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特開2024-120575リニアステージの振動抑制方法及び振動抑制装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120575
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】リニアステージの振動抑制方法及び振動抑制装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20240829BHJP
   G05D 19/02 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
F16F15/02 A
G05D19/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027451
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 海二
(72)【発明者】
【氏名】黒瀬 郁
(72)【発明者】
【氏名】赤松 薫
【テーマコード(参考)】
3J048
【Fターム(参考)】
3J048AB11
3J048AD03
3J048CB19
3J048EA07
(57)【要約】
【課題】特別なセンサまたはアクチュエータを必要とせずに、未知の力学的モデルを有するリニアステージに対してもその振動を精度良く抑制できるリニアステージの振動抑制方法及び振動抑制装置を提供する。
【解決手段】架台に可動なテーブルが設置されているリニアステージにおける振動を抑制する。目標ジャーク波形を利用してリニアステージの振動を抑制する。ジャーク変化点で振動が発生していると仮定し、目標ジャーク波形が変化するタイミングで逆位相の振動を励起して振動を抑制するか、または、検出した加速度振動に基づいてジャーク波形が変化するタイミングで逆位相の振動を励起して振動を抑制する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
定盤に可動なテーブルが設置されているリニアステージにおける振動を抑制する方法であって、
前記リニアステージの目標ジャーク波形が変化するタイミングで前記振動と逆位相の加振を行うことを特徴とするリニアステージの振動抑制方法。
【請求項2】
前記逆位相の加振を行う際にオフセット付き短周期正弦波を用いることを特徴とする請求項1に記載のリニアステージの振動抑制方法。
【請求項3】
前記振動に複数の周波数成分が含まれている場合、前記振動から各周波数成分を抽出し、抽出したそれぞれの周波数成分毎に逆位相の加振を行うことを特徴とする請求項1に記載のリニアステージの振動抑制方法。
【請求項4】
前記定盤の固有振動を抽出し、抽出した固有振動のピークを検知し、逆位相の振動を発生させて前記振動を抑制することを特徴とする請求項1に記載のリニアステージの振動抑制方法。
【請求項5】
前記振動に複数の周波数成分が含まれている場合、前記振動から各周波数成分を抽出し、抽出したそれぞれの周波数成分毎にタイミングをずらせて逆位相の加振を行うことを特徴とする請求項4に記載のリニアステージの振動抑制方法。
【請求項6】
前記目標ジャーク波形に対して高速フーリエ変換解析を施して前記振動を引き起こす固有振動成分を除いた後、逆高速フーリエ変換した波形を改めて目標ジャーク波形として用いることを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載のリニアステージの振動抑制方法。
【請求項7】
定盤に可動なテーブルが設置されているリニアステージにおける振動を抑制する装置であって、
前記リニアステージの目標ジャーク波形が変化するタイミングで前記振動と逆位相の加振を行う制御部を備えることを特徴とするリニアステージの振動抑制装置。
【請求項8】
前記逆位相の加振を行う際にオフセット付き短周期正弦波を用いることを特徴とする請求項7に記載のリニアステージの振動抑制装置。
【請求項9】
前記制御部は、複数の周波数成分が含まれている前記振動から各周波数成分を抽出するバンドパスフィルタを有しており、前記制御部は、抽出されたそれぞれの周波数成分毎に逆位相の加振を行うことを特徴とする請求項7に記載のリニアステージの振動抑制装置。
【請求項10】
前記定盤の加速度を検出する加速度センサを備えており、
前記制御部は、前記加速度センサの出力から前記定盤の固有振動を抽出するバンドパスフィルタと、抽出された固有振動のピークを検知するピーク検知器と、前記ピーク検知器の検知結果に基づいて加振用の信号を生成する生成器と、生成された前記加振用の信号の位相を調節する調節器とを有することを特徴とする請求項7に記載のリニアステージの振動抑制装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記振動に複数の周波数成分が含まれている場合、それぞれの周波数成分毎にタイミングをずらせて逆位相の加振を行うことを特徴とする請求項10に記載のリニアステージの振動抑制装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記目標ジャーク波形に対して高速フーリエ変換を施して前記振動を引き起こす固有振動成分を除く第1変換器と、前記第1変換器の出力に逆高速フーリエ変換を施す第2変換器とを有しており、前記第2変換器からの出力波形を改めて目標ジャーク波形として用いることを特徴とする請求項7から11の何れか一項に記載のリニアステージの振動抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアステージの振動を抑制する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械、測定器、半導体製造装置などの産業用機械に使用されるリニアステージは、現場にあって重要な役割を果たしている。このリニアステージにおける運動精度は、製品の品質及び特性に大きな影響を及ぼすため、高精度で高速な位置決めへの要求が高まっている。リニアステージでは、運動機構を固定する架台及びセンサ設置台の振動特性、高重心化で顕著になるピンチング振動などが高精度で高速な位置決めに大いに影響を及ぼすことが知られている。
【0003】
しかしながら、これらの振動特性はモデリングされていないことが多く、振動の抑制は難しい。このようなリニアステージにおける不可避な振動を抑制することを目的とした種々の手法が従来から提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-177576号公報
【特許文献2】特開2022-32960号公報
【特許文献3】特開2021-63847号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sato R, etc, J. Adv. Mech. Des. Syst. Manuf. Vol.14, No.1, 2020
【非特許文献2】Kondo etc, Precision Engineering, 74, pp. 36-45, 2022
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、第1モータを駆動する制御指令のジャーク(加加速度)に基づいて、第2モータ駆動用の制御指令を生成している。また、特許文献2では、第一可動子に取り付けた加速度センサの揺れ戻しの波形を計測し、この計測結果を第二可動子の加速度波形へ反映させる。特許文献1及び2は何れも、2台の駆動系を前提として、一方の駆動系に起因する振動を他方の駆動系の動作で相殺する方法であり、単体の駆動系には適用できない。また、特許文献1及び2では、通常の産業機械に利用するにはセンサ及びアクチュエータの追加が必要であり、その応用は限定される。
【0007】
特許文献3は、加振装置で望まれる振動を発生させる方法に関する技術であり、目標運動を実現しつつ振動を抑制する方法を提示していない。
【0008】
非特許文献1では、残留振動振幅と振動の位相遅れとの予測のみに焦点を当て、振幅(最大加速度指令値に比例)と入力タイミング(シミュレーションで決定)とを調整した矩形波信号で振動抑制を行っている。また、非特許文献2では、位置決め動作により発生する残留振動を目標加速度プロファイルから予測する式を求め、その式から残留振動を低減する指令の条件を導出し、位置決め指令を設計するアルゴリズムを提案している。しかしながら、非特許文献1及び2では何れも、残留振動として単一の正弦波しか考えられておらず、複数の振動が生じる場合、そのまま適用できない。また利用できる動作パターンが限定される。
【0009】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、特別なセンサまたはアクチュエータを必要とせずに、未知の力学的モデルを有するリニアステージに対してもその振動を精度良く抑制できるリニアステージの振動抑制方法及び振動抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るリニアステージの振動抑制方法は、定盤に可動なテーブルが設置されているリニアステージにおける振動を抑制する方法であって、前記リニアステージの目標ジャーク波形が変化するタイミングで前記振動と逆位相の加振を行うことを特徴とする。
【0011】
本発明に係るリニアステージの振動抑制装置は、定盤に可動なテーブルが設置されているリニアステージにおける振動を抑制する装置であって、前記リニアステージの目標ジャーク波形が変化するタイミングで前記振動と逆位相の加振を行う制御部を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明にあっては、目標ジャーク波形を利用してリニアステージの振動を抑制する。詳細には、ジャーク変化点で振動が発生していると仮定し、目標ジャーク波形が変化するタイミングで逆位相の振動を励起して振動を抑制する。よって、簡便にリニアステージの振動を抑制することができる。
【0013】
本発明に係るリニアステージの振動抑制方法は、前記逆位相の加振を行う際にオフセット付き短周期正弦波を用いることを特徴とする。
【0014】
本発明に係るリニアステージの振動抑制装置は、前記逆位相の加振を行う際にオフセット付き短周期正弦波を用いることを特徴とする。
【0015】
本発明にあっては、加振する逆位相の振動として、オフセット付き短周期正弦波を用いる。よって、指定の振動成分以外への影響を抑えることができる。
【0016】
本発明に係るリニアステージの振動抑制方法は、前記振動に複数の周波数成分が含まれている場合、前記振動から各周波数成分を抽出し、抽出したそれぞれの周波数成分毎に逆位相の加振を行うことを特徴とする。
【0017】
本発明に係るリニアステージの振動抑制装置は、前記制御部は、複数の周波数成分が含まれている前記振動から各周波数成分を抽出するバンドパスフィルタを有しており、前記制御部は、抽出されたそれぞれの周波数成分毎に逆位相の加振を行うことを特徴とする。
【0018】
本発明にあっては、抑制対象の振動に複数の周波数成分が含まれている場合には、バンドパスフィルタにて各周波数成分を抽出し、それぞれの周波数成分毎に逆位相の振動を励起して振動を抑制する。よって、複数の周波数成分を含む振動が発生する装置についても、精度良く振動を抑制することが可能である。
【0019】
本発明に係るリニアステージの振動抑制方法は、前記定盤の固有振動を抽出し、抽出した固有振動のピークを検知し、逆位相の振動を発生させて前記振動を抑制することを特徴とする。
【0020】
本発明に係るリニアステージの振動抑制装置は、前記定盤の加速度を検出する加速度センサを備えており、前記制御部は、前記加速度センサの出力から前記定盤の固有振動を抽出するバンドパスフィルタと、抽出された固有振動のピークを検知するピーク検知器と、前記ピーク検知器の検知結果に基づいて加振用の信号を生成する生成器と、生成された前記加振用の信号の位相を調節する調節器とを有することを特徴とする。
【0021】
本発明にあっては、加速度センサの出力に基づきバンドパスフィルタを用いてリニアステージの固有振動を抽出し、抽出した固有振動のピークを検知し、逆位相の振動を発生させて振動を抑制する。よって、簡便にリニアステージの振動を抑制することができる。
【0022】
本発明に係るリニアステージの振動抑制方法は、前記振動に複数の周波数成分が含まれている場合、前記振動から各周波数成分を抽出し、抽出したそれぞれの周波数成分毎にタイミングをずらせて逆位相の加振を行うことを特徴とする。
【0023】
本発明に係るリニアステージの振動抑制装置は、前記制御部は、前記振動に複数の周波数成分が含まれている場合、それぞれの周波数成分毎にタイミングをずらせて逆位相の加振を行うことを特徴とする。
【0024】
本発明にあっては、抑制対象の振動に複数の周波数成分が含まれている場合、それぞれの周波数成分毎に逆位相の加振を行う際にそれぞれの周波数成分間でタイミングをずらせる。よって、抑制効果の精度を高めることができる。
【0025】
本発明に係るリニアステージの振動抑制方法は、前記目標ジャーク波形に対して高速フーリエ変換解析を施して前記振動を引き起こす固有振動成分を除いた後、逆高速フーリエ変換した波形を改めて目標ジャーク波形として用いることを特徴とする。
【0026】
本発明に係るリニアステージの振動抑制装置は、前記制御部は、前記目標ジャーク波形に対して高速フーリエ変換を施して前記振動を引き起こす固有振動成分を除く第1変換器と、前記第1変換器の出力に逆高速フーリエ変換を施す第2変換器とを有しており、前記第2変換器からの出力波形を改めて目標ジャーク波形として用いることを特徴とする。
【0027】
本発明にあっては、目標ジャーク波形に対して高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transformation)解析を施して振動を引き起こす固有振動成分を除いた後、逆高速フーリエ変換(IFFT:Inverse Fast Fourier Transformation)した波形を改めて目標ジャーク波形として用いる。よって、抑制効果の精度をより高めることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明のリニアステージの振動抑制方法及び振動抑制装置では、特別なセンサまたはアクチェータを設けることなく、リニアステージの振動を抑制することができる。また、力学特性が未知であるリニアステージについても、精度良く振動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明における振動抑制方法が適用されるリニアステージの構成を示す概略図である。
図2】本発明における振動抑制方法の概念を説明するための説明図である。
図3】本発明の第1の実施形態における振動抑制制御系の構成を示すブロック線図である。
図4】励起して印加する加振信号(加振電流)の一例を示す波形図である。
図5】加振信号(加振電流)の大きさと振動振幅(加速度振幅)との関係を示すグラフである。
図6】本発明の第2の実施形態における振動抑制制御系の構成を示すブロック線図である。
図7】本発明の第3の実施形態における振動抑制制御系の構成を示すブロック線図である。
図8】目標ジャーク波形の変遷を示す波形図である。
図9】装置の固有振動周波数を説明する説明図である。
図10】本発明の第4の実施形態における振動抑制制御系の構成を示すブロック線図である。
図11】本発明の第5の実施形態における加振信号(加振電流)の一例を示すグラフである。
図12】本発明の実施形態、第1比較例及び第2比較例における(x-x)に関する振動抑制の実験結果を示すグラフである。
図13】本発明の実施形態、第1比較例及び第2比較例における(x-x)に関する振動抑制の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
【0031】
図1は、本発明における振動抑制方法が適用されるリニアステージの構成を示す概略図である。図1において、1は架台であり、架台1上にはリニアモータ2が設置されている。リニアモータ2は、固定子としての固定ブロック2aと、可動子としての可動テーブル2bと、可動テーブル2bの水平移動を案内するリニアガイド2cとを有する。リニアモータ2は、例えば、電磁石である可動子と永久磁石からなる固定子とを有するコアレスリニアモータである。可動テーブル2bは、生じた推力に応じて、水平方向(図1の白抜矢符方向)に移動する。
【0032】
可動テーブル2b上には、搬送対象としてのブロック3が設けられている。また、架台1上には、リニアモータ2を取り囲むように基準ブロック4が設けられている。リニアガイド2cの下方に位置制御用のリニアスケール5が設けられ、リニアスケール5の対面する位置の可動テーブル2b側のブラケット部には制御用のエンコーダヘッド6が取付けられている。また、基準ブロック4の上方に測定用のリニアスケール7が設けられ、リニアスケール7には観測用のエンコーダヘッド8が取付けられている。更に、基準ブロック4上には加速度センサ9が設けられている。
【0033】
図1において、x、x、x、xは、それぞれ、架台1の変位、可動テーブル2bの変位、ブロック3の変位、基準ブロック4の変位を表す。重心位置が高いので可動テーブル2bは傾斜するため、変位xと変位xとは一致せず、駆動時に可動テーブル2b及びブロック3は相対運動する。
【0034】
図1に示す装置構成では、ブロック3の変位xと基準ブロック4の変位xとの差(x-x)(機械重心位置での相対変位)、及び可動テーブル2bの変位xと架台1の変位xとの差(x-x)(推力中心位置での相対変位)の振動を抑制することが必要である。なお、図1の装置構成では、変位xは20Hz、変位xは55Hzで振動が観測された。
【0035】
以下、本発明における振動を抑制する種々の実施の形態について具体的について説明する。
【0036】
(第1の実施形態)
本発明では、目標ジャーク波形を利用してリニアステージの振動を抑制する。詳細には、ジャーク変化点で振動が発生していると仮定し、目標ジャーク波形が変化するタイミングで逆位相の振動を励起して振動を抑制する。図2は、このような本発明における振動抑制方法の概念を説明するための説明図である。
【0037】
図2の下のグラフは、加速度及び目標ジャークの経時推移を表しており、太実線aは加速度の推移、細実線bは目標ジャークの推移を示す。図2の縦軸は加速度(mm/s)及び目標ジャーク(mm/s)を表し、横軸は時間(s)を表している。また、図2の上のグラフは、振動を抑制するために加える加振信号(加振電流)を表している。
【0038】
本発明では、目標ジャークが変化するタイミング(図2のt1~t6)に合わせて(破線参照)、逆位相の加振信号を励起して印加することにより、装置の振動を抑制する。よって、簡便にリニアステージの振動を抑制することができる。ここで、加振信号の大きさは、力学的モデルなしでの実験結果に基づいて決定される。
【0039】
この際、目標ジャークが変化する度に、言い換えると目標ジャークのすべての変化点に対して加振信号を印加する。よって、精度良くリニアステージの振動を抑制することができる。また、加振信号は、指定の振動成分以外への影響を防止するために、オフセット付き短周期正弦波を用いる。具体的には、図2に示す如く、正弦波の振幅半分のオフセット付き正弦波である。
【0040】
図3は、本発明の第1の実施形態における振動抑制制御系の構成を示すブロック線図である。この振動抑制制御系には、NCT、PI補償器などを有するNCTF(Nominal Characteristic Trajectory Following)制御回路11と、制御対象としてのプラント12と、振動抑制のための制御部13と、加振信号が加えられる加算器14とが含まれている。
【0041】
NCTF制御回路11は、望ましい減衰特性を位相面上に表記してなる規範特性軌跡(NCT)と、制御対象(プラント12)の動作をNCTに拘束して、位相面上の原点で停止させるためのPI補償器とから構成される。プラント12は、図1に構成を示す装置に該当する。図3の制御部13が、本発明の特徴要素である。
【0042】
簡単な開ループ実験とコントローラのパラメータ調整とから高精度位置決め制御系を設計できるNCTF制御法は、高精度及び扱いやすさを両立する制御系設計法として知られている。しかしながら、このNCTF制御法にあって、顕在化する振動問題は解決されていない。
【0043】
そこで、本発明にあっては、ジャーク変化点で振動が発生していると仮定し、目標ジャーク波形が変化するタイミングで逆位相の振動を励起して振動を抑制する。制御部13は、目標ジャークが変化するタイミングに合わせて、逆位相の加振信号を励起して加算器14に印加する。
【0044】
図4は、励起して印加する加振信号(加振電流)の一例を示す波形図であり、図5は、加振信号の大きさと振動振幅との関係を示すグラフである。図4において、縦軸は加振電流の大きさ(A)を表し、横軸は時間(s)を表している。図5において、縦軸は加速度振幅(mm/s)を表し、横軸は加振電流の大きさ(A)を表している。
【0045】
印加する加振信号は、図4に示すように、正弦波の振幅半分のオフセット付き正弦波である。図5に示すように、振動振幅は加振信号の大きさに比例する。振動抑制に使用される加振信号の大きさは、力学的モデルなしでの実験結果に基づいて予め決定されており、印加される加振信号のデータが予め制御部13内に格納されている。
【0046】
第1の実施形態では、プラント12における目標ジャーク波形が変化する度に、その変化タイミングに合わせて、振動を抑制するための(振動を相殺するための)加振信号を制御部13から制御系に印加する。よって、プラント12の振動を精度良く簡便に抑制することができる。
【0047】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、抑制対象の振動に複数の周波数成分が含まれている場合に対応できる実施の形態である。図6は、本発明の第2の実施形態における振動抑制制御系の構成を示すブロック線図である。この振動抑制制御系には、図3と同様のNCTF制御回路11と、制御対象としての図3と同様のプラント12と、振動抑制のための制御部23と、図3と同様の加算器14とが含まれている。図6の制御部23が、バンドパスフィルタ(BPF)24を有することが第2の実施形態の特徴要素である。
【0048】
複数の周波数成分が含まれている場合、バンドパスフィルタ24を用いて、各周波数成分を抽出する。そして、抽出したそれぞれの周波数成分に関して独立的に、上述した第1の実施形態と同様に、プラント12における目標ジャーク波形が変化する度に、その変化タイミングに合わせて、振動を抑制するための(振動を相殺するための)加振信号を制御部23から加算器14に印加する。
【0049】
第2の実施形態では、複数の周波数成分を含む振動が発生するリニアステージについても、精度良く振動を抑制することが可能である。
【0050】
(第3の実施形態)
第3の実施形態は、第1の実施形態または第2の実施形態にあって、振動抑制に使用する目標ジャーク波形に事前に工夫を施した実施の形態である。図7は、本発明の第3の実施形態における振動抑制制御系の構成を示すブロック線図である。この振動抑制制御系には、図3と同様のNCTF制御回路11と、制御対象としての図3と同様のプラント12と、振動抑制のための図3または図6と同様の制御部13または23と、図3と同様の加算器14と、制御部33とが含まれている。図7の制御部33が、FFT器34及びIFFT器35を有することが第3の実施形態の特徴要素である。
【0051】
第3の実施形態にあっては、前段階として、目標ジャーク波形にFFT器34にてFFT解析を施し、その後、IFFT器35にてIFFT処理を施すことにより、得られた周波数成分のうち、装置の固有振動周波数成分を除去した修正目標ジャーク波形を作成する。
【0052】
図8は、目標ジャーク波形及び修正目標ジャーク波形の変遷の一例を示す波形図であり、図9は、装置の固有振動周波数を説明する説明図である。図8において、太実線aは目標ジャーク波形を示し、細実線bは修正目標ジャーク波形を示しており、また、縦軸はジャークの大きさ(mm/s)を表し、横軸は時間(s)を表している。図9において、縦軸は振幅強度を表し、横軸は周波数(Hz)を表している。
【0053】
第3の実施形態にあっては、装置の固有振動周波数成分(図9の破線で囲まれた成分)を除去した修正目標ジャーク波形を用いて、目標波形xを作成する。
【0054】
第3の実施形態では、目標ジャーク波形に対して高速フーリエ変換(FFT)解析を施して振動を引き起こす固有振動成分を除いた後、逆高速フーリエ変換(IFFT)して得られた波形(修正目標ジャーク波形)を改めて目標ジャーク波形として用いるようにしたので、固有振動成分の影響を受けることがなく、抑制効果の精度の向上を図ることができる。なお、上記したようなFFT/IFFTを利用してジャークを修正する手法を、以下では、入力整形法とも称する。
【0055】
(第4の実施形態)
第4の実施形態は、上述したような振動抑制手法の概念を基盤として、加速度センサ9の検知結果を利用した実施の形態である。図10は、本発明の第4の実施形態における振動抑制制御系の構成を示すブロック線図である。この振動抑制制御系には、図3と同様のNCTF制御回路11と、制御対象としての図3と同様のプラント12と、振動抑制のための制御部43と、図3と同様の加算器14とが含まれている。図10の制御部43が、バンドパスフィルタ(BPF)44、ピーク検知器45、比例ゲイン器46及び位相調節器47を有することが第4の実施形態の特徴要素である。
【0056】
第4の実施形態にあっては、基準ブロック4の加速度を検知した加速度センサ9の出力に基づきバンドパスフィルタ44を用いてリニアステージの固有振動を抽出し、抽出した固有振動のピークをピーク検知器45にて検知し、検知結果に基づいてオフセット付き短周期正弦波である加振信号の振幅を比例ゲイン器46にて決定し、その後、逆位相の振動が生じるように位相調節器47にて加振信号の位相を調節して、印加すべき加振信号を生成する。
【0057】
そして、このようにして生成した振動を抑制するための(振動を相殺するための)加振信号を、前述した第1~第3の実施形態と同様に、ジャーク波形が変化する度に、その変化タイミングに合わせて、制御部43から加算器14に印加する。なお、加振信号の位相の調節(加振信号の印加タイミング)は、事前に取得した位置決め実験と加振実験とのデータを比較することにより決定する。
【0058】
第4の実施形態では、加速度センサ9の出力に基づいて印加すべき加振信号の振幅(大きさ)を決定したので、実際のリニアステージの振動状況に応じてより高精度に振動を抑制することができる。なお、加速度センサ9の出力を用いる代わりに、位置センサ出力を2回微分あるいは2回差分を計算して得られた信号、または、速度センサ出力を1回微分あるいは1回差分を計算して得られた信号を用いてもよい。
【0059】
(第5の実施形態)
第5の実施形態は、第4の実施形態にあって、抑制対象の振動に複数の周波数成分が含まれている場合に対応できる実施の形態である。即ち、第4の実施形態に第2の実施形態の手法を組み合わせたものが第5の実施形態である。第5の実施形態では、図10に示す制御部43が、複数の周波数成分から各周波数成分を抽出する第2の実施形態で述べたようなバンドパスフィルタ(BPF)24を更に有している。
【0060】
第5の実施形態にあっては、抽出したそれぞれの周波数成分に関して独立的にプラント12におけるジャークが変化する度に、振動を抑制するための加振信号を制御部43から印加する際に、それぞれの周波数成分について、検出するタイミング及び加振するタイミングをずらせるようにすることが好ましい。なぜなら、それぞれの周波数成分について、同じタイミングで加振を行った場合には、余計な周波数成分を拾うことになって振動が収束するまでの時間が長くなることが懸念されるからである。
【0061】
図11は、第5の実施形態における加振信号(加振電流)の一例を示すグラフである。図11において、縦軸は加振電流(A)を表し、横軸は時間(s)を表している。また、図11にあって、太実線aは変位xの振動である20Hzにおける加振信号、細実線bは変位xの振動である55Hzにおける加振信号を示している。図11に示すように、加振信号aと加振信号bとはタイミングがずれている。
【0062】
なお、前述した第2の実施形態及び第4の実施形態に関する記載内容を参照することにより、第5の実施形態は容易に理解されるので、その詳細な説明は省略する。
【0063】
(第6の実施形態)
第6の実施形態は、第4の実施形態または第5の実施形態にあって、振動抑制に使用するジャーク波形に事前に工夫を施した実施の形態である。即ち、第4の実施形態または第5の実施形態に第3の実施形態の手法を組み合わせたものが第6の実施形態である。第6の実施形態では、第3の実施形態で作成された目標波形xを更に用いている。
【0064】
なお、前述した第3の実施形態及び第4の実施形態に関する記載内容を参照することにより、第6の実施形態は容易に理解されるので、その詳細な説明は省略する。
【0065】
以下、本発明における振動抑制方法を行った確認結果について説明する。振動抑制の対象は、推力中心位置での相対変位である(x-x)の振動と機械重心位置での相対変位である(x-x)の振動とである。
【0066】
図12は、(x-x)の振動の抑制結果を示すグラフであり、図13は、(x-x)の振動の抑制結果を示すグラフである。図12及び図13において、縦軸は振動振幅(nm)を表し、横軸は時間(s)を表している。
【0067】
図12A及び図13Aは目標ジャーク波形を利用した振動抑制の手法(第2の実施形態に該当)の結果を示し、図12B及び図13Bは目標ジャーク波形を利用した振動抑制にFFT/IFFT処理による目標ジャーク修正(入力整形法)を組み合わせた手法(第3の実施形態に該当)の結果を示し、図12C及び図13Cは加速度センサ9の出力を利用した振動抑制の手法(第5実施の形態に該当)の結果を示し、図12D及び図13Dは加速度センサ9の出力を利用した振動抑制に入力整形法を組み合わせた手法(第6の実施形態に該当)の結果を示している。
【0068】
また、参考として、第1比較例(本発明のような振動抑制を施さずにNCTF制御のみを行った例)における(x-x)の振動の推移及び(x-x)の振動の推移を図12E及び図13Eに示し、第2比較例(入力整形法のみを施した例)における、(x-x)の振動の推移及び(x-x)の振動の推移を図12F及び図13Fに示している。
【0069】
提示された結果によれば、NCTF制御のみを行った場合(図12E及び図13E)では振動が抑制されていない。また、入力整形法のみの場合(図12F及び図13F)でも振動抑制が十分に果たされているとは言えない。これらに対して、本発明の振動抑制方法を適用した場合(図12A~D及び図13A~D)では何れも、推力中心位置(x-x)及び機械重心位置(x-x)の両方に関して優れた振動抑制効果を奏している。また、入力整形法を組み合わせた場合(図12B,D及び図13B,D)には、振動の収束がより早くなることが理解される。
【0070】
なお、上述した実施の形態では、リニアステージの位置制御としてNCTF制御法を用いる構成について説明したが、これは一例であり、PID(Proportional-Integral-Differential)制御法などの他の位置制御法を利用する場合にも本発明を適用することが可能である。
【0071】
開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0072】
各実施の形態に記載した事項は相互に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した独立請求項及び従属請求項は、引用形式に関わらず全てのあらゆる組み合わせにおいて、相互に組み合わせることが可能である。さらに、特許請求の範囲には他の2以上のクレームを引用するクレームを記載する形式(マルチクレーム形式)を用いているが、これに限るものではない。マルチクレームを少なくとも一つ引用するマルチクレーム(マルチマルチクレーム)を記載する形式を用いて記載しても良い。
【符号の説明】
【0073】
1 架台
2 リニアモータ
2a 固定ブッロク
2b 可動テーブル
2c リニアガイド
3 ブロック
4 基準ブロック
5 リニアスケール
6 エンコーダヘッド
7 リニアスケール
8 エンコーダヘッド
9 加速度センサ
11 NCTF制御回路
12 プラント
13、23、33、43 制御部
14 加算器
24 バンドパスフィルタ
34 FFT器(第1変換器)
35 IFFT器(第2変換器)
44 バンドパスフィルタ
45 ピーク検知器
46 比例ゲイン器(生成器)
47 位相調節器(調節器)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13