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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120781
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】触覚提示セルおよび触覚提示装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20240829BHJP
   H01H 9/18 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
G06F3/041 480
H01H9/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027829
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大久 哲
(72)【発明者】
【氏名】都築 俊満
【テーマコード(参考)】
5G052
【Fターム(参考)】
5G052JB11
(57)【要約】
【課題】ユーザに硬さ、軟らかさの幅の広い触覚の変化の面内分布を提示することができる触覚提示装置を提供する。
【解決手段】第1の波長の光L1を照射されると液相になり、第1の波長と異なる第2の波長の光を照射されると固相になる光固液相転移材料11を、多孔質弾性部材12に含浸させて伸縮性フィルムからなる袋体13に密封した触覚提示セル1を、透明な基板2上に二次元配列した触覚提示装置10であって、すべての触覚提示セル1の光固液相転移材料11が完全に固相化した状態で、触覚提示セル1毎に光量を変えて第1の波長の光L1を照射することにより、光固液相転移材料11を部分的にまたは全体を液相化して、触覚提示セル1をそれぞれ所望の硬さに軟化する。
【選択図】図3C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光固液相転移材料と、前記光固液相転移材料を含浸させた多孔質弾性部材と、を備える触覚提示セル。
【請求項2】
前記多孔質弾性部材および前記光固液相転移材料を密封した袋体をさらに備え、
前記袋体は、少なくとも一部が光を透過し、少なくとも一部が可撓性またはさらに伸縮性を有する膜で形成された請求項1に記載の触覚提示セル。
【請求項3】
光固液相転移材料と、前記光固液相転移材料を密封する袋体と、を備え、
前記袋体は、少なくとも一部が光を透過し、少なくとも一部が伸縮性を有する膜で形成された触覚提示セル。
【請求項4】
請求項1に記載の触覚提示セルを二次元配列して備える触覚提示装置。
【請求項5】
請求項2に記載の触覚提示セルを、前記袋体の光を透過する領域を同じ面に向けて二次元配列して備える触覚提示装置。
【請求項6】
請求項3に記載の触覚提示セルを、前記袋体の光を透過する領域を同じ面に向けて二次元配列して備える触覚提示装置。
【請求項7】
前記光固液相転移材料は、所定の波長の光を照射されている時に液相および固相の一方の相になり、前記波長の光を照射されていない時に他方の相になり、
前記触覚提示セル毎に、当該触覚提示セルに前記波長の光を照射する光源を、二次元配列して備える請求項4乃至請求項6のいずれか一項に記載の触覚提示装置。
【請求項8】
二次元配列した前記触覚提示セルに、第1の波長の光と前記第1の波長と異なる第2の波長の光とを切り替えて照射する光源装置をさらに備え、
前記光固液相転移材料は、前記第1の波長の光を照射されると液相になり、前記第2の波長の光を照射されると固相になり、
前記光源装置は、前記触覚提示セル毎に、当該触覚提示セルに前記第1の波長の光および前記第2の波長の光の少なくとも一方を照射する光源を、二次元配列して備える請求項4乃至請求項6のいずれか一項に記載の触覚提示装置。
【請求項9】
二次元配列した前記触覚提示セルに、第1の波長の光と前記第1の波長と異なる第2の波長の光とを切り替えて照射する光源装置をさらに備え、
前記光固液相転移材料は、前記第1の波長の光を照射されると液相になり、前記第2の波長の光を照射されると固相になり、
前記光源装置は、前記第1の波長の光および前記第2の波長の光の少なくとも一方を出
射する1以上の光源と、前記光源が出射した光の進行方向を変化させて任意の前記触覚提示セルに入射させる光走査手段と、を備える請求項4乃至請求項6のいずれか一項に記載の触覚提示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触覚提示セルおよびこれを配列した触覚提示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
AR(Augmented Reality:拡張現実)/VR(Virtual Reality:仮想現実)といったXR(Extended Reality)技術が既存メディアと融合して、多くの人がXR技術を体験している。XR技術がさらに進化すると、利用者が、あたかも傍に物体が存在するかのように感じて手を伸ばす等して触れようとするが、実際には存在しないので触れることができず、違和感を抱くことになる。したがって、視覚映像と共に、硬い、軟らかい、といった触覚を提示できなければ、XRは感情的に受け入れられ難い。視覚映像と触覚は車の両輪の関係にあり、触覚提示はXR技術普及のための大きな課題である。
【0003】
触覚提示技術として、圧電伸縮アクチュエータを触覚素子として二次元配列して、振動パターンを変化させることにより触覚を変化させる技術が開示されている(非特許文献1)。また、タッチパネルディスプレイのガラス板上に酸化インジウムスズ(ITO)および二酸化ケイ素(SiO2)の各薄膜を積層して、ITO膜とユーザの指先との間に電圧を印加するデバイスが開示され、ITO膜と指先との間に印加電圧によって発生した静電引力により摩擦力が変化する(非特許文献2)。
【0004】
ここで、物質は一般的には熱により、液相から固相にまたはその逆に相転移することで硬さが変化し、さらに高分子材料には固相のままで硬さが変化するものがある。また、高分子材料には、紫外線等の光を照射されることにより硬化するものがある。さらに、光を照射されることによりまたは照射されていないことにより、液相-固相間で可逆的に相転移する材料(光固液相転移材料)であるフォトクロミック化合物が知られ(例えば、非特許文献3~6)、可逆的に脱着可能な接着剤等への適用のために研究されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Xin Xie, et al., "Scalable, MEMS-enabled, vibrational tactile actuators for high resolution tactile displays", Journal of Micromechanics and Microengineering, Volume 24, 125014, 2014
【非特許文献2】"TanvasTouch Adds Haptic Capability to Touchscreen Displays", Display Daily, [online], 2017 <URL: https://www.displaydaily.com/article/display-daily/tanvastouch-adds-haptic-capability-to-touchscreen-displays>
【非特許文献3】Satoshi Honda, Taro Toyota, "Photo-triggered solvent-free metamorphosis of polymeric materials", Nature Communications 8, 502, 2017
【非特許文献4】Minami Oka et al., "Photocleavable Regenerative Network Materials with Exceptional and Repeatable Viscoelastic Manipulability", Advanced Science, 2101143, 2021
【非特許文献5】Haruhisa Akiyama, Masaru Yoshida, "Photochemically Reversible Liquefaction and Solidification of Single Compounds Based on a Sugar Alcohol Scaffold with Multi Azo-Arms", Advanced Materials, Volume 24, No. 17, p. 2353-2356, 2012
【非特許文献6】Hongwei Zhou, et al., "Photoswitching of glass transition temperatures of azobenzene-containing polymers induces reversible solid-to-liquid transitions", Nature Chemistry, Volume 9, p. 145-151, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1,2に開示された技術は、ユーザに触れさせる部品の機械的な特性を変化させるものではない。非特許文献1は、触感で硬さ(軟らかさ)の変化を感じさせてもそれは擬似的なものであり、硬軟の幅広い変化をユーザに感じさせることは困難である。非特許文献2は、ユーザが触れた表面の摩擦の変化を感じさせるものであり、ざらつきや滑らかさを変化させることはできても、硬さの変化を感じさせることは困難である。
【0007】
本発明は前記問題点に鑑み創案されたもので、ユーザに硬軟の幅の広い触覚の変化の面内分布を提示することができる触覚提示装置を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明に係る触覚提示セルは、光固液相転移材料と、前記光固液相転移材料を含浸させた多孔質弾性部材と、を備える構成である。または、本発明に係る触覚提示セルは、光固液相転移材料と、前記光固液相転移材料を密封する袋体と、を備え、前記袋体の少なくとも一部が光を透過し、少なくとも一部が可撓性を有する膜で形成された構成である。
【0009】
本発明に係る触覚提示装置は、前記触覚提示セルを二次元配列して備える構成とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る触覚提示セルによれば、ユーザに硬軟の幅の広い触覚の変化を提示することができる。そして、本発明に係る触覚提示装置によれば、ユーザに硬軟の幅の広い触覚の変化の面内分布を提示するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る触覚提示装置の構造を模式的に説明する断面図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る触覚提示装置および触覚提示セルの構造を説明する模式図であり、図1の部分拡大図である。
図3A図2に示す触覚提示装置の触覚を設定する方法を説明する模式図である。
図3B図2に示す触覚提示装置の触覚を設定する方法を説明する模式図である。
図3C図2に示す触覚提示装置の触覚を設定する方法を説明する模式図である。
図4A図2に示す触覚提示装置の動作を説明する模式図である。
図4B図2に示す触覚提示装置の動作を説明する模式図である。
図5図2に示す触覚提示装置の触覚を設定する別の方法を説明する模式図である。
図6A】光源装置の変形例の構造を模式的に説明する本発明の第1実施形態に係る触覚提示装置の部分平面図である。
図6B図6AのI-I線における断面図である。
図7】光源装置の変形例の構造を模式的に説明する本発明の第1実施形態に係る触覚提示装置の断面図である。
図8】本発明の第1実施形態の変形例に係る触覚提示装置および触覚提示セルの構造を説明する模式図であり、図1の部分拡大図である。
図9A図8に示す触覚提示装置の触覚を設定する方法を説明する模式図であり、図1の部分拡大図である。
図9B図8に示す触覚提示装置の触覚を設定する方法を説明する模式図である。
図9C図8に示す触覚提示装置の触覚を設定する方法を説明する模式図である。
図10A図8に示す触覚提示装置の動作を説明する模式図である。
図10B図8に示す触覚提示装置の動作を説明する模式図である。
図11】本発明の第1実施形態の変形例に係る触覚提示装置の構造を説明する模式図であり、図1の部分拡大図である。
図12】本発明の第2実施形態に係る触覚提示装置および触覚提示セルの構造を説明する模式図であり、図1の部分拡大図である。
図13図12に示す触覚提示装置の動作を説明する模式図である。
図14】本発明の第3実施形態に係る触覚提示装置および触覚提示セルの構造を説明する模式図であり、図1の部分拡大図である。
図15】本発明の第3実施形態の変形例に係る触覚提示装置および触覚提示セルの構造を説明する模式図であり、図1の部分拡大図である。
図16】本発明の第4実施形態に係る触覚提示装置および触覚提示セルの構造を説明する模式図であり、図1の部分拡大図である。
図17図16に示す触覚提示装置の動作を説明する模式図である。
図18】本発明の第4実施形態の変形例に係る触覚提示装置および触覚提示セルの構造を説明する模式図であり、図1の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る触覚提示セルおよび触覚提示装置を実現するための形態について、図面を参照して説明する。図面に示す触覚提示装置およびその要素は、明確に説明するために、大きさや位置関係等を誇張していることがあり、また、形状や構造を単純化していることがある。また、各実施形態の説明において、前の実施形態と同一の要素については、同一の符号を付し、説明を適宜省略する。
【0013】
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態に係る触覚提示装置10は、図1に示すように、光を透過する基板2と、基板2上に二次元配列して固定された触覚提示セル1と、二次元配列した触覚提示セル1上を被覆するシート部材3と、を備える。触覚提示装置10はさらに、基板2の下に、光源装置50を備える。触覚提示装置10は、平面視形状が特に規定されず、矩形等の、用途に合わせた形状および寸法になるように、触覚提示セル1を配列して備え、このことは、後記する第2実施形態以降においても同様である。図1では、簡潔に説明するために、図中左右方向に8個の触覚提示セル1が配列されている。
【0014】
(触覚提示セル)
触覚提示セル1は、硬さが変化することにより、ユーザに局所的に触覚を提示する。第1実施形態に係る触覚提示装置の触覚提示セル(以下、第1実施形態に係る触覚提示セル)1は、任意の立体形状とすることができ、図1および図2に示すような直方体等の角柱や円柱、または、下に広がった錐台や錐体、下に底面(平面)を向けた半球等のドーム型等の、底に基板2に固定される平面を有する形状が好ましい。触覚提示セル1のこのような形状は、触覚提示セル1が最も軟化した状態で、かつユーザの接触等による外力のないとき(以下、初期状態という)におけるものを指す。
【0015】
触覚提示装置10は、触覚提示セル1の高さ、すなわち可変部分の厚さが大きいほど、触覚提示セル1の軟化時における変形量が大きく、提示する触覚の変化の範囲を大きくすることができる。しかし、触覚提示セル1の高さが大きいと、光が全体に到達し難く、相転移に要する時間が長くなって光応答性が低くなる。したがって、触覚提示セル1は、高さが3~10mmであることが好ましく、用途等に応じて設計される。また、触覚提示装置10は、触覚提示セル1が狭ピッチで配列されているほど、触覚の微細な面内分布を提示することができ、ピッチが20mm以下であることが好ましく、10mm以下であることがさらに好ましい。ただし、人間の指先や掌等の触覚の空間(面)分解能は1~2mm程度であり、それよりもピッチを短くしても、触覚の面内分布に差異をほとんど感じることができない。また、触覚提示セル1は、狭ピッチ化に伴い小型化するので、製造し難くなり、また、アスペクト比が高くなる。したがって、触覚提示装置10は、触覚提示セル1の配列のピッチが2mm以上であることが好ましく、3mm以上であってもよい。触覚提示セル1は、正方格子等の矩形格子状に配列されていてもよいし、平面視形状が円形や正六角形のものを三角格子状(俵積状)に配列されていてもよい。また、触覚提示セル1は、ユーザに上から押圧された際に側方に広がって変形できるように、互いに間隔を空けて配列される。触覚提示セル1同士の間隔は、触覚提示セル1の平面視における長さよりも短いことが好ましく、触覚提示セル1の最大変形量に応じて設計される。そして、触覚提示セル1は、平面視における長さを、ピッチおよび間隔に応じて設計され、1mm以上であることが好ましい。さらに、触覚提示セル1は、平面視における長さに比して高さが大きい(アスペクト比が高い)と、初期状態等の軟化したときに基板2上で自立し難いので、アスペクト比が高過ぎないことが好ましく、立体形状や後記の多孔質弾性部材12の硬さにもよるが、1以下であることが好ましい。
【0016】
触覚提示セル1は、光固液相転移材料11、光固液相転移材料11を含浸させた多孔質弾性部材12、ならびに、光固液相転移材料11および多孔質弾性部材12を密封した袋体13を備える。触覚提示セル1は、袋体13内を、光固液相転移材料11および多孔質弾性部材12のみとして、大気等の気体を含まないことが好ましく、袋体13の内面と多孔質弾性部材12との間に間隙を有していてもよいが、この間隙は光固液相転移材料11で埋められることが好ましい。
【0017】
光固液相転移材料11は、光を照射されることにより、液相から固相に、また固相から液相に、可逆的に相転移し、あるいは、固体であって硬さが可逆的に変化する。詳しくは、光固液相転移材料11は、特定の波長域の光(第1の波長の光)L1を照射されると固体から液体に相転移し、この波長域とは異なる別の特定の波長域の光(第2の波長の光)L2を照射されると液体から固体に相転移し、第1、第2の波長の光L1,L2のいずれも照射されていないときには状態を維持する。または、光固液相転移材料11は、固体のままであり、第1の波長の光L1を照射されると軟化し、第2の波長の光L2を照射されると硬化する。光固液相転移材料11は、触覚提示セル1の硬さが所望の範囲で変化するように、特に完全に固相化した状態(最も硬い状態)が前記範囲における最大の硬さ以上となる材料を選択する。また、光固液相転移材料11は、第1、第2の波長の光L1,L2を、それぞれ少なくとも一部を透過させ、透過率が高いことが好ましい。
【0018】
光固液相転移材料11は、アゾベンゼンのシス-トランス光異性化反応により相転移するものを適用することができる。例えば、複数のアゾベンゼン基を有する糖アルコール誘導体(非特許文献5)は、アゾベンゼンが安定したトランス体であるときに固体であり、UV光(例えば、波長365nm)を照射されると、アゾベンゼンがUV光を吸収して不安定なシス体に変化することによって液体になり、可視光(例えば、波長510nm)を照射されると、シス体のアゾベンゼンがトランス体に戻ることによって固体になる。なお、アゾベンゼンは熱エネルギーによってもトランス体に戻るが、室温では半日以上要し、体温でもそれに近い時間を要する。また、側鎖にアゾベンゼン基を有するポリアクリレート(非特許文献6)は、アゾベンゼンがトランス体であるときにはガラス転移点が常温よりも高温であるのでガラス状の固体であり、UV光を照射されてアゾベンゼンがシス体に変化すると、ガラス転移点が降下することによって軟化してゴム状になり、さらには液体になる。
【0019】
多孔質弾性部材12は、内部に微細な空孔(空隙、気泡)を有する弾性体で、空孔に光固液相転移材料11を充填させて支持する支持部材であり、触覚提示セル1の立体形状に形成される。ユーザの指等で触覚提示セル1が押圧されると、多孔質弾性部材12は、光固液相転移材料11の硬さに応じて変形する。さらに多孔質弾性部材12は、光固液相転移材料11が液体や低粘度のゲル状であるときには、押圧されると、圧縮されて空孔が潰されて光固液相転移材料11を押し出し、一方、外力のない状態では(押圧する力が解除されると)所定の形状(初期状態の形状)となって、空孔に光固液相転移材料11が充填された状態に戻る。多孔質弾性部材12を備えることにより、本実施形態に係る触覚提示セル1は、初期状態を所定の立体形状とすることが容易となる。
【0020】
多孔質弾性部材12は、光固液相転移材料11を含浸(空孔に充填)させるために、連続気泡構造とする。また、触覚提示セル1は、多孔質弾性部材12の気孔率が低いと、光固液相転移材料11の含有率が低くなり、触感が、光固液相転移材料11の硬さよりも多孔質弾性部材12の硬さ(弾性)の影響が高くなって、光固液相転移材料11の硬さの変化に対して触感の変化量が狭くなる。したがって、多孔質弾性部材12は、気孔率が高いことが好ましく、具体的には80%以上であることが好ましい。また、多孔質弾性部材12は、外力のない状態で、押し出された液状の光固液相転移材料11を再び空孔に充填させて初期状態の形状に戻る十分な復元力を有し、かつ、この液状の光固液相転移材料11を含浸させた状態で自立することができる弾性および硬さを有するように、材料、気孔率、孔径等を選択、設計する。ただし、触覚提示セル1は多孔質弾性部材12の硬さよりも軟らかくならないので、多孔質弾性部材12は、触覚提示セル1の所望する最も軟らかい状態に合わせた硬さとする。また、多孔質弾性部材12は、光固液相転移材料11と化学的に反応せず、第1、第2の波長の光L1,L2に対する耐光性を有する材料とし、また、液状の光固液相転移材料11との親和性が高いことが好ましい。多孔質弾性部材12はさらに、第1の波長の光L1、第2の波長の光L2のそれぞれの少なくとも一部を透過させる構造とし、透過率が高いことが好ましい。このような多孔質弾性部材12として、ウレタンフォーム、シリコーンフォーム、ポリスチレンフォーム、ポリエチレンフォーム、ゴムスポンジ等の軟質発泡ポリマーや、ポリエチレン等の樹脂からなる繊維を絡み合わせた三次元網状構造体が挙げられる。
【0021】
袋体13は、フィルム(膜)で形成された閉じた袋体であり、触覚提示セル1の外装部材として、光固液相転移材料11を、多孔質弾性部材12に含浸させた状態で多孔質弾性部材12と共に収容して密封し、触覚提示セル1からの光固液相転移材料11の流出、および外気の流入を防止する。そのために、袋体13は、十分なバリア性を有し、また、破損しないように十分な強度を有するフィルムで形成されていることが好ましい。そして、袋体13は、触覚提示セル1が押圧された際の変形を妨げないように可撓性を有し、さらに変形による表面積の変化に追随して伸縮するように伸縮性を有すると共に、表面積が増大する変形を妨げないように弾性が高くないことが好ましい。また、袋体13は、触覚提示セル1の外から照射された光が光固液相転移材料11に到達するように、第1の波長の光L1、第2の波長の光L2のそれぞれの少なくとも一部が透過し、透過率が高いことが好ましい。さらに、袋体13は、多孔質弾性部材12と同様に、これらの光に対する耐光性を有し、光固液相転移材料11と化学的に反応しない材料で形成される。このような材料として、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等のシリコーン樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体等のフッ素樹脂が挙げられる。そして、袋体13は、前記の強度や伸縮性等が得られるような厚さに設計され、具体的には10~200μmの範囲に形成されることが好ましい。また、袋体13は、内面の一部が多孔質弾性部材12の表面に接着されていてもよく、この場合、多孔質弾性部材12の下面、またはさらに上面に接着されることが好ましく、側面には接着されないことが好ましい。多孔質弾性部材12の下面の広い面積に接着する場合には、硬化後において透明な接着剤を用いる。一方、下面以外には、硬化後において可撓性を有する接着剤を用いることが好ましい。
【0022】
本実施形態においては、袋体13は、図2に示すように、2枚のフィルム13a,13bが、光固液相転移材料11を含浸させた多孔質弾性部材12を挟んでその外側の縁で貼り合わされることにより、閉じた袋体に形成されている。詳しくは、袋体13は、触覚提示セル1の下面におけるフィルム13bとその他の面(側面および上面)におけるフィルム13aとを触覚提示セル1の外側で貼り合わせて形成されている。そのために、フィルム13aは、多孔質弾性部材12の立体形状に合わせた面形状に形成され、一方、フィルム13bは、平坦である。さらに、二次元配列された触覚提示セル1において、フィルム13a,13bのそれぞれが連続した1枚のフィルムで形成されている。したがって、触覚提示セル1同士が、貼り合わされたフィルム13a,13bによって、所定の間隔を空けて配列した状態で連結されている。
【0023】
ここで、触覚提示装置10においては、光固液相転移材料11の相転移のための光は、触覚提示セル1の下から基板2越しに照射される。また、触覚提示セル1は、下面が基板2に固定されている。そこで、フィルム13aは、可撓性および伸縮性を有し、一方で、光透過性を有していなくてよく、さらに遮光性を有していてもよい。触覚提示セル1が側面に遮光膜を備えることにより、隣の触覚提示セル1に照射された光が漏れて進入して、光固液相転移材料11の硬さが意図せず変化することを防止することができる。また、触覚提示セル1が上面および側面に遮光膜を備えることにより、触覚提示装置10の外の光により光固液相転移材料11の硬さが意図せず変化することを防止することができる。フィルム13bは、光を透過し、一方で、伸縮性、さらには可撓性を有していなくてよく、基板2に貼り合わされて触覚提示セル1を固定する。このようなフィルム13bは、透光性のより高い材料を選択することができ、前記の袋体13の材料に加えて、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレン、ポリプロピレンを適用することができる。
【0024】
触覚提示装置10において、触覚提示セル1は、面内における位置がずれないように、下面(袋体13の下面)の少なくとも一部が基板2に接着されている。なお、触覚提示セル1の下面の広い面積で接着する場合には、硬化後において透明な接着剤を用いる。または、図2に示すように、袋体13が、平面視で触覚提示セル1(多孔質弾性部材12)の外側にフィルム13aとフィルム13bの貼り合わせによる鍔状の部分を有する場合には、この部分を基板2に接着してもよい。
【0025】
(基板)
基板2は、触覚提示セル1を二次元配列して載置する土台である。基板2は、ユーザに触覚提示セル1の上から押圧されても破損、変形等しないように十分な強度を有し、また、その下に配置されている光源装置50が照射した光が触覚提示セル1に到達するように光を透過する構造とし、ポリカーボネートやアクリル等の硬質で透明な樹脂材料やガラスで形成された板材が適用される。また、基板2は、平板状に限られず、例えば柱面や球面等の曲面形状でもよく、触覚提示装置10の用途に応じて所望の面形状に形成される。
【0026】
(シート部材)
シート部材3は、触覚提示装置10におけるカバーで、ユーザに直接に触れられる部品であり、触覚提示セル1を破損等しないように保護すると共に、間隙を設けて配列された触覚提示セル1による上面の凹凸をユーザに感じ難くさせるように、触覚提示装置10の上面を平坦とする。シート部材3は、可撓性を有し、さらに伸縮性を有することが好ましく、例えば、ポリウレタンやシリコーン等の樹脂からなるシート、織布、不織布等を適用することができる。シート部材3は、前記の触覚提示セル1の保護や上面の平坦化の効果を得られる厚さとしつつ、触覚提示セル1の硬さの変化による触覚の変化が減衰しないように、厚さが小さいことが好ましく、具体的には0.05~0.3mm程度の範囲に形成されていることが好ましい。また、シート部材3は、遮光性を有することが好ましい。遮光性を有するシート部材3により、光源装置50が照射した光がユーザ側へ漏れず、また、触覚提示セル1の袋体13に遮光性がなくても、触覚提示装置10の外からの光により触覚提示セル1(光固液相転移材料11)の硬さが意図せず変化することを防止することができる。また、シート部材3は、裏面が触覚提示セル1の上面(袋体13の上面)に接着されていてもよく、この場合には、シート部材3の表面の触覚に影響しないように、硬化後において可撓性を有する接着剤を用いることが好ましい。なお、図1において、触覚提示装置10は、シート部材3が周縁部で基板2に貼り合わされているが、二次元配列した触覚提示セル1をまとめて囲繞する枠体を基板2に固定して備えて、この枠体にシート部材3が固定されていてもよい。
【0027】
(光源装置)
光源装置50は、触覚提示セル1毎に独立して、触覚提示セル1の光固液相転移材料11を相転移させる波長域の光L1,L2を切り替えて入射する装置であり、そのために、触覚提示セル1と一対一で発光装置5を備え、すなわち、発光装置5を、各触覚提示セル1の直下に配置されるように二次元配列して備える。光源装置50はさらに、発光装置5を配列して実装するための配線基板53を備え、接続した電流源から、任意の1以上の発光装置5に電流を供給する。発光装置5は、例えば表面実装型(Surface Mount Device:SMD)LED(Light Emitting Diode)であり、発光素子61,62と、発光素子61,62を収容する凹部を形成された板状のパッケージ部材71と、パッケージ部材71の凹部に充填されて発光素子61,62を封止する封止部材72と、を備え、必要に応じてさらにレンズ等の光学素子を備える。
【0028】
発光素子61は、触覚提示セル1の光固液相転移材料11を固体から液体に相転移させる波長域(第1の波長)の光L1(例えば、波長365nmのUV光)を発するLED、発光素子62は、液体から固体に相転移させる波長域(第2の波長)の光L2(例えば、波長510nmの可視光)を発するLEDであり、それぞれ公知のものを適用することができる。発光素子61,62は、光度が高いほど、短い照射時間で光固液相転移材料11を相転移させることができる。発光装置5は、発光素子61,62のそれぞれの個数は特に限定されず、光L1,L2を必要な輝度で照射できればよい。パッケージ部材71は、発光装置5の外装部材であり、樹脂、またはさらに金属で形成され、凹部の内面を反射面として、発光素子61,62が発した光を高効率で直上の触覚提示セル1に向けて照射させると共に、光が側方へ漏れて他の触覚提示セル1へ照射されないようにする。パッケージ部材71はさらに、凹部内の発光素子61,62の端子と接続すると共に、底面(下面)で配線基板53に接続するように形成された金属膜からなるリードを備える。封止部材72は、発光素子61,62を封止して保護し、その発した光を透過させる透明な樹脂であり、例えばシリコーン樹脂やエポキシ樹脂である。
【0029】
配線基板53は、発光装置5のリードに接続する端子(パッド)と、端子と電流源とを電気的に接続する配線を備え、1枚乃至2枚以上の積層した絶縁基板の両面や界面に金属膜や金属箔で配線を形成された公知のプリント回路基板の構成とすることができる。配線基板53は、任意に選択された1以上の発光装置5の発光素子61,62の少なくとも一方に電流を供給できるような配線を備える。例えば、発光素子61に接続する配線は発光装置5毎に設けられ、発光素子62に接続する配線は、すべての発光装置5で共通化されていてもよい。なお、光源装置50は、発光素子61,62を配線基板53に直接に実装したCOB(Chip On Board)でもよい。このような光源装置50は、配線基板53上に、各触覚提示セル1に対応する1組の発光素子61,62を囲繞する枠状の反射部材を備えることが好ましい。
【0030】
基板2が曲面である等、平面形状ではない場合には、すべての触覚提示セル1が、入射される光量が等しくなるように発光装置5との距離を等しくするために、配線基板53を基板2と同様の面形状とすることが好ましい。例えば、配線基板53を、可撓性の絶縁基板を有するフレキシブルプリント回路基板(FPC)として、基板2と同じ面形状の板材上に固定する。
【0031】
光源装置50は、外部から入力される信号により、発光素子61または発光素子62のどちらを点灯するか、そして1以上のどの発光装置5を点灯するか、を選択され、さらに、発光装置5毎に発光素子61,62が発する光の明るさ(光度)や点灯時間を選択される。発光素子61,62の光度は、電流値の大きさを調整することによって制御される、または、発光素子61,62をパルス幅変調(PMW)方式で駆動して、パルス幅(デューティ比)を調整することによって制御される。
【0032】
(触覚提示装置の製造方法)
本実施形態に係る触覚提示装置10は、一例として、次の方法で製造することができる。触覚提示セル1の初期状態の形状に加工した多孔質弾性部材12に、第1の波長の光L1(例えば、UV光)を照射して液状とした光固液相転移材料11を含浸させ、次に、放置、または加熱(例えば、60℃)や第2の波長の光L2(例えば、可視光)の照射により、光固液相転移材料11を固相化する。なお、光固液相転移材料11が液状においても粘度がある程度高い場合には、この光固液相転移材料11に溶媒を添加して多孔質弾性部材12に含浸し易くしてもよく、多孔質弾性部材12に含浸させた後、乾燥により溶媒を除去する。また、伸縮性のフィルムを、二次元配列された触覚提示セル1の形状に合わせた凹凸(内面側から見て凹み)に成形して、フィルム13aとする。光固液相転移材料11が含浸して硬化した多孔質弾性部材12を1個ずつ、フィルム13aの凹みに収容し、フィルム13aにフィルム13bを、接着剤による接着や熱圧着等の、フィルム13a,13bに対応した公知の方法で貼り合わせて、触覚提示セル1が二次元配列された状態で形成される。触覚提示セル1の下面(フィルム13b)を基板2に接着して固定する。シート部材3を、二次元配列された触覚提示セル1の全体を覆うように基板2の周縁部に固定する。最後に、触覚提示セル1およびシート部材3を上に固定した基板2を、光源装置50上に、その発光装置5と触覚提示セル1とを一対一で位置を合わせて固定する。
【0033】
(触覚提示装置の動作)
本発明の第1実施形態に係る触覚提示装置の動作を、図3A図3B図3C図4Aおよび図4Bを参照して説明する。これらの図において、触覚提示装置10は、簡潔に、触覚提示セル1を3つのみ示し、光源装置50については対応する3つの発光装置5のみを示し、また、シート部材3を省略する。
【0034】
はじめに、触覚提示装置10を所望の触覚の面内分布に設定する(書き換える)方法を説明する。触覚提示装置10は、書換時には、外力のない状態、詳しくは上面(シート部材3)がユーザ等に接触していない状態とする。まず、触覚提示装置10のすべての触覚提示セル1を初期状態にする(初期化)。
【0035】
図3Aに示すように、光源装置50のすべての発光装置5の発光素子61を点灯して光L1を照射し、触覚提示セル1の光固液相転移材料11を完全に液相にまたは最も軟らかい状態とする。具体的には、後記するように、変形していた多孔質弾性部材12がその弾性により初期状態の形状に戻ることを、光固液相転移材料11が妨げないような硬さに軟化する。また、図中、点灯している発光素子61または発光素子62には、放射状の矢印を付す。発光素子61の点灯のための連続電流供給時間またはパルス幅変調方式におけるパルス幅は、発光素子61の光度に応じて、光固液相転移材料11が完全に固相から完全に液相に転移するまで、または最も硬い状態から最も軟らかい状態に変化するまでの値(tS-L)以上とする。発光素子61を、所定時間、すなわち光固液相転移材料11が前記したように完全に液相化する等の所定の硬さに軟化するまでの時間、点灯した後、停止し、初期化を完了する。
【0036】
次に、触覚提示セル1毎に所望の硬さとする。そのために、図3Bに示すように、すべての発光装置5の発光素子62を点灯して光L2を照射し、触覚提示セル1の光固液相転移材料11を完全に固相にまたは最も硬い状態とする。発光素子62の点灯のための連続電流供給時間またはパルス幅変調方式におけるパルス幅は、発光素子62の光度に応じて、光固液相転移材料11が完全に液相から完全に固に転移するまで、または最も軟らかい状態から最も硬い状態に変化するまでの値(tL-S)以上とする。あるいは、触覚提示セル1が、触覚提示装置10における硬さの変化の所望の範囲における最も硬い状態となるように、光L2を照射してもよい。発光素子62を所定時間点灯した後、停止する。
【0037】
そして、触覚提示セル1毎に所望の硬さになるように、光固液相転移材料11を部分的にまたは全体を液相化して軟化する。ここでは、図中、左端の触覚提示セル1は、光固液相転移材料11が完全に液相化した最も軟らかい状態、中央の触覚提示セル1は、光固液相転移材料11が部分的に液相化した中間の硬さ、右端の触覚提示セル1は、光固液相転移材料11が完全に固相化した最も硬い状態にする。そのために、図3Cに示すように、左端および中央の各触覚提示セル1の直下に配置された発光装置5の発光素子61を再び点灯して光L1を照射し、一方、右端の触覚提示セル1の直下に配置された発光装置5は点灯しない。左端の発光装置5の発光素子61の点灯のための連続電流供給時間またはパルス幅変調方式におけるパルス幅は、tS-L以上とする。一方、中央の発光装置5の発光素子61の点灯のための連続電流供給時間またはパルス幅変調方式におけるパルス幅は、tS-L未満であって、触覚提示セル1の目標とする硬さに応じて設定される。発光装置5は、それぞれの発光素子61を設定した時間点灯した後、停止し、触覚提示装置10がユーザに提示される。
【0038】
このように触覚提示セル1毎に異なる硬さとした触覚提示装置10は、図4Aに示すように、ユーザの指等が接触すると、触覚提示セル1がその硬さと指による押圧力Fとに応じた変形量で、押し潰されて側方に広がるように変形する、または変形しない。ここでは、3つすべての触覚提示セル1がそれぞれの硬さに応じて異なる変形量で変形する。詳しくは、多孔質弾性部材12の内部で連続した空孔に充填された光固液相転移材料11が固相化していると、芯材となって触覚提示セル1を支持し、多孔質弾性部材12の変形を阻害する。右端の触覚提示セル1は、完全に固相化した光固液相転移材料11が、触覚提示セル1全体において僅かにしか変形せず、さらに多孔質弾性部材12の変形を阻害し、その結果、変形量が小さい。中央の触覚提示セル1は、多孔質弾性部材12が、その空孔内の不完全に固相化した光固液相転移材料11と共に変形する。一方、左端の触覚提示セル1は、多孔質弾性部材12が、空孔をその中の液状の光固液相転移材料11が押し出されて潰されて圧縮し、押し出された光固液相転移材料11が多孔質弾性部材12の側面と袋体13の間に溜まる。
【0039】
図4Bに示すように、ユーザの指が触覚提示装置10から離れて外力(押圧力F)がなくなると、触覚提示セル1は、押圧力Fによって変形した状態(図4A参照)から、多孔質弾性部材12の弾性により復元しようとする。ただし、多孔質弾性部材12の空孔内の光固液相転移材料11の硬さ、またはさらに弾性によって、復元の程度が異なる。左端の触覚提示セル1は、多孔質弾性部材12の弾性により完全に復元して初期状態の形状に戻り、押し出されていた光固液相転移材料11が多孔質弾性部材12の空孔に充填される。一方、右端の触覚提示セル1は、押圧力Fで僅かに変形した固相化した光固液相転移材料11がその形状を維持しようとするので、ほとんど復元しない。また、中央の触覚提示セル1は、多孔質弾性部材12の弾性が光固液相転移材料11の硬さにある程度勝り、完全ではないが復元する。
【0040】
触覚提示装置10の触覚の面内分布を変化させるためには、再び、光源装置50のすべての発光装置5の発光素子61を点灯して光L1を照射する初期化(図3A参照)から実行する。このように、すべての触覚提示セル1の光固液相転移材料11を液体にしまたは十分に軟化させることにより、一部の触覚提示セル1のユーザの指等との接触による変形がリセットされる。なお、光固液相転移材料11が完全に固相または最も硬い状態において、その弾性等により多孔質弾性部材12が初期状態の形状に復元可能である場合には、初期化(図3A)せず、その次のすべての発光装置5の発光素子62の点灯による触覚提示セル1の光固液相転移材料11の固相化(図3B)から実行してもよい。
【0041】
また、触覚提示セル1の硬さを簡潔に3段階に変化させるように説明したが、発光素子61の点灯のための連続電流供給時間またはパルス幅変調方式におけるパルス幅を0超tS-L未満で変化させることにより、硬さを細分化することができる。また、発光装置5毎に、発光素子61に供給する電流値を変化させて光度を調整してもよく、さらに、連続電流供給時間またはパルス幅と電流値とをそれぞれ変化させて組み合わせてもよい。
【0042】
初期化(図3A)の後の触覚提示セル1の硬化(図3B)において、最も軟らかい状態とする触覚提示セル1(図3Bの左端)の、すなわち全体を液相とする光固液相転移材料11は固相化せず、すなわち発光素子62を点灯しなくてもよい。それ以外の触覚提示セル1(図3Bの中央および右端)についてのみ発光素子62を点灯して光固液相転移材料11を完全に固相化し、その後、これらの触覚提示セル1毎に、その目標とする硬さに応じた条件で発光素子61を点灯して、光固液相転移材料11を部分的に液相化する。または、初期化(図3A)の後のすべての触覚提示セル1についての均一な固相化(図3B)を実行せず、触覚提示セル1毎に所望の硬さになるように、光固液相転移材料11を部分的にまたは全体を固相化してもよい。そのために、図5に示すように、触覚提示セル1毎に、その目標とする硬さに応じた条件で発光素子62を点灯して光L2を照射し、光固液相転移材料11を硬化する。これらの方法によれば、触覚提示装置10の書換時間を短縮することができる。
【0043】
前記したように、初期化としてすべての触覚提示セル1の光固液相転移材料11を一様に固相化した後に、触覚提示セル1毎に軟化する(図3C)ためには、触覚提示セル1の光固液相転移材料11を液相に相転移させる光L1のみを、触覚提示セル1毎に照射可能であればよい。したがって、光源装置50の配線基板53は、すべての発光素子62に接続する配線を共通化し、発光素子61のみ個別に(発光装置5毎に)電流を供給する構成とすることができる。反対に、触覚提示セル1毎に硬化する(図5)場合には、配線基板53は、すべての発光素子61に接続する配線を共通化し、発光素子62のみ個別に電流を供給する構成とすることができる。あるいは、本実施形態に係る触覚提示装置は、以下の構成の光源装置を備えていてもよい。
【0044】
(光源装置の変形例)
図6Aおよび図6Bに示す触覚提示装置10は、光源装置50B以外は前記実施形態と同じ構成である。なお、図6Aにおいては、シート部材3を省略し、基板2を透明として図示しない。光源装置50Bは、発光素子61を搭載した発光装置51と発光素子62を搭載した発光装置52とをそれぞれ配線基板53Bに二次元配列して備える。
【0045】
発光装置51は、発光素子61の1種類のLEDのみ備えること以外は、前記実施形態における光源装置50の発光装置5と同様の構成とすることができ、パッケージ部材71の凹部の形状等により、発光素子61が発した光を直上に向けて指向性よく(狭指向角で)照射させる構成とする。発光装置51は、光源装置50における発光装置5と同様に、触覚提示セル1の直下に配置されることが好ましい。一方、発光装置52は、発光素子62の1種類のLEDを備え、パッケージ部材71の凹部の形状により、またはレンズ等の光学素子を備えて、発光素子62が発した光が広がって照射される、広指向角の構成とする。発光装置52は、平面視で、隣り合う触覚提示セル1の間に配置される。一例として図6Aに示すように、触覚提示セル1が正方格子状に配列され、発光装置52が、直交する2方向のそれぞれにおいて触覚提示セル1同士の間に、さらに1列置きになるように千鳥配列されている。発光装置52から斜め上へ照射される光が、発光装置51の上(基板2)を進行して触覚提示セル1に入射することができる。光源装置50Bは、このような構成により、発光素子62(発光装置52)を触覚提示セル1の半数備えればよく、部品点数を少なくすることができる。また、光源装置50Bは、発光装置51,52として、それぞれ1つの波長域の光を発する公知のLEDパッケージ品を流用することができる。なお、発光装置51,52は、青色光やUV光を発するLEDを搭載し、封止部材72(図2参照)に蛍光体を添加して所望の波長域の光(光L1,L2)に変換するものでもよい。または光源装置50Bは、発光素子61,62を配線基板53Bに直接に実装したCOBでもよい。なお、光源装置50Bは、発光素子61と発光素子62の配置を入れ替えた構成とすることもでき、このような触覚提示装置10は、初期化において、前記したように、すべての触覚提示セル1の光固液相転移材料11を液相化し(図3A)、触覚提示セル1毎に硬化する(図5)。
【0046】
本実施形態に係る触覚提示装置は、光源装置がレーザー光を走査して選択された触覚提示セル1に照射する構成とすることもできる。図7に示す触覚提示装置10は、光源装置50C以外は前記実施形態と同じ構成である。光源装置50Cは、触覚提示セル1の光固液相転移材料11を固体から液体に相転移させる波長域の光L1(例えば、UV光)をレーザー光として照射する発光装置51Aと、液体から固体に相転移させる波長域の光L2(例えば、可視光)をレーザー光として照射する発光装置52Aと、反射鏡54と、反射鏡54を回動させるアクチュエータ(図示省略)と、を備える。
【0047】
発光装置51A,52Aはそれぞれ、YAGレーザー等の固体レーザーや半導体レーザー(LD)、さらに必要に応じて波長変換のための光学結晶等を備える公知のレーザー光源であり、電流値等によって出力強度を変調可能とする。光源装置50Cは、レーザー光走査式プロジェクタ等に使用されるレーザーガルバノスキャナと同様の構成とすることができ、発光装置51A,52Aから照射されたレーザー光(光L1,L2)を反射鏡54で反射させて、選択された触覚提示セル1に入射させる。なお、図7における発光装置51A,52Aおよび反射鏡54の配置は一例である。光源装置50Cは、発光装置51A,52Aおよび反射鏡54等を、触覚提示装置10の触覚提示セル1を配列した列の1ないし所定数毎に備え、または全体で1ずつのみ備えてもよい。発光装置51A,52A等の1つあたりの触覚提示セル1の数が少ないほど、触覚提示装置10全体の書換時間を短くすることができる。また、光源装置50Cは、触覚提示セル1へのレーザー光の入射角が例えば0°(底面に垂直)で揃うように、レンズ等の光学素子を基板2の下に備えてもよい。触覚提示装置10は、レーザー光を走査する光源装置50Cを備えることにより、触覚提示セル1を、LEDの配列可能なピッチよりも狭く配列することができる。
【0048】
前記したように、本実施形態に係る触覚提示装置10は、光L1または光L2の一方のみを触覚提示セル1毎に照射可能であればよく、他方をすべての触覚提示セル1に同時に照射する構成とすることができる。したがって、光源装置は、例えば、光L1をレーザー光として照射する発光装置51A、ならびに、光L2を広指向角で照射する発光装置52(図6Aおよび図6B参照)、または発光素子62と拡散板を備えた一般的なバックライト等の面状光源装置を備える構成とすることもできる。
【0049】
(変形例)
本実施形態に係る触覚提示装置は、それぞれが異なる光固液相転移材料を密封した2以上の触覚提示セルを1組の素子として二次元配列して備えていてもよい。特に固相での硬さの異なる光固液相転移材料を備えることにより、硬軟の変化を幅広く、かつ細かくすることができる。これらの光固液相転移材料は、同じ波長域の光で相転移する材料でもよいが、液相化および固相化の少なくとも一方が異なる材料であれば、それぞれの光を発するLEDを共に搭載した発光装置を1組の素子毎に備える光源装置とすることができる。
【0050】
本発明に係る触覚提示セルの光固液相転移材料は、光を照射されることにより、および照射されないことにより、液相から固相に、また固相から液相に、可逆的に相転移し、あるいは、固体であって硬さが可逆的に変化するものであってもよい。このような光固液相転移材料11Aを備える変形例に係る触覚提示セル1Aは、図8に示すように、光固液相転移材料11A以外は前記実施形態に係る触覚提示セル1と同じ構成とすることができる。そして、第1実施形態の変形例に係る触覚提示装置10Aは、図8に示すように、光を透過する基板2と、基板2上に二次元配列して固定された触覚提示セル1Aと、二次元配列した触覚提示セル1A上を被覆するシート部材3と、を備え、さらに、基板2の下に、光源装置50Aを備える。触覚提示装置10Aは、第1実施形態に係る触覚提示装置10と同様に、平面視形状が特に規定されず、矩形等の、用途に合わせた形状および寸法になるように、触覚提示セル1Aを配列して備える。
【0051】
光固液相転移材料11Aは、特定の波長域の光L1を照射されていないときには固体の状態であり、この波長域の光L1を照射されると液体に相転移し、さらに照射されている間は液体の状態を維持し、光L1の照射を停止すると固体に相転移する。または反対に、特定の波長域の光L1を照射されていないときには液体の状態で、照射されている間は固体の状態を維持する。あるいは、固体のままであり、光L1を照射されていないときには硬化した状態であり、照射されると軟化し、照射を停止すると硬化する。または反対に、光L1を照射されていないときには軟化した状態であり、照射されているときには硬化した状態となる。また、光固液相転移材料11Aは、この特定の波長域の光L1を、その少なくとも一部を透過させ、透過率が高いことが好ましい。
【0052】
光固液相転移材料11Aは、具体的には、ヘキサアリールビスイミダゾール(hexaarylbiimidazole:HABI)が挙げられ、UV光(例えば、波長365nm)を照射されているときに液体となり、照射されてないときには固体である(非特許文献3,4)。詳しくは、UV光を照射されると、二量体の解離により固体から液体に相転移し、照射を停止すると、室温程度の熱エネルギーにより短時間で再結合して固体に相転移する。
【0053】
光源装置50Aは、触覚提示セル1A毎に独立して、触覚提示セル1Aの光固液相転移材料11Aを相転移させる波長域の光L1を入射する装置であり、そのために、触覚提示セル1Aと一対一で発光装置51を備え、すなわち、発光装置51を、触覚提示セル1の直下に配置されるように二次元配列して備える。光源装置50Aはさらに、発光装置51を配列して実装する配線基板53Aを備え、接続した電流源から、任意の1以上の発光装置51に電流を供給する。発光装置51は、第1実施形態における光源装置50B(図6B参照)のものと同様の構成とすることができる。または、光源装置50Aは、発光素子61を配線基板53Aに直接に実装したCOBでもよい。
【0054】
本発明の第1実施形態の変形例に係る触覚提示装置の動作を、図9A図9B図9C図10Aおよび図10Bを参照して説明する。これらの図において、触覚提示装置10Aは、簡潔に、触覚提示セル1Aを3つのみ示し、光源装置50Aについては対応する3つの発光装置51のみを示し、また、シート部材3を省略する。
【0055】
はじめに、触覚提示装置10Aを所望の触覚の面内分布に設定する(書き換える)方法を説明する。前記実施形態と同様に、触覚提示装置10Aは、書換時には、外力のない状態、詳しくは上面(シート部材3)がユーザ等に接触していない状態とする。まず、触覚提示装置10Aのすべての触覚提示セル1Aを初期状態にする(初期化)。
【0056】
図9Aに示すように、光源装置50Aのすべての発光装置51の発光素子61を点灯して光L1を照射し、触覚提示セル1Aの光固液相転移材料11Aを完全に液相にまたは最も軟らかい状態とする。発光素子61の点灯のための連続電流供給時間またはパルス幅変調方式におけるパルス幅は、発光素子61の光度に応じて、光固液相転移材料11Aが完全に固相から完全に液相に転移するまで、または最も硬い状態から最も軟らかい状態に変化するまでの値(tS-L)以上とする。発光素子61を、所定時間、すなわち光固液相転移材料11が前記したように完全に液相化する等の所定の硬さに軟化するまでの時間、点灯した後、停止し、初期化を完了する。
【0057】
次に、触覚提示セル1A毎に所望の硬さとする。そのために、図9Bに示すように、すべての発光装置5の発光素子61を停止した状態で、触覚提示セル1Aの光固液相転移材料11Aを完全に固相にまたは最も硬い状態となるまで待機する。そして、触覚提示セル1A毎に所望の硬さになるように、光固液相転移材料11Aを部分的にまたは全体を液相化して軟化する。ここでは、図中、左端の触覚提示セル1Aは、光固液相転移材料11Aが完全に液相化した最も軟らかい状態、中央の触覚提示セル1Aは、光固液相転移材料11Aが部分的に液相化した中間の硬さ、右端の触覚提示セル1Aは、光固液相転移材料11Aが完全に固相化した最も硬い状態にする。そのために、図9Cに示すように、左端の触覚提示セル1Aの直下に配置された発光装置51は、初期化(図9A)と同じ条件で発光素子61を点灯する。また、中央の触覚提示セル1Aの直下に配置された発光装置51は、パルス幅変調方式におけるパルス幅を0超tS-L未満に、または電流値を初期化時よりも小さい値で発光素子61を点灯する。一方、右端の触覚提示セル1Aの直下に配置された発光装置51は、発光素子61を点灯しない(停止する)。発光装置51は、それぞれの発光素子61を設定した時間点灯した後、図10Aおよび図10Bに示すように、点灯を継続した状態で触覚提示装置10Aがユーザに提示される。
【0058】
本変形例に係る触覚提示装置10Aは、ユーザの指等からの押圧力Fの付与およびその解除による触覚提示セル1Aの変形は、前記実施形態に係る触覚提示装置10と同様である(図4A図4B参照)。触覚提示装置10Aの触覚の面内分布を変化させるためには、前記実施形態と同様に、再び、光源装置50Aのすべての発光素子61を点灯して光L1を照射する初期化(図9A参照)から実行する。
【0059】
触覚提示セル1A毎に所望の硬さとした(図9C)後のユーザへの提示時(図10Aおよび図10B)において照射される光L1は、光固液相転移材料11Aの状態(固相率)を変化させない光量とする。すなわち、左端の触覚提示セル1Aにおいては光固液相転移材料11Aが完全な液相を維持する光量とし、中央の触覚提示セル1Aにおいては光固液相転移材料11Aがそれ以上に液相化が進行せずかつ固相化(固相に戻る)しない光量とする。このような光L1の光量は、触覚提示セル1Aを所望の硬さにする(図9C)ための光量と同じでなくてよい。例えば、触覚提示セル1A毎に所望の硬さとするための光L1は等しく最大光量として、所望の硬さに到達した触覚提示セル1Aについて順次、光固液相転移材料11Aの固相率を維持するための光量に切り換える。このような方法によれば、触覚提示セル1Aを所望の硬さに高速で到達させることができる。
【0060】
初期化(図9A)の後の待機による触覚提示セル1Aの硬化(図9B)において、最も軟らかい状態とする触覚提示セル1A(図9Bの左端)は光固液相転移材料11Aを固相化せず、発光素子61の点灯を初期化から継続してもよい。それ以外の触覚提示セル1A(図9Bの中央および右端)についてのみ発光素子61を停止して光固液相転移材料11Aを完全に固相化し、その後、これらの触覚提示セル1A毎に、その目標とする硬さに応じた条件で発光素子61を点灯して、光固液相転移材料11Aを部分的に液相化する。
【0061】
または、初期化(図3A)の後のすべての触覚提示セル1Aについての均一な固相化(図3B)を実行せず、触覚提示セル1A毎に所望の硬さになるように、光固液相転移材料11Aを部分的にまたは全体を固相化してもよい。そのために、最も軟らかい状態とする触覚提示セル1A(図9Cの左端)については、光固液相転移材料11Aが完全な液相を維持するように発光素子61の点灯を継続し、最も硬い状態とする触覚提示セル1A(図9Cの右端)については、発光素子61を停止して光固液相転移材料11Aを完全に固相化させる。中間の硬さとする触覚提示セル1A(図9Cの中央)については、光固液相転移材料11Aが部分的に固相化する光量の光L1を照射するように条件を切り換えて発光素子61を点灯し、または光固液相転移材料11Aが部分的に固相化するまで発光素子61を停止し、その後に光固液相転移材料11Aの固相率を維持する光量の光L1を照射する条件で発光素子61を点灯する。これらの方法によれば、触覚提示装置10Aの書換時間を短縮することができる。
【0062】
本実施形態およびその変形例に係る触覚提示セル1,1A(以下、まとめて、触覚提示セル1)は、触覚提示装置10,10Aにおいて、袋体13の底面のフィルム13bが基板2と一体であってもよい。すなわち、袋体13が、触覚提示セル1の側面および上面におけるフィルム13aと基板2とを貼り合わせて形成される。また、触覚提示セル1は、袋体が、下面および側面におけるフィルムと上面におけるフィルムとを貼り合わせて形成されていてもよい。また、触覚提示セル1は、袋体の側面および上面におけるフィルム13aまたは上面におけるフィルムが、遮光性と十分な強度を有してシート部材3と一体であってもよい。
【0063】
本実施形態に係る触覚提示セル1は、袋体が、伸縮性の低いまたは伸縮性のない可撓性のフィルムで形成されていてもよく、ただし、変形による表面積の増大に対応した構成とする。そのために、袋体は、触覚提示セル1の変形時の最も増大した表面積に対応して形成され、それ以外の、例えば初期状態においては弛みを有する。
【0064】
本実施形態に係る触覚提示装置は、基板が、触覚提示セル1が載置される各領域の少なくとも一部で光を透過すればよい。そこで、図11に示すように、光を透過しない金属板等に、触覚提示セル1の配置に合わせて貫通孔2hが形成された基板2Aを適用することもできる。詳しくは、基板2Aは、触覚提示セル1の底面と対面する領域に貫通孔2hが形成されている。貫通孔2hの平面視形状は、基板2Aが十分な強度が得られる程度の大きさとし、触覚提示セル1の全体に光が到達するように、触覚提示セル1の底面以上の大きさであることが好ましく、底面よりも小さい場合にはより大きいことが好ましい。このような基板2Aに固定される触覚提示セル1は、袋体13の底面のフィルム13bが、伸縮性のないものとし、さらに可撓性のない、ある程度の剛性を有して変形し難い板材であることが好ましく、前記実施形態の基板2のような硬質な樹脂材料を適用することができる。また、図11に示すように、袋体13が、平面視で触覚提示セル1の外側にフィルム13aとフィルム13bの貼り合わせによる鍔状の部分を有するので、この部分を基板2Aに接着して固定することができる。または、基板2Aが、貫通孔2hに、透明な樹脂やガラスからなる板材を窓として嵌め合わされていてもよい。
【0065】
基板2Aを備える触覚提示装置10は、前記の光源装置50Bや光源装置50Cを備えていてもよい(図6A図6B図7参照)。ただし、光源装置50B,50Cから斜め上へ照射される光も触覚提示セル1に入射するように、基板2Aの厚さや貫通孔2hの大きさを設計し、またはレンズ等の光学素子を備えて光が垂直またはそれに近い角度で入射するように構成する。また、触覚提示装置10A(図8参照)が、基板2Aを備えていてもよい。
【0066】
本実施形態に係る触覚提示装置は、基板が、弾性を有する材料で形成されていてもよい。このような基板を備える変形例に係る触覚提示装置は、ユーザの指で押圧されると、その押圧力Fによっては、基板が変形して、触覚提示セル1の変形量を超えて表面が変形する。本変形例における基板は、所望する変形量に対応した厚さとし、また、多孔質弾性部材12よりも弾性が高く、復元力が強いことが好ましく、触覚提示セル1のある程度以上の硬さよりも硬いものとする。触覚提示セル1が基板の硬さ以上である場合を除いて、基板よりも優先的に変形するので、触覚の面内分布を提示することができる。また、前記の基板2A(図11参照)のように、基板が、触覚提示セル1の配置に合わせて貫通孔を形成されていてもよく、光を透過しない材料を適用することができる。したがって、多孔質弾性部材12と同様の、ウレタンフォーム等の軟質発泡ポリマーや三次元網状構造体の他に、独立気泡構造の硬質ウレタンフォーム等を適用することができる。さらに、本変形例に係る触覚提示装置は、この弾性を有する基板を支持する、基板2のような十分な剛性および強度を有する透明な板材を備えることが好ましい。
【0067】
〔第2実施形態〕
本発明に係る触覚提示装置は、触覚提示セルが、上から押圧されると下へ膨らんで変形することができる構成としてもよい。図12に示すように、第2実施形態に係る触覚提示装置10Bは、貫通孔2hが形成された基板2Bに、伸縮性を有するフィルムで形成された袋体13Bを備える触覚提示セル1Bを配列して備え、平面視で、基板2Bの貫通孔2hが触覚提示セル1Bの底面に内包されている。さらに、本実施形態に係る触覚提示装置10Bは、触覚提示セル1B同士の間隙が狭く配列されている。したがって、触覚提示装置10Bは、触覚の面内分布を微細としつつ、触覚提示セル1Bの平面視形状を大きくし、さらにそれに伴い、アスペクト比を変えずに高さ(厚さ)も大きくすることができる。
【0068】
(触覚提示セル)
第2実施形態に係る触覚提示装置の触覚提示セル(以下、第2実施形態に係る触覚提示セル)1Bは、立体形状、寸法、および配列を、第1実施形態に係る触覚提示セル1と同様とすることができる。ただし、触覚提示装置10Bにおいては、触覚提示セル1B同士の間隙を狭く配列することができる。本実施形態に係る触覚提示セル1Bは、光固液相転移材料11、光固液相転移材料11を含浸させた多孔質弾性部材12、ならびに、光固液相転移材料11および多孔質弾性部材12を密封した袋体13Bを備える。あるいは、触覚提示セル1Cは、光固液相転移材料11に代えて光固液相転移材料11Aを備えることもできる(図8参照)。
【0069】
触覚提示セル1Bの袋体13Bは、全体が可撓性を有するフィルムで形成され、さらに、少なくとも触覚提示セル1Bの底面のフィルム13cが伸縮性を有し、全体が伸縮性を有することが好ましい。ここでは、第1実施形態に係る触覚提示セル1の袋体13と同様に、袋体13Bは、底面におけるフィルム13cとその他の面におけるフィルム13aとを貼り合わせて形成されている。フィルム13cは、光を透過すると共に、伸縮性を有し、伸縮性が高いことが好ましい。また、袋体13Bは、底面すなわちフィルム13cが、触覚提示セル1Bの底面の基板2Bと対向する貫通孔2hの外側の縁の部分で、または、あればフィルム13aと貼り合わされた鍔状の部分で、基板2Bに接着されている。
【0070】
さらに、袋体13Bは、基板2Bの貫通孔2hに対向する領域外における内面の一部が、多孔質弾性部材12に接着されていることが好ましい。具体的には、基板2Bの貫通孔2hの外側の縁と対向する領域において、袋体13Bの内面が多孔質弾性部材12に接着されていることが好ましい。多孔質弾性部材12の下面の貫通孔2hに対向する領域が袋体13B(フィルム13c)に接着されていないことにより、後記するように、触覚提示セル1Bは、押圧されると、液体の光固液相転移材料11が空孔を押し潰された多孔質弾性部材12から下へ押し出されることにより変形することができる。そして、多孔質弾性部材12が、下面で、袋体13Bを介在して基板2Bに固定されていることにより、下へ膨らんで変形しても基板2Bの貫通孔2hに嵌まらず、その後の初期化の際に復元しなくなることを防止する。
【0071】
(基板)
基板2Bは、触覚提示セル1Bの底面の一部と対面する領域に貫通孔2hが形成されている。詳しくは、基板2Bは、貫通孔2hの外側において、触覚提示セル1B(多孔質弾性部材12)の底面の辺または周(稜線)の少なくとも一部が重複するように、貫通孔2hが形成される。触覚提示セル1Bが直方体である等、底面が多角形である場合には、底面のすべての頂点が貫通孔2hの外側に重複することが好ましく、また、底面の稜線の全体が貫通孔2hの外側に重複することがより好ましい。このような基板2Bは、第1実施形態の変形例の基板2A(図11参照)のように、光を透過しない材料を適用することができる。または、基板2Bは、第1実施形態の基板2(図2参照)と同様に光を透過する材料を適用し、貫通しない凹みを上面に形成されていてもよい。この凹みまたは貫通孔2hの深さ(基板2Bの厚さ)は、触覚提示セル1Bの下への最大変形量以上とする。また、貫通孔2hまたは凹みは、図12に示すように内壁面が垂直でもよいし、例えば上方に広がって開口するように内壁面が傾斜していてもよい。
【0072】
(光源装置)
光源装置50は、第1実施形態と同様の構成である。本実施形態に係る触覚提示装置10Dは、第1実施形態に係る触覚提示装置10と同様に、光源装置50Bや光源装置50Cを備えていてもよい(図6A図6B図7参照)。また、触覚提示セル1Bが光固液相転移材料11Aを備える場合には、触覚提示装置10Cは、光源装置50Aを備える(図8参照)。
【0073】
(触覚提示装置の動作)
本発明の第2実施形態に係る触覚提示装置の書換方法は、図3A~3Cに示す第1実施形態と同様であり、触覚提示セル1Bが光固液相転移材料11Aを備える場合には、図9A~9Cに示す第1実施形態の変形例と同様である。
【0074】
本実施形態に係る触覚提示装置10Bは、触覚提示セル1Bを狭い間隙で、または間隙を設けずに二次元配列することができる。このような触覚提示装置10Bは、図13に示すように、ユーザの指の接触等により上から押圧力Fが付与されると、それぞれの触覚提示セル1Bが、その硬さに応じて、下面における袋体13B(フィルム13c)を伸張させて基板2Bの貫通孔2hに入り込むように下へ膨らんで変形する。このとき、光固液相転移材料11の硬さや状態に応じて、図中、中央および右端の触覚提示セル1Bのように、多孔質弾性部材12が空孔に光固液相転移材料11を充填されている状態で変形し、または、左端の触覚提示セル1Bのように、多孔質弾性部材12が空孔を潰されて圧縮し、液状の光固液相転移材料11が貫通孔2hから下へ押し出される。なお、図13においては、シート部材3および光源装置50を省略する。
【0075】
〔第3実施形態〕
本発明に係る触覚提示装置は、触覚提示セルが、袋体で密封されていなくてもよい。すなわち、図14に示すように、第3実施形態に係る触覚提示装置10Cは、光を透過する基板2Cと、基板2C上に二次元配列して固定された触覚提示セル1Cと、二次元配列した触覚提示セル1C上を被覆するシート部材3Aと、を備える。触覚提示装置10Cはさらに、基板2Cの下に、光源装置50を備える。
【0076】
(触覚提示セル)
第3実施形態に係る触覚提示装置の触覚提示セル(以下、第3実施形態に係る触覚提示セル)1Cは、立体形状、寸法、および配列を、第1実施形態に係る触覚提示セル1と同様とすることができる。本実施形態に係る触覚提示セル1Cは、光固液相転移材料11、および光固液相転移材料11を含浸させた多孔質弾性部材12を備える。すなわち、触覚提示セル1Cは、第1実施形態に係る触覚提示セル1から袋体13を除いた構成である。なお、本実施形態において、多孔質弾性部材12は、液状の光固液相転移材料11についての吸液性、保液性が特に高いことが好ましい。あるいは、触覚提示セル1Cは、光固液相転移材料11に代えて光固液相転移材料11Aを備えることもできる(図8参照)。本実施形態に係る触覚提示セル1Cは、簡素な構成であり、容易に製造することができる。
【0077】
(基板)
基板2Cは、第1実施形態の基板2と同様の構成とすることができる。ただし、基板2Cは、平板状かつ水平に配置されていることが好ましい。基板2Cが水平面であることにより、その上に配列される触覚提示セル1Cのそれぞれの光固液相転移材料11が、液相化した際に二次元配列における下方へ流動せず、偏らない。基板2Cに、触覚提示セル1Cの多孔質弾性部材12が透明な接着剤で接着されて固定される。
【0078】
(シート部材)
シート部材3Aは、第1実施形態のシート部材3と同様に、触覚提示セル1Cを保護し、触覚提示装置10Cの上面を平坦化し、さらに本実施形態においては、基板2Cに周縁全体で貼り合わされている等により、二次元配列された触覚提示セル1Cを密封し、光固液相転移材料11を流出させないようにする。そのために、シート部材3Aは、可撓性や伸縮性の他に、バリア性を有し、また、第1実施形態に係る触覚提示セル1の袋体13と同様に、光固液相転移材料11と化学的に反応しない材料で形成され、ポリウレタンやシリコーン等の樹脂からなるシートを適用することができる。
【0079】
(光源装置)
光源装置50は、第1実施形態と同様の構成である。本実施形態に係る触覚提示装置10Cは、第1実施形態に係る触覚提示装置10と同様に、光源装置50Bや光源装置50Cを備えていてもよい(図6A図6B図7参照)。また、触覚提示セル1Cが光固液相転移材料11Aを備える場合には、触覚提示装置10Cは、光源装置50Aを備える(図8参照)。
【0080】
(触覚提示装置の製造方法)
本実施形態に係る触覚提示装置10Cは、一例として、次の方法で製造することができる。触覚提示セル1Cの初期状態の形状に加工した多孔質弾性部材12を、基板2C上に配列して接着し、この多孔質弾性部材12に、UV光を照射して液状とした光固液相転移材料11を含浸させて触覚提示セル1Cを形成し、その後に固相化する。そして、シート部材3Aを、二次元配列された触覚提示セル1Cの全体を覆うように基板2Cの周縁部の全周にわたって接着する。最後に、触覚提示セル1Cおよびシート部材3Aを上に固定した基板2Cを、光源装置50上に、その発光装置5と触覚提示セル1Cとを一対一で位置を合わせて固定する。または、多孔質弾性部材12に光固液相転移材料11を含浸させて固相化してから、基板2Cに接着してもよい。
【0081】
(触覚提示装置の動作)
本発明の第3実施形態に係る触覚提示装置の動作は、図3A~3C、図4Aおよび図4Bに示す第1実施形態と同様であり、触覚提示セル1Cが光固液相転移材料11Aを備える場合には、図9A~9C、図10Aおよび図10Bに示す第1実施形態の変形例と同様である。
【0082】
本実施形態に係る触覚提示装置10Cは、触覚提示セル1Cの硬さの変化の範囲における最も軟らかい状態、および初期化時に、光固液相転移材料11,11Aが多孔質弾性部材12,12Aの空孔から流出するような低粘度とならないことが好ましく、そのために、光固液相転移材料11,11Aに適用する材料や液体に相転移させる光の照射条件を選択、設計する。このような構成により、基板2Cが第1実施形態の基板2と同様に曲面や非水平面であっても、それぞれの触覚提示セル1Cから光固液相転移材料11,11Aが流出しない。
【0083】
(変形例)
本実施形態に係る触覚提示装置10Cは、第1実施形態のように、触覚提示セル1Cの配置に合わせて貫通孔2hを形成された基板2A(図11参照)や弾性を有する基板を備えていてもよい。このような触覚提示装置10Cは、基板2Aの上面全体を被覆する袋体13のフィルム13bのような光を透過するフィルムを備え、周縁でシート部材3Aと貼り合わせて、二次元配列された触覚提示セル1Cを密封する。または、前記したように、光固液相転移材料11,11Aが多孔質弾性部材12の空孔から流出することのない構成とする。また、触覚提示装置10Cは、第2実施形態のように、貫通孔2hまたは凹みを形成された基板2Bを備えて、触覚提示セル1Cを下へ膨らむように変形させることができる(図12図13参照)。
【0084】
本実施形態に係る触覚提示装置は、二次元配列された触覚提示セルの多孔質弾性部材が一体に形成されていてもよい。すなわち、図15に示すように、第2実施形態の変形例に係る触覚提示装置10Dは、二次元配列された触覚提示セル1Dが一体の多孔質弾性部材12Aと、多孔質弾性部材12Aに含浸した光固液相転移材料11または光固液相転移材料11Aを備える。多孔質弾性部材12Aは、多孔質弾性部材12と同様の材料で形成され、触覚提示セル1D同士の間隙に溝を形成された板状の部材である。
【0085】
本変形例に係る触覚提示装置10Dは、前記実施形態に係る触覚提示装置10Cと同様に、貫通孔2hを形成された基板2A(図11参照)や弾性を有する基板を備えていてもよい。また、触覚提示装置10Dは、第2実施形態のように、貫通孔2hまたは凹みを形成された基板2Bを備えて、触覚提示セル1Dを下へ膨らむように変形させることができる(図12図13参照)。この場合、さらに、触覚提示セル1Dを間隙なく配列した、すなわち多孔質弾性部材12Aを溝のない板状とすることができる。
【0086】
〔第4実施形態〕
本発明に係る触覚提示装置は、触覚提示セルが、多孔質弾性部材を備えなくてもよい。すなわち、図16に示すように、第4実施形態に係る触覚提示装置10Eは、光を透過する基板2と、基板2上に二次元配列して固定された触覚提示セル1Eと、二次元配列した触覚提示セル1E上を被覆するシート部材3と、を備える。触覚提示装置10Eはさらに、基板2の下に、光源装置50を備える。
【0087】
(触覚提示セル)
第4実施形態に係る触覚提示装置の触覚提示セル(以下、第4実施形態に係る触覚提示セル)1Eは、光固液相転移材料11、および光固液相転移材料11を密封した袋体13Eを備える。すなわち、触覚提示セル1Eは、第1実施形態に係る触覚提示セル1から多孔質弾性部材12を除いた構成である。触覚提示セル1Eは、袋体13E内を光固液相転移材料11のみとして、大気等の気体を含まないことが好ましい。あるいは、触覚提示セル1Eは、光固液相転移材料11に代えて光固液相転移材料11Aを備えることもできる。
【0088】
触覚提示セル1Eは、光固液相転移材料11,11Aが液体や低粘度の固体であるときには、袋体13Eの張力によって立体形状が保持される。したがって、触覚提示セル1Eは、初期状態において表面積が最小となる立体形状で、例えば、図16に示すような半球体、または基板2との接着面を平面とするように球体の一部を欠いた形状であり(図18参照)、原則としてアスペクト比が1未満となる。袋体13Eは、第1実施形態に係る触覚提示セル1の袋体13と同様の構成とすることができ、例えば、触覚提示セル1Eの下面におけるフィルム13bとその他の面におけるフィルム13dとを触覚提示セル1Eの外側で貼り合わせて形成されている。ただし、基板2に接着されていない部分(フィルム13d)が、触覚提示セル1Eの初期状態において、ある程度伸張しているように形成される。袋体13E(フィルム13d)が、弾性が高く、また触覚提示セル1Eの初期状態において大きく伸張していると、触覚提示セル1Eのアスペクト比を高くする(1により近付ける)ことができるが、一方で、光固液相転移材料11,11Aが液体または低粘度であっても、触覚提示セル1Eが十分に軟らかい触感とならない。したがって、触覚提示セル1Eは、その所望の最小の硬さ(最も軟らかい状態)に応じた弾性の袋体13E(フィルム13d)を備え、この袋体13Eによって保持可能な初期状態の立体形状に設計される。その他、触覚提示セル1Eの寸法および配列は、第1実施形態に係る触覚提示セル1と同様に設計することができる。本実施形態に係る触覚提示セル1Eは、袋体13E内がすべて光固液相転移材料11,11Aで充填されているので、光固液相転移材料11,11Aの硬さがほぼ直接的に触感となり、また、光固液相転移材料11,11Aの光透過率が高いと光応答性を高くすることができる。
【0089】
(光源装置)
光源装置50は、第1実施形態と同様の構成である。本実施形態に係る触覚提示装置10Eは、第1実施形態に係る触覚提示装置10と同様に、光源装置50Bや光源装置50Cを備えていてもよい(図6A図6B図7参照)。また、触覚提示セル1Eが光固液相転移材料11Aを備える場合には、触覚提示装置10Eは、光源装置50Aを備える(図8参照)。
【0090】
(触覚提示装置の製造方法)
本実施形態に係る触覚提示装置10Eは、一例として、次の方法で製造することができる。UV光を照射して液状とした光固液相転移材料11を、金型等により触覚提示セル1Fの初期状態の形状に成型して固相化する。また、第1実施形態と同様に、伸縮性のフィルムを、二次元配列された触覚提示セル1Eの形状に合わせた凹凸に成形して、フィルム13dとする。このとき、フィルム13dは、触覚提示セル1Eの初期状態の形状よりも少し小さい凹凸形状に成形する。触覚提示セル1Eの初期状態の形状で固相化した光固液相転移材料11を1個ずつ、フィルム13dの凹みに、この部分を伸張させて収容し、第1実施形態と同様にフィルム13dにフィルム13bを貼り合わせて、触覚提示セル1Eが二次元配列された状態で形成される。以降は第1実施形態と同様に、触覚提示セル1Eの下面(フィルム13b)を基板2に接着して固定し、シート部材3を、二次元配列された触覚提示セル1Eの全体を覆うように基板2の周縁部に固定する。そして、触覚提示セル1Eおよびシート部材3を上に固定した基板2を、光源装置50上に、その発光装置5と触覚提示セル1Eとを一対一で位置を合わせて固定する。
【0091】
(触覚提示装置の動作)
本発明の第4実施形態に係る触覚提示装置の書換方法は、図3A~3Cに示す第1実施形態と同様であり、触覚提示セル1Eが光固液相転移材料11Aを備える場合には、図9A~9Cに示す第1実施形態の変形例と同様である。
【0092】
本実施形態に係る触覚提示装置10Eは、前記したように、触覚提示セル1Eが、袋体13E内をすべて光固液相転移材料11,11Aで充填されているので、光固液相転移材料11,11Aの硬さがほぼ直接的に触感となる。すなわち、触覚提示装置10Eは、触覚提示セル1Eの硬さの変化の範囲が大きく、図17に示すように、ユーザの指の接触等により押圧力Fが付与されると、それぞれの触覚提示セル1Eの変形量の違いが大きい。ここでは、図中、左端の触覚提示セル1Eは、光固液相転移材料11が完全に液相化した最も軟らかい状態、中央の触覚提示セル1Eは、光固液相転移材料11が部分的に液相化した中間の硬さ、右端の触覚提示セル1Eは、光固液相転移材料11が完全に固相化した最も硬い状態とする。左端の触覚提示セル1Eは、大きく変形し、反対に右端の触覚提示セル1Eはほとんど変形しない。なお、図17においては、シート部材3および光源装置50を省略する。
【0093】
(変形例)
本実施形態に係る触覚提示装置10Eは、第1実施形態のように、触覚提示セル1Cの配置に合わせて貫通孔2hを形成された基板2A(図11参照)や弾性を有する基板を備えていてもよい。また、触覚提示装置10Eは、第2実施形態のように、貫通孔2hまたは凹みを形成された基板2Bを備え、かつ、触覚提示セル1Eの袋体13Eが、伸縮性およびある程度の弾性を底面にも有し、好ましくは全体に均一に有し、押圧されると、触覚提示セル1Eが下へ膨らんで変形する構成とすることもできる(図12図13参照)。
【0094】
本実施形態に係る触覚提示装置は、触覚提示セルのそれぞれの外側を囲繞する支持部材を備えて、袋体13Eの弾性(張力)が低くても、触覚提示セル1Eを初期状態において高アスペクト比の立体形状とすることができる。すなわち、図18に示すように、第4実施形態の変形例に係る触覚提示装置10Fは、光を透過する基板2と、基板2上に二次元配列して固定された触覚提示セル1Fと、基板2上の隣り合う触覚提示セル1F同士の間に固定された壁体4と、二次元配列した触覚提示セル1Fおよび壁体4の上を被覆するシート部材3と、を備える。触覚提示装置10Fはさらに、基板2の下に、光源装置50を備える。
【0095】
触覚提示セル1Fは、前記実施形態に係る触覚提示セル1Eと同様の構成とすることができ、ただし、袋体13Fは、触覚提示セル1Eの袋体13E(フィルム13d)と同様に伸縮性を有するものの、弾性の低いフィルムを適用することができる。また、触覚提示セル1Fは、初期状態においてアスペクト比の高い立体形状とすることができ、例えば図18に示すように、球体を少し偏平に潰した形状である。
【0096】
壁体4は、光固液相転移材料11,11Aが液体である等、触覚提示セル1Fが軟らかい状態において、その立体形状を保持する支持部材である。そのために、壁体4は、それぞれの触覚提示セル1Fを囲繞するように設けられ、例えば触覚提示セル1Fが正方格子状に配列されている場合には、平面視で格子状に形成される。なお、触覚提示セル1Fの袋体13Fが、前記実施形態のように、一体に形成されて配列された触覚提示セル1F同士を連結するものである場合には、壁体4は、この袋体13Fの触覚提示セル1Fの外側部分に接着して固定される。そして、壁体4は、基板2上で自立し、さらに、触覚提示セル1Fを支持してその立体形状を保持することができるような形状、寸法に形成され、また、触覚提示セル1Fの初期状態における高さ(最大高さ)以下の高さに形成される。壁体4は、断面形状が、図18に示すように台形でもよいし、長方形等でもよい。壁体4は、触覚提示セル1Fが押圧された際にその硬さに応じて変形することを妨げず、また、触覚提示装置10Fの全体の触覚に影響しないように、押圧されると圧縮する弾性体で形成される。したがって、壁体4は、第1実施形態に係る触覚提示セル1の多孔質弾性部材12と同様の発泡ポリマーや三次元網状構造体を適用することができ、また、形状や厚み等の寸法と併せて触覚提示セル1Fの立体形状を保持することができる程度に軟質であることが好ましい。ただし、壁体4は、光を透過しなくてよく、遮光性を有していてもよい。
【実施例0097】
本発明の効果を確認するために、図2および図16に示す本発明の第1、第4実施形態に係る触覚提示セルを模擬したサンプルを作製して、触感の変化を観察した。
【0098】
〔実施例1〕
光固液相転移材料として、4,4'-ビス(ヘキシルオキシ)-3-メチルアゾベンゼン(CAS RN:1440509-03-4、東京化成工業株式会社製B4596)を適用した。ポリプロピレンからなる、内寸が、幅10mm×奥行き10mm×高さ2mmの枠体の一方の開口部に、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体からなる厚さ100μmの伸縮性のフィルムを弛みなく固定した。この中に、波長365nmのUV光を照射して液体とした光固液相転移材料を0.24ml封入し、他方の開口部に枠体と同じ板材からなる蓋を固定し、サンプルとした。
【0099】
作成したサンプルを12時間放置して、光固液相転移材料を熱異性化により固体とし、フィルムの上からの触感を圧縮試験機(KES-G5、カトーテック株式会社製)で評価した。このサンプルに、フィルムの側から波長365nmのUV光を10秒間照射し、触感を評価したところ、照射前よりも軟らかいことが確認された。さらに、波長450nmの可視光を10秒間照射し、触感を評価したところ、UV光の照射前と同程度の硬さとなったことが確認された。
【0100】
〔実施例2〕
実施例1のサンプルと同様に一方の開口部をフィルムで塞いだ枠体に、内寸と同じ寸法とした気孔率90%のウレタンフォームを収容し、実施例1と同様に液体とした光固液相転移材料を、ウレタンフォームが完全に浸るように0.216ml封入し、他方の開口部に蓋を固定し、サンプルとした。
【0101】
実施例1と同様に、作成したサンプルを12時間放置した後、UV光を10秒間照射し、さらに可視光を10秒間照射した。実施例1と同様に、それぞれの光の照射の前後でフィルムの上からの触感を評価したところ、UV光の照射により照射前よりも軟らかくなり、ただし、実施例1のサンプルよりも弾性が高かった。また、可視光の照射によりUV光の照射前と同程度の硬さとなり、実施例1のサンプルと比較して弾性を有して軟らかかった。
【0102】
以上、本発明に係る触覚提示セルおよび触覚提示装置を実施するための各実施形態について述べてきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0103】
10,10A,10B,10C,10D,10E,10F 触覚提示装置
1,1A,1B,1C,1D,1E,1F 触覚提示セル
11,11A 光固液相転移材料
12,12A 多孔質弾性部材
13,13B,13E,13F 袋体
2,2A,2B,2C 基板
3,3A シート部材
4 壁体
50,50A,50B,50C 光源装置
5 発光装置
51,51A 発光装置
52,52A 発光装置
61 発光素子(光源)
62 発光素子(光源)
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18