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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120774
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】受信器及び電力伝送システム
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/378 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
A61N1/378
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027814
(22)【出願日】2023-02-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、総務省委託事業、戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)、「電波有効利用促進型研究開発」「パッシブ型インプラント機器による体内深部・局所への神経刺激技術の研究開発」(JP225006004)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】安在 大祐
(72)【発明者】
【氏名】朔 啓太
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053KK10
(57)【要約】
【課題】電力伝送効率を向上させる。
【解決手段】インプラント機器は、第1コイル(11)及び第1コイルに直列又は並列に接続された第1コンデンサ(12)を有する第1共振回路(13)を備える。第1コンデンサの容量は、インプラント機器が体内に埋め込まれた場合における第1共振回路の共振周波数が所定の周波数となるように設定される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の体内に埋め込まれる受信器であって、
第1コイル及び前記第1コイルに直列又は並列に接続された第1コンデンサを有する第1共振回路を備え、
前記受信器が前記体内に埋め込まれた場合における前記第1共振回路の共振周波数は、前記第1コンデンサの容量と、前記第1コイルのインダクタンスと、前記受信器が前記体内に埋め込まれた場合において前記第1コイルに対し仮想的に並列に付加される仮想コンデンサの容量と、によって決定され、
前記第1コンデンサの容量は、前記受信器が前記体内に埋め込まれた場合における前記第1共振回路の共振周波数が所定の周波数となるように設定される、
受信器。
【請求項2】
前記受信器が前記体内に埋め込まれた場合における前記第1共振回路の共振周波数は、前記第1コンデンサの容量と、前記第1コイルのインダクタンスと、前記第1コイルの線間容量と、前記受信器が前記体内に埋め込まれた場合において前記第1コイルに対し仮想的に並列に付加される仮想コンデンサの容量と、によって決定される、
請求項1に記載の受信器。
【請求項3】
前記仮想コンデンサは、前記第1コイルが前記体内に埋め込まれた場合に、空気中における前記第1コイルの等価回路に対して、仮想的に並列に付加される、
請求項1に記載の受信器。
【請求項4】
前記動物は、人間であり、
前記体内の比誘電率は、前記人間の属性によって異なっており、
前記仮想コンデンサの容量は、前記体内の比誘電率に基づいて算出される、
請求項1に記載の受信器。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の受信器と、
第2コイル及び前記第2コイルに直列又は並列に接続される第2コンデンサを有する第2共振回路と、前記第2共振回路に電力を供給する電源と、を有する送信器と、
を備え、
前記送信器から前記受信器へ高周波数帯電磁波を無線伝送する電力伝送システムであって、
前記受信器は、
前記送信器から伝送される前記高周波数帯電磁波を低周波数帯の信号に変換し、変換した前記低周波数帯の信号を用いて前記体内の神経を刺激する変換回路を更に有する、
電力伝送システム。
【請求項6】
前記所定の周波数は、前記第2共振回路の共振周波数である、
請求項5に記載の電力伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、受信器及び電力伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、体内にインプラント機器を埋め込み、マイクロ波又は高周波電流などをエネルギー源として腫瘍組織を加温して治療するハイパーサーミアが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたインプラント機器にはコイルが含まれているところ、コイルを体内に埋め込んだ場合、埋め込む前と比較して、コイルの等価回路に変化が生じる。しかしながら特許文献1にはコイルの等価回路の変化について言及がない。
【0005】
本開示の一態様は、電力伝送効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る受信器は、動物の体内に埋め込まれる受信器であって、第1コイル及び前記第1コイルに直列又は並列に接続された第1コンデンサを有する第1共振回路を備え、前記受信器が前記体内に埋め込まれた場合における前記第1共振回路の共振周波数は、前記第1コンデンサの容量と、前記第1コイルのインダクタンスと、前記受信器が前記体内に埋め込まれた場合において前記第1コイルに対し仮想的に並列に付加される仮想コンデンサの容量と、によって決定され、前記第1コンデンサの容量は、前記受信器が前記体内に埋め込まれた場合における前記第1共振回路の共振周波数が所定の周波数となるように設定される。
【0007】
前記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る電力伝送システムは、受信器と、第2コイル及び前記第2コイルに直列又は並列に接続される第2コンデンサを有する第2共振回路と、前記第2共振回路に電力を供給する電源と、を有する送信器と、を備え、前記送信器から前記受信器へ高周波数帯電磁波を無線伝送する電力伝送システムであって、前記受信器は、前記送信器から伝送される前記高周波数帯電磁波を低周波数帯の信号に変換し、変換した前記低周波数帯の信号を用いて前記体内の神経を刺激する変換回路を有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、電力伝送効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施形態に係る電力伝送システムの全体概略図である。
図2】送信器及び受信器の概略構成図である。
図3】空気中に配置されたコイルの等価回路である。
図4】体内に配置されたコイルの等価回路である。
図5図4に示す等価回路を簡略化したものである。
図6】実験で用いた送信器である。
図7】実験で用いたインプラント機器の側面図である。
図8】実験で用いたインプラント機器の上面図である。
図9】実験で用いた信号波形を示す図である。
図10】第1パターンに係る実験の様子を示す図である。
図11】第1パターンに係る実験結果を示すグラフである。
図12】第2パターンに係る実験の様子を示す図である。
図13】第2パターンに係る実験の様子を示す図である。
図14】第2パターンに係る実験結果を示すグラフである。
図15】第3パターンに係る実験の様子を示す図である。
図16】第3パターンに係る実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の一実施形態について、詳細に説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0011】
(電力伝送システム100)
図1を参照して、本開示の実施形態に係る電力伝送システム100の構成の一例について説明する。図1は、本開示の実施形態に係る電力伝送システム100の全体概略図である。電力伝送システム100は、神経刺激によるニューロモデレーション治療などに用いられる。
【0012】
図1に示すように、電力伝送システム100は、患者の体内に埋め込まれる埋め込み型のインプラント機器10と、患者の体外からインプラント機器10にワイヤレスで電力を供給する外部送信装置20と、を含む。医療の分野において、人体の内外に存在する端末同士を無線通信によって相互に接続するBAN(Body Area Network)の研究開発が活発に行われている。BANでは、無線通信によって患者の健康状態をチェックしたり、得られた患者の生体情報に基づいて遠隔で治療を行ったりすることが可能となる。BANの中でも人体内部と体表面で無線通信を行うものはインプラントBANと呼ばれており、使用例として心臓ペースメーカ、カプセル内視鏡などが挙げられる。
【0013】
心臓ペースメーカなどのバッテリを内蔵する医療機器の体内への埋め込みにおいて、数年間に渡る長期治療を想定した場合、バッテリの寿命の問題、バッテリに不具合が生じた際における機器の問題などにより、バッテリを伴う医療機器に対する「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(略称:薬機法)」に基づく独立行政法人医薬品医療機器総合機構による認証は厳しいものとなっている。そこで、発明者らはバッテリを伴わないインプラント機器を開発した。バッテリレスを実現するため、本実施形態では他の生体組織への影響が比較的小さいMHz帯を使用する磁界共振結合方式による無線電力伝送を用いる。
【0014】
外部送信装置20は、電源26と、信号発生器25と、送信器24とを備える。電源26は、信号発生器25に電力を供給する電源であり、例えば単相交流電力を供給する商用交流電源である。
【0015】
信号発生器25は、各種の信号(例えば、正弦波信号、方形波信号、三角波信号、マイクロ波信号、又は無線周波数信号など)を生成可能な装置である。信号発生器25は、電源26から供給された交流電力を、この交流電力よりも高い周波数の交流電力である高周波電力に変換し、高周波電力を送信器24に供給する。なお、高周波電力に変換可能な専用の回路を信号発生器25の代わりに用いてもよい。送信器24は、磁界共振結合方式によって受信器14にワイヤレスで高周波数帯電磁波を供給する。
【0016】
インプラント機器10は、送信器24からワイヤレスで高周波数帯電磁波を受電する受信器14と、受信器14が受電した高周波数帯電磁波を低周波数帯の信号に変換する周波数変換回路15と、を備える。100kHz以下の低周波電磁界により神経上において刺激電流が誘起され、神経50に刺激が与えられる。なお、周波数変換については、三角関数の半角の公式を用いた方法などの周知の方法を用いればよい。
【0017】
(送信器24及び受信器14)
次に、図2を参照して、送信器24及び受信器14の構成例について説明する。図2は、送信器24及び受信器14の概略構成図である。
【0018】
図2に示すように、受信器14は、第1コイル11と、第1コイル11に並列に接続される第1コンデンサ12と、を備える。第1コイル11と第1コンデンサ12とによって、第1共振回路13が形成される。なお、図2において、第1コンデンサ12は、第1コイル11に並列に接続されているが、これに限定されず、第1コイル11に直列に接続される構成であってもよい。第1コイル11及び第1コンデンサ12の各種パラメータ(第1コイル11のコイル長、直径、及び巻数、第1コンデンサ12の容量など)は、第1共振回路13の共振周波数が後述の第2共振回路23の共振周波数と一致するように設定される。なお、本実施形態において「共振周波数が一致する」とは、完全な一致に限られるものではなく、実質的に一致する、すなわちほぼ一致と見なせることを含む。
【0019】
送信器24は、第2コイル21と、第2コイル21に直列に接続される第2コンデンサ22と、を備える。第2コイル21と第2コンデンサ22とによって第2共振回路23が形成される。なお、図2において、第2コンデンサ22は、第2コイル21に直列に接続されているが、これに限定されず、第2コイル21に並列に接続される構成であってもよい。第2コイル21及び第2コンデンサ22の各種パラメータ(第2コイル21のコイル長、直径、及び巻数、第2コンデンサ22の容量など)は、第2共振回路23の共振周波数が第1共振回路13の共振周波数と一致するように設定される。
【0020】
次に、送信器24及び受信器14による磁界共振結合方式を用いた無線電力伝送について説明する。磁界共振結合方式は、数十~数百MHz帯の電磁波を使用する方式である。
【0021】
信号発生器25から第2共振回路23に高周波電力が供給されると、第2共振回路23は、インプラント機器10にワイヤレスで高周波数帯電磁波を伝送するための交流磁界を発生させる。
【0022】
第2共振回路23に交流磁界が発生すると、交流磁界の振動が第2共振回路23と同一の共振周波数で共鳴する第1共振回路13に伝達される。この結果、電磁誘導によって第1共振回路13に誘導電流が流れる。
【0023】
このように本実施形態に係る電力伝送システム100では、第2共振回路23において発生させた交流磁界を介して、外部送信装置20からインプラント機器10にワイヤレスで電力が伝送される。これにより、インプラント機器10にバッテリを設けることなく、神経刺激を行うことが可能となる。上述したように、バッテリを内蔵する医療機器の認証は厳しいものとなっているが、本実施形態によればバッテリが不要となるため、この問題を解決できる。
【0024】
ワイヤレスで効率よく電力を伝送するためには、第1共振回路13の共振周波数と、第2共振回路23の共振周波数と、を一致させることが求められる。
【0025】
発明者らは、第1コイル11を空気中に配置した場合と、第1コイル11を体内に配置した場合とで、第1共振回路13の共振周波数が変化することを見出した。より詳しくは、発明者らは、第1コイル11を体内に配置すると、体内の電気定数の影響により第1コイル11の特性が変化することを見出した。したがって、第1コイル11を体内に配置する場合は、体内に配置された第1コイル11の特性に基づいて、所望の共振周波数となるように各種素子のパラメータ(例えば第1コンデンサ12の容量など)を設定する必要がある。
【0026】
(体内に配置された第1コイル11と、空気中に配置された第1コイル11との特性の差異)
発明者らは、第1コイル11を体内に配置した場合に、第1コイル11を空気中に配置した場合と比較して、第1コイル11のインダクタンス、キャパシタンス、自己共振周波数、及びQ値にどのような変化が生じるのか実験を行った。実験の結果、発明者らは、第1コイル11を体内に配置した場合は、第1コイル11を空気中に配置した場合と比較して、第1コイル11のキャパシタンスは大きくなること、第1コイル11の自己共振周波数は小さくなること、及び第1コイル11のQ値は小さくなることを見出した。なお、第1コイル11を体内に配置した場合と、第1コイル11を空気中に配置した場合とでは、第1コイル11のインダクタンスに大きな違いは見られなかった。また、第1コイル11を体内に配置した場合と、第1コイル11を空気中に配置した場合とで、第1コイル11のインピーダンスの周波数特性の概形に大きな違いは見られなかった。
【0027】
第1コイル11のキャパシタンスが変化した原因は、体内の比誘電率εによるものと考えられる。また、第1コイル11の自己共振周波数が変化した原因は、第1コイル11のキャパシタンスの変化によるものと考えられる。また、第1コイル11のQ値が変化した原因は、体内の導電率σによるものと考えられる。
【0028】
(第1コイル11の等価回路)
次に、図3~4を参照して、空気中に配置された場合と体内に配置された場合とにおける第1コイル11の特性の変化について説明する。図3は、空気中に配置された第1コイル11の等価回路である。図4は、体内に配置された第1コイル11の等価回路である。
【0029】
図3に示すように、空気中に配置された第1コイル11の等価回路は、インダクタンスLと、第1コイル11の寄生成分である巻線抵抗Rdc及び線間容量Cpによって表される。これに対して、体内に配置された第1コイル11の等価回路は、図4に示すように、図3の等価回路に対し、制限抵抗Rp及びコンデンサC’が並列に付加された形で表される。図4の破線で囲まれている部分は図3の等価回路を示す。体内では第1コイル11のキャパシタンスが変化していること、及び第1コイル11のインピーダンスの周波数特性の概形は大きくは変化していないこと、から、図3の等価回路に対し、コンデンサC’が仮想的に並列に付加されていると考えられる。以下では、コンデンサC’を仮想コンデンサと称する場合がある。また、体内では第1コイル11のQ値が減少していることから、図3の等価回路に対し、制限抵抗Rpが仮想的に並列に付加されていると考えられる。
【0030】
図5は、図4に示す等価回路を簡略化したものである。符号Cで示される容量は、線間容量CpとコンデンサC’の容量を足し合わせたものである。
【0031】
(コンデンサC’の容量及び制限抵抗Rpの抵抗値の推定方法)
次に、コンデンサC’の容量、及び制限抵抗Rpの抵抗値の推定方法について説明する。
【0032】
最初に、コンデンサC’の容量の推定方法について説明する。自己共振周波数はインダクタンスとキャパシタンスによって決定されるので、既知である第1コイル11のインダクタンスと、第1コイル11を体内に配置した場合の第1コイル11の自己共振周波数とを用いることにより、コンデンサC’の容量を推定することができる。第1コイル11を体内に配置した場合の第1コイル11の自己共振周波数については、実験又はシミュレーションにより求めることができる。なお、他の方法として、体内の比誘電率εに基づいてコンデンサC’の容量を推定してもよい。体内の比誘電率εは、実験又はシミュレーションにより求めることができる。
【0033】
次に、制限抵抗Rpの抵抗値の推定方法について説明する。図5に示す等価回路のインピーダンスZの大きさは、式1で示される。
【0034】
【数1】
ωは共振角周波数を示す。巻線抵抗Rdcは極めて小さいため、式1は式2のように近似可能である。
【0035】
【数2】
式2を展開すると式3が得られる。
【0036】
【数3】
【0037】
式3におけるインピーダンスZの大きさが、制限抵抗Rpの抵抗値として推定される。
【0038】
(第1コンデンサ12の容量の設定)
上述したように、本実施形態では、送信器24と受信器14との間において、磁界共振結合方式を用いた無線電力伝送を行う。磁界共振結合方式では送信器24と受信器14の共振周波数を一致させることによって電力を効率よく伝送することが可能である。周知のとおり、共振周波数は、インダクタンスとキャパシタンスによって決定される。体内では第1コイル11のキャパシタンスが変化することによって自己共振周波数が変化することを説明した。そこで、所望の周波数での共振を実現するためには、体内に配置される第1コイル11と第1共振回路13を形成する第1コンデンサ12の容量を適切に設定する必要がある。
【0039】
第1コンデンサ12の容量の設定方法の一例について説明する。第1共振回路13の共振周波数は、第1コンデンサ12の容量と、第1コイル11のインダクタンスと、インプラント機器10が体内に埋め込まれた場合において第1コイル11に対し仮想的に並列に付加されるコンデンサC’の容量と、によって決定される。そこで、第1コンデンサ12の容量は、インプラント機器10が体内に埋め込まれた場合における第1共振回路13の共振周波数が第2共振回路23の共振周波数と一致するように設定されればよい。
【0040】
インプラント機器10が体内に埋め込まれた場合における第1共振回路13の共振周波数は、第1コンデンサ12の容量と、第1コイル11のインダクタンスと、第1コイル11の線間容量Cpと、インプラント機器10が体内に埋め込まれた場合において第1コイル11に対し仮想的に並列に付加されるコンデンサC’の容量と、によって決定されてもよい。この場合も、第1コンデンサ12の容量は、インプラント機器10が体内に埋め込まれた場合における第1共振回路13の共振周波数が第2共振回路23の共振周波数と一致するように設定されればよい。
【0041】
本開示は、人間の体内にインプラント機器10を埋め込むことを想定しているが、以下の実験の実施例では、体内にインプラント機器10を埋め込む対象を動物(イヌ)とした。
【0042】
(実施例)
図6~16を参照して動物(イヌ)を用いた実験の実施例について説明する。この実験は、体内深部の神経に電流刺激を与えることを目標として行われた。
【0043】
図6は、実験で用いた送信器24の第2コイル21を示す。第2コイル21のコイル長は、24.30mmである。第2コイル21の直径は、11.85mmである。
【0044】
図7~8は、実験で用いたインプラント機器10の第1コイル11を示す図であり、より詳しくは、図7はインプラント機器10の第1コイル11を側面から見た図であり、図8はインプラント機器10の第1コイル11を上面から見た図である。第1コイル11のコイル長は、8.15mmである。第1コイル11の直径は、16.10mmである。
【0045】
実験は、3つのパターンで実施された。1つ目のパターン(以下、第1パターンと称する)は、インプラント機器10を体内ではなく空気中に配置して、インプラント機器10から延びる電極を傷口から挿入し体内の目的の神経に接触させ、神経刺激を行うものである。2つ目のパターン(以下、第2パターンと称する)は、インプラント機器10を体内に挿入し、目的の神経の近傍に配置して傷口は開いたまま神経刺激を行うものである。3つ目のパターン(以下、第3パターンと称する)は、インプラント機器10を体内に挿入し、目的の神経の近傍に配置して傷口を縫い付けて神経刺激を行うものである。
【0046】
いずれのパターンにおいても、信号発生器25から出力される周波数を13.56MHzに設定した。パルス幅については、図9に示すように、タイミングT11~T12の間のオン期間は0.3msであり、タイミングT12~T13の間のオフ期間は50msである。信号発生器25の出力は約0.2Wである。なお、図9において、波形60及び波形61は、周期の異なる2つの波形を示す。より詳しくは、短い周期を有する波形60は、送信器24から受信器14にワイヤレスで送信される高周波数帯電磁波の信号の波形を示し、長い周期を有する波形61は、神経刺激に用いられる低周波数帯電磁波の信号の波形を示す。
【0047】
(第1パターンの実験の様子)
図10は、第1パターンの実験の様子を示す。図10に示すように、第1パターンでは、インプラント機器10を空気中に配置した。送信器24とインプラント機器10との間隔71は約9mmである。なお、目的の神経以外に電極が触れないように、絶縁シートを適宜使用した。送信器24と空気中のインプラント機器10の共振周波数が一致するように各素子のパラメータを設定した。
【0048】
(第1パターンの実験結果)
第1パターンの実験結果を図11に示す。図11の横軸は時間であり、縦軸は動物の心拍数を示す。実験では、神経刺激のための電流を流し、その後インターバルを設けるという作業を3セット繰り返した。タイミングT21~T22,タイミングT23~T24,タイミングT25~T26の期間は、神経刺激を行っている神経刺激期間を示す。神経刺激期間は20秒である。タイミングT22~T23,タイミングT24~T25の期間は、神経刺激を行っていないインターバル期間を示す。インターバル期間は30秒である。神経刺激期間では信号発生器25から信号が出力される(図9参照)。一方で、インターバル期間では信号発生器25から信号は出力されない。
【0049】
図11に示すように、電流によって神経が刺激されるとすぐに心拍数が下がるという効果が確認され、刺激を終了するとすぐに心拍数が元の状態に戻ることが確認された。この実験結果により体内深部の神経が刺激されたことが確認された。なお、実験結果により、神経に印加された電流は3mA以上であると推定される。
【0050】
(第2パターンの実験の様子)
図12~13は、第2パターンの実験の様子を示す。図12に示すように、インプラント機器10にカバーをかけて生体に直接触れないようにした。そして、図13に示すように、インプラント機器10を体内に挿入し、目的の神経の近傍に配置した。第2パターンでは傷口70を開いたまま神経刺激を行った。送信器24と体内のインプラント機器10の共振周波数が一致するように各素子のパラメータを設定した。
【0051】
(第2パターンの実験結果)
第2パターンの実験結果を図14に示す。図14の横軸は時間であり、縦軸は動物の心拍数を示す。タイミングT31~T32,タイミングT33~T34,タイミングT35~T36の期間は、神経刺激を行っている神経刺激期間を示す。神経刺激期間は第1パターンと同じく20秒である。タイミングT32~T33,タイミングT34~T35の期間は、神経刺激を行っていないインターバル期間を示す。インターバル期間は第1パターンと同じく30秒である。
【0052】
図14に示すように、電流によって神経が刺激されるとすぐに心拍数が下がるという効果が確認され、刺激を終了すると元の状態より高い心拍数になり、その後心拍数が元に戻ることが確認された。この実験結果により、インプラント機器10を体内に配置した場合であっても、インプラント機器10を空気中に配置した場合(第1パターン)と同様に、体内深部の神経が刺激されたことが確認された。なお、実験結果により、神経に印加された電流は3mA以上であると推定される。
【0053】
(第3パターンの実験の様子)
図15は、第3パターンの実験の様子を示す。第3パターンも、第2パターンと同様に、インプラント機器10にカバーをかけて生体に直接触れないようにしてインプラント機器10を体内に挿入し、目的の神経の近傍に配置した。ただし第3パターンでは、図15に示すように、傷口70を縫い付けて神経刺激を行った。したがって、図15ではインプラント機器10は図示されていない。送信器24と体内のインプラント機器10の共振周波数が一致するように各素子のパラメータを設定した。
【0054】
(第3パターンの実験結果)
第3パターンの実験結果を図16に示す。図16の横軸は時間であり、縦軸は動物の心拍数を示す。タイミングT41~T42,タイミングT43~T44,タイミングT45~T46の期間は、神経刺激を行っている神経刺激期間を示す。神経刺激期間は第1パターンと同じく20秒である。タイミングT42~T43,タイミングT44~T45の期間は、神経刺激を行っていないインターバル期間を示す。インターバル期間は第1パターンと同じく30秒である。
【0055】
図16に示すように、電流によって神経が刺激されるとすぐに心拍数が下がるという効果が確認され、刺激を終了すると元の状態より高い心拍数になり、その後心拍数が元に戻ることが確認された。この実験結果により、傷口70を縫い付けて神経刺激を行った場合であっても、傷口70を開いたままにして神経刺激を行った場合と同様に、体内深部の神経が刺激されたことが確認された。なお、実験結果により、神経に印加された電流は3mA以上であると推定される。
【0056】
(作用・効果)
以上説明したように、本実施形態によれば、以下の作用効果が得られる。
【0057】
インプラント機器10は、動物の体内に埋め込まれるものであり、第1コイル11及び第1コイル11に直列又は並列に接続された第1コンデンサ12を有する第1共振回路13を備える。インプラント機器10が体内に埋め込まれた場合における第1共振回路13の共振周波数は、第1コンデンサ12の容量と、第1コイル11のインダクタンスと、インプラント機器10が体内に埋め込まれた場合において第1コイル11に対し仮想的に並列に付加される仮想コンデンサ(コンデンサC’)の容量と、によって決定される。第1コンデンサ12の容量は、インプラント機器10が体内に埋め込まれた場合における第1共振回路13の共振周波数が所定の周波数となるように設定される。
【0058】
上記の構成によれば、インプラント機器10が体内に埋め込まれた場合に第1コイル11に生じる変化を考慮して第1コンデンサ12の容量を設定することにより、インプラント機器10が体内に埋め込まれた場合においても、送信器24と受信器14の共振周波数を一致させることが可能となり、電力伝送効率を向上させることが可能となる。なお、インプラント機器10が体内に埋め込まれた場合に第1コイル11に生じる変化とは、体内の比誘電率εに起因する仮想コンデンサの付加を意味する。
【0059】
また、本実施形態によれば、ワイヤレスで送信器24から受信器14に電力を供給するため、インプラント機器10にバッテリを設ける必要がない。バッテリを伴うインプラント機器では小型化の困難性から開腹手術を伴う留置が必要であったが、本実施形態によればバッテリレスの実現によりインプラント機器10の小型化に貢献でき、患者の身体にとって低負担なカテーテル手術などで留置可能な小型のインプラント機器10を提供可能である。
【0060】
なお、コンデンサC’の容量について上述の推定方法の他に、実験又はシミュレーションによって求めてもよく、あるいは、インプラント機器10が実際に体内に埋め込まれた際に求めてもよい。
【0061】
インプラント機器10が体内に埋め込まれた場合における第1共振回路13の共振周波数は、第1コンデンサ12の容量と、第1コイル11のインダクタンスと、第1コイル11の線間容量Cpと、インプラント機器10が体内に埋め込まれた場合において第1コイル11に対し仮想的に並列に付加される仮想コンデンサの容量と、によって決定されてもよい。線間容量Cpが無視できない場合は線間容量Cpを考慮して共振周波数を決定することにより、共振周波数の精度を向上させることが可能となる。
【0062】
仮想コンデンサは、第1コイル11が体内に埋め込まれた場合に、空気中における第1コイル11の等価回路に対して、仮想的に並列に付加される。このような構成によれば、第1コイル11が体内に埋め込まれた場合における第1コイル11の等価回路を導出することができる。
【0063】
体内の比誘電率εは、人間の属性によって異なる場合がある。人間の属性とは、例えば、性別、年齢などである。仮想コンデンサの容量は、体内の比誘電率εに基づいて算出されてもよい。このような構成によれば、患者の属性に応じた適切なインプラント機器10を提供できる。
【0064】
電力伝送システム100は、インプラント機器10と、外部送信装置20と、を含む。外部送信装置20は、第2コイル21及び第2コイル21に直列又は並列に接続される第2コンデンサ22を有する第2共振回路23と、第2共振回路23に電力を供給する電源26と、を有する。外部送信装置20からインプラント機器10へ高周波数帯電磁波が無線伝送される。電力伝送システム100は、外部送信装置20から伝送される高周波数帯電磁波を低周波数帯の信号に変換し、変換した低周波数帯の信号を用いて体内の神経を刺激する周波数変換回路15を更に有する。
【0065】
上記構成によれば、電源26から供給される電力を利用した磁界共振結合方式により、外部送信装置20からインプラント機器10にワイヤレスで電力が伝送される。これにより、インプラント機器10にバッテリを設けることなく、神経刺激を行うことが可能となる。従来のインプラント機器と比較してバッテリが不要となるため、インプラント機器10の小型化に貢献できる。
【0066】
電磁波のドシメトリの観点で見ると、電磁波による人体影響は熱作用と刺激作用に分類される。神経への刺激作用は基本的に100kHz以下の低周波領域で支配的に発生し、100kHz超の周波数帯の領域では熱作用が支配的になることが知られている。電磁波の刺激効果が支配的となる100kHz以下の周波数帯は、無線周波数帯から見ると低周波数帯となるため波長が非常に長く(例えば100kHzのときの波長は3km)、体内深部の任意の箇所への局所化が困難である。例えば、神経に直接的な電流付加を行わずに外部電磁界により非侵襲的に刺激を行う治療として、経頭蓋磁気刺激(TMS:Transcranial Magnetic Stimulation)が知られているが、このTMSにおいても刺激箇所は脳表に限定されている。
【0067】
一方、本実施形態によれば、上述の実験結果にて説明したように、所望の神経刺激が達成される電流印加が体外からの高周波数帯電磁界により誘起されたことが確認された。すなわち、本実施形態によれば、高周波帯電磁波を用いて体内深部に局在化された電磁界を発生させることにより体内深部への神経刺激を行うことが可能である。換言すれば、対象外の部位への刺激は、誘起されない。
【0068】
所定の周波数は、第2共振回路23の共振周波数である。このような構成によれば、送信器24と受信器14の共振周波数を一致させることが可能となり、電力伝送効率を向上させることが可能となる。
【0069】
本開示は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0070】
100 電力伝送システム
10 インプラント機器
20 外部送信装置
11 第1コイル
12 第1コンデンサ
13 第1共振回路
15 周波数変換回路
21 第2コイル
22 第2コンデンサ
23 第2共振回路
24 送信器
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