(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120773
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】土壌水分特性推定方法、土壌水分特性推定装置、および、灌水支援システム
(51)【国際特許分類】
A01G 27/00 20060101AFI20240829BHJP
G06Q 50/02 20240101ALI20240829BHJP
【FI】
A01G27/00 504B
G06Q50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027812
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 智紀
(72)【発明者】
【氏名】戸上 和樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼本 慧
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC01
5L050CC01
(57)【要約】
【課題】水田転換畑の土壌水分特性を容易かつ精度よく推定する技術を実現する。
【解決手段】土壌水分特性推定装置(10)は、水田転換畑である土壌が位置する地域の地理情報を独立変数とし、当該土壌の土壌水分特性を従属変数とする推定モデルに、水田転換畑である対象土壌が位置する対象地域の地理情報を入力し、出力される土壌水分特性の推定結果を取得する推定部(14)を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水田転換畑である土壌が位置する地域の地理情報を独立変数とし、当該土壌の土壌水分特性を従属変数とする推定モデルに、水田転換畑である対象土壌が位置する対象地域の地理情報を入力し、出力される土壌水分特性の推定結果を取得する推定工程を、
情報処理装置が実行する、土壌水分特性推定方法。
【請求項2】
前記推定モデルは、さらに、前記地域内の水田における土壌水分特性が格納されたデータベースから得られた値を独立変数として含む、請求項1に記載の土壌水分特性推定方法。
【請求項3】
前記推定モデルは、さらに、水田転換畑である土壌中の粘土含量およびシルト含量に基づいて分類される土性区分を表す土性判定データを独立変数として含む、請求項1または2に記載の土壌水分特性推定方法。
【請求項4】
前記推定モデルは、さらに、水田転換畑である土壌の明度を表す明度データを独立変数として含む、請求項1または2に記載の土壌水分特性推定方法。
【請求項5】
前記推定モデルは、前記独立変数と前記従属変数との関係を表す回帰モデル、または、前記独立変数と前記従属変数との関係を学習した学習済モデルである、請求項1または2に記載の土壌水分特性推定方法。
【請求項6】
前記土壌水分特性は、圃場容水量および永久しおれ点の少なくとも一方である、請求項1または2に記載の土壌水分特性推定方法。
【請求項7】
水田転換畑である土壌が位置する地域の地理情報を独立変数とし、当該土壌の土壌水分特性を従属変数とする推定モデルに、水田転換畑である対象土壌が位置する対象地域の地理情報を入力し、出力される土壌水分特性の推定結果を取得する推定部
を備えた、土壌水分特性推定装置。
【請求項8】
請求項7に記載の土壌水分特性推定装置としてコンピュータを機能させるための土壌水分特性の推定プログラムであって、前記推定部としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【請求項9】
請求項1または2に記載の土壌水分特性推定方法により推定した土壌水分特性を用いて、土壌の灌水条件を決定する決定工程を
情報処理装置が実行する、灌水支援方法。
【請求項10】
請求項7に記載された土壌水分特性推定装置と、
前記土壌水分特性推定装置において推定した土壌水分特性を用いて、土壌の灌水条件を決定する決定部を備えた灌水支援装置と
を備えた、灌水支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌水分特性推定方法、土壌水分特性推定装置、および、灌水支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
圃場容水量および永久しおれ点は、土壌の水はけおよび水持ちを決定する代表的な土壌特性値である。水田転換畑を含む様々な土壌の水分特性を推定するために、各土壌に固有である圃場容水量および永久しおれ点の値は、土壌の特性を表す種々の値の中で特に重要である。例えば、現在、社会実装が進んでいる「大豆の灌水支援システム」においても、圃場容水量および永久しおれ点の測定値は必須の入力項目となっている。
【0003】
圃場容水量および永久しおれ点の値は、現在でも直接測定する方法が主流である。また、農林水産省のWebサイトにおいて公開されている「日本土壌インベントリー」(https://soil-inventory.rad.naro.go.jp/)には各土壌における圃場容水量および永久しおれ点の値を格納したデータベースが存在する。一方、圃場容水量および永久しおれ点と同様の土壌特性値である土壌水分量については、特許文献1~3に記載されているように、推定する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-509229号公報
【特許文献2】特表2022-512047号公報
【特許文献3】特開2022-054221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圃場容水量および永久しおれ点を直接測定するためには、高価な測定機器が必要であり、かつ、測定操作が煩雑であるため、測定できる機関が限られている。また、日本土壌インベントリーのデータベースに格納されたデータは、水田における収穫後の値であり、水田転換畑における耕うんされた状態での値とは大きく異なることが知られている。したがって、このようなデータベースに格納された値をそのまま、水田転換畑を含む様々な土壌において参照することはできない。さらに、特許文献1~3に記載された技術は、土壌水分量を推定する技術であり、圃場容水量および永久しおれ点の推定に対応したものではない。
【0006】
水田転換畑における圃場容水量および永久しおれ点の値が容易に推定できれば、水田転換畑の水分環境の推定が容易になり、水田転作作物の高位安定生産および自給率向上に寄与できる。
【0007】
本発明の一態様は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、水田転換畑の土壌水分特性を容易かつ精度よく推定する技術を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る土壌水分特性推定方法は、水田転換畑である土壌が位置する地域の地理情報を独立変数とし、当該土壌の土壌水分特性を従属変数とする推定モデルに、水田転換畑である対象土壌が位置する対象地域の地理情報を入力し、出力される土壌水分特性の推定結果を取得する推定工程を、情報処理装置が実行する。
【0009】
本発明の一態様に係る土壌水分特性推定装置は、水田転換畑である土壌が位置する地域の地理情報を独立変数とし、当該土壌の土壌水分特性を従属変数とする推定モデルに、水田転換畑である対象土壌が位置する対象地域の地理情報を入力し、出力される土壌水分特性の推定結果を取得する推定部を備えている。
【0010】
本発明の一態様に係る灌水支援方法は、本発明の一態様に係る土壌水分特性推定方法により推定した土壌水分特性を用いて、土壌の灌水条件を決定する決定工程を情報処理装置が実行する。
【0011】
本発明の一態様に係る灌水支援システムは、本発明の一態様に係る土壌水分特性推定装置と、前記土壌水分特性推定装置において推定した土壌水分特性を用いて、土壌の灌水条件を決定する決定部を備えた灌水支援装置とを備えている。
【0012】
本発明の各態様に係る土壌水分特性推定装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記土壌水分特性推定装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記土壌水分特性推定装置をコンピュータにて実現させる土壌水分特性推定装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、水田転換畑の土壌水分特性を容易かつ精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一態様に係る土壌水分特性推定装置を備える灌水支援システムの要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一態様に係る土壌水分特性推定装置が実行する推定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図3】日本土壌インベントリーにおいて公開されているヒストグラムの例を示す図である。
【
図4】永久しおれ点について、本発明により得られた推定値と、日本土壌インベントリーから得られたデータのみを用いた推定値と、実測値とを示すグラフである。
【
図5】圃場容水量について、本発明により得られた推定値と、日本土壌インベントリーから得られたデータのみを用いた推定値と、実測値とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔灌水支援システム100〕
以下、本発明の一態様に係る土壌水分特性推定装置10および灌水支援システム100について、
図1を参照して説明する。
図1は、本発明の一態様に係る土壌水分特性推定装置10を備える灌水支援システム100の要部構成の一例を示すブロック図である。灌水支援システム100は、土壌水分特性推定装置10および灌水支援装置20を備えている。灌水支援システム100は、土壌水分特性推定装置10において推定した土壌水分特性に関するデータを用いて、灌水支援装置20において土壌の灌水条件を決定することにより、土壌の灌水作業を支援する。
【0016】
また、灌水支援システム100は、入力装置30、出力装置40、及び記憶装置50を備えている。灌水支援システム100において、土壌水分特性推定装置10、灌水支援装置20、入力装置30、出力装置40、および記憶装置50は、それぞれ相互に通信可能に接続されている。また、土壌水分特性推定装置10、灌水支援装置20、入力装置30、出力装置40、および記憶装置50は、それぞれ独立した装置であってもよいし、少なくとも2つが一体に形成された装置であってもよい。
【0017】
入力装置30は、ユーザによる灌水支援システム100に対する入力操作を受け付ける。入力装置30は、一例として、土壌水分特性推定装置10において土壌水分特性を推定するために用いるデータの入力を受け付ける。入力装置30は、灌水支援装置20において土壌の灌水条件を決定するために用いられるデータの入力を受け付ける。また、入力装置30は、Web APIを介したユーザからの入力を受け付けるものであってもよい。入力装置30は、受け付けたデータを土壌水分特性推定装置10または灌水支援装置20へ出力すると共に、記憶装置50へ格納してもよい。
【0018】
出力装置40は、一例として、土壌水分特性推定装置10が推定した結果、または、灌水支援装置20が決定した灌水条件を出力する。出力装置40による出力の態様は特に限定されない。出力装置40は、例えば、推定結果もしくは灌水条件を画像として表示する表示装置、推定結果もしくは灌水条件を印刷する印刷装置、または、推定結果もしくは灌水条件を音声として出力する警報装置であってもよい。また、出力装置40は、推定結果または灌水条件を表示する、スマートフォンのようなモバイルデバイスのディスプレイであってもよい。さらに、出力装置40は、Web APIを介してユーザに推定結果または灌水条件を出力するものであってもよい。
【0019】
記憶装置50は、灌水支援システム100にて使用されるプログラム及びデータを記憶する。記憶装置50は、一例として、入力装置30を介して入力された各種データを記憶している。また、記憶装置50は、一例として、灌水支援装置20において決定した灌水条件を記憶している。さらに、記憶装置50は、各種データを記憶するデータベースをクラウド又はサーバ上に有していてもよい。
【0020】
(土壌水分特性推定装置10)
土壌水分特性推定装置10は、水田転換畑である対象土壌における水分特性を推定する。土壌水分特性推定装置10により推定された対象土壌における水分特性は、対象土壌における作物の栽培、対象土壌における水分環境の管理などに利用することができる。また、土壌水分特性推定装置10により推定された対象土壌における水分特性は、灌水支援装置20において対象土壌に対する灌水条件を決定するために用いられ得る。
【0021】
土壌水分特性推定装置10が推定する土壌の土壌水分特性は、土壌における水分に関する特性を表すデータである。土壌水分特性には、最大容水量、圃場容水量、初期しおれ点、永久しおれ点、および、土壌含水比を表すデータの少なくとも1つが含まれ得る。土壌水分特性は、圃場容水量および永久しおれ点の少なくとも一方であることが好ましい。土壌水分特性推定装置10によれば、従来直接測定されている土壌の圃場容水量および永久しおれ点についても、容易かつ精度よく推定することができる。
【0022】
土壌水分特性推定装置10は、制御部(情報処理装置)11を備えている。制御部11は、土壌水分特性推定装置10の各部を統括して制御するものであり、一例として、プロセッサ及びメモリにより実現される。この例において、プロセッサはストレージ(不図示)にアクセスし、ストレージに格納されているプログラム(不図示)をメモリにロードし、当該プログラムに含まれる一連の命令を実行する。これにより、制御部11の各部が構成される。当該各部として、制御部11は、受付部12、モデル取得部13、及び推定部14を備えている。
【0023】
<受付部12>
受付部12は、ユーザから入力された入力データを受け付ける。入力データは、土壌水分特性推定装置10による土壌水分特性の推定に用いられるデータであり得る。入力データには、水田転換畑である対象土壌が位置する対象地域の地理情報が含まれ得る。地理情報は、一例として、対象地域の緯度および経度である。受付部12は、受け付けた入力データを推定部14へ送る。
【0024】
<モデル取得部13>
モデル取得部13は、土壌水分特性の推定に用いる推定モデルを取得する。モデル取得部13は、記憶装置50に格納された推定モデルを取得してもよいし、外部のクラウド又はサーバ上に格納された推定モデルを取得してもよい。モデル取得部13は、取得した推定モデルを、推定部14へ送る。
【0025】
モデル取得部13が取得する推定モデルは、水田転換畑である土壌が位置する地域の地理情報を独立変数とし、当該土壌の土壌水分特性を従属変数とする推定モデルである。このような推定モデルは、一例として、独立変数と従属変数との関係を表す回帰モデル、または、独立変数と従属変数との関係を学習した学習済モデルである。推定モデルが学習済みモデルである場合、一例として、ニューラルネットワーク、決定木、ランダムフォレスト、サポートベクトルマシン等の既知の学習方法を用いて生成された学習済みモデルであり得る。推定モデルを生成するために用いられるデータは、地理情報毎に取得された水田転換畑の土壌水分特性であり得る。このようなデータを用いて回帰モデルを選定する、又は、このようなデータを学習データとして用いて機械学習を行うことにより、推定モデルは生成され得る。
【0026】
また、推定モデルは、水田転換畑である土壌が位置する地域内の水田における土壌水分特性が格納されたデータベースから得られた値を独立変数としてさらに含んでもよい。推定モデルは、地理情報と共に、水田転換畑である土壌が位置する地域内の水田における土壌水分特性を独立変数として含む重回帰モデル、または、これらの独立変数と従属変数との関係を学習した学習済みモデルであり得る。
【0027】
水田における土壌水分特性が格納されたデータベースは、一例として、農林水産省において作成されたデータベースである。農林水産省により公開された「日本土壌インベントリー」または「e-土壌
図II」を介して、当該データベースに格納された、水田における土壌水分特性の値を取得することができる。水田における土壌水分特性の値は、取得した値の地域内における平均値、中央値、または、最頻値であってもよい。
【0028】
さらに、推定モデルは、水田転換畑である土壌の明度を表す明度データを独立変数としてさらに含んでもよい。推定モデルは、地理情報と共に、水田転換畑である土壌の明度データを独立変数として含む重回帰モデル、または、これらの独立変数と従属変数との関係を学習した学習済みモデルであり得る。推定モデルは、地理情報および水田における土壌水分特性と共に、水田転換畑である土壌の明度データを独立変数として含む重回帰モデル、または、これらの独立変数と従属変数との関係を学習した学習済みモデルであり得る。
【0029】
水田転換畑である土壌の明度データは、土壌の明度を表すデータであり、土壌中の炭素含量に関連するデータである。土壌の明度データは、土壌に含まれる炭素含量に応じて、明度の区分に分けたデータであり得る。
【0030】
また、推定モデルは、水田転換畑である土壌中の粘土含量およびシルト含量に基づいて分類される土性区分を表す土性判定データを独立変数としてさらに含んでもよい。地理情報と共に、水田転換畑である土壌中の粘土含量およびシルト含量を独立変数として含む重回帰モデル、または、これらの独立変数と従属変数との関係を学習した学習済みモデルであり得る。推定モデルは、地理情報および水田における土壌水分特性と共に、水田転換畑である土壌中の粘土含量およびシルト含量を独立変数として含む重回帰モデル、または、これらの独立変数と従属変数との関係を学習した学習済みモデルであり得る。推定モデルは、地理情報、水田における土壌水分特性、および土壌の明度データと共に、水田転換畑である土壌中の粘土含量およびシルト含量を独立変数として含む重回帰モデル、または、これらの独立変数と従属変数との関係を学習した学習済みモデルであり得る。
【0031】
土壌中の粘土含量およびシルト含量は、土性区分毎に設定された値であり得、一例として、測定された粘土含量およびシルト含量を土性区分毎に平均した値である。
【0032】
また、推定モデルは、推定モデルを用いて推定した他の土壌水分特性のデータを、さらに独立変数として含む推定モデルであってもよい。
【0033】
<推定部14>
推定部14は、モデル取得部13が取得した推定モデルに、受付部12が受け付けた入力データを入力することで、出力される土壌水分特性の推定結果を取得する。推定部14は、水田転換畑である土壌が位置する地域の地理情報を独立変数とし、当該土壌の土壌水分特性を従属変数とする推定モデルに、水田転換畑である対象土壌が位置する対象地域の地理情報を入力し、出力される土壌水分特性の推定結果を取得する。
【0034】
推定部14は、取得した推定結果の土壌水分特性を、灌水支援装置20または出力装置へ出力する。推定部14は、取得した推定結果の土壌水分特性を、記憶装置50に格納してもよい。
【0035】
(土壌水分特性推定処理)
本発明の一態様に係る土壌水分特性推定方法は、土壌水分特性推定装置10のような情報処理装置の制御部11により実行される。土壌水分特性推定装置10による土壌水分特性の推定処理の流れについて、
図2を参照して説明する。
図2は、土壌水分特性推定装置10が実行する推定処理の一例を示すフローチャートである。
図2に示すように、まず、受付部12は、対象土壌が位置する対象地域の地理情報を取得する(ステップS11)。次に、モデル取得部13は、推定モデルを取得する(ステップS12)。
【0036】
推定部14は、モデル取得部13が取得した推定モデルに、受付部12が取得した対象地域の地理情報を入力し、出力される対象土壌の土壌水分特性の推定結果を取得する(ステップS13、推定工程)。推定部14は、取得した推定値を推定結果として、出力装置40に出力し(ステップS14)、推定処理を終了する。
【0037】
土壌水分特性推定装置10によれば、水田転換畑における土壌水分特性を、土壌が位置する対象地域の地理情報に基づいて、容易に推定することができる。また、土壌水分特性推定装置10によれば、水田転換畑における圃場容水量および永久しおれ点の値を、容易に推定することができる。土壌水分特性推定装置10により推定された土壌水分特性に関する情報は、土壌の灌水条件を決定するために用いることが可能であり、適切な土壌の灌水実施を支援することができる。
【0038】
(灌水支援装置20)
灌水支援装置20は、水田転換畑である土壌の灌水条件を決定する。本発明の一態様に係る灌水支援方法は、灌水支援装置20のような情報処理装置の制御部21により実行される。灌水支援装置20は、制御部(情報処理装置)21を備えている。制御部21は、灌水支援装置20の各部を統括して制御するものであり、一例として、プロセッサ及びメモリにより実現される。この例において、プロセッサはストレージ(不図示)にアクセスし、ストレージに格納されているプログラム(不図示)をメモリにロードし、当該プログラムに含まれる一連の命令を実行する。これにより、制御部21の各部が構成される。当該各部として、制御部21は、受付部22及び決定部23を備えている。
【0039】
<受付部22>
受付部22は、ユーザから入力された入力データを受け付ける。入力データは、灌水支援装置20による土壌の灌水条件の決定に用いられるデータであり得る。入力データには、灌水条件を決定する対象土壌に関する情報が含まれ得る。受付部22は、土壌水分特性推定装置10において推定された対象土壌の土壌水分特性を表すデータを受け付ける。受付部22は、受け付けたデータを決定部23へ送る。
【0040】
<決定部23>
決定部23は、受付部22が受け付けたデータを用いて、土壌の灌水条件を決定する。すなわち、決定部23は、土壌水分特性推定装置10において推定した土壌水分特性を用いて、土壌の灌水条件を決定する(決定工程)。決定部23による土壌の灌水条件の決定は、ユーザが予め定めた基準に基づいて行われ得る。また、決定部23は、地域毎に決定された灌水条件を基準として、土壌の灌水条件を決定してもよい。決定部23は、決定した土壌の灌水条件を出力装置40へ出力する。また、決定部23は、決定した土壌の灌水条件を記憶装置50へ格納してもよい。
【0041】
土壌の灌水条件は、土壌の水分特性により異なるものであり、適切な灌水条件を決定するためには、土壌の水分特性の情報が必要である。特に、水田転換畑においては、水田としてのみ使用されている土壌とは水分特性が異なるため、他の土壌における水分特性を参照することが困難である。灌水支援装置20においては、土壌水分特性推定装置10において推定した土壌水分特性を用いて土壌の灌水条件を決定するので、適切に灌水条件を決定することができる。
【0042】
このような構成によれば、異常気象への対応、ならびに、農業の維持及び発展につながる。このような効果は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標15「陸の豊かさも守ろう」等の達成にも貢献するものである。
【0043】
〔ソフトウェアによる実現例〕
土壌水分特性推定装置10(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部11に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0044】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0045】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0046】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0047】
すなわち、土壌水分特性推定装置10としてコンピュータを機能させるための土壌水分特性の推定プログラムであって、推定部14としてコンピュータを機能させるためのプログラムも本発明の範疇に含まれる。
【0048】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0049】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0050】
本発明の一実施例について以下に説明する。日本全国の523点の水田転換畑土壌を分析し、緯度経度、永久しおれ点、圃場容水量、粘土含量、シルト含量、全炭素含量、明度、土性を分析した。まず、水田転換畑の土壌を500g程度採取および分析し、表1に示す一次データのデータセットを揃えた(n=523)。
【0051】
【0052】
これらの分析値をもとに緯度経度、土性、明度、日本土壌インベントリーのデータを独立変数、圃場容水量および永久しおれ点を従属変数とした重回帰モデルを作成し、圃場容水量および永久しおれ点の推定に用いた。
【0053】
より簡易に得られるデータから永久しおれ点と圃場容水量を推定するため、表1のデータセットをもとに、土性と粘土含量およびシルト含量との関連付けたデータ(表2)を取得した。表2は、水田転換畑の土性区分と粘土含量およびシルト含量の平均値(n=523)とを示す。表2に示すデータは、土性に対応する粘土含量およびシルト含量の平均値を求めることにより作成した。
【0054】
【0055】
また、表1のデータセットをもとに、土壌の明度と炭素含量とを関連付けたデータ(表3)を取得した。表3は、水田転換畑の土壌明度と対応する炭素含量の平均値(n=489)とを示す。表3に示すデータは、土壌明度とこれに対応する炭素含量の平均値を求めることにより作成した。なお、土壌明度の区分と炭素含量との関係は既知であるが、水田転換畑でのそれぞれの明度区分における炭素含量の平均値を求めることは、本発明による新たな試みである。
【0056】
【0057】
日本土壌インベントリーのデータベースを参照し、各土壌を採取した地域の緯度および経度から、公開されている当該地域のヒストグラムを取得した。取得するヒストグラムの例を
図3に示す。
図3は、日本土壌インベントリーにおいて公開されているヒストグラムの例を示す図である。日本土壌インベントリーのWebサイトからは、各県の各土壌タイプについて、
図3に示すようなヒストグラムが参照できる。なお、日本土壌インベントリーにおいて公開されているデータは、水田における収穫後のデータである。
【0058】
取得したヒストグラムから、永久しおれ点および圃場容水量の数値を取得し、対象地域内の平均値、最頻値、および中央値を求めた。
【0059】
これらのデータから、表4および表5に示すデータセットを得た。表4および5は、永久しおれ点および圃場容水量を推定するために用いるパラメータを示す。
【0060】
【0061】
【0062】
表4および5に示すのデータを元に、平均二乗誤差(RMSE)が小さくなる重回帰式を求めた。その際、土性データ、明度データ、および日本土壌インベントリーから取得するデータに欠損がある場合についても考慮した。なお、最初に永久しおれ点の推定を行い、次に推定された永久しおれ点を独立変数に含めて、圃場容水量の推定を行った。
【0063】
推定に使用したデータセットと、それぞれの重回帰式におけるRMSEについて、表6に示す。なお、表6において、「○」は、当該データを推定に用いたことを示し、「×」は、当該データを推定に用いていないことを示す。
【0064】
【0065】
得られた重回帰式による推定値と、日本土壌インベントリーから得られたデータのみを用いた推定結果とを比較した結果を、
図4および
図5に示す。
図4は、永久しおれ点について、本発明により得られた推定値と、日本土壌インベントリーから得られたデータのみを用いた推定値と、実測値とを示すグラフである。
図5は、圃場容水量について、本発明により得られた推定値と、日本土壌インベントリーから得られたデータのみを用いた推定値と、実測値とを示すグラフである。
図4および
図5において、日本土壌インベントリーより得られたデータは中央値であり、本発明により得れた重回帰式は表6の2番の式を用いたの結果を示している。
【0066】
表6、
図4および
図5に示すように、日本土壌インベントリーから得られたデータのみを用いた場合と比較して、本発明に係るいずれの回帰式においても、推定精度(RMSE)の向上が認められ、精度の高い推定が可能となった。
【0067】
なお、圃場容水量および永久しおれ点ともに、日本土壌インベントリーにおけるデータは、実測値を過大評価していると考えられる。これは、耕うんされた畑状態ではなく、水田耕作後土壌における測定値からなるデータベースであることに起因すると考えられる。