IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 本田技研工業株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧

特開2024-120666アクチュエータ及びアクチュエータの制御方法
<>
  • 特開-アクチュエータ及びアクチュエータの制御方法 図1
  • 特開-アクチュエータ及びアクチュエータの制御方法 図2
  • 特開-アクチュエータ及びアクチュエータの制御方法 図3
  • 特開-アクチュエータ及びアクチュエータの制御方法 図4
  • 特開-アクチュエータ及びアクチュエータの制御方法 図5
  • 特開-アクチュエータ及びアクチュエータの制御方法 図6
  • 特開-アクチュエータ及びアクチュエータの制御方法 図7
  • 特開-アクチュエータ及びアクチュエータの制御方法 図8
  • 特開-アクチュエータ及びアクチュエータの制御方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120666
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】アクチュエータ及びアクチュエータの制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02N 1/00 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
H02N1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027629
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長田 将彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 晃生
(57)【要約】
【課題】大型化及び重量化させることなく、安全に外力をいなしながら位置制御から力制御への切り替えを円滑に行うことができるアクチュエータを提供する。
【解決手段】アクチュエータ1は、同期電動機4と、同期電動機4が同期状態であるときに同期電動機4の駆動力Fがゼロになる平衡点の付近で生じる復元力が作用するように同期電動機4の出力部19に接続され、同期電動機4により駆動される操作部(2B)と、同期電動機4の目標位置θに関連する制御目標値(ω、φ、δ)に基づいて同期電動機4を制御する制御装置5と、を備える。制御装置5は、同期電動機4の目標力(F)と同期電動機4が発揮している力(F)との偏差(ΔF)に基づいて、操作部に作用している外力を計測し、外力に基づいて制御目標値に対する制限値(ω)を設定し、制限値によって制限された制御目標値(ω)に基づいて同期電動機4を制御する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期電動機と、
前記同期電動機が同期状態であるときに前記同期電動機の駆動力がゼロになる平衡点の付近で生じる復元力が作用するように前記同期電動機の出力部に接続され、前記同期電動機により駆動される操作部と、
前記同期電動機の目標位置に関連する制御目標値に基づいて前記同期電動機を制御する制御装置と、を備えるアクチュエータであって、
前記制御装置は、前記同期電動機の目標力と前記同期電動機が発揮している力との偏差に基づいて、前記操作部に作用している外力を計測し、前記外力に基づいて前記制御目標値に対する制限値を設定し、前記制限値によって制限された前記制御目標値に基づいて前記同期電動機を制御するアクチュエータ。
【請求項2】
前記制御装置は、前記目標位置と前記同期電動機の作動位置との差に基づいて、前記制御目標値として前記同期電動機の目標駆動速度を設定し、前記作動位置と前記目標駆動速度の積分値との差に基づく前記駆動力を前記同期電動機に発生させる、請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記同期電動機は、前記操作部に連結され、平行に配置された帯状電極を有する固定子フィルムと、前記固定子フィルムに重なるように配置され、平行に配置された帯状電極を有する移動子フィルムとを備え、両帯状電極に電圧が印加されたときに静電気力によって前記移動子フィルムが前記固定子フィルムに対してスライドする静電フィルムモータである、請求項1又は2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
同期電動機と、前記同期電動機が同期状態であるときに前記同期電動機の駆動力がゼロになる平衡点の付近で生じる復元力が作用するように前記同期電動機の出力部に接続され、前記同期電動機により駆動される操作部と、前記同期電動機の目標位置を設定し、前記目標位置に関連する制御目標値に基づいて前記同期電動機を制御する制御装置と、を備えるアクチュエータの制御方法であって、
前記制御装置が、前記同期電動機の目標力と前記同期電動機が発揮している力との偏差に基づいて、前記操作部に作用している外力を計測し、前記外力に基づいて前記制御目標値に対する制限値を設定し、前記制限値によって制限された前記制御目標値に基づいて前記同期電動機を制御する制御方法。
【請求項5】
前記制御装置が、前記目標位置と前記同期電動機の作動位置との差に基づいて、前記制御目標値として前記同期電動機の目標駆動速度を設定し、前記作動位置と前記目標駆動速度の積分値との差に基づく前記駆動力を前記同期電動機に発生させる、請求項4に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期電動機によって作動するアクチュエータ及びアクチュエータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、弾性を用いて力及び位置を一緒に制御するための技術として直列弾性アクチュエータ(SEA:Series Elastic Actuator)が知られている(例えば、特許文献1)。直列弾性アクチュエータは、ロボットの関節などの位置及び力を一緒に制御できるようにすることで、ロボットを外圧に適応的に動作させる。特許文献1に記載の直列弾性アクチュエータは、モータ側の回転部と負荷側の回転部との間の空間に配備される複数対の弾性部材と、モータ側の回転部と負荷側の回転部との間の相対的な変位を測定するためのセンサとを備えている。
【0003】
モータを制御する制御器は、センサにより測定された変位を用いて負荷側に加えられる外力による外部トルクを求め、外部トルクと臨界値トルクとを比較した結果に基づいて、トルク制御及び位置制御のうちのいずれか一方に制御モードを切り替える。具体的には、制御器は、外部トルクが臨界値トルク以下である場合、制御モードを位置制御に切り替え、外部トルクが臨界値トルクよりも大きい場合、制御モードをトルク制御に切り替える。
【0004】
位置制御は、直列弾性アクチュエータの負荷側の回転部に連結された負荷が所定の回転角度に見合う分だけ移動するように駆動モータを制御することであり、制御器がモータ側の出力端の回転角度をフィードバックして基準角度と比較して駆動モータを制御する。一方、トルク制御は、直列弾性アクチュエータの負荷側の回転部に連結された負荷が所定のトルクを出すように駆動モータを制御することであり、制御器が負荷側に伝達されるトルクをフィードバックして基準トルクと比較して駆動モータを制御する。制御器が制御モードをトルク制御に切り替えることにより、負荷側に加わる外力をいなすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-511910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の弾性アクチュエータでは、制御器が測定された変位から求めた負荷側のトルクをフィードバックして駆動モータを制御する。駆動モータの制御精度を高めるには高精度のセンサを用いる必要があり、その場合にはセンサのコストが高くなる。アクチュエータが負荷側のトルク又は力を直接検出するセンサを含み、制御器がトルクをフィードバックして駆動モータを制御する構成が考えられるが、この構成であっても、トルクを高精度に検出するためにはセンサのコストが高くなる点では同じである。また、センサが高精度になっても、演算周期には限界があるため、外力を安全にいなすことには限界があった。例えば、ロボットが操作部を駆動して対象物に触る動作を行う場合、対象物に接触する前は、制御装置が位置追従制御を実行し、操作部が対象物に接触したときに、制御装置が位置追従制御から力追従制御に発振することなく円滑に切り替えることが望まれる。
【0007】
更に、従来の弾性アクチュエータは、モータと負荷との間に弾性部材を配備する必要があり、アクチュエータが大型化及び重量化する。
【0008】
本発明は、以上の背景に鑑み、大型化及び重量化させることなく、安全に外力をいなしながら位置制御から力制御への切り替えを円滑に行うことができるアクチュエータ及びその制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、同期電動機(4)と、前記同期電動機が同期状態であるときに前記同期電動機の駆動力(F)がゼロになる平衡点の付近で生じる復元力が作用するように前記同期電動機の出力部(19)に接続され、前記同期電動機により駆動される操作部(2B)と、前記同期電動機の目標位置(θ)に関連する制御目標値(ω、φ)に基づいて前記同期電動機を制御する制御装置(5)と、を備えるアクチュエータ(1)であって、前記制御装置は、前記同期電動機の目標力(F)と前記同期電動機が発揮している力(F)との偏差(ΔF)に基づいて、前記操作部に作用している外力を計測し、前記外力に基づいて前記制御目標値に対する制限値(ω)を設定し、前記制限値によって制限された前記制御目標値(ω)に基づいて前記同期電動機を制御する。
【0010】
この態様によれば、制御装置が制御目標値に対する制限値を設定し、制限値によって制限された制御目標値に基づいて同期電動機を制御することにより、操作部に外力が作用したときに操作部が過大な力を発生しない。これにより、操作部が外力を安全にいなすことができる。操作部に外力が作用したときには、同期電動機が復元力を操作部に作用させる内在ばねとして機能する。これによっても外力を安全にいなすことができる。また、制御装置が制限値によって制御目標値を制限することは、操作部に対する力制御の実行と同義であり、位置制御から力制御への切り替えが円滑に行われる。更に、外力をいなすために物理的な弾性部材を配備する必要がないため、アクチュエータを大型化及び重量化させる必要がない。
【0011】
上記の態様において、前記制御装置(5)は、前記目標位置(θ)と前記同期電動機(4)の作動位置(θ)との差(Δθ)に基づいて、前記制御目標値として前記同期電動機の目標駆動速度(ω)を設定し、前記作動位置と前記目標駆動速度の積分値(φ)との差(δ)に基づく前記駆動力を前記同期電動機に発生させてもよい。
【0012】
この態様によれば、同期電動機の作動位置が目標位置に追従するように操作部が駆動される。そのため、操作部に外力が作用していないときに、操作部を所望の位置に操作することができる。操作部に外力が作用したときには同期電動機の駆動力が復元力となって外力をいなす。
【0013】
上記の態様において、前記同期電動機(4)は、平行に配置された帯状電極(15)を有する固定子フィルム(11A)と、前記操作部(2B)に連結され、前記固定子フィルムに重なるように配置され、平行に配置された帯状電極(15)を有する移動子フィルム(11B)とを備え、両帯状電極に電圧が印加されたときに静電気力によって前記移動子フィルムが前記固定子フィルムに対してスライドする静電フィルムモータ(10)であってもよい。
【0014】
この態様によれば、静電フィルムモータは移動子フィルムのスライドによって操作部を駆動し、外力が操作部に作用したときには、外力に基づいて制限された制御目標値に応じた駆動力をもって操作部を駆動する。
【0015】
また、上記課題を解決するために本発明のある態様は、同期電動機(4)と、前記同期電動機が同期状態であるときに前記同期電動機の駆動力(F)がゼロになる平衡点の付近で生じる復元力が作用するように前記同期電動機の出力部(19)に接続され、前記同期電動機により駆動される操作部(2B)と、前記同期電動機の目標位置(θ)に関連する制御目標値(ω、φ)に基づいて前記同期電動機を制御する制御装置(5)と、を備えるアクチュエータ(1)の制御方法であって、前記制御装置が、前記同期電動機の目標力(F)と前記同期電動機が発揮している力(F)との偏差(ΔF)に基づいて、前記操作部に作用している外力を計測し、前記外力に基づいて前記制御目標値に対する制限値(ω)を設定し、前記制限値によって制限された前記制御目標値(ω)に基づいて前記同期電動機を制御する。
【0016】
この態様によれば、制御装置が制御目標値に対する制限値を設定し、制限値によって制限された制御目標値に基づいて同期電動機を制御することにより、操作部に外力が作用したときに操作部が過大な力を発生しない。これにより、操作部が外力を安全にいなすことができる。操作部に外力が作用したときには、同期電動機が復元力を操作部に作用させる内在ばねとして機能する。これによっても外力を安全にいなすことができる。また、外力をいなすために物理的な弾性部材を配備する必要がないため、アクチュエータを大型化及び重量化させる必要がない。
【0017】
上記の態様において、前記制御装置(5)が、前記目標位置(θ)と前記同期電動機(4)の作動位置(θ)との差(Δθ)に基づいて、前記制御目標値として前記同期電動機の目標駆動速度(ω)を設定し、前記作動位置と前記目標駆動速度の積分値(φ)との差(δ)に基づく前記駆動力を前記同期電動機に発生させてもよい。
【0018】
この態様によれば、同期電動機の作動位置が目標位置に追従するように操作部が駆動される。そのため、操作部に外力が作用していないときに、操作部を所望の位置に操作することができる。操作部に外力が作用したときには同期電動機の駆動力がばね力となって外力がいなされる。
【発明の効果】
【0019】
以上の態様によれば、大型化及び重量化させることなく、安全に外力をいなすことができるアクチュエータ及びその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態に係るアクチュエータの概略構成図
図2】同期電動機の(A)伸長状態、(B)収縮状態を示す斜視図
図3】静電フィルムモータの動作原理の説明図
図4】同期電動機のばね特性を示すグラフ
図5】アクチュエータの位置制御部を示すブロック図
図6】アクチュエータの力制御部を示すブロック図
図7】アクチュエータの全体構成を示す機能ブロック図
図8】アクチュエータの動作中に操作部が障害物に衝突したときの制御状態を示すタイムチャート
図9】他の形態に係る静電フィルムモータの斜視図
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は実施形態に係るアクチュエータ1の概略構成図である。図1に示すように、アクチュエータ1は、複数のリンク2(2A~2D)と、複数のリンク2を互いに接続する複数の関節3(3A~3C)とを備えている。ここで、図中の左端の第1リンク2Aは移動しないアクチュエータ1の基部をなす。第1リンク2Aには第2リンク2Bが第1関節3Aを介して回動可能に接続されている。第2リンク2Bの第1関節3Aと相反する側には第2関節3Bを介して2つの第3リンク2Cが接続されている。第3リンク2Cは上下に対称になるように動作してよい。第3リンク2Cの第2関節3Bと相反する側の端部のそれぞれには、第3関節3Cを介して第4リンク2Dが接続されている。第4リンク2Dも上下に対称になるように動作してよい。
【0022】
以下では、第2リンク2Bから先の部分が操作部をなすアームであるものとして、第2リンク2Bを動作させるための構造及び制御について説明する。
【0023】
第1リンク2Aには第2リンク2Bを駆動するための駆動源として同期電動機4と同期電動機4を制御する制御装置5とが設けられている。制御装置5は、同期電動機4に供給する電力Aを制御することによって同期電動機4の動作を制御する。図示例では、制御装置5が第1リンク2Aに搭載されているが、制御装置5はアクチュエータ1の他の部位又はアクチュエータ1の基体(リンク2及び関節3)の外部に設けられてもよい。
【0024】
図2は同期電動機4の(A)伸長状態、(B)収縮状態を示す斜視図である。図2に示すように、同期電動機4は、直線駆動型の静電フィルムモータ10により構成されている。他の例では、同期電動機4は回転駆動式の電磁モータにより構成されてもよい。
【0025】
静電フィルムモータ10は、複数の電極フィルム11を有している。電極フィルム11は、例えばFPC(Flexible Printed Circuits;フレキシブル基盤)であってよい。電極フィルム11は、絶縁液12と共にモータパック13に封入されていてもよく、モータパック13に封入されていなくてもよい。絶縁液12は、例えば、3M社製のフロリナート(Fluorinert)(登録商標)FC-77であってよく、他のものであってもよい。
【0026】
静電フィルムモータ10は、図中左側に5枚の電極フィルム11、右側に5枚の電極フィルム11を備えている。左側の電極フィルム11及び右側の電極フィルム11は、互いに重なるように交互に配置されている。図2(A)の伸長状態では、左右の電極フィルム11の重なる部分の面積は狭く、図2(B)の収縮状態では、左右の電極フィルム11の重なる部分の面積は広い。各電極フィルム11の大きさは、例えば20×80mmであってよい。図に示すように、電極フィルム11の長手方向は静電フィルムモータ10の伸縮方向に一致する。
【0027】
左右の電極フィルム11の重なりは、図2(A)の伸長状態において電極フィルム11の長手方向に例えば30mmであってよく、図2(B)の収縮状態において長手方向に例えば50mmであってよい。静電フィルムモータ10の外形は、伸長状態において例えば130×30×10mm、収縮状態において例えば110×30×10mmであってよい。左右一方の5枚の電極フィルム11は、モータケースに固定され、固定子をなす。左右他方の5枚の電極フィルム11は、モータケースに移動可能に設けられ、移動子(スライダ)をなす。
【0028】
これらの電極フィルム11に、三相の交流電圧(例えば1600Vの駆動電圧)が所定の周波数をもって印加されると、電極フィルム11に静電引力が生じる。静電引力によって電極フィルム11が相対移動することにより、静電フィルムモータ10は図2(A)の伸長状態と図2(B)の収縮状態との間で変化する。その結果、静電フィルムモータ10の長手方向の長さが110mm~130mmの間で変化する。このように本実施形態では、静電フィルムモータ10は、収縮状態と伸長状態との間で20mm伸縮する。
【0029】
図3は静電フィルムモータ10の動作原理の説明図である。図3に示すように、静電フィルムモータ10は、静電フィルムモータ10の固定子をなす電極フィルム11(以下、固定子フィルム11Aという)及び、移動子をなす電極フィルム11(以下、移動子フィルム11Bという)を有する。固定子フィルム11A及び移動子フィルム11Bは共に、3相に結線された互いに平行な帯状電極15を有し、表面を絶縁膜16により覆われている。固定子フィルム11Aの帯状電極15の配置間隔及び移動子フィルム11Bの帯状電極15の配置間隔は互いに同一である。
【0030】
本実施形態では、固定子フィルム11A及び移動子フィルム11Bに、U相、V相、W相からなる3相の電力線17が接続順を逆向きにして1つの交流電源18から接続されている。両電極フィルム11に1つの3相正弦波が逆向きに印加されることにより、固定子フィルム11A及び移動子フィルム11Bには、逆向きに進行する正弦波状の電位分布が発生する。これらの2つの電位分布の間に働く静電気力によって静電フィルムモータ10は駆動される(1周波数法)。静電フィルムモータ10は同期モータであり、同期速度uは、印加する3相正弦波の周波数をfとし、両帯状電極15のピッチをpとして、下式(1)により表される。
=6pf ・・・(1)
【0031】
他の実施形態では、それぞれ周波数を設定可能な2つの交流電源18が用いられてもよい。固定子フィルム11Aの帯状電極15は交流電源18の一方に接続され、移動子フィルム11Bの帯状電極15は交流電源18の他方に接続される。この場合、U相、V相、W相からなる各3相の電力線17が同じ接続順で対応する電極フィルム11に接続される。周波数が異なる2つの3相正弦波が固定子フィルム11A及び移動子フィルム11Bに印加されることにより、フィルムモータが駆動される(2周波数法)。
【0032】
図1に戻り、静電フィルムモータ10は移動子(移動子フィルム11B)に接続された出力部19を有している。出力部19は移動子によって図中の左右方向にスライド駆動される。静電フィルムモータ10は第1リンク2Aに設けられ、静電フィルムモータ10の出力部19は変速機構を介することなく第2リンク2Bに接続されている。静電フィルムモータ10の出力部19は、例えば可撓性を有するケーブル又はベルトとそれをガイドするガイドスリーブとを備えたケーブルやプッシュプル可能なバーなどによって構成されてよい。静電フィルムモータ10の出力部19は、変形可能に構成されており、第1関節3Aの回転軸からオフセットした位置を通過し、先端19aにおいて第2リンク2Bに固定されている。バー等が押し引きされることにより、第2リンク2Bが第1関節3Aの回転軸回りに回転駆動される。
【0033】
他の例では、静電フィルムモータ10の出力部19は、ループ状に配置されたワイヤやチェーンによって構成されてもよい。この場合、静電フィルムモータ10の出力部19は、例えば第1関節3Aと同軸に第2リンク2Bに固定された駆動プーリや駆動スプロケットに巻き掛けられるとよい。
【0034】
或いは、同期電動機4が回転駆動式の電磁モータにより構成されている場合、電磁モータは第1関節3Aと同軸に設けられてよい。或いは、電磁モータは第1関節3Aから離間した位置に配置されてもよい。電磁モータが第1関節3Aと同軸に設けられる場合、電磁モータのケースは第1リンク2Aに固定され、電磁モータの出力軸は変速機構を介することなく第2リンク2Bの回動軸上に配置されて第2リンク2Bに直接接続されるとよい。電磁モータが第1関節3Aから離間した位置に配置される場合、電磁モータの出力軸と第2リンク2Bとは、変速機能を有しない動力伝達機構を介して接続されるとよい。
【0035】
このようにアクチュエータ1は、静電フィルムモータ10を用いて第2リンク2Bを駆動する静電フィルムアクチュエータとして構成されている。そして、静電フィルムモータ10の出力部19が第2リンク2Bに直接又は変速機構を介さずに接続されることにより、静電フィルムモータ10の出力は第2リンク2Bに直接作用し、第2リンク2Bに作用する外力は静電フィルムモータ10に直接作用する。
【0036】
制御装置5は、計画した軌道からアーム(第2リンク2Bから先の部分)のダイナミクスを計算してアームの駆動に必要な力Ftaskを求め、そこにマージンFを足してアームの駆動に必要な駆動力Fを算出する。駆動力Fに基づいて、制御装置5は静電フィルムモータ10に印加する電圧振幅を算出する。
【0037】
図4は同期電動機4のばね特性を示すグラフである。図4に示すように、グラフの横軸は位相差δ(=φ-θ)を示し、グラフの縦軸は同期電動機4の駆動力Fを示している。同期電動機4の駆動力Fは、電力A、同期電動機4の作動位置θ及び移動子の正弦波位相φ(制御目標値)を用いて、下式(2)により表される。
F=κ(A)sin(φ-θ) ・・・(2)
ただし、κ(A):最大推力[N]である。
【0038】
最大推力κ(A)は、電力Aを変数とする力の次元の推力係数である。電力Aが調整されることにより、最大推力κ(A)が変化する。例えば、同期電動機4が静電モータである場合(アクチュエータ1が静電フィルムアクチュエータである場合)、電力Aは同期電動機4に印加される最大駆動電圧V(電圧振幅)である。一方、同期電動機4が電磁モータである場合、電力Aは同期電動機4に流れる最大駆動電流である。最大推力κ(A)は、下式(3)に示されるように最大駆動電圧Vの2乗に比例する。
κ(A)=kc・V
ただし、kc:係数である。
【0039】
上式(2)からわかるように、同期電動機4の駆動力Fは、位相差δに応じた正弦波として表される。図4に示されるように、アクチュエータ1に外力(負荷)がないときには、位相差δがπにある状態で同期電動機4が同期状態になる。すなわち、平衡点が正弦波上の位相差δ=π且つ駆動力F=0の位置にある。アクチュエータ1の操作部である第2リンク2Bが外力(負荷)を受けると、平衡点はπから正弦波上を移動し、位相差δが外力に応じた値となる位置へ変位する。同期電動機4は、平衡点を変位させた位置に維持しながら、同期状態、すなわち同期駆動した状態になる。例えば、同期電動機4の駆動時において位相差δがπ/2である状態は、同期電動機4が同期駆動しながら最大限の外力を受けている状態である。
【0040】
つまり、平衡点が位相差δ:πの位置からずれ、位相差δにπからの差が生じると、位相差δをπに戻す力、すなわちπからの差を発生させた移動子を位相差δ:πの位置に復帰させる力(以下、復元力という)として駆動力Fが生じる。このように同期電動機4は、ばねのように作用する機能(以下、内在ばねという)を有している。位相差δ:πの位置における、駆動力Fを示す正弦波の接線の傾きは、同期電動機4の内在ばねのばね係数に相当する。
【0041】
一方、外力が駆動力Fの最大値を超えると、位相差δがπ/2よりも小さく、或いは3/2・πよりも大きくなり、内在ばねのばね力で移動子を位相差δ:πの位置に復帰させることが困難になる。つまり、同期電動機4は同期駆動を維持できなくなり、脱調する。なお、脱調は、同期電動機4に対する駆動電力の位相を示す正弦波位相φと移動子の移動状態を示す作動位置θとの同期が失われた状態である。
【0042】
駆動力Fの最大値を規定する最大推力κ(A)は、電力Aによって設定され、脱調を起こさせることによって同期電動機4の駆動力Fを制限する。すなわち、最大推力κ(A)は、操作部である第2リンク2Bの最大トルクを制限するトルクリミット値であり、所定のマージンFを超える外力を第2リンク2Bが受けたときに同期電動機4が脱調を起こし得るように制御装置5により設定される。
【0043】
図5はアクチュエータ1の位置制御部20を示すブロック図である。図5に示すように、アクチュエータ1の位置制御部20は、外部から、又は予め設定された動作を第2リンク2Bに実行させるべく制御装置5に設けられたプログラム機能部から、目標位置θを与えられる。目標位置θは作動位置θの目標位置軌道に基づいて算出される。位置制御部20は目標位置θに基づいて同期電動機4(図5中のモータ部27)を制御する。
【0044】
制御装置5は、演算処理装置(CPU、MPU等のプロセッサ)、記憶装置(ROM、RAM等のメモリ)を備え、リンク動作制御に必要な各種処理を実行するように構成されたコンピュータからなる。すなわち、制御装置5は、演算処理装置(プロセッサ)が、記憶装置(メモリ)から必要なデータ及びソフトウェアを読み取り、ソフトウェアに従って所定の演算処理を実行するようにプログラムされている。制御装置5は1つのハードウェアとして構成されていてもよく、複数のハードウェアからなるユニットとして構成されていてもよい。
【0045】
位置制御部20は、機能部として、第1減算器21、位置制御器22、第1積分器23A、第2減算器24、第1制御対象ブロック25A及び第1プラントブロック26Aを有する。第2減算器24、第1制御対象ブロック25A及び第1プラントブロック26Aは、同期電動機4のモデルに相当するモータ部27を構成する。モータ部27は、同期電動機4の作動位置θを出力する。
【0046】
第1減算器21は、目標位置θから作動位置θを減じ、位置差Δθ(=θ-θ)を算出する。位置制御器22は、位置差Δθに基づいて同期電動機4の角周波数ω(制御目標値である目標駆動速度)を設定する。例えば、位置制御器22は、位置差Δθに比例ゲインKpを乗じることによって角周波数ωを算出する。或いは、位置制御器22は、位置差Δθに比例ゲインKpを乗じた上で作動位置θの微分項を与え、下式(3)により角周波数ωを算出してもよい。
ω=Kp(θ-θ)-Kd・dθ/dt ・・・(3)
ただし、Kd:微分ゲインである。
【0047】
第1積分器23Aでは、角周波数ωが積分されて移動子の正弦波位相φ(制御目標値である目標位相)として出力される。第2減算器24では、第1積分器23Aから出力された正弦波位相φから、モータ部27の作動位置θが減じられて位相差δが出力される。
【0048】
第1制御対象ブロック25Aでは、位相差δ及び電力A(本実施形態では電圧振幅)を入力として、上式(2)で示される駆動力Fが出力される。
【0049】
第1プラントブロック26Aはモータ部27の出力ブロックをなしている。第1プラントブロック26Aでは、駆動力Fが出力されると、同期電動機4の作動位置θが出力される。このようにしてアクチュエータ1の位置制御部20では、同期電動機4の位置制御が行われる。
【0050】
図6はアクチュエータ1の力制御部30を示すブロック図である。図6に示すように、アクチュエータ1の力制御部30は、外部から、又は予め設定された動作を第2リンク2Bに実行させるべく制御装置5に設けられたプログラム機能部から、目標駆動力Fを与えられる。目標駆動力Fは駆動力Fの目標力軌道に基づいて算出される。力制御部30は目標駆動力Fに基づいて同期電動機4を制御する。なお、同期電動機4が回転駆動式である場合、力制御部30はトルク制御部として構成され、駆動力Fは駆動トルクTとして扱われる。
【0051】
力制御部30は、機能部として、第3減算器31、力制御器32、第2積分器23B、第2減算器24、第2制御対象ブロック25B及び第2プラントブロック26Bを有する。第2減算器24、第2制御対象ブロック25B及び第2プラントブロック26Bは、同期電動機4のモデルに相当するモータ部27を構成する。モータ部27は、同期電動機4の駆動力Fを出力する。
【0052】
第3減算器31は、目標駆動力Fから駆動力Fを減じ、駆動力差ΔF(=F-F)を算出する。操作部である第2リンク2Bの負荷が大きい場合、駆動力差ΔFは小さな値になり、第2リンク2Bの負荷が小さい場合、駆動力差ΔFは大きな値になる。つまり、第3減算器31は、駆動力差ΔFを算出することで、操作部に作用している外力を計測する。
【0053】
力制御器32は、駆動力差ΔFに基づいて同期電動機4の角周波数ω(目標駆動速度)を設定する。例えば、力制御器32は、駆動力差ΔFに比例ゲインKpを乗じることによって角周波数ωを算出する。或いは、力制御器32は、駆動力差ΔFに比例ゲインKpを乗じた上で駆動力Fの微分項を与え、下式(4)により角周波数ωを算出してもよい。
ω=Kp(F-F)-Kd・dF/dt ・・・(4)
ただし、Kd:微分ゲインである。
【0054】
第2積分器23Bでは、角周波数ωが積分されて移動子の正弦波位相φとして出力される。第2減算器24では、第2積分器23Bから出力された正弦波位相φから、モータ部27の第2プラントブロック26Bから出力される作動位置θが減じられて位相差δが出力される。
【0055】
第2制御対象ブロック25Bはモータ部27の出力ブロックをなしている。第2制御対象ブロック25Bでは、位相差δ及び電力Aを入力として、上式(2)で示される駆動力Fが出力される。
【0056】
第2プラントブロック26Bでは、駆動力Fが出力されると、同期電動機4の作動位置θが出力される。このようにしてアクチュエータ1の力制御部30では、同期電動機4の力制御が行われる。
【0057】
図7はアクチュエータ1の全体構成を示す機能ブロック図である。アクチュエータ1は、図5に示す位置制御部20及び図6に示す力制御部30を一体に備えたものと同様の機能を有する。図7のアクチュエータ1では、制御目標値である角周波数ωが力制御の角周波数ωで制限される。上記の説明において重複する機能を有する要素は1つの要素として示されている。なお、図5及び図6では、第1制御対象ブロック25A及び第2制御対象ブロック25Bに入力される電力Aが示されているが、図7では制御対象ブロック25に入力される電力Aは省略されている。
【0058】
図7に示すように、アクチュエータ1の制御装置5は、目標位置θ及び目標駆動力Fを与えられ、位置制御及び力制御を並行して行いつつ一方の制御目標値を選択し、1つの作動位置θを出力する。
【0059】
アクチュエータ1は、第1減算器21、位置制御器22、角周波数制限部38、積分器23、第2減算器24、制御対象ブロック25、プラントブロック26、第3減算器31及び力制御器32を有する。第1減算器21、位置制御器22、第3減算器31及び力制御器32は、図5及び図6を参照して説明したものと同一である。位置制御器22は同期電動機4の角周波数ωを設定し、力制御器32は同期電動機4の角周波数ωを設定する。
【0060】
角周波数制限部38は、位置制御器22により設定された角周波数ω及び力制御器32により設定された角周波数ωに基づいて、制限された角周波数ωを算出する。角周波数ωがゼロよりも大きい場合の具体例を以下に説明する。角周波数制限部38は、力制御器32により設定された角周波数ωが位置制御器22により設定された角周波数ω以上である場合、位置制御器22により設定された角周波数ωをそのまま、制限された角周波数ωとして出力する。一方、力制御器32により設定された角周波数ωが位置制御器22により設定された角周波数ωよりも小さい場合、角周波数制限部38は、力制御器32により設定された角周波数ωを制限された角周波数ωとして出力する。
【0061】
つまり、位置制御で算出される角周波数ωが力制御器32で算出される角周波数ωよりも小さい場合、より小さい位置制御の角周波数ωがモータ制御のための角周波数ωに採用される。一方、外力や慣性力の影響によって同期電動機4が発揮する駆動力Fが大きくなって駆動力差ΔF(=F-F)が小さくなると、モータ制御のための角周波数ωが力制御の角周波数ωによって制限される。言い換えれば、位置制御の角周波数ωと力制御の角周波数ωとのうち、小さい方の値がモータ制御のための角周波数ωに採用される。
【0062】
角周波数制限部38が出力した角周波数ωは積分器23によって積分され、正弦波位相φとして出力される。上記同様に第2減算器24では、第1積分器23Aから出力された正弦波位相φから、モータ部27の作動位置θが減じられて位相差δが出力される。
【0063】
制御対象ブロック25では、位相差δ及び電力Aに基づいて上式(2)で示される駆動力Fが出力される。プラントブロック26は、モータ部27の出力ブロックをなしている。プラントブロック26では、駆動力Fが出力されると、同期電動機4の作動位置θが出力される。このようにしてアクチュエータ1の制御装置5では、位置制御及び力制御が並行して行われ、角周波数ω、ωの低値選択によって位置制御及び力制御が切り替えられながら同期電動機4が制御される。
【0064】
このように制御装置5は、目標位置θと作動位置θとの位置差Δθに基づいて、制御目標値として角周波数ωを設定し、作動位置θと角周波数ωの積分値である正弦波位相φとの位相差δに基づく駆動力Fを同期電動機4に発生させる。これにより、同期電動機4の作動位置θが目標位置θに追従するように第2リンク2Bが駆動される。そのため、第2リンク2Bに外力が作用していないときに、第2リンク2Bが所望の位置に操作される。第2リンク2Bに外力が作用したときには同期電動機4の駆動力Fが復元力となって外力をいなす。
【0065】
また制御装置5は、同期電動機4の目標駆動速度である角周波数ωを設定し、同期電動機4の作動位置θと角周波数ωの積分値である正弦波位相φとの差である位相差δに基づく駆動力Fを同期電動機4に発生させる。そのため、制御装置5は、同期電動機4が脱調を起こすまでは位置制御によって同期電動機4の作動位置θを制御できる。一方、高速動作中に制限値である最大推力κ(A)を超える過負荷が第2リンク2Bに作用した場合には、位置制御から力制御に切り替わるまでの間、制御装置5が同期電動機4に脱調を起こさせることによって過負荷をいなすことができる。
【0066】
積分器23の前側に配置された角周波数制限部38が角周波数ω、ωの低値選択を行う代わりに、他の実施形態では、低値選択を行う制限部が積分器23の後ろ側に配置されてもよい。この場合、制限部は、位置制御で算出される正弦波位相φ(角周波数ωの積分値)と力制御で算出される正弦波位相φ(角周波数ωの積分値)との低値選択によって位置制御及び力制御を切り替えてよい。
【0067】
図8はアクチュエータ1の動作中に操作部が高速で障害物に衝突したときの制御状態を示すタイムチャートである。図8に示すように、図8(A)は同期電動機4の作動位置θを示し、図8(B)は角周波数制限部38から出力される角周波数ωを示し、図8(C)は同期電動機4の駆動力Fを示している。なお、図8(A)の作動位置θは、操作部である第2リンク2Bの位置(回動位置)に対応しており、図8(A)では所定の作動位置θに天井又は壁があることがハッチングにより模式的に示されている。
【0068】
図8(A)に示されるように、時点t1において、制御装置5は第2リンク2Bが天井又は壁に向かうように同期電動機4の目標位置θを設定している。制御装置5は、図8(C)に示されるように所定の目標駆動力Fを与えられている。このとき、第2リンク2Bの負荷は小さく、駆動力差ΔF(=F-F、図6参照)が大きい一方、図8(A)に示されるように位置差Δθ(=θ-θ)が小さい。そのため、図8(B)に示されるように、駆動力差ΔFに基づく角周波数ωは位置差Δθ基づく角周波数ωよりも大きい。従って、制御装置5は位置制御の角周波数ωをモータ制御のための角周波数ωに採用してモータを制御する位置制御を実行する。第2リンク2Bの負荷が小さいため、図8(A)に示されるように、実線で示される同期電動機4の作動位置θは破線で示される目標位置θに追従するように変化する。
【0069】
図8(A)に示されるように、時点t2において第2リンク2Bが天井又は壁に衝突すると、同期電動機4の作動位置θは所定の作動位置θで一定になり、位置差Δθ(=θ-θ)が徐々に大きくなる。これにより、図8(B)に示されるように、位置差Δθに基づく角周波数ωは徐々に大きくなる。一方、図8(C)に示されるように、衝突によって第2リンク2Bの負荷は急激に大きくなる。そのため、図8(B)に示されるように、駆動力差ΔFに基づく角周波数ωは急激に小さくなる。また、衝突によって第2リンク2Bの負荷が大きくなることにより、位相差δが大きくなり、同期電動機4が内在ばねとして機能して位相差δを小さくする向きのばね力を発生する。
【0070】
時点t2から時点t3にかけて、同期電動機4に供給される駆動電圧の位相と移動子の移動との同期が失われた状態である脱調が発生する。すなわち、制御装置5は、同期電動機4が脱調を起こし得るように、同期電動機4の駆動力Fに対する制限値である最大推力κ(A)を設定している。これにより、アクチュエータ1の第2リンク2Bが過度な外力を受けたときに、外力が第2リンク2Bによって安全にいなされる。
【0071】
なお、操作部が高速で駆動されているとき以外には、図8(A)の位置差Δθ(=θ-θ)が大きくなる前に図8(C)の駆動力Fが大きくなり、図8(B)の駆動力差ΔFに基づく角周波数ωが急激に大きくなる。そのため、脱調が発生することなく、制御装置5の制御が位置制御から力制御に切り替えられる。
【0072】
駆動力差ΔFに基づく角周波数ωは、時点t3において位置差Δθに基づく角周波数ωに一致し、その後位置差Δθに基づく角周波数ωよりも小さくなる。これにより、モータ制御のための角周波数ωが力制御の角周波数ωによって制限される。すなわち、時点t3までは制御装置5は位置制御によって同期電動機4を制御し、時点t3において制御を位置制御から力制御に切り替え、その後は力制御によって同期電動機4を制御する。
【0073】
つまり、制御装置5は、同期電動機4の目標駆動力Fと同期電動機4が発揮している駆動力Fとの偏差である駆動力差ΔFに基づいて、第2リンク2Bに作用している外力を計測する。そして制御装置5は、外力の増大に伴って減少する角周波数ωに基づいて角周波数ωに対する制限値である角周波数ωを設定し、角周波数ωによって制限された角周波数ωに基づいて同期電動機4を制御する。そのため、第2リンク2Bに外力が作用したときに第2リンク2Bが過大な力を発生しない。これにより、第2リンク2Bは外力を安全にいなすことができる。第2リンク2Bに外力が作用したときには、同期電動機4が復元力を第2リンク2Bに作用させる内在ばねとして機能する。これによっても外力が安全にいなされる。また、制御装置5が制限値である角周波数ωによって制御目標値である角周波数ωを制限することは、上記のように第2リンク2Bに対する力制御の実行と同義である。つまり、位置制御から力制御への切り替えが円滑に行われる。更に外力をいなすために物理的な弾性部材を配備する必要がないため、アクチュエータ1が大型化及び重量化せずに済む。
【0074】
時点t3以降、同期電動機4の駆動力Fが目標駆動力Fに近付くことから、駆動力差ΔFに基づく角周波数ω及び角周波数ωは小さくなる。これにより、第2リンク2Bが過大な力を発生することが抑制される。
【0075】
図8(C)に示されるように、時点t4において、同期電動機4の駆動力Fは目標駆動力Fに一致する。すると、図8(B)に示されるように、駆動力差ΔFに基づく角周波数ω及びこれによって制限される角周波数ωはゼロになる。第2リンク2Bは、天井又は壁に対して目標駆動力Fをもって当接し、静止した状態になる。
【0076】
その後、図8(A)に示されるように、与えられる目標位置θが小さくなってゆくと、時点t5において目標位置θは所定の作動位置θに一致し、その後所定の作動位置θよりも小さくなる。目標位置θが所定の作動位置θに一致すると、位置差Δθがゼロになることから、図8(B)に示されるように、位置差Δθに基づく角周波数ωがゼロになる。駆動力差ΔFに基づく角周波数ωは、位置差Δθに基づく角周波数ωよりも大きくなり、制限値として用いられない。そのため、制御装置5は、同期電動機4の制御を、位置制御から力制御に切り替え、時点t5以降、位置差Δθ基づく位置制御の角周波数ωをモータ制御のための角周波数ωに採用する。
【0077】
図8(A)に示されるように、時点t6において第2リンク2Bが天井又は壁から離れると、位置差Δθ(=θ-θ)が小さくなることから、図8(B)に示されるように、位置差Δθに基づく角周波数ωは若干大きくなり、一定になる。図8(C)に示されるように、同期電動機4の駆動力Fは時点t5から時点t6にかけて小さくなり、時点t6においてゼロになる。駆動力Fが小さくなると、図8(B)に示されるように、駆動力差ΔFに基づく角周波数ωは大きくなる。
【0078】
図3に示すように、本実施形態の同期電動機4は、帯状電極15に電圧が印加されたときに静電気力によって移動子フィルム11Bが固定子フィルム11Aに対してスライドする静電フィルムモータ10により構成されている。そのため、静電フィルムモータ10は、移動子フィルム11Bのスライドによって第2リンク2B(図1)を駆動し、脱調を起こすことによって第2リンク2Bの過負荷をいなす。また、静電フィルムモータ10は、外力が第2リンク2Bに作用したときには、外力に基づいて制限された制御目標値に応じた駆動力Fをもって第2リンク2Bを駆動する。
【0079】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。上記実施形態では、第2リンク2Bがアクチュエータ1の操作部をなしているが、他のリンク2が操作部をなしてもよい。また、同期電動機4は第1リンク2Aに設けられる必要はなく、アクチュエータ1の他のリンク2又は関節3或いはそれらの外部に設けられてもよい。
【0080】
上記実施形態の同期電動機4には、図2に示す伸縮型の静電フィルムモータ10が用いられているが、静電フィルムモータ10は伸縮型に限られるものではない。例えば、静電フィルムモータ10は、移動子と固定子との重なり面積が一定の構造を有していてもよい。具体的には、図9に示すように、静電フィルムモータ10の固定子フィルム11Aは、図中に矢印で示す移動子フィルム11Bの移動方向について、移動子フィルム11Bの寸法と移動子フィルム11Bの変位量との和よりも大きな長さを有していてもよい。静電フィルムモータ10がこのような構成を有することにより、移動子フィルム11Bがどの位置にあっても一定の駆動力Fが出力される。
【0081】
また、上記実施形態に示す各構成要素は全てが必須ではなく、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 :アクチュエータ
2 :リンク
2B :第2リンク(操作部)
3 :関節
3A :第1関節
4 :同期電動機
5 :制御装置
10 :静電フィルムモータ(同期電動機の一例)
11 :電極フィルム
11A :固定子フィルム
11B :移動子フィルム
15 :帯状電極
19 :出力部
20 :位置制御部
30 :力制御部
38 :角周波数制限部
A :駆動力制限値
F :駆動力
:目標駆動力
ΔF :駆動力差
Δθ :位置差
δ :位相差
θ :作動位置
θ :目標位置
φ :正弦波位相
ω :角周波数
ω :角周波数
ω :角周波数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9