(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120728
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/447 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
C04B35/447
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027739
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(74)【代理人】
【識別番号】100141449
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 隆芳
(74)【代理人】
【識別番号】100142446
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 覚
(72)【発明者】
【氏名】関野 徹
(72)【発明者】
【氏名】徐 寧浚
(72)【発明者】
【氏名】趙 成訓
(72)【発明者】
【氏名】後藤 知代
(72)【発明者】
【氏名】澤 亮介
(72)【発明者】
【氏名】栗副 直樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 夏希
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 達郎
(57)【要約】
【課題】機械的強度及び透光性に優れた構造体を提供する。
【解決手段】構造体1は、リン酸カルシウム化合物を含む複数の結晶粒2と、結晶粒2の各々を結合し、リン酸カルシウム化合物を含む結合部3とを含む。結晶粒2の平均粒子径は60nm以下である。構造体1の相対密度は80%以上である。構造体1の厚さが1mmである場合において、波長589nmの光の全光線透過率は45%以上である。構造体1のビッカース硬度は1GPa以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸カルシウム化合物を含む複数の結晶粒と、
前記結晶粒の各々を結合し、リン酸カルシウム化合物を含む結合部と、
を含む構造体であって、
前記結晶粒の平均粒子径は60nm以下であり、
前記構造体の相対密度は80%以上であり、
前記構造体の厚さが1mmである場合において、波長589nmの光の全光線透過率は45%以上であり、
前記構造体のビッカース硬度は1GPa以上である、構造体。
【請求項2】
前記結晶粒はアパタイトの結晶を有する、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記結合部はアパタイトの結晶を有する、請求項1に記載の構造体。
【請求項4】
前記結晶粒はCa10-x(HPO4)x(PO4)6-x(OH)2-x(0≦x<1)で表されるハイドロキシアパタイトを含む、請求項1又は3に記載の構造体。
【請求項5】
前記結合部はCa10-x(HPO4)x(PO4)6-x(OH)2-x(0≦x<1)で表されるハイドロキシアパタイトを含む、請求項1又は2に記載の構造体。
【請求項6】
CuKα線をX線源とした際のXRDパターンにおいて、(002)面由来のピーク強度よりも(300)面由来のピーク強度の方が高い、請求項2又は3に記載の構造体。
【請求項7】
相対密度が90%以上である、請求項1又は2に記載の構造体。
【請求項8】
平均粒子径が60nm以下であり、リン酸カルシウム化合物の結晶を含む原料粒子と、カルシウム及びリンを含有し、pH4.0以上である水溶液とを含む混合物を、圧力が3000MPa以下であり、かつ、温度が300℃以下である条件下で20分以上12時間以下加圧及び加熱する工程を含む、構造体の製造方法であって、
前記構造体の相対密度は80%以上であり、
前記構造体の厚さが1mmである場合において、波長589nmの光の全光線透過率は45%以上であり、
前記構造体のビッカース硬度は1GPa以上である、構造体の製造方法。
【請求項9】
前記水溶液が擬似体液である、請求項8に記載の構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスからなる無機部材の製造方法として、焼結法が知られている。焼結法は、無機物質からなる固体粉末の集合体を融点よりも低い温度で加熱することにより、焼結体を得る方法である。しかしながら、焼結法は、固体粉末を高温で加熱する必要があることから、製造時のエネルギー消費が大きく、コストが掛かるという問題がある。そのため、無機物質からなる固体粉末を低温で結合させる方法の開発が行われている。
【0003】
特許文献1には、リン酸カルシウムが溶媒中に分散した分散液を、溶媒の凝固点よりも高く、溶媒の沸点より100℃高い温度以下の範囲内の温度で、静置乾燥させることによって得られるリン酸カルシウム透明体が開示されている。リン酸カルシウム透明体は、厚さ500μmのフィルムとした場合の可視光の透過率が30%以上100%以下の範囲内である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のリン酸カルシウム透明体は、十分な機械的強度を有していないおそれがある。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、機械的強度及び透光性に優れた構造体、及び低温条件下で製造することが可能な構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第一の態様に係る構造体は、リン酸カルシウム化合物を含む複数の結晶粒と、結晶粒の各々を結合し、リン酸カルシウム化合物を含む結合部とを含む。結晶粒の平均粒子径は60nm以下である。構造体の相対密度は80%以上である。構造体の厚さが1mmである場合において、波長589nmの光の全光線透過率は45%以上である。構造体のビッカース硬度は1GPa以上である。
【0008】
本発明の第二の態様に係る構造体の製造方法は、平均粒子径が60nm以下であり、リン酸カルシウム化合物の結晶を含む原料粒子と、カルシウム及びリンを含有し、pH4.0以上である水溶液とを含む混合物を、圧力が3000MPa以下であり、かつ、温度が300℃以下である条件下で20分以上12時間以下加圧及び加熱する工程を含む。構造体の相対密度は80%以上である。構造体の厚さが1mmである場合において、波長589nmの光の全光線透過率は45%以上であり、構造体のビッカース硬度は1GPa以上である。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、機械的強度及び透光性に優れた構造体、及び低温条件下で製造することが可能な構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る構造体の一例を概略的に示す断面図である。
【
図2】構造体の製造工程において、隣接する結晶粒の間に水溶液が存在する状態を示す概略図である。
【
図3】隣接する結晶粒の間に結合部が形成された状態を示す概略図である。
【
図4】原料粒子の加熱時間と、構造体の相対密度との関係を示すグラフである。
【
図5】実施例に係る構造体の波長と全光線透過率との関係を示すグラフである。
【
図6】原料粒子の加熱時間と、構造体のビッカース硬度及び破壊靭性との関係を示すグラフである。
【
図7】原料粒子の加熱時間と、構造体の2軸曲げ強度及びヤング率との関係を示すグラフである。
【
図8】実施例で用いた原料粒子を200,000倍の倍率で観察したSEM像である。
【
図9】実施例1に係る構造体の断面を30,000倍の倍率で観察したSEM像である。
【
図10】実施例1に係る構造体の断面を70,000倍の倍率で観察したSEM像である。
【
図11】実施例2に係る構造体の断面を30,000倍の倍率で観察したSEM像である。
【
図12】実施例2に係る構造体の断面を70,000倍の倍率で観察したSEM像である。
【
図13】実施例3に係る構造体の断面を30,000倍の倍率で観察したSEM像である。
【
図14】実施例3に係る構造体の断面を70,000倍の倍率で観察したSEM像である。
【
図15】実施例4に係る構造体の断面を30,000倍の倍率で観察したSEM像である。
【
図16】実施例4に係る構造体の断面を70,000倍の倍率で観察したSEM像である。
【
図17】実施例で用いた原料粒子を観察したTEM像である。
【
図18】実施例1に係る構造体の断面を観察したTEM像である。
【
図19】実施例4に係る構造体の断面を観察したTEM像である。
【
図20】実施例4に係る構造体の断面をさらに拡大して観察したTEM像である。
【
図21】実施例1に係る構造体の断面を30,000倍の倍率で観察したSEM像である。
【
図22】実施例1に係る構造体の断面を100,000倍の倍率で観察したSEM像である。
【
図23】比較例に係る構造体の断面を30,000倍の倍率で観察したSEM像である。
【
図24】比較例に係る構造体の断面を100,000倍の倍率で観察したSEM像である。
【
図25】原料粒子の加熱時間と、原料粒子のアスペクト比との関係を示すグラフである。
【
図26】実施例1~実施例4に係る構造体のX線回折パターンを示すグラフである。
【
図27】実施例で用いた原料粒子のX線回折パターンと、実施例4に係る構造体のX線回折パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本実施形態に係る構造体及びその製造方法について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0012】
[構造体]
本実施形態の構造体1は、
図1に示すように、複数の結晶粒2と、結晶粒2の各々を結合する結合部3とを含んでいる。そして、隣接する結晶粒2同士が互いに結合することにより、結晶粒2が連結した構造体1を形成している。結晶粒2同士は、点接触の状態であってもよく、結晶粒2の粒子面同士が接触した面接触の状態であってもよい。
【0013】
結晶粒2は、リン酸カルシウム化合物を含んでいる。リン酸カルシウム化合物は、リンとカルシウムとを含む化合物である。具体的には、リン酸カルシウム化合物は、カルシウムイオン(Ca2+)と、リン酸イオン(PO4
3-)、亜リン酸イオン(HPO3
2-)、二リン酸イオン(P2O7
4-)又はメタリン酸(PO3
-)との塩の総称である。リン酸カルシウム化合物は、アパタイト、リン酸一水素カルシウムCaH(PO4)、リン酸二水素カルシウム(Ca(H2PO4)2)、リン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2)、Ca10(PO4)6F2、Ca10(PO4)6Cl2、二リン酸二カルシウム(Ca2P2O7)、メタリン酸カルシウム(Ca(PO3)2)又はこれらの組み合わせを含んでいてもよい。
【0014】
アパタイトは、フッ素リン灰石、塩素リン灰石及び水酸リン灰石(ハイドロキシアパタイト)からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。具体的には、ハイドロキシアパタイトは、例えば、組成式:Ca10(PO4)6(OH)2で表される。アパタイトは、Ca10(PO4)6(OH)2で表される組成式のうち、Caの一部がCa以外のアルカリ土類金属及び鉛の少なくとも一方に置き換わっていてもよい。また、アパタイトは、Ca10(PO4)6(OH)2で表される組成式のうち、Pの一部がAs、V及びSからなる群より選ばれる少なくとも一つに置き換わっていてもよい。また、アパタイトは、Ca10(PO4)6(OH)2で表される組成式のうち、OHがF、Cl、Br、O及びCO3からなる群より選ばれる少なくとも一つに置き換わっていてもよい。
【0015】
結晶粒2はCa10-x(HPO4)x(PO4)6-x(OH)2-x(0≦x<1)で表されるハイドロキシアパタイトを含んでいることが好ましい。これにより、構造体1が構造的及び化学的に安定になる。そのため、例えば、構造体1を、生体材料や光学材料などとして好適に用いることができる。また、このようなハイドロキシアパタイトには、上述のように、フッ素などのイオンを導入することができる。そのため、多種多様な構造体1を得ることもできる。
【0016】
結晶粒2はアパタイトの結晶を有していることが好ましい。アパタイトの結晶は、非晶質のものと比べて機械的強度が高い性質を有する。結晶粒2がアパタイトの結晶を有している場合、結晶粒2の強度が高まる。そのため、構造体1の機械的強度をさらに向上させることができる。
【0017】
結晶粒2は、リン酸カルシウム化合物を主成分として含んでいる。ここで、結晶粒2がリン酸カルシウム化合物を主成分として含むとは、結晶粒2がリン酸カルシウム化合物を50質量%以上含むことを意味する。結晶粒2は、リン酸カルシウム化合物を、60質量%以上含んでいてもよく、70質量%以上含んでいてもよく、80質量%以上含んでいてもよく、90質量%以上含んでいてもよく、95質量%以上含んでいてもよく、99質量%以上含んでいてもよい。
【0018】
結晶粒2の平均粒子径は60nm以下である。平均粒子径が60nm以下であることにより、構造体1の内部構造にバラつきが少なくなり、緻密になることから、構造体1の機械的強度及び透光性が高くなる。平均粒子径は、50nm以下であることが好ましく、40nm以下であることがより好ましい。結晶粒2の平均粒子径の下限は特に限定されないが、平均粒子径は、1nm以上であってもよく、5nm以上であってもよく、10nm以上であってもよく、20nm以上であってもよい。なお、本明細書において、「平均粒子径」は、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)などのような顕微鏡を用いて数~数十視野中に観察される粒子を円に変換して換算した直径の平均値である。
【0019】
結晶粒2の形状は特に限定されないが、例えば真球状の粒子、又は、楕円体状の粒子であってもよい。また、結晶粒2は、立方体及び直方体を含む多面体状の粒子、ウィスカー状(針状)の粒子、又は鱗片状の粒子であってもよい。
【0020】
結晶粒2のアスペクト比は、2以下であってもよい。アスペクト比が上記の値以下であると、構造体1内の結晶粒2の異方性が小さくなり、透光性が向上する場合がある。また、アスペクト比が上記の値以下であると、構造体1内の構造が緻密になり、機械的強度が向上する場合がある。結晶粒2のアスペクト比は、1.8未満、1.5未満、1.3未満、又は、1.2未満であってもよい。なお、結晶粒2のアスペクト比は、各結晶粒2の短軸方向の長さに対する長軸方向の長さの比である。結晶粒2の短軸方向及び長軸方向の長さは、透過型顕微鏡などのような顕微鏡観察によって測定することができる。
【0021】
結合部3は、リン酸カルシウム化合物を含んでいる。結合部3に含まれるリン酸化合物は、上述したような結晶粒2に含まれるリン酸カルシウム化合物を用いることができる。
【0022】
結合部3はCa10-x(HPO4)x(PO4)6-x(OH)2-x(0≦x<1)で表されるハイドロキシアパタイトを含んでいることが好ましい。これにより、構造体1が構造的及び化学的に安定になる。そのため、例えば、本実施形態に係る構造体1を、生体材料や光学材料、構造材料などとして好適に用いることができる。また、このようなハイドロキシアパタイトには、上述のように、フッ素などのイオンを導入することができる。そのため、多種多様な構造体1を得ることもできる。
【0023】
結合部3は、リン酸カルシウム化合物を主成分として含んでいる。ここで、結合部3がリン酸カルシウム化合物を主成分として含むとは、結合部3がリン酸カルシウム化合物を50質量%以上含むことを意味する。結合部3は、リン酸カルシウム化合物を、60質量%以上含んでいてもよく、70質量%以上含んでいてもよく、80質量%以上含んでいてもよく、90質量%以上含んでいてもよく、95質量%以上含んでいてもよく、99質量%以上含んでいてもよい。
【0024】
結合部3に含まれるリン酸カルシウム化合物は、結晶粒2に含まれるリン酸カルシウム化合物と同じであってもよく、異なっていてもよい。なお、結合部3に含まれるリン酸カルシウム化合物が、結晶粒2に含まれるリン酸カルシウム化合物と同じである場合、結晶粒2と結合部3との界面で光が屈折しにくく、構造体1の全光線透過率を向上させることができることから好ましい。
【0025】
結晶粒2と結合部3との屈折率差は、0.05以下であることが好ましく、0.03以下であることがより好ましく、0.01以下であることがさらに好ましい。屈折率差を上記の値以下とすることにより、結晶粒2と結合部3との界面における光の屈折を抑制し、構造体1の全光線透過率を向上させることができる。なお、屈折率差の下限は特に限定されず、屈折率差は0以上である。また、屈折率はアッベ屈折計で測定される、NaD線(589nm)における値を採用することができる。
【0026】
結合部3は、非晶質であっても、結晶質であっても、またその混合物であってもよく、その状態を問わないが、結合部3はアパタイトの結晶を有していることが好ましい。アパタイトの結晶は、非晶質のものと比べて機械的強度が高い性質を有する。結合部3がアパタイトの結晶を有している場合、結合部3の強度が高まる。そのため、構造体1の機械的強度をさらに向上させることができる。結晶粒2と結合部3の屈折率差を小さくする観点から、結合部3の結晶を構成する化合物は、結晶粒2の結晶を構成する化合物と同じであることが好ましい。
【0027】
構造体1における結晶粒2の含有量は、50体積%以上であってもよく、60体積%以上であってもよく、70体積%以上であってもよく、80体積%以上であってもよい。また、構造体1における結晶粒2及び結合部3の合計含有量は、50体積%以上であってもよく、70体積%以上であってもよく、90体積%以上であってもよく、99体積%以上であってもよい。
【0028】
構造体1の相対密度は80%以上である。これにより、構造体1の内部構造が緻密になるため、構造体1の機械的強度を向上させることができる。相対密度は90%以上であることが好ましい。なお、相対密度は、90%超、93%超、94%超、95%超、又は、97%超であってもよい。なお、相対密度の上限は特に限定されず、相対密度は100%以下であってもよい。相対密度は、後述する実施例の欄に記載の方法で測定することができる。
【0029】
構造体1の厚さが1mmである場合において、波長589nmの光の全光線透過率は45%以上である。全光線透過率が上記の値以上であることにより、構造体1の透光性を向上させることができる。全光線透過率は、60%超、70%超、71%超、74%超、又は、80%超であってもよい。なお、全光線透過率の上限は特に限定されず、全光線透過率は100%以下であってもよい。全光線透過率は、後述する実施例の欄に記載の方法で測定することができる。
【0030】
構造体1のビッカース硬度は1GPa以上である。ビッカース硬度が上記の値以上であることにより、構造体1の機械的強度を向上させることができる。ビッカース硬度は、2GPa超、2.3GPa超、3GPa超、又は、3.5GPa超であってもよい。なお、ビッカース硬度の上限は特に限定されず、例えば、10GPa以下であってもよい。ビッカース硬度は、後述する実施例の欄に記載の方法で測定することができる。
【0031】
構造体1の破壊靭性は0.3MPa・m1/2以上であることが好ましい。破壊靭性が上記の値以上であることにより、構造体1の機械的強度を向上させることができる。破壊靭性は、0.4MPa・m1/2超、0.43MPa・m1/2超、0.47MPa・m1/2超、0.56MPa・m1/2超であってもよい。破壊靭性の上限は特に限定されず、例えば、1MPa・m1/2以下であってもよい。破壊靭性は、後述する実施例の欄に記載の方法で測定することができる。
【0032】
構造体1の2軸曲げ強度は、20MPa以上であることが好ましい。2軸曲げ強度が上記の値以上であることにより、構造体1の機械的強度を向上させることができる。2軸曲げ強度は、25MPa超であってもよく、31MPa超、35MPa超、又は、38MPa超であってもよい。2軸曲げ強度の上限は特に限定されず、例えば、100MPa以下であってもよい。2軸曲げ強度は、後述する実施例の欄に記載の方法で測定することができる。
【0033】
構造体1のヤング率は、40MPa以上であることが好ましい。ヤング率が上記の値以上であることにより、構造体1の機械的強度を向上させることができる。ヤング率は、50MPa超、60MPa超、62MPa超、65MPa超、又は、75MPa超であってもよい。ヤング率は、後述する実施例の欄に記載の方法で測定することができる。
【0034】
構造体1は、隣接する結晶粒2の間に気孔を有していてもよい。構造体1の断面における気孔率は15%以下であることが好ましい。つまり、構造体1の断面を観察した場合、単位面積あたりの気孔の割合の平均値が15%以下であることが好ましい。気孔率が15%以下の場合、結晶粒2同士が結合する割合が増加するため、構造体1が緻密になり、機械的強度を向上させることが可能となる。また、気孔率が15%以下の場合には、気孔を起点として、構造体1にひび割れが発生することが抑制されるため、構造体1の曲げ強さを高めることが可能となる。なお、構造体1の断面における気孔率は10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。構造体1の断面における気孔率が小さいほど、気孔を起点としたひび割れが抑制されるため、構造体1の強度を高めることが可能となる。
【0035】
本明細書において、気孔率は次のように求めることができる。まず、構造体1の断面を観察し、結晶粒2及び気孔を判別する。そして、単位面積と当該単位面積中の気孔の面積とを測定し、単位面積あたりの気孔の割合を求める。このような単位面積あたりの気孔の割合を複数箇所で求めた後、単位面積あたりの気孔の割合の平均値を気孔率とする。なお、構造体1の断面を観察する際には、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いることができる。また、単位面積と当該単位面積中の気孔の面積は、顕微鏡で観察した画像を二値化することにより測定してもよい。
【0036】
構造体1の内部に存在する気孔の大きさは特に限定されないが、可能な限り小さい方が好ましい。気孔の大きさが小さいことにより、気孔を起点としたひび割れが抑制されるため、構造体1の機械的強度を高めることが可能となる。なお、構造体1の気孔の大きさは、5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。構造体1の内部に存在する気孔の大きさは、上述の気孔率と同様に、構造体1の断面を顕微鏡で観察することにより、求めることができる。
【0037】
構造体1がアパタイトの結晶を有する場合、構造体1は、CuKα線をX線源とした際のXRDパターンにおいて、(002)面由来のピーク強度よりも(300)面由来のピーク強度の方が高くてもよい。これにより、結晶粒2の異方性が小さくなる。そのため、構造体1の透光性が高くなる場合がある。
【0038】
構造体1の形状は特に限定されず、構造体1の形状は、例えば板状、膜状、矩形状、塊状、棒状又は球状であってもよい。また、構造体1が板状又は膜状の場合、その厚みtは特に限定されないが、例えば50μm以上であってもよい。本実施形態の構造体1は、後述するように、加圧加熱法により形成している。そのため、厚みの大きな構造体1を容易に得ることができる。なお、構造体1の厚みtは1mm以上であってもよく、1cm以上であってもよい。構造体1の厚みtの上限は特に限定されないが、例えば50cmであってもよい。
【0039】
このように、本実施形態の構造体1は、リン酸カルシウム化合物を含む複数の結晶粒2と、結晶粒2の各々を結合し、リン酸カルシウム化合物を含む結合部3とを含む。結晶粒2の平均粒子径は60nm以下である。構造体1の相対密度は80%以上である。構造体1の厚さが1mmである場合において、波長589nmの光の全光線透過率は45%以上である。構造体1のビッカース硬度は1GPa以上である。これにより、構造体1の内部構造が緻密になり、光の透過割合が多くなる。そのため、構造体1は、機械的強度及び透光性に優れている。また、構造体1は、後述するように、低温条件下で製造することができる。そのため、高温焼結のように高温条件下で製造された構造体と比較し、結晶性の低い構造体1が得られるため、生体活性などの反応性が高い構造体1を得ることができる。また、本実施形態に係る構造体1の結晶粒2は小さくて表面積が大きく、高温焼結のように高温条件下で製造された構造体と比較し、赤外線吸収能を有するヒドロキシ基が構造体1に多く残存する。そのため、赤外線遮蔽能を有する構造体1を提供することもできる。
【0040】
[構造体の製造方法]
次に、本実施形態に係る構造体1の製造方法について説明する。構造体1の製造方法は、リン酸カルシウム化合物の結晶を含む原料粒子と、カルシウム及びリンを含有し、pH4.0以上である水溶液とを混合して、混合物を調製する工程と、当該混合物を加熱及び加圧する工程とを含む。
【0041】
本実施形態に係る構造体1の製造方法は、生物が自身の体内に鉱物(無機化合物)を作り出す生物鉱物形成作用、いわゆるバイオミネラリゼーションのような反応を利用した方法である。構造体1の製造方法は、原料粒子と上記水溶液とを加熱しながら加圧することにより、原料粒子と水溶液とを反応させ、原料粒子に由来する結晶粒2の表面に結合部3を形成している。
【0042】
原料粒子の調製方法は特に限定されないが、例えばゾルゲル法により調製することができる。原料粒子は、例えば、硝酸カルシウム四水和物(Ca(NO3)2・4H2O)のようなカルシウム塩及びリン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)などのようなリン酸水素塩から生成することができる。
【0043】
原料粒子は、リン酸カルシウム化合物を含んでいる。原料粒子は、上述したような結晶粒2と同様のリン酸カルシウム化合物を含んでいてもよい。原料粒子の組成は、上述した結晶粒2と同様であるため、説明を省略する。
【0044】
原料粒子の平均粒子径は特に限定されないが、60nm以下である。原料粒子の平均粒子径がこの範囲内であることにより、水溶液との反応性を高め、結合部3を容易に形成することが可能となる。平均粒子径は、50nm以下であることが好ましく、40nm以下であることがより好ましい。平均粒子径の下限は特に限定されないが、平均粒子径は、1nm以上であってもよく、5nm以上であってもよく、10nm以上であってもよく、20nm以上であってもよい。なお、本明細書において、「平均粒子径」は、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)などのような顕微鏡を用いて数~数十視野中に観察される粒子を円に変換して換算した直径の平均値である。
【0045】
原料粒子の形状は特に限定されないが、例えば真球状の粒子、又は、楕円体状の粒子であってもよい。また、原料粒子は、立方体及び直方体を含む多面体状の粒子、ウィスカー状(針状)の粒子、又は鱗片状の粒子であってもよい。
【0046】
原料粒子のアスペクト比は、1以上10以下であってもよい。原料粒子のアスペクト比は、1.5超、1.8超、又は、2超であってもよい。また、原料粒子のアスペクト比は、8未満、5未満、3未満、又は、2.5未満であってもよい。なお、原料粒子のアスペクト比は、各原料粒子の短軸方向の長さに対する長軸方向の長さの比である。原料粒子の短軸方向及び長軸方向の長さは、透過型顕微鏡などのような顕微鏡観察によって測定することができる。
【0047】
上記水溶液は、360mM未満のナトリウムイオン(Na+)を含んでいてもよい。このような水溶液は、一般的に用いられている擬似体液の組成と近くなる。上記水溶液は、290mM未満、220mM未満、180mM未満のナトリウムイオン(Na+)を含んでいてもよい。また、上記水溶液は、40mM超、80mM超、又は、120mM超のナトリウムイオン(Na+)を含んでいてもよい。
【0048】
上記水溶液は、13mM未満のカリウムイオン(K+)を含んでいてもよい。このような水溶液は、一般的に用いられている擬似体液の組成と近くなる。上記水溶液は、10mM未満、8mM未満、又は、6mM未満のカリウムイオン(K+)を含んでいてもよい。また、上記水溶液は、2mM超、又は4mM超のカリウムイオン(K+)を含んでいてもよい。
【0049】
上記水溶液は、3.8mM未満のマグネシウムイオン(Mg2+)を含んでいてもよい。このような水溶液は、一般的に用いられている擬似体液の組成と近くなる。上記水溶液は、3.1mM未満、2.3mM未満、又は、1.6mM未満のマグネシウムイオン(Mg2+)を含んでいてもよい。また、上記水溶液は、0.5mM超、又は、1.0mM超のマグネシウムイオン(Mg2+)を含んでいてもよい。
【0050】
上記水溶液は、0.5mM超12.5mM未満のカルシウムイオン(Ca2+)を含んでいてもよい。このような水溶液は、リン酸カルシウム化合物を容易に形成することができる。上記水溶液は、1.0mM超、1.5mM超、又は、2.0mM超のカルシウムイオン(Ca2+)を含んでいてもよい。また、上記水溶液は、10mM、7.5mM未満、5.0mM未満、又は、3.0mM未満のカルシウムイオン(Ca2+)を含んでいてもよい。
【0051】
上記水溶液は、380mM未満の塩化物イオン(Cl-)を含んでいてもよい。このような水溶液は、一般的に用いられている擬似体液の組成と近くなる。上記水溶液は、300mM未満、240mM未満、又は、180mM未満の塩化物イオン(Cl-)を含んでいてもよい。また、上記水溶液は、40mM超、80mM超、又は、120mM超の塩化物イオン(Cl-)を含んでいてもよい。
【0052】
上記水溶液は、10.5mM未満の炭酸水素イオン(HCO3-)を含んでいてもよい。このような水溶液は、一般的に用いられている擬似体液の組成と近くなる。上記水溶液は、10mM未満、8mM未満、又は、6mM未満の炭酸水素イオン(HCO3-)を含んでいてもよい。また、上記水溶液は、2mM超、又は4mM超の炭酸水素イオン(HCO3-)を含んでいてもよい。
【0053】
上記水溶液は、0.1mM超5.0mM未満のリン酸水素イオン(HPO4
2-)を含んでいてもよい。このような水溶液は、リン酸カルシウム化合物を容易に形成することができる。上記水溶液は、0.3mM超、0.6mM超、又は、0.9mM超のリン酸水素イオン(HPO4
2-)を含んでいてもよい。また、上記水溶液は、4mM、3mM未満、2mM未満、又は、1.5mM未満のリン酸水素イオン(HPO4
2-)を含んでいてもよい。
【0054】
上記水溶液は、1.25mM未満の硫酸イオン(SO4
2-)を含んでいてもよい。このような水溶液は、一般的に用いられている擬似体液の組成と近くなる。上記水溶液は、1mM未満、0.8mM未満、又は、0.6mM未満の硫酸イオン(SO4
2-)を含んでいてもよい。また、上記水溶液は、0.2mM超、又は0.4mM超の硫酸イオン(SO4
2-)を含んでいてもよい。
【0055】
上記水溶液のpHは4.0以上である。pHが4.0以上であることにより、加圧及び加熱による反応を促進することができる。水溶液のpHは、5以上であってもよく、6以上であってもよい。また、水溶液のpHは、10未満であってもよく、9未満であってもよく、8未満であってもよい。
【0056】
カルシウム及びリンを含有し、pHが4.0以上である水溶液は、例えば擬似体液(SBF:Simulated Body Fluid)であってもよい。SBFは、無機イオン濃度をヒトの細胞外液とほぼ等しくした水溶液であり、この溶液を用いることにより、体内における材料表面の反応を生体外でも簡便に予測することができる。そして、原料粒子がSBFと反応することにより、原料粒子の表面にリン酸カルシウム化合物を容易に生成することができる。そのため、例えばハイドロキシアパタイトのようなリン酸カルシウム化合物を含む結合部3を容易に形成することができる。擬似体液としては、上述したような濃度範囲の水溶液を使用することができる。
【0057】
原料粒子に対する水溶液の添加量は、反応が十分に進行する量であることが好ましい。水溶液の添加量は、原料粒子に対して1~200質量%であることが好ましく、7~100質量%であることがより好ましい。
【0058】
次いで、原料粒子と水溶液とを混合してなる混合物を、金型の内部に充填する。当該混合物を金型に充填した後、必要に応じて金型を加熱してもよい。そして、金型の内部の混合物に圧力を加えることにより、金型の内部が高圧状態となる。この際、原料粒子が高充填化し、原料粒子の粒子同士が互いに結合することで高密度化する。つまり、原料粒子と水溶液とを混合してなる混合物を加熱しながら加圧した場合、バイオミネラリゼーションのような反応が進行すると考えられる。
【0059】
詳細に説明すると、
図2に示すように、原料粒子が水溶液と接触すると、原料粒子の表面に、カルシウムイオン及びリン酸イオンによって、リン酸カルシウム化合物が生成される。そして、
図3に示すように、隣接する原料粒子の間に、リン酸カルシウム化合物を含有する結合部3が形成される。ここで、原料粒子と水溶液とを混合してなる混合物の加熱加圧時間を長くすることにより、リン酸カルシウム化合物の生成が進行し、リン酸カルシウム化合物の割合が増加する。そのため、混合物の加熱及び加圧工程を所定時間行うことにより、リン酸カルシウム化合物を含む結合部3を形成することができる。
【0060】
なお、原料粒子と水溶液とを混合してなる混合物の加熱加圧条件は、原料粒子と当該水溶液との反応が進行するような条件であれば特に限定されない。例えば、原料粒子と水溶液とを混合してなる混合物を、40℃以上300℃以下に加熱しつつ、3000MPa以下の圧力で加圧することが好ましい。さらに、当該混合物を加熱及び加圧する時間は、20分以上12時間以下であることが好ましい。このような条件により、結晶質のリン酸カルシウム化合物を含む結合部3を容易に形成することができる。なお、混合物を加圧する際の圧力は、1MPa以上であってもよく、10MPa以上であってもよい。また、混合物を加圧する際の圧力は、2000MPa以下であってもよく、1000MPa以下であってもよい。混合物を加熱する際の温度は、80℃以上であってもよく、100℃以上であってもよい。また、混合物を加熱する際の温度は、250℃以下であってもよく、200℃以下であってもよい。
【0061】
最後に、金型の内部から成形体を取り出すことにより、複数の結晶粒2同士が結合部3を介して結合した構造体1を得ることができる。なお、本実施形態では、原料粒子と水溶液とを混合してなる混合物を、金型の内部に充填して加熱及び加圧する例について説明したが、このような金型を用いた例に限定されず、例えば2枚の板で混合物を挟んだ状態で混合物を加熱加圧してもよい。
【0062】
このように、本実施形態の構造体1の製造方法は、平均粒子径が60nm以下であり、リン酸カルシウム化合物の結晶を含む原料粒子と、カルシウム及びリンを含有し、pH4.0以上である水溶液とを含む混合物を加圧及び加熱する工程を含む。加圧及び加熱する工程では、圧力が3000MPa以下であり、かつ、温度が300℃以下である条件下で20分以上12時間以下加圧及び加熱する。本方法では、低温条件下で構造体1を成形できる。そのため、高温焼結のように高温条件下で製造された構造体と比較し、結晶性の低い構造体1が得られるため、生体活性などの反応性が高い構造体1を得ることができる。また、本実施形態に係る構造体1の結晶粒2は小さくて表面積が大きく、高温焼結のように高温条件下で製造された構造体と比較し、赤外線吸収能を有するヒドロキシ基が構造体1に多く残存する。そのため、赤外線遮蔽能を有する構造体1を提供することもできる。
【0063】
[構造体を備える部材]
次に、本実施形態に係る構造体1を備える部材について説明する。本実施形態の構造体1は、上述のように、厚みの大きな板状とすることができる。また、構造体1は、機械的強度が高く、一般的なセラミックス部材と同様に切断することができると共に、表面加工することもできる。そのため、構造体1は、建築部材、歯科用材料、医療用材料、又は、細胞用培養容器などのような生化学等の基礎研究用材料として好適に用いることができる。建築部材としては特に限定されないが、例えば、外壁材(サイディング)、屋根材、道路用材料、外溝用材料などが挙げられる。また、本実施形態に係る構造体1は、透光性に優れている。そのため、構造体1は、例えば、赤外線カットフィルタ、生体用レンズ、透過観察用ウインドウなどのような光学部材として好適に用いることもできる。
【0064】
また、本実施形態の構造体1は生体の骨又は歯の成分と近く、透明性に優れているため、構造体1の表面上で細胞を培養することができる。このため、構造体1は、細胞の活動を直接評価することができる細胞培養用材料として好適に用いることもできる。
【0065】
また、本実施形態の構造体1は生体接着性及び透明性に優れている。そのため、構造体1を、栄養補給用中心静脈カテーテルなどの経皮デバイスに接続又はコーティングすることにより、細菌感染を防止しつつ、生体内の透過光を測定できる医療用材料を提供することができる。
【0066】
本実施形態の構造体1では、各種の機能材料を含んでいてもよく、機能材料は結晶粒2又は結合部3と複合して用いることができる。また、本実施形態の構造体1は低温で作製されるため、機能材料はポリマーなどの有機物であってもよい。
【0067】
例えば、蛍光体又は蛍光色素等の発光材料を複合させた場合には、透光性が高いことから、発光材料の放出する光を効率よく取り出すことができる。また、励起源が光である場合は、発光材料が励起光を効率よく取り込むことができる。発光材料を複合させた構造体1は、照明や表示デバイスなどに用いることができる。
【0068】
また、生体色素、顔料又は染料のような色素を含む色材を複合させた場合には、その色を再現よく呈した着色構造体や、透過する波長を制御した透光性構造体を得ることができる。構造体1の透光性は、色材の粒径、屈折率、及び添加量などのようなパラメータによって制御できる。これらの構造体1は、装飾部品又はセンサデバイスの光学フィルタなどに用いることができる。
【0069】
さらに、構造体1は、生理的活性に有用な成長因子アミノ酸、ペプチド、たんぱく、酵素、血清、血漿成分など細胞培養及び活性に有用な機能材料を複合することで、細胞培養用材料として好適に用いることができる。
【0070】
なお、上記機能材料は一例であり、その他の各種機能材料を複合し、機能材料に由来する機能を有する構造体1を作製できることは、当業者には自明である。
【実施例0071】
以下、実施例により本実施形態の構造体をさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれによって限定されるものではない。
【0072】
(ハイドロキシアパタイト原料粒子の合成)
ハイドロキシアパタイトナノ粒子は、文献(F. Bakan et al., A novel low temperature sol-gel synthesis process for thermally stable nanocrystalline hydroxyapatite, Powder Technol., 233 (2013) 295-302.)を参考に、ゾルゲル法で合成した。具体的には、Ca(NO3)2・4H2O(富士フィルム和光純薬株式会社)を用いて100mLのカルシウム水溶液(5M(mol/L))を合成し、(NH4)2HPO4(富士フィルム和光純薬株式会社)を用いてリン酸水素水溶液(3M(mol/L))を合成した。次に、アンモニア水(富士フィルム和光純薬株式会社)を用い、各水溶液のpHを10.5に調節した。その後、リン酸水素水溶液をカルシウム水溶液に滴下しながら300rpmで攪拌し、混合溶液を生成した。その際に、混合溶液のpHが10.5に維持されるようにアンモニア水を添加した。混合溶液を1時間攪拌し、12時間エージングした後、得られたゲルを超純水で洗浄した。洗浄物を110℃で24時間熱処理することで、平均粒子径が30nmのハイドロキシアパタイトナノ粒子(原料粒子)を得た。
【0073】
(擬似体液(SBF)の調製)
SBFは、公知の方法(T. Kokubo et al., Solutions able to reproduce in vivo surface-structure changes in bioactive glass-ceramic A-W, J. Biomed. Mater. Res., 24 (1990) 721-734.)によって調製した。SBFのpHは7.4であった。なお、SBFの組成を、ヒトの血漿の組成と共に表1に示す。
【0074】
【0075】
(構造体の作製)
(実施例1)
SBFの含有量が20質量%となるように0.4gの原料粒子と0.08mLのSBFとを乳鉢を用いて混合した。その後、混合物を直径12mmの超硬金型に投入し、180℃、800MPaで30分間加圧しながら加熱した。金型から取り出した試料は、残余水分を蒸発させるため110℃のオーブンで24時間乾燥を行った。このようにして、本例に係る構造体を作製した。
【0076】
(実施例2)
加圧加熱時間を30分から1時間に変更した以外は、実施例1と同様にして構造体を作製した。
【0077】
(実施例3)
加圧加熱時間を30分から2時間に変更した以外は、実施例1と同様にして構造体を作製した。
【0078】
(実施例4)
加圧加熱時間を30分から6時間に変更した以外は、実施例1と同様にして構造体を作製した。
【0079】
(比較例)
SBFを超純水に変更した以外は、実施例1と同様にして構造体を作製した。
【0080】
[評価]
(相対密度測定)
構造体の相対密度は、エタノール(EtOH、99.5%、富士フィルム和光純薬株式会社)を溶媒としたアルキメデス法より計算した。この結果を表2及び
図4に示す。
【0081】
(全光線透過率)
構造体を厚み1mmまで鏡面研磨し、株式会社島津製作所製の紫外可視分光光度計UV-2600で積分球ユニットを用い、300~800nmの波長領域の全光線透過率を測定した。この結果を
図5に示す。なお、表2には、波長589nmの全光線透過率を記載した。
【0082】
(ビッカース硬度測定)
ビッカース硬度は、構造体に対し、荷重(試験力)19.8N、保持時間15秒の条件で試験を6回行い、その平均値を各構造体のビッカース硬度とした。ビッカース硬度は、株式会社フューチュアテック製のビッカース硬度計FV-310eを用いて測定した。この結果を表2及び
図6に示す。
【0083】
(破壊靭性)
破壊靭性は、ビッカース硬度試験と同じ条件で試験を行い、その結果を基に圧子圧入法(IF法)により計算した。この結果を表2及び
図6に示す。
【0084】
(2軸曲げ強度)
2軸曲げ強度は、50Nの荷重を測定可能なオートグラフAGX-Vシリーズ万能試験機(株式会社島津製作所)測定した。具体的には、直径11mmの円形試験片を、120°間隔で配置された3つの球状ボール(直径4.5mm)で支持し、試験片の中央に直径1.4mmで端面が平面のローディングピストンで荷重を加えた。その際、一定のクロスヘッド変位速度(0.5mm/s)で試験を5回行い、測定結果の平均値を計算した。この結果を表2及び
図7に示す。
【0085】
(ヤング率)
ヤング率は、デジタルストレージオシロスコープ(DSOX3052T、Keysight社)と超音波パルサー/受信機(Model5072、PANAMETRICS)を使用して得られた超音波速度データから計算した。この結果を表2及び
図7に示す。
【0086】
【0087】
表2及び
図4~
図7に示すように、混合物の加熱時間が長くなるにつれ、構造体の相対密度、透過率、機械的特性が向上することが分かる。混合物の加熱時間が長くなるにつれ、構造体が緻密になり、機械的強度及び透光性が向上したと推定される。
【0088】
(走査型電子顕微鏡観察)
透明構造体の破断面を、走査電子顕微鏡(FE-SEM、SU9000、(株)日立ハイテクノロジーズ)を用い、15kV又は30kVの加速電圧で観察を行った。
【0089】
(透過型電子顕微鏡(TEM)観察)
構造体の結晶粒の形状を、透過電子顕微鏡(JEM-ARM200F、日本電子株式会社)を用いて観察した。
【0090】
図8は、原料粒子のSEM像である。
図9及び
図10は、実施例1に係る構造体の断面を30,000倍及び70,000倍の倍率で観察したSEM像である。
図11及び
図12は、実施例2に係る構造体の断面を30,000倍及び70,000倍の倍率で観察したSEM像である。
図13及び
図14は、実施例3に係る構造体の断面を30,000倍及び70,000倍の倍率で観察したSEM像である。
図15及び
図16は、実施例4に係る構造体の断面を30,000倍及び70,000倍の倍率で観察したSEM像である。
図8~
図16より、原料粒子の加熱時間が長くなるにつれて、構造体が緻密になり、気孔の割合が減少していることが分かる。
【0091】
図17は、原料粒子のTEM像である。
図18は、実施例1に係る構造体の結晶粒の形状を観察したTEM像である。
図19は、実施例4に係る構造体の結晶粒の形状を観察したTEM像である。
図20は、実施例4に係る構造体の断面をさらに拡大して観察したTEM像である。
図17~
図20より、原料粒子の加熱時間が長くなるにつれて、ハイドロキシアパタイト粒子同士の結合が促進されるとともに、楕円体状の原料粒子が真球状になっていることが分かる。また、
図20より、原料粒子同士の間に、再析出したハイドロキシアパタイトが結合部として生成されていることが確認できる。
【0092】
次に、実施例1に係る構造体と比較例に係る構造体のSEM像を観察した。
図21及び
図22は、実施例1に係る構造体の断面を30,000倍及び100,000倍の倍率で観察したSEM像である。
図23及び
図24は、比較例に係る構造体の断面を30,000倍及び100,000倍の倍率で観察したSEM像である。
図21~
図24より、実施例1に係る構造体は緻密な構造であることを確認できたが、比較例に係る構造体は、実施例1ほど構造が緻密でなかった。
【0093】
次に、比較例に係る構造体の相対密度と透過率を測定した。比較例の評価結果を、上述した実施例1の評価結果と併せて表3に示す。表3に示すように、比較例1の相対密度を測定したところ、87.2%であり、波長589nmの全光線透過率を測定したところ43.7%であった。これらの結果から、原料粒子と混合する液体として、カルシウム及びリンを含有し、pH4.0以上である水溶液を用いた場合には、超純水を用いた場合と比較し、構造体の相対密度及び透過率が高くなり、構造体の機械的強度及び透光性が向上することが分かる。
【0094】
【0095】
次に、原料粒子及び実施例1~実施例4に係る構造体のアスペクト比を測定した。結果を表4及び
図25に示す。表4及び
図25に示すように、原料粒子の加熱時間が長くなるにつれて、ハイドロキシアパタイト粒子のアスペクト比が小さくなって1に近づき、細長い形状をした粒子が、真球状に近くなっていくことが確認できた。
【0096】
【0097】
(X線回折測定)
次に、X線回折装置を用いて構造体のX線回折パターンを測定した。X線回折装置は、ブルカーAXSのX線回折装置、D8 ADVANCEを用いた。なお、CuKα線をX線源とした。X線回折パターンは、管電圧が40kV、管電流が40mA、回折角2θが10°~70°、ステップサイズが0.02°の条件で測定した。
図26では、実施例1~実施例4のX線回折パターンを示す。また、
図27では、原料粒子及び実施例4のX線回折パターンを示す。
【0098】
図26に示すように、実施例1~実施例4の構造体では、純水なハイドロキシアパタイトに由来する回折ピークが認められたが、XRDスペクトルに大きな違いは見られなかった。一方、
図27から、原料粒子を加熱することにより、c-axisに関連する結晶面(002)及び結晶面(004)のピーク強度が減少し、a-axisに関連する結晶面(300)及び結晶面(310)のピーク強度が増加することが分かる。この結果は、従来のCold Sintering Process(Hassan et. al., J. Hazard. Mater., vol. 374, 2019, 228-237)及びHot isotactic pressing(Uematsu et. al., J. Am. Ceram. Soc., vol. 72, 1989, 1476-1478)とは異なっていた。
図27より、原料粒子の加熱時間に伴い、原料粒子の長軸方向の長さが短くなり、短軸方向の長さが長くなっていることが分かる。
【0099】
以上の結果より、原料粒子を加熱及び加圧すると、原料粒子同士が結合部を介して結合し、加熱時間に伴って、原料粒子が長軸方向に短くなり、短軸方向に長くなることで、構造体の緻密化が促進されたと考えられる。
【0100】
(付記)
以上の実施の形態の記載により、下記の技術が開示される。
【0101】
(技術1)リン酸カルシウム化合物を含む複数の結晶粒と、前記結晶粒の各々を結合し、リン酸カルシウム化合物を含む結合部と、を含む構造体であって、前記結晶粒の平均粒子径は60nm以下であり、前記構造体の相対密度は80%以上であり、前記構造体の厚さが1mmである場合において、波長589nmの光の全光線透過率は45%以上であり、前記構造体のビッカース硬度は1GPa以上である、構造体。
【0102】
この構成により、構造体の内部構造が緻密になり、光の透過割合が多くなる。そのため、機械的強度及び透光性に優れた構造体を提供することができる。
【0103】
(技術2)前記結晶粒はアパタイトの結晶を有する、技術1に記載の構造体。この構成により、結晶粒の強度が高まる。そのため、構造体の機械的強度もさらに向上させることができる。
【0104】
(技術3)前記結合部はアパタイトの結晶を有する、技術1又は2に記載の構造体。この構成により、結合部の強度が高まる。そのため、構造体の機械的強度をさらに向上させることができる。
【0105】
(技術4)前記結晶粒はCa10-x(HPO4)x(PO4)6-x(OH)2-x(0≦x<1)で表されるハイドロキシアパタイトを含む、技術1~3のいずれか1つに記載の構造体。この構成により、構造体が構造的及び化学的に安定になる。そのため、例えば、構造体を、生体材料や光学材料などとして好適に用いることができる。
【0106】
(技術5)前記結合部はCa10-x(HPO4)x(PO4)6-x(OH)2-x(0≦x<1)で表されるハイドロキシアパタイトを含む、技術1~4のいずれか1つに記載の構造体。この構成により、構造体が構造的及び化学的に安定になる。そのため、例えば、構造体を、生体材料や光学材料などとして好適に用いることができる。
【0107】
(技術6)CuKα線をX線源とした際のXRDパターンにおいて、(002)面由来のピーク強度よりも(300)面由来のピーク強度の方が高い、技術2~5のいずれか1つに記載の構造体。この構成により、結晶粒の異方性が小さくなる。そのため、構造体の透光性が高くなる場合がある。
【0108】
(技術7)相対密度が90%以上である、技術1~6のいずれか1つに記載の構造体。
この構成により、構造体1の内部構造がさらに緻密になる。そのため、構造体1の機械的強度をさらに向上させることができる。
【0109】
(技術8)平均粒子径が60nm以下であり、リン酸カルシウム化合物の結晶を含む原料粒子と、カルシウム及びリンを含有し、pH4.0以上である水溶液とを含む混合物を、圧力が3000MPa以下であり、かつ、温度が300℃以下である条件下で20分以上12時間以下加圧及び加熱する工程を含む、構造体の製造方法であって、前記構造体の相対密度は80%以上であり、前記構造体の厚さが1mmである場合において、波長589nmの光の全光線透過率は45%以上であり、前記構造体のビッカース硬度は1GPa以上である、構造体の製造方法。この構成により、低温条件下で構造体を成形できる。そのため、生体活性などの反応性が高い構造体、生体親和性の高い構造体、可視光透過性を持つ構造体、又は、赤外線遮蔽能を有する構造体などを得ることができる。
【0110】
(技術9)前記水溶液が擬似体液である、技術8に記載の構造体の製造方法。この構成により、原料粒子の表面にリン酸カルシウム化合物を容易に生成することができる。そのため、リン酸カルシウム化合物を含む結合部を容易に形成することができる。
【0111】
以上、実施例に沿って本実施形態の内容を説明したが、本実施形態はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。