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特開2024-120848ダイズ植物、その種子及びその作出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120848
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】ダイズ植物、その種子及びその作出方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/29 20060101AFI20240829BHJP
   C07K 14/415 20060101ALI20240829BHJP
   A01H 6/54 20180101ALI20240829BHJP
   A01H 5/10 20180101ALI20240829BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20240829BHJP
【FI】
C12N15/29 ZNA
C07K14/415
A01H6/54
A01H5/10
A01H5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024003871
(22)【出願日】2024-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2023027158
(32)【優先日】2023-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼ウェブサイトの掲載日 令和5年3月31日 ▲2▼ウェブサイトのアドレス(URL) https://www.jstage.jst.go.jp/article/naroj/2023/13/2023_81/_article/-char/ja
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211199
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 さやか
(72)【発明者】
【氏名】高橋 有
(72)【発明者】
【氏名】竹島 亮馬
(72)【発明者】
【氏名】加賀 秋人
【テーマコード(参考)】
2B030
4H045
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB03
2B030CA14
4H045AA10
4H045CA33
4H045EA05
4H045FA74
(57)【要約】      (修正有)
【課題】難裂莢性を示す新規のダイズ植物及びその作出方法を提供すること。
【解決手段】特定の塩基配列からなる遺伝子又はその類似遺伝子、別の特定の塩基配列からなる遺伝子又はその類似遺伝子、さらに別の特定の塩基配列からなる遺伝子又はその類似遺伝子、さらに別の特定の塩基配列からなる遺伝子又はその類似遺伝子から選択される少なくとも2つの遺伝子の機能が欠損又は抑制されているダイズ植物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)、(2)、(3)及び(4)から選択される少なくとも2つの遺伝子の機能が欠損又は抑制されている、ダイズ植物。
(1)(i)配列番号1で表される塩基配列からなる遺伝子、
(ii)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iii)配列番号1で表される塩基配列において、1~30個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iv)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(v)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、又は
(vi)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子
(2)(i)配列番号3で表される塩基配列からなる遺伝子、
(ii)配列番号3で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iii)配列番号3で表される塩基配列において、1~30個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iv)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(v)配列番号4で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、又は
(vi)配列番号4で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子
(3)(i)配列番号5で表される塩基配列からなる遺伝子、
(ii)配列番号5で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iii)配列番号5で表される塩基配列において、1~30個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iv)配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(v)配列番号6で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、又は
(vi)配列番号6で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子
(4)(i)配列番号7で表される塩基配列からなる遺伝子、
(ii)配列番号7で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iii)配列番号7で表される塩基配列において、1~30個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iv)配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(v)配列番号8で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、又は
(vi)配列番号8で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子
【請求項2】
少なくとも前記(1)及び(2)の遺伝子の機能が欠損又は抑制されているか、又は少なくとも前記(3)及び(4)の遺伝子の機能が欠損又は抑制されている、請求項1に記載のダイズ植物。
【請求項3】
前記(1)、(2)、(3)及び(4)の機能が欠損又は抑制されている、請求項1に記載のダイズ植物。
【請求項4】
前記遺伝子の機能の欠損又は抑制が、転写領域の配列の変異によるものであり、前記変異が、1若しくは複数の塩基の欠失、1若しくは複数の塩基の挿入、及び1若しくは複数の塩基の置換、並びにこれらの組み合わせから選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載のダイズ植物。
【請求項5】
前記遺伝子の機能の欠損又は抑制が、転写領域の配列の変異により、ストップコドンが発生することによるものである、請求項4に記載のダイズ植物。
【請求項6】
ストップコドンが発生する変異が、以下の(5)、(6)、(7)、(8)及びこれらの組み合わせから選択されるものである、請求項5に記載のダイズ植物。
(5)配列番号9における第149位に対応する塩基のアラニンへの置換
(6)配列番号10における第639位に対応する塩基のアラニンへの置換
(7)配列番号11における第315位に対応する塩基のアラニンへの置換
(8)配列番号12における第273位に対応する塩基のアラニンへの置換
【請求項7】
ストップコドンが、以下の(9)、(10)、(11)、(12)及びこれらの組み合わせから選択されるアミノ酸配列において発生するものである、請求項5に記載のダイズ植物。
(9)配列番号2における第37位に対応するトリプトファン、
(10)配列番号4における第108位に対応するトリプトファン
(11)配列番号6における第37位に対応するトリプトファン
(12)配列番号8における第37位に対応するトリプトファン
【請求項8】
請求項1~3のいずれか一項に記載のダイズ植物から得られた種子。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか一項に記載のダイズ植物を作出する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイズ植物、その種子及びその作出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
国内の大豆生産においては、コンバイン収穫時に莢がはじけて子実がこぼれ落ちることによる収穫量の低下が、大きな問題となっている。この子実が成熟した際に莢がはじける裂莢性は、もともと野生種の生息域拡大に寄与する適応形質である。多くのマメ科植物の莢は、セルロースを主成分とする外層と、リグニンを主成分とする内層の繊維が、互いに45度ずれており、乾燥につれて垂直方向に収縮することで、ねじれ張力を生じ、莢の縫合部の離層が断裂して、勢いよくはじける。この裂莢による収穫ロスを防ぐため、「フクユタカA1号」や「サチユタカA1号」などの難裂莢性品種群が育成され、普及が進められているが、これら品種の裂莢による収穫ロスは、収穫時期や収穫方法に応じて2割以上に達することもある。裂莢は乾燥によって加速するため、乾燥化が進む将来、より優れた難裂莢性品種が求められると考えられる。
【0003】
ダイズでは、難裂莢性に関与する2つの遺伝子、Pdh1及びShat1-5が知られている(非特許文献1及び2)。Pdh1の変異は、顕微的変異を伴わないが、莢片のねじれ張力を減少させる。一方、Shat1-5の変異は、莢片縫合部の離層を強化することで、莢片のねじれ張力への抵抗性を与える。しかし、これらPdh1及びShat1-5の変異を2つ積み上げても、ダイズの難裂莢性は不十分であり、さらなる難裂莢性品種の開発が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Funatsuki et al.,“Molecular basis of a shattering resistance boosting global dissemination of soybean”,PNAS,11(50)17797-17802(2014)
【非特許文献2】Dong et al.,“Pod shattering resistance associated with domestication is mediated by a NAC gene in soybean”,Nature communications 5,3352(2014)
【非特許文献3】Tsuda et al.,“Construction of a high-density mutant library in soybean and development of a mutant retrieval method using amplicon sequencing”,BMC Genomics.16:1014 Nov 26(2015)
【非特許文献4】Pomar et al.,“O-4-Linked coniferyl and sinapyl aldehydes in lignifying cell walls are the main targets of the Wiesner(phloroglucinol-HCl)reaction”,Protoplasma 220,0017-0028(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、難裂莢性を示す新規のダイズ植物及びその作出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ダイズにおけるシロイヌナズナの転写因子MYB26の相同遺伝子である4つのGmMYB26(Glyma07g01050、Glyma08g20440、Glyma13g42431、及びGlyma15g02955)のそれぞれに変異が入った2重変異体、3重変異体、及び4重変異体のダイズ植物が難裂莢性を示すことを見出し、本発明を完成した。なお、本明細書におけるダイズの遺伝子名は、ダイズ品種「Williams82」のゲノムおよびアノテーションのバージョン「Wm82.a1.v1.1」に基づいている。
【0007】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]
以下の(1)、(2)、(3)及び(4)から選択される少なくとも2つの遺伝子の機能が欠損又は抑制されている、ダイズ植物。
(1)(i)配列番号1で表される塩基配列からなる遺伝子、
(ii)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iii)配列番号1で表される塩基配列において、1~30個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iv)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(v)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、又は
(vi)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子
(2)(i)配列番号3で表される塩基配列からなる遺伝子、
(ii)配列番号3で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iii)配列番号3で表される塩基配列において、1~30個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iv)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(v)配列番号4で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、又は
(vi)配列番号4で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子
(3)(i)配列番号5で表される塩基配列からなる遺伝子、
(ii)配列番号5で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iii)配列番号5で表される塩基配列において、1~30個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iv)配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(v)配列番号6で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、又は
(vi)配列番号6で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子
(4)(i)配列番号7で表される塩基配列からなる遺伝子、
(ii)配列番号7で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iii)配列番号7で表される塩基配列において、1~30個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iv)配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(v)配列番号8で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、又は
(vi)配列番号8で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子
[2]
少なくとも上記(1)及び(2)の遺伝子の機能が欠損又は抑制されているか、又は少なくとも上記(3)及び(4)の遺伝子の機能が欠損又は抑制されている、[1]に記載のダイズ植物。
[3]
上記(1)、(2)、(3)及び(4)の機能が欠損又は抑制されている、[1]又は[2]に記載のダイズ植物。
[4]
上記遺伝子の機能の欠損又は抑制が、転写領域の配列の変異によるものであり、上記変異が、1若しくは複数の塩基の欠失、1若しくは複数の塩基の挿入、及び1若しくは複数の塩基の置換、並びにこれらの組み合わせから選択される、[1]~[3]のいずれかに記載のダイズ植物。
[5]
上記遺伝子の機能の欠損又は抑制が、転写領域の配列の変異により、ストップコドンが発生することによるものである、[4]に記載のダイズ植物。
[6]
ストップコドンが発生する変異が、以下の(5)、(6)、(7)、(8)及びこれらの組み合わせから選択されるものである、[5]に記載のダイズ植物。
(5)配列番号9における第149位に対応する塩基のアラニンへの置換
(6)配列番号10における第639位に対応する塩基のアラニンへの置換
(7)配列番号11における第315位に対応する塩基のアラニンへの置換
(8)配列番号12における第273位に対応する塩基のアラニンへの置換
[7]
ストップコドンが、以下の(9)、(10)、(11)、(12)及びこれらの組み合わせから選択されるアミノ酸配列において発生するものである、[5]に記載のダイズ植物。
(9)配列番号2における第37位に対応するトリプトファン、
(10)配列番号4における第108位に対応するトリプトファン
(11)配列番号6における第37位に対応するトリプトファン
(12)配列番号8における第37位に対応するトリプトファン
[8]
[1]~[7]のいずれかに記載のダイズ植物から得られた種子。
[9]
[1]~[7]のいずれかに記載のダイズ植物を作出する方法。
【0008】
本発明はまた、以下にも関する。
[P1]
以下の(1)、(2)、(3)及び(4)の機能が欠損又は抑制されている、ダイズ植物。
(1)(i)配列番号1で表される塩基配列からなる遺伝子、
(ii)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iii)配列番号1で表される塩基配列において、1~30個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iv)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(v)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、又は
(vi)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子
(2)(i)配列番号3で表される塩基配列からなる遺伝子、
(ii)配列番号3で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iii)配列番号3で表される塩基配列において、1~30個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iv)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(v)配列番号4で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、又は
(vi)配列番号4で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子
(3)(i)配列番号5で表される塩基配列からなる遺伝子、
(ii)配列番号5で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iii)配列番号5で表される塩基配列において、1~30個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iv)配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(v)配列番号6で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、又は
(vi)配列番号6で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子
(4)(i)配列番号7で表される塩基配列からなる遺伝子、
(ii)配列番号7で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iii)配列番号7で表される塩基配列において、1~30個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iv)配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(v)配列番号8で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、又は
(vi)配列番号8で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子
[P2]
上記遺伝子の機能の欠損又は抑制が、転写領域の配列の変異によるものであり、上記変異が、1若しくは複数の塩基の欠失、1若しくは複数の塩基の挿入、及び1若しくは複数の塩基の置換、並びにこれらの組み合わせから選択される、[1]に記載のダイズ植物。
[P3]
上記遺伝子の機能の欠損又は抑制が、転写領域の配列の変異により、ストップコドンが発生することによるものである、[1]又は[2]に記載のダイズ植物。
[P4]
ストップコドンが発生する変異が、以下の(5)、(6)、(7)、(8)及びこれらの組み合わせから選択されるものである、[3]に記載のダイズ植物。
(5)配列番号9における第149位に対応する塩基のアラニンへの置換
(6)配列番号10における第639位に対応する塩基のアラニンへの置換
(7)配列番号11における第315位に対応する塩基のアラニンへの置換
(8)配列番号12における第273位に対応する塩基のアラニンへの置換
[P5]
ストップコドンが、以下の(9)、(10)、(11)、(12)及びこれらの組み合わせから選択されるアミノ酸配列において発生するものである、[3]又は[4]に記載のダイズ植物。
(9)配列番号2における第37位に対応するトリプトファン、
(10)配列番号4における第108位に対応するトリプトファン
(11)配列番号6における第37位に対応するトリプトファン
(12)配列番号8における第37位に対応するトリプトファン
[P6]
[1]~[5]のいずれかに記載のダイズ植物から得られた種子。
[P7]
[1]~[5]のいずれかに記載のダイズ植物を作出する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた難裂莢性を示すダイズ植物及びその作出方法を提供することができる。また、本発明によれば、裂莢性の程度の異なる難裂莢性ダイズ植物を用いることで、難裂莢性品種の開発において裂莢性を段階的に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例の[裂莢性の評価(1)]におけるGmMYB26の三重変異体と四重変異体の莢形質の違いを示す写真である。A~Dはそれぞれの莢の外観を確認した結果を示し、E及びFはフロログルシノール塩酸反応で莢のリグニンを染色した結果を示す。
図2】実施例の[裂莢性の評価(2)]における、相対湿度の低下に応じたGmMYB26変異体群の非裂莢率の日変化を示すグラフである。グラフの凡例中、7gはGlyma07g01050の変異、8gはGlyma08g20440の変異、13gはGlyma13g42431の変異、15gはGlyma15g02955の変異を有することを示す。例えば、7g/13g/15gは、Glyma07g01050、Glyma13g42431及びGlyma15g02955に変異を有する3重変異体であることを指す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[ダイズ植物]
本明細書において、ダイズ又はダイズ植物は、マメ科ダイズ属ダイズ(Glycine max(L.)Merr.)を意味する。これは、栽培ダイズ(Glycine max(L.)Merr.subsp.max)と野生ダイズ(Glycine max(L.)Merr.subsp.soja(Siebold&Zucc.)H.Ohashi=Glycine soja Siebold&Zucc.)を含む。
【0012】
本明細書において、「植物」は、特段の限定がない限り、植物全体、植物細胞、植物プロトプラスト、植物カルス、又は植物の部分、例えば、胚、花粉、胚珠、配偶子、種子、葉、花、枝、果実、茎、根、葯等を含む。
【0013】
裂莢性は、莢がはじけやすい性質を意味し、野生の植物が種子を散布して、生息域を拡大するための性質である。マメ科野生種の莢において、セルロースを主成分とする外層と、リグニンを主成分とする内層の繊維は、互いに45度ずれている。これらの繊維が乾燥につれて垂直方向に収縮することで、ねじれ張力が生じる。1対の莢片は互いに鏡像方向にねじれるため、莢片縫合部の離層にひずみが生じて断裂すると、抑制されていたねじれ張力が解放されて勢いよく裂莢する。
【0014】
裂莢性に対し、難裂莢性は、莢がはじけにくい性質を意味する。ダイズ植物が難裂莢性であるか否かの判断は、例えば、成熟後の自然裂莢、室内での加熱試験による裂莢、及び/又は刈り遅れを想定した自然裂莢による脱穀損失を基準として判断することができる。
【0015】
ダイズ植物が難裂莢性であるか否かは、裂莢しやすいと知られている品種(例えば、サチユタカ、フクユタカ、エンレイ、ことゆたか)又は既存の難裂莢性品種(例えば、ハヤヒカリ、サチユタカA1号、フクユタカA1号、えんれいのそら、ことゆたかA1号)と比較して当業者が適宜判断することができる。また、野生型対照と比較して裂莢性が低下しているダイズ植物を難裂莢性であると判断してもよい。
【0016】
ここで、野生型対照は、Glyma07g01050、Glyma08g20440、Glyma13g42431、及びGlyma15g02955のいずれの遺伝子の機能も欠損又は抑制されておらず、裂莢性を示すダイズ植物であってよい。野生型は、Glyma07g01050、Glyma08g20440、Glyma13g42431、及びGlyma15g02955の遺伝子の機能を欠損又は抑制させる前のダイズ植物、すなわち、Glyma07g01050、Glyma08g20440、Glyma13g42431、及びGlyma15g02955のいずれの遺伝子の機能も欠損又は抑制されていない以外は、これらの遺伝子の機能が欠損又は抑制されているダイズ植物と同一であるダイズ植物であってもよい。
【0017】
例えば、複数の植物体における成熟後(例えば、全ての莢が褐変した時)の自然裂莢の割合が、裂莢しやすいと知られている品種又は野生型対照と比較して有意に低い場合に、そのダイズ植物を難裂莢性であると判断してもよい。また、例えば、植物体上で褐変した直後の10以上の非裂莢を収穫し、40℃の循環式乾燥機で3日間静置した際に、裂莢しやすいと知られている品種又は野生型対照と比較して裂莢の割合(裂莢率ともいう)が有意に低い場合に、そのダイズ植物は難裂莢性であると判断してもよい。また、例えば、植物体上で褐変した直後の10以上の非裂莢を収穫し、25℃相対湿度約40%の循環型恒温機に15日間静置した際に、裂莢しやすいと知られている品種又は野生型対照と比較して裂莢の割合が有意に低い場合に、そのダイズ植物は難裂莢性であると判断してもよい。また、例えば、刈り遅れ時期(例えば、全ての莢が褐変した後に2週間以上経過した時)の自然裂莢の割合が、裂莢しやすいと知られている品種又は野生型対照と比較して有意に低い場合(すなわち、脱穀損失も低い)に、そのダイズ植物を難裂莢性であると判断してもよい。裂莢しやすいと知られている品種又は野生型対照と比較して低い場合とは、例えば、1/2以下、1/3以下、1/4以下、1/5以下、1/6以下、1/7以下、又は1/10以下であってもよい。
【0018】
また、ダイズ植物が難裂莢性であるか否かは、所定の基準値に基づき判断してもよい。所定の基準値は、裂莢しやすいと知られている品種又は既存の難裂莢性品種に基づき設定されたものであってもよい。
【0019】
例えば、複数の植物体における成熟後(例えば、全ての莢が褐変した時)の自然裂莢の割合が20%、30%、40%、50%、60%、70%又は80%以下である場合に、そのダイズ植物を難裂莢性であると判断してもよい。また、例えば、植物体上で褐変した直後の10以上の非裂莢を収穫し、40℃の循環式乾燥機で3日間静置した際に、裂莢の割合が20%、30%、40%、50%、60%、70%又は80%以下である場合に、そのダイズ植物は難裂莢性であると判断してもよい。また、例えば、植物体上で褐変した直後の10以上の非裂莢を収穫し、25℃相対湿度約40%の循環型恒温機に15日間静置した際に裂莢の割合が20%、30%、40%、50%、60%、70%又は80%以下である場合に、そのダイズ植物は難裂莢性であると判断してもよい。また、例えば、全ての莢が褐変した後に2週間以上経過した時の複数の植物体における自然裂莢の割合が20%、30%、40%、50%、60%、70%又は80%以下である場合に、そのダイズ植物を難裂莢性であると判断してもよい。
【0020】
Glyma07g01050、Glyma08g20440、Glyma13g42431、Glyma15g02955は、ダイズにおけるシロイヌナズナの転写因子MYB26の相同遺伝子(GmMYB26)であり、これら4つの遺伝子のコードされる4つのタンパク質がそれぞれ転写因子として機能する。したがって、各遺伝子がコードするタンパク質それぞれが転写制御機能(転写因子が有する機能)を有する。タンパク質が転写制御機能を有しているか否かは、公知の転写因子アッセイキット等を用いた手法により調べることができる。
【0021】
なお、「Glyma」後「g」前の数値は染色体番号を意味する。したがって、Glyma07g01050は第7染色体、Glyma08g20440は第8染色体、Glyma13g42431は第13染色体、Glyma15g02955は第15染色体に存在する遺伝子である。
【0022】
Glyma07g01050、Glyma08g20440、Glyma13g42431、及びGlyma15g02955の4つすべての遺伝子の機能が欠損又は抑制されたダイズ植物は難裂莢性を示す。
【0023】
Glyma07g01050は、配列番号1で表される塩基配列からなる遺伝子であり、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする。なお、配列番号1で表される塩基配列はGlyma07g01050の転写領域の配列である。
【0024】
Glyma08g20440は、配列番号3で表される塩基配列からなる遺伝子であり、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする。なお、配列番号3で表される塩基配列はGlyma08g20440の転写領域の配列である。
【0025】
Glyma13g42431は、配列番号5で表される塩基配列からなる遺伝子であり、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする。なお、配列番号5で表される塩基配列はGlyma13g42431の転写領域の配列である。
【0026】
Glyma15g02955は、配列番号7で表される塩基配列からなる遺伝子であり、配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする。なお、配列番号7で表される塩基配列はGlyma15g02955の転写領域の配列である。
【0027】
本発明は、上記の特定の遺伝子だけでなく、
配列番号1、3、5若しくは7で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
配列番号1、3、5若しくは7で表される塩基配列において、1~30個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
配列番号2、4、6若しくは8で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、又は
配列番号2、4、6若しくは8で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子の機能が欠損又は抑制された場合でも同様の効果が期待される。
【0028】
したがって、本発明の一実施形態において、ダイズ植物は、以下の(1)、(2)、(3)及び(4)から選択される少なくとも2つの遺伝子の機能が欠損又は抑制されている。なお、(1)がGlyma07g01050、(2)がGlyma08g20440、(3)がGlyma13g42431、(4)がGlyma15g02955に対応する。
(1)(i)配列番号1で表される塩基配列からなる遺伝子、
(ii)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iii)配列番号1で表される塩基配列において、1~30個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iv)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(v)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、又は
(vi)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子
(2)(i)配列番号3で表される塩基配列からなる遺伝子、
(ii)配列番号3で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iii)配列番号3で表される塩基配列において、1~30個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iv)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(v)配列番号4で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、又は
(vi)配列番号4で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子
(3)(i)配列番号5で表される塩基配列からなる遺伝子、
(ii)配列番号5で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iii)配列番号5で表される塩基配列において、1~30個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iv)配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(v)配列番号6で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、又は
(vi)配列番号6で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子
(4)(i)配列番号7で表される塩基配列からなる遺伝子、
(ii)配列番号7で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iii)配列番号7で表される塩基配列において、1~30個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iv)配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(v)配列番号8で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、又は
(vi)配列番号8で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子
【0029】
ダイズ植物は、少なくとも上記(1)及び(2)の遺伝子の機能が欠損又は抑制されているか、又は少なくとも上記(3)及び(4)の遺伝子の機能が欠損又は抑制されているダイズ植物であってもよい。
【0030】
ダイズ植物は、上記(1)、(2)、(3)及び(4)から選択される少なくとも3つの遺伝子の機能が欠損又は抑制されているダイズ植物であってよく、上記(1)、(2)、(3)及び(4)のすべての遺伝子の機能が欠損又は抑制されているダイズ植物であってもよい。
【0031】
ダイズ植物は、上記(1)及び(2)、上記(1)及び(3)、上記(1)及び(4)、上記(2)及び(3)、上記(2)及び(4)、又は上記(3)及び(4)の遺伝子の機能が欠損又は抑制されている2重変異体であってもよく、上記(1)、(2)及び(3)、上記(1)、(2)及び(4)、上記(1)、(3)及び(4)、又は(2)、(3)及び(4)の遺伝子の機能が欠損又は抑制されている3重変異体であってもよく、上記(1)、(2)、(3)及び(4)のすべての遺伝子の機能が欠損又は抑制されている4重変異体であってもよい。
【0032】
なお、本明細書において「2重変異体」、「3重変異体」及び「4重変異体」は、上記(1)、(2)、(3)及び(4)の遺伝子のうち、いくつの遺伝子の機能が欠損又は抑制されているかを示す。すなわち、(1)、(2)、(3)及び(4)の遺伝子のうち、2つの遺伝子の機能が欠損又は抑制されているものを2重変異体、3つの遺伝子の機能が欠損又は抑制されているものを3重変異体、4つの遺伝子の機能が欠損又は抑制されているものを4重変異体と表す。
【0033】
本明細書において、「配列同一性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのDNA塩基配列又はアミノ酸配列をアラインさせた場合の最適なアラインメントにおける、オーバーラップする全DNA塩基配列又は全アミノ酸配列に対する同一塩基又はアミノ酸残基の割合(%)を意味する。アラインメントの作成及び配列同一性の算出には、例えば、EMBOSS Needle(EMBL-EBI提供 URL:https://www.ebi.ac.uk/tools/psa/emboss_needle/)を用いることができる。
【0034】
本明細書において、各塩基配列又はアミノ酸配列に対する配列同一性は、例えば、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上。93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上であってもよい。
【0035】
本明細書において変異とは、ダイズ植物における各GmMYB26遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質が、野生型のダイズ植物におけるGmMYB26遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質と少なくとも1塩基又は1アミノ酸残基において異なっていることを意味する。また、変異は、塩基又はアミノ酸残基の欠失、置換、及び/又は付加(挿入)であってもよい。
【0036】
本明細書において、塩基の欠失とは、遺伝子(DNA)においてヌクレオチド塩基の一部が欠け、塩基数が変化する(減る)ことを意味する。アミノ酸残基の欠失とは、タンパク質においてアミノ酸残基の一部が欠失し、アミノ酸数が変化(減る)ことを意味する。
【0037】
本明細書において、塩基の置換とは、遺伝子(DNA)においてヌクレオチド塩基の一部が別の塩基に置き換わることを意味する。アミノ酸残基の置換とは、タンパク質においてアミノ酸残基の一部が別のアミノ酸残基に置き換わることを意味する。1塩基対の置換の中でも、例えば、アミノ酸に変化をもたらさないサイレント変異、機能的に同種のアミノ酸に変わるニュートラル変異は、各遺伝子がコードするタンパク質への転写制御機能への影響が少ないと予想される。
【0038】
本明細書において、塩基の付加(挿入)とは、遺伝子(DNA)においてヌクレオチド塩基の一部が追加され、塩基数が変化(増える)ことを意味する。アミノ酸残基の付加とは、タンパク質においてアミノ酸残基の一部が追加され、アミノ酸数が変化(増える)ことを意味する。
【0039】
欠失、置換又は付加される塩基又はアミノ酸残基の数は、例えば、1~30個、1~20個、1~15個、1~10個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、又は1若しくは2個であってもよい。
【0040】
本明細書において、遺伝子の機能が欠損又は抑制されているとは、各遺伝子がノックアウト及び/若しくは発現量が低減されていること、並びに/又は発現産物の機能が欠失及び/若しくは低下されていることを意味する。遺伝子の機能を欠損又は抑制させる方法は、当業者に公知の方法により行うことができる。遺伝子の機能の欠損又は抑制は、遺伝子における変異以外によるものであってもよく、遺伝子における変異によるものであってもよい。
【0041】
遺伝子における変異以外によるものである場合、例えば、各遺伝子を標的とするアンチセンス核酸、siRNA、shRNA及びmiRNA等のRNA干渉(RNAi)を誘導する核酸並びにリボザイム等を形質転換した形質転換体を作出することで各遺伝子の発現量を低減(ノックダウン)することが挙げられる。通常遺伝子の発現が低減されると、その発現産物(発現により生じるRNA又はタンパク質)量も低減する。また、例えば、各遺伝子の転写領域(ORF又はcDNA)以外の、転写や翻訳に関連する箇所(例えば、調節領域、非翻訳領域)における変異により、各遺伝子の転写量を低減させたり、翻訳を阻害したりすることもできる。
【0042】
遺伝子における変異によるものである場合、変異は各遺伝子の転写領域(ORF又はcDNA)上に存在する。変異としては、例えば、導入することにより各目的遺伝子の発現量を低減(ノックダウン)する変異、目的遺伝子の機能を欠損(ノックアウト)させる変異が挙げられる。変異を導入する方法としては、例えば、外来因子の挿入による方法、変異原処理による方法、ゲノム編集技術による方法、及び機能欠損型の遺伝子を導入する方法が挙げられる。外来因子の挿入による方法としては、例えば、トランスポゾン及びT-DNA等を利用したもの挙げられる。変異原処理としては、例えば、エチルメタンスルホン酸(EMS)、N-メチル-N-ニトロソグアニジン(NTG)及び亜硝酸等の化学的変異原を使用した処理、並びにガンマ線及び重イオンビーム等の物理的変異源を使用した処理が挙げられる。ゲノム編集技術としては、例えば、転写活性化因子様ヌクレアーゼ(TALEN)及びCRISPR-Cas9が挙げられる。これらの方法により、遺伝子における変異、すなわち塩基の欠失、付加、置換などにより目的遺伝子の遺伝子配列を変更して遺伝子の発現を低減したり、遺伝子機能を欠損させたりすることができる。また、目的遺伝子への変異の導入により、その発現産物の機能を欠失させたり、低下させたりすることができる。例えば、遺伝子の変異によりコードされるタンパク質におけるアミノ酸が変化し、本来(野生型)のタンパク質が有する機能が欠失したり低下したりすることもある。
【0043】
各遺伝子の機能の欠損又は抑制が遺伝子における変異又は転写領域以外の転写や翻訳に関連する領域のDNAにおける変異によるものである場合、例えば、変異は、1若しくは複数の塩基の欠失、1若しくは複数の塩基の挿入、及び1若しくは複数の塩基の置換、並びにこれらの組み合わせから選択されるものであってもよい。各遺伝子の機能の欠損又は抑制は、各遺伝子の機能の欠損又は抑制を目的とする変異であるため、1塩基~数塩基の変異に留まる必要はなく、比較的長い塩基の挿入であったり、遺伝子の大部分又は全体を欠損するような変異であったりしてもよい。
【0044】
変異が2塩基以上の変異である場合、連続した塩基が変異していてもよく、連続しない塩基の変異であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。
【0045】
1若しくは複数の塩基の欠失は、例えば、遺伝子全体の欠失であってもよく、1~800塩基、1~500塩基、1~400塩基、1~300塩基、1~200塩基、1~100塩基、1~50塩基、1~20塩基、1~10塩基、1~5塩基、1~3塩基、1若しくは2塩基、又は1塩基の欠失であってもよい。
【0046】
1若しくは複数の塩基の挿入は、例えば、1~800塩基、1~500塩基、1~400塩基、1~300塩基、1~200塩基、1~100塩基、1~50塩基、1~20塩基、1~10塩基、1~5塩基、1~3塩基、1若しくは2塩基、又は1塩基の挿入であってもよい。
【0047】
1若しくは複数の塩基の置換は、例えば、1~800塩基、1~500塩基、1~400塩基、1~300塩基、1~200塩基、1~100塩基、1~50塩基、1~20塩基、1~10塩基、1~5塩基、1~3塩基、1若しくは2塩基、又は1塩基の置換であってもよい。
【0048】
上記の欠失、挿入、置換は、連続した塩基にて生じてもよい。200塩基の欠失を例として挙げると、例えば、連続した200塩基の欠失であってもよく、100塩基の欠失が2箇所で生じていてもよい。
【0049】
変異は、塩基の欠失及び/又は挿入によりフレームシフトを生じる変異(フレームシフト変異)、1塩基が変化することにより、その遺伝子がコードするタンパク質を構成するアミノ酸のうちの1つが別のアミノ酸に置換される変異(ミスセンス変異)、及び1塩基が変化することにより、その遺伝子がコードするタンパク質を構成するアミノ酸のうちの1つがストップ(終始)コドンに変化する変異(ナンセンス変異)から選択される1以上を含んでもよい。
【0050】
遺伝子における変異が1若しくは複数の塩基の置換を含む場合、少なくとも1塩基においてミスセンス変異又はナンセンス変異が生じているものであってもよい。
【0051】
また、各遺伝子の機能の欠損又は抑制が、各遺伝子における変異により、ストップコドンが発生することによるものであってもよい。各遺伝子における変異により、ストップコドンが発生する場合としては、上述したナンセンス変異によるもの及びフレームシフトによるものが挙げられる。ナンセンス変異又はフレームシフト等によりストップコドンが発生することで、野生型よりも短いタンパク質が生じることとなる。ナンセンス変異は、トリプトファンがストップコドンに変換されるものであってもよい。
【0052】
ナンセンス変異が生じる位置は特に限定されないが、例えば、
(5)配列番号9における第149位に対応する塩基
(6)配列番号10における第639位に対応する塩基
(7)配列番号11における第315位に対応する塩基
(8)配列番号12における第273位に対応する塩基
であってよく、これらがアラニンへ置換されるものであってもよい。なお、配列番号9における第149位の塩基、配列番号10における第639位の塩基、配列番号11における第315位の塩基、及び配列番号12における第273位の塩基はいずれもグアニンである。
【0053】
また、これらをアミノ酸配列で表すと、
(9)配列番号2における第37位に対応するアミノ酸残基
(10)配列番号4における第108位に対応するアミノ酸残基
(11)配列番号6における第37位に対応するアミノ酸残基
(12)配列番号8における第37位に対応するアミノ酸残基
となり、これらがストップコドンに変換されるものであってもよい。なお、配列番号2における第37位のアミノ酸残基、配列番号4における第108位のアミノ酸残基、配列番号6における第37位のアミノ酸残基、及び配列番号8における第37位のアミノ酸残基はいずれもトリプトファンである。
【0054】
また、(1)、(2)、(3)及び(4)の機能が欠損又は抑制されている、ダイズ植物における、機能が欠損又は抑制されている遺伝子の配列は、
(13)配列番号21で表される塩基配列からなる遺伝子
(14)配列番号23で表される塩基配列からなる遺伝子
(15)配列番号25で表される塩基配列からなる遺伝子
(16)配列番号27で表される塩基配列からなる遺伝子
であってもよく、これらがそれぞれコードするタンパク質は、
(17)配列番号22で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子
(18)配列番号24で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子
(19)配列番号26で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子
(20)配列番号28で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子
であってもよい。
【0055】
ストップコドンの発生により生じた野生型よりも短いタンパク質は、例えば、10~300個、20個~200個、30個~150個、30個~110個、又は36個~107個のアミノ酸からなるものであってもよい。また、野生型と比較して、例えば、10~340個、50~330個、100~330個、200~330個、230個~320個、又は245個~316個のアミノ酸残基分短いタンパク質であってもよい。
【0056】
各遺伝子の機能が欠損又は抑制されているかは、実際に、例えば、遺伝子の発現量、転写産物、転写量、コードされるタンパク質の活性等を分析することで確認することができる。
【0057】
また、各遺伝子の配列又は各遺伝子がコードするタンパク質の配列から推測することもできる。例えば、ナンセンス変異やフレームシフトによりストップコドンが発生する場合であれば、タンパク質が野生型よりも短くなることでタンパク質の機能、すなわち発現産物の機能が欠失及び/若しくは低下していることが予測できる。各遺伝子の配列は、当業者に周知の方法により解析することができる。例えば、常法によりダイズ植物からDNAを抽出し、DNAシーケンス解析を実施する方法等が挙げられる。
【0058】
各遺伝子がノックアウト及び/若しくは発現量が低減されていること、又は発現産物の発現量が低減していることは、特に限定されないが、例えば、野生型のダイズ植物と比較して50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下又は1%以下に低減している場合であってもよい。
【0059】
各遺伝子の発現量及び/又は発現産物の発現量は、例えば、リアルタイムPCR、RT-PCR、ウエスタンブロッティング、ELISA、及びノーザンブロッティング等によって、当業者に公知の方法で測定することができる。
【0060】
各遺伝子の発現産物の機能は、当業者に公知の方法、例えば、公知の転写因子アッセイキット等を用いた手法によって測定することができる。
【0061】
上述したように、GmMYB26の4つの遺伝子の機能の欠損又は抑制により、そのダイズ植物が難裂莢性を示すため、各遺伝子がノックアウト及び/若しくは発現量が低減されていること、並びに/又は発現産物の機能が欠失及び/若しくは低下されていることを、そのダイズ植物が難裂莢性を示すことで確認してもよい。
【0062】
各遺伝子の機能の欠損又は抑制が遺伝子における変異によるものである場合、ダイズ植物は当該変異を有する遺伝子(変異型遺伝子)が対立遺伝子の両方に存在するホモ接合体でも片方の対立遺伝子のみに存在するヘテロ接合体でもよいが、ホモ接合体であることが好ましい。
【0063】
[ダイズ植物の作出方法]
本発明は、一実施形態として、上述したダイズ植物を作出する方法も提供する。本実施形態に係る作出方法により、難裂莢性を示すダイズ植物を作出することができる。本実施形態に係るダイズ植物の作出方法は、上述した本実施形態に係るダイズ植物の態様を限定なく適用することができる。
【0064】
具体的には、例えば、以下の(1)、(2)、(3)及び(4)から選択される少なくとも2つの遺伝子の機能が欠損又は抑制されている、ダイズ植物を作出する方法である。
(1)(i)配列番号1で表される塩基配列からなる遺伝子、
(ii)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iii)配列番号1で表される塩基配列において、1~30個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iv)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(v)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、又は
(vi)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子
(2)(i)配列番号3で表される塩基配列からなる遺伝子、
(ii)配列番号3で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iii)配列番号3で表される塩基配列において、1~30個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iv)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(v)配列番号4で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、又は
(vi)配列番号4で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子
(3)(i)配列番号5で表される塩基配列からなる遺伝子、
(ii)配列番号5で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iii)配列番号5で表される塩基配列において、1~30個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iv)配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(v)配列番号6で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、又は
(vi)配列番号6で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子
(4)(i)配列番号7で表される塩基配列からなる遺伝子、
(ii)配列番号7で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iii)配列番号7で表される塩基配列において、1~30個の塩基が欠失、置換又は付加されている塩基配列からなる遺伝子であって、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、
(iv)配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、
(v)配列番号8で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子、又は
(vi)配列番号8で表されるアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が欠失、置換又は付加されているアミノ酸配列からなり、転写制御機能を有するタンパク質をコードする遺伝子
【0065】
作出されるダイズ植物は、少なくとも上記(1)及び(2)の遺伝子の機能が欠損又は抑制されているか、又は少なくとも上記(3)及び(4)の遺伝子の機能が欠損又は抑制されているダイズ植物であってもよい。
【0066】
作出されるダイズ植物は、上記(1)、(2)、(3)及び(4)から選択される少なくとも3つの遺伝子の機能が欠損又は抑制されているダイズ植物であってよく、上記(1)、(2)、(3)及び(4)のすべての遺伝子の機能が欠損又は抑制されているダイズ植物であってもよい。
【0067】
作出されるダイズ植物は、上記(1)及び(2)、上記(1)及び(3)、上記(1)及び(4)、上記(2)及び(3)、上記(2)及び(4)、又は上記(3)及び(4)の遺伝子の機能が欠損又は抑制されている2重変異体であってもよく、上記(1)、(2)及び(3)、上記(1)、(2)及び(4)、上記(1)、(3)及び(4)、又は(2)、(3)及び(4)の遺伝子の機能が欠損又は抑制されている3重変異体であってもよく、上記(1)、(2)、(3)及び(4)のすべての遺伝子の機能が欠損又は抑制されている4重変異体であってもよい。
【0068】
(1)、(2)、(3)及び(4)から選択される少なくとも2つの遺伝子の機能が欠損又は抑制されているダイズ植物(2重変異体、3重変異体、又は4重変異体)を作出する方法は、(1)、(2)、(3)及び(4)から選択される1以上の機能が欠損又は抑制されているダイズ植物を準備する工程を含んでよい。
【0069】
(1)、(2)、(3)及び(4)から選択される1以上の機能が欠損又は抑制されているダイズ植物(変異体)は、(1)、(2)、(3)及び(4)からなる群から選択される1の変異体、2重変異体、3重変異体又は4重変異体であってよい。2重変異体及び3重変異体における(1)~(4)の組み合わせは特に限定されず、最終的に作出するダイズ植物が有する変異に合わせて準備すればよい。
【0070】
遺伝子の機能の欠損又は抑制は、上述した各遺伝子における変異以外によるものであってもよく、各遺伝子における変異によるものであってもよい。遺伝子の機能が欠損又は抑制されているダイズ植物は、例えば、下記の方法により準備することができる。
【0071】
各遺伝子における変異以外による方法としては、例えば、各遺伝子を標的とする、アンチセンス核酸、siRNA、shRNA及びmiRNA等のRNA干渉(RNAi)を誘導する核酸やリボザイム等をアグロバクテリウム法などによりダイズ植物に形質転換し、形質転換ダイズ植物を作出することが挙げられる。
【0072】
各遺伝子又は転写領域以外の転写や翻訳に関連する領域のDNAに変異を導入する方法としては、例えば、外来因子の挿入による方法、変異原処理による方法、ゲノム編集技術による方法、及び機能欠損型の遺伝子を導入する方法が挙げられる。例えば、トランスポゾン又はT-DNAの挿入や、EMS等の変異原処理によりランダムに変異を導入し、その中から各遺伝子の機能が欠損又は抑制されているダイズ植物を選抜してもよく、機能欠損型の各遺伝子をベクターを利用してアグロバクテリウム法などにより形質転換した形質転換ダイズ植物を作出してもよく、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALEN又はCRISPR/Cas9を利用して各遺伝子を標的として変異を導入してもよい。また、例えば、トランスポゾン又はT-DNAがランダムに挿入されたダイズ植物の変異体ライブラリー、及びEMS等の変異原処理によりランダムに変異が導入されたダイズ植物の変異体ライブラリー等から各遺伝子の機能が欠損又は抑制されているダイズ植物を選抜してもよい。なお、EMS処理によりランダムに変異が導入されたダイズ植物の変異体ライブラリーとしては、例えば、Tsuda et al.,BMC Genomics.16:1014 Nov 26(2015)に記載のものがある。
【0073】
変異の導入により(1)、(2)、(3)及び(4)から選択される1以上の機能が欠損又は抑制されているダイズ植物(変異体)を準備する場合、準備工程は、ダイズ植物に対して変異を導入する変異導入工程を含んでいてもよい。また、ランダムに変異が導入される方法を利用する場合、変異導入工程の後にさらに選別工程を含んでいてもよい。また、上述したようなランダムに変異が導入されたダイズ植物の変異体ライブラリーを利用する場合にも選別工程を含んでいてもよい。選別工程では、目的の遺伝子の機能が欠損又は抑制されているダイズ植物が選抜される。
【0074】
また、当該変異に関して各ダイズ植物はヘテロ接合体でもよく、ホモ接合体でもよいが、ホモ接合体であることが好ましい。本願発明の効果が顕著になる観点から、少なくとも2つの遺伝子の変異、3つの遺伝子の変異、又は4つの遺伝子の変異すべてについてダイズ植物がホモ接合体であることが好ましい。
【0075】
各遺伝子の機能が欠損又は抑制されているかは、上述した方法で確認することができる。各遺伝子の配列から各遺伝子の機能が欠損又は抑制されているかを確認する場合、例えば、常法によりダイズ植物からDNAを抽出し、DNAシーケンス解析を実施し、野生型ダイズ植物の遺伝子の配列と比較することで変異の有無を確認することができる。また、遺伝子配列の長さが変異により変化する場合には、例えば、常法によりダイズ植物からDNAを抽出し、DNAを鋳型にPCRを実施してそのPCR産物の長さを野生型ダイズ植物の長さを比較することで確認することができる。また、遺伝子における塩基が変化する場合には、例えば、常法によりダイズ植物からDNAを抽出し、DNAを鋳型にPCRを実施し、野生型又は変異型のPCR産物のいずれかを特異的に切断する制限酵素で処理し、DNA断片数により確認することができる。PCR産物の長さやDNA断片数により変異を確認できる場合、野生型か変異型かだけでなく、野生型と変異型のヘテロ型であるか、変異型のホモ型であるかも確認することができる。
【0076】
例えば、各遺伝子の変異が、配列番号9における第149位に対応するグアニンのアラニンへの置換、配列番号10における第639位に対応するグアニンのアラニンへの置換、配列番号11における第315位に対応するグアニンのアラニンへの置換、配列番号12における第273位に対応するグアニンのアラニンへの置換であった場合、常法によりダイズ植物からDNAを抽出し、DNAを鋳型にプライマーセット(例えば、下記の表1)を用いてPCRを実施し、PCR産物を制限酵素(例えば、表2に記載のEcoRI及びSacI)で処理することで、DNA断片数の違いにより野生型又は変異型であると判別することができる。なお、表1のプライマーセット及び表2の制限酵素を用いた場合においては、DNA断片数が1の場合には野生型、DNA断片数が2の場合には変異型と判断することができる。制限酵素は、DNA断片数により判断できるようにPCR産物を切断できるものであれば特に限定されない。また、プライマーセットも、DNA断片数により判断できるようにPCR産物を増幅できるものであれば特に限定されず、例えば、表1のフォワードプライマー及びリバースプライマーそれぞれと90%以上、92%以上、95%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するプライマーのセットを用いてもよく、それよりも外側又は内側を挟み込むように増幅させるプライマーセットを使用してもよい。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
(1)、(2)、(3)及び(4)から選択される1以上の機能が欠損又は抑制されているダイズ植物(変異体)が、(1)、(2)、(3)及び(4)からなる群から選択される1の変異体、2重変異体又は3重変異体であった場合、これらのダイズ植物を交配することで、(1)、(2)、(3)及び(4)から選択される少なくとも2つの遺伝子の機能が欠損又は抑制されているダイズ植物(2重変異体、3重変異体、又は4重変異体)を作出してもよい。上述したように、2重変異体及び3重変異体における組み合わせは特に限定されず、交配の組み合わせや交配の順番も特に限定されない。したがって、本実施形態に係る作出方法は、(1)、(2)、(3)及び(4)から選択される1以上の機能が欠損又は抑制されている第1の変異体と、(1)、(2)、(3)及び(4)から選択される1以上の機能が欠損又は抑制されている第2の変異体とを交配する工程を含んでもよい(ここで、第1及び第2の変異体は4重変異体ではなく、第2の変異体は(1)~(4)のうちの第1の変異体とは異なる少なくとも1つの遺伝子における変異を含む)。また、第1の変異体と第2の変異体の交配後代(F1)を第3の変異体と交配する工程(ここで、第3の変異体は4重変異体ではなく、(1)~(4)のうちの上記交配後代とは異なる少なくとも1つの遺伝子における変異を含む)、さらにその交配後代(F1)を第4の変異体と交配する工程を含んでもよい(ここで、第4の変異体は4重変異体ではなく、(1)~(4)のうちの上記交配後代とは異なる少なくとも1つの遺伝子における変異を含む)。
【0080】
一例として、(1)の変異体、(2)の変異体、(3)の変異体、(4)の変異体を選別し、(1)の変異体、(3)の変異体、(4)の変異体を用いて交配により(1)及び(4)の2重変異体、(1)及び(3)の2重変異体を作出し、この2重変異体同士を交配して(1)、(3)、及び(4)の3重変異体を作出し、この3重変異体に(2)の変異体を交配して、(1)、(2)、(3)、及び(4)の4重変異体を作出することが挙げられる。
【0081】
2重変異体、3重変異体、又は4重変異体を作出後、さらに他のダイズ植物との交配により、難裂莢性を維持しつつ、より優れた形質を有するダイズ植物を作出することもできる。
【0082】
本実施形態に係る作出方法は、ダイズ植物の製造方法と表すこともできる。当該方法は、作出したダイズ植物を収穫する工程をさらに含んでもよい。
【実施例0083】
[ダイズ変異原処理集団からのGmMYB26変異体の選抜]
日本のダイズ品種「エンレイ」の種子を0.35%のEMSで処理し、栽培した植物から採種した種子(M2世代)に、改めて0.35%のメタンスルホン酸エチルを処理し、栽培した植物(M1’世代)から採種した。その種子を栽培した1,536個体の植物(M2’世代)から抽出したゲノムDNAと採種した種子(M3’世代)が対になって個別に保存されている(Tsuda et al.,BMC Genomics.16:1014 Nov 26(2015))。スクリーニングを効率化するため、これらのDNAは濃度を均一に調整した上で16個体ずつ1プールとして混合されており、すなわち1,536個体の変異原集団が96種類のDNAプールに集約されている。この各DNAプールを鋳型に、4つのGmMYB26(Glyma07g01050、Glyma08g20440、Glyma13g42431、Glyma15g02955)を表3のプライマーを用いてPCR増幅し、その後、上記Tsuda et al.(2015)に記載されているアンプリコンシーケンス法により、表4の突然変異を選抜した。
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】

【0086】
詳細には、増幅した各遺伝子のPCR産物のモル比が同じになるようにプール毎に混合し、これらをNexteraXT DNA Library Prep Kit(Illumina社)を用いてDNAを断片化し、DNAプールを識別するインデックス配列を付与し、シーケンスライブラリーを作成した。次に、96種類のライブラリーを1つに混合した上で、次世代型シーケンサーMiSeq(Illumina社)による塩基配列解読を行い、塩基配列データに含まれるインデックス配列を使って付属のソフトウェアでそれぞれのDNAプールのデータに分割した。次世代シーケンス解析ソフトCLC Genomics(キアゲン社)を用いて塩基配列データを各遺伝子のリファレンス配列にマッピングし、それぞれのDNAプールに含まれる変異配列を検出し、各遺伝子の予測アミノ酸配列にストップコドン変異を生じる変異配列を含むDNAプールを特定した。そのDNAプールを構成していた16個体の植物のDNAを鋳型として、表3のプライマーを用いて該当遺伝子をPCR増幅し、サンガー法による塩基配列解析を行い、突然変異を持つM2’世代の植物を特定し、M3’世代の種子をストックから取り出して栽培した。選抜したトリプトファン=W(UGG)がストップコドン=*(UGA)となる変異は、Glyma07g01050、Glyma13g42431、及びGlyma15g02955において予測アミノ酸配列の37番目、Glyma08g20440において予測アミノ酸配列の108番目に存在する(表5)。これらのうち、Glyma15g02955以外の変異はヘテロ型であったため、M4’世代の植物を栽培して、表3のプライマーを用いてPCR増幅し、サンガー法による塩基配列解析により、4つのGmMYB26の変異型ホモ個体を選抜した。
【0087】
【表5】
【0088】
[GmMYB26多重変異体の作出]
上述の変異型ホモ個体間の雑種の自殖後代からGlyma13g42431及びGlyma15g02955の2重変異体に加え、Glyma07g01050及びGlyma13g42431の2重変異体を選抜した。それら2重変異体同士を交雑して作出したGlyma07g01050、Glyma13g42431及びGlyma15g02955の3重変異体に、Glyma08g20440の変異体を交雑することで、4重変異体を作出した。その際、表3のプライマーを用いたPCR産物(表4)を、表6の配列特異的に切断する制限酵素で処理し、アガロースゲル電気泳動により視覚化したDNA断片数により、分離集団の遺伝子型を、野生型ホモ、ヘテロ型、変異型ホモの3型に分けた。
【0089】
【表6】
【0090】
[裂莢性の評価(1)]
交雑の過程で得られたGlyma13g42431及びGlyma15g02955の2重変異体、Glyma07g01050及びGlyma13g42431の2重変異体、Glyma07g01050、Glyma13g42431及びGlyma15g02955の3重変異体は、茨城県つくば市の20℃以上に管理された温室で5リットルのプランターで栽培した際に、栽培中の植物体上で裂莢が認められた上、褐変直後の各10以上の非裂莢を封筒に収穫して、40℃の循環式乾燥機で3日間静置したところ全てが裂莢した。
【0091】
4重変異体とその作出の過程で得られたGlyma07g01050、Glyma08g20440及びGlyma15g02955の3重変異体について、茨城県つくば市の20℃以上に管理された温室で5リットルのプランターで栽培した後、褐変直後の各10以上の非裂莢を封筒に収穫して、40℃の循環式乾燥機で3日間静置したところ、3重変異体は全て裂莢したが、4重変異体は全く裂莢しなかった(図1のAとB)。その後、4重変異体の莢片を人為的に分割して40℃の循環式乾燥機に3日間静置したところ、三重変異体では1粒莢の莢片が約1/2回転、2粒莢と3粒莢の莢片が約1回転ねじれたが、4重変異体では莢片にややゆがみが生じた程度であった(図1のCとD)。4重変異体の難裂莢性及び莢片ねじれ数の変異の要因を明らかにするため、Pomar et al.,Protoplasma 220,0017-0028(2002)に記載された方法にて、リグニンを特異的に赤染色するフロログルシノール塩酸反応を莢に適用した。その結果、4重変異体の莢片内層のリグニンは、三重変異体と比較して薄くなっていることが明らかとなった(図1のEとF)。
【0092】
[裂莢性の評価(2)]
その後、上述の4重変異体の選抜に利用した雑種集団(Glyma07g01050とGlyma13g42431とGlyma15g02955の3重変異体とGlyma08g20440の変異体との雑種第2世代)から、以下の変異型ホモ系統6系統を選抜した。
・Glyma07g01050とGlyma08g20440の2重変異体
・Glyma13g42431とGlyma15g02955の2重変異体
・Glyma07g01050とGlyma08g20440とGlyma13g42431の3重変異体
・Glyma07g01050とGlyma08g20440とGlyma15g02955の3重変異体
・Glyma07g01050とGlyma13g42431とGlyma15g02955の3重変異体
・Glyma08g20440とGlyma13g42431とGlyma15g02955の3重変異体
【0093】
これらと先の4重変異体に加え、変異体群の原品種(野生型)である「エンレイ」と既存の難裂莢品種である「えんれいのそら」を含む9系統を植物材料とした。なお、「えんれいのそら」は、北海道品種「ハヤヒカリ」に由来する難裂莢遺伝子(非機能型Pdh1アリル)を、DNAマーカーで選抜しながら「エンレイ」に5回戻し交雑した後代から開発された品種である。
【0094】
これらを茨城県つくば市の25℃以上に管理された温室で5リットルのプランターにより栽培し、各個体あたり収穫した10莢を、25℃相対湿度約40%の循環型恒温機に15日間、続いて、25℃相対湿度約12%のタイトボックスに15日間静置した。裂莢は乾燥により加速することが知られており(Caviness C. 1965 Effects of relative humidity on pod dehiscence in soybeans. Crop Sci 5: 511-513)、相対湿度40%処理は日本のダイズの収穫期である秋の湿度を模倣した弱い処理、相対湿度12%処理は極度の乾燥環境を模倣した強い処理として設定した。
【0095】
その結果、相対湿度40%処理において、4重変異体と「えんれいのそら」は15日間まったく裂莢しなかった一方で、「エンレイ」は6日目ですべて裂莢した(図2)。同条件において、非裂莢率の程度に差はあるものの、Glyma07g01050とGlyma08g20440の2重変異体、Glyma13g42431とGlyma15g02955との2重変異体、並びに、Glyma07g01050、Glyma08g20440、Glyma13g42431及びGlyma15g02955から選択される3つの変異を有する3重変異体は、いずれも難裂莢性を示した。特に、Glyma13g42431とGlyma15g02955との2重変異体の非裂莢率は約8割と、もう一方のオルソログ対であるGlyma07g01050とGlyma08g20440との2重変異体の非裂莢率(約3割)よりも優れた難裂莢性を示した。
【0096】
さらに相対湿度12%処理の15日目(合算で30日目)では、4重変異体は約8割、「えんれいのそら」は約5割の非裂莢率を保ち、その他は全て裂莢した(図2)。したがって、4重変異体は、現在の日本の環境はもちろん、世界的な環境変動により拡大している乾燥環境においても、高度の難裂莢性を提供できる可能性が示唆された。
【0097】
現在、「えんれいのそら」をはじめとする非機能型Pdh1アリルを導入した難裂莢品種群が開発されてきているが、乾燥と収穫遅延によって、裂莢による収穫ロスは2割以上に達することがあるため、さらに優れた難裂莢品種が求められている。ただし、難裂莢性を強化しすぎると、既存のコンバインでは莢から脱粒させることができず、排出口から未脱粒の子実が排出される恐れがあるため、裂莢性を段階的に制御することが求められる。したがって、本評価における結果から、強い難裂莢性を示す4重変異体だけでなく、4重変異体よりも難裂莢性が低い他のGlyma13g42431とGlyma15g02955の2重変異体等も、例えば、既存の難裂莢品種群(非機能型Pdh1アリル)に組み合わせることでより優れた難裂莢品種の開発に利用できることが示唆される。このような、多重変異体により裂莢性を段階的に制御できるという知見は、多様な環境及び条件において収穫ロスを低減するための難裂莢品種の開発に大きく貢献することが期待される。
【0098】
[裂莢性の評価(1)及び(2)の結果の違いに関する考察]
前述した[裂莢性の評価(1)]では、莢を40℃の循環式乾燥機で3日間静置することで取得しているが、[裂莢性の評価(2)]では、25℃を保ち相対湿度40%に15日間つづいて相対湿度12%に15日間静置して取得した(図2参照)。[裂莢性の評価(1)]の条件は、裂莢を強く誘導する処理であったため、2重変異体及び3重変異体が裂莢したが、[裂莢性の評価(2)]において、相対湿度40%の際には2重変異体及び3重変異体は15日間難裂莢性を示した。
【0099】
[裂莢性の評価(1)]における40℃の循環式乾燥機で3日間静置という評価と比較して、[裂莢性の評価(2)]における25℃で相対湿度40%の15日間による裂莢性の評価は、現在の日本のダイズの収穫時(秋)における温度・湿度・完熟後日数により近い条件であるため、より実際の栽培環境に即したものとなっている。したがって、[裂莢性の評価(2)]は、より現実的な条件下での裂莢傾向を把握するための指標として、[裂莢性の評価(1)]よりも好ましいと考えられる。
図1
図2
【配列表】
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