加剤としては、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、スチレン-ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
前記その他の樹脂の含有量は、前記水系樹脂分散体の総質量に対して、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0065】
前記水性樹脂分散体は、架橋剤を含んでもよい。
前記架橋剤としては特に限定されないが、2官能以上の官能基を有する化合物が挙げられる。前記架橋剤としては、多官能エポキシ化合物、多官能イソシアネート化合物、多官能アミン化合物、多官能オキサゾリン化合物、ヒドラジン化合物、シランカップリング剤等が挙げられる。
【0066】
前記水性樹脂分散体については、乾燥速度を上げる目的、又は良好な表面を得る目的で、造膜助剤、湿潤剤等を配合してもよい。前記造膜助剤、湿潤剤としては、有機溶媒を用いることができる。具体的にはメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール類、及びそれらのエーテル類等が挙げられる。また、湿潤剤としてはシロキサン系湿潤剤を用いることもできる。
【0067】
前記塗膜が接しているポリプロピレンを含む層としては、ポリプロピレンを含む射出成形品やフィルム、シート、繊維等が挙げられる。ポリプロピレンとしては、プロピレンのみを重合した単独重合体、少量のエチレンを共重合したランダム共重合体、あるいはゴム成分が単独重合体もしくはランダム共重合体に均一に分散したブロック共重合体のいずれであってもよい。フィルム、シートとしては延伸フィルム(OPP)や無延伸フィルム(CPP)が挙げられる。
【0068】
前記極性重合体基材に用いる極性重合体としては、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、ポリメチルメタクリート(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(ナイロン)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。リサイクル性の観点からはPETが特に好ましい。
【0069】
前記ポリプロピレンを含む層及び前記極性重合体基材に対しては、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理等の表面処理をしてもよい。
【0070】
前記金属基材としては、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、ステンレス等の金属箔が挙げられる。これら金属基材の表面には酸化膜があってもなくてもよく、適宜、易接着処理等を施してもよい。遮光性やガスバリア性の観点から、金属基材としてはアルミニウム箔あるいはアルミ蒸着膜が好ましい。
【0071】
前記アルミニウム箔の表面は、接着性を向上するために熱水変性処理を施すこともできる。アルミニウム箔の表面を熱水変性処理する際に使用される処理水としては、水道水、脱イオン水、蒸留水等が挙げられる。アルミニウム箔の表面への熱水変性処理は、処理温度によってさまざまな水和酸化物の被膜が表面に被覆されて熱水変性処理層が形成される。前記熱水変性処理としては、常圧か、80~100℃程度の条件で行われるべーマイト処理が好ましい。
【0072】
前記重合体(A)と前記重合体(B)を含む組成物の乾燥物である塗膜は、前記組成物の乾燥物から形成されていればよく、その使用量は接着面の面積に対して0.01~30g/mが好ましく、0.1~20g/mがより好ましく、1~15g/mがさらに好ましい。前記使用量が0.01g/m以上であれば十分な接着性が得られやすく、30g/m以下であれば、乾燥に時間がかかりにくく、経済的にも有利である。
【0073】
前記重合体(A)と前記重合体(B)を含む組成物の乾燥物である塗膜は、適切に溶媒を蒸発し、乾燥塗膜を得ることができれば既知の塗工方法のいずれかの手法で得ることができる。具体的には、グラビアコーター、キスコーター、バーコーター、ロールコーター、スロットダイコーター、ブレードコーター、ナイフコーター、含浸コーター等で基材上に塗布し、乾燥炉内で溶媒を蒸発させることで塗膜を得ることができる。
乾燥温度は60~150℃が好ましい。60℃以上であれば、乾燥が短時間で行える。150℃以下であれば透明性に優れる。
【実施例0074】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における「部」及び「%」は、各々、「質量部」及び「質量%」を意味する。また、表中における各重合体に係る数値は、それぞれ質量部を意味する。
【0075】
[略号]
実施例、比較例及び製造例における略語は以下の通りである。なお、ラジカル重合性単量体には、式(2)によるTgの計算に使用した単独重合体のTg(℃)を併せて記載した。
アプトロックBW-5710:オレフィンエマルション、三菱ケミカル社製
2EHA(-55℃):アクリル酸エチルヘキシル、三菱ケミカル社製
nBMA(20℃):メタクリル酸n-ブチル、三菱ケミカル社製
iBMA(48℃):メタクリル酸イソブチル、三菱ケミカル社製
tBMA(108℃):メタクリル酸t-ブチル、三菱ケミカル社製
St(100℃):スチレン、NSスチレンモノマー社製
HEMA(55℃):メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、三菱ケミカル社製
HPMA(26℃):メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、三菱ケミカル社製
4HBA(-45℃):アクリル酸4-ヒドロキシブチル、三菱ケミカル社製
【0076】
[物性測定方法及び評価方法]
(1)重合体(A)の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)の測定方法
重合体(A)の試料5mgを10mLのバイアル瓶に採取し、安定剤としてジブチルヒドロキシトルエン250ppmを含有するテトラヒドロフランを5g添加し、50℃で完全に溶解させた。室温に冷却後、孔径0.45μmのフィルターでろ過し、ポリマー濃度0.1質量%の試料溶液を調製した。次に、カラムとしてTSKgel GMHXL-L(30cm×2本)にガードカラムTSKguardcolumnHXL-Hを装着した東ソー(株)製GPC HLC-8020を使用してGPC測定を行った。測定条件としては、試料溶液のインジェクション量:50μL、カラム温度:40℃、溶媒:テトラヒドロフラン、流量1.0mL/分とした。分子量は、標準試料として市販の単分散のポリスチレン標準試料を測定し、標準試料の保持時間と分子量から検量線を作成して、重合体(A)の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
【0077】
(2)重合体(A)の融点(Tm)の測定方法
重合体(A)の融点は、セイコーインスツル(株)製 示差走査熱量計 DSC 220Cを使用して測定した。重合体(A)の試料5±1mgをアルミニウム製のパンに入れ、アルミニウム製の蓋をし、空のアルミニウム製のパンをリファレンスとして検出器に載せた。200℃まで100℃/分の速度で昇温した。同温度で5分間保持した後、10℃/分の速度で冷却し、-10℃まで0.5秒間隔で熱量を検出した。同温度で1分保持した後、10℃/分の速度で200℃まで昇温させ、0.5秒間隔で熱量を検出した。
各試料とも冷却過程において発熱ピークが1つ、最後の昇温過程において吸熱ピークが1つ観測された。最後の昇温過程におけるピークのピークトップの温度を重合体(A)の融点(Tm)(℃)とした。
【0078】
(3)水系樹脂分散体の平均粒径の測定方法
水系樹脂分散体を脱イオン水で1%に希釈し、濃厚系粒径アナライザー(FPAR-1000、大塚電子社製)を用いて、キュムラント法で平均粒子径(d)(単位:nm)を求めた。結果を表1及び表2に記載した。
【0079】
(4)組成物のポリプロピレンを含む層及び金属基材に対する密着性試験
アルミニウム基材としてアルミニウム箔(A1N30H-H18、30μm厚、竹内金属箔紛工業株式会社)を使用し、その光沢面を塗工前にイソプロパノールで脱脂した。後述の各製造例で得た水系樹脂分散体の樹脂成分100部に対して濡れ剤としてシロキサン系基材湿潤剤(エボニック社製TEGO(登録商標)Wet KL 245(商品名))7部を加えた後に、樹脂分散体の固形分が28質量%になるように脱イオン水を加え、組成物を得た。得られた組成物をバーコーターで前記アルミニウム基材の光沢面に塗布し、150℃で5分の乾燥を行うことで、金属基材であるアルミニウム基材と厚さ10μmの組成物の乾燥塗膜から成る塗工基材を得た。ポリプロピレンを含む層として無延伸ポリプロピレン(CPP)基材(SUPERFOILTM EE025NA、三菱ケミカル株式会社製)の巻内面を、塗工基材の塗工面と貼り合わせ、ヒートシーラーにて150℃で2秒、0.2MPaの圧力でヒートシールを行うことで、積層体を得た。得られた積層体から幅15mmの試験片を採取し、引張り試験機(小型卓上試験機EZ、株式会社島津製作所)を用い、180度剥離により、試験片の端部からCPP基材とアルミニウム基材の界面を剥離して剥離強度(測定条件:23℃、65%RHの雰囲気中、引張速度250mm/分)を測定することで、組成物のポリオレフィン基材及び金属基材に対する密着性試験の評価を行った。評価結果を表3及び表4に記載した。
(評価基準)
++:剥離強度が2.5N/15mm以上で密着性が優れている。
+:剥離強度が1.6N/15mm以上2.5N/15mm未満で密着性が良好である。
-:剥離強度が1.6N/15mm未満で密着性が悪い。
【0080】
(5)組成物のポリプロピレンを含む層及び極性重合体基材に対する密着性試験
極性重合体基材であるポリエステル基材としてPET基材(FE2001、フタムラ化学社製)を使用し、その非コロナ処理面をIPA脱脂した。後述の各製造例で得た水系樹脂分散体の樹脂成分100部に対して濡れ剤としてシロキサン系基材湿潤剤(エボニック社製TEGO(登録商標)Wet KL 245(商品名))7部を加えた後に、樹脂分散体の固形分が28質量%になるように脱イオン水を加え、組成物を得た。得られた組成物をバーコーターでPET基材のコロナ処理面に塗布し、100℃で5分の乾燥を行うことで、PET基材と厚さ10μmの組成物の乾燥塗膜から成る塗工基材を得た。ポリプロピレンを含む層として二軸延伸ポリプロピレン(OPP)基材(パイレン(登録商標)フィルム-OT P2108、東洋紡株式会社製)を使用し、その非コロナ処理面をIPAで脱脂した。OPP基材の非コロナ処理面と塗工基材の塗工面とを貼り合わせ、ヒートシーラーにて表5に記載の温度で2秒、0.2MPaの圧力でヒートシールを行うことで、積層体を得た。得られた積層体から幅15mmの試験片を採取し、引張り試験機(小型卓上試験機EZ、株式会社島津製作所製)を用い、180°剥離により、試験片の端部からOPP基材とPET基材の界面を剥離して剥離強度(測定条件:23℃、65%RHの雰囲気中、引張速度250mm/分)を測定することで、組成物のポリプロピレンを含む層及び極性重合体基材に対する密着性試験の評価を行った。評価結果を表5に記載した。
(評価基準)
++:剥離強度が2.5N/15mm以上で密着性が優れている。
+:剥離強度が1.5N/15mm以上2.5N/15mm未満で密着性が良好である。
-:剥離強度が1.5N/15mm未満で密着性が悪い。
【0081】
(6)組成物のポリオレフィン基材に対する密着性試験の評価方法
PET基材の代わりにOPP基材(パイレン(登録商標)フィルム-OT P2108)を使用して塗工基材を得る以外は「(5)組成物のポリプロピレンを含む層及び極性重合体基材に対する密着性試験」と同様の方法で、組成物のポリプロピレンを含む層対する密着性試験の評価を行った。評価結果を表6に記載した。
(評価基準)
++:剥離強度が2.5N/15mm以上で密着性が優れている。
+:剥離強度が1.5N/15mm以上2.5N/15mm未満で密着性が良好である。
-:剥離強度が1.5N/15mm未満で密着性が悪い。
【0082】
[製造例1:酸変性ポリオレフィン樹脂の製造]
メタロセン触媒によって重合されたプロピレン-ブテン共重合体である「タフマー(登録商標)XM-7070」(三井化学社製、融点75℃、プロピレン含有率74mol%、重量平均分子量(Mw)25万、分子量分布(Mw/Mn)2.2)200kgと無水マレイン酸5kgをスーパーミキサーでドライブレンドした。その後、2軸押出機(日本精鉱社製「TEX54αII」)を用い、プロピレン-ブテン共重合体100部に対して1部となるようにt-ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナート(日本油脂社製「パーブチルI」)を液添ポンプで途中フィードしながら、ニーディング部のシリンダー温度200℃、スクリュー回転数125rpm、吐出量80kg/時間の条件下で混錬し、ペレット状の無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体を得た。得られた無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体の無水マレイン酸基の含有量(グラフト率)は1%であった。また重量平均分子量(ポリスチレン換算)(Mw)は16万、数平均分子量(Mn)は8万であった。
【0083】
[製造例2:オレフィン重合体と水溶性高分子のグラフト共重合体の製造]
還流冷却管、温度計、撹拌機を備えたガラスフラスコ中で、プロピレン-ブテン共重合体「タフマー(登録商標)XM-7070」40g、製造例1で得られた無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体60gをトルエン66.6gで溶解し、容器内を窒素ガスで置換した。フラスコ内を90℃にし、無水マレイン酸を1.5g加え、110℃まで昇温した。t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナート(日本油脂社製「パーブチルI」)を0.75g投入し、7時間反応させ、さらに無水マレイン酸変性した。その後、トルエンを71.4g添加した。
2-プロパノール130gにメトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)-2-プロピルアミン「ジェファーミンM-2005:ハンツマン社製」を20g(ポリオレフィン樹脂100部に対しアルキレンオキシド由来の繰り返し単位を持つ化合物20部に相当)溶解させ、1時間かけてフラスコ内に滴下し、70℃にて1.5時間反応させた。その後、2-プロパノール70gにメトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)-2-プロピルアミン「ジェファーミンM-1000:ハンツマン社製」を10g(ポリオレフィン樹脂100部に対しアルキレンオキシド由来の繰り返し単位を持つ化合物10部に相当)を溶解させ、1時間かけて滴下した。その後、70℃にてさらに1時間反応させた。ジメチルエタノールアミン1.5gを脱イオン水62g、2-プロパノール45gに溶解し、フラスコ内に滴下し、70℃で30分撹拌した。
得られた反応液の温度を50℃に保ち、加熱及び撹拌し、脱イオン水を362g滴下しながら、系内の真空度を下げてポリマー濃度が30%になるまでトルエンと2-プロパノールを減圧除去し、オレフィン重合体と水溶性高分子のグラフト共重合体の水性樹脂分散体(乳白色)を得た。得られた水性樹脂分散体の重量平均分子量(ポリスチレン換算)(Mw)は18万、平均粒子径は90nmであった。
【0084】
[製造例3:水系樹脂分散体(1)の製造]
ラジカル重合性単量体としてスチレン(St)84.0部と、アクリル酸-2-エチルヘキシル(2EHA)6.0部と、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)10部と、脱イオン水140部と、界面活性剤としてニューコール707SF(日本乳化剤株式会社社製、固形分30質量%、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸塩)6.7部とをホモミクサー(プライミクス株式会社製、ホモミクサーMARTII)で乳化し、プレエマルションを得た。撹拌機、還流冷却管及び温度制御装置を備えたフラスコに、重合体(A)の分散体として製造例2で得たオレフィン重合体と水溶性高分子のグラフト共重合体の水系樹脂分散体を1333.3部(樹脂分として400部)、脱イオン水18.8部、得られたプレエマルション246.7部を入れ、撹拌しながら55℃に昇温した。1時間保持後に、還元剤として硫酸第一鉄0.0002部、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)0.00027部、イソアスコルビン酸ナトリウム一水和物0.08部、及び脱イオン水1部を添加した後に、開始剤としてパーブチル(登録商標)H69(商品名、日油社製、固形分69質量%)0.10部と脱イオン水40.0部を30分かけて滴下することで重合を開始した。滴下終了後、70℃に昇温し、熟成した。滴下終了から60分後にイソアスコルビン酸ナトリウム一水和物0.04部、脱イオン水4部、パーブチル(登録商標)H69 0.10部を添加した。70℃で30分間、さらに熟成し、平均粒子径(d)が84.4nmの水系樹脂分散体(1)を得た。
【0085】
[製造例4~25:水系樹脂分散体(2)~(23)の製造]
ラジカル重合性単量体とBW-5710の添加量を表1及び表2に記載の通りに変更した以外は製造例1と同様の操作を行うことで水系脂分散体(2)~(23)を得た。
【0086】
[製造例26:水系樹脂分散体(24)の製造]
ラジカル重合性単量体としてスチレン(St)68.0部と、アクリル酸-2-エチルヘキシル(2EHA)2.0部と、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)30部と、脱イオン水40部と、界面活性剤としてニューコール707SF 6.7部を前記ホモミクサーで乳化し、プレエマルションを得た。撹拌機、還流冷却管及び温度制御装置を備えたフラスコに、脱イオン水118.8部と、得られたプレエマルション146.7部を入れ、撹拌しながら55℃に昇温した。1時間保持後に、還元剤として硫酸第一鉄0.0002部、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)0.00027部、イソアスコルビン酸ナトリウム一水和物0.08部、及び脱イオン水1部を添加した後に、開始剤としてパーブチル(登録商標)H69(商品名、日油社製、固形分69質量%)0.10部と脱イオン水40.0部を30分かけて滴下することで重合を開始した。滴下終了後、70℃に昇温し、熟成した。滴下終了から60分後にイソアスコルビン酸ナトリウム一水和物0.04部、脱イオン水4部、パーブチル(登録商標)H69 0.10部を添加した。70℃で30分間さらに熟成し、平均粒子径(d)が40nmの水系樹脂分散体(24)を得た。
【0087】
[実施例1~17、比較例1~7]
表3及び表4に記載の通りに各製造例で得た水系樹脂分散体を用いて積層体を作製し、金属基材(アルミニウム箔)及びポリプロピレンを含む層(CPP基材)に対する密着性試験を行った。評価結果を表3及び表4に記載した。
【0088】
[実施例18、19]
表5に記載の通りに各製造例で得た水系樹脂分散体を用いて積層体を作製し、極性重合体基材(PET基材)及びポリプロピレンを含む層(OPP基材)に対する密着性試験を行った。評価結果を表5に記載した。
【0089】
[実施例20~24]
表6に記載の通りに各製造例で得た水系樹脂分散体を用いて積層体を作製し、ポリプロピレンを含む層(OPP基材)に対する密着性試験を行った。評価結果を表6に記載した。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
【表4】
【0094】
【表5】
【0095】
【表6】