(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120724
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】テラヘルツ波伝送回路、テラヘルツ波デバイス、および誘電体の物性測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3581 20140101AFI20240829BHJP
G01N 21/41 20060101ALI20240829BHJP
G01N 21/3563 20140101ALI20240829BHJP
G02B 6/122 20060101ALI20240829BHJP
H04B 1/04 20060101ALN20240829BHJP
【FI】
G01N21/3581
G01N21/41 Z
G01N21/3563
G02B6/122
H04B1/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027731
(22)【出願日】2023-02-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/先導研究(委託)/ミリ波・テラヘルツ帯向け高機能材料・測定の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】冨士田 誠之
(72)【発明者】
【氏名】永妻 忠夫
(72)【発明者】
【氏名】ウェバー ジュリアン レオナルド
(72)【発明者】
【氏名】芳我 基治
【テーマコード(参考)】
2G059
2H147
5K060
【Fターム(参考)】
2G059AA02
2G059BB08
2G059EE01
2G059EE12
2G059GG09
2G059HH05
2G059MM01
2H147AB15
2H147AB21
2H147BB02
2H147BD02
2H147BD03
2H147BD16
2H147BE12
2H147BE15
2H147CD02
2H147EA09A
2H147EA10D
2H147EA12A
2H147EA13A
2H147EA16A
2H147EA17A
2H147EA19A
2H147EA22A
2H147GA19
2H147GA26
5K060EE05
5K060PP05
(57)【要約】
【課題】テラヘルツ波に対する誘電体の物性を適切に測定する。テラヘルツ帯の伝送に適した伝送回路を実現する。
【解決手段】テラヘルツ波伝送回路(2)は、テラヘルツ波が入力される、誘電体で形成された入力部(11)と、入力部に接続され、誘電体で形成された伝送路(12)と、伝送路に光学的に結合され、誘電体で形成された共振器構造(13)と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ波が入力される、誘電体で形成された入力部と、
前記入力部に接続され、誘電体で形成された伝送路と、
前記伝送路に光学的に結合され、誘電体で形成された共振器構造と、を備える、テラヘルツ波伝送回路。
【請求項2】
前記共振器構造は、環状構造を有する、請求項1に記載のテラヘルツ波伝送回路。
【請求項3】
前記共振器構造は、ねじれ構造を有する、請求項1に記載のテラヘルツ波伝送回路。
【請求項4】
前記入力部、前記伝送路または前記共振器構造を支持する支持体を備える、請求項1に記載のテラヘルツ波伝送回路。
【請求項5】
前記支持体における前記入力部、前記伝送路または前記共振器構造との境界領域には、前記誘電体中における前記テラヘルツ波の波長未満のピッチで形成された複数の細孔が形成されている、請求項4に記載のテラヘルツ波伝送回路。
【請求項6】
前記伝送路に接続され、前記テラヘルツ波を出力する、誘電体で形成された出力部を備える、請求項1に記載のテラヘルツ波伝送回路。
【請求項7】
請求項3に記載のテラヘルツ波伝送回路を備え、
前記テラヘルツ波伝送回路は、前記伝送路に接続された、前記テラヘルツ波を出力する、誘電体で形成された出力部を備え、
前記入力部に、第1方向に偏波した前記テラヘルツ波を入力する第1導波部と、
前記出力部から、前記第1方向に偏波した前記テラヘルツ波を取り出す第2導波部と、をさらに備える、テラヘルツ波デバイス。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載のテラヘルツ波伝送回路に前記テラヘルツ波を入力する入力ステップと、
前記テラヘルツ波伝送回路からのテラヘルツ波の出力を測定する測定ステップと、
前記出力を用いて、前記誘電体の前記テラヘルツ波に対する物性を特定する特定ステップと、を含む、誘電体の物性測定方法。
【請求項9】
前記特定ステップでは、前記誘電体の前記テラヘルツ波に対する屈折率または誘電正接を特定する、請求項8に記載の誘電体の物性測定方法。
【請求項10】
テラヘルツ波が入力される、誘電体で形成された入力部と、
前記入力部に接続され、ねじれ構造を有する、誘電体で形成された伝送路と、
前記伝送路に接続され、前記テラヘルツ波を出力する、誘電体で形成された出力部と、
前記入力部に、第1方向に偏波した前記テラヘルツ波を入力する第1導波部と、
前記出力部から、前記第1方向とは異なる第2方向に偏波した前記テラヘルツ波を取り出す第2導波部と、を備える、テラヘルツ波デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はテラヘルツ波伝送回路、テラヘルツ波デバイス、および誘電体の物性測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、時間領域分光法と呼ばれる、テラヘルツ波に対する誘電体の物性の測定方法を開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Mira Naftaly et. al.,“Terahertz Time-Domain Spectroscopy for Material Characterization”,Proceedings of the IEEE,p.1658-1665,vol.95,No.8,August 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載の技術では、周波数によっては物性の高精度な評価が難しいという問題がある。
【0005】
また、信号の周波数がテラヘルツ帯まで高くなると、金属の伝送回路では、損失が大きくなる。
【0006】
本発明の一態様は、テラヘルツ波に対する誘電体の物性を適切に測定すること、および、テラヘルツ帯の信号の伝送に適した伝送回路を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様1に係るテラヘルツ波伝送回路は、テラヘルツ波が入力される、誘電体で形成された入力部と、前記入力部に接続され、誘電体で形成された伝送路と、前記伝送路に光学的に結合され、誘電体で形成された共振器構造と、を備える。
【0008】
上記の構成によれば、共振器構造を備えるため、透過率の周波数変化に共振特性が現れる。そのため、誘電体の材料および構造に依存するFSRまたはQ値をシミュレーション結果と比較することで、材料に依存する屈折率または誘電正接等を得ることができる。それゆえ、テラヘルツ波に対する誘電体の物性を適切に特定することができる。また、テラヘルツ波伝送回路を、テラヘルツ帯の信号の伝送に適した伝送回路として用いることができる。
【0009】
本発明の態様2に係るテラヘルツ波伝送回路は、上記態様1において、前記共振器構造は、環状構造を有する構成であってもよい。
【0010】
上記の構成によれば、透過率の周波数変化に環状構造の長さに応じた共振特性が現れる。
【0011】
本発明の態様3に係るテラヘルツ波伝送回路は、上記態様1において、前記共振器構造は、ねじれ構造を有する構成であってもよい。
【0012】
本発明の態様4に係るテラヘルツ波伝送回路は、上記態様1から3において、前記入力部、前記伝送路または前記共振器構造を支持する支持体を備える構成であってもよい。
【0013】
本発明の態様5に係るテラヘルツ波伝送回路は、上記態様4において、前記支持体における前記入力部、前記伝送路または前記共振器構造との境界領域には、前記誘電体中における前記テラヘルツ波の波長未満のピッチで形成された複数の細孔が形成されている構成であってもよい。
【0014】
上記の構成によれば、伝送路等から支持体にテラヘルツ波が漏れることを低減することができる。
【0015】
本発明の態様6に係るテラヘルツ波伝送回路は、上記態様1から5において、前記伝送路に接続され、前記テラヘルツ波を出力する、誘電体で形成された出力部を備える構成であってもよい。
【0016】
本発明の態様7に係るテラヘルツ波デバイスは、上記態様3のテラヘルツ波伝送回路を備え、前記テラヘルツ波伝送回路は、前記伝送路に接続された、前記テラヘルツ波を出力する、誘電体で形成された出力部を備え、前記入力部に、第1方向に偏波した前記テラヘルツ波を入力する第1導波部と、前記出力部から、前記第1方向に偏波した前記テラヘルツ波を取り出す第2導波部と、をさらに備える構成であってもよい。
【0017】
本発明の態様8に係る誘電体の物性測定方法は、上記態様1から6のテラヘルツ波伝送回路に前記テラヘルツ波を入力する入力ステップと、前記テラヘルツ波伝送回路からのテラヘルツ波の出力を測定する測定ステップと、前記出力を用いて、前記誘電体の前記テラヘルツ波に対する物性を特定する特定ステップと、を含む。
【0018】
本発明の態様9に係る誘電体の物性測定方法は、上記態様8において、前記特定ステップでは、前記誘電体の前記テラヘルツ波に対する屈折率または誘電正接を特定する構成であってもよい。
【0019】
本発明の態様10に係るテラヘルツ波デバイスは、テラヘルツ波が入力される、誘電体で形成された入力部と、前記入力部に接続され、ねじれ構造を有する、誘電体で形成された伝送路と、前記伝送路に接続され、前記テラヘルツ波を出力する、誘電体で形成された出力部と、前記入力部に、第1方向に偏波した前記テラヘルツ波を入力する第1導波部と、前記出力部から、前記第1方向とは異なる第2方向に偏波した前記テラヘルツ波を取り出す第2導波部と、を備える。
【0020】
上記の構成によれば、テラヘルツ波の偏波方向を回転させる回路を実現することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一態様によれば、テラヘルツ波に対する誘電体の物性を適切に特定することができる。また、テラヘルツ波伝送回路を、テラヘルツ帯の信号の伝送に適した伝送回路として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】一実施形態のテラヘルツ波デバイスの構成を示す平面図である。
【
図3】テラヘルツ波伝送回路の透過率の測定のフローを示す図である。
【
図4】テラヘルツ波伝送回路の屈折率および誘電正接の測定のフローを示す図である。
【
図5】テラヘルツ波伝送回路の透過率の周波数変化の一例を示す図である。
【
図6】テラヘルツ波伝送回路の透過率の周波数変化の電磁界シミュレーション結果を示す図である。
【
図7】
図6に示す電磁界シミュレーション結果から得られた、屈折率とFSRとの対応関係を示す図である。
【
図8】テラヘルツ波伝送回路の透過率の周波数変化の電磁界シミュレーション結果を示す図である。
【
図9】
図8に示す電磁界シミュレーション結果から得られた、誘電正接tanδとQ値との対応関係を示す図である。
【
図10】変形例のテラヘルツ波伝送回路の構成を示す平面図である。
【
図11】変形例のテラヘルツ波伝送回路の構成を示す平面図である。
【
図12】変形例のテラヘルツ波伝送回路の構成を示す平面図である。
【
図13】変形例のテラヘルツ波伝送回路の構成を示す平面図である。
【
図14】変形例のテラヘルツ波伝送回路の構成を示す平面図である。
【
図15】変形例のテラヘルツ波伝送回路の構成を示す平面図である。
【
図16】テラヘルツ波伝送回路の反射率の周波数変化の電磁界シミュレーション結果の例を示す図である。
【
図17】一実施形態のテラヘルツ波デバイスの構成を示す斜視図である。
【
図18】テラヘルツ波伝送回路の透過率の周波数変化の電磁界シミュレーション結果を示す図である。
【
図19】一実施形態のテラヘルツ波デバイスの構成を示す斜視図である。
【
図20】テラヘルツ波デバイスにおけるテラヘルツ波伝送回路の透過率の周波数変化の電磁界シミュレーション結果を示す図である。
【
図21】テラヘルツ波伝送回路の透過率の周波数変化の測定結果の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書において、テラヘルツ波とは、テラヘルツ帯の周波数を有する電磁波を意味する。一例として、テラヘルツ帯の周波数は、0.1THz以上、10THz以下であってよい。典型的なテラヘルツ帯の周波数は、例えば、0.1THz以上、1THz以下であってもよく、さらに典型的には、0.1THz以上、0.4THz以下であってもよい。
【0024】
テラヘルツ帯の信号の伝送には、金属の伝送回路よりも、誘電体の伝送回路の方が、損失が小さく有利である。しかしながら、テラヘルツ波に対する誘電体の物性を適切に測定できる方法は従来になかった。従来の測定方法では、例えば、薄膜の誘電体では、測定精度が低かったり、特定周波数では測定精度が低かったりした。以下では、テラヘルツ波に対する誘電体の物性を適切に測定することができる方法、および、テラヘルツ帯の伝送に適した伝送回路について説明する。
【0025】
〔実施形態1〕
(テラヘルツ波デバイスの構成)
図1は、本実施形態のテラヘルツ波デバイス1の構成を示す平面図である。
図2は、入力部11の周辺を拡大して示す斜視図である。
図1の下部に、支持体15の一部を拡大して示す。テラヘルツ波デバイス1は、テラヘルツ波伝送回路2、第1導波部17、および第2導波部18を備える。テラヘルツ波伝送回路2は、入力部11、伝送路12、共振器構造13、出力部14、および支持体15を備える。テラヘルツ波伝送回路2(入力部11、伝送路12、共振器構造13、出力部14、および支持体15)は、一体の誘電体で形成されている。テラヘルツ波伝送回路2は、Z軸において一定の厚さを有し、誘電体の平板を加工するまたは型を用いて樹脂成型することで得られる。
【0026】
本実施形態では、伝送路12および共振器構造13を形成する誘電体のテラヘルツ波に対する物性(特に屈折率または誘電正接)を測定する。本実施形態では、誘電体としてポリオクテニレン50w%およびBVPE(ビス(ビニルフェニル)エタン)50w%の樹脂を用いるが、誘電体はこれに限定されない。
【0027】
誘電体の例として、ガラスエポキシ樹脂、ガラスポリフェニレンエーテル樹脂、セラミックフィラー樹脂、フッ素系樹脂、ポリオクテニレン、シルセスキオキサン、ジメチルポリフェニレンスルフィド、ビニルフェニルエタン、脂環式エポキシ、酢酸セルロース、ポリウレタン、COC(シクロオレフィン共重合体)、LCP(液晶ポリマー)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、GF-PET(ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート)、POM(ポリアセタール)、PA(ポリアミド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)、PPE(ポリフェニレンエーテル)、PMMI(ポリメタクリルイミド)、PI(ポリイミド)、PC(ポリカーボネート)、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、PS(ポリスチレン)、SAN(スチレンアクリロニトリル)、PP(ポリプロピレン)または、それらのハイブリッド樹脂、あるいは、それらのうちの少なくとも1つと他の有機材料とを含むハイブリッド樹脂等が挙げられる。誘電体の例として、アルミナ、窒化ケイ素、または窒化アルミニウム等のセラミックスあるいは低温同時焼成セラミックスが挙げられる。誘電体の例として、シリコン、ゲルマニウム、インジウムリン、ガリウムヒ素、アルミニウムヒ素、ガリウムリン、窒化ガリウム等の半導体、または、それらのうちの複数の構成元素を含む化合物半導体、あるいは、シリコンカーバイド、またはダイヤモンド等が挙げられる。このように、絶縁体だけでなく、半導体を誘電体として用いてもよい。
【0028】
入力部11は、テラヘルツ波が入力される部分である。入力部11は、Y軸における幅が先端に行くほど小さくなるテーパ形状を有している。入力部11がテーパ形状を有することで、インピーダンスが整合し、反射を減らし入力時のテラヘルツ波の損失を小さくすることができる。入力部11のテーパ形状のX方向における長さは、テラヘルツ波の波長以上であることが好ましい。ただし、入力部11の構造は、これに限らず、任意の形状であってよい。例えば、入力部11の端面は、入力されるテラヘルツ波の進行方向に垂直な平面であってもよい。
【0029】
伝送路12は、テラヘルツ波を伝送する部分である。伝送路12の一端は、入力部11に接続されている。伝送路12は、X軸に沿って直線状に延びている。
【0030】
共振器構造13は、所定の周波数のテラヘルツ波が共振する共振器として働く部分である。共振器構造13は、結合部19において、伝送路12と光学的に結合されている。光学的に結合しているとは、伝送路12を伝送されてきたテラヘルツ波の一部が、結合部19において、共振器構造13に伝搬することを意味する。同様に、共振器構造13の中のテラヘルツ波の一部は、伝送路12に伝搬する。ここでは、共振器構造13は、結合部19において、伝送路12と機械的に接続されている。ただしこれに限らず、共振器構造13と伝送路12との間に、テラヘルツ波の波長未満の隙間があってもよく、この場合でも、テラヘルツ波の一部は、両者の間を伝搬する。伝搬を考慮して、共振器構造13と伝送路12とが結合している結合部19は、誘電体中におけるテラヘルツ波の波長の2倍以上の長さ(X軸に沿った長さ)を有することが好ましい。
【0031】
共振器構造13は、環状構造を有する。ここでは、共振器構造13は、一対の半円と一対の平行な線分とが互いに接続された形状を有する。共振器構造13の環の長さによって、共振する周波数が決定される。
【0032】
出力部14は、テラヘルツ波を出力する部分である。出力部14は、伝送路12の他端に接続されている。出力部14は、Y軸における幅が先端に行くほど小さくなるテーパ形状を有している。出力部14のテーパ形状のX方向における長さは、テラヘルツ波の波長以上であることが好ましい。ただし、出力部14の構造は、これに限らず、任意の形状であってよい。例えば、出力部14の端面は、入力されるテラヘルツ波の進行方向に垂直な平面であってもよい。
【0033】
支持体15は、入力部11、伝送路12、共振器構造13、または出力部14を支持する。ここでは、支持体15は、矩形の枠である。支持体15は、伝送路12の両端に接続されている。また、支持体15は、共振器構造13の一部に接続されている。支持体15における、少なくとも入力部11、伝送路12、共振器構造13、または出力部14との境界領域には、複数の細孔16が形成されている。境界領域において複数の細孔16は、誘電体中におけるテラヘルツ波の波長未満のピッチ、より好ましくは該波長の1/4未満のピッチで配置されている。複数の細孔16は、三角格子状、正方格子状、または不規則に配列してもよい。複数の細孔16の形状も円形に限らず、任意の形状であってよい。境界領域に複数の細孔16が形成されていることにより、入力部11、伝送路12、共振器構造13、または出力部14から支持体15へのテラヘルツ波の漏れを低減することができる。ここでは、支持体15の全体に、複数の細孔16が形成されている。テラヘルツ波伝送回路2の位置を固定するために、支持体15を他の任意の部品で機械的に固定することができる。他の部品が支持体15に接触しても、支持体15にはテラヘルツ波がほとんど漏れないため、テラヘルツ波の伝送に影響しない。
【0034】
第1導波部17は、テラヘルツ波伝送回路2の外部の回路(外部の電子デバイスまたは外部空間)から入力部11に、テラヘルツ波を入力する。第1導波部17は、例えば、導体で形成されている。ここでは、第1導波部17は、金属製の矩形の中空導波管である。入力部11の一部は、第1導波部17の中に配置されている。第1導波部17は、入力部11に接触していない。
【0035】
第2導波部18は、出力部14から出力されたテラヘルツ波を受け取り、テラヘルツ波伝送回路2の外部の回路にテラヘルツ波を伝送する。第2導波部18は、例えば、導体で形成されている。ここでは、第2導波部18は、金属製の矩形の中空導波管である。出力部14の一部は、第2導波部18の中に配置されている。第2導波部18は、出力部14に接触していない。
【0036】
なお、第1導波部17および第2導波部18は、それぞれ入力部11および出力部14に接触してもよい。例えば、支持体15を省略し、第1導波部17および第2導波部18によって、入力部11および出力部14を支持してもよい。
【0037】
(物性測定方法)
本実施形態の物性測定方法では、テラヘルツ波伝送回路2の透過率の周波数変化を測定する。透過率の周波数変化から、テラヘルツ波伝送回路2を構成する誘電体の物性として、屈折率および誘電正接を特定する。
【0038】
図3は、テラヘルツ波伝送回路2の透過率の測定のフローを示す図である。テラヘルツ波伝送回路2の透過率は、(テラヘルツ波伝送回路2からの出力/テラヘルツ波伝送回路2への入力)である。
【0039】
まず、テラヘルツ波伝送回路2に入力するテラヘルツ波の周波数を、所定の周波数範囲で変更/決定する(S11)。決定された周波数のテラヘルツ波を、第1導波部17からテラヘルツ波伝送回路2に入力する(S12)。テラヘルツ波伝送回路2から第2導波部18へ出力されるテラヘルツ波の強度を測定する(S13)。
【0040】
所定の周波数範囲について、測定が完了していなければ(S14でNo)、S11に戻り、テラヘルツ波の周波数を変更して測定を続ける。
【0041】
所定の周波数範囲について、測定が完了していれば(S14でYes)、所定の周波数範囲におけるテラヘルツ波伝送回路2への入力の強度を特定する(S15)。例えば、テラヘルツ波デバイス1からテラヘルツ波伝送回路2を取り除き、第1導波部17と第2導波部18とを互いに直接接続した状態で、第2導波部18からのテラヘルツ波の出力の強度を測定する。この状態で測定されたテラヘルツ波の出力の強度を、テラヘルツ波伝送回路2へ入力されたテラヘルツ波の強度と見なせる。各周波数についてテラヘルツ波伝送回路2への入力の強度を特定する。
【0042】
各周波数におけるテラヘルツ波伝送回路2への入力の強度と、テラヘルツ波伝送回路2からの出力の強度とを用いて、各周波数におけるテラヘルツ波伝送回路2の透過率を特定する(S16)。なお、他の方法を用いて、第1導波部17からテラヘルツ波伝送回路2に入力されたテラヘルツ波の強度を特定してもよい。テラヘルツ波伝送回路2の透過率の周波数変化を用いて、テラヘルツ波伝送回路2を構成する誘電体の物性(屈折率または誘電正接)を特定する。
【0043】
図4は、テラヘルツ波伝送回路2の屈折率および誘電正接の測定のフローを示す図である。測定されたテラヘルツ波伝送回路2の透過率の周波数変化(測定結果)から、物性を測定したい対象周波数におけるFSR(共振周波数間隔)を特定する(S21)。
【0044】
一方、既知の電磁界シミュレーションを用いて、コンピュータによって、テラヘルツ波伝送回路2の誘電体の屈折率を複数変化させたときの、テラヘルツ波伝送回路2の透過率の周波数変化を求める(S22)。なお、この電磁界シミュレーションにおいて、誘電正接は仮の値に設定して計算を行ってよい。誘電正接が変化してもFSRにはほとんど影響しない。透過率の周波数変化のシミュレーション結果から、屈折率と、対象周波数におけるFSRとの対応関係を得ることができる(S23)。屈折率と、対象周波数におけるFSRとの対応関係は、例えば、テーブルで表されてもよいし、シミュレーション結果を近似した曲線または曲線を表す数式で表されてもよい。FSRは、誘電体の屈折率と反比例の関係にある。
【0045】
屈折率と、対象周波数におけるFSRとの対応関係に基づいて、測定結果から得られた対象周波数におけるFSRに対応する屈折率を特定する(S24)。このようにして、テラヘルツ波伝送回路2を構成する誘電体の、対象周波数のテラヘルツ波に対する屈折率を測定することができる。
【0046】
また、測定されたテラヘルツ波伝送回路2の透過率の周波数変化(測定結果)から、対象周波数におけるQ値(quality factor)を特定する(S25)。
【0047】
一方、既知の電磁界シミュレーションを用いて、コンピュータによって、テラヘルツ波伝送回路2の誘電体の誘電正接を複数変化させたときの、テラヘルツ波伝送回路2の透過率の周波数変化を求める(S26)。なお、この電磁界シミュレーションにおいて、誘電体の屈折率としては、先に特定された誘電体の屈折率を用いる。透過率の周波数変化のシミュレーション結果から、誘電正接と、対象周波数におけるQ値との対応関係を得ることができる(S27)。誘電正接と、対象周波数におけるQ値との対応関係は、例えば、テーブルで表されてもよいし、シミュレーション結果を近似した曲線または曲線を表す数式で表されてもよい。Q値は、誘電体の誘電正接と反比例の関係にある。
【0048】
誘電正接と、対象周波数におけるQ値との対応関係に基づいて、測定結果から得られた対象周波数におけるQ値に対応する誘電正接を特定する(S28)。これにより、テラヘルツ波伝送回路2を構成する誘電体の、対象周波数のテラヘルツ波に対する誘電正接を測定することができる。
【0049】
図5は、テラヘルツ波伝送回路2の透過率の周波数変化の一例を示す図である。縦軸は、透過率[dB]である。テラヘルツ波伝送回路2からの出力がテラヘルツ波伝送回路2への入力と同じとき、透過率は0dBである。横軸は、テラヘルツ波の周波数[GHz]である。
【0050】
テラヘルツ波伝送回路2は共振器構造13を備えるため、透過率には共振器構造13に応じた共振特性が見られる。共振器構造13で共振する周波数のテラヘルツ波は、共振器構造13に閉じ込められている間に減衰するため、透過率に下向きの共振ピークが複数表れる。対象周波数を挟んで互いに隣接する2つの共振ピークの間隔が、該対象周波数でのFSRであると見なせる。
【0051】
共振のQ値は、対象周波数付近の下向きの共振ピークから読み取ることができる。透過率をT(f)[dB]、周波数をfとしたとき、1つの共振ピークについて以下が成り立つ。
T(f)=T0+A・log10{Δf/(4(f-fr)2+Δf2)}
Q=fr/Δf
ここで、QはQ値、frは共振周波数、Δfは半値全幅、T0は透過率のオフセットである。透過率の周波数変化の測定値の共振ピークに、ローレンツ型関数であるT(f)をフィッティングすることで、frおよびΔfを特定する。frおよびΔfからQを特定する。
【0052】
図6は、テラヘルツ波伝送回路2の透過率の周波数変化の電磁界シミュレーション結果を示す図である。
図6においては、テラヘルツ波伝送回路2の誘電体の屈折率nを複数変化させた電磁界シミュレーション結果を重ねて描いている。縦軸は、透過率[dB]である。横軸は、テラヘルツ波の周波数[GHz]である。図からも分かるとおり、屈折率nが大きくなるほど、FSRは小さくなっていく。ここから、屈折率nとFSRとの対応関係を得ることができる。
【0053】
図7は、
図6に示す電磁界シミュレーション結果から得られた、屈折率とFSRとの対応関係を示す図である。縦軸は、FSRの逆数[1/GHz]である。横軸は、屈折率nである。FSRと屈折率とは反比例の関係にある。それゆえ、FSRの逆数と屈折率とは線形の関係にある。図における直線は、複数の電磁界シミュレーション結果から得られた点を近似する直線である。このFSRと屈折率との対応関係を用いて、測定値から読み取ったFSRから、テラヘルツ波伝送回路2を構成する誘電体の屈折率を特定することができる。特定された屈折率は、テラヘルツ波伝送回路2の形状に依存しない、誘電体自体の物性である。
【0054】
図8は、テラヘルツ波伝送回路2の透過率の周波数変化の電磁界シミュレーション結果を示す図である。
図8においては、テラヘルツ波伝送回路2の誘電体の誘電正接tanδを複数変化させた電磁界シミュレーション結果を重ねて描いている。縦軸は、透過率[dB]である。横軸は、テラヘルツ波の周波数[GHz]である。図からも分かるとおり、誘電正接tanδが小さくなるほど、共振ピークはより鋭くなっている。すなわち、誘電正接tanδが小さくなるほど、Q値は大きくなっていく。ここから、誘電正接tanδとQ値との対応関係を得ることができる。
【0055】
図9は、
図8に示す電磁界シミュレーション結果から得られた、誘電正接tanδとQ値との対応関係を示す図である。縦軸は、Q値の逆数である。横軸は、誘電正接tanδである。Q値の逆数と誘電正接tanδとは線形の関係にある。図における直線は、複数の電磁界シミュレーション結果から得られた点を近似する直線である。このQ値と誘電正接tanδとの対応関係を用いて、測定値から読み取ったQ値から、テラヘルツ波伝送回路2を構成する誘電体の誘電正接tanδを特定することができる。特定された誘電正接tanδは、テラヘルツ波伝送回路2の形状に依存しない、誘電体自体の物性である。
【0056】
このようにして、共振器構造13を備えるテラヘルツ波伝送回路2を用いて、テラヘルツ波伝送回路2の形状に依存しない、材料としての誘電体の物性(屈折率または誘電正接)を測定することができる。また、テラヘルツ波伝送回路2自体を、テラヘルツ波を伝送するための回路として用いることができる。テラヘルツ波伝送回路2の透過率には、共振器構造13に応じた下向きの共振ピークが現れる。それゆえ、テラヘルツ波伝送回路2を、特定範囲の周波数のテラヘルツ波を透過または遮蔽するフィルタ回路として用いることができる。
【0057】
なお、テラヘルツ波伝送回路2の作製に用いた樹脂を、誘電体の物性測定のためではなくプリント配線板用の樹脂として用いる場合、誘電体は、はんだリフローにおける耐熱性の観点から、熱硬化性を有する樹脂を含むことが好ましい。誘電正接が比較的低い樹脂として、例えば、ポリオクテニレン、PPS、LCP、PS、またはPP等を挙げることができる。誘電正接が比較的低い樹脂に、他の有機材料等(例えば熱硬化性または耐熱性を有する樹脂)を加えることで、熱硬化性を有し、かつ、誘電正接が比較的低い樹脂を得ることができる。ポリオクテニレンおよびBVPEを含む樹脂は、熱硬化性を有し、かつ、誘電正接が比較的低い樹脂の一例である。このような樹脂を、テラヘルツ帯の信号を伝送するプリント配線板に好適に用いることができる。
【0058】
なお、上記では、テラヘルツ波伝送回路2の透過率を測定することで、誘電体の物性を特定する形態について説明した。これに限らず、テラヘルツ波伝送回路2の反射率を測定することで、誘電体の物性を特定してもよい。例えば、テラヘルツ波デバイス1から第2導波部18を取り除いたものを用いる。上記と同様に、入力部11にテラヘルツ波を入力すると、伝送路12の他端(出力部14)で反射が起こり、入力部11からテラヘルツ波が出力される。この場合、入力部11が入出力部として機能する。第1導波部17側で入力と出力とを分離し、テラヘルツ波の出力の強度を測定することができる。このテラヘルツ波の出力の強度をテラヘルツ波の入力の強度で除した値が、テラヘルツ波伝送回路2の反射率である。テラヘルツ波伝送回路2の反射率にも、透過率と同様の、共振器構造13に応じた共振特性が表れる。すなわち、上述の方法と同様にして、テラヘルツ波伝送回路2の反射率の周波数変化から、FSRまたはQ値を特定し、シミュレーション結果と比較することにより誘電体の屈折率または誘電正接を特定することができる。
【0059】
(変形例)
本発明の他の変形例について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、既に説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0060】
図10は、変形例のテラヘルツ波伝送回路2aの構成を示す平面図である。テラヘルツ波伝送回路2aは、入力部11、伝送路12、共振器構造13、出力部14、および支持体15aを備える。テラヘルツ波伝送回路2aは、一体の誘電体で形成されている。ここでは支持体15aは、U字形状である。支持体15aは、伝送路12に接続されているが、共振器構造13には接続されていない。支持体15aにおける伝送路12との境界領域には、複数の細孔16が形成されている。支持体15aにおける境界領域以外の領域には、細孔16は形成されていなくてもよい。
【0061】
図11は、変形例のテラヘルツ波伝送回路2bの構成を示す平面図である。テラヘルツ波伝送回路2bは、入力部11b、伝送路12、第1共振器構造13ba、第2共振器構造13bb、および出力部14bを備える。入力部11bおよび出力部14bは、テーパ形状ではなく、直方体であってもよい。伝送路12に、環状の第1共振器構造13baが接続されている。環状の第1共振器構造13baの、伝送路12とは反対側に、線状の第2共振器構造13bbが接続されている。第2共振器構造13bbの一端および他端ではテラヘルツ波が反射する。そのため、第2共振器構造13bbの長さに応じた共振が生じる。なお、第2共振器構造13bbの一端を出力部として機能させてもよい。第2導波部を第2共振器構造13bbの一端に設けて、第2共振器構造13bbからテラヘルツ波を出力させてもよい。この場合、出力部14bには、第2導波部を設けてもよいし、設けなくてもよい。第2共振器構造13bbの一端または両端をテーパ形状にしてもよい。
【0062】
図12は、変形例のテラヘルツ波伝送回路2cの構成を示す平面図である。テラヘルツ波伝送回路2cは、入力部11b、伝送路12、共振器構造13c、および出力部14bを備える。共振器構造13cは、円環形状である。共振器構造13cは、伝送路12と接触していなくてもよい。共振器構造13cと伝送路12との間隔は、テラヘルツ波の波長未満であることが好ましい。
【0063】
図13は、変形例のテラヘルツ波伝送回路2dの構成を示す平面図である。テラヘルツ波伝送回路2dは、入力部11b、伝送路12、共振器構造13c、共振器構造13d、および出力部14bを備える。2つの共振器構造13c、13dは、同じ円環形状である。一方の共振器構造13cは、伝送路12のY軸正方向側に位置し、他方の共振器構造13dは、伝送路12のY軸負方向側に位置する。このように、複数の共振器構造13c、13dが、伝送路12に対して設けられてもよい。他方の共振器構造13dは、一方の共振器構造13cとは異なる形状(異なる共振周波数を有する形状)であってもよい。
【0064】
図14は、変形例のテラヘルツ波伝送回路2eの構成を示す平面図である。テラヘルツ波伝送回路2eは、入力部11b、伝送路12、共振器構造13c、共振器構造13d、および出力部14bを備える。環状の共振器構造13cの、伝送路12とは反対側に、共振器構造13dが接続されている。複数の共振器構造13cおよび共振器構造13dが設けられることにより、共振する周波数の種類が増加し、フィルタリングできる周波数の範囲が増加する。
【0065】
図15は、変形例のテラヘルツ波伝送回路2fの構成を示す平面図である。テラヘルツ波伝送回路2fは、入力部11b、伝送路12f、共振器構造13f、および出力部14bを備える。伝送路12fは、曲線形状である。伝送路12fは、Y軸負方向側に突出するように曲がっている半円形状部分を有する。伝送路12fの半円形状部分の内側(凹形状側)には、円環形状の共振器構造13fが配置されている。共振器構造13fは、伝送路12fと接触していてもよいし、接触していなくてもよい。
【0066】
共振器構造は、環形状に限らない。伝送路から分岐するように延びる線状(直線状または曲線状)の分岐路も、共振器構造として機能する。また、共振器構造は、線状でなくても、面状の構造であってもよい。例えば、上述した環状の共振器構造の内側が中実の構造であってもよい。
【0067】
図16は、テラヘルツ波伝送回路2cの反射率の周波数変化の電磁界シミュレーション結果の例を示す図である。縦軸は、反射率[dB]である。横軸は、テラヘルツ波の周波数[GHz]である。
図12における入力部11bからテラヘルツ波を入力し、テラヘルツ波伝送回路2cの内部で反射して入力部11bから出力されるテラヘルツ波を出力とした。このように、反射率の周波数変化にも共振特性が見られる。透過率の場合と同様に、反射率を測定し、反射率の測定値からFSRまたはQ値を特定し、シミュレーション結果と比較することにより誘電体の屈折率または誘電正接を特定することができる。
【0068】
〔実施形態2〕
図17は、本実施形態のテラヘルツ波デバイス1gの構成を示す斜視図である。テラヘルツ波デバイス1gは、テラヘルツ波伝送回路2g、第1導波部17、および第2導波部18を備える。テラヘルツ波伝送回路2gは、入力部11、第1伝送路12ga、第2伝送路12gb、共振器構造13g、出力部14、第1支持体15ga、および第2支持体15gbを備える。テラヘルツ波伝送回路2gは、一体の誘電体で形成されている。テラヘルツ波伝送回路2gは、一定の厚さを有する誘電体の平板で構成されている。
【0069】
共振器構造13gは、2つの線状の伝送路12gの間に配置されている。共振器構造13gは、ねじれ構造を有する。ねじれ構造は、例えば平板がねじれた形状である。ここでは、共振器構造13gは、90°ねじれた形状であるが、これに限らない。ねじれは、0°より大きければよく、30°以上でもよく、90°以上でもよく、180°以上であってもよい。ねじれは、1周以上回転したスパイラル形状であってもよい。共振器構造13gがねじれた形状を有することにより、共振器構造13gは、一方向の偏波の所定の周波数のテラヘルツ波が共振する共振器として働く。
【0070】
第1伝送路12gaと、第2伝送路12gbとは、線状の平板形状の伝送路である。第1伝送路12gaの平面と、第2伝送路12gbの平面とは、互いにねじれた関係にあり、ここでは90°ねじれた位置関係にある。
【0071】
第1支持体15gaは、第1伝送路12gaに接続されており、第1伝送路12gaを支持する。第2支持体15gbは、第2伝送路12gbに接続されており、第2伝送路12gbを支持する。例えば、誘電体の平板をねじった状態で第1支持体15gaおよび第2支持体15gbを保持することにより、共振器構造13gがねじれた状態を維持することができる。
【0072】
第1導波部17は、第1方向に偏波したテラヘルツ波を入力部11に入力する。ここでは、第1方向は、Y軸に平行な方向である。第1方向は、第1伝送路12gaの幅方向である。第1伝送路12gaの幅方向とは、第1伝送路12gaを構成する平板の面内方向のうち、テラヘルツ波の進行方向に垂直な方向である。第1導波部17は、内部の空洞の断面形状が長方形である中空導波管である。内部の空洞の第1方向(Y軸方向)における長さは、第1方向に垂直な第2方向(Z軸方向)における長さより短い。
【0073】
第2導波部18は、出力部14から第1方向に偏波したテラヘルツ波を取り出す。第2導波部18は、内部の空洞の断面形状が長方形である中空導波管である。内部の空洞の第1方向における長さは、第2方向における長さより短い。第1方向は、第2伝送路12gbの厚さ方向である。第2伝送路12gbの厚さ方向とは、第2伝送路12gbを構成する平板の平面に垂直な方向である。第2導波部18は、内部の空洞の断面形状が短い方向(短辺に沿った方向)のテラヘルツ波を出力部14から取り出す。
【0074】
図18は、テラヘルツ波伝送回路2gの透過率の周波数変化の電磁界シミュレーション結果を示す図である。
図18においては、テラヘルツ波伝送回路2の誘電体の屈折率nを複数変化させた電磁界シミュレーション結果を重ねて描いている。縦軸は、透過率[dB]である。横軸は、テラヘルツ波の周波数[GHz]である。テラヘルツ波伝送回路2と同様に、テラヘルツ波伝送回路2gでも、透過率の周波数変化に共振特性が表れる。そのため、同様にして、テラヘルツ波伝送回路2gを用いて誘電体の物性を測定することができる。また、テラヘルツ波伝送回路2gを偏波したテラヘルツ波のフィルタ回路として用いることもできる。
【0075】
〔実施形態3〕
図19は、本実施形態のテラヘルツ波デバイス1hの構成を示す斜視図である。テラヘルツ波デバイス1hは、テラヘルツ波伝送回路2g、第1導波部17、および第2導波部18を備える。テラヘルツ波デバイス1hは、上述のテラヘルツ波デバイス1gとは、第2導波部18が設けられる角度が異なる。
【0076】
第2導波部18の内部の空洞の第1方向における長さは、第2方向における長さより長い。そのため、第2導波部18は、出力部14から第1方向とは異なる第2方向に偏波したテラヘルツ波を取り出す。第2導波部18の内部の空洞の断面形状が短い方向は、第2伝送路12gbの幅方向に沿っている。
【0077】
第1伝送路12ga、第2伝送路12gb、および共振器構造13gの構造は、上述のテラヘルツ波伝送回路2gのものと同じである。しかしながら、第1方向に偏波したテラヘルツ波を入力部11に入力し、第2方向に偏波したテラヘルツ波を出力部14から取り出す場合、ねじれ構造を有する共振器構造13gは、テラヘルツ波の偏波方向を回転させる伝送路(偏波回転部)として働く。テラヘルツ波デバイス1hにおいてねじれの角度および第2導波部18の角度を共に変更すれば、テラヘルツ波の偏波方向を任意の角度回転させることができる。このように、テラヘルツ波デバイス1hは、テラヘルツ波の偏波方向を回転させる素子として利用することができる。
【0078】
図20は、テラヘルツ波デバイス1hにおけるテラヘルツ波伝送回路2gの透過率の周波数変化の電磁界シミュレーション結果を示す図である。出力部14から共振器構造13gのねじれに応じた回転方向の偏波を取り出す場合、透過率の周波数変化にはほとんど共振特性は見られず、幅広い周波数において高い透過率の特性が得られる。
【0079】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0080】
図21は、
図1に示すテラヘルツ波伝送回路2の透過率の周波数変化の測定結果の例を示す図である。縦軸は、透過率[dB]である。横軸は、テラヘルツ波の周波数[GHz]である。誘電体としてポリオクテニレン50w%およびBVPE(ビス(ビニルフェニル)エタン)50w%の樹脂を用いた。実際の透過率の測定値にも共振特性が見られた。測定結果から読み取ったある周波数(299GHz)におけるFSRは6.666GHzであった。別途シミュレーションで得られた屈折率とFSRとの対応関係から、誘電体の屈折率は1.540と特定できた。また、測定結果から読み取った上記周波数におけるQ値は156であった。別途シミュレーションで得られたQ値と誘電正接との対応関係から、誘電体の誘電正接は0.00566と特定できた。