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特開2024-120833ポリエチレン系フィルム、および、ポリエチレン系樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120833
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】ポリエチレン系フィルム、および、ポリエチレン系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240829BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
C08L23/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023147160
(22)【出願日】2023-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2023027202
(32)【優先日】2023-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】劉 チン
(72)【発明者】
【氏名】豊田 博
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA19
4F071AA81
4F071AA82
4F071AB18
4F071AB26
4F071AC10
4F071AC12
4F071AE09
4F071AE11
4F071AE22
4F071AF16
4F071AF30
4F071AF32
4F071AH04
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB09
4F071BC01
4J002BB051
4J002BB151
4J002BG062
4J002DE096
4J002DE106
4J002DE116
4J002DE136
4J002DE236
4J002DE246
4J002DG046
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DJ036
4J002EP016
4J002FD096
4J002FD172
4J002FD176
4J002GG02
(57)【要約】
【課題】フィルム表面のグロスが比較的小さく、かつ、フィルムの引裂強度が比較的低いポリエチレン系フィルム、および、該ポリエチレン系フィルムにおける少なくとも一つの表面を構成するポリエチレン系樹脂組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明に係るポリエチレン系フィルムは、フィルムの少なくとも一つの表面の展開面積比Sdrが1.10%以上である。本発明に係るポリエチレン系樹脂組成物は、下記成分(A)と、下記成分(B)と、を含み、前記成分(B)の含有量が、前記成分(A)100質量部に対して、0.05質量部以上10質量部以下である。
成分(A):エチレン-α-オレフィン共重合体
密度;915kg/m以上950kg/m以下
数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn);7.3以上
成分(B):滑剤、耐ブロッキング剤および顔料から選ばれる少なくとも1種を含む添加剤
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの少なくとも一つの表面の展開面積比Sdrが1.10%以上である、ポリエチレン系フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載のポリエチレン系フィルムにおける少なくとも一つの表面を構成するポリエチレン系樹脂組成物であって、
下記成分(A)と、下記成分(B)と、を含み、
前記成分(B)の含有量が、前記成分(A)100質量部に対して、0.05質量部以上10質量部以下である、ポリエチレン系樹脂組成物。
成分(A):エチレン-α-オレフィン共重合体
密度;915kg/m以上950kg/m以下
数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn);7.3以上
成分(B):滑剤、耐ブロッキング剤および顔料から選ばれる少なくとも1種を含む添加剤
【請求項3】
フィルムの少なくとも一つの表面の展開面積比Sdrが1.35%以上である、請求項1に記載のポリエチレン系フィルム。
【請求項4】
前記成分(B)が顔料を含む添加剤である、請求項2に記載のポリエチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記顔料の含有量が、前記成分(A)100質量部に対して、0.1質量部以上9質量部以下である、請求項4に記載のポリエチレン系樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン系フィルム、および、該ポリエチレン系フィルムにおける少なくとも一つの表面を構成するポリエチレン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乳幼児用おむつ等の衛生製品の包装材には、ポリエチレン系フィルムが使用されている。最近は、介護等で使用する大人用おむつの需要が増えており、この大人用おむつの包装材にもポリエチレン系フィルムが用いられているため、ポリエチレン系フィルムの需要はますます増加している。
【0003】
斯かる衛生製品を包装するフィルムには、内容物が見えにくいこと、および、包装材を開封しやすいことが求められている。内容物を見えにくくするために、包装材がマットな外観であること、すなわち、フィルム表面につや消しが施されており、フィルム表面のグロスが小さいことが求められている。また、包装材を開封しやすくするために、フィルムの引裂強度が低いことが求められている。
【0004】
ところで、特許文献1には、食品、洗剤等の包装材に用いられるフィルムを形成することができるエチレン改質材が開示されていて、該エチレン改質材に使用されるエチレン-α-オレフィン共重合体として、密度が915kg/m以上950kg/m以下であり、数平均分子量に対する重量平均分子量(Mw/Mn)が7.3以上であるエチレン-α-オレフィン共重合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2023-10408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のようなエチレン-α-オレフィン共重合体を用いて形成されたフィルムは、フィルム表面のグロスをより小さくし、かつ、フィルムの引裂強度をより低くする点で改善の余地がある。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、フィルム表面のグロスが比較的小さく、かつ、フィルムの引裂強度が比較的低いポリエチレン系フィルム、および、該ポリエチレン系フィルムにおける少なくとも一つの表面を構成するポリエチレン系樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るポリエチレン系フィルムは、フィルムの少なくとも一つの表面の展開面積比Sdrが1.10%以上である。
【0009】
本発明に係るポリエチレン系樹脂組成物は、上述のポリエチレン系フィルムにおける少なくとも一つの表面を構成するポリエチレン系樹脂組成物であって、
下記成分(A)と、下記成分(B)と、を含み、
前記成分(B)の含有量が、前記成分(A)100質量部に対して、0.05質量部以上10質量部以下である。
成分(A):エチレン-α-オレフィン共重合体
密度;915kg/m以上950kg/m以下
数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn);7.3以上
成分(B):滑剤、耐ブロッキング剤および顔料から選ばれる少なくとも1種を含む添加剤
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フィルム表面のグロスが比較的小さく、かつ、フィルムの引裂強度が比較的低いポリエチレン系フィルム、および、該ポリエチレン系フィルムにおける少なくとも一つの表面を構成するポリエチレン系樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
<ポリエチレン系フィルム>
本実施形態に係るポリエチレン系フィルムは、フィルムの少なくとも一つの表面の展開面積比Sdrが1.10%以上であり、好ましくは1.35%以上である。また、前記ポリエチレン系フィルムは、フィルムの少なくとも一つの表面の展開面積比Sdrが、好ましくは100%以下であり、より好ましくは80%以下である。フィルム表面の展開面積比Sdrは、下記の[実施例]に記載の方法によって求めることができる。
【0013】
Sdrは、測定した形状の表面積が、測定した領域の面積に対してどれだけ増大しているかを表すものであり、表面が荒れるほどSdrが大きい。つまり、Sdrが大きいほど、フィルム表面のグロスが小さくなり、その結果、フィルム表面のつや消し性を向上させ、包装材がよりマットな外観となる。
【0014】
フィルムの少なくとも一つの表面の展開面積比Sdrは、例えば、後述する成分(A)または成分(B)の含有量を増やすことにより大きくすることができ、後述する成分(A)または成分(B)の含有量を減らすことにより小さくすることができる。
【0015】
本実施形態に係るポリエチレン系フィルムは、単層フィルムであってもよいし、複数の層を備える多層フィルムであってもよい。前記ポリエチレン系フィルムが単層フィルムの場合、該ポリエチレン系フィルムは、後述するポリエチレン系樹脂組成物から構成される。前記ポリエチレン系フィルムが多層フィルムの場合、該ポリエチレン系フィルムは、少なくとも一つの最外面に位置する層が、後述するポリエチレン系樹脂組成物から構成される。前記多層フィルムを構成する他の層としては、例えば、セロハン;紙;板紙;織物;アルミニウム箔;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ポリプロピレン樹脂等で形成された層が挙げられる。
【0016】
本実施形態に係るポリエチレン系フィルムの製造方法としては、キャスト製膜法、インフレーション製膜法等を用いることができる。
【0017】
キャスト製膜法は、溶融樹脂をT字型のダイから押し出して平面状の無延伸フィルム(キャストフィルム)を得る方法である。ただし、キャスト製膜法においては、通常、第一冷却ロールから巻取り機に至る工程において、シワの発生、フィルムのたるみを防止する等の目的で所定の張力がフィルムに対してかけられるため、フィルムは、第一冷却ロール上で固化した後、巻取り機によって巻取られるまでの間に1.0~1.5倍程度、縦方向に伸ばされる場合がある。このようなフィルムもまた、キャスト製膜法により得られたフィルムである。
【0018】
インフレーション製膜法は、インフレーションフィルム成形機に、円形状のダイスと二重スリットエアリングを用いて、通常、加工温度140℃~250℃、押出量5kg/Hr~500kg/Hr、フロストラインディスタンス150mm~500mm、ブロー比1.2~5.0の加工条件で、インフレーションフィルムを得る方法である。
【0019】
多層フィルムを製造する方法としては、例えば、本実施形態に係るポリエチレン系フィルムの単層フィルムと、他の層を形成する単層フィルムとを貼り合わせるラミネーション法が挙げられる。ラミネーション法としては、例えば、ドライラミネート法、ウェットラミネート法、サンドラミネート法等が挙げられる。ラミネーション法は、好ましくは、ドライラミネート法である。また、他の方法としては、本実施形態に係るポリエチレン系フィルムを構成するポリエチレン系樹脂組成物と、他の層を形成する樹脂組成物とを別々に溶融してフィードブロック内で積層し、Tダイ等から押し出すことで多層フィルムを形成する方法(共押し出し法)等が挙げられる。
【0020】
<ポリエチレン系樹脂組成物>
本実施形態に係るポリエチレン系樹脂組成物は、上述のポリエチレン系フィルムにおける少なくとも一つの表面を構成する。前記ポリエチレン系樹脂組成物は、下記成分(A)と、下記成分(B)と、を含み、好ましくは、下記成分(A)と、下記成分(B)と、からなる。
成分(A):エチレン-α-オレフィン共重合体
密度;915kg/m以上950kg/m以下
数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn);7.3以上
成分(B):滑剤、耐ブロッキング剤および顔料から選ばれる少なくとも1種を含む添加剤
【0021】
<成分(A)>
成分(A)は、エチレン-α-オレフィン共重合体である。「エチレン-α-オレフィン共重合体」とは、エチレンに基づく単量体単位と、α-オレフィンに基づく単量体単位とを有する共重合体であって、該共重合体の全質量100質量%に対して、エチレンに基づく単量体単位とα-オレフィンに基づく単量体単位との合計含有量が95質量%以上である共重合体をいう。また、「α-オレフィン」とは、α位に炭素-炭素不飽和二重結合を有する直鎖状または分岐状のオレフィンをいう。エチレン-α-オレフィン共重合体は、エチレンに基づく単量体単位と炭素原子数3~20のα-オレフィンに基づく単量体単位とを含むものであってもよく、エチレンに基づく単量体単位と炭素原子数4~20のα-オレフィンに基づく単量体単位とを含むものであってもよく、エチレンに基づく単量体単位と炭素原子数5~20のα-オレフィンに基づく単量体単位とを含むものであってもよく、エチレンに基づく単量体単位と炭素原子数6~20のα-オレフィンに基づく単量体単位とを含むものであってもよい。
【0022】
成分(A)における炭素原子数3~20のα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、4-メチル-1-ペンテン、および、4-メチル-1-ヘキセン等が挙げられる。これらの中でも、炭素原子数3~20のα-オレフィンは、好ましくは、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、または、1-オクテンであり、より好ましくは、1-ヘキセン、または、1-オクテンである。また、炭素原子数3~20のα-オレフィンとしては、上記の物質の1種を単独で用いてもよく、上記の物質の2種以上を併用してもよい。
【0023】
成分(A)中のエチレンに基づく単量体単位の含有量は、成分(A)の全質量100質量%に対して、好ましくは80質量%以上97質量%以下であり、より好ましくは85質量%以上97質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以上97質量%以下である。また、成分(A)中のα-オレフィンに基づく単量体単位の含有量は、成分(A)の全質量100質量%に対して、好ましくは3質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは3質量%以上15質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以上10質量%以下である。
【0024】
成分(A)としては、例えば、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、エチレン-1-ブテン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-ブテン-4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン-1-オクテン共重合体、および、エチレン-1-ブテン-1-オクテン共重合体等が挙げられる。これらの中でも、成分(A)は、好ましくは、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン-1-ブテン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-ブテン-4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン-1-オクテン共重合体、または、エチレン-1-ブテン-1-オクテン共重合体であり、より好ましくは、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、エチレン-1-ブテン-1-ヘキセン共重合体、または、エチレン-1-ブテン-1-オクテン共重合体であり、さらに好ましくは、エチレン-1-ヘキセン共重合体、または、エチレン-1-ブテン-1-ヘキセン共重合体である。
【0025】
成分(A)は、エチレンおよび炭素原子数3~20のα-オレフィン以外の単量体に基づく単量体単位を有してもよい。エチレンおよび炭素原子数3~20のα-オレフィン以外の単量体としては、例えば、ブタジエンまたはイソプレン等の共役ジエン;1,4-ペンタジエン等の非共役ジエン;アクリル酸;アクリル酸メチルまたはアクリル酸エチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸;メタクリル酸メチルまたはメタクリル酸エチル等のメタクリル酸エステル;および、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0026】
成分(A)の密度は、915kg/m以上950kg/m以下である。成分(A)の密度は、フィルムの低光沢(つや消し)性をより向上させる観点から、好ましくは918kg/m以上であり、より好ましくは920kg/m以上であり、さらに好ましくは922kg/m以上である。また、成分(A)の密度は、フィルムをTD方向に引裂きやすくさせる観点から、好ましくは940kg/m以下であり、より好ましくは935kg/m以下である。成分(A)の密度は、一つの態様においては918kg/m以上950kg/m以下であってもよく、他の態様においては918kg/m以上940kg/m以下であってもよく、さらに他の態様においては920kg/m以上950kg/m以下であってもよい。成分(A)の密度は、後述する成分(A)の製造方法(エチレン-α-オレフィン共重合体の製造方法)において、気相重合時のα-オレフィン濃度を調整することにより、上記の各範囲に調整することができる。なお、密度は、下記の[実施例]に記載の方法で求めることができる。
【0027】
成分(A)の数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)は、7.3以上である。Mw/Mnは、フィルムの低光沢(つや消し)性をより向上させる観点から、好ましくは7.5以上であり、より好ましくは7.7以上である。また、成分(A)のMw/Mnは、フィルムをTD方向に引裂きやすくさせる観点から、好ましくは15.0以下であり、より好ましくは14.0以下であり、さらに好ましくは13.0以下である。成分(A)のMw/Mnは、一つの態様において、7.3以上15.0以下であり、他の態様において、7.5以上14.0以下であり、さらに他の態様において、7.7以上13.0以下である。成分(A)のMw/Mnは、気相重合時の有機アルミニウム化合物の使用量に対する電子供与性化合物の使用量を調整することにより、上記の各範囲に調整することができる。また、数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、下記の[実施例]に記載の方法で求めることができる。
【0028】
成分(A)の温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定されるメルトフローレート(MFR)は、フィルムをTD方向に引裂きやすくさせる観点から、好ましくは0.0001g/10分以上であり、より好ましくは0.0005g/10分以上であり、さらに好ましくは0.001g/10分以上である。また、成分(A)の前記MFRは、フィルムの低光沢(つや消し)性をより向上させる観点から、好ましくは0.20g/10分以下であり、より好ましくは0.15g/10分以下であり、さらに好ましくは0.10g/10分以下である。一つの態様において、成分(A)の前記MFRは、0.0001g/10分以上0.20g/10分以下であり、他の様態において、成分(A)の前記MFRは、0.0005g/10分以上0.15g/10分以下であり、さらに他の様態において、成分(A)の前記MFRは、0.001g/10分以上0.10g/10分以下である。なお、成分(A)の前記MFRの測定では、通常、成分(A)に酸化防止剤を1000ppm程度配合した試料を用いる。前記MFRは、後述する成分(A)の製造方法(エチレン-α-オレフィン共重合体の製造方法)において、気相重合時の連鎖移動剤濃度を調整することにより、上記の各範囲に調整することができる。なお、MFRは、下記の[実施例]に記載の方法で求めることができる。
【0029】
成分(A)の極限粘度(以下、[η]と表記する;単位はdl/gである。)は、フィルムをTD方向に引裂きやすくさせる観点から、好ましくは1.0dl/g以上であり、より好ましくは1.2dl/g以上であり、さらに好ましくは1.3dl/g以上である。また、成分(A)の[η]は、フィルムの低光沢(つや消し)性をより向上させる観点から、好ましくは2.0dl/g以下であり、より好ましくは1.9dl/g以下であり、さらに好ましくは1.7dl/g以下である。成分(A)の[η]は、一つの態様において、1.0dl/g以上2.0dl/g以下であり、他の態様において、1.2dl/g以上1.9dl/g以下であり、さらに他の態様において、1.3dl/g以上1.7dl/g以下である。極限粘度は、下記の[実施例]に記載の方法で求めることができる。
【0030】
<成分(A)の製造方法>
成分(A)の製造方法(即ち、エチレン-α-オレフィン共重合体の製造方法)としては、例えば、オレフィン重合触媒の存在下、エチレンとα-オレフィンとを共重合する方法が挙げられる。オレフィン重合触媒としては、例えば、活性化助触媒成分(以下、成分(I)とも記す)を微粒子状担体に担持させてなる成分(H)と、メタロセン系錯体と、電子供与性化合物と、を接触させて形成されるもの、または、前記成分(H)と、メタロセン系錯体と、有機アルミニウム化合物と、を接触させて形成されるもの等が挙げられる。具体的には、オレフィン重合触媒としては、前記成分(H)と、メタロセン系錯体と、有機アルミニウム化合物とを接触させてなる触媒成分の存在下、少量のオレフィンを重合(以下、予備重合と称する。)して得られる予備重合触媒成分が好ましい。
【0031】
成分(I)としては、亜鉛化合物等が挙げられる。亜鉛化合物としては、例えば、ジエチル亜鉛とフッ素化フェノールと水とを接触させることにより得られる化合物が挙げられる。
【0032】
微粒子状担体としては、50%体積平均粒子径が10~500μmである多孔質の物質を用いることができる。50%体積平均粒子径は、例えば、光散乱式レーザー回折法により測定される。微粒子状担体としては、例えば、無機物質、有機ポリマー等が挙げられる。無機物質としては、例えば、SiO、Al、MgO、ZrO、TiO、B、CaO、ZnO、BaO、ThO等の無機酸化物;スメクタイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、ラポナイト、サポナイト等の粘土および粘土鉱物等が挙げられる。有機ポリマーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体等が挙げられる。微粒子状担体は、無機物質からなる微粒子状担体(以下、無機微粒子状担体と称する)が好ましい。微粒子状担体の細孔容量は、特に限定されず、例えば、0.3~10ml/gであってもよい。微粒子状担体の比表面積は、特に限定されず、例えば、10~1000m/gであってもよい。細孔容量と比表面積は、ガス吸着法により求めることができる。また、細孔容量は、ガス脱着量をBJH法で、比表面積は、ガス吸着量をBET法で解析することにより求めることができる。
【0033】
メタロセン系錯体とは、シクロペンタジエン形アニオン骨格を含む配位子を有する遷移金属化合物である。メタロセン系錯体としては、下記一般式[a]で表される遷移金属化合物、または、そのμ-オキソタイプの遷移金属化合物二量体が好ましい。

[a]
(式中、Mは周期律表第3~11族もしくはランタノイド系列の遷移金属原子である。Lはシクロペンタジエン形アニオン骨格を有する基であり、複数のLは互いに直接連結されているか、または、炭素原子、ケイ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子もしくはリン原子を含有する残基を介して連結されていてもよい。Xはハロゲン原子、炭化水素基(ただし、シクロペンタジエン形アニオン骨格を有する基を除く)、または、炭化水素オキシ基である。aは2、bは2を表す。)
【0034】
電子供与性化合物としては、例えば、トリエチルアミン、トリイソブチルアミン、および、トリノルマルオクチルアミン等が挙げられ、好ましくはトリエチルアミンである。
【0035】
有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、および、トリノルマルオクチルアルミニウム等が挙げられ、好ましくはトリイソブチルアルミニウム、または、トリノルマルオクチルアルミニウムであり、より好ましくはトリイソブチルアルミニウムである。
【0036】
成分(A)の製造方法としては、スラリー重合、気相重合法等が挙げられ、好ましくは連続気相重合法である。該スラリー重合法に用いられる溶媒としては、例えば、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の不活性炭化水素溶媒等が挙げられる。該連続気相重合法に用いられる気相重合反応装置としては、例えば、流動層型反応槽を有する装置等が挙げられ、好ましくは、拡大部を有する流動層型反応槽を有する装置であり、反応槽内に撹拌翼が設置されていてもよい。
【0037】
オレフィン重合触媒が予備重合触媒成分を含む場合、成分(A)の粒子の形成を行う連続重合反応槽に、オレフィン重合触媒(予備重合触媒成分)を供給する方法としては、例えば、アルゴン等の不活性ガス、窒素、水素もしくはエチレンを用いて水分のない状態でオレフィン重合触媒を供給する方法、または、オレフィン重合触媒を溶媒に溶解または稀釈して、溶液またはスラリー状態で供給する方法が挙げられる。
【0038】
成分(A)の気相重合の重合温度は、好ましくは、成分(A)が溶融する温度未満であり、具体的には、好ましくは0~150℃であり、より好ましくは30~100℃であり、さらに好ましくは70~87℃である。また、成分(A)の気相重合において、成分(A)の溶融流動性を調節するために、水素を添加してもよい。水素は、エチレン100mol%に対して、好ましくは0.01~1.1mol%となるように制御する。気相重合中のエチレンに対する水素の比率は、重合中に発生する水素の量および重合中に添加する水素の量によって制御することができる。重合反応槽の混合ガス中に不活性ガスを共存させてもよい。オレフィン重合触媒が予備重合触媒成分を含む場合、オレフィン重合触媒は、有機アルミニウム化合物等の助触媒成分を含んでもよい。
【0039】
<成分(B)>
成分(B)は、滑剤、耐ブロッキング剤および顔料から選ばれる少なくとも1種を含む添加剤であり、好ましくは、顔料を含む添加剤である。
【0040】
成分(B)の含有量は、フィルムの取り扱いやすさと内容物を保護するという観点から、前記成分(A)100質量部に対して、0.05質量部以上10質量部以下であり、好ましくは、0.1質量部以上9質量部以下であり、より好ましくは、1質量部以上8質量部以下である。
【0041】
本実施形態に係るポリエチレン系樹脂組成物において、成分(B)は、該ポリエチレン系樹脂組成物からなるフィルムの紫外線透過率を低くするという観点から、好ましくは顔料を含む添加剤であり、より好ましくは、顔料および滑剤、または、顔料および耐ブロッキング剤を含む添加剤であり、さらに好ましくは、顔料、滑剤および耐ブロッキング剤を含む添加剤である。
【0042】
本実施形態に係るポリエチレン系樹脂組成物において、顔料の含有量は、該ポリエチレン系樹脂組成物からなるフィルムの紫外線透過率を低くするという観点から、前記成分(A)100質量部に対して、好ましくは、0.1質量部以上9質量部以下であり、より好ましくは、1質量部以上8質量部以下である。
【0043】
<滑剤>
滑剤としては、エルカ酸アミド、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0044】
<耐ブロッキング剤>
耐ブロッキング剤としては、シリカ、珪藻土、炭酸カルシウム、タルク、メタクリル酸メチル重合体、アルミノシリケート等が挙げられる。
【0045】
<顔料>
顔料としては、無機顔料、有機顔料が挙げられる。無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、炭酸鉛、硫酸バリウム、酸化セリウム、カオリンクレー、亜鉛華、ベンガラ、モリブデンオレンジ、コバルトブルー、群青、マンガンバイオレット等が挙げられる。
【0046】
顔料は、好ましくは、酸化チタンに代表される白色顔料である。白色顔料を用いると、サニタリー包装フィルムを透過した光線を反射させる機能がフィルムに付加され、内容物であるサニタリー用品の劣化を抑制することができる。
【0047】
有機顔料としては、例えば、マダーレーキ、ピンクマダー、龍の血、コチニール、セピア、パーマネントレッド、ファーストイエロー、ナフトールレッド、フタロシアニンブルー等が挙げられる。
【0048】
これらの顔料は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
顔料の平均粒径は、好ましくは0.1μm以上30μm以下である。平均粒径が0.1μm以上であると、顔料がフィルム中に均一に分散しやすくなる。平均粒径が30μm以下であると、フィルム加工中に、いわゆるメヤニ等の加工機の汚れが発生しにくくなる。
【0050】
予めポリエチレン系樹脂(C)に該着色顔料を高濃度で混合して形成したマスターバッチ(D)を成分(A)と混合すると、着色顔料の分散性が良い。
【0051】
ポリエチレン系樹脂(C)としては、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等が挙げられ、好ましくは、ポリエチレン系樹脂(C)に、成分(A)と同じポリエチレン系樹脂を用いる。
【0052】
本実施形態に係るポリエチレン系樹脂組成物は、添加剤として、滑剤、耐ブロッキング剤および顔料以外を含んでいてもよい。具体的には、添加剤として、酸化防止剤、中和剤、耐候剤、帯電防止剤、防曇剤、無滴剤、フィラー等を含んでいてもよい。
【0053】
<ポリエチレン系樹脂組成物の製造方法>
本実施形態に係るポリエチレン系樹脂組成物の製造方法としては、特に限定されず、例えば、成分(A)と成分(B)とを溶融混練する方法が挙げられる。成分(A)と成分(B)を溶融混練する温度は、好ましくは、成分(A)の融点より、20℃以上高い温度である。ポリエチレン系樹脂組成物の形状としては、特に限定されず、例えば、ペレット状、シート状等が挙げられる。ポリエチレン系樹脂組成物を製造する装置(成分(A)と成分(B)とを溶融混練する装置)としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、熱ロール等の各種ミキサー等が挙げられる。
【0054】
本実施形態によれば、フィルム表面のグロスが比較的小さく、かつ、フィルムの引裂強度が比較的低いポリエチレン系フィルム、および、該ポリエチレン系フィルムにおける少なくとも一つの表面を構成するポリエチレン系樹脂組成物を提供することができる。さらに、好ましい態様として、紫外線透過率が比較的低いポリエチレン系フィルムポリエチレン系フィルム、および、該ポリエチレン系フィルムにおける少なくとも一つの表面を構成するポリエチレン系樹脂組成物を提供することができる。
【0055】
本実施形態に係るポリエチレン系フィルムは、種々の包装材として使用することができる。例えば、食品、飲料、調味料、乳等、乳製品、医薬品、半導体製品等電子部品、ペットフード、ペットケア用品、洗剤、衛生製品等を包装する包装材(例えば、包装パウチ等)として用いることができる。前記ポリエチレン系フィルムは、好ましくは、衛生製品(乳幼児用おむつ、介護用の大人用おむつ、トイレタリー用品、ティッシュペーパー、生理用品等)を包装する包装材として用いることができる。
【実施例0056】
以下、本発明を実施例および比較例に基づき詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
[助触媒成分(I)]
(1)元素分析
Zn:試料を硫酸水溶液(1M)に投じたのち超音波をあてて金属成分を抽出した。得られた液体部分についてICP発光分析法により定量した。
F:酸素を充填させたフラスコ中で試料を燃焼させて生じた燃焼ガスを水酸化ナトリウム水溶液(10%)に吸収させ、得られた当該水溶液についてイオン電極法を用いて定量した。
【0058】
[エチレン系樹脂組成物の物性]
(2)メルトフローレート(MFR、単位:g/10分)
JIS K7210-1995に規定された方法に従い、荷重2.16kg、温度190℃の条件で、A法により測定した。
【0059】
(3)密度(単位:kg/m
JIS K7112-1980のうち、A法に規定された方法に従って測定した。なお、試料には、JIS K6760-1995に記載のアニーリングを行った。
【0060】
(4)極限粘度([η]、単位:dl/g)
テトラリン溶媒に重合体を溶解し、ウベローデ型粘度計を用いて135℃にて測定した。
【0061】
(5)Mw/Mn
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によって得られたポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とを算出し、MwをMnで除した値を分子量分布(Mw/Mn)とした。
装置 :Waters製Waters150C
分離カラム :TOSOH TSKgelGMH-HT
測定温度 :140℃
キャリア :オルトジクロロベンゼン
流量 :1.0mL/分
注入量 :500μL分子量分布(Mw/Mn)
検出器 :示差屈折
分子量標準物質 :標準ポリスチレン
【0062】
[フィルムの物性評価方法]
(6)フィルム表面の展開面積比(Sdr、単位:%)
フィルム表面を白色干渉顕微鏡VS-1800(日立ハイテク社製)を用い、対物レンズ:50倍、カメラ速度:標準、モード:Hislop SP、デバイス:ピエゾ、視野サイズ:1024×1024の観察条件で測定を行った。縦5枚×横5枚の25枚の画像を取得し、日立ハイテク社製「VS-viewer」を用いて、オーバーラップ10%、1024×1024の1枚の画像に合成した。得られた合成画像(約500μm×約500μm)に対して、面補正を近似面形状1次で行った。補間は完全補間を用いた。面補正、補間された画像に対して、ISO 25178-2に規定されたS-Filterの値を用いて処理した。具体的には、Lateral Period Limit(光学分解能の1/2、0.17μm)をカットオフ値としてフィルター処理を行い、短波長成分のノイズを除去した。この処理はVS-viewerで自動に設定することで、自動的に処理される。正規確率紙の設定を分割数:300、計算範囲の上限:3、計算範囲の下限:-3にすることで、ISO25178-2に規定されたSdrを求めた。Sdrが大きいほど表面が荒れていることを示す。
【0063】
(7)グロス(光沢、単位:%)
JIS K7105に規定された方法に従い、入光角度45°の条件で測定した。グロスが小さいほど光沢性が低いこと、即ち低光沢(つや消し)性が良好であることを示す。
【0064】
(8)TD方向の引裂強度(単位:kN/m)
JIS K7128-2(エルメンドルフ引裂き法)に基づき、フィルムのTD方向の引裂強度を下記条件で測定した。
【0065】
まず、作製したフィルムから、長さ75mm方向がMD方向に、20mmのスリットを入れる方向がTD方向になるよう、引裂半径が43mmである試験片を切り出した。MD方向はフィルム製膜時のフィルムの流れ方向で、TD方向はMD方向と垂直となるフィルム幅方向である。得られた試験片を23℃の恒温室内で状態調整した。次いで、デジタルエルメンドルフ引裂試験機(東洋精機株式会社製)のつかみ具に試験片を取り付け、引裂強度を測定した。引裂きにより得られた数値(kN)を試験片の厚み(m)で除したものを、引裂強度(kN/m)として使用した。引裂強度が小さいほどフィルムが引裂きやすく、開封しやすいことを示す。
【0066】
(9)紫外線透過率(単位:%)
作製したフィルムを紫外可視近赤外分光光度計(島津製作所製UV3600)にて紫外線透過率を測定し、測定結果から波長200nm以上380nm以下の平均透過率を算出した。
【0067】
[成分(A)の製造]
成分(A)は、下記製造例に従って製造した。
【0068】
<製造例1>
・成分(H)の製造
特開2009-79180号公報に記載された実施例1(1)および(2)の成分(A)の調製と同様の方法で、成分(H)を製造した。元素分析の結果、Zn=11質量%、F=6.4質量%であった。
【0069】
・予備重合触媒成分の製造
予め窒素置換した撹拌機付きオートクレーブに、ブタン34.6vol%を添加した後、ラセミ-エチレンビス(1-インデニル)ジルコニウムジフェノキシド0.5mmol/Lを添加し、オートクレーブを50℃まで昇温して撹拌を2時間行った。次に、製造した成分(H)5.03g/Lをオートクレーブに添加した。その後、オートクレーブを30℃まで降温し、系内が安定した後、オートクレーブにエチレン0.42g/L、水素(常温常圧)0.042vol%を添加し、続いてトリイソブチルアルミニウムをn-ヘキサンで20wt%に希釈したヘキサン溶液0.29vol%を添加して予備重合を開始した。エチレンと水素(常温常圧)をそれぞれ1時間当たり5g/Lと0.5vol%で、30分間オートクレーブに供給し、その後、50℃へ昇温するとともに、エチレンと水素(常温常圧)をそれぞれ1時間当たり13.25g/Lと4.5vol%でオートクレーブに供給した。合計15.4時間の予備重合を実施した。予備重合終了後、エチレン、ブタンおよび水素等をパージし、残った固体を室温にて真空乾燥し、成分(H)1g当り41.1gのポリエチレンを含有する予備重合触媒成分を得た。該ポリエチレンの[η]は1.21dl/gであった。その後、得られた予備重合触媒成分を、窒素雰囲気下で、目開き162μmの網を備えた東洋ハイテック株式会社製ハイボルダー内に投入し、微粉の除去を実施することによって、微小な予備重合触媒成分を除去した予備重合触媒成分を得た。
【0070】
・重合体の製造
得られた予備重合触媒成分の存在下、連続式流動床気相重合装置でエチレンと1-ブテンと1-ヘキセンとの共重合を実施し、エチレン-1-ブテン-1-ヘキセン共重合体(以下、A-1と称する)のパウダーを得た。重合条件としては、重合温度を89℃;重合圧力を2MPa;エチレン100mol%に対する、水素量の平均比を0.35%;エチレンと1-ブテンと1-ヘキセンとの合計に対する1-ブテンのモル比を1.45%、1-ヘキセンのモル比を0.53%とした。重合中はガス組成を一定に維持するためにエチレン、1-ブテン、1-ヘキセンおよび水素を連続的に供給した。また、上記予備重合触媒成分とトリイソブチルアルミニウム(A-1のパウダー重量に対するトリイソブチルアルミニウムのモル比0.44mol/t)、トリエチルアミン(トリイソブチルアルミニウムに対するモル比10.7%)および、酸素(トリイソブチルアルミニウムに対するモル比24%)を連続的に供給した。予備重合触媒成分、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアミン、酸素の接触の順序は、最初にトリイソブチルアルミニウムと酸素とを接触させて接触処理物を得て、次いで、その接触処理物とトリエチルアミンとを接触させて配位化合物を得て、この配位化合物を気相重合槽に投入し、最後に予備重合触媒成分と接触させるという順序であった。平均重合時間7.4hrであった。A-1のパウダーを、連続式流動床気相重合装置とホッパーとを連結する移送配管を介して、ホッパーに移送した。
【0071】
当該ホッパーに、窒素と水を混合して65℃に加熱した混合ガスを投入することで、A-1のパウダーに水を接触させた。ホッパー内での水との接触時間は1.3時間であった。水接触後のA-1のパウダーを別のホッパーに移送配管を通して移送し、該ホッパーに窒素を流通することでA-1のパウダーの乾燥を行った。乾燥したA-1のパウダーを、押出機(株式会社神戸製鋼所社製 LCM50)を用いて、フィード速度50kg/hr、スクリュー回転数450rpm、ゲート開度50%、サクション圧力0.1MPa、樹脂温度200~230℃の条件で造粒し、A-1のペレットを得た。得られたA-1のペレットの物性を評価し、結果を表1に示した。
【0072】
<製造例2>
・重合体の製造
製造例1の予備重合触媒成分の存在下、連続式流動床気相重合装置でエチレンと1-ブテンと1-ヘキセンとの共重合を実施し、エチレン-1-ブテン-1-ヘキセン共重合体(以下、A-2と称する)のパウダーを得た。重合条件としては、重合温度を89℃;重合圧力を2MPa;エチレン100mol%に対する、水素量の平均比を0.35%;エチレンと1-ブテンと1-ヘキセンとの合計に対する1-ブテンのモル比を1.34%、1-ヘキセンのモル比を0.52%とした。重合中はガス組成を一定に維持するためにエチレン、1-ブテン、1-ヘキセンおよび水素を連続的に供給した。また、上記予備重合触媒成分とトリイソブチルアルミニウム(A-2のパウダー重量に対するトリイソブチルアルミニウムのモル比0.40mol/t)、トリエチルアミン(トリイソブチルアルミニウムに対するモル比9.7%)および、酸素(トリイソブチルアルミニウムに対するモル比24%)を連続的に供給した。予備重合触媒成分、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアミン、酸素の接触の順序は、製造例1と同様であった。平均重合時間7.1hrであった。
A-2のパウダーを、連続式流動床気相重合装置とホッパーとを連結する移送配管を介して、ホッパーに移送した。当該ホッパーに、100℃以上に加熱した水を投入することで、A-2のパウダーに水を接触させた。ホッパー内での水との接触時間は1.3時間であった。水接触後のA-2のパウダーを別のホッパーに移送配管を通して移送し、該ホッパーに窒素を流通することでA-2のパウダーの乾燥を行った。乾燥したA-2のパウダーを、押出機(株式会社神戸製鋼所社製 LCM50)を用いて、フィード速度50kg/hr、スクリュー回転数450rpm、ゲート開度50%、サクション圧力0.1MPa、樹脂温度200~230℃の条件で造粒し、A-2のペレットを得た。得られたA-2のペレットの物性を評価し、結果を表1に示した。
【0073】
[フィルム表層組成物]
実施例に記載したエチレン-α-オレフィン共重合体(LL)、および、滑剤・アンチブロッキング剤マスターバッチ、白色顔料マスターバッチは、下記のものを使用した。
エチレン-α―オレフィン共重合体1(LL-1):メタロセン触媒直鎖状低密度ポリエチレン スミカセンE FV205(住友化学株式会社製、エチレン-1-ヘキセン共重合体(滑剤、アンチブロッキング剤無添加)、MFR 2.0g/10分、密度 922kg/m、Mw/Mn=2.9)
エチレン-α―オレフィン共重合体2(LL-2):メタロセン触媒直鎖状低密度ポリエチレン スミカセンE FV203N(住友化学株式会社製、エチレン-1-ヘキセン共重合体(添加剤無添加)、MFR 2.0g/10分、密度 913kg/m、Mw/Mn=3.0)
滑剤・アンチブロッキング剤マスターバッチ(MB-1):スミカセンMB A-26(住友化学株式会社製、滑剤2質量%、耐ブロッキング材4質量%)
白色顔料マスターバッチ(MB-2):ホワイトSPEM-7A1155(住化カラー社製、酸化チタン60質量%)
【0074】
<実施例11>
A-1、滑剤・アンチブロッキング剤マスターバッチ(MB-1)、白色顔料マスターバッチ(MB-2)を表2に示す配合組成にてタンブルミキサーで混合し、フィルム表層組成物を得た。得られた組成物中、成分(A)100質量部に対して、成分(B)は3.84質量部、顔料は3.60質量部であった。
【0075】
<実施例12>
A-2とLL-2を90:10配合組成にて押出機(株式会社神戸製鋼所社製 LCM50)を用いて、フィード速度50kg/hr、スクリュー回転数450rpm、ゲート開度50%、サクション圧力0.1MPa、樹脂温度200~230℃の条件で造粒し、成分(A)を含有するペレットを得た。得られたペレット、滑剤・アンチブロッキング剤マスターバッチ(MB-1)、白色顔料マスターバッチ(MB-2)を表2に示す配合組成にてタンブルミキサーで混合し、フィルム表層組成物を得た。得られた組成物中、成分(A)100質量部に対して、成分(B)は4.27質量部、顔料は4.00質量部であった。
【0076】
<実施例13>
A-1、エチレン-α―オレフィン共重合体1(LL-1)、滑剤・アンチブロッキング剤マスターバッチ(MB-1)、白色顔料マスターバッチ(MB-2)を表2に示す配合組成にてタンブルミキサーで混合し、フィルム表層組成物を得た。得られた組成物中、成分(A)100質量部に対して、成分(B)は5.49質量部、顔料は5.14質量部であった。
【0077】
<実施例14>
A-1、エチレン-α―オレフィン共重合体1(LL-1)、滑剤・アンチブロッキング剤マスターバッチ(MB-1)を表2に示す配合組成にてタンブルミキサーで混合し、フィルム表層組成物を得た。得られた組成物中、成分(A)100質量部に対して、成分(B)は0.34質量部であった。
【0078】
<実施例15>
A-2とLL-2を90:10配合組成にて押出機(株式会社神戸製鋼所社製 LCM50)を用いて、フィード速度50kg/hr、スクリュー回転数450rpm、ゲート開度50%、サクション圧力0.1MPa、樹脂温度200~230℃の条件で造粒し、成分(A)を含有するペレットを得た。得られたペレット、滑剤・アンチブロッキング剤マスターバッチ(MB-1)を表2に示す配合組成にてタンブルミキサーで混合し、フィルム表層組成物を得た。得られた組成物中、成分(A)100質量部に対して、成分(B)は0.27質量部であった。
【0079】
<実施例16>
A-2とLL-2を90:10配合組成にて押出機(株式会社神戸製鋼所社製 LCM50)を用いて、フィード速度50kg/hr、スクリュー回転数450rpm、ゲート開度50%、サクション圧力0.1MPa、樹脂温度200~230℃の条件で造粒し、成分(A)を含有するペレットを得た。得られたペレット、滑剤・アンチブロッキング剤マスターバッチ(MB-1)、白色顔料マスターバッチ(MB-2)を表2に示す配合組成にてタンブルミキサーで混合し、フィルム表層組成物を得た。得られた組成物中、成分(A)100質量部に対して、成分(B)は0.33質量部、顔料は0.07質量部であった。
【0080】
<実施例17>
白色顔料マスターバッチ(MB-2)を表2に示す配合組成としたこと以外は、実施例11と同様にしてフィルム表層組成物を得た。得られた組成物中、成分(A)100質量部に対して、成分(B)は0.54質量部、顔料は0.30質量部であった。
【0081】
<実施例18>
白色顔料マスターバッチ(MB-2)を表2に示す配合組成としたこと以外は、実施例11と同様にしてフィルム表層組成物を得た。得られた組成物中、成分(A)100質量部に対して、成分(B)は0.84質量部、顔料は0.60質量部であった。
【0082】
<実施例19>
白色顔料マスターバッチ(MB-2)を表2に示す配合組成としたこと以外は、実施例11と同様にしてフィルム表層組成物を得た。得られた組成物中、成分(A)100質量部に対して、成分(B)は5.04質量部、顔料は4.80質量部であった。
【0083】
<実施例20>
白色顔料マスターバッチ(MB-2)を表2に示す配合組成としたこと以外は、実施例11と同様にしてフィルム表層組成物を得た。得られた組成物中、成分(A)100質量部に対して、成分(B)は7.44質量部、顔料は7.20質量部であった。
【0084】
[共押出インフレーションフィルム成形]
<実施例21>
共押出インフレーション成形法により、外層、中間層、内層がこの順に積層されるように、インフレーションフィルムを製造した。外層用樹脂組成物として、実施例11を用いた。中間層用樹脂組成物、および、内層用樹脂組成物として、LL-1 70質量部、エチレン重合体 スミカセン F102-0(住友化学株式会社製、高圧法低密度ポリエチレン、MFR 0.35g/10分、密度 922kg/m)30質量部、MB-1 4質量部、MB-2 6質量部からなる樹脂組成物を用いた。共押出インフレーション成形は、プラコー社製三層インフレフィルム加工機を使用し、ダイス温度190℃、トータル押出量30kg/時間、ブロー比2.0、引取速度9.5m/分で加工することにより、厚み構成比が外層/中間層/内層の順に20μm/20μm/20μm、全厚み60μmの共押出インフレーションフィルムを製造した。得られたインフレーションフィルムの諸特性値を表3に示す。
【0085】
<実施例22>
外層用樹脂組成物として、実施例12を用いた以外は、実施例21と同様にしてインフレーションフィルムを得た。得られたインフレーションフィルムの物性を表3に示す。
【0086】
<実施例23>
外層用樹脂組成物として、実施例13を用いた以外は、実施例21と同様にしてインフレーションフィルムを得た。得られたインフレーションフィルムの物性を表3に示す。
【0087】
<実施例24>
外層用樹脂組成物として、実施例14を用いた以外は、実施例21と同様にしてインフレーションフィルムを得た。得られたインフレーションフィルムの物性を表3に示す。
【0088】
<実施例25>
外層用樹脂組成物として、実施例15を用いた以外は、実施例21と同様にしてインフレーションフィルムを得た。得られたインフレーションフィルムの物性を表3に示す。
【0089】
<実施例26>
外層用樹脂組成物として、実施例16を用いた以外は、実施例21と同様にしてインフレーションフィルムを得た。得られたインフレーションフィルムの物性を表3に示す。
【0090】
<実施例27>
外層用樹脂組成物として、実施例17を用いた以外は、実施例21と同様にしてインフレーションフィルムを得た。得られたインフレーションフィルムの物性を表3に示す。
【0091】
<実施例28>
外層用樹脂組成物として、実施例18を用いた以外は、実施例21と同様にしてインフレーションフィルムを得た。得られたインフレーションフィルムの物性を表3に示す。
【0092】
<実施例29>
外層用樹脂組成物として、実施例19を用いた以外は、実施例21と同様にしてインフレーションフィルムを得た。得られたインフレーションフィルムの物性を表3に示す。
【0093】
<実施例30>
外層用樹脂組成物として、実施例20を用いた以外は、実施例21と同様にしてインフレーションフィルムを得た。得られたインフレーションフィルムの物性を表3に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
【表3】
【0097】
表1~3から分かるように、実施例11~20のポリエチレン系樹脂組成物をそれぞれ外層用樹脂組成物として用いた実施例21~30のフィルムは、フィルム表面のグロスが比較的小さく、かつ、フィルムの引裂強度が比較的低い。また、成分(B)として、成分(A)100質量部に対して0.1質量部以上9質量部以下の顔料を含有する実施例11~13,17~20のポリエチレン系樹脂組成物をそれぞれ外層用樹脂組成物として用いた実施例21~23,27~30のフィルムは、紫外線透過率が比較的低い。