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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120723
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】第二高調波発生素子及び光源装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/37 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
G02F1/37
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027730
(22)【出願日】2023-02-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (証明書1)令和4年2月25日に、南部誠明、田中康教、森勇介、吉村政志、市川修平、藤原康文、石井良太、川上養一、上向井正裕、谷川智之、及び片山竜二が、第69回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集の第24頁にて、南部誠明、田中康教、森勇介、吉村政志、市川修平、藤原康文、上向井正裕、谷川智之及び片山竜二が発明した、SrB▲4▼O▲7▼微小共振器を用いた深紫外第二高調波発生デバイスについて公開した。 (証明書2)令和4年3月24日に、南部誠明が、第69回応用物理学会春季学術講演会にて、南部誠明、田中康教、森勇介、吉村政志、市川修平、藤原康文、上向井正裕、谷川智之及び片山竜二が発明した、SrB▲4▼O▲7▼微小共振器を用いた深紫外第二高調波発生デバイスについて公開した。 (証明書3)令和4年5月23日に、南部誠明、矢野岳人、梅田颯志、横山尚生、本田啓人、田中康教、前垣雄隆、森勇介、吉村政志、小林周平、市川修平、藤原康文、石井良太、川上養一、上向井正裕、谷川智之及び片山竜二が、Optics Express18628,Vol.30,No.11の18628‐18637頁にて、南部誠明、矢野岳人、梅田颯志、横山尚生、本田啓人、田中康教、前垣雄隆、森勇介、吉村政志、小林周平、市川修平、藤原康文、上向井正裕、谷川智之及び片山竜二が発明した、SrB▲4▼O▲7▼微小共振器を用いた深紫外第二高調波発生デバイスについて公開した。 (証明書4)令和4年5月12日に、南部誠明、矢野岳人、梅田颯志、横山尚生、本田啓人、田中康教、前垣雄隆、森勇介、吉村政志、小林周平、市川修平、藤原康文、石井良太、川上養一、上向井正裕、谷川智之及び片山竜二が、Optics Express18628,Vol.30,No.11の18628‐18637頁のSupplemental documentにて、南部誠明、矢野岳人、梅田颯志、横山尚生、本田啓人、田中康教、前垣雄隆、森勇介、吉村政志、小林周平、市川修平、藤原康文、上向井正裕、谷川智之及び片山竜二が発明した、SrB▲4▼O▲7▼微小共振器を用いた深紫外第二高調波発生デバイスにおける実験装置の詳細とSHGの偏光特性について公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (証明書1)令和4年2月25日に、南部誠明、田中康教、森勇介、吉村政志、市川修平、藤原康文、石井良太、川上養一、上向井正裕、谷川智之、及び片山竜二が、第69回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集の第24頁にて、南部誠明、森勇介、吉村政志、上向井正裕、谷川智之及び片山竜二が発明した、SrB▲4▼O▲7▼微小共振器を用いた深紫外第二高調波発生デバイスについて公開した。 (証明書2)令和4年3月24日に、南部誠明が、第69回応用物理学会春季学術講演会にて、南部誠明、森勇介、吉村政志、上向井正裕、谷川智之及び片山竜二が発明した、SrB▲4▼O▲7▼微小共振器を用いた深紫外第二高調波発生デバイスについて公開した。 (証明書3)令和4年5月23日に、南部誠明、矢野岳人、梅田颯志、横山尚生、本田啓人、田中康教、前垣雄隆、森勇介、吉村政志、小林周平、市川修平、藤原康文、石井良太、川上養一、上向井正裕、谷川智之及び片山竜二が、Optics Express18628,Vol.30,No.11の18628‐18637頁にて、南部誠明、森勇介、吉村政志、上向井正裕、谷川智之及び片山竜二が発明した、SrB▲4▼O▲7▼微小共振器を用いた深紫外第二高調波発生デバイスについて公開した。 (証明書4)令和4年5月12日に、南部誠明、矢野岳人、梅田颯志、横山尚生、本田啓人、田中康教、前垣雄隆、森勇介、吉村政志、小林周平、市川修平、藤原康文、石井良太、川上養一、上向井正裕、谷川智之及び片山竜二が、Optics Express18628,Vol.30,No.11の18628‐18637頁のSupplemental documentにて、南部誠明、森勇介、吉村政志、上向井正裕、谷川智之及び片山竜二が発明した、SrB▲4▼O▲7▼微小共振器を用いた深紫外第二高調波発生デバイスにおける実験装置の詳細とSHGの偏光特性について公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉池 勝大
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一樹
(72)【発明者】
【氏名】十川 博行
(72)【発明者】
【氏名】片山 竜二
(72)【発明者】
【氏名】谷川 智之
(72)【発明者】
【氏名】上向井 正裕
(72)【発明者】
【氏名】森 勇介
(72)【発明者】
【氏名】吉村 政志
(72)【発明者】
【氏名】南部 誠明
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA08
2K102AA32
2K102BA18
2K102BB02
2K102BC01
2K102CA28
2K102DA01
2K102DB01
2K102DD06
2K102EB02
2K102EB08
2K102EB10
2K102EB20
2K102EB30
(57)【要約】
【課題】
基本波の紫外光への高い変換効率を有しかつ製造が容易な第二高調波発生素子及び光源装置を提供する。
【解決手段】
基板と、基板上に形成された第1の多層膜反射鏡と、第1の多層膜反射鏡上に設けられ、所定の波長を有する基本波を受けて紫外領域の波長を有する第二高調波を発するSrB結晶からなる第二高調波発生層と、第二高調波発生層上に形成され、第1の多層膜反射鏡との間で共振器を構成する第2の多層膜反射鏡と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された第1の多層膜反射鏡と、
前記第1の多層膜反射鏡上に設けられ、所定の波長を有する基本波を受けて紫外領域の波長を有する第二高調波を発するSrB結晶からなる第二高調波発生層と、
前記第二高調波発生層上に形成され、前記第1の多層膜反射鏡との間で共振器を構成する第2の多層膜反射鏡と、
を有することを特徴とする第二高調波発生素子。
【請求項2】
前記第二高調波は、240nm以下の波長を有することを特徴とする請求項1に記載の第二高調波発生素子。
【請求項3】
前記第1の多層膜反射鏡と前記第二高調波発生層との間には、前記第1の多層膜反射鏡を構成する薄膜ペアのうちの1ペアと厚さのみが異なる構成を有する薄膜層が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の第二高調波発生素子。
【請求項4】
前記第1の多層膜反射鏡及び前記第2の多層膜反射鏡は、HfOからなる薄膜とSiOからなる薄膜とが交互に積層されてなることを特徴とする請求項1に記載の第二高調波発生素子。
【請求項5】
前記第1の多層膜反射鏡及び前記第2の多層膜反射鏡は、MgOからなる薄膜とSiOからなる薄膜とが交互に積層されてなることを特徴とする請求項1に記載の第二高調波発生素子。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の第二高調波発生素子と、
前記基本波を前記第二高調波発生素子の前記第2の多層膜反射鏡の上面又は前記基板の下面に向けて出射するIII-V族窒化物半導体からなるレーザ光源と、
を含む光源装置。
【請求項7】
前記第二高調波発生素子の前記第1の多層膜反射鏡及び前記第2の多層膜反射鏡は、前記第二高調波が前記第2の多層膜反射鏡から外部に出射するように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の光源装置。
【請求項8】
前記基板は透光性を有し、
前記第二高調波発生素子の前記第1の多層膜反射鏡及び前記第2の多層膜反射鏡は、前記基本波が前記基板から前記第1の多層膜反射鏡に入射しかつ前記第二高調波が前記第2の多層膜反射鏡から外部に出射するように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の光源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第二高調波発生素子及びそれを用いた光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非線形光学現象を利用して第二高調波を得る第二高調波発生(Second Harmonic Generation:SHG)デバイスが開示されている。例えば、特許文献1には、1064nmの基本波を出射するレーザ源と疑似位相整合(Quasi Phase Matching:QPM)法によって基本波から波長が532nmの第二高調波及び波長が266nmの第四高調波を得る高調波発生デバイスとを有するレーザシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2022-514745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている高調波発生デバイスを、例えば人体への影響が小さい波長が240nm以下の紫外光を発する除菌用光源として用いる場合、出射する光の波長が短くなるほどデバイスを構成する非線形光学結晶の薄膜化が必要となるため、デバイスの製造が困難となることが問題点として挙げられる。また、高次の高調波となるほど基本波の第二高調波への変換効率が低下するため、得られる光の強度が小さくなってしまうことが問題点として挙げられる。
【0005】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、基本波の紫外光への高い変換効率を有しかつ製造が容易な第二高調波発生素子及び光源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による第二高調波発生素子は、基板と、前記基板上に形成された第1の多層膜反射鏡と、前記第1の多層膜反射鏡上に設けられ、所定の波長を有する基本波を受けて紫外領域の波長を有する第二高調波を発するSrB結晶からなる第二高調波発生層と、前記第二高調波発生層上に形成され、前記第1の多層膜反射鏡との間で共振器を構成する第2の多層膜反射鏡と、を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1に係る光源装置の構成を模式的に示す断面図である。
図2】実施例1に係る光源装置における第二高調波発生素子の断面図である。
図3】実施例1に係る光源装置における第二高調波発生素子の製造工程を示す断面図である。
図4】実施例1に係る光源装置における第二高調波発生素子の製造工程を示す断面図である。
図5】実施例1に係る光源装置における第二高調波発生素子の製造工程を示す断面図である。
図6】実施例2に係る光源装置の構成を模式的に示す断面図である。
図7】実施例2に係る光源装置における第二高調波発生素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施例について図面を参照して具体的に説明する。なお、図面において同一の構成要素については同一の符号を付け、重複する構成要素の説明は省略する。
【実施例0009】
[実施例1に係る光源装置]
図1は、実施例1に係る光源装置100の構成を模式的に示す断面図である。筐体11は、直方体状の筐体であり、1の面11S1において開口部OPを有している。筐体11は、面11S1と面11S1と反対の面11S2との間において、各々が内方に突出している光源装置100内の光源及び光学部材を夫々支持している支持構造11A~11Eを有している。なお、図1中の上下方向が光源装置100の高さ方向である。
【0010】
光源13は、支持構造11Aによって支持されており、III-V族窒化物半導体からなる発光層を有するレーザ光源である。光源13は、図中下方に向けて、基本波としてのピーク波長が440nmの青色光を出射する。光源13の光出射面には出射光を平行光とするコリメートレンズ(図示せず)が設けられている。従って、光源13からは平行光となった励起ビームである光L1が出射される。
【0011】
光学レンズ14は、光L1の光軸OA上に位置するように支持構造11Bによって支持されているレンズである。光学レンズ14は、光源13から出射された光L1のスポット形状を円状に整形するビーム整形素子として機能する。光学レンズ14は、例えば非球面レンズである。
【0012】
集光レンズ16は、光L1の光軸OA上に位置するように支持構造11Cによって支持されているレンズである。集光レンズ16は、光源13から出射された光L1を受けて図中下方に向けて集光する。集光レンズ16は、例えば非球面コンデンサーレンズである。
【0013】
ミラー17は、光L1の光軸OA上に位置しており、光軸OAに対して主面が傾斜するように支持構造11Dによって支持されている透光性を有するミラーである。ミラー17は、青色の波長域の光を透過させ、紫外領域の光を反射させるように構成されている。すなわち、光源13から出射されて集光レンズ16によって集光された光L1はミラー17を透過する。ミラー17は、例えばダイクロイックミラーである。
【0014】
第二高調波発生素子18(以下、SHG素子18とも称する)は、光L1の光軸OA上に位置するように支持構造11Eに貼り付けられて支持されている光学素子である。SHG素子18は、非線形光学現象により、基本波としての所定の波長を有する光を受けて第二高調波としての基本波の1/2の波長を有する光を発する波長変換機能を有する。
【0015】
具体的には、SHG素子18は、光源13から出射された波長が440nmの光L1を受けて波長が220nmの深紫外領域の光L2を発する第二高調波発生層を有する。本実施例において、SHG素子18は、第二高調波発生層にて生じた光L2をミラー17に向けて出射する。
【0016】
拡散板19は、ミラー17によって反射された光が入射するように筐体11の開口部OP内に配されている透明な板状体である。拡散板19は、拡散板19に入射した光を所定の広がり角で拡散させる機能を有する。拡散板19は、例えば受光面に微小な凹凸が設けられたレンズ拡散板である。
【0017】
上述したように、ミラー17は紫外領域の光を反射させる。従って、SHG素子18から出射されてミラー17に入射した光L2は、ミラー17によって反射されて開口部OP内に配された拡散板19に向けて進行する。拡散板19に入射した光L2は、拡散板19によって所定の広がり角で拡散されて筐体11の外部に取り出される。
【0018】
なお、筐体11の開口部OPには、拡散板19に替えて、ミラー17によって反射された光L2をそのまま透過させる透光板を設けてもよく、また、光L2を集光して外部に出射する集光レンズを設ける態様としてもよい。
【0019】
光源装置100は、例えば、拡散板19から出射される深紫外領域の光を利用して、物体の表面を除菌する表面除菌デバイスや空間を除菌する空間除菌デバイス、医療器具を除菌する医療用除菌デバイスなどの除菌用光源として用いられる。
【0020】
なお、光源装置100において、光源13及びその他の光学部材の支持構造11A~11Eによる支持態様はこれに限られず、接着材による貼り付けやねじ等による機械的な固定など他の方法によって支持される態様としてもよい。
【0021】
[実施例1の第二高調波発生素子]
以下に、図2を用いて光源装置100に設けられたSHG素子18について説明する。図2は、図1に示したSHG素子18の構成を示す断面図である。なお、図中上下方向がSHG素子18の高さ方向である。
【0022】
支持基板21は、上面形状が矩形を有する平板状の基板である。支持基板21は、例えばサファイア(Al)や窒化アルミニウム(AlN)やシリコン(Si)などからなる。
【0023】
第1の多層膜反射鏡22は、上面形状が矩形を有し、支持基板21の上面にエポキシ樹脂からなる接着層23を介して設けられている多層膜反射鏡である。第1の多層膜反射鏡22は、屈折率が高い高屈折率膜と当該高屈折率膜よりも相対的に屈折率が低い低屈折率膜とが交互に積層された、いわゆる分布ブラッグ反射器(Distributed Bragg Reflector:DBR)である。
【0024】
第1の多層膜反射鏡22は、支持基板21の上面において、酸化ハフニウム(HfO)からなる高屈折率膜と二酸化ケイ素(SiO)からなる低屈折率膜とが19ペアが交互に積層されて形成されている。例えば、第1の多層膜反射鏡22を構成する高屈折率膜の厚みは38nmであり、低屈折率膜の厚みは99nmである。
【0025】
薄膜層24は、第1の多層膜反射鏡22の上面に亘って形成されており、HfOからなる高屈折率膜とSiOからなる低屈折率膜とが1ペア積層されて構成されている薄膜である。
【0026】
薄膜層24を構成する高屈折率膜及び低屈折率膜の各々は、第1の多層膜反射鏡22を構成する高屈折率膜及び低屈折率膜の各々よりもそれぞれ厚く形成されている。言い換えれば、薄膜層24は、第1の多層膜反射鏡22を構成する薄膜ペアのうちの1ペアと厚さのみが異なっている。例えば、薄膜層24を構成する高屈折率膜の厚みは49nmであり、低屈折率膜の厚みは121nmである。
【0027】
第二高調波発生層25(以下、SHG層25とも称する)は、薄膜層24上に設けられている上面形状が矩形の板状体である。SHG層25は、非線形光学現象を生ずる非線形光学結晶であるホウ酸ストロンチウム(SrB:SBO)結晶からなる。
【0028】
例えば、SHG層25の厚みは約1.55μmであり、周期的な分極、極性の反転構造無しに最大の波長変換効率が得られるコヒーレンス長Lとなっている。なお、SHG層25の厚みはコヒーレンス長Lの奇数の自然数倍とすることもできる。ここで、コヒーレンス長Lは、λωを基本波の波長、nωをSHG層25の基本波に対する屈折率、n2ωをSHG層25の第二高調波に対する屈折率とすると以下の数式1によって表される。
【0029】
【数1】
【0030】
SHG層25を構成するSBO結晶は、互いに直交するa軸、b軸及びc軸の三軸からなる結晶軸を有しかつ当該三軸の長さがそれぞれ異なる斜方晶系の単結晶構造を有している。SBO結晶においてb軸が垂直に通る結晶面であるb面は、SHG層25の上面及び下面に該当する。
【0031】
第2の多層膜反射鏡26は、SHG層25の上面に亘って形成されている多層膜反射鏡である。第2の多層膜反射鏡26は、第1の多層膜反射鏡22と同様に、高屈折率膜と低屈折膜とが交互に積層された、いわゆる分布ブラッグ反射器(DBR)である。
【0032】
第2の多層膜反射鏡26は、SHG層25の上面において、HfOからなる高屈折率膜とSiOからなる低屈折膜とが11ペア積層されて形成されている。例えば、第2の多層膜反射鏡26を構成する高屈折率膜の厚みは51nmであり、低屈折率膜の厚みは89nmである。
【0033】
第1の多層膜反射鏡22及び第2の多層膜反射鏡26は、図中上下方向においてSHG層25を挟むように設けられており、光源13から出射された光L1を第1の多層膜反射鏡22と第2の多層膜反射鏡26との間に閉じ込めて共振させる。
【0034】
第1の多層膜反射鏡22及び第2の多層膜反射鏡26は、青色の波長の光である光L1を第1の多層膜反射鏡22と第2の多層膜反射鏡26との間において反射させるように構成されている。第1の多層膜反射鏡22及び第2の多層膜反射鏡26の光L1に対する透過率はそれぞれ1%以下である。
【0035】
SHG層25と薄膜層24の合計の厚みdは、SHG層25及び薄膜層24の各屈折率に各層の厚みを加味した屈折率をn、第1の多層膜反射鏡22での反射による基本波の位相変化量をΦ1、第2の多層膜反射鏡26での反射による基本波の位相変化量をΦ2、整数をmとした時、以下の数式2を満たすことが好ましい。但し、実用上数式2から値が多少ズレても良い。この場合、発生した前記第二高調波同士の強め合いを最大にするように設定されることが好ましい。
【0036】
【数2】
【0037】
SHG素子18に進行する光L1は、共振器の往復長が基本波の波長の整数倍になっている際に、第2の多層膜反射鏡26を透過してSHG層25内に入射し、第1の多層膜反射鏡22と第2の多層膜反射鏡26との間で共振することでその強度が高められる。
【0038】
また、SHG層25内に入射した光L1は、第1の多層膜反射鏡22と第2の多層膜反射鏡26との間にて繰り返し反射される過程において、SHG層25を通過するたびに第二高調波としての光L2を生じさせ得る。
【0039】
SHG素子18において、第1の多層膜反射鏡22は、紫外波長域の光である光L2を反射させるように構成されており、第1の多層膜反射鏡22の光L2に対する透過率は1%以下である。一方、第2の多層膜反射鏡26は光L2を透過させるように構成されており、第2の多層膜反射鏡26に進行する光L2に対して高い透過率を有する。
【0040】
第1の多層膜反射鏡22及び第2の多層膜反射鏡26の光L1及び光L2に対する透過率が上記のように構成されていることにより、SHG層25にて生じた光L2は、第1の多層膜反射鏡22を透過せずに第2の多層膜反射鏡26のみを透過する。言い換えれば、本実施例において、第2の多層膜反射鏡26の上面は光L1の入射面であり光L2の出射面である。
【0041】
SHG層25にて生じた光L2は、図2に示すように、光L1のうち図中上から下に向かって進む光L11によって生じた光L21と、光L1のうち第1の多層膜反射鏡22によって反射されて図中下から上に向かって進む光L12によって生じた光L22とに分かれる。このうち、光L21は第1の多層膜反射鏡22によって反射されて第2の多層膜反射鏡26を透過し、光L22はそのまま第2の多層膜反射鏡26を透過していく。
【0042】
一般論として、SHG層を基本波が1回通過した時の第二高調波への変換効率ηSHGは、基本波の角周波数をω、基本波のSHG層の屈折率をnω、第二高調波のSHG層の屈折率をn2ω、SHG層の厚みをl、実効非線形光学定数をdeff、基本波の強度をPω、ビーム断面積をA、基本波と第二高調波との波数不整合量をΔkとすると、以下の数式3によって表される。なお、εは真空の誘電率であり、cは光の速度である。
【0043】
【数3】
【0044】
また、SHG層25の内部で発生する第二高調波複素振幅BinはSHG層25の内部に存在する前進基本波複素振幅Aおよび後進基本波複素振幅Aを用いて以下の数式4によって表される。つまり、共振時の波長変換効率については以下に述べる。
【0045】
【数4】
【0046】
数式4において、ωは基本波の角周波数、εは真空の誘電率、Eω及びE2ωはそれぞれ基本波、第二高調波の複素電界振幅、deffは実効非線形光学定数、r 2ωは第1の多層膜反射鏡22の第二高調波に対する複素反射係数、LはSHG層25の厚さ、Φ ω及びΦ ωはそれぞれSHG層25上部端での基本波位相及びSHG層25下部端での基本波位相、β2ωはSHG層25の内部での第二高調波の伝搬定数である。なお、kは係数であり、以下の数式5によって表される。
【0047】
【数5】
【0048】
ここで、SHG層25の内部における前進基本波、後進基本波および第二高調波のパワーをそれぞれP ω、P ω、Pin 2ωとすると、数式4におけるA、A及びBinは、それぞれ以下の数式6、7及び8となる。
【0049】
【数6】
【0050】
【数7】
【0051】
【数8】
【0052】
また、デバイス外部に取り出される第二高調波複素振幅Boutは、第二高調波複素振幅Binを用いて以下の数式9によって表される。ただし、デバイス外部に取り出される第二高調波のパワーをPOUT 2ωとすると以下の数式10となる。
【0053】
【数9】
【0054】
【数10】
【0055】
ここで、r 及びt は、それぞれ第2の多層膜反射鏡26の第二高調波に対する複素反射係数及び複素透過係数である。このとき、入射基本波パワーPωに対して、|BOUT/Pωを最大化する構造をデバイス構造とする。すなわち、実効非線形光学定数deffが大きい材料としてSBO結晶を選定し、その結果、第二高調波のパワーを大きくすることができる。
【0056】
上述した数式3において、「(sin(Δkl/2)/Δkl/2)」との部分は基本波と第二高調波との位相整合状態を表しており、完全に位相整合が達成されている場合にはΔk=0となり値が1となる。また、数式3において、「Pω/A」との部分は光L1のパワー密度を表している。
【0057】
SHG層25は、上述したようにSBO結晶からなり、光源13から出射された光L1が入射されるSHG層25の面、すなわち第2の多層膜反射鏡26の下面と接しているSHG層25の上面は、SBO結晶のb軸が垂直に通る結晶面であるb面である。
【0058】
このb面から光L1を入射することにより、基本波の第二高調波への変換時において、SHG層25におけるSBO結晶の非線形光学定数deffは他の非線形光学結晶よりも大きい値となる。これにより、上述した数式3において基本波の第二高調波への変換効率ηSHGを向上させることができる。
【0059】
本実施例においては、光源13の偏光をSHG層のc軸と平行とすることで、SBO結晶における非線形光学定数deffの値は3.5pm/Vとなる。例えば、他の非線形光学結晶としてのβホウ酸バリウム(βBaB:BBO)結晶の非線形光学定数deffは1.85pm/Vである。
【0060】
また、SBO結晶は、発生させることのできる第二高調波の最短波長、すなわち最短SHG波長が他の非線形光学結晶よりも短くなっている。これにより、SHG層25は、他の非線形光学結晶に比べてより小さい紫外領域の波長の光を出射させることができる。例えば、SBO結晶の最短SHG波長は130nmであり、他の非線形光学結晶としてのBBO結晶の最短SHG波長は205nmである。
【0061】
なお、上述したBBO結晶は、深紫外領域の波長の光、具体的には220nmの波長の光に対して吸収しやすい性質を有する。そのため、本実施例のSHG層25にBBO結晶を用いた場合、光源装置100から得られる光の強度が小さくなり得る。
【0062】
一方、本実施例においてSHG層25に用いているSBO結晶は220nmの波長の光を吸収しにくい。従って、SHG層25にSBO結晶を用いることにより、BBO結晶を用いた際よりも高い強度で220nmの波長の光を出射させることができる。
【0063】
本実施例において、SHG素子18は、薄膜層24及びSHG層25内にて励起ビーム(光L1)のパワー密度を高めた状態で、すなわち上述した数式3における「Pω/A」との部分を高めた状態で当該基本波をSHG層25に入射させることができる。従って、上述した数式3において基本波の第二高調波への変換効率ηSHGを向上させることができる。
【0064】
また、本実施例のSHG素子18においては、薄膜層24を形成しない構造とすることもできるが、第1の多層膜反射鏡22とSHG層25との間に薄膜層24を形成する方が波長変換効率を増大することができる。
【0065】
本実施例のように第1の多層膜反射鏡22及び第2の多層膜反射鏡26によって薄膜層24及びSHG層25を挟む共振器構造を有するSHG素子18は、例えば疑似位相整合(QPM)法を用いたSHG素子と比べると容易に製造することができる。
【0066】
具体的には、QPM法を用いたSHG素子の場合、出射する第二高調波の波長が短くなるほどSHG素子を構成する非線形光学結晶の厚みを薄膜化させる必要があり、また、薄膜化した非線形光学結晶を交互に位相反転するように複数積層させる必要がある。このような場合、1つ1つの非線形光学結晶の厚みを揃えることが困難となり、SHG素子の製造が容易でなくなる。
【0067】
本実施例においては、SHG層25として1のSBO結晶を用いている。従って、非線形光学結晶の厚みを個々に揃える必要がないため、第1の多層膜反射鏡22及び第2の多層膜反射鏡26と組み合わせて容易にSHG素子18を製造することができる。
【0068】
従って、本実施例によれば、基本波の紫外光への高い変換効率を有しかつ製造が容易な第二高調波発生素子を得ることができる。
【0069】
なお、本実施例においては、光源装置100を除菌用光源として用いる例について説明したが、光源装置100の用途はこれに限られない。例えば、光源装置100を、プリント基板製造時の露光用光源や樹脂などに微細穴を加工する際の加工用光源として用いてもよい。
【0070】
例えば、光源装置100を露光用光源として用いる場合、第二高調波として波長が200nm以下の真空紫外光(VUV)が用いられる。このような場合には、第1の多層膜反射鏡22、薄膜層24及び第2の多層膜反射鏡26の各々を構成するHfOからなる高屈折率膜に替えて、酸化マグネシウム(MgO)からなる高屈折率膜を用いることにより、VUVを出射する光源装置として利用することができる。
【0071】
[第二高調波発生素子の製造方法]
以下に、図2図5を用いて、本実施例におけるSHG素子18の製造方法について説明する。
【0072】
まず、単結晶育成法の1つである溶融引き上げ(Top Seeded Solution Growth:TSSG)法を用いて、バルク結晶として成長させたSBO結晶25Bを準備する(工程1:SBO結晶準備工程)。
【0073】
次に、SBO結晶25Bの1の表面を、より詳細には光L1を入射させた際に非線形光学定数deffが3.5pm/Vとなる上述した結晶面のb面をダイヤモンドスラリーなどの研磨材を用いて鏡面研磨する(工程2:SBO結晶研磨工程)。
【0074】
次に、図3に示すように、工程2にて研磨した表面25S1に対して、スパッタ法を用いて、1ペアのHfO及びSiOからなる薄膜層24を形成し、その上に19ペアのHfO及びSiOからなる第1の多層膜反射鏡22を形成する(工程3:薄膜層及び第1の多層膜反射鏡形成工程)。
【0075】
次に、図4に示すように、第1の多層膜反射鏡22の表面にエポキシ樹脂からなる接着層23を介して支持基板21を貼り付ける(工程4:支持基板貼り付け工程)。
【0076】
次に、図5に示すように、SBO結晶25Bの表面25S1と反対の表面25S2を、より詳細には光L1を入射させた際に非線形光学定数deffが3.5pm/Vとなる上述した結晶面のb面をダイヤモンドスラリーなどの研磨材を用いて鏡面研磨して厚みを調整する(工程5:SBO結晶研磨工程)。このとき、薄膜層24と第二高調波発生層25との合計の厚みdが上述した数式2を満たすようにSBO結晶25Bの表面25S2を研磨する。
【0077】
最後に、図2に示すように、厚みを調整した第二高調波発生層25の表面25S2に対して、スパッタ法により、11ペアのHfO及びSiOからなる第2の多層膜反射鏡26を形成する(工程6:第2の多層膜反射鏡形成工程)。以上の工程により、本発明におけるSHG素子18を製造することができる。
【実施例0078】
[実施例2に係る光源装置]
次に、図6及び図7を用いて実施例2について説明する。図6は、実施例2に係る光源装置200の構成を模式的に示す断面図である。光源装置200は、第二高調波発生素子32の構成が実施例1の第二高調波発生素子18と異なっており、それ以外の点、例えば光源13やレンズの配置態様は実施例1と同様である。
【0079】
本実施例において、光源装置200の筐体31は、面11S1及び面11S2と直交する面11S3において光L1の光軸OA上に設けられた開口部OPを有している。拡散板19は、開口部OP内に配されている。すなわち、本実施例において、拡散板19は光L1の光軸OA上に配されている。
【0080】
本実施例において、支持構造11Eは紫外領域の波長を有する光に対して透光性を有しており、第二高調波発生素子32(以下、SHG素子32とも称する)は、支持構造11Eに貼り付けられている。支持構造11Eは、例えば石英ガラスが用いられる。
【0081】
また、本実施例において、光源装置200にはミラー17が設けられておらず、SHG素子32は、光源13から出射された光L1を受けて、当該光L1が入射された面と反対の面から第二高調波である光L2が出射されるように構成されている。SHG素子32から出射された光L2は、支持構造11Eを介して拡散板19に入射され、拡散板19によって所定の広がり角で拡散されて筐体11の外部に取り出される。
【0082】
[実施例2の第二高調波発生素子]
以下に、図7を用いて光源装置200に設けられたSHG素子32について説明する。図7は、光源装置200に組み込まれ得るSHG素子32の断面図である。
【0083】
本実施例において、支持基板33は、サファイアなどの青色の波長の光に対して透光性を有する材料からなる。
【0084】
SHG素子32は、図7の態様で、具体的に言えば実施例1の光源装置100における支持基板の下面を上に向けた態様で光源装置200に組み込まれ得る。すなわち、本実施例においては、光源13から出射された光L1が支持基板33を経てSHG層25に入射される。
【0085】
本実施例において、第1の多層膜反射鏡34は紫外波長域の光である光L2を反射するもので構成されており、第1の多層膜反射鏡34の光L2に対する透過率は1%以下である。一方、第2の多層膜反射鏡35は光L2を透過するもので構成されており、第2の多層膜反射鏡35に進行する光L2に対して高い透過率を有する。
【0086】
本実施例において、SHG層25にて生じた光L2は、図7に示すように、図中上から下に向かって進む光L11によって生じた光L21と、第2の多層膜反射鏡35によって反射されて図中下から上に向かって進む光L12によって生じた光L22とに分かれる。このうち、光L21はそのまま第2の多層膜反射鏡35を透過し、光L22は第1の多層膜反射鏡34によって反射されて第2の多層膜反射鏡35を透過していく。
【0087】
本実施例においても、薄膜層24とSHG層25との合計の厚みdは、上述した数式1に示すように、光L21の位相と光L22の位相とが互いに強め合ってSHG素子18から出射されるような厚みを有している。
【0088】
従って、本実施例においても、実施例1と同様に、SHG素子においてSHG層としてSBO結晶を用いることにより、基本波の第二高調波への変換効率ηSHGを向上させることができる。
【符号の説明】
【0089】
100、200 光源装置
11、31 筐体
13 光源
14 光学レンズ
16 集光レンズ
17 ミラー
18、32 第二高調波発生素子
21、33 支持基板
22、34 第1の多層膜反射鏡
23 接着層
24 薄膜層
25 第二高調波発生層
26、35 第2の多層膜反射鏡
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7